砂漠の蜜


 夜はとっぷりと更けており、砂漠の空気がキンと冴えて冷たい。
クライヴにとって凍える程ではないのは幸いだが、夜の砂漠と言うのは、昼間よりも生物が活発になる。
昼間は暑さを逃れて日陰にいたり、水分を失わない為に砂の奥に隠れている小さな生き物が、餌を求めて顔を出し、それを狙って食物連鎖の動きが始まるのだ。
当然、魔獣や魔物も其処にはいる訳で、故に夜間の砂漠は脆弱な人間にとって危険が跳ね上がる環境なのだ。

 だからこそ、逃げる者にとっては、今こそがチャンス。
クライヴは出来るだけ早く宿場町から離れるべく、砂を踏んで走っていた。
前を歩くトルガルが、急な坂道を上る時には振り返り、主人が追い付いて来るのを待つ。
そして数メートルの距離になると、彼はまた走り出して、クライヴを連れて行くべき場所へと案内した。

 ────その相棒を追う足が、どうにも重い。
は、は、と何度も漏れる息が逸り、砂の小山一つを越えるだけで、無性に心臓の鼓動が早鐘を打つ。
おまけに、この冴えた夜の空気の中、体が異様に熱くて仕方がない。


(くそ……まだ治まらない。どうしてこんな)


 体の重みの原因は、否が応でも分かっていた。
男が中途半端に触った下腹部が、ずんとした感覚を其処に残していて、興奮したように苦しい。
正直、抜いてしまいたくてならないのだが、流石に砂漠の真ん中でそんな悠長な事は出来なかった。
せめて、合流地点となっている廃村まで行かなくては、到底腰は落ち着けられない。

 しかし、時間を追うごとに体は熱に侵食されていく。
頭がぼんやりと霞がかかって来るような感覚まであって、いよいよ不味い、とクライヴは舌を打った。
最早気力と残った理性にしがみついて歩いているようなものだ。


「────クライヴ!」


 呼ぶ声に顔を上げると、丘陵の上に細身の男────シドの姿を見付ける。
俄かに体が安堵して、がくりと膝の力が抜けてしまった。
砂の坂に這い蹲る格好になったクライヴに、トルガルと、砂を滑り降りたシドが駆け寄る。


「おい、無事か」
「……ああ……なんとか」
「傷がある訳じゃないな?」
「問題ない、歩ける」


 立てた膝に手を置いて、自重を支えながら立ち上がろうとするクライヴ。
その手をシドが掴んで肩へと回し、クライヴの体を引っ張り上げるように支えた。

 シドが作戦後の合流地点にと定めた廃村は、宿場町から歩いて三十分強の場所にあった。
天井もとうの昔に崩れたのであろう、石積みの壁だけが建物の名残として立ち並ぶ其処は、人目を忍びたい者にとっては良い休息所だ。

 件の商人が囲っていたベアラー達は、シドの誘導で上手く逃げ出す事が出来た。
事前の打ち合わせの通り、協力者の力を借りて用意して置いたチョコボの足も使ったお陰で、砂漠の魔物に悩まされる事もなく、この廃村まで辿り着く事が出来ている。
そして待機していた別隊に預けた今は、水分補給等を行い、明日の出立に向けて、奥にある傷みの少ない建物で休ませる事になった。
隠れ家への出立は、明日、陽が上り切らない午前の内となるだろう。
それまでは、シドとクライヴも、この廃村で休む事になる。

 シドに支えられながら廃村まで辿り着くまでにも、クライヴの体は熱が上がり続けていた。
眉根を寄せて籠る呼気を零すクライヴを、シドは肩を貸しながらその表情を見遣り、


「お前、何かされたな?」


 廃村の入り口を抜けて、重い体をどうにか運ばせているクライヴを見ながら、シドは言った。
クライヴは緩く首を横に振る。


「いや……確かに奴はそう言うつもりだっただろうけど、その手前で済んだから……」


 男の目的は明らかだったし、危うく持ち込まれそうになったのは確かだ。
しかし、寸での所が合図があったお陰で、クライヴは逃げ果せる事が出来た。

 と、それは本当のことなのだが、シドは「そうじゃない」と言って、


「奴のことだ、酒くらい出して来ただろう」
「……ああ。断る訳にもいかないと思って。時間稼ぎも、薬を仕込む必要もあったし、それで」
「何を飲んだ?」
「ワインだ。何か、妙に甘ったるい……ジュースにしても、少し違うような……」


 頭の芯がふらつくのを感じながら、クライヴはなんとか答えた。
それを受けたシドが、ふう、と一つ溜息を吐く。


「やっぱりな。そいつは多分、サボテンダーから作った薬の類だろう」
「……サボテンダー?」


 聞き馴染のない単語を鸚鵡返しするクライヴ。
シドはトルガルに夜明けまで待機するように言いつけた後、適当な建物を見繕うと、其処にクライヴを運び込んだ。
既に足を引き摺る程度にしか歩けないクライヴを、辛うじて残る天井の影が落ちている場所へと座らせる。


「外大陸にいる生き物で、見た目は歩き回るサボテンだ。そいつから採れたものが、まあ、滋養に抜群に効くって代物で、金持ちの間で高値で取引さてれるものなんだよ。大体は切り身で食われるものなんだが、絞り出した水分や、粉末にしたものもあるって話だ」
「……そんな、ものが……」
「大方、酒に混ぜてお前に飲ませたんだろう。その後のお楽しみの為にな」
「……」


 クライヴの舌に、ワインを飲んだ時の異様な甘さが思い出される。
ワインなど銘柄に詳しくもなく、それ程味を知っている訳ではなかったが、異常な甘さはそれも原因だったのかも知れない。


(そんなものを、二杯も……)


 一杯目を飲んだ後から、体は熱を帯びていた。
その時は、飲みなれないワインだからかと思っていたが、あの時点で既に男が薬を盛っていたのなら、早々に現れた反応があれだったのかも知れない。
時間稼ぎの為にもう一杯を強請った時、男が気前よく二杯目を用意したのも、薬の効果の上乗せを期待していたからか。

 あれから一時間近くは経った筈だが、体の熱は一向に収まる気配が見られない。
寧ろ、クライヴの下腹部はどくんどくんと血が集まっていて、張り詰めたものが痛みまで訴えて来る。
はあ、と零れる息に熱が籠り、廃村へと向かう道中に理性で抑え続けていたものが、今にも爆発しそうな程に昂っていた。

 大して掴むものもない手を握りながら、クライヴは虚ろな目を彷徨わせている。
その顔が、頬が赤らみ、苦しげに細められた眦に薄らとした雫が浮かんでいるのを、シドは苦い表情で見ていた。

 シドの伸ばした手が、クライヴの刻印のある頬へと触れる。
ほんの数十分前、其処に悍ましい手が触れていたことを思い出したが、今はあの時のような気持ち悪さは感じなかった。
それよりも、シドが触れた場所から、ぞくぞくと官能の兆しが奔るのが分かってしまう。


「……っは……う……」
「…酒と一緒に飲んだ所為だな。悪い相乗効果だ」


 頭の芯がぼやけた感覚で、ぼうと虚空を見つめるクライヴを見て、シドは溜息交じりに言った。


「お前、このまま眠れそうか?」
「……う……無理、だ……」


 問う声に、一度は頷いてみようとしたクライヴだったが、ずきずきとした痛みに正直に白状した。
せめて今昂っているものだけでもどうにかしなくては、到底休める気がしない。


「は…ぁ……、シ、ド……」


 必然、縋る手を傍にいる男に伸ばさずにはいられなかった。
自己処理で済ませれば良いと言う考えも頭の隅にはあったが、クライヴが本当の意味で熱を吐き出せるのは、後ろの刺激からだ。
それは自分自身だけではどうしても到達できないもので、相手と言うものが必要だった。

 頼るものを他に持たないクライヴの、懇願の混じった声に、シドの首の後ろにじわりとした感覚が滲む。
伸ばされた腕を掴んで、自分の首へと回してやれば、ほうと安堵するようにクライヴが息を吐いたのが分かった。


「シド……」
「脱がすぞ」
「ああ……」


 服の裾からするりと侵入して来る手。
皮膚の上を滑って行くだけのその感触さえ、クライヴの体を戦慄かせるには十分だった。
普段のセックスで、これだけの事で感じた事もないと言うのに、今日は皮膚感覚が極めて敏感になっている。
おまけに頭の芯がふわふわとしている感覚があって、クライヴは初めての酩酊のようなものを感じていた。

 その中で、ゆっくりと腹を辿り上って行くシドの手の形が、普段よりも随分とはっきりと分かる気がする。
同じ場所を男が弄り回していた時には、気持ちが悪いばかりだったのに、


「……きも、ち……いい……」


 夢心地に似た感覚の中で零れた声は、無意識のものだった。
当然、それが吐息とともに、すぐ其処にあったシドの耳を擽った事など、クライヴが知る由もなく。

 ベストの前が解け、開かれる。
シャツの裾が胸の上まで捲り上げられて、ひんやりとした空気が肌に直に触れた。
砂漠の空気は冷たく冴えたものだったが、熱に侵された体には、その程度のものは芯を冷やすには足りない。
腹筋の割れた逞しい腹を、シドの手が撫ぜながら、彼の頭が胸部へと近付いた。
口の隙間から覗いた舌が胸部の微かな膨らみに当たった瞬間、ビクンッ、とクライヴの体が顕著な反応を示す。


「っあ……!」


 其処から電気が走ったような気がして、クライヴの背が仰け反る。
上がりかけた声を、咄嗟に手甲を噛んで堪えた。

 ふーっ、ふーっ、と息を荒げるクライヴに、噂以上の効き目だと、彼が仕込まれたと思しき妙薬の効果をシドは悟る。
切り身をそのまま食すだけでも、中々の代物だと言うのだから、酒と一緒に胃に入れてしまえば、その吸収もまた早いだろう。
普段、酒には滅法強い筈の男が、たったこれだけの刺激で意識を浮かしかけているのだから、俗に言われるその効果は噂だけではなかったようだ。

 クライヴの腰帯を外しながら、シドは彼の胸に愛撫を与え続ける。
鍛えられた筋肉は、緊張した状態にあると、平時よりも感覚神経が鋭敏になっている。
それを舌でゆっくりと舐めてやるだけで、クライヴは身を捩って悶える程の官能を得ていた。
その証左のように、彼の胸の蕾は膨らみ色付き、脚衣の奥では性器が其処で窮屈そうに苦しんでいる。


「ふ……、ふ、ぅ……っん……!」
「きついなら無理に我慢はするなよ」


 この状態で、何を理由に衝動を堪えた所で、自分を追い込んでいくだけだ。
とは言え、気休めにもなりはしないだろうとは思いつつ、シドは宥めるようにそう言った。

 前を緩めて、下着と一緒に脱がしてやれば、立派な一物がすぐに頭を持ち上げていた。
薬を盛られてから約一時間、堪えながら砂漠を越えて来るのは、相当な精神力を費やしただろう。
シドが念の為にと砂漠を戻っていなかったら、何処で動けなくなっていたか分かったものではなかった。

 ようやくその窮屈さから解放されて、クライヴの唇から気の抜けた吐息が漏れる。
先端から既にじわじわと汗を滲ませているのを見て、シドはそれを右手で包み込んだ。


「うあ……っ、シド……ん……っ!」


 直に自分自身を握られていると言うだけで、クライヴの先端からとろりとカウパー液が溢れ出す。
引き締まった腰が、びく、びく、と痺れに似た甘い衝動に捕まって震えていた。


「こいつは、ちょっと可愛がるだけでイきそうだな」
「っは……ふ、ふぅ……っ」
「……俺のも準備しておいた方が良いな」


 縋る瞳が見上げて来るのを見て、その瞳から醸し出される艶色に、シドも当てられつつある自分を自覚する。

 シドは前を緩めると、膨らみつつある自身を取り出して、クライヴの一物にそれを添えるように宛がった。
竿同士が擦れ合う二本をまとめて握ると、互いの脈の感覚が具に伝わってくる。
そのままシドが手を上下に動かしてやれば、


「はっ、あっ、うぁ……っ!」
「っ……ふ、く……っ!」


 喉を反らして喘ぐ声が、半壊した低い天井に跳ね返って響く。
クライヴの先端から染み出した汁が伝い流れて行き、二本の竿を扱くシドの手を濡らす。
ぬるりとしたそれを全体に塗り広げるように擦り続ける内に、シド自身も、クライヴの芯に劣らぬ大きさまで膨らんで行った。

 我慢し続けていたものが、熱の放出を求める衝動に、クライヴが抗うように身を捩る。
しかし、シドの手で刺激を与えられている下半身は、とうの昔に抵抗の力を失っており、快感の波に打たれるようにビクッビクッと腰が不自由に跳ねるばかり。


「は、はあ、シド……っ!ちょっと、待……っあ……!」
「ん……」
「あぁ……っ!」


 れろ、とシドの伸ばした舌が、クライヴの胸の蕾を舐める。
ぞくぞくとしたものがクライヴの体を駆け抜けて、肉付きの良い体がまた大きく撓った。


「ふ、はぁ、あぁ……っ!く、う……来る……っんん!」


 汗ばみ始めたばかりのシドと違い、クライヴはもう昂ってから随分な時間が経っている。
まだ触れられているだけなのに、中に熱を与えられた訳でもないのにと、形骸もしかけた男の矜持が喚くが、アルコールと一緒に胎に入れてしまったものが、その抵抗を呆気なく崩していく。


「う、あ……!あっ、あぁぁ……っ!!」


 なけなしの意地で押し殺した声でも、それは高い音を帯びていた。
シドの手の中で、ぎゅうっと雄が握り締められて、其処に触れるドクドクと言う脈動にも促されるように、熱の奔流が出口へ迫る。
駄目押しに乳首をあやすように柔く食まれた瞬間、脳が一瞬真っ白になって、堪え続けていたものが遂に破裂した。

 びゅくんっ、とクライヴの雄が頭を震わせながら精を吐き出す。
綺麗に六つに割れた腹に白濁液が飛び散って、体温で温かくなったそれがどろりと粘り気を帯びて伝い流れて行く。
その感触だけで、また腹の奥底がぞくぞくとした。


「…っは……あっ……ふ、ぁ……っ」


 理性で留め続けていた熱を吐き出した解放感で、クライヴの瞳がとろりと力なく蕩ける。
はぁ、はぁ、と吐息を零す唇の隙間から、唾液を纏わせた舌が覗いていた。

 シドは丸めていた背を伸ばして、片手でクライヴの顎を捉えた。
宙を彷徨う蒼の瞳を見つめながら、呼吸の狭間にある舌を舐めてやれば、ゆるりとその口蓋が開く。
ちゅぷ、と水音を立てて重なった舌を絡め取るシドに、クライヴはされるがままにそれを受け入れていた。


「ん、あ……ふ、ふぅ……んむぅ……っ」


 ぴちゃ、ぴちゃ、と唾液を交換し合う口付け。
艶めかしいものが咥内を弄る感覚は、以前は悍ましいばかりだったのに、この男と交わすと奇妙に心地良さが勝る。

 クライヴの中心部は、まだ大きさを保っている。
一度熱を吐いた事で、収まる所か、其処の感度はより一層増していて、シドの指先が緩やかに遊ぶだけで細やかな快感があった。
段々とそれが物足りなさまで呼んで来て、クライヴは身を捩っては腰をくねらせ、シドの手と彼の一物に、自分自身を擦り合わせていた。


「ふ……は…んっ……あ、あぁ……っ」


 ゆらゆらと淫靡な仕草を見せながら、クライヴはシドの首に回した腕に力を籠める。
絡まるシドの舌を誘い出し、ちゅうっと吸い付けば、ぴくりとシドの肩が反応を示すのが伝わった。

 吸っていた舌が逃げて、クライヴはああ、と吐息が漏れた。


「っは……シド……っ」
「そんな泣きそうな顔するなよ。がっつかれちゃ、こっちが持たない」
「……苦しい、んだ……まだ、熱いから……っ」


 縋り身を寄せる青年が、目尻に涙を浮かべて訴える様子に、目の毒だな、とシドは片眉を下げる。
無表情でいれば不愛想な傭兵に見えるのに、眼が濡れるとどうにも嗜虐を煽る顔になるのだから、シドは苦笑しつつ、


「間に合って良かったよ」
「は……?っふ、あ……っ、」


 件の商人の前で酔い潰れる前に、抜け出す合図が届いて良かったと───零れたシドの呟きに、クライヴが何の事だと問う暇もなく、シドは手淫を再開させた。


「や、扱いたら……っんぁ……!」


 勃起した二つの肉棒が、シドの手の中で与えられる刺激に戦慄いている。
クライヴの雄の方はその反応がより顕著で、我慢を忘れたように、蜜汁が鈴口からとろとろと溢れ出していた。


「あ、あっ、シド……っ!ん、ぅう……!」
「ふ…っ、は……っ、色っぽい顔すんなよ……」
「う、んぁ、知らない、そんな……あっ、はっ、はぁあ……っ!」


 じっと見つめる男の視線を感じながら、クライヴはゆるゆると頭を振る。
そうして汗を滲ませ、濡れた眼を逃げるように逸らす青年の、横顔から醸し出される匂いと艶香に、自覚がないと言うのも大変な事だとシドはまた独り言ちた。

 シドの指がクライヴの鈴口を捉え、孔をくりくりと穿ってやると、クライヴは大きく背中を撓らせて息を詰まらせた。
ビクビクッビクンッ、と腰が戦慄いたかと思うと、びゅるっ、と堪え切れなかった蜜が弧を描いて吐き出される。
それはクライヴの胸に飛び散って、いやらしく彼の体を彩るものになっていた。


「ふっ、うぅ…あ……っは、シド……っ」
「ん?……舐めるか?」


 名前を呼ぶ声に応じれば、濡れたブルーアイズが、湿った熱を持ってシドの雄を見つめていた。


「お前の準備もしないとな」
「……ん……」


 シドの言わんとする所を読み取って、クライヴが起き上がった。
クライヴは手甲を外し、仰向けになったシドの体の上に、頭と足を反対の位置にして覆い被さる。
勃起したシドの雄が、クライヴの直ぐ目の前にあって、剣胼胝のある手が柔らかくその竿を包み込んだ。


「ん……ふ……」


 躊躇わずにクライヴの唇が膨らんだ雄に寄せられて、ちゅぷり、と鈴口に吸いつくようにして食らい付いた。
ねっとりとした唾液を帯びた舌が、汗を掻いているシドの雄肉を丹念に嘗め回す。
右手の指先を竿の根元に宛がい、其処にある神経をすりすりと摩って刺激した。

 血が下半身に集まって行くのを感じながら、シドはクライヴの肉の乗った尻に手を添える。
中央にはヒクヒクと伸縮を繰り返している菊座があり、その縁へと指を宛がうと、ビクッとクライヴの腰が戦慄いた。
咥内に納めた雄に、はあ、と籠った吐息が当たって、勃起した雄をしゃぶる舌が益々シドの熱を煽ろうとしている。
それによって分かるのは、クライヴ自身が何よりも熱に苛まれ、一刻も早い本尊の侵入を待ちわびていると言う事だ。

 シドがヒクつく淫部に指を押し付ければ、ぬぷりと容易く飲み込まれる。
中はまるで感じた後のように熱く蕩け、絡み付くようにしてシドの指をきゅうきゅうと締め付けて見せた。
その中で指を軽く動かしてやると、くちゅりといやらしい音が鳴る。


「お前、本当に未遂で済んだんだろうな?」


 淫音を立てる中を掻き回しながら問うと、くぐもった声と共に、頭が小さく頷いているのが分かった。


「ん、ん……っふ……っ!」
「それなら、これも例のお薬の効能って奴かね」
「んふぅんっ……!」


 埋めた指をぐるりと回転させてやれば、クライヴの体がビクンッと顕著な反応を示す。
中は益々締め付けを増し、それでいてシドをより奥へと誘い込もうと蠢いていた。

 秘奥から分泌された蜜は、クライヴの陰部を隅から隅までぐっしょりと濡らしている。
それを指先で掬いながら塗り広げられて、クライヴは壁をなぞる指の感触を得る度に、ぞくぞくとした官能に襲われた。
勃起した自分自身から、とろとろと雫が絶えず零れているのが分かる。


「ん、んんぅ……っふ、はふ……ん、ちゅぅう……っ!」


 快感に溺れるのが無性に心地良くて、気を抜くと簡単に果ててしまいそうだった。
それを寸での所で堪えさせているのは、理性ではなく、余りに早くに終わるのは寂しい、と言う気持ち。
このふわふわとした心地良さに、もっと長く浸っていたいと、本来のクライヴの性格ならば浅ましささえ感じたであろう心地が、熱に浮かされた彼の心を支配していた。

 シドをしゃぶるクライヴの口淫も積極性を増して行き、太いそれを喉奥で咥え込む。
少し息苦しくはあったが、無理やり押し込まれている訳ではないからか、嫌な感覚にはならなかった。
寧ろ、咥内で硬くなって行くそれが、直に自分を満たしてくれるのだと思うと、どうしようもなく待ち遠しさで興奮してしまう。

 シドの視界の端で、勃起したクライヴの雄がぴくぴくと震えていた。
それを徐に握って軽く擦ってやると、クライヴはくぐもった喉声を漏らしながら、ビクッ、ビクッ、と躰を震わせる。


「んっ、んぉっ、おふっ……!ふ、んんぉ……っ!」


 シドの手の中で、クライヴの一物がまた大きくなって行く。
切迫感に悶えて体を捩るクライヴに、追い打ちとばかりに秘穴の更に奥へと指を突き入れれば、


「んっ、んぅぅうっ!おくぅうっ!」


 雄をその口に咥え込んだまま、クライヴは全身を痙攣するように戦慄かせて、絶頂した。
シドの手で絞られた肉棒から、びゅるるっ、と勢いよく白濁液が吐き出され、同時に秘穴は悦びに震えながら咥え込んだ指を一際強く締め付けていた。

 高く突き出す格好になっている腰を小刻みに震わせて、クライヴは上り詰めた余韻に浸っている。
シドは、絡み付きを止めない直腸の天井に指の腹を押し付けて、壁を撫でるようにゆっくりと添わせながら指を引き抜いて行った。


「あ、んぁ……っ!ああ、あ……っ!」


 果てたばかりで敏感なままの内側を、丁寧な愛撫で苛められて、クライヴの口からは甘い声が零れる。
内壁は逃げて行く指を引き留めようと吸い付いては、濡れそぼった媚肉でもう一度奥へ来て欲しいと誘っていた。
それは大変魅惑的な誘いではあるのだが、クライヴが本当に欲しいものが指では到底足りない事は、シドもよくよく知っている。

 官能に意識が攫われて浮いたままのクライヴの口から、シドは自分自身を抜いた。
んぁ、と小さく零れる声を聴きながら、馬乗りになっているクライヴの下から抜け出す。
クライヴの口淫で隅々まで唾液に濡れそぼった雄は、十分な質量と固さを備えていた。


「クライヴ。挿れるぞ」
「……は……ん……っ」


 シドの声に、ようやく、とクライヴの瞳に喜びの色が滲む。
二度の絶頂を見ても、まだ浅い部分でしかそれを得ていないからか、体を蝕む熱は一向に引く気配がない。
それ所か、尽きない物足りなさで待ち惚けを食わされている気さえして、やっと貰えたシドの合図に、体が期待と興奮を得てしまう。

 穴口を薄く開き、宛がわれたものを迎えようとしている其処に、シドはゆっくりと腰を押し進めた。
太く逞しいものが入り口を押し開き、中へと侵入して来る感触に、クライヴの口から蕩けた声が溢れ出す。


「あ、あ……ああぁ……っ!」


 響くその声に、ごくりとシドの喉が無意識に鳴った。
普段は隠れ家の皆からも隠れるように、そして過去に躾けられた経験からか、声を抑え気味のクライヴだが、今日は随分と開放的だ。
酒と一緒に含んだ代物の所為で、理性の蓋が緩みかかっているようで、恥じらいやセックスへの抵抗感そのものが薄れているのかも知れない。

 シドはクライヴの引き締まった腰を掴んで、律動を始めた。
濡れた直腸内は、奥から分泌される汁が潤滑油になって、異物の侵入への抵抗をすっかり忘れている。
代わりに絡み付いて来る媚肉は、滑らかで生々しく、女のそれと比べても各段に気持ちが良い。
だからシドは、こうして体を重ねながらも、悪戯に嵌らないようにしているのだが、


「あ、っ、ふ、あっ……!んぁ、そこ……あっ、もっと……!」


 天井の壁をゴツゴツと穿つように突き上げてやると、クライヴは甘えるような声でそう強請った。
その通りに、彼の反応が特に良い所を狙って雄を突き入れれば、高い声が上がって内肉が喜びに戦慄いて涙を溢れさせてくる。


「ああぁっ……!はっ、はぁ、うぁ……っんん!」
「は……っ、また締め付けてきたな……っ」
「ふっ、ふぅっ、うぅん……っ!はぁ、はあっ……、あっ、あぁ……っ!」


 シドの律動に合わせて、クライヴも自ら腰を揺らし、より深くに雄を招き入れようと誘う。

 絡み付く肉壁は、自らの欲望に従って快感を貪りながらも、その全身でシドへの奉仕も忘れていなかった。
クライヴが腰を捻り、中の路が僅かに角度を変える度に、行き当たった場所が都度にシドを締め付けて来る。
そのどれもが、奥は柔らかく包み込みながらも、入り口はシドの根元をぎゅうっと強く締め付けて来るのだ。
まるで其処に集まっているものを絞り出そうとする動きに、シドも気を持って行かれないようにと歯を噛むので大変だった。

 規則的だったシドの律動も、じわじわとそのストロークが短く、早いリズムになって行く。
クライヴは、自分の中でシドが脈を打って膨らんでいくのを感じていた。


「はっ、シド、中に……もっと、奥に…っ、来てくれ……っ!」
「ふぅ、っく……ったく、お願いされたんじゃあ、仕方ねえな……っ!」
「あっ、うぁっ、ああ……っ!」


 シドはクライヴの片足を掴んで、大きく持ち上げて股を開かせた。
肩に担いで、太腿を押すように体を寄せて腰を密着させれば、二人の繋がりはより深い場所へと到達する。


「んんぅうぅ……っ!」
「キツいか……?」
「っ、ふっ、いい、んん……っ!だい、じょうぶ、だから……もっと、あっ、あぁ……っ!」


 太い雄に奥壺まで侵入されても、クライヴの表情は恍惚としていた。
熱に溺れた瞳が、ようやく、とその喜びを滲ませている。
内部はもっと露骨で分かり易く、とろとろに蕩けた蜜壺がうねるように動いて、シドに絡みついて締め付けていた。

 穴の開いた天井の向こうで、冷たい風が砂を巻き上げている事も構わずに、肌のぶつけ合う音が繰り返される。
空気は乾いている筈なのに、まぐわいの続くこの場所だけが、妙にじっとりと湿って、性の匂いで溢れていた。


「うあ、あっ、んぁっ……!はっ、シド、あっ、そこ……う、んんっ!」
「く、は…、はっ、はっ……!」
「あ、あ、シド、シド……っ!また、来る、ぅあ、あっ、あぁ……!」
「ああ、イって良いぞ……っ!」
「はっ、はっ、ひ、あ……!」


 何度目かの限界が近いことを訴えるクライヴに、シドは彼の深い場所を穿ちながら促した。
びくびくとクライヴの内部が大きくうねったかと思うと、クライヴは喉を仰け反らせて四肢を強張らせていく。


「はっ、はーっ、んぁっ、ああ……!イく、ぅ、んんんんっ!」


 過ぎる快感を受け流す事を知らないまま、それを与えられる衝動だけを覚えた躰は、一際奥を突き上げられた瞬間に上り詰めた。
噛んだ唇の奥から、抑えきれない嬌声を溢れさせながら、クライヴは秘奥からの刺激に意識を飲み込まれていく。

 既に繰り返し絶頂した後だからか、クライヴの雄から噴いた精子は、幾分か薄くなっていた。
さらりとした水っぽさと混じった白濁が、均整のとれた腹やら太腿やらを濡らして、糸を引きながら肌を伝い流れて行く。
そして雄を咥え込んだ媚肉もビクビクと震えながら、其処を支配しているものを全身で搾り取らんばかりにしゃぶり尽くし、


「っは、出るぞ、クライヴ……っ!」
「あ、ああっ……!あつ、ん、あぁぁあああ……っ!!」


 どくん、と中でシドが脈打ったかと思った直後、熱い欲望の塊が奥へと注ぎ込まれる感覚に、クライヴは一等高い声で啼いた。
同じ性でありながら、それを与えられる喜びを教え込まれた体は、今日一番の歓喜を得たように、ビクンッビクンッと腹を波打たせている。
直腸が其処に注ぎ込まれる熱の感触を得て、また奥からとろりと卑しい蜜を溢れさせていた。

 きゅう、きゅう……と切ない戦慄きを示しながら、締め付けの止まない肉孔から、シドはゆっくりと自身を抜いて行く。
欲を吐き出して幾らか納まった筈の雄は、そうして媚肉を舐めている内に、粘ついた肉の感触で早々に熱を取り戻そうとしていた。
それをクライヴも、内肉越しに感じる逞しさから感じ取り、


「ふ……うぅ、ん……っ」
「うっ……!こら、締め付けるな」


 半分まで抜いた所で、秘穴の口がぎゅっと露骨な締め付けを示して、シドの腰に痺れに似た快感が奔る。
意図的と分かる行為に、片眉を潜めて青年を叱るが、言われた当人はまだ蕩けた瞳を浮かべていた。


「は……まだ…熱い……から……もう、一回……中に……」


 クライヴは自らの手を下肢へと導くと、まだシドを咥えたままの口に指を触れさせた。
中途半端に埋められた状態の竿の裏筋を、指先が辿るように滑る。
びくりと雄が反応を示すのを秘穴から感じ取って、まだシドに余力がある事を確かめたクライヴの唇が嬉しそうに歪んだ。

 ふうっ、とシドは息を吐いて、また腰を前へと進めた。
半端に抜けていたものが、ずぷずぷと胎内に戻って行くのを感じて、クライヴは唾液塗れの舌を覗かせながら光悦とした表情を晒す。


「は、あ、ああぁ……っ!入、る……中に、来る、ぅ……っ!」
「あんまり年寄りを煽るなって言ってるだろ」
「あんた、だって……んぁ、あ……っ!全然、萎えて、ない……くぅ、んぁぁ……っ!」
「誰かさんがいつになくやらしい顔するからな」
「ん、くふぅっ、あぁ……っ!また、奥に届く……んん……!」


 艶めかしい肉壁の味わいを堪能しながら、シドの雄は先と変わらない質量まで戻っている。
そのまま腰を動かしてストロークすれば、肉が擦れる快感でシドの雄はすっかり硬度を取り戻し、力強くクライヴの腸壁をゴツゴツと突き上げ始めた。


「あっ、はっ、はっ、はぁっ!シ、シド、そこ、もっと……!あ、当たると、腹の中がっ、んぁ、気持ち良く、て、震え……っ!っあぁあ……!」


 刺激が欲しいと絶えずねだるクライヴの弱点を、シドは遠慮なく突き上げた。
下腹部から一気に脳まで駆け抜ける官能で、クライヴは前後不覚に陥る程に酔っていた。
シドが中を擦り上げる度に、胎の底からぞくぞくとした感覚が上って来て、内臓まで支配される。

 クライヴの手が、腰を掴むシドの腕を捕まえる。
シドはそれの手を取り直すと、クライヴの体を持ち上げて、胡坐を掻いた自分の膝の上へと乗せた。
雄を咥え込んだクライヴの体が、自重でずぷずぷと肉棒をより深くまで咥え込む。


「あぁああ……っ!」


 クライヴは喘ぎながら、シドの首に捕まって、自ら腰を振り始めた。
奥に注ぎ込まれたシドの精液が、直腸の中を流れ落ちて来る。
其処に太い肉棒が、その道を一杯にしながら何度も何度も上下運動で出入りを繰り返し、ぐちゅっぐちゅっと言う淫音が鳴った。


「はあ、あ、あ、シド……!気持ち、良い、んぁ、ああっ、奥に、あんたが当たるの、良過ぎて、止ま、らない……あぁあっ!」


 腰を下へ下げると同時に、シドが秘奥を突き上げれば、最奥の壁に固い亀頭がごつりと当たった。
縋り付いて耳元で声を上げるクライヴの痴態に、シドは汗を額に滲ませながら、自分もまた冷めない興奮に脳をやられている事を自覚していた。


「お前、明日、大丈夫なんだろうな?」
「あ、あふっ、んぁ……っ!はく、ふっ、何、あっ、はぁっ……!」
「明日も砂漠越えなんだぞ……っく、こら、締め付けんなって……!こっちも終わらなくなるだろう」
「う、んっ、ふぅ、んん……っ!シド、んぁ、うっ、はぅぅ……っ!」
「っは、聞いちゃいないか……明日になったらどんな顔するんだかな」
「は、はーっ、あつ、あぁっ!あふっ、んっ、んぁああ……っ!」
「ったく、ほら、こっち向け」
「ん、んむぅ……っ!」


 自分自身に冷静であるように、青年を叱って見せるシドだったが、相手はまるで聞いていない。
平時の不愛想な表情筋の頑なさは何処へやらと、濡れた瞳を縋るように向けて来るクライヴに、シドは子供をあやす気分で、絶え間なく喘ぐ唇を塞いだ。

 唾液塗れの舌を絡ませ合い、わざとらしく音を立てながら、シドはクライヴの咥内をたっぷりと舐ってやる。
舌の根の裏側を擽ってやれば、クライヴは咥内までが性感帯になったように、ぞくぞくとした感覚が首の後ろを駆け抜けた。


「ん、ん……っ、は、ふぅ……んぅっ、んっ……!」


 官能を与えるキスに夢中になりながら、クライヴは蜜壺でも快感を貪っている。
逞しい肉棒で丹念に耕された媚肉は、強い締め付けを失わないながらも、艶めかしく濡れて、心地良くシドを包み込んでいる。
それがいつになく積極的に絡み付いて来るように思うのは、クライヴの意識から理性と言うものがそっくり溶けて流れてしまっている所為だろう。


「んふ、っは、はぁ……っあ、あ、あっ……!」


 唾液を引きながら唇を離せば、クライヴはうっとりとした表情を浮かべて、まだ腰を振っている。
虚ろな瞳は、自分が今何をしているのかを正常に理解しているとも思えなかったが、シドは彼が満足するまで好きにさせる事にした。
どうせ今夜のクライヴには、もう何を言っても理性を呼び覚ます事は出来ないだろう。


「っは、シド、シド……あっ、ふ、熱い……苦し、の、まだ……来てる……奥が、疼いて、止まらない……っ!」
「もうちょっと腰下げろ。その方がイイ所に当たるだろ」
「ん、ぁああ……っ!はあ、ああ、んっ、イイ……っ!だから、シド、あんたも、もっと……っ!もっと、動いて、っああ……!」


 何より、繰り返し耳元で囁きねだる声が、薬を飲んだ訳でもないシドの熱も煽ってくれる。
この声が止むまでは、今夜は眠れないのだろうと腹を括って、シドは縋る青年の体を抱き寄せた。




 仮眠程度に眠れたのはシドにとっては幸いだった。
起きた時に腰は痛むし、瞼は重いしで、コンディションは最悪だったが、あれだけの労働をして不眠のままよりはマシだと思う事にした。

 そしてクライヴはと言うと、どうやら昨晩の事は、そこそこ記憶に鮮やかであるらしい。
起きて直ぐは寝惚けている事もあってぼんやりとしていたが、水を一杯飲ませると、意識は程なく明瞭になった。
それから躰のあちこちに残る感覚からか、昨晩の出来事を思い出したようで、人魂を飛ばすように深々と溜息を吐いていた。

 クライヴが其処まで昨夜のことを後悔するのも無理はなく、彼は昨晩中、盛った獣のようにシドから離れようとしなかったのだ。
快感を得る度に、強い幸福感や充足感があって、どうしようもない心地良さに溺れていた。
どうやら件の商人は、気に入ったベアラーには同じ手法で妙薬を飲ませていたようで、今回保護した者の中にも、同じやり方で手籠めにされた者がいる。
そうして一晩かけてベアラーを自分のものにして、金に物を言わせて前の主人から買い取り、後は飽きるまで延々と食い物にしていたと言う。

 そんな環境にいたのだから、あのベアラーの少年が怯えた表情をしていたのも無理もない。
クライヴがあれだけ理性を放逐してしまった事を考えると、並のベアラーがどんな風になってしまうのか、想像するのも気が悪くなると言うものだ。
其処からシドの手によって解放された事を、ベアラー達は涙を浮かべて喜んでいた。

 太陽が高くならない内に、件の宿場町からより遠くへ向かう為、一行は出発の準備を整えていた。
荷物の確認、装備の手入れと、手短ながら急ぎ整えていた所で、


「────で、お前の体の何処かに異常は残ってないか?」


 シドがそう訊ねると、クライヴは旅装を整えた格好で、重怠さのある仕草を見せつつ、


「……今の所は。昨日は馬鹿みたいにずっと体が熱かったけど、それもなくなってる」
「それなら直に出発も出来るな。ベアラー達もいるし、野盗や魔物も出るルートは出来るだけ避けるつもりだから、お前は一応の警戒だけして置いてくれれば十分だ」
「分かった」
「何かあったらすぐに知らせろよ。お前が昨日飲まされた物は、後遺症の類はあまり聞いた事がないから、余程の事がなければ大丈夫だとは思うが」
「……ああ」


 昨夜の自分の醜態を思い出しているのか、クライヴの頬に微かに赤みが浮いている。
あられもない行為に耽り、それに心地良さすら感じて夢中になっていた事は、今になってクライヴに結構な羞恥心を与えているに違いない。
「……あんなものがあるなんて……」と小さく零れる呟きに、生き汚く生きてきた割りには擦れていないんだよなと、その稀有な気質にシドはこっそりと感心していた。

 シドは懐から煙草を取り出して火を点けると、久しぶりに感じるその煙の味をたっぷりと灰に送り込んだ。
今日も太陽の恩恵が暑苦しくなるであろう砂漠の空を見上げつつ、


「お前が飲んだ物は貴重品だから、早々お目にかかるもんでもないとは思うがな。世の中には、あんな代物があるってのと、ああ言うものを使えば、お前でもどうにもならなくなる事があるって事は、よく覚えておいた方が良い」
「……そうだな」
「ま、アレのお陰で素直に甘えて来るお前は、見てる分には可愛げがあって悪くなかったけどな」


 昨夜、何度となく縋っては請うようにねだってきた姿をも思い出しながらそう言うと、青い瞳がじろりと此方を睨んできた。
赤い顔で苦々しい表情を浮かべるクライヴに、シドは肩を竦めて見せるのだった。





初出 2023/10/07(Pixiv)

サボンテンダーの切り身とか言うものが、煎じて飲めば衰え知らず、熱い夜のお供になるそうで。
その張り紙のあるのが宿場町ダリミルで、あそこは温泉もある訳で、色々と便利に使える場所な訳で。
こんな有効アイテムを使わない手はないだろうと言う気持ちで書いた。

外大陸からの輸入品である上、謳い文句として「伝説の」と枕詞がついているので、それなりに値段は吊り上げられていそうだなと思ったのと、感じの悪い金持ちに迫られて拒否したいけど出来なくて歯噛みしてるクライヴが見たかったんです。
クライヴは理性が強そうですが、それはそれとして性欲もまあまあ強そうで、理性や羞恥心が飛んだら凄そうだなと思っている。