その手を掴むは罪と呼ぶか


 よく似ている、と生まれた時からよく言われていた。
髪の色、瞳の色は確かに自分のそれを受け継ぎ、読書を好むことも、確かに自分と似たのだなと思った事もある。

 それでなくとも、初めて生まれた、自分の血を分けた子供だ。
それだけでエルウィンにとっては可愛くない訳もなく、日に日に表情が増えていくその様子を見ているだけでも、随分と癒された。
早逝した先代のドミナントに代わり、若くして大公の座を受け継いで、悩みの多い仕事を毎日熟すのは、ロズフィールド大公家に生まれた自身の使命であると受け止めてはいたが、只人たる一個人としては、中々に重い荷物であった。
それでも、子供が生まれた時、その子が大きくなる頃には、もっと世が───この国が、より良いものになっているように尽力せねばと思ったものだ。

 ロザリア公国は古来より、その血によって脈々と受け継がれ守られてきた、火の召喚獣フェニックスのドミナントが大公となる。
しかし、ドミナントは先代が死んだとしても、次代がすぐに生まれて来る訳ではない。
歴史上、ドミナントではない者が大公の座を受け継ぐことは決して珍しくはなく、エルウィンもそれに該当した。
次のドミナントの誕生を待ち侘び、いずれその座を無事に明け渡す為に、エルウィンは大公の玉座を守る事が使命だったのだ。

 初めての子が生まれた時、国は人は、新たなドミナントの誕生を期待した。
先代が逝去してから短くはない時間が流れていたし、ロズフィールド大公家の血筋に生まれた者ならば当然のことだろう。
エルウィンもその期待の気持ちが一切なかったと言えば嘘になる。
只人であるエルウィンにとって、ロザリア公国の大公の座と言うのは、あまりに荷が勝ちすぎるものがあったのだ。
それは古くからの習わしをことに大切にする、信仰の心が呼ぶ不安でもあったし、長らく小競り合いをしている鉄王国との対抗に際し、国の守り神たるフェニックスの存在を待ち侘びていた事もある。
子が生まれたならば、若しかしたら。
そんな期待は、エルウィンのみならず、誰もが持っていたことだろう。

 だが、最初に生まれた子供は、人として生まれた。
この風の大陸で生まれることにおいて、ベアラーとして生まれなかっただけでも、良しとするべきなのだろうか。
仮にベアラーが生まれたとしても、エルウィンはそれを理由に子を排するなど考えてはいなかったが、ことを聞いた国民や、特に妻アナベラは黙ってはいなかっただろう。
それを思えば、後にドミナントとして覚醒すると言う期待も含め、初めての子を失わずに済んだのは、エルウィンにとって幸運と言えたかも知れない。

 子供はすくすくと成長したが、ドミナントとしての覚醒の兆しは中々見えなかった。
そもそも、先代がどうやってドミナントに目覚めたのかは、エルウィンもよく知らない。
書を手繰れば、生まれ持ってその力を有する事もあれば、ある日突然、何かを理由に目覚めることもあると言う。
その方法を見付ければ、とアナベラが頻りに言っていたが、結局の所、具体的なやり方は何も見付からなかった。
───エルウィンはそれでも構わなかったのだ。
そもそもドミナントの誕生は予見できるものではなく、歴史上、只人の大公が数代続いた記録も残っている。
黒の一帯が広まりつつあるこの現代に、確かに希望の象徴は求められて已まないが、急いた所で生まれてくれるものでもない。
エルウィンは、頭の隅に期待を押しやるようにして、息子が健やかに成長してくれることを願っていた。

 一人目の誕生から五年後、妻は二人目を産んだ。
兄とは違い、体の弱い次男であったが、気は優しくて穏やかだ。
その弟の誕生で、少しやんちゃの盛りがあった長男は、兄としての自覚を持ってしっかり者になって来た。
それまで兵士達の真似事のように木剣を振り回していたのが、明確な指導を欲しがるようになり、当時、将軍任命への推薦を持っていたマードックにも、それを強請るようになった。
兄は、可愛がって已まない弟を護る為、一所懸命に剣の稽古に励んでいた。

 そして、次男がドミナントの力に目覚めた時、エルウィンがいつか玉座を明け渡す先が決まった。

 生まれてからずっと、期待と言う重圧を背負っていた息子は、その日から唐突に、期待の輪から外された。
その時の幼い彼の胸中を、エルウィンは父親ながら知ることが出来ない。
自分自身は、余りに早くやって来た先代の早逝に、突如として下りて来た“大公”という重みを背負った。
それでも、心の何処かでそれはいつとなく意識し、覚悟していた事ではあった。
飲み込み、受け止めるだけの時間も少なからずもあったし、その為に学びに費やしても来た。
だが、息子は何も知らない内から、期待だけは一方的に浴びて来たのだ。
よく気の付く子供は、自分に向けられる無数の期待の眼を知っており、早くそれに応えたいと願っていた。
それなのに────それなのに、彼は一生、その期待に応えることは出来なかったのだ。
そして、弟が己の力に目覚めた瞬間、嫡子である筈だった彼は、「大公家の無駄飯食らい」等と言う陰口を囁かれるようになった。

 ドミナントの誕生の祝福に、国民が湧き上がる中、その模様を父の隣でじっと見ていた息子は、「良かった」とだけ言った。
皆が喜ぶことが出来て良かった────と。
嬉しそうに笑いながら、何処か置いてけぼりにされたように寂しそうに歪む眦に、エルウィンは自分と同じ色を宿した頭を撫でるしか出来なかった。

 ああ、この子が何をしたと言うのだろう。
ただ人に生まれたと言うだけなのに。
ただ、人々の期待に応えたいと願っていただけなのに。

 それからエルウィンは、密やかに囁かれる息子の謗りを払う為、彼にフェニックスのナイトを目指すように言った。
フェニックスには、リヴァジェネレーションと言う、その力を他者に分け与える能力がある。
歴代全てのドミナントが、と言う訳ではないようだったが、ドミナントが大公を継ぐと言う習わしもあってか、フェニックスのナイトはその傍らで大公を護る懐刀として存在が記録されている。
幼い子供である次男も、成人を数えればそれから遠からず大公継承となるし、その際、兄たる長男が彼を支える者となってくれれば、父としてこれほど心強い事はない。
そして、フェニックスのナイトとなれば、「無駄飯食らい」などと揶揄される長男が、誰よりも誇らしく強い男である事を証明し、彼に確かな居場所を与える事が出来ると思ったのだ。

 息子は、今度は父の期待を背負って、毎日剣の稽古に明け暮れた。
将軍となったマードックから直に剣術を扱かれ、毎日のように青痣を作り、悔し涙を飲む日々。
泣けば嗤われると分かっているから、息子は決して泣かなかった。
それよりも、父の期待と、無邪気に応援してくれる弟の為にと、毎日真っ直ぐに背を伸ばして、懸命に剣を振るっていた。

 そして、十五を数えた長男は、歴代最年少にして、フェニックスのナイトとなる。
その頃には、彼は生来の生真面目さと誠実さで、多くの人々に愛されていた。
民草の中に混じって過ごす息子は、もう無邪気に笑う年齢ではなかったが、生き生きとしていた。
……唯一、母がその傍らにいる時を除いて。

 妻アナベラが、ロズフィールド家の血を重んじ、それを持つ者たれと言う事を、エルウィン自身に咎めるつもりはない。
大公の血はエルウィンにとっても失われてはならないものであり、これからも守り続けるべきものだ。
しかし、妻は聊かその気概が強すぎる。
生まれたばかりの息子に、その血が持つ筈のドミナントとしての覚醒を期待し、一分一秒と早くそれを目覚めさせよと繰り返していたのだ。
ドミナントの覚醒が、当人が望んで出来るものでもない事は、彼女も分かっている筈だと言うのに。
その裏側に、彼女の生家からも寄せられる、ドミナント誕生への重い期待があったこと、彼女自身が長い間それに晒され続けていた事は理解している。
其処に心無い言葉が少なからずあった事も、理解できよう。
故にエルウィンは、妻の息子に対する聊か強すぎる態度にも、窘める以上のことは言えなかった。

 だが、次男が生まれ、ドミナントとして覚醒した後の、長男に対する態度は流石に黙って看過は出来なかった。
子ですらないとでも言い出しそうな彼女を、何度咎めたか分からない。
余りに周囲に対してその態度を隠しもしないから、それを目の当たりにする兵士達の士気にも関わる。
せめて人前でいる時位は、親らしくとは言わずとも、顔すら見ないのは辞めろ、と繰り返し言った。
しかし彼女は、未だ一貫して、齢十五の息子に向き合う事すら考えもしない。

 ────だから、と言うのは傲慢だろうか。
生まれた時から、母の愛を知らずに育つ息子を不憫に思い、代わりに愛情を注いでやろうとしたのは。
物分かりの良い顔をしながら、本当は寂しさに飢えた息子を、今この時はと真綿で包んでやりたくなったのは。

 いや、ならばそれまでで良かったのだ。
ただ父として、息子を愛してやれば十分だった。
足りないものを与えてやる事は出来なくても、代わりのもので、その隙間を埋めてやれば良いのだ。
真綿で包んで、優しく首を絞めるように、足りない酸素を欲しがる息子に、熱を注いだのは何故か。
見上げる青の瞳が、自分だけを見ている時に、この上ないほどの充足感を得たのは何故か。

 この罪は、きっといつか裁かれるのだろう。
恐らくは何よりも惨たらしい形で。
そう思いながら、まだ細い腕が縋る瞬間、赦されぬ泥沼へと沈んでいく心地良さを感じていた。




 今日も今日とて、訓練場には木剣の打ち合う音が響いている。
マードックが城にいる時、それは一層激しく鳴り響き、止む間も惜しいと高らかだった。
時に野次のように飛ぶ声は、傍目には揶揄を含んでいるようにも聞こえるだろうが、知っている者には分かっている。
わざと挑発、怒らせるような言葉を選んで、発破にしているのだ。
今はまだ技術に劣る若人でも、瞬間的な爆発力で、思いもよらない結果を齎してくれる事はある。
それを期待しているものだから、見様によっては不敬と咎めるものであっても、エルウィンは余程目に余るものでなければ見逃す事にしている。

 マードックの振るった剣が、向き合う少年の頬を掠めた。
寸での
所で刃を交わした少年が、仕返しとばかりに斜め下から振り被った剣を切り上げる。
マードックはそれを剣の横腹で受け、刃を滑らせて鍔迫り合いへと持ち込んだ。
体躯で到底マードックに敵わない少年だったが、負けん気で踏ん張り、拮抗へと持ち込む。
上背のあるマードックが体重をかけて行けば、少年は歯を食いしばりながらもじりじりと重さに押されて行く。
そのままいつまでも対抗しているばかりでは駄目なのだ。
少年はぎっと眼光鋭くマードックを睨むと、剣の持ち手を替え、くるりとそれを回転させる。
押し込んでいたマードックの剣が、対抗する形で支えていた力を失い傾くと、少年の柄尻がマードックの米神を狙う。
が、それが届く直前で、「甘い!!」と声が上がった。
傾いた体重を更に前へと転がして、マードックの頭が狙いと違う位置まで下がり、少年の柄尻が空を突く。
直後、前傾姿勢となったマードックの肘が、少年の背中を強く撃ち抜いた。

 一瞬の衝撃に呼吸を奪われ、少年が目を見開く。
強い一撃で浮いた足先から力が抜け、膝から崩れ落ちる少年を、マードックは直ぐに体の向きを変えて拾い支えた。


「一本!それまで!」


 審判役に指定されていた兵士が、終了の声を上げる。
少年の健闘を称える声があちこちで上がったが、それを向けられた本人は、どうやら意識がないらしい。
くたりと項垂れた躰をマードックが抱え上げ、修練場の外へと運び出した。

 エルウィンは、その様子を外壁回廊の上からじっと見つめていた。
本音を言えば、もっと近くで少年───クライヴの努力を見てやりたい気持ちはあったが、大公である自分が下りれば、兵士は背筋を伸ばさねばならない。
息子であるクライヴもそれは同じで、とても先のような強い動きは出来なかっただろう。
だからエルウィンは、自分が近付ける中で、彼等が活き活きと出来る距離を保つように努めている。

 ロザリア公国の城仕えの兵士達は、皆クライヴのことを好いている。
大公の嫡男として生まれながら、ドミナントとしての力には終ぞ覚醒せずとも、一介の兵卒と同じ立場から初めて、将軍であるマードックに喰らい付く程にその腕を上げたのだ。
王子であるが故に人々は一歩引いた場所から接する事は否めないが、彼の誠実さと、直向きさ、そして謙虚のある態度に、好感を持つものは多かった。
今も気を失ったクライヴの為、誰それとなく、氷嚢や水、休む場所を用意する所を見れば、クライヴと兵士たちの距離の近さが分かると言うものだ。

 クライヴがナイトとなってから、数ヵ月。
未だ彼は、剣の師たるマードックから一本を取る事も出来ていないが、着実にその日は近付いている。
既に魔物や蛮族ならば討伐した経験もあるし、父の出征に付き従い、支援の一隊を担うこともあった。
その成果は着実に蓄積されており、マードックはエルウィンに対し、「私も気を抜けません」と笑みを浮かべていた。
後は時間の問題、とも言っていたから、遠からず、息子が師から念願の一本を取る日も来るのだろう。

 ───開門、と言う声を聞いて、エルウィンは顔を上げた。
見下ろしていた方向と逆に向かい、壁下を見下ろせば、隊列を成したチョコボ馬車が門を出ていくのが見える。
先頭から数えて三番目を進む、三羽のチョコボに引かれるキャリッジは、他のものに比べると作りが豪奢だ。
それにはエルウィンの妻である、大公妃アナベラが乗っている。
彼女は今日から一時、自身の生家へと里帰りし、その膝下である地を巡ることになっている。
大公妃の立場から、国民の暮らしを見、大公たる夫の政に役立てる為だ。
本来、その傍らには次男ジョシュアを連れて行く予定であったが、今朝方に少し熱を出した様子があった為に、今回は大事を取って見送らせている。

 警護の為の兵士達と、お付きの侍女を乗せたキャリッジに囲まれ、アナベラはロザリア城を離れて行く。
遠い日にはそれに一時の寂しさを覚えたこともあったエルウィンだが、最近は聊か、彼女が傍を離れる事に安堵している自分がいる。
夫としては酷いものだと思うが、彼女が城にいる事で、聊か良くない空気が生まれてしまうのも事実。
諫めているのに一向に聞く様子のない彼女に、半ば諦めもあり、物理的な距離感と言うものを有り難く感じてしまうのは否めなかった。

 加えて────と、エルウィンはもう一度、兵士達の訓練場を見る。
兵舎の横で休まされていたクライヴは、目を覚まし、マードックと話をしていた。
次こそはと一本の奪取に向けて意気込む王子に、マードックは勿論、兵士達にもその心意気は伝播して行く。
人々の輪の中心にあって、クライヴの輝きは更に増していく。
その眩しさが、エルウィンには誇らしいものであった。

 同時にエルウィンは、その輝きの中に押し殺されたものを見ている。
それを知っているのは、恐らく他には居はすまい。
彼が何よりも愛情を注ぎ、守るべき存在と定めている、幼い弟さえも。

 エルウィンは近くに立っていた兵士を呼んだ。
兵士は直ぐにエルウィンの元に駆け寄り、敬礼を示して次の言を待つ。


「手の空いている時で良い。クライヴに、今夜、私の部屋に来るように伝えてくれ」
「はっ。了解致しました」


 伝令をさせる程の事ではないが、直に会う時間も少ない為に、こうした言伝を渡すのはよくある事だ。
兵士は敬礼を返して、外壁内部へと繋がる階段を下りて行った。
兵士の持ち場であった場所には、程無く代わりの者が立ち、言伝を預かったものはしばらく後に修練場へと現れた。

 兵士から話を聞いたクライヴが、きょろりと辺りを見回して、あちらに、と兵士が示した先───外壁上の父を見上げる。
人前と言う事もあり、クライヴは然程表情を変える事はなかったが、まだ幼さの宿る面立ちには存外と素直な感情が浮かぶ。
目線があったと確認したエルウィンが頷いて見せれば、クライヴも胸に手を当てて会釈をして見せた。

 それからクライヴは、伝言に来た兵士を見送って、立て掛けられていた木剣を握る。
失神から目覚めてまだ幾らも時間は経っていないと言うのに、兵士達に混じって素振りを始めた彼に、周囲もまた感化されていく。
彼は本当に、周りを動かす力を持っているのだ。
そんな姿に誇らしさを抱きながら、エルウィンもまた、公務に戻るべく階段を下りて行った。




 ロザリア公国は、風の大陸の北部方面にある。
雪が降る程ではないものの、陽が沈めば冷たい北風の味が感じられた。
それを重みのあるカーテンで部屋の中に侵入するのを防ぎつつも、熱の失われていく室内の温度を保つ為、定期的に暖炉に火をくべる。

 蝋燭の灯りを頼りに、エルウィンはデスクで書簡を開いていた。
弟に相談した難民の保護については、彼方で協力を取り付けることに成功し、一先ずは安心した。
とは言え、これは一時しのぎの措置であり、北部からの難民の増加も、鉄王国に奪われたドレイクブレスについても、根本的な解決にはならない。
いつまでも小競り合いを続けていては、此方が疲弊してしまうだけだ。
遠からず内に、本格的な戦をしなくてはならない、とエルウィンは確信していた。

 一先ずは何処から手を打つべきかと思案していると、コツコツ、と部屋の扉をノックする音が聞こえた。
時刻は空に月も高く、城内はしんと静まり返って久しい。
そんな時分にエルウィンの部屋を訪れることが出来るのは、緊急時を除けば、僅かしかいない。


「入れ」


 相手を誰と確認する事もなく、確信を持ってエルウィンは言った。
キ……と控えめな蝶番の音が鳴って、一人の少年が大公の私室に入って来る────クライヴだ。


「失礼いたします。お呼びに与り、参上致しました」
「うむ」


 昼間は常に身に着けている皮鎧を外し、私室用の服装で扉の前で胸に手を当てるクライヴの、形式に則った挨拶に、エルウィンは頷く。
そして、開いていた書簡をデスクに置いて、柔い笑みを浮かべた。


「今は私とお前のみだ。そう固くなるな」


 誰も見ているものではない、と言うエルウィンに、クライヴは「……はい」と微かに表情を緩めて応えた。

 クライヴがデスク前までやって来て、蝋燭の灯りに照らされた書簡を見付ける。
末尾に叔父の名前が綴られているのを見付けつつ、クライヴはそれを見ないようにと視線を逸らした。
息子と言えど、大公の下に届く書簡と言うのは、可惜に見て良いものではない。

 エルウィンは手紙を畳んでデスクの引き出しに仕舞い、これで今日の公人としての責務は終了とした。
それを確認してから、クライヴもほっとしたように肩の力を抜く。
そんな息子の様子に、エルウィンは眉尻を下げて苦笑しつつ、席を立ってクライヴの前へと移動した。


「昼間は随分とやりこめられていたが、もう痛みはないか」
「はい。お恥ずかしい所を……」
「マードックは強い。だが、お前もあと一歩と言う所だろう。よくよく精進すると良い」


 クライヴが誰よりも自己鍛錬に余念がない事は、エルウィンも知っている。
その努力は一朝一夕で結びつくものではないが、確かに彼の足場を強く固めている事は明らかであった。
とは言え、正面から忌憚なくそれを褒めるには、大公とその嫡子と言う柵は聊か強くて、どうしても遠巻きなものになってしまう。
それでも、まだ丸みのある頬を柔く手のひらで撫でてやれば、クライヴは嬉しそうに目元を細めるのだった。


「ジョシュアの様子はどうだ。昼には熱は下がったと聞いたが」
「あれからは特に大事もなく、午後には勉強をしていました。先程まで、眠るまで傍にいて欲しいとねだられたので、一緒にいて───今はよく寝ています」
「そうか」


 ジョシュアの今朝の熱も、大事になる程のものではなかったと聞いている。
だが、ジョシュアは元々体が弱い。
母と行く筈だった遊楽に行かせられない事は、学びの機会を失したと言う意味では聊か残念な所もあったが、万一の為にも無理をさせる訳にはいかない。
あれから朝の内は部屋で過ごし、午後には快癒したと言うのなら、クライヴも安心しているだろう。

 エルウィンはクライヴの肩を抱くように押して、ベッドへと向かった。
共に座るように促すと、クライヴは少し緊張した様子を目尻に浮かべながらも、大人しくベッドの端に座る。
エルウィンもその隣に腰を下ろして、自分よりも僅かにまだ低い位置にある息子の頭を撫でてやった。


「父上、私はもう子供では……」


 幼い弟ならともかく、クライヴ自身は十五を数え、ナイトの称号も得ている。
このような仕草をされる年齢ではない、と諫める口調のクライヴだったが、黒髪を撫でつける手を拒否することはなかった。
後頭部を滑るエルウィンの指が、項の生え際を擽れば、その感触に眉尻を下げながら笑みを零す。

 そんなクライヴに、エルウィンはくつりと笑みを浮かべ、


「お前が幾つ年を数えようと、私の子供である事に変わりはない」
「…はい。有難う御座います」


 エルウィンの言葉に、クライヴは面映ゆい表情を浮かべた。
控えめに父親を見上げる瞳には、言葉に尽くせない喜びの感情が滲んでいる。

 母アナベラに強く排斥意識を向けられているクライヴは、彼女の前では決して父に対して甘える言を見せる事はない。
また、嫡男である以上に、兵卒として過ごす日々もあり、クライヴは人前では常に”兵士の一人”であるようにエルウィンと接していた。
それが彼の立場として正しいことは父子ともに分かっているが、それでもクライヴはまだ十五の齢である。
子供のように甘える年齢を脱したとは言え、まだまだ未熟な時分である事は事実だった。

 だからエルウィンは、こうして誰の目もない場所で、息子の頭を撫でてやるのだ。
そしてクライヴもまた、この僅かな一時に、父から真っ直ぐ注がれる愛情を貰える事に、育ち切らない柔い部分を護られている節があった。


「……父上……」


 小さな唇が、か細い声で父を呼ぶ。
ベッドシーツの端を握っていた手が、そろりと動いて、エルウィンの服袖を摘まんだ。
控えめも過ぎるその仕草は、甘えることを余りにも早く抜け出さざるを得なかった彼に残された、精一杯の主張なのだろう。
エルウィンはそんなクライヴの肩を寄せると、父の胸に頬を預ける息子の背をゆったりと撫でてやった。

 手触りの良い絹で仕立てられた服の上を、するすると滑り行く手。
それがクライヴの脇腹をくすぐるように撫でると、クライヴはそれから逃れんとするように身動ぎをした。
しかし身を預ける躰は父から離れる事はしない。
そんなクライヴの様子に、エルウィンの唇は歪な笑みを浮かべていた。


「寒いか」
「……いえ」


 暖炉の火が弱くなっている事には気付いていたが、暖気はまだ部屋に残っている。
父の問いに、クライヴが小さく首を横に振るのを確認して、そうか、とエルウィンは言った。

 クライヴの脇腹から上って来たエルウィンの手が、彼の胸元へと重ねられる。
とく、とく、とく、と心なしか早い鼓動を刻む心音が伝わった。
触れる手を意識していると分かるその反応に、エルウィンは喉が震えるのを堪えながら、いつものように指先で布越しに分かる蕾を擽る。


「っん……」


 刺激を感じたクライヴの体がぴくりと震え、微かな声が漏れる。
構わず指先で捕えた膨らみを触り続けてやれば、クライヴは縋るように父に身を寄せて来た。
だが、その縋る父親こそ、クライヴに不埒な熱を与えようとしている張本人だ。


「父、上……ん、あ……っ」


 クライヴはゆるゆると首を横に振りながら、潤んだように瑞々しさを湛える眼差しを向ける。
しかしエルウィンは構わずその体を抱き寄せると、襟元を閉じる釦へと指をかけた。
ぷつ、ぷつ、と閉じ目を外されていく胸元から、体温よりも低い空気が滑り込み、ふるりとクライヴの肩が震えている。
襟元が開き切り、まだ薄い胸が露わになると、其処へエルウィンの手が重ねられ、直に触れられる感触に、あ、とクライヴの口から小さな声が漏れた。

 エルウィンは息子の背を抱いて、その体をベッドへと横たえた。
逆らう事なく父の意向に従う息子は、後ろめたいものを噛む表情を浮かべ視線を逸らしているが、逃げ出す事はない。
前の守りが緩んで露わにされた胸をゆったりと撫で続けていると、クライヴの唇から熱を孕んだ呼気が漏れた。


「父上……また、お戯れ、を……」


 クライヴの言葉は、父を咎めるものだ。
これから行われることを、その意味を、彼は既に理解している。
本来これは、赦されてはならない事であると、彼は父親よりも強くその罪の意識を悟っているのだ。

 だが、今夜で既に何度目になるだろうか。
エルウィンは最初からそれを数えてはいないから、クライヴの方が知っているに違いない。
その数を重ねる程、クライヴにとっては己の罪状が増えていくも同然で、より彼の心を蝕み苦しめていく事だろう。
────それを判っていて、エルウィンは今夜もまた、青く未熟な花を手折る。

 毎日鍛錬に明け暮れているお陰だろう、クライヴの肌は晒されている場所ならば健康的な色をしている。
半面、常に被服や装備で覆われている場所は、弟や母に似て白さが残っていた。
その肌色の境目のある鎖骨へと口付けてやれば、ひくん、と細身の体が震える。


「あ……」


 父のしていること、これからの流れを想像してか、クライヴは甘い声を漏らした。
耳に心地の良いそれをもっと聞いてやりたいと、エルウィンの舌がゆっくりと肌を這い上って行く。
喉元に唇を寄せ、声変わりと共に目立つようになった喉仏を擽ってやると、ヒクンッとクライヴの頭が反った。

 差し出すように露わになった首筋を味わいながら、エルウィンの手はクライヴの胸を撫で回す。
まだ筋肉が付くには早いのか、未発達な肉を覆う肌は、心地の良い手触りでしっとりと吸い付いて来る。
蜂蜜でも垂らせばより甘くなるだろうと、そんな妄想を抱かせる味わいを、エルウィンは殊更に時間をかけて堪能した。


「は……ん、あ……」


 胸を這いまわる手と、喉をくすぐる艶めかしい舌と。
翻弄されるクライヴは、身を捩っては緩やかに首を横に振り、弱々しい抵抗を示して見せる。
しかし、彼の体は縄で拘束されている訳でも、力で強く抑え付けられている訳でもない。
逃げようと思えばいつでも逃げられる、緩やかな愛撫の中から、彼は一度も本気で逃げようとはしていなかった。

 エルウィンはクライヴの服の釦を全て外し、前を開かせた。
途端に守りが薄くなった事が実感されるのか、クライヴの顔が羞恥に染まって赤くなる。
そんな彼の胸には、ぷくりと膨らんだ実が早速自己主張を示していた。
それを指先で柔く摘まんでやれば、


「っあぁ……!」


 たったそれだけの刺激で、クライヴはまるで気を遣ってしまわんばかりに顕著な反応を示す。
片手で足りない回数の中で、それを其処まで敏感に育て上げたのは、他でもないエルウィンだ。
父の手自らに染め上げられていく無垢な体は、日に日に感度を増していた。

 喉を食みながら、敏感な乳首を摘まみ転がしてやれば、クライヴがはくはくと音なく喉を動かす様子がよく分かった。
喉奥で声を抑えようとしているその様子に、エルウィンは乳首をきゅうっと引っ張ってやる。


「あう……!」
「此処には誰もおらん。私だけだ、クライヴ」
「あ……、あぁ……」


 蕾の先端を爪先でくりくりと苛めながら囁けば、クライヴはいやいやとするように頭を振った。
カフスを嵌めた耳が、暗闇の中でも分かる程に赤くなっている。
はしたない声をあげる事を、恥ずかしさから嫌がっている息子を、エルウィンはじわじわと追い詰めて行った。

 左の乳首がすっかり膨らむ傍ら、反対側はまだ控えめな形を保っている。
エルウィンは其処に唇を寄せると、窄めた唇で吸い付いた。


「っふあ……!」


 ちゅう、と吸われる感触に、びくりとクライヴの背中が跳ねる。
ベッドシーツから浮いたその背に腕を差し込み、抱き寄せて胸元を張らせた。


「あ……っ、父、上……!おやめ、くださ……ああ……!」


 左右の蕾をそれぞれ違う刺激に攻められて、クライヴは堪らない様子で訴える。
タッセルを結んだ腰を揺らめかせ、ベッドシーツを握っては離して、黒髪を乱しながら父の所業を咎めるクライヴ。
しかし、眦に雫を浮かべるその表情は、何処か恍惚とした艶を孕んでいた。

 エルウィンの鼻先で、愛撫に汗ばむ胸から、馨しい香りが漂う。
それはまるで麝香のように、父親である筈の男を、ただ一人の男へと面の皮を剥いで行く。

 慎ましかった筈のクライヴの蕾は、エルウィンの咥内ですっかり固くなっている。
それを飴玉を舐るように丹念に舌で形をなぞってやれば、クライヴは悶えるように頭を振った。
いやいやとした反応の中、彼の足元がベッドシーツを何度も滑る。
太腿がふるふると震えながら強張り、膝を擦り合わせる仕草から、彼の胎内で確かな熱が燃え上がっているのが読み取れた。

 丹念な愛撫を終えて、乳首を解放してやれば、其処はすっかり濡れて膨らみ、唾液によっててらてらといやらしく光っていた。
ツンと尖ったその先端に、外気が触れるだけでもクライヴにとっては辛いもので、はあ、はあ、と苦しそうな呼吸を繰り返している。


「あ、あ……うぅ……ん……」


 白い波の中にしどけなく横たわり、もどかしげに何度も身を捩っているクライヴ。
膝を寄せて閉じた足の付け根では、熱の中心が膨らんで窮屈になっている。

 エルウィンの手が、するりと降りて、クライヴの太腿を撫でる。
ぴくっ、と震えた其処を手のひらで押してやると、クライヴの微かな理性が抵抗するように腿をぴったりと閉じた。
そんな聞き分けのない息子を、エルウィンは左の乳首を摘まんで叱る。


「っあうん……!」


 休む暇もなく、敏感な先端を爪でカリカリと引っ掻いてやれば、クライヴはビクッビクッと上肢を震わせて甘い声を上げた。


「あっ、あぁ……っ!父上……っ、そ、そこは、もう……っ!」


 止めて欲しいと訴えるのも構わず、エルウィンは薄桃色のそこを強く摘まんでやった。
クライヴは「ああぁ……!」と悲愴を滲ませた官能の声を上げながら、父の意思に従い、足の力を抜いて抵抗を諦める。

 腰の飾り紐を解き、更にズボンのウェスト紐も解く。
緩んだ隙間から手を入れれば、じっとりと汗を掻いた空気が籠っていた。
その中心で熱を持っている中心部を柔く握ってやると、クライヴは切ない表情を浮かべ、助けを乞うように父を見上げる。


「父、上……」
「苦しいか、クライヴ」
「……は、い……」


 胸だけで気を遣りそうな程に、官能を拾うことをよくよく覚えた躰だ。
若く性的なことに未だ碌な抵抗力も持たないクライヴは、腰をふるふると戦慄かせ、物欲しそうな眼差しで父を見ている。
己がそんな表情を浮かべて、目の前の獣を目覚めさせている事など露知らず。

 腰元を緩めて納まっていたものを晒してやれば、クライヴの幼い雄は既に天を向いていた。
汗ばんだ先端からはとろりと蜜が一筋垂れている。
それを見てしまったクライヴは、粗相をしてしまった子供のように真っ赤になりながら、父の手の中でぴくぴくと鈴口を震わせていた。


「触れぬ内からもう零していたか」
「……も、申し訳…ありません……」
「構わん。私しか見ていないのだからな」
「……っ」


 それこそが恥ずかしいのだと、見られているから恥じているのだと、クライヴの表情が語る。
しかし、その羞恥こそが、この若く青い体に更なる熱を燃え上がらせることを、エルウィンはよく知っていた。

 ぴくっ、ぴくん、と刺激を求めて震える鈴口に、エルウィンの指が宛がわれる。
どうあっても鍛える事の出来ない場所へ触れられて、クライヴの腰が分かり易く戦慄いた。
とろりと溢れ出す蜜を、エルウィンは指先に塗りつけながら、クライヴの先端をくりくりと穿って苛めてやる。


「ふ、ふ、うぅ……!あ、う、んぁ……!」


 クライヴは開いた足をびくびくと弾ませながら、直接的な肉欲の官能に喘いでいる。
まだ本来の使い方などした事もない内に、他人の手で攻められる快感を知ってしまったクライヴは、それに逆らう術も知らずに甘く啼く事しか出来なかった。

 十分に育っても、まだ幼い色とサイズをした雄は、エルウィンの手の中にすっぽりと包む事が出来る。
それを上下に扱いて刺激を与えれば、クライヴは頬を熱に染め、蕩けた表情を浮かべて、


「あ、あ……父上……っ!も、もう…っあぁ……!」


 シーツの波を強く握り締めながら、懸命に首を振って訴える。
競り上がって来る衝動を堪えようと、いじらしく歯を噛む様子は、見下ろす男に嗜虐的な興奮を齎していた。

 根本から先端へと圧し出すように搾ってやると、クライヴはぶるりと腰を震わせて、息を詰まらせた。
びゅくんっ、と噴き出した白濁液が、クライヴの腹へと飛び散る。


「……っ、……ふ……っ、…あぁ……っ」


 果ての瞬間、クライヴは声を出す事も出来なかった。
意図して抑えたのではなく、押し寄せる快感の波に飲み込まれていた少年に、その官能を与えた男の唇が笑みに歪む。

 は、は、は、と短い呼吸を切らせているクライヴから、エルウィンは全ての衣服を取り払った。
生まれたままの姿で、くったりと寝台に沈むその様子を見下ろしながら、自身も邪魔なものを脱ぎ捨てる。


「クライヴ。後ろを向け」
「…は、ぁ……」


 父の命令に、クライヴは朧な意識で従った。
熱の余韻が残る体をのろりと起こして、ベッドの真ん中で四つん這いになる。
火照った頬をシーツに擦り付けながら、小振りで引き締まった尻を差し出せば、壁際の燭台から微かに届く灯りで、白い肌が暗闇の中に浮き上がる。

 エルウィンの伸ばした手が臀部に触れると、クライヴはひくんっと腰を震わせた。
まだ絶頂の感覚が消え切らない体には、他人が触れるだけで官能のサインが流れてしまう。
足の間では、果てたばかりの中心部が、頭を下へと垂れながらも、物欲しそうにぴくぴくと戦慄いていた。

 前に此処に触れたのはいつだったか。
そんな事を思いながら、エルウィンはクライヴの秘部へと触れる。
指先をその縁に宛がうだけで、クライヴは期待に喜ぶようにふるりと震え、小さな窄まりをヒクヒクとさせた。
クライヴが零した蜜で濡れた指を、その穴に宛がうと、求めるように肉壺が吸い付いて来る。
その期待に応えてゆっくりと人差し指を挿入させれば、狭い口が微かに開いて、エルウィンを受け入れた。


「ふぅ……ん……っ」


 クライヴは背中を微かに強張らせながら、か細い息を零している。
既に何度も咥えた経験を持ちながらも、毎回その間が開く所為か、クライヴの中はいつまでも狭い。
それを粘り気のついた指でゆっくりと拡げながら深く入って行けば、段々と熱の味を覚えた内肉が絡み付いて来るようになる。


「あ……うぅ、ん……っ、くぅ……ん……っ」


 クライヴは悩ましい声を漏らしながら、汗の滲んだ背中をくねらせている。
身動ぎする度に下肢をゆらつかせるものだから、咥え込んだ指が中で当たる角度が変わって、自ら中を開拓させているようにも見えた。

 エルウィンが指の間接をクッと曲げれば、指先が内壁を押し上げる。
「あうっ……!」と小さく声を上げて、ビクンッ、と肢体が弾み、媚肉がきゅうぅ……と締め付けて来た。
それを指の腹で撫でるように小刻みになぞってやると、クライヴはベッドシーツに縋りながら、甘い声を何度も零す。


「あ、あ……んっ、あぁ……っ!父上……あ、ふぅ……っ」
「足を開きなさい、クライヴ」
「は、はい……あ、ん……っ」


 膝を摺り寄せたがるクライヴに、エルウィンは逆の指示をした。
クライヴは恥ずかしがってベッドに口元を埋めながらも、言われた通りに、両足を開いて見せる。
股間にぶら下がるものの鈴口から、つぅ、と蜜が糸を引いて、ベッドシーツに染みを作っていた。

 クライヴが抑えた呼吸をする度に、指を食んだ媚肉が、きゅ、きゅう、と締まる。
そのリズムに合わせ、天井壁を指の腹でくぅっと圧してやると、クライヴは切ない声を上げて腰を戦慄かせた。


「ああ……っ!そ、そこは……っ…!」
「此処は、なんだ?」
「んぁ……っ!あっ、あっ……!ひぅん……っ!」


 くち、くち、と音を立てながら、エルウィンはクライヴの言う“其処”を攻めてやる。
狭く固さの消え切らない内肉の中で、軽く掠めてやるだけで、びくんっと肉の反応が返ってくる其処。
少し意地悪に爪を立てて引っ掻いてやれば、クライヴは雷魔法でも浴びたように、ビクビクと全身を弾ませて見せた。


「はっ、ち、父上っ、父上ぇ……っ!ま、待って、下さい……ああっ、んぅうっ!」


 クライヴはシーツを夢中で手繰り寄せて縋りながら、父に許しを請う。
引き締まった腰が高く突き出され、内部を弄る指を厭って逃げを打つ。
だが、それを見つめる父の目には、息子のそんな仕草は更なる官能をねだっているようにしか見えなかった。

 予告もせずに二本目の指を挿入すると、「ひぅうんっ」と高い声が上がった。
思いの外響いたその声に、クライヴは全身から汗を噴き出させる。
なんてはしたない、と真っ赤になって口に手を当てるクライヴに、エルウィンは二本の指を使って激しく彼の内部を掻き回し始めた。


「んっ、んんっ!ふ、う、ふぅんっ」
「声を抑えなくとも良い、クライヴ。誰も聞いておらぬのだからな」


 此処にいる父以外は。
耳元でそう囁いてやると、クライヴの肉壺がきゅぅうっとエルウィンの指を締め付けた。

 そんな意地悪をすれば、益々クライヴは声を出す事を嫌がる。
分かっていてそんな事を囁いておいて、エルウィンは締め付ける内肉を激しく攻め立てた。
刺激を受けて奥から分泌された蜜が、クライヴの内肉を濡らし、エルウィンの指へと絡み付く。
それを満遍なく塗りたくるように、指先で円を描くように動かせば、


「あっ、んっ、んふぅっ……!ふっ、く、ふぅっ、うぅんっ!」


 喉奥で抑えている声もまた、いよいよ抑えられなくなって来て、クライヴはいやいやと頭を振った。
目尻に涙を浮かべ、肩越しに背後の父を見遣る。
エルウィンはそんなクライヴの顎を捉え、唾液に濡れた淡色の唇を、己のそれと重ね合わせた。


「んむぅ……っ!」


 声も呼吸も奪われて、クライヴの体が竦んだように強張る。
指を咥え込んだ媚肉が切なげに戦慄き、中を掻き回すものに縋るように吸い付いた。

 クライヴの咥内へと舌を送り込み、逃げようとする彼の舌を絡め取る。
じゅるりと音を立てながら唾液を与えれば、クライヴは溺れそうな感覚の中で、それを飲んでみせた。
そうするようにと、他でもないエルウィンが教えたからだ。
物覚え良く、他者からの期待に応えようと献身に尽くす息子は、本当に父の願うままに育ってくれる。
その事に言葉に出来ない程の興奮を覚えたエルウィンの血が、熱の滾りを体現して行く。

 濡れそぼった肉壺を攻め続けながら、エルウィンはクライヴの唇を貪った。
クライヴは息苦しさに意識半分になりながらも、咥内を弄る父の舌に応えようと、懸命に追ってくる。
そうして誘い出した舌を、じゅる、と音を立てて啜ってやれば、ビクッビクッビクッ、と白い肢体が喜びに震えた。


「んっ、んぷ……っ、ん、ふうぅ……っ!」


 吸われる快感で、クライヴの舌の根が官能に戦慄く。
指で解され広がった肉壺の奥が、もっと欲しいと求めて指先に吸い付いていた。

 エルウィンの窄めた眼差しの中で、クライヴの瞳は茫洋と彷徨い始めている。
息も忘れた深い口付けは、まだ性に幼い彼にはあまりにも官能的で、鼻で呼吸することも思い出せないのだ。
そうして酸素が足りなくなった頭は、彼の中に辛うじて残っていた、この背徳の時間への最後の抵抗も忘れさせていく。

 たっぷりと舐り上げた唇を解放すれば、クライヴはとろんと蕩けた眼差しで、離れて行く父の顔を見上げていた。
四つ這いの体を支えるように抱いていた腕を離すと、くたりとベッドに沈む。
指を咥え込んだ腰だけが高くなった姿勢で、彼は解けた唇の端から、飲み込み忘れた唾液の筋を垂らしていた。


「ふ、は……あ……」
「此処も、もう十分だろう」


 ぬぽっ、と指を引き抜くと、クライヴの唇から「んぁ……っ!」と言う声が漏れた。

 父の指で丹念に解されたクライヴの菊座は、咥え込んでいたそれの形に口を開いている。
そこから覗く赤い内肉が、クライヴの呼吸とともにヒクッヒクッと蠢いて、淫靡な香りを醸し出している。

 エルウィンはクライヴを仰向けにさせ、足を左右に大きく開かせた。
羞恥を覚えることもすっかり忘れたクライヴは、されるがままに全てを父に曝け出している。
まだ幼い肉棒はまた天を向いており、熱の放出を求めて大きく膨らんでいる。
触れば簡単に果ててしまうのが予想できたが、彼の体はもっと深い場所での熱を欲しがっていた。

 エルウィンはサイドチェストの引き出しから、香油の入ったビンを取り出した。
とろりとしたそれを手に纏わせ、既に膨らんだ自身を扱いてやれば、それは支えなくとも起立し、艶めかしい液体をまとわせて生々しく存在を示す。


「入れるぞ、クライヴ」
「あ……」


 息子の痴態を前にして、滾り固くなった熱棒を、小さな穴へと宛がう。
どくんどくんと脈打つその昂りを、恥部の唇で感じ取って、クライヴの肩がふるりと震えた。

 まだ発展途上である為に、厚みの足りない腰をしっかりと掴み、エルウィンは腰を押し進めて行く。
指で広げられたお陰で、入り口はすんなりと父を通した。
しかし、狭い道を半分ほど来た所で、圧迫感に耐え切れなくなったクライヴが背筋を仰け反らせる。


「うぅ、ん……っ!父、上……ぇ……っ!」
「大丈夫だ、クライヴ。これまでと何も変わりはしない」
「ああ……っ!は、くぅ…ん……っ!」


 何度抱いても、この体は初心さを忘れない。
だからこの締め付けも分かっていた事と、エルウィンは息苦しげに喘ぐ息子を宥めてやった。

 クライヴは、はあ、はあ、と熱と苦痛の混じった呼吸を繰り返す。
その顎を捕えて目線を合わせてやると、涙に濡れた群青色の瞳が、助けを求めて父を見上げた。
ちちうえ、と舌足らずに呼ぶ唇を舐めてやれば、唇からはほうっと安堵に似た吐息が漏れる。

 ベッドシーツを握り彷徨うばかりだったクライヴの腕が、恐々に伸ばされ、エルウィンの肩を掴む。
身を寄せてやれば、縋るものを求めた腕が首に絡み付いた。


「父、上……も、っと……」
「ああ、クライヴ……」


 幼い子供の様に、ただただ無心に父を求める息子の姿。
それがどうしようもなくエルウィンを満たし、青の瞳が自分だけを映している事に充足感を覚える。

 エルウィンはクライヴの唇を吸いながら、彼の中へと自分自身を挿入して行った。
狭いクライヴの胎内に、膨らみ切った大人の一物は苦しいものである筈なのに、クライヴは父と一つになれたことにか、うっとりと恍惚の表情を浮かべている。
柔らかくなった媚肉が幾重にも絡み付くように密着してきて、ひくひくと戦慄いて雄を隙間なく包み込む。
その感触にいつまでも浸っていたい気持ちを抱きながら、同時にせり上がって来る雄の衝動に身を任せ、エルウィンは実の息子の蜜壺の奥を突き上げ始めた。


「んっ、んむっ、んぁっ……!っは、あっ、あぁっ……ああっ!」


 唇を解放すれば、奥を穿たれる度、クライヴの喉から甘い悲鳴が上がる。
あれだけ恥ずかしがって声を上げることを拒んでいた事も忘れ、あられもない声で組み敷く雄の昂りを煽っていた。


「父、上……!ああ、中が…ああ、熱い、です……っ!」
「は、は……クライヴ……っ!また柔らかくなったな……っ」
「う、あ、んぁっ、あぁ……っ!父上が、お、俺の、中で……っ、大きく、んぁあ……!」


 一人称の変化に、彼自身は気付いているだろうか。
態度を取り繕う事を忘れ、与えられる官能に溺れるクライヴに、エルウィンの雄肉がまた昂りを増す。
胎内で増していく存在感に、クライヴの体は一層の喜びに打ち震えて、全身で父への奉仕を行っていた。

 艶めかしく絡み付く肉の道を、太い肉棒で隙間なく擦り上げると、クライヴの体が弓形に撓る。
そうしてツンと尖った乳首が苛めて欲しそうに主張したものだから、エルウィンは背を丸めて、それを食んでやった。


「ああっ!そ、そんな、今……あぁっ、そこは、か、感じて……あぁっ、あぁあ……!」


 とうに感度を上げきっていた其処を啜ってやると、クライヴは秘孔を切なげに締め付けながら、胸からの快感に四肢を強張らせる。
突き上げに合わせて揺さぶられていた脚が、爪先までピンと伸びて、緊張した神経が秘奥を抉る刺激に更に鋭敏になった。


「あ、あ、や、ああっ…!父上、父上ぇ……っ!だ、だめ、です……も、もうっ、俺……俺ぇ……っ!」


 二人の体の間で、反り返ったクライヴの雄の先端から、我慢できない蜜がとぷとぷと溢れ出している。
秘奥を強く突き上げてやれば、クライヴは「ひぅうんっ!」と声を上げて、ぴゅくんっ、と蜜を噴いた。

 エルウィンの腰遣いに翻弄されるままに、中を刺激されればされるだけ、浅い果てを見てしまう、未成熟な体。
競り上がって来る衝動への我慢など、まるで忘れてしまったクライヴであったが、それでも一番深い所で果てを見るにはまだ足りない。
そんな息子に、エルウィンは慈悲でも与えるかのように、幼さの残る体をベッドへと縫い付けると、一番深い場所へと禊を打ち込んだ。


「んぁああっ!」


 ぞくんっ、とした強い官能が背中を駆け抜けると共に、クライヴは甲高い悲鳴を上げた。
その反響が消えない内に、エルウィンは大きく腰を動かして、クライヴの直腸を入り口から最奥まで深く耕す。


「はあ、ああっ、あぁんっ!父、上、来ます……っ、俺っ、ああっ、あっ、あぁあ……!」


 頭を振って、もう幾らもならないと、クライヴは父の首に縋り付いて訴えた。
媚肉は絶えず痙攣しながらエルウィンを締め付け、決定的な熱を強請る。


「ああ、良いぞ、クライヴ……!お前の中に注いでやる……!」
「はっ、はっ、ちちうえぇ……っ!」


 クライヴの胎内を限界まで拡げた肉棒が、どくんどくんと脈を打っている。
身の内で具に感じるその感触に、クライヴの媚肉が今夜一番の締め付けを見せた瞬間、エルウィンも己の熱欲を息子の腹の中へと注ぎ込んだのだった。


「ああっ、あっ、あぁーーーーっ!」


 クライヴは腹の中へと与えられる熱い迸りの感触に、続け様の絶頂を迎えていた。
海老ぞりに撓らせた背中を父の腕に強く抱かれながら、雄の欲望の証を一滴残らず蜜壺の中へと与えられる。
その瞬間の得も言われない幸福感が、愛に餓えた少年を、また深い官能の渦へと縛り付けるのだ。

 後孔で上り詰める快感を覚えてから、クライヴのその余韻はいつも長く彼を蝕む。
根元までみっちりと咥え込んだ雄を、ヒクッヒクッと戦慄きながら包み込む肉ヒダの感触の、心地良いこと。
そして、エルウィンの耳元では、甘い吐息を零しながら、「ちちうえ……」と嬉しそうに呼ぶ声が繰り返される。
顔を見れば、赤らんだ頬を歓喜の涙で濡らしながら、嬉しそうに父に口付けをねだる息子の姿があった。


「……心地良いか、クライヴ」
「……は、い……父、上……父上が……ここに、いるのが……わかる、から……」


 きゅう、と秘孔をまた締め付けながら、クライヴは言った。
クライヴの右手が自身の腹へと重ねられ、愛おしむように父の熱を注がれた場所を撫でる。


「父上が……俺なんかを、愛して、くれていると……感じられて……だから……」


 うれしいです、と囁く唇を、エルウィンは塞いでやる。

 首に絡む細い腕が、甘えるようにエルウィンの頭を掻き抱いた。
それを好きにさせながら、また熱が集まる衝動に任せるまま、クライヴの体を攻め立てる。
ああ、ああ、としどけない声を上げ、疲れ切った躰でも奉仕しようと懸命に縋る少年を、エルウィンはその体が意識を飛ばすまで貪り続けたのだった。



 ────無心に愛を求める瞳の、なんと罪深い事だろう。
固く閉じた瞼の裏にある色を思い出しながら、エルウィンはそんな事を考える。
それは大層な責任転嫁であったが、口に出さねば誰にそれを咎められる事もなかった。

 月も西へと大きく傾き、ひと眠りもすればあっという間に朝が来るという時間。
明日の政務を思えばエルウィンも早々に眠るべきではあったが、気怠さと、腕に抱いた子の温もりが心地良くて、睡魔に身を委ねる気にはならなかった。

 背徳の交わりを終えて、クライヴは裸身にシーツのみを包ませた格好で、すぅすぅと眠っている。

 愚かではない息子は、父とこうして過ごす夜に少なくない抵抗感を抱いているが、それ以上に彼は、親からの愛に飢えていた。
それも目に見えないものではなく、確かな形で与えられなければ、信じることが出来ない程に。
いけないことだと諫める口を作りながら、一度も本気で逃げようとしないのがその証拠と言えるだろう。

 だが、愛情の伝え方なら、もっと別の形がある筈だ。
エルウィン自身、それは分かっているつもりだった。
それなのに、こんな形で、一番毒となる方法で息子に愛を教えているのは、他でもないエルウィン自身の身勝手な欲に他ならない。

 父上───と、唯一無二の愛情を求めて伸ばされる腕。
何度も繰り返し父を呼び、貴方しかいないと縋り、与えれば嬉しそうに綻ぶその貌が愛おしい。
これほど打算も計算もなく、ただただ無心に愛情だけを欲しがる瞳を、エルウィンは他に見た事がない。
そして、熱を注げば注ぐほど、対価のように溢れ出す蜜の味は甘く、重ねる程に馨しさを増して熟成されて行く。
このまま自分の情でこの器を満たし続けたら、息子はどんな風に父を満たしてくれるのだろうかと、そんな歪んだ期待さえ抱かせる。

 夫と息子の関係を、妻は知らない。
知らない筈だ、とエルウィンは思う。
クライヴは、母が城にいる時は、エルウィンのはっきりとした許しがない限り、第一王子としての態度を崩さない。
今日のように母が不在であるとしても、城に残る侍女が後になんらかの報告をしないとも限らないからか、クライヴが自ら父に歩み寄る事は滅多になかった。
だから背徳の夜も決して頻繁なことではなく、確実に妻が城を空けている時に限られる。
そして、今だ幼い次男も、憧れて已まない兄が、ふとすれば壊れそうな程に愛情に餓えている事は気付いていまい。

 父の腕の中で、息子はあどけない表情で眠る。
エルウィンはその頬をゆったりと撫でて、この貌を知るのは自分だけだと言う事実に、歪む唇をクライヴのそれに押し付けた。





初出 2023/07/30(Pixiv)

どうしても見たくて書いた父上×クライヴでした。
インモラルで楽しい。需要は私だ。

FF16の物語はクライヴの視点で描かれているので、エルウィン父上は随分と人格者に見えるのですが、彼の思想は大分現代的だなと思いまして。
あの世界の普遍的な価値観の中で、ベアラーの地位向上と言うものを画策するのは、その理由が“資源の確保”や“有限の資源を長く使う為の施策のひとつ”であるとしても、イーストプールで年老いたベアラーがクライヴと目を合わせて話をしたように、あまりにも「奴隷を奴隷らしく扱っていない」ので、奇人変人、更にはそれを個人感覚ではなく国単位に拡げようとしているので、狂人のレベルに思えました。
そもベアラーの一人一人の人権を向上させると言うのは、様々な既得権益、経済への影響が大き過ぎるので、そりゃあ大公派貴族派と分かれて揉めもするだろうなぁ……と。
また母上との婚約についても、中世時代によくある、血に重きを置くが為の近親婚と、そこに政治的策略が十分にあり得る事から、あまりに思想が違い過ぎる彼女との自由恋愛はまずないだろうと思った所がありました。
そんな中で、ドミナントとしての力を持たずして一時とは言え大公の座を持つことになったエルウィンが、強く望まれながらも終ぞ周囲の期待に応えられずに宙ぶらりんにされてしまったクライヴに対して、贔屓は良くないと思いつつも入れ込んでてくれたら嬉しいなあ〜って言う妄想です。