この緩やかな檻の中で


 ちょっと宜しいですか、と声をかけられて、最初に思うのは、またか、と言う事だ。
どういう訳だか知らないが、或いは度々言われるように、厳めしい顔つきの所為なのか。
最早慣れてしまったことと、顔を顰めることすら面倒ではあるが、然して痛くもない腹を懇切丁寧に探られるのは、決して気持ちの良いことではない。

 だが、そうは思っても相手は公僕である。
あちらはあちらで仕事であるし、こちらも疚しいことがないのだから、堂々とそれに応じるのが筋と言える。
寧ろ、此処で下手にうろたえるような素振りを見せる方が悪手だ。
何か怪しい事をしているのかも知れない、と思われたら、白い箱にも黒ずみが出来る程に調べられなければ、解放されないのだから。

 名前は、住所は、此処で何をしていたのか。
何処からどうやって来たのか。
既に何度となく聞かれたことのある事柄を、溜息を漏らしたいのを堪えて返答する。
毎度に聞かれることであるから、そうも怪しむ者なら、そちら側で情報を共有してはくれないものか。
そんなことを思いもするが、自分が真っ当な生き方をしている限りは、そう言うことにもならないのだろう。
犯罪者なら情報は回るだろうが、生憎とこちらは純たる一般人であり、法に触れた生き方はしていない。
それを思うと、情報共有されていないこと、都度にいちから質問をされるのは、ありもしない罪状が触れ回られている訳ではない、とも考えられる。
……等と理屈をつけたところで、不可避の遣り取りに面倒を思う気持ちも消えないが。

 ともあれ、早く連れに戻って来て貰いたい。
自分が何を言った所で、目の前で執務に殉じる公僕は、疑う眼を辞めないだろう。


「ふむ……身分証明になるものはありますか?」
「免許証、個人番号カード、パスポート。必要ならば全て出せる」
「ああ……それじゃ、免許証と、パスポートをお願いします」


 荷物を探り、指定されたものを提出する。
目の前の男は、両目を眇め、それをよくよく観察した。

 と、其処で此方に駆け寄ってくる小柄な人影があった。


「バルナバス!」


 名を呼ぶ声に、ようやくか、と振り返る。
其処には、人混みをやや窮屈そうにすり抜けながら、こちらへ急ぐ女性が一人。

 女性はバルナバスの下まで来ると、詰問している警察官を見て、目を丸くした。


「あの。すみません、彼が何か……?」
「ちょっと職務質問をしておりまして。失礼ですが、あなたは?」


 警察官は女性をじっと見つめている。
その視線は、バルナバスに向けられていたものに比べると、幾分か柔らかい。
威圧的な空気を抑えるよう、意図して表情を作っているのが感じ取れる。


「俺……ええと、私は、彼と一緒に散策をしていました。さっきはちょっと、電話があったので、向こうで話していて。終わったので、戻ってきました」
「あなたと、こちらの男性の関係は?」
「その───恋人、です」
「ああ、そうでしたか。失礼ですが、身分証明になるものの掲示をお願いしても宜しいですか」
「はい。ちょっと待って下さい」


 警察官の言葉は強制を持ってはいなかったが、女性はすぐに頷いた。
腰のポーチに入れていたカードケースを取り出して、免許証を探す。

 差し出された免許証を見て、警察官の眼が見開かれた。
驚愕を示すその表情に、女性は不思議そうに首を傾げ、傍らでバルナバスはこっそりと溜息を漏らす。
自分が職務質問に捕まった時は、こうなる所までが最早セットとなっていた。


「どうかしましたか」
「あ、ええ、いえ。確認しました、ありがとうございます」


 警察官は免許証を女性に返して、バルナバスを一瞥した。
その眼は幾許かの疑念が晴れないことを指していたが、ともあれ、バルナバスに疚しい所がない───と言うよりは、咎め立てされる理由になり得る所が消えた、というのが正しいか。
警察官は取りも合えずに姿勢を正し、バルナバスと女性に対して敬礼のポーズを取った。


「長くお引止めしましてすみません。お時間をありがとうございました」
「……行って良いな」
「はい。どうぞ」
「すみません、ありがとうございます」


 警察官は努めて穏やかな表情を浮かべていた。
それに女性がぺこりと頭を下げて、バルナバスに「行こう」と促す。
バルナバスは何度目かの溜息を吐いて、背を押す女性に急かされる形で、ようやくその場を離れた。

 ともかくも場所を変えてしまおうと、女性はバルナバスを伴って、横断歩道を渡った。
メインストリートの位置からひとつずれたので、道を行く人の気配が少し疎らになる。


「何処か、その辺りの店に入ろうか。どれにする?」
「お前に任せる」
「いつもそれだな。それじゃあ……ああ、あそこにしよう」


 女性が指差したのは、レトロな看板を下げた喫茶店だった。
幅の広いオフィスビルに挟まれた、年季の入ったテナントビルの一階である。

 外見では幅2メートルと少しに、二階へ続く外階段しかないビルのその店は、鰻の寝床になっていた。
屋内は細く長い奥行になっており、カウンターテーブルが客席とキッチンを分断している。
一番奥へ行けば、小さなテーブル席がふたつ並んでいた。
テーブル席の向こうには、色ガラスを嵌めた窓があり、ビルの裏に流れている川が望める。

 昼時であるが、客席は疎らに埋まっていた。
奥のテーブル席が空いているので、女性がそちらに行こうと言う。
バルナバスは黙ってついて行った。

 テーブル席に着くと、程なく店員が水を持って来た。
メニュー表を開き、取り合えずコーヒーをふたつ注文する。
店員がキッチンへと戻るのを見送って、女性は向い合せに座った男を見ると、眉尻を下げて苦笑した。


「どうしてあんたは、ああいうものに捕まるんだろうな」
「……さあな」


 女性の言葉に、バルナバスはそれだけ言った。
それで女性は益々困ったように口元を緩めるしかない。
その表情は、恋人を気の毒に思っているようでもあったし、小さな子供の駄々を宥める母親のようでもある。

 バルナバスはそんな女性を見て、ひそりと眉根を寄せる。
───実の所、ああした職務質問にバルナバスが捕まる時、その傍らには確実に自分がいるということを、この女性は気付いていない。

 注文していたコーヒーが届けられて、女性はカップを両手で持つ。
湯気を立てるその水面に息を吹きかけて冷まし、そっと口元に持っていった。
その仕草だけでも、彼女の育ちの良さが判ると言うものだろう。


「ふう……」


 小さな唇から、安堵に似た吐息が漏れる。

 女性の名は、クライヴ・ロズフィールドと言う。
その出自は、世界的に有名なロズフィールド家にあり、現当主の実姉である。
ロズフィールド家は有数の資産家としてあらゆる方面に多大な影響を持っている。
その経営の舵取りをしている弟を、実務だけでなく、精神的な面も含めてサポートしていた。

 そんな彼女であるが、見た目はその経歴に反して聊か幼い。
身長はバルナバスの胸元に頭の天辺が届くかどうかと言う所で、女性の平均身長で言っても小柄である。
手足はすっきりと長く、モデル体型と言って良い傍ら、その胸元は豊かなものであった。
顔立ちも決して尖り切らず、“綺麗”と“可愛い”の中間と言ったところか。
その頬には、学生時代の事故によって残されたと言う、火傷の痕が痛ましく残っている。
しかし彼女の面は化粧の気配はどちらかと言えば薄いもので、特別、傷を隠すことを重点してはいなかった。
それでも彼女の面は歪みなく整っており、実弟からして「世界で一番魅力的だ」と言って憚らない。

 クライヴは小柄なシルエットと、年齢よりもずっと下に見える顔立ちのお陰で、遠目に見ると大人に見られないことも少なくなかった。
彼女の免許証を見た警察官が、毎度驚く筈である。
一見すると少女とも見紛う容姿をしている彼女が、実はとうに三十路を数えていると言うことは、初対面で誰も予想しないだろう。
今は彼女の恋人であるバルナバスも、嘗てはそうだったのだから。

 バルナバスもカップを取り、コーヒーを口に運んだ。
いつも仕事の傍らに飲んでいるものに比べると、すっきりとした飲み心地だ。
良い豆を使っていることが判る。

 クライヴはもう一度メニュー表を開いて、


「何か食べるか?時間も昼に近いし」
「好きにすると良い」
「……支払いは個人持ちだからな」


 釘を差すクライヴであったが、バルナバスは返事をしない。
それを見たクライヴは、呆れと諦めに肩を竦めるのであった。



 結局のところ、喫茶店での飲食代は、バルナバスが持った。
カードでの支払いが可能だった為、クライヴが財布を出す前に、バルナバスが済ませた。
店を出た所で抗議されたが、バルナバスは気に留めない。
そこまで含めて、いつもの遣り取りであった。


「お前も懲りんな」


 道すがらにそう言ったバルナバスに、クライヴは唇を尖らせる。


「学生でも、ああ言う時は個人で持つか、折半だろう」
「学生なら、だ。それは我々には適用されない」


 低い位置にある旋毛を見下ろして言えば、やはりクライヴは不満げな表情を浮かべていた。
バルナバスはそれを見下ろしながら、ならば学生として扱われたいか、と言いかけたが、辞める。


「男に花を持たせるのも、女の役割だ」
「このご時世に、そんな考え方ばかり通用するものじゃないぞ」
「だが、一定の男はそれで自尊心を保つ。旧態の慣習ではあるが、事実だ」
「じゃあ、あんたも?」


 此方を見上げた青の問いに、バルナバスは閉口する。
自尊心などバルナバスにとって然程重要ではないが、しかし、微塵もそれがないかと言われれば嘘になるだろう。

 むっつりと黙り込んだバルナバスを見て、クライヴは苦笑する。


「冗談だ。そう怖い顔をするな。また職務質問されるぞ」
「元々の顔だ」
「顰めているだろう。ほら、もう少し柔らかくしろ。俺の言えることじゃないが、あんたは表情が堅い」


 そう言ってクライヴは、自身から見て少々高い位置にある、バルナバスの顔に手を伸ばす。
蓄えた濃い髭に嫋やかな白い手が触れて、表情筋を解そうとしてか、固い頬肉をさすった。
そんなことをした所で、大した意味も効果もない───とバルナバスは思っているのだが、


「うん。少しはマシになったな」


 青の瞳が満足げに細められて、クライヴはそう言った。
円らな瞳には、いつも通りの自分の顔しか映っていない。
バルナバスはそうとしか見えないのだが、何故かクライヴには違って見えるようだ。

 頬に触れていた手が離れ、クライヴが歩き出す。


「さて、どうしようか。何処かに行っても良いんだが……」


 今日と言う一日を、これからどう過ごすか。
クライヴは首を捻って考えているが、これと言った案はないらしい。
しかし、こうして二人が気兼ねなく時間を共に過ごすと言うのは、久しぶりの事だ。
滅多にないことなのだから、折角だからその時間はたっぷりと共有したかった。

 だが、バルナバスは勿論のこと、クライヴも滅多に遊びに時間を費やさない人間である。
電車で行ける距離にある有名な巨大テーマパークも、都会の中にある娯楽施設も、それ程興味は惹かれなかった。
遊びが下手な人間だけが揃うと、そんなものだ。

 ならば、とバルナバスはクライヴの手を引いた。
ん、と顔を上げた青と、深い緑の眼が向き合う。


「クライヴ」


 名を呼ぶ声に、クライヴの肩が微かに揺れた。
声に滲むものがあることを、彼女は正確に感じ取っている。
その所為か、彼女の白い頬に、微かに赤みが浮かんだ。

 クライヴの視線が微かに逸らされる。
しかし、彼女は自分の手を掴む男の腕を、振り払うことはしない。


「……それじゃいつもと変わりないだろう。折角あんたが、珍しく丸一日、休めたのに」
「お前と過ごす為のことだ。それ以外に目的はない」
「だからって、その、毎回それじゃないか。偶には違うことをした方が良いんじゃないか」
「時間が惜しい」
「……だからって」


 クライヴは俯いている。
黒髪の隙間から覗く耳や、鼻の先が判りやすく赤くなっていた。
それを見下ろしながら、バルナバスは問う。


「お前は、嫌か」


 真っ直ぐに瞳を見つめるバルナバスの短い問いに、ぐ、とクライヴは押し黙る。
それが拒絶の意を匂わせてのものではないことは、彼女の赤らんだ顔を見れば明らかだった。




 バルナバスの家と、クライヴの家と、行くのならどちらにするか。
どちらにしろやる事は同じだとは言っても、色々と気兼ねがいらないと言う点で言えば、バルナバスの方だ。
其処は文字通り、バルナバスの為に誂えられた城だから、他者が近付いて来る心配がない。

 クライヴにしてみれば、他人の家はどうにも緊張する。
況してやバルナバスの家と言うのは、彼の社会的地位に相応した代物がごろごろとしているから、うっかり何を壊してしまうかと緊張するとか。
しかし、嘗てクライヴの自宅で共に過ごしていた時、名残のうちに彼女の弟がやって来たことを思うと、異論の余地は失せる。

 待ち合わせにした都会の真ん中から、バルナバスの運転で自宅のあるマンションへ。
其処は、ベッドタウンとされる閑静な住宅街の中に存在しており、同様の高層構造物が並んでいる。
そのうち、一際高く聳えるタワーマンションの上層部が、現在バルナバスが寝起きをする場所になっていた。

 地下駐車場から入り、エレベーターから真っ直ぐにフロアへと上がる。
透明なガラスで囲われた箱の中から、遠ざかっていく地上の風景を、クライヴは見つめていた。
既に何度となくこの光景を見ている筈なのに、彼女はいつも不思議そうに下界の風景を眺めている。


(お前も似たような景色を見ているだろうに)


 恋人の旋毛を見下ろしながら、バルナバスはそんなことを考える。

 クライヴとてロズフィールド家の人間であるから、仕事場はこれと同じような環境だ。
毎日のように弟の補佐として現場に上がるのだから、高層ビルには慣れている筈。
それなのに、どうにも庶民的な所が抜けないのが、彼女が彼女たる所以なのかも知れない。

 エレベーターが指定フロアに到着して、扉が開く。
気付いたクライヴが慌てて下りて、バルナバスも悠然とした足取りでそれに続いた。

 このマンションは上に行くほど、戸数が少ない。
必然的に人の気配も少なく、足音はバルナバスとクライヴのものしかなかった。
一番奥の角にある扉の前で、バルナバスはカードキーを施錠に当て、更に扉横に設置されている電子錠のパスワードロックを外す。
がちゃり、と鍵が外れる音が鳴り、バルナバスはドア開けると、後ろで待っていたクライヴを見た。


「お邪魔します」


 これも良家の子女として教育されたからだろう、クライヴは律儀に挨拶を挟んでから敷居を跨いだ。
ドアを閉めれば、すぐにオートロックが作動する。

 始めの頃は、玄関から先へ向かうのも躊躇いを見せていたクライヴだが、流石に回数を重ねれば慣れるのだろう。
彼女は靴を脱ぐと、シューズクロークからすっかり自分用となっている、赤いスリッパを出して履き替えた。

 そのままクライヴはリビングダイニングに向かうかと思われたが、その手前にあるキッチンへと入って行く。
バルナバスがキッチンを見ると、彼女は慣れた手付きで冷凍庫に保存されている野菜を探っていた。


「クライヴ」
「夕飯の仕込みをしておく。すぐに済ませるから」
「後で───」
「動ける気がしない」


 言ってクライヴは、胡乱な目でバルナバスを見た。
若干の湿り気を持ったその視線が言わんとしていることを、バルナバスは十分に自覚していた。

 キッチンで作業が始まるのを横目に、バルナバスはリビングへ入る。
モノトーンと青を基調とした調度品や内装は、バルナバスの秘書が整えたものだ。
特段の指定をした訳ではないが、彼はバルナバスが好んで使う色味をよく覚えている。
この部屋は彼がバルナバスの為に揃えたものしかないから、長い間、此処には主としてその三色だけが同居していた。

 そこに異物であることを隠さず主張している、緋色のクッションとブランケットがある。
黒い革張りのソファを汚すのが忍びないこと、この家にあるものはどれもこれも一級品であることから、使い辛いと堪りかねたクライヴが持ち込んだものだ。
緋色は彼女が好む色だから、これだけがこの部屋、家全体で異彩を放っている。

 リビングダイニングとキッチンは、部屋こそ完全に区切られているものの、対面窓になっているので空間は接続されている。
バルナバスはソファに座って、キッチンで手早い仕事をしているクライヴを見ていた。
対面窓の向こうにいるクライヴは、バルナバスからすると、彼女の顔が辛うじて覗ける程度だ。


「良い包丁があるのに、相変わらず使った形跡もないな。あんた、料理は出来る筈だろう?」
「長らくしていない。それはお前が使う為のものだ」
「用意してくれたのはありがたいけど、勿体ないだろう。俺だって毎日来れる訳じゃないし。スレイプニルは作らないのか?」
「あれが此処に来るのは、仕事の時だ。其処に立つ必要がない」
「コーヒーぐらい煎れるだろうに。まあ、その為に包丁はいらないか」


 包丁の音が途絶えると、水を出す音がして、コンロが点火される。
それからしばらくすると、塩味の混じったコンソメ系の匂いが漂って来た。
コンロにかけた鍋がくつくつと煮込まれて行く間に、クライヴは台所を片付けにかかる。

 クライヴがリビングに入ってきた時には、彼女が家に来てから三十分の時間が経っていた。
あくせくとしていたクライヴにとっては大した時間ではないが、待ちぼうけとなっていたバルナバスには違う。


「クライヴ」


 名を呼ぶ男に、クライヴは眉尻を下げて唇を緩めた。
ソファへと近付いて行けば、ぬっと腕が伸びて来て、彼女の引き締まった腰を捕まえる。
強く引き寄せる力に、クライヴは逆らわず、男の膝の上に座ることになった。

 小柄なクライヴである。
バルナバスとは元より身長差が大きく、お互いの顔を見るには、見上げ見下ろさなくてはならない。
並んで座っている時も同様で、クライヴの頭の頂点がバルナバスの肩に来る程度だ。
だから二人は、日常生活で“同じ高さで目線を合わせる”と言うことがほぼない。

 だが、こうやってクライヴがバルナバスの膝に座れば、その距離を極力縮めることが出来る。
バルナバスの膝の高さに支えられて、クライヴの顔は、バルナバスと同じ高さに届いている。
ようやく正面から愛しい貌を捉えることが出来て、バルナバスの口角が微かに緩む。


「遅い」
「仕方がないだろう。夕飯を食べ損ねるより良い」


 腰を抱き支えるバルナバスの言葉に、クライヴは拗ねたように唇を尖らせて言った。


「作っておかないと、あんた、朝まで何も食べないじゃないか」
「問題はない」
「大ありだ。いつか栄養失調になるぞ」
「いつぞやのお前のようにか?」
「……それについてはノーコメントだ」
「他人の心配ばかりするのも、程度を持っておけ。私を案じるお前の顔を見るのは嫌いではないがな」
「……あんたはもう少し、自分のことを心配しろ」
「それもそっくり返すとしよう」


 言いながらバルナバスは、すぐ其処にある細い首筋に唇を寄せる。
その気配を感じたクライヴの頬が微かに赤らむが、無論、彼女は逃げることはしなかった。
少し意を決するように息を詰めて、首筋にバルナバスの歯が当たるのを受け止める。


「っん……!」


 固い感触と、ぬるりとしたものが喉の中心に当たるのを感じて、クライヴの肩が震えた。

 クライヴの腰を支えていた、バルナバスの手が滑って、彼女の腰の形を辿る。
小柄な体つきに見合ってか、クライヴの肢体は細いシルエットを作っているが、決して虚弱ではない。
学生時代は剣術小町と呼びなわされた体幹は、今も彼女のボディラインを無駄なく引き締めていた。
それでも全体的なサイズの小ささもあって、彼女の腰はバルナバスの両手ですっかり覆ってしまうことが出来る。

 バルナバスは、白い首筋に唇の愛撫を贈りながら、彼女の腹の前へと手を回した。
股下の浅いパンツに入れているシャツを引き抜き、捲れた前裾の下から手を入れる。
かさついた手がひたりと直に腹に触れるのを感じて、クライヴがまた息を止めた。


「……また痩せたか」
「別に……そう言うことは、ないと思うが……」


 腹筋の感触にバルナバスが言うと、クライヴは曖昧ながらも否定する。
しかし、最近のロズフィールド家の動きと伴い、彼女も中々に多忙な日々を送っている。
ともすれば弟を、家を優先するあまりに自分を無自覚に蔑ろにしがちなクライヴだ。
自身の気付かない内に、忙しさを理由に体重が落ちることは、儘あった。

 咎めるように見つめるバルナバスを、クライヴは眉尻を下げて見つめ返す。
次第にその距離は近付いて、二人は吸い込まれるように互いの唇を重ね合った。


「ん、ん……ふ……うん……」


 舌を絡めて口付けあう。
彼女の喉奥から零れるくぐもった声が、バルナバスの耳には心地良い。

 シャツを更に上までたくし上げれば、豊満な乳房が露わになった。
支えるブラジャーは黒と青のレースで飾られたもので、この部屋の基本の色彩と同じ。
つまり、クライヴのその身も心も、バルナバスのものであることを示している。


「……良い眺めだ」
「じろじろ見るなよ……そんなに面白いものでもないだろうに」
「いいや」


 小柄な体には少々不釣り合いと言えばそう見える、豊かな胸の谷間に、バルナバスの鼻が押し付けられる。
すう、と息を吸えば、ほんのりと甘い匂いと汗が混じっていた。
クライヴはと言うと、肌をくすぐる吐息のくすぐったさに、むずむずとしたものを感じて身を捩る。

 クライヴの背を支えていたバルナバスの手が、すい、と上へ。
指先がブラジャーのホックを引っ掛け、ぱちり、とその合わせを外した。


「っ……」


 胸元を守っていたものが緩んだのを感じて、クライヴは顔を赤くする。
はらりと落ちかける下着を、咄嗟に片手で拾うように支えた。

 小柄な体で豊満な胸元を庇う仕草は、年齢の割に彼女が初心な性格であることを体現している。
それは彼女の性格として、淑女であれと培われた教育もあっただろうし、実際、クライヴはこの歳になるまで、性的なことには縁がなかった───ないようにされていた、と言うべきか。
異性の前で身肌を晒すことは、彼女の貞操観念上、大変に抵抗のある禁忌事項なのである。

 それでも、自身を暴こうとしている男を、此処から先へと進もうとするバルナバスを、クライヴは止めない。
既にその経験を何度となく踏んだからでもあるし、本心から、目の前の男に身を委ねても良いと許したからでもある。


「手を退かせ」
「……ん……」


 恥じらう様子は見ていて悪くはないが、やはりその奥にあるものを見たい。
バルナバスの言葉に、クライヴはおずおずと、身を庇っていた腕を解いた。

 肩に引っ掛かっていた紐を引いてブラジャーを外せば、たっぷりとした豊乳がすっかり露わになった。
それを掬い上げるように手のひらで覆うと、柔らかな脂肪に指が埋まる。
隙間から零れる柔肉の感触を、バルナバスは丹念に揉みしだいた。


「う、ん……、っは……」


 クライヴは頬を赤らめて目を閉じている。
バルナバスの肩に置かれた彼女の手が、ふるふると小さく震えていた。

 男の手で形を変える乳房は、まるでマシュマロのように柔らかい。
肌はきめ細かく滑らかで、正しく至高の宝のようである。
それが今、バルナバスの為だけに差し出され、その手を受け入れていた。

 白い肌に覆われた膨らみの先端には、ぷくりと紅い果実がある。
期待か、或いは羞恥か、心なしか寂しそうに主張している其処に、バルナバスの指が触れた。


「あ……っ」


 小さな声がクライヴの唇から零れる。
ほんの少しの刺激も、彼女の体は敏感に反応した。
そうなるように、バルナバスが彼女の身体に記憶させている。

 揉みしだかれた乳房は張りを保ちながらも柔らかくなり、蕩けるような肉質に変わっていく。
その傍ら、乳首は硬くなって行き、バルナバスの指を掠める度に、クライヴの躰に甘い痺れを齎した。


「ん、ふ……っ、あ……っ、んん……っ」


 零れる声を耳元に聞きながら、バルナバスはクライヴの乳首を柔く摘まんだ。


「あっ……!」


 ひくん、と体を震わせて、クライヴの声音が上擦る。
そのまま摘まんだ乳首を指先で転がしてやれば、小さな唇からは、はあ、はあ、とあえかな吐息が漏れた。


「あ、は……ん、や……」
「嫌か」
「んん……」


 そう問われると、クライヴは顔を赤らめて口を噤む。
そうとも嫌とも言い難い、それは彼女が羞恥から本音を飲み込んだからだ。

 指先に堅い感触を返す蕾を軽く引っ張る。
ともすれば痛みになってしまうから、其処まで行かないように微妙な力加減を保つ。
クライヴは、痛みと痒みの境のような感覚を浴びながら、バルナバスの愛撫を受け入れ続けた。


「ふ、うん……んん……っ」


 バルナバスが乳首から指を離すと、其処は赤く腫れたように自己主張する。
それを見ているうちに、誘われるようにバルナバスの頤が近付いた。

 イチイのように赤くなった膨らみを、はくりと口に含む。


「あぁ……っ!」


 温かい感触と、乳輪に微かに当たる歯の固さに、細い躰がびくりと戦慄いた。
悩まし気な声を漏らして、クライヴの背筋が撓る。
ともすれば逃げを打つように身を捩るから、バルナバスは彼女の腰をしかと捕まえた。
ぐっと腰骨に食い込むように力が入る手指の気配に、クライヴの躰の奥から、じゅわりと熱の兆しが溢れる。

 敏感になった乳首を啜ってやれば、小柄な体がビクッ、ビクッ、と跳ねる。


「あ、や……バル、ナバス……っんん……!」


 敏感な先端を、強弱を変えながら吸われて、クライヴは喘ぐ。
バルナバスの口まわりの髭が、ちくちくと柔肌を突いている。
乳腺が刺激されて、胸の中で血流に乗って熱いものが昇ってくるのが判った。

 バルナバスの肉厚の舌が、頂きに絡みついて実を舐る。
蛇の舌が這っているようだと、クライヴは思った。
かと言って其処に湧き上がるのは嫌悪ではなく、もっと欲しい、と言う貪欲な感情。
それは貞節清楚であることを是とする教育の下に育った彼女にとって、大変に罪深さを呼ぶものであった。

 もぞもぞと不自由に体を揺らす彼女を、バルナバスは捕まえ続けている。
小柄なその身を抱き締めるように腕に閉じ込め、柔肉に顔を埋めながら乳首を吸う。


「んぁあ……っ!」


 ぢゅう、とひとつ強く啜ってやれば、クライヴは喉を反らして天井を仰いだ。

 反対側の胸を揉み、そのまま此方も乳首を摘まむ。
左右の乳首を襲った違う種類の刺激に、クライヴの躰が緊張に強張った。
そうすると彼女の肌は、益々刺激に対して敏感になってしまう。


「あ、あっ、バルナバス……っ!や、ん、あぁ……っ!」


 右の乳首を吸われ、左の乳首を摘まみ転がされ。
クライヴはいやいやと頭を振ったが、当然、バルナバスが行為を辞める筈もない。
寧ろそうやって、拙い形ばかりの拒否を示す彼女に、バルナバスは一層の興奮を覚えていた。

 快感刺激から逃げたがってか、クライヴはバルナバスの両肩に置いた腕を突っ張らせている。
しかし、小柄な彼女のリーチはそれほど長くはない。
どんなに精一杯に腕を伸ばして距離を取ろうとしても、元々の体格差のお陰で、大した効果はなかった。


「は、ふ……胸が、ああ……っ!あ、つい……んんっ」
「ちゅ……ふ……ん……」
「や、舌を……あっ……!そんなに、やあ……っ!」


 唾液をまとわせた厚みのある舌が、一部の隙間も残さぬよう、クライヴの乳輪を舐める。
温かくて弾力のある舌の、ねっとりと皮膚を撫でる感触に、クライヴの背中にぞくぞくとしたものが走った。

 続け様、反対側の乳首を少し強く抓る。
クライヴは「ああ……っ!」と声を上げて眉根を寄せた。
微かな痛みの刺激に、目尻に雫が浮かぶと、今度は宥めるように乳頭で指先がくりくりと縁を描く。


「あっ、あっ……!先っぽ、はっ、くぅん……っ!」


 先端から痺れるように駆け抜ける快感の痺れに、クライヴは背筋を戦慄かせる。
零れる吐息は熱とともに逸って行き、彼女の白く嫋やかった肌を桜色に紅潮させていた。


「クライヴ……」
「あ、あ……っ、バルナ、バス……っ」


 名を呼ぶ恋人に、クライヴは拙い呼気で応答した。
翠と青が交差すると、濡れた青の瞳が求めるものが伝わって、バルナバスの身体にも熱が燈る。

 クライヴの腰を抱いていたバルナバスの腕が滑り、彼女の下肢へと向かう。
タイトなパンツの前を緩めると、開いた隙間からレースが覗いた。
ウエストに手を入れて引き下げようと言うバルナバスの意図を汲み取って、クライヴが下肢を揺らしてそれを助ける。
彼女の体のラインにぴったりとフィットしていたジーンズは、少々手間はかかったものの、膝まで下ろせばあとはするりと床に落ちた。

 バルナバスは、クライヴを自身と向き合うように促した。
クライヴは言われた通り、体をバルナバスの正面へと向けて、恋人の下肢を跨ぐ格好でソファに膝立ちになる。

 続けて胸の上に溜まりを作っていた上衣も脱がせてしまえば、あとは秘部を隠す薄布一枚。
ブラジャーと同じ、青に黒のレースで縁取られたショーツは、その中心の色を薄らと変えていた。
そこにバルナバスの指が這う。


「や……」


 柔い土手を薄い布越しに触られて、クライヴは身を竦める。
既に何度となく暴かれている場所でも、彼女にとっては捨てられない羞恥心だ。
バルナバスは、クライヴのそんな所も気に入っている。

 すり、すり、と殊更に丁寧に、バルナバスは布越しの秘所を愛撫する。
すると、じわじわとした湿りの感触が益々広がって来て、遂には繊維の隙間から溢れ出すほどになった。
クライヴ自身も自覚があるのか、彼女は顔を真っ赤にして視線を反らしている。
そのそむけられた頬に口付けて、バルナバスは下着の中に手を入れた。


「あ……!」


 大きな手が下肢に直に触れる感触に、クライヴの躰が戦慄く。
人知れず抱き続けてきた期待が、遂に───そう思うだけで、クライヴの劣情が溢れ出す。

 布地一枚の頼りない守り、その内側。
侵入を許された手が、双丘の形を確かめるように探り回し、やがてその指先が秘密の園に辿り着く。
その入り口筋を、指の腹がゆっくりと摩り上げれば、


「ああ……っ!」


 甘い声と共に、じゅん、と染み出した蜜がバルナバスの指を濡らす。
指で辿る程に蜜はじわじわと溢れ出して、其処を洪水にするまで時間はかからなかった。


「はあ…はあ……っん、バルナ、バス……ああ……っ」


 淫筋をくすぐるように辿る指の動きに合わせ、クライヴの腰がゆらゆらと揺れている。
もっと、と刺激を欲しがるその身体の訴えに応え、バルナバスの指先が、つぷり、と彼女の中に入った。


「くぅん……っ!」


 待ちかねていた侵入に、甘い声が上がる。
そのまま、中で小さな円を描くように指先を動かせば、クライヴは堪らない様子で喘いだ。


「あ、ああ、んん……っ!は、ふぅっ、くぅん……っ!」
「……いやらしい音がするぞ」
「や……っは、言うな、ああ……っ!」


 くちゅくちゅ、くちゅくちゅ、と絶え間なく鳴る淫音。
それが自分の身体のものであると、クライヴはその事実だけで憤死しそうな程に恥ずかしかった。

 そんなクライヴの様子をもっとよく見ようと、バルナバスの指の動きが激しさを増す。


「あ、あ、そんなに……っ!や、中を、掻き回したら、ああっ!」
「聞こえるだろう?」
「ん、ん……うぅん、ああっ……!」


 ふるふるとクライヴは首を横に振る。
しかし、バルナバスがわざと音が鳴るようにと激しく指を振れば、クライヴは益々赤くなった。


「やめ、だめだ、んぁあ……っ!」
「お前はいつも、体の方が正直だ」
「はっ、はうぅ……っ!あ、あ、くふぅ……っ!」
「もうひとつ、入れるぞ」
「くふぅんっ」


 淫水音を立てている其処に、二本目の指を挿入する。
濡れそぼった蜜壺は、容易くバルナバスの指を受け入れた。

 小柄な体に見合ってか、彼女の中はとても狭い。
それでも、何度となくバルナバスを受け入れた事のある場所だ。
指の一本、二本であれば、次への準備と身体も覚えているから、進んで奥へと誘い込もうと吸い付く。


「んぁ、ああ、奥に……あっ、来る……うぅん……!」
「この程度ならば、軽いものだろう。もっと奥に届くのだからな」
「……!」


 雄の欲望を隠さない囁きに、クライヴの躰の奥で、きゅうと切ない鳴き声が上がる。
バルナバスの指を咥えた秘園が、それを伝えるようにぬるついた締め付けを見せた。

 くつりとバルナバスの喉が笑う。


「進めるぞ」
「ああ……っ!」


 ぬぷ、と侵入を深める指に、クライヴは批難するように声を上げた。
しかし、甘露を孕んだその声が、目の前の雄を煽りこそすれど、止める力になる筈もなく。


「う、んぁ、あっ、あっ……!かき、まわすな、うんっ……!」


 二本の指が、クライヴの秘内で、無遠慮に壁を引っ掻いている。
よくよく整えられて丸みを帯びた爪先が、幾重にもなったヒダを擦る度に、奥から蜜が分泌された。
それを指で掬うように絡めながら、粘膜全体に塗り広げていく。


「あ、は、あぁ……バルナ、バス……や、そこ、ああ……っ!」


 バルナバスの指が、くん、と手前の天井を押した時、クライヴの声は高くなった。
自重を支える膝が頽れそうになって、バルナバスの肩を掴む手に力が籠る。
辛うじて体勢を保っているクライヴの中を、バルナバスは奥を目指すようにして掘り進んだ。


「あうんん……!」


 俄かに膨らむ圧迫感に、クライヴの腰が戦慄いた。
寄り掛かる細身の体を抱き寄せて、バルナバスは彼女の内側に、指を根本まで埋める。
長い指は彼女の奥庭の手前まで届いていた。


「あ、う……は、はふ……っ」
「此処だ」
「ん、ぁああ……っ!」


 ぐ、とバルナバスが捉えた内壁が、クライヴの弱点だ。
クライヴは熱と苦悶を綯交ぜにした声を上げて、バルナバスの指を一層強く締め付ける。


「あ、う……はっ、そこ……あっ、だめ……」
「ならば、次はこれか」


 バルナバスはクライヴの内に指を入れたまま、親指で彼女の秘芯を探る。
露出したその根元を親指の腹が掠めると、


「ふぅうっ」


 ぞくん、としたものがクライヴの躰に電流のように迸る。
歯を噛んで声を殺した恋人に、バルナバスはその意地を壊さんと、捕らえた芯をぐりぐりと押しつぶした。


「ああっ、あひっ、あぁっ!」
「良い声を上げる」
「は、はうっ、うぅんっ!だめ、それ、そこは、ああっ!」


 下半身からすべての意思を奪おうとする官能刺激に、クライヴは堪らず頭を振った。
彼女の右手が男の悪戯を止めようと、その腕を捕まえる。
しかし、バルナバスは一切構うことなく、奥園の壁を抑えながら、膨らむ淫芯を苛めてやる。


「あ、あ、バルナバスっ……!それ、くる、すぐに……っんぁ!」
「ああ」
「や、ひう、んんんっ!あっ、あぁ、あ……!」


 蜜園と秘芯から絶えず与えられる快感に、クライヴの躰は背を丸めてバルナバスに寄り掛かった。
戦慄くその身体と同様に、彼女の内側も小刻みな痙攣を見せ、官能の大波がすぐ其処に来ていることを示している。

 バルナバスは、縋る彼女の汗を滲ませる首筋に、顔を近付けた。
とくとくと脈を感じさせる首筋に甘く歯を立てると、きゅうん、と彼女の秘内が強く反応を伝え、


「あっ、あ……!くぅううん……っ!!」


 喉奥で押し殺し切れなかった嬌声。
バルナバスの指を深くまで咥え込んだ秘部から、ぷしゃっ、と透明な蜜飛沫が噴き、彼女の又坐とバルナバスの手首を濡らす。
ビクッ、ビクンッ、と四肢を痙攣させて、クライヴは絶頂した。

 息を詰まらせたまま、クライヴはしばらくの間、体を震わせていた。
全身が痺れたように言うことを聞かず、強張りが抜けない。
頭の奥でハレーションが起きて、意識が宙に浮きあがりそうだった。

 そんな彼女の意識が戻ってくるのを待たず、バルナバスはクライヴの躰をソファへと横たえる。
質の良い革は、火照った彼女の肌に対して、ひんやりと心地良かった。
朦朧気味の意識でその感触に身を委ねているクライヴ。
それを見下ろす男が、ここまで一糸と乱れのなかった服を脱げば、小柄な少女の体格とは比べ物にならない、しっかりとした筋肉に覆われた肉体が露わになった。


「っは……あ……、バルナ、バス……」


 見下ろす男の翠の瞳は、その内側に飼う欲望を隠していない。
クライヴは、すっかり準備を整えた自分の体が、急速に飢餓感を発信するのを自覚した。

 バルナバスの脱いだシャツが、クライヴの身体とソファの間に差し込まれる。
肌身に触れる心地良さは少々変わったが、これで汚さなくて済む、とクライヴはほっとした。


「クライヴ」
「……ん……」


 呼ぶ声に秘められた意味を読み取って、クライヴはおずおずと足を開いた。
露わになった彼女の恥部は、彼女自身の蜜によってしっとりと濡れそぼり、入り口はヒクヒクと伸縮して、見下ろす男を誘っている。

 バルナバスが下肢を寛げれば、愛しい人の痴態によって、十分に煽られた雄が頭を上げる。
それは雄々しく逞しく、長さだけで言っても、彼女の内臓に届きそうなほどだ。
それを彼女の下腹に宛がえば、どくんどくんと脈が伝わり、クライヴは期待と緊張の混じった眼差しでバルナバスを見上げる。


「苦しければ言え」
「……大丈夫、だ……」


 たぶん、とクライヴは小さく付け加える。
恥じらいと、まだ拭いきれない恐怖を持ちながらも、それでも受け入れようとする恋人の姿に、バルナバスはいじらしさと熱の昂ぶりを覚える。

 彼女の腰を両手で掴めば、やはり、その細さがよく判る。
ヒクつく中心部に雄を宛がうと、それだけで入り口が物欲しげに吸い付いて来るようだった。
とろりと溢れ出してくる濡蜜に誘われるように、バルナバスはゆっくりと腰を進める。


「あ、う……!入って、くる……う、ん……っ!」


 クライヴは微かに眉根を寄せながら天井を仰いだ。
秘園を押し広げる異物の感触は、指の比にならない程に大きくて固い。
小柄な体に見合った狭い内部が、男の侵入をその身いっぱいに広げて受け入れようとする。


「ふ、は……っふ、うぅ……んん……っ」
「クライヴ……」
「はあ、ああ……っ!く、ふぁ……ん、あ……!」


 腰を押し進めながら愛しい名を呼ぶバルナバスだが、生憎とクライヴに答える余裕はなかった。
彼女の意識は今、自身を暴こうとする雄の熱に集中している。

 隙間のない程に蜜液に濡れ、ねっとりと艶めかしい感触で絡みついて来る肉壁。
進むほどに、奥へ、もっと奥へと誘うように、肉ヒダがしゃぶりついてくるのが感じられる。
クライヴが身を捩れば、その弾みに内側も僅かに角度が変わって、バルナバス自身を擦り上げた。
ともすれば一息にその身体を貫き揺さぶりたい衝動を、バルナバスは寸でのところで押し留める。


「あ、ふ、あう……深、ぁ……い……くぅう……っ!」
「……もう直だ。全て、お前の中に……」
「あ、バル、ナバス……う、んぁ……や、っああ……!」


 ぎしり、とソファの座面が偏る重みに抗議を鳴らす。
構わず、バルナバスは横たわるクライヴの上に覆い被さった。
繋がる場所がより深くなるのを感じて、クライヴは背筋を浮かせて喘いだ。

 二人の下腹部がぴったりと密着した時、クライヴは自身の中が隙間もない程に男に占拠されているのを感じていた。


「あ、う……は、はふ……あうぅ……っ」


 其処にある存在感だけで、クライヴは得も言われぬ感覚に包まれる。
ほんの少し身を捩ろうとするだけで、中で一番固い所が内壁を擦ってしまう。
見悶えさえも官能の一助となる状態に、クライヴの意識は熱に浮かされていた。

 バルナバスもまた、繋がった場所から感じる彼女の鼓動に、意識を攫われていた。
とくとくと早い脈が伝わって、クライヴの身体が再び熱を生んでいることが判る。

 バルナバスはクライヴの両足の膝を掬い上げた。
何もかもを曝け出す格好にされて、クライヴの顔が判りやすく赤らむ。
それに構わず、バルナバスは彼女の腕を取って、膝裏へと沿えた。


「そのままだ」
「…う、んん……」


 クライヴは泣きそうな顔で此方を見上げている。
貞節意識の強い彼女にとって、この状態は堪らない程に恥ずかしいに違いない。
それでも、バルナバスが言うのならば、と彼女は男の望みに応えてくれる。

 もう一度ソファの軋む音が鳴った。
それを合図に、バルナバスがゆっくりと腰を引くと、蜜を絡めた雄が彼女の中心部からぬるる……と出て行く。


「うぅんん……っ!」


 中を下に向かって擦られて行く感覚に、クライヴはくぐもった声を漏らす。
ぞくぞくとしたものが腰全体に広がって、体から力が抜けそうになる。

 入り口の近くまで出て行ったバルナバスに、クライヴの奥で侘しさが啼く。
その本心を男に伝えるように、彼女の秘部はきゅうぅっと締め付けを見せて、バルナバスを引き留めた。
直後、太いものがずぷりと奥へと再侵入して、肉壁を押し開く。


「ああっ!」


 太くて固い部分が、クライヴの締め付けに狭くなっていた内側を拓いた。

 バルナバスの律動は、始めこそゆっくりとしたものだったが、次第にリズムを上げて行く。
入り口から最奥まで、その長さを活かして、余すところなく擦り上げた。


「はあ、ああっ、ああっ……!あっ、あぁ、んんっ」
「良い顔だ……もっとよく見せろ」
「ふ、ふぅっ、ああ……っ!んぁ、待て……やっ、ああ!」


 青の端に雫を浮かべ、悶えに喘ぐクライヴ。
その頬を両手で包み込み、触れそうな程の距離で覗き込む翠に、クライヴはいやと訴えようとした。
しかし、奥園をごつりと突き上げられて、声は喘ぎに取って替わる。


「はっ、あぅ、あっ、あぁ……っ!バル、ナバス、んぁ……っ!は、はやい、ああっ、ふぅんっ……!」
「まだ、この程度……っ」
「うあ、んっ、ああぁっ」


 バルナバスの身体が、クライヴの上に完全に覆い被さる。
体格にして、優に倍はあろうかという差だ。
小柄なクライヴの身体は、バルナバスに押しつぶされんばかりに、その身体の下に閉じ込められた。
傍目には、クライヴの姿は、白魚のような足が揺れていることしか見えない。

 その状態でバルナバスの腰使いは更に力強さを増す。
ずん、ずん、と何度も最奥を打ち上げる雄によって、クライヴの意識は何度も灼熱に襲われた。


「んあっ、あっ、あぁんっ!深くて、ああっ、熱くて……っひぃん!」


 逞しい禊に杭打たれ、クライヴは男の重みを感じながら身を捩る。
その身体を、バルナバスは抱き締めた。
服を着ている時にはほとんど見えなかった、隙のない筋肉に覆われた身体に、小柄な女が勝てる筈もない。
クライヴはバルナバスと言う檻の中で、絶え間なく襲い掛かる官能に喘ぐしか出来なかった。


「バル、ナバスっ……ああっ、来る……っ!もう、来てる、あっ、あっ、んぁあっ……!」
「はっ、ああ、震えている……お前の内側が、私を求めているのが判る……」
「はあ、あっ、あ、くふぅっ!イく、もう……っ!」


 赦しを請うた白い手が、バルナバスの首へと回される。
縋るその腕が切に願う兆候を、バルナバスは当然に受け入れた。

 クライヴの内側で、粘膜が今日一番にわなわなと震えて、奥園からは愛液をしとどに溢れさせ、快感腺を破裂させる。


「ああぁっ……!イく、ん、あぁあああ……っ!」


 クライヴは詰まるように切ない声を上げて、二度目の絶頂を迎えた。
ぷしゃっ、ぷしゃあっ、と一度目の比ではない量の蜜飛沫が噴き上がる。

 全身を強張らせて果てた彼女の中で、雄が強く締め付けられる。
きゅうきゅうと隙間なく密着する肉壺の中を、バルナバスも耕し続けた。
上がる息を殺しながら続く律動に、クライヴは絶頂の余韻の中で擦り上げられ悶え啼く。


「はあっ、あうっ、あぁあっ!だめ、今、今は、あっ、あぁっ、あふぅうっ!」
「はあ、はっ、クライヴ……!」
「イってる、だから、ああっ、あぁんっ!はっ、はっ、ひぁ、ああぁっ!」


 クライヴは大きく開いた足を爪先までピンと張り詰めさせて、バルナバスの律動を受け止めている。
蜜と汗で濡れた太腿がぶるぶると震えて、彼女が得ている快感の大きさを物語っていた。

 その身体を、バルナバスは予告なく、ぐるん、と反転させた。
中のものが彼女の秘内を抉るように擦り上げ、クライヴは声にならない悲鳴を上げる。
それも収まらない内に、バルナバスは後ろから彼女の淫中を強く突き上げた。


「ひぅうんっ!」


 より深くに穿たれた雄によって、クライヴの意識は白熱した。

 バルナバスの前には、汗疹を浮かせて赤くなった背中がある。
その背筋に汗の玉粒が伝い落ちて行くのを見ながら、掴んだ細腰を突き上げに合わせて引き寄せる。
ずちゅんっ、と一番奥の部屋の口をノックされて、クライヴの身体が大きく撓った。


「あぁあんっ!やっ、バル、バルナバスっ、あぁっ、ああ!」


 パン、パン、パン、とクライヴの丸く滑らかな形をした尻肉に、バルナバスの腰骨がぶつかる音が響く。
クライヴは下敷きにしているシャツを縋り握りながら、揺さぶりに合わせてあられもない声を上げる。


「はっ、ああっ、あぁ……!そ、んなに、奥を……っ、強く、うぅんっ!」
「く、ふぅ……は……っ!」


 バルナバスの律動は激しさを増して行き、彼自身が昇り詰めようとしていることは明らかだった。
その熱量を体の内側から感じるクライヴもまた、再訪する劣情に三度体が持って行かれる。


「イく、イく……っ!バルナバス、ああっ、俺……っ!」
「は、ふぅ……っ、クライヴ……!」
「あうっ、あっ、あっ、ひぃあっ!んっ、はっ、はぁ、あぁん……っ!」


 クライヴは最早、碌に言葉を探すことも出来なかった。
突き上げる雄の存在感で、自分の内側が埋め尽くされ、何も考えることが出来ない。
太く逞しいその一物は、クライヴの秘所の快感腺を余すところなく擦り上げる。

 クライヴの背中に、重くて固いものが覆い被さる。
耳元にかかる吐息が判りやすく荒くなっていて、背後の男が限界を迎えようとしているのが判った。
途端、ぞくぞくとしたものがクライヴの背中を駆けあがって、


「ああっ、あぁあああっ!」


 ビクン、ビクン、とその肢体を大きく震わせて、クライヴは絶頂する。
蜜を噴いた彼女の中で、限界まで怒張した雄が締め付けられた。
戦慄きながらその熱を絞ろうと吸い付く媚肉の感触に、バルナバスが奥歯を噛み、


「く……ぬぅうう……っ!」
「はっ、あっ、あぁあ……!中、に……ああっ、来る……んんっ!」


 内側に注ぎ込まれる熱の感触に、クライヴの身体は歓びに染まる。

 短い間隔で上り詰めた余韻と、男を受け止めた幸福感に、クライヴの躰は酔いしれた。
指一本も力を入れることが出来ず、沈むようにソファに俯せる彼女の体を、バルナバスが抱き起こす。
ソファに胡坐を掻いた膝に、くったりと凭れかかる愛しい人を乗せて、あえかに息をしているその唇を塞ぐ。


「ん、ん……ふ……んぁ……っ」


 侵入してきた舌を、クライヴは甘受していた。
自身の舌を絡め取りしゃぶるそれに、クライヴは成されるがままになっている。

 栓を失った彼女の中心部から、濃い白濁がとろりと溢れ出していた。




 窓から差し込む光が濃い橙色に染まる頃、クライヴは緋色のブランケット一枚に包まって、ソファで丸くなっていた。
衣服は簡単にまとめられて手の届く位置に置かれているが、動く気にならない。
一度意識を飛ばしたこともあって、体全体が気怠さに包まれ、今日のこれ以上の労働を判りやすく拒否していた。

 彼女をそう言った状態にした原因の男はと言えば、キッチンで夕飯の準備をしている。
クライヴは、対面窓の向こうに覗くその様子を見詰めながら、うつらうつらと舟をこいでいた。

 リビングダイニングに戻って来たバルナバスの手には、クライヴが作っておいたスープとサラダ、テーブルロールを乗せたトレイ。
バルナバスはそれをソファ前のコーヒーテーブルに置くと、またキッチンへ。
ミネラルウォーターの入ったピッチャーと、グラスを二本持って戻ってくる。

 バルナバスはピッチャーに水を注ぐと、そのままソファに落ち着いた。
テーブルには、一人分の食事のみ。
それを見て、クライヴはのそりと体を起こしながら、


「……あんたの夕飯は?」
「後で貰おう」
「……それなら良いが……」


 このまま食べないつもりかと思った、とクライヴは呟いた。
それでは、何の為に事が始まる前にキッチンで仕事をしたのか判らなくなってしまう。
一応は食べる気があるのだと確認して、それなら一先ずは良いか、と思うことにした。

 ゆっくりと食事を摂り始めたクライヴを、バルナバスはソファの肘掛に寄り掛かって見つめていた。
それから翠の瞳は、自分自身の手のひらへと注がれる。

 ブランケットにすっかり体を包み、黙々と食事をする彼女の顔は、見れば見る程、幼さが目立つ。
加えて彼女の体格がこじんまりとしている為に、学生───それも成熟前の───に見られることも度々あった。
弟と一緒に並んでいると、自分の方が“妹”と思われることがあるのを、彼女は随分と気にしている。
せめてもっと背があれば、とよくぼやいているのを聞いた。

 バルナバスから見ても、クライヴは小柄であるし、顔立ちも幼い所がある。
バルナバスが特別体躯が大きい訳でなくとも、並んだ時の身長然り、その差は歴然としていた。
実際に彼女を組み敷き、この腕に抱いていると、その小さなサイズ感を確かめる度に驚く。

 ───これだから、共に歩いている都度に、あんなことが起こるのだろう。
数時間前に降りかかった出来事を思い出して、バルナバスは瞑目した。

 身嗜みは熱の名残の有様でも、クライヴの食事の様子は丁寧なものだ。
綺麗に空になった食器をトレイに乗せて、落とさないようにテーブルの端に寄せる。
ソファ横のサイドスツールに置いていたティッシュに取ろうとしたその身体に、バルナバスはおもむろに手を伸ばした。


「うわっ」


 ぐ、と後ろから腹を回し捕まえた力によって、クライヴの躰が後ろへ引っ張られる。
傾いたクライヴの躰は、ぽすん、とバルナバスの胸に収まった。

 青の瞳がバルナバスを見上げる。


「どうした?」
「……いや」


 バルナバスの手は、クライヴの腹の上に置かれていた。
交わっている時にも其処には触れたが、今改めて、その薄さを確かめる。
腹筋はしっかりとついている感触があるものの、やはり層の厚みは然程なく、横幅もバルナバスが手を広げれば覆ってしまえる程度だ。
となれば、その内側も、相応の大きさしかないのだろう。

 するり、とバルナバスの手が、クライヴの腹を滑る。
そこに意味も目的もなかったが、しかし、指先は触れる肌の感触をつぶさに確かめていた。

 と、しばらくされるがままにしていたクライヴだったが、


「ん……バルナバス、」
「不快か」
「そう言う訳でもないけど……ちょっと、その」


 もぞもぞと身動ぎをするクライヴは、困った表情で自分を捕まえる恋人を見上げる。


「……なんだか、少し……いやらしい気がする」


 クライヴは顔を赤らめ、腹を撫でるバルナバスの手を捕まえて、少しばかり申し訳なさそうに言った。
他意がないのならすまない、と付け足すクライヴに、バルナバスはじわりと熱の余韻が再び頭を擡げるのを自覚した。





ずっと書きたいな〜と思っていたバルナバス×♀クライヴでした。普通のバルクラ小説書いてないのに先にこれを書いて良いものかと思っていたんですが、書きたかったのでやっぱり書きました。
クライヴは女体化しても大きい方が良いなと言う気持ちがあるのですが、それはそれとして、正反対に小柄なのも良いんじゃないかと言う気持ちもありましたもので。そんな訳で大分極端に小柄にしてみました。身長差な二人も欲しかったので。
冒頭のバルナバスは、こんな見た目の男が小柄な女性(下手すると少女に見える)と一緒にいたら、ちょっとアレ?と思われるだろと言う決めつけです。あと職質されて不機嫌だけど、聞かれた事にはちゃんと答える、真人間のバルナバスが見たかった。
なんだかんだクライヴの言うことを聞くバルナバスと、実のところ精神的に優位にいるのはクライヴの方。私の中のバルクラは、女体化に限らず、このパワーバランスが基本になってそうです。