合わせ水鏡の景色
第2部後半


 ────奇妙な感覚と言うものは、ずっと付き纏っている。
それはこの常識外れな異世界で目を覚ましてから、常に感じていたものだ。
だが、だからと言って、それに囚われて立ち止まっていられる事はなかった。

 目覚めた時、幸運にもサイファーは一人ではなかった。
風神と雷神と言う、気の良い仲間達の姿もあって、口には出さないが安堵したのは事実である。
一人であってもどうにでもする、とサイファー自身思ってはいるが、とは言え、右も左も判らない可笑しな世界に一人きりと言うのは、何から手を付けるにも効率が悪い。
そう言う意味もあって、気心の知れた二人との合流は、歓迎しない訳がなかった。

 だが、お陰で二人のことは随分と振り回してしまったとも思う。
魔女を名乗るアルティミシアの言葉に乗り、サイファーは彼女の騎士となった。
それは“魔女の騎士”に憧れを持つサイファーにとって、正に夢が叶ったようなもので、更にはアルティミシアと敵対する位置にスコールが現れたのも、興を煽った所はある。
しかし、結果として、魔女アルティミシアはサイファーを使い捨ての駒にした。
それはサイファーにとって最悪の屈辱であり、“魔女の騎士”引いてはその騎士に守られる“魔女”と言う偶像に対して、最大級の侮辱でもあったのだ。
思い返せば、スコールはそんなアルティミシアの本性を知った上で、度々サイファーの行動を制そうと発言していたように思うが、当時のサイファーにとってそれは聞く耳の価値のないものだった。
故に相応の痛い目を見た訳で、その際、自分を信じてついて来てくれていた風神と雷神にも、苦しい思いをさせていたと、後々ではあるが理解した。
また当時は、旅の案内人たるモーグリが“黒の意思”に取り付かれていた状態であった事も後に判明し、サイファーは其方の思惑にも振り回されていた事になるのだが、それはまた別件としよう。

 ともあれ、そう言った経緯を経て、サイファーを含めた風紀委員は、スコール達のグループとの合流を果たす事となる。
以降はぽつりぽつりと現れる新顔を迎え入れながら、この世界の旅は続いている。

 その最中、ずっと感じていた違和感が、サイファーは強くなっているのを感じていた。
特にスコール達と合流し、行動を共にするようになってから、それは顕著になっている。
それを強めているのが、何をあろう、サイファーが誰よりも知っている人間───スコール・レオンハートの様子だった。

 サイファーが知っているスコールと言うのは、とにかく人嫌いで、誰かとコミュニケーションを採る事を厭っていた。
幼い頃は泣き虫で、姉に手を引かれながらでなければ何処にも行けなかった彼は、ガーデンに入ってから、徐々にそんな自分から抜け出そうと藻掻いていた。
その過程で、極端な人嫌いの顔をするようになり、一人称も“僕”から“俺”にして、サイファーと同じ武器を使うようになった。
サイファーはそれを一番近くで見ていたし、何なら武器を選んだ時に、俺の真似ばっかしやがって、と思った事もある。
その癖、妙に強気に此方を睨んだりするものだから、泣き虫な顔をよく知っていたサイファーは、強がりが生意気になった、と感じたものだった。
だが、始まりが何であるにせよ、スコールは確かに実力を付けて行き、サイファーと渡り合うだけの力を身に付けた。
焚きつけるサイファーに対し、意地のように噛み付いて、やられればやり返す───そんなスコールを認めない程、サイファーも意地が悪くはなかった。

 しかし。
しかしだ。
バトルに関してこそ、サイファーと並ぶ実力はあったかも知れないが、彼はそれ以外のことはからきしなのだ。
特に人との交流と言うのは赤点も良い所で、サイファーは彼がクラスメイトやルームメイトと談笑している所なんて見た事がない。
周りの生徒もスコールがそう言う奴だと判っているから、不必要に声をかける者は少なかったし、どちらかと言えば彼は教室内では孤立していたタイプだ。
サイファーとのライバル関係で、顔こそ知っている者は多かった筈だが、親しい人間と言うのはおらず、風紀委員として振る舞っているサイファーよりも、遥かにその交流の輪と言うのは小さかった。

 それがこの世界で再会したスコールはどうだ。
幼馴染である面々には相変わらず辛辣な物言いをするが、リノアに対しては妙に甘いし、アーヴァインが馴れ馴れしくスキンシップをするのも振り払わない。
サイファーが長年憧れた“魔女の騎士”であるラグナには、妙に気に入られているようで、何故かよく一緒にいる。
その傍にいる理由が、人懐こいラグナがスコールに構っていると言う他にも、どうやらスコールの方もラグナを随分と気にしているからだと言う事が感じられた。
他にも、ゼル、キスティス、セルフィに対し、世話を焼くと言う程ではないが、目を配っているのも見られる。
ついでに、ラグナと一緒にいる事が多いからか、小さな子供達にも随分と懐かれてしまったようだ。
───だが、そう言う人との関わり合い、繋がり合いにまとわりつく影響と言うものは、彼が最も忌避していたものではなかったか。

 人と交流を持つと言う事は、決して悪い話ではない。
スコールの場合、其処をごっそり遠ざけていた所為で、訓練中の班メンバーとの連携が上手くいかず、取れる授業を取れなかった、と言う事もあった。
連携相手がサイファーなら、互いの意地とプライドの勝負もあって、結果的に上手く終わることもあるが、求められるのは限られた人間との連携力ではなく、幅広くカバーできる適応力である。
スコールは其処が赤点候補で、「成績に響くから」と言う理由で仕方なしに他人に合わせることを覚えた、と言う具合だった。
それを思えば、スコールのこの変化は、良い事なのだろう。

 だが、サイファーには違和感があるのだ。
あんなにも頑なで、意地っ張りで、誰かの荷物を持ちたくないと言っていたスコールが、進んで誰かの荷物を持とうとしている。
それは彼自身が気にする範囲であるから、赤の他人のものまで背負うようなボランティア精神が芽生えた訳ではないのは判ったが、少なくともサイファーが知る彼とは180度変わった位の変化だ。

 その原因は、恐らくではあるが、スコールの持つ記憶だろう。

 この世界は、二人の神々によって創造され、その住人となるべくして、様々な異世界から数多の戦士が召喚されている。
サイファーやスコールもその一人である。
しかし、召喚された戦士達は、それぞれに記憶に剥落が起きている。
その深刻度は人によって大きく異なり、大部分が欠落している者もいれば、部分的に思い出せないと言う者、ほぼ覚えているが一部の出来事が靄がかかる、と言う具合にまちまちだった。
そして中には、自ら望んで記憶を差し出し、躰の成長を逆回しにしてまで、己の望んだ時期の姿となってこの世界に下りた者もいるのだとか。

 そんな者達の中、スコールは元の世界の記憶をほぼ全て持っていると言う。
魔女アルティミシアの本性を知り尽くし、彼女に与しようとするサイファーを止めようとしていたのは、この為だ。
また、アーヴァインやリノアも同様に、全ての記憶を持って此処に来ているらしい。
そして、それ以外の者は、大なり小なりの差はあれど、本来経験している筈の出来事を思い出せない状態になっているのだと言う。
───その“思い出せない側”に、どうやらサイファーも当て嵌められている。

 だから、今サイファーの目の前にいるスコールは、サイファーの知っているスコールではない、らしい。
サイファーの記憶にない出来事を経験しているスコール。
だから妙に落ち着きがあるし、細々と気を回すようなマメさを見せるし、アルティミシアに対しては強い敵疑心を剥き出しにする。
その傍ら、自身が持つ記憶の詳細については、余り他者と共有はしていないらしい。
アーヴァインやリノアと密かに遣り取りをしている様子は遠目に見られるが、どうやら他の二人もスコールの行動に同調しているのか、ゼル達に元の世界のことについて話している節は見られなかった。
当然、それはサイファーに対しても同じで、サイファーはアーヴァインから幾らか「確認したいんだけどさ〜」と前置きの上で、自身が何を何処まで覚えているか探られはしたものの、それ以上の事は誰からも触れられていない。

 はっきりとしない靄のようなものを、サイファーはずっと感じている。
知っている筈なのに、誰よりも知っている人間であるのに、知らない顔をするスコール。
まるで脱皮でもしたようだと、そう言っていたのはキスティスだっただろうか。
スコール研究家を自負する彼女もまた、後輩であり教え子である彼が、自分が知っているその姿と“違う”ことを感じ取っているのだろう。
いつも固い殻で覆う事で自分自身を守っていた彼が、いつの間にか、その殻を“いらない”のだと受け入れて、不器用なありのままを晒す一歩を踏み出した。
それがサイファーには、自分の後ろをついて来ていた筈の子供が、いつの間にか追い抜いて、前を歩いているように思えて仕方ない。

 ────それが妙に腹立たしかった。



 サイファーとスコールは、ライバルとして剣を交えている事で、バラムガーデンではよく知られている。
扱いが難しい事もあり、使用者がほとんどいないと言われるガンブレードを握り、実力伯仲の間柄で、時には真剣を持ち出して決闘紛いの訓練もやる。
そして揃ってカドワキに説教されるが、後日にはまた同じ事を繰り返していた。
だからか、二人は寄ると触ると喧嘩しかない、文字通り不穏なライバル関係であると周知されていた。

 その裏側で、二人が交じり合っている事を知る者はいない。

 動物の本能、雄の在り様から生じるものを解消させる為に、ある時から二人でセックスをするようになった。
どちらが言い出したのか、切っ掛けを作ったのが何だったのか、サイファーもよく思い出せない。
ただ、最初からトップはサイファーの方で、スコールはボトムだった。
スコールがその組み合わせに納得している訳でもなかったのだが、先ず前提として、男女どちらであれ彼が未経験だったと言うのが大きい。
何をどうすれば良いのか判らないスコールにリードが無理だったのは判り切った事で、だからサイファーがその役目を取った。
サイファーとて豊富だった訳ではないが、少なくともスコールよりはその手順を知っていたから、彼も仕方なくこの役割分担を受け入れた。

 傭兵育成機関に籍を置いている環境もあって、若い躰が昂ぶる事には事欠かなかった。
人目を外すタイミングを選んで、どちらかの部屋に行って、声を殺しながら混じり合う。
一度吐き出しただけで終わる事は、あまりなかった。
ただ、スコールの方も疲れ切っている事が多くて、サイファーが満足し切るまで続ける事も少ない。
それでも、何度か出せば後はサイファーも疲労が勝って来るから、終われば後は泥のように眠れた。

 ────この世界で目覚めてから、そう言う事は随分とご無沙汰だ。
サイファーとスコールはそれぞれ別々に行動していたし、合流したのもそう古い話ではない。
そして合流した時には、一行はそこそこの大所帯になっていて、とてもそう言う時間が取れる環境ではなくなっていた。
ひょっとしたら、サイファーが延々と感じている苛立ちの一部には、そう言う発散し切れない欲が齎すストレスもあるのかも知れない。

 スコールとのセックスは、サイファーにとって多少なりと心地の良い所があった。
甘酸っぱさはないから、恋人とするようなセックスとは全く違う。
いつも仏頂面の仮面を被り、澄ました顔をしているスコールが、真っ赤な顔で声を殺している様子は、少なからずサイファーを興奮させる。
少しサディストっぽいな、とロマンチストを自負する自分としては少々見解違いになりそうな所もあるが、しかし相手はスコールである。
甘綿で包んで甘やかしてやりたいなんて、そんな事を思うような相手ではない。
彼の躰が嫌でも反応してしまう場所を擦り上げ、細身の躰を息を詰まらせて震わせて、声を殺して上り詰めてしまう彼を見ると、サイファーは得も言われぬ征服欲が満たされるのだ。

 ───そうだ。
その顔を見ていないのだと、サイファーは思い出す。
サイファーがこの世界で目覚めたのは、もう随分と前のことになる。
そこからスコールとは幾何かの内に顔を合わせ、また更に時間が経ってから、サイファーが彼等に合流する形になるのだが、それ以降、サイファーがスコールを抱いた事はない。
妙にあちこちに気を配って忙しなくしているスコールに、サイファーは何処か蚊帳の外からそれを眺めていて、彼を捕まえて二人になった事はなかった。
必然的に性の熱も遠退いた状態が続いており、吐き出せないものが溜まり続けているのも確かだった。

 だから今日のサイファーは寝床を抜け出した。
今日のスコールは深夜番の一人として加わっており、世界を同じくする面々と過ごす部屋には帰ってきていない。
が、交代の時間になれば、明日に備えて休む筈だ。
そのタイミングに合わせて、サイファーは交代番に向かうのであろう雷神を追う形で、部屋を後にした。

 恐らく其処にいるであろうと見当をつけた甲板に向かう道すがら、使えそうな部屋を探して置いた。
この飛空艇の空き部屋と言うのは、よく子供達のかくれんぼに使われているが、夜半は流石に静かなものだ。
宛がわれた部屋と、甲板に向かうタラップから丁度真ん中あたり、辺りに人が使っている部屋も少ない場所を選んで覚えておく。

 真っ直ぐに伸びた通路の向こうにあるタラップから、人影が下りて来る。
細身のシルエットに、肩回りのボリュームを見て、サイファーはその人物を悟る。
足を止めて到着を待てば、思った通り、見張りの交代で少し眠そうに目を細めているスコールだった。

 スコールはサイファーの姿を認めると、判り易く眉根を寄せた。
通路の真ん中を陣取っていたサイファーであるから、スコールにしてみれば、彼が通せんぼをしているような状態だろう。
実際、そうしている自覚はサイファーにもあった。
こうやって待ち伏せしてやれば、スコールはどうやったって一度は立ち止まらざるを得ない。
案の定、スコールは不機嫌そうに此方を見つめながら足を止め、


「……サイファー」


 相手を認識した合図として、スコールは名を呼んだ。

 サイファーが近付くと、スコールはじっと黙ってそれを見ていた。
明りの少ない飛空艇の通路でも、澄んだ蒼の瞳はよく見える。
物言いたげにも見える唇を引き結んでいるスコールに、サイファーはずいっと顔を近付けた。


「スコール。お前、忘れてねえだろうな?」
「何がだ」


 前後を説明してから言え、と言うスコールに、尤もだとサイファーは鼻で笑う。
しかし、懇切丁寧に話の前後をしなくてはならない程、スコールと通じ合えない訳ではない事を、サイファーは知っている。


「俺とお前の仲、だ」


 わざと囁くような声で言ってやれば、ぴくっとスコールの肩が揺れた。
それが不意を突かれたような、こんな所で───と言いたげな蒼が見開かれるのを見て、僅かにサイファーの留飲が下がる。


(判り易い奴)


 暗がりの中でぼんやりと浮かび上がる白い頬に、明らかに朱色が差している。
白いファーが首回りを覆っている所為で、そのコントラストで首元まで熱を持っているのが見て取れた。
それらを見れば、スコールが自分と“何を”しているのかを覚えている事が判る。

 それならば尚更、話は早い。


「ヤるぞ、スコール」
「……デリカシーってもんがないのか、あんたは」
「お前相手にそんなモンいるか」


 此処にいるのが可愛らしい恋人だったら、そうでなくとも例えばリノアのようによく知る女性であるならば、サイファーはもっとムードを作ってリードするだろう。
例えに上げたリノアですら、そんな事をする間柄として受け入れるかと言えば微妙な話ではあるが、少なくともこんな明け透けな事はしない。
事をするにあたって、雰囲気と言うのは、行為そのものよりも大事なものなのだから。

 だが、剣を持ち出して斬り合いもするような相手に、そんな面倒をしてやる義理などない。
ついでに、いつであったか「あんたは雰囲気ってものを考えないのか」と言ったスコールに、それならやってやろうと当てつけにムードを演出してみれば、思い切り顔を引き攣らせて「気持ち悪い……」等と言ってくれたのは、他でのもない彼である。
実際、変にスコールに優しく触れたり囁いたりと言うのは、サイファーにとってもつくづく違和感があった。
何なら笑い出したくなった位だ。
あの時は引き攣るスコールの顔が面白かったので、しばらく続けて遊んでいたが、その内に面倒になって辞めた。

 目星をつけていた部屋に入って、使われた形跡のないベッドからシーツを一枚掴んだ。
極力スペースを使わないように設計された三段ベッドは、各段に寝返りを打つのも窮屈そうなスペースしか確保されておらず、とても此処でセックスなど出来ない。
だから使えるのは真ん中のぽっかりと空いた床だけだ。
鉄板の床は冷たく固いから、サイファーとて直に其処に座る気にはならず、布一枚をクッションにする。

 交わる為の場所を簡素に作った所で、サイファーはコートを脱いだ。
其処で初めて、閉めた入り口前で棒立ちにしているスコールに気付いた。


「何突っ立ってんだ。さっさと脱いで準備しろ」
「……」


 急かすサイファーの言葉に、スコールは分かり易く溜息を吐いた。
面倒臭そうな顔をしているのがありありと感じられたが、スコールは無言でジャケットの前を掴む。
そのまま脱ぎ始めるのを見て、サイファーは取っ組み合いをする手間が省けたと思った。

 相変わらず、裸になったスコールの体は細かった。
痩せていると言う程貧層な訳ではないし、それなりに鍛えられてはいるのだが、締まっていると言う言葉が当て嵌まるだろう。
お陰でシルエットだけを見ると頑健さが足りなくて、ひょろっちい、とサイファーはよく揶揄った。

 サイファーが床に投げたシーツを下敷きにして、スコールは其処に座った。
暗がりの中で、小さく口を噛んでいるのが見える。
サイファーもその前に屈んで、薄い腹に手を当てた。
ぴくん、と盛り上がりの足りない腹筋が震えるのが伝わる。
緊張したように動きが硬いのは、いつものことだ───と思うのだが、


(……なんだ、この顔)


 見下ろした先にあるスコールの顔が、サイファーの記憶のものと違う、ような気がする。
唇を引き結び、視線を彷徨わせるように明後日の方向に向けているのは、いつもの事だ。
だが、何か───雰囲気、とでも言うのか、眦から滲むものに違和感を感じて、サイファーは密に眉根を寄せた。

 そのままサイファーがじっとしていると、スコールも眉根を寄せ、


「……しないのか?」


 だったら服を着たいんだが、と言うスコールに、サイファーは露骨に舌打ちしてやった。
明らかに不機嫌さを増した相手の様子に、スコールもまた不愉快そうな表情を浮かべたが、サイファーは無視する。
緩く開いているスコールの膝を掴んで、ぐいっと外側に開かせた。


「あ?なんだ、勃ってんじゃねえか」
「……煩い、見るな」
「お前も期待してた訳だ」
「……してない」


 顔を背け、スコールはサイファーの言葉を否定する。
しかし、緩くとは言え頭を持ち上げている其処を握ってやれば、


「っん、」


 びくっ、と判り易くスコールの体が竦んだ。
シーツを握る手に力が籠り、反応を殺そうとしているのが分かる。
しかし、サイファーが軽く竿を上下に擦ってやれば、スコールは細い腰をひくひくと戦慄かせた。


「っ、ふっ……!ん、ん……っ!」
「そういや、お前もこっちに来て長いんだったな」
「は……っ、ふ……っ、んっ……!」


 スコールは右手で口元を隠し、漏れる声を抑えようとしていた。
だが、サイファーが指先で鈴口をぐりぐりと穿ってやれば、「んんんっ」と噤んだ口の奥でくぐもった悲鳴が上がる。
それだけで先端からとろりとした蜜が溢れ出したのを見て、サイファーはにやりと笑った。


「随分早いじゃねえか」
「ふ、ん……っ、こんな、状態で…んっ、抜ける訳、ないんだから……仕方ない、だろ……っ」
「ま、そーだな」


 雷神と風神、後は一時にアルティミシアと同行していたサイファーに比べ、スコールはこの団体一行にそれなりに早いタイミングで加入していた。
当初は今程の大所帯ではなかったとは言え、人の気配に悪い意味でも敏感なスコールが、昂るものを一人で自己処理できるとも思えない。

 かく言うサイファーの方も、幾ら同行者の数が少なく、気心の知れた二人だけだったとは言え、この問題がなかった訳ではない。
女性である風神もいた訳だし、うっかり目撃でもされれば、幾ら理解があるとは言え気まずくならない訳もない。
その辺りは、サイファーも含め、雷神や風神も年頃の若者であったのだ。
そしてサイファーがスコール達と合流してからは、言うべくもなく。

 サイファーはスコールの雄を刺激してやりながら、逆の手で息を喘がせ始めたスコールの手を掴んだ。
突然のことに驚いたようにスコールの体が竦んだが、構わずサイファーは彼の手を自身の下部へと持って行く。


「久々なんだ。お前も少しは仕事しろよ」


 サイファーの言葉に、スコールはぐっと唇を引き結ぶ。
強張っていた指先がそろそろと伸びて、サイファーの雄に触れた。
感触を確かめるように、指先で竿の皮膚をすりすりと撫でた後、ゆっくりと掌全体がサイファーを包み込む。


「……っ」
「ん……っ、ふっ、う……っ」


 互いにガンブレードと言う武器を使っているから、その振動やら摩擦やらで、皮膚表面は少し硬い。
手袋を嵌めていても、日々の酷使でいやでも肌は身を守ろうと硬化していく。
その掌で、二人は互いの中心部を扱いていた。


「ん、っは……、っん、っく……」
「…っ、は……っ、……!」


 スコールの声がサイファーの耳元で幾度も零れる。
その度、サイファーの耳元に、首筋に、零れた吐息が擽った。
こんなにもスコールの吐息を身近で感じるのは、初めてのような気がする。


(と言うか、この手付き。これは───)


 首元にかかる吐息も嫌に気になるが、それより竿を扱くスコールの手だ。
自慰はともかく、相手に何かをすると言う事に置いて、スコールははっきり言って下手だった。
経験がまるでなかったのだし、サイファーとセックスをする時は、殆どされるがままにしていたのだから無理はないだろう。
偶にサイファーが気まぐれで指示をしなければ、スコールが自分から何かをする事はなかった位だ。

 だと言うのに、竿を扱くスコールの手は、的確にサイファーの弱点を当てて来る。
膨らみのある頭首の下の辺り、括れのある裏側を爪先で引っ掻くように擦られて、サイファーは思わず息を飲んだ。
ぞくぞくとした感覚が背中を駆け抜けて、呼吸を詰まらせたのは、漏れそうになった声を殺す為だ。


(なんだ、今のは。こいつ、こんな触り方した事なかっただろ)


 唇を噛みながら真横にある顔を見れば、スコールは目を閉じ、鼻で荒い呼吸をしている。
ふう、ふう、と漏れる呼気が何度もサイファーの肩口を擽っていた。
眉根を寄せ、じっとりと汗を滲ませている頬は紅潮し、彼が官能を得ている事が見て取れる。

 スコールはサイファーの肩に傷の走る額を押し付けた。
表情が見えなくなった代わりに、雄を扱く手が絡み付くように触れて来る。
竿を包み込むように柔い力で握ると、しゅこ、しゅこ、と詰まったものを絞りだそうとするように上下に動き出した。


「く…、おい……っ」
「ん……?」


 サイファーが苦い声をかけると、スコールが緩く顔を上げる。
熱を浮かせた蒼の瞳が、酷く近い距離でサイファーを見詰めていた。
瞬間、どくん、と言う鼓動がサイファーの躰の奥で響き、つられてスコールの手の中の雄が膨らみを増す。


「……なんだよ」
「……っなんでもねえよ」


 眉根を寄せつつ、問うてくるスコールの声は、何か可笑しい事でもあるか、と言いたげだ。
まるでいつも通りにしているつもりのようで、その様子がサイファーのプライドを刺激して、その手を離せ、等と言ってなるかと意地を張る。

 だが、躰の方は刺激に対して正直だった。
裏筋に指を当て、少し強く握りながら擦るスコールに、サイファーの欲望はみるみる大きくなって行く。
久しぶりだと言う事も相俟って、サイファーは悔しいが長く我慢が利きそうにない事を早々に突き付けられた。


(俺が先にイく訳ねえだろ)


 いつだって、先に果てるのはスコールだった。
慣れ不慣れの問題もあったし、彼が常にサイファーに主導権を渡していたからでもある。
ともかく、だから先にイくのはいつもスコールで、その事にサイファーが若干の優越感を持っていたのは確かだった。

 だから、幾ら溜まっているからと言って、スコールより先にイく訳にはいかない。
サイファーはスコールの雄を扱く手を速めた。
すると思った通り、


「う、あっ……!んっ、サイ、んんっ」


 官能の刺激が俄かに激しさを増して、スコールは膝をゆらゆらと揺らして悶え始める。
尻が上擦って逃げを求めていたが、サイファーがぎゅっと雄を強く握ってやれば、竦んだように彼の躰が強張った。
そのまま先端を親指で潰すように押しながらぐりぐりと穿ってやると、


「あっ、あっ、サイファ……っ!そこ、は……っくぅ!」


 ビクッビクッとスコールの腰が弾み、すっかり勃ち上がった雄の鈴口から、とろとろと我慢汁が溢れ出した。
竿全体がヒクヒクと小刻みに震え、痛い位にスコールは張り詰めている。
そのまま爪先でカリカリと先端を引っ掻いて苛めてやると、


「イ、んっ、くぅっ……!んんんんっ!」


 スコールはサイファーの肩を掴んで、がくがくと体を震わせながら絶頂した。
びゅるるっ、と蜜液がサイファーの手の中に吐き出され、濃いどろりとした粘り気のある液体が、皮膚にまとわりついて垂れていく。

 サイファーにしがみついたまま、スコールは荒い呼吸をしていた。
はあ、はあ、はあ、と何度も吐き出される熱の吐息が、サイファーの首筋を弄っている。
こんな距離でそれを感じた事はあまりなかったように思う。
それ以前に、こうもスコールがしっかりとしがみ付いて来た事も、そう回数はなかったような。


(まあ、狭いしな)


 広々と寝転がるようなスペースとも言えないのだから、こうして抱き合うように密着するのは仕方がない。
シーツ一枚を敷いているとは言え、床はやはり堅いし冷たいのだから、それより目の前にある人間の温もりに捕まっている方が、まだ心地は良いだろう。

 だから仕方がないのだ。
耳元で響くくぐもった声も、いつまでも当たり続ける籠った吐息も。
肩にしがみ付いている腕が、縋るように微かに震えているのが判るのも、この環境だから仕方がない。


「は……、はぁ……はぁ……」


 やがてスコールの体からは強張りが消え、くったりと寄り掛かるようになった。
サイファーはどろどろに濡れた手をスコールの竿から離し、自分のものを包み込んだまま動きを止めているスコールの手も、それから離すように誘導する。

 寄り掛かる体重を退かせると、スコールの頭がかくんと落ちた。
上り詰めた余韻で脱力している身体を、後ろ向きに反転させて背を押す。
シーツの上に倒れ込んだスコールは、のろのろとした動きではあったが、腰を持ち上げてサイファーに秘部を見せつけた。


「珍しい事するじゃねえか。そんなに欲しいのか?」
「……、」


 自ら其処を差し出すような格好を取るなんて、初めてのことではなかったか。
そう指摘したサイファーに、スコールは一瞬、物言いたげな表情を浮かべたが、結局何も言わずにフイとそっぽを向いてしまった。

 俯せで尻を掲げた格好をしているスコール。
その肉の足りない小振りな尻に手を当てると、ぴくっ、とスコールの体が震えた。
まるで期待しているかのように、秘穴がひく、ひく、と動いているのが見える。
其処に指を宛がえば、スコールの方から求めるように、孔がサイファーの指先に吸い付いて来た。


「んっ……」
「挿れるぞ」
「っ……あ……!」


 短い合図だけして、サイファーは指を挿入した。
ぬぷん、と秘孔が容易く口を開けて、サイファーの指を飲み込む。


(……おい。こいつは)


 スコールの内部は、柔らかくうねっていた。
ねっとりと絡み付くようにサイファーの指に肉壁が吸い付いて、細かくヒクヒクと脈打っているのが判る。
それはサイファーの知るスコールの陰部の感覚として、間違ってはいないのだが、


「おい、スコール」
「……?」


 指を中に入れたままで名前を呼ばれて、スコールは億劫そうに此方を見た。
俯せの格好のまま、緩く引き結ばれた唇が、漏れる吐息を懸命に押し殺している。
その様子を見て、サイファーの違和感は益々確信的なものになった。

 中に入れた指を曲げて、くりゅっと肉壁を穿ってやる。


「ひあっ」
「なんだよ、こりゃあ」
「はっ、何が……あっ、あぁっ」


 声を上げるスコールに、中で指を曲げ伸ばしを繰り返しながらサイファーは問う。
スコールは内壁を削るように指先で押し上げ、擦られて、ビクッビクッと下肢を震わせていた。


「んっ、んぁっ……!はっ、あっ……!」
「随分柔らかいじゃねえか。ご無沙汰だと思ったが、まさか自分で突いてたか?」


 ぐりぐりと、ツブのある天井を押し潰してやると、スコールは手繰り寄せたシーツに顔を埋めて悶える。
ふるふると首を横に振るのは、刺激を厭っているようにも見えたが、サイファーの言葉への返事もあった。
しかし、否定を示すその仕草に、サイファーは「ほお?」と怪訝な笑みを浮かべ、


「いつも処女みてぇに固い癖に、今日は随分簡単に入って行くじゃねえか」
「う、うんっ……!んんっ、あ……っ!」


 サイファーの言葉の通り、スコールの秘孔は、彼の指をぬぷぬぷといとも簡単に飲み込んで行く。
これは絶対に普通の状態じゃない、とサイファーは確信していた。
何せ、いつも頑なに強張るスコールを、その抵抗を解す為に手をかけてやっていたのは、他でもないサイファーなのだから。


「この大所帯で、よくもまあこっそり弄る暇があったもんだな」
「んっ、んんっ……!バカ、何言って……あっ、そんな暇、ある訳……うんんっ」
「じゃあこいつはどう説明するつもりだ?」
「うぅんっ」


 ずぷっ、とサイファーが指を突き入れれば、スコールはそれを根本まで咥え込んでしまった。
最後に咥えるものに比べれば、深さは半分程度にしか届かないが、それだけ解すのにいつもサイファーがどれだけ苦労していたか。
下手に理性を手放そうとしないスコールの所為で、挙句時にはもうやだと子供のような抵抗まで始めるから、それはそれは大変だったのだ。
それが、今はまるで嘘のように、蕩けた肉がサイファーの指を包み込んでいる。


「あっ、あう……っ、んぁ……っ」
「おまけに、随分気持ち良さそうな顔してんじゃねえか」
「んぁ……っ、見る、な……」


 サイファーの言葉に顔を赤くして、スコールはシーツを手繰り寄せた。
皺だらけになったシーツに顔を隠すスコールだが、蕩けた顔はもう見られてしまっている。
おまけに、躰は火照って赤くなり、指を咥えた秘部がきゅうぅっと切なげに締め付けを増していた。

 埋めた指をサイファーが前後に動かしてやると、くちゅ、くちゅ、と言う音が聞こえて来た。
柔らかいだけでなく、濡れた感触が奥から滲み出してきて、肉壁にまとわりついている。
それを塗り広げるように指先を動かし、壁を撫でるように擦ってやれば、スコールはシーツに縋りながら、ビクビクと体を震わせる。


「んっ、んんっ……!や、サイファー……っあ、うぅんっ……!」
「弄ったんでなけりゃ、こんなに簡単に広がるかよ」
「は、はふっ……うぅっ、んん……っ」
「それとも、こっちで良い奴を見付けたのか?」
「あうぅう……っ!」


 既に根本まで入っていた指を、サイファーは奥に押し付けるように、ぐぅっと強く突き入れた。
入り口を押し潰されるように押され、奥の壁を指先で抉られる感覚に、スコールがくぐもった声を上げる。
そのままサイファーが指を滅茶苦茶に動かしてやれば、ぐちゅぐちゅ、ぐちゅぐちゅと卑猥な音が響いた。


「んっ、あっ、あっ…!うっ、あうっ……サイ、ファ……っ!」
「ちょいと見ない間に、随分好き物になったもんだな?」
「はっ、バカ……!そ、そんな訳、ないっ、くぅん……っ!」
「じゃあこれはなんだよ?」
「そ、それ、は……んんぅ……っ!」


 ぐりぐりと穿ってやれば、奥の柔らかい肉が嬉しそうにサイファーの指先に吸い付いて来た。
其処に爪先を当て、カリカリと引っ掻くと、スコールは言葉を喪う程の快感に、腰を左右に捩って悶える。


「ふっ、ふぅうっ!や、イく……んっ、来てる……っ!」
「ケツだけでイくのかよ。いつの間にそんなに淫乱になった?」
「そん、そんなの、あんたのせ────っ」


 スコールの言葉は、其処から先は音にならなかった。
ぐりゅんっとサイファーが指を大きく動かした直後、細い躰がビクッビクッビクッ、と一際大きく戦慄いたかと思うと、彼の雄から蜜が噴き出す。
既に皺だらけになっていたシーツに飛び散った精液が、濃い染みを広げて行った。


「ふ…あ……っ」
「マジでイったのか」


 先に一度イかせていたとは言え、後ろからの刺激だけでも果てを迎えるとは、サイファーも思っていなかった。
段々とその素質のようなものを開花させていた節はあったが、それでも決定的な刺激としては、前がなくてはイけなかった筈だ。
少なくとも、サイファーが知っている限りでは。

 絶頂を迎えた躰は、強張った後、ゆっくりと弛緩した。
しかし、指を咥えたままの秘部は、まだまだその力を喪ってはいない。
寧ろサイファーを離すまいとするように、しっかりと密着する程に吸い付いており、次の刺激を待ち望んでいるとしか思えない。
ゆっくりと指を抜いてみれば、最後の最後の瞬間まで、肉壺はいやいやをするように縋り付いて来る程であった。


「あぁ……っは……」


 中を苛めてくれるものを喪って、スコールの膝が崩れ落ちた。
乱れたシーツの波の中、沈むように伏せている姿は、汗ばんだ白い背中が醸し出す匂いもあって、酷く扇情的だった。
細い腰がひく、ひく、と震えて、小ぶりな尻が不規則に揺れる。
解放された筈の秘部は、薄く口を開けて、くぱくぱと再び咥えるものを求めているようだった。


「はあ…あぅ……、サイファー……、もう……」


 重い頭を持ち上げて、スコールはサイファーを見た。
躰を半身に横たわらせて、片足を持ち上げて陰部を差し出す。
瞳はとろりと熱に溶け、薄い唇はしどけなく解けたまま、甘い呼吸を零している。
その様子は、既に膨らみ切って久しいサイファーの欲望の枷を外すに十分な姿だった。


(何処でそんな誘い方覚えてきやがったんだよ)


 セックスはいつも受動的で、殆どマグロ状態と言っても良かった筈のスコールから、こんな露骨で卑猥な誘いがあるとは思いもしていなかった。
それとも、これもスコールが持っていると言う、サイファーが持ち得ない“未来の記憶”の所為なのだろうか。
だとすれば、スコールはサイファーの知らない所で、こんな事をする相手を見付けていると言う事か。

 ぐらり、とサイファーの腹の底で煮える感覚があった。
しかし、ヒクつく秘部を見せつけるスコールは、サイファーのそんな様子に気付いていない。


「もう……早く……っ」


 疼いて仕方がないのだと、スコールは甘く蕩けた顔で訴える。
挙句に、彼は自身の秘部を指で広げ、まるで入れるのは此処だとサイファーに教えるように見せつけて来た。
赤く色付いた肉壺が、ヒクヒクといやらしく蠢いて、しきりにサイファーを誘っている。
それは、少なからず経験をしているとは言え、まだ成熟していないサイファーの性を煽るには過剰な程に刺激的であった。

 スコールのいやに的確だった手淫のお陰で、すっかり膨らんでいた雄を、サイファーはヒクつく秘孔に宛がった。
どくどくと露骨な脈を打つそれの感触に、「うあ……」とスコールの唇から声が漏れる。
それが期待を孕んでいるのが判って、サイファーは苛立ちのようなものが中心部に集まるのを感じた。

 スコールの持ち上げられた太腿を押して、脚をより大きく開かせる。
恥部が全て剥き出しになった状態で、サイファーは腰を前へと進めた。


「あ……っ!あぁあ……っ!」


 堪らない、と言う声がスコールの喉から上がる。
太く大きく張り詰めたものが、艶めかしく蠢く肉壺の中に入って行く。
それをスコールは、うっとりとした表情を浮かべて受け止めていた。


(なんだよ、その顔はっ……!)


 いつも固くてきつくて、指を入れるのも大変だった。
雄を入れる段階となれば尚更で、何度やっても、スコールは中々折れない位に、その躰も頑固だった。
筈なのに、今サイファーを包み込んでいる内肉は、まるで媚薬に漬け込んだように柔らかく蕩けている。
その上、まるでサイファーの形にぴったり添うように馴染んでいるのだ。
指先で感じていたとは比べものにならない程、心地良い肉褥がサイファーを迎え入れようとしていた。


「っは……おい……っ、やっぱりお前、久々なんかじゃねえだろ……」
「ふ…っは……?また、そんな、事……んん……っ!」
「だったらなんで、こんなに広がってんだって、聞いてんだよっ!」
「んぁっ!」


 半ばまで入った雄を、サイファーは一気に突き入れた。
まだ奥に残っていた隙間が一息に埋め尽くされ、雄の先端がスコールの奥壁を突き上げる。

 入り口から奥まで、スコールの中は熟した果実のように柔らかかった。
かと言って締め付けがない訳ではなく、寧ろ頑なに拒絶するような締め付けばかりだったサイファーの記憶に比べると、極上のものに変貌している。
そのたっぷりとした脂身を乗せたような秘奥を、サイファーは激しい律動で何度も突き上げた。


「あっ、あっ、やっ、激しっ……!ふっ、んっ、んんっ!」


 突き上げられる度、ビクッビクッと足を震わせ、声を上げるスコール。
押し出されるように溢れ出してしまう蕩けた声に、スコールは慌てて口元を手で抑えるが、サイファーは構わず奥を突き続けた。


「んっ、うんっ、んんっ…!」
「はっ、はっ……!っく、は……っ!」
「サイ、ファ、うんっ……!そんな、奥、ばっかり、っあ、ふぅう……っ!」


 ずん、ずん、と絶え間なく打ち付けるサイファーの強い腰遣いに、スコールは頭を振ってストップを訴える。
しかし、そんな仕草を見せながらも、彼の秘孔は咥え込んだ雄に絡み付き、うねうねといやしい動きでマッサージを施していた。
奥に入れればきゅうと締め付け、退く時には緩んで、しかし表面は吸い付いて離れようとしない。
サイファーの律動のリズムに合わせ、より深く、より丹念に、その逞しさを味わおうとしているようだった。


「はっ、くそ、この……っ!」
「あっ、やっ……!」


 柔らかく心地の良い締め付けで、雄への奉仕を辞めない秘孔。
この体は、確かにサイファーの征服欲を満たすものではあったが、こんなにも“性”を舐め尽くすような肉体だっただろうか。
サイファーには全く覚えのない感覚に、一体何処の誰が、この躰を自分に黙って拓いたのかと、サイファーは苛立ちを抑えられない。
それを全てぶつけんばかりに、サイファーの律動は一層の激しさを増して行く。


「あぅ、あっ、あぁっ!ばか、サイファー、ああっ…!奥ばっかり、突いたら、んっ、また、うぅんっ」
「は、はっ、てめぇが悪い……っ!」
「何が、ああっ、もう、んっ!訳が、わからな……っ!も、これ、あんたの、八つ当たり……っあぁんっ!」


 スコールの零れ落とした単語を封じるように、サイファーは一際強く腰を突き入れた。
奥の窄まりにある壁を先端が突き上げ、スコールの体が大きく仰け反る。
同じ場所を狙って、ゴツゴツと突いてやると、スコールは全身を震わせて深い官能に言葉を喪う。


「っめ、だめっ、そこ……っ!サイファー、そこはっ、んんっ!大きいの、来るからぁ……っ!」
「ンなこと、知らねえよ……っ!」
「だって、そこはあんたが、あっ、あぁっ!うぅんんんっ!」


 スコールは縋っていたシーツを力一杯に握り締めて、全身をピンと張り詰めさせた。
脚の爪先まで強張った状態で、スコールは腹の奥の深い場所で絶頂を迎える。

 スコールの絶頂は三度目だった。
にも拘わらず、秘奥を突き上げられる快感で勃起しきった雄からは、また濃い蜜液が放物線を描いて飛び散る。
その間、秘孔はきゅうううっと締め付けを増して、サイファーの雄を全身で扱き上げていた。


「っは、出る……っ!く……っ!」
「あっ、ああぁっ!熱、いぃっ……!んんんんっ!」


 サイファーの低い呻きの後、スコールの中にたっぷりと濃い精液が注ぎ込まれる。
否応なく溜め込んでいた欲望が、余す所なくスコールの胎内へと吐き出され、その感触にスコールは天井を仰いで悶え喘いでいた。

 強い勢いのまま、サイファーの射精はしばらく続いた。
久しぶりの交わりであるから───と言うよりも、此処に至るまでのスコールの痴態が、雄の凶暴性を目覚めさせた所為だろう。
そしてサイファーを受け止めている今もまた、スコールの秘孔は蠢動を続け、中で脈打っているサイファーをきゅうっ、きゅうっ、とリズミカルに締め付けて刺激を与えている。

 ようやくサイファーの熱の放出が終わると、スコールはくったりと脱力していた。
暗がりの狭い部屋の中で、はあ、はあ、と二人分の荒い呼吸が反響している。
冷たい鉄板で囲われた部屋だと言うのに、サイファーは酷く暑苦しさを感じていた。
体温が上昇した躰から、蒸発した汗と一緒に、艶めかしい性の匂いが立ち上って、狭い空間を埋め尽くしている。
脳がくらくらと揺れるような感覚の中、サイファーは組み敷いている男を見下ろしていた。


「ふあ……あ……っ、あぁ……っ」


 スコールは、弛緩した躰を投げ出すように横たえて、ヒクッ、ヒクッ、と震えている。
長い前髪のカーテンの下で、ブルーグレイの瞳がとろりと蕩け、赤らんだ眦には薄い水膜が浮いていた。
日焼けを嫌う白い頬は、甘い色に染まりながら、涙と汗の雫を滑らせていた。
開きっぱなしになった小さな唇からは、唾液に濡れた赤い舌が覗いて、ふるふると震えている様が、見る者に此処を貪れと誘っているかのよう。


「あう……ん……、サイ、ファー……っ」


 涙を浮かべた瞳がサイファーを捉え、濡れた唇がその名を呼んだ。
同時に、サイファーを咥えた秘部が、ねっとりと蠢いて絡み付いて来る。
もっと───と強請るような卑猥な誘いに、ごくりとサイファーは知らず喉を鳴らしていた。


「っは……っはぁっ、はっ、はっ!」
「んぁっ、あっ、あっ、あぁ……っ!」


 スコールの腰を掴み、サイファーは律動を再開させた。
スコールは天井を仰ぎ、白い喉を曝け出して、甘い声を上げ始める。


「や、サイファー……っ!あっ、あっ、中が、まだ……あっ、敏感、だから……っああ!」
「知る、かよ……っ!くそが……っ!」
「はっ、ひっ、んぁあ……っ!やあ、また、激しい……っ!あっ、あぁっ、くふぅうっ」


 戦慄いている媚肉を擦り上げれば、スコールは悦に染まり切った声を上げる。
駄目、と言う声が譫言のように繰り返されていたが、サイファーは止まらなかった。
止められなかった、と言うのが正しい。
知っている筈なのに、初めて味わうような熟れた褥の感触は、それを初めて知った雄にとって麻薬のように離れられないものだったのだ。




 サイファーが何度目かの熱を放った後、スコールは意識を飛ばした。
その時は既にスコールはイき疲れていて、もう出ない、イけない、と訴えていた。
が、最後にサイファーが絶頂した後、その熱に持ち上げられるようにスコールも最後の果てを迎え、二人揃ってしばし泥のような眠りに落ちた。

 半ば気絶と言っても良かった最後から、数十分が経ってから、先にサイファーが目を覚ました。
酷い有様のシーツの中で眠るスコールを見て、リセットされた理性が戻って来て、最中の自分の有様を今更ながら思い出す。
なんだか随分と情けない事をしていたような気がする。
そんなサイファーの胸中に、後から追い打ちを喰らわせたのは、目覚めたスコールの言葉だった。


「あんた、何であんなにムキになってたんだ」


 重い躰から熱を逃がさないよう、汚れたままでもないよりマシと、シーツに包まったままでスコールが言う。
スコールにまでそう見えていたのかと、それが酷く屈辱的だったサイファーだが、自分でも自覚する位のことだったのだから、間近で見ていた彼がそれに気付かない筈もないとは思った。


「……別になんでもねえよ」
「何でもないのに、俺はこの有様にされたのか」


 そう言ったスコールの腰には、くっきりとサイファーの手形が残っている。
また、露骨に目には見えないが、きっと彼は立てる状態ではないだろうし、明日の編成に影響が出るのは確かだろう。
その辺の埋め合わせはどうしてくれるんだ、その原因くらいはちゃんと聞かせろと、ブルーグレイが睨む。

 その視線を無視する、と言う選択もあるにはあったが、どうも分が悪い気がした。
そう感じさせる位には、睨む目に圧を感じたのだ。
スコール相手に自分が折れるなんて甚だ遺憾ではあったが、自分が酷くらしくもない行動を取っていたのも自覚があったから、大人しく白旗を上げる事にした。

 ───が、そこで第一声の言葉をわざと選んだのは、やはり大人しく白状する事をプライドが良しとしなかったからだ。


「お前がビッチだとは知らなかった」
「は?」


 判り易く低い音がスコールの声から出た。
彼にしては珍しいが、怒りをはっきりと表に出した時の声だ。
それが思った通りの反応だったので、サイファーは少しばかり気分が上向いた。

 ずい、とスコールが顔を近付けて来る。
蒼の瞳が露骨に怒りを滲ませ、サイファーを射殺さんばかりの圧を放つ。


「誰が、ビッチだって?」
「お前だ、お前。初心なネンネだとばっかり思ってたお前が、しばらく見ない間に、まさか尻軽になってたとは思ってなかったぜ。ショックだよ」
「……っ!」


 ぶんっ、と言う勢いの音と共に、サイファーの頭にスコールの拳が落ちる。
が、サイファーはそれを避けた。
空を切った拳を握り締めて、スコールが益々怒りを燃え上がらせて睨む。


「何か?あんたは俺が、その辺の男を引っ掛けて、セックスしていたとでも言いたいのか?」
「他にあるかよ。こっちに来て俺とヤってた訳でもないのに、あんなやらしいケツ穴になってたじゃねえか。自分で弄ってたんじゃなけりゃ、どっかの馬の骨を咥えてたとしか思えねえ」
「だから、それはあんたの────」


 其処まで言って、はたとスコールの言葉が途切れた。
怒りに満ちていた瞳が、ぱちりと瞬きを繰り返して、まじまじとサイファーの顔を覗き込む。


「……あんた」
「あ?」
「……そうだな。あんたは───だったら、仕方がない、か」
「はあ?おい、何一人で納得したツラしてんだ」


 何かに気付いたように、得心の行った顔をして、じゃあしょうがないと飲み込む様子を見せるスコールに、サイファーの米神に青筋が浮かぶ。
この世界で再会してから、折々に見せる、一人で何かに気付いたり、思い至ったりとしている時と同じ仕草を見せるスコールに、サイファーの一端収まった気がしていた苛立ちが再来する。


「何が何だか判りゃしねえ。思い当たる節があるんなら、今ここで全部洗いざらい吐け」


 すっきりしない事は、実際、心地が良くないものだ。
相手がスコールであれば尚更、サイファーは苛立ちが募る。
その原因にスコール自身が思い当たる節があるのなら、さっさと説明責任を果たして貰いたいものだ。

 しかしスコールは、しばし考える仕草を見せた後、じっと黙ってサイファーを見つめるばかり。
言葉を探して頭の中を捏ね回しているようにも見えたが、


「……悪いが、あまり言う気はない。何を何処まで言って良いのか、まだ俺もよく判らないから」


 そう言って、スコールは俯いた。
それは意地の悪い行為ではなく、スコール自身が口にするものを選び兼ねているから、と言う様子だった。
だったら一々選ばずに、全部吐けば良いものを、とサイファーは思うのだが、スコールが意固地であるのも知っている。
そうと決めたら、誰がどう言おうと、スコールは簡単に意思を曲げないのだ。

 ちっ、と舌打ちをして、サイファーはベッドの端に寄り掛かった。
スコールはそんなサイファーを見詰め、でも、と言う。


「これだけ言って置く。俺はあんた以外とセックスしてない」
「……」
「俺を抱こうなんて物好き、世界中探したって、あんた以外にいる訳がないし」
「……だったらなんであんなに簡単に入ったんだよ」
「……あんたの努力のお陰だろ」


 そう言って、スコールは唇に緩い笑みを浮かべる。
何か含みがあるその表情に、またカチンと来るものを感じたサイファーだったが、噛み付いてやるには躰が重い。
また一つ舌打ちをして、サイファーは床に放っていた服を拾った。

 ────未だ納得いかない表情を浮かべながら、格好を整えているサイファーを、スコールはシーツに包まったまま眺める。
疲れているからか、出すものを出して一時的とは言え満足はしたのか、これ以上の喧騒はサイファーも望んでいないらしい。
スコールもいつにないサイファーの昂ぶりに振り回された後だったので、これ以上は口喧嘩もする気はなかった。
そんな事になけなしの体力を割くよりも、躰に漂う心地良い疲労感に浸っている方が良い。


(久しぶりだったな。こうやって抱かれたのも……あんなに激しくされたのも)


 持っている記憶の時間に差がある所為で、スコールとサイファーの間には、見えない溝が出来ている。
恋人同士になった事を覚えているスコールと、セックスフレンド紛いのことをしていた事しか覚えていないサイファー。
故に、今夜の始まりに置いて、温度差を感じて虚しくも思っていたスコールだったが、今は少し違う。


(……嫉妬って言って良いのか判らないが。あんたが“あんた”に対抗意識を燃やしてるって言うの、ちょっと面白い)


 スコールの体を拓いたのは、他の誰でもない、サイファーだ。
初めてその経験をした時から、スコールの記憶にある最近まで、他の誰にも、触れることを許してはいない。
だからスコールの体に気持ちの良い所があると教えたのは、彼以外にはいないのだ。
しかし、その時期の記憶がない所為で、サイファーはスコールの体を開発したのが自分だとは知らない。
セックスの最中、苛立ったように何度も強く突き上げられたのは、恐らくそれが理由だ。

 お陰でスコールはすっかり疲れ切っているのだが、恋人になって以来、ロマンチストな彼は以前と違って大事にしてくれるものだから、あんな激しさも久しぶりに味わった。
案外悪くなかった、とそんな事まで考えてしまって、しばらくこのままでも良いかもしれない、なんて思う。

 服を着込んだサイファーが、同じように床に放り出していたスコールの服を集めて、此方へと投げる。
膝下に落ちて来たそれを、スコールは邪魔にならない場所にまとめておいた。
躰の重みが解消するまでは、まだ着替える気にはならない。

 服を着たら部屋を出て行くかと思ったが、サイファーはその場に残っていた。
スコールの回復を待っているのか、彼もまた疲れているだろうから、まだ動く気にならないのか。
どちらにせよ、この狭い空間の二人きりの沈黙は、なんとなくスコールにとって心地が良かった。

 ベッドの向こうに申し訳程度の明り取りとして造られている小さな窓から、薄らと白んだ光が差し込んでいる。
どうやら直に朝が来るらしい。
随分と遅くまで交じり合っていたのだと、それ程サイファーが離してくれなかったのだと覚って、スコールはこっそりと唇に笑みを浮かべる。


(……記憶が戻ったら、あんたはどんな顔をするんだろう)


 覚えていなかったとは言え、自分自身に嫉妬して、子供みたいにムキになって。
記憶を取り戻し、恋人同士だと思い出したら、少し探りを入れてみようか。
そんな事まで考えて、自分は存外と意地の悪い人間らしいと、スコールは他人事のように思った。




オペラオムニアの、一連の記憶を持っているスコールと、記憶のないサイファーの温度差が色々妄想捗りまして。
[本編を終えたスコールは、色々な出来事を経験したので、以前よりも周りの人の感情の起伏や、不安に対する応じ方が(大分不器用ですが)和らいでいたり、少ないけれど言葉にはしようとしていたり。気持ちを前よりも素直に認めたり、口に出したり出来るようになってるんですよね。一応。
対してサイファーはどうもアルティミシアに関する記憶やらがごっそりないようだし、[本編より暴走っぷりと言うか幼さがある感じ。魔女イデアに「少年」と呼ばれてそれを否定しようとしていたあの頃みたいな。
まだサイファー含め[メンバーの記憶が戻っていない今なら、余裕のないサイファー×余裕のあるスコールが見れるのでは!?と言う欲望の具現化。
いつものスコールの面倒を見たがるサイファーと、それに甘えてるスコールとは違う雰囲気で面白かったです。