クリーンブルーを染め上げて


 スコールが滅多に休暇を取らないと言うのは、バラムガーデンの主要メンバーにとっては、よく知られていることだった。
その原因となるのは、最たるはそもそもの人員不足が解消されないことにあるのだが、それに加えて、本人が自ら能動的に休暇の申請をしない所為でもある。
労働意欲に沸き立つような性格ではない癖に、変に生真面目な所と、その割に物臭性な所が同居しているものだから、「休むと溜まった仕事が更に溜まる」「休暇申請が面倒臭い」と言うダブルノックにより、彼の休みは確保されないまま、スケジュールが黒塗りされて行くのであった。

 しかし、スコールは元来、ストレス耐性の高い人間ではない。
抑圧に抑圧を重ね、それを無理やりマンパワーで押し通し切るものだから、意外と遠目に見ている人間には気付かれ難いのだが、彼は人一倍繊細な気質だ。
適度なガス抜きは必要不可欠で、本人がそれを意識的に抜けないのなら、そう出来るように周りが整えてやればならない。
そう言う時に役割を肩代わりさせられるサイファー等は、自分の予定も書き替えなければならないから面倒な訳で、スコールに「人間性のある自己管理をしろ」と至極真っ当に言ってくれる。
スコールも自分の惰性による割りをサイファーに食わせている自覚はあるようで、不満な顔をしながらも反論を噤むのだが、それで彼の行動が簡単に変わる程、話は早くはない。
先ず真っ先に挙げられる、蓄積された仕事の問題だとか、その分配だとか、どうしても指揮官の捺印が必要なものが多いとかで、結局、安易に休みを取ることが出来ない。
これは現バラムガーデンを運営している主要メンバーにとっても、難しい問題だった。

 そんなスコールであるが、此処数ヵ月は、月に一度、多いと二度、休みの申請が出されるようになった。
その理由は、現エスタ大統領である、ラグナ・レウァールに会う為だ。

 先の魔女戦争以降、その立役者となったSeeDを輩出したバラムガーデンと、SeeDに力を貸したエスタは、連携を強めている。
主にはエスタ側が要人警護の依頼を出し、それをスコールを始めとした主力メンバー───つまりはともに魔女戦争を戦い抜いた面々が派遣される。
大統領のフランクさに加え、少年少女達が彼と知らぬ仲ではないから、色々と情報交換もスムーズだった。
エスタが十七年ぶりの国際社会復帰に際し、バラムガーデンの方から方々へと便宜を図ったと言う経緯もある。
そして、バラムガーデンの方も、学園長シド・クレイマーの実質隠居の姿勢により、矢面に立つのが、精鋭とは言え社会経験の少ない若者であると言う点から、エスタからのバックアップを計った面もあった。
持ちつ持たれつ……と、完全に対等なパワーバランスかと言えば聊か難しい所はあるが、少なくとも、表面的にはそう言った姿勢が共に保たれている。

 そういった関係を強化して行く中で、ある時、ラグナが存外と軽い調子で、「俺、スコールの父親なんだ」と言った。
それは既にスコールとラグナの間では共用されていた話で、公表して良いものかどうか、と言うのも話し合われていた。
結局、公表するには互いの立場が強すぎる為、何もかも柵がなくなるまでは秘密にした方が良い、と言うスコールの意見が通ったのだが、その傍ら、近しい者には打ち明けておいた方が良いとラグナは言った。
エスタの科学力然り、それを今後輸入して行く各国然り、二人の関係を結びつける方法は、そう難しくはないだろう。
知らぬ間に採取された爪の端、髪の毛一本でも、血縁関係は割れて行くのだ。
何代も前まで遡って調べることも出来る技術なら、一親等なんて時間の問題にもならないだろう。
万が一、あくどい輩に知られてしまう前に、信頼できる者には説明しておくべきだ。
そうすれば、いざと言う時、事態が大きくなる前に外堀から埋めて、互いを護ることが出来るのだから───と、ラグナの言葉である。

 秘密と言うのは、何処から漏れるか判らないものだ。
信頼している人間だって、何が切っ掛けで裏切られることになるか知れない。
そう言う意味では、秘密は誰にも漏らさぬまま、墓まで持って行くのが一番なのだろう。
だが、暴かれる可能性の高い秘密である事も確かであり、互いの立場上───特にラグナ───、スキャンダラスな話にされるのも厄介だった。
ラグナの方は、キロスやウォードと言う旧知もいたし、知っているからこそ色々と気を回してくれる為、ラグナも楽をさせて貰っていた。
お前もそう言うメンバーはいた方が良い、と言うラグナに、スコールは“秘匿情報を共有”と言う不確実性に眉根を寄せたのだが、結果として、ラグナの言う通りにはなっている。

 スコールが定期的に休暇申請を届けるようになったのは、ラグナが二人の血縁関係を打ち明けてからのこと。
頻繁にラグナ、つまりは父親の下を訪れるのは、家族の行動としてはそう可笑しくはないだろう。
ただ、スコールにとっては生まれて初めて出会った“父親”であるから、双方が打ち解けるには時間が必要だと、周囲はしっかり汲み取った。
彼が定期的に休みを取り、遠路遥々エスタへ向かうのも、不慣れな“父子”と言う関係に向き合う為であると。

 スコールの仲間は、その多くが、嘗て『石の家』で幼年期を共にした者たちである。
其処にいたと言う事は、親を喪い、或いは捨てられて、クレイマー夫妻に保護されたと言う経緯がある。
ガーデンの設立に伴い、子供たちの多くは貰われて行き、新たな家族を得た。
ガーデンではG.Fを使ったジャンクション能力を学ぶことから、自分が家族と血が繋がっていない事を忘れていた者も少なくない。
それでも、家族は家族だと、自分にとって大切な存在だと、はっきりと認識した者もいる。
半面、新しい家族と上手く過ごすことが出来ず、結局は離れる道を選んだ者も。
いずれにせよ、“家族”“血の繋がり”と言うものに、一種の憧れや羨望があることも、また完全に否定は出来なかった。

 そんな彼等にとって、スコールの幸運は、厭うものではなかった。
羨ましいなあ、と拗ねた顔を見せることこそあれど、では奪わねば気が済まないかと言うこともない。
そんな仲間達の顔も見ているから、無暗に“父親”を無視するのも気が引けて、彼なりに考えて現状に向き合おうとしているのだ。
スコールの気難しさを知っていることも加えて、結果がどうなるにせよ、其処に至るまで努力しようとする幼馴染を応援しない事はない。

 何より、スコールの休暇は貴重である。
物臭な性格があることを思えば、休みは一日部屋で寝汚く過ごすか、溜まった鬱憤晴らしにアルケオダイノスを狩り尽くしていることを思えば、人間らしい休日ではないか。
遠路へ向かう足が億劫そうに重いことも少なくはないが、毎日を過ごすバラムガーデンと言う景色から離れるのも良いだろう。
父親との語らいのことは、そのオマケくらいでも良いのだ。

 スコールの申請が通るかは、現状、半々と言った所だ。
彼自身が自分の予定を組んだ上で申請しているので、それ自体は受理され易いのだが、諸々のスケジュールを組み立てていると、結局は半分は潰れる。
良くて日付をずらすか、短縮と言う調整が取られていた。

 そんな中、久しぶりにスコールの休暇が、希望申請通りになった。
初日から数えて四日、外泊予定としては三泊分の確保と言うのは、初めてのことではないだろうか。
どうせ短縮されると思って申請したから、キスティスから聞いた時には、本当に大丈夫なのかと疑った位だ。
あとは当日までに予定が覆らないかと様子を見ていたのだが、スコールの休暇タイミングに合わせたように、遠征先から幼馴染の面々が帰って来たのを見て、やっとこれなら大丈夫だと思った。

 そして休暇の前日────スコールはラグナと遠距離通信を繋げていた。
自室に備えた個人用のパソコンで、ラグナがこれは完全に私用だからと言う回線と接続し、ほんの数時間、会話を交わす。
こうした時間を設けていることは、実は幼馴染達にも打ち明けてはいない。
だからこの時間は、お互いの都合が合う時にのみ出来る事だった。

 明日から休みになる、と事前に伝えていた通りのことを再確認に告げると、ラグナは嬉しそうに顔を明るくさせた。


『おお、そっか。予定変更もなし?』
「今の所は。だから明日の朝にはこっちを出て、エスタには……昼過ぎには着く筈だ。ラグナロクを使うから」


 バラム島からエスタ大陸までは、未だに公共交通が満足には行き届いていない。
F.H.を通る電車が再開通すれば、とは言うが、そもそもがバラム島は他国から隔離された環境だ。
大陸横断鉄道を何時間も揺られ、更にガルバディア大陸の端から海の上を走る列車を行くルートでは、丸一日をかけることになる。
バラムからエスタ大陸まで海洋ルートで行けるのなら話は早いのだが、エスタ大陸はその外周が海抜の高い岸壁に囲まれている為、海からは上陸することが出来ない。
だからSeeDは、エスタからの依頼で足が必要になる時は、譲渡されたラグナロクを使っていた。
それを利用して指揮官が休暇の為にエスタに行くと言うのは、中々に職権乱用な気もするが、其処はキスティスやシュウが色々と都合と理由をつけてくれている。
今回はラグナロクの整備と言う目的を添えて、指揮官であるスコールの責任でそれをエスタへと運ばせる、と言うことになっていた。

 ラグナは、そっかそっか、と嬉しそうに頷いている。
画面の向こうでもよく判るその表情に、スコールは妙にむず痒いものを覚えていた。
なんとなくそわつく体を、無自覚に身動ぎして誤魔化すスコールに、ラグナは画面向こうから細めた双眸を向けている。


『一ヵ月ぶりか。久しぶりだな、休みにお前に逢えるの』
「……三週間前に顔を合わせただろ」
『あれは仕事だったじゃんか。お前は魔物退治で、俺は俺でやることがあって。結局、お前はうちに一晩泊まって行ったけど』
「あんたが俺を無理やり引っ張って行ったんだろ。お陰でホテル代が一部屋分、無駄になった」
『でも、お陰でゆっくり出来ただろ?』
「………」


 “ゆっくり”────遠回しに、含みのある言い方をするラグナに、スコールはじろりと睨みつけた。
そんな反応も予測済みだったのだろう、ラグナはにっこりと笑みを深めて見せるばかり。

 その笑みを見ていると、じわりとしたものが体の奥から滲んで来る気がして、スコールの手は自然と腹を抑えていた。
薄い肉のある其処に手のひらを押し付けると、胃の奥で何かが胎動しているような気がする。
いつの間にそんな風になったのか、自分でも判らないが、もうこの感覚は慣れて久しいものになっていた。

 スコール自身がそうなのだから、それを彼に植え付けた男が、気付いていない筈もなく。


『スコール。明日来るんなら、いつものヽヽヽヽ、ちゃんとしておいで』
「……!」


 ラグナの言葉に、スコールは息を飲んでいた。
どくんと心の蔵が跳ねて、早鐘を打つように脈が続く。
顔が赤くなっているのを、画面の向こうに見られまいと背けるが、通信で繋がった先には真っ赤になった耳がすっかり見えているとは知らなかった。

 そんなスコールの横顔を眺めながら、ラグナは更に続ける。


『宿題は、ちゃんとしてるか?』
「……」
『スコール。今見せてくれても良いんだぜ』
「……そ、れは……」


 返事が出来ない様子のスコールに、言葉の代わりの方法を掲示するラグナ。
しかし、どちらにしてもスコールにとってはハードルの高いことで、どちらか選べと言うならと、目を逸らしたままスコールは答える。


「……ちゃんと、してる……」
『本当に?』
「………ん……」


 確認するラグナに、スコールはこくりと小さく頷いた。
じんじんとしたものが体の芯から全体に広がっていくのが判って、スコールの身動ぎの回数が増えている。

 ラグナは、頬杖をついて、細めた双眸でじぃっと此方を見ていた。
スコールは顔を背けたままであったが、彼が此方を見ていることは理解できて、画面越しの視線に躰が火照って行く。
明日には彼に逢うと言うのに、それすら我慢できなくなりそうだった。


「ラグナ……」
『ん?』
「……明日、早くに出るから……もう切る」


 これ以上耐えられなくなる前に、スコールは逃げることにした。
彼方の返事も待たずに、パソコンを電源ごと落としてしまおうと、ボタンに手を延ばす───と、


『スコール』


 名を呼ぶ声に、当たり前のようにその手が止まった。
俯けていた視線を、そろりと画面へと戻せば、年齢を滲ませる皺を刻んだ目元が、笑みを浮かべて此方を見ている。


『明日、な』


 今更改まって確認するような予定でもないだろうに、ラグナは態々そう言った。
それだけで、明日のことを一瞬でも過ぎらせるだけで、スコールがどうなってしまうのか、きっと彼は全て見通しているのだろう。
じわり、とまた腹の奥が熱くなるのを、スコールは否応なく自覚して、今度こそ端末の電源を切った。




 ラグナロクに備えられた、自動運転の機能は非常に便利なものだ。
行先を入力しておけば、あとは勝手に機体がその位置へと向かってくれる。

 この世界に、エスタに帰属しない飛空艇と言うのは、スコールが知る限りでは、このラグナロクしか存在しない。
そもそもラグナロクも、正しくは宇宙船の類の一つで、元はと言えば物資などを宇宙ステーションに届ける為に利用される、使い捨ての打ち上げ機であったとか。
それが紆余曲折の果てにスコール達の手に渡り、一度はエスタへと返され、魔女戦争終結の報酬として再度スコールの下に戻って来た。
空の足と言う唯一無二の移動手段の入手は、『月の涙』の影響で忙殺されるSeeD達には願ってもない代物であった。
そう言うつもりで受け取った訳でもなかったが、結果的には、色々と役に立ってくれている。

 唯一無二であるから、航路を何処にどう取ろうと、あれこれと配慮する必要がない。
例えばこれが海路ならば、バラム、ガルバディア、ドールと言った多地方から出航する船───漁船から客船、戦艦問わず───があるから、移動ルートには案外と気を遣う。
海に道路などないが、ルートは天候でも変えねばならないし、他船が付近にあれば回避行動も必要となる。
それに比べると、競合するようなものがない空の旅は、快適なものだ。
天候は気になる所だが、雲の上まで出ることも出来るし、大気圏の環境に耐えて宇宙空間に出ることが出来るラグナロクなら、多少の暴風くらいはなんとかなるものだった。
勿論、精密機器に何かトラブルが起きるか判らないと言う懸念はあるので、可能であれば、荒れた天候の中は飛ばすものではないが。

 雲の上を走り、深紅竜の機体がエスタエアステーションへと到着したのは、昼過ぎのこと。
ラグナロクの寄港とメンテナンスの話は、既に話が通っていたので、預ける為に必要な書類にサインするだけで済んだ。
全体メンテナンスを予定しておいた為、丸二日は必要になると言う。
スコールの休暇予定は三泊分あるから、何か大きな異常でもない限りは、帰る予定の日に間に合うだろう。

 やらねばならない事が終わったので、スコールは肩の荷が下りた。
ほう、と息を吐いてステーションの外へ向かおうとしていると、


「よっ、スコール!」
「!」


 後ろから聞こえた朗らかな声に、思わずどきりとした。
完全に気を抜いていた、と言うつもりはなかったが、油断していたのは確か。
そんな自分に情けないと恥じながらも、いつもの表情で振り返れば、ワイシャツにチノパン、サンダルと言う、相変わらずの格好をしているラグナがいる。


「待ってたぜ〜、ここで待ってたら見付けられるだろうと思ってよ」


 そう言いながら歩み寄って来るラグナは、どうやら待合ロビーでスコールの到着を待っていたらしい。
仕事は良いのか、護衛はどうした、とスコールは思ったが、いつものことと言えばそうだ。
とは言え、開国もしたのだから、もう少し危機感を持った行動を取って欲しいとは思う。

 いらっしゃい、とラグナは気安い声でスコールの肩を叩いた。
スコールが視線を外せば、ラグナはそれを追うように覗き込んで来るが、目端でじろと睨むと直ぐにやめた。
にこにこと上機嫌な様子のラグナに、聊か腹が立つものがあったが、今のスコールにそれを貫き通す気はなかった。


「じゃあ行くか。表に車回して貰ってっから、……あ、昼飯はどうする?もう食った?」
「……食べた」
「そっかそっか。じゃあ何処かで俺の分だけ調達しようかな」


 歩き出すラグナの後ろをついて行くスコール。
その足元が少し覚束ないことに、ラグナが気付いていないことを祈っていた。

 車の運転手は、思った通り、ウォードだった。
助手席にはキロスが座り、スコールの来訪を歓迎する。
後部座席に二人が乗ったのを確認して、ウォードは車を発進させた。

 他国の車と違い、リニアモーターを利用しているエスタの車と言うのは、車輪に相当する部分が地面と接していない為、揺れが少ない。
替わりに浮遊感があって、どちらかと言えばモーター付きの小さな船に乗っているような感覚がある。
車は大統領を乗せる為だろう、革張りのシートが使われ、座り心地の良いものであった。

 そのシートの上で、もぞ、とスコールは身動ぎする。
分かってはいるが、やはり落ち着かない。
早く目的地に着いて欲しい、と思うスコールであったが、ラグナはウォードにマーケット通りに寄るように言った。
昼食の調達の為なのだろう。
先に言っていた通りだし、時間的にも自然なことだが、スコールはどうにも焦らされているような気がしてならない。
キロスと一緒にマーケット通り降りたラグナが、中々帰って来なかったものだから、尚更。

 バラムガーデンを出る時から、スコールはずっと、下肢に違和感を抱いている。
その原因は自分で施したものであるから、何も可笑しなことはないのだが、意識するなと言うのは無理だった。
そんなものを身に着けていることも、それを自ら施したと言うのも、本音を言えば恥ずかしくて堪らない。
それでも、嫌だと言えなくなったのは、いつからだろうか。
休暇をこんな事の為に使うなんて───と言う理性もあったが、最早それで自分の行動を諫められるものでもない。
寧ろ期待を膨らませるようにして、受け入れる為の準備を自ら行うことに、興奮さえも覚えてしまっている。

 シートに座って、スコールは出来るだけ、不自然にならないように努めていた。
ただ座って過ごしている、ラグナの帰りを待っている、ただそれだけ───そんな風に。
運転席に座っているウォードが、時折バックミラーで此方を見ているのが判った。
プライベートとは言え、ラグナにとって大事な大事な存在であるから、旧知の友人達もそれを慮っているのだろう。
ラグナ同様に年齢を重ね、少し柔らかい印象になった男の顔を見ないように、スコールはじっと足元を見つめて時間の経過を待っていた。

 時間にして、三十分程度だっただろうか。
店選びから注文、品の提供に要する時間を考えると、聊か暇がかかったと言えなくもないが、行く店を決めていなかったと思えば無理もないか。
片手にファストフードのロゴが入った紙袋を抱えたラグナが戻って来て、


「わりわり、意外と混んでてさ。そういや今日は休日だったな」


 車に乗り込み、詫びながらそう言ったラグナに、そう言えば日曜か───とスコールは思った。
曜日なんて、任務のスケジュールに影響しなければ、あまり意識する間もないような生活だ。
改めて知った休日と言う日に、それは人が多いのは仕方がないか、と思った所で、キロスが割り込んだ。


「わざわざ混んでいる店に行こうと言ったのは君だろう、ラグナ」
「だってあの店のサンドイッチ、美味いだろ。食べたかったんだよ。お前の分もあるぜ、スコール」


 キロスの言葉に返しながら、ラグナは紙袋を開けた。
ランチパックに入ったサンドイッチは、卵にハムにレタスにと、確かにバランスよく具を配置して旨そうではあるが、


「……昼飯はもう食った」
「ああ、そうだっけ。でもほら、晩飯にでも良いからさ。冷蔵庫に入れておけば、明日でも大丈夫だし」


 今は腹に入れるつもりはないと言うスコールだが、ラグナはどうしてもこのサンドイッチを食べさせたいらしい。
じゃあ明日貰う、と言うと、ラグナは満足げに笑って、紙袋の口を閉じる。

 そこから十分ほど車が走って、閑静な住宅街へと入って行く。
その中にある、小さな庭つきの一戸建ての家が、ラグナが持っている私邸であった。
一見するとただの家だが、やはり大統領の私宅とあって、セキュリティは大統領官邸並に厳重だ。
だから来訪客と言うのも限られており、スコールが知っている内では、自分の他には旧知の友人二人くらいしか人が来たことはない。

 電子キーとパスワード、声紋の組み合わせから成るセキュリティゲートを抜けると、途端に辺りが静かになったように感じられる。
そもそもが音の少ないエリアではあるが、まるで見えないバリアでも張られているようだとスコールは思う。
最新のセキュリティが用いられていることや、エスタの科学力を思えば、強ち間違っていないのかも知れない。
初めてエスタ大陸を訪れた時、都市一つが丸々隠されていたことを考えると、こんな小さな家位、周辺から隠すことは訳ないだろう。

 玄関前に車が止まって、後部座席のドアが開く。
二人が下りると、キロスが「では、ごゆっくり」と手を振った。
ウォードもひらりと手を振って挨拶をして見せ、車は再びセキュリティゲートを抜けて、街へと去って行った。

 ラグナがチノパンのポケットに入れていた鍵を取り出す。
門の方は堅い守りの割に、玄関は昔ながらのタブキーである事にスコールは違和感を感じることもあるのだが、最新鋭の科学国に身を置きながらも、ラグナは存外とアナログな男である。
落ち着きたい場所は、極力好きなようにしたのかも知れない。
どうせ門の他にも様々なセキュリティは備えられているだろうし、ドアのアナログさも案外と見た目だけと言うのは考えられた。

 かちゃん、と回した鍵が音を立て、玄関のドアが開けられる。


「ほい、どーぞ」
「……邪魔する」


 促されて、スコールは玄関を潜った。
ばたん、と重めの音を立てて玄関ドアが閉まり、続いて鍵を回す音が鳴る。

 家の中は、しん、と静かだった。
ラグナの他に住んでいる人間がいないのだから当たり前だが、この静けさの所為だろうか、スコールは此処が外界から隔絶された空間に思えてならない。
だから、此処でした事は、決して何処にも漏れることはないのだと、そんな思考さえ沸いてしまう。


(……そんな、こと……)


 ない、とは言い切れないのが、この家だった。
大統領と言う立場を持つ男の私邸は、公人の唯一のプライベート空間である。
それは最新の力で守られなければならないもので、信頼を置ける者以外は決して出入りは赦されない場所だ。
スコールが知る限り、この中に入って良い者は、家人と自分を含めて四人だけ───その内二人は、スコールが此処に来ている時、決して中に入って来ることはしない。
だから文字通り、この家の中で起きていることを知っているのは、ラグナとスコールだけなのだ。
二人が何をして、何を話して、どう過ごしているのか知っているのは。

 そんな思考を巡らせて、立ち尽くしていたスコールの背を、ぽんとラグナの手が押した。
はっと我に返って振り返れば、思いの外翠の瞳が近くにあって、思わず息を飲む。


「どうした?考え事してたか」
「……別、に」


 特別、何か考えていた訳じゃない。
そう返したスコールに、ラグナは「そっか」と特に気に留める様子もない言った。

 する、とスコールの背中に、ラグナの手が滑る。
背筋の中心に指先を押し当て、背骨のラインをなぞる様にゆっくりと降りて行く感覚に、スコールはぞくぞく……としたものが背を這うのを感じた。


「ラ、グナ……」
「ん?」


 こんな所で、とスコールが咎めようとしても、狡猾な大人は聞いてくれない。
それ所か、ラグナはスコールの首元に顔を寄せると、首筋に唇を押し付けた。
ちゅう、と吸われる感触に、ヒクッとスコールの躰が震えてしまう。


「んっ……!」
「久しぶりだな、スコールの匂い」
「あ、ん……っ、うん……っ」


 すん、すん、と臭いを嗅ぐラグナの鼻息が、首筋に当たるのが擽ったい。
それだけでスコールの躰は熱が湧き上がって来て、下腹部がじわじわと切なさを増していく。
そうなれば、下肢に誂えたものの形が益々判って来てしまって、スコールはいやいやと首を横に振った。


「どした?やだ?」


 嫌がる仕草を見せるスコールに、その意図をしっかり汲み取りながらも、ラグナの唇は離れた。
すると今度は、れろ、と生暖かくて弾力のあるものが、スコールの喉仏に押し付けられる。
喉にある膨らみの其処を、舌の腹で丁寧に撫で回されて、スコールの唇がはくはくと音なく開閉を繰り返す。


「あ、ラグ……っは……!」
「んぁ、」
「あ、あ……っ」


 甘く歯まで立てられて、びくん、とスコールの喉が仰け反った。
差し出すように晒される白い喉に、ラグナは吸血鬼のように歯を当てている。
そうして喉に食い付くケダモノから逃げを打って、上肢を反らしていくスコールだが、背中にはラグナの腕があった。
軍に所属していた頃の名残か、歳を重ねて筋力は落ちている筈だが、捕まえる腕は案外と強く、スコールはいつも逃げ出せた試しがない。
本当に逃げる気があるのか───と言われた時に、反論ができるかは、判らなかった。

 ラグナは、甘い吐息を零すスコールの喉に、ゆったりと舌を這わせながら言った。


あれヽヽ、確認しような」
「あ……っ!」


 ラグナが指したものを、スコールは直ぐに理解した。
きゅう、と下肢が疼くように狭くなって、そこにあるものを締め付けてしまい、思わず声が漏れる。
ある意味、それで充分の確認になるのだが、だからと言って背を辿る手が止まってくれる程、目の前の男は優しくない。

 ラグナは、スコールの喉元に愛撫を続けながら、背中を辿っていた手でスコールの臀部を撫でた。
布地越しに感じる手のひらの感触に、スコールは「んん……っ」と鳴いて身を捩る。
ラグナはそんなスコールをあやしながら、ズボンの中に強引に手を入れて来た。
窮屈さにスコールの足元が抗議に床を踏むが、そんなものでラグナに伝わる筈もなく、侵入した手はスコールのまろい尻を直接肌から撫でていた。


「あ、あ……っ」
「スコール、お尻揺れてるぞ。やらしいな」
「……っ」


 皮膚を撫でる手のひらの感触で、もどかしさが増してしまう。
それを誤魔化したくて身を捩れば、その仕草がラグナの目にはいやらしいおねだりをしているように見えてならなかった。

 尻たぶを丁寧に撫でた後、ラグナの手はスコールの後ろの中心へと向かう。
見なくても判る場所にピンポイントに指を当てれば、そこには堅い感触があった。
こつん、と言う刺激が小さな振動になって中に伝わって、スコールの躰がヒクンッと仰け反る。


「んんっ……!」
「うん、ちゃんと言った通りにしてきたな」
「あっ、あっ……ラ、グナ……ぁ……っ」


 コツ、コツ、とノックをするように、ラグナの指は堅い感触のソレを小突いて来る。
ただそれだけでも、柔らかくなったスコールの内部にとっては堪らない刺激になっていて、勝手に甘い声が漏れてしまった。

 ラグナはスコールの尻を撫でながら、反対の手で、器用にスコールのベルトのバックルを外した。
前の守りが緩み、タイトな造りをしているズボンを引き下ろせば、肉の薄い尻が露わになる。
其処には、平時は愛用している筈のボクサーパンツはなく、尻の形をほぼそのまま丸見えにさせた、黒のオープンショーツがあった。
バックの布地はまるでなく、肌を守る為、隠す為と言う役割はそっくり捨てて、大事な部分を見せつけるようなデザインをした下着。
前部は布地があるものの、ウェストの中央から飾りのような垂れ布が一枚あるだけで、捲ればその下も全て見えてしまうだろう。
実際、スコールの雄が半分頭を持ち上げている今の状態で、垂れ布の端は持ち上げられているのが分かる。


「可愛いな。似合うよ、スコール」
「ん……っ、そんな訳、ない……あ、あ……っ」


 ラグナの手が尻を揉み、スコールは切なげな吐息を漏らした。
もどかしそうに体を捩るスコールに、ラグナは目元を細めて、彼の後ろの中心部に手をやった。

 コツン、と固いノックをすれば、またびくりと少年の躰が竦む。
ラグナの指先を当てているのは、色付いたアナルに挿入された、シリコン製のアナルプラグだ。
しっかりと深くまで挿入されたそれは、バラムガーデンを発つ時からずっと、スコールの熟した蜜壺を占領していた。

 それを、コツッ、コツッ、と指先でノックして遊ぶ。
スコールはヒクッ、ヒクンッ、と腰を弾ませながら、反応を示して見せた。


「あっ、やっ……ラグ、ナ……あっ……!」
「ちゃんと中まで入れてるな」
「んぅう……っ」


 アナルプラグの出っ張りを、ラグナが指でぐぅっと圧すと、それ以上は入らなかった。
きちんと言いつけられた根本まで、しっかりと入っているのを確認して、「良い子」とスコールのアナルの縁を指で摩る。


「はあ、あぁ……っ」


 ラグナの指が秘部を弄る感触に、スコールの体は悦びに震えた。
プラグを咥え込んだ秘奥が、きゅうきゅうと切なさを増して、欲しいものの代わりにプラグを食んでいる。


「ガーデンからこっちに来るまで、これつけてるの、どうだった?」


 アナルプラグの端を摘まんで、クイ、クイ、と左右に振って遊びながら、ラグナが問う。
スコールは小さな尻を揺らしながら、抱く男の首に腕を絡めて、


「も……きつ、い……こんな、の……」
「そっか?そんなに大きい奴じゃないだろ、これ」


 そう言いながら、ラグナはプラグを摘まんで、ぐっと外へと引っ張る。
肉が内側から引っ張られるのが分かって、スコールの体がぎゅうっと強張った。


「やぁ、ああ……っ!ラグナ、あっ……抜けちゃ……っあン!」


 にゅぽんっ、とプラグがスコールの秘孔から抜き取られ、瞬間の刺激感にスコールは高い声を上げる。
ふらりと揺れた足元を支えられながら、スコールは直ぐ傍の壁に寄り掛かった。


「は、はう……っ、あぁ……っ」


 朝から半日近く、咥え込んでいたものがなくなって、スコールは喪失感に苛まれていた。
プラグの形で広がったアヌスが、ひくんひくんと伸縮運動を繰り返し、中の切なさを訴えている。

 ラグナは、抜き取ったばかりのアナルプラグを見て、にぃっと口端を歪めた。
黒のシリコンプラグは、以前から使っていたものに比べると、一回り大きくなっている。
このサイズが入るようになったかあ、と感慨深く思いながら、ラグナはとろりと腸液を滴らせているそれを、スコールの尻の谷間に擦り付けた。


「んぅ……や、あぁ……っ」


 それだけの刺激で、スコールはもどかしそうに腰を揺らめかせる。
すっかり後ろで快感を得ることを覚え、虜になった少年に、ずるい大人は益々支配欲を募らせていた。

 ラグナは、アナルプラグをスコールのズボンの尻ポケットに入れて、ひくつく秘孔に指を当てた。
にゅぷ……と抵抗なく指を飲み込んで行くアナルは、中も既に柔らかくなっていて、掻き回すとくちゅくちゅと音を立てる。


「あっ、あっ、あぁ……っ!ラ、ラグ、ナぁ……や、あぁ……っ!」


 スコールは壁に縋り付くように手をついて、ふりふりと尻を振って逃げを打つ。
しかし、そんな拙い抵抗に意味はなく、ラグナは揺れる尻の動きに合わせて、右へ左へと指を振って遊んだ。


「は、はうっ、あぁ……っ!んっ、んぁっ、あぁん……っ!」
「気持ち良いか?スコール」
「あ、あう……ああっ、あっ、あっ……!」


 耳元に唇を寄せ、囁き問うラグナに、スコールはふるふると首を横に振った。
言いたくない、と羞恥心に顔を真っ赤にしている少年に、ラグナの興奮も昂って行く。

 ラグナはスコールを壁の方へと向き合わせて、尻を後ろへと突き出す格好にさせた。
タイトなズボンはスコールの膝下に絡み付いていて、彼の動きを制限させている。
指を咥え込み、ヒクヒクと絶えず絡み付いて、もっと奥に欲しいとおねだりしてくる蜜壺に、ラグナの劣情は抑えられなくなっていた。


「まだ後でゆっくりするけど……」
「あ……や、指……あ、抜け、て……っ」


 ぬるう、と指の腹で内部をゆっくりと舐めながら、ラグナはスコールに秘孔を解放する。
再び加えるものを喪った菊座は、一層切なく泣き出しそうに色付いて、ふくふくと疼き、見下ろす男を無自覚に誘惑していた。

 ラグナは自身の腰元を緩めると、勃起したペニスを取り出した。
ひくひくと震えているアナルに、ぐっとその先端を押し付けると、びくりとスコールの肩が震える。
その傍ら、秘孔は早速、宛がわれたものに吸い付いて来て、早く早くとせっかちにねだっていた。


「やあ……ラグナ……っ」
「ん?」
「まだ、慣らして、ない……っ」
「大丈夫だよ、お前がちゃんとつけてきたから。それに、コレ入れる時には、広げてから入れたんだろ?」
「あっ、や……、ああぁ……!」


 待ってと訴えるスコールに構わず、ラグナは腰を前へと進めた。
アナルプラグと、指の苛めと、スコールの躰はそれで充分に準備が整っている。
思った通り、スコールはラグナの太い肉棒を、ぬぷぬぷとあっという間に飲み込んで行った。


「あんぅぅ……っ♡」
「ほら、入った」
「あ、あぁ……っ、はぁ……あぁ……っ」


 根本までしっかりと挿入を果たしてラグナが言えば、スコールは甘ったるい声を漏らしながら悶えている。
冷たい壁に頬を押し付けたその横顔は、火照りに赤くなり、瞳はとろりと熱に溶けていた。

 スコールは、胎内でどくんどくんと脈打つ肉棒の感触に、すっかり意識を浚われている。
朝からずっとつけていたアナルプラグは、歩いたり座ったり、身動ぎをする度にその感触の塊が感じられて落ち着かなかった。
こんなものより、早くラグナが欲しい。
そう思っていたスコールにとって、ようやく与えられた望みの熱は、快感に未だ大した耐性を持たない彼を簡単に篭絡せしめてしまう。

 そしてラグナの方も、久しぶりに味わう少年の蜜壺が、程好く蕩けて柔らかくうねっている事に満足していた。


「ちゃんと宿題、してたみたいだな」
「あ……あ……っ♡」


 耳元の囁きに、スコールはきゅっと秘孔を締め付けて答えていた。
良い子、と耳朶をゆっくりと舐られ、また切なそうにアナルが閉じる。


「こっちはどうだ?」


 スコールの肩を支えていたラグナの手が、するりと体の前へと回って来る。
白いシャツが捲り上げられ、探りに彷徨うラグナの両手は、やがてスコールの両胸へと辿り着いた。
肉の薄い体のつくりをしているのに、ラグナにたっぷりと愛されるようになってから、其処は僅かに弾力を持つようになった。
それをむにむにと揉みながら、指先で頂きの場所を探していると、


「お。これ、絆創膏してんのか?」


 指先に、皮膚と違う感触を見付けて、ラグナは言った。
それを聞いたスコールは、かあ、と頬を赤くして顔を隠してしまう。

 ラグナはにんまりと笑って、腰を更に前へと進め、スコールの尻と自身の股間を密着させた。
深くなった挿入に、「あぁあ……!」と悩まし気な声をあげるスコール。
そんなスコールの胸元にあるものを、ラグナは指ですりすりと摩り苛めてやった。


「あ、あぁっ、ラグナぁ……っ!胸は、あっ……!」
「怪我でもしたか?痛い?」
「や、や……っ、触るな、んん……っ!」


 絆創膏の上から、ラグナはスコールの胸を擽っている。
スコールはひくっひくっと上肢を震わせ、逃げを打って身を捩るが、秘奥に穿たれたものでぐっと奥を押し上げられると駄目だった。
爪先立ちになって「んんぅ……っ!」と啼いてしまうスコールに、ラグナは絆創膏越しに膨らんでいる蕾を摘まむ。


「はうんっ♡」


 ビクンッ、とスコールが分かり易く背を仰け反らせて反応を示した。


「絆創膏してても、ここ、ぷっくりしてるじゃないか」
「や、あぁっ、あっ……!乳首、あっ、だめ、あぁ……っ!」


 摘まんだ乳首を、きゅっ、きゅうっ、と引っ張ってやる度に、スコールはいやいやと頭を振って見せる。
しかし、汗ばんだ背中や、耳まで赤くなっている様子から、彼が感じていることは明らかだった。

 ラグナは、絆創膏越しに膨らんだ乳首を、爪先でカリカリを引っ掻きながら囁く。


「なあ、これ、どうしたんだ?やっぱり怪我した?」
「ち、ちが、あっ、あっ♡べ、別に、なんでもな……んんっ、引っ張るなぁ……っ」
「なんでもないなら、剥がして良い?」
「だ、め……あ、あぁ……っ!はっ、また、引っ掻くの、やだ……ああ、っ、あ、んぁあ……っ!」
「じゃあこれ、なんで貼ってるのか、教えてくれよ」
「はぅう……!ひ、引っ張るの、あぁあ……っ!」


 左右の乳首を親指と人差し指でしっかりと摘まみ、きゅううっ、と伸ばし引っ張るラグナ。
スコールは乳首から与えられる官能に、成す術もなく喘ぎながら、


「も、そこ……あっ、び、敏感、になって……んぁっ♡服が、は、はぁっ……こ、擦れてる、だけで……んっ♡感じる、からぁ……あぁっ……♡」
「なんでそんなに敏感になっちゃったんだ?教えて?」
「あんぅぅ……!つ、潰すなって……あぁ……っ♡」


 ぷっくりと膨らんだ乳首が、指に挟まれて潰されている。
そのままくりくりと先端を転がされ、スコールは肩を縮こまらせながら、気持ち良さに泣き、


「しゅ、宿題、したから、あぁ……っ♡」
「うん。そうだな」
「ああっ♡」


 きゅっ、とまた乳首を強く摘ままれ、スコールは高い悲鳴を上げた。
強張りで感度を増す少年の乳首の先端を、ラグナは絆創膏越しならより丹念にと、小刻みに指先を動かして引っ掻き苛めてやる。


「あっあっあっ♡ラグ、ラグナっ♡乳首だめ、だめってぇっ♡」
「毎日しっかり宿題したから、こんなエッチな勃起乳首になっちゃったんだな。絆創膏してても、意味がないくらい」
「あう、んっ、んんっ♡乳首、ああ、だめ、やだぁ……っ!へ、変になる、ふぅうっ♡」
「乳首もお尻も、ちゃんと宿題できて偉いよ、スコール」


 耳元で囁かれる、子供を褒めるような言葉。
ガキ扱いするな、と怒る余裕など、今のスコールにある筈もなく、寧ろ褒められたことが無性に嬉しくて、躰は益々悦びの種を芽吹かせてしまう。

 それを一層助けるべく、ラグナは腰を振り始めた。
ぱん、ぱん、とラグナの腰骨と、スコールの臀部がぶつかりあって響く音に、スコールの羞恥心が益々強くなる。


「んぁ、ラグ、ああっ、やぁ……っ!こんな、とこ、でぇ……っあぁ♡」


 交わる二人のすぐ傍らには、鍵の閉まった玄関扉。
ガーデンの寮ではないから、その先に廊下がある訳でもないけれど、その一枚向こうは外界だ。
明り取りの窓からは煌々とした日の光が差し込んでいるし、寝室にも行かない昼間のうちから、こんな事をしているなんて───とスコールは首を弱々しく振るうけれど、


「でも、気持ち良いんだろ?」
「ああぁぁ……っ!」


 ずるぅ、中を太く逞しいペニスで擦られて、スコールは切ない声を上げる。
固く高さのあるカリ首で、内肉をゆっくりと削ぐように擦られると、スコールの秘部はきゅぅんと締まってラグナを喜ばせる。


「やぁ、ラグナっ、ラグナぁ……あっ♡あぁっ♡」
「ちゃんと宿題して来た良い子に、ご褒美あげなきゃな……っ!」
「あっ、あぁっ、んはあっ♡ずぽずぽして、ああっ、奥にぃっ、入って来るぅっ♡」


 ラグナの腰遣いは激しくなって行き、抽出のストロークも大きくなる。
入口から秘奥まで、ずぷんっ、ずるぅっ、ずぷんっ、と何度も強く突き上げられて、スコールは内股になった膝をがくがくと震わせていた。
縋るように頬を壁に押し付けた横顔は、常の澄ました仮面を忘れて、すっかり熱に蕩けている。


「はっ、あっ、あっ……!」


 そんなスコールの胸に、またラグナの指が這う。
絆創膏をぷっくりと膨らませているその先端を、爪先でくりくりくりっと穿るように苛めれば、


「んぁああっ♡」


 スコールは甘い悲鳴を上げて、きゅううっ、と咥え込んだものを締め付けた。
全身でしがみ付くように絡み付き、ねっとりと艶めかしく蠢いて奉仕する肉壺の動きに、ラグナも全身の血が一ヵ所に集まって行く。


「はぁっ、スコール……スコールっ……!」
「あぁっ、あんっ、やぁっ♡ラグ、ラグナ、俺……あぁっ♡イ、イく……っ!こんな、こんなぁ……っ!」


 スコールは手を突いた壁に、逃げ縋るように半身を押し付けた。
いやいやと首を振る仕草に、目尻は涙を浮かべて、顔は可哀想な程に真っ赤になっている。
しかし、そんな仕草とは裏腹に、ラグナを咥え込んだアナルは、彼を逃がすまいとぴったりと吸い付いていた。


「んぁ、イく、イくぅうっ♡ラグナの、ちんぽで、ああぁ……っ!へ、部屋じゃない、のにぃっ!お、お尻じゅぽじゅぽされてっ、イくぅぅううっ♡」


 ビクッ、ビクンビクンッ、と四肢を強く戦慄かせた直後、スコールはラグナの一際強い突き上げを受けて、絶頂の階段を上り詰めた。
びゅるうぅぅっ、と溢れ出した精液が、下着の前垂れに濃い染みを作り、吸い込み切れない分が床に垂れる。
大統領の私邸となれば、廊下に敷き詰められたカーペットだって、決して安物ではない筈だ。
どう弁償すれば良いのか───なんてことをスコールが考えられる訳もなく、一番強い快感で脳を焼かれた少年は、真っ白な意識の中で幸福感を感じていた。

 同時に、ラグナもまた、スコールの熱烈な奉仕を受けて、我慢の限界を迎える。
う、と歯を噛んだ数瞬後、どくん、とスコールの胎内で熱が弾けた。
どぷぷぷぷっ、と一ヵ月ぶりに愛しい蜜孔へと注ぐ精は濃厚で、スコールはそれを受け止めながら、まろい尻をビクンッビクンッと震わせた。


「あっあぅっ♡はくぅうう……♡」


 うっとりとした表情で、スコールはラグナの精子を一滴と漏らすまいとしていた。
しかし、射精を終えたラグナがアナルから出て行くと、中を逆流した精子がこぷっと溢れ出してしまう。


「あぁっ……♡出るぅ……っ」


 やだ、とゆらゆらと尻を揺らすスコールに、ラグナはにんまりと笑って、足元に落ちていたスコールのズボンから、アナルプラグを取り出す。
それを、甘い色合いになってヒクヒクと息吐いている秘穴に宛がい、ずぷっ、と押し込んだ。


「はぁんっ♡」


 ラグナの一物に比べれば、二回りほどは小さいプラグだ。
広がったアナルにはすんなりと入りつつ、秘穴は物足りなさそうにプラグを締め付けて見せる。


「は……はぁ……は……」
「スコール、こっち向いて」


 喘ぐ息をしているスコールに、ラグナが言った。
言われた通りにスコールが、重い頭をなんとか向けてみると、翠の瞳が直ぐ近くにあった。
かと思ったら唇が塞がれて、唾液塗れの舌が入って来る。


「ん、んぁ、む……んむぅ……♡」


 ちゅく、ちゅる、ぬぷ、と耳の奥から聞こえる淫水音に、スコールは身を委ねていた。
頬を、首筋をくすぐるラグナの指が心地良くて、ずっと触れていて欲しいと思う。
同時に、栓をされた秘部の奥が、またラグナを求めているのが自覚できた。

 たっぷりとスコールの咥内を舐って、ラグナが唇を放す。
二人の唇を繋ぐ銀糸がぷつりと切れて、スコールの桜色の唇がつやつやと濡れた。

 スコールは壁によりかかりながら、ずるずるとその場に頽れて行く。
ぺったりと床に座り込んだスコールの目の前には、白艶に濡れたラグナのペニスがあった。
年齢の割に逞しく、持久力のあるそれは、久しぶりのスコールの躰を堪能しても、まだ興奮状態にある。
しっかりと頭を持ち上げているそれに、スコールはとろんとした表情で、ゆっくりと顔を近付け、


「……んぁ……んちゅ……っ♡」


 小さな唇が、そうっと愛おしそうにペニスに触れる。
竿にまとわりついた白濁と腸液の混じりを、スコールは舌を使って丁寧にぺろぺろと舐め始めた。


「あむ、んっ……んちゅ、れろ……ぺろ……んむ……っ♡」
「お掃除ありがとうな、スコール」


 跪くように足元に座り込み、ラグナの下肢に手を添えて、股間に顔を埋めているスコール。
熱いアイスキャンディーを一心不乱に舐める淫らな少年を、ラグナは悦のこもった表情で見下ろしている。

 は、と甘い吐息を吐いて、スコールは唇を大きく開けた。
嵩の部分を思い切って咥内へと招き入れて包み込んでやると、ラグナが嬉しそうに相貌を細める。
ゆっくりと頭を前後に動かすストロークで奉仕すると、


「はあ……うん、気持ちいい……上手になったなぁ、スコール」
「んむ……♡んっ、んちゅっ、んぷっ……!」


 熱ぼったい瞳を向けてくれるラグナの言葉に、スコールも満足感が沸く。
ラグナの手が、縋る少年の頭を撫でれば、スコールは益々一所懸命にラグナを気持ちよくしようと働き出した。

 ラグナは壁に背中を預け、楽な体勢でスコールの愛撫を享受している。
スコールの咥内で、ペニスはまとわりついていた精液がすっかり舐め取られ、替わりに唾液で艶めかしくなっている。
先端からじんわりと滲んで来る苦いものに、舌を押し当てながら喉奥から啜ると、ラグナの腰がビクッと反応したのが伝わった。


「んっ、スコール、そこ……」
「んちゅ……んっ、ぢゅうっ……♡はむ、んむっ、んむぅっ……♡」
「ああ、裏っかわ、いいなあ……スコールの舌の先っぽが、ツンツン当たって」
「ん、ん……んふっ、んっ、んぢゅっ……!ぢゅうっ……♡」
「搾り取んないでくれな、まだ昼間だからさ」


 スコールの目尻を指先で弄びながら、ラグナは諫めるように言った。
それを聞いたスコールは、不満げに眉根を寄せながら男を見上げるが、


「んぷ……っは……ラグナ……♡」


 唇を離し、すっかり頭を持ち上げ直したペニスを握って、しゅこしゅこと扱くスコール。
ペニスの真横に添えられた端正な顔は、熱に浮かされた瞳で、欲しい欲しいと言葉なく強請っていた。
すっかり快感の虜になっているその姿に、ラグナは支配欲と充足感が満たされていくのを感じつつも、


「お風呂入っといで、スコール。続きは夜にしよう」
「んんぅ……」


 スコールは、今がいい、と言う表情で、ペニスに尖らせた唇を寄せる。
ちろりと舌が竿を舐めて、じいと見上げる少年に、いやらしい誘い方を覚えたもんだなあとラグナは感慨深く思っていた。
その傍ら、どうしてもまだ我慢と言うものが出来ないスコールを宥める為、ペニスに縋り付いているスコールを立たせて、キスをする。


「ん、んむ……んぁ、んん……っ♡」


 一所懸命にフェラチオをしていたスコールの唇は、お世辞にも良い味はしていない。
ついさっき、キスをした時とは違い、苦く粘っこいものに溢れた口付けは、少々の不快感も誘うが、構わずラグナはスコールの咥内を舐り尽くした。


「あむ、んっ、んん……っ!んむ、んっ、んぅん……っ!」


 じゅる、じゅるるっ、と唾液も送って、舌を使ってスコールの咥内を掻き混ぜる。
ラグナの舌で口の中をあちこち蹂躙されて、スコールはビクビクと背中を震わせていた。
口の中も性感帯としてしっかり開発されたスコールだから、こうした触れ合いさえ、彼にとっては堪らない官能なのだ。

 絡めて誘い出した舌を、ぢゅうっ、と音が聞こえる程に啜ってやれば、スコールの舌の根がぶるりと震えた。
それを合図にようやっと唇を解放すると、スコールは壁に寄り掛かって、くてんと脱力してしまう。


「あ……ふ……」
「よいしょっと」


 立ち上がる気力もないスコールを、ラグナは横抱きにして抱えあげた。
年を重ねた躰に、今まさに育ちざかりの重みがかかるのは聊か辛かったが、まだなんとかなりそうだ。

 ラグナは、スコールをバスルームへと運んだ。
脱衣所に入る頃には、スコールも多少は理性が戻っており、「自分で入る……」と言った。
ラグナは、逆上せないようにだけ注意して、スコールを脱衣所に備えておいた椅子に座らせて、


「じゃあ、俺は昼飯食ってるよ。お前はゆっくり流しといで」
「……ん」


 気怠さに少しうつらうつらとした様子のスコールに、ラグナはその頬をそっと撫でて、言った。


「風呂から出たら、コレ、ちゃんとつけとくんだぞ」


 スコールの尾てい骨の辺りに手をやって、つぅ、と指を滑らせるラグナ。
そのラインを辿って行く先────アナルに埋められたプラグの存在感を感じ取って、スコールの頬がまた赤くなった。