その花一つに祈りをこめて
レオン誕生日記念(2022)


 一日の仕事を無事に終え、帰宅したレオンが夕飯を作り始めていた所に、携帯電話がメールの着信音を鳴らした。
調理道具を出す手を止めずに、左手でポケットに入れていた携帯電話を取り出してみれば、弟と、一緒に面倒を見ていたその幼馴染の少年から、それぞれメールが届いている。
先ず弟のメールを開いてみると、『誕生日おめでとう』とシンプルな一言と共に、無理はせずに過ごして欲しいと気遣う言葉が添えられていた。
次に幼馴染の少年の方はと見てみると、此方も『誕生日おめでとー!』と文面から判る元気な声が綴られている。

 レオンは携帯電話の機能を使って、母国の時間を調べてみた。
時差が大きいもので、此方では夕方だったが、母国は日付が変わった頃合いである。
タイミングを合わせてメールを送って来た弟たちに、レオンはくすりと口元を綻ばせた。

 と、今度はテレビ電話の着信が鳴って、レオンはそれを通話に切り替える。
すると、画面は真っ暗だったり、ちらちらと光が入ったりしつつ、


『もしもし、レオン?』


 聞こえて来た父の声に、レオンはくすりと笑った。


「ああ、父さん。この電話、テレビ電話になってるぞ」
『えっ、マジ?本当だ』


 何処の操作を間違ったのだかと、くつくつと笑うレオンに、電話の向こうで父が顔を映す。
失敗失敗、と恥ずかしそうに顔を赤らめる父ラグナに、レオンはいつもの事ながらと、その微笑ましさに懐かしさと共に胸が温かくなるのを感じていた。

 改めて、とラグナは一つ咳払いをする。


『誕生日おめでとさん、レオン。プレゼントとかなんにもないけど、言葉だけでもと思ってさ』
「ああ、ありがとう。さっき、スコールとティーダからもメールを貰った」
『そうか、あいつら早いなあ。まあこんな時間だもんな』
「そっちは夜か。日を跨いだ所だと思うけど?」
『うん、そうそう。だから俺もメールの方が良いかなとは思ったんだけど、ほら、お前だって仕事してれば電話は出られないだろうしさ。でも声聞きたいなあと思って』
「ああ、俺も久しぶりに父さんの声が聞きたかったから、嬉しいよ」
『そっかそっか。へへ』


 息子の言葉に、父は嬉しそうにはにかんだ。
皺のある顔が子供のように笑うのを見て、元気そうだ、とレオンも口元が緩む。


『今日はもう家にいるのか?』
「ああ。夕飯を作ろうとしていた所だ」
『デリバリーしたりしねえの?誕生日なんだし、家事サボっちゃっても良いだろ。ジェクトも文句言う事はないだろうし』
「そう言う手もあったな。まあ、習慣みたいなものだ。明日の朝飯の仕込みもするし。でもその内、ジェクトにも言って、何処かでデリバリーを頼んでみようかな」


 当たり前のようにフライパンを取り出していたから、そう言う手段がある事をレオンはすっかり忘れていた。
テイクアウトは勿論のこと、外食だって自分から発想する習慣がないものだから、レオンと言う人物にとっていつもの事と言えばそうだ。

 たまにはサボれよお、と真面目なきらいの強い長男を労いつつ、ラグナは言った。


『三日位前なんだけどな、誕生日プレゼントを贈ったんだ。なんかトラブってなければ、今日くらいには着いてるんじゃないかと思うんだけど、どうかな?』
「いや、俺が帰って来た時には何も。まあ、こっちで運送が遅れるのはよくある事だからな。配送時間もまだあるから、楽しみに待ってるよ。一体何を贈ってくれたんだ?」
『そりゃあお前、届いた時のお楽しみだよ』


 教えてやんない、と言うラグナは、まるで子供のようだ。
そんな父親に、相変わらず楽しい人だとレオンは思った。

 恐らく、電話での要件はこれでもう終わっているのだろう。
けれども、久しぶりに父子それぞれに顔を見て話すことが嬉しくて、レオンは話を切り上げようとはしなかった。
ラグナの方も、いつもよりもお喋りがよく進む。


『───お前が元気そうで良かったよ。ジェクトが元気なら、きっとそうなんだろうと思っちゃいるけど、お前の顔は中々見れないからなぁ。ああ、この前、スコール達がそっちに行っただろ?面倒見てくれてありがとな』
「別に、良いさ。久しぶりに二人と一緒に飯が食えて、俺も楽しかった。ジェクトとティーダは、相変わらずだっただけどな」
『あ〜、聞いた聞いた。飯屋でケンカしそうになったんだっけ。スコールに怒られて辞めたみたいだけど。偶に会った時位、仲良くすりゃあ良いのに、どっちも素直じゃねえもんなあ』
「そうだな。ティーダはスコールに絞られていたし、ジェクトも後で反省していたよ。それからはケンカはしないようにしていたから、十分だ」


 現在レオンは、母国から遠く離れた地に、ジェクトと共に住んでいる。
プロの水球選手であるジェクトを、日々の体調からスケジュールまで管理するのが、専属マネージャーとして就いたレオンの仕事であった。
ジェクトは所属するチームがホームとして有している練習場のある地域を生活の拠点としている為、高校生の一人息子ティーダは実質一人暮らしの環境だ。
が、幼い頃から父子と交流のあったラグナ・レオン・スコールの親子三人とは、今も親しい関係が続いており、元々住まいが隣同士と言う縁もあって、ティーダは度々幼馴染の家に上がっている。

 そんなスコールとティーダが、三カ月前、日数の多かった連休を使って、レオン達の下へとやって来た。
社会見学も含めた学生二人の小旅行に、不慣れな土地では不便も多いだろうと、レオンが保護者役を引き受けた。
その間、ジェクトも交えて四人で食事をし、度々起こる父子の諍いを諫めつつ、事故やトラブルもなく、旅行は終了した。
あれからもう三カ月なのかと、日々の目まぐるしさを感じながら、楽しかったな、とレオンは回想する。

 俺も行きたかったなあ、と呟くラグナに、またの機会に是非来てくれ、とレオンは言った。
仕事柄、ラグナが海外に赴くのは珍しいことではなくなっているが、プライベートでとなると久しい話ではないだろうか。
元々はジャーナリストを目指し、海外をあちこち渡り歩いていたと言うから、異国の景色と言うのはラグナにとって楽しいものなのだろう。
それを家族と一緒に見られるなら尚更、ラグナは楽しみに違いない。

 父との電話を一頻り楽しんだ後、ラグナは息子が夕飯を作ろうとしていた所だったと思い出して、


『わりわり、また長くなっちまった。腹減っちゃうよな、もうそろそろ切るか』
「ああ、こんなに時間が経ってたのか。それじゃあ、また今度、ゆっくり話をしよう」
『ああ。ジェクトに宜しく。じゃあ、誕生日おめでとう、レオン。体に気を付けるんだぞ』
「ありがとう、父さん」


 またな、と言った後、ラグナは「えーっと……」と電話の操作に悩む。
これもいつもの光景で、レオンはテレビ電話を切る為の操作を手短に教えた。
理解した父が改めて別れの挨拶をして、通話が切れ、画面がブラックアウトする。

 さてと、とレオンは気を取り直して、夕飯を作り始める。
誕生日であるからと、夕飯を豪華にしようとは思わないものだから、手早く済ませられるものを作っていると、携帯電話がまた着信音を鳴らす。
おや、と液晶画面を見てみると、同居人の名前が表示されていた。

 フライパンの上でじゅうじゅうと炒められる、ズッキーニ、パプリカ、そして豚肉。
それを菜箸で混ぜながら、レオンは電話に出た。


「もしもし、ジェクト?」
『おう。お前、今家にいるか?』
「ああ。夕飯を作ってる」
『そっか。あー……今日はもう出掛ける予定はねえよな?』
「そうだな、冷蔵庫の中も十分入っているし。郵便なんかも出すものはない筈だし。何か予定でもあったか?」
『いや、別にそう言うのじゃねえんだ。お前が家にいるんなら良い。これから、まあ、ちょっと野暮用済ませたら、帰るからよ』
「ん?今日は飲み会の話があったんじゃなかったのか?」
『まあ、あるにはあったが、断った。ほれ、その……野暮用があるからよ』


 野暮用、とは。
何度もそれを口にするジェクトに首を傾げるレオンだったが、まあ良いか、と思う事にした。


「じゃあ、あんたの飯も作って置こう」
『ああ、悪いな』
「なんだ、急に改まって。いつもの事だろう」


 妙に畏まって聞こえる電話相手の様子に、くすくすと笑いながら言えば、「別にいつも通りだよ」と言う台詞が帰って来る。
自覚がないのか、あっても敢えてそう返しているのか。
微妙に分かり難いんだよなと思いつつ、レオンは冷蔵庫を開けて、追加の肉を取り出した。

 すぐに帰るからと言って、ジェクトからの電話は切れた。
その切り方が聊か急な流れのようにも感じられるが、通話の向こうの声に不審な様子はない。
隠し事をしている気配はあったが、財布を落としただとか、後輩たちに大盤振る舞いをしたことを隠している、と言うものでもなさそうだ。
多分悪いことではないのだろう、と信頼して、レオンは夕飯のボリュームを増やして行く。

 一通りの料理が食卓に並べられ、折角の誕生日なのだから、ちょっとした贅沢に食後のデザートをどうしようかなと考えている所に、玄関のドアの開閉音が聞こえた。
いつもならかけられる帰宅の挨拶がない事に、レオンは首を傾げる。
解いたばかりのエプロンを椅子の背にかけて、一応様子を見に行こうと、玄関へと向かえば、


(何をしてるんんだ?あれは)


 この家の主────ジェクトは、玄関前で扉の方を向き、がりがりと頭を掻いている。
大きな背中が何かそわそわとしているのが判って、レオンはそろりと足音を殺して近付く。


「……ジェクト」
「うぉおっ!」


 框の前で男の名を呼べば、ジェクトは判り易く肩を跳ねさせた。
水球に置いて、キングの名を欲しいままにしているとは思えないような反応に、レオンは細やかな悪戯心を満足させる。


「そんなに驚くなよ」
「気配殺して真後ろに来てりゃ、ビビるってもんだろうが」
「あんたにそんな繊細さがあるとは思ってないからな」


 抗議に対して返してやれば、ジェクト自身も、己の気質を理解しているものだから、それ以上の反論が出る筈もなく。
はあ、と降参するように溜息を吐いて見せるのみであった。


「お帰り、ジェクト」
「……おう、ただいま」


 遅ればせながらにレオンが出迎えの言葉をかけると、ジェクトは頭を掻きながらいつもの返事をしてくれる。
と、体を此方へと向き直したジェクトが、その背に腕を隠しているのを見て、レオンは其方を覗き込むように首を伸ばした。


「何を持っているんだ?」
「あ?ああ、いや、……あー……」


 レオンの問いに、ジェクトは明後日の方向を見上げたり、眉根を寄せたり、口を噤んだり。
一人で百面相のようなことをしているジェクトに、レオンがまた首を傾げていると、


「……お前、笑うなよ?」
「藪から棒だな。……保証はしないが、努力はしよう」
「優秀なお返事で」


 反応をどうするにせよ、今から言質にはさせないレオンに、ジェクトは溜息を一つ。
それから呼吸を整えるように大きく息を吸って、吐いた後、ジェクトは背中に隠していたものを差し出した。


「……ほらよ」
「これは……バラ?」


 ジェクトが差し出したのは、真っ赤な一輪のバラだった。
大輪のそれを誇るように開いているそれは、リボンのついたラッピングに丁寧に包まれている。

 ジェクトがバラを買って帰って来た。
これは一体、と混乱しているレオンであったが、ジェクトが赤い顔でそれを差し出すので、はっと我に返って受け取る。
鼻先に漂う香りに、これが造花ではなく、生花である事が判った。


「ジェクト、これは……」
「……一応、誕生日だからな。お前の」


 見上げるレオンから視線を逸らしつつ、ジェクトはしどろもどろに言った。
強面にも受け取られる無精髭の顔が、判り易く赤くなっている。
自分らしくもない贈り物だと言う事は、彼自身が一番よくよく身に染みているのだろう。
そんな気持ちを誤魔化すように、ジェクトは明後日の方向を向いたまま、口早に言い綴った。


「一応よ、使えそうなもんとか、お前が気に入りそうなもんとか、探してはみたんだけどよ。お前、物欲ねえじゃねえか。何渡しても微妙っつーか、遠慮しそうだし。んで、まあ、この国じゃ、祝いに花っつーのは、よくあるものだって皆言うしよ。それで、日頃の感謝みてえなことも含めて、みたいな……」


 日々を共に過ごしている二人の間柄は、仕事上のパートナーと言う以上に、密接に繋がっている。
だからレオンの誕生日をジェクトも忘れずにいたし、それに向けて何か準備は出来ないかと考えた。
しかし、昔から父を支え、弟を護る事に終始して来たレオンは、自分自身の欲と言うものが極端に少ない傾向があった。
そんなレオンと毎日を暮らしていても、彼が求めるものと言うのは中々見付からず、とは言え何もしないと言うのも自分の気分としても納まりが良くない。
せめて日々の感謝と重ねて、その気持ちが伝えられるものはないかと苦心したジェクトへ、チームメイトや飲み仲間から、“花を贈る”と言う選択肢が掲示された。

 昔から水球一本に邁進して来たジェクトである。
花のことなど碌に判る筈もなく、そもそも贈ったとて枯れるまで世話をするのはレオンである事は目に見えていた。
それもあって一時は別のものを考えようともしたのだが、相変わらず、良さそうなプレゼントの類も見付からない。
迷いに迷った末、今日と言う日を迎えて、ようやく腹を括り、生まれて初めて花屋の門を叩いたのであった。

 ────と言った経緯を早口でまくし立ててくれるジェクトは、判り易く照れている。
いつまでも目を合わせてくれない男の様子に、レオンはくく、と喉が笑ってしまう。
それをしっかり聞いて、ジェクトはその腰に腕を回すと、近い距離でレオンを睨む。


「おい、笑うなっつったろ」
「ああ、悪い。でも保証はしないって言っただろう」


 努力はしているんだと言うレオンであったが、もう喉がくつくつと笑っている。
それでも目尻が柔らかいレオンに、面白がっている所はあっても、悪い意味で笑っている訳ではないとジェクトも判るから、くそ、と恥ずかしさを誤魔化すように吐くのが精々だった。

 この野郎、と呟いたジェクトが、笑うレオンに意趣返しするように、その唇を塞ぐ。
厚みのある唇で呼吸を塞がれると、舌が咥内に侵入して来た。
レオンは腕に抱えた花を潰さないように庇いながら、ジェクトの愛撫を受け入れる。


「ん……、ん、ぁ……」


 籠る呼吸に熱が滲むのを感じ、じんじんとした感覚が腹の奥に湧き上がってくる。
今日も丸一日を練習に費やしたジェクトの体は、疲労よりも興奮や昂ぶりがありありと感じられる状態になっていた。
熱を覚えたレオンの躰は、貪欲にそれを欲しがるが、唇を離された後、レオンは一つ吐息を漏らして、


「……飯が冷めるぞ」
「……後で良いだろ」
「あんたが帰るから、急いで量を増やしたのに」


 食ってくれないのか、と言ってやれば、ジェクトは拗ねたように唇を尖らせる。
が、腰を抱く腕が緩んでくれたので、レオンはするりと其処から抜け出した。

 がしがしと乱暴に頭を掻いているジェクト。
そんな彼に、花を準備するのが相当恥ずかしかったんだろうなと思いつつ、レオンは手元の花に視線を落とした。


「……バラ一輪、か」
「……俺が選んだんじゃねえぞ。花屋の店員に、誕生日祝いに何が良いかって聞いて、……そうしたら、お前との関係とか、色々聞かれてよ。そしたら、これが良いだろうって寄越してくれたのが、これだったんだよ」


 ジェクトの言葉に、そうだろうな、とレオンは呟いて、


「ジェクト。あんた、花言葉は知ってるか?」
「いいや。……なんか意味あるのか?それ」
「さあ……どうだろうな」


 聞いておいて、問い返したことには答えずにはぐらかしたレオンに、ジェクトの眉間に皺が寄せられる。
昔、その顔を見た幼い弟が怖がって泣いていたのを思い出しつつ、レオンはついと逃げるように背を向けた。
ダイニングへと向かうその足を、ジェクトは唇を尖らせながらついて行く。

 ───花のことを知らないジェクトがあれこれと細かい注文が出来るとは思えないし、チョイスからラッピングの仕方まで、店員に任せのたは想像に難くなかった。
故にこそ、レオンはこの贈り物に篭められる意味と言うものを、贈り主が知らないことも想像できる。


(……全く、何て答えてくれたんだか)


 数少ないながらも知っている、バラの代表的な花言葉を思い出しながら、レオンはこっそりと赤らむ頬を宥めていた。




 何処か急かすような気持ちで夕飯を食べている間に、一度玄関のチャイムが鳴った。
出てみると宅配業者で、母国から父と弟の名前で荷物が届いている。
ラグナが言っていた誕生日プレゼントが届いたのだと判って、レオンは直ぐに父にメールを送った。
中身はレオンが好んで着ていたブランドの服とアクセサリーで、好みも反映されたチョイスになっている。
ジェクトに頼んで、ジャケットを羽織った写真を撮って貰って、メールでプレゼントの到着報告と共に、感謝を伝えた。

 父と弟からのプレゼントの中には、幼馴染の少年からの手紙も入っていた。
母国が夏とあって、水球部の部活が本格的になっている事もあって、彼はプレゼントを用意する暇がなかった、とか。
別に構わないのにと思いつつ、慕ってくれる気持ちはとても嬉しく思う。
帰った時に美味しい飲食店のメニューを紹介してくれると言うので、その時を楽しみにしていよう。

 夕飯を綺麗に平らげ、その食器をレオンが片付けている間に、ジェクトが風呂に入る。
彼が出たのと入れ替わりに、レオンも風呂に入って、すっきりと身を清めた。
その傍ら、この後の事を考えて、じんじんとした熱がレオンの中に生まれて来る。

 その期待にそぐわず、寝室に入ってみると、ジェクトがベッドに腰掛けて待っていた。
目を合わせると、口元が笑みを浮かべて、ジェクトはレオンに向かって両手を広げて見せる。
来い、と言うその仕種に、レオンは髪を拭いていたタオルをサイドテーブルに放って、ジェクトの膝の上に乗った。


「ん」
「おう」


 ちゅ、と額にキスをするレオンに、ジェクトはくすぐったそうに片目を瞑る。
長く伸ばしたレオンの髪が、ジェクトの頬や耳元を掠めた。

 額、目元、鼻先、そして唇。
ゆっくりと降りていくそれが終点へと辿り着くと、レオンの後頭部にジェクトの手が回る。
離さないと言うように、深く促される口付けに、レオンは舌先で厚みのある唇をノックした。
開いたその向こう側へと侵入すると、太い舌が絡み付いて来て、耳の奥でぴちゃりといやらしい音が聞こえる。


「ん、ふ……、は……っん……」


 たっぷりと唾液を絡め合いながら深いキスをして、互いの頭を抱きかかえるように腕を回す。
ジェクトは片手をレオンの後頭部に、片腕を引き締まった腰に回していた。
離れては触れて深くなってを繰り返す口付けに、腰を抱く腕にも力が籠り、固いものがレオンの太腿に当たる。
判り易い興奮の様子に、レオンは早くも秘部がじんわりと疼くのを感じていた。

 糸を引きながらようやく口付けを終えて、はあ、とレオンは不足した酸素を取り込む。
頭の芯が少しぼんやりとする感覚に酔っていると、大きな手がレオンの頬を撫でた。


「今日はどうする?」
「……なんだ、選んで良いのか?」


 ジェクトの問いかけに、レオンは一瞬その意味を考えた後、今日の遣り取りの内容を決めて良いのか、と訊ねた。
ジェクトは笑みを浮かべて、レオンの耳朶を指先で擽りながら頷く。


「お前の誕生日だからな。仰せのままにって奴だ」
「じゃあ立場を逆にしてみるのはどうだ?」
「お前が俺に挿れるって?」
「嫌か?どんな感覚か知ってみると、後々にも役に立つと思うんだが」
「それ自体は悪かねえ提案だが、俺はやっぱりお前に挿れてえよ」


 其処は譲れない、と言うジェクトに、レオンはくすりと笑う。
冗談だよと頬にキスをすれば、不意の悪戯に振り回してくれる仕返しか、首元に強く吸い付かれた。


「っん……!」


 ぢゅう、と強い力に吸われて、微かな痛みにレオンは眉根を寄せる。
ジェクトの顔が其処から離れれば、くっきりと赤い痕が残っていた。
虫に食われたばかりのように、露骨に残ったそれを、ジェクトの舌がゆっくりと舐める。


「は……ん……っ」
「で、どうする?」


 艶めかしいものが肌を這う感触に、熱の吐息を漏らすレオンへ、ジェクトは改めて訊ねる。
這うものにぞくぞくとした感覚が背中を走るのを感じながら、レオンはええと、と考えて、


「取り敢えず……あんたの、舐めたい」
「おう」
「それから、良ければあんたもシてくれないか?」
「良いぜ」


 ジェクトはベッドの真ん中に移動すると、其処にごろりと横になった。
レオンも追ってベッドに上がると、ジェクトとは上下逆を向いて、彼の体を跨ぐ。

 寝る時はパンツ一枚あれば十分だと言うジェクトは、今日もその通りの格好をしている。
ゆったりとしたトランクスから伸びる、逞しい筋肉に覆われた太腿に掴まりながら、レオンは自分の位置を調整した。
四つ這いのポーズで、大丈夫だろうか、とちらりと体の下から下肢の方を覗き込んでみると、自分の足の間から、此方を見ている赤と目が合った。
その口元がにんまりと笑うのを見て、実に楽しそうな様子に、レオンの頬が赤くなる。


「脱がすぞ」
「ああ」


 ジェクトの手がレオンのズボンのゴム紐にかかる。
申し訳程度に緩く結んでいた紐が解かれ、緩んだウェストが引っ張られた。
下着も下ろされると、まだ入浴後の火照りが冷めきっていない肌に、少しひんやりとした空気が触れる。

 レオンもジェクトのトランクスの前を開けた。
ずらしてやれば直ぐに顔を出した雄は、既にしっかりと膨らんでいて、今日も凶悪な大きさになっている。
片手で覆い切れない太さのそれをそっと握って、レオンは汗を掻いている鈴口にキスをした。


「ん……」


 触れて、ふ、と微かな鼻息が当たると、ジェクトの雄はぴくりと反応する。
括れのある膨らみの裏側に舌を当てて、その先端でゆっくりと撫でて行くと、太い太腿がぴくぴくと震えるのが見えた。

 唾液を絡ませながら雄を濡らしているレオン。
その体に、ぞくぞくとしたものが走って、レオンは眉根を寄せた。
裸にされた下肢を、やわやわと揉むように大きな手が動き回っている。
その掌がレオンの玉を掠めたり、擽るように爪先を当てたりとするから、官能を感じてしまう。
自身が熱を持ち、反応するのを隠すことの出来ないレオンに、ジェクトは楽しそうな表情を浮かべていた。


「お前も立派になったもんだよなぁ」
「ん……む……?」


 ジェクトの呟きに、なんのことだとレオンが首を傾げると、勃起し始めたシンボルを大きな手が包み込むように握った。


「うん……っ!」
「大人になったもんだなと思ってよ。ガキの頃から知ってるもんだから」


 そう言ってジェクトは、レオンの雄を上下に扱き始めた。
水球を掴む為の大きな掌は、武骨な筋肉と厚みのある皮膚に覆われていて、少しごわごわとしている。
その手が自分の中心部に触れているのだと思うと、レオンは堪らず興奮してしまい、あっという間に其処は堅くなって行く。


「う、ん、ん……っ、は、むぅ……っ」


 与えられる快感にばかり終始している暇はない。
レオンは息を詰まらせながら、ぱかりと口を開けて、ジェクトの一物を招き入れた。
温かく湿った空気に包み込まれたジェクトが、一瞬息を飲んで、意識して呼吸を吐き出すのが聞こえる。


「ふぅ……良いぜ、あったけえ」
「んむ……あ、むぅ……ん……っ」


 後ろから聞こえる声に、恥ずかしいような嬉しいような、顔を赤らめながら、レオンは頭を下へと降ろしていく。
喉の奥を開くように意識しながら雄を飲み込んで行くが、その太さは勿論、長さも十分に凶悪さの一因である。
半分より少し向こうまで咥えることが出来れば、十分と言う位だ。

 レオンはジェクトの太腿に掴まるようにしがみ付き、頭を上下に動かした。
太い雄の幹にぴったりと舌を密着させ、全体に唾液を塗していく。


「んっ、んっ……っは……むぅん……っ」
「は……積極的だな。じゃあ、こっちもちゃんとしてやんねえと」
「あ、んっ……!んっ、ふぅ……っ!」


 ジェクトの雄を扱く手が激しくなって、レオンは駆け抜ける快感に腰から力が抜けそうになる。
それを意識して力を入れて保ちながら、レオンはジェクトの手の動きに合わせて、ゆらゆらと腰を振った。
目の前で良い色付きをした尻が踊る様子に、ジェクトは堪らず生唾を飲む。

 自身へ与えられる恋人からの刺激もあって、レオンの舌遣いも大胆さを増していく。
たっぷりと唾液を塗した雄から口を離すと、今度は根本に顔を寄せ、舌を宛がう。
先端を指先で小刻みに擦りながら、根本から頭の方へ、ゆっくりと舐め上げて行った。


「っは、あ……ん、むぅ……んちゅ……っ」
「あんま先つつくなよ」
「ん……ふ、んちゅぅ……っ!」
「ってめ……」


 敏感な先端への刺激にジェクトが抑えろと言うなら、レオンは嬉々として其処を苛めた。
窄めた唇で鈴口を捉え、ぢゅるりと音がする程に吸ってやれば、判り易くジェクトの腰が戦慄く。
睨む声にちらりと後ろを見遣り、肩越しに笑って見せれば、


「そう言う事する奴は、こっちだ」
「んぁっ!」


 づぷっ、とレオンの秘孔にジェクトの指が入った。
思わず雄から口を離して啼いてしまうレオンに、今度はジェクトがにんまりと笑う。


「お前はこっちの方がお待ちかねなんだろ?」
「んっ、あっ、あっ……!ジェク、あっ……!」
「今日は大サービスで、両方な」
「は、待て……あっ、あぁ……っ!」


 秘部に埋めた指が、中へと入っていく。
それと同時に、逆の手はレオンの雄を扱いていて、レオンは前後の弱点を苛められる快感に、頭が蕩けそうになってしまう。
ともすれば快感に委ねて飛びそうになる意識をなんとか捕まえながら、レオンもまたジェクトの雄に吸い付いた。


「んっ、んぢゅっ……!ん、ふぅん……っ!」
「く、っは……エロい吸い方しやがって」
「んぢゅ、れろ……は、むぅ……んちゅぅう……っ」
「積極的なのは、ま、嬉しいけどな」
「んん……ふ、くふぅん……っ!」


 くちゅっ、と秘部に埋められた指が中で回転して、掻き回される快感にレオンの腰がビクビクと跳ねる。
ジェクトの手の中に握られた雄は、とろりと先走りの蜜を零し、跨いだジェクトの腹に零れ落ちていた。
ジェクトはそれを指先で拾いながら、先の仕返し宜しく、レオンの先端を指の腹でぐりぐりと擦ってやる。


「うぅうんっ」
「イイだろ?」
「ふっ、ふぅ……っ!ん、あむ、んぢゅぅっ!」
「っうぉ……!」


 快感に打ち震えるレオンに対し、挑発的なジェクトの一言で、レオンの意地にも火が点いた。
戦慄く腰から湧き上がってくる快感を堪えながら、レオンは思い切ってジェクトの雄を食べる。
喉の奥から力を入れて強くそれを吸ってやれば、溜め込んだものを絞り出さんとする強さにジェクトが俄かに腹に力を込めた。

 レオンが懸命に頭を上下に動かして、咥内全体を使ってジェクトに奉仕する。
じゅぽ、じゅぽ、と溜まった唾液が卑猥な音を立てるのを聞きながら、ジェクトも昇って来る感覚を歯を噛んで堪え、目の前にあるいやらしい穴のヒクつきを見る。
人並よりも太い指を咥え込んでいる其処に、二本目を宛がえば、感じ取ったのか土手がヒクンヒクンと誘うように蠢いた。


「入れるぞ」
「んっ、ふぅんっ!」


 返事を待たず、ジェクトはレオンの秘孔に二本目の指を挿入した。
増す圧迫感にレオンの背中が撓り、突き出された尻が弾む。


「うっ、んん……、くぅ、ん……っ」


 異物感にレオンは眉根を寄せ、子犬のような声を漏らした。
そんなレオンを宥めるように、ジェクトの手は彼の雄の先端をすりすりと摩る。


「ふっ、ふぅっ……!うん……っ」
「動かすぞ」
「ふ、くぅ……」


 雄を口に咥えたまま、レオンはジェクトの言葉に小さく頷いた。

 二本の指は中ほどまで入ると、其処で小刻みに動き始めた。
壁を辿るように這う指の動きに、レオンの腹の奥にじわじわと熱の虫が生まれ始める。
奥がその刺激を求めるように蠢いて、内壁がジェクトの指に吸い付くように絡み付いた。

 淫部を優しく解されていくのを感じながら、レオンはうっとりとした表情を浮かべる。
熱がいよいよ脳まで回って来て、幸福感に満ちていた。
口の中にあるものにもゆっくりと舌を這わせ、先端から溢れて来る苦いものを、愛おしむように啜る。


「ん、んちゅ……う、ふぅ……っ」
「いい具合になって来たか?」
「ん……ジェク、ト……うん……っ」


 くちゅり、と奥の壁を持ち上げるように突かれて、ビクッとレオンの躰が跳ねた。
二本の指で其処をずっと圧されていると、内壁が勝手に震え出してしまう。
そうして腹の奥の熱もまた増してきて、レオンは腰全体が快感を求めて痺れていくのが判った。

 きゅう、きゅうぅ、と吸い付く内壁の感触に、ジェクトの唇が笑みを浮かべる。
指を軽く捻れば、肉が柔らかく形を変えるのが判った。


「まあ、こんな所か」
「あ……や……っ」


 ずる、と指が抜けていく感覚に、反射的にレオンは下肢を強張らせてしまう。
引き留めるように締め付けが増した肉の味を堪能しながら、ジェクトは指を引き抜いた。

 咥えていたものがなくなって、レオンの躰は俄かに侘しさに掴まってしまう。
はあ、はあ、と息を喘がせながら、しどけなく腰を捩る青年に、ジェクトは鼻の穴を膨らませながら、レオンの寝間着を脱がせた。


「あ……っ、は……、ジェクト……」
「ん?」


 服を脱がせるその荒っぽさから、性急な気配を感じながら、レオンは恋人の名前を呼んだ。
それを聞き留めたジェクトは、どうした、とレオンの顔を見ると、


「……言った、だろ。逆にしてみようって」
「だぁから、挿れるのは譲らねえっつったろ」


 レオンの提案に、ジェクトが改めて其処だけはと言うと、


「うん。でも、位置を変わる位は、良いだろう?」
「……ああ。そっちか」
「それなら良いだろ?」


 改めて提案された内容を読み直して、ジェクトはそれならと口角を上げた。
セックスをする時、主導権を持っているのは基本的にジェクトの方だが、偶にはその逆になるのも悪くないだろう。
それで新たな恋人の一面が見れるのなら、それも一興と言うのものだ。

 次のステップの為に起き上がっていたジェクトが、もう一度ベッドに横になると、レオンは向きを変えて彼の上に覆い被さった。
腹の上に手をついて、腰の位置を調整しながら、掌に当たる腹筋の感触に、すごいな、と思う。
自分も健康目的で多少なりと鍛えてはいるが、やはりプロのスポーツ選手の体躯は凄い。
いつもこれに伸し掛かられているのだと思うと、疲れて当然だなと思いながら、今はその下地の安定感に安心していた。

 ジェクトの雄は、支えが要らないほど、しっかりと勃起している。
それを尻に擦り付けてみると、それだけで固い感触がよく伝わって、レオンは秘部がひくついて、これを欲しがっている自分をありありと自覚した。


「は……また、今日も……大きいな……」
「まあ、元がデカいからよ」
「自慢か?」
「そりゃな。お陰でお前を満足させてやれるんだから」
「苦労も多いんだがな」
「判ってるよ」


 ジェクトのそれは大きいだけに、受け入れる側の負担も並大抵ではない。
だからレオンはいつも丹念に奉仕をして潤滑油を塗すし、ジェクトもレオンの躰を解すのを忘れないのだ。
こうした関係になったばかりの頃、お互いに勝手が判らずに無茶もしただけに、入念な準備が必要である事はよくよく判っている。

 レオンの唾液でたっぷりと濡れそぼった雄。
てらてらと艶めかしい光をまとうそれを、レオンはヒクつく秘孔に宛がった。
ゆっくりと腰を落とすと、太い部分が入り口を潜る一瞬、反射的に構えたからだが強張るが、


「う……んぅ……っ!」


 ずぷ、と一番太い場所が入り口を通過して、レオンはビクンッと肩を震わせた。
詰めた息を意識して吐き出すと、中にあるものがドクドクと脈打っているのが伝わってくる。


「は……ん、あ……っ」


 レオンは立てた膝に力を入れ、体勢を保ちながら、腰を下へと降ろしていく。
深くなって行く侵入に、それが中を擦り進んで行くのがまざまざと伝わって、圧迫感と異物感と、何とも言えない充足感を与えてくれる。

 随分と奥まで来たような気がして、レオンは一つ息を吐く。
は、は、と呼吸を整えるレオンの腰に、ジェクトの大きな手が掴むように左右から添えられる。


「ん……どう、だ……?結構入ったと思うんだけど……」
「ああ、半分くらいだな」
「半分……」


 まだそんなに、とレオンはこくりと唾を飲んだ。
大分中まで届いている気がするのに、これと同じ位にまだ残っていると言うのか。
いつも受け入れている事を思えば、入らない訳ではないとは思うが、待っている時と、自ら迎える時とで、こんなにも感覚が違うとは思っていなかった。

 はあ、ふう、と一頻り深呼吸を繰り返した後、レオンはもう一度、膝に力を入れた。
ジェクトの腹に両手をついて支えにし、再度、腰を落としていく。


「あ、ふ……う、うぅん……っ!」
「キツかったら無理しなくて良いぜ」
「う、ん……」


 ジェクトの気遣いに、半ばぼんやりとした気持ちで、レオンは拙い返事をした。
しかし、その気遣いは有り難くも、やはりレオンは恋人の全てを受け入れたいと思う。

 奥の窄まりに当たる所に、先端が届くのを感じて、びくんっ、と勝手に腰が跳ねた。
整えた呼吸が早々に逸るのを感じながら、レオンはもう一息と、体勢を整える。


「はあ…、ふ……う、あぁ……っ!」


 悩ましい声を上げ、もどかしげに体を捩りなら、レオンはジェクトの全てを飲み込んだ。
圧迫感が途中の比ではなく、下腹部にジェクトの存在をまざまざと感じる。
いつもこんな所まで届いているのかと、脈打つその熱を想いながら、レオンはありもしない器官を錯覚するような感覚に陥っていた。

 ジェクトの存在をその身の内全てで感じて、レオンの躰は火照りを増していく。
まだ果てには行き付いていないのに、昂ぶり切った自身の先端から、とろとろと先走りが溢れ出していた。


「は……ッ、ジェク、ト……ぉ……っ」
「あっちぃ……」
「んん……っ、奥に……当たってる……」
「締め付けてるぜ。すぐ持っていかれそうだ」
「は……んっ、まだ……これから……」
「ああ、そうだな」


 額に薄らと汗を掻いているジェクトに、レオンは本番はこれからなのだと、熱の燈った目で言った。
ジェクトが勿論判っていると頷けば、レオンは口元に薄らと笑みを浮かべて、体を支える両腕に力を込めた。

 ジェクトの上に預けていた体重を、膝に力を入れて持ち上げる。
ずるぅ、と擦れていく太いものに、レオンの体はぞくぞくと官能に震えてしまう。


「はっ、はぁっ……!う、くぅ……っ」


 持ち上げた腰を、再び下へ。
抜けて行った雄が、内壁を舐めながらまた奥へと入って行く感覚に、レオンの媚肉がすぐさま吸い付く。

 ぎし、ぎし、とベッドのスプリングが軋んだ音を立てる。
始めはゆっくりと緩慢だったリズムのそれは、次第に煩さを増していく。
比例してレオンの腰の動きは徐々に早くなり、たっぷりと塗された唾液を潤滑油に、雄の出入りもスムーズになって行った。


「は、あ……あっ、あぁ……っ!」


 艶を孕んだ声を上げながら、レオンは上下に腰を振る。
ジェクトは、自身の上で懸命に快感を貪る青年の姿に、股間に一層血が集まるのを感じていた。


「んっ、あっ、あっ……!ジェクト……んっ、大きく、なってる……あっ、あぁ……!」
「ああ、絶景が見えるお陰でな」
「はあ、はあ、ああ……っ!ジェ、クト……うぅっ、んんっ……!」


 にやりと笑うジェクトの赤眼は、獰猛な肉食獣のそれとよく似ている。
それに射抜かれる度に、レオンはぞくぞくと快感が背中を駆け抜けていくのだから、まるで被食される事に悦びを見出しているようだった。
いつも抱き潰される位に揺さぶられるのを思い出し、強ち間違っていない、と思いながら、レオンはまた一つ奥へとジェクトを招き入れる。


「あぅうぅっ」
「っふ……はあ、すげえな、お前」
「はっ、はぁ……んっ、う……」


 感嘆を漏らすジェクトに、レオンは目を合わせて、うっそりと笑った。
普段のストイックな姿とは裏腹に、快感を貪り、雄を煽ってくれる妖艶な表情に、ジェクトは自身の乾いた唇を舐める。
と、それを見たレオンが背中を屈め、ジェクトの唇に自身のそれを押し付けた。


「ん、む……んん……」


 覗いていた舌を吸いたがるレオンに、ジェクトは求めるものを差し出してやった。
直ぐにレオンの窄められた唇が吸い付き、ちゅうちゅうと果汁を飲む小動物のように唾液を啜る。

 と、レオンの手がするりとジェクトの胸を撫でた。
しっかりとした胸板は、力が入っていればまるで鉄のように堅いものだが、今は油断していて弾力がある。
レオンは量の手のひらでをそれをマッサージするように摩った後、その中心にあるものに指を引っ掛けた。


「う、」
「……ふふ」


 思いもよらなかった所からの刺激に、ジェクトが眉根を寄せると、レオンが小さく笑う気配。


「おい、お前……」
「あんたでも感じたか?」
「お前じゃねえんだから」
「言ったな?」


 挑発する恋人に、ジェクトが判り易く突っ撥ねてやれば、レオンはレオンは益々悪戯みを増した顔をする。

 レオンは背中を丸め、頭の位置を下げて、ジェクトの胸板に頬を乗せた。
猫がすり寄るように甘えながら、その口元がターゲットに近付く。
なんとなく予想していたジェクトの想像に違わず、レオンはジェクトの平らな乳首をちゅっと吸った。


「ん、ちゅ……れろ……」
「よせよ、くすぐってぇ」
「んふ……はむ、ちゅっ……!」


 頭を掴んで咎めるジェクトに、レオンはちらりと視線だけを寄越して、また直ぐに乳首に吸い付く。


「おいって」
「んちゅ……良いだろ、誕生日なんだから。俺の好きにしても」


 そう言ってレオンは、見下ろすジェクトに対し、見せつけるように舌を出す。
唾液をまとわりつかせた赤い舌が、自分の胸をこれみよがしに舐めるのを見て、ジェクトはそのいやらしさに俄かに興奮を覚えていた。
それはレオンの躰の中で、如実に彼に有様を伝えている。


「あんたの、大きくなったぞ。あまり膨らむなよ、俺が苦しいんだから」
「じゃあその悪戯は辞めろって」
「さて、どうしようかな」


 こんな事は滅多に出来るものじゃないから、と嘯くレオンに、調子付きやがってとジェクトは呟いた。

 子猫のようにジェクトの胸をしゃぶるレオンは、繋がった箇所から伝わるものから、ジェクトの体の反応を具に感じ取っている。
吸うより舐める方がお気に召すのか、大きな乳輪を舐める度、奥で雄がぴくぴくと戦慄く。
それを腹に力を入れてきゅうっと締め付けてやると、「うお……!」とジェクトが呻くのが聞こえた。

 しばらくジェクトの胸で遊んでいたレオンだったが、段々と腹の奥が疼きを増して、雄の反応を感じているだけでは物足りなくなって来る。
ふしだらな躰は、それを拓いてくれた男の全てを注がれなくては、満足できないのだ。

 レオンはジェクトの胸に縋るように体を預け、膝と背筋を使って腰を上下に動かし始めた。
咥え込んだ雄はもう十分にレオンの躰に馴染んでいて、圧迫感は相変わらずあっても、痛みは感じない。
剰えレオンの秘奥から滲み溢れた蜜を吸い、柔らかくなった蜜壺は、艶めかしく蠢きながら全身でジェクトに奉仕していた。


「は、はぁ……っ、あっ、んっ……!」
「お前のお陰で、結構苦しくなっちまった」
「う、ん……っ、気に入ったなら、またしても……んっ、良いぞ……ほら、」


 ちろり、とレオンはジェクトを見上げながら舌を出す。
ジェクトがその舌に指を寄せてやると、レオンは直ぐに其方に吸い付いた。


「ん、ん……っ、うむ……っ」


 ちゅう、ちゅう、と子猫がミルクを欲しがるように指を吸うレオン。
ジェクトが指をくっと口の中へと捻じ込めば、レオンは抵抗なくそれを受け入れた。

 ジェクトの指を吸いながら、レオンは夢中で腰を振る。
一突き一突きと、奥に咥え込んだ雄の先端が、深い場所に近付いて来るのが判った。
やがてそれは一番奥の窄まった壁に到達し、


「ふっ、ふぅ……っ、んん……!」


 レオンは腰を上へと持ち上げた。
ずるぅりと内部を擦って行く雄の逞しさを、全身で味わいながら、ぎりぎりの所まで引き抜く。
そして一つ呼吸を整えた後、縋る胸に頬を押し付けながら、一気に肉欲を最奥へと突き入れた。


「んぁぁああっ!」


 ずくん、と遂に秘奥に到達されて、自分のものとは思えないような、甘ったるい悲鳴を上げてレオンは絶頂する。
ぶるぶると震える躰を、背中に回された他野太い腕がしっかりと捕まえていた。
拘束されているようなその締め付けに酔いしれながら、レオンはビクビクと四肢を震わせ、咥え込んだ雄を目一杯に締め付ける。


「レオン……っ!」
「あっ、あぁあ……!ジェク、うぅうんっ!」


 耳元で絞り出すように名を呼ぶ声を聴いたと思ったら、胎内で雄がドクンドクンと大きく脈打ち、その欲望を解き放った。
熱くて濃いものが腹の中に注ぎ込まれるのを感じながら、レオンは足の爪先を丸めて強烈な官能に硬直する。

 ずっと疼き続けていた場所にようやく待ち望んでいたものが訪れて、レオンは頭の芯がふわふわと浮かぶような幸福感に満ちていた。
体の中に注ぎ込まれたジェクトの熱が、全身の細胞に溶け広がって行くような感覚を見る。
震える指先で、抱き締める男の肩に掴まれば、耳元に荒い鼻息が聞こえた。


「ふっ、あ…っ、あぁ……っ!」
「ふー……っ」
「ジェク、ト……ん、むぅ……っ」


 名前を呼べば、至近距離で目が合って、どちらともなく唇を重ねる。
舌が激しく絡み合い、ぴちゃぴちゃと唾液の音が聞こえる度に、体の中でジェクトの熱がどくんどくんと脈を打つのが感じられた。
それは一度の絶頂を迎えて幾らか大人しくはなった筈なのだが、やはり逞しさは失われず、咥内を貪り合っている内に再び硬度を増していく。

 たっぷりと口付けを味わって、酸素が足りなくなって朦朧としたレオンがぼんやりとし始めた頃に、ようやくジェクトはレオンの呼吸を解放する。
はあ、と呼気を零した蒼の瞳は、とろりと熱に溺れきって、唾液で艶の増した唇が、雄を誘うように音なくジェクトの名を呼んだ。


「……まだヤるか?」


 濡れたレオンの唇に、挟むように親指と人差指を当てるジェクト。
その言葉に、レオンの秘奥がきゅうっと締め付ければ、それが寸分違わず返事であった。


「……どうする?このまま続けても良いぜ」
「あ……」


 いつもとは違う、レオンが上に乗った体勢。
自分の思うままに快感を貪り、少しの悪戯も許してくれるこのポジションは、中々にレオンの優越感を満たしてくれる。
奥まで入れるのも自分の意志でやる事だから、ジェクトが今どの辺りにいるのかも判って、嘗てない興奮を感じていたのも確かだ。
それをもう一度味わうのも良い───のだけれど。

 レオンは、ジェクトの首に腕を回し、仕上がりの良い筋肉に覆われた躯体に抱き着いて言った。


「今度は、あんたが動いてくれ」
「良いのか?」


 容赦しねえぞ、と嘯く雄に、レオンの唇に笑みが浮かぶ。


「だから今度は、あんたの番が良いんだ」


 判っているから言っている、と言う恋人の表情は、判り易く雄を誘い煽っている。
繋がったままの場所も、奥がヒクつきながらねっとりと絡み付き、もっと、といやらしいおねだりをしていた。
そうと判れば、応じない訳にはいかない。

 ジェクトはレオンの背中を抱いて、ぐるん、と体を横に引っ繰り返した。
中に入ったものが擦れるのを感じて、レオンが甘い悲鳴を上げるのも構わず、ジェクトはレオンをベッドに沈める。
直ぐにその上に覆い被さると、すらりと長い足を持ち上げて、真上から体重を被せに行った。


「ああぁぁ……っ!」


 一際深くなる挿入に、レオンはベッドシーツを握り締め、悶えながら高い声を上げる。
反響するその声が聞こえなくなるよりも早く、ジェクトは大きな手でレオンの腰をしっかりと捕まえ、ずんっ!と強く腰を打ち付けた。


「あぁっ!」
「んぢゅぅっ」
「あぁんっ!はっ、胸はやめ、あっ、ああ……っ!」


 強い突き上げに仰け反った体を襲う、胸からの刺激。
食い付いた男の厚みのある唇が、レオンのツンと尖った乳首を強く啜れば、レオンは背筋を撓らせて喘いだ。


「遊んでくれた礼だ。此処でたっぷり感じさせてやるよ」
「やっ、あぁっ、くぅうん……っあ、あぁっ、ひんっ」


 甘噛みの尖った刺激にレオンは頭を振るが、ジェクトは構わなかった。
犬歯の先で柔く噛まれ、ビクッと震えた躰を、宥めるように這い回る舌。
これまでの経験で、其処が感じる所だと判っているから、ジェクトは一層入念に其処を愛撫する。


「だ、め……あっ、うぅ……ふっ、くぅ、ああっ……!」
「お前も此処で感じると、中が震えて来るんだぜ。気持ち良い、ってよ」
「バカ、言うな……あっ、んんっ!吸うなって、は、あぁ……!」


 身を捩り、仕切りに頭を振っていやいやと訴えるレオンだが、この躰を捕まえる腕はしっかりとしていて、どんなに暴れても逃げる事は叶わない。
寧ろ、嫌がって見せる獲物を屈服させてしまおうとでも言うのか、胎内で雄が一層興奮に膨らんで来るものだから、レオンの躰も否応なく其処から先を期待してしまう。


「良い景色見せて貰ったからな。天国見せてやるよ」
「はっ、はぁ……あっ、あぁっ、あぁ……!」


 にんまりと凶悪な笑みを浮かべるジェクトに、レオンの腹にぞくぞくと官能の種が芽吹いて直ぐ、律動が始まった。
騎乗位でレオンが懸命に運動していた時よりも、力強く大きな攻めで、レオンの躰は押し潰されるように雄に貪られていくのだった。




 激しく熱い夜を過ごし、後は泥のように眠る。
そのまま翌日の昼まで寝倒そうかと言う具合であったが、レオンは空が白まない内に目を覚ました。
部屋の隅で充電器に差した携帯電話が、度々サイレントモードで着信音を鳴らしている。
恐らく、母国の知り合いだとか、大学時代の後輩からのものだろう。
時計が見えないので正確には判らないが、彼方はもう朝になっている筈だ。
母国時間でのレオンの誕生日を祝うメールが続々と届いている。

 着信を知らせるランプが光るものだから、隣で寝ていた男も、いつの間にか目を覚ましていた。
光る携帯電話から目を背けるように、レオンを腕に抱いているジェクトは、目を閉じてじっと過ごしている。
目は覚めたが、あれだけ張り切った後なので、疲れているのだろう。
今日はもう続きはないな、と安堵のような残念なような気持ちで、恋人の顔を眺めていたレオンはふと思い出して、


「……ジェクト」
「……ん」


 名前を呼んでみると、ジェクトは短く返事をした。
起きてる、聞こえてる、と言う合図のそれに、レオンはくすりと笑みを漏らして、


「……ありがとう、ジェクト」


 口にした言葉に、数秒の間を置いてから、ジェクトは薄く目を開けた。
近い距離で交わる視線は、聊か訝しむものを含んでいる。


「唐突だな。どうした、急に」
「言っていなかったなと思って」
「何が」
「プレゼントの礼」


 また忘れない内に言っておかないとと思って。
そう言ったレオンに、ジェクトは視線を上向かせてしばし考える。


「……そういや聞いた覚えがねえな」
「笑ってしまって、それ所じゃなかったからな」


 レオンは、隣の無人のベッドに添えられたナイトテーブルを見た。
其処には、ジェクトが誕生日プレゼントにと贈ってくれた、バラの一輪挿しが活けてある。
花瓶などこの家には置いていないものだったから、今日の所は高さのあるペットボトルで仮置きしていた。


「明日、花瓶を買ってくる」
「そんな大層なもん用意しなくたって、あれで十分だろ。後で使うかも判りゃしねえのに」
「良いだろう、俺が貰ったものだ。俺の好きにする」
「……まあ、良いんじゃねえの」


 あのバラに関して、ジェクトの反応は素っ気ない。
それが照れ隠しであると言う事を、レオンはよく判っていた。

 ジェクトは、ちらりと件の花を見て、はあ、と深い溜息を吐く。


「ったく、やっぱ俺らしくなかったな。食いモンにすりゃ良かった」
「確かに、あんたらしいのはそっちだったかもな。でも、俺は嬉しかったよ」
「……気ぃ遣うなよ」
「本当だ」


 レオンがどう言った所で、ジェクトにとって、このプレゼントが自分と言う人間にとって不似合いな行動だったと言う思いは変わらない。
けれどレオンは、そう言う所も含めて、ジェクトがしてくれた行動が嬉しかった。

 また来年も、同じものを欲しいと言ったら、ジェクトはどんな顔をするだろう。
もしも来年、プレゼントのリクエストを聞かれたら、その時は頼んでみても良いかも知れない。
きっとジェクトは揶揄っていると思うのだろうが、レオンにとっては、他にない唯一無のプレゼントになるのだから。




レオン誕生日おめでとう!

書いてる奴がひたすら楽しい、プロ水球プレーヤージェクト×マネージャーレオンでお祝い。
普段からいちゃついてる癖に、誕生日なので託けて尚更いちゃついているようです。

ジェクトは昔、妻が生きている時でも、恐らく誕生祝いとかはしてあげたんだろうなと思う。息子に対してはああですが、他に対しては自分なりに気を遣っている人だと思うので。
ただ花なんかは本人が先ずよく判らないし、チューリップ位しか知らねえとか普通にありそう。それより、妻に対しては、普段はプロスポーツ選手として優先させて貰っている分、一緒にいる時間を作るようにはしてたのではないかなと。
原作でもパロでもその感じではあるのですが、この設定のジェクレオは、普段は仕事もプライベートもほぼ一緒な生活をしているから、改めて時間を作るとか言うことよりも、普段の礼も含めて何か形になるものでも渡した方が良いんじゃないか、と思ったとかなんとか。

バラの一輪挿し=『あなたしかいません』『あなたを愛しています』
尚送った本人は全く知らない。レオンも教えない。誰かがぽろっと教える事はあるかも知れない?