虚実の庭の遊びごと


 ホロウバスティオンの地下にあるコンピュータールームには、様々な機能が納められている。
元々これは、街を治めていた賢者が自身の研究に使っていたもので、その研究内容に合わせて様々な機能が追加されたもののようだった。
現状、製造主も持ち主もいない状態である為、詳細を知る物はゼロである。
この為、何処に何の機能が眠っているのか、今もそれが生きているのかすらも、判らない事は多かった。

 それでも、使えるのなら使わない手はない、と踏んだのはレオンである。
危険なプログラムが内包されている可能性もあったが、それも調べなくては判らない話。
調べると言うことは、ある程度の使用が強いられるのは当然の事で、及び腰になってばかりでは始まるものも始まらない。
二度とこの街が闇に飲み込まれない為にも、賢者がどうして闇を召喚しこの世界を滅ぼしたのかを調べる為にも、このブラックボックスは調べなくてはならなかったのだ。

 城と街のあちこちに現れるハートレスを退治しながらの調査は、遅々としていた。
それでも日進月歩は確かな筈だと信じて、レオン達は少しずつ少しずつ、街を昔と同じ───それ以上の光景を取り戻す為、奮闘を続けている。

 城の中の大方の安全が担保された頃、コンピューターの相手を仕事として担っていたシドが、使えそうなプログラムを幾つか見付けた、と報告した。
最たるものは、城内を守る為に稼働していたのであろう、セキュリティシステムのプログラムの断片だ。
直ぐに運用するには無理のある状態であった為、シドは可能な限りのソースを掻き集めると、凡その骨格になるであろうパーツが整った所で、新たなプログラム構築を始めた。
恐らくは城内の不法侵入等を防ぐ目的として使われていたそれを、これから復興を始める街に設置する事が決まると、今度はハートレスをターゲットとしつつ人には無害である事を新しく組み込まなければならなかった。
ハートレスのデータは、基礎的な所はコンピューターの中に揃っていたので、遠慮なく拝借させて貰った。
それでも本格的に稼働させるには時間を要したが、シドが険しい顔をしながらプログラムを完成させたお陰で、その後、街の復興活動がし易くなったのは確かだ。

 レオン達が見つけたデータの中で最も有効利用が出来たのはセキュリティシステムだが、コンピューターの中にはそれ以外にも様々なデータが納められていた。
レオン達が最も調べたいと思っている、闇に関する研究レポートの類は、その場所こそ見付けたものの、パスワードが設定されている所為で中身の確認には至っていない。
パスワードの解析も含めて調査は続いているが、やはりこれは簡単には解けそうにない。

 データの海を確認している内に、賢者の城には、様々な機能が秘められている事が判って来た。
その中でもレオン達が目を瞠ったのは、データ上のものを現実に精製ずる事が出来る機械だ。
大きさや重さ、色、形と言ったデータを元にして、その場にない筈のものを作り出す。
機械のパーツが足りない時に便利だな、と言ったのはシドだ。
確かにそう言う風に使う事が出来れば、復興にも役に立つ。
しかし、精製するのに使われているであろう、大本の素材と言うものがいまいち判然とせず、食べ物のような類は、作れても口に入れるのは聊か躊躇われた。
こう言った所は、もっと城の物理的な調査が進まなくては、きっと解明されないだろう。

 そうして様々な角度から調査のアプローチを続けている内に、一年近くが経過した。
街に並ぶ建物の修復も少しずつ進み、人が住める環境と言うものも、狭いながら確保する事が出来た。
その頃から、ぽつりぽつりと人が戻って来るようになり、伴って新たな問題の種も起こりはしたが、ずっとぼんやりと頭に描いていた“復興への路”が現実として形になり始めたのだと思うと、面映ゆいものがあった。




 クラウドが初めて故郷の地に戻った時、其処はまだ人の気配もなかった。
先んじて戻っていたレオン達は、城での生活と調査を行っている最中で、街中は勿論、城内にもハートレスの姿があった。
やっとシドがセキュリティシステムの試作を実験していた段階で、街を整える事が出来るのはいつになるやら、と言う具合だ。
その頃のクラウドは、何処にいるのかも判らない“奴”を探し、闇の力を使って方々を彷徨っていたのだが、折角戻って来たのなら少しは手伝え、と捕まる度、一時の仮宿代のように、レオン達に指定された場所でハートレス退治を繰り返していた。

 それがまだほんの数ヵ月前の話だったのだが、シドが完成させたセキュリティシステムが功を奏したか、街には少しずつ人が戻ってきている。
相変わらずハートレスは出現するし、街の復興をしようにも人手は足りないばかりだが、これは大きな進歩だとレオンは言った。

 それだけ街の復興が進んでいても、クラウドは相変わらず、レオンの家に寝泊まりしている。
気紛れにしか帰らない故郷に持ち家を取った所で碌に使われないだけだし、空き家同然の一角を占拠させて貰うよりも、そのスペースを他者に開放した方が余程有効的だ、と言うのは勿論のこと、人のいる他人の家に上がった方が生活の準備が整えられているので都合が良い、と言うのが一番の理由だ。
その家主も家にいない時の方が多いのは確かだが、復興がようやく軌道に乗ろうかと言う頃合いなのだから、それは仕方がないだろう。
それでも一通りの家具は(何処かから持ち込んだような中古然としたものばかりではあるが)揃えられているし、家主が帰ってくれば温かい食事にもあり付ける。
食事については彼等の活動拠点に邪魔をさせて貰う事もあるが、大人数になる事を好まないクラウドにとっては、レオンが作った食事を一人のんびりと食べている方が楽だった。
そしてレオンに宿代として働かされる以外は、存外と気儘に過ごしていられるので、ホテル代わりに使わせて貰うには快適なのである。
ついでに、レオンの機嫌が余程悪い時でなければ、持て余した欲を発散する事も出来るものだから、いよいよクラウドは自分専用の生活スペースを持つ事に気乗りしていなかった。

 闇の力を使って方々を周った後、休息がてらに故郷へと戻って来てから今日で三日───あまり長居をすると重労働に駆り出される経験から、そろそろ出立しようかとクラウドが思っていた時だった。
戻って来た時、手早く連絡を取れるようにする為に、家を使って良い代わりに持っておけ、と言われた連絡用の通信機が着信音を鳴らした。
無視をすると次に戻って来た時に冷遇される事を知っていたから、クラウドは渋々気味に通信に出る。


「なんだ?」
『面白いものを見付けた。地下に来い』


 通信相手であるレオンは、それだけ言うとさっさと通話を切った。
詳細くらい寄越せ、とクラウドは思うが、藪から棒の指示などいつもの事だ。
やれやれ、と溜息を吐きつつ、クラウドは手っ取り早くと翼を広げ、窓枠を蹴って跳び立つ。

 まだまだ限られた小さな一角以外は廃墟然としている街の頭上を抜けて、継ぎ接ぎにも見える城の中庭に降りる。
レオンがいるのは地下───と言うことは嘗ての城の心臓部であるコンピュータールームだろう。
レオンが一週間の内、半分以上は籠っている場所だ。

 シドが修繕して使えるようにしたと言うエレベーターを使い、地下フロアまで降りていく。
狭く入り組んだ通路を通り過ぎ、嘗ての賢者が多くの時間を過ごしていたのであろう、書庫兼私室と思われる一部屋を抜けた先に、コンピュータールームがある。
外の光も一切届かない場所である為、此処にいる間は意識的に時間を確認しないと、知らない間に日を跨ぐ。
そう言えば昨日もレオンは戻ってきてなかったな、とクラウドは今更に思った。
いつもの事であるので、大して気にするような事でもない。

 コンピュータールームに入ると、其処にはレオンだけではなく、シドの姿もあった。
二人はメインコンソールと思われるパネルを忙しなく触りながら、感心した様子で窓ガラスの向こうを見ている。


「これは掘り出し物だな。シド、もっとデータをアップロードさせても大丈夫か?」
「ああ、行け行け。メモリも断然余裕がある。いっその事、どこまでの情報量なら読み込めるか、テストしても良いだろ」
「それは別の機会にしないか。万が一、全部が吹っ飛んだら泣く所じゃないだろう」
「じゃあデータの担保を取ってからだな。だがプログラムとしてもこいつはデカいから、保存に必要な容量を食いそうだ。出来れば外部に持ち出しておきたいな。そうすりゃ、此処に在るもんが吹っ飛んでも、ある程度のリカバリーは出来る」
「総容量は?今あるもので足りるか?」
「あ〜……分割すりゃあ行けるか。しかしそうするとメタが崩れる可能性があるから、出来りゃ一括が良いな。後で物を確認するか」


 二人はクラウドの気配には全く気付いていない様子で、コンピューターに夢中になっている。
呼んでおいてか、とクラウドは思ったが、これもいつもの事だ。


「おい、レオン」
「ん?ああ、クラウド、来たか」


 呼んでみれば、レオンは首を巡らせて此方を見ると、クラウドを確認してまた直ぐコンピューターに向き直った。
その背に近付きながら、クラウドはガラスの向こうにあるものを見る。


「あんた達、何をしているんだ。これは────」


 ガラスの向こうは、賢者が研究に使っていたのであろう、コンピューターの出力デバイスがあった。
普段、レオン達はこの出力デバイスを使い、復興に必要になる細々とした小物の補充を作ったりと利用しているのだが、今日はそのデバイスの形が影も見えない。
どうやら、ガラスはモニターとしての役割も持っていたようで、今其処には何処とも知れない───だが何処か懐かしさのある───風景が映し出されている。


「……こいつは?」
「バーチャルルームの映像を此方に持って来ている」
「そんな部屋があったのか」
「本来の使い方なのかは判らないがな。3Dデータやマッピング用のデータを物理として出力する前の目視確認に丁度良いから使っている」
「ふぅん。で、この映像のデータ元は?」
「昔のこの街の様子だ」


 レオンの言葉に、クラウドは俄かに目を瞠る。

 石畳の地面、白塗り色が目立つ家々の外壁、レンガ屋根、そして今もこの街にある小さな噴水のある広場。
何処かの高台から記録されたのだろう、遠くには今の継ぎ接ぎのような歪さでなく、綺麗な装飾と共に夕焼け色に輝く城のシルエットがあった。
それはクラウドの遠い記憶の中に埋もれ、久しく取り出していなかった思い出の琴線を揺らす。
市場の光景が映し出された時、よく買い出しに行かされた事を思い出して、ああ確かに此処は───と理解した。

 風景映像には、街並みだけでなく、其処で暮らす人々の姿も映っている。
音声データがないのか、出力に引っ張ってきていないのか、音はなかったが、口を大きく開けて客を呼び込もうとしている店主の姿が映ると、その声が聞こえて来るようだった。

 十年以上も昔のデータが、よく此処まで綺麗に残っていたものだ。
思わず感心したクラウドの胸中は、レオンやシドには一入だったようで、二人はじっとモニターを見詰めている。


「……シド、これを起動させたまま、バーチャルルームに入っても問題ないか?」
「あー……ああ、大丈夫だ。折角だ、お前等二人でちょっと色々見て来い」
「……は?俺もか?」


 コンソールを確認しながら言ったシドに、寝耳に水だとクラウドは言った。
が、レオンは「そうだな、行ってくる」と言って、クラウドの腕を掴んでコンピュータールームを出て行く。
同行するなど一言も言っていないのだが、とクラウドは訴えたが、レオンは気にしなかった。

 レオンが常駐している事もあって、城のコンピュータールームはクラウドも度々訪れるが、其処から更に奥や他の部屋と言った場所には近付いた事がない。
クラウドの用事があるのはレオンだけだったし、下手にあちこちを突いて事故的に何かを壊したら、雷だけでは済まされまい。
だからクラウドが城の地下について知っている事は少なく、バーチャルルームなるものがあるのも初めて聞いた。
他にも色々とあるんだろうな、とやはり入り組んだ作りになっている通路を迷いなく進むレオンの後に続きながら、クラウドは気のない表情で幾つも並ぶ扉の前を通り過ぎて行った。

 レオンがある部屋の扉を開けると、其処は円柱形の作りをしており、壁には様々なデバイスのランプらしきものが光っていた。
壁中を埋め尽くさんばかりのランプに目がちかちかと訴えるのを、クラウドは乱暴に目元を擦って治す。
床はつるりとしたタイル状の板金で覆われ、壁の近くにはコードやパイプが張り巡らされていた。

 慣れているのだろう、迷いのない様子で歩を進めるレオンに従って、クラウドも部屋の中へと入って行く。
そのまま5歩程進んだ所で、二人を囲む風景は一転した。
トンネルを抜けて異世界に迷い込むような、そんな感覚で周囲の景色が組み替えられるように変貌し、つい先程、ガラスモニター越しに見ていた景色が目の前に現れる。


「こいつは大した代物だな」
「ああ。普段はこんなに大きなデータを使ってはいないがな」


 そう言いながらレオンは、小さな噴水に近付いて行く。
遠くなって行くその背中に、距離感はどうやって再現されているんだ、バーチャルなら空間の広さは変わらない筈、その内壁にぶつかるのでは…とクラウドは思ったが、石畳の下に隠れた床に何か機械が動いているのだろうか。
レオンはどんどん歩いて行き、クラウドとは数メートルの距離が出来ていた。
それでも彼が壁らしきものにぶつかる様子はなく、噴水の傍まで辿り着くと、レオンは屈んで噴水を囲む石壁や水の感触を確かめている。


『どうだ、レオン。物理情報データを見付けたから放り込んでみたんだが、感触はあるか?』


 何処からともなく聞こえた声は、シドのものだ。
何処から、とクラウドが辺りを見回していると、空にぽかりとモニター画面が出力され、シドの顔が映る。
レオンは濡れた感触のある手指を振りながら、シドを見上げた。


「壁も水も感触がある。ただ、水が少しぬるついていると言うか、ザラザラしていると言うか……」
『そりゃ多分、解消度が低いんだろ。上げても良いが、ま、今回はただの確認だ。マップを出来るだけ広く再現できるように回したから、色々見て回れや。ガキだったお前等でも、どっかに見た事あるモンがあるかも知れねえしな』
「……ああ、そうだな」


 シドの言葉に、レオンは微かに目元を和らげた。

 この街が闇に飲まれた時、レオンもクラウドもまだ子供だった。
無論、エアリスとユフィも同様で、特に幼かったユフィは、故郷の光景と言うものを朧気にしか思い出す事が出来ない。
避難した子供たちの中で年長に当たるレオンも、時間の経過も含め、記憶には霞がかかるようになり、特に鮮明な記憶として残っている以外のものは、取り出す事が難しい。
それでも、見れば、見付ければ、何か新しく思い出す事もあるだろうと、シドの計らいはそう言う意図もあるのだろう。


『じゃあ、機械もデータも問題ないようだし、俺はじいさんの家に戻るわ。バックアップに使えるものも探しておきたいしな』
「判った。何か異変があればアラートを鳴らすようにするから、受けれる準備だけしておいてくれ」
『おう。クラウド、お前もちゃんと見とけよ。こう言うもんは、出来るだけ多い人数で確認した方が精度が上げられるもんだ』
「……判った」


 ぼうと景色を眺めているだけだったクラウドに、シドが釘を刺す。
それに対しクラウドは、一応と言う程度の返事をするのみであった。

 空に映っていたシドの顔が消えると、辺りからさわさわと人の声が聞こえ始めた。
幽霊でもあるまいから、音声データの再生に機械の容量が回されたのだろう。
映像としてのデータであるからか、街行く人々は映っては消え、また元の位置に戻って歩き、また消えてと繰り返している。
時間の経過が短いタイミングで巻き戻っているような風景になるのは、“記録された過去のデータ”を下に出力されている以上、仕方のない現象なのだろう。

 しばらく立ち尽くしていたクラウドだったが、レオンが噴水の傍から離れたのを切っ掛けに、その場所に移動した。
噴水を囲む石レンガを足で軽く小突いてみると、固い感触が帰って来る。
先のレオンとシドの遣り取りを見ていなければ、これがデータで再現された虚構の風景だとは思わないだろう。

 バーチャルルームの構造について、クラウドは考える事は止めた。
仕組みがどうのと言うのは、精々シドでなくては判らないだろうし、クラウドにとっては判っていようがいまいがどうでも良い事だ。
人体に悪影響を齎すような代物でなければ、便利であるものを使わないのは勿体ないし、安全性についてはシドとレオンが問題ないと思って使っているなら、クラウドが異を唱えるようなものでもない。

 データはかなりの数が納められていたのか、街は本当に隅から隅までよく再現されていた。
路地裏で鼠を追い駆ける猫がいたり、酔い潰れた男が転がっていたり、道端で転んで泣き出す子供がいたり。
市場を歩くと、見覚えのある顔もちらほらとあって、確かにこの風景が昔のこの街を映しているものだと言う事が実感できた。

 散策している間、レオンとクラウドの間に会話はない。
比較的気安い仲であるとは言っても、元より共に言葉は少ないし、ユフィのように何でも報告したがるようなオープンさもない。
ただ時折、あれは見覚えがある、これは知らない、とどちらもが独り言のようにぽつぽつと零すだけ。
それを何度か繰り返した後、レオンは言った。


「懐かしむ程には、やはり、なれないようだな」
「子供だったからだろ」
「……そうだな」


 遠い記憶に夢見る程に焦がれていた、闇に覆われる前の故郷の街並。
それに並々ならぬ心血を注いでいるレオンであるが、やはり、離れた時間が長過ぎた事と、失ったその瞬間の自分の年齢を思うと、懐かしさや感慨と言ったものはどうにも薄い。
それよりもレオンは、この光景の幾何を蘇らせる事が出来るかと、その疑問ばかりに囚われてしまう。

 レオンの口から、ふう、と一つ溜息が漏れる。
緩く頭を振る仕草があって、何か思考を振り切ったのが判った。
顔を挙げた時、レオンの表情はもういつもの形に戻っている。


「各データの年代の確認は、シドかマーリン様じゃないと無理だな。俺達じゃ記憶が曖昧過ぎる。他にも、協力して貰えそうな人を募って確認するのも良さそうだが、一般人はあまりコンピュータールームには入れたくないし……映像データだけが持っていければ十分か」


 そう言いながら、レオンは道を一つ曲がった。
直ぐ隣をデータから復元された人が通り過ぎていく。
このエリアのデータは長い記録時間のものが入っているのか、人波は中々途切れずに遠くまで歩いて行き、まるで人々の普通の生活風景が丸ごと再現されているように見える。

 何処まで街の風景が再現されているのか、少し細かい所も見てみよう、とレオンは言った。
広場に大通り、市場と言った所は、元々人の往来が活発であったし、生活の中心であったから、多くのデータが残っているのは予想できる。
そう言った生活の拠点から少し離れ、人通りが少ない場所はどうなっているのか。
復興に際し、全ての街並みを復元する必要はないし、元より無理な話であるから、そんな場所まで確認する事には大して意味はない。
だが、データの再現性であるとか、精密性を確かめるには、重箱の隅をつつくような調査も無駄ではないのだ。


「所々の光の屈折が可笑しいな。記録データの時間帯の差かな」
「季節も歪んでる場所があるぞ。この辺りは秋か?生垣の葉が赤い」


 よくよく見ると、街を歩く人の服装にも、季節の違いが出ている。
それが一本の道で無作為に混じり合って歩いているので、クラウド達には随分とミスマッチな光景になっていた。
寒そうに悴む手を擦り合わしている人の隣を、暑い暑いと手団扇している人が通り過ぎて行くのだから、面白いものだ。

 隣の道はどうなっているだろう、とレオンが適当に路地に入った。
其処を抜けて反対側の道に出ようとしていたのだが、ふとその足が止まって、後ろを歩いていたクラウドがその背にぶつかる。


「おい、急に止まるな」
「あ……ああ、すまん。ちょっと、道を変えようと思ったんだ」


 レオンのその言葉に、クラウドは違和感を覚えて眉根を寄せる。
どうせデータで作られた道なのだから、進む道を一つ二つ変えた所で、映し出されている風景は変わるまい。
何か妙なものでも見付けたかとクラウドが首を伸ばして、レオンの影からその向こうを見てみると、


「……大胆な奴もいたもんだな」
「………はあ……」


 呟くクラウドの隣で、レオンは傷のある額に手を当てて大きな溜息を吐く。
そんな二人の前には、路地裏の薄暗がりの中で、卑猥な行為に及んでいる男女の姿が映し出されていた。

 監視カメラか何かに映り込んでいたのか、それで真っ最中のデータが残っていたのだろうか。
髪の長い女を壁に凭れさせ、向き合ってまぐわっている男。
恋人同士なのか、仲睦まじい様子であったが、中々に生々しい光景である。
成程、レオンが足を止める筈だと、理性と倫理観の強い男が気まずくなるのも無理はないと、クラウドは思った。

 まだまだ盛り上がる男女から背を向けて、レオンは元の道へと戻った。
とんだプライベート映像に出くわしたお陰で、レオンが少しパニックになっているのは想像に難くない。
心なしか覚束ない足取りで別の道を探そうと歩き出すレオンを、クラウドは変わらずその背を追うように歩いていたが、


(そう言えば、しばらくしていないな)


 ふと、そんな事を思い出す。
首だけを巡らせ、今離れたばかりの路地を見ると、今正に女が果てたと言う表情を浮かべている。
薄らとノイズが出ているその光景は、もう少しすればデータの再生が終わるのかも知れない。
しかしこのバーチャルルームで映像が再現されている限り、彼等はまたまぐわい始めるに違いない。

 前を歩く男に視線を戻せば、足元がまだ少し忙しない。
初心な訳でもあるまいが、まさかあんなデータが残っている上に目の前で再生されるとは思ってもいなかったのだろう、動揺は中々消えないらしい。
同時に、クラウドの思考は少々下世話な方にも傾いていた。

 またしばらく、歩く道を変えながら、二人は散策を続けた。
場所によって空の色も不規則に変わるので、このバーチャル世界に来てからの時間感覚はよく判らない事になっている。
それでも、少し歩き疲れたと思う程度には見て回った所で、二人は最初の広場へと戻って来た。

 レオンは噴水の縁に腰を下ろして、街並みを過ぎ行く人々の風景を眺めて言った。


「色々と参考にはなりそうだな。今度、エアリスやユフィにも見せてみるか」
「路地裏を通る時は気を付けた方が良いぞ」
「……判っている」


 わざわざ言うなと溜息を吐くレオン。
まだ忘れられない不意の光景は、婦女子───しかも片方はまだ未成年だ───に見せるには不適切だ。
うっかり鉢合わせしないように、上手く案内しなくてはならない。
その為にも、レオンはまだ何度かこのデータ内を歩き回る必要があるだろう。


「───で、今日の所は気が済んだのか」


 クラウドが訊ねると、レオンは「そうだな」と言った。


「もっと確認したい所はあるが、一日二日で終わるものでもなさそうだし。また時間を作って確かめに来ようと思う」
「そうか。なら、もう良いな」
「ああ。データの再現性と安定も確認できたし、後は帰る前にデータサイズをもう一度確認して……」


 今日やるべき事、この後の事を口に出して確認するレオンだったが、その言葉が不意に遮られた。
顎に触れた指先に軽く持ち上げられ、頭が上向く。
視界が金糸に埋め尽くされて、生暖かい感触が舐めるように唇の形をなぞった。
ぞくんとしたものが首筋の後ろを走ったかと思うと、息を飲んで緩んだ唇の隙間から、ぬるりと肉厚の舌が進入して来る。


「んんっ」


 突然の事に目を見開いているレオンに構わず、クラウドはレオンの舌を絡め取った。
唾液を塗しながら丹念に舌先でレオンの舌を撫で回し、覚えのある感覚に逃げを打った舌を追って、更に奥へ。
もう一度舌を捉えると、じゅる、と音を立てて啜った。
反射的に体ごと逃げようとするレオンだったが、背中に聞こえる水音で逃げ場がない事を思い出す。


「ん、ぅ……ふ…うっ……!」


 蒼い瞳が抗議に睨んだ。
それを間近で見詰めながら、独特の虹彩を宿した碧の瞳が薄らと笑う。
レオンはクラウドの肩を掴んで押し放そうと試みたが、クラウドは上から覆い被さるように寄り掛かって来る。
後ろにこれ以上斃れないように、本能的に水への落下を防ごうと腹筋に力を入れていれば、押し返す力など微々たるもの。
キスの所為で頭の芯がぼやけてくれば、クラウドの肩を掴む力は、次第に捕まる場所を求めての縋るものに変わってしまう。

 久しぶりのレオンの咥内は、少し乾燥していた。
それをクラウドは自身の唾液でたっぷりと濡らし、じゅるじゅるとわざとらしく音を立てて啜る。
耳の奥から聞こえる淫水の音に、レオンの体がびくびくと弾んでいるのが判った。

 飲み込み切れなくなった唾が、レオンの口端から伝い落ちて行く。
レオンの白いシャツの上に、ぽたぽたと小さな意味が浮かぶようになった頃に、ようやくクラウドはレオンの唇を解放した。


「……っは……!は、はぁ、っお前、なんて所で……!」


 顎を伝う唾液を腕で拭いながら、レオンはクラウドを睨み付ける。
その目が時折、彷徨うようにクラウドを通り過ぎ、その向こうに広がる光景を見ている事に、クラウドも気付いていた。


「別に良いだろう。本当に人がいる訳でもないし」


 場所は人が行き交う大広場。
古くから人々の憩いの場所だった此処には、沢山の人が朝も昼も夜も行き交い、思い思いに過ごしていた。
犬の散歩をする人がいたり、カフェテリアでランチをする人がいたり、大道芸を披露する者がいたり。
それらは単なるデータであって、レオン達が一方的に見ているだけであり、向こうから自分達が視認できるものではないのだが、それでも人の気配が、その姿が見える場所で、盛ろうとする男の気がレオンには到底知れなかった。

 しかし、クラウドの方はお構いなしだ。
寧ろ彼は、この一風変わった風景の中で始める事に、いつにない高揚を覚えていた。


「偶には趣を変えるのも面白いだろう」
「一人でやってくれ。俺にそう言う趣味はない」


 露出狂じゃあるまいし、とレオンは顔を顰めたが、クラウドはその唇を再度塞いで黙らせた。
予想はしていたのだろう、レオンは唇を噛んで抵抗している。
そんなレオンの首筋を擽るように撫でてやれば、先の口付けで熱を開いた体が敏感になって、またぞくぞくとしたものがレオンの芯を駆け抜けた。

 クラウドの手がレオンの肩から胸へと移動して、鍛えられた其処をゆったりと撫でる。
重ねた行為の数の分だけ、其処にある神経は敏感に反応するように育てられ、今では意図を持って撫でるだけでレオンの体は反応を示すようになった。
舐めるように丁寧に丹念に、シャツの上から肌を愛撫して、微かに膨らみ始めた蕾を捕まえる。
布越しに僅かに判る程度になったそれを摘まみ、指先で捏ねるように苛めてやれば、レオンの塞がれた口の奥から微かに音が漏れた。


「ん、ん……っ、ふ……っ!」


 コリコリと苛め続けてやれば、程無く固くなって行く。
始めの頃は擽ったいだの痒いだのと言っていたが、もうすっかり性感帯だ。
そう言う風に育ててやれた事に満足感を覚えつつ、クラウドは小さな蕾をきゅっと引っ張った。


「うんっ……!」


 ビクッ、とレオンの肩が震えて、甘い音が漏れる。
塞いでいた唇をゆっくりと離すと、はあ、と熱を孕んだ吐息が漏れた。
口端から零れ落ちる唾液を追って、クラウドがそれを舐め取ってやれば、逃げるようにレオンの喉が反らされる。
お誂え向きに曝してくれた喉に甘く噛み付いてやれば、あ、と言う声が漏れたのが聞こえた。


「ん……」
「っは……あ……っ」


 ちゅう、と一つ強く吸えば、レオンの喉仏に赤い鬱血が刻まれる。
見える所につけるな、と言われていた事は覚えているが、クラウドは気にしなかった。

 真新しい痕をつけた喉に何度も舌を這わしながら、白いシャツを捲り上げていく。
蒼の瞳が一度抗議に此方を睨んだが、クラウドの肩を掴んでいる手はそれ以上の抵抗は見せなかった。

 シャツを胸の上まで捲り上げると、ぷっくりと色付き膨らんだ果実が露わになる。
左右それぞれに摘まんで捏ねれば、ビクッ、ビクッ、とレオンの体が戦慄いた。


「う、んっ……ん…っは……」
「明るいからあんたの顔がよく見えるな」
「……こ、の……っ」


 赤らめた顔を顰め、反応してしまう体に連動する声を、なんとか堪えようと唇を引き結んでいるレオン。
その様子が褥の中で見るよりもはっきりと確認できるのが楽しくて、クラウドはにんまりと笑った。
そんなクラウドの台詞に、レオンは調子に乗るなと言うが、摘まんだ乳首をきゅうっと引っ張ってやれば、


「んんぅ……っ!」


 細い電流のような刺激が胸を襲って、レオンは頭を振りながら、強く唇を噛んだ。


「う、ん……く、引っ張るな……っ」
「こうするとあんたの反応が良いんだ」


 そう言ってクラウドは、ピンと引っ張り伸ばした乳首の先端に指を宛がった。
爪先を擦り付けるように引っ掻けば、小刻みな刺激にレオンの体がまた跳ねる。


「っ、は、あっ……!ん、くぅ……んっ……!」
「後ろ、落ちるなよ。まあ、落ちてもどうせバーチャルだし、問題はなさそうだが」


 刺激に耐えようと震えるレオンに、クラウドは一層体を近付けた。
レオンが腰かけている噴水の縁に片足を乗せて、背中を丸め、レオンの胸元に頭を近付ける。
指による刺激で成長した蕾の片方を、尖らせた舌先でツンツンと突いてやれば、指とは違う感触にまたレオンの体が熱を煽られる。
作り物の空を仰ぐその唇から、はあっ、と甘露を押し殺したような吐息が漏れた。


「んちゅ、」
「っあ……!」


 甘い果実のような色をした旨の蕾に吸い付いてやれば、レオンの背中にぞくんと官能の走りが迸る。
固い感触を返してくれる乳首に、唾液を塗しながらゆっくりと舌を這わしながら、クラウドは既にテントを張っているレオンの下肢へと手を遣った。


「あんたもしっかり興奮しているじゃないか。こんな場所で」
「……お、前の…所為だろう……っん!」


 カリ、とクラウドの歯がレオンの乳首を噛んだ。
弾力のある舌とは違う刺激に、ビクン、とレオンの体が竦む。

 クラウドはレオンの蕾を食みながら、彼の下肢を緩めて行った。
手探りでベルトのバックルを外し、ズボンのジッパーを下ろしてやる。
下着の上から中心部に触れてやれば、思った通り、其処は勃ち上がり始めていて、クラウドが乳首を吸ってやる度に、ピクピクと震えているのが判った。


「このまま胸でイきそうだな」
「馬鹿、そんな……あっ、く、吸うなって……!んっ、そっちも、あ、擦るな…ぁ……っ!」


 乳首を吸いながら、下着越しに先端をぐりぐりと指で穿るように苛めてやると、レオンは簡単に音を上げた。
レオンの体に逆らい難いゾクゾクとした衝動が走って、腰から下の力が抜けていく。
クラウドがご無沙汰だった訳だから、レオンも当然そうなのだ。
溜まっていない筈がない。


「や、め……んっ、んん……っ!」
「下が嫌なら、こっちか」
「ふっ……!んっ、ん、う……!」
「どっちの方が好きだ?」


 乳首を舌で転がしながら、中心部を苛め続けてやると、レオンの呼吸はあっという間に上がって行く。


「まあ、あんたが一番好きなのは、中なんだろうけど」


 そう言いながら、クラウドはレオンの乳首を強く吸った。
レオンは唇を噛み、片手で口元を覆って、声を殺す事に必死になっている。

 幾ら此処が虚構の世界でも、視覚情報から得られるものは、本物の景色と殆ど変わらない。
座れる場所に、素材の感触もあって、レオンにとっては本物の街並みの中で事に及ばれているような感覚なのだろう。
それが人目に付かない建物の中や、路地裏のような場所ならともかく、広場の真ん中でなんて非常識極まりない、と思っているに違いない。

 しかし、そんな環境下であっても、レオンの体は確かに熱を持っている。
クラウドが与える刺激によって、彼の中心部は張り詰めており、下着越しにじんわりと染みが滲んでいるのが判る程になっていた。

 レオンの胸元は、クラウドの唾液ですっかり濡れている。
引き結ばれていた唇は、段々と疲れて来たのか、解け勝ちになっていた。
クラウドの肩を掴んでいたレオンの手も微かに震え、ともすればするりと外れ落ちそうになっている。
クラウドはそんなレオンの体を自分の方へと寄り掛からせると、中心部を刺激していた手を彼の後ろへと回した。
下着の中へと手を入れると、直に肌に触れられる感触に気付いて、レオンの体がひくりと震える。


「ク、ラ…ウド……っ」


 呼ぶ声は抗議の意図を含んでいたが、当然、クラウドは無視した。
引き締まった肉の乗った臀部を撫で、中心の狭間に指を滑らせていく。
程なく辿り着いた窄まりに指先を宛がえば、抵抗のように穴が締まるのが判ったが、それもポーズのようなものだとクラウドは知っている。

 穴の周りをすりすりと指の腹で擦ると、レオンの体は直ぐに準備を始めてくれる。
クラウドの耳元で、はあ、はあ、と喘ぐ呼吸が零れていた。
ひくん、と竦むように綴じている孔口にゆびさきを宛がい、軽く力を入れれば、簡単にその入り口は開く。


「んぁ……っ!」


 くぷん、と指が挿入された瞬間、レオンの背中が弓形に撓った。
逃げを打って捩られる腰を、クラウドは抱えるように腕を回して捕まえる。


「クラ…やめ……っ、こんな所で……」
「本気で抵抗してない癖に」
「そんな事、俺は───あっ、うんっ」


 抗議しようとするレオンの口を、クラウドは中を引っ掻く事で塞いだ。
慣れてしまった刺激の始まりに、レオンの体はビクッビクッと判り易く震えて反応を示す。


「あ、あっ……ん、んぐ、ぅ……っ」


 クラウドの肩の裾に噛み付いて、レオンは声を殺している。
それでも、クラウドが中で指を左右に振って擦ってやると、


「ふっ、ふっ……う、んん……っ!」
「久しぶりだが、この様子なら大丈夫だな」
「う、んん……っ!バカ、深い、とこに……っんふぅ……っ!」


 挿入の深度を進めてやれば、媚肉がクラウドの指に吸い付くように絡み付いて来る。
それを振り解きながら中を掻き回せば、レオンの体は益々熱を上げて行き、


「あ、あ……!やめ、あっ……!」
「イきそうか?」
「はっ、あっ……!う、くぅ…んんっ」


 耳朶を甘く噛んで笑うクラウドの声に、レオンは首を横に振る。
しかし、どんなに否定の態度を取った所で、彼の中心部は何よりも正直だった。

 クラウドが二本目の指を挿入させると、レオンの体がまた仰け反る。
逃がしてやるかとクラウドがしっかりと捕まえてやると、刺激への逃げ道も失ったようで、レオンの体が官能に強張るのが伝わった。


「ふっ、あ……っ!やめ、クラウド……ん、んっ!」


 止めるレオンの声を無視して、クラウドは彼の腸壁を引っ掻いた。
ビクンッ、と体の内も外も震わせるレオンに、追い打ちのように指を激しく動かしてやる。
秘孔はクラウドをぎゅうぎゅうと締め付け、レオンの体が上り詰めようとしているのが判った。

 クラウドは指を更に奥へと深めると、体感で既に記憶している場所を柔く圧した。


「っあ……!」


 ぞくぞく、とレオンの体に官能の電流が走る。
それが彼の体の合図だった。
そのタイミングと合わせて、クラウドが捕らえた其処をくりゅぅっと抉ってやれば、


「────……っっ!!」


 クラウドの背中に捕まるように回されたレオンの腕に力が籠る。
上背のある体が強張りながら縮こまり、喉奥まで上って来た声を強引に押し殺した。
その代償のように、彼の体は極まった瞬間の官能が長く長く居座る事になる。

 しがみつくように掴まっていたレオンの腕は、中々解かれそうになかった。
クラウドの耳元で、はくはくと唇が音もなく開閉を繰り返している。
クラウドはその顎を捉えて自分の方へと向かせると、無防備な唇に自分のそれを重ね合わせ、痺れているであろう舌を捉えて啜ってやった。


「んぁ……あ……っ、は……っ」


 ひくっ、ひくっ、と震える体の内と外。
その内側は、咥え込んだ指を強く締め付けていたが、クラウドはゆっくりと其処から出て行った。
余韻に浸る媚肉はクラウドを逃がすまいと縋って来るが、もっと太いものを咥える事に慣れた其処は、呆気なく獲物を逃がしてしまう。


「立てるか」
「は……う……っ」


 クラウドに肩を掴んで誘導され、レオンはのろのろと立ち上がる。
力の入らない膝をなんとか立たせたレオンを、クラウドは後ろ向きに反転させて、噴水の縁に両手を突くように指示した。
レオンは緩慢ながらもそれに従い、噴水の水を覗き込むような格好になる。

 途切れる事のない揺れる水面に、レオンの顔が映り込む。
力なく緩んだ唇、その端から伝い垂れている唾液。
熱の余韻で重くなった瞼の隙間から、熱に淀んだ蒼の瞳が覗く。
だらしのない顔をしているとレオン自身も思ったが、それを取り繕う余力はなかった。

 クラウドがレオンのズボンを下ろして、下着もずり落としてやれば、火照った肌が露わになる。
ついさっきまで指を挿入されていた秘孔が、ひくひくと口を開け閉めしながら雄を求めて誘っていた。


「抵抗しないんだな。その気になったか」


 下肢を裸にされ、抵抗を辞めて臀部を眺められているレオン。
肉付きの良い尻をクラウドが掌で弄ってやれば、レオンは肩越しにクラウドを見て言った。


「どうせ、辞めないんだろう」
「まあな」
「……だったら、早く済ませろ。その方が手っ取り早い」


 諦めた態度のレオンの言葉に、じゃあそうしよう、とクラウドも言った。
自身の前を緩めてやれば、すっかり勃起した雄が露わになり、それを見たレオンがまた呆れたように溜息を吐く。


(そんな顔をする割に、あんたの体は期待してるんだ)


 盛るばかりの男に付き合ってやっている、と言うのがあくまでレオンのスタンスらしい。
しかし、態度はドライなものを作っていても、レオンも決して枯れている訳ではないし、何より彼の体は雄に与えられる熱に流される事に慣れている。
指で一度イかされた程度で、満足できる筈もないのだ。

 久方ぶりである事に加え、レオンの痴態のお陰でしっかりと固くなった雄を、ヒクついている秘孔に宛がう。
クラウドはレオンの腰を両手で掴んで固定すると、ゆっくりと腰を前へと進めた。
先端が入り口を開かせると、レオンの体は待っていたとでも言うように、雄に吸い付きながら迎え入れる。


「ん、あ…んんん……っ!」


 噴水の縁を掴むレオンの手に力が籠る。
指とは違う、太く逞しく、どくどくと血流の感触を感じさせる雄の侵入に、レオンの躰はまた熱を昂らせていく。

 クラウドは絡み付いて来る肉壁の心地良さを確かめながら、レオンの躰を拓いて行く。
その肉の締め付けが、いつもよりも随分と強く、ぴったりとしがみつくように密着して来る事に気付き、


「締め付け凄いぞ。あんた、やっぱり興奮してるだろう」
「そ、んな訳、ないだろう……っ」
「まだ半分しか入ってないのに、これだけ締め付けてるんだぞ」
「知るか、あっ……!やめ、んっ、擦るな……っ!」


 まだ竿を残している状態で、クラウドは腰を前後に揺らしてやった。
僅かなストロークで内部が擦れる感触に、レオンの姿勢を支えている膝が震える。


「あっ、ん、ふっ、くぅっ……!」
「く、んん……っ!」
「ん、ぁ……ああ、ぁ……っ!」


 締め付けの感触に耐えながら、クラウドはより深くレオンの奥へと侵入する。
太いものが腹に届く程に挿入される感覚に、レオンの背中がビクビクと跳ねて震えた。
艶めかしい感触がクラウドの雄の全身に絡み付いて、レオンが震える度に小刻みに戦慄き、心地良いマッサージを施していた。

 レオンの尻と、クラウドの腰骨が密着する程になって、クラウドはようやく詰めていた息を吐く。
気を抜けばあっという間に持って行かれそうになる、そんな心地良く甘く淫らな感触。
少し腰を後ろに引いてやれば、ぬるりと滑りながら吸い付いてくる肉感があって、クラウドの興奮は益々昂って行く。


「動くぞ、レオン」
「あっ…ま、待て……」


 ぐ、と腰を掴む手に力が籠ったのを合図にしたクラウドに、レオンは咄嗟にストップをかけるが、


「んぁっ!」


 ずん、と奥を突き上げられて、堪らず高い声が漏れる。
白昼の街中にあってはならない声を上げた事で、レオンの残る理性が総動員された。
しかし、背後の男はそんな事はお構いなしに、強い律動でレオンの秘奥を攻め立てる。


「ふっ、うっ、んんっ!クラ、ウド…っ!」
「声も出せば良い。堪えると、あんた、また後が辛いぞ」
「そんな、事…んっ、こんな所で、出来る、訳……んんぅっ!」
「こんな所だから、良いんだろう?」
「ふざ、けるな……あっ、う、んっ!」


 頑なに声を出す事を、此処で行為に及んでいる事を、形だけでも隠したがっているレオンに、クラウドの悪戯心がむくむくと育つ。

 クラウドはレオンの肩を掴むと、躰を起こして場所を取り換えた。
視界が変わって、え、と虚を突かれたレオンの眼に、通り過ぎて行く人々の姿が映る。
目を丸くする彼に構わず、クラウドはレオンの腰を抱きながら噴水の縁に座り、レオンを膝上に座らせた。


「あぁあっ!」


 自重でより深くなった挿入に、レオンが堪らず声を上げる。
しまった、と我に返った彼がその口を押えようとするが、クラウドは一寸早くその手を掴んで阻む。


「クラウド、あっ!あっ、バカ、やめ、あぁっ!」


 背面座位になって、クラウドはレオンの腰を片腕で抱えるように捕まえながら、秘奥を打ち上げるように突いてやる。
繋がりが深くなったお陰で、太くて固い先端が奥の壁に当たる。
其処がレオンの弱点と判っているから、クラウドは力強い動きで何度も其処を攻めてやった。


「あっ、んっ、あっ、あっ!やめろって、言って、ひぅんっ!」


 クラウドは喘ぐレオンの片足を持ち上げた。
中に収めたものの角度が変わって、横壁を削ぐように擦られ、レオンの喉から高い音が漏れる。


「バカ、クラウド、あっ、こんな……っ!み、見られ……っ!」
「見られて興奮する、か?」
「違う、あっ、あぁっ……!はっ、や、其処は、んんっ!」
「違わないだろ。見ろ、あんたもしっかり勃ってるじゃないか」


 クラウドはレオンの持ち上げた足を腕に引っ掛けながら、その手を伸ばして彼の中心部に触れた。
嫌だ嫌だと言いながら、レオンの雄は胎内に咥え込んだクラウドのものと同様に昂り、勃起している。
秘奥を突き上げられる快感で、先端からはとろとろとした雫が溢れ出し、レオンが官能に溺れている事を示していた。

 だが、まだ最後の理性を手放していないレオンにとっては、それは認め難い事で、


「あっ、あっ、やめ、違う……んっ、俺は、こんな……あぁっ…!興奮、なんか、してな……うんっ!」
「あんたも大概、頑固だな」
「うる、さい、ひんっ!はっ、あっ、あぁ……っ!」


 背後の男に揺さぶられ、レオンの反論は幾らも真面な言葉にはならない。
クラウドはそんなレオンのシャツをまた捲り上げると、たっぷりと塗された唾液でまだ濡れている乳首を摘まんだ。
上と下を同時に攻められる快感に、レオンの躰が露骨に悦びで強張る。


「んんぅっ!あっ、クラウド、胸は、やめろ、ああっ……!」


 昼日中の往来で、裸も同然の格好にされて、レオンの顔に羞恥の朱が上る。
そんなレオンに、今更だろう、とクラウドは笑った。


「入ってるのが見えてるんだ、胸を出した位大した事じゃない」
「ど、どっちも、あっ、大した事、ないわけ、ひうっ!は、は、引っ掻くな、あっ、あっ、」


 摘まんだ乳首を爪先で引っ掻いてやると、レオンの唇からは短く弾む声が漏れる。
胸から与えられる刺激でビクビクと四肢を震わせる度に、雄を咥え込んだ媚肉も反応して、クラウドは自身がきゅうきゅうとリズミカルに締め付けられるのを感じていた。


「締まってるし、中も蕩けて、凄く熱い。なぁ。偶にはこう言う趣向も悪くないだろう?」
「あぁあ……っ!」


 深い場所をぐりぃ、と押し上げてやれば、レオンは切ない声を上げて腰を震わせた。
迫る感覚を堪えているのだろう、レオンの雄は鈴口から止め処なく蜜を溢れさせ、彼の股間をぐしょぐしょに濡らしていた。


「はあ、はっ、ああ……っ!こんな、所で…んっ、あぁ……っ!く、来る……うぅっ…!」 
 クラウドが秘奥を突き上げる度、レオンの絶頂へのスイッチがノックされる。
既に体は限界近くまで高められていて、そんな彼を押し留めているのは、自身が耽っている行為とは裏腹の、日常然とした景色の所為だ。
先の路地裏で見たように、物陰で人目隠れて夢中になっているのとも違う、まるで道行く人々に見せつけるかのようなセックス。
此処に在るのは全て偽物で、誰も自分達の事を見ていないと判っていても、見える景色のあまりのリアルさがそれを忘れさせてしまう。
もしも、万が一、あの通り過ぎる目が一瞬でも此方を向いたら───そんな事を考えると、背筋が凍った。
それと同時に、いつも閉じた空間で、ベッドの上で熱を奔らせているのとは違う、背徳感に似た興奮がレオンの意識をじわじわと溶かしていく。


「あ、あ、クラウ、ド、ぉ…っ!」
「イきそうか?」
「っは、は、うぅ……っ!」


 囁くクラウドの言葉に、レオンは弱々しく首を横に振った。
しかし、クラウドが一つ強く奥を突いてやれば、


「ふっ!」
「ああぁっ!」


 甲高い声を上げて、レオンは背中を仰け反らせた。
クラウドに持ち上げられた足が爪先までピンと張り詰め、体中を迸る熱が一気に出口を求めて集まる。
その瞬間の衝動と言うものは、最早レオンの形ばかりの理性では留められるものではなく。


「あ───あ、ああぁぁぁっ!」


 一瞬、頭の中が真っ白になった直後、レオンの劣情は最高潮を迎えて弾けた。
微かな理性に縋って押し留めようとしていた官能の波が、堰が崩壊したように一挙にレオンを襲う。
痛い程に張り詰めていた雄からは蜜が噴水のように吐き出され、石畳の床にぴしゃぴしゃと水溜りを作った。

 絶頂によって強張った四肢に併せ、雄を咥え込んだ秘孔も一層の締め付けを増す。
幾つも重なるヒダが全身で縋って来る中、クラウドも最後の一突きをして、


「うぐっ!う、くぅううっ!」
「あっ、あっ!あぁああっ……!!」


 長らく溜めて久しかった欲望を、クラウドはありったけレオンの中へと注ぎ込んだ。
戦慄く蜜壺がクラウドの精子を余すことなく受け止め、レオンの唇からはその熱さに酔いしれたような悩ましい声が漏れる。

 ビクッ、ビクッ、ビクッ……とレオンの体は長い余韻に支配され、真面な言葉を紡ぐ事も出来ず、彼は茫然と中空を見詰める。
熱に溺れて蕩けた蒼の瞳には、何事もなく談笑しながら通り過ぎていく人々の姿が映っていた。
クラウドは半開きになっているレオンの唇に指を這わせ、無防備な隙間から中へと侵入すると、震える舌先を指でつぅとなぞった。


「ん…んぁ……っ」


 そうして遊んでいると、やがてレオンの舌が震えながらクラウドの指を舐め始める。
唾液塗れの舌が、ちゅる、ちゅぷ、と音を立てながら指先を丹念に舐めるのを感じながら、クラウドはくつりと笑った。




 時間切れか、バッテリー切れか、理由は判らないが、しばらくするとデータで再現された街の景色はぷつりと消えた。
その時にはレオンは疲れ切ってベンチの上で眠っており、クラウドも虚構の世界からの出方が判らずに時間を持て余していたので、幸いではあった。

 レオンを背負ってコンピュータールームを過ぎ、賢者の書斎と思しき部屋に置いてあったソファにレオンを寝かせてやる。
クラウドも欠伸をしながらソファの横に座り、背凭れ替わりにしてもう一休みする事にした。
本当ならレオンを連れて家に帰り、色々と整えてやるのが最良なのだろうが、クラウドも疲れている。
少し寝て帰る位は赦されるだろう。

 最近のレオンは、自分の家と呼べる場所を作りはしたものの、殆ど其処には帰って来ない。
お陰でクラウドが事に及べたのも久しぶりだったものだから、中々欲望は収まらなかった。
それに付き合わされたレオンが疲れ切って眠り落ちるのも無理はない、とは思うが、


(そうは言っても、レオンも十分楽しんでたよな)


 行為の最中、レオンは一度もあの環境での興奮を認めなかったが、彼の体は言葉より遥かに正直だ。
回数を重ねる内に形骸化した理性の仮面は剥げて行き、言葉ばかりの否定を繰り返す傍ら、レオンはクラウドを最後まで締め付けて離さなかった。
その締め付けは、普段、褥の中でクラウドが味わっているものよりも、強く甘く濡れそぼっていたように思う。
久しぶりだったから、と言うのもその理由にはあるだろうが、クラウドはやはり、いつもと違う環境がレオンにも刺激的に感じられたのだろうと考えている。


(まあ、だからと言って、本当に街中であんな事をする訳にも行かないが)


 住人が憩いの場として集う、噴水のある広場。
データに残されていたように、あそこは昔から人の気配が絶えず、待ち合わせにもよく利用されていた。
真昼間にそんな所で熱も欲も曝け出してまぐわうなんて、到底許されて良い事ではない。
あれはバーチャルの世界で、存在するものが生物も含めて一方的な閲覧しか出来ないデータだから出来た事だ。
レオンも、そうでなければ、クラウドの我儘を寛容するポーズであっても、許しはするまい。

 現実に出来るのは、精々、物陰で声を殺しながら繋がるのが精々だ───と考えてから、


(それはそれで悪くないか)


 データの中で見た、路地裏で熱烈に抱き合っていた男女の事を思い出して、クラウドはそんな事を思うのだった。



唐突に疑似公開プレイみたいなの書きたいなと思ったのでした。

KHの世界ってファンタジーなようでデジタルファンタジー要素も結構あるし、こんなシステムあっても良いんじゃないかと。都合良く。
このレオン、変な味の占め方をしたクラウドに時々誘われるようになるかも知れない。多分そんなに嫌がりはしない(顔は渋々)。