陽炎に溶ける


 スコールがサッカー部のマネージャーの真似事をするようになったのは、ティーダに請われての事だった。

 ティーダはスコールの幼馴染だ。
共に幼い時分に母を亡くし、父の手一つで育てられた家庭であった為か、なんとなく話が合う事が多かった。
家も案外と近所にあって、父と喧嘩をしたティーダが泣きながらスコールの家に転がり込んで来る事もあった。
父同士も、そんな息子たちについての相談であったり、男やもめの環境の心配ごとであったりと、話題には事欠かなかったようで、よく酒を飲み交わしていた。

 とは言え、運動好きで健康優良児であるティーダに対し、基本的にインドアな気質を持っているスコールとでは、学校の部活と言うものに大して熱量が違う。
だからスコールは今でも正式にサッカー部には所属しておらず、あくまで“マネージャー仕事の手伝い”としてヘルプに入っている、と言う認識だ。
そう言って週の半分はサッカー部の部室に足を運んでいるので、もう部員で良いんじゃないか、と他者から言われていたりするのだが、正式に部員として、マネージャーとして属するとなると、色々と拘束時間が増えるのがスコールは嫌だった。
運動が好きな訳でもなければ、それに邁進する人々の為に自分の時間を費やすのも嫌だったし、ティーダたっての懇願がなければ、そもそもこんな事はしていなかっただろう。
何か用事があれば其方を優先して良い、と言う立ち位置があるから、スコールは隙間の手を割く事を了承したのだ。

 一方で、こうした立ち位置であっても、マネージャー仕事を引き受けてくれるスコールに感謝を述べる部員は多い。
元々が真面目な気質が根底にあるスコールは、頼まれた仕事を中途半端に放り出す事が出来ない。
それが結果として、マネージャーとして非常に優秀な結果を出しており、ティーダ曰く「皆雑なんスよ」と言い切られるサッカー部員の完璧な補佐を務めていた。
数値的データを重要視する性格もあって、対戦校のサッカー部のデータ収集もするようになり、これがかなり役に立っていると言う。
勿論、自校の選手データもしっかり記録しているので、顧問やコーチはこれを頼りに、部員の育成をしているそうだ。

 頼まれた事から始まり、その後は自分の生真面目さや性質から、半分程度は自主的に勤しんでいるマネージャー仕事であったが、その内実についてはスコールも特段不満はない。
ティーダの言う通り、何かと雑さの目立つ部員の細々した事は置いておいて、自分がした事が巡り巡って誰か───部の役に立つ、と言うのは、悪い気はしなかった。
あまり人とのコミュニケーションと言うものに積極的ではないスコールにとって、マネージャー仕事を通した部活動の真似事は、その遣り取りの理由が一方的にはなり難い事もあって、存外と心地良いものになりつつある。
それでもやはり、正式に部員マネージャーとして属するつもりはないのだが、交流試合や遠征に参加する位には、サッカー部と言うものに気を許していた。

 そして、こうしてマネージャー仕事を勤めていたからこそ、築いた関係と言うものもある。

 当校のサッカー部は、強いと有名である為、其処に入る事を目的として入学して来る生徒も多い。
同時に、サッカー部の方からも優秀な選手の確保に意欲的で、各学年各クラスで運動神経が良いと見られる生徒の情報が入れば、顧問自らが声をかけに行く。
ちなみに、スコールも過去には声をかけられており、余りに熱心な勧誘が鬱陶しくて、既に所属していたティーダに頼んで、一切の勧誘をしないようにと釘を刺して貰っている。
既に他の部に所属していても声をかけて来るので、一部の生徒からは少々疎ましく思われていたりするのだが、育成熱心な顧問のこの行動は最早習慣───習性と言う者もいたりする───になっているらしく、二年生や三年生は捌き方に慣れていた。

 今現在、サッカー部が獲得したいと乗り出している生徒は、各学年に一人ずつはいると言う噂だ。
それが誰々なのかスコールは知るつもりもないが、唯一、確実に狙われていると判っている者もいる。
他校の交流試合など、限られたタイミングでヘルプ的にメンバーに組まれる、フリオニールと言う生徒だ。
スコールやティーダとは一つ年上になり、三年生である彼は、調理部に所属している。
それを「勿体無い!」とサッカー部顧問だけでなく、調理部の顧問さえもが言い切る程、彼は運動神経が良かった。
実際、彼は入学してから三年間、各運動部で急ぎのヘルプメンバーを頼まれる事がある程、その運動能力が信頼されているのである。
彼を獲得すれば一騎当千とばかりに、各運動部が躍起になって勧誘していたのは、有名な話だった。
しかし彼自身は、運動は好きだが部に入る程に熱量がある訳ではないし、何より料理をしているのが楽しいから、と一貫して勧誘を断っている。
その割にヘルプに呼ばれると召喚されてしまう当たり、彼の人の好さが判ると言うものだろう。

 そんなフリオニールと、スコールはサッカー部を通して出逢った。
判り易くお人好しの顔をしている彼に、勧誘熱心なサッカー部顧問を指して、厄介な奴に捕まったな、と言った時には、苦笑いをしているばかりだった彼。
彼はティーダとも親しかったようで、部活がない日でもよくスコールとティーダのクラスにやって来た。
調理部で作ったクッキーやら何やらと、お裾分けを貰った事もある。
おかず類もよく作っては、傷ませては勿体ないからとお呼ばれもしてくれ、手の込んだミネストローネやパスタ料理など、スコールも舌鼓を打った。
余り言葉の多くないスコールが、「美味しい」と思わず零した時には、子供のように喜んでいて、その無邪気な表情が、スコールに生まれて初めての恋心と言うものを抱かせたのであった。




 三年生の殆どは直に部を去るタイミングとなるが、その前にとばかりに、他校との交流試合が行われた。
場所はスコールの通う高校のグラウンドで、別日に相手校の下───つまりはアウェイか───でもう一度計画されている。
両校が一年生から三年生まで幅広くメンバーを使って数グループを作り、一軍も二軍も混ぜてのゲーム。
引退を控えた三年生から、次代を担う部員たちへの、継承にも似た空気も滲む中で、ゲームは展開して行った。

 その試合の場に、正式な部員ではないスコールとフリオニールも参加している。
スコールはいつも通りマネージャーとして、フリオニールは選手メンバーとして名を連ねられていた。
三年間、何かとサッカー部に顔を出していたので、フリオニールの顔は相手校にもよく知られている。
仲の良いティーダとの連携を警戒してだろう、フリオニールは徹底的にマークされていた。
それによりマークの数が減るティーダが壁を突破し、仲間へとパスを繋ぐ。
或いは、ティーダとフリオニールと言う二人をマークする事に人数が割かれる為、他選手のフリーを許してしまうと言う流れもあり、彼らが配されたチームは速い展開で勝利への道を駆け上って行く。

 試合中、ピッチの端から端まで駆け抜ける彼らの動きを、スコールは細かくメモに書き記していく。
殴り書きのメモは他人が読めたものではないが、これは人に見せるものではないから十分だ。
後でコーチに渡すものはきちんと清書するので、此処にあるのは草案で良い。
速い展開を事細かに記録するのなら、字の汚さなど気にしてはいられなかった。

 試合終了のホイッスルが鳴り、ピッチを駆けまわっていた選手たちの足が緩む。
時間一杯にその足をフルに動かした選手たちは、上がる息を整えながらベンチへと戻って行った。
その最中、ティーダとフリオニールがハイタッチをしている。
溌剌とした二人の表情を遠目に見ながら、スコールも一つ息を吐いて、手元のメモを見る。


(概ね記録は出来たな。……来年はこう言う動きは期待できないから、ティーダには気を付けるように言っておこう)


 記録には、ティーダとフリオニールの連携が多い事が綴られていた。
彼らのコンビネーションは確かにこのサッカー部の強みであったが、三年生であるフリオニールはそろそろ部活に参加しなくなる。
元々がヘルプで来てくれているものだから、頼めば手伝ってはくれるだろうが、在校生にいつまでも先輩を頼らせるのは良くないだろう。
次に部を牽引していく事になる二年生が中心となって、新たな計算式を作らなくてはならない。

 そんな事を考えていたスコールであったが、自分がやるのは精々こう言ったデータを残すのみ。
戦略やら何やらと言うのは、サッカーそのものに余り深い興味を持たないスコールには、熱を持って取り組めない事だった。
それでも、幼い頃からサッカーに取り組んできた幼馴染の頑張りは、良い結果に繋がって欲しいとも思う。
その為のデータ収集なのだ。

 試合に出ていた選手たちが戻ってきた事で、ベンチは賑やかだ。
反省から称賛まで、わいわいと賑々しく交わしながら、選手たちはタオルで汗を拭いている。
スコールの元にも、幼馴染とその友人───ティーダとフリオニールがやって来た。


「はー!疲れたー!」
「お疲れ、ティーダ、フリオニール」
「ああ」


 疲れているのに声は元気なティーダと、そんな年下の友人の頭を撫でているフリオニールに、スコールは一本ずつ冷えたペットボトルを差し出した。
ありがとう、と言って受け取った二人は、直ぐに蓋を開けて、清涼飲料を一気に半分まで飲み干す。


「あー、美味しい。いやー、走った走った。公式試合でもこんなに走るの滅多にないっスよ」
「向こうの三年生が張り切ってたからなぁ。振り切れなくて大変だった」
「お陰で俺は動き易かったっスよ。まあ、後半は俺も完全にマークされちゃったけど」
「来年はお前が徹底マークされるんだろうな。頑張れよ、エース」
「やってやるっス!どーんと来い!」


 胸を張るティーダの言葉に、フリオニール他の三年生からも拍手が送られる。
それにティーダは益々張り切って、ガッツポーズをしたり、ピースサインをしたりと、まるでファンアピールだ。
スコールはそんな幼馴染を見ながら、張り切れるのはまあ良い事か、と独り言ちていた。

 午前に予定されていた試合が終わり、早いもので時刻は正午を迎えていた。
調理部のフリオニールがいると言う縁で、調理部が用意してくれた弁当が届けられ、スコールもティーダとフリオニールに誘われて、空き教室で三人で一つの机を囲んで昼食を採った。


「やっぱ美味いっスねぇ、うちの調理部の作った飯。唐揚げ、味染みてて最高」
「そりゃ嬉しいな」
「ひょっとしてフリオが作った?」
「仕込みまでな。揚げるのは今朝の内にする予定にしていたから、俺は参加できなくて。だから下準備だけでもと思って」
「もー最高の味付けっスよ!ちょっとピリッとする所とか、端っこのカリカリ感とか。あ〜、フリオが卒業したらこれも食えなくなるのかぁ。試合の日の楽しみだったのにな」


 判り易く残念そうに言うティーダに、フリオニールが擽ったそうに笑いながら、


「試合の日取りを教えてくれれば、差し入れ位持って行くぞ。部員分って言うのは流石に無理だけど、ティーダとスコールの分なら」
「マジすか!」
「……ティーダはともかく、俺まで良いのか?」


 フリオニールの言葉にきらきらと目を輝かせるティーダと、不意に出てきた自分の名前に目を丸くするスコール。
フリオニールはそんな二人に頷いて見せる。


「ああ。ティーダには腹一杯食って頑張って欲しいし、スコールも皆のサポートで大変だろう?結構疲れるだろうし、精のつくものを作らないとな」
「フリオの飯美味いから嬉しい!これで来年も頑張れるっス!」


 ガッツポーズで喜ぶティーダに、フリオニールも気合が入るよと言った。
食べる人がこうまで喜んでくれるのなら、作る方も作り甲斐があると言うものだ。

 しかし、スコールの方はそう素直には喜べない。


「俺は、来年もこんな事してるか判らないぞ。ティーダの応援はするつもりだが、マネージャーの真似事までは……」
「でも、ティーダの試合があったら、それは見に行くだろ?」
「……一応」


 そのつもりはある、とスコールが頷けば、


「じゃあやっぱりスコールの弁当も作ろう。昼飯は皆で食べる方が美味いしな」
「そうそう。だからスコールも遠慮しないの」
「……お前みたいに図々しく出来てないんだ、俺は」
「あっ、なんか酷い事言われた気がする」
「さあな」


 じとりと睨むティーダに、スコールは涼しい顔で返してやった。
まあまあ、と宥めるフリオニールであるが、その表情は眉尻を下げつつも楽しそうだ。
気の置けない年下の友人たちの遣り取りを、微笑ましく思っているのだろう。

 美味い昼食を鱈腹に食べて、ティーダは満足一杯の表情で腹を撫でた。
少し重くなった体を椅子から立たせ、柔軟運動を始める。
胃袋が詰まっているだろうに、よく食べた傍からやれるな、とスコールはよく思う。
ティーダの柔軟性は筋肉だけじゃなく、胃腸まで通じているのかも知れない。


「よーし、そんじゃひとっ走り行ってくるっス!」
「ああ」
「また後でな」


 簡素な返事を寄越すスコールと、手を振るフリオニールに「後でな!」と返して、ティーダは教室を後にした。

 残ったスコールとフリオニールは、黙々と弁当を食べ終えた。
空になったプラスチックのランチボックスは、後で調理室に持って行って、其処に用意されている回収用のゴミ袋に入れておけば良いとのこと。
回収は試合が全て終わった後にフリオニールが引き受ける事になっているので、焦って行く必要はない。

 賑やかしのティーダがいなくなったので、二人きりの教室は静かなものだった。
グラウンドでは午後の試合へのアップか、食後の運動か、ぽつりぽつりと戻ってきた生徒達が思い思いに過ごしている。
フリオニールはそれを、良く冷えた水筒の水を飲みながら、のんびりと眺めていた。
スコールはそんなフリオニールの横顔を見ながら、


「……あんた、午後のゲームは出ないんだったか」
「ああ」


 フリオニールが此方を見て頷いた。


「午後は二年生と一年生の編成にするらしい。俺達三年生は、後輩を良く見て、最後のアドバイスをしろってさ。まあ、サッカー部じゃない俺はお呼びじゃないけどな」


 眉尻を下げて笑うフリオニールに、そんな事はない、とスコールは思った。
確かにフリオニールはサッカー部に所属していないが、ティーダの素早い動きについていく事が出来る、数少ない人物だ。
そんなフリオニールから見たティーダの問題点や改善点、これからは恐らくティーダを中心にした戦術が組まれるであろうから、それに他部員が適応する為のアドバイスなど、顧問が密かに期待しているであろう事は、想像に難くない。
しかし、フリオニールの方は、良い言い方をすれば謙虚なもので、あくまで求められるなら伝えられる事は伝えてみるよ、と言う控えめな姿勢であった。


(まあ、あんたらしい、か)


 多くを求められて、それに応える力があるのに、フリオニールは大抵が受け身だ。
それでいて懐が深いものだから、皆がフリオニールに甘えてしまう。
ティーダもそう言う所があって、「フリオニールなら任せれると思って」と試合中に中々無茶なパスを投げる事も少なくなかった。

 お陰でこの二年間のティーダは、とても伸び伸びと試合をする事が出来たのだが、現サッカー部員の三年生が引退するとなれば、ヘルプメンバー御用達となっていたフリオニールが呼ばれる事もなくなるだろう。
いや、なくならなければならない。
あと数ヵ月で、フリオニール達三年生は、この学校からいなくなってしまうのだから、そうなる前に次の体勢をきちんと整えなくては。
しかし、フリオニールのように懐が深く、ティーダの瞬間加速度について行きながら、尚且つ持続力とカバー力のある選手と言うのは中々いない。
この為、顧問やコーチは、在校生の中からフリオニールに替わる選手を叩き上げで育成するか、ティーダも含め全く別の作戦を新たに作るか、頭を悩ませているのだそうだ。

 それ程までに自分が重用されている事を、フリオニールは全く知らない。
窓の外を眺めるフリオニールの表情は穏やかで、其処で走り回るティーダを温かく見守っていた。
もう直、自分が一緒に走り回れなくなるからか、眦には少し羨望のようなものが滲んでいる。
そう見えてしまうのは、スコールの気の所為かも知れないが、誰より近くにいるものだから、フリオニール自身が無自覚に抱いている感情の波も、スコールには透けて見えてしまうのだ。


(……楽しそうだった、な)


 ティーダに請われてマネージャー仕事を始めて、フリオニールと知り合って。
いつも人の好い笑顔を浮かべているフリオニールが、試合中はまるで狼のように鋭い目をするのを知った。
平時は競争心などないかのようなお人好しの貌をしているのに、その変貌ぶりには驚いたものだ。
試合中なら激も飛ばすし、ミスをして落ち込んだティーダに発破もかける。
試合の流れを覆す為の駆け引きに、競り相手に挑発することもあった。
そんなフリオニールが見られるのは、本当に、ティーダと一緒にボールを追いかけている時だけだった。


(……見れなくなるのか)


 三年生が引退───並びにフリオニールも、となれば、そう言う事だ。
大学生になってもスポーツの道を残し、学業の傍ら打ち込む者は少なくないが、フリオニールにとってスポーツの優先度は高くない。
また誰かに頼まれて手を貸す事はあるかも知れないが、ティーダに引っ張られるようにボールを追いかけていたフリオニールが、今と同じようにその才能を発揮するのかは分からなかった。
そもそも、将来に向けた道の為、スポーツ自体から離れる事も十分に考えられる。


(……勿体無い、な……)


 俄かの寂しさが、スコールの胸中に浮かぶ。
試合の最中にしか見られなかったフリオニールの貌が、幾つも頭の中に浮かんで通り過ぎて行く。
試合の隙間の僅かなベンチタイムに、水をその手に渡した時、「ありがとう」と言ったフリオニールの赤い瞳は、高揚と昂ぶりに染まっていた。
あと少しで勝てた相手に、僅かに時間が足りずに敗北した日は、悔しさに泣きじゃくるティーダを慰めながら、その目に雪辱を果たす日を誓っていた。
そしてそのチャンスが巡ってくれば、ティーダと一緒に広いフィールドを鷹のように駆け抜けて、ボールに食い付いて離さない。
そんな試合の後のフリオニールは、冷めない熱に翻弄されて、噛み付くようにスコールを求めたものだった。


(……!)


 スライドショーのように巡っていた記憶の中に、不意打ちに浮かんできた光景に、スコールの顔に熱が上る。
誰もいなくなった部室や、体育館の裏、独り暮らしのフリオニールのアパート。
急くように繋がった時、熱くて堪らないフリオニールを奥で受け止めて、伝播するように熱を持った躰を、骨の髄まで貪られたのは、一度や二度の話ではなかった。


(何を思い出して────)


 目の前にある穏やかな横顔を見ながら、スコールの網膜には、赤い瞳が尖る瞬間が浮かんでいた。
それを見ると条件反射のように体が準備を始めるようになったのは、いつからだったか。

 其処にいる人物を見ている事が出来なくなって、スコールは俯いた。
腕を掴んで疼く体を叱っても、熱の心地良さを記憶した躰は一向に収まる気配がない。
これを鎮める為の方法を、スコールは一つしか知らなかった。


「……スコール?」


 窓の外を見ていた筈のフリオニールに名を呼ばれ、思わず肩が跳ねた。
それがまた人の好い彼の心配を誘ってしまったようで、フリオニールは「大丈夫か?」と顔を覗き込んで来る。


「熱中症にでもなったか?今日も暑かったからな」
「……それは、ない。大丈夫だ」
「そうか……?ほら、ちゃんと水を飲んでおけよ。試合には出ないって言ったって、俺達と同じ所にいるのは変わらないんだから。ちゃんと水分は採っておかないと、倒れるぞ」


 言いながらフリオニールは、水筒の水を紙コップに注いで差し出した。
スコールは俯いたまま、ちらとその手を見て、透明な液体が揺れるカップを受け取る。
ちび、と少しだけ口に含めば、氷入りの水筒の中でよく冷えていた水が、乾いた口の中を潤す。
けれど、体の奥から滲むように広がって行く熱を冷ますには、全く足りなかった。

 ───フリオニールがサッカー部に来なくなっても、彼との繋がりが消える訳ではない。
彼がこの学園を去るまで、まだ僅かでも猶予があるし、その後もきっと付き合いは続いて行くだろう。
スコールとフリオニールの二人きりの関係も、それを約束してくれていると言って良い。
それでも、今はこうして同じ空間で同じ時間を過ごしていられるけれど、そのタイミングがぐっと減るのは間違いない。
日常生活の中、ふとした時に擦れ違いに声をかけたりする事も出来なくなって、それぞれの違う生活が始まるのだ。


(それはきっと、淋しい)


 スコールにはまだ想像しか出来ない事だったが、それでも“淋しい”と思う。
本当は、一時だって離れたくないのに、今よりもずっと距離のある生活になってしまうのだ。

 そうなってしまう前に、フリオニールの存在が欲しい。
熱を持ってしまった体が、ブレーキをなくして彼を求めているのを、スコールは自覚していた。
場所も弁えずに───と思ってはいても、今のスコールにとって、そんな事は些細な問題でしかない。


「……フリオ」
「ん?」


 小さな声で名前を呼べば、フリオニールは首を傾げて返事をする。
尻尾のように伸ばされた細い後ろ髪が、彼の肩の向こうでするりと揺れた。
それに誘われるようにスコールの手が伸びて、よく日焼けしたフリオニールの頬に添えられる。
近付いて来る蒼灰色に、え、とフリオニールが思った時には、濡れた唇がフリオニールのそれと重なっていた。


「ん……っ」
「……!」


 柔らかいものが触れ合う感覚に、スコールから鼻に抜けた声が零れる。
それを聞いて、キスされている事を認識したフリオニールが目を丸くしている間に、スコールは微かな隙間から舌を入れた。

 ちゅく、と小さな音が鳴った。
唾液を纏わせたスコールの舌が、フリオニールのそれを捉えて絡まり、唾液を移していく。
困惑していたフリオニールの手がスコールの肩を掴んだ。
場所が場所だと、止めようとしたのだろうが、スコールは構わずフリオニールの舌を吸う。


「ん、む……っ、ん……っ」
「ん、ん……!」


 フリオニールの頬に沿えたスコールの手が、離れたくないと訴えた。
それを感じ取ってか、こんな時でも人の好さか───或いは、試合を終えた熱の名残をフリオニールも持て余していたか。
スコールの肩を掴んでいた手は、押し放そうとするのを辞めて、捕まえるようにしっかりと力が入っていた。

 耳の中で、繰り返し粘液が混じり合う音が響く。
その隙間に、窓の向こう、グラウンドで駆けまわる少年達の声が聞こえていた。
教室の方は人の気配など今はないが、廊下を巡回している教師はいるだろうし、この教室もいつまでも無人が約束されている訳ではない。
それでも、スコールは止められなかったのだ。

 フリオニールの舌に絡み付いたスコールの舌が、積極性を持って何度もフリオニールの咥内を弄る。
艶めかしい感触が咥内の天井をなぞる感覚に、フリオニールの首の後ろにぞわぞわとした感覚が走った。
同時に何とも言えない、熱の迸りも浮かび上がって来て、気付いた時にはフリオニールの方からも舌を絡めていた。
齧り付くように深くなって行く口付けに、息苦しさでスコールの躰が傾いて、ようやく二人の呼吸が自由になる。


「は……っはぁ……っ」
「は、ふ……っ」


 足りなくなった酸素を取り込むと、スコールは席を立った。
邪魔になっていた机の脇にしゃがみ込んで、椅子に座っているフリオニールのジャージに手をかける。
ストレッチの効く柔らかな生地の上から股間に触れれば、判り易く膨らんでいる感触があった。


「ス、スコール」


 呼ぶ声に咎める色があったが、スコールは気にしなかった。
キスに応えてきた時点で、フリオニールの本心は判っている。
求めてくれた事が嬉しくて、それなら尚更、スコールに止まる事など出来ない。

 下着ごとジャージの前を引っ張ってやれば、中で膨らんでいたものが直ぐに顔を出した。
正直なその有様を見て、スコールの口端に笑みが浮かぶ。
その貌を見たフリオニールの方は、対照的に恥ずかしそうに顔を赤くしていた。


「スコール、その……此処、教室で……」
「今更だろう」


 潜めた声で、自重を促してみるフリオニールだったが、スコールはちろりと赤い舌を覗かせて言った。
学校で、教室でするのは、もう何度も重ねてきた事だったし、その内の何回かはフリオニールの方から求めてきた。
そんな過去が既にあるのに、今更場所の問題くらいで諦められる訳もないのだ。

 少ししょっぱいような、こもった汗の匂いを振り撒くそれに、スコールは舌を這わせる。
ついさっき美味い食事を済ませたばかりの舌に、独特の苦みと匂いが乗った。
お世辞にも良い味とは言えないそれも、重ねた関係のお陰ですっかり慣れて、寧ろこれがフリオニールの味なのだと思うと、スコールは無性に興奮してしまう。

 人気の少ない、二人きりで過ごすには広い教室に、ぴちゃ、ぴちゃ、と水気の音がする。
ごく小さい筈の音なのに、フリオニールは鼓膜の神経がそれに集中してしまう所為で、嫌に響いているように思えた。


「ん、ん……っは…んちゅ……っ」
「……っ」


 先端にスコールの唇が吸い付いて、ちゅ、ちゅう、と啜る。
敏感な鈴口に与えられる刺激に、フリオニールが息を詰まらせて、机の端を強く掴んでいた。


「ス、コール……っ、く……っ!」
「ん、むぅ……っ」


 頭上で息を詰まらせる気配を聞きながら、スコールは口を開け、フリオニールの雄を飲み込んだ。
大きくなっている所為で全てを咥える事は出来なかったが、半分はいけた。
そのままスコールは太い首の所に舌を宛がい、ねっとりと緩慢な動きでフリオニールを愛でて行く。


「っは……!」


 フリオニールが熱の呼吸を吐いて、天井を仰ぐ。
喉仏の浮き上がった首筋を、汗の粒が流れ落ちて行くのを見て、スコールの躰の奥にある熱がまた燃え上がる。

 スコールはフリオニールの太腿に捕まる格好になって、頭を前後に動かし始めた。
目一杯に開けた小さな口を、太い一物が出入りして、口蓋がぴったりと竿に密着して摩擦を与える。


「んっ、んっ、ふ……っ、ん、むぅ……っ」


 スコールが喉を開くように意識して、よし深く雄を咥え込めば、咥内でフリオニールがびくんと震えるのが伝わった。
滲み出た先走りがスコールの舌の根を濡らす。
スコールは竿の裏側に舌を当てて、じゅぽ、じゅぽ、と音を立てて奉仕に夢中になった。


「スコール……っ、は、熱い……っ」
「んぷ、んっ…ふ、うん……っ!」


 早い限界を訴えるのは、やはりフリオニールの体が元々昂ぶりを持っていたからだろう。
机の端を握っていたフリオニールの手が、股間に顔を埋めるスコールの髪に絡む。
指先がそっと撫でるように濃茶色の髪を梳いて、スコールはその心地良さに目を細めていた。

 はあ、はあ、とフリオニールの荒い呼吸が繰り返される。
熱の奔流に振り回された躰中の毛穴が開いて、汗と精の匂いが振り撒かれていた。
その匂いが一番濃い場所に蹲っているスコールは、すっかりそれに充てられて、いつも厳格な仕事をする筈の理性が完全に役目を放棄している。
もっと濃くて、もっと熱い恋人の存在が欲しくて、スコールは逞しく育ったフリオニールを、根本深くまで咥えに行った。


「あぁ……っ!」


 艶めかしく蠢く舌と、奥に行く程狭くなって行く喉に迎え入れられて、フリオニールが思わず声を漏らす。
スコールの頭を撫でていた大きな手が強張って震えていた。


「ス、スコール……っ、く、待ってくれ……っ!もう、来てる…、から……っ」
「ん、むぅ……っ!」
「ふ、深く……あっ、うぅ……!舌が、舐めて……っは、あ……!」


 より深く、もっともっと、全部欲しいと、貪欲に食らい付くスコール。
喉奥に届く雄の感触に、息苦しさや嘔吐感がない訳ではなかったが、それよりもスコールはフリオニールを求めて止まらなかった。

 舌を左右に振って、竿の裏側を満遍なく舐めながら、フリオニールの逞しい太腿をゆっくりと撫でる。
ジャージ越しでも判る、発達しながらしっかりと引き締まった固い内転筋。
それに開いた足を押され、上から押さえ付けるように伸し掛かられるのを想像して、スコールの秘部がじゅくりと疼く。
雄を咥えたスコールの鼻から、興奮を隠さない大きな息が出て、フリオニールの股間を擽った。


「や、ば……スコール……っ」
「んっ、んっ…、ん、ちゅぅ、んむ、あむぅ……っ!」
「ふっ、ふぅ…っ、く、うぅぅ……っ────!」


 ぞくぞくと迫る切なさに、フリオニールが息を噤んだ瞬間だった。
教室と廊下を隔てるドアががらりと開いて、制服姿の男子生徒が一人、入って来る。


「ありゃあ、此処でもないか。あ、」
「……!!」


 男子生徒はきょろきょろと教室内を見回して、窓辺の席に座っているフリオニールを見付けた。
ばっちりと目が合って、フリオニールはぎくりと硬直する。


「なあ、ケフカ先生知らないか。科学部のことでちょっと確かめたい事があるから、探してるんだけど」
「い、いや……っ!」


 尋ねられた事にフリオニールが首を横に振った直後だった。
ぬる、と柔らかい肉が自身を舐める感触に襲われて、思わず肩が跳ねる。
弾みで堪えていたものが吹き出して、フリオニールの顔が益々真っ赤になるが、生徒はその事には気付いていないようだった。
そのまま肉厚の艶めかしさが竿にまとわりつき、丁寧に、丹念に這い回るものだから、フリオニールは喉奥を詰まらせて漏れそうになる声を必死に堪える。


「可笑しいなぁ。まあ、何処にいたって可笑しくない人だけど。悪いな、ありがとう」


 ひらりと手を振って、男子生徒は踵を返した。
教室を出て行って扉が締まり、おーい、と気のない呼ぶ声を上げながら、廊下の向こうへと消えていく。
その間、フリオニールは自身を包み込む淫靡な快感に耐え続けなくてはならなかった。

 長いようで短い緊張の時間が終わって、息を詰まらせたままのフリオニールがちらりと視線を落とせば、蒼の瞳が此方を見上げていた。
きっと幼馴染でさえも滅多に見る事がないであろう、悪戯な気配を宿らせたその瞳に、フリオニールは眉尻を吊り上げるが、


「スコール……っなんて事して……」
「……ふふ」


 形の良い双眸を細めて笑うスコール。
咥えていた雄をようやく離して、唾液と白濁の混じった舌の先端で、つんつんとフリオニールを突つく。


「あんた、ちょっとイっただろ」
「スコールがあんな事するから」
「辛そうだったから」
「スコールの所為だろ。見付かったらどうするつもりだったんだ」
「……さあ?」


 あまり考えていなかった、と言うスコールに、フリオニールは深い溜息を吐く。
普段の理性的で恥ずかしがり屋な恋人は何処に行ってしまったのか、一体何のスイッチがスコールをこうも大胆に変えるのか、未だにフリオニールは判らない。
その原因の全てが、自分にある事など知りもせず。

 スコールの唾液と、吐き出してしまった自身の精液で、フリオニールの雄はすっかり濡れている。
これなら、とスコールが思っていると、フリオニールの手がスコールの肩を掴んだ。
引っ張り上げられるように立ち上がると、ぶつけるようにキスをされて、予想していなかった事に目を丸くする。


「ん……っ!ん、むぁ、んむぅ……っ!」


 驚いて呆けていた一瞬の隙に、フリオニールの舌がスコールの咥内へと入って来る。
肉厚の舌がスコールの蜜液塗れのそれを絡め取り、外へと誘い出していく。
促されるままに連れ出された舌に、フリオニールが吸い付いて、ぢゅ、ぢゅる、と音を立てて啜った。
舌の根が痺れるような快感がスコールを襲い、ビクビクと震える細身の体を、フリオニールの太い腕が抱き締めるように捕まえた。


「あ、む、ぅう……んん……っ」
「ん、ん……っ、は、ん、ぢゅ……っ!」


 互いの唾液を交換し合うように、舌を絡ませ触れ合う二人。
もっとフリオニールを感じたいと、スコールがフリオニールの首に腕を絡めて身を寄せれば、スラックス越しに固いものが当たる。
スコールの細腰がゆらゆらと揺れて、スラックスの中で窮屈にしているものをフリオニールの雄に当て擦れば、益々フリオニールの熱が高まり、


「は、っは……!スコール……っ!」
「ふ、んっ……!あ、はぁ、フリオ……っ」


 名前呼ぶ声に呼応すると、フリオニールは椅子を蹴り退けて、机の前にスコールを立たせる。
咥内に残る快感の名残に光悦としているスコールを、机の方へと向かわせて、自分に背中を向けさせた。
そのまま後ろから抱き込むように腕を回すと、その手がスコールの下肢へと降りて、ベルトに指をかける。
かちゃかちゃと判り易く急く手付きでベルトを外すフリオニールの、ふう、ふう、と言う荒い呼吸がスコールの耳元を擽った。


「ん、フリオ……っ」
「は……ん、スコール……!」
「教室だから、まずいんじゃないのか?」
「此処までしておいて、止めれる訳ないだろ……っ!」


 判っている癖にと睨む緋色に、スコールの躰にぞくぞくとした熱が奔る。
スラックスが下ろされ、下着もずらされて、露わになった小さな尻の中心に、熱の塊が押し付けられた。
窓の向こうではホイッスルが鳴り、午後の試合前のアップか、散らばっていた生徒達が集合して行く。
その気配が、遠く届く声が、此処が閉じられたプライベート空間ではない事を突きつけていたが、それでも若い二人を止める術はない。

 フリオニールはスコールの体を掻き抱くように捕まえて、腰を推し進めた。
濡れそぼった雄は、ずっと期待して待ち望んでいた蜜壺の中へ、ぬぷぬぷと抵抗なく入って行く。


「あ、あ……っ、んぁあ……っ!」


 いつもよりも一際大きく感じられるフリオニールの存在感に、スコールの唇から感じ入った声が漏れる。
同時にフリオニールも、極上の締め付けと感触で迎え入れてくれるスコールの胎内の感触に、光悦の表情を浮かべていた。


「スコール……っ、熱い……、絡み付いて来て…気持ち良い……っ!」
「あ…あ……っ、フリオ、ニール…ぅ……っ!」


 耳元で囁かれるフリオニールの言葉に、スコールの躰がまた熱を高めていく。
きゅう、と切なげに締め付ける秘部を、太いものが擦りながら奥へ奥へと拓き進み、


「フリオ…の……大きい……あっ、あぁ……っ!」
「……っ!」


 机についたスコールの両手が握り締められ、床を踏む足が爪先を強張らせた。
固い先端がスコールの奥に当たって、ビクンッと跳ねた肢体が反射的に逃げを打つが、フリオニールの腕はしっかりとスコールの躰を拘束している。
その少し窮屈にも感じさせる腕の力が、スコールには心地良い。

 フリオニールの律動が始まり、スコールの奥の窄まりがコツコツとノックされる。
小刻みに電気を浴びせるような快感がスコールの腹の底から響いて来て、スコールは天井を仰ぎながらあえかな声を上げていた。


「あっ、あっ、あっ…!んっ、あっ、あぁ……!」
「スコール…っは、声を……っ」
「あ、ふっ、あぁっ……!んっ、んぁん…っ!」
「人が来るかも知れないから……っ」


 突き上げる度に上がる、スコールの甘くて蕩けた声。
それが快感の強さに合わせ、大きくなって行く事を、フリオニールは知っていた。
その声を若しも通り掛かりの誰かに聞かれたらと、フリオニールはスコールに声を抑えるようにと促すが、


「あっ、ひっ、無理……、あぁ……っ!んぁっ、あっ……!」
「は、はぁっ、はっ……!」
「フリ、オの…あっ、気持ち良いとこ、当たってる、からぁ……っ!んっ、あぁっ!」


 ずんっ、とフリオニールが強く腰を突き入れれば、スコールの秘奥に隠した弱点を捉えた。
ビクンッと背中を撓らせて、きゅうっとまた強く締め付けたスコールに、フリオニールの喉が唾を飲み込む音を鳴らす。

 フリオニールはスコールを抱き締める腕に力を込めた。
締め付けるような力の入り方に、ビクッとスコールの躰が震えたが、それは怯えではない。
首の後ろに当たる、フリオニールの早い呼吸のリズムが、彼が如何に興奮しているかをスコールに伝えていた。
それの意味する所を本能が理解して、スコールの秘部が期待するように艶めかしく蠢いてフリオニールを奥へと誘う。


「う、う……っ!」
「んあぁっ!」


 既に深い場所に届いていた雄が、更にスコールの奥を抉った。
堪らず声を上げるスコールに、不味い、とフリオニールも悟るが、雄の衝動は止まる所を知らない。

 教室と言う場所にあるまじき、皮膚を強くぶつけ合う音が響く。
スコールの喘ぐ声も大きくなって行き、教室外の廊下を人が歩けば、直ぐに気付かれてしまうだろう。
それでも性の快感を知ってまだ間もない若者二人が理性を取り戻す事は出来ず、フリオニールも歯止めが利かない。
それならいっそと、フリオニールはスコールの口元に自分の手を持って行った。


「はっ、あっ……!あ、ん、あぐぅ……っ」
「ふっ、う…っ、く……っ!」
「んむ、ふり、お、むぅんん……っ!」


 フリオニールの指が、開きっぱなしになっていたスコールの口の中に進入した。
指先がスコールの舌を押さえ付け、手指に邪魔されたスコールの声がくぐもる。


「おっ、おんっ、ふむぅっ……!んっ、ん、おぅんっ」
「は、はぁ…っ、噛んで良い……っ!」
「お、ふくぅ……っ!」


 息苦しさを押し付ける代わりに、楽になれるなら幾らでも、と促すフリオニール。
それでも一瞬は迷ったスコールだったが、深い場所を強く突き上げられると、躊躇は飛んだ。
スコールの歯がフリオニールの指を噛み、唾液が溢れ出して、フリオニールの指とスコールの口元を濡らす。


「あおっ、おっ、おっ…!お、ふっ、おぁ、ふぅうっ!」
「スコール……っ、中が……奥が縮んで……っ、んっ、うぅう……っ!」
「おっ、ふり、おっ、んん……っ!あっ、あふっ、ふぅん…っ!」
「スコールっ…!スコール……っ!」


 一層激しさを増して行くフリオニールの律動に、スコールの体は限界へと上り詰める。
爪先立ちになった足元が震え、両手をついて姿勢を支えていた机の脚が、ガタガタと煩い音を立てていた。


「ふり、ふりお……っ!も、んっ、俺……っ!イふっ、うっ、んん……っ!」
「うぁ……っ!吸い付いて…っ、く、うぅうっ!」


 若い竹のように大きく撓るスコールの躰。
腰を掴むフリオニールの手に、スコールの右手が重ねられる。
と、フリオニールはその手を捕まえると、ぐっと後ろに強く引っ張った。
碌に力の入らないスコールの上肢が、弧の形に仰け反りながらビクッビクッビクッと大きく戦慄いた直後、


「んむっ、んっ!んっ、ふむぅううう……っ!」


 フリオニールの指を噛んで、雄を目一杯に締め付けながら、スコールは絶頂した。
びゅくっ、びゅくんっ、と勢いよく噴き出した蜜が机の下を汚す。
媚肉が細かく震えながら、その道を強く閉じて、それが深く咥え込んだフリオニールを包み込むように密着し、


「う……うぅうう……っ!」
「あ、むぅっ!ふくっ、んんーー…っ!!」


 スコールの胎内で、雄が大きな脈を打ったかと思うと、熱の奔流が秘奥めがけて放射される。
注ぎ込まれるフリオニールの情愛を受け止めながら、スコールは細い腰を悶えるように揺らめかせ、続け様の絶頂へと導かれた。

 呼吸も忘れ、時間が止まったような感覚がしばらく続いた後、フリオニールの唇から詰めた息が漏れる。
はぁっ、と零れたそれがスコールの項を擽り、ヒクン、とスコールの秘部が震えた。
絶頂の波そのものが引いても、その余韻はまだスコールの躰の中に巣食っており、些細な空気の流れさえも、スコールにとっては刺激の種になる。


「あ……っ、あ……っ」
「……スコー、ル……」
「は……フ、リ……んん……っ」


 呼ぶ声に応えようとしたスコールだったが、ずる、と中に納まっていたものが動くのを感じて、甘い音が漏れた。
ゆっくり内肉を擦りながら下がって行く熱の塊に、その残滓の感触を残した秘奥がまた疼く。


「あ、あ……フリオ……っんぁ……!」


 離れて行く感触に駄々を捏ねるように、スコールは腰を捩らせる。
きゅう、と吸い付く柔らかくて温かいスコールの胎内に求められて、フリオニールの熱も再び滾って行く。

 しかし、急激な心拍数の上昇の所為だろうか。
ふらりとフリオニールの足元が蹈鞴を踏んで、後ろに忘れ去られていた椅子に腰が落ちる。
ぬぽっ、と抜けて行ったフリオニールに、スコールの唇から「んぁ……っ!」と切ない声が零れる。
そして咥えていたものがすっかり出て行き、腕を後ろ手に掴んでいた手も離れると、スコールの脚元もぐらついて、フリオニールの膝の上に落ちるように座り込んだのだった。

 はあ、はあ、はあ、と二人の荒い呼吸が続く。
天井を仰ぐフリオニールと、その胸に頬を預けているスコール。
スコールは、フリオニールの心臓の音が逸馬のように跳ねているのを聞きながら、体の奥から溢れ出してくるものの感触に身を震わせた。


「っん……」


 とろりと狭間を流れ落ちて行くもの。
それを留めようとするように、秘部が窄まり、奥は栓を欲しがってヒクヒクと痙攣している。


「……フリ、オ……」
「は……、はぁ……スコール、ん……」
「んん……っ」


 フリオニールの瞳がスコールの貌を捉えると、直ぐに彼はキスをしに来た。
迎え入れてスコールが薄く唇を開けば、舌が差し込まれて、唾液まみれのスコールの咥内をしゃぶる。

 ちゅぷちゅぷと耳の奥で鳴る淫音が心地良くて、スコールの手がフルオニールの頬に添えられた。
もっと、と言う合図である事をフリオニールも悟るが、しかし二人の唇はついと離れて、


「……ティーダの応援、行かないと……」


 フリオニールの言葉に、スコールの眉間に皺が寄せられる。
折角求めているのにと、駄々を捏ねる子供のような表情を浮かべるスコールに、フリオニールは対照的に眉尻を下げて困ったように笑った。


「スコールも、試合を見なくちゃいけないんだろ?」
「……データ収集なら他の奴も出来る。俺がいなくても問題ない」
「でも皆はスコールを当てにしてる」
「俺は部員じゃない」
「まあ、そうだけどさ」
「あんたも」
「でも此処ではもう───な?」


 求められるのも、ねだってくれるのも、フリオニールにとっては嬉しい事だ。
普段のスコールがこうも積極的に、情熱的に誘ってくる事が少ない分、そう思うのも事実。
しかし、一度熱を放ったお陰で戻って来てくれた理性が、この場所での“次”をフリオニールに躊躇わせた。

 そしてスコールも、困ったように笑う恋人の顔に、我儘を通す気も失せて来る。
貪られたばかりの体は、もっともっととフリオニールの熱を欲しがっていたが、鍵もかけていない教室でこれ以上の事をして、誰かに見付かったらそれこそ大問題になる。
そうなったら、後少ししか残っていない、恋人と同じ学び舎で過ごせる時間さえ、なくなってしまうかも知れないのだ。


(それは……嫌だ)


 フリオニールの雄をしゃぶっていた時には、全く頭から抜け落ちていた、現実のリスク。
さっきはそれがスコールを余計に昂らせ、フリオニールの熱まで煽ってくれたけれど、流石にもう同じ事は出来なかった。


「……判った。戻る」
「うん」
「……その代わり、」


 今はこれで終わりにする、その代わりに、と続けたスコールに、フリオニールは「うん?」と首を傾げて先を促す。


「……今日。あんたの家、行きたい」


 残りのゲームも終わって、その後の恒例の反省会も終わって。
一部の部員は三年生を送り出す意味で、ファミレスあたりでの打ち上げを計画しているそうだが、スコールはそれに参加するつもりはなかった。
フリオニールは連れて行かれそうだったが、それより先に、スコールは恋人と過ごす時間を予約したかった。

 スコールがフリオニールの家に来るのは、よくある事だ。
だからいつもの事のように、フリオニールも頷こうとして、はたと見つめる蒼色に揺蕩う熱に気付く。


「ス───」


 名前を呼ぼうとしたフリオニールの唇を、スコールの柔らかな唇が塞ぐ。
濡れた舌先がちろりとフリオニールの唇を舐めて、直ぐに離れた。
艶をまとった唇に笑みを浮かべる恋人が求めるものを拒否する術を、フリオニールは知らない。




人目から隠れてお盛んになってるフリスコが見たいなあと思った勢いで。
隠れてる筈なのに盛り上がっちゃって、躊躇ってた癖にフリオニールも激しくしてしまって、お互いがっついてる感じの二人も良いなと思ったのです。