その匂いに閉じ込めて


 都会の真ん中と言うのは、とにもかくにも、人が多い。
少女が生まれ育った場所も、それなりに栄えた街であった筈だけれど、其処から遠く離れた国の中心へとやって来ると、やはり比べるべくもない。
乗り継いだ電車を降りて、全ての人が此処から動き、此処へ集まって来るような駅のホームは、もう其処から既に数えきれない人で溢れている。
心なしかその人気だけで、気温か或いは湿度が1度2度は上がっているのではないかとも思える程だ。

 初めてこの地を踏んだ時には、一体何が起きているのかと目を丸くした。
特別な光景ではなく、ただの日常の風景なのだと判ったのは、三回目の来訪の時だったか。
何処に行っても人に溢れ、建物が犇めき合って空を狭くしている都心は、目に映るものが忙しなくて、少女───スコールには情報の渦のようであった。
こんな所で人は生きていけるのか、そんな事も考えはしたが、実際生きている人達がこれほど沢山いる訳だ。
その沢山の人の中に、スコールが逢う為に此処まで来た人も入っている。

 特急列車のお陰で、各地地域と都心を行き来する時間は短くなったと言うが、とは言え何時間も座りっぱなしは中々腰に来る。
軽く体を伸ばして、固まりかけた筋肉を伸ばしながら、スコールは流れる人波に揉まれつつ移動した。
重そうな荷物を持った人たちが使うエスカレーターは、その重さに負けたように、進みが遅い。
ようやく一番下まで運んで貰い、スコールは行くべき方向を探して首を巡らせた。
もう片手が埋まる位にはこの地に来ているのだが、どうにも到着して直ぐの瞬間と言うのは、自分が何処を向いているのか判らなくなる。
出入口があっちにもこっちにもある上に、それぞれ違う方面へと案内するようになっているから、此処で向かう方向を間違えては大変だ。
一回目、二回目は目的とは真逆へと行ってしまい、待っている筈の人の姿が見付からなくて、軽くパニックを起こしていた位だった。
今では案内板の何処を見れば良いのか覚えたが、当時は本当に、何を見れば良いのか判らなくて、都会って不親切だ、と思ったものである。

 きちんと出口の先を確認して、スコールは特急列車用の改札口を通った。
切符を忘れず回収し、いつも待ち合わせに使っている場所へと向かう。
以前は其処へ向かうのも大変だったのだが、流石にもうルートも覚えた。
困る事と言えば、ルート途中の目印にしていた店が頻繁に違う看板に変わっている事だが、幸いにも今回は前回と変化はなかった。
地下へと向かうエスカレーターを下って、飲食店街になっているフロアの広場へと進んでいく。

 昼も遅い時間である筈なのに、飲食店を出入りする人並は絶えない。
働く奴等は休む暇もなさそうだ、と常に忙しさで回る都会の喧騒に、自分は此処で過ごして行けるのだろうかと、俄かに不安になる。
けれども、遠からず自分もこの土地に来るつもりでいるのだから、今から弱気になってはいけない。
でも、出来ればもう少し、ゆっくりと出来る場所に住みたい、とそんな事を考えている間に、目的の広場に到着していた。

 背中のリュックのズレを癖のように直しながら、スコールはきょろきょろと辺りを見回した。
この駅を利用する人々が、待ち合いや列車の出発待ちに使う場所だから、席も沢山あると言うのに、それらは全て埋まっている上、立っている人の姿も多い。
これの何処に目当ての人がいるものなのか、スコールはいつも目が痛くなりながら探していると、


「スコール!」


 呼ぶ声に其方へと向けば、眩い銀糸の青年が此方に向かって小走りで近付いて来る。
無造作な癖のついた髪は、首の後ろから細く伸ばされていて、それが歩く度に尻尾のように揺れた。
赤い瞳を抱いた面は、黙っていれば尖った目尻の強さもあって、中々に強気な印象を与えるのに、口を開くとその性格の素朴さが表れるものだから、急に人懐こい大型犬のような雰囲気になる。
都会の真ん中で過ごしているのに、服装は相変わらずラフで、シンプルな白のTシャツがよく似合っていた。
お陰でスコールは、彼に逢う度、彼が自分の知るものと変わっていない事が判って、妙に安堵する自分がいた。

 青年の名は、フリオニール。
スコールとは一つ年上で、今は遠く離れた土地に暮らす、唯一無二の恋人だった。

 駆け寄って来たフリオニールは、一ヵ月ぶりに見る恋人の顔を見て、照れたように頬を赤らめる。
それを見たスコールは、相変わらずだと密かに胸を撫で下ろしていた。


「えと。一ヵ月ぶりだな、スコール」
「ん」
「昼は食べたか?」
「まだ。移動中は、寝ていたから」
「じゃあ、何処かで軽く食べようか。何が食べたい?」
「なんでも良い。あんたの食べたい所で」


 それじゃあ……と辺りを見回し、目ぼしい店を探すフリオニール。
待ち合い広場の近くにある飲食店は、何処も席が埋まっていたので、少し移動する事にした。

 昼食時を過ぎたイタリアンの店があったので、入ってピザを一枚注文する。
スコールはそれ程量を食べる必要がないから、本格的な大きなピザは、半分も食べれば十分だ。
フリオニールとシェアする位で丁度良かった。

 ピザの到着を待つ間、お互いの近況を交えた雑談が交わされる。


「ティーダ達は元気にしてるか?」
「ああ。煩い位に」
「はは、ティーダやジタンはそれ位の方が安心するだろ」
「少しは落ち着いて欲しい。あんたの方は、問題はないのか」
「そうだな。バイト先も良い所だし」
「……居酒屋なんだろ。酔っ払いが絡んで来たりしないのか」
「偶にある事さ、皆が上手く庇ってくれるから助かってる。大変な事って言ったら、メニューを覚える事かな。そっちにいた頃に働いていた店より、品数が多いし、期間限定メニューもしょっちゅう更新されるから。でも、賄いが出るし、新しいレシピも覚えられるから、楽しいぞ」


 そう言って笑うフリオニールに、無理はしてないみたいだな、とスコールも思った。
純朴な人柄に、真面目な気質があるから、フリオニールは何処に行っても人に好かれる事が出来るだろう。
それはスコールもよく知っているが、とは言え都会は色々な人がいる。
面倒なのに絡まれていないのなら、それに越したことはない。

 注文したピザがやって来て、フリオニールがローラーでそれを切ってくれた。
半分はスコールが食べ易いように、切り目を多めに、自分の分は簡単に八等サイズ。
スコールは一切れを手元の皿に移して、ぱくりと齧りついた。
野菜とチーズで彩られたピザは、香ばしい小麦の味と、塩味の利いた生地とよく合っていた。


「……おいし」
「良かった。此処はバイトの先輩から教えて貰ったんだけど、野菜も多いし、肉が苦手なスコールでも気に入るんじゃないかと思ってさ」
「……ん。悪くない」


 もくもくと食べ進めるスコールの姿に、フリオニールは上機嫌だ。
彼自身も、この店が存外と気に入っているのかも知れない。
好きな人と気に入ったものを共有できると言うのは、嬉しいものだ。

 二人で一枚のピザを丁度に平らげて、支払いはフリオニールが引き受けると言った。
自分も出す、とスコールは言うのだが、曰く「遠出してるんだから、お金使ってるだろ。出させる訳にはいかない」との事。スコールにしてみれば、確かに移動距離を思えば出費は小さくはないのだが、奢って貰える事を当たり前にはしたくなかった。が、伝票を取ろうとして一足先にそれを浚われてしまい、レジでも「会計は一緒で」と通されて、唇を尖らせながら甘える事になる。

 店を離れながら、スコールは拗ねた表情で、頭一つ分高い位置にあるフリオニールの顔を見上げながら、


「飯代ぐらい、ちゃんと計算して持ってる」
「スコールの事だから、そうなんだろうけどさ。俺の方が余裕はあるだろう、働いてるし」
「あんたのバイトは、自分の生活の為だろう」
「それはそうだけど。でも、俺が出したいんだ。わざわざこっちまで来て貰ってるんだから、これ位はしたい」


 フリオニールの言葉に、スコールはむうと頬を膨らませながら押し黙った。
彼の言う事は全くの厚意であって、眉尻を下げながら頼むように言われると、無碍にもし辛い。
なんとかして今日明日の間に、何かの形で返せたらと思う。


(やっぱり夕飯とか、朝飯とか。でも、多分、また────)


 外食に行くと、フリオニールが支払いを済ませてしまう。
それなら明日の朝に何か手作りして返そうかと思うが、毎度それが成功した事はない。
何せ大抵、朝のスコールが直ぐに起き上れる状態ではない為、結局フリオニールが用意してくれる事になるのだ。
その原因は自分にあるとよく判っているのだが、さりとてそれを回避するのも難しい心情も強いものだから、結局今回も、フリオニールに甘える事になる気がする。

 二人でいつものホームに並んで、入って来た電車に乗り込む。
先に乗り込んだ乗客たちで椅子は溢れてしまったので、スコールとフリオニールは車両の隅のスペースを確保した。
その時には電車内は沢山の人で溢れているけれど、窓からの街並みに高層ビルが減って来ると、到着駅を経る毎に乗客も減っていく。
都の中心から離れて行く電車の中は段々と静かになって行き、少しだけ故郷の光景と似ていて、スコールは安心していた。

 ガタゴトと揺れる電車の中で、椅子がちらほらと空いた頃に、フリオニールから「座る?」と促されたが、スコールは小さく首を横に振った。
フリオニールは、人目から自分を隠すように、車内に対して背を向けて、スコールと向かい合っている。
そんな彼の胸に寄り掛かるように身を寄せると、どくどくと早鐘を打つ鼓動の音が聞こえるのが嬉しかった。




 遠い地に出掛けたとは言え、一泊二日の旅程に大した荷物はない。
精々、切符と財布、着換えが一揃いあれば十分だった。
遊ぶ事が目的ならば、もっと色々と計画を立て、それに準じて荷物も増えるものかも知れないが、スコールにそんな気はない。
都心の真ん中で遊び惚けられるような性格ではなかったし、都心の週末なんて何処に行っても人が溢れていて、人混み嫌いのスコールは落ち着かなかった。
そんな事に時間を使うよりも、そもそもの目的は愛しい人に逢う為一択だから、彼と一緒にゆっくりと過ごせる時間が欲しかった。

 フリオニールの方も、恋人が遊びに来たからと、特別に何処かに行こうとは言わない。
それはスコールの気質を理解しているからで、彼女が余程興味を持つだろうと確信する場所でなければ、連れて行こうとは思っていなかった。
精々、アパートの近くの臨海公園を散歩したり、人から教えて貰った、ゆっくりと過ごせそうな飲食店に誘ってみる位だ。
それって彼女は楽しんでるのか、とバイト先の先輩から言われたりもしたが、スコールが無理に連れ出されるのを嫌う事はよく知っている。
一度だけ、有名なテーマパークにでも行ってみようかと誘ってみた事はあるのだが、案の定、微妙な顔をされてしまったので、お互いに無理はしないのが良いと結論が出ている。

 第一、スコールは、フリオニールに逢いに来たのだ。
彼女にとって、遠く離れた都心にまで出て来るのに、それ以上の理由も目的もない。
ずっと近い距離にいたのに、フリオニールが大学生になった事で、急にこんなにも遠くなってしまったのだ。
離れていた時間を埋めるには、一晩二晩で足りる訳もないのだが、それ以上の時間がお互い確保できないのも事実。
だから尚更、スコールはフリオニールと二人きりの時間が欲しくて、何処に出掛けようとも思わない。
フリオニールもまた、それ程自分を求めてくれる彼女の事が愛しくて、スコールが望むように時間を使うようになった。

 フリオニールが都心の日々を暮らす城は、年季が入った鉄筋コンクリートのアパートだ。
日々の生活をアルバイトで凌ぎながら、学業に精を出さねばならない苦学生には、大分優しい物件らしい。
過去の住人が置き土産にした家電も引き継いで貰えたのもあって、生活の初期費用が軽減できたのも、この物件を選んだ理由だそうだ。
似たような建物はこの地区には少なくなく、そのお陰か、辺りは学生やサラリーマンの一人暮らしが多いと言う。
その反面、無秩序な者もいたりするので、若い女性は夜半に出掛けるのは奨められない一面もあるとか。

 だからフリオニールは、歩く街並みが夜の灯りを頼りにする時間になる前に、スコールを自宅へと上げる事にしている。
これからは日が短くなって行くから、外で過ごす時間もいよいよ減っていくだろう。
スコールは、それを特段、不便に思う気はしていなかった。
寧ろ、早くフリオニールの家に着ける程、二人きりで過ごせる時間が増えるのだから、少し嬉しく思う位だ。

 最寄り駅からアパートまで向かう途中のスーパーで買い出しをしている内に、狭い空は夕暮れ色になっていた。
季節柄、太陽は西へ大きく傾いた後は、沈んでしまうのが早い。
東空に闇色が混じって来る中を歩いていると、人気のない通りに入った所で、スコールがフリオニールの手を握った。
どきりと跳ねたフリオニールの動揺は、余りに分かり易くてスコールの笑みを誘う。
ぎこちなく握り返してくれた手の、汗ばんだ力み具合に、スコールは恋人の胸中が伝染したように自分の鼓動が速くなって行くのを感じていた。

 三階建てのアパートの一番上端が、フリオニールが住む部屋だ。
ワンルームに小さなキッチンがあるだけで、狭くて悪いけど、と初めて訪れた時のスコールに恥ずかしそうに言っていた。
しかしスコールにとっては、その手狭ながらも工夫を凝らしてスペースを有効活用している所や、綺麗に使った形跡のあるキッチン等が、フリオニールらしい、と思う光景になっている。

 そのキッチンを借りて、スコールは夕食を作った。
朝は起きられないのが予想できてしまったから、昼のお返しをするなら今しかない。
バイト歴の多いフリオニールのように、凝ったものが作れる訳ではなかったが、彼の舌の好みはよく知っている。
蛋白質の豊富な鶏肉を使って、あっさりとした味わいの料理を中心に食卓を彩ると、フリオニールは嬉しそうに頬を染めて「やっぱりスコールの飯が一番美味いな」と言ってくれた。

 それからスコールが先に湯を貰って、入れ替わりにフリオニールが風呂に入っている間、スコールはワンルームの部屋の半分を占めているベッドの上で、そわそわとしていた。
はしたないと思いながらも、期待を孕んだ腹の奥が、じんじんとした疼きを発しているのを自覚する。
寝間着に持って来たベビードールが、本当は此処でしか身に着ける事がないと言う事を、フリオニールはきっと気付いていない。
実の所、普段身に着けないこともあって、スコールはこれを着るのは中々の思い切りが必要なのだが、良くも悪くも鈍い恋人は、今の所それを知る由はないだろう。
それでも効果がある事はよく判るから、スコールはこの小旅行の時には必ずそれを選んで持って行っていた。

 フリオニールが部屋に戻って来たのは、十分もした頃だ。
シンプルなタンクトップに、ハーフパンツと言う格好で、剥き出しの腕や脚にしなやかで引き締まった筋肉が露わになっている。
それが見た目以上にしっかりとした力を持っているのを知っているから、スコールは意識せずともそれを思い出してしまって、途端に蜜の感触が溢れ出すのが判った。

 温まった躰から、熱の放出に汗が滲むのを、フリオニールは肩にかけたタオルで拭っている。
ふう、と吐息を零すその唇に、スコールは釘付けになっていた。
じっと見つめる蒼の瞳に気付いて、フリオニールが顔を上げれば、期待を滲ませ潤んだ蒼灰色とぶつかって、ごくりと喉が動くのが見える。

 フリオニールがゆっくりとベッドに近付いて、片足を乗せる。
きしりと小さな音が鳴るのを聞き、スコールの体が緊張したように固まるが、其処にあるのは恐怖ではない。
やっと来た────と言う気持ちが溢れ出して、とくとくと逸る鼓動に、つられてしまう躰の反応を隠すように、スコールはベビードールの端を握っていた。


「……スコール」


 静かに名前を呼ぶ声を、直に聞いたのは一ヵ月ぶりのことだ。
メールも電話も毎日のように重ねているけれど、やはり鼓膜に届く音の質が違う。

 近付いて来る顔を見つめるスコールに、フリオニールの唇が緊張したように真一文字を作る。
肩を優しく捕まえる手が震えているのは、力加減が判らないからだと前に聞いた。
別に簡単に壊れる程に柔なつもりはないけれど、自分を気遣ってくれるフリオニールの気持ちが嬉しいから、スコールは震えるその手に自分の手を重ねて、大丈夫だと伝えるように柔く握った。

 目を閉じれば、額にそっと柔らかいものが触れる。
子供の頃の事故が原因で出来た傷痕は、もう痛みも何もないのだけれど、修復された名残なのか、其処だけ皮膚が薄い気がする。
だからフリオニールがキスをすると、その感触がよりはっきりと感じられるようで、スコールはこっそりと気に入っていた。

 額へのキスは、これから濃密な時間が始まる合図だった。
そうと決めた訳ではないけれど、フリオニールは必ずこのキスから始める。
それから瞼の上、眦、頬とゆっくりと触れる場所が降りて行って、唇に重ねられる時、スコールはそっと隙間を開いた。
啄むように触れては離れるキスが繰り返された後、


「……ん……」
「…う、…ん……」


 角度をかえた唇が重ねられて、そうっと押し付けられるのが判る。
スコールがフリオニールの首に腕を回せば、肩を抱いていた手が背中へと回って抱き締められた。
しっかりとした硬い腕から伝わる力強さで、其処にいるのが一人の男である事を、スコールはまざまざと実感する。

 とうに明け渡していた隙間から、ぬるりと艶めかしいものが滑り込んで来るのを感じて、スコールの肩がぴくりと跳ねる。
咥内を探るように動くものに、スコールもそうっと舌を差し出して触れると、背中を抱く腕に力が籠ったのが判った。
後頭部に片手が添えられ、離れる事を厭うように抑えながら、舌が絡め取られていく。


「ん、ん……ふ、うん……っ」


 ぴちゃ、ぴちゃ、と水音が耳の奥で鳴っている。
舌の表面をゆっくりと舐められる度に、ぞくぞくとしたものが首の後ろを駆け抜けた。

 そっと重みが覆い被さって来るのを感じながら、ベッドへと背中が沈められる。
初めてこのアパートに来た頃、どうにも固く感じられたベッドは、いつの間にかマットが新しく設えられて、今は柔らかくスコールの体重を受け止めてくれる。


「ふ……はふ…っ」
「ん、は、んん……っ!」
「あむ、ぅん……っ、はむぅ……っ!」


 一瞬呼吸を許されたかと思ったら、直ぐにまた奪われた。
最初は優しく、恐る恐るにも触れて来るのに、段々と口付けが激しく深くなって来る。
スコールが閉じていた瞼を薄く開けば、直ぐ目の前に熱を宿した紅があって、スコールは得も言われぬ感覚が全身を駆け巡るのが判った。

 与えられる口付けと、交わる唾液に蕩けながら、スコールの手がフリオニールの体のラインを辿っていく。
着痩せする性質なのだろう、フリオニールは一見するとすっきりとしたシルエットをしているが、その体は良質な筋肉に恵まれている。
タンクトップの上から脇腹をなぞるだけで、大袈裟にならないまでもゴツゴツとした固さが伝わって来た。
綺麗にシックスパックに割れている腹筋を撫で、臍の下へと更に手を降ろして行けば、程無く中心部の膨らみに辿り着く。
すり、とスコールの手が其処を撫でると、


「んっ……!」


 ひくっ、とフリオニールの肩が微かに跳ねて、目の前で眉根が寄せられる。
スコールが更に中心部をすりすりと手で摩ってやれば、其処は窮屈そうに質量を増して行く。


「っは……スコール……!」


 重ねていた唇が離れて、呼ぶ声には咎めるものが混じっていた。
だが、見詰める紅に怒りなんてものは幾らもなく、煽る恋人に対して、危険信号を伝えようとしている。
だが、それこそがスコールにとっては望んで已まないものであるから、嫋やかな白い手は益々悪戯を施すばかりであった。


「フリオ……」
「っは……う……っ」
「フリオの、もう、大きい……」


 恋人の名前を呼びながら、スコールは小さく呟いた。
それがフリオニールの耳朶を吐息とともに擽るものだから、相手にとっては堪らない。
フリオニールはスコールの手の中で、其処に自分の血が一気に集まって行くのを感じていた。

 フリオニールの手がスコールのベビードールの上から、慎ましい胸元に重ねられる。
節のある指が柔い感触の其処を摘まむように優しく揉んでやれば、スコールの唇からまた甘い吐息が漏れた。


「あ……、ん、フリ、オ……ん……っ!」


 デザイン性が重視されたベビードールから透けて覗く、ぷくりと色付いた蕾。
それが薄い布地の裏側に擦れるように当たっているだけで、スコールはもどかしい刺激を得ていた。
近い距離で見詰める紅玉が、じわじわと熱と欲が染まっていくのを見て、スコールの熱もまた昂って行く。

 スコールは手探りでフリオニールのズボンの中に侵入した。
下着の奥へと潜り込むと、一ヵ月前に胎内で感じたものが、其処でどくどくと脈打っている。
は、とピンク色の唇から熱ぼったい呼吸が零れて、柔く握った一物をゆっくりと上下に撫でる。


「ふ……っ、ん……っ!」
「ん、ふ……んん……っ」


 フリオニールの方からキスをされて、スコールはそれを受け入れた。
どちらともなく舌を絡め合いながら、愛撫の手が急いて行く。

 スコールの胸を弄る手が、直に肌に触れ始める。
肩紐が緩んでずり落ちて、胸元を隠す薄布がずれると、緩やかな丘の上にぷくりと膨らんだ蕾が顔を出した。
其処にフリオニールの指がゆっくりと近付いて、柔らかく摘まむ。


「うんっ……!」


 ビクッ、とスコールの肩が跳ねて、喉奥から小さな声が漏れた。
親指と人差し指で挟まれた乳首を、捏ねるように転がされ、スコールはぞくぞくとした官能を感じていた。

 重ね合わせていた唇が離れると、フリオニールはツンと膨らんだスコールの乳首に吸い付いた。
ちゅう、と甘く吸われたスコールの背中が仰け反って、覆い被さる男に差し出される。
フリオニールはスコールの腰を抱くように腕を回して、細身の体を檻の中に閉じ込めながら、敏感な乳首をたっぷりと舐った。


「ん、んん……あ、う……っ」


 胸に与えられる刺激に、スコールは小さな声を漏らしながら、自身も懸命にフリオニールに触れていた。
腕を精一杯に伸ばして、握ったフリオニールの性器を扱く。
フリオニールに捕まっている体勢の所為で、自由になるのは手首くらいのものだが、その指は恋人の性感帯を的確に捉えている。
細い指が裏筋の神経が集まっている場所をくすぐるように擦る度に、フリオニールは今にも自分の欲望が溢れ出しそうになるのを感じていた。


「っは、っは……ん、ちゅうぅ……っ!」
「あ、あ……!フリ、オぉ……っ!」


 食んだ乳首を強く吸われて、スコールは眉根を寄せて喘いだ。

 反対側の胸にも、フリオニールの大きな手が重ねられ、柔らかな感触を味わうように丹念に揉みしだかれる。
ブラジャーのサイズが変わった、と言ったらフリオニールはどんな顔をするだろう。
こんな風にセックスをする間柄になっても、初心な所は変わらない彼は、きっと真っ赤になって、悪い事など何もないのに詫びたりするに違いない。
そんな事を考えている間にも、胸から与えられる刺激は絶えず、スコールはぼんやりと天井を見上げながら、甘い声を零していた。


「あ、ん……、ふぅ、うん……っ」
「っは……スコー、ル……んん……!」
「んぁ、乳首……あっ、噛んじゃ、やぁ……っ!」


 硬い感触が乳首の先端を挟んだのを感じて、スコールはビクッと肩を震わせた。
いや、と言いながらも彼女の体は確かに喜びを得ており、とろりとしたものが蜜になって溢れ出すのを自覚する。

 甘噛みに震えるスコールを慰める為に、今度は舌が這う。
乳輪から乳首の根元、その先端まで、ゆっくりと伝う肉厚な舌の感触。
それを虚ろな瞳で見つめたスコールは、精悍な顔立ちの男が、自分の胸元に縋るようにそれをしゃぶっているのを見て、言いようのない興奮を感じていた。


「っは……フリオ……、もっと……」


 スコールは片腕でフリオニールの頭を抱き込んで、その顔を胸に押し付けながらねだった。
柔い感触が頬に当たったフリオニールの目が、ちらりと此方を見上げて来る。
平時は専ら人懐こい大型犬のように穏やかな筈の瞳が、獰猛な肉食獣のような鋭さを宿す瞬間を、スコールは好いていた。

 じゅる、と音を立てて乳首を強く啜られる。
堪らずに「あぁ……!」と甘く高い声がスコールの口から漏れた。


「あっ、あ……!っは、あぁ……っ!」
「ん、ふ……!ぢゅぅ、んん……!」
「んぁっ、摘まむの……っ、んぁ、あふ……っ!ひ、うぅん………っ!」


 右の乳首を摘ままれながら、左の乳首を吸われて、スコールは頭を振って身悶える。
最近、遠く離れた恋人の真似をするように、伸ばすようになった後ろ髪が、ベッドシーツの上でぱさりと音を立てた。

 フリオニールのペニスに触れていた手は、官能に溺れる内に、添えられただけのものになっている。
フリオニールはその手に、固く張り詰めた自身を押し付けるように腰を揺らしていた。
そんな男の仕草に気付いて、スコールも雄に重ねた手の指先に力を込めてみる。
きゅ、と竿を握られた感覚に、フリオニールの引き締まった腰がぶるりと震え、


「スコール……っ!」
「う、うん……んっ、あ……っ!」


 名前を呼ぶ声には、恋人の悪戯を咎めるような音が混じっていたが、それが昂ぶりから来るものであるとスコールも理解している。
不自由に指を動かしながら、ペニスに拙い刺激を与えれば、フリオニールは益々呼吸を逸らせて、しゃぶりつくようにスコールの胸を啜った。


「んぢゅっ、んっ……!は、ん、ふぅう……!」
「あっ、あぁ……っ!は、ふぁ、あうぅ……!」


 フリオニールの咥内で、スコールの乳首はすっかり固くなっている。
淫芽のように膨らみ、敏感になったそれを、唾液塗れの分厚い舌が嘗め回した。
肉厚の舌が飴でもしゃぶるように丹念に食むものだから、スコールはいつか其処が舐められつくしてなくなったりするのではないか、なんて思ったりする。

 胸への愛撫はしつこい位に続いて、スコールはもう限界だった。
彼女の手の中では、フリオニール自身もぱんぱんに固くなっている。
早くこれが欲しい、と求める躰が疼きを増して、スコールは胸に吸い付いて離れないフリオニールの銀糸を引っ張った。


「フリ、オ……っ!胸は、もう、良いから……っ!」
「っは……あ、は……そう、か……」


 ねだるスコールの声を聴いて、やっとフリオニールの顔が胸元から離れる。
彼の咥内からようやく解放された胸元が、その温もりがなくなった途端に、寂しげにふるりと震えた。

 いつも自分一人が寝ているベッドの上で、くたりと力なく横たわる少女の姿に、フリオニールの喉がごくりと鳴る。
散々に苛めた彼女の胸は、レースに飾られた薄布の夜着から食み出されて、逸る呼吸に合わせて上下している。
その肌はしっとりと汗ばんで、触れると皮膚が吸い付くように触り心地が良いものだから、久しぶりに味わうその感触についつい夢中になってしまった。

 また其処に触れたい欲求を抑えながら、フリオニールの手はスコールの下肢へと伸ばされる。
その気配を感じて、スコールがゆっくりと足を左右に開いて見せた。
ベビードールに合わせたデザインの白のショーツの中心に、シミが浮いているのを見付けて、フリオニールは息を飲んだ。
そっと其処に指を宛がえば、じゅわりと濡れた感触が伝わって、スコール自身も自覚があったのか、恥ずかしそうに赤らんだ顔を背けている。


「ふ……う……」
「……スコール」
「……あ……うぅ……」


 下着越しにも判る、洪水のように濡れそぼった唇を、フリオニールは宛がった指をゆっくりと動かして擦ってやった。
スコールはいやいやと頭を振りながらも、差し出した場所を隠そうとはしない。
元よりずっと触れてほしかったのは其処なのだから、本気でフリオニールを拒絶する気もないのは当たり前だった。

 下着を陰部に押し付けるように、宛がった指を強く当てると、薄布越しにその形が浮き出て来た。
水分をふんだんに含んでいる所為で、布地はうっすらと透けて、隠している筈の肌色が覗いてしまう。
クリトリスが切なげに膨らみを増しているのも判って、フリオニールの指がそれを捉えると、


「あうんっ♡」


 感じる為だけの場所を捕まえられて、スコールはビクンッと体を仰け反らせた。
続け様に、下着の上からクリトリスを爪弾くようにカリカリと引っ掻かれて、スコールは太腿をぶるぶると震わせながら、尻をシーツから浮かせて身悶える。


「あ、あ、あ……!フリ、フリオ……っ!クリだめぇ……っ!」


 ビクビク、ビクッ、とスコールの四肢が顕著な反応を示す。


「や、やぁ……っ!そこ、あぁ……っ!敏感、だから……っ」
「ああ、知ってる……」
「ふ、ぁ、あぁあ……っ!」


 スコールの躰の何処がどんな刺激に弱いのか、フリオニールも良く知っている。
こうやって一ヵ月に一度逢う度に、限られた時間を惜しむようにして、まぐわってばかりいるのだから当然だ。
そして偶にしか逢えないからこそ、久しぶりに見る愛しい人の痴態が余りにも目に毒で、もっと見たい、もっと食べたい、とフリオニールの本能を突き動かす。

 クリトリスを苛められる事で、スコールの陰唇は一層の蜜を溢れさせていた。
もう下着も身に着けている意味がない程、彼女の股間はぐっしょりと濡れている。
フリオニールはその下着の中に手を入れて、直にスコールの淫芽を摘まんだ。


「きゃふぅっ♡」


 また甲高い声が上がり、スコールの背筋が弓形に撓る。
摘まんだクリトリスの根元をゴシゴシと扱かれて、スコールの足が快感に悶えてぱたぱたと暴れた。


「やっ、やっ、フリオっ!あ、あぁっ、あぁんんっ♡」
「気持ち良いか?スコール」


 一気に大きくなった快感刺激の感触に、スコールは涙を浮かべながらフリオニールを呼んだ。
フリオニールはそんな彼女の臍に舌を押し付け、穿るように弄るものだから、スコールは胎へと響く官能に声を喪い、


「っ、っ……!〜〜〜〜〜っ♡」


 ぞくぞく、ぞくぞくと、臍回りから背中へ下へと一気に走って来た衝動を、スコールは抑えることが出来なかった。
ビクッ、ビクンッ!と仰け反った背中が大きく跳ねたかと思うと、下着の中でぷしゃあっと蜜を噴く。
恋人の手でイかされる幸福感に、スコールの頭は真っ白になっていた。

 少女の身を襲った絶頂の感覚は、長く長く尾を引く。
強張った背中がベッドに沈んでも、果てた瞬間から戻って来れない意識は、ふわふわと宙を浮いていた。
蒼灰色の瞳はすっかり熱に溺れ、開きっぱなしの唇の端から、とろりと唾液が伝い落ちている。
フリオニールはそれを見て、丸めていた背中を延ばすと、スコールの口端をゆったりと舐めてやった。


「ふ、ふ……あ……♡あう……♡」


 ちかちかと目の前が点滅しているような感覚の中、スコールはぼんやりと天井を見上げている。
フリオニールはそんなスコールの頬にキスの雨を降らせながら、びしょ濡れになったショーツを脱がせた。

 ようやく強張りが解けてきたスコールの太腿に、硬い皮膚に覆われた掌が重ねられる。
ひくん、と小さく反応を示した其処をゆっくりと撫でて、足の付け根の皺を辿った後、中心部へ。
膨らんだ淫芽のすぐ下で、ヒクッヒクッと戦慄く陰唇は、その奥からとろりと甘い匂いの蜜を溢れさせていた。
其処にフリオニールの指が挿入されると、蜜口が直ぐにきゅうっと縋り付いて締め付ける。


「あぁ……っ!」


 異物の侵入の感覚を受けて、スコールが声を上げる。
仰け反り晒された喉元に、フリオニールは誘われるように食い付いた。
吸血するように尖った犬歯を皮膚に当てれば、きゅん、とスコールの膣が狭くなる。


「スコールの中、もうぐしょぐしょだ……」
「っは……あ、う……やぁ、んん……っ!」


 喉に舌を這わせながら呟いたフリオニールの声に、スコールの喉が震える。
彼の吐く吐息が喉元を擽るだけで、スコールには堪らない。
其処へ指が動き出せば、膣内でくちゅくちゅといやらしい音が鳴って、彼女の濡れそぼった秘奥を掻き回す。


「あ、あ、ああ……っ!フリオ、そこ……っんぁ……!」


 フリオニールの指が、内壁を引っ掻くように擦るのを感じて、スコールの躰がビクビクと跳ねる。
彼女の胎内は、熱を持ったように温かくうねりながら、其処を苛める指に嬉しそうに絡み付いていた。


「はっ、あっ、あふっ……!あ、もっと、奥、うん……っ!」


 スコールは覆い被さる男に縋り抱きながら、より強い官能を欲して、ゆらゆらと腰を揺らしていた。
もっと奥まで入って良いと、下肢を苛める手に自分の手を重ねる。
誘うように微かに力を込めて、フリオニールの手に自分の下肢を押し付ければ、すぐ耳元でごくりと喉を鳴らす音が聞こえた。

 つぷり、と二本目の指が入って来て、「あっ!」とスコールは声を上げた。
その反響が消えない内に、くぱぁ、と中を拡げられるのが判って、腹の奥が切なさを増す。
二本の指が、這うように奥へ奥へと入って行くのを感じながら、スコールはうっとりとした表情を浮かべ、


「フリオ……っ、フリオの、指、……ああ……っ!」


 ずっと求めていた人に、自分の中を丹念に触られている事が、どうしようもなく嬉しい。
それでいて、もっと深い場所で、もっとフリオニールを感じたくて、躰の奥から湧き出る欲求と疼きは、際限を知らずに膨れ上がっていく。

 指がすっかり根本まで入って、フリオニールがくっと第一関節を曲げると、内壁の天井がぐっと押される感触に襲われた。
ビクンッとスコールが腰を跳ねさせると同時に、膣奥が強く閉じて指を締め付ける。
それでいて、奥壺の方はひくひくと絶えず肉ビラが戦慄いて、もっともっととフリオニールに刺激をねだっていた。


「あぁ、あう……ああぁ……っ!も、そこ……っんぁ♡」
「スコールの中が、うねって、蕩けて……凄く絡み付いて来てる」
「ん、あ……は、くぅん……!」
「締め付けて来るのに、奥が柔らかい……ん、此処か……?」
「あっあ♡は、はうっ、あぁっ!」


 くに、とフリオニールの指先が、秘奥の微かに手前を捉えた。
喘ぐ声がワントーン高くなったのを聞いて、フリオニールも正解を覚る。
そのまま同じ場所を、指先で小さな円を描くように穿ってやれば、


「は、はひ、あぁあ♡フリ、フリオっ、だめ、えぇっ♡」


 スコールはシーツを蹴る足の指を拡げながら、快感の強さに頭を振って甘い悲鳴を上げる。
顔を真っ赤にしながら、涙を浮かべて悶える恋人の姿に、フリオニールの凶暴な衝動がむくむくと膨らんでいく。


「そこ、そこだめ、フリオっ!あ、あぁっ、あぁんっ!」
「ああ、すごく気持ち良さそうだ……」
「は、あっ、あうぅっ♡だめ、きちゃ……っ!イ、イくの、また来るのぉ……っ!やぁあっ♡」


 元より快感に弱い体だ。
弱点を集中的に攻められていれば、あっという間にその体は上り詰めてしまうものだった。

 自分の手でなく、恋人の手で果ててしまう瞬間を、スコールは好いている。
待って待って、ようやく得られるその時、他にない程の多幸感があるものを、若い体が知ってしまえば手放せる訳もなかった。
だが、それ以上にスコールが欲しいと思うのは、恋人の熱そのものだ。
彼の手でイかされるのはとても嬉しい事だけれど、それでも、


「フリ、フリオ……っ!フリオの、おちんぽ、で……っ!イきたいぃ……っ!」
「……っ!」


 全身で縋るように抱き着いて、懸命に絞り出した声で訴えるスコールに、フリオニールの熱は危うく暴発する所だった。
それを寸での所で堪えると、スコールの秘部から指を引き抜く。
激しい攻めから、一転して逃げて行った指を、スコールは「あぁあっ♡」と声を上げながら瞬間的に締め付けていた。

 はあ、はあ、とあえかな吐息を漏らすスコールの声を聴きながら、フリオニールも夜着を脱ぐ。
無用になったそれらを放り投げて、代わりにベッドの横に置いたカラーボックスに手を伸ばす。
彼女が来るからと、昨日買ったばかりのコンドームの蓋を開けて、個別包装の封を切る。
急く気持ちが抑えながら薄ゴムを被せたペニスは、血管が浮かび上がる程に大きく膨張していた。

 フリオニールが準備を整えている間にも、スコールは熱に苛まれていた。
殆ど絶頂寸前まで持ち上げられた躰の疼きに耐えられず、我が身を抱いて仕切りに捩る。


「は……っ、フリオ……早くぅ……っ!」


 息をしている事すら辛くて、スコールは自ら足を抱えて、フリオニールに恥部を見せつけた。
長く熱を以てヒクヒクと戦慄き、指の解きを受けて柔らかくなった陰唇は、艶めかしく濡れながらふっくらと土手を膨らませている。
其処にフリオニールが鼻息を荒くしながら亀頭部を押し付ければ、膣口からとぷりと蜜汗が溢れ出した。

 にゅぷ……と先端が入り口を押し広げるのを感じ、スコールの唇から吐息交じりの声が漏れる。
フリオニールはそんな彼女の上に覆い被さると、腕の檻に閉じ込めるように抱き締めた。
密着した肌から伝わる互いの鼓動の音を揃えながら、フリオニールは一気に腰を入れる。


「あぁ、ああっ!んんぅぅっ♡」


 彼女を慮ってゆっくりと、等と考えている暇はなかった。
何せ、一ヵ月ぶりの逢瀬と交わりなのだ。
若い体がこの官能と心地良さを、そして何より、繋がり合う事で得られる幸福感と安心感を覚えてしまえば、理性の箍など大した役目を果たせる訳もなかった。

 とは言え、久しぶりに男を受け入れたスコールの躰の負担は、決して軽んじてはいけない。
唇を噛んで胎内の感覚に耐えているスコールを見て、はっとフリオニールは我に返った。


「す、すまない、スコール。痛みは……」
「……な、い……っんぅ……っ」


 眉根を寄せるスコールの頬を包み込んで、心配そうに見下ろすフリオニール。
スコールは噤んでいた唇を意識して解き、はふ、はふ、と短い呼吸を繰り返して、力んでしまった体を解そうと試みた。
フリオニールもそんなスコールの額に、瞼にキスを落として、愛しい彼女の苦しみを少しでも紛らわせようと努力する。

 ───その傍らで、スコールの膣内で、奥深くに穿たれたペニスはどくどくと早い鼓動を打っている。
体の中で直に感じる男の体温と存在感に、スコールは息苦しさ以上に、やっと、という気持ちに溢れていた。


「っは、はぁ…はぁ……っ、あ……っ、ふ、う……っ」
「はあ、は……スコー、ル……ん……っくぅ……!」


 スコールをあやしながら、フリオニールもまた、絡み付いて来る媚肉の熱に煽られる衝動を、必死に堪えている。
しかし、狭いながらも柔らかく、ペニスを嘗め回すように吸い付く肉の感触は、雄の本能を大いに刺激してくれる。
気を抜けば組み敷いた少女を、無体と言われそうな程に攻め立ててしまいそうで、微かに残った理性でフリオニールはそれを押し留めていた。

 淫靡な匂いと、湿気の増した部屋の中で、男女の濡れた呼吸がしばらく続いた。
ようやくスコールの呼吸のリズムが整う頃には、彼女の膣の強張りも解け、咥え込んだペニスを包む混むように密着している。


「は……フリ、オ……」
「……大丈夫、か……?」
「……ん……」


 待ってくれた恋人に、スコールは感謝を込めてキスをする。
それは触れるだけのものだったが、離れたと思ったら、今度はフリオニールの方から重ねられた。
下唇を食むようなそれに、守りを明け渡して舌を差し出すと、直ぐに絡め取られて深い口付けを交わす。

 “待て”の状態からようやく解放されて、フリオニールは律動を始めた。
ぱちゅ、ぱちゅ、とスコールの恥骨にフリオニールの腰がぶつかる度に、蜜音が混じる。
彼女自身の分泌液で濡れそぼった膣壺を、太く固いペニスが大きなストロークで擦り上げる度、スコールは甘イキしそうな程の悦びを感じていた。


「はっ、あっ、あぁっ、あっ!フリ、フリオの、ちんぽぉ……っ♡大きいぃ……っ!」
「ふ、ふっ、はぁ、スコール……!」
「あっ、あ、おま、おまんこ、んぁっ♡フリオで、いっぱい、あぁあっ♡」


 フリオニールの律動に合わせて、ギシギシとベッドが煩い音を立てている。
しかしフリオニールの耳に入るのは、突き上げる度に上がる恋人の淫靡な声だけ。
この一ヵ月、記憶と夢の中でばかり繰り返し反芻していたそれを、直に目で見て、耳で聞いて、滾る欲望が彼女の胎内でどくどくと熱を膨らませていく。

 揺さぶられる一方のスコールの腰を、フリオニールの両手がしっかと捕まえた。
逃げ場をなくしたその体を、ずんっ、と強く突き上げれば、細い腰がビクンッと跳ねて咥え込んだペニスを締め付ける。


「はくぅんっ♡あ、あう、あっ、あっ♡」
「はっ、はっ、はっ、」
「あ、あ、激し、フリオぉっ!んぁ、お、おなか、あぁっ、つぶれひゃっ……ひぃんっ♡」


 若い勢いで攻め立てるフリオニールの腰遣いに、余裕などと言うものはない。
一突き毎に力強さを増していくそれに、細身の少女は飲み込まれるように受け止めるしか出来なかった。


「あっ、あう、うぁんっ!あっ、フリ、フリオ、もっと、奥ぅっ♡」
「ふ、は、く、うぅっ!」
「ああぁっ♡は、そこ、そこぉ……!フリオじゃないと、ああっ、届かないのぉ……っ!ずっと、そこ、疼いてたからぁ……っ!」
「ああ、スコール……っん、ここ、だな……っ!」
「あっ、あんっ、ひぃっ、はぁあんっ♡」


 ねだり、ずっと求めていた場所へと禊を打ち込めば、スコールは恍惚とした表情を浮かべて感じ入った。
ずちゅっ、ぐちゅっ、ぐぽっ、と大きな動きで、入り口から最奥までを擦り上げながら、秘園を突く。
その度にスコールは、肉を咥え込んだ雌貝から、ぴしゃぴしゃと飛沫を噴きながら喜んでいた。

 フリオニールの律動に揺さぶられながら、スコールの躰が大きく仰け反って行く。
ペニスを咥え込んだ膣が、奥で小刻みに戦慄いて、彼女の躰は我慢の限界に達しようとしていた。


「あ、あ、イく、イく……っ!フリオ、フリオぉ……っ!」


 芯から昇るように訴えて来る感覚に、スコールは助けを求めるようにフリオニールに手を伸ばした。
来て、と懇願する蒼灰色に、フリオニールは吸い込まれるように身を寄せて、首に彼女の嫋やかな腕が絡む。
唇を重ね合わせて舌を吸えば、ペニスに絡み付く肉壺がきゅうぅうっと締め付けを増して、


「ふ、う♡うぅうんんんっ♡」


 背中を駆け抜けて来る官能に身を任せて、スコールは何度目かの絶頂を迎えた。
一際強く密着して来る内壁の、戦慄きながら脈打つ鼓動の感触に、フリオニールも遂に堰が崩壊する。


「くっ、ううぅっ!スコー、ルぅ……っ!」
「あ、あぁあ、んぁああ……っ!!」


 胎内でフリオニールの肉棒がどくんどくんと精を吐き出すのを、スコールは薄い皮膜越しに感じていた。
いつかそれが直接自分の中に注がれる事を想像して、期待と待ち遠しさで首の後ろにぞくぞくとしたものが奔る。

 スコールの耳元で、はっ、はっ、と言うフリオニールの呼吸があった。
耳朶を擽る熱の呼吸に、絶頂の余韻を長く残す躰がまた疼きを再発させて、スコールはフリオニールの腰に足を絡める。


「は、はふ……んぁ……ふ、りお……」
「ふ…ふ、……ちょっと、待って、くれ……んっ……!」
「うぁ、んん……っ!抜け、ちゃ……あぁ……っ!」


 重怠さを訴える躰を叱咤して、フリオニールはぐっと腰を持ち上げた。
中にあるものが、まだ震えながら締め付けている肉壁をずるりと擦って、それが出て行こうとしている事にスコールは切なさで涙を浮かべる。

 内壁を舐るように擦り上げながら、ペニスはスコールの胎内から出て行った。
少女を守る為に欲望に被せた薄ゴムは、白濁液をたっぷりと溜め込み、フリオニールの興奮具合を示しているようだった。
それだけ出したと言うのに、フリオニールの一物は幾らも衰えてはおらず、しっかりと天を突いて、先端からじわじわと我慢汁を零している。

 フリオニールは使用済みのゴムの口を縛って捨てると、直ぐに新しいものを取り出した。
二個目の準備をようやく済ませると、スコールは足を開いて、自らの手でくぱぁ……と膣口を開いて見せる。


「は……はふ……フリ、オ……も、一回……早くぅ……っ♡」


 必要の為の作業だと判っていても、その間お預けを喰らわされているようなものだから、熱に溺れたスコールには辛くて堪らなかった。
色付いた蜜壺が、ぱくぱくと口を開閉させて、其処に迎えるものを待ち望んでいる。

 フリオニールは鼻息も荒くしながら、スコールにもう一度覆い被さり、反り返ったペニスを膣に挿入した。
二度目の挿入にスコールは甘い声を上げて、恋人の形に馴染んだ媚肉が、嬉しそうにフリオニールへと吸い付いて来る。
律動がすぐに始まり、少女の甘い声がまた響き始めた。


「は、んぁ、あぁっ♡あっ、あう、んぁんっ♡」
「は、は、熱い、スコール……っ!ああ、スコールのまんこが、全部絡み付いて来て……っくぅ!」
「あう、あっ、フリオニールの、ああっ、ちんぽぉっ♡そこもっと、もっと突いてぇっ、あぁあっ♡」
「んっ、く、ふっ、ふぅっ、はぁっ!」
「あひっ、あっ、深くなるっ……!フリ、フリオでおまんこ、拡がってるぅっ♡」
「はあ、はあ、気持ち良い……!スコールの中、熔けて、ああ、っく、蕩ける、みたいで、いい……っ!」


 唇が触れ合いそうな程に近い距離で告白される、フリオニールのその言葉に、スコールは躰で感じる刺激以上に官能を得ていた。
自分の体で、フリオニールが感じている、気持ち良くなっている。
求めていたのも、溺れているのも、自分だけではないのだと判って、どうしようもなく嬉しかった。


「フリオ、フリオぉっ♡ん、俺、も、きもちいいぃっ♡フリオのちんぽで、あぁっ、おまんこいっぱい、じゅぽじゅぽするのぉ……っ!気持ち良くてっ、もう、もうわかんないぃっ♡」
「スコール、分かる、ちゃんと分かる……っ!スコールのまんこが、ビクビクして、俺に……っ、吸い付いて……っ!はっ、此処、此処に……っ!」
「あっ、あぁぁっ♡まって、そこ、しきゅっ♡んぁっ、ああっ♡コンコンっ、しちゃっ、あああぁっ♡」


 パンッ、パンッ、パンッ、と皮膚のぶつかり合う音が響く度に、フリオニールのペニスが、スコールの子宮口をノックしている。
太く長いフリオニールの雄だからこそ、直に届く其処への刺激に、スコールの濃髄から極上の快楽物質が溢れ出す。


「んぁ、すご、すごいぃっ♡フリオ、ああっ、お腹っ、あつくなってるよぉっ!」
「中がうねって、はっ、うう、あぁ……っ!スコール、スコールっ!」
「はっ、ひうっ、あぁんっ♡フリオの、ちんぽが、あひっ♡奥っ、当たるのぉっ、お、おまんこ痺れてっ、はひっ、ひうっ、ひぅううんんっ♡」


 ぷしゃあっ、と何度目かの潮を噴いたスコールだったが、フリオニールの律動は止まらない。
全身をピンと張り詰め、全神経でフリオニールの与える官能に感じ入るスコールに、フリオニールは全身で抑えつけるように覆い被さっていた。
その状態で激しく攻め立てられるスコールは、自由にならない体を悶えに捩りながら、雄の逞しい背中にしがみ付いている。


「あ、あ、イくっ、またぁっ♡フリオ、フリオぉっ♡イく、イくっ、んんぅぅうううっ♡♡」


 このアパートが安普請な造りである事も忘れて、甲高い悲鳴をあげようとしたスコールだったが、その声はフリオニールの口の中に飲み込まれた。
深く口付け合いながら、絶頂を迎えて最高の感度になった膣内を、太い肉棒に掻き回すように攻められる。

 憐れで淫靡な少女の声は、まだ当分の間、終わる気配はなかった。