雨宿りの戯れ


 作戦行動中に起こる予定外の事と言うのは、幾つかの種類がある。
最も多いのは、やはり敵対勢力ないしは作戦遂行目的のターゲットとなる対象物の行動で、ある意味、これは予定外だが予想内の範疇だ。
全ての物事が此方の予定通りに行く事は先ず有り得ない。
大抵、相手の反撃行動を筆頭にして、某かの衝突が起こり得るものであった。

 次に、第三勢力の介入による、状況の急転。
この“第三勢力”と言うのは様々あって、ターゲットに味方する者である事が多いが、他にも、全く別の漁夫の利を狙うグループであったり、通りすがりの何かであったりする。
前者ならばまた利用する事も出来るので、すぐにプランを立て直し、目的の遂行にベスト又はベターとなる選択を考えるが、後者の場合は厄介である。
此方の目的は勿論、ターゲットが何をどうするか、その想定も逸脱させる行動を取らせ兼ねないからだ。
万が一、一般人が巻き込まれるなんて事にもなれば、其方を作戦によって出得る被害から庇う必要性も出て来る為、手間が三倍位には増える。
上手く立ち回る事が出来れば、余分の高評価が上乗せされたり、臨時収入的な報酬や手土産なんてものを渡されたりするのだが、巻き込まれた一般人に余り期待する事ではない。
やはり、出来るだけこう言う介入は避けたいものである。

 それから、ある種では避けようのない予定外が、自然現象と言うものであった。
天候の変化は勿論のこと、人と契約を交わしていないG.F.との遭遇も、自然現象と呼んで良いだろう。
雨、風、雷、雪───これは人の力ではどうにもならない、超常現象の類である。
科学の解析によって天候予測はかなり正確に出来るようにはなったものの、やはり情報精度の狂いと言うのは起きるものだ。
特に、予測日が後ろになればなる程、最初の予定との差は広がって行く。
これは作戦と関係なく、日常の生活に置いてもよくある事で、そのつもりで人々は日々を暮らしている。
それが出来るのが日常生活と言うものであったが、作戦に置いてはこの当たり外れは無視できるものではない。
勿論、晴れていようが、雨だろうが、雪だろうが、ある程度の範囲の出来事であれば、此方も相応に準備を済ませているので、多少の予定の擦り合わせをする位で済むのだが、前も見えない程の土砂降りや吹雪、足元から陽炎が上る程の灼熱日となれば、聊か予定そのものを練り直さなくてはならなくなる。
こうなると、様々な予定をちゃぶ台返しにする必要も出て来るので、面倒なことこの上ないのだ。

 昨今、スコールが作戦の開始に当たって、最も疎んでいるのは、雷だった。
魔女戦争の終結の後、魔女討伐の最大の功労者として、バラムガーデンにはエスタからラグナロクが寄与された。
海を行くよりも遥かに早い速度で目的地へと辿り着く事が出来る飛空艇は、ルナティック・パンドラが引き起こした“月の涙”で急増した魔物討伐依頼に追われるSeeD達にとって、快適な足として活躍している。
しかし、宇宙空間すら僅かとは言え飛行する力を持った飛空艇の最大の弱点は、雷だ。
様々な技術により、普通の機械よりも遥かに耐久力はあるものの、自然が起こす大規模な電気エネルギーは、やはり避けて然るべき対象であった。
エスタの科学力の結晶とも言えるラグナロクには、様々な電子機器も搭載されており、飛行の為に必要となる計器類にもそれは利用されている。
大規模な電気エネルギーは、それにより発生する磁気等により、こうした道具を大きく狂わせてしまうのだ。
こうなると自動航行も難しくなり、そもそも雷雨の中に飛び立てば、ラグナロクそのものが避雷針となってしまう。
必然的に、こういった悪天候の際は、ラグナロクの使用は厳禁となる為、移動手段を他に用意するか、天候の変化を待つかと言う二択になる。

 しかし、どんなに厄介でも、面倒でも、こればかりは人の力の及ばない事であった。




 魔女戦争の後、ガルバディアは混迷を極め、長らく続いていたデリング政権への不満が対に都市部でも爆発した。
その重石として収まっていたビンザー・デリングは、いつであったかの魔女イデアの演説の際に死んでいる為、表立って反発勢力を抑止するものがいなくなっていた、と言うのも大きいだろう。
加えて、対魔女勢力側に加担した経歴を持つ、カーウェイ大佐が上手くその後を丸め納めたのもあり、ガルバディア政権は勿論、その矢面として傍若無人をしていた軍部も、大々的な再編成を余儀なくされた。

 そうして政治と軍から炙り出された者達が、徒党を組んでテロリスト行為を始めたと言うのは、身から出た膿を償却する過程として、避けられないものだったのだろう。

 このテロリストたちを排除する為の依頼が、現政権の首相代理としてポストに治まっているカーウェイ他複数の議員連盟により、バラムガーデンへと寄越された。
これまでのガルバディア政府・軍部の行いを一気に正し、国内外からの威信を取り戻したいと言う気概の表れか、報酬は破格の数字になっている。
恐らくは国庫から出されたのであろう依頼額を、よく一傭兵集団であり、嘗て正面相対する格好となったバラムガーデンに出せたものだ、と思うが、“魔女による世界転覆に加担した国”と言うバイアスを排除する為には、政治パフォーマンスとしてそれだけの労力が必要と言うことなのだろう。

 理由は何であれ、依頼元の詳細がはっきりとしていて、報酬がしっかりと出るのなら、バラムガーデンとしては引き受けない事はない。
だが、追放された政治家と軍部の者が徒党を組んでいると言うのは聊か面倒であはった。
搦め手を使うことを得意としている老獪と、力で押す事に慣れた軍兵が手を組んでいるのだ。
下手に足並みが揃い始める前に、一気に押し潰すのが良いだろう。
だから、ジャンクション能力を利用し、一人一人が一騎当千となり得る力を持つSeeDに、この依頼が寄越されたのだ。

 一派が集まり潜んでいたのは、デリングシティから西に行った場所にある、レム諸島だ。
大陸の西端に当たるウィルバーン丘陵から、海を挟んで浮かぶその島は、陸路からは切り離された場所にある為、テロリストが潜んで生活をしながら諸々作戦を考えるには、良い場所だったのだろう。
嘗てのガルバディア軍なら、その程度の内海は平然と越えて大群で押し寄せる事も出来ただろうが、現在、威信を喪った状態にあるガルバディアは、政治も軍も大体的には動かせない状態にある。
だから都市であるデリングシティから遠くないにも関わらず───逆に、だからこそ、もあるのかも知れない───テロリスト一派が拠点とする事が出来たのだろう。

 スコール達SeeDは、そのレム諸島を更に西側から攻める事にした。
レム諸島の西側には、『地獄に一番近い島』と呼ばれる、凶暴凶悪な魔物が犇めいている島がある。
其処に敢えてラグナロクを着陸させ、ラグナロクに運搬させた高速小艇を使って海を渡り、テロリスト一派を掃討すると言うものだ。
直接レム諸島にラグナロクを降ろさなかったのは、レム諸島の中央には森があり、ラグナロクが着陸できる幅を確保するのが難しい事、森の周囲───島の海岸付近は開けている為、空から降りるラグナロクを誤魔化せないと言う計算があったからだ。
作戦開始までの手間が二つ三つ増えている事になるが、事の準備段階でターゲット側に動かれるのはもっと面倒だ。
それを見越して、スコール達は手間のかかる上陸手段を選ぶことになった。

 そして作戦は開始される。
理想とするガルバディアと言う国を取り戻す為、躍起になっていた追放者たちは、激しい抵抗を見せた。
だが、やはりまだまだ意識の擦り合わせも整ってはいなかったのだろう。
戦い慣れた兵士と、そうでない政治家では、とても簡単に足並みを揃えられず、逃げるな戦え、私を守らなければお前らの未来はないぞ、等と、とても聞くに堪えない遣り取りが頻繁に聞こえ、寧ろその声がSeeD達の士気を下げるレベル。
軍に身を置いていた者と、その後ろ盾をしていた者とでは、現場となる戦場に対する意識が違うのも無理はない。

 テロリスト一派の第一の防衛戦線は、SeeD達の突入から間もなく突破された。
最も激しい抵抗があったのは、其処から先だ。
此処で尻込みすればいよいよ後がないと判っているから、軍出身のものは全力で攻勢に出たが、残念ながらその後ろが閊えている。
自暴自棄にでもなって短銃を振り回す輩はまだマシな方───少なくとも、追い詰められた際の度胸に関してのみ───だが、抜けた腰で命乞いをする者がいるのは、全体士気を下げる邪魔者でしかない。
当然、そう言うものは見捨てられ、SeeDもそれらをさっさと捕縛して、次の作戦へと移る。

 テロリスト一派は、ジリ貧となる後退の後、島の方々へと散った。
時間稼ぎ程度の行動だが、一網打尽の全滅を避ける手段としては無難だろう。
SeeDもスリーマンセルの班を組み、可能な限り一派をこの島内で捕縛する為に散開した。

 ────その最中の天候の急転だ。
陽光の恩恵で発生する、物質の影と言う情報源を削る為、スコール達は敢えての曇り空の下で突入した。
防衛線まで隠密行動を前提としていたので、この天候はSeeD達にとって好都合だったのだが、この空が次に運んできたのは雨雲である。
予測はされていたので、多少の雨なら構わず作戦続行だったのだが、蜘蛛の子になったテロリスト達の時間稼ぎが、こんな所で彼等の味方をしたか。
初めはぽつりぽつりと言う程度だった雨が、時間が経つごとに重くなり、視界を遮る程の土砂降りになったのだ。
鬱蒼とした森の下、響き渡る雨粒の大合唱に、流石にこれは───と指揮官とその実力から単身行動に出ていたスコールも、作戦の中断を余儀なくされた。


(……くそ。まるで前が見えないな)


 恵みの涙と言うには余りにパワーの強い雨。
森の木々がざあざあと騒ぎながら、雨粒に叩かれて悲鳴を上げている。
スコールは目元に張り付く前髪を掻き上げながら、せめて一時、この雨だけでも凌げないかと辺りを見回した。


(島全体がこの天候なら、テロリストの奴等も碌に動けない。海岸に出た所で、風で波も立っているだろうし、逃げ場はない。下手にこっちが動いた方が、集団で潜んでるかも知れない奴等に待ち伏せを喰らわされるかも知れない。……少し空が回復するまで、じっとしていた方が無難だ)


 単身で誰よりも身軽に動けるスコールが、それをしない方が良いと判断する程の雨なのだ。
行軍に慣れない政治家を抱えて後退しなければならないテロリスト達が、そう簡単にこの雨の中で大々的に移動が出来るとは思えなかった。
雨の後の土の柔らかさが残す情報も含め、天候が回復の兆しを見せてから移動しても、十分に追いつけるだろう。

 とは言え、このまま雨に晒されて過ごすのは流石に良くない。
幾重にも重なる雨のカーテンの中、スコールは目を凝らしながら、周囲を見渡して隠れ場所を探す。


(こんな時だ。雨を凌げる場所があったら、誰も彼もが飛び付きたくなる所だし、危険もあるが……)


 それはそれだと、スコールは割り切った。
ガンブレードは強く握ったまま、スコールはしばらく歩く。

 そうして見付けたのは、樹齢何百年と言う歳月を過ぎたであろう大木の下。
雨煙の中、少し不自然なシルエットを作っていた其処に近付いてみると、大きな洞がある。
あそこなら、と更に歩み寄って、其処が大木の洞ではなく、ぽっかりと空いた洞窟である事を知った。


(……誰もいないか?)


 水溜りを踏む音に注意しながら近付き、入り口の傍で耳を聳てる。
足元をよく見ると、真新しい人の足跡があった。
それはスコールと同じように、穴の反対側に一度身を寄せ、ゆっくりと踏みしめるように中へと進んでいる。
どうやら、一足先に入った者がいるらしい。
更にその足跡の下に、複数の外に出て行く足跡があった。


(………)


 数瞬考えたスコールだったが、グリップを強く握り、いつでも魔法を放てる状態を意識して、中へと踏み込む。
吹き込む風で流れ込む雨水で、足元はやはり柔らかく、水溜りも出来ている。
それがどうしても、一足進むごとに、ぱしゃん、と小さく水音を立てた。
誰かが奥にいるのなら、この足音は絶対に聞こえている。

 洞窟はそれ程深いものではなく、程無く突き当たりになった。
そこはぽっかりと広くなっているだけでなく、暗がりに慣れた目に、幾つかの不審なシルエットが確認できる。
低くしゃがんでよくよく目を凝らすと、その多くは木箱や鉄箱で、人が運び込んできたものだと判った。


(奴等の拠点だったか)


 雨に濡れた様子のない箱を眺めて、思わぬものを掘り当てたと思った。
同時に、此処に長居するのは聊か危険を伴うかも、と考えた矢先、


「────!」


 じゃり、と土を擦る僅かな音が聞こえて、スコールは咄嗟にガンブレードを構えた。
何処だ、と音の発信源を目だけで探っていると、四辺1メートルはあろうかと言う箱の影から、ひらひらと揺れている手が見えている。
この状況下で、そんな事をする度胸のある者は────


「………サイファー」


 全く情報の精度ととしては足りない中、それでも確信を持って名を呼ぶ。
すると、手は一旦引っ込んだ後、箱の向こうから立ち上がる影があった。


「よう、偶然だな」
「……あんただけか」


 トレードマークのコートを肩に羽織り、いつも嵌めている筈の手袋も外しているサイファー。
その挨拶には返さず、スコールはガンブレードを構えたまま、周囲に目を配りながら問う。
サイファーは空の両手を上に返して肩を竦め、「ご覧の通り」と無言で言った。

 散開する時にはスリーマンセルで行動するように指示した筈だが、とスコールは思うが、かく言うスコールも単独行動である。
これは指揮官権限と同時に、スコールの戦闘力を加味しての効率を上げる為の判断だ。
そして、サイファーも同様に、下手に団体行動をさせるよりも、突破力をフルに発揮させる為に単独行動させた方が利率が良い。
今更目くじらを立てる事でもない、とスコールは割り切った。

 スコールは背後の気配だけは気にしつつ、ガンブレードを下ろし、改めて辺りを見回した。


「……此処は、奴等のアジトか」
「そんな所だろうな。蛻の殻だが」
「戻ってきた奴は?」
「俺が此処に来てからは誰も。そう前の話じゃないぜ。雨宿りに来たら見付けただけだからな」


 雨が降り出してから此処に来た、それなら確かに、サイファーの到着から時間は経っていないのだろう。
だが、入り口にあった足跡の状態から見ても、作戦開始以降に此処に戻ってきた者がいないのは確かなようだ。

 ゴロゴロ、と言う不穏な音が背中から聞こえて、スコールは振り返った。
出口の方を見ると、中に比べれば明るさが届いているが、其処から光の明滅が見える。
雷が鳴り始めたのだと悟って、スコールは溜息を吐いた。


「……当分このままだな」
「そうだろうと持って、俺はゆっくりしてた所だ。どうせこの嵐じゃ、作戦が終わった所で、ラグナロクも飛べねえんだろ」
「……そうだな。此処から『地獄に一番近い島』に船を出す事も出来ないし」
「雨が止めば捕物は再開だ。それまで体力を温存しておくんだな」


 サイファーの言うことは最もだ。
実際、それ以外にやれることもない。

 捕物が終われば、このアジトも続けて接収される。
今の内に此処にあるものを確認しておこう、とスコールは手近にあった木箱の蓋を開けた。
水やら食料やらと、他にも細々とした日常の消耗品が納められており、綺麗に並べられている所を見るに、恐らく搬入されたばかりなのだろう。
その隣の鉄箱は、銃器類が散らばった状態で納められていた。
SeeDの襲撃を受けて、ともかく掴めるものを掴んで出て行ったのかも知れない。

 武器があるなら、此処に人が戻って来る可能性はゼロではない。
雨が止んだ後、この拠点を抑えておく為に人員を割くか、と考えていると、


「………っくしゅ!」


 むずついた鼻の衝動を抑えきれずに、くしゃみが出た。
同時にぞわりと背中に寒気が走って、自分が頭の天辺から爪先まで濡れ鼠になっていた事を思い出す。
更に、明りもなければ、当然ながら日もない洞穴内の冷気が、一気に襲ってくる。


「上着くらいは脱いだ方が良いぜ。どうせお前もズブ濡れだろ」
「……そうだな」


 上着を羽織るだけにしていたサイファーの言葉に、スコールも同意する事にした。
すっかり水を吸って重くなったジャケットを脱ぐと、ひんやりとした冷気が直接腕肩に触れたが、濡れた布を纏った気持ち悪さは減る。
シャツは着たまま、裾から強く絞ると、ぼたぼたと水が滴り落ちた。


「……火を起こせるようなものはないのか?」


 スコールが尋ねると、サイファーは「ないな」と即答する。
彼の事だから、スコールと同様に、着いて間もなくこの洞穴の中も調べたのだろう。
その上で、暗闇の中で過ごしていた訳だから、その手の道具も見当たらなかったと言うことだ。


「……と言うことは、此処はあくまで、物資倉庫として使っていたと言う訳か」
「だろうな。人の出入りはそこそこあったようだが、食料品も物があるだけ、寝床や飯を作るに適した設備はない」
「成程。了解した」


 だから物が箱のままで置き去られているのだ、とスコールも理解する。
ならば、雨宿りと武器補給の目的以外で、この雨の中を洞穴目指して戻って来る者は少ないだろう。


(出入口の方だけ、気を付けていれば良いか)


 そう判断して、スコールは適当な場所で休息することにした。
適した場所は、と暗がりに慣れてきた目で見渡すと、サイファーのいる場所が目に付く。
其処には複数の箱が積まれており、その向こう側が陰になって見えない。
サイファーが其処に落ち着いているのも、出入口の方向から身を隠すのに丁度良かったからだろう。


「邪魔するぞ」
「へーい」


 必要はないものではあったが、場所を開けろと言う意味で声をかけると、サイファーは右手を上げて返事をした。
僅かに横にずれてくれる辺り、スコールが何を以てこの場所を選んだか、彼も判っているのだ。

 1メートル四辺の箱が複数、並び積み上がった場所ではあるが、そこそこ身長のある男二人が並ぶには、聊か狭い。
昏く冷たい上、二人とも濡れている事もあってか、其処には湿気が滞留していた。
スコールは持っていたジャケットをもう少し水を絞り、サイファー同様に肩に羽織る。
立てた両膝に腕を橋にして、その上に顎を置き、ふう、と一息吐いた所で、


「作戦の状況はどうなってんだ」
「さあ。この雨だし、班別行動にしてから、あんた以外に合流した奴もいないし。物騒な音は聞こえなかったから、特に大きな問題はないと思っている」
「ラグナロクとの通信は?」
「この嵐じゃ電波がまともに繋がらない。雨が止んだら、天候他諸々の把握も含めて通信して確認する」
「了解」
「あんたの方は、何か報告することは?」
「三人捕まえてふんじばって置いた」
「場所は」
「此処からそう遠くはねえよ。此処が島のどの辺りだか判らねえから、ポイントははっきりしないけどな。お前は、此処の位置は?」
「知らない」
「じゃあ俺からの伝達は終わりだ」


 そう言ってサイファーは暗い天井を仰ぐ。
天候の所為で儘ならない状況とは言え、じっとしているのは相変わらず退屈なのだろう。
さっさと止まないもんかと呟くサイファーに、スコールも無言で同意する。

 物陰にいる所為か、外の世界の音は随分と遠い。
雷の音も聞こえてはいるが、地下にいるような状態にある今、少々その音も他人事になっていた。
それよりスコールが気になるのは、明り一つないこの場所ではどうにもならない湿気と冷気だ。
外で降りしきる雨が、地面を通って地下まで浸透してきたか、じわじわと湿度が上がっている気がする。
乾燥していると一層冷えるから、そう言う意味で湿気は助かるものではあるのだが、しかしそれ以上にスコール達は濡れ鼠の状態だ。
湿気の所為で服も肌も一向に乾く気配がないし、ただただじっとりと皮膚にまとわりついて来る淀んだ空気も鬱陶しい。
それでいて空間温度が上がる訳でもないので、肌にはりつく水分が体温を奪っていこうとするのが感じられる。


「……っ」


 ぶるっ、とスコールの背中が寒さで震えた。
その辺りにある木箱を薪に、ファイアで火起こししようか。
こんな場所に明りをつけたら、出入り口からでも倉庫内の異常が見えるだろうから、危険性を思えば避けるべき事なのだが、このままじわじわと凍えるのとどちらがマシかと考えていると、


「遭難してるみたいだな」
「……は?」


 突然、ぽつりと零れたサイファーの言葉に、スコールは眉根を寄せた。
その反応を見て、翠の瞳が此方を見る。


「外は大雨に雷、無人島にぽっかり出来てた洞窟の中で雨宿り。似てねえか?」
「……無人島ではあるがテロリストがいるし、こっちは作戦行動中だ。この雨は予定外だし、此処が島の何処かも判ってないけど、方角を決めて真っ直ぐ行けば海に出る。そんなに言う程大層な状況でもないだろ」
「判ってるよ。俺が言ってるのは雰囲気だ、雰囲気」


 スコールの冷静な返しに、本気で受け取るな、とサイファーは言う。
呆れたような表情を浮かべるるサイファーに、自分の反応が間違っているような空気にされた気がして、スコールの眉間の皺が深くなった。


「あんたの言う雰囲気で照らし合わせるなら、精々サバイバル訓練だろ」
「それじゃただの授業じゃねえか。面白くもねえ」
「授業に面白みを求めるな」


 今度はスコールが呆れた表情で溜息を吐いてやる。


「あんたとサバイバル訓練でペアになった時のこと、忘れてないぞ。普通に課題をクリアするんじゃ面白くないとか言って、訓練エリア外に出て魔物の巣を見付けて、繁殖期だった所為で気が立ってた奴等に見付かって追い回されて。あれのお陰で、あの時の俺の成績は最悪だったんだ。俺は戻れって言ったのに」
「言ってねえだろ。面倒は御免だって言ってただけじゃねえか。巣を片付けて戻れば、特別勲章に成績加点されるぞって言ったらノリノリになった癖によ」
「なってない」
「なってたね。お前が忘れてるだけだろ。G.F.の所為で」
「G.F.の影響があってもそんな馬鹿な事忘れる訳ないだろう」


 睨むスコールに、サイファーは「さてどうだか」とにやにやと笑っている。
G.F.の副作用について、ジャンクション時間が長いスコールは、どうしても些細な所まで記憶に歪が出来易い。
それを判っていて、都度そんな文言で如何にも「スコールの方が忘れている」ように仕向けて来るサイファーに、スコールの眉間の皺は三割増しになっていた。

 ────が、また冷えた空気がぞわりと背中を撫で上げて、スコールは口を噤む。
土砂降りの中をしばらく歩き回る羽目になった所為で、体が冷え切っているのだ。
スコールは折っていた膝を体に寄せ、丸くなるように縮こまって、これ以上体の熱が逃げないように試みた。

 それを見たサイファーが、双眸を細める。


「なんだ、寒いのか?」
「……別に」
「さっきから何回くしゃみしてる?」
「……」
「まあ雨だし、こんな所だからな。俺だって寒い」


 サイファーの問いに、スコールは尖らせた唇を噤む。

 雨で濡れて、上着は脱いではいるものの、裸になる訳もいかないから、やはり濡れた服で体は冷えやすい。
だから暖が求められるのだが、色々と考えられる条件がそれを躊躇わせてしまう。

 ───ならば、と言うように、傍らの男がじり……と距離を詰めて来る。


「……おい」
「何だよ」
「こっちの台詞だ。近い」


 ついさっきまで、間に人一人分は空いていた筈のスペースが、いつの間にかなくなっている。
羽織ったジャケットが擦れ合う距離になって、スコールは否応なく感じる隣の熱の気配と言うものに、眉根を寄せてサイファーを睨んだ。
が、幾ら冷たい蒼で射抜こうとも、それすら向けられる事に慣れた男が動じる訳もなく。


「良いじゃねえか。遭難して、火も起こせない寒い洞窟の中で二人っきりとくれば、定番だろ?」
「だから、そんな大層な状況でもないって言ってるだろ。大体今は作戦行動中で───」
「で、その作戦の進行は出来てんのか?」
「……さあ」
「そうだな。他の奴等はどうしてるか知らねえが、少なくとも此処は無理だ」


 サイファーの言う通り、この洞穴にテロリスト一派が一人でも戻ってくれば話は別だが、今の所、その気配はない。
SeeDに追われる身である彼等にとって、対抗する為の武器の補給は欲しい所だろうが、其処に行き付くまで、到着した際のリスクを被ってまで武器を手にするよりは、この島を脱出する方法を模索した方が良作だろう。
ならば尚更、洞穴で雨宿りをしている二人にとって、待つ以外にやる事はない。


「……天気が回復したら、また連中を追うんだぞ。余計な体力を消耗するのは御免だ」
「このまま凍えてりゃ同じ事だろう」


 言いながら、サイファーの手がスコールの腰へと回される。
まだ濡れたままのシャツの上から、ゆっくりと脇腹を撫でられるのを感じて、スコールは口を噤んだ。
薄手のシャツがぴったりと体に張り付いている所為で、布越しでもサイファーの手の形が判ってしまう。


「…他に誰か来たらどうする気だ」
「聞かせてやっても良いぜ。まさかお前の声だなんて思う奴はいないだろうしな」


 サイファーの唇がスコールの首筋に寄せられて、彼の吐息が喉元を擽る。
褥の中でいつも感じているむず痒さに、スコールは腕を使って伸し掛かる男を押し退けようとするが、全く効果はなかった。
それがスコールの本気の抵抗ではない顕れであると、サイファーは知っている。


「ん……サイ、ファー……っ」


 隠し堪えようとしているスコールの息が、徐々に上がって行く。
サイファーは耳元を擽るその呼吸を感じながら、スコールのシャツの中に手を入れた。
薄い腹筋を撫で上げてやれば、あ、と小さく声が漏れる。


「寒いんだろ?温めてやるから、大人しくしてろ」
「……さむ、く…んっ、ない……っ」
「じゃあ俺が寒いんだよ」


 だから熱を寄越せ、と言う恋人に、強盗だとスコールは言った。
それを聞いたサイファーがくつりと笑って、スコールの喉仏に甘く歯を立てる。


「っは……!」


 箱に寄り掛かっていたスコールの体が、逃げを打つように横へとずり落ちて行く。
追ってサイファーが覆い被されば、程無くスコールは冷たい地面に横倒しになっていた。

 スコールが肩に羽織っていたジャケットを下敷きに、仰向けになるようにとサイファーが転がす。
特に抵抗らしい抵抗もせず、スコールはそれに従う格好で、覆い被さる男と向き合った。
濡れたシャツが、侵入した手に持ち上げられるように、ゆっくりと上へとずり上げられていく。
晒された肌は、服が含んでいた湿気でしっとりとして、サイファーの手に吸い付くようだった。
其処にぽつりと膨らんだ蕾を見て、サイファーがにやりと笑う。


「やっぱりお前も期待してたんじゃねえか」
「んっ……!」


 人差し指と親指で、蕾をきゅうっと摘ままれて、スコールの顔に朱が浮かぶ。
そんな訳、と言いたげに唇を噛んでいるスコールだったが、サイファーが蕾を爪弾くようにして遊んでやれば、強張った体がビクッビクッと弾んでしまう。


「んっ、うっ……ふ…っ!」
「こっち見ろ、スコール」
「ふ、んむ…ぅ……っ」


 呼ぶ声にスコールが閉じていた目を薄らと持ち上げれば、酷く血かい距離に、見慣れた男の顔があった。
その距離感に息を飲む暇もなく、唇が重ねられ。
無防備にしていた其処から舌が侵入して来る。
既に唾液に濡れ始めていた舌が絡め取られ、互いのそれを混ぜるように撫でられて、寒気とは違う、ぞくぞくとした感覚がスコールの項を奔って行く。

 サイファーが嬲るように丹念にスコールの咥内を弄っていたのは、最初だけ。
蒼の瞳に隠しきれない熱が浮かび始めた頃には、スコールの方からもサイファーのそれに自分の舌を絡めるようになっていた。
胸を弄る手が硬くなり始めた膨らみを転がせば、喉の奥でヒクンと音が鳴る。


「ン…っ、は……ふ……っ!」
「んぢゅ……っ」
「ん、むぁ……あむぅ……っ」


 吸われ、誘い出されるのを理解しながら、スコールは口を開ける。
唾液塗れの舌が二人の唇の隙間から覗いたかと思うと、サイファーはそれを啜った。
ぢゅる、とわざと音を立てて吸われ、スコールの舌の根が痺れるように戦慄く。

 地面に投げ出すように放られていたスコールの腕が、そろりと動いて、サイファーの腕を撫でた。
ぴくりとサイファーの視線が動くと、その視線から隠れるようにスコールの手は下りて行き、やがてサイファーの中心部に行き付く。
ベルトをなぞって、更に下へと触れた時、其処は判り易く張り詰めていた。

 触れていた唇が離れて、はあ、とスコールが息をして、


「……あんた、なんでもうこんなになってるんだよ」


 睨むように視線を寄越して顔を顰めるスコールだが、サイファーは構わず、スコールの胸に舌を這わす。


「っん……」
「お前だって同じようなもんだろうが」
「や……あ……っ」


 サイファーの言葉に、緩く首を振るスコールだったが、胸を腹を弄っていた手が下りて中心部に触れれば、直ぐに真実は悟られる。
スコールの其処もテントを張って窮屈にしており、体の芯はじんじんとした火照りと疼きに苛まれていた。
作戦任務に出る前夜、混じり合った記憶が蘇って、否が応でも体が準備を始めてしまう。

 サイファーは片手でスコールのフロントを緩めると、その中に手を入れた。
下着の上から中心部を緩く握れば、細身の体がビクッと弾む。


「っんあ……!」
「お前も触れ」
「う……ふ、ん……っ」


 頭の方をぐりぐりと指の腹で穿られて、スコールが身を捩る。
逃げを打ちたがる体を、サイファーは腕の檻に閉じ込めながら、恋人にも行為を促した。
スコールは熱に潤んだ瞳を揺らしながら、手探りでサイファーの守りを緩め、なんとか作った隙間に手を入れる。

 サイファーのキスの雨を受け止めながら、スコールは彼の中心部を扱き始めた。
元々それなりの固さがあったそれが、擦る内にむくむくと体積を増して行く。
疼く体が、奥の方へとそれを欲しがって、スコールもサイファーの手に自身を押し付けるように腰を浮かせていた。


「積極的だな」
「う、ん……っは……だって…あいつら……歯応えもないから……」
「ま、同感だ」


 恥ずかしそうに顔を赤らめながら呟くスコールに、サイファーもくつりと笑う。

 作戦任務は、開始から中盤にかけては相手方の抵抗も激しかったが、その後は肩透かしばかりだ。
島の方々に散られたのは面倒ではあったが、追い付いてしまえば大した抵抗をして来ない。
その半数が戦線には向かない政治家であったり、前線を避けたがる腰抜けが残っていただけだったりと、戦場の真ん中を駆け抜けるSeeDであるスコール達にとっては、大した敵にならないのだ。
実際スコールも、捕縛した者の殆どは、追いついた時点で抵抗を辞め、両手を上げる所か、土下座までして見逃してくれと泣きつく者が多かった。
サイファーも似たようなものだったのだろう。
お陰で、最初の奮戦で火が付いた体は、その後は昇華され切らずに中途半端に燻るばかりと言う有様だ。

 こんな所で、こんな形で発散するものではない、とは思うが、この高揚は交わっている時の感覚とよく似ている。
それを溶かして交わらせ、上り詰める時の感覚は、若い躰には麻薬のように魅惑的だ。
こうも都合良く二人きりで、身動きもできない環境なら、暖と発散を言い訳にして交わりたくもなるだろう。

 スコールの手の中で、男の雄がどんどん膨らみを増して行く。
それを感じているだけで、スコールは体が疼いて仕方がなかった。
は、は、と乱れる呼吸がサイファーの耳元を擽り、雄の劣情を煽りながら誘う。
ならば踊るが一興と、サイファーはスコールの体を更に準備を進めるべく、後ろへと手を回した。


「っあ……」


 サイファーの手が何をしようとしているのか察して、スコールは小さな声を漏らす。
空いている腕をサイファーの首に回し、しがみ付くように身を寄せれば、地面から僅かに腰が浮いた。
その隙にサイファーの手がスコールのズボンをずり下ろし、下着の中へと手が入って、双丘の谷間で慎ましくヒクついている秘穴に指先が届く。


「入れるぞ」
「う……っん……!」


 ふう、とスコールが息を吐いたタイミングに合わせて、サイファーは指を挿入させた。
つぷ、と入り口を潜られた感触に、ビクッとスコールの体が仰け反る。


「は……ふ……、ふぅ……ん……っ」


 体の余分な強張りを解こうと、スコールは意識して呼吸したサイファーの首に絡む腕が、ふるふると小刻みに震えている。
サイファーはそれを宥めるように、スコールの背中に腕を回して抱き締めて、ゆっくりと指を中へと進めて行った。


「あ……ん……っ、あ……っ」
「どうせ誰もいないからな。声は遠慮なく出せ」


 その方が楽だろうと、囁くサイファーだったが、スコールは唇を噛んでいる。
異物感に耐える為と、外聞もなく声を上げる事を躊躇っているのだ。
キスでもして解かせても良かったが、サイファーは好きにさせる事にした───どうせその内、我慢も出来なくなるのだからと。

 くち、くち、と音を立てて、スコールの秘穴が広げられていく。
前に交わってからそれ程日が経っていないからだろう、抵抗感は少なかった。
擦りながら中へと入られていく感触に、スコールはむずむずとしたものを感じて身を捩る。
そうすると「動くな」とやり難いと叱る声があったが、そうは行っても反射的なものなのだから仕方がない。
言葉がまともに出せない代わりに、サイファーの雄を握る指に力を籠めると、ぴくりとサイファーの米神が動くのが見えた。


「う、ん……んっ、ん……っ!」
「腰浮かせろ」
「ふ……っは……」
「良い子だ」


 言われた通り、スコールは足を曲げて地面を踏んで、サイファーの体にしがみ付きながら腰を浮かせた。
浮いた腰の下に、サイファーの膝が割り込んで、腰の角度が固定される。
やり易くなった、とサイファーが呟き、つぷぷぷ……と指が更に奥へと入って行く。


「んんぅう……っ!」


 内壁が擦れ、指先が撫でるようにヒダの凹凸を撫でて行くのが判って、スコールの腰に痺れるような快感が走る。
ふるふると震えるスコールの様子に、サイファーは口元に薄く笑みを浮かべながら、中の感触を探るように指を動かした。


「ん……っ、んん……っ!」


 内壁を曲げた指の先端がゆっくりと上下に擦る。
スコールの反応を確かめるように、少しずつ少しずつ、位置をスライドさせながら、スコールの反応が返る場所を探った。
本当はスコールの弱い場所なら本人以上に知っているサイファーだが、敢えてこうして探る時間が、恋人の熱をより一層高めるのだと知っている。


「や…う……っ、サイ、ファー……っ」


 もどかしさにスコールが身を捩り、ねだるように雄を握る手がその竿を撫でた。
はあっ……、と熱の籠った呼吸がサイファーの耳元を擽る。
じわりとサイファーの額に汗が滲んで、スコールの手の中にあるものがドクドクと強い脈を打っていた。

 締め付けの中にも柔らかさのある蜜壺が、ねっとりと絡み付くようにサイファーの指に吸い付いて来る。
指では届かない奥の方が、ヒクヒクと疼きを訴えて、スコールは燻る熱の苦しさに頭を振る。


「あっ、あっ……んっ……んぅっ……!」
「こんな所にしとくか」
「う……うぅん……っ!」


 指がゆっくりと抜けて行き、スコールは身を捩って快感に悶えた。

 いつもの前戯を思えば足りない気もしたが、熱を持て余しているのはサイファーも同じだ。
身を捩っては指を締め付け、もっと奥に来てと誘う淫らな肢体を前にして、これ以上の我慢は毒と言うものである。
だが、スコールの体は毒に苛まれる程に美味く艶やかに仕上がって行く。
それを味わう瞬間を考えるだけで、サイファーの凶暴な熱は暴発しそうになった。


「足、持ってろ」
「う……ん……っ」


 サイファーはスコールの右足をズボンから抜いて、ぐっと折り畳むように体に押し付けた。
スコールはサイファーの一物に触れていた手で、自身の太腿を掴み寄せ、秘部を見せつける格好を取る。

 灯りなどないも同然の洞穴の中で、それでも夜目に慣れた目に、白い肢体が薄らと浮かび上がる。
その暗さが余計にこの世界が閉じられた空間である事を助長しているようで、まるで世界中で二人きりになったような錯覚すらあった。
現実には若しかしたら他人が来るかも知れないシチュエーションであるにも関わらず、もうそんな事は二人の頭から抜け落ちようとしている。

 サイファーが自身の雄を取り出すと、それはすっかり勃起していた。
支えもなく天井を向いているそれを、スコールのヒクヒクと疼いて誘う秘穴へと宛がえば、「あ、」とスコールの唇から音が漏れる。
思わずと言ったその声が、彼の期待度をありありと表していた。


「……ふ……っ」
「あう……っ、うぅん……っ!」


 息を整え、サイファーはスコールの中へと侵入した。
怒張したものを受け入れるのは、体の準備を終えていても、やはり聊か苦しかったのだろう。
スコールは一瞬息を詰まらせた後、ふっ、ふっ、と鼻で息を吐きながら、強張った体をどうにか緩ませようと意識する。

 ずぷ、ずぷぷ、とゆっくりと侵入して行くサイファーを、スコールははくはくと唇を震わせて受け入れていく。
太いサイファーの雄が狭い道を一杯に広げ、隙間なく擦りながら進んで来る感触に、スコールの体は歓喜に震え出していた。


「あっ、あ……っ!サイファ……大きい……っ」
「っは……お前が締め付け過ぎなんだよっ」
「うぅんんっ」


 ずぷん、と一気に繋がりの深さが増して、スコールの体がビクンと弾んで仰け反った。
サイファーはそんなスコールの体に覆い被さり、短いストロークから腰を振り始める。
奥の方をずりずりと前後に擦るように刺激を与えられて、スコールは喉を反らして、はっ、はっ、と息を喘がせた。


「はっ、あっ、は……っ!や、そこ……あっ、あ……っ!」
「イイか?」
「あ、う……う、んんっ」


 にやりと笑みを浮かべるサイファーの言葉に、スコールは返事の代わりに躰が反応してしまった。
きゅうっと窄まって締め付けを増す媚肉の感触に、サイファーの唇が益々愉しそうな笑みを浮かべる。

 サイファーの体が更に下りて来て、根本まで入って行く。
増す圧迫感にスコールが「ああ……!」と悲痛な声を上げたが、それもやはり甘くて蕩けていた。
二人の体はぴったりと密着し、喘ぐスコールの唇をサイファーが塞いで、唾液塗れの舌が絡み合った。


「あむ、んん……っ!んっ、ふ……っ」


 ちゅぷ、じゅぷ、と唾の絡み合う音が鳴り、その度にスコールの体がきゅうっ、きゅうっ、とサイファーを締め付ける。
喜びを示すその反応に、サイファーの興奮もいよいよ増して行き、いつしか腰の動きも大きく大胆なものに移行していた。


「ふっ、うっ、んぁっ……!っは、サイファ、あぁっ!」


 呼吸を解放されると、すぐにスコールの唇からは高い声が出た。
暗く空気の重い洞窟の中で、反響したその声に、スコールのなけなしの理性が羞恥心を呼び起こす。
しかし、一度声が出てしまうと、もう無手では抑えられない。
反射的に口を塞ごうとした手は、心得ていたサイファーの手に捕まえられ、地面に縫い付けられてしまった。


「あっ、あっ、あぁ……っ!やっ、サイファー、あっ、ひうっ!」
「言ったろ?どうせ誰もいないんだから、気にするなって」
「や、あっ、あっ!は、はぁ……っ、あふぅっ……!」


 囁くサイファーに、それでも嫌だとスコールは首を横に振るが、かぷりと耳を食まれると駄目だった。


「ああっ!」


 耳朶から伝わる固い歯の感触、柔らかな唇に食まれる感触。
更に外耳を舌で舐められて、耳の周りから首筋に向かってぞくぞくと性感腺が快感を示す。
いやいやとした所で、それにスコールが弱いと判っているから、当然サイファーは逃がさない。
ふう、と耳の穴に息を吹きかけられて、「ひぅんっ」と高い声が出てしまった。


「や、サイファー……っ!やめろって、言って、あぁっ!」
「っは、ふ……!お前が良い反応するのが悪いっ……!」
「この、横暴、あっ、あっ……!やあ、そんなに、深く……んんっ!」


 耳への悪戯にスコールが悶えている間に、サイファーの雄は一番弱い所に到達していた。
こつんと軽く打たれただけでも、スコールの腰は判り易く跳ねてしまうのに、続け様に繰り返しノックをされては、スコールはもうまともな言葉も忘れてしまう。


「あっ、あぁっ、あぁっ!そこ、そこは……っ!」
「ああ、好きだろ?」
「はっ、はんっ、あひっ……!や、あふっ、くぅんっ」


 甘露の音が多く交じ始め、スコールがいよいよ快感に溺れて行く。
耳に心地よいその声が反響するのを聞きながら、サイファーは一層激しく腰を振って、スコールの奥をゴツゴツと突き始めた。
褥の中と変わらない、いやそれ以上に激しくも感じられる律動に、スコールの体が一番の高みへと持ち上げられるまで、それ程時間はなく。


「あっ、はっ、サイファっ……!やっ、もう…っ!」
「は、はっ……ああ、良いぜ……!」
「うくっ、んっ、んんっ……!イ、く…っ、サイファ……あっ、あぁあ……!!」


 極まりの寸前まで来ている躰を、スコールはぶるぶると震わせて、全身でサイファーの体にしがみ付く。
突き上げられて揺れていた脚は、サイファーの腰に絡み付いて、深い繋がりを僅かでも逃がしたくないと言わんばかりだった。
羽織っているだけの白いコートが背中からずり落ちるのも構わず、サイファーも腰を酷使する。


「うっ、んっ、うっ!イ、イくっ……!サイファ、俺……っ!」
「はっ、はっ、はっ……!」
「あっ、ああっ!あふぅっ!うぅんんんっ!」


 喉の奥から絞り出されるような、そんな高くて甘い声が響き渡って、スコールは絶頂した。
二人の腹の間でビクビクと戦慄いていたスコールの中心部から、勢いよく蜜が発射されて、サイファーの腹を汚す。
それに構わず、抱き着くスコールをまたしっかりとした腕で抱き締めながら、サイファーも激しく腰を打ち付けて、


「くっ、ぐぅううっ……!」
「あうんんんっ!」


 歯を食いしばって吐き出したサイファーの熱を、スコールは洞窟中に響かんばかりの悦びの声を上げて受け止める。

 胎内で震えながら締め付ける媚肉にマッサージされて、サイファーはどくん、どくんと射精を繰り返した。
どろりと濃いものが何度も中に注がれる感覚に、都度スコールの体も戦慄いて、絶頂の余韻も含めて全身を蝕まれる。
身動き一つ出来ない躰は、愛しい男に縋るようにしがみ付いたまま、ただただサイファーの精を注ぎ込まれていた。


「あ……っ、あぁ……っ」


 媚肉の筋肉が収縮して締め付ける度、雄から精が搾り取られる。
生暖かくて蕩けるような感触に胎内を満たされて、スコールは夢現のような声を漏らしていた。

 は、は、とスコールの耳元で、サイファーが短い呼気を繰り返している。
上り詰めた後の僅かなクールダウンの時間だが、その間もスコールが絶えず絡み付き誘ってくるものだから、サイファーは欠片も理性が戻って来る気がしなかった。
それよりも、欲しがる躰をもっと奥まで貪って、どろどろに溶かしてやりたくて仕方がない。


「……は……、おい、スコール」
「……ふ……あ……っ」


 名前を呼ぶと、返事ではないが反応があった。
濃茶色の髪が張り付く、汗ばんだ額を撫で掻き揚げてやれば、サイファーと対の形になった傷痕が露わになる。
熱を帯びると心なしか鮮やかに浮かび上がるようにも見える傷痕に、サイファーは自身のそれを宛がうように近付けて、


「……どうする?まだ時間はあるぜ」


 外では、まだ雷雨の音が続いている。
あまりに遠くにあって、その存在すらも忘れていたが、それを思い出させてスコールの意思を問うてみれば、


「……あう……」


 言葉を紡ぐ能力も忘れたか、スコールは覚束ない吐息だけを漏らして、返事の代わりに、サイファーの腰に絡む脚に力を込めた。
ぎゅう、と挟んで逃げ場を奪うようなその仕種は、サイファーにも嬉しいものであったが、


「ちゃんと言えるだろ?この口で」


 顎を捉え、親指の先で下唇の縁をつぅとなぞってやると、赤い舌が求めるように覗く。
其処に指先をツンと当ててやると、蒼い瞳が物干しそうにサイファーを見上げ、


「……サ、イ…ファー……」
「ん?」
「……も、っと……欲し……」


 まだ足りない、こんなのじゃ足りない────そう告げる甘やかな声に、スコールの胎内でサイファーの存在が熱を増した。
むくりと露骨な感触を伝えるそれに、スコールの体がビクッと震えて喜ぶ。

 サイファーが体を起こすと、ずるりと中のものが後退しながら擦れて、スコールの秘部がきゅううぅっと締め付けを増した。
出て行った嫌だ、と言うようなその仕草に、欲しがりめ、とサイファーの唇が弧を作る。


「安心しろよ、終わる訳ねえだろ」
「あ……っ」


 サイファーの言葉に、自身が無自覚にも浅ましい誘いをした事を知って、スコールの顔に朱が上る。
今更なのに恥ずかしがって顔を隠すスコールに、サイファーはくつくつと笑いながら、細い腰を両手で捕まえ、


「───ふっ!」
「ああぁっ!」


 ぐっと腰を引きよせ、同時に自身も前へと進めば、ずぷんっ!と深くを穿ちあげて、スコールは堪らず声を上げる。
そのまま腰を捕まえて、ずんずんと繰り返し強く突き上げてやれば、スコールはあられもない声を上げて喘ぎ出す。


「あっ、ああっ、あんっ!サイファ、はっ、深い、激しっ……!」
「イイだろ、これ位の方が。お前のお好みだ」
「んぁっ、あっ、ひぃんっ!はっ、はふっ、はぁっ……!ああっ!」


 サイファーの言葉に最早否定の一言も出せなくなって、スコールは揺さぶられるままに甘露を吐き出す。
既に一度射精した所為で、体も我慢の術を忘れたようで、彼の中心部からは一突きされる毎にとぷとぷと蜜が溢れていた。

 サイファーはスコールの両足を捕まえると、膝を持ち上げて彼を折り畳むように押さえ付けた。
両足を左右に開き、恥部を真上に向ける格好にされて、スコールは上から押し潰されるようにサイファーに突き上げられる。
サイファーの背中からコートが滑り、二人の横に落ちていたが、寒さ等感じない程、二人の交わりはは熱く燃え上がっていた。




 夢中になり過ぎて、どれ程の時間、まぐわっていたのかも判らない。
回数を重ねたつもりはないが、それはサイファーの方であって、スコールは何度も果ててしまった。
お陰でスコールの体はすっかり疲れていたのだが、作戦行動中と言う意識が(一応は)残っていたので、寝落ちる訳にも行かず、重い躰でうとうととしながら、洞窟外の雷雨が通り過ぎるのを待った。

 雷と風が過ぎると、あとは雨だけが取り残された。
それも数時間前に比べれば遥かに少ない雨量で、作戦再開にも支障はない程度。
その頃にはスコールの体力も回復し、雨宿りを始めた時には濡れて重いばかりだったジャケットとコートも、幾分かはマシと言える状態になっていた。

 拠点の一つ、或いは倉庫と思しき場所を記録しておく為に、目印としてサイファーが発煙筒の準備をしている傍ら、スコールは通信機でラグナロクとの接続を試みた。
耳元に当てたインカムから、ジジ、としばらく雑音が続いた後、


『はーい、此方は通信班。スコール、無事かい?』


 少し間延びしているようにも聞こえる声は、ラグナロクの操舵手と、そこに待機しつつ通信と情報の整頓を役目とした班の班長のアーヴァインだ。
雷雨が去ったお陰で、通信機器は問題なく復活したようだ。


「ああ、問題ない。其方に異常は?」
『特に問題なし。酷い雨だったけどね。まあ、それだけだよ』
「作戦状況の把握をしたい。其方に何か報告は上がっているか」
『各班、逃げた連中をそれぞれ一名から三名は捕縛済みだってさ。此方に大きな損壊はなし。まだ残党もいるかも知れないけど、どうしようか?』
「一先ず、一ヵ所に集めよう。武装解除させた後、指定ポイントに捕縛者の移送も含めて合流。道中、周辺警戒は怠らないように」
『了解、伝達します』
「それから、こっちで武器や食料の倉庫と思しき場所を発見した。狼煙を上げるから、場所の記録を」
『あいさ』


 返事の後、通信は一旦プツンと途切れた。
それから、オープン回線への切り替えを行ったのだろう、再びアーヴァインの声が聞こえ、スコールの指示通りの内容が伝えられた。

 伝達を終えて通信が切られるのと同時に、三本の発煙筒が狼煙を上げる。
雨と言う悪天候と、周囲が森になっているので見え辛くはあるだろうが、幸い、この島の木々の高さは、極端に大きくはない。
少しでも目印になれば十分だ。


「────さて。じゃあ、俺は行く。あんたは此処で残党が戻って来ないか見張りだ」
「ちっ、待機かよ。まあ、喚き散らしそうな雑魚を連れて移動するよりはマシか」


 分かり易く舌打ちをして不満そうな顔をするサイファーだが、スコールの指示は指揮官命令だ。
サイファーは唇を尖らせつつも、どの仕事が一番ストレスがないかを考えて、槍を引っ込めた。


「雑魚が来たら蹴散らせておけば良いんだろ」
「ああ。連中の移送が終わったら、もう一度ここに来る。それまで、この中には誰も入れるな」
「判ってる判ってる」


 言われなくても、とサイファーはひらひらと左手を振る。
どうせ後は詰まらない仕事なのだから、さっさと行って済ませろ、と言うことだ。

 背を向けて歩き出したスコールを見送って、サイファーは洞窟の中へと入った。
外で待っていても構わないが、小雨はまだ続いているし、戻ってきた残党を捕まえるなら、先ずは自分の姿は見えない方が良いと判断しての事だ。

 入口からそう遠くはない場所で腰を下ろし、立てた膝に頬杖をして、澄ました顔で作戦再開に向かった恋人を思い出す。
暗がりの中でも見えた、快感に溶けて紅潮した顔。
洞窟の中でどれ位にあの声が響いていたのか、当の本人は自覚も記憶もしていないだろうが、中々のものだった。
普段は寮部屋、偶に任務先で使うホテルでするのが常であるが、偶にはこう言う場所も悪くはないかも知れない。
誰か来たらどうするんだ───等と言っていた本人とは思えない程の、甘くていやらしい声と、雄を求めてねだるはしたない顔のギャップは、いつになくサイファーの欲を煽ってくれた。

 だが、惜しむらくはやはり、この空間の暗さだ。
折角良い顔をしているのに、目を凝らさなければそれを拝めないと言うのは、聊か勿体無い。


(次は明るい場所で拝みたいもんだな)


 任務が終わって帰ったら、今度は煌々とした部屋の下、柔らかくて手触りの良いベッドの上で。
其処でまた同じ位に啼かせてやろうと勝手に決めて、サイファーはこの退屈な作戦がさっさと終わる事を願うのだった。




何処かの洞窟の中とか、そう言う所でやってる二人が見たいなと思って。
遭難みたいな状態にさせたかったんですが、多少のトラブルならサバイバルとして普通に片付けそうな二人には難しいシチュエーションだった……
そんなわけで、一応作戦行動中だけど、理由をつけていちゃつかせることにしたのでした。