ワンナイト・ミラージュ


 ターゲットと侵入ルート確保の報を出してから、五分程度でガルバディア兵はやって来た。
目立たぬようにと言うバラムガーデン側からの指示により、装備は最低限、身軽な者のみで構成された部隊だ。
彼らは軍人らしく訓練された素早い身のこなしで、スコールたちの待つ二階の部屋へと上ってきた。

 スリプルの効果で眠ったままのターゲットが無事に引き渡され、ついでにサイファーから「トイレに護衛役が寝ている筈だ。正規の兵隊じゃないから、連れて行って聴取すれば釣りが出る」と言ったので、其方も密かに縛にされた。

 入ってきた時と同じく、ガルバディア兵は庭を通って敷地を脱出する。
ボヤ騒ぎの鎮火に駆り出された警備が、各配置に戻る前に、兵士たちの動きは迅速だった。
そして、最後に残った部隊長が、スコールとサイファーの前でガルバディア軍式の敬礼をする。


「無事にターゲットを捕獲、協力に感謝する。報酬は追ってバラムガーデンに支払おう」


 部隊長の言葉に、スコールは「よろしく」と短く返す。


「では───君たちはこのまま我々と共に脱出するか?車を用意してある、離脱は早い方が良いだろう」


 正面から堂々と入ったとは言え、スコールもサイファーも、偽装された身分を利用してのことである。
長居をすれば何処からか怪しむ目も出てくるかも知れないし、ターゲットの引き渡しも無事に終わった今、現場からは早い内に離れた方が良い、と言うのは確かだ。

 しかし、スコールはちらりとサイファーを見遣る。
サイファーが緩く首を横に振るのを見て、だよな、と思った。


「申し出は有難いが、此方も手筈は整えてある。其方の手を煩わさせることもない。氏の搬送と諸所の手続きについても、早い方が良いでしょう。お気遣いのみ、感謝します」


 常と変わらない無表情で、スコールは部隊長の申し出を辞退した。
部隊長は、そうか、と言って仕事に戻るべく、窓から庭へと抜け降りる。
部隊長は下で待機していた部下に合図を送り、音もなく木々の茂る庭の向こうへと紛れて行った。

 そして残された二人も、ガルバディア兵と同じように、迅速にこの場を離れるべきである。
時計を見れば、ダンスパーティもそろそろ終わろうかと言う頃だった。


「今の内に出るか」
「それが良い」


 パーティそのものも終わりの時間が近付いているとなれば、そろそろ会場を後にする流れも増えて行く。
その流れに乗って建物を出て、人気がまばらになる頃に、タクシーでも捕まえるのが無難だろう。

 一階に降りると、相変わらず其処は華やいだ雰囲気に満ちている。
パーティは盛況のまま、エンディングを迎えたようだ。
ホールからも腕を組んだ男女がにこやかに、時には睦まじそうに、ぞろぞろと出ていくのが見えた。

 スコールはサイファーの腕に両手を絡め、身を寄せる。
周囲の淑女たちと同じように、信頼するパートナーに身を預ける格好で、背筋を伸ばして歩くスコールに、サイファーはくつりと笑う。


「ヒールにも慣れたみたいだな」
(痛いのは変わらないけどな)


 会場入りした直後、しがみついていなければ立っていることも難しいと言わんばかりだったスコール。
しかし、今は───傍目には───足元もこれと言って危なげはなく、その気になれば、ダンスも一曲位は踊れるかも知れない。
スコールが覚えているステップは、今の見た目に沿うものとは違う形しかないが。

 とは言え、慣れないヒールで数時間を過ごし、ターゲットを誘導する為に階段も上がったので、踵は痛いし、脹脛(ふくらはぎ) は攣りそうだ。
今はサイファーがいるので、遠慮なくこの腕を借りて自身の体重の負荷を軽減させてはいるが、やはり早く足を楽にしてやりたい気持ちは変わらない。

 多くのパーティ客は、館の敷地内に待機していたタクシーに乗り込んでいく。
スコールとサイファーは、それを横目に敷地を出て、通りへと伸びる道を歩いていた。
同じ道行きの人々も回りにはちらほらと在り、道路に一時駐車していた迎えの車に乗り込む人もいれば、若いグループ等はそのまま夜の街へと流れていきそうな雰囲気だ。
中には連れ合いと、一夜の夢を見るべく、相応の場所に向かう者もいるのだろう。

 と、大通りに直に出ると言う所で、サイファーは一台の車を見つけた。
助手席側のミラーに映り込んでいる、運転手の顔を見て、スコールの腕を引いて其方へ向かう。
後部座席のドアのロックが外れる音がして、サイファーはドアを開け、其処にスコールを乗り込ませた。


「お疲れ様、スコール、サイファー」


 運転席に座っていたのは、アーヴァインだ。
いつものトレードマークのテンガロンハットやロングコートはなく、ウェーブのかかった亜麻色の髪はまとめて項で括っている。
ハンドルに置かれた手には白い手袋、衣装もダークグレーのスーツで整え、何処かのお抱え運転手に見えるだろう。

 サイファーが乗り込み、ドアのロックをかけると、すぐに車は走り出した。
夜の帳が降りたガルバディアの高層ビル群の街並みを、舐めるように眺めながら、車は予定通りの方角へと向かう。
その運転の手を危なげなく捌きながら、アーヴァインは後部座席に座る二人の幼馴染をミラー越しに見て、


「見違えたねえ、二人とも。キスティたちも頑張った甲斐があったな」


 くすくすと笑って言うアーヴァインを、じろりと蒼灰色が鏡越しに睨む。

 今回の任務に際し、作戦終了後の二人を回収する足としてアーヴァインが指名されたのは、つい数時間前まで、別の任務でデリングシティに滞在していたからだ。
予定通りにそれを終わらせた後、彼は市街で待機し、スコールたちの任務が終わるのを待っていた。
そしてガーデンが先んじて手配して置いた車を引き取り、長時間の路上駐車でガルバディア警察のパトロールに引っかかる事のないよう、適宜場所を移しながら、二人の作戦終了の連絡に合わせ、ピックアップ用の場所を取り、今に至る。

 だからアーヴァインは、今回の大胆な作戦の概要を掻い摘んで聞いてはいたが、その為に必要となった二人のドレスアップ姿と言うのは初めて見た。
ドアミラー越しに見た、寄り添う二人の姿を思い出して、アーヴァインは化けたもんだよ、と呟く。


「キスティが言っていたけど、確かに二人とも、傷がないと全然違うね。スコールは化粧もしてるし」
「そうも違って見えるもんか?実際、怪しまれるような事はなかったけどよ」


 サイファーはスーツに皺が寄るのも気にせず、いつものように足を組んで、座席シートに深く背中を押し付けて言う。
遊ばせていた髪型をぐしゃりと上に持ち上げれば、いつものオールバックに近いスタイルになった。
その隣では、スコールが長い時間、流した髪を留めていた花の髪飾りを外している。
濃茶色の前髪が無造作に降りて、蒼灰色の目元を隠すと、此方もいつもの髪型に近くなったが、やはり化粧もあるお陰か、普段よりも目元が憂いを滲ませているように見えた。

 そんな変化があるから、平時の二人を見慣れているアーヴァインにとっても、ミラー越しの顔は中々新鮮味を感じさせる。


「僕は傷のない二人を知らないし。髪型だっていつも似たような感じだろ、スコールは式典の護衛の時には少し整えてるけどさ。でもまあ、何よりはやっぱり格好って言うか、全体だよ。スーツもドレスも、二人とも着ないだろ?」
「スーツはともかく、ドレスなんて一生着なくて良かった筈だからな。俺は」


 スコールは窓に頬杖を突きながら、うんざりとした表情で言った。
アーヴァインは、これは少々藪蛇をつついたか、と思いつつ、眉尻を下げて続ける。


「二人とも、そんな風に綺麗に着飾ってる所が想像つかないからさ。僕でさえそうなんだから、君たちをテレビでしか見た事のないような人たちは尚更だよ。サイファー、君、普段からそう言う格好してみたらどう?更生したっぽく見えれば、SeeD資格を取らなくても、無罪放免して貰えるかもよ」
「で、その後も一生こんな堅苦しい格好して生きて行けって?冗談じゃねえな」


 ひらひらと手を振ってきっぱりと拒否するサイファーに、だよねえ、とアーヴァインは笑う。

 他愛のない話題をアーヴァインが幾つか投げている内に、車はホテルへと到着していた。
今日は此処で三人とも宿泊し、ガーデンに帰還するのは明日となる。

 アーヴァインは地下の送迎場に車を止め、後部座席のロックを開けた。
サイファーが先に降りて、後に続くスコールに手を差し伸べる。
既にパーティは終わったと言うのに、とスコ─ルは眉根を寄せるが、ドア口はサイファーが立っている所為で塞がれている。
差し出された手を取るまで、彼が退く事はないだろう。
はあ、と溜息を吐いて、スコールはサイファーの手を取り、エスコートされながら車を降りた。

 そのまま受付へと向かおうとする二人に、ああ、とアーヴァインが思い出したと声を上げ、


「あのさ、部屋の事なんだけど。一人部屋と、二人部屋になってるんだよね、残念ながら」
「は?」
「なんだ、そりゃ」
「部屋の空きがなかったんだってさ。部屋割りはお任せするけど、出来れば僕は平和なのが良いな〜」


 其処まで言って、あとはよろしく、とアーヴァインは駐車場に向けて車を走らせて行った。

 残された二人は、しばしの沈黙の後に互いの顔を見る。
はあ、と大きな溜息を吐いたのはスコールだ。
現場で必要なこと以外は、優秀な補佐官とその友人たちに任せていた事だから、此処に来て誰が文句を言った所で、どうにかなるものでもない。
ポケットマネーを使って新しく部屋を用意したくとも、ホテルの部屋が空いていないのでは、叶わない話だ。


「……ゆっくりしたかったのに」


 パーティ会場で、あらゆることに神経を費やして疲れ切ったスコールの希望は最もな事だが、サイファーは「仕方ねえな」と一蹴した。

 ホテルのレセプションで、バラムガーデン名義の予約を確認すると、アーヴァインが言った通り、一人部屋と二人部屋が用意されていた。
部屋は離れてはいるものの、フロアは同じだったので、車を置いたアーヴァインが荷物を持って合流するのを待ってから、エレベーターに乗った。




 一人部屋の前まで来て、スコールが「俺が此処で良いな」と言うと、アーヴァインが蒼い顔で「勘弁してよ」と泣きを見せた。


「お前は未婚の淑女を男と一つ部屋にするのか」
「いや、これがセフィやキスティ相手ならちゃんと考えるけどね。スコール、君、判って言ってるだろ」


 平時はアーヴァインの方が高い位置にある目線を、ヒールのお陰で今はほぼ同じ高さから見詰めるスコールに、アーヴァインは眉間に深い皺を浮かべながら言った。
確かに今のスコールは格好だけを見れば“女性”だが、すっかり素を出している所も含め、これで身内にまで女性扱いをしろ等とは無理がある。

 何よりアーヴァインは、サイファーと二人きりと言うのは勘弁願いたかった。
余程に止むを得ない場合であれば、誰と一つ屋根で過ごそうと文句は言わないつもりだが、今日はその限りではない。
第一、スコールとて解り切って言っている事は明らかで、しかし此処でアーヴァインがしっかりと抗議しないと、ちゃっかり自分の希望を罷り通らせるに違いないのだ。


「どうしてスコールは僕には意地悪するんだろうなぁ」
「さあな」


 露骨に情けない顔をして見せるアーヴァインに、スコールは肩を竦めて、持っていた鍵を放る。
目の前の一人部屋の番号を記したそれを、アーヴァインはキャッチして、持っていたトランクを差し出す。
サイファーがそれを受け取ってから、アーヴァインはドアに鍵を差し込んだ。


「それじゃ、お疲れ様。帰りの電車のチケットは、鞄の中に入ってるよ。後は自由で良いよね」
「ああ」


 部屋へと入って行くアーヴァインに見送られて、スコールもサイファーと共にその場を離れる。

 廊下を真っ直ぐに進み、突き当りを曲がった先にあるのが、確保された二人部屋だ。
中に入って見れば、調度品がそれぞれ二人分並び、その分、部屋面積も広くなっている。
供えられたテーブルも大きく、サイファーは其処にアーヴァインから渡されたトランクを置いた。

 トランクの中身は、二人の着替えだ。
中身を確認すると、任務の前に着替えて収めた私服が、簡単に畳んだ状態で納められている。
他にも、報告書を作る為に持ってきておいた筆記用具など、細々としたものも全て入っていた。
アーヴァインが言っていた、明日の帰還に必要となる、大陸横断鉄道のデリングシティ〜バラム間の電車のチケットも、きちんと二人分が揃っている。

 それらの確認だけを済ませて、サイファーはトランクの蓋を閉め直した。


「じゃあ、さっさと休むとするか」
「……そうだな。疲れた」


 サイファーの言葉にそう返したスコールは、部屋に入ってすぐに、椅子に座って休んでいた。
ドレスの裾から覗く足元は、とっくにハイヒールを捨てていて、薄いベージュ色のストッキングの足先が覗いている。


「……顔洗ってくる」


 スコールはそう言って、ストールを椅子に置き、重たげに腰を上げた。
もう庇うのも面倒くさいのだろう、ヒールがなくなった分、ドレスの裾が少々床を擦っていたが、それも気にせずバスルームへと向かう。

 開けっ放しのドアの向こうから水が流れる音を聞きながら、サイファーはジャケットを脱いでネクタイも解き、ようやく楽になった呼吸で、肺へと酸素を送り込む。
それでもまだ苦しい気がするのは、ワイシャツが襟元までぴったりと綴じているからだ。
まだ正SeeDではないサイファーは、SeeD服のような詰襟のものを着用する義務もほとんど発生しないから、こう言ったフォーマルスーツと言うのは着慣れない。


(見てくれはまあ悪くないが、やっぱり動き辛くて面倒だな。こう言うのは)


 首元を締め付けるボタンを外し、汗ばんでいた喉元を手の甲で拭う。
その時に目についた窓ガラスには、既にラフに気崩しながらも、体格もあってバランスの良いシルエットの男が映り込んでいる。

 と、その映った自分の顔に、見慣れた傷がないのがなんとも引っかかって、サイファーは額に手を遣った。
指先に薄く色粉が付着しているのを見て、部屋の隅にあったティッシュを取る。
それを額に擦り付ければ、丁寧に施されていたファンデーションが剥がれ、左から右へと斜めに走る傷跡が浮き出て来た。
ついでに、傷の他にも突かれた覚えのある目元やら頬やらも拭って、ようやく窓鏡に映る自分の顔が見慣れたものへと戻ったが、


(……シャワーを浴びた方が早かったな)


 乱雑に拭った所為か、どうも顔回りの違和感が抜けない。
湯を浴びてさっぱり綺麗にした方が、気分も良いだろう───とは思うのだが、バスルームの先客はまだ出てくる様子がなかった。

 彼も顔を洗いに行った筈だが、もう水音は聞こえてこない。
このまま風呂に入るのかとも思ったが、バスルームは至って静かなものだった。


「おい、スコール。何やってんだ」


 開けっ放しのドアの向こう覗き込むと、其処には洗面台の鏡の前で、何やら首の後ろに手を遣ってもだもだとしているスコールがいる。
パーティの間、ずっと身に着けていたイブニンググローブは外されていた。

 鏡に映り込んでいる顔は、サイファーとは対照的な傷が戻り、その眉間に深い皺を刻んで、少々苦悶しているように見える。
と、後ろにやってきたサイファーを、スコールも鏡越しに見付けて振り返る。


「サイファー、手伝え」
「なんだよ」
「後ろの、留め具が……外せない」


 そう言ってスコールは、サイファーに背中を見せる。

 オフショルダーのマーメイドドレスは、背中に合わせがあり、一番上は留め具でロックされている。
それを外して、チャックを下ろしてからでないと、ドレスを脱ぐことが出来ない。
これがどうにも自力で手が届かない為、スコールは着用時にも人の手を必要としていた。

 うーうーと唸ってどうにか留め具に手を伸ばそうとしているスコールだが、懸命に腕を後ろに回して捻っても、手指が目的場所に届くことはない。
彼とて体が特別固い訳でもないのだが、関節の稼働域には限界がある。
留め具があるのが背中の中心から少し上、肩甲骨の高さの位置にあるものだから、中々腕が丁度良い所まで回ってくれないのだ。
おまけに今はコルセットもしているから、余計に体の自由が利かなかった。

 やれやれ、とサイファーは呆れた顔を浮かべて、


「手間のかかる奴だな。こっち来い」


 此処では狭くてやりにくい、とサイファーはスコールの腕を引いて、洗面台前から連れ出した。

 部屋に戻ったサイファーは、スコールを前に立たせて、ドレスの留め具を外してやる。
チャックも下ろして合わせを開くと、その下に着込んでいたコルセットの網目が現れる。


「こいつも外しておくか」
「頼む。痛いし苦しい。邪魔なんだ」


 ドレスの仕立てと、女性らしい体つきに見えるよう、限界まで引き絞られたコルセット。
遠い昔には、骨の形まで変わってしまう程、強く締めることで美を目指した者もいたのだとか。
スコールが身に着けることになったコルセットは、流石に其処まで極端に締め付けてはいなかったが、男の彼が女らしいくびれを作るには、中々に努力と忍耐が必要なものだった。
それを成し遂げるコルセットは確かに体型補正具として役目を果たしているが、かくも女性の美への研鑽とは恐ろしいものである。

 コルセットの紐が緩められると、スコールはずっと引き締められていた胴体から力が抜けるのが分かった。
腹部を圧迫していた感覚もなくなり、ずっと詰まっていたものが抜けて、はふ、と呼吸が零れる。


「はぁ……ふぅ……」


 ゆったりと吸って、吐く。
パーティ会場にいる間、全くそれが出来なかったのが辛くて仕方がなかったが、ようやくの解放だ。
同時に気持ちもすっかり緩んで、スコールの首がかくんと垂れる。

 そうすると、真後ろに立っていたサイファーからは、ほんのりと赤らんだ項が差し出された。
スコールはテーブルに寄り掛かるように両手を乗せ、草臥れた様子で項垂れている。
パーティ中、肩幅の広さや、ドレスの形の為に晒す格好になる背中は、毛並みの良いストールでずっと隠していた。
それも必要がなくなった今、スコールは薄らと汗を掻いた背中を大胆に見せつけていることに、全く気付いていなかった。

 普段から肌を晒すことの少ないスコールである。
背中となると尚更、サイファーがそれを見るのは、決まって夜の褥の中であった。
更に言えばその時は大抵、明りを絞った状態なので、煌々とした明るみの中で見るのも、滅多にないことだ。

 ダークブラウンの髪が張り付いた項に、サイファーは徐に唇を寄せる。
押し付けられた柔い感覚に、ひくっ、とスコールの身体が震えて、ばっと赤い顔が後ろを見た。


「あんた今」
「良いだろ、仕事は終わったんだから」


 触れられた場所を隠そうと、スコールは項に自分の手を遣ろうとするが、サイファーはそれを捕まえた。
後ろから両手をそれぞれ掴み、目の前にある首筋にもう一度キスをすれば、スコールの肩がふるりと震える。
背中に汗の粒が浮いて、ゆっくりと背筋を伝い落ちて行った。

 ぬるりと艶めかしいものが項を辿る感覚に、スコールは掴まれた両手を握って抵抗を示す。
しかし、サイファーは気にする様子もなく、ちゅう、と音を立てて項を擦った。


「っあ……!」


 ぞくりとした感覚が、首の後ろから背中にかけて駆け抜けて、スコールは小さく声を上げる。
体の奥に覚えのある熱がじわりと生まれるのを感じ、足元がふらつくのを、サイファーは片腕でスコールの腰を抱いて支える。


「ん……っ、バカ、この……っ」
「パーティの後、同伴で帰った恋人同士がやる事って言ったらこれだろ。それに、お前の消毒もしとかないとな」


 囁くサイファーの声を耳元にして、スコールの首筋がじんわりと赤く染まっていく。
パーティの最中に多少飲んだアルコールは、もう抜けている筈なのに、顔が、体の芯が火照って行く。

 消毒と言えば───とスコールの脳裏に浮かぶのは、ターゲットを誘い込んだベッドでのこと。
思い出すと口の周りがなんとも痒い感覚がして、スコールは俄かに蘇った不愉快さに眉根を寄せた。
と、それを後ろにいる男が見た訳ではないだろうが、くるりと体の向きを反転させられて、厚みのある手がスコールの頬に触れる。


「スコール」


 ハニーだのベイブだのと、パーティ会場で甘ったるく呼んだ声とは違って、名を呼ぶ声はスコールの聞き慣れた音をしている。
触れそうな程に近い翠の瞳と、自分と対の形をした額の傷。
見慣れたそれらの傍ら、半端に遊んだ癖のついた金色の髪が気に入らなくて、スコールは両手を伸ばす。

 キスをしながら、スコールはサイファーの髪を掻き揚げるように後ろへと撫でつける。
スタイリング剤も使って崩れないようにセットされた髪は、中々頑固ではあったが、時間も経って糊付けの効果も薄くなったのだろう。
何度か繰り返し撫でていると、前髪がいつもの形になった。


「……っは……」


 重ね合わせていたものが離れて、スコールの唇から小さく吐息が漏れる。
窄めた蒼灰色の双眸には、すっかり見慣れたいつもの顔が映り込んでいる。
それでようやく、スコールは満足して、今度は自分の方からキスをした。


「ん、ん……っふ……」


 積極的に重ねて来たスコールに応えて、サイファーの舌が恋人の唇をノックする。
スコールが直ぐに隙間を許せば、するりと艶めかしい肉厚の舌が入ってきた。

 咥内で絡み合う舌の上で、ぴちゃぴちゃと唾液が混じり合う音がする。
耳の奥でそれを酷く卑猥な音のように聞きながら、スコールは体の奥からぞくぞくとした熱が上って来るのを感じていた。
髭面の男とベッドでキスをした時とは比べ物にならない程、心地良くて堪らない。
あの時は微塵も反応しなかったら体が、今は走り出したように鼓動を速めているのが自分でも判った。

 ちゅぷり、と名残の糸を引きながら、お互いの唇が離される。
はあ、と呼吸を漏らしたスコールの瞳は、熱に酔って薄らと濡れていた。
サイファーはそんなスコールの頬をゆっくりと撫でて、


「えらく情熱的じゃねえか。あのおっさんも、そうやって誘ったのか?」
「……仕事だったからな。気持ち悪かった」
「キスしたか」
「一回。裸に剥かれるよりはマシだと思って。でも舌は入れてない」
「消毒」
「今した」
「俺がし足りねえんだよ」


 サイファーの指がスコールの顎を捉え、親指の先が元の薄色をした唇に触れる。
もう一度降りてくるサイファーの唇を、スコールは自ら迎えに行って受け止めた。

 サイファーからのキスは、啄むように軽いものから始まった。
触れては離れ、離れては重ねられて、何度も続けている内に、サイファーの腕がスコールの腰を抱き締める。
コルセットの紐を緩めているとは言え、数時間にわたって引き締められていたからか、なんとなくいつもより細く感じられる気がした。

 そのままベッドにもつれ込むように倒れて、重ねられる唇の角度が変わる。
差し込まれた舌をスコールは抗わず、受け入れたそれに自分の舌を絡ませた。
スコールの腕はサイファーの首へと絡みつき、互いの体を抱き合いながら、長い口付けを味わう。


「んん、ふ……は、ふぅ……ん……っ」


 スコールが段々と息苦しさに身を捩ると、足元でシーツが滑り、ドレスの裾が広がる。
もぞもぞと身動ぎする太腿にサイファーの手が重ねられ、ゆったりと腿の裏側を撫でながら、裾が捲られていく。

 と、その手が際どい場所に辿り着く頃に、スコールははっと目を瞠る。


「んっ……ちょっと、待て……っ!」
「なんだよ」


 キスを振り切ってまで頭を振ったスコールに、サイファーの唇が不満に尖る。
それを見たスコールの顔は、それまでの興奮めいた紅潮とは別の赤みを浮かべていた。


「その、其処は、ちょっと」
「其処って?」
「……いや……だから……」


 もごもごと急に口籠ったスコールに、サイファーは眉根を寄せる。
その間にスコールは、もう半分近くは捲りあがったドレスの裾を抑え、これ以上裾を持ち上げられまいと、今更な抵抗を見せていた。

 なんとなくスコールが何処を隠したいのか察したサイファーは、スコールの手首をつかんでドレスを抑える手を離させる。
次いで膝を使ってスコールの両足を割れば、開かれた弾みでドレスの裾が膜れ上がり、スコールの中心部が露わになった。

 其処にあったのは、黒のインナーショーツ。
フロントの布地は最低限、サイドは紐も同然の細さで、飾り物もなくシンプルだが、明らかに女性ものだと判る。
それを着用していることを見られて、スコールの顔が沸騰しそうな程に真っ赤になった。


「見るなバカ!」


 予備動作なしで振り上げられた足を、サイファーは片手で止めた。
暴れようとする足首を掴んだまま、ぐっとその足を上へと持ち上げてやると、ドレスの裾が捲れ上がる。


「見るなっ」
「念入りだな」
「普通のパンツは浮くからってシュウが……!」


 真っ赤になってショーツを隠そうとドレスの裾を抑えているスコールの言葉に、成程ね、とサイファーも納得する。

 スコールが着ているマーメイドドレスは、足元がふんわりと広がっている他は、ぴったりと彼の体のラインに沿っている。
コルセットで形作られた腰から下、くびれから臀部、太腿から膝上にかけて、ドレスは何処から見ても細く綺麗なシルエットを作り出していた。
それを作り出すには、下着の類までしっかりと拘らなくてはならない。
そうしないと、ドレスの表面に不自然な皺が出来たり、着用している下着によって出来てしまう肉の浮きが現れてしまう事があるのだ。
男用の下着なんてものは、女性が着用するそれに比べれば生地にも厚みがあるものが多いし、ドレスによって魅せる筈の、ヒップラインを殺してしまう場合もある。
必然、スコールは女性用の下着を使うしかなった訳だ。

 じたばたと暴れるスコールに、サイファーが掴んでいた足を離すと、スコールは唸りながら俯せに転がった。
ベッドの上で枕を抱え、赤くなった顔を隠し、「くそ……」と毒づく彼の脳裏には、今回の任務の作戦を立てた補佐官とその友人が浮かんでいるのだろう。
隠すようにもぞもぞと身動ぎする下肢から、すっかりドレスの裾が捲りあがっている事には気付かずに。

 サイファーの前には、白くまろい形の尻と、ベージュのストッキングを履いた脚がある。
ストッキングなんてものを普段のスコールが身に着ける訳もないので、中々貴重な光景だ。
ショーツはバックが前以上に無防備だった。
細いV字のバックは、秘部こそきちんと隠しているものの、尻の形はほぼほぼ見えている。


「おい。ケツ見えてるぞ」
「見るな変態」
「お前が見せつけてんだろ。そうやってゴロゴロしてるから」
「……」


 スコールは無言でサイファーを睨み、ドレスの裾を引っ張って尻を隠す。
が、サイファーはそんなスコールの手を掴んで、俯せている彼の背中に覆いかぶさった。


「重い、邪魔。離れろ」
「嫌だね。こんな美味そうなもん、食わなきゃ損だろ」


 そう言ってサイファーの手が、するりとスコールの太腿を撫でる。
ストッキングと足の付け根の間、地肌が晒されている場所に触れられて、びくっとスコールの身体が震えた。


「そんなに嫌がるなよ。あのおっさんには、見せようとしてただろ?」


 悪戯めいた声で言ったサイファーに、スコールが眉根を寄せる。


「あんたが入って来てたから、気を引いてやってたんだろ」
「お陰で恋人の浮気現場を見た気分だったぜ」
「色仕掛けで誘導しろって言ったのはあんただ。予定通りじゃないか」
「それにしたって出血大サービスじゃねえか。俺にはしてくれない癖に」
「誘う前にあんたが盛って来るんじゃないか。今みたいに」


 太腿を撫でる手が、ゆっくりと臀部へと移動するのを感じながら、スコールはじとりと睨む。
サイファーは、そうだったかな、と気にも留めない風に言って、窄めた蒼灰色の眦に唇を寄せた。

 節のある大きな手が、スコールの尻をゆるゆると撫で、谷間へと滑る。
近付いて来る気配に、スコールは無意識に息を詰めていた。
シーツを握る手が皺を深くするのを、サイファーは視界の端で見付けている。
指先がつうと中心の谷間を辿れば、ヒクン、とスコールの喉が反った。


「ん……っ」


 眉根を寄せたスコールの頬は赤い。
ふう、ふう、と零れる吐息が、此処から先を想像していることを示していた。

 サイファーは汗の滲んだ項に舌を当てる。
艶めかしいものが触れる感触に、スコールがもぞりと身を捩った。
逃げを打つには弱いそれを、サイファーは気に留めず、薄い布地の中で窮屈そうに収まっているシンボルに触れる。


「あ……っ!」
「お前、ここどうしてたんだよ」


 女と違って、男の其処には物がある。
男物の下着を身に着けていても、其処は主張を始めると目立ってしまうものだった。

 スコールは顔を赤くしながら、枕に口元を押し付けて、もごもごと答える。


「股に、挟んで……隠してた……だから、動き難いし、ヒールも歩き難いしで、本当、散々……っ」
「努力の賜物だった訳だ。そりゃご苦労さん」


 布地の上から判る膨らみを、サイファーの指が摩る。
パーティの間、ずっと腿の内側に挟み込んでいたからか、其処は薄らと汗を掻いている。
それなりに長時間、押し込められた状態にあった所為か、ようやく解放された其処は酷く敏感になっていた。


「あ、は……や、サイファ……っ」


 サイファーの指が遊ぶほどに、スコールは自身の中心部から切ない感覚が上って来るのを感じていた。
ぞくぞくとしたものが背中を走り、体の芯に滲んでいた熱が、血流に乗って全身に広がって行く。


「は、う……あ、あ……っ」
「一回抜くか。辛かったんだろ?」
「あ、や……っ!に、握る、な……ああ……っ!」


 サイファーの手が、下着の隙間から潜り込んできて、スコールの前部を直に握る。
ビクッと震えるスコールの身体を、サイファーの腕が閉じ込めるように抱き締めた。
そのまま、俯せのスコールに構わず、サイファーの手が握ったものを上下に擦り始める。


「ああ、ぁう……っは、はぁ、はぁ……っ」


 スコールは投げ出した格好になっていた足で、ぱたぱたとベッドを叩いていたが、それも切羽詰まる感覚が膨らむに連れて大人しくなった。
強張った太腿がふるふると戦慄いて、サイファーの手の中で雄のシンボルが膨らんでいく。
先端から滲みだした先走りの蜜が、ショーツの内側にじっとりと沁み込んでいた。

 呼吸が上がって行くスコールの胸に、サイファーの左手が這う。
ドレスの胸元は、オフショルダーのデザインのお陰で、元より随分と無防備だ。
化粧を落とした時にパッドも外したから、今は男らしい平らな胸があって、其処にある頂きの蕾をサイファーの指が摘まむ。


「んぁっ」


 高い声がスコールの唇から漏れた。
そのまま蕾をコリコリと転がされて、スコールはあえかな呼気を零して喘ぐ。


「あ、あ……サイファー、胸……あっ、やぁ……っ!」
「こっちは嫌がってないぜ」
「ああ……っ!」


 いやいやと頭を振って見せるスコールだったが、サイファーの右手が中心部をきゅうっと握れば、其処は固く膨らんでいるのが判る。
鈴口から溢れる蜜は、竿を握るサイファーの手にも伝い流れて、潤滑剤になって手淫の滑りを助けていた。

 ぬるついた手が、時折強弱を変えてマッサージしながら、スコールの熱を追い立てていく。
スコールは切迫感に喉を逸らして、限界を訴える腰を震わせる。


「はっ、サイファー、ああ……っ!も、んん……来る……っ!」
「ああ」


 良いぜ、とサイファーは目の前にあったスコールの耳を食む。
かぷり、と甘く耳朶を挟む固い感触に、スコールの首の後ろに、ぞくぞくと被虐的な官能が迸り、


「あっ、あぁ……っ!ああぁ……!」


 切ない声を上げながら、スコールは射精した。
びゅくっ、と噴き出した蜜が、ドレスの内側にぬるついた粘液を付着させる。
裏地にじっとりと沁み込んでいく濡れた感触が、スコールの腹と、サイファーの手に伝わっていた。


「はっ……、はぁ……っ、あぁ……っ」


 果てを見た余韻に意識を浮かせながら、スコールは強張った体を戦慄かせている。

 快感の痺れに囚われたスコールの身体を、サイファーの腕が抱き起こした。
ベッドヘッドに背を預け、胡坐をかいた膝の上にスコールを乗せてやる。
スコールは背中越しに体温を感じながら、力の抜けた体をそれに預けて、ぼんやりと天井を仰いだ。

 汗の滲んだ胸に、サイファーの手のひらが滑る。
胸元を撫でた手がまた蕾を摘まんで、ぷくりと膨らんだ先端を爪先でツンツンと突く。
ふるりと体を震わせるスコールに、サイファーは敏感な其処を転がしながら、反対の手は太腿を撫でた。


「あ、う……んん……」


 もどかしさに身を捩るスコールの股間は、すっかり大きくなり、下着の前で分かり易くテントを作っている。
持ち上げられた薄手のレディースショーツは、水気を含んだ布地が透けて、主張しているものの色が浮き出ていた。

 レースに飾られたシンボルを見て、スコールもサイファーも、何処か倒錯的な感覚に陥っていた。


「っは……サイファー……ん、う……当たってる……」


 尻の下に感じる固い感触に、スコールが身を捩る。
興奮を隠さないサイファーの様子に、スコールの胸の鼓動も逸っていた。

 サイファーはスコールの首筋にキスをしながら、手を更に下へと下ろしていく。
勃起した雄の横を通り過ぎて、触れたのはヒクヒクと戦慄く菊穴だ。
指先で入り口を摩るサイファーに、スコールの太腿がふるりと震えていた。


「指、入れるぞ」
「ん……っあ……!」


 つぷ、と異物が侵入して来る感覚で、びくんっとスコールの身体が跳ねる。
小さな秘穴がきゅうぅ……と締め付けてくる中を、サイファーはゆっくりと道を広げ進めて行った。

 スコールはドレス裾を大きく捲り広げ、両足を広く開いている。
起立してとろとろと蜜を零す雄に、時折サイファーの手首が当たって、もどかしさが増す。
指を咥え込んだ媚肉が絶えず疼いて、秘奥から甘露の蜜を分泌させていた。

 サイファーの指先にぬるりとしたものが付着する。
それを、絡みつく肉壁に塗り広げるように指を動かせば、スコールは蕩けた声を上げていた。


「あ、あぁ……っ!は、あん……んん……っ!」
「中の方まで濡れてるぞ」
「ふぁ、ん……、あ、くふぅ……っ」
「もう一本」
「あ、あ……っ!」


 耳元に心地の良い声を聴きながら、スコールは増した異物感に喉を逸らした。
くちゅくちゅと言う音が聞こえて、中の準備が本格的に始まっている事を感じ取る。

 サイファーの指が細かに肉壁を擦る度に、痺れるような快感がスコールを襲った。
ストッキングを履いた足が、爪先までピンと張り詰めて、煽情的なラインを作り出している。
悪戯に胸の飾りを摘まめば、またスコールは高い声を上げて、サイファーの耳を楽しませた。


「んぁ、ああ……っ!そ、こ……あっ、やぁ……っ!」
「気持ち良いだろ?」
「は、あう……うぅ、んぅ……っ」


 サイファーの言葉にスコールは答えなかったが、代わりに秘部が指を締め付けた。
其処をまた手首のスナップを利かせて大きく掻き回すと、スコールは耐え難い様子でふるふると全身を戦慄かせる。

 サイファーの指先は、スコールの分泌液でどろどろに濡れそぼり、中に広げた蜜と交わって、絶えず淫水音を立てている。
まるで女の園のような濡れ方をしているスコールに、サイファーの興奮も増していた。


「はあ、はあ、サイファー……っ!あ、あっ、もう……んぁっ!」


 臀部に当たる固い感触が、スラックス越しにも大きくなっているのを感じて、スコールは背後の男の名前を呼ぶ。
存在感を知っているだけで、身体はそれを迎えた時のことを想像してしまい、嫌らしくなっていく。
指を咥えたずっと奥、まだ届いていない場所が疼いて堪らなかった。
媚肉がきゅうっ、きゅうぅっ、と何度も震えては締め付けて、サイファーに我慢の限界を訴える。

 サイファーは最後に内壁の天井をゆっくりと指の腹で撫でた。
弱い場所を丁寧に愛撫するサイファーに、スコールは内臓で切ない声を上げながら感じ入る。


「ああぁ……っ!」


 テントを作った下着の中で、ぴゅくっ、と蜜が溢れた。
薄手の布地はもう水分を含める限界量を越えていて、粘ついた白い液体が、勃起した竿を伝い落ちていく。

 絶えず締め付ける肉壺から、ちゅぽ、と音を立てで指が抜けた。
途端に物足りなさと疼きが増して、スコールはゆらゆらと腰を揺らして、尻をサイファーの股間に押し付ける。
サイファーは、そんなスコールの身体を抱えて、くるん、と前後を反転させた。


「あっ……」


 視界が様変わりして、それまで見上げていた天井から、見慣れた恋人の顔が映る。
ワイシャツの襟元を崩して、髪型も額の傷もいつもの通りになっているサイファーを見て、熱に蕩けた蒼灰色が嬉しそうに緩んだ。


「サイファー……んん……」


 スコールはサイファーの胸に縋りながら、背中を伸ばしてキスをねだる。
甘えを発揮し始めた恋人に、サイファーも喜んで答えてやった。

 ちゅう、とお互いの唇を吸いながらキスを交わす。
サイファーの方から口を開けてやれば、すぐにスコールの舌が入って、唾液が混じり合う音が鳴った。
当分はそれを楽しんで、サイファーの手がスコールの後頭部に回ると、今度はスコールが受け入れる側になる。
たっぷりと濡れた肉厚の舌に、咥内を隙間もなく愛撫されて、スコールは解したばかりの秘部がひくりと啼くのを感じていた。


「ん、ちゅ……んん……っは、あ……」


 糸を引きながら、名残惜しくも唇は離れる。
唾液で濡れたスコールの唇が、サイファーにはどんな口紅よりも色鮮やかに見えた。

 続きをねだって下腹部を下肢に擦り付けるスコールに、サイファーは言った。


「裾、持ち上げろよ。見えないから」
「……こう、か」


 言われた通りに、スコールはドレスの裾を摘まんだ。
爪先近くまで長いドレスの裾を、腰のあたりまでたくし上げると、血流が増して火照った下肢が露わになる。
下着の中に納まりきらなくなったスコールの雄が、先端を其処から飛び出させて、止まらなくなった先走りを零していた。


「そのまま持ってろよ」
「ん、う……」


 自分が恥部を見せつける格好をしている事に、スコールの顔が赤くなる。
だが、嫌だと言う事もなく、彼はサイファーの言う通りを守った。

 サイファーはベルトを外し、スラックスの前を寛げた。
とうの昔に固くなっていた雄を取り出して、ドレスカーテンの向こうでちらちらと見え隠れしている、赤く色づいた中心に欲望を宛がう。
直に触れる熱の感触に、スコールが小さく声を漏らした。


「あっ……サ、イファー……早く……」
「ああ。良いぜ、ゆっくり腰落とせ」
「ん……っ、」


 サイファーの指示に従って、スコールは膝立ちの姿勢を低くしていく。
解されて柔らかくなった入り口に、固い肉棒がくぷりと入って行くのを感じた瞬間、ぞくぞくとした官能がスコールの背中を駆け抜けた。


「ん、んふ……っ、ふ、うぅん……っ」
「っは……熱……」


 ゆっくりとサイファーを迎え入れていくスコールの秘孔内は、蕩けたように濡れ、とくとくと脈を打っている。
スコールの興奮と期待を示すように、肉壁は暖かく、ねっとりとサイファーに絡みつこうとしていた。

 焦らされていると思う程の時間をかけて、スコールはサイファーの雄を飲み込む。
指では届かなかった奥に、固い先端がぐぅっと当たるのを感じて、スコールの腰がぶるりと悦びに震えた。


「っは、はぁ、サイファー……あ……っ、入、った……あ……」


 何処か夢見心地な顔で言ったスコールに、サイファーはくつりと笑みを浮かべて、ドレスの裾を掴むスコールの手を握る。
スコールの手はそれに甘えたがって、裾を離してサイファーを捕まえた。


「動けるか」
「ん……たぶ、ん……」


 スコールの返事は覚束ないものがあったが、咥え込んだものはきゅうっと締め付けて離さない。
それをスコールは、サイファーの手を握りながら、そうっと腰を持ち上げる。
肉穴を一杯に広げているものが、壁を擦りながら動く刺激に、スコールははくはくと唇を戦慄かせながら感じ入った。


「あ、あ……っ!大き、い……んぁ……あ……っ!」
「そのままゆっくり下ろせ」
「う、うぅん……っくふ、うぅん……っ!」


 サイファーの声に誘導されて、スコールは腰を上下に動かし始めた。
ずる、ずぷ、ずる……と内肉を逞しい雄に擦られながら、得られる快感に酔って行く。

 いつしかスコールは、自ら懸命に腰を振り、サイファーの雄で自身の中を攻め立てていた。
指とは比べ物にならない質量の一物で、あられもない場所を突き上げる度、甘ったるい声が出てしまう。
官能の大きさに堪らず体を撓らせれば、仰いだ天井は煌々と明るかった。
いつもならそれが無性に恥ずかしくなるのに、どうしてか今日は、意識にも引っかからない。

 サイファーにしてみると、中々珍しくて、刺激的な光景だ。
明々とした部屋で、沈みの良いベッドの上で、綺麗に着飾った恋人が乱れ喘いでいる。
快感の涙で濡れた瞳も、赤らんだ頬や、唾液で濡れた唇も、何もかもがよく見える。
着ているドレスは何処からどう見ても女物で、スカートで下肢も隠されているから、ひょっとしたら女が其処にいるように見えるのかも知れない。
しかし、皺になったドレスのたわみの向こうから、勃起した雄が時折そのテントを覗かせていた。
なんとも倒錯的な光景だ。


「はぁっ、はぁ、あぁ……っ!あっ、うぅん……っ!サイ、ファー……んっ、もっと、奥に、あぁ……っ!」
「仕方ねえな」


 自身の律動だけでは、奥まで入ってはいても、その向こうにある快感刺激までは届かなくて、スコールは堪らず願いを口にしていた。
きゅうう、と締め付ける内壁の感触に、サイファーもスコールが欲しているものを知る。
貪欲な恋人のおねだりに、サイファーの口端がにやりと笑った。

 スコールの握る手を解いて、サイファーの両手は細い腰へ。
無骨な手が腰をしかと捕まえるのを感じて、スコールの身体は期待で濡れた。
とろりと蜜を分泌させる奥庭が、きゅんきゅんと啼いて、奥壁への道を勝手に拓いてしまう。

 その望みのままに、サイファーは腰を強く上へと突き出した。
ずんっ、と秘奥を一気に突き上げられる衝撃に、スコールは甲高い声を上げる。


「あぁあっ!」


 額に滲んでいた汗粒を散らして、スコールは思わず体を弓形に撓らせる。

 太く逞しい雄に最奥を抉るように突き上げられて、スコールの身体が官能の痺れに強張る。
胎内の快感腺を全て目覚めさせたスコールを、サイファーは続けざまに突き上げた。
汗ばんだ肢体がびくんっと大きく跳ね、根本まで咥え込んだ雄を艶めかしく締め付ける。


「あっ、あっ、サイ、あぁっ!」
「はっ、は……っ、ふ……っ!」
「んぁあ、あっ、あぁっ!奥、奥に、来てる……っあ、あぁっ……!」


 スコールは空になった両手を、サイファーの腹に乗せて、倒れそうになる体を支える。
そして、下からずんずんと容赦なく攻め立てるサイファーの動きに合わせて、自分もまた腰を振り始めた。


「あっは、はふっ、あぅうんっ!」
「ほんと、良い眺めだぜ、スコールっ……!」
「はあ、はあ、サイファー……あっんんっ!」


 にやりと笑うサイファーの言葉に、スコールの身体にぞくぞくとした熱が上って行く。
見られている、何もかも───どうしようもない羞恥心が今更のように募って、官能のスパイスとして働いていた。

 ドレスを乱したスコールと、ワイシャツをラフにし、ボトムは前だけを寛げた状態のサイファー。
絡み合う時には大抵裸であったから、それもあってお互いの景色には物珍しさもある。
まとわりつく自分の衣服は邪魔だったが、崩した程度の格好に、汗ばみ赤らんだ肌の光景と言うのは、妙に刺激的だった。

 スコールの胎内で、サイファーの一物が膨らみ戦慄いている。
中でとろりとしたものが溶けだして、突き上げる律動に合わせて、じゅぷ、じゅぷ、といやらしい音を立てていた。
限界が近い、とサイファーが唇を噛んで耐えていると、


「あっ、あぁ、サイファー……っ!もう、もう来る……あぁっ、また、俺、ああぁ……っ!」


 一番奥を絶えず刺激される快感に、スコールの身体も二度目の絶頂を迎えようとしている。
訴えるその言葉に、細い腰を掴むサイファーの手に力が籠った。
ぐ、と逃がすまいとばかりの強さを感じて、スコールの身体が期待に震え、


「あっ、あっ、イく……っ!サイ、ファー、あぁ……あぁぁあっ!」


 目の前まで迫っている衝動の波に、スコールは逆らう術を持たない。
内壁が全身でサイファーに密着し、どくどくと大きな脈を打ちながら、スコールはドレススカートの内側に射精した。

 同時にスコールの肉褥が齎す、弾力のある極上の味わいに、サイファーも眉根を寄せ、


「くっ、う……っ!出る……っ、スコール……!」
「あっ、あぁ……!さいふぁ、あ、あぅぅうんっ!」


 どくん、どくん、とスコールの胎内で生き物のように脈を打った後、サイファーは熱の奔流をスコールへと注ぎ込んだ。
絶頂を迎えて敏感になった躰に与えられる雄の欲望の感触で、スコールは続けざまに果てを見る。
強張った体がビクンビクンと痙攣して、流れ込んでくる雄の精を、余す所なく受け止めた。

 数舜、スコールは強張った体を震わせ、静止していた。
その間、内側ばかりはヒクヒクと絶えず呻き、最奥に咥え込んだサイファーの一物を締め付け続けている。

 は、は、と二人の呼吸がようやく戻ってきた頃に、スコールの身体はサイファーの胸へと倒れ込んだ。
くったりと力をなくして縋る体に、サイファーの腕が回される。
そのまま、ぐるん、とサイファーが横に転がって、


「んぁ、ああっ」


 繋がったままだったから、中で擦れる感触がして、スコールは思わず声を上げる。
絶頂の波から未だに戻れないスコールにとっては、堪らないものだった。

 サイファーはベッドに沈めたスコールの足を持ち上げて、肩に乗せる。
すっかり皺になったドレスの裾が、ベッドに広がるように開いて、スコールの濡れそぼった下肢が露わになった。
雄を咥え込んだままの其処は、きゅうきゅうと締め付けながら、甘色になった秘口をヒクヒクと戦慄かせている。

 サイファーが腰を引いていくと、肉が吸い付いて引き留めようとしていた。
スコールは「あ、あぁ……っ」と息も絶え絶えな声を漏らしながら、ベッドシーツに縋っている。
そんな彼の中へと、サイファーは再び雄を突き入れた。


「んぁああっ!」


 悦びの声が上がり、肉壺がサイファーの為に道を開く。
入り口から一番奥まで、長くて大きなストロークで、サイファーは律動を再開させた。


「ああ、あぁあっ!さいふぁ、だめ、それ……んぁあっ!今、今は……あっ、あぁっ、あぁんっ!」


 イったばかりで敏感だから、とスコールは頭を振るが、いやいやと言う仕草の癖に、彼の体は間違いなく喜んでいる。
興奮と悦びで濡れそぼった彼の秘部は、何処を突いても快い反応を示し、抜こうとすれば肉壁全体で縋りついて来る。


「はっ、はあ、良いぜ、スコール……!最高だ……!」
「あっ、んぁ、さいふぁ、サイファー……っ!やあ、あっ、あぁっ!」
「ん、ちゅ、んんっ……!」
「はぅ、あぁっ、吸うなぁ……んぁっ、胸、感じる、あぁ……!」


 乱れ崩れたドレスの胸元に、サイファーの唇が吸い付いた。
びくびくとスコールの身体が跳ねて、身を捩る事も出来ない。


「サイファー、や、すぐ……あぁっ!すぐ来るっ、んぁ、来ちゃう、からぁ……っ!」
「ああ、遠慮すんなよ。俺も、もっと……!」
「は、はぁ、あう、んぁああ……!サイファーの、あっ、あぁっ、大きい、止まらな……っ!はっ、はぁっ、あぁあん……!」


 サイファーはスコールの身体に覆いかぶさると、ベッドシーツを握っていた彼の手を解かせ、自分の首へと絡ませた。
縋るものを求めて抱き着く体。
サイファーがその背に腕を回してやれば、律動に揺れていたスコールの足も、自らサイファーの腰へと絡みついたのだった。




 恋人同士の熱烈なまぐわいに巻き込まれたお陰で、スコールのドレスは勿論、サイファーが着ていたワイシャツやスラックスも、それはそれは他人にはお見せ出来ない有様となってしまった。
朝になってそれを目の当たりにしたスコールが、真っ赤になってサイファーに掴みかかったのは言うまでもない。

 皺だらけになった服は、まとめてトランクの中に押し込まれ、バラムに帰ったらサイファーがクリーニングに出すことになった。
ガーデンに帰れば、どのみちクリーニング行きになる代物だが、其処に至るまでに、万が一にも誰かに物の有様を見られるなんて冗談じゃない、とスコールが言ったからだ。
皺くらいなら戦闘が起きたのだとでも言えば済んだかも知れないが、ドレスに染み付いた汚れはその理由で見逃されるものではない。
かと言って、その汚れを作った張本人が、素知らぬ顔で店に持っていける訳もないので、サイファーが責任を取る形になったのであった。

 朝からそんな一悶着をして、ようやく二人はホテルを出る。
エントランスホールで、先にチェックアウトしたアーヴァインと擦れ違い、彼は「じゃあね〜」といつもの調子であった。
直帰するのか、束の間の休息をこの街で嗜むのかは知らない。
夜になれば、きっとバラムガーデンで顔を合わせることだろう。

 荷物ひとつのトランクを肩に担いで、さて、とサイファーはスコールを見る。


「どうする。駅に行くか」
「……そうだな。長居してもしょうがない」


 スコールは、特にこれと言って目的もない、と帰ることを選んだ。

 市内の循環バスに乗って、十分も乗れば、駅の看板が見えてくる。
その道なりに、ちらほらとガルバディア兵の姿があったが、二人は横目に見るのみで留めた。
兵士たちは巡回パトロールをしているようだが、特にこれと言った警戒態勢が敷かれている訳でもなく、通常勤務のようだ。
昨日、市内で開かれたパーティの際、有名な資産家が一名行方を晦ませたことは、特に騒がれてはいないらしい。

 駅に着いてホームに入ると、タイミングよく電車がやって来た。
朝のラッシュはとうに終わった時間だから、車内は何処でも空いている。
適当な所に座ったスコールの隣に、サイファーも腰を下ろした。


「報告書、さっさと出せよ」
「判ってるよ。これ店に持って行った後でな」


 コンコン、とサイファーは脇に置いているトランクを指で小突いて言った。
其処に入っているものを思い出して、赤くなったスコールの目がじろりと睨む。


「そんなに怒るんじゃねえよ。お前だってノリノリだった癖に」
「誰が。あんたがバカみたいに盛ってきただけだろ」
「ったく、口の悪い奴だ。パーティの時は、可愛い面してたのによ。ああ、夜も可愛い顔はしてたっけな」


 にやつきながら露骨に揶揄うサイファーの台詞に、スコールは米神に青筋を浮かばせて、サイファーの足を蹴った。
睨むスコールの頬は薄らと赤く、場所がこんな狭い電車の中でなければ、もっと手なり足なり出て来ただろう。
しかし、昨晩に散々酷使した足腰のこともあって、これ以上暴れる気にはならなかった。


「全く……散々な任務だった。足もまだ痛いし」


 うんざりと呟くスコールに、まあな、とサイファーも同調する。


「色々と気を使って面倒なのは確かだな。やっぱりこんな任務は、地味な奴がやった方が向いてる」
「同感だ。キスティスにも伝えておこう。二度とこんな作戦を立てるなって」
「いや、俺は其処まで悪くはなかったな。もう一回くらいならやっても良い」


 サイファーの返しに、スコールが眉間に皺を寄せて目を向ける。
てっきり同じ気持ちだとばかり思っていたのに、と言外にその心中を問うスコールに、サイファーは口端を上げて言った。


「お前のドレス姿ってのも、案外悪くはなかったからな。綺麗でやらしくて、嫌いじゃなかったぜ」
「……じゃあ、今度はあんたがドレスを着ろよ」
「バカみてえにきついコルセットつけて?お断りだな。お前が着るから良いんだよ」


 サイファーの言葉に、スコールは分かり易く顔を顰める。
あれの何が良いんだ───と噛みつこうとする唇は、封じるように塞がれていた。




女装したスコールと、それに合わせてタキシードとかスーツとか着て、潜入みたいな任務を二人でやらせたくなりまして。
サイファーは万年候補生ではありますが、あれでちゃんと有能で、場面に合わせた立ち振る舞いはちゃんと出来るんだろうな、と言う夢を詰め込んだ。
どっちかと言うとスコールの方が、内心の不満とかがちゃんと隠せていなくて、意識もそっちに向きがちなイメージ。
あとコルセットをぎちぎちに締めたスコールが見たかった。キスティスとシュウが大分頑張ったんだと思います。スコールも頑張った。
そして折角こんな格好をさせたんだから、是非とも着エロして欲しい。そんな願望です。