私を知らない貴方を知りたい


 日中は何処も賑やかな飛空艇だが、夜半となると流石にその気配も落ち着く。
主には子供は寝る時間であることと、明日の行動に備えて深い休息を求める者が多いからだ。
起きているのは不寝番が回ってきた者と、それに付き合う形で夜更かしをしている数人、後は明日の食事の仕込みが長引いている位だろう。

 この世界は不思議なもので、戦士達は飲食をしなくても腹が減る事はない。
しかし、生き物としての本能か、感覚的な習慣か、定期的とまでは行かずとも、某かの食べ物を求める者は多かった。
食事は生物の営みの中で不可欠な行動だから、それを繰り返し行うことで、自分がまだ“生き物”である事を確かめているのかも知れない。

 だから飛空艇には調理場が備えられており、其処を自分のテリトリーと位置付けているメンバーもいる。
そう言う面々が作ってくれる食事と言うのは確かに美味しく、匂いを嗅げば胃袋も動く。
この大人数が満足する食事量を用意すると言うのも大変だろうに、ティファなどは「作り甲斐があるよ」と言うのだから大したものだ。
自分の分すら最低限あれば良いと考えてしまうスコールには、到底真似の出来ないことだ。
お陰で今日も美味い飯で腹は満足している。

 食べなくても平気なら、寝なくても平気なんじゃないか、と言ったのは誰だったか。
研究熱心な学者肌の者と、好奇心旺盛な面々が試してみた所、「平気は平気」と言う答えが出てきたらしい。
体力的には出来ない事はないのだが、生物の脳は寝ている間に記憶の整理を行い、精神の安定を図ろうとする。
これもやはり、食べる事と同じで、眠ると言う行為を以て正常とする気持ちを持つ者には、中々の苦行になるらしい。
その所為か、相応の訓練の経験を持つ者や、そもそもの睡眠と言うものを特に必要としない種族は、それ程苦は感じないそうだ。
とは言え、多くの者が“眠る事”に一定の安心感を見出す事に則ってか、将又まだ幼い子供達の要らぬ見本になってはいけないとでも言う思いか、必要以上に夜更かしをする者は少なかった。

 スコールは不寝番なら一晩中起きていても平気だが、休める時には休みたい、と思う。
飛空艇には寝室として複数の部屋が備えられているが、その多くは共有空間である。
年齢や関係、各々に違う育った環境などを加味し、グループ分けされてはいるが、所によってはごちゃごちゃにもなっていた。
スコールはと言うと、ゼル、アーヴァイン、サイファー、雷神と言った、本当によく知るメンバーとの同室となっている。
女子───リノア、セルフィ、キスティス、風神が一グループとして部屋を共有しており、時折、全員揃って男子部屋に押し掛けてくる事もあった。
まるで修学旅行のようだが、リノアを除けば全員が傭兵としてのカリキュラムを詰んでいるからか、就寝時間の確保には一様に徹底されている。

 今日もカードで遊んでいた学生達は、就寝時間になると寝床に戻って行った。
スコールもその一人で、眠るまでにも然程時間はかからずに済んだのだが、


(………)


 ふ、と浮上するように目が覚めた。
雷神の豪快な鼾の所為かとも思ったが、風紀委員の面々とも部屋を共有するようになってから随分経つ。
気にならないとは言わないが、今更気にしても仕方がない事に、わざわざ目くじらを立てるのも馬鹿らしい。
と言うか、誰かの所為にするよりも、ごく単純に目が覚めてしまった、と言うのが一番の理由だろう。

 ごろん、と寝返りを打つこと数回。
どうにかもう一度眠れないかと思っていたスコールだったが、頭の中はすっきりとクリアだった。


(……駄目だな)


 待っていてもこのまま眠れる気がしなくて、スコールは開き直って起き上がった。

 同室の面々を起こさないように、足音を殺して部屋を出た。
オウン、オウン、と飛空艇が稼働している音が響く通路を、何処に行くともなく進む。
小さな窓の外はまだ暗く、薄らと星明りが見えるのみで、時刻がまだ遅い事がよく判った。
流石にこの時間から艇を降りる訳には行かないだろう。
かと言って、風に当たりに甲板に行く気にもなれなくて、スコールの足はふらふらと目的なく彷徨う。

 飛空艇は大きなものであるが、各部屋の空間を広く保つ為の皺寄せなのか、通路はそれ程大きくはない。
人が擦れ違う分には問題ない程度は確保されているが、少々狭苦しくも感じられるのは否めなかった。
そんな中を延々と歩いても、大して気分が晴れる訳もなく、やっぱり甲板か、と気晴らしの定番スポットに向かおうかともう一度考えていた時、


「……?」


 通路の向こう、突き当たりに設置されていた明かりの傍で、人影らしきものが動いた。
不寝番や夜更かし、または寝る必要のない者もいるから、こんな夜半でも誰かが起きている、と言うのは不思議ではない。

 しかし、折々に遭う意思を持つイミテーションや、或いは何者かに意図的に操られるそれらの事を思うと、影の正体くらいは確かめて置いた方が良いか。
半ば、暇潰しと言う理由もあって、スコールはそう考えた。

 この世界でスコールは主にガンブレードを使用しての戦闘を行っているが、魔法も使えない訳ではない。
世界の理の柵を受けてか、スコール達が使う疑似魔法の類は、威力的な意味で余り有効面が立たないから、手段としては後ろに回しているだけだ。
しかしこの狭い通路で長剣並の大きさを持つガンブレードを振り回す訳にはいかない。
代わりに、近距離で魔法を撃てるだけの準備をしておいて、スコールは壁に身を寄せながら影が動いた場所へと近付いた。

 突き当たりはT字路に分かれており、影が見えた方向と、明かりの位置を確かめて、件の影主が行ったであろう方向を確かめる。
傍には機関室へと向かう階段があり、カン、カン、と鉄板の階段を下りる音が聞こえていた。
スコールは出来るだけ静かに、その音を追って階段を下りる。

 機関室に入る者は限られており、小さな子供は絶対に進入してはいけないと言われている。
此処は飛空艇の心臓部であり、様々な駆動機械が噛み合っている場所だから、事故など起きたら目も当てられないからだ。
子供たちは興味津々ではあるものの、飛空艇の運用に厳しい目を向けるメンバーもいる事を知っているので、今の所は言いつけを守っている───らしい。

 階段を下り切って、スコールは息を殺して身を潜めた。
パイプやら歯車やら、スコールにとっては聊か前時代気味の機関室の奥に、人の気配がある。
通気の為に設けられていると思しき、小さな窓から差し込む星明りを頼りに、スコールが目を凝らしていると、


(……ラグナ?)


 ごそごそと身動ぎするシルエットの形。
それが少しずつ明瞭になるにつれて、闇に溶けそうな長い黒髪が見えるようになった。

 ラグナはざっくばらんな所が目立つが、機械類にはそこそこ強い。
飛空艇のメンテナンスについては、その腕を買われてか、サッズやバルフレア、セッツァーから一通り教えられたようで、整備役として時折手を貸しているらしい。
そんな彼がこんな夜中に機関室に来たと言う事は、艇への違和感に何かを確認しに来たのか───と思ったのだが、


「……っはぁ……」


 薄暗い機関室の中、微かに反響して聞こえて来たのは、熱の吐息だった。
覚えのあるその呼吸に、条件反射のようにスコールの躰がどくりと鼓動を打つ。


(……は?)


 自分の体の反応に一拍遅れてからその意味に気付き、続いてスコールは困惑する。
こんな所でどうして、と思ったのと、靴裏が微かに床を擦る音がしたのは、その時だった。


「いっ!?」
(しまっ……)


 驚いた声を上げたラグナの目が、直ぐにスコールを捕まえた。
ばっちりと目が合うと同時に、スコールはラグナの手が彼自身の中心部を握っているのを見てしまう。


「……!!」


 ぶわ、とスコールの全身から汗が噴き出した。
緩く立ち上がっているラグナの中心部を見て、ラグナが此処に来た意味を理解する。
そしてラグナも、とんでもない所を見付かってしまった事を、否応なく覚った。


「えーっと……」
「……」
「……そうじっと見られっと、流石に恥ずかしいな〜……なんて……」


 場違いな声で明るく言ったラグナ。
その声が虚しく反響して消えていく中、ラグナは上手くもない愛想笑いを浮かべている。
しかし、それも乾いた空気を払拭するには勿論至らず、寧ろより気まずく重い空気が場を支配する。

 行動への再起動が早かったのはラグナの方だった。
ラグナは握っていたものからそうっと手を放すと、いそいそと寛げていた前を元の形に戻していく。
しかし、僅かにも刺激は与えられた後だったのだろう、ズボンのフロント部分は判り易く押し上げられていた。


「あー……」
「……」


 気まずさを分かり易く提言したラグナの声に、スコールもやっと現実に帰った。
しかし、それはそれで一層スコールの気まずさを助長させ、此処から前にも後ろにも進めない。
念の為の確認と言う体で、安易な暇潰しに身を窶した数分前の自分を全力で止めたい気分だ。

 ラグナは物を握っていたのとは逆の手で、がりがりと頭を掻いた。


「えーと……スコール君は、なんでこんなトコにいるのか、聞いても良いかな?」


 自分の事を差し置いての問いかけである事は、ラグナも判っているらしい。
それでもスコールをもう一つ動かす切っ掛けにはなって、スコールはようやく目の前の光景から視線を逸らしつつ、答える。


「…目が覚めたんだ。また眠れそうにはなかったから、廊下を歩いていたら、人影が見えた。侵入者の可能性もゼロじゃないから、一応、確認しようと思った」


 人影を見た時点で、それがラグナだと、イミテーションでもないと判っていれば、スコールは此処まで降りて来る事はしなかっただろう。
動いた影を見たのが一瞬で、その形の詳細まで確認できなかった事を、今更ながら悔やむ。

 視線を逸らし、俯いたスコールの答えを聞いて、そっか、とラグナは言った。
それから幾何化の間を置いてから、


「俺は、まあ、そのー。見ての通りっつーか……」


 口籠りながら言うラグナに、スコールは何も返せない。
何と帰して良いのかも判らなかった。
ただ、他人が迂闊に踏み込んではいけない、出来ればもっと早い段階で察して、気付かれないように回れ右するべきであった事は確かだろう。


「ええと、ほら。こう言う環境なもんだからさ、中々スッキリ出来ないって事もあってさ」
「……それは、……判る」
「あ、そう。うん。そうだな、お前もそう言う歳っちゃそうだっけ」


 成長過渡期であるスコールにとって、その手の問題は幾ら目を反らしようにも難しい事だ。
特に戦場に身を置いている者として、昂ぶりと言うものは、時としていつまでもその身を燻る。
時にはそれが理由で眠れない、と言うのも珍しい話ではなかった。
ジャーナリスト時代のラグナも、年齢的にそう言う事があっても可笑しくはないだろう。

 しかし、問題はこの環境である。
大所帯であるに連れ、必然的にプライベートな時間と言うものは確保が難しくなって来る。
其処について回る処理の悩みは、良くも悪くもオープンにはし辛いものがあり、話の分かる者であるとしても、余り露骨にはしないだろう。
精々、冗談交じりに猥談でもするのが関の山か。
特に、ラグナの場合は成熟した大人───サッズやジェクト、アーロンなど───が同室になっているので、見付かっても騒ぐような事にはならなくても、大人としての節度や常識と言うものがブレーキをかけるに違いない。
その結果が、この機関室なのだろう。
迂闊に触れば何処に不具合が出るか判らないものが詰め込まれた場所だから、小さな子供は勿論、機械類に疎い人間は先ず入って来ない。
出入りを許されるのが限られたメンバーのみだから、こっそりと隠れて済ませるには丁度良かったのだ。

 ───それらを理解して、酷い失敗をした、とスコールは思った。
一応の安全の為とは言え、ラグナの配慮と心情を無駄にした事は変わらない。
せめて、少しでも早く此処を出て行かなければ。
それがラグナの為にも一番だとスコールも判っているつもりだったが、足は根を張ったように動かない。


(……ラグナの……大きくなってる、ままだ……)


 ラグナとスコールがそれぞれ此処に到着するまで、然程時間差は出来ていない。
つまり、ラグナは事を始めたばかりだと言う事だ。
それでも刺激を与えらた後ではあるから、余り動く気にもなれないのだろう、ラグナは壁に凭れている。

 スコールがその熱を感じたのは、どれ程前の事だっただろう。
この世界に召喚されてから、いつの間にか随分と長い時間が経った。
日付の感覚などないようなものだが、スコールが合流した当初は十人前後であった人数が、今や旅団のような人数になっている。
どこまでも広がっているような世界を旅し続けて、まるで一年二年も経っているような錯覚すら感じる事もあった。
つまり、それだけスコールは、あの心地の良い熱に触れていない事になる。

 ───迂闊な真似はしてはいけないと、自戒していた。
何が彼の今後の行動を変える切っ掛けになるか判らないから、少なくとも、自分がその引き金を引かないようにと、意図的に一定の距離を置いていたつもりだ。
それでも、ふとすれば追ってくるラグナの足音や、名前を呼ばれる時の声、あやすように頭を掻き回して撫でる手が、心の柔らかい部分を刺激する。

 ふら、とスコールの足が一歩を踏んだ。
ラグナはスコールから目を反らしていて、恐らく、早くこの場を立ち去ってくれる事を願っているのだろう。
それは察しているつもりだったが、スコールはどうしても、我慢が出来なかったのだ。
此処にいるのがスコールを知る“彼”ではないとしても、その存在が、その体温が、スコールを捉えて離さない事には変わらないのだから。


「……ラグナ」
「ん?」
「手伝う」
「へ?」


 傍らに跪いた少年の言葉に、ラグナの翠の瞳が真ん丸に見開かれる。
ぽかんとしたラグナの顔を見ながら、スコールは滲む罪悪感のようなものを押し隠しながら、ラグナの中心部に手を伸ばした。


「えっ、ちょっ」
「嫌なら殴って良い」
「いやそれは、うっ」


 殴るのは流石に、と戸惑うラグナに、優しい男だとスコールは思った。
その優しさに甘える自分の狡さを自覚しながら、スコールはラグナの膨らんだ中心部を掌でゆったりと撫でる。


「ええ、ちょっと…待ってくれよ。お前、その。こう言うの───」
「……した事が、ない訳じゃない」
「……ああ、そっか、お前、傭兵……」


 そう言う事もあるよな、とラグナは勝手に解釈したらしい。
色々と誤解も生んでいるような気はするが、真実を言えないスコールには、それを上手い具合に修正する程の言葉も持っていなかった。
今はただ、ラグナがそれ以上の言及を辞めた事を幸いに、手の中で膨らみつつあるものを刺激し続けてやる。

 突き飛ばされるかとも思っていたが、ラグナはされるがままだった。
それ程に辛いのか、軍籍もあった事だし、彼も彼でこういう事をした経験があるのかも知れない。
スコールが“彼”にそれを確かめた事はなかったが、そうなのかも、と思うと、俄かにスコールは嫉妬のようなものが湧き上がるのを感じた。


(都合の良い。今俺がやってる事だって、これは、見様によっては───)


 知らない所で、“彼”を知っている誰かがいるかも知れない、それを考えただけで浮かぶ昏い感情。
だが、“彼”ではない目の前の人にこうやって手を出している自分の方が、よっぽど浅ましくはないのか。
問う相手も持たないその気持ちは、スコールの中にただただ澱みを作って行く。

 けれどその感情も、ちらりと見遣ったラグナの表情を見れば、どうでも良く思えた。
僅かに眉根を寄せ、緩く目を伏せたラグナの唇は、薄く開いている。
は、は、と零れる呼吸が逸り、ラグナの中心部が服越しにも判る程、固くなって行く。


「…あんた、相当溜まってるな」
「う……いや、うん…まあ……長いからなあ、この生活」


 確かに、ラグナは此処に来て長いのだろう。
各人の召喚のタイミングの仔細と言うのは判らない者も多いが、ラグナは飛空艇が調達される前からこの世界にいる。
スコールと逢った時には、既にウォーリア・オブ・ライトを中心としたグループで行動していたので、プライベート時間の確保は難しかっただろう。
あれから丸々、溜めて過ごしていた訳ではないだろうが、満足行く程の発散は出来なかったのではないだろうか。

 ラグナの額に小さな汗の珠が浮いている。
スコールはそれがラグナの顔を伝い落ちて行くのを見詰めながら、中心部を撫でていた手から手袋を外し、ファスナーの奥へと差し込んだ。
下着の上から触れば、よりはっきりとラグナの固さが伝わって、


「っ……」


 びく、と僅かにラグナの肩が震えた。
息を殺した気配があって、ラグナが舌唇を噛む。


(…あんたのそんな顔、初めて見た)


 ラグナが目を閉じているのを良い事に、スコールはまじまじとその顔を観察していた。
掌に感じる熱の感触を丁寧に愛撫していると、それだけで雄が戦慄く。
その度に、ラグナは堪えるように息を詰め、競り上がるものを宥めるように、ゆっくりと息を吐いた。

 スコールが知っている“ラグナ”は、いつでも余裕を持っていた。
年齢を重ねている事や、相対的にスコールがまだそう言った経験が少なく、そもそもラグナしか知らないと言う事も含め、優位性はラグナの方にある。
だからか、いつも触れる事に積極的なのはラグナの方で、スコールは彼にされるがままにしていた。
時折、何かを強請られれば応じたが、その術を教えたのはラグナだ。
そしてスコールが水を得た魚のように、教えた事を吸収して淫らになって行くのを見て、彼は嬉しそうに眦を緩ませているのが常だった。

 そんな“ラグナ”を見ていたスコールにとって、今目の前にあるラグナの顔は、酷く新鮮なものだった。
溜まっている、と言うのもあるのだろうが、きっと他人に刺激されるのも久しぶりなのだろう───そうでないなら、相手を見付けて色々と問い詰めたくなるが。
かと言って、此処に来てから相手はいなかったのかと、そんな事を確かめる度胸も、スコールにはない。

 下着の中まで手を入れると、また分かり易くラグナの躰が震えた。
ラグナの手がスコールの肩を掴んで、やはり嫌か、と思ったが、それ以上の行動には出ない。
縋るものを求めるような掴む力が、またスコールには初めて経験するものだった。
一つ一つ進めていく度に、スコールの知らなかった顔を見せてくれるラグナに、スコールの我儘な欲がふつふつと沸いて来る。


「……脱がすぞ」
「う、うん」


 一応の意思確認の気持ちでスコールが言うと、ラグナは小さく頷いた。
スコールが下着をずらしてやれば、しっかりと頭を持ち上げた雄が顔を出す。
真っ直ぐに勃起しているそれが、スコールの記憶にあるものよりも大きく見えるのは、目の前のラグナが“彼”より若い所為なのだろうか。
なら、これを挿れたら、と茹った頭に過ぎる思考に、スコールの躰が熱を増して行く。

 だが、流石に一足飛びにそれは出来ないだろう。
まだスコールの中に、この行為への背徳と罪悪感は残っていた。
ただ、それは次第にスコールの熱を煽るものになりつつあって、いつまで正気を保てるか自信はない。

 湧き上がる欲望を抑えながら、スコールはラグナの雄を柔らかく握った。
掌で直に触れると、どくどくと脈を打っているのがよく判る。
スコールはその竿を握った手を上下に動かし、掌を擦り付けて摩擦刺激を与えてやった。


「っう、はっ……!」


 裏筋に指の腹を宛がいながら、隙間なく幹を扱かれて、ラグナが息を詰まらせる。
スコールの肩を掴む手に力が籠って、堪えているのが伝わった。
ピクピクと震える先端に親指を当て、ぐりぐりと穿るように弄ってやれば、ラグナは天井を仰いで腰を戦慄かせる。


「っちょ、それ……っ」
「イイか?」
「っ、はっ、はぁ……っ」


 ラグナからの返事はなかったが、熱を孕んだ呼吸が全てをスコールに伝えていた。

 実際、ラグナにとっては堪らない刺激だ。
他人に与えられる刺激と言うのは随分と無沙汰になっていて、自分の手で慰めるにも流石に飽いて長い。
溜まるそれを吐き出すのは最早事務的な処理作業になっていて、それも仕方ないと言う諦めも含め、そう言う風な刺激に躰も慣れていたのだろう。
そんな躰に与えられる他人の───スコールの手による快感は、思っていた以上に官能的であった。


「お前…っん、慣れてんなぁ……っ」
「……」
「うぁっ。ちょ、握んないで……っは、う……」


 きゅ、と括れのある場所を僅かに強く握ったスコールに、ラグナが泣きを見せる。
スコールは握ったそれを揉むように強弱をつけてやりながら、


「慣れてる、ってあんたに言われるのは、正直心外だ」
「ごめん、ごめんって。だからその、あんまり強く、」


 ラグナの手が、スコールの雄を握る手に重なる。
跳ね除けようとはしないが、其処に入っている力を緩めて欲しいと、宥めるようにスコールの手を握った。

 スコールが右手の力を緩めると、ラグナはほっと安心したように息を吐いた。
その隙にスコールがまた手を上下に動かせば、再開した刺激にラグナが小さく声を漏らす。
逸らした頭が背後の壁に押し付けられて、ラグナの喉仏がスコールの前に露わになった。
思わずそれに吸い付きたくなって、寸での所で微かに残る理性がブレーキをかける。


(これは、処理だから)


 此処にいるのはラグナだけれど、スコールを知っている“ラグナ”ではない。
だからいつもと同じようにしてはいけない、とスコールは自分に言い聞かせる。

 その傍ら、手の中のものが質量を増して行くに連れ、スコールの鼓動も逸って行く。
いつの間にか躰でその感覚を覚えてしまったラグナとの情交だが、その記憶に比べると、握ったそれが大きく感じられて仕方がない。
もしもこれを招き入れたらと思うと、若い性はたちまち暴走を始めそうで、殉じるようにスコールの秘部が疼きを増す。


(長引いたら、我慢できないかも知れない……)
「っは、はぁ、う……っ、スコール、そこ……っ」
(早く終わらせた方が……)
「ん、っは……、はぁ……っ」


 直ぐ其処から聞こえる声から意識を反らしたくて、スコールは性急な手付きでラグナに刺激を与える。
しゅこしゅこと扱かれたラグナの先端から、じわりと蜜液が滲み出ているのを見て、スコールはひっそりと唾を飲んだ。

 スコールは左手の手袋を口に噛んで外し、両手でラグナの雄を包み込んだ。
玉を転がすように揉んで、其処に溜まっているものを押し出すように促し、輪にした指で竿の根本を入念に扱く。
ラグナの投げ出していた脚が震え、膝がぴくぴくと痙攣するように浮いた。


「……スコール……っ」
「……っ…!」


 耳元で名前を呼ばれで、どくん、とスコールの鼓動が跳ねる。
じゅわあ、と自分の奥から染み出て来るのが判って、思わずスコールの顔が熱に赤らんだ。


(煽るな、バカ……っ!)
「うあ、強いって……!っは、やべ……っ!」


 こんな時でも無自覚に煽ってくれる男に、スコールは仕返し宜しく、雄を扱く手を速めてやった。
根本ばかりだった刺激を、竿を上へ上へと伝いながら扱き上げて行ってやれば、ラグナはまた天井を仰いで息を詰まらせ、


「っく……!うぅ……っ!」


 びゅくっ、びゅくんっ、と雄が頭を震わせながら精を吐き出す。
スコールの手に降り注ぐように散ったそれは、若さの所為か、この環境による皺寄せか、随分と粘っこいように見えた。

 はー、はー、と息を喘がせるラグナの声を聞きながら、スコールは掌にまとわりつくものを見た。
その手からムスクのような匂いが立ち上っている気がして、見ているだけでスコールの頭は蕩けて行く。
スコールは無意識の内に、精に汚れた手を自分の口元へと引き寄せて、掌にゆっくりと舌を這わしていた。


「……お前……」
「………」


 ラグナの声にスコールが顔を挙げれば、驚いた表情で此方を見ているラグナがいる。
その顔をじっと見詰め返すスコールの瞳には、最早隠せない劣情が浮かんでいて、


(…そんなに驚くほどの事でもないだろ。あんたが俺に教えたんだから)


 ラグナの精をこの身に浴びて、それをこうして取り込む事。
それを喜んでくれたのは、嬉しい事だとスコールに刷り込ませたのは、他でもないラグナだ。
目の前の彼がそんな事を知る由はないが、スコールにとっては、此処にいるラグナも、自分と関係を持ったラグナ≠熾ハ人ではない。

 蜜を丁寧に舐め取った後、スコールがラグナの下肢を見れば、射精を果たしたにも関わらずまだ膨らんでいる雄がある。
溜め込んでいるのだから一回で終わる筈もないのが当然だ。
スコールは自分の唇を舐めると、背中を丸めてラグナの股間に顔を寄せた。


「えっ、ちょっ。スコール、ちょっと待て、それは流石に───」


 スコールが何をしようとしているのか覚って、ラグナは慌てて制止しようとするが、すっかり熱に囚われた少年は聞かなかった。

 スコールの形の良い唇が、ちゅぷ、とラグナの雄に吸い付いた。
先端にキスをするように触れたその唇の隙間から、ちろりと覗いた赤い舌が、鈴口を突くように舐める。
手や指とは明らかに違う、艶めかしい体温と感触に、ラグナが堪らず呼吸を詰まらせた。


「っふ……!スコー、ル……っ、よせって……」
「ん……んちゅ……っ」
「き、汚いだろ?さっき出しちまったとこだし、汗も掻いてるし。だから」
「んむぅ……っ」
「う……っくあ……っ!」


 ラグナの止める声など聴く気もなく、スコールは雄を咥内へと招き入れた。
生暖かい湿気を孕んだ空気に包み込まれて、ラグナの雄は判り易く汗を掻いてしまう。
吐き出して間もない蜜液と混じり合うその体液を、スコールはゆっくりと竿に絡めた舌で舐め取った。


「う、あ……っ、っは……ぁ……っ」
「ん……んちゅ、ぅ……っ」


  膨らみの括れのある場所に舌を宛がい、先端でツンツンと突いてやる。
ピク、ビクッ、と先端が震えるのが伝わり、頭上ではラグナの殺した声が零れるのが聞こえて、スコールは彼が感じているのだと判った。


(感じる所は、一緒)


 それが判って、スコールは俄かに嬉しくなった。
やっぱり此処にいるのもラグナなんだと、そう思えたからだ。

 それなら、とスコールは覚えている限りのラグナの性感帯を刺激してやる。
括れの凹みにある皺を舌先でぐりぐりと押してやりながら、右手で竿の根本を握る。
頭の方に絶えず刺激を与えつつ、根本の方を、きゅ、きゅ、と強弱をつけて揉んでやれば、またじわりと蜜が溢れ出してきた。
舌の根に当たる苦い味を堪能しながら、スコールは唇を窄めて強く先端を啜ってやる。


「んちゅっ、んぢゅっ……ん、ふぅ……っ、ちゅう……っ」
「す、吸うのは寄せって……うっ、くぅ……っ!」


 塗した唾液と一緒に、染み出てきた蜜を啜ってやれば、ラグナの躰がビクッビクッと戦慄いた。

 ちゅうぅ……と先端に長く吸い付きながら、ゆっくりと唇を放す。
解放された雄はスコールの唾液ですっかり濡れそぼり、暗がりの中でも微かな光を反射させる程になっていた。
お陰で夜目になれたスコールには、雄の形がはっきりと読み取れる。


(大きくて、太い……)


 知らず、スコールの表情はうっとりと蕩けていた。
鼻先で濃い所為の匂いを振り撒くそれに、また顔を寄せて、幹に舌を這わせた。
裏筋の中心を、根元から先端に向かって丁寧に舐め上げてやれば、また先端からとぷりと蜜が溢れ出す。

 今度は先端を手で包み込んで扱きながら、根本を丁寧に舐めてやる。
竿の表面に唇をぴったりと密着させ、唇で摩擦するように動かしながら舌で幹を愛でる。


「っは、はぁ、スコール……、んっ、お前、上手すぎね……?」
「……さぁ、どうだか。んっ」


 ラグナの言葉に、それだけ返して、スコールはまた雄に吸い付いた。
皺の集まった根本に舌を宛がい、ちろちろと擽るように舐めながら、蜜を零す先端を爪先で爪弾くように引っ掻く。


「お前、うっ…、自分をちゃんと、大事に、しろよ…っ」
「……説教か?興奮してる癖に」


 ぢゅう、と根本を強く吸ってやると、ラグナは背中を強張らせて体を痙攣させた。


「っは……だってよぉ……、お前、上手いから……こう言うのよくあったのかって、なんか、心配だよ、うぅっ……!」
「……」
「傭兵だって言うし、お前、綺麗な顔してっから……なんつーか……」
「……狙われ易そうだって?」


 スコールの言葉を、ラグナは否定しなかった。
スコールにしてみれば、そんな物好きがいるのかと言いたい所だが、昂ぶり続けた獣が見境なしになるのはよく聞く話だ。
確かにスコールも、肉体的に余り恵まれなかった所為か、下衆な輩から低俗な揶揄を含めてそう言った意図を向けられた事がない訳ではなかったが、


「安心しろ。そう言う奴は、大体実力で黙らせた」
「そりゃ頼もしい……」
「それに、……あんたが思ってるような事は、一度もない」


 ラグナが何を何処まで想像しているのか、スコールも判然とはしなかったが、少なくとも、それが一端とて事実と掠っていない事は確かだろう。
だがそれをスコールが言い切れるのは、全ての事実を知っているからだ。
それを知る由もないラグナにしてみれば、帰って謎が深まるばかりで。


「……そうなのか?でも、お前……」
「あんたが想像してるほど、俺は遊んでない」
「……」
「俺は、……あんたしか知らない」


 そう言って見上げる蒼の瞳を、ラグナは眉根を寄せながら、首を傾げて見下ろしていた。
どう言う意味だ、とでも問おうとしたか、その唇が開く前に、スコールはまた雄に吸い付いた。


「うあ……っく……!」
「んちゅ……んっ、ちゅうっ……!」
「っは、スコール……うっ……!」


 呼ぶ声を聞きながら、スコールは名残の音を立てながら、雄から唇を放した。
握っていた先端も手放してやれば、とろとろと我慢汁が溢れ出していて、ラグナの雄を隙間がない程に濡らしていた。
一度目の射精前と変わらない所か、より大きくなったようにも見えるそれを前に、スコールは自身のベルトに手をかける。

 金具を外す音を、ラグナはぼんやりとした意識の中で聞いていた。
暗がりの中で闇に溶け込みそうな色を身に纏っていた少年が、その色を一枚一枚剥いで行くと、白い肢体が露わになる。
後ろには駆動の音を鳴らす機械が犇めいており、其処で下肢を裸にした少年が立っていると言う、何処か非現実めいて見えるその光景に、ラグナは言いようのない興奮のようなものが湧き上がるのを感じていた。

 スコールはラグナの下肢に跨ると、自己主張をするラグナの雄を秘部に宛がった。
久方振りだと言うのに慣らしもせずに、と思ったが、可惜に間を置いてラグナを正気に戻してしまうのが怖かった。
此処まで来たなら、此処まで拒絶されなかったのなら、同じ所まで堕ちて欲しい。
召喚された時間が違った所為で、いつも自分ばかりが神経を擦り減らしている、そのお返し位してやっても良いではないか。
そんな自分本位極まりない事を考えながら、スコールはゆっくりと腰を落とした。


「ん……っうぅ……!」
「うあ、あ……!」


 慎ましく閉じている筈の秘孔は、初めこそ拒むように小さく窄んだが、先端が入り口を開いてしまえば後は簡単だった。
其処で熱を感じる事をたっぷりと覚えているから、奥が直ぐに欲しがって路を開く。
お陰で、太い部分を一つ息で思い切って潜らせてからは、苦しむ事もなく中へと招き入れる事が出来た。


「あぁ……っ、ラグ、ナぁ……っ!」


 堪らずスコールが目の前の男を名を呼べば、どくん、と胎内で雄が脈を打つ。
それが無性に嬉しくて、スコールの躰にぞくぞくと熱が迸り、咥えた雄がきゅうっと締め付けられる。


「うっく……なんだよ、これ……っ」


 ラグナにとって、それは初めて経験するものだった。
艶めかしく温かく、こなれた柔らかな弾力で包み込む媚肉。
年相応に経験はしている方だとラグナ自身も思うが、こんなにも心地良いものは滅多にない。
元の世界の事は、何故か霞がかって思い出せない部分も多いのだが、それでもこの褥が極上ものだと言うことは判った。

 スコールは壁に寄り掛かっているラグナの顔の横に両手をついた。
腹に力を入れて、上肢の姿勢を支えながら、ゆっくりと腰を持ち上げる。


「あ、ふ……ぅ、んん……っ」
「っは……は……っ!」
「ふ、くぅ……んんぅ……っ!」


 半ばまで抜いて、また腰を落とすスコール。
ゆっくりと感触を確かめるように、内肉を隙間なく擦る熱棒の感触を堪能しているスコールの姿を、ラグナは薄く開いた目で見詰めていた。


「はぁ、はぁ……あっ、はぁ……っ!んっ、うっ、んん…っ!」


 スコールは眉間に皺を寄せながら、悩ましげに顔を顰めていた。
いつも引き結ばれている印象の唇は緩く解け、甘い音を零しながら、時折ラグナの名前を呼ぶ。
濡れた唇が喘ぎながら自分の名前を呼ぶ度に、ラグナはどうしようもない衝動のようなものが湧き上がってくるのを感じていた。

 懸命に腰を振って奉仕する少年の腰に、ラグナの手が触れる。
ラグナの方から触れられるなど思ってもいなかったから、思わずスコールの躰が震え、咥え込んだ雄を一際強く締め付けてしまった。


「あぁっ……!」


 高い声が上がって、薄暗い機関室の中に反響する。
変声期も終えて低い声色をしている筈の少年のその音は、彼が官能を得ていることを目の前の男に伝えるには十分な役目を果たしていた。


「スコール、お前も感じてる……?」
「う、あ……っ、は、はぁ……あぁ……っ!」
「スコール……!」


 ラグナの手がスコールの腰をしっかりと掴めば、それにすら感じたようにスコールが「あぁ……!」と声を漏らした。
ヒクヒクと震える秘奥がラグナをまた締め付けて、その体の熱を搾り取ろうと吸い付いて来る。

 自分の中で膨らみを増して行くラグナの熱に、スコールの躰も上り詰めて行く。
その証拠にスコールの雄は、一度も誰にも触れられていないにも関わらず膨らんでおり、先端はトロトロと泣き虫になっていた。
腰を振る動きは段々と大胆になって行き、もう幾らもなく極まってしまいそうな所へ、


「は……く、スコールっ!」
「う、あっ、んんんっ!」


 名前を呼ぶ声と同時に、スコールの視界が急転した。
覆い被さる体を押すように倒されて、スコールの背中が冷たい床に落ちる。
かと思ったら覆い被さる体重と共に、繋がった場所が更に深くなって、スコールは背中を弓形に撓らせた。
続け様に、ずんっ、と深い場所を打ち上げられて、細い肢体がビクンッと跳ねる。


「っは…はぁ、くっ、うっ、はぁっ……!」
「あっ、ラグ、あぁ……っ!あっ、あぁ……っ!」


 覆い被さるラグナが性急に腰を振り始め、何度もスコールの秘奥を突き上げる。
自分の動きではどうにも届かずにいた一番奥の行き止まり───“ラグナ”に拓かれた場所を攻められて、開発された躰はあっという間に快楽の虜になって咽び喘ぐ。


「あっ、あぅ、んんっ!ラグナ、あっ、深い……っあぁ…!」
「何だよ、これ……お前…こんなに……っ」
「はぁ、あっ、あぁ……!う、んくっ、そこ……あぁっ!」
「すげぇ、気持ち良い……っ」
「……っ!」


 独り言なのだろう、それだけにラグナの零した言葉が何よりも本心に近いものに思えて、スコールは堪らず全身が熱くなった。
雄を咥え込んだ秘部が締め付けながら艶めかしく蠢き、ラグナに献身的に奉仕する。
ラグナの良い所ばかり、心地良い締め付けで愛撫を施す肉の動きに、ラグナは小さく唇を噛んで、


「やべ……っ、もう……っ!」
「あっ、ああ……っ!ラグナ、んぁ……っ!」
「出そ……スコール、うぅっ……!」
「はっ、あぁ……いい、良いから……んんっ!出し、て、良いからぁあ……っ!」


 慮っての事だろう、腰を引いて雄を抜こうとするラグナを、スコールはしがみ付いて捕まえた。
このままが良い、と全身で縋り訴える少年に、ラグナは迷ったが、それも一瞬でしかなった。
競り上がる衝動は生物の本能と紐付いていて、此処まで昂った体が今更理性の訴えなど聞き取れる筈もなく。


「うっ、うぅっ!くぅううっ!」
「ああぁあ……っ!!」


 どくんどくんどくん、と脈を打った雄が、濃い蜜液をスコールの中に注ぎ込む。
幾日振りに感じるかと言うその熱の感触に、スコールも瞬く間に上り詰め、ラグナの精を受け止めながら自身も絶頂を迎えた。

 余韻に震えている間、強く強張っていたスコールの躰。
それが与える秘奥の心地良さに、ラグナの熱に溺れた思考がまた溶けて行く。
ヒクヒクと震える媚肉に、吐き出した精が纏わりついてじっとりと広がって行き、スコールが名残の快感に痺れた躰を捩らせれば、くちゅりといやらしい音が鳴った。


「あ……っは……あう……」


 ラグナの耳元で、籠った熱の呼吸と声が零れる。
はぁ、はぁ、とあえかな呼気を繰り返す少年の顔は、常の凛とした姿とは真逆に、幼く淫靡な香りを振り撒いている。


「んぁ……ラグ…ナ……」


 何処か安堵したように、紡がれる名を呼ぶ声。
そんな顔で名前を呼ぶものだから、ラグナの体もまた熱くなって、───堪らずラグナは、まだ余韻に浸るスコールの躰を突き上げた。


「っあぁんっ!」
「っは、はぁっ、はっ…!」
「あっ、えっ、あぁっ!っは、ラグナ、あっ、なんで……んぁあっ!」


 戸惑うスコールを他所に、ラグナは続けて濡れた秘奥を攻め立てる。
じゅぷ、じゅぷ、と卑猥な音を立てる其処を掻き回せば、スコールは今までよりも更に甘い声で啼き喘いだ。


「はっ、はぁ、あぁ……っ!や、大き……あっ!あぁっ…!」


 まだ絶頂の痺れを残したスコールにとって、その快感は嘗てなく大きなものだった。
機関室に響く声がいやに大きく聞こえて、抑えなくてはと思っても、直腸の奥を突かれるとその籍は呆気なく破綻する。
寧ろ、突き上げられる度にその声は抑えが利かなくなって行き、甘ったるい声が幾つも反響してしまう。


「あっ、あっ、ラグナ、あぁ……っ!」
「っは、わり、スコール……っ!まだ、止めらんねぇ……っ!」
「ラグ、ラグナ、あぁ……っ!はっ、あぁっ…!」


 詫びながらも腰を振るラグナに秘奥を攻められて、スコールの体をぞくぞくと喜びの官能が走って行く。


(イ、イった、のに……全然っ、萎えて、ない……っ!)


 それはスコールにとって違和感のある事だった。
“彼”との性交はいつもそれ程長くは続かない事が多く、それはふとした邪魔が入る所為でもあるのだが、“彼”が余り持久力がない所為でもあった。
年齢的な差もあって、どうしても肉体的なピークはとうに終えたと言える“彼”は、一度のセックスで二度も果てれば、疲労を感じてしまう。
若いスコールにとっては物足りる筈もなく───そう言う風に教え込まれた所もある───、スコールの方から彼をもう一度高ぶらせるように積極的に行く事も多かった。

 そんな“ラグナ”を知っているスコールにとって、二度目の射精を終えて尚感じられる、逞しい存在感。
射精の直後で萎えても可笑しくない筈なのに、胎内にあるものはそうではない。
スコールの奥にある、一番感じるスイッチを遠慮なく突き押せる程、ラグナの昂ぶりは全く治まる事を知らなかった。


「お前ん中、すげぇ気持ち良くて……っは、全っ然、収まり付かねえんだ……っ!」
「あ、あ……っ!は、ラグナ、ひぅんっ!」
「悪い……っ!明日ちゃんと、休ませてやるから……!」
「は、はぁっ、あっ、うん…っ!ラ、グナ、ぁあ……っ!」


 絶えず突き上げられる衝撃と快感で、スコールの頭の中でちかちかと光が明滅する。
熱がいよいよ限界まで上り詰めている時のサインだ。
それをこんなにも早い段階で感じるなんて、とスコールは嘗てない躰の反応に驚くが、意識はそれに囚われている暇もない。
いつも感じていた優しくて甘い熱とはまた違う、貪るようにがむしゃらな律動で、スコールの情欲は益々熱くなって行き、


「ラグ、ナ、ラグナ……っ!ああっ、もっと……んっ、奥、あぁっ、くぅんっ!」
「はっ、うっく……!また締め付けてきた……っ!すげぇ、絡み付いてる……!」
「ふ、ふぅっ、あぁ……っ!ああぁ……!!」


 体の中も、外も、スコールはラグナに縋るようにしがみ付いて、彼の存在と言うものを欲しがった。
ラグナもいつの間にか、そんなスコールの背中に腕を回していた。
記憶にある柔らかい力よりも、閉じ込める腕の力は強いけれど、そこから伝わる体温は記憶に在るものと同じで、スコールは無性に安堵感を感じていた。




 交わりを終えた時には、小さな窓の向こうが薄らと白んでいた。
こんなにも長く濃厚で、それも激しい交わりをしたのは、スコールも初めてだ。
濡れた下肢を晒し、くったりと床に沈み、はあ、はあ、と言う呼吸を繰り返しているスコールを、ラグナはそっと抱き起した。


「大丈夫か?スコール」


 スコールを座らせ、壁に寄り掛からせて、出来るだけ柔らかく声をかけるラグナ。
スコールは茫洋とした意識の中でその声を聞いて、重くなった瞼をなんとか持ち上げる。


「……あんた……」
「ん?」
「……溜めすぎ……」
「うっ」


 もう何度出されたか、とスコールがそれを受け止めた腹に手を当てて呟いてやれば、ラグナはばつの悪い表情を浮かべた。

 スコールはそんな顔を見ながら、ふう、と溜息を吐いて、


(……まあ……誘った俺が、言える事じゃ、ないか……)


 一人で済ませてしまおうとしていたラグナに、事を持ちかけたのは、スコールの方だ。
寧ろラグナを煽って誘導したスコールの方が重症と言って良い。
それ程、スコールは目の前の男の存在に飢えていたのだから。

 スコールのそんな胸中など知らず、ラグナは気まずそうに指を組みながら、ぼそぼそと呟く。


「いや、だって、その……お前、すっげえ気持ち良くて…つい」
「……あんたも若いって事か……」
「年寄り扱いすんなよぅ」
「確かに、年寄りならこんなに元気な事はしないだろうな」
「それはその、久しぶりだったから、歯止めが効かなかったっつーか。いや、それよりお前、こう言うの誰彼構わずしちゃ駄目だぞ。俺は、今回はその、世話になったけど」
「言っただろう、別に遊んでる訳じゃない。……あんただけだ」
「…この世界だけの話じゃないぞ。元の世界でも───」
「だから、それも含めて、だ」
「……んん〜?」


 スコールの返しに、ラグナは頭に疑問符を浮かべて首を傾げる。
会話が何処か擦れ違っているような、意図した遣り取りが出来ていない事は彼も気付いているようだが、何故そんな事が起きているのか、ラグナは判っていない。

 ラグナが言わんとしている事を、スコールは何となく判っていた。
こうやって、幾ら自分にその経験があるからと、誰にでも体を貸す真似をするな、と。
それは倫理や道徳的な気持ちから来る、常識的な提言であったのだろうが、スコールにしてみれば、それをラグナの口から聞く事になるとは、と言った気分だ。
スコールにこの体で感じる快感の種を植えこんだのは、他でもない“ラグナ”なのだから。

 とは言え、その事実を此処で暴露できる訳もなく、スコールはそれ以上の口を噤んだ。

 時計がないので今が何時なのかは判らないが、外が直に明るくなって行くのは確かだろう。
この疲れ切った体で、階段を上って部屋まで戻り、何食わぬ顔をして朝を迎えるのは面倒だ。
同室の幼馴染の面々は、スコールがいない事など大して気にもしないのが幸いだった。

 疲れた体は休息を求め、また瞼が重くとろとろと閉じる。
そんなスコールに、ラグナが様子を伺うように声をかけた。


「えーと……体、大丈夫か?」
「……腰が痛い」
「う、うん。あー……風呂まで運ぼうか。さっぱりした方が良いだろ?」
「……別に、良い」
「でもさ」
「…少し寝たい」
「ああ、うん。そっか」


 スコールが起きるのも億劫になる位に疲れているのは、ラグナの目から見ても明らかだ。
それ程に若い躰を酷使させたと言うのは、ラグナも自覚があるのだろう。
そんな気持ちも含め、スコールを此処に一人残すのも気が引けてか、ラグナは居心地悪そうにしながらもこの場を離れようとはしない。

 ───それなら、とスコールは、ラグナのその甘さに便乗させて貰う事にした。


「…ラグナ」
「ん?」
「……ん」


 ぽんぽん、とスコールは自分の隣を叩いた。
此処に来い、と言うサインをラグナはちゃんと読み取って、「お邪魔しま〜す…」と言いながらスコールの隣に腰を下ろす。
その肩に、スコールはすとんと頭を乗せた。


「え。お。スコールくん?」
「枕は動くな」
「あ、はい」


 判り易く戸惑った声を出して、此方を見ようとするラグナを、スコールは先に制した。
律儀に守って首の傾きを直し、姿勢も正してくれるラグナに、スコールはこっそりと小さく笑う。

 ごうん、ごうん、と機械の心臓部が動く音が響く。
その音も聞こえなかった位に激しい交わりだった事を思い出して、落ち着いた筈の熱がまた俄かに蘇るのが判った。
だが、流石にもうこれ以上は誘う訳には行かないし、ラグナも疲れているだろう。


(……って言うか、まだ足りてないのか、俺は。……そうだな、足りる訳がない)


 自分の思考に突っ込んでから、それにもまた翻意する。
欲しくて欲しくて仕方がないのに、止むを得ないから我慢していたものが、こんな所で感じ得たのだ。
我慢した分まで取り戻さないと、満足できる筈がない。

 そう考える傍ら、スコールの脳裏には、隣にいる男とは違う“彼”の姿も浮かび、


(……これ、浮気になるのか?でもラグナだし。色々びっくりもしたけど、でも、やっぱり……)


 俄かに浮かぶ、不義理の可能性。
此処にいるラグナはラグナだけれど、スコールと同じ時間を生きている訳ではない。
まだスコールと出逢う事もなく、恐らくはその存在を知るのは遠い未来のことなのだ。
単なる性欲処理の理由をつけたとしても、スコールの方は明らかに“ラグナ”に対して特別な感情を持っていた上での行為であったから、この性行為はスコールにとって“処理”で片付けられるものではない。

 興奮と熱が冷めた反動なのか、思考が急激に坂道を転がって行く。
行為の最中、理性が叱るように不意の隙間に感じていた、罪悪感だの背徳感だのと言うものが、今になって足元に絡む。
その気持ちの中には、今の時代のラグナには、明瞭に思い出せていないとしても、確かに彼が大事にしているものがある、と言う事をスコールが知っているからでもあった。


(でも……でも、今は。此処にいるのは、あんただけで)


 乗せた頬から伝わる、ラグナの体温。
スコールの邪魔にならないようにと慮ってか、身動ぎは最小限のものであった。
元々じっとしているのは余り得意ではないようなので、頭はよく揺れる。
その度、スコールの頬や口元を、ラグナの長い髪がさらりと擽った。
それは“彼”との交わりの後、ゆったりと過ごす時間を作っている時にも感じるもので、その感触をスコールはこっそりと好いていた。


(……あんたはやっぱり、“あんた”なんだ)


 些細な仕草や、ふとした時の表情は、スコールが知っているものと変わらない。
重ねた年輪の差はあっても、やはり“ラグナ”は何処まで行っても“ラグナ”なのだろう。
だからスコールは、その存在を確かめずにはいられないのだ。




元の世界の記憶を全て持っているスコールにとって、オペラオムニアのラグナの状態(27歳で元の世界の記憶についても少しあやふや気味)は色々と気になる所だろうなと。
意識し過ぎるとボロが出そうで、未来が何か変わってしまう可能性もあるから距離を置こうとするけど、元が寂しがり屋だからやっぱり触れるともっと欲しくなる訳で。
元の世界のラグナに対して不義理をしている気持ちもありながら、目の前にいるラグナを求めるスコールが書きたかった。
ラグナの方は、まあ軍人上がりなので、男同士のこういう処理も止むを得ないか……って思うちょっと擦れてるような感じは好きです。だからまだ若いスコールには、余りそう言う事で自棄みたいなことしないでくれよって思うんだけど、スコールは別に自棄になってる訳ではないので、若干の擦れ違いが起きる。
それも分かってて、拒否までしないラグナに付け込む、青臭い狡さのあるスコールも良いなあ。