私がよく知るその顔で


 大所帯を収容できる飛空艇となれば、やはり相応に大きなものだが、その内部は、外観から見るよりもずっと広い。
それでも部屋の数と言うのは余裕たっぷりにある訳ではなく、幾つかのグループで分かれて利用すれば、すぐに埋まってしまうものだった。
余剰空間が決して多い訳ではないから、何処に行った所で、何処からか他人の気配が感じられることは否めない。

 そんな中で人目を避けて過ごすとなると、場所は限られるものだ。
食料品や薬品と言った消耗品のある倉庫や、それらとは別に雑多なものを押し込んだ物置、整備の必要以外では人が入ることのない飛空艇のエンジンルームの周辺────他には書庫もあるが、夜通し読書や研究に勤しむ者もいるので、此処は案外と利用者が多かった。
寝床は何処も複数人のグループで共有しているものだから、当然、論外である。
いっそのこと、適当に近くの島に降りてしまった方が、完全なプライベート時間を確保できるだろう。

 だが、何処に寄航する予定もない今、人目を憚って地上に降りる事は難しい。
結局、ラグナとスコールは、目隠しになる遮蔽物も多い、エンジンルームの隅を使う事にした。
今の所、飛空艇の航行には問題も起きていないし、万が一のことでもない限りは、誰かが駆け込んでくることもないだろう。

 飛空艇の機関部から響いてくる振動を壁伝いに感じながら、ラグナは膝に乗った少年がゆっくりとその衣服を取り除いていくのを眺めていた。
甲板で話をしていた時には、相変わらず初心な反応を見せていたのに、シャツをたくし上げるスコールの表情に、その片鱗は然程感じられない。
寧ろ待ち望んでいたかのように、大胆にも思える勢いで服を脱いでいくものだから、ラグナはくすりと笑った。


「そんなにしたかった?」
「……」


 ラグナの言葉に、スコールはじとりとした目を向ける。
肯定するにはプライドと羞恥心が、否定するには望んだ熱が久しくて、どちらとも言いたくないのだろう。
不機嫌さを滲ませる蒼灰色に、ラグナは細い腰に腕を回しながら、


「揶揄ってる訳じゃないから、怒んないでくれよ。ただ、お前には結構────こっち(ヽヽヽ) のことも随分、面倒見て貰っちまってたからさ」


 ラグナの言葉に、スコールの肩がぴくりと揺れた。
服を脱ぐ手が止まり、彼の手首にシャツの袖が絡みついたまま、彼の胸中を示すように布地が擦れて皺を作る。


「……あんた、覚えてるのか」


 スコールの問う声は、ラグナには微かに震えているように聞こえた。
ラグナは見詰める蒼灰色の視線を感じながら、水を打たれたように動かなくなった少年の体を抱き寄せて、腕の檻の中に閉じ込める。
その体が心なしか細く小さく感じるのは、自分の体が、彼と本来相対するべきものに比べると、随分と若戻りしてしまった所為だろうか。

 その体で、自分はずっとこの少年を抱いてきたのだ。
儘ならない熱の発散に、自ら望んで体を差し出してきた少年を、その優しさに甘えながら。


「言ったろ、全部覚えてるさ。あっちでお前とどうしてたのかも、此処でお前と何してたのかも」
「……」


 ラグナの言葉に、スコールが口を噤む。
噛んだ唇の中で、存外と言葉の多い少年が、何を考えているのかは、相変わらずラグナにその委細までは判らない。
だが、泣き出しそうな、怒られることを覚悟する子供のような顔をするものだから、ラグナは笑みを深めてその首筋に唇を寄せる。


「大胆だったなあ、お前」
「……」
「そりゃ上手いって言うか、判ってるよな。俺の良いとこ、お前にだけは教えたもん」


 言いながら白い首筋を吸えば、ぴくん、とスコールの体が小さく震えた。
ゆったりと舌を這わして愛撫の始まりを合図するラグナに、スコールはじっと抵抗する事もなく受け止めていたが、


「……わ、るか、った……」
「ん?」


 夜の光にぼんやりと照らされる天井を見詰めながら、スコールは小さな声で言った。
ともすれば駆動音に掻き消されてしまいそうな声だったが、若い鼓膜がしっかり拾ってくれたお陰で、ラグナはスコールが何かを言おうとしている事を読み取る。

 腰に添えていた手で、背筋を辿り上っていく。
スコールは反射的な身動ぎを意識的に抑えているようで、ラグナの肩を掴む手に微かに力が籠っていた。
ラグナの舌が当たる喉仏が、躊躇いを示すように震えながら、詰まり詰まりに彼の気持ちを紡いでいく。


「あんた……なんにも、知らないのに……無理やりさせて……」
「……そんな風に思ってたのか」
「……だってあんた、……何も覚えていなかった。いや、知らなかったんだ。“今のあんた”は、そう言う頃だろ」


 此方を見るのはどうにも苦しいようで、スコールはじっと天井ばかりを見詰めている。
口よりも遥かにお喋りで、何よりも彼の心を吐露する瞳が望めないことに、ラグナは一抹の寂しさを覚えていた。
それを誤魔化すように、目の前の獲物の肌に柔く歯を立てると、スコールは喉を差し出すように逸らしながら、ひくっ、ひくっ、と身を震わせる。


「その体はあんたがエスタに着くより前の頃のだろう。俺が逢ったあんたは、武器なんか持ってなかった。走ったらすぐに足が縺れて、息が切れてた」
「うーん、歳食ってんなあ、俺」
「あんたと逢った時は、神様の所為で記憶が持っていかれているとか、体を自分の望む頃に巻き戻せるとか。まだ判っていなかったし、何が元の世界に影響するかも判らなかった。とにかく、慎重にならないといけないと思ったんだ。その体の───その頃のあんたに何かあったら、その先の未来で生きてる俺たちの存在はどうなる?俺はあんたがいないと……そもそも生まれていないんだ」


 スコールの言葉に、そうだな、とラグナは頷いた。
二人の関係は、過去と未来が密接に繋がり、万が一にも何処かでそれを切断されたら、スコールの存在そのものが危うくなる。
スコールがラグナの動向、記憶が欠けた状態の仲間たちの言動に酷く神経を尖らせていたのは、そう言った逼迫し易い理由もあったのだ。


「……だからあんたと接する時は、余計なことをしちゃいけなかった」


 罪を告白する声で、スコールは言った。
ラグナの肩を掴む手が震えて、恐れていながらも、離れたくないと訴える。


「あんたは俺のことを知らないし。だから、あんたは俺の知ってるあんたじゃなくて。他人じゃないけど……同じ人間だけど。同じ距離になっちゃいけないと思った。それなのにあんたと来たら、俺のことを全然知らない癖にやたらと構ってくるし、時々、俺の知ってるあんたとよく似た顔をして」
「そうか?……そうだったんだろうな、お前にそう見えてたってことは」
「……そうだろ。でも下手な事を言って何が影響するか判らないから、俺のことは───未来のことは黙っておいた方が良いって思った。あんたは俺の知ってるあんたじゃない、そんなあんたにこんな真似したら、……あんたに悪いんじゃないかってことも、思ったんだ」


 スコールにとってラグナは“ラグナ”一人で、目の前にいる男も、確かにそうだった。
ただ時間軸が違っただけだ。
だが、それこそがスコールにとっては無視できる筈のないことで、ラグナとは一定の距離を保たなければならなかった。
何も知らない“過去のラグナ”を、自分が知る“未来のラグナ”と重ねてはいけない。
そうしないと、自分と唯一無二の関係を持つに至った“未来のラグナ”への裏切りになるのではないか。


「それなのに……俺は……」


 切っ掛けは偶然の事故と言えばそうだった。
熱の発散の為に、人目を隠れてやり過ごそうとしていたラグナを、そうとは知らずにスコールが追った。
その先で見てしまったラグナを見て、彼と言う存在を間近に感じながら、欲しがる気持ちを堪えていた心が、ブレーキを忘れた。
突き放されるかも知れないと思いながら、半ば強引に彼の熱を啜って、そのまま自分の中へと取り込んだ。

 後になってから、スコールは何度となく自分の行動の浅はかさを後悔した。
その癖、拒絶されなかった事に安堵して、その後も罪を重ねるように、ラグナの熱を引き取った。
体の中で彼の温度を感じる度、言いようのない安心感が得られるのは、寂しがり屋の少年にとって、簡単に手放せるものではなかったのだ。

 泣き出しそうな少年の気配に、ラグナは一層力を込めて、その身体を抱き寄せる。


「浮気してる気分、みたいな感じか」
「……」


 ラグナの言葉を、スコールは否定しなかった。
気まずさに視線を逃がすその仕草に、ラグナは眉尻を下げてくすりと笑う。


「いつもちょっと苦しそうな顔してたのは、そう言う事なんだな」
「……そんな顔してない」
「してたんだよ。気持ち良くなると蕩けた顔してたけど、それまでなんか泣き出しそうだなって思ってた。でも俺が溜まってくると、計ったみたいに俺の所に来るから、本当、よく見てたんだな、俺のこと」
「別に……」


 一見すると素っ気ないスコールの声だが、彼の顔は赤らんでいる。
薄らと自覚があったのか、ラグナの言葉で思い当たる節でもあったのかも知れない。


(そんな風に思ってでも、“俺”が欲しかった────のかな)


 自分の軽率さや、未来への後ろめたさを抱きながらも、目の前にいる“ラグナ”を求めずにはいられなかった。
そうだったとしたら、ラグナは目の前の少年の行動に、叱る気など浮かばない。
彼はただ、自分の色を染めた存在を求めただけだ。

 首筋に、鎖骨にと唇を押し当てて、痕をつけたくなるが、流石にこの環境でそれをする訳にはいかないだろう。
辛うじてセーブが働いたが、代わりにラグナは、綺麗な骨の形を浮き上がらせた鎖骨をゆったりと舌で愛撫する。


「ん……っ」
「いっぱい苦労かけたな」
「あ……、は……っ」


 艶めかしいものが皮膚の上を滑る感覚に、他人の体温に敏感なスコールの体がひくんひくんと反応を示す。

 この世界の理が書き換えられた後、ラグナとスコールはそれぞれ別の場所で目を覚まし、先の魔女との戦いでようやく合流する事が出来た。
長いとは言わずとも、決して短くはない時間を離れて過ごしていたから、こうして肌を重ね合わせるのは久しぶりのことだ。
増してや、ラグナの方からとなれば尚更で、スコールはそれを強く意識しているのだろう、彼の体はより顕著に反応を見せてくれた。

 ────そう、久しぶりなのだ。
ラグナの方から、この細くしなやかな肢体に触れるのは。
その事実が、きっとずっと、スコールの心に翳を落としている。


「なあ、ラグナ。俺……あんたに、無理やり……」


 熱を煽られる心地良さを感じながらも、どうしてもその罪の意識が拭えないのだろう、スコールの声は震えている。
ラグナはつんと膨らみを見せる彼の胸の蕾に唇を寄せ、長い舌を伸ばしてその先端に触れる。


「っ……!」


 ビクッ、とスコールの体が弾み、逃げを打とうとするのを、ラグナは腕の力でしっかりと捕まえる。
そのまま窄めた唇で吸い付くと、スコールは甘い声を零してくれた。


「あ……っ、ラ、グナ……っ」
「ん、ちゅ……ん、」
「ふ、んん……っ!」


 舌で膨らみを転がすと、スコールの官能は容易く開いていく。
ぞくぞくとしたものが胸の頂から、退化している筈の乳腺に広がって、上半身に伝染していくのが判った。
夜の帳に冷えを感じていた体に、瞬く間に熱が増していって、明りの極端に乏しい暗がりの中でも判るほど、白い肌が赤らんでいく。

 たっぷりと舐った乳首を開放すると、其処はすっかり固くなっていた。
ラグナが指先でそれを摘まんで転がしてやれば、スコールはビクッ、ビクッ、と体を震わせ、押し殺した声を喉奥から漏らす。


「んっ、ん……っ!うん……っ!」
「大丈夫だよ、スコール。無理やりされたなんて、俺は思ってないからさ」
「ふ……あ……っ!」


 唾液をまとわりつかせ、てらてらと光るその先端を、爪の先で小刻みに引っ掻いて苛めてやる。
感じ入るスコールがゆらゆらと蒼灰色を彷徨わせるのを見詰めながら、ラグナはその口端にキスをして言った。


「そりゃあ、びっくりはしたけど。お前って潔癖そうだから、こう言うのは好きでやるような性格じゃないだろ」
「ん……当たり、前……っあ、あ……っ!」
「そんなお前が“手伝う”なんてさ、言い出すなんて思わなくて。そりゃあお陰で俺は助かったけど、心配になったよ。誰彼構わずこういうことしてないか、自分を安売りしてないかって」
「ふ、んん……っ」


 官能の種を芽吹かせながら、ふるふる、と首を横に振るスコールは、ラグナの懸念を否定している。
それが事実である事は、今のラグナにはよく判った。
ただ、あの頃はラグナにとって、スコールは気になる存在ではあったものの、その理由も意味も霧の中に紛れているようで、全く意味不明な所が多かったのだ。
だから熱の発散を「手伝う」と言ってその体を差し出した少年が、熱に酔う傍らで何を思っていたかなんて、正確に測れる筈もなかった。


「あんた、以外なんて……ん、絶対、お断り、だ……あっ……!」


 反対側の胸に吸い付くラグナに、スコールの声が上擦った。
唾液を絡め、舌の上で転がすと、其処はみるみる内に固くなって、赤い実のように膨らむ。
そうなれば感度も増して行き、左右の乳首をそれぞれに指で摘まんで苛めてやれば、


「あ、や、あ……!ラ、ラグ、ナ……あぁ……っ!」


 与えられる快感が久しぶりのものだからか、スコールの身体は何処までも官能に従順だった。
ラグナの指先一つ、ささやかな愛撫だけで達しそうな程、その貌が蕩けている。

 敏感になった其処に甘く歯を立てると、ビクンッ、とスコールの背中が跳ねた。
溢れ出しそうな、喉の出口のすぐ其処まで来ている声を抑えようと、スコールの手が自分の口を塞ぐ。
そのままラグナが、左右の乳首をそれぞれ摘まみ、吸ってやると、スコールは天井を仰ぎながら、ビクッ、ビクンッ、と体を痙攣させた。


「………っ!」


 声にならない声で、スコールの喉が引き攣ったように戦慄いている。
熱に浮かされた目尻には粒の雫が浮き出て、堪えきれなかったそれが火照った頬を伝い落ちていった。

 そのままスコールは少しの間、強張った四肢をわなわなと震わせていたが、しばらくするとくたりとラグナの身体にしな垂れかかった。
細いとは言え傭兵として鍛えている訳で、引き締まった筋肉がついているから、抱きかかえるとそれなりに重さを感じる。
しかし、ラグナは記憶にあるその感覚よりも、幾らか感じる重みが軽いような気がして、苦労したから痩せたのかな、と思ったが、


(いや。俺の体の所為かな)


 寄りかかる少年の背中を抱き締めながら、ラグナはスコールの肩口から自分の腕を覗き見た。
まだしっかりとした筋肉と骨がある、現役に駆け回っていた頃の体は、意識の中にある記憶よりも、愛しい体を受け止めるのに丁度良いらしい。

 は、は、と短いリズムの呼吸が、ラグナの首筋と耳元を擽っている。
耳朶を掠める柔らかな髪の感触が、猫が甘えてきているようでラグナは愛おしかった。
その後頭部をゆっくりと撫でてやると、熱に濡れた瞳がぼんやりとラグナを見詰め、吸い込まれるように唇が重ねられる。


「ん……ん、ぅ……」


 零れる声の心地良さを感じながら、ラグナはスコールの薄く開いた唇の隙間から、舌を入れた。
すっかり唾液で濡れた舌は直ぐに絡み合って、耳の奥でいやらしい音を立て始める。

 スコールの背に添えていたラグナの手がするりと滑り、下肢へと降りていく。
気配を感じ取ったのだろう、スコールが一層身を寄せてくるのが判った。
スコールが服を脱いだのは上肢だけで、ズボンは身に着けたままだが、ベルトは緩められている。
タイトなズボンのウェストから少し強引に手を入れて、小さな尻を撫で、谷間の中心部にある窄まりに指を這わす。


「あ……っ!」


 ひくん、とスコールが背筋を逸らした。
下着の上から窄まりをすりすりとなぞってやると、スコールは恥ずかしそうに顔を赤らめ、いやいやと頭を振る。
しかし、そんな仕草はポーズと同じで、本心ではラグナを欲しがってヒクついているのだ。

 指先に力を込めて、ぐりぐりと其処を穿ってやった。
ラグナに刺激を与えられることを其処はよくよく覚えており、スコールの身体が期待からか判り易く震えている。
縋る腕がラグナの首に絡みつき、密着した肌の向こうから、逸る心臓の音が伝わった。


「ラグ、ナ……あ、や……っ!」


 其処にラグナの方から触れるのは、もうどれ位ぶりになるのだろう。
新たに世界が創られる前に、初めてスコールがラグナの熱を引き取ってから、折々に体を重ねて来た。
けれどラグナはどうにも戸惑いと、理由不明の罪悪感のようなものが拭い切れなかったから、流れは全てスコール任せであった。
受け入れる為の前準備も、スコールは自分で済ませていたから、ラグナの方からと言うのは、本当に久しぶりの事だったのだ。

 ラグナが、彼の方から触れていると言う事実だけで、スコールはまた体の熱が膨らんでいく。
下着の中で中心部が窮屈で堪らない。
目の前の男の情欲を注がれる悦びを教え込まれた体は、布一枚越しのもどかしい刺激が物足りなくて、ねだるように腰を揺らしていた。


「ラグ、ナ……ラグナ……、もっと……んん……っ!」
「うん。中、準備しなくちゃな」


 耳元で囁かれる通りの良い声に、スコールの身体の熱が呼び起されていく。

 ラグナの手が下着の中に入って行き、地肌の上を掌が丹念に形を確かめるように滑る。
早く触って、とスコールが身を捩るのを理解していながら、ラグナは焦らすように、いつまでも臀部を可愛がった。
意地の悪い愛撫をするラグナに焦れて、スコールが黒髪を引っ張ると、ようやく指先が中心部へとあてがわれ、───つぷ、と先端がその入り口を潜る。


「んぅっ……!」


 慣らす為に他人の指が入ってくるのも、当然、久しぶりの感触だった。
異物を咥えているのは同じことなのに、其処にあるのが自分の指ではなく、ラグナのそれだと言うだけで、スコールの秘部は嬉しそうに締め付けを増す。
そんな、きゅうう、と切なげに絡みついてくる媚壺の様子を指先で感じ取りながら、ラグナは入り口の淵を丁寧に広げるように指を動かし始めた。


「あ、あ……っ!ラグナ……あ……っ!」
「狭くなってるな。当分、一緒にいれなかったもんな」
「はぁ、あ……!ん、くぅ…ん……っ」


 何ヶ月も離れ離れだった訳ではないけれど、スコールの身体が熱の名残を忘れるには十分な時間が経っている。
その間、スコールがどう過ごしていたのかはラグナの知るべくもないが、以前のラグナと同じように、安易に熱の発散が出来る環境ではなかったのは間違いない。
増してや繋がる相手がいたとは思えないし、何より、スコールにラグナ以外の選択肢は最初からないのだ。
長らく慎ましく過ごしていた其処が、初心に戻ったような反応を示すのも無理はない。

 指先に微妙な力加減を調節しながら、ラグナはスコールの入り口を開いていく。
久しぶりにラグナの指を咥えた其処は、恥ずかしそうに締め付けているが、その先の事も期待しているのも事実。
丹念に教え込んだ体がそれを忘れられる訳もなく、スコールの秘部は次第に蜜を分泌させて、ラグナの指を奥へと誘い始めていた。


「中まで入れるな」
「ん……あ、ううん……っ!」


 苦しいことは避けてやりたくて、タイミングを示してから、中へと指を沈めていく。
入り口はきゅうきゅうと締め付けを止めないが、中へ入れば、其処は柔らかくうねってラグナに絡みついてきた。
いやらしい動きをしながら中へと促す肉壺に、ラグナは内壁を指の腹でゆっくりとなぞりながら侵入して行った。


「あ、あ……っは、あぁ……っ!」


 スコールは努めて息を詰めないように意識して、ラグナの指を迎え入れていく。
縋り密着した身体の全てから、蠱惑的な匂いが醸し出されて、ラグナの鼻腔を満たしていた。

 中に埋めた指の第一関節を曲げ伸ばしして、内壁を引っ掻きながら苛めれば、スコールはラグナの肩に頬を押し付けて喘ぐ。


「あっ、あっ、あっ……!ラ、ラグナ、そこ……っあ……!」
「気持ち良いだろ?」
「ん、んん……イ、イ……ぁっあ……!」


 ラグナの囁く問に、スコールは覚束ない声で答える。
自分の感じる場所、弱い場所を知り尽くした男の指先から与えられる快感に、スコールはすっかり意識を塗りつぶされていた。
自ら能動的にせざるを得なかった時とは比べ物にならない、体中の力が抜け落ちてしまいそうな官能が、未発達な青さを残す身体を駆け抜けていく。

 すっかり熱に溺れた少年が、縋り抱き着いてくるのが、ラグナには言葉に出来ない程に狂おしい。
自分の指先一つの力加減で、甘い声を上げ、助けを求めて身を寄せてくるスコールは、やっと甘えられる場所を見付けたと言わんばかりで、そんな所もラグナは愛しかった。

 秘部に埋めた指を動かす内に、其処はくちくちと言う音を鳴らすようになった。
中は分泌された腸液で濡れそぼっていて、ラグナはそれを指で拭うように探っては、全体に塗り広げてやる。
スコールの立てた膝ががくがくと震え、下着の中は汗と蜜で湿気が増していた。


「ラグ、ラグナ……っ!も、もう……あっ、あ、んふぅ……っ!」


 零れる声は甘さと共に、少しばかり苦しそうにしている。
それを誤魔化すようにゆらゆらと腰が揺れているのが、ラグナには大胆なおねだりをされているようにしか見えなかった。

 縋る少年の汗が滲んだ額に口付けて、ラグナは優しく囁く。


「欲しい?」
「は……あんた、あぁ……っ、判って、るだろ……ぅんっ」
「判ってるけど、聞きたいよ。久しぶりだからさ」
「あぁ……っ!」


 くちゅっ、と秘奥を突き上げられて、スコールは甘い悲鳴を上げる。
同時にラグナの指は柔らかく蕩けた内壁にきゅうっと締め付けられ、その後もヒクヒクと蠢く媚肉に揉みしだかれていた。

 はあ、はあ、とスコールの熱の吐息がラグナの耳元で繰り返されて、一度呼吸を整える為にか唇が噤まれる。


「ん……っ、ラグナ……」
「うん」
「……あ……っ、ほし、い……あんたの……ちゃんと、中に……入れて、くれ……っ」


 理性が強い性格をしているスコールが、正直に欲しがることは珍しい。
それだけ、この世界に来てから、“ラグナ”と言う存在に彼が餓えていたと言う事だろう。
求めるもののことしか考えられなくなった愛しい少年のその姿に、ラグナはぞくぞくと充足感を得ながら、濡れた唇を塞いだ。

 深く、何度も角度を変えながらキスをする度、埋めた指がきゅうっ、きゅうっ、と締め付けられる。
早く早く早く、と言葉の代わりにいやらしくねだる少年に、ラグナの劣情も一層煽られていく。

 名残の糸をわざと引きながら唇を離すと、寂しそうに濡れる蒼灰色がじっとラグナを真正面から見詰めてくれる。
もっとして欲しいと請うその様子に応えるのは吝かでなかったが、行為も次のステップへ進まねばならない。
ラグナは甘えたがるスコールの眦にキスをしながら、彼の下半身も裸へと剥いていった。

 ズボンも下着も脱がされて、生まれたままの格好になったスコールを下にして、床へ転がしてやる。
膝を左右に割り開いてやれば、予想した通り、起立した中心部があり、その先端からはとろりと先走りの蜜が溢れ出していた。
いや、既に一度────乳首への刺激を与えられていた時に達していたのだろう、下着は水分が吸い込み切れなくてぬるついた光が付着している。
そしてラグナの指を咥えていた秘孔は、入り口こそまた狭く小さなものになってはいるものの、その穴をふくふくと伸縮させて、次の刺激の期待を示していた。

 ラグナの手がスコールの前に触れ、真っすぐに頭を起こしているそれに指が這う。
つぅ、と竿筋を辿られただけで、スコールは太腿を強張らせながら、あえかな声を上げていた。


「あ、あ……や……っ」


 薄い腹筋がヒクッヒクッと震え、鈴口からまた蜜が溢れ出す。
ラグナはそれを掬いながら、スコールの雄を柔く握ってしゅこしゅこと扱き始めた。
其処への刺激もまた、スコールにとっては久しぶりのことだ。


「あっ、あっ、だめ、あ……っ!そこ、もう、すぐに……っ!」
「うん、イきそうだな」
「わ、わかって、るなら、ああ……!」


 自慰程度ならスコールもしてはいるが、ラグナに其処を触れられるのは、この世界に来てから初めてのことなのだ。
餓えた身体はその刺激に一層悦びを覚えてしまい、まだ幾らも刺激されていないのに、簡単に上り詰めようとする。
耐えようにも、久しぶり過ぎて堪え方すら忘れているようで、スコールは溢れ出す劣情を止める事が出来なかった。


「ラグナ、んぁっ、あっ、あぁっ……!イ、く……っ、イくの来る……っから……ああっ!」


 足の爪先を縮こまらせながら、スコールは直ぐ其処まで来ている切迫感を懸命に堪えている。


「溜まってたみたいだな、スコール」
「ふっ、ふぅ、うぅん……っ!あ、う……んぅっ、」
「俺もそうだったけど。こう言う世界だし、人もいっぱいいるもんな」
「あ、う……うぅ、くぅ……っ!んや、あっ、あ……!」
「イって良いぞ。俺しか見てない。見ててやるから」
「ふ、ふぅっ、んんぅぅ……!」


 ラグナの言葉に、スコールの身体は一層の羞恥心と高揚感を覚えていた。
世界から隠すように覆い被さられ、雄に刺激を与えてくれる男に見つめられながらイくなんて、恥ずかしくて堪らないのに、官能の波がずっと大きなものになって迫ってくる。
ラグナの手でイかされる────それがスコールにとって、至高の幸福なのだから、理性が幾ら叱咤した所で、止まれる訳がなかった。

 ラグナの指がスコールの雄のカリ首に押し付けられ、爪先でその凹みを引っ掻かれる。
瞬間、スコールは体中に電流が走る程の官能が駆け抜けて、頭が真っ白になるのを感じた。


「あっ、あっ、あぁ────……!!」


 スコールはビクッ、ビクンッ、と背中を大きく撓らせながら、ラグナの手の中に蜜を吐き出した。
びゅくんっ、と吹くように勢いのついた射精は、抑圧された環境に従事せざるを得なかった身体にとって、強い解放感を齎す。

 ラグナが手の中で脈打っている雄を続けて扱いてやると、スコールは「あぁっ、ああっ!」と甘い声を上げながら、続けて射精する。
ラグナに促されるままに、びゅくびゅくと若い精を吐き出していけば、降り注ぐ蜜をかぶったスコールの下肢がしっとりと濡れて行く。

 溜まっていたものを一頻り吐き出せた頃に、ラグナがようやく雄から手を離すも、其処は頭を緩く持ち上げたまま、萎えなかった。
やっぱり若いな、とラグナがその鈴口をつついてやれば、スコールは細腰を震わせて身を捩る。


「あ、ふ……んぁ、ん……っ」


 刺激に弱く正直な身体は、簡単に熱を取り戻して反応を示す。
加えて、スコールが本当に深い場所で果てを見れるのは、此処だけでは足りないのだと、ラグナはよく知っていた。

 ラグナは下肢を寛げると、スコールの精で濡れた手で、自身の象徴へと触れた。
愛しい少年のいやらしく濡れたその姿に、ラグナの雄はしっかりと反応を示している。
それは事の始まりから随分と早い内に訪れていたもので、こう言う所もやはり若い体なのだな、とラグナはこっそりと思っていた。

 雄を軽く扱いてしっかりと勃起させ、スコールのヒクついている後腔へと宛がう。
その感触をスコールも目に見ずとも感じ取ったらしく、小さな穴がふくりと土手を膨らませ、ラグナの先端へと穴口を吸いつかせていた。


「入れるぞ、スコール」
「は……ん……ん、う……」


 顔を近付けて、口付けが触れそうな程の距離で言ったラグナに、スコールは熱に濡れた瞳で見つめ返しながら頷いた。

 ラグナがゆっくりと腰を進め始めると、スコールの狭い入り口が押し広げられて、侵入者を受け入れていく。
ずぷ、ぬぷぷ……と中の感触や抵抗を確かめるように入って行く雄に、スコールの内側がその形を確かめるように絡みつき、きゅうぅぅ……と締め付ける。


「は、あ…ああ……っ!ラグナ、あぁ……っ」


 名前を呼びながら、縋る腕を伸ばすスコールに、ラグナは身を寄せてその体を抱き寄せる。
密着した肌から伝わる心臓の音が、どちらのものか判らない位にリズムを揃えて早くなっている気がした。
その感覚に急かされるように、どちらともなくキスをして、より深くまで繋がっていく。


「んむ、んっ……ん、んぁ……あ……っ!」
「ふ……ん、ちゅぅ……は、ん……!」
「ふ、ふぅ、んん……!」


 ラグナの指で解されているとは言え、かけた時間としては短い方だ。
元よりスコールの中は狭いもので、セックスも久しぶりな訳だから、本当ならもっとたっぷりと時間をかけた方が良いことは、ラグナも判っている。
だが、もうこれ以上は待てない位に、スコールはもどかしい刺激に物足りなくなっていたし、ラグナも湧き上がる情欲を抑えることが出来なくなっていた。

 ラグナがすっかりスコールの中へと入ると、其処は狭くて窮屈だったが、熱に蕩けた感触が心地良い。
スコールは久しぶりに迎え入れた存在感にか、うっとりとした瞳を宙に彷徨わせている。
それを、此方を見るようにと唇を舐めて促せば、物覚えの良い少年の瞳がゆるりとラグナを映し出す。


「ラグ…ナ……ぁ……」
「スコール……気持ち良いよ。ぎゅーって締め付けてくる」
「あ、ぁ……はぁ……っ!」


 ひく、ひく、と戦慄いては、艶めかしく絡みついて締め付ける肉壺に、ラグナの熱もまた膨らんでいく。
その感覚を胎内から感じるスコールもまた、濡れそぼった自分の芯を立ち上げていた。

 ラグナはスコールの両足を肩に乗せ、腰を密着させる。
ぬぷ、とより深く繋がる感触に、スコールは喉を逸らして喘いだ。


「んぁあ……っ!」
「動くぞ、スコール」


 喘ぐ声が消えない内に、ラグナはそう言って、律動を始めた。
奥まで侵入した雄を後ろへと抜いていけば、肉穴が離れることを嫌がって吸い付いてくる。
その誘いに応えて奥へと穿ち上げれば、スコールは甘い悲鳴を上げて官能に感じ入った。


「ああっ、あっ、んぁ……!はっ、あっ、あぁ……っ!」


 細身の体が、ラグナの思うがままに揺さぶられ、特徴的な傷が走る額に球粒の汗が浮く。
快感に溺れる肢体が捩られる度に、くねくねと卑猥なダンスを踊っているように見えた。
奥を突く度、其処はびくびくと戦慄いて悦び、ラグナへと絡みついて雄への奉仕を示して見せる。


「ラグ、ナ、ラグナ……っ!大き、い、ああっ……!奥に、来るぅ……っ!」
「はっ、はぁ、中が濡れて……んっ、ぐちゅぐちゅ言ってるぞ、スコール……っ!」
「あっ、あっ、はくっ、うぅんっ!あ、あんたが、は、激しく、する、から……あぁあっ!」


 ラグナの律動は徐々に激しさを増して行き、スコールの胎内では雄が固く張りつめていた。
ラグナ自身もその自覚があって、どうにも熱の奔流への抑えが効かない。
愛しい少年の躰が、その内側がどんなに心地良いかは知っている事だったが、その経験以上に自分が興奮しているのが判る。

 いつしか暗い空間には、スコールのあられもない喘ぎ声と、二人の肌をぶつけ合う音だけが反響していた。
機械の駆動音が止まった訳でもないのに、二人の耳にはそれしか入らない程、行為は激しくなって行く。


「あっ、あっ、ラグナっ、そこ……っ!」


 ぐりっ、と雄が秘奥を抉った瞬間、スコールは手指の先までビクビクと強張らせて背中を仰け反らせた。
薄い腹筋が小刻みに震え、淡色の雄からぴゅくっと一筋の蜜が吹く。

 ラグナはスコールの腰を両手で掴み、ずんっ、と腰を打ち付けた。
奥園を強く突き上げられた衝撃で、スコールが声にならない声で喘ぐ。
同じ場所を固くなった雄の先でぐりぐりと押し上げてやれば、スコールははくはくと酸素不足になったように口を開閉させ、


「そこ、やっ、あぁっ……!ま、また、来る、ひぅんんっ!」
「っは、ああ、そうだな……んっ、此処、久しぶりだろ?」
「あう、あ、くふぅんっ!ラグ、ナぁあ……っ!」


 太く逞しいもので己の弱点を的確に捉えられ、スコールはあえかな悲鳴を上げながら、それを与える男にしがみつく。
自分で受け入れ、動いて熱を追う時には、とてもではないが届かなかった場所だ。
其処で感じて果てるように躾けられているのに、どうしても儘ならなくて我慢し続けていた所に、久しぶりに与えられる快感は、餓えた少年をどろどろに溶かすのに十分なものだった。


「イく、イく、ラグナ……っ!も、すぐ来るっ、あぁっ!」
「良いぜ、スコール。俺も……っ!」


 堪え方などもう判らないと、泣き声混じりに限界を訴えるスコールに、ラグナは頷いた。
同時に自分自身も、気を抜けばすぐにでも果ててしまいそうに心地良い場所にいるのだと教えれば、スコールは涙を浮かべながらラグナを今日一番に締め付ける。
その肉の心地良い絡みつきを一度振りほどき、ずるりと抜けた雄肉で、切なさに震えている最奥をごつんっと突き上げれば、


「あっ、あ!あぁーーーーっ!」


 若竹のような肢体が、大きく後ろに仰け反りながら、絶頂を迎える。
もう三度目になるだろう、スコールの中心からは一際濃い精が吐き出され、二人の腹を汚していく。

 同時に雄を咥え込んだ肉壺が大きくうねるように戦慄いて、ラグナはぐっと唇を噛む。
しかし耐える事などとうの昔に限界になっていて、うう、と呻いたのも束の間に、ラグナは愛しい少年の胎内へと、自分自身の欲望を注ぎ込んだ。
どくんどくんと脈打ちながら注がれる熱の感触に、スコールは喉を震わせて悦びに啼く。


「ああ、あぁあ……っ!ラグ、ラグナ、ああん……っ!」
「……く、は……うぅ……っ!」
「んぁ、いっぱ、い……あぁ、入って、来る、うぅん……!」


 離れていた時間を、儘ならず過ごしていた時間を埋めるように、ラグナはスコールの中に自分自身の痕跡を刻んでいく。
スコールは待ち望んでいたものを、ようやく一番欲しい形で与えられて、ずっと欠けていた幸福感が取り戻されるのを感じていた。

 ラグナが射精している間、スコールは身動ぎも出来ない程の快感の海に溺れていた。
足の爪先が何度も縮まっては開いて、また縮まってと繰り返して、官能の波がいつまでも切れない。
雄を咥え込んだ秘孔が、その隙間からとぷりと白濁の泡を溢れさせていたが、


「っは……はぁ……スコール、温かいな……」
「あ、あ……っ!や、動、かな……んん……っ!」


 ずる、と中のものが擦れるのを感じて、ビクッとスコールの身体が跳ねる。
そのまま出ていくものかと思ったが、ラグナはまた腰を前へと進めた。
ずぷぷ、と再び侵入を試みる雄肉に、スコールはその張りつめた感触を悟って、蕩けた声を上げてしまう。


「やあ、ああ……っ!固い、あ、まだ、大きい……んぁ!」
「そうだな。うん、やっぱり体は昔の感覚みたいなんだ」
「あ、あっ、あっ!ラグナ、あっ、」
「我慢も、ちょっと効いてくれないみたいでさ」


 束の間の休息すらもなく、再び始まった律動に、スコールの身体が揺さぶられていく。


「はっ、あんっ、ラグナ、あぁっ!」
「若いってやっぱ凄いな。全然疲れなくて、もっともっと、お前の中を感じたいって思ったらさ」
「はっ、あっ、あぁっ、ああ……!」
「全然萎えなくて、まだお前が欲しくて。ごめんな、お前だって疲れてるのにさ……っ」
「あ、あう、んん……!はっ、はぁっ、あぁんっ!」


 奥を突き上げながら、耳元で囁かれる声に、スコールは鼓膜の奥まで性感帯として拓いていくのを感じていた。
吹き込まれる吐息に擽られる度に、耳が、首筋が、ぞくぞくとして肌が粟立つ。
それを慰めるようにラグナの手指が滑れば、彼を知らない場所などない身体が、真正直に喜んでしまう。

 スコールの中は丹念に耕される内に柔らかさを帯びつつ、摩擦刺激に感度を増して行く。
固く張り詰めた嵩で媚肉をこそぎ上げられながら、先に注ぎ込まれた熱と、分泌されたスコールの蜜液が混じりあって、ぐちゅっぐちゅっといやらしい音を立てている。


「んぁ、ラグ、ラグナっ、ああ……!中、もう、あんたで、いっぱい……あぁっ!」
「まだだよ、スコール……っ!まだ、もっと……!」
「はっ、はうっ、ひぅんっ!そこ、そこやだ、ああっ!感じ過ぎる、ああぁっ!」


 最奥の行き止まりを、ごつごつと強く突き上げられて、スコールは髪を振り乱して訴えた。
しかし、其処で感じることこそが、スコールにとって一番の官能で幸福なのだ。
それをよく知るラグナは、律動を止める所か一層激しく腰を振って、スコールが最も喜ぶ場所を容赦なく攻め立てる。


「あはっ、ああっ、んぁあっ!ラグ、そこイくっ、あっ、ああっ!」
「ああ、いっぱい……んっ、何回だってイかせてやるよ、スコール……っ!今ならそれが、出来るだろうからなっ……!」
「はっ、あっ、ラグナで、ラグナでイく……っ!あっ、あぁっ、ひ、くぅううんっ!」


 長い間、求め続けては届かなくて、物足りなさを押し殺していた躰だ。
餓えて餓えて、ようやく与えられるその喜びを、官能に溺れることだけを教え込まれた初心な少年が耐えられる訳もない。


「はくっ、あうっ、んぁああっ!ああああぁ……!!」


 押し寄せる熱の波に飲み込まれて、スコールは一際高い声を上げながら、何度目かになる果てを見た。
開かれた足の太腿がビクッビクッと大きく痙攣し、先の時よりは色の薄くなった精子が吐き出される。

 一瞬、意識が白熱に浚われたスコールだったが、すぐにそれは現実へと引き戻された。
覆いかぶさる男の重みと共に、奥園がぐぅっと強く持ち上げられ、媚肉が悦びに戦慄く。
きゅうう、と締め付けを増すその内側を、ラグナは尚も強く擦り上げ、自身も高ぶりへと上り詰めようとしていた。


「ああ、ああっ、ラグナ、んぁっ!お、俺の中、ああっ、固くなって、ひぁっ、ああっ、あぁんっ!」
「はっ、はっ、スコール、っく……!本当、お前の中って、気持ち良いのな……っ!」
「あう、んっ、ひぅんんっ!や、止まらなく、なる、ああっ!イ、イくのが、あっ、あっ!また、来て、えぇ……っ!」


 スコールの中がうねるように蠢いて、ラグナに絡みついて離れない。
もっと、もっとと貪欲に強請るいやらしい蜜壺に、ラグナの興奮も増すばかりで、スコールは胎内で彼がまた膨らむのを感じていた。




 スコールは繋がっている間、懸命に意識を繋いでラグナにしがみついていたが、流石に限界が来ると気を失った。
それは時間で言えばほんの十分程度のものだが、お互いの熱を冷ますには良い具合だ。
ラグナもスコールが気を失ったことで、ようやく自分の勢いを止める事が出来た。

 気を失っているスコールの身体を、その場で出来る限り身綺麗にしてやる。
飛空艇には風呂も備えられてはいるが、其処に連れて行くまでに誰かと擦れ違わないとも限らない。
うっかり誰かに目撃されるような事は、スコールが嫌がるだろう。
記憶を取り戻し、自分とスコールの関係も少なからず知られた今、こんな行為をしていることは勿論、その気配でも見付かることは避けた方が良い。

 ラグナは、壁向こうの機械の音を聞きながら、スコールに膝を貸してのんびりと過ごしていた。
こうやってスコールの寝顔を眺めるのも、随分と久しぶり───この世界で出会ってからは、初めてのことだ。
寝床は元々別に宛がわれていたし、セックスをする時、スコールがこうやって意識を失う事もなかった。


(自分から色々頑張ってたからっていうのはあるだろうけど、それより、ボロ出さないようにしてたんだろうなぁ)


 すぅ、すぅ、と寝息を立てる少年の目元にかかる前髪を、指でそろりと退けながら、ラグナはそんな事を思った。


(それだけ気を遣ってても、俺が欲しかったって事か)


 自分のことを知らない、記憶のないラグナを前に、スコールが少なくない葛藤を抱えていた事は、想像に易かった。
世界のあらましもよく判らなかったし、元の世界に戻った時に何が影響するか判らないとなれば、時間軸の違うタイミングで召喚された“過去の人間”に、慎重にならざるを得ないだろう。
賢い少年は、“ラグナ”と自分が下手に近しくなるのは危うい、と思ったに違いない。

 それだけの理由と葛藤があっても、スコールは“ラグナ”を求めずにはいられなかった。
理屈と理性で判っていても、元々寂しがり屋なのだから、一度知った温もりから離れられる訳がなかったのだ。
ラグナ自身、スコールのそんな気質を判っている上で、彼を手に入れた自覚がある。

 こんな異世界に来ても、スコールが自分を欲して止まなかった事に、ラグナは後ろ暗い喜びを覚えている。
スコールは、これが不義理になりはしないかと酷く心配していたようだが、それも含めてラグナは嬉しかった。
スコールにとってラグナと言う存在は、唯一無二であると同時に、変えようもなく欠けてはならないピースとなっているのだと判ったから。

 ────膝の上で零れていた寝息が途切れ、んぅ、と小さくむずがる声がした。
見れば少年の傷の走る眉間に皺が寄って、長い睫毛に飾られた瞼がぴくぴくと震えている。
しばらくすると、瞼はゆっくりと持ち上がって、ぼんやりとした蒼灰色が覗いた。


「……ん……」
「おはよ、スコール」
「………」


 声をかけると、スコールはゆっくりと此方を見て、寝起きの眼を一回、二回と瞬きさせる。
疲れと気怠さを映し出しつつ、何処か蕩けた熱の名残を滲ませる瞳に、ラグナは小さく笑いかけて、柔らかい髪をくしゃりと撫でた。


「……ラグナ……」
「うん。ちょっと頑張っちまったもんだから、無理させたかな。大丈夫か?」
「……腰が痛い……」
「ベッドじゃないもんなあ。起きれるか?」
「……面倒臭い」


 贅沢ではない環境であるが故に、避けられなかった負担を慮りながら尋ねれば、スコールはやはり動かなかった。
ラグナの膝に頭を預けたまま、またとろとろと瞼を下ろしながら、


「……ラグナ」


 呼ぶ声にラグナが「ん?」と返事をすると、スコールはきゅうと唇を噤んでいる。
何か言おうとしているその様子に、ラグナは柔い髪の感触を指先で遊びながら、次の言葉を待つ。


「……怒ってないか」
「…うん?何がだ?」


 スコールの問いの意味、と言うよりも理由が判らなくて、ラグナは首を傾げて問い返した。

 閉じていた瞼が薄く開いて、ブルーグレイがラグナを見上げる。
それを見返していると、スコールは気まずげに寝返りを打ち、明後日の方向を向いて背中を縮こまらせた。


「……あんたじゃない“あんた”とセックスしてた。一回だけじゃない、何回も」


 スコールの声は、叱られることを怖がりながら、それでも悪いことをしたのならと告白する子供のそれだ。
罪になるかも知れないと判っていながら、繰り返したことも、彼にとっては後ろめたさを誘うのだろう。
自分の方から切っ掛けを作った、その後も自分が求めて行為を重ねていた────恐らく、そうやって挙げていけば、きっとキリがないのだ。

 丸くなっているスコールは、見下ろすラグナの視線から逃げたまま動かない。
悪いことしか考えていないんだろうな、とラグナは苦笑しつつ、ピアスの光る形の良い耳に指先を滑らせた。


「大丈夫だよ、スコール。怒ってないって」
「……」
「お前が何度も言ってたのも覚えてる。俺以外はごめんだって。“俺”だけなんだろ?」


 記憶のない間、何度となく繰り返した、性欲処理としてのセックス。
それに自分を使えとばかりに体を差し出すスコールに、ラグナはそれを拒否しきれない自分に呆れながら、厚かましくも「自分を大事にしろよ」と言った。その度にスコールは、「あんた以外はない」と答えている。

 ────深い場所での本音を言えば、少しばかりの嫉妬がある。
元々スコールは性的なことには真っ新な所があって、それをラグナは自分の思うままに染めて行った。
しかし、やはり経験が少ないこと、ラグナの方から主導を取っていたこともあって、基本的にはラグナの意思に身を任せていた。
それが“過去のラグナ”に対しては、自ら積極的な奉仕をしてくれていたから、その時の様子を思い出すと、身勝手な欲望が羨ましさと一緒に湧き上がってくる。
いつになく懸命に体を動かし、ラグナの熱を身の内に取り込もうとするスコールの姿に、若さの欲に負けた自分がいたことも自覚があって、苦い感情は一入である。

 だが、今夜のスコールの姿を思い浮かべれば、それも一応の溜飲が下がった。
自分の手で感じ、上り詰めて、火照った身体をしどけなく揺らしながらねだる少年は、ずっとラグナから触れて貰える瞬間を待ち望んでいたのだ。
その姿を思えば、自分自身への嫉妬などいつまでも燻ぶらせているものでもない。


(今までも、これからも。お前にとって、“俺”しかいないのなら、それで十分だ)


 そういう風に、ラグナはスコールを染めた。
その通りに彼は“ラグナ”と言う存在だけを求めずにはいられなかった、それだけの事。

 それでも、スコールにとっては不安が拭え切れないのだろう。
真意を確かめるように、じっと見上げる蒼灰色の眦に、ラグナはそっとキスを落とした。





オペオム終了前に無事に三部9章を走って、記憶が戻ってからのラグスコが書きたかった。

記憶がない間もスコールはラグナのことを感じたくて、性欲処理の体をしながらセックスしていた訳ですが、それはそれとしてこれは浮気なんじゃないかとずっと考えてたって言う。
ラグナからすると、記憶のない自分に対してスコールが見せたあれやこれやは嫉妬めいた感覚もあるけど、スコールが自分を欲しがった結果と思えばまあ良いかと。
記憶が戻ってすっかり此処ぞといちゃいちゃするラグナになった。体力精力もある身体で、スコールを知り尽くしてるので、スコールがいっぱいあうあうすることになる。
このラグナにとって血が繋がってる云々のことは、とっくに開き直ってる事なんだと思います。