世界の隅の秘密事


 当然の事ではあるが、大統領であるラグナの私的な時間と言うのは、非常に限られたものである。
その日一日の公務が終われば、後は自由と言えるほど、気楽な立場ではないと言うのも理由の一つだ。

加えて、先の魔女戦争の後、エスタは開国して諸外国との交流を十七年振りに再開させた。
それに因る影響と言うのは、エスタ国内外を問わず毎日のように報告が寄せられており、”月の涙”の件も然る事ながら、政府と言った国の重要機関に属する者が、その役職を問わずに忙殺されるのも無理のない事であった。

 それでもラグナは、部下の多くに、定期的に休みを取るようにと奨めている。
確かに忙しいのは事実であるが、寝る間を惜しんで働くと言うのは、返って非効率なものである。
ラグナも加齢に伴って嘗ての無理が効かなくなって行くのを身をもって感じていたし、若い者ほど無理をし勝ちな所為で、悲しい事が起きるのも判っていた。
何せ、ごくごく身近に、それを体現しているような少年がいるので、ラグナは尚更、休みと言うものの重要性を理解しているのだ。

 ラグナがそうして休みを強く奨めるお陰で、エスタの職員は持ち回りで定期的に休みを取る事が出来ている。
それで効率を落とさない為の運営の仕方については、まだまだ改善点があるものの、この方針は職員から概ね好評だった。
エスタは元々、大統領を補佐する為の執政官が多く確保されているので、人員不足と言うのも───今の所は───問題に上がってはいない。
寧ろ、エスタが長年に渡ってアデルを監視する為に割いて来た人員が他に回せるようになったので、多少余裕があると言っても良い程だった。

 こうした取り組みにより、職員はしっかりと休暇を確保できているのだが、ラグナ自身の休みはと言うと、その持ってしまった立場と言うもののお陰で、長いプライベート時間と言うのは確保するのが難しい。
エスタと言う国の大きさ、国中のインフラ整備を効率化させる為の複雑さ、そして更に他国との交流と言う一大イベントも起きている。
以前は国内の催事を確認して調整する事が主だったラグナのスケジュールであったが、今は他国の首脳と会談する為の時間を設ける必要があり、これによりラグナのスケジュールが大きく動く事も多く、そうしてずれこんだ予定を後引かせない為に何処かに入れようとすると、ラグナの短い休みを潰す事になるのだ。
キロスやウォードが、すまないね、と詫びる度、ラグナはいつもの笑顔で良いよ良いよと笑ったが、その眦が疲れを隠しきれていないのは、誰の眼にも明らかであった。

 人には休めと言う癖に、と誰が言ったか。
その気持ちはラグナを囲む人々の間にいつしか共通するようになり、なんとか彼を“休暇”に出してやれないかと知恵を絞った。
正直、大統領と言う国家トップの権限を使えば、彼の公的休暇はなんとでも捻出できる事ではあったのだが、そう言う権力の使い方を、ラグナは余り好まない。
奔放なようでいて、そう言った線引きと言うものを、ラグナはしっかりと弁えていた。
だからエスタの職員たちは、多方面への影響が及ばない事を前提にして、ラグナのスケジュールを調整し、空白時間を設けようとしていた。

 その甲斐あって、ほんの二日程度であったが、ラグナが休めそうな時間が取れた。
ドールでの元首会談の後、中心街にあるホテルに宿泊すると言うものだ。

 ラグナがホテルに宿泊となると、これからエスタを訪れるであろう異邦人を迎え入れる事も増えて行くであろう、エスタの宿泊関連施設のサービス向上を探る為、そのモデルケースを探して各国の宿泊施設を視察・宿泊する、と言うことが多い。
しかし、今回は視察ではなく、ただ泊まるのだ。
元首会談がドールで予定が組まれている為、これに合わせて宿泊用のホテルを取る必要があっての事であったが、折よくそのスケジュールの後にラグナのプライベート時間が作れたのである。
予定としては、元首会談の当日にドール入りしチェックインした後、会談があり、終わればホテルで一泊、その翌日が完全フリーと言うものになる。
翌々日にはエスタに戻らなくてはならない為、ゆっくりと過ごせるのは本当に一日のみなのだが、その確保が難しいのが今のラグナなのだ。

 エスタが開国して以来、ラグナが他国を訪れるのは何度となく行っていたが、出先で自由な時間が取れたと言うのは初めての事だ。
立場が立場なので、余り外を出歩くのは感心されない事ではあるが、護衛を伴ってなら大目に見られる事になった。
その護衛とは、勿論、警護の依頼を受けて派遣されてきた、スコールの事である。

 ラグナロクがドール近郊の丘に着陸したのは、予定の時間を大きく遅れての事だった。
原因は、エスタ出発前、エアステーション上空の天候が大きく乱れた為に、その回復を待ったからだ。
宇宙空間で長らく漂い続けた後、魔女戦争の折に回収されたラグナロクは、その機体そのものはかなりの無理を押しても問題のないスペックを持っているが、それでも乱気流の中を飛び立つのは中々骨のいる事だった。
況してや、今回は元首会談を控えた大統領ラグナ・レウァールが搭乗する予定であったから、安全を優先させたのだ。

 この為、ドールの近郊に着陸したラグナロクから、車で走ってドール市街に入ったラグナは、そのまま元首会談の場へと向かうことになった。
泊まる予定になっているホテルを見たかった、と彼は言ったが、こればかりはどうしようもない。
仮にこれがホテルの視察と言う公務であったとしても、予定として優先されるべきは元首会談の方だ。
ホテルは仕事が終わるまでのお楽しみと言うことになり、ラグナは唇を尖らせながら───勿論、周りに気心の知れた者しかいない時のみだ───会場入りする事になった。
無論、スコールもその流れに同行する形で、会談の場にラグナの護衛として同席する。

 会談は恙なく進み、問題もなく終わった。
エスタとドールと、どうやって人の行き来を作って行くか、その交通手段など盛り込んだ幾つかの提案についても、良好の触りとなっている。
国同士の交流のスタートを本格的に切るに向かって、良い方向へと進んでいると言って良いだろう。

 会談の流れで紹介された所を視察と言う形でぐるりと巡って、ラグナ・レウァール大統領の今日の公務は終了した。
ウォードが回してきた車にスコールと共に乗り込み、ようやくラグナはお待ちかねのホテルへ。
其処はドールの中でもグレードの高いホテルと有名で、ガルバディアの富裕層も利用する事があると言う。
その評判に違わず、エレベーターを随分と昇って到着した宿泊ルームは、ワンフロアを丸ごと使った豪華な造りとなっていた。


「うぉー、流石フロアぶち抜き。広いな!」
「大統領、お待ちください。私が先に確認します」


 部屋に入ってはしゃぐ声を上げてずんずんと中へ入って行くラグナを、SeeD服を着たスコールが直ぐに追う。
それから遅れて、キロスとウォードも部屋へと入り、ラグナとスコールそれぞれの荷物を運び込んだ。

 キロスがホテルのボーイから部屋について簡単な説明を受けている間に、スコールはラグナを捕まえていた。


「大統領は此処でお待ちください」
「そんなに警戒しなくても大丈夫だって」
「念の為です。……ウォードさん、大統領をお願いします」


 一人にする訳にもいかないと、スコールはウォードを呼んだ。
ウォードが心得た様子でラグナの隣に立ち、スコールは広いフロアに誂えられた各部屋をくまなく確認して行く。

 ソファの下やベッドの下は勿論、机の引き出し、調度品の花瓶の中など、全てにチェックを入れていくスコール。
真面目だなあ、とその様子を眺めて待つラグナの下に、説明を聞き終えたキロスが声をかけた。


「ラグナ、これが此処のルームキーだ。食事はルームサービスが取れるそうだが、3階のレストランも使える。好きな方を使うと良い」
「おう」
「風呂はここに備えられたものもあるが、大浴場も利用可能だ。まあ、スコールくんが余りをそれを薦めないとは思うがな」
「まあな〜。仕方ねーよ、そりゃあ」
「判らない事があれば、其処の内線でフロントに繋がるとの事だ。明日については、久しぶりのオフ日だからな、好きに過ごすと良い。街に出るのであれば、必ずスコール君と一緒に。出る前には私かウォードに一言あれば、後の手間にはならなくて済むな」
「判ってるって」


 手の中でルームキーを遊ばせながら、ラグナはキロスの言葉に頷いた。

 コツコツとブーツがカーペットの床を踏む音が近付いて来る。
見れば、スコールが戻って来た所だった。
ふう、と一息を吐いて、ラグナの前に立ってSeeD式の敬礼ポーズを取る。


「安全確認が完了しました。問題ありません」
「ああ、ありがとな。スコールもお疲れ様」


 笑顔を向けるラグナに、スコールは「……いえ」と言葉少ない。
それでも返事があれば十分なのだと、ラグナはくしゃくしゃとスコールの髪を掻き撫ぜた。
突然の事に驚いた顔をするスコールに、ラグナだけでなく、キロスとウォードも口元を緩ませ、


「では、我々もそろそろ下がるとしよう。私達の部屋はこの7階の3号室だ、フロアと部屋番号の数字で内線が繋がる。何かあれば」
「了解しました」
「……」
「ラグナを宜しく、だそうだ」
「……了解しました」


 強面に緩い笑みを浮かべるウォードの言葉をキロスが訳して伝えると、スコールは同じ言葉を反芻して返す。
返事が微かに遅かったのは、ウォ─ドの言葉に含みを感じての事だろうか。
ウォードにそのつもりがあったのかなかったのか、スコールが確認する事はなかった。

 では、と手を振って旧友達が部屋を後にするのを見送って、扉が閉じて間もなく、ラグナは両手をぐぐっと伸ばして大きく伸びをする。


「ん〜……っ。終わった終わったぁ」
「お疲れ様です」


 一日の疲れを発散させようとするように、少々声を大きくするラグナに、スコールは静かに返す。
ラグナはそんなスコールを見て、にっかりと笑って見せた。


「スコールもお疲れさん!お仕事終わり!」
「……俺はあんたの護衛だ。あんたと一緒にいる間、俺はずっと仕事中だ」


 言葉を崩し、呆れた表情で返すスコールに、ラグナはそれでも機嫌良く笑う。


「判ってるって。でも、此処の安全確認は終わったんだろ?」
「ああ」
「それが問題なかったんなら、もう大丈夫だよ。このホテル、セキュリティもしっかりしてるみたいだしさ」
「そう言う油断が一番危険なんだ」


 釘を刺すスコールの声を背中に聞きながら、ラグナは着ていた背広を脱いだ。
ソファの上にぽいとそれを放るラグナに、スコールは溜息を吐きながら背広を拾ってハンガーにかける。


「晩飯、どうする?ルームサービスも取れるって言ってたぞ」
「…あまり部屋から出る気がしない。此処で済ませられるなら、その方が良い」
「じゃあ先に注文しちまおう。それから探検しようかな」


 まだラグナはこのフロアの全てを見ていない。
ワンフロアを全て使った贅沢な造りの部屋なんて、宿泊施設の視察であっても滅多に入れるものではない。
このホテルそのものが中々人気があるようだし、他国の大統領が泊まるからと優先的に部屋を開けて貰える訳でもないのだから、今回は本当に運が良い。
奮発したので楽しんで来て下さい、と言ったエスタの職員達の気持ちを有り難く受け取って、ラグナは今回の宿泊を存分に堪能するつもりだった。

 その前に先ずは、仕事ですっかり空になった胃袋を満たすものを選ばなければ。
ラグナはテーブルに置かれていたルームサービスのメニューを開き、「どれにする?」とスコールに声をかける。
スコールは意識して一つ息を吐き、体の力を抜いて、ラグナの下へと向かった。




 夕飯となるメニューを幾つか注文した後、ラグナは早速、フロアを探検しに行った。

 ワンフロアを丸ごと使って誂えられた部屋だ、広さは言うまでもない。
寝室は二つあり、そのうち一つはキングサイズのベッドが一つ、もう一つはクイーンサイズが二つ並んでいた。
リビングダイニングと簡易な仕切り一つを挟んで、ミニキッチンが備えられている。
冷蔵庫の中にはアルコール類とソフトドリンクが並び、宿泊費用の内に含まれているので、新たなものを注文しない限り追加料金は掛からない。
贅沢だ、と呟いたスコールに、だよなぁ、とラグナは笑う。
とても二人で堪能し切れる宿泊プランではない。

 持て余すばかりの部屋数であるが、そのどれもにテレビが備えられていた。
部屋サイズに合わせてか、画面サイズは大小それぞれあったが、これなら何処でどう過ごしていても、暇つぶしには事欠くまい。
新聞は部屋の出入口の所に、綺麗にアイロンをかけて、有名所の各社紙が用意されていた。
寝間着も男女のサイズが各種用意され、枕や布団の替えもクローゼットの中に収められている。
何かあればフロントヘお申し付けください、とボーイは言っていたが、此処まで用意されていたら、文字通り一歩も部屋から出なくても殆ど事は済むだろう。

 正しく至れり尽くせりであるが、ラグナのテンションを一番に上げたのは風呂だった。
ランクの高いホテルであるので、その期待も少なからずあるものであったが、露天風呂があるとは思っていなかった。
室内風呂の向こうにテラスへと出る扉があり、其処にも浴槽が備えられているのだ。
室内のそれよりも広く作られ、傍には夜風に当たれるようにと椅子も置かれており、明らかに室内風呂よりも此方がメインと言う風。
更には、ドール傍の山裾から引いた温泉の湯が使われているとのこと。
自然資源と言うものにどうしても縁遠くならざるを得なかったエスタで過ごしていたラグナにとっては、久しぶりの源泉から運ばれた温泉湯であった。

 ルームサービスで運ばれた夕食を済ませた後、ラグナはいそいそと風呂へ向かった。
スコールは部屋に残ってしばし暇を持て余していたが、なんとなく気が向いて、テラスへ出た。
ドールの中でも高層になるホテルの最上層近い場所であるから、夜景は中々見応えがある。
テラスの端の柵に寄り掛かって、吹く風の冷たさに目を細めていると、仕切り向こうの風呂テラスから声がかかった。


「おーい、スコール」
「……なんだ」


 呼ぶ声に目を向ければ、胸の高さにある仕切りに寄り掛かって此方に顔を覗かせているラグナがいる。
黒髪が濡れて水分と艶を含み、体を洗った後である事が判った。

 視線だけを寄越したスコールに、ラグナは濡れた髪を掻き上げながら、


「スコールも来いよ。気持ち良いぜ」
「……俺は後で良い」
「そう言うなって。広いし、二人で入っても全然平気だからさ」


 にこにこと機嫌の良いラグナに、スコールは沈黙する。
スコールとしては、何かと賑々しいラグナと一緒に入るより、一人でのんびりと入浴したいのが本音ではあった。
が、ラグナのそう言った誘いそのものが、決して本心から嫌いな訳でもない。

 スコールは一つ息を吐いて、くるりと踵を返した。
部屋へと戻って行くスコールを、ラグナが「おーい?」と呼ぶ。
それを背中に聞きながら、スコールの足は脱衣所へと向かっていた。

 夕食の時に崩すのみに留めていたSeeD服を脱いで、脱衣籠へと放り込む。
余り適当な扱いをすると皺になって面倒なのだが、あれは今日の会談用の衣装のようなものだ。
明日はラグナ自身はオフで、大統領としての仕事はない。
仮にラグナが出掛けるとすれば、スコールも私服で同行するべきだろう。
脱ぎ放った服は後で綺麗に仕舞い直すとして、今日はもう気を張るのは最低限にしてしまおう。

 室内風呂で簡単に体を洗って汗を流した後、スコールはテラスへと出た。
温かい湯で仄かに濡れた肌に、少し強い風が吹きつけて、寒い、と顔を顰める。


「スコール!」


 呼ぶ声が解り易く高くて、スコールは呆れながら声の方向を見る。
ラグナは湯舟に肩まで浸かって、こっちこっち、と手を振っていた。

 スコールが湯舟の下まで来ると、ラグナは此方を見上げてにこにこと笑っていた。
判り易い上機嫌振りに、スコールは少々呆れた表情を浮かべつつ「邪魔する」と言って湯舟に入る。
ゆっくり体を沈めて、湯舟の縁に持たれて頭上を仰げば、間接照明の柔らかい光が目に付いた。


「……ふう」
「ほらな、気持ち良いだろ」


 一つ仕事の皮を取ったスコールに、ラグナはそう言った。
まあな、とスコールが返せば、またラグナの目尻に皺が寄って笑みが深まる。

 スコールが湯で洗った顔を上げれば、透明な柵の向こうに、ドールの夜景が広がっている。
デリングシティ程ではないが、ドールも都市と呼べる程に発展しており、カジノ等の娯楽施設が充実している事もあって、中々賑々しいものなのだが、この天空では全く関係ない事だ。
スコールとラグナが湯を鳴らす水音を除けば、時折吹いて来る風の音が聞こえるかどうかと言う程度で、スコールには心地の良い静寂である。


「……まあ、悪くない」


 そう言ったスコールに、そっかそっか、とラグナも満足そうだ。


「いやー、良い眺めだなぁ」
「……そうだな」
「エスタはもっとキラキラしてる感じあるけど、ドールの夜景はちょっと静かな感じだな」
「科学大国と比べたらそうだろう。……バラムよりは光が多い」
「バラムはあんまりキラキラしてないのが良いんだよ。バラムはこう、潮の匂いがしてさ、波の音が聞こえて。街の灯りが温かそうで。海の方を見たら、船が走ってて。陸の方を見たら、ちょっと遠くにガーデンの明かりが見えてさ。それが良いんだ」
「……そう言うものか」


 バラムの景色と言うのは、スコールにとっては見慣れ過ぎていて、今更何か感慨を覚える程のこともない。
だが、バラムと言う地は、ガーデンもある訳だし、スコールにとっては家のようなものだ。
ラグナにそう言われるのは、悪い気はしなかった。

 スコールは夜景を望む湯舟の縁に寄り掛かって、腕を枕にして頭を乗せる。
外風呂に入って夜景を眺める事を前提に設計されたのだろう、クリアなガラスの向こうに、真っ直ぐに遠い街のネオンが見える。


「……」


 スコールはぼんやりと、遠く主幹道路を流れゆく光の粒を眺めていた。
何を思うでもなかったが、なんとなくそうしていた。
警護としてラグナの傍にいるのに、少々気を抜き過ぎている感は否めなかったが、極偶にならこう言うのも悪くはないだろう。


(大分感化されてるな)


 誰になんて言うまでもない、傍にいる男にだ。
此処にいるのがラグナでなければ、別の要人であれば、スコールは絶対にこんな真似はしない。
その方が正しい事は判っているのだが、ラグナとの特別な関係の距離感もあってか、スコールは少しだけそれに甘えたくなる。
今だけ、今だけなら良いだろう───と、結局それは”今だけ”に留まらず、度々繰り返されてしまっているのだが。
そう言う事も含めて、らしくないと思いつつも、その心地良さにスコールは酔っていた。

 ふぅ、とスコールの唇から蕩けた吐息が漏れる。
枕にした腕に頭を預けて過ごしていると、湯から出ている肩や腕が少し冷えて来た。
スコールは枕の腕を引っ込めて、肩まで湯に浸かって、夜風でほんのりと冷えていた体を温め直す。
────と、


「……スコール。なあ」


 呼ぶ声に、スコールは閉じていた瞼を持ち上げる。
首を巡らせて後ろを見れば、じいっと此方を見ている翠の眼と遭った。


「……なんだ」
「うーん。へへ」
(……なんだよ)


 へら、と笑って見せるラグナに、スコールの眉間に皺が寄る。
不機嫌にも見える表情だったが、流石にラグナもスコールとの付き合いに慣れたようで、笑みを引っ込める事はしなかった。


「いや、な。あのさ。風呂出るまで、ちゃんと我慢しようと思ったんだけど」


 そう言ってそわそわと落ち着きを失くすラグナに、スコールはぱちりと瞬きを一つ。
その言葉の意味を考えている間に、ラグナはスコールの傍に近付いていて、


「スコール」
「……!」


 名前を呼ぶラグナの声が、いつもの快活なものよりも僅かに低くなって、それが褥で聞いている時のものだと悟る。
それでラグナが何を言わんとしているのかを理解して、思わずスコールの顔が熱くなった。
間接照明を受けたスコールの顔が、湯の所為だけではない熱で赤くなるのを、ラグナもしっかり確認する。


「……良い?」
「……別に」
「好きにして良い?」
「……判るだろ」


 どうしたって言葉にするには難しいスコールにとって、それがラグナの誘いへの精一杯の返事だった。
さんきゅ、と言う声が耳元で囁かれて、ふるりとスコールの背中が震える。

 身を寄せて来たラグナの肌が、スコールの体に触れる。
スコールよりも長く湯に入っている所為か、それとも躰の芯から来る火照りの所為か、スコールはラグナの躰がいつもより熱くなっている気がした。
柔らかい湯を介しながら伝わるラグナの体温に、スコールの心音がとくとくと速くなって行く。


「スコール」


 耳元で繰り返し名前を呼ばれていると、段々とスコールの下腹部に熱が集まって行く。
じわじわと昂って来る自分を自覚して、スコールの顔が恥ずかしさで赤くなるが、ラグナはそれすら愛でるように、スコールの耳に甘く歯を立てた。


「んっ……」


 びくっ、とスコールが肩を竦めると、其処にラグナの手が添えられる。
まるで逃げないようにと宥めるように、ラグナは優しくスコールの肩を捕まえて、自分の方へと引き寄せた。
逆らわずにスコールが身を任せれば、二人の唇が重なって、ラグナの舌がスコールの咥内へと侵入する。

 ゆっくりと、じっくりと、ラグナはスコールの咥内を愛撫した。
ラグナがスコールの舌を絡め取れば、ひくりとスコールの喉が戦慄いて、官能に不慣れな少年は眉根を目一杯寄せてしまう。
それをまた宥めるべく、ラグナはスコールの頬に手を添えて、絡め取った舌に唾液を塗していく。


「ん、ふ……は……ん……っ」


 スコールから鼻にかかった声が漏れる。
ふるふると小さく震えながら、スコールの腕がラグナの背中へと回された。
体重を預けて行くスコールを受け止めながら、ラグナの手が若く瑞々しい肌を滑って行き、緩く痺れているスコールの下肢へと触れる。


「っ……!」


 刺激への耐性がない所為で、否応なく敏感に反応してしまうスコール。
隠せない自分の反応に顔を赤らめていれば、ラグナは「可愛い」と囁いて、スコールの膨らんだ中心部を柔らかく握った。


「ふ……っ」


 ラグナが手を上下に動かして刺激を与えれば、スコールはラグナにしがみ付いて息を殺す。
ぎゅうっと唇を噛んで耐えるスコールの顔を見て、ラグナは傷のある額にキスをしながら言った。


「今日は別に声抑えなくても平気だぞ」
「……っあ……ん……っ」


 きゅ、と鈴口を柔らかく握られて、ビクッとスコールの躰が跳ねた。
まだ口を噛もうとするスコールに、ラグナはくすりと笑って、手の中のものに指先を当てて、先端を引っ掻いてやる。


「うっ、んっ……!ふ、ふぅ……っ」


 スコールはラグナに縋るように抱き着いて、精一杯に声を殺そうとしている。
ラグナはそんなスコールを抱き寄せてやり、黒髪のかかる肩口に口元を埋めるスコールの我慢を溶かそうと、先端をぐりぐりと少し強めに苛めてやった。


「っあ、う……っ、んぅ……っ」
「気持ち良いだろ?スコール」
「は……は、あぁ……っ」


 ビクッビクッと分かり易く体を震わせたスコールに、ラグナは吐息がかかる程の距離で囁いた。
耳元に触れるラグナの熱の籠った息に、スコールの首筋にぞくぞくと官能の腺が開く。
水滴を滴らせる首筋にラグナが徐に舌を這わせば、スコールははくはくと唇を戦慄かせて、ラグナの手の中の分身がぴくぴくと反応を示した。

 ラグナは胡坐を掻いてスコールを膝に乗せると、背中を抱いていた腕を下へと降ろす。
小ぶりな尻をするりと大きな手が撫でて、中心の窄まりに指先が触れた。
熱を貰うことにいつしか慣れた其処がヒクンと期待に戦慄くのを感じて、ラグナの口元に笑みが浮かぶ。


「期待してる?」
「……っ」


 ラグナの言葉に、スコールはふるふると首を横に振った。
それに「うそつき」と笑みを孕んで嘯けば、スコールの躰がじわりと熱を増す。

 触れた秘口に指がゆっくりと入って行くのを、スコールは息を殺さないようにと意識しながら受け入れた。
ラグナの肩に額を押し当て、ふう、ふう、と意識して呼吸するスコール。
ともすれば直ぐに狭くなってしまう下の口であるが、スコールの努力と、これまでのラグナの経験の甲斐あって、指は順調に奥へと入って行った。


「は…ぁう……っ」


 指が侵入して行く感覚に、スコールの唇から甘やかな声が漏れる。
ラグナはそれを耳元で聞きながら、逆上せそうだなぁ、と思っていた。

 人差し指を半分ほどまで咥えた所で、ラグナはスコールの壁をそうっと撫でた。
指の腹が狭い内部をじわじわと圧すのを感じて、スコールの喉が震える。
くぐもった声を零しながら、胎内を撫で解していくラグナの指を、スコールは熱の籠った表情を浮かべて締め付けている。


「ラ、グナ……んっ、ラグナ……っあ……」
「お前の中、熱いなぁ」


 湯の温度の所為だけではないだろうと、そんな含みを持たせてラグナが囁けば、スコールの耳がかぁと赤くなる。
同時に秘孔がきゅうっと閉じて、ラグナの指をきつく締め上げる。
ラグナは絡み付く肉壁を傷付けないように、殊更優しく意識して、初心な肉褥を愛で続けた。


「は……、あぁ……っ!うぅん……っ」
「ここ?」
「んっ……、あ……っ!」


 スコールがビクッと肩を震わせた場所を、ラグナの指がもう一度捕らえる。
指先ですりすりと軽く擦ってやるだけで、スコールの体が解り易く跳ねて弱点を教えてくれた。
同じ場所を指が何度もつつき、トントンとノックするように押す感覚に、若いスコールの火照りは益々増して行く。


「やっ、あっ……、ラグナ、あ……っ」
「スコール……中、入れて良いか?」


 ラグナの言葉に、スコールは小さく頷いた。
やや性急な気はしていたが、スコールの躰は奥の奥まで熱くなり、早くラグナが欲しいと訴えている。
そうしてうねるように蠢くスコールの秘部の感触を指で味わいながら、ラグナもこの飢えた若い躰を貪りたくて仕方がなかった。

 ラグナは抱き着いているスコールの体を持ち上げて反転させると、湯舟の縁に手を突かせた。
スコールはラグナに背を向けて、尻を向ける格好になり、ヒクヒクと震える秘部を見せつけている。
湯と胎内の熱とてすっかり温もった体に、地上から遠く離れた冷たい夜風が吹きつけたが、スコールはそれを感じる余裕はなかった。
逆上せそうな程に滾った熱を早く解放して欲しくて、ゆらゆらと腰を揺らす。
誘うような動きを見せる桃尻に、ラグナも集まった熱が痛いほどに主張するのを自覚した。


「ラグ、ナぁ……早く……」
「判ってるって」


 我慢できないと急かすスコールに、ラグナは揺れる尻に手を当てて宥める。
大きな手に尻たぶを揉まれるのを感じて、スコールはもどかしそうに腰を捩った。
そうすると小振りな尻がもじもじと動くので、恥ずかしがり屋なのにいやらしい動きをする肢体に、ラグナはごくりと喉を鳴らす。

 いつの間にかすっかり反り返った自身を、ラグナはスコールの秘部に宛がった。
いつもの事を思えば短い前戯であったと思うが、スコールの其処はもう慎ましさを忘れてヒクついている。

 震える細い腰を両手で掴んで、ラグナはゆっくりと自身を進めた。
解れたがまだまだ狭い蜜口を、太い雄が入って行き、一番太い部分を潜った所で、「あぁ……っ!」とスコールが声を上げた。
びく、びく、と躰の中も外も震わせる少年に、ラグナも一つ熱の息を吐いて、直ぐに律動を始める。


「んっ、あっ、あっ……!」


 ラグナの突き上げに合わせて、スコールの唇から濡れた声が漏れる。
太いものが狭い中を一杯に広げ、ぴったりと密着した肉壁を隙間なく擦る度に、スコールの躰が熱を増して行く。

 ちゃぷ、ちゃぷ、と湯舟の水が跳ねる音がする。
湯に浸かったままの足元が滑らないように、ラグナは足元に力を入れていた。
自然と腹筋にも力が入って、腰の動きが強くなる。
ずんっ、と突き上げられた少年の体がビクンと跳ねて、きゅっ、きゅうっ、とリズミカルに蠢いて肉棒を心地良く締め付ける。


「はぁ、う……っ、んっ、うんっ……!」
「あっついなぁ、スコールの中……っ」
「ふ、ふぅ……っ、ラグナ、も……あぁ……っ!」


 興奮を隠せないラグナの声に、スコールの声も艶が増して行く。


「ラグナ、あぁ……っ!大きい……、んっ、深い……っ」
「はっ、はぁ……、っく……!また締め付けて……っ」
「あ、当たる……っ、奥に……っ!」
「はあ、はあ、はっ……!」
「あっ、あっ、あっ……!うぅ、あぁ……っ!」


 いつしかスコールも腰を振り、ラグナの律動に合わせて、彼を更に奥深くまで招こうとする。
快感に弱くて貪欲な、若い躰の精一杯の誘惑に、ラグナの雄は彼の胎内で益々固くなって行き、その質感の変化をスコールは具に感じていた。

 ラグナの腰の動きが早くなり、ストロークの間が短くなって行く。
上り詰めようとしているラグナの気配を感じ取って、スコールは湯舟の縁を掴む両手に力を込めた。
太く逞しい雄に奥を突き上げられる度、スコールも堪らない程の快感が全身を駆け抜けて、頭の芯が真っ白に溶けて行く。
その感覚に恐怖を覚えなくなったのはいつからだろう。
そんな事を考える暇もない程、呼吸さえも奪うように強い力で奥を突き上げられて、スコールの躰は一際大きな快感の波に飲まれていく。


「あぁっ、あぁ……!イ、く……うぅんんっ」


 ビクっ、ビクッ、ビクンッ!とスコールの躰が撓りながら跳ねる。
雄を咥えた秘奥も同様に戦慄いて、咥え込んだものをきゅうきゅうと締め付けながら、スコールは絶頂した。
いつもの冷静さを滲ませる低い声とは違う、熱に染まった少年の淫靡な声が遠くの夜景に溶けて行く。


「う、スコール……っ、出る……っ!」
「んっ、んんっ!ラグナ、ぁ……ああぁ……っ!」


 ラグナが唇を噛んで、二度、三度と腰を打ち付けた後、彼もスコールの中へと自身の熱を注ぎ込む。
どぷどぷと胎内を染めていく白濁液の感触に、スコールは甘い声を上げて、それを余すことなく受け止めた。

 忙しなく跳ねていた水面の音が静かになるに連れ、二人の荒い呼吸だけが繰り返されるようになる。
雄を咥えたスコールの尻が、間接照明の柔らかい光を受けて、汗か水か滴らせているのを、ラグナはくらくらとした意識の中で見下ろしていた。
スコールの奥はまだラグナを締め付けていて、物欲しそうに吸い付き、ねっとりと竿を撫で回して離れようとしない。
それが吐き出したばかりのラグナの熱をまた誘おうとするのだけれど、


「ふ……はぁ……」
「あっ…ラグ……や、抜け、る……んん……っ」


 ぬるぅ、と艶めかしい感触で肉壺を舐めながら出て行く雄を、スコールの躰は嫌がるように引き留めようと締め付けた。
しかし持ち主の足が崩れてしまってはどうしようもない。
まだ固い感触を残した雄が、吸い付いて已まない穴口から、ぬぽっと音を立てて出て行った。


「あぁ……っ!」


 太いものが口を引っ掻けるようにして出て行った感触に、スコールが切ない声を上げる。
そんなスコールの隣に、ふらついたラグナの躰が寄り掛かった。


「あー……やべ」
「……ラグナ?」


 参ったと言うラグナの声に、熱に浮かされていたスコールの意識が僅かに戻る。
隣にへたり込むように、湯舟の縁に突っ伏しているラグナに声をかけると、翠の瞳が眉尻を下げてスコールを見上げた。


「ちょっと逆上せたみてぇ」
「……長風呂してるからだ」


 スコールの言葉に、ラグナはへらりと笑う。
仕方がないとスコールは溜息一つを吐いて、ラグナに肩を貸して立ち上がらせる。
余り力が入らない様子のラグナを支えながら、スコールはなんとか湯舟を脱出させると、傍にある椅子へとラグナを座らせる。


「大丈夫か?」
「うん、ちょっと休めば平気だと思う」


 意識を確かめるように訊ねるスコールに、ラグナは努めていつものように笑って言った。
じい、とその言葉の裏を探るように見つめるスコールの表情は、ラグナから見ると少し不安そうに見える。
それを拭ってやりたくて、ラグナはスコールの濡れた頬に手を当てた。
スコールに振り払われなかったので、ラグナは猫をあやすように、まだ丸みのある顎を指先で擽ってやる。


「ごめんな、中途半端だろ」
「……別に……」


 若いスコールが一回で満足できない事や、そう言う躰に教えたのは自分だから、ラグナは理解していた。
それなのに、仕掛けた自分がこれでは、と聊か格好悪いなぁと思いながら詫びると、スコールは頬を赤らめて視線を逸らす。
それが案外嘘が吐けないスコールの本音であった。


「俺もまだちょっと辛いんだけどなあ……」
「……」


 ラグナの呟きに、スコールが彼の下肢をちらと見遣れば、確かに萎えたとは言い難いものが其処にはあった。
それを確かめたスコールの躰には、ラグナが言った通り、中途半端に放られる形になった熱がまだ燻っている。
注ぎ込まれたばかりのラグナの熱が、体の中から溢れ出して、スコールの尻を伝い流れて行く。
その感触にスコールが我知らず体を捩らせるのを、ラグナは視界の端でしっかり見ていた。

 スコールの吐息がまた熱を持って行き、彼の中心部がむくむくと膨らんで行く。
スコールはそれを隠すように前屈みになっていたが、ともすれば右手が自分自身に伸びてしまいそうだった。
今日は我慢しなくて良いんだよ、と耳元で囁いたラグナの声が幻聴になって聞こえて来て、スコールの理性を奪っていく。


「……ラグナ……」
「ん?」
「……ラグナ……っ」


 名前を呼ぶスコールに、ラグナは返事をする。
その声だけでは足りなくて、スコールはもう一度ラグナの名を呼びながら、椅子に深く座っているラグナを見上げた。


「……俺がする」
「……良いのか?」
「………ん」


 顔を赤らめながら言ったスコールに、ラグナの眼が判り易く閃く。
まるで、待ってた、と言わんばかりの反応に、スコールは誘導されたような気もしたが、それでも良いと思う。
お互いにこんな中途半端な状態で終われないのは、分かり切った事だった。

 スコールは椅子に座るラグナの前に跪くように膝をついて、ラグナの足を開かせる。
緩やかに頭を上げている中心部に顔を寄せて、ぴくぴくと震えている先端にキスをした。
ちゅう、と鈴口を啜るように吸われて、ラグナの太腿がぴくっと跳ねるのを見て、スコールは口を開ける。
小さな口を精一杯に開き、ぱっくりと雄を咥え込むスコールの様子を、ラグナは興奮を宥めようと長い鼻息を吐きながら見下ろしていた。


「ん……ふむ…ぅ……」


 少し息苦しそうにくぐもった声を漏らしながらも、スコールはラグナを全て口の中へと納める事に成功した。
湿ったスコールの咥内で、雄がまた膨らみを増して行く。
スコールの舌が竿にゆっくりと絡まって舐め始めると、ラグナの右手がスコールのダークブラウンの髪を撫でる。
スコールが上目遣いにラグナを見れば、翠の瞳が此方をじっと見つめていて、唇がゆっくりと動く。


(良い子)


 子供を褒めるようなその言葉が音になった訳ではなかったが、スコールはラグナがそう言ったのを確かに聞いた。
自分からラグナを咥えに行くと、必ず囁かれるその言葉。
子供を褒めるようなそれをスコールは好んだつもりはなかったが、ラグナにそんな風に言われると、得も知れない歓びのようなものが感じられる。

 うっとりとした表情を浮かべて、スコールはラグナに奉仕する。
舌を竿に当てながら、頭を上下に動かして、ちゅぽちゅぽと音を立てながら唇で竿を擦った。
ふ、ふ、と頭上で零れる鼻息が荒くなって行くのを聞きながら、スコールも自身が高ぶって行くのを感じている。

 一方でラグナは、雄を咥える少年の顔と、その向こうに見える夜景を眺めていた。


(絶景ってこう言うのなんだろうなぁ)


 世間一般で言うものではない事を知りつつ、ラグナはそんな事を考える。
だって、愛した少年が、一心不乱に自分をしゃぶってくれているのだ。
先ずそれが何よりも卑猥で興奮を誘う光景なのだから、これに勝る絶景はあるまい。
拙いながらも一所懸命なその奉仕を貰いながら、遠い下界を見下ろすのは、まるで自分が世界の王様にでもなったかのようだ。


「はあ……スコール、もっとしゃぶって」
「ん……っ、ふむぅ……っ」


 ラグナがねだれば、スコールはほんのりと頬を染めて、喉まで雄を迎えに行く。
眉根を寄せて息苦しいだろうに、熱に浮かされたスコールはそんな事も厭わずに、ラグナを満足させようとしてくれる。


「あむ、うん……、は、ふぅ……んちゅ、ん……っ」


 スコールの舌が竿の裏筋をゆっくりと舐め上げて行く。
ぞくぞくとした官能がラグナの腰を震わせて、雄がしっかりと力を持って頭を持ち上げた。
それを感じ取って、スコールが雄の膨らみの括れを包み込んで啜り上げると、ビクビクとラグナの躰が弾む。


「っは、スコール……っ!」
「ん、ん……っ、んちゅ、ちゅる……っ」


 ラグナの判り易い反応が嬉しくて、スコールは何度も膨らみを啜った。
右手で竿の根本を握って扱けば、刺激の追い打ちに堪らずラグナが唇を噛む。


「はぁ、は……っ、やっべ……来るかも……っ」
「んちゅ……っぷ、はぁ……まだ、やだ……」


 迫る感覚にラグナが呟けば、スコールは雄から口を放して言った。


「……出すなら、こっち、」


 スコールが立ちあがって、ラグナに背を向け、ヒクヒクと口を膨らませている淫部を差し出す。
其処からはラグナが先に注いだものが溢れ出していて、背中から伝い流れて行く湯の水滴と混じり合って、スコールの股間をぐっしょりと濡らしている。

 スコールは足を開いて、椅子に腰かけているラグナの勃起した雄に尻を擦り付けた。
まだ咥えていない内から、迎えに行こうとするように吸い付いて来る穴口に、ラグナも早く入りたくて仕方がない。
はあ、はあ、と息を整えてタイミングを探っている様子のスコールに、ラグナは両手で彼の腰を捕まえた。
湯が冷えて体温を奪ったか、僅かに冷たく感じる手に触れられて、ビクッとスコールの躰が震える。
それでも、それが切っ掛けになったようで、スコールは椅子の肘掛に両手をついて上肢を支えながら、ゆっくりとラグナを迎えて行く。


「あ、は……あぁ…ん……っ!」


 一度目と劣らず太く固くなった熱の象徴を受け入れながら、スコールは甘い吐息を漏らす。
天井を見上げるスコールの背中が大きく撓って、しっとりと水を孕んだ濃茶色の髪が、ラグナの鎖骨を擽った。
ラグナはそんなスコールの胸を抱いて引き寄せる。


「あっ、あぅんっ!」


 バランスを崩された拍子に、スコールの膝ががくっと崩れて、ずぷんっ!とラグナを深く咥えてしまう。
そう言うつもりはなかったのだろう、不意打ち気味に奥へとラグナを挿入されて、スコールはビクビクッビクッ、と強張った四肢を痙攣させた。


「あ、ふ……あぁ……っ」
「びっくりさせたか?ごめんな」
「あっ、あ……ラグ、ナぁ……っ」


 詫びながら胸を撫でるように揉み、首元にキスを落とすラグナに、スコールが息を詰まらせながら名前を呼ぶ。
雄を咥えた秘部がヒクヒクと戦慄いて、ラグナをきゅうぅ……と締め付ける。
柔らかくも暖かく心地良い締め付けに、ラグナはスコールが悦んでいるのを感じ取った。


「はあ、はあ……あっ、んん……」


 そのまま熱に浮かされる事しばし。
はあ、はあ、と呼吸を繰り返して落ち着いた頃、スコールはラグナに寄り掛かっていた体をのろのろと起こして、もう一度肘掛に両手を突いた。
荒くなる呼吸を宥めながら、ラグナの膝上に座って両足を開き、辛うじて床に届く爪先に力を入れて、ゆっくりと体を持ち上げる。


「う、あぅ……んぁあ……っ」


 ぬる、ぬるぅ、と内部が雄に擦られるのを感じて、スコールの躰をぞくぞくと官能が迸る。
雄の太い括れが中で引っ掛かるのを感じて、スコールが動きを止めると、ラグナの両手が腰を掴んだ。
体を支えてくれるその手の感触に、スコールの両目が細められる。


「は、ふ……」
「良いよ、スコール」


 おいで、と誘う背後の男の声に、スコールの秘部がきゅうっと締め付けを増した。
そのままにスコールが腰を落とせば、固いのに柔らかく蕩けた肉を熱の塊が掻き分けるように入って奥を抉る。


「あぁあっ……!」
「っは……すっご……」


 思い切ったような勢いで奥へと雄を招き入れたスコールに、ラグナが堪らず呟いた。
どくどくと絶えず脈打つ肉の褥が、包み込むようにラグナに絡み付いて、熱を搾り取ろうとしている。
快感に対して貪欲になるように躾けられた若い躰は、行為を続け重ねる程に熱に花開き、箍を忘れてそれを貪るようになって行く。


「は、は……んっ、んぅっ…!」


 スコールは呼吸を整える暇も勿体無いと、また腰を持ち上げた。
ずるぅりと秘部を擦り出て行く竿の感触に、開いた足が、膝がビクビクと跳ねる。
持ち上げる躰を支えていた肘の力を抜けば、また腰が落ちて、ずぷんっ、と深く雄を咥え込む。


「はくぅっ!っん、は…は……っ、うぅんん……っ!」
「スコール……っは、頑張ってくれるなぁ……っ」
「あ、ふぅうっ!はふっ、ラグナぁ……あっ、あぁ……っ!」


 全身でラグナに奉仕しながら快感を貪るスコールに、ラグナの息もまた上がって行く。
そんなラグナの乱れて行く呼吸が、スコールの首筋をくすぐって、ぞくぞくとスコールの背中に熱の奔流が駆け上って行く。

 冷たい風がテラスに吹き込んで、湯に濡れた二人の体を撫でて行く。
俄かの寒さにスコールはぶるりと体を震わせたが、そんなものは胎内で膨らんで行く肉の熱さを感じれば直ぐに忘れた。
それよりも、またラグナの熱が、精が欲しい。
もう限界と言わんばかりに固くなっているラグナを秘奥で感じながら、スコールは懸命に体を動かした。


「はぁ、ああっ、あぁ……っ!ラグ、ナ、んぁあっ……!あっ、あふっ、あぁあ……!」


 感じ入るスコールの声が徐々に大きくなって行く。
羞恥心を忘れ、自分自身の心を開放して行くスコール。
伴ってラグナを求める躰の欲も激しくなって行き、きゅう、きゅう、と蠢く淫部がラグナの熱を放出させようと躍起になって吸い付いた。


「っは……スコール、もう……っ、イきそ……っ!」
「あ、ふ……ラグナ……っ、んくぅ……っ!」
「くぅ……っ、締まる……っ!」


 ラグナの声に、スコールはきゅっと唇を噛んで、丹田に力を入れた。
きゅぅう、とスコールの中が一際強く締まった瞬間、熱くて熟れた褥に食まれたラグナの分身が、どくんどくんと脈を打ち、


「うぅうっ!」
「んぁあっ!あっ、はぁあん……っ!!」


 どぴゅっ、びゅるるっ、とラグナの精がスコールの奥へと注ぎ込まれる。
待ち侘びていた二度目の射精に、スコールはラグナの胸に背中を預けながら、自身も絶頂へと導かれた。
色の薄いスコールの中心部から、びゅううぅっ、と白濁液が勢いよく弧を描いて飛び散った。

 二人ともに二度目の射精を終えて、スコールはしばらくの間、強張った体を震わせていた。
ラグナはそんなスコールを抱き締めて、きゅうきゅうと名残の締め付けを味わいながら目を細める。


「っは……はー……」
「あふ…ぅ……んん……っ」


 ひくひく、ひくひく、とスコールの穴なのか、ラグナの雄なのか、震えているのが止まらない。
その感触が、倦怠感に包まれた躰の中で酷く心地良くて、どちらも動く事が出来なくなっていた。

 乱れ切っていた二人分の呼吸がようやく整ってきた頃、冷たい風が吹いた。
熱の奔流が一旦落ち着き、アドレナリンの分泌も終わったからだろう、ようやくその冷たさを体が認識した。
濡れたまま、汗も掻いた躰を現実に戻すような冷たい風に、ふるりとスコールが体を震わせる。


「ふ……っあ……」
「寒いか、スコール」
「……ん……」


 少し、と答えるスコールに、ラグナは細身の体を抱き締めて、自分の熱を分け与える。
スコールはラグナにすっかり身を預け、力の入らない頭を、ラグナの肩へと寄り掛からせた。


「はあ……ん……っ」
「これ以上は、風邪引いちまうかなぁ」
「……うん……」
「気持ち良いんだけどなぁ……お前の中」
「……っあ……」


 囁くラグナの言葉に、思わずスコールの躰が熱くなる。
判り易い躰はしっかりとそれを反映して、まだ中に納まったままのラグナを締め付けた。

 まだまだ足りない、もっとしたい、と全身で訴えて伝えてしまうスコールに、ラグナは笑みを含めて赤い耳元で囁く。


「部屋でする?」
「………」


 ひくん、と体を震わせた後、スコールは小さく頷く。
とろんと熱に蕩けた瞳がラグナを見詰めるので、キスをしてやれば、心地よさそうに蒼の双眸が細められた。




 温まり直す時間も惜しくて、ラグナはスコールを連れて室内へと戻ると、体を拭く手間もそこそこに、寝室へと籠った。
夜風で微かに冷えた躰を、お互いの体温で温め合いながら肌を寄せ合えば、程無くまた熱が元通りになる。
それを何度も繰り返すように抱き合って、ベッドをすっかり乱してから、二人は眠りに落ちた。

 夜半にラグナが目を覚ましたのは、喉の渇きを覚えての事だ。
風呂場でたっぷり汗を掻き、その後も続けて励んだのだから無理もない。
ラグナは、丸くなって眠るスコールを起こさないように気を付けながらベッドを抜け出し、冷蔵庫へペットボトルを取りに行った。

 周囲の気配の動きに聡いスコールが目を覚まさない内にと、水を飲みながら寝室に戻る。
すると、ラグナが抜け出した時とは反対方向を向いて、やはり猫のように丸まって寝ているスコールがいた。


(うーん。一応、飲ませた方が良いよなぁ)


 喘いでいたスコールがどれ程汗を掻いていたか。
明日、喉の痛みを覚えるかも知れないし、水分もきちんと採らせておくに越したことはないだろう。
しかし、深い眠りの中にいるスコールを起こすのは聊か憚られて、ラグナはもう一度水を口に含んで、眠るスコールの唇に己のそれを重ね合わせた。


「ん……」


 小さくむずかる声が聞こえたものの、スコールの瞼は重く閉じられている。
唇に濡れた感触を感じて、隙間が開いたので、そこから少しずつ水を分け与えて行く。
本能的な水分への欲求か、スコールはゆっくりと水を飲み干していった。


「……は……ふ……、ん……」
「……っふぅ。こんなもんかな」


 余り何度も重ねると起こしてしまいそうで、ラグナは程好いと思える所で口移しを辞めた。
仰向けになったスコールの唇は無防備に解けたまま、すぅ、すぅ、と規則正しい寝息が続いている。

 ラグナがベッドに入り直すと、暖を求めるようにスコールが身を寄せて来た。
いつにも増して素直に甘えてくれるのは、セックスの後でガードがすっかり緩んでいるのもあるだろうが、やはり環境も理由の一つだろう。
窓の向こうはまだ暗く、地上の光も遠い為、夜の星しか望めない。
まるで世界から切り離されたような二人きりの空間に、明日一日、何処にも行かずに此処でのんびり過ごすのも良いかも知れない、とラグナは思った。




高層ホテルで夜景を見ながらお風呂でするラグスコが書きたくて。
逆上せ気味になってもまだ止めたくない二人とか。
いつもと違う所ですると良い景色が見れるよね(隠喩)。