沼底の呼吸


 椅子に座ったままのシドの足元に、クライヴが跪くように蹲っている。
脚衣の前を緩め、中に納まっているものに手を重ねれば、当たり前の事だが、それは萎えていた。
それでもクライヴは分かり切っていたことと気にする様子もなく、取り出したそれを柔く握って、ゆっくりと手淫を始めた。

 触れる手の感触は、剣胼胝のあるごつごつとしたもので、女の嫋やかな掌に比べれば、まず触り心地の良いものではない。
細かな傷痕も多いし、そもそも乾燥し勝ちでカサつきもあるから、すこしざらついて感じる位だ。
それでも同性であるから、またクライヴ自身が慣れているからか、刺激を与える手付きは的確だった。
男ならば否応なく感じる場所に指を当て、擦り付けるように摩りながら、刺激にぴくぴくと反応する亀頭部に唇を寄せる。


「ん……ふ……」


 形の良い唇が、竿の横腹に押し付けられ、ちゅう、と吸う。
じわりとまとわりついて来る唾液が、雄肉をゆったりと這い回るように塗されて行く。

 男の躰は馬鹿なもので、刺激を与えられれば反応する。
その気になれば握り潰せることも出来るであろうクライヴの手は、柔く丁寧に一物を包み込んで、優しく扱いていた。
多少の緩急を付けながら扱いて行けば、肉欲は勝手に期待を膨らませて行く。
取り出した時には明らかに萎えていた物に、ドクドクと血が集まって行くのがシドにも分かった。

 クライヴは手で雄の向きを支えながら、裏筋をゆっくりと舌で舐め上げて行った。
厚みのある舌が、てらりと艶めかしい唾液をまとわせて股間を愛でるその様子は、酷く扇情的だ。
虚ろな瞳はすぐそこにある肉欲をじっと見つめ、物欲しそうな表情を浮かべている。


「んぁ……れ、ろぉ……っんぢゅ……っ」


 口の中で作った唾液を、舌先に移して、シドの雄を舐め啜るクライヴ。
竿にべっとりと絡み付いた液体が、とろりと皮膚の上を滑って行く感触があった。


「……っ」
「んぁ……ん、あむぅ……っ」


 クライヴは口を大きく開けて、シドの雄を頭から飲み込んだ。
招かれた咥内は熱い吐息と湿気が充満し、蠢く舌が亀頭の裏側をちろちろと擽る。

 クライヴはシドの股間にすっかり顔を埋めて、長い睫毛の瞼を閉じ、ちゅぷ、ちゅぷ、と音を立てながら亀頭部をしゃぶっている。
ぬとぬととした唾液で汚された竿には右手を添え、根本に溜まりつつあるものを圧し出そうと扱いていた。
抑えているものを意図的に送り出そうとする動きに、シドはぐっと歯を噛んで堪えるが、


(っく……こっちも、久しぶりだってのが……どうにも)


 外に出れば娼婦を買う機会も少なからずあるが、隠れ家にいる時はそんな刺激とはとんと縁がない。
特段、それを不便に思う事もなかったが、今日ばかりはそれを恨んだ。

 クライヴは喉奥を開いて、一層深くにシドを咥え込んでいく。
亀頭部が喉の狭い部分に包み込まれて、きゅ、きゅ、と締め付けられる感触があった。


「…は……っ」
「ん、ぅ……おふ、ぅう……っ」


 滲む汗を拭う余裕もなく、歯を噛むシドの様子を、クライヴの眼がちらと見遣る。
心なしかその目尻が、歪に笑ったように見えたのは、気の所為だろうか。
判然とはしない内に、クライヴは頭を上下に動かして、シドの肉棒を喉で扱くように奉仕する。


「お、おふっ、おっ……!んっ、んぉっ……!」


 断続的な締め付けを与えながら、喉の扱きで肉欲がまた育つ。
精を蓄えた陰嚢を、クライヴの手が柔く握って転がした。
全く手慣れた仕草に、シドは苛立ちのようなものが浮かんだが、縋る青年はそんな相手の表情はまるで意に介していない。


「んちゅ、んぅ、ちゅぅう……っ!」


 クライヴが音を立てて先端を啜ると、シドが堪えていたものが、じわりとその先端から滲み出す。
それを舌の腹がゆっくりと舐め取った後、クライヴはシドの雄を開放した。

 唾液塗れでてらてらと光る卑しい形の欲望と、クライヴの形の良い唇の間に、白濁交じりの糸が伸びる。
ぷつりと切れたそれを、クライヴの舌が舐め取った。
到底碌な味などするまいに、クライヴの表情は恍惚を帯びて、眦がとろりと緩んでいる。


「っは……ん……」


 クライヴは熱の吐息を零して、勃起したシドの雄に顔を寄せた。
無沙汰に貰った丁寧で的確だった愛撫のお陰で、それはもう十分に頭を持ち上げている。
クライヴはその先端に窄めた唇を寄せ、ちゅう、ちゅう、と啜って見せた。


「んちゅ、んちゅぅ……っ、んっ、んちゅ……っ!」
「……遊んでるなよ、お前」
「ん……っは、そんな、ん、つもりも、ないけど……こうするのが好きな奴が、多かったからな……」


 サービスみたいなものだ、等と嘯いてくれる青年は、もう何が本音なのかも見て取れない。
あんたが厭ならもうやらない、とクライヴは言ったが、亀頭の裏側に悪戯をする舌は相変わらずだった。

 クライヴは竿の横から、殊更丁寧に舌を這わせ始めた。
ぴちゃ、ぴちゃり、と唾液の音を立てながら、余す所なく与えられる愛撫に、シドは昂る血の所為で体が重くなるのを感じていた。

 クライヴは口を開けて、横合いから竿を甘噛みした。
固い感触が肉棒の皮膚に当たって、ぴくり、とシドの腰が微かに震える。
その反応に気を良くしたか、クライヴは噛んだ場所を慰めるように、指先をつうと滑らせた。

 クライヴの指がシドの先端に登って、汗を滲ませている鈴口を指先が突く。
くりくりと穴を穿るように刺激するものだから、シドはぐっと奥歯を噛んだ。
じいんとした感覚が神経を伝わって腰に広がり、久しぶりの熱の放出を求め始めている。


「っは、んぁ、れろ……はぷ、ぅん……っ」
「っは……クライヴ……お前……っ」
「んん……んは、っん……!」


 男を煽り慣れているクライヴに、シドは苦味と憤りを感じていた。
ついでに侮蔑も出来れば良かったかも知れない。
だが、シドはどうしても、この歪な心を辛うじて人の形に保とうとしている青年に、無体の手を上げる事は出来なかった。

 シドの股間に身を寄せたまま、もぞ、とクライヴは下肢を身動ぎさせた。
雄肉に奉仕していた片手が離れて、自身の後ろへと回される。
寝るつもりではあった故に、彼の腰元も緩やかな脚衣であったから、その隙間から手を入れることが出来た。
後ろに回された手は、臀部の形を辿りながら降りて行き、中央の谷間に辿り着く。


「ふ……うぅ、ん……」


 クライヴは中心の筋を辿って、自分自身の秘孔に辿り着くと、いつからかヒクヒクと戦慄いていた其処に、つぷりと指を突き入れた。


「んふぅっ……!」


 シドの雄を咥えた口の奥から、甘露を含んだ音が漏れる。


「ん、ん……んっ、ふぅ……っうん……っ」


 くぐもった吐息が零れる度に、くち、くち、と言う微かな音が聞こえていた。
椅子に座ったシドからは、跪く男が後ろ手で自身の秘孔を弄っている様子が伺える。
クライヴが、此処から先の行為の為に、自らを解しているのは明らかだった。


(本気で入れるつもりか)


 既にそう言う流れになることは分かっていたが、シドは何処かでぼんやりと、この行為が中途で終わることを願っていた。
自身が望んでこうなった訳ではないのは勿論のこと、縋って来た男にもまた、真っ当な意識を取り戻してほしいのかも知れない。
こんな後ろめたい行為など望まなくても、タルヤに睡眠薬でも煎じて貰えば十分だと。
だが、きっとそれでは、この男はまた悪夢を見るのだろう。
想像するのが簡単すぎて、シドは淫靡に躰を捩る男の行為を、咎めることが出来なかった。

 秘孔を広げ掻き撫ぜる音が、徐々に大胆なものになって行く。
まるで女が濡れたような音がする、とシドは思った。


「んふ、はふ……ふ、うぅん……っ」


 クライヴはしばし自らの秘孔を弄ることに専念していたが、それも山場を越えたのだろうか。
彼は陰部に埋める指はそのままに、シドへの口淫も再開させる。
大きく開けた上の口で、シドの一物を根本まで招き入れると、じゅるぅ、と露骨な音を立てて啜り出した。


「っ……!」
「んっんん……っ!んぢゅ、るぅ……っんぷぅ……っ、んっ、んふぅう……っ!」


 これまでの手淫と口淫のお陰で、シドの熱も高い地点まで上って来ている。
べろりと繰り返し亀頭の裏側を往復する舌の感触で、何度も勝手に息が詰まった。
根本ではどくんどくんと血が送られる脈が起き、クライヴの咥内で、シドの一物は苦しい程に大きく成長している。

 久しぶりの感触で味わうには、この口淫は余りにも刺激が強い。
息を詰めて眉根を寄せているシドを、昏い青の瞳がちらりと見遣った。
ちゅるぅ……と後味を啜る刺激を与えながら、ようやく唇が離れると、ぐっしょりと濡れそぼった雄肉と、クライヴの陰唇のような口元を銀糸が細く繋いでいた。

 クライヴはシドの太腿に頬を寄せて、腰を心持ち後ろへと突き出した格好を取る。
脚衣がずり落ちて、クライヴの大きな臀部が露わになり、蝋燭の火がちりちりと揺らすと灯りでそれを照らしていた。


「っは、はぁ……っあ…ぁあ……っ」


 くちっ、くちっ、くちっ、と音を立てる、クライヴの菊座。
指を咥え込んだ其処は、もっと太いものを求めて戦慄き、自身の指を強く締め付けている。
艶めかしい感触が指にまとわりつくのを感じながら、クライヴはゆらゆらと淫靡に腰を揺らしていた。


「あふ、ふ……っは……ふぅ、ん……っ」
「………」
「はあ、は……シド……あんたの、んん……もう、良さそうだな……?」


 シドの肉棒は、もう完全に天を突いている。
十分に昂らせたそれを、クライヴは愛おしいもののように見つめていた。
これが自分に一時の安らぎを齎してくれると、そう信じている貌だった。

 クライヴは秘孔から指を抜くと、ゆっくりと立ち上がった。
着ていた服を徐に脱いで、全裸なると、均整の取れた筋肉に覆われた、戦士らしい体躯が露わになる。
それは正しく雄々しいものと言う印象を与える筈なのに、醸し出されるのは、淫靡で甘い毒のような香りだった。
当てられてはいけない、と本能的な警告がシドの頭の中で鳴ったが、さりとてもう戻る道がないのも、明らかだった。

 クライヴがゆっくりとシドの椅子に膝を乗せる。
二人分の体重を受け止めた椅子が、ギィ、と嫌な軋みで抗議を訴えるが、聞く者はない。
気に入っている椅子ではあるから、壊れなきゃ良いがと、シドは頭の隅で考えていた。

 クライヴはシドと向き合い、シドの下肢を跨ぐ格好で椅子に乗った。
勃起した雄に、クライヴの肉の乗った尻が擦り宛てられる。
女と違って筋肉があり、感触は滑らさかなどなかったが、程好い脂肪もあって弾力はあった。
クライヴは尻の谷間をすりすりと擦り付けて、肉棒に塗された唾液を、自身の皮膚に移し塗っている。


「は……はぁ……ん……、あ……」


 ただそれだけで、クライヴは甘やかな声を零していた。
それはシドの耳元で何度となく繰り返されて、鼓膜から毒が注ぎ込まれていくかのよう。
たちが悪い、と奥歯を噛むシドに構わず、クライヴは起立した中心部を己の秘孔部へと宛がった。

 椅子の背凭れに捕まりながら、クライヴがゆっくりと腰を落としていく。


「あ……う……んんぅ……っ!」
「く、う……きつ……っ!」


 指で多少解されてはいても、彼の腸内は狭いものだった。
きゅううぅ……と強く締め付けながら包み込まれる感触に、シドは堪らず片眉を顰める。


「は……ひさ、しぶり、だ……この……んっ、感触、は……」


 途切れながら零したクライヴのその言葉は、独り言だったのだろう。
宙を見つめる瞳は恍惚とし、ああやっと、と言う声が零れていた。
それが眠りを求める手段を得た安心感なのか、もっと別の───この感触に虜になった末路であるのかは、シドには分からなかった。

 逞しい太腿に力を入れて、クライヴはじっくりと、殊更にゆっくりと、シドの一物を飲み込んでいく。
入口は随分ときつく締め付けて来たのに、半分を飲み込んだ辺りから、中の感触が変わった。
ねっとりと蠢く媚肉がシドへと隙間なく縋り付き、とくんとくんと脈打ちながら絡まってくる。


「あ、は……ふ、うん……っ、ああ……っ!」


 クライヴは艶を孕んだ吐息を漏らしながら、侵入物の感触に夢中になっている。
身動ぎに腰を捩る度に、雄の位置が角度を変えて、カリ首が横壁を擦った。
ぞくん、とした感覚が腰全体に響いて、頭の中が一瞬真っ白に焼けるのが分かる。


「ふ、うぅ……ん……、ああ……中まで、…来る…ぅ……」


 ぬぷ、ぬぷぷ……と深まっていく侵入に、クライヴが呟いた。
それから程無く、シドの雄は、クライヴの媚肉にすっかり囚われてしまう。

 はあ、はあ、とシドの耳元で繰り返される、青年の甘い呼吸。
耳朶を何度も擽り、湿らせるそれに、シドは自分の頭の中も可笑しくなって行くような気がした。
目の前で淫靡に身をくねらせ、汗と性の匂いを振り撒く青年の姿に、頭の隅で警鐘が鳴っている。
これ以上、この躰のことを知るのは危険だと。

 一心地の後、クライヴは直ぐに腰を振り始めた。
軋む椅子の上で、膝と腰を使って体を上下に動かせば、咥え込んだものが直腸を出入りして、奥壁をゴツゴツと突いてくれる。
クライヴは片手で口元を隠しながらも、堪え切れない官能の声を零していた。


「ん、ふっ、ふぅっ……!う、うぅん…っ……!」
「っは……熱……く……っ」
「は、ふ、うぅ……あ、っあ……っん……!」


 雄を咥え込んだクライヴの奥園から、じわりと粘ついたものが溢れ出してきて、律動の摩擦を援けてくれる。
それに押されて、クライヴの腰遣いは大胆さを増して行き、深く腰を落とす度に、奥壁を先端がごつりと突き上げた。


「っふぅ……!っあ、は……くふぅ……っ!」


 ずぷっ、ずぷっ、ずぷっ、と絶えず出入りを繰り返す雄肉に、直腸を入り口から奥まで何度も一気に擦られる。
擦り上げられる度、媚肉がビクビクと小刻みに震えて、官能への反応をより鋭敏にする為、快感神経が目覚めていくのが分かった。

 クライヴの中が幾重にも戦慄いて、彼の雄が腹に届きそうな程に大きく反り返っている。
先端からはとろとろと蜜が溢れ出し、秘孔への刺激で上り詰めようとしていた。


「は、はぁ…あっ、うあ……来る……っ、んっ、シド……っ!」
「……っ!」


 耳元で、縋るように名前を呼ばれたのは、シドにとって不意打ちだった。
しがみ付いて来る腕を振り払うことも出来ないまま、腰を落としたクライヴの奥を、強く突き上げる事になる。


「うぅんんっ!」


 クライヴはビクッビクッと背中を大きく仰け反らせて、絶頂した。
びゅくぅっ、と吐き出した精の証が、クライヴの逞しく鍛えられた腹筋に降り注ぐ。
どろりとしたそれが腹筋の筋を伝い落ちて行く間も、クライヴはまだ官能を貪っていた。


「はあ、っあ、ぅあ……んっ、感じる……っあ、あぁ……っ!」


 熱の昂ぶりの一番天辺にある状態で、その躰に刺激を与えれば、より強烈な官能を得る事が出来る。
クライヴは夢中になってそれを得ようとしていた。

 腰で円を描くように踊るクライヴ。
ぐりゅんっ、と中で雄肉が腸内を掻き回すのが感じられて、あああ、とだらしのない喘ぎ声が漏れる。
太腿と、意識して腹にも力を入れると、濡れそぼった軟肉がシドの全身に絡み付き、奥への刺激をねだるようにきゅうきゅうと締め付けた。


「っお前は……いつも、こんな風に……」
「あ、あ……っは……はぁ……もう、少し……んっ、奥、届いて……っあぁ……!」


 シドの苦い声など聞こえる筈もなく、クライヴは脇目も振らずに快感を貪っている。
丈夫な胸筋に覆われた上半身は、火照り汗ばんで、むわりとした熱と匂いを醸し出している。
過去、この体を幾人もの男が貪ったと言う事実が、誇張でもなんでもない事が如実に現れていた。

 その中心で、その身を代償に生き延びた男は、目尻に薄い水膜を浮かべながら、咥え込んだ雄を高みへと導こうとしていた。
ゆらゆらと腰を揺らしながら、きゅうっと断続的に締め付けを与え、かと思えばそれを緩めて艶めかしい肉で雄を嘗め回す。


「…くそ、具合ばっかり……良くしやがる……っ」


 久方ぶりの肉の感触と言うだけでも、シドにとっては十分なものだと言うのに、クライヴの蜜壺は余りにも心地が良い。
娼館にいる男娼を買ったとして、こんなにも甘い肉を味わうことなど出来るだろうか。
同性の体がこんなにも肉欲を煽り、育て、雄の本能を刺激するものとは知らなかった。


「は、あぁ……大きく、なって、行く……んっ、俺の、中で……っああぁ……!」


 どく、どく、と胎内で脈打ちながら体積を増していく存在感に、クライヴの瞳が恍惚に染まる。
ああやっと、と餓え続けていた体が、待ち望んでいたものをようやく得られると悟って、秘奥からはじゅわりと淫靡な蜜が溢れ出した。

 クライヴは最後の仕上げと言わんばかりに、律動を速めた。
尻肉を深く落としてやれば、硬く反り返った雄に、最奥の壁をずんっと突き上げられて、電流のような快感が全身を襲う。
ぞくぞくと背中を駆け抜ける衝動は、何度となく経験していても、耐えられるものではなく。


「っあ、っあ……!あ、うぅううっ!」


 シドの頭を抱えるように抱き着いて、クライヴは二度目の絶頂を迎えた。
ビクビクと戦慄く媚肉の中で、雄が目一杯に締め付けられ、シドも強く歯を噛み締めながら、


「っく、う……っ!」


 噛んだ喉の奥で呻きに似た音を漏らしながら、シドはクライヴの中へと上り詰めた熱を注ぎ込んだ。
クライヴはそれを蕩け切った肉壺の奥で受け止めながら、「ああ、ああぁ……!」と余韻の中で更に熱の上昇を感じて悶え喘ぐ。

 長く尾を引く感覚を過ごしてから、ようやくシドの頭は冷えて来た。
膝の上に乗った青年は、縋るようにシドの首に腕を回して、密着している。
入ったままの肉欲が、未だヒクつく穴の中で、きゅ、きゅう、とマッサージされて断続的な締め付けを味わっていた。


「は……あぁ……あ……」


 耳元を擽る吐息は、極度の疲労感と、何処か安堵の色が滲んでいる。
それは結構な事なのだが、寄り掛かる男の躰はくったりと力が失われていて、体重が預けられている側は重くて仕方がない。
シド自身も、いやにどっとした疲労感を感じていた。

 元より短くなっていた部屋の蝋燭の火は、いつの間にか消えている。
まだ燈火の残るものがあるから、部屋の中は暗闇にこそならないが、明らかに人が過ごすには光量が足りない。
そんな部屋の中は、いつもよりも温度湿度が上がって、妖しい匂いが充満しているような気がした。

 シドの腕に絡んでいた首が、ようやく解かれる。
クライヴがふらりとしながら体を起こし、腰を浮かせて、咥えていたものを抜いて行く。
どろりとしたものが奥から溢れ出し、シドの雄の表面にそれがまとわりつくように流れ落ちて行った。


「あ……っふ、あ……ん……っ」


 すっかり柔らかくこなれた媚肉を、亀頭部にゆっくりと舐めるように擦られて、クライヴはぞくぞくと震える腰から力が抜けるのを感じていた。
それでもなんとか、ようやく、雄を引き抜く。
雄の形を覚えて開いた口から、こぷり、と溢れ出す感触がして、またぶるりと体が震えた。

 どうにか椅子から降りたクライヴだったが、その足元は真面な力が入っていなかった。
かくん、と頽れそうになった体を、シドの手がその腕を捕まえて、膝を折るに留まる。


「……っは…、……あ……」


 地べたに這いそうになった所を助けられたと理解して、クライヴは顔を上げる。
シドは掴んだ腕をそのままに、片足をついた格好で見上げて来るクライヴへ、


「……これで、少しは眠れるか?」
「……ああ……、……そうだな……」


 肉体の疲労を自覚して、クライヴは安堵したように答えた。

 シドが掴んでいた腕を話すと、クライヴは傍らのデスクに捕まりながら立ち上がる。
覚束ないながらもなんとか両の足で立った彼は、地面に投げていた服を拾い、袖を通した。


「……助かった。今日はもう、眠れると、思う……」
「もう歩き回るなよ」
「……ああ」


 自覚のない事だから、制御できるものではないし、クライヴの返事は“努力する”と言っているようなものだろう。
ともあれ、緩慢な仕草で格好を整える彼を見るに、肉体が動く事を億劫にしているのは確か。
目元もうとうととし始めている所を見れば、瞼が完全に閉じるのも、時間の問題だろう。

 シドはそんなクライヴの後姿をじっと見つめ、その背中から未だ匂い立つものをがあるのを感じていた。
それはまるで誘蛾灯のようで、他人がいる空間に可惜にこれを放り込んで良いとは思えない。
はあ、とシドは溜息を吐き、


「クライヴ。お前、今日からしばらく、此処で寝ろ」
「……?」


 シドの言葉に、クライヴが何故、と言う表情で振り返る。
何にも自覚がないらしい、とその厄介さを唯一知ってしまった人間として、シドはこの男を一人で返す訳にはいかないと判じた。


「そんなフラフラじゃ、部屋に着く前に寝落ちそうだからな。どうせ動くのも面倒なんだろう。だから、其処で寝て良い。明日から当分も、お前の寝床は其処だ」


 ソファを指差すシドに、クライヴの視線がそれを追う。
寝心地は然程良いとは言えないだろうが、シドも時折、其処で仮眠を取る事はある。
今のクライヴの疲労具合から考えても、全く眠れないことはない筈だ。

 シドは奥のベッドからシーツを手繰り、クライヴへと投げた。
クライヴは反射的にそれを受け取り、当惑した表情で立ち尽くす。


「……そんな事したら、俺は……」
「また眠れなくて、男漁りをするかも知れないって?」


 シドの言葉に、クライヴは俯いた。


「……そうしたら、また、あんたに────……」


 自分の体が、どうしようもない有様であることを、クライヴは自覚している。
ベアラー兵と言う環境から脱出し、この穏やかな場所で過ごす事を許されている今でも、そのあさましい経験はその身にこびりついて離れない。

 今日のことは、これきりにするべきだ。
クライヴのその考えは、これからの秩序的な日々を守る為には、正しい考えだろう。
だが、とシドは思う。


「お前、明日は真面に眠れると思うか」
「……」
「その後はどうだ?タルヤの許可が下りれば、お前とジルは、フェニックスゲートに行くつもりだろう。一日で行ける距離じゃないし、道中には魔物も蛮族もいる。野宿で少しも真面に眠れないなら、何処かで死ぬぞ。それがお前一人の責任で済むなら良いが、ジルを巻き込みたい訳じゃないだろう」


 クライヴがジルを大切に想っているのは、ほんの数日間でも、見ていれば分かる事だ。
そんな彼女に励まされ、共に始まりの場所へと行く最中、若しも彼女の命が閉ざされることがあれば、どうなるか。
それこそクライヴの望む事ではないだろう。


「男を抱く趣味は、確かにないが。このままお前を部屋に帰して、俺の見えない所でまた歩き回られる方が良くないな」
「……」
「相手が欲しいのなら、俺に言え。もう一度やった後だからな。此処にいる間は、俺が面倒を見てやる。うちであちこち漁られるよりは、よっぽど良い」


 今更だ、と言ったシドに、クライヴの視線が逸らされる。
気まずさに耐え切れなくなったその顔は、反面、何処か安堵もしているようだった。

 クライヴは押し付けられたシーツを手に、ソファへと横になった。
隠れるようにシーツで体を包み込み、丸くなる姿が酷く子供染みていて、ついさっきまで見ていた扇情さは何処にもない。

 程なく聞こえて来た寝息に、シドはようやく肩の荷が下りた気持ちで息を吐く。
しかし、実際の所、抱えた荷物は大して重さは変わっておらず、膝下で寝ているようなものだ。
直にその重みを感じ、間近で聞いた喘ぎ名を呼ぶ声を思い出して、シドはじわりと滲む熱に顔を顰めたのだった。




初出 2023/07/16(Pixiv)

一本目のシドクラがする所までしていなかったので、最後までする事を目標にして書いてました。
二人が関係を持つのなら、自分の中ではこう言う流れだな、というイメージです。

クライヴって元々が大公家の嫡子、つまりは王族皇族に等しい立場だったにも関わらず、奴隷身分に堕ちた訳で。
どうもティアマット隊は皆それぞれ普通に口を利く意識があるので、似たような感じで後天的にベアラーとなったり、家系はそれなりの立場や権力を有していながら、そこから追い出された、若しくはティアマットのように落とし子とされたか……となればあの隊はそれなりに規律がありそうですが、其処に配属されるまでのことは、やっぱりイロイロあったのではないかと思いまして。
妬みや嘲笑だったり、28歳の荒んだあの精神状態でも綺麗な顔立ちしてるので、軍属式の男だらけの環境となればねえ??って言う幻覚を見ている。
その所為で歪んでしまったあれやこれやを、どうにも拾ってしまった責任やら、まだ生きてみろと諭したのは自分だからと、放っておく訳にいかないシドというのがいいなあと思っています。