ただ君の為
レオン誕生日記念(2025)


 誕生日おめでとう、と声を揃えた仲間たちに、どうにも照れくささにむず痒い気分を抱きながら、ありがとう、と言った。

 差し出された花束とプレゼントボックスに、中々の大荷物だなと苦笑すれば、「皆からのプレゼントだからね」とエアリスが言った。
なんでも、予算から品選びから、部署内のほとんどの人が協力してくれたそうで、文字通り、仲間全員からの贈り物だと言うことだ。
花はエアリスが実家で営んでいる花屋で選び、花束にしてくれたものだと言う。
鮮やかなオレンジ色と、それを飾り支えるように添えられた薄水色の花群は、花瓶とセットになっている。
このまま飾れるよ、と言ってくれたエアリスに、助かるよ、とレオンは笑みを浮かべてそれを受け取った。

 二十歳も越えれば、そろそろ祝われる機会も減るものなのに、レオンは毎年こうして誰かに祝って貰う機会を得ている。
今朝は携帯電話に家族からメールが届いたし、休日になれば家族からのプレゼントが配送される手筈になっている。
慕ってくれる人々がいると言う有難みを、レオンは今日と言う日によくよく実感していた。

 そんな一日のスタートを切ってから、半日。
昼休憩の時間を迎えて、レオンはビル内に設けられている社員用のカフェテリアに来ていた。
其処では、部署の違う社員たちから、「今日、誕生日なんですよね」と声を掛けられる。
ヘルプ要請の度にあちこちに顔を出す機会のあったレオンのことは、多くの社員が知っている。
いつもお世話になっているお礼に、と差し出される品々を、レオンは感謝の言葉を返しながら受け取った。

 気付いた時には、レオンが座っていたテーブルの上には、色々なプレゼントが山となって詰まれている。
有名ブランドの高級な菓子や、疲労回復に有用なリラックスアイテムを中心に、利用幅の広い商品券もあった。
このカフェテリアで利用できる引き換えクーポン券や、気安い者からは自販機の飲み物をその場で貰っている。
部署の皆から貰ったプレゼントに加え、これらを全て持って帰るのは中々に骨になりそうだ。
そんな空気を察したのか、プレゼントをくれた人の一部から、これを使って下さい、と大きめの紙袋も渡されている。

 クーポンを貰ったので、レオンは珍しく食後のデザートを嗜んでいた。
女性社員たちから中々に評判の良いレアチーズケーキは、確かに蕩けるように柔らかなくちどけで、中々美味い。
普段は甘味にそれ程興味を示さなかったので、レオンはそんなメニューがあることすら知らなかった。
これはまた頼んでも良いな、と思いつつ、コーヒーを傾けていると、


「随分と人気者だな」


 聞こえた声にレオンが顔を上げると、同期でありつつ、直属の上司であるセフィロスが立っていた。
此方を見下ろす碧色の瞳は、平時は無感動であることが多いのだが、今日は珍しく機嫌が良さそうに微かな弧を作っている。

 レオンはセフィロスの言葉が、何を指して言っているのか、すぐに理解した。
テーブルに山と積まれた誕生日プレゼントのことだ。


「皆、わざわざ声をかけてくれるんだ。部署も違うのに、プレゼントまで用意してくれて。有難いことだな」
「見た所、中々の荷になりそうだが、持ち帰るには問題ないのか?」
「紙袋をくれた子がいる。デスクに置いている分と、花と……まあ、なんとかなるだろう。無理そうなら、問題ないものだけ、明日になるかも知れないが」


 季節柄、食べ物の類は、あまり常温に長置きしない方が良いだろう。
リラックスアイテムの温感効果のあるカイロなどは、仕事場で使うものと分けて置いても良い。
幸い、重みのある物は少ないので、嵩張る所だけなんとかすれば、多くは持って帰れる筈だ。

 空になったコーヒーとデザート皿を返却口に返し、レオンは荷物をまとめた。
なるべく貰ったものを崩したり、壊したりしないように注意して、紙袋の中に詰めていく。
その様子を、セフィロスはじっと見つめながら呟いた。


「羨ましいものだな」


 それは独り言だったのだろうが、レオンはしっかり聞き留めた。
まとめた荷物を持って振り返れば、独特の虹彩を持った碧眼が、レオンの腕に抱えられた荷を見詰めている。


「あんたも誕生日が来れば、色んな人から貰えるだろう。俺より渡したい人は多いと思うぞ」


 セフィロスが多くの人にとって憧れの、雲の上も同然の扱いを受けていることは、レオンもよく知っている。
女性の心を引き付けて已まない容姿は勿論のこと、会社の中ではレオンと同じ若輩でありながら、類を見ない出世頭である。
その能力の高さに惚れ込んでいる人間は、一人や二人ではないだろう。
反面、その優秀振り故にか、一対一で会話が出来る者は限られている。
そんなセフィロスにお近づきになりたいのは、老若男女問わずに存在した。
その誕生日ともなれば、それを口実に一歩でも親しくなれないかと奮闘する者たちも現れて、セフィロスのデスク周りにはプレゼントの山が築かれるのだ。
それも社内からに限らず、取引先からも送り付けられて来て、次々とやってくる荷のチェックに事務方が応援を要請する程だった。

 だが、セフィロスにとっては、そう言ったものは大した意味を成さないらしい。
セフィロスはレオンの言葉に、半ば呆れたように肩を竦め、


「俺のことはどうでも良い。誕生日プレゼントやらも、大して興味はない」
「そう言ってやるな。皆、相手に喜んでもらおうと、一所懸命に考えてるんだろうから」
「それは理解する。奇特な奴が寄越してくれるものでも、無下にするつもりはない。だが、お前の事は少々別だ」


 仕事へ戻るべくカフェテリアを後にしたレオンを、セフィロスは並んで追いながら言った。


「誰も彼もが、お前を慕う。臆面もなくな。だが、此方はそう言う訳にはいかない」


 セフィロスのその言葉に、レオンがその横顔を見ると、前を見ていた筈の碧眼は此方を向いていた。
蒼と碧がぶつかって、碧が薄らとした笑みを孕んで眇められる。


「俺からお前に何かを渡す訳にはいかない。贔屓していることになるからな」
「まあ───そうかもな」


 セフィロスはレオンと同期でこの会社に入っている。
その後、有能ぶりによるスピード出世で、あっと言う間に現在の地位に上り詰めた。
それは同期の者たちにしてみれば、まるで夢のような出世劇であり、後輩たちにも夢を与えているようだ。

 その傍ら、一人突出した場所に身を置くようになったことで、嘗ては少ない気心の知れた同期であったレオンとさえ、一定の距離を置くようになった。
元々の経緯はどうあれ、現在はセフィロスが上司で、レオンが部下と言う立場にある。
この状態になってから、セフィロスは“部下”に対してはあくまで平等な距離を置くことにしている。
だからセフィロスは、今日のレオンの誕生日が齎す流れに乗ることはなかった。

 と、自らそうした線引きをしているセフィロスだが、レオンを見つめる眦には、心なしか不服な様子が浮かんでいる。
レオンはそんな上司に眉尻を下げて、


「俺だけじゃなく、皆の誕生祝にあんたも参加するようになれば良いんじゃないか?」
「そうまでする義理のある奴もいない」
「ザックスやクラウドは、あんたの後輩だろう。エアリスだって昔から知った仲なんだから、祝っても良いんじゃないか?」
「……必要ないだろう。奴らも求めてはいないだろうしな」
「求めていなくても、祝って貰えれば喜ぶと思うが」
「お前を祝う為に必要なことなら考えよう」
「其処まで義務化するものじゃない」


 詰まる所、セフィロスは比較的親しい身内を含めても、誕生祝と言うものに己の時間を割くつもりはないのだ。
そう言う人間であると知られている人物が、レオンに関してだけはそうした手間を厭わないとなれば、確かに判り易い贔屓に見えるのかも知れない。

 当人の頑なな線引きと、環境が作り出す聊かの不自由に、レオンは苦笑して隣を歩く男を見る。


「あんたの気持ちだけ貰っておく。あんたがそんな事を気にしてくれるだけで、十分贔屓にされている訳だしな」


 基本的に、他人に興味を示さないセフィロスである。
付き合いの長い者とさえ、親しく会話をする事もないのだから、レオンは彼の縁者としては破格の扱いを受けている。
職場に置いては線を引いているが、プライベートを思うと、それは揺るぎようのない事実であった。

 フロアへ向かうエレベーターに乗り込むと、束の間、狭い空間で二人きりになる。
その隙を見つけたように、セフィロスの手がレオンの髪筋に触れた。


「社内ではお前を贔屓には出来ないが、外でなら話は別だ」
「それは予約か?」


 髪先を遊ぶ指を視界の端に捉えながらレオンが言うと、整った顔が微かに笑う。
く、と持ち上がったセフィロスの口角に、レオンも同じように唇が緩む。

 セフィロスの顔がすいと近付いて、レオンと触れそうな程の距離になる。
エレベーターが止まって扉が開いたら、出くわした人間が可哀想だな、と他人事のように思うレオンの口端に、一瞬、柔らかいものが触れ、


「先約は?」
「生憎、何も」
「なら良いな」


 気兼ねをすることもない、と言って、レオンの視界を埋める顔が機嫌を直して笑う。
存外と分かりやすい表情の変化に、レオンはやれやれと肩を竦めた。




 仕事の方はいつも通りだ。
誕生日だからと言って、取引先が何某かサービスをしてくれる訳でもないし、実入りの良い依頼が飛び込んでくると言う訳でもない。
こういう日は、何事か厄介なトラブルが起きなかったと言うだけでも、十分に助かるものである。
願わくば、明日も明後日もこうだと良いのだが、と思いつつ、一日の就業は恙なく終了した。

 諸々の確認も追えて、さて帰るか、と席を立った時だ。
同じように仕事を終えた所だったザックスが、クラウドを伴ってやって来た。


「レオン、飲みに行こうぜ。俺達で奢るから!」


 これもまた、気の良い仲間たちからの誕生日祝いなのだろう。
レオンは直ぐにそう理解したが、眉尻を下げて苦笑する。


「ありがとう。だが、すまないな。先約が入っているんだ」
「おっと。そりゃ残念、まぁまた今度ってことで良いか」
「悪いな」
「良いって良いって。こう言うのは先だった方を優先しなきゃな」


 申し出を断ることに若干の罪悪感を抱きがちなレオンを、ザックスはからからと笑って宥める。


「また都合の合う日があったら言ってくれよ、その時こそ奢るぜ」
「ああ」


 ザックスはクラウドを伴って会社を後にする。
最後に「おめでとさん!」と手を振るザックスと、無言ながらも視線だけは此方に寄越してくれているクラウドに、レオンもひらりと右手を挙げた。

 今夜の飲み、或いは食事の誘いと言うのは、ザックスたち以外からも受けていた。
オススメの店があって、だとか、美味い酒を仕入れてくれる居酒屋が、とか、紹介も含めて様々に誘いを貰ったが、レオンは一貫して辞退している。
声をかけてくれることは有難いが、先約があるのだから仕方がない。

 だからレオンはこれからその約束に赴くのだが、その前に先ずは、貰ったプレゼントを自宅に運んでおかねばならない。
両手で抱える紙袋に詰め込まれたプレゼントは勿論、花は生のものなので、長くこのままにさせていると萎れてしまう。
折角同僚が手ずから選び、綺麗に整えてくれた花なのだ。
いつまで長持ちさせることが出来るかは判らないが、当分の間は、生活の癒しを頂きたかった。

 急ぎ足に自宅に戻ったレオンは、手早く着替えを済ませて、持ち帰った荷物を簡単に整えた。
花束はラッピングを解き、飾り彫りが施されたガラスの花瓶の水だけを入れ替えて、ダイニングテーブルの上に飾る。
彩の良い花が部屋の中央に添えられただけで、毎日見ていた筈の光景が、随分と雰囲気を変えて見えるのだから不思議なものだ。

 さて、とレオンが約束の相手に連絡を取ろうと携帯電話を手にした所で、それが着信の音を鳴らした。
メッセージアプリから寄越されたのは「下にいる」と言う簡素なものだ。
窓から暗くなった外界を覗いてみると、アパートの前に一台の車が停まっている。
見覚えのあるそれに、迎えに来るとは聞いていなかったなと思いつつ、少ない荷物を片手に玄関を出た。

 エレベーターよりも早いだろう、と非常階段を下りて、レオンは一階の玄関ロビーを抜ける。
駐車場の来客用スペースへ向かうと、其処に停まった一台の車の運転席に、思った通りの人物を見付けた。

 レオンが車に近付けば、がちゃり、とその車のロックが解除される音。
助手席のドアを開けて乗り込むと、銀色と碧眼がレオンを見て機嫌良く表情を緩めた。


「そろそろ帰っているだろうと思っていた。良いタイミングだったようだな」
「丁度、あんたに連絡を取ろうと思った所だったんだ」


 レオンがシートベルトを留めると、車がゆっくりと走り出す。
滑るように通り過ぎていく夜の街並みを眺めながら、レオンはふと思った事を口にしてみる。


「───あんたはいつも良い所で連絡を寄越してくれるが、ひょっとして俺の生活はあんたに筒抜けにされてるのか?」


 先の連絡にしろ、日々の遣り取りにしろ、セフィロスは必ずレオンの邪魔にならないタイミングで寄越してくれる。
レオンにとっては有難い事だが、余りにそのタイミングが上手いものだから、何処かでリアルタイムに見られているのではないか、なんて思う事もあった。

 そんなレオンの言葉に、セフィロスは「さあな」と肩を竦める。


「人のプライベートに立ち入る程愚かなつもりはない。だが、本当にそんなことが出来るなら、俺の心配事も多少は減ってくれるかもな」
「どうして俺の生活をあんたが心配してるんだ」
「どうでも良い仕事を引き取って睡眠時間を削り、挙句に昏倒した経歴を持つ恋人を心配しない程、薄情はつもりはないぞ」


 セフィロスの言葉に、窓に頬杖をついていたレオンの唇が尖る。


「何年前の話をしているんだ」
「ほんの三年前だな」
「……もう其処までのことはやっていない。皆にも随分、迷惑をかけたし」
「それなら良いが」


 社会人になり立ての頃の失態は、レオンにとって中々に堪える出来事であった。
基本的に他人に迷惑を被らせることは避けたかったのに、無理を重ねた上で結局は倒れてしまったのだから、レオンは件の出来事を猛省している。

 深々と溜息を吐いているレオンに、セフィロスはくつりと小さく笑って、


「それで、今日の予定なんだがな」


 空気を切り替えるように、セフィロスは話題を変えた。
窓の向こうの景色は、レオンがいつの間にか見慣れた道並を映している。


「何処か店にでも行くかと思ったが、飲むなら気兼ねのない方が良いだろう。俺の家に行く」
「なんでも良い。あんたに任せる」
「ああ」


 セフィロスの招待を受け取ってレオンが頷いて、当分車が走って行けば、辺りはベッドタウンの景色になる。
都会特有の騒がしさはなく、静かな夜の街並みが続いていた。
洒落た形の街灯に照らされた道を進んで行くと、居並ぶ高層ビルの中で、一際高く洗練されたタワーマンションに辿り着く。

 地下駐車場へと入った車が所定の場所でエンジンを止めた。
外は夜でも夏の蒸し暑さが消えないが、この地下駐車場は空気の循環も整っているお陰か、ひんやりとした冷気すら感じられる。

 エレベーターに乗り込んで、ゆっくりと上る昇降機の中から、ガラス向こうに広がる景色を眺める。
地上を走る自動車や電車のライトは小さくなり、道路の形に沿って川のように流れていた。
空はすっかり夜に覆われ、今日は月が出ていないお陰で、星の光がいつもよりも見付け易い。
その星空へと視線は近付いて行き、地上がすっかり下界と呼べるほどに遠くなった所で、昇降機は停止した。

 中央に中層階からの吹き抜けが作られた通路を抜けて、角にあるのがセフィロスの住居だ。
其処はレオンから見て、一人で住むには少々持て余すような広さがある。
リビングに据えられた大きな窓は、眺望の良さを全面にアピールしており、昼間なら港湾の方まで望むことが出来た。
この窓の大きさは、やはり同等の高さのものが周囲にない、高層タワー特有のプライバシー性の高さのお陰だろう。

 セフィロスはレオンに「楽にしていろ」と言って、キッチンへと向かった。
レオンは羽織っていた上着を脱いで、リビングに据えられた革張りのソファに腰を下ろす。


「レオン。夕飯は済ませたのか?」
「いや。あんたとの約束もあったし、会社を出たのも遅かったからな。腹は空だ」
「それなら、まともに食うものを出した方が良さそうだな」


 冷蔵庫の開け閉めの音の後に、コンロに火をつける音が聞こえる。
レオンが首を伸ばして、リビングと続きになっているキッチンを見ると、セフィロスがフライパンを取り出していた。
その光景に、レオンはくつりと喉で笑う。


「あんたが台所に立っている所って、皆想像できないんだろうな」


 ソファの肘掛に寄り掛かりながら言うと、セフィロスは慣れた手付きで野菜を刻みながら、


「生活力は人並程度には備えている」
「そう言う匂いがしないんだ、あんたは。俺はもう見慣れたが、最初は驚いたものだった。冷蔵庫の中が空でも可笑しくない気がしていたし」


 セフィロスと言う男は、その整った外見からして、一般的な生活の気配と言うものが感じられないのだ。
スーパーで野菜を買い込んでいる所も想像が出来なかったし、キッチンに立つことがあるとも思えなかった。
それで暮らしているのがタワーマンションの上層と言う場所だから、その話を聞いただけで、何人の婦女子が夢幻のようなセレブ的生活を思い描いただろうか。

 実際にこの部屋に揃えられた調度品を見ると、どれも洗練されたものばかりが集められている。
その上で個人的な持ち物と言うのも少ないので、部屋の中はいつも整然としており、雇いのハウスキーパーでもいるのではないかと思う程、タイル貼りの足元に塵一つとない。
レオンも自宅は過ごし易いように整え、定期的に掃除もして保っているが、何某か暇を潰すものや、家族が旅行土産に渡してくれたものを飾ったりしているので、生活の中にその気配が溶け込んでいる。
セフィロスの場合はそれもないから、まるでモデルルームのような見栄えが崩れないのだ。

 だが、冷蔵庫の中にはきちんと日々の食事の材料が入っているし、台所の戸棚の中には使いこなれた調理器具が収められている。
それらを使うことは、頻度としてはそれ程多くはないそうだが、外出が必要ない時に自宅で完結させるには十分だ。
またそれでも面倒に思うことは儘あるので、料理は楽をするに越したことはないと、インスタントやレトルトもストックがある。
彼も存外と普通の人間なのだと言うことは、あまり世間には知られていない。

 客人を待たせることを嫌ったか、セフィロスは炒めたパスタに火の通った野菜を添え、オイルビネガーをかけてレオンへと提供した。


「ありがとう。頂きます」
「ああ。飲み物を持ってくる」


 レオンがフォークを手に取っている間に、セフィロスはまたキッチンへ。
程なくリビングに戻ってきた彼の手には、レモンウォーターの入ったサーバーと、彼が贔屓にしているブランドのラベルを張ったワインボトルがあった。


「お前が生まれた年に仕込んだワインだ」
「また貴重なものを仕入れてくれたな」
「お前の誕生日だからな」


 高かっただろうに、とレオンが言えば、どうと言うこともない、とセフィロスはさらりと言ってくれる。
それが本心からのものであるから、レオンはむず痒い気持ちが湧き上がる。

 パスタを食べる傍らに、ワインのラベルを眺めてみる。
其処には確かに、レオンが生まれた年に仕込まれたものである刻印が記されていた。
所謂ヴィンテージワインと言うものだが、こういうものは、長く時間を経たものほど貴重で高価になる。
それもセフィロスが気に入っている酒造のものとなれば、尚更その価値は高い。


「幾らなのか考えるのも恐ろしいな」


 レオンが半分冗談、半分本音で言うと、セフィロスは口元に笑みを浮かべ、


「以前、お前にこのブランドのものを飲ませた時、随分気に入っていただろう」
「───ああ。確かにあれは、美味い酒だったな。そうだ、あの時にヴィンテージワインと言うのも初めて飲ませて貰ったんだ。普段飲んでいるものとも随分口当たりが違ったから、新鮮だった」
「それなら、お前の誕生日には、これで祝うべきだと思っていた。お前も“また飲んでみたい”と言っていたしな」
「本気にしたのか」


 心地良くアルコールに酔っていた時に交わしていた何気ない一言が、このワインを手に入れる理由になった───そう聞いて、レオンは眉尻を下げて苦笑する。


「こんな高級なものを」
「お前の望みを叶えるのなら安い値だ」


 ゼロの数が二つも三つも違うようなものを、安いと言い切るとは。
その豪胆にレオンは感心しつつ、其処まで自分がこの男に愛されていると言うことに、未だ慣れない故に若干の気恥ずかしさが浮かぶ。

 此方を見つめる七色の虹彩を抱いた碧眼は、何処まで甘く柔く、レオンを映している。
穴が空きそうな程に見詰められるのは、気に入ったものを愛でる時のセフィロスの癖らしい。
レオンは意識的にその目から視線を外して、残り半分になっていたパスタを食べる事に集中した。

 遅い夕食が終わって、セフィロスがワイングラスを持って来た。
封を開けたワインがグラスに注がれ、濃い赤色の液体が器の中できらりと光っている。
グラスを揺らすと、心なしかとろりと蕩けるように滑る液体を見つめるレオンに、セフィロスは自分のグラスを持って掲げた。


「お前の生まれた日に、乾杯」
「ありがとう、セフィロス」


 今日と言う一日で、何度となく祝いの言葉をかけられた。
朝一番には家族からのメールで、会社では同僚や後輩たちから。
そして今日の最後に、恋人から送られる寿ぎの言葉に、レオンは己の幸福を噛み締めながら、ワインを口へと運んだ。




 レオンは決して酒に強くはないから、飲み会などに赴いても、アルコールを多く摂取することはない。
酒の味は嫌いではなかったが、酔い潰れると他人の手を煩わせてしまうのがどうにも嫌で、許容量を越えないラインから更に手前で飲酒をやめるようにしている。

 だが、今日くらいは気にしなくても良いだろう、と言うセフィロスに、そうだな、と頷いた。
二杯、三杯と重ねるレオンに、酌を持つセフィロスも何処か楽しそうだった。
セフィロスの手製のつまみを食べながら、贅沢な誕生日だな、とレオンは思う。
何せ社内外で人気のあるセフィロスに、彼の住むタワーマンションに招待され、高級なワインを貰い、彼の作った料理を食べているのだ。
セフィロスに憧れる世の女性が夢に見て已まない歓待を受けていると思うと、これ程の贅沢はない。

 だが、セフィロスにしてみれば、これでもまだ足りないのだそうだ。
今日は自宅でこうして手ずからの小さな祝宴となったが、気に入っている店を貸し切りにする事も、本気で考えたらしい。
流石にそこまでの事は、とレオンが眉尻を下げれば、セフィロスは「そう言うだろうと思って辞めた」とのこと。
レオンの気質はセフィロスもよくよく理解しているから、何が一番レオンが気兼ねなく受け取れるかと言うことを考えた末に、今日のことに至ったと言う。


「理解が深くて有難い」
「今でも吝かではないのだがな。お前が求めるなら、今から場所を取るぞ」
「勘弁してくれ。本当にやるだろう、あんた」
「無論だ」


 きっぱりと言い切るセフィロスに、レオンはくつくつと笑う。
もう一度、「勘弁してくれ」と言うと、セフィロスは判り易く不満そうに、拗ねた子供のように眉根を寄せた。
その表情がまた可笑しくて、レオンの笑いはしばらく収まらなかった。

 気分の良いアルコールも入って、レオンは自分がいつになく上機嫌であることを感じていた。
広いソファの背凭れに寄り掛かって、埋め込み照明で煌々としているモダンな作りの天井を見上げる。


「大分飲んだな。ボトルも空になったし」
「良い酒だった。お前の味だと思えば、尚更」
「俺はワインに入ってないよ。あんたも酔っているな」


 レオンの指摘に、セフィロスは口元に笑みを浮かべながら、グラスに残った最後の一口を飲み干す。
色の薄い唇に、薄らと紅い色が乗っているのを見付けて、レオンは徐に体を起こした。

 日焼けをしない体質か、徹底的に日に当たることを避けているかのように、セフィロスの肌は白い。
レオンもあまり黒くならない質ではあるが、セフィロスはまるで陶磁器のようだ。
髪色も銀色であるし、全体的に色素が足りないようにも見える。
其処に一筋、差すように入った紅色は随分と際立って見えて、レオンはまるでセフィロスが幽鬼の存在であるかのように思った。

 レオンの伸ばした指が、セフィロスの赤く色付いた唇に触れる。
指の腹でそっとそれを拭うように滑らせると、その手をセフィロスの手が掴む。


「誘っているのか?」
「……さあ、どうだろうな」


 そう言うつもりではなかったが、誘われたように触れたのは確かだ。
子供の粗相を咎める気分に似ていた気もするが、目の前の男にそんな一面を期待していた訳でもない。
寧ろ、こうやって触れれば、男の琴線に触れることは判っていた筈だ。
無自覚ながらに意識的に、挑発の仕草を選んだことは否めない。

 セフィロスはレオンの手を握り、その甲に唇を押し付けた。
彫像のように整った顔の男が、恭しく誓いのキスを捧げる様子に、どうしてこれを貰うのが俺なんだろうな、とレオンは眉尻を下げる。
仕草一つとっても完璧な男が入れ込むのが、並び立てるような絶世の美女ではなく、同性の自分だと言うことが、レオンには不思議でならなかった。

 それでも、愛してくれる男の体温は愛おしい。
手の甲から手首へ、腕へ、肘へ───徐々に昇って来る唇の感触に、レオンはむず痒さに目を細めながら、それを受け止めていた。

 袖の微かな隙間に、セフィロスの手指が入って来る。
大して奥まで進めもしないから、指はその場で何度もレオンの皮膚をくすぐった。


「セフィロス、」


 何とも言えない感触が湧き上がってくるものだから、レオンはセフィロスを咎めた。
しかし、碧眼は何処か楽しそうに細められて、悪戯を辞める気配はない。
唇はいつの間にかレオンの首筋に辿り着いていて、ちゅう、と吸い付かれるのが判った。


「ん……っ」


 ひくん、とレオンの体が微かに竦む。
こうなると判っていたから構えてもいたのだが、熱の交わりに未だ慣れ切らない体は、柔い刺激にも敏感に反応した。

 首筋にねっとりと弾力のあるものが這うのを感じながら、レオンは体内の熱が湧き上がってくるのを自覚する。
ソファに身を委ね預けた身体が、男の触れる手付きに合わせて、落ち着きを失くして捩られる。


「っは……セフィ、ロス……ん、ここで……?」


 レオンが身を預けているソファは、座面も広く、此処で体を横にしても問題はないだろう。
それなりに長身のレオンとセフィロスでも、十分に体を収めることが出来ている。

 だが、とは言っても此処はリビングダイニングだ。
天井照明が煌々と照らす室内は、心穏やかに過ごし寝所とも雰囲気が違っていて、レオンはどうも落ち着かない。
何より、此処で事を始めると、ソファを始めとした色々なものを汚してしまうのが気掛かりだ。

 しかしセフィロスはと言えば、己の家の何処で何をしようと、今更気にするものでもないのだろう。
些細な身動ぎによる僅かな抵抗を気にした様子もなく、レオンのシャツの裾に手を差し入れている。


「俺は何処でも構わない。それに、煽ったのはお前だ」
「そう言うつもりはないんだが……」


 唇に触れた時のことを言われて、レオンは眉尻を下げつつ反論する。
だが、あれが目の前の男を雄にするスイッチを押したのだと言うことは、思い返せば理解できることでもあった。

 腹のあたりを探るように彷徨う手のひらに、レオンは唇を噛む。
其処に生まれつつある熱を、じわりじわりと煽られているような気がしてならない。
噤んだ唇の奥で、くぐもった吐息が押し留めて蓄積されていた。

 セフィロスはレオンの首筋に吸い付いて、赤い跡を其処に残す。
その感触が残る喉元に、レオンが自分の手で触れる様を、セフィロスは何処か満足そうに見つめながら、


「嫌ならそう言え。お前の望むようにしてやろう」
「……じゃあ、今夜はしたくないと言ったら、それも叶えてくれるのか?」
「お前の本心ならば止むを得ないな」


 そう答えながら、セフィロスはまたレオンの首筋に唇を押し付ける。
喉仏の膨らみをゆったりと舌先で舐められて、レオンはひくりと頭を仰け反らせた。
晒された喉の中心に、セフィロスの歯が柔く宛がわれる。


「……っ……!」


 捕食される錯覚に、ぞくりとしたものがレオンの背を這う。


「物騒だな……あんたは」
「優しいだろう。お前の希望を叶えるのだから」
「代償が等価ならまだ良いんだが」
「見返りなどいらん。お前の体を貰うからな」
「やっぱり高くつくじゃないか。全く、あのワインの値が知れないな」


 交わされる他愛のない会話の間も、セフィロスの愛撫は止まらなかった。
彼の手はレオンの肌を、服の上から、下から探るように彷徨い続けている。
それが妙にもどかしさを募らせるものだから、レオンは自分の体が熱に溺れる準備をしていることに、厭でも気付いた。

 は、と零れる呼気に熱が混じる。
それが酷く近い距離にいる男にも伝わっていた。


「ん……セフィ、ロス……」
「お前はそのままにしていると良い。俺がすべてを引き受けてやろう」
「……誕生日、だから?」
「そうだな。今日の俺は、お前の為だけに傅いてやる」


 そう言ってセフィロスは、もう一度レオンの手を取り、形の良い甲に口付ける。
そのまま、つぅ、と艶めかしいものが這う感触があって、性的興奮を隠さない碧が此方を見ていた。

 レオンがソファに身を委ねたまま動かないのを見て、セフィロスの口角が愉しげに笑う。
体の上を彷徨っていた手が、レオンの服を丁寧に脱がし始めた。
シャツの併せ襟のボタンも、ひとつひとつ、もどかしいほどに丁寧な手付きで外されていく。

 体の前が開けられて、空調で涼を帯びた空気がレオンの肌を撫でる。
酒のお陰か、体の奥が火照っている感覚があって、寒さを感じることはなかった。
其処にひたりと触れるセフィロスの手は、レオンの体温よりも僅かに低く感じられる。
その手がゆったりと胸元を滑り、レオンの胸の頂の膨らみを擽った。


「んっ……」


 小さな声が漏れるのを、レオンは唇を噛んで堪える。
その口端へ、セフィロスの唇が重なった。


「ん、む……ふ……」
「……口を開けろ」
「…っは……ん、ぅ……」


 要望に応じて唇の力を解けば、隙間から舌が入り込んできた。
絡みつくそれにレオンが応えると、耳の奥で唾液が交じり合う音が鳴る。

 舌が絡み合う音を聞きながら、レオンは肌を辿り続ける手の感触に感じ入っていた。
形の良い大きな手は、包み込むようにレオンの肌を愛撫しつつ、身に纏っている衣服を取り去って行く。
誘導に従うままに袖から腕を抜いて、レオンは上肢をすっかり裸にしていた。


「ん、ちゅ……ふ……は、あ……っ」


 下唇を吸われながら、呼吸を解放される。
レオンはほうっと籠った息を吐いた後、新鮮な空気を肺へと送りこんだ。

 呼吸に合わせて上下に動く胸を、セフィロスの手がやわやわと揉んでいる。
女のように柔らかくはないが、其処にはしっかりと発達した胸筋があった。
セフィロスは其方に顔を寄せると、胸の膨らみに吸い付く。


「んんっ」


 指先の擽りで性感帯としてのスイッチを入れられていた其処。
生暖かく湿ったものに包み込まれるのを感じて、レオンの肩がびくっと跳ねた。

 セフィロスの舌が乳首に絡み、丹念に舐めしゃぶっている。
濡れた感覚がじわじわと広がって、弾力のある舌に対して、乳首が固い感触を返すようになった。
固くなれば其処は敏感にもなって行き、セフィロスが甘く歯を立てるだけで、レオンは痺れるような快感が胸部に広がるのを感じていた。


「あ、ふ……っんん……!」
「酒の所為か。今日は随分と感度が良い」
「は、は……あ、あ……っ!」


 独り言のようで、レオンに事実を伝えるように、セフィロスは言った。
濡れた乳首にかかる微かな吐息だけで、レオンに背中にぞくぞくとするものが奔る。

 体の奥で燻ぶるように燃えていたものが、一気に熱を増して昂って行くのが判る。
下腹部に血が集まって、レオンはもどかしさで腰が揺れた。
それを見たセフィロスの双眸が愉し気に細められ、彼の右手がするりと下肢へと下りる。
ベルトのバックルにかかった手が、器用に片方のそれだけで、金具の留めを外して行った。


「は、ああ……セフィ、ロス……っ」
「言っただろう、お前はそのままにしていろ。全て俺がしてやると」
「んんぁ……っ!」


 ちゅう、と乳首を強く吸われ、レオンは快感に背筋を逸らす。

 ベルトが緩み、ズボンの前も寛げられて、中へとセフィロスの手が侵入する。
下着の中で窮屈に膨らんでいるものに触れた手が、やわやわと其処を握り揉むと、レオンはビクッビクッと下肢を戦慄かせた。

 セフィロスの愛撫を受けて、レオンの中心部はじわじわと汗を掻き始めている。
根本を握って軽く上下に扱かれると、集まっていた血が押し出されるようにせり上がり、レオンは思わず腰を浮かせていた。


「あ、ふ……セフィ、ロス……待っ……!」


 アルコールで心地良い浮遊感の中にいるからか、体が我慢できそうにない。
下腹部に力を入れて堪えようと試みるレオンだったが、雄はもうすっかり固くなり、今にも溢れ出してしまいそうだ。
だが、此処はリビングで、ソファの上で───と辛うじて残る理性が訴えるも、耳元に囁く男の声が、それを蕩かしていく。


「構わん。お前は感じるままにすれば良い」
「あ、あ……!は、あぁあ……っ!」


 身を捩り、吹き上がる羞恥心に赤らんだ顔を腕で隠しながら、レオンの体が強張って行く。
そんなレオンの中心部の先端を、セフィロスの指がくりゅっと穿るように刺激すれば、


「あうっ、ぁっ!あぁ……!」


 びくんっ、とレオンの引き締まった腰が跳ねた直後、レオンは果てを迎えていた。
ヒクッ、ヒクッ、と余韻に下肢を戦慄かせながら、下着の中でじんわりと湿ったものが拡がって行くのが判る。
顔を覆った腕の隙間から、煌々とする天井照明が見えて、レオンを無性に居た堪れない気分にさせていた。

 ついさっきまで、穏やかに酒を飲み交わしていた場所で、淫靡なことを始めている。
その事実が、茹り始めた頭には何処か背徳感を呼んでいた。
セフィロスの手の中で、レオンの中心部は熱の放出にこそ至ったものの、まだ固く張りつめている。
先を期待するように熱を膨らませたままのそれを、セフィロスの手がゆったりと撫で擦るだけで、レオンの腰がぶるりと震えた。

 熱を放出したことで、レオンの体は弛緩していた。
くったりとソファに沈むその身体から、セフィロスは全ての服を脱がしていく。
タイトなズボンを脱がし、中心に薄らと染みを浮かせた下着を下ろしてやれば、生まれたままの姿のレオンが露わになった。
手ずから脱がせ、何ひとつまとわぬ姿で全てを曝け出しているレオンの姿に、セフィロスの唇に愉悦の笑みが燈る。

 セフィロスが服を脱ぐと、長身に均整の取れた裸身がレオンの前に現れた。
平時は絞ったシルエットを好む所為か、健康優良児然とした後輩たちよりも細身に見えるが、存外と彼もしっかりとした体躯をしている。
顔もそうだが、体もまた、美術館の彫刻にあっても可笑しくない、鑑賞に理想的な体系だ。

 ソファが二人分の体重を受けて微かに沈む。
横たわるレオンに、セフィロスが覆いかぶさった。


「レオン」
「……セフィロス……」


 名を呼ぶ声にレオンが答えれば、セフィロスの双眸は嬉しそうに細められる。
落ちて来る唇を受け止め、レオンは触れるセフィロスの唇に舌を当てた。
誘っているものと受け取ったセフィロスが隙間を赦したので、レオンもその奥へと進入する。


「ん、ん……っ」
「ちゅ、ん……ふ……っ」


 セフィロスの咥内で舌を吸われて、レオンは舌の根が甘く痺れるのを感じた。
セフィロスの首に腕を絡め、身を寄せながら深く深くキスをする。

 肌同士が触れ合って、とくとくと鳴る心音が聞こえて来た。
それが自分のものなのか、相手のものなのか、レオンにはよく判らない。
それを確かめられるだけの思考力は、ワインのお陰で洗い流されてしまったのかも知れない。
ただ、このリズムと口付けとが心地良くて、夢中でその感触を確かめる。

 レオンがキスに懸命になっている内に、セフィロスの手はレオンの肌身を確かめていた。
縋るように密着するレオンの背中、腰骨、臀部をひとつひとつ辿りながら下りて行く。
やがてその手は、レオンの中央の窄まりに触れて、入り口をくすぐるように淵をなぞる。


「っあ……!」


 セフィロスが触れていることに、レオンも直ぐに気付いた。
疼きを生み始める其処を刺激されることに、反射的に身を捩って逃げを打つが、背中に回された腕が離れることを許さない。


「安心しろ。準備は俺がする」
「……っ」


 耳元で囁く声に、レオンの体はそれだけで疼き始める。
まだ中を探られた訳でもないのに、其処がじわりと熱を持ってひくつくのが自分でも判った。

 セフィロスはレオンの両足を大きく開かせると、汗の匂いを漂わせる中心部に手を宛がう。
又坐を手のひらで覆うようにゆったりと撫でた後、ふくふくと期待に伸縮運動を見せる秘穴に指が這う。
指の腹で入り口を摩り、其処が物欲しげに吸い付いて来るのを確認しながら、そっと指を押し入れた。


「んん……っ!」


 くぷり、と指先が中に入ってきたのが判って、レオンはソファのカバーを握りながら唇を噛む。
反射的に腹に力が入り、指を咥えた場所も締め付けを増した。


「レオン。息を」
「う……っは……はぁ……んん……っ」


 促す声に従って、レオンは拙い呼吸を試みた。
口を開いて、は、は、と短い呼気を吐き出して、微かに酸素を吸う。
何度か繰り返している内に、力んでいた手足から徐々に強張りが抜けて、噛みつくように指にしがみついていた肉も解けていく。


「良い子だ、レオン」
「あ……っ、セフィ、ロス……っ!」


 子供を褒めるような言葉は、レオンにとって羞恥を煽るものだったが、同時に言い知れない喜びも感じさせた。
ぞくぞくとしたものが背筋を上って来て、レオンの体に熱を呼び起こす。
それと同時に、秘部の中へ侵入物が進んでくるのを受け入れた。

 半分まで入った指が、中で円を描く。
狭く吸い付く内側を、宥め慰めるように、セフィロスの指は優しくその表面を撫でていた。
じわりじわりと中を広げられていく感覚に、レオンは呼吸を止めないように勤めながら、甘い声を漏らしていく。


「あ、あ……っは……あぁ……っ」
「苦しくはなさそうだな」
「ん、んぁ……っ!大、丈夫……ん、あっ……!」


 様子を確かめるセフィロスに、レオンが頷くと、指の侵入が更に深くなった。
じくじくと疼くレオンの内部、その手前まで届いている。


「もう一本、入れるぞ」
「ん……あ、うぅん……っ!」


 二本目の指が侵入してきて、増した異物感にレオンは喉を反らす。
痛みも圧迫感もそれ程大きくはなかったが、肉から伝わる感触がよりクリアになったような気がした。

 二本の指がレオンの中をゆったりと掻き回し始める。
内肉を傷付けることのないよう、丹念に手入れされた形の良い指が、自身の中を殊更丁寧に愛撫していることに、レオンは事実以上の興奮を覚えていた。


「セ、フィロス……セフィロス……っ、あぁ……っ!」
「そう急かすな。十分に解しておかないと、お前を傷付ける」
「あ、ああ……っは、はぁ……んぁ……そこ……ああ……!」


 胎の奥底で熱を求める疼きが況して、先が欲しいと訴えるレオンを、セフィロスは慰めながら内側を解していく。
その指先が良い場所を掠める度に、レオンの体はビクンッと跳ねた。

 レオンの雄の象徴は、一度果てたとは言え、それも表面的な刺激で至った浅いものだ。
何度となくセフィロスと身体を重ねた今の彼は、最奥に熱を注いで貰わなければ、満足することが出来ない。
はしたない体になった自分を恥ずかしく思う傍ら、これ程の恍惚も知らないものだから、麻薬のように癖になって忘れることが出来なかった。

 だが、それを唯一与えてくれる男は、まだレオンにそれを差し出すつもりはないらしい。
内肉を解す指は余りに優しく、レオンの官能のスイッチを浅く刺激するばかりで、レオンの熱は一定のラインから先に向かってくれなかった。


「んぁ、あ、あぁ……っ!セフィロス……っ!」


 喘ぐレオンの声が温度を上げて行き、指を咥え込んだ淫部から、くちゅくちゅといやらしい音が聞こえてくる。
疼きは益々増して行き、無意識にゆらゆらと腰が揺れる。
秘壺は其処に入っているものを絶えず締め付けながら、もっと奥へと誘い込もうと蠢動していた。


「セフィ、セフィロス……っあぁ……!もう、良いから……ん、あ、あふぅ……っ!」
「まだ足りないと思うが───いや、そうだな。お前が望むなら、そうしよう」


 熱と雫を浮かせた瞳で見つめるレオンに、セフィロスはくつりと笑みを浮かべて頷いた。
中を解していた指をゆっくりと抜いて行く。
レオンは「あ、ああ、あ……!」とあえかな声を上げながら、媚肉を撫でて行く指をずっと締め付けていた。

 指が出ていくと、レオンの体はヒクンッとひとつ跳ねて、ソファに沈んだ。
立てた膝をふるふると戦慄かせながら、先をねだって足を開く。


「セフィロス……早く……」


 もう待ちきれないのだと、レオンはセフィロスに腕を伸ばした。
首に絡んだ腕が必死に甘える様子を、セフィロスは愛おしげに受け止めながら、自身の昂った雄をレオンに見せる。


「は……あぁ……っ」
「苦しければ言え。お前に合わせる」
「ん……あ……っ」


 セフィロスの手がレオンの膝を押し上げ、ヒクつく中心部を全て見せつける格好になる。
途端に湧き上がる羞恥心にレオンの顔は赤くなったが、此処まで来て今更厭などなかった。
それよりも、一秒でも良いから、早く目の前の男と繋がりたい。

 反り返る程に固く張りつめたセフィロスの雄が、レオンの秘所に宛がわれ、ゆっくりと押し入って行く。
一番太い部分が穴口を潜って、レオンは「んぅんっ!」と喉奥で声を上げた。
びくんと跳ねた身体を、セフィロスの腕が閉じ込めるように抱き締める。


「ふ、は……はぁ、あ……は……っ!」
「はあ……ふ……、熱い、な……レオン……!」


 レオンの視界は銀色に覆われている。
その世界の中で、耳元に沁み通るように聞こえてくる低い声が、得も言われぬ心地良さでレオンをより一層熱の深みへと溺れさせていく。

 レオンの胎内はねっとりと粘膜が潤み、セフィロスの進入を迎え入れるかのように喜んでいた。
強く締め付けながらも、指の丹念な仕事で解されたお陰で、痛みを生む程に過度な力も入っていない。
レオンが呼吸をするリズムに合わせ、肉褥が脈を打っているのが伝わって、セフィロスは自分こそがレオンに奉仕されているような気がしてならない。
それもまた心地の良い事ではあったが、


「今日はお前を良くすることが、俺の務めだからな」


 自身に言い聞かせるように呟いたセフィロスの声は、レオンにはよく聞こえていなかった。
体の中に入ってきた愛しい熱欲に、意識が絡め取られて、頭がまるで回らない。
肉が擦れ合う度、痺れるような快感が下腹部から脊髄まで駆け抜けてくるから、思考する余裕なんてものはどろどろに溶かされてしまう。


「ああ、んぁ……あ、深く、なる……あ、はくぅ……っ!」
「もう少し、奥まで行ける筈だ。良いな?」
「はあ、ああ、ん、良い……から、もっと……」


 もっと奥へ、もっと深くへ。
首に縋る腕に力を込めて身を寄せながら、レオンはセフィロスの腰に足も絡みつかせた。
より深くへと貰うことを全身でねだる姿に、レオンの胎内でセフィロスの熱が膨らみを増す。


「ああっ……!中、で……大き、く……んんっ」
「お前が誘うからだ」
「はっ、あ、あう、んん……!」


 大きくなった一物が、自分の奥へと入って行く圧迫感に、レオンは眉根を寄せながら甘い声を上げる。

 ことに慎重だった進入の儀がようやく終わると、レオンはヘソの裏側に存在感を感じるような気がした。
そんな所までセフィロスが入っているのかは判らないが、いてもおかしくない、ような気もする。
或いは、それ程にこの男に支配して欲しいと思うから、そんな感覚に溺れているのかも知れない。

 ふう、ふう、とくぐもった呼気を零しながら、レオンは自身の腹に手を当てた。
しっかりとした腹筋に覆われた其処を、手のひらでそっと撫でると、その仕草の意味が相手にも伝わったのだろうか。
セフィロスはうっそりと目を細めると、ぐっ、と奥園を押し上げるように腰を突きだした。


「あううっ」
「きつくはなさそうだな」
「んん……っ!あ、ふ……あぁ……っ」


 繋がった場所から、腹の裏側で響く快感に、レオンの腹がヒクッヒクッと戦慄いている。
レオンが先程自分で触れた其処を、セフィロスの指が擽るように辿れば、セフィロスを咥えた秘奥がきゅうう……と切なげに締め付けた。

 セフィロスはレオンの体の横に両手をついて、全身でレオンを隠すように覆い被さる。
繋がっている部分が、ぐぷりと深くなるのを感じて、レオンは悩ましい声を上げた。


「ああ……っ!」
「動くぞ、レオン」
「は、あ……あぁっ!」


 合図にレオンが頷くや否や、セフィロスの律動が始まった。
上等な革張りのソファが、ぎしぎしと抗議のような音を立てるのも構わず、セフィロスはレオンの秘奥を何度も強く突き上げる。


「あっ、あっ、あぁっ!」
「お前の良い所は───」
「は、っ、あっ、あぁっ!」
「ああ、此処だな」


 奥園への攻めに声を上げるレオンの、僅かなトーンの変化を、セフィロスは見逃さなかった。
一番奥の僅かに上、吸い付く天井の段差がある部分を先端で突き上げれば、レオンは一際高い声を上げた。

 揺さぶられるに合わせて、ソファの上をずり上がって行く体を、セフィロスの腕が捕まえて引き戻す。
ずぷぷ、とまた深くなる禊に、レオンは大きく背中を仰け反らせた。
彼の中心部もまた、腹に届きそうな程に頭を起こし、先端からはとろとろと先走りの蜜を溢れさせている。


「セフィ、セフィロス……っ!ああっ、そこ、んぁ、あっ、あぁっ……!」
「イきたいか?お前の感じる通りにすれば良い。何度でも満足させてやる」
「はっ、あっ、んぁあっ!あっ、しびれ、る、ああっ、体が……んぁ、熱い、あぁんっ!」


 額に汗の粒を浮かせて、レオンはせり上がって来る衝動に耐えられるに頭を振る。
セフィロスが最奥を穿つ度に、どくどくと血流が出口に向かって走り出した。


「イく、セフィロス……もう、イ、くぅ……っ!」


 まだ直接に交わってから幾らも時間が経っていない。
だが、前戯として、秘部を焦らされる程に丁寧に刺激されているのだ。
快感腺がすっかり花開いて、ようやく与えられた太く逞しい劣情は、レオンを水際にあった限界まで持ち上げるのに十二分の役目を果たしている。

 セフィロスはレオンの腰をしかと掴んで、身動ぎすらも封殺して、彼の弱点を一気に攻め立てた。
レオンは揺さぶられる足の爪先までピンと張り詰めさせ、一気に競り上がって来る衝動に意識を白熱させる。


「あぁ、あっ、あぁあっ!出る、セフィロス、セフィロス……っ!」
「はっ、ああ、イけ、レオン……っ!」
「あ、あ、あああぁ……!!」


 見下ろす男が何処までも愛しげに熱を持って見つめているのを感じながら、レオンは待ちに待った深い場所での絶頂を迎えた。
雄を受け入れた秘奥が、更に強い締め付けを与える中で、セフィロスは上り詰めた恋人の顔をつぶさに目に焼き付ける。

 レオンの吐き出した白濁液が、二人の体を濡らしている。
生暖かいそれが互いの皮膚の間で滑り合うのを感じながら、セフィロスは涙を浮かべるレオンの眦に唇を寄せた。
形の良い舌がレオンの眦を舐め、猫が毛繕いをするように、額へとキスが落ちる。


「良かったか、レオン」
「は……あ……っ、あぁ……っ」


 微かに意識が戻ってきたとは言え、体には熱の余韻がそのまま残っている。
繋がった場所をふるふると戦慄かせるようにして、レオンは息も絶え絶えになっていた。
セフィロスの言葉に答える余裕もなく、ソファの背凭れにくたりと頭を預ける。

 レオンを抱き締めていた腕が解かれ、中に入っていたものがゆっくりと抜けて行く。
濡れそぼった内肉が、未だ固く張りつめたものに擦られていく感触に、レオンの体は再び熱を燈していた。


「あぁ……っ!セフィ、ロス……ま、待て……あ……っ!」


 止める間もなく、ずるり、と一物が体から出て行って、栓を失った秘穴が物欲しさにヒクつきを再開させる。
まだ満足と言うには足りないものがあるのが判って、レオンはもどかしさに足元を彷徨わせていた。

 セフィロスはそんなレオンの体を俯せにさせると、膝を立たせる。
レオンはソファの背凭れに寄り掛かりながら、セフィロスに下肢を差し出す格好になっていた。

 火照りに赤らんだ双丘の谷間の中央で、咥え込んだ熱の名残を残したままの秘部が、ヒクヒクと伸縮運動を見せている。
男を誘うままに震える其処に、セフィロスの指がつぷりと進入した。


「あぁっ……!」


 雄に比べると足りないが、代わりに繊細な動きをする長い指。
太いものを咥えた直後であったから、指くらいなら其処はするすると飲み込むことが出来た。
内側から分泌された内部は、少し掻き回されるだけで、ぐちゅぐちゅといやらしい音を立てる。


「あ、あぁっ、んぁ……っ!や、セフィ、ロス……あぁっ!」
「まだ物足りないようだな」
「は、あ、あ……っ!あぁ……っ!」


 くちゅくちゅ、くちゅくちゅと、しつこいほどに粘膜が音を立てている。
秘内で小刻みに動く指が、レオンの弱い所を掠めては、爪先で其処をカリカリと引っ掻いて来た。
微弱な電流に似た快感がレオンの体を痺れさせ、頭の芯がこの快感を追うことしか考えられなくなって行く。
同時に、一番深い所へ早く注いで欲しいと言う願望も。


「セフィロス、セフィロス……っ!もう、もう駄目、だ……あぁ……っ!我慢、できな、あっ、あぁ……!」
「ああ……そうだな。まだ此処に、俺のものを注いでいない」


 ぐちゅ、と一際深く指が突き入れられ、レオンは背筋を撓らせて喘ぐ。
ソファの背凭れに上肢を押し付けてしがみつきながら、後ろへと突き出した尻がゆらゆらと揺れて、雄を誘う。


「早く……入れて、中に……お前のを、出してくれ……っ」
「ああ。お前がそう望んでくれるなら」


 背中に覆いかぶさる重みと共に、低い声でそう囁かれる。
ぞくぞくとしたものが首筋を走る感覚に身を震わせていると、顎を捉えられて後ろへと振り向かされた。
唇が深く交わされて、舌をしゃぶり啜られれば、判っていて焦らしていた癖に、と言うレオンの文句は蕩けてしまう。


「ん、んむ……ふ、んちゅう……っんん……っ!」


 たっぷりと咥内を貪られ、飲み込み切れなかった唾液の糸を引きながら、キスは終わった。
とろんと蕩けた瞳が見上げて来るのを、セフィロスは満足そうに見つめながら、ヒクついている秘部に濡れそぼった雄を押し付ける。

 ───ぐぷぅ、と一息に侵入してきた雄肉に、レオンは全身を震わせながら喜びに啼いた。


「ああぁぁ……っ!」


 つい先程、貰ったばかりの熱が戻って来て、レオンは恍惚とした表情を浮かべていた。
蕩け切った肉壺は刺激に対して敏感で、侵入して行く感触だけで、体が果てへと誘われそうになる。
既に二度の射精を過ごしたレオンの中心部も、早いもので頭を起こしていた。

 レオンの体の中は、セフィロスの形を覚えている。
セフィロスはその最奥へとすんなりと辿り着くと、レオンの官能のスイッチを耕すように繰り返しノックした。


「はっ、はぁっ、ああっ!セ、フィロ、ス、んんっ……!」
「は、レオン……ふぅ、く……っ!」
「あ、あ、んぁっ!む、胸を、ああっ、触るな……あ、あぁあっ!」


 背中に覆いかぶさる重みに加え、胸元を辿る手の感触に、レオンは眉根を寄せる。
しかし其処に生まれるのは不快なものではなく、より強い官能を呼び起こす火種だ。
始めにたっぷりと舌で愛撫された胸の蕾を摘ままれれば、甲高い声と供に、媚肉がセフィロスを締め付けてレオンが感じている快感の強度を示してくる。

 艶めかしく蠢く肉褥が、セフィロスの肉欲に喰いついて離れない。
それを振り解くように、注挿運動を繰り返して行けば、レオンの内側が小刻みに痙攣し始める。


「セ、セフィロス、ああっ、んぁっ……!ま、また、来る……んんっ!」
「ああ……っ」


 迫る絶頂感にレオンが訴えれば、セフィロスの腰の動きに一層の力強さが増した。
皮膚をぶつけ合う音が高く響き、レオンの奥園深くが突き上げられて、汗の粒を浮かせた体がしなを作って大きく揺れる。


「はあっ、ああっ、イく……っ!セフィロス、奥、奥に……んんっ、中にぃ……っ!」
「ああ、判っている。お前の中に、全て……!」
「あ、あ、あぁあっ!ん、ぅうんっ!」


 耳元で囁く声に、鼓膜の髄まで犯されるようで、レオンは身を捩ることも出来ない程の強い快感の中で絶頂する。
レオンの雄からどぷっと濃い精が吐き出され、ソファの上に広げたままにしていた服の上に蜜が飛び散った。

 同時にレオンの秘部もまた強い締め付けを示して、其処を支配している雄の熱を搾り取ろうと蠢く。
今日だけで二度目の味わいとなるその感触は、此処まで耐えて来たセフィロスの一線を越えさせるに十分なものだった。
どくん、どくん、と大きな脈動を繰り返す中で、セフィロスはせり上がる衝動のままに、レオンの胎内へと自身の欲望を溢れんばかりに注ぎ込んだ。


「あぁっ、あぁああ……っ!あつ、い、あぁあん……っ!」


 レオンは切ない声を上げながら、セフィロスの欲望を受け止める。
果てたばかりの体が、待ち望んでいたものをようやく注がれた歓びで、一気に熱の階段を駆け上がる。
どくり、と下肢が大きく戦慄いた後、レオンは奥に残っていた蜜液を絞るように射精した。

 息をつく暇もない内に、連続して襲った劣情の波に、レオンの意識は白熱した。
全身の細胞を焼き尽くすかのように広がる官能の感触に、体中が麻痺したように動かない。
ソファの背凭れにしがみついていた腕も、いつしか縋る力も失って、レオンはクッションの深いソファにすっかり沈むように埋もれている。

 ソファに突っ伏した格好で、ヒクッ、ヒクッ、と四肢を痙攣させているレオンの背を、セフィロスはじっと見下ろしている。
自身を咥え込んだレオンの淫部は、まだ締め付けを緩めない。
艶めかしく絡みつき、包み込んでくれる体温の心地良さで、セフィロスは其処に再び血が集まるのを感じていた。


「は……レオン……抜くぞ」
「あ……っ、あ、あん……っ」


 まだ固さを失っていないものを、愛しい媚肉から取り出していく。
ずるりと擦り抜けて行く感触に、レオンはくぐもった吐息と共に、甘い声を零していた。

 栓を失ったレオンの秘部から、どろりとした液体が溢れ出す。
股間を濡らすその液体の感触に、レオンの立てた膝が震えていた。

 俯せのように伏せていたレオンの体を、セフィロスは掬い上げるように抱え起こして、仰向けに直してやる。
レオンの首はかくりと傾いて、彼の意識がまだ真面に戻っていないことを示していた。
しかし、意識が完全に飛んでいると言う訳でもなく、


「あ……で、る……んんっ……」


 注ぎ込まれた男の欲望が、ヒクつく秘穴から溢れ出す感覚に、レオンは頬を赤らめて感じ入っている。
草臥れかけた手がゆるゆると下肢に伸びて、自身の濡れそぼった丘を弄った。

 そんなレオンの悪戯な手を、セフィロスが捕まえる。


「自分で慰めるくらいなら、俺がしてやろう」
「あ……っ、セフィロス……っ」
「全て、お前の欲しいように、俺がしてやる」


 そう言って、セフィロスの指がまたレオンの中へと進入する。


「ああぁ……っ!」


 悩ましい声を上げて、レオンは指を締め付けた。
注ぎ込まれた精を掻き混ぜながら中を責めれば、レオンは力の入らない下肢をビクビクと弾ませながら喘ぐ。


「んぁ、セフィロス、そこ、ああっ……!も、もっと、激しく……っ!」
「ああ。こうか?」


 セフィロスが手首を動かし、挿入した指を前後に激しく動かす。
じゅぽじゅぽと音を立てて攻め立てられて、レオンは顔を赤らめながら、歓びに身を打ち震わせていた。


「セフィ、ロス……あっ、あっ、良い……っんぁ、きもち、いい……っ!」


 喘ぎながらレオンが愛しい男を見上げれば、恐ろしい程近い場所にその顔があった。
恍惚と熱に蕩けた蒼灰色に、同じように熱に浮かされた碧眼が映る。
セフィロス、と何度も浮かされたように名を呼べば、愛しい唇がレオンの呼吸を塞いだ。

 唾液に濡れそぼった舌が絡み合い、レオンは溺れそうな程の官能と幸福感の中にいた。
厚みのある舌で咥内を丹念に愛撫される内に、其処でも性感帯が拓いて、喉まで犯されているような感覚に陥る。
レオンの雄がぴくぴくと頭を震わせながら立ち上がるのを、セフィロスはしっかりと見留めていた。

 勃起したレオンの雄に、セフィロスの手が這う。
根本を指先で擽られて、レオンは腰全体から力が抜けるような快感に身を震わせた。


「うぅんん……っ!セフィロス、それ、あ、あっ、あぁっ……!」


 前からの刺激に酔う暇もなく、秘部を突き上げる指に翻弄される。
とろとろと零れ出した蜜が、レオンの竿を伝い、其処に悪戯をするセフィロスの手も濡らして行った。


「前を刺激すると、後ろも締まる。いや、より欲しがっているな」
「は、あ、あぁ……っ!だ、め……んぁ、っあ、ふぅうっ……!」


 締め付ける媚肉を指で掻き解しながら、セフィロスはレオンの体が再び疼きに支配されていることに気付いていた。
指を咥え込む内肉が、また奥へと進入者を誘おうと吸い付いている。

 レオンは、自身の体を知り尽くした男に縋りながら、絶えない熱の疼きからの解放を訴えた。


「セフィロス、まだ……もっと、もっと……あっ、あっ……!」
「ああ」
「欲し、い、から……あんたの、入れて……くれ……あぁあ……っ!」


 今日何度目になるか判らない懇願を、セフィロスは恐ろしい程に柔い笑みを浮かべて受け止める。
指が出て行き、レオンの手が求めるものに触れて、自らそれを疼きの場所へと宛がえば、セフィロスは直ぐに入ってきた。
甘い声を上げて歓喜する体を、逃げないようにと閉じ込める腕に甘え縋りながら、レオンは至福の夢に溺れるように恋人との性交に没頭した。




 時間も場所も忘れて絡み合って、いつしかレオンは意識を飛ばしていた。
目を覚ました時には、既に日付は変わっていて、場所はベッドルームへと移されている。
あれだけ汗だくになった体は、すっかりと身綺麗にされて、裸身のまま愛しい男の腕に抱かれていた。

 体は心地良い気怠さの中にあって、閉じ込める腕から抜け出す気にもならない。
ワインが齎してくれた心地良さは流石に落ち着いており、最中の自分の言動を思い出して、顔が勝手に熱くなる。
羽目を外し過ぎた───そんな気分にもなって、やっぱり酒は怖い、と思う。
けれども、セフィロスと二人きりで傾ける杯と言うのは、皆で行く飲み会と違ってのんびりと出来て居心地が良いから、きっとまた一緒に飲むのだろう。
そして、またこうやって、熱に溺れる夜が来る。

 特に今夜は、しつこい程に夢中になったような気がする。
その原因は、と隣で眠る男の顔を見遣ると、此方をじっと見ていた碧眼とぶつかった。


「……起きていたのか」


 物言わずに静かに寝る男なので、いつの間にか起きていた事に気付かなかった。
驚きつつもそう言ったレオンに、セフィロスはくつりと口角を上げて、


「お前が百面相をしている時からな」


 何処か満足げにも見えるセフィロスの言葉に、レオンは眉根を寄せて睨む。


「質の悪い……寝たふりして見ていたのか」
「寝起きのお前は面白い。普段よりも表情が多いからな」
「……もう見るな。あんたの前で寝ない」
「そう連れない事を言うな。俺の楽しみのひとつだ」


 恋人の損ねた機嫌を宥めようとしてか、セフィロスはレオンの目尻にキスをしながら言った。
愛しいからこそだと、そんな理由で絆されては堪らないとレオンは思うのだが、結局は絆されるのだろう。
第一、レオンがセフィロスの前で寝ている時と言うのは、大体はセックスの後なのだ。
若い二人で存分に交わり合った後となれば、疲労困憊で意識が飛ぶまでがセットになっている。
諦めた方が早いと言うものであった。

 それでも今ばかりは膨れた面を作って見せるレオンを、セフィロスは何度もあやすようにキスをする。
抱き締める腕は、許しを請うて駄々を捏ねる子供に似ていた。
そう言う事をされると、どうにもレオンは弱いもので、やれやれ、と言う気持ちになってしまう。


「……全く。さっきは、俺の望みは全て叶える、とか言っていた癖に。誕生日も終わったから、あれはもう無効か?」
「まさか。俺はいつでも、お前の望みに添うつもりでいる」
「でも覗き見するんだろう」
「その時しか見れない顔がある。許せ」


 セフィロスの唇が、レオンの頬に触れる。
それを受け止めながら、レオンは肩を竦め、


「まあ……あんたみたいな男に、何もかも叶えて貰えるんだ。こんな贅沢な誕生日プレゼントは他にはないな」


 これ以上を望んでも、それこそ贅沢なばかりだ。
レオンはそう言って、あやしに縋って来る男の首に腕を絡めた。
それを損ねた機嫌の赦しと受け取って、セフィロスもまた笑みを浮かべ、レオンの首元に唇を寄せた。





レオン誕生日おめでとう!と言う事でセフィロスにお祝いして貰いました。
誕生日を理由に、レオンに色んな世話(意味深)をするセフィロスが良いなあと思ったのです。

書くほど様式が平成の攻めになって行くうちのセフィロス。似合うんだなぁ。
仕事中は公私別にして距離感を保っている分、プライベートはドロドロに甘やかしてるんじゃないかと思う。
レオンは付き合い始めの頃は遠慮がちだったと思いますが、大分慣れて過ごせるようになった位です。