Sリズム・エクスタシス


 スコールが通う私立学校は、歴史の長い女子校で、幼稚園から小中高と一貫教育を行っている。
途中入学、編入も可能ではあるのだが、およそ半分は中等部から高等部への持ち上がりで、更にその半分ほどは幼年から籍を置いている者が占めている。
都内にあって相当のマンモス学校だと言われており、高等部になると部活動も盛んで、運動・文化部問わず、かなりの実績を残している為、全国的にもその名はよく知られていた。

 スコールも幼年の頃から籍を置いており、現在は生徒会に所属していると言う。
生徒会が存外と積極的に動くようなので、部活には所属していないそうだが、そうでなくとも余り団体行動が得意ではないと自覚しているスコールは、意欲的な活動を主としている部活動には余り興味はないようだった。
それは生徒会活動についても同じ事なのだが、此方は内申点に影響がある事や、様々な部活への誘いを断る口実として丁度良かった事、生徒会に自分の知り合いが所属している事から、参加を決めたらしい。

 バッツがスコールのそう言った事を知ったのは、彼女の幼馴染のティーダからの情報だった。
ティーダはスコールと家が近く、学校生活こそ全く別々ではあるものの、よく一緒に遊ぶ仲だったそうだ。
いつであったか二人の幼少期を残したアルバムを見せて貰って、こんなにスコールと一緒にいられるなんて羨ましいな、とバッツは思ったものだ。
何せバッツは、スコールと知り合ってから、まだ二年と経っていないのだ。
それでも、きっと誰よりもスコールと濃密な時間を過ごしている───とは思うのだが、それとこれとは別だ。
どうせなら、可愛い可愛い恋人の事は、幼い時から全部丸っと知って置きたかった。
そんな事を考える位に、バッツはスコールに首ったけであった。

 “バッツが知らないスコール”と言うのは、案外と多い。
知り合ってからまだ季節が一巡りと少ししか経っていないのだから無理もないのだが、お互いの年齢や生活環境の擦れ違いもあるので、逢える時間も限られる。
土日にスコールがバッツの家に泊まりに来てくれるのが、一番二人が長く一緒にいられる時だった。
それも十分に嬉しい事ではあるのだが、バッツは時々、物足りなくなる。
自分がまだ高校生だったなら、スコールと一緒に学校に行ったり、放課後デートをしたり出来たのに、とそんな妄想をする事も少なくなかった。
学校生活そのものは、スコールの通う学校が女子校であるので先ず無理なのだが、校外ならばその縛りはないだろう。
そう言う風に、同じ目線で同じ生活を送る事が出来たなら、今よりもっと色んなスコールの顔が見れたのになぁ、と思わずにはいられなかった。

 しかし、どんなに願った所で、バッツの年齢が下がってくれる訳ではないし、この国の制度ではスコールが飛び級してバッツと同じ大学生になる事もない。
スコールの学校生活って見てみたかったなあ、と言うバッツの希望は、願望でしかないのだ。
精々、学園祭など、限られたタイミングでのみ開かれる所へ赴いて、ちょっとお邪魔する程度。
それもまた致し方のないことだ。

 致し方のない事なのだが、ふとした折にそれを覗けるタイミングがあると知ったら、バッツは飛び付かずにはいられないのだった。




 朝から学校のあらゆる場所で、さわさわと落ち着きがない。
その空気を感じ取っていたスコールは、その理由を察して、溜息を吐いた。
面倒臭い、鬱陶しい、と隠さないその仕種を、いつもスコールの隣の席を指定席にしているリノアが見付ける。


「おはよー、スコール。憂鬱そうだね」


 快活な笑顔と共に声をかけて来たリノアは、交友関係の狭いスコールには珍しく、高等部になってから知り合った生徒だった。
スコールの交友関係の殆どは、幼年の頃から続いている幼馴染の面々に限られるのが常であったのだが、リノアは其処に一つの変革を齎した切っ掛けとなる。
コミュニケーション力が高く、良くも悪くも裏表がないリノアは、校内外問わず友人が多く、スコールはリノアを通して少しずつ自分の世界を拡げて行った。
そんな性質の違いもあって、初めの頃は衝突した事も多かったが、意地っ張りなスコールに対し、素直なリノアと言うのが意外と良い歯車として噛み合って、今では親友の間柄である。

 リノアはスコールの席に椅子を寄せて座ると、深い皺が刻まれたスコールの眉間をつんつんと突く。
幼い頃の事故が原因で残った額の傷の後にも指先を滑らせるものだから、スコールはむず痒くて仕方がなかった。
ふるふると首を振って手を振り払えば、リノアは笑って手を引っ込め、


「今日だよね、男子校との交流授業」
「……ああ。一時間目の内に、校内の案内をやれと言われた」
「大変だねぇ。私も一緒に行けたら良かったんだけど」
「あんたは放課後に部活の案内を任されてるんだろう。俺の事より、そっちをちゃんと頑張ってくれたら、それで良い」


 スコールの言葉に、うん、とリノアは頷いた。

 女子校として一貫教育を行っているこの学園だが、かと言って一切異性に触れないまま成長すると言うのも、問題があった。
女性としての慎みを以て───等と、今時の時代の流れを思えばやや古めかしいと言わざるを得ない教育・道徳理念を掲げる校風だが、実の所、それを余りに徹底した場合、異性と言うものに免疫が育たず、悲しいかな事件となってしまう事もあるのだ。
男女の性差による様々な議題については、折々に触れて教育を受ける形は取られているけれども、現実、「家族と学校の先生以外に異性との接触がない」と言う生徒も少なくなかった。
この為に起き得る様々な事件を忌避すべく、この学校では、年に二回、区外にある男子校との交流授業が設けられている。
因みに、別日にはこの学園から生徒が選ばれ、男子校側で交流授業が行われることになっている。

 今日、朝から学校の其処此処で生徒が落ち着きなく過ごしていたのは、それが理由だ。
普段は女の園とされている校内に、男子がやって来るのである。
色々と多感かつ興味津々な年頃の思春期の少女達が、これが気にならない訳がないのだ。
各々、今から頻繁に身嗜みを整えたり、緊張感をもって居住まいを正したりと、忙しなくしている。

 だが、スコールにとってはそんな気楽なものではなかった。
生徒会に所属している生徒は、やって来る男子生徒に校内案内をするようにと任されている。
去年も同じ事をやったのだが、スコールにはそれが憂鬱で堪らない。


「……はぁ……」
「おっきい溜息。気晴らしに飴舐める?」
「……貰う」


 制服のポケットから早速飴を取り出し、親友を慰めるリノアに、スコールは小さく頷いた。
リノアは飴を包装から出すと、ピンク色の小さな飴玉をスコールの口元に持って行く。


「あーん」
「……あ」


 スコールが素直に口を開けると、リノアは飴を舌に乗せた。
ぱくりと食んで、頬袋を膨らませながら、ころころと飴を転がすスコール。
イチゴ味の飴は甘かったが、程好く酸味も効いていて、少しだけスコールの気分を持ち上げてくれた。

 蒼の瞳が存外と分かり易く機嫌を直してくれるのを見て、よしよしとリノアも気を良くしてスコールの髪を撫でる。


「そう言えばさ、今年はサイファーやティーダは来るの?」


 スコールの幼馴染メンバーの名前を上げて訊ねるリノアに、スコールはころん、と口の中の飴を転がして、


「来る筈だ。ティーダから、『今日はよろしく』ってメールが来た。サイファーは知らないけど……アーヴァインだったら来るんじゃないか。セルフィもいる事だし」
「そっかそっか。ゼルは?」
「ゼルは……メンバー選びが籤引きになったって言ってたから、どうだか。それから連絡もないし、外れたんじゃないか」
「あららぁ。当たってると良いけどねえ。ほら、ゼル、去年は図書委員の子とちょっと良い雰囲気になってたでしょ。春から付き合い始めたって聞いたんだ。折角なら逢いたいだろうし」
「……今日逢わなくたって、他の日に逢えるだろ。交流授業なんて、逢ってお喋りでもするような時間もないのに、わざわざ」
「それは、そうだけど。こう言う時に逢うのは、そう言うのだけじゃないんだよ」


 リノアの言葉に、スコールは眉根を寄せる。
交流授業で行うものに、男女の間に一体何を期待しようと言うのか。
いまいちピンと来ない様子のスコールに、リノアがずいっと顔を近付ける。


「ゼルにしたってアーヴァインにしたって、好きな子と逢えるのは学校の外でしょ。それが今日なら、学校の中で逢えるんだよ」
「……まあ…そうだな」
「って事は、制服姿が見れるんだよ!」
「……はあ?」
「制服姿ってなんか特別でさ、貴重な感じするんだよね。毎日見てるとそう言う感じもないんだけど、偶にしか見れないってなると、なんかドキドキして。いつもと違う感じに見えたりもするんだよ。スコールは、ティーダが制服着てるの見たら、ちょっとドキドキとかしない?」
「しない」


 ティーダの制服なんて、スコールにとっては見慣れ過ぎている。
彼は学校帰りによく制服のままでスコールの家に遊びに来ていたし、朝の登校時にもよくタイミングが重なるので、ほぼ毎日見ているようなものだった。

 スコールの淡泊な反応に、リノアはむぅと頬を膨らませる。
そんなリスのような顔に、こういう顔しても可愛いんだよな、とスコールはぼんやりと思った。


「じゃあサイファーは?サイファーの制服姿は、あんまり見ないでしょ?」
「まあ……でも、別に。リノアも知ってるだろ?あいつ、何処に行ってもお気に入りのコート持ってて、決めたい時には着てるんだ。去年の交流授業でも、あいつコート持って来てただろ。制服よりそっちの方が目立つ」
「あー、確かに。じゃあ、ゼルやアーヴァインは?」
「それも別に……」
「うー、じゃあじゃあ、バッツさん。バッツさんはどう?」


 いまいち反応が鈍いばかりのスコールに、リノアは最後の切り札とばかりに、親友の恋人の名前を出した。
なんとなく流れから、いつかその名は出て来るだろうと思ってはいたので、スコールは仕方なく恋人の制服と言うものを想像してみるが、


(……バッツの制服……?)


 三つ年上のバッツは大学生であるので、制服と言うものを持っていない。
強いて言うなら、アルバイトで着用する店員服が制服に当たるのかも知れないが、彼がフォーマル向きの服を着用する図が全く浮かばない。
居酒屋などで、簡易なエプロンを身に付けている様子の方が想像し易かった。

 考え込みながら、ゆっくり首を傾げて行くスコール。
すっかり頭を傾けて思考の海に耽るスコールを、リノアも同じように頭を傾けながら見ていた。


「想像つかない?」
「……ん」
「じゃあ……うーんと。スーツとかは?」
「それも……あいつがネクタイするような場面が浮かばない」
「なんか判る気がする。そう言う感じの人じゃないもんね」


 歳が歳なので、恐らくバッツもフォーマル向けの服は何点か持っているのでは、とは思うが、どうにもそれを着ている図が浮かばない。
ツナギのような作業着の方が彼には似合うような、そんな気もしてくる位だ。

 そんな話をしている間に、ホームルーム前のチャイムが鳴る。
ばたばたと慌ただしく席へと戻って行く生徒達を見て、リノアも椅子を戻して前を向いた。
クラス担任が教室へ入って来ると、生徒達もお喋りが止み、朝の挨拶の号令がかかる。
いつも通りのその流れに則りながら、スコールはぼんやりと、“恋人の制服姿”について考えてみたが、やはりイメージは沸かないままであった。



 ホームルームの後、スコールは直ぐに席を立ち、交流授業に来ている男子高生を迎えに行った。
体育館に集められていた男子生徒達は、グループ(恐らくはクラス)毎に分けられて呼ばれ、各グループに当てられた女子生徒の案内を以て、校内を一巡りする。
それが一時間目の授業を通して当てられており、スコールはこれが授業の代わりとして成績に当てられる。
正直、机について授業をしている方が非常に楽なのだが、宛てられたものは仕方がない。
特に関心のない部活の紹介に回されるよりマシだと思っておこう。

 担当になった生徒の中に、幼馴染の顔はなかった。
昨年はティーダとゼルのいるグループの案内を担当させて貰ったが、今回はどうやら外れたようだ。
全く知らない顔ばかりが並ぶグループに、分かり易くじろじろと見る目がスコールには聊か不快であったが、表面上はいつも通りの顔で通す。
幸い、グループの中にお喋り好きの者はいなかったようで、案内は予定通りに進んだ。

 二時間目からは、案内した生徒をスコールのクラスの教室へと連れて行き、彼等を含めて授業を受ける。
こうなればスコールの仕事はもう終わりだ。
いつも通りにリノアの隣の席で、時々ノートの落書きを見せて来るリノアに呆れつつ、教科書を朗読する教師の声を流し聞きする。

 休憩時間になると、学校中がまた俄かに騒がしくなる。
生徒の多くはそれぞれ気になる男子の下へ行き、きゃあきゃあと質問を投げかけていた。
スコールはそんな輪を冷めた眼で見ていたのだが、「ティーダ達を探しに行こうよ」とリノアとセルフィに言われて、知り合いの顔を見る位ならと腰を上げた。
スコールがティーダにメールを送ると、直ぐに返事があり、どこそこにいる、と言う文を頼りに現地に向かう。
そこで同年の幼馴染がわいわいと話していると、一学年上のキスティスが、サイファーとアーヴァインを連れて来た。
勢揃いした幼馴染の面々に、リノアも加わって、気の知れたメンバーでしばしの歓談を楽しんだ。

 休憩時間の都度、何処かで黄色い声が上がっている。
男子と会った位で大袈裟な、とスコールは思うのだが、異性との交流の機会がこう言ったタイミングのみに限られる者にとっては、嘗てない刺激の日なのだから無理もない。

 とは言え、この交流の根底にあるのは、男女間の単純な交流ではなくて、あくまで授業の一環である。
スコールの学年では、特に大きな問題やトラブルもなく、恙なく授業は進んで行った。
……女子生徒の間で誰が男子に教科書やノートを見せるか、また男子の方でもどの女子生徒とお近付になるかと言う攻防が水面下で行われている事は、その手の話に全く興味のないスコールは知らない話である。
無論、自分が多くの男子からの強い興味を寄せられている事も、彼女は終ぞ知らないままであった。

 スコールにとっては嬉しい事に、授業は順調に進み、時間はあっという間に昼。
折角幼馴染メンバーがこうして一堂に集まったのだからと、スコール達は学食に揃って昼食を採っていた。


「は〜、なんかいつもと昼ご飯の味が違う気がする」
「なんだそりゃ。いつものコンビニ弁当だろ?違うの買ったのか?」


 アーヴァインのしみじみとした一言に、焼きそばパンを齧っていたゼルが言う。


「いや、いつも通りの奴なんだけどさ。買ったのも昨日と同じのだし。でも、食べる場所が変われば、ご飯の味も違ってくるものだよ」
「そんなモン?」
「ゼルだって此処で僕等と食べるより、図書室のあの子と一緒に食べたら良かったんじゃない?もっと美味しく感じたかもよ」
「そういや、ゼルはあの子と良い雰囲気だったっスね。そっち行かなくて良かったんスか?」
「んぐっ。な、なんっ……何言ってんだ、お前らっ」


 少々にやつきながら、分かり易く揶揄って見せる顔で言うアーヴァイン、純粋に良かったのかと訊ねて来るティーダに、ゼルが喉を詰まらせる。
パンの塊を強引に飲み下してから反論するゼルに、ひらひらと手を振ったのはサイファーだ。


「よせよせ。こんなチキンにそんな度胸がある訳ねえだろ。誘えた所で、飯の味も判らなくなるだけだ」
「なんだとぉ!?」


 直ぐに噛み付いて行くゼルに、まあまあ、と宥めるのはセルフィだ。


「でも、確かにねぇ。折角なんだから、あの子のトコ行けば良かったのに〜。ゼル、うちらの事気にしなくても良かったんよ?」
「べ、別にそんなのじゃねえって。あの子とは、後でまた会うから。昼は飯食ったら図書室の当番があるらしいし、だから俺はその、放課後に」
「しっぽりするって?」
「ンな訳あるか!い、一緒に帰ろうって話してたんだよ!」
「やっぱするんじゃねえか」
「しねえ!」


 顔を真っ赤にするゼルに、サイファーが「これだからお子様は」と呟く。
しっかりそれを聞き留めたゼルが再度噛み付いて行こうとするのを、キスティスが腕を引っ張って止めた。


「いい加減にしなさい、ゼルもサイファーも。此処が何処だか忘れたの?」
「ご、ごめん」
「ふん」


 平時の遣り取りから、揶揄い揶揄われと、ヒートアップし易いのがサイファーとゼルである。
リノアを含めた幼馴染の面々は、それもいつもの光景と気にしないが、此処は沢山の眼がある学食だ。
交流授業の日とあって、何処もめいめい沸き立っているが、そんな場で喧嘩のような遣り取りは勘弁して欲しい。
特に生徒会に所属しているスコールとキスティスにとっては、頭痛の種は避けたかった。

 騒いだことについて、素直に謝った後、ゼルはパンを食べる手を再開させる。
赤い顔を誤魔化すようにがっつくゼルに、詰まらせるわよ、とキスティスが水を取りに行った。

 賑々しい友人たちの遣り取りをBGMに、スコールは食事を終わらせていた。
空になったA定食を持って、「返してくる」と席を立つスコールを、リノアとティーダが手を振って返事をした。

 受け取り口の横に併設されている食器の返却口にトレイを返す。
食後の一服に、隅にある自販機でジュースでも買おうか、と思った時だった。


「スコール!」


 呼ぶ声の色を、スコールは反射的に悟った。
その後で、え、と目を丸くする。
まさかと言う気持ちで固まったスコールの背中に、突進宜しく、覆い被さって来た体温に、スコールは更に固まった。


「いた〜、やっと見つけた、スコール!」
「……は?」
「え!?」


 広い学食でもよく響く、通りの良いはきはきとした声。
スコールが今だ続く混乱の中で、辛うじての反応を吐き出すとほぼ同時に、遠い席から驚きの声が上がった。

 ぎぎ、と固い首を巡らせてスコールが背中にくっついたものを見れば、きらきらと輝く褐色がスコールを映している。
ぽかんと呆けた顔をした自分を映すそれを見詰めていると、べりっ、と強い力でおんぶお化け───バッツ・クラウザーが引き剥がされた。


「おい、てめぇ。何処のクラスの奴だ?」
「ん?えーと……」


 じろりとバッツを睨んだのは、スコールがよくよく見慣れたペリドット。
判り易く苛立ちと怒りを滲ませているサイファーに睨まれて、バッツはきょとんとした顔で頭を掻いた。


「見た事のない面だな。お前、俺の名前を言ってみろ」
「へ?知らない」
「あぁ?お前、本当にうちの学校の生徒か?」


 詰問するサイファーの言葉に、呆気に取られていたスコールの思考が一気に現実に戻って来る。


「サイファー、退け!」
「あ?」
「あんた、ちょっと来い!」


 スコールは壁のように立ちはだかるサイファーを押し退けて、サイファーを見上げているバッツの手を掴む。
そのままバッツの腕を引いて走り出したスコールを、おい、と尖った声が呼んだが、スコールは聞かなかった。
聞いては駄目だと、悟っていた。