ミッドナイト・トリック


「ん……」


 長い睫毛を瞳に半分かぶせながら、淫魔はフリオニールの唇を塞いだ。
二度目のキスは、一度目と同じく柔らかく温かく、ねっとりと絡みついて来る。
淫魔の舌先がフリオニールの下唇をなぞるように舐め、閉じた頤をツンツンとつついてノックする。
フリオニールは精一杯に唇を引き結び、その進入を拒んでいたが、頬に添えられた手がするりと滑って、フリオニールの耳の後ろを擽った。
ぞくぞくとしたものがフリオニールの頸筋に走り、唇の力が緩んだ瞬間を見逃さず、淫魔の薄く小さな舌がちろりと中に入って来る。


「ん、ん……んちゅ……」
「う、ふ……!ん、んぁ……っ!」


 淫魔の舌は、ことに丁寧に、フリオニールの咥内を弄った。
歯列と歯茎の境目を舌先で擽られ、なんとも言えない感触にフリオニールは頭を振った。
やめろ、と訴えるその拙い抵抗に、淫魔はくすくすと笑いながら、フリオニールの首に腕を絡めて来る。
まるで恋人が熱烈な抱擁と共に口付けをしているようだった。

 温かい液体がフリオニールの口の中に流し込まれていく。
これが人に興奮作用を齎す、淫魔の分泌液だ。
飲んではいけない、とフリオニールは自戒を試みるが、喉の方を締めようとすることも出来なかった。
淫魔はフリオニールの頭を少しばかり持ち上げ、傾けて、注ぎ込んだ唾液が喉の奥へと流れて行くように促す。
同時に、フリオニールの舌を己の舌で絡め取り、ちろちろと擽るように弄んだ。


「う、ふ……っは、はぁ……っ」
「んちゅ、んれ……ちゅぷぅ……はむぅっ」


 舌先が痺れて来るような感覚に、フリオニールが溺れるに似た感覚に陥っていると、淫魔はフリオニールの唇に被り付いた。
ぴったりと隙間なく重なり合った唇。
そのまま淫魔はフリオニールの舌をたっぷりと嘗め回し、分泌させた唾液で濡らしていった。

 喉の奥に、淫魔の唾液が滑り落ち、溶けていく。
それに抗う方法を、フリオニールは持たなかった。
じわじわと喉か胃のあたりが熱を持って行くのが判る。
心臓の早鐘は鳴りやまず、寧ろ加速して、血流が自分の体の中心地へと集まって行く。


「んちゅる……っは、ふぅ……んふ……」


 長い口付けでフリオニールの唇をたっぷりと堪能し、ようやく淫魔はキスを終えた。
愉悦を浮かべた蒼灰色の瞳には、何処かぼんやりとした紅い瞳が映っている。
健康的に日焼けをしたフリオニールの肌には、じんわりと汗が滲み、薄く開いた唇からは、はあ、はあ、と熱のこもった呼気が零れていた。

 淫魔はフリオニールのそんな表情を見詰めて、うっそりと笑う。


「良い塩梅だ。気持ちの良い夢が見られるぞ」
「……そ、んな…もの……いらない……」
「大丈夫だ、怖くない。でも───癖になるかもな」


 辛うじて抵抗の意思を失うまいと抗うフリオニールだが、言葉ばかりの抵抗など、淫魔はまるで気に留めない。

 淫魔はフリオニールの顔を丹念に確かめるように眺めつつ、手のひらで首筋を辿る。
喉仏の浮いた膨らみを指で擽り、真っ直ぐに指を下へと滑らせた。
しっかりとした胸筋の谷間へ辿り着くと、手のひらでその胸を揉む。


「良い体してるな、あんた。傭兵でもないようだけど」


 言いながらも、フリオニールが何者であるかなど、淫魔は特に気にしていない様子だった。
一夜の食事に使う獲物の詳細なんてものは、通りすがりの食堂と一緒で、なり立ちなどどうでも良いに違いない。

 淫魔はフリオニールの首筋に顔を寄せ、汗ばんだ皮膚に唇を寄せた。
つう、と艶めかしいものがフリオニールの首を辿る。
舐められている、と判った。

 胸を揉むようにまさぐっていた手がまた下りていき、しっかりと割れた腹筋の感触を確かめた後、足の付け根へ向かう。
熱が溜まった感触のする局部の近くを、ズボンの上から、するする、するり、と淫魔の白く嫋やかな手が撫でた。

 手のひらがズボンの皺を辿りながら、フリオニールの中心部へ触れる。
其処はいつの間にか、しっかりとした膨らみになっていた。


「……勃ってる」


 淫魔の囁きが、フリオニールの耳朶を擽る。
空気がこそばゆく鼓膜を震わせる感触と、自分自身の体の現実を突きつけられて、フリオニールは首から熱くなった。

 くすくすと笑う声を耳元に聞きながら、フリオニールの中心部が柔らかく握りこまれる。
麻生地のズボン越しに、淫魔の手がフリオニールの雄に触れていた。
赤の他人にそんな場所を触れられたのは、人生で初めてのことだ。
途端にフリオニールは、言い知れない羞恥心に襲われて、全身からぶわりと汗が噴き出る。


「や、やめろ」
「大丈夫だ。優しくしてやる。ほら、こんな風に」


 淫魔の手が上下に緩やかに動き、頭を起こした雄の竿を撫でまわし始めた。
丈夫さを優先したごつめの麻のズボンを、中の物がきつくない程度に握って、こねるように手首を回す。
それだけで、自己処理では一度も経験したことのなかった、ぞくぞくとした感覚がフリオニールの腰を襲った。


「うう……っ!」
「サイズは中々……いや、まだ完全じゃないか。何処まで大きくなるか楽しみだ」


 淫魔は楽し気に口角を歪ませて、フリオニールを煽るように、殊更に耳元で囁いて来る。
そのまま、淫魔はフリオニールの尖りぎみの耳朶を、かぷりと食んだ。
ぞわっとした感覚がフリオニールの首筋を走り、同時に雄がぴくりと反応を示すのを、淫魔はしっかり感じ取っていた。

 股間をまさぐる淫魔の手が、するりと布地の内側に入って来る。
其処はうっすらとした湿気で籠った空気が閉じ込められており、膨らんでいる中心はじわじわと汗を掻いていた。
細い指がその幹に絡みついて、形を確かめるように触っている。


(悪魔の……他人の手が、そんな所を……)


 一緒に暮らしていた兄妹家族にだって、フリオニールは其処を触られたことはない。
幼い頃は義兄と、其処が大きいだの小さいだのと比べ合った事もあったように思うが、もう随分昔の話だ。
育て親のもとを離れ、一人で暮らす今となっては尚更、其処を他人に晒したことさえない。

 他人が性器に触れている。
それだけでフリオニールは、無性に恥ずかしくて堪らない。
やめろ、と其処に触れる手を振り払いたいのに、体は未だ、思うように動かなかった。
されるがままに雄を擽る手が与える刺激のまま、ヒクッ、ヒクッ、と腰が戦慄く。


「根本も、竿も、頭も……太くてしっかりしてる。こんなの、早々いないぞ。大したものだな」


 嘯く声は、男の矜持を刺激し、歓ばせようとしているのだろう。
それに反応を示すことは、淫魔の思う壺だと判るフリオニールだったが、男の体は刺激に対して正直だ。
揉みまわす淫魔の手の中で、彼の一物は確かに膨張率を増して行った。

 フリオニールの形を一頻り確かめた後、手はそれを優しく握った。
そのまま手が上下に動き始め、しゅこ、しゅこ、と竿を扱き始める。


「う、う……っ」
「大丈夫だ。そのまま感じていれば良い」


 淫魔の声は蕩けるようにフリオニールの耳元が滑り込み、堕落を誘っている。
くすくすと小さく笑う声と共に、淫魔はフリオニールの耳朶をねっとりとしゃぶった。
濡れた感触が外耳を辿る感覚に、フリオニールの背中が粟立つ。

 後頭部から走ってくる、快か不快か曖昧な感覚に囚われていると、雄の先端に細い指が絡みついた。
鈴口をくりくりと穿るように虐められて、フリオニールは息を詰める。


「うあ、く……っふ……!」
「濡れて来た。ここは自分で触ったりしないのか?ここで感じるのも初めて?」
「ふぅ……っ、ふぅ……っ!」
「気持ち良いだろう?俺もここは好きなんだ。触るのも、触られるのも」


 淫魔の声に応えまいと歯を噛むフリオニールだが、淫魔はそもそも、フリオニールの反応など気にしていない。
手に入れた獲物をどんな風に調理しようか、下拵えの手間を楽しんでいるのだ。

 先端からじわじわと滲みだした汁を絡め取り、指はまた竿を握る。
ぬるついた粘膜をまとった手が、フリオニールの陰茎を扱く。
艶めかしい感触と共に、緩和された摩擦の感触が竿を刺激して行き、フリオニールの血がいよいよ其処に集まって来る。

 フリオニールの首筋に、淫魔の唇が寄せられた。
喉仏にキスをして、ちゅう、と吸って、舌を這わす。
感触を厭ってフリオニールの首が仰け反ると、露わになった喉を淫魔の舌がゆったりと撫でた。


「う……く、はぁ……っ!は……っ!」
「感度が良いな。初めてだからか?」
「う、う……あつ、い……っは、はぁ……っ!」
「ああ、唾液───ちょっと量が多かったな。あんた、頑固そうだったから、いっぱい飲ませてやったかも」


 濡れた舌でフリオニールの喉仏をくすぐりながら、淫魔は笑う。
自分がしたことの癖に、まるで他人事だ。
ちょっと砂糖が多かったかな、まあいいか、と言う調子である。

 淫魔の手に刺激されて、フリオニールの股間はすっかり固くなっている。
下着の中が酷く窮屈な気がして、フリオニールは眉根を寄せた。
淫魔はそれに目敏く気付き、


「つらい?出したい?もうちょっと待て。味見が先」


 竿の裏筋を尖った爪先でカリカリと引っ掻いて遊びながら、淫魔はフリオニールを焦らす。

 はあ、はあ、と息を切らすフリオニールを、何処か楽しそうに眺めながら、淫魔は陰茎から手を離した。
しっかりとしたテントを張ったズボンが引き下ろされ、下着を緩められると、大きく張りつめたペニスが頭を起こす。

 薄らと充血して赤くなったようにも見える一物を見て、淫魔は感心した表情を浮かべていた。


「随分立派じゃないか。これ、使ったことないのか?」
「……」
「勿体ない奴だな。これなら女を幾らでも啼かせられるだろうに。でもこのまま何も知らないんじゃ、バカみたいに腰振るだけの猿になるかもな。そっちも勿体ない」
「……俺の、そこがどうかなんて……お前には、関係の…ない、話だろ……っ」


 勃起したペニスをまじまじと観察しながら勝手な評価を語る淫魔に、フリオニールは眉根を釣り上げて睨む。
淫魔はそんなフリオニールの雄を、指先でピンッと弾いた。


「うっ!」
「俺がこれの使い方を教えてやると言ってるんだ。実施でな。どうもあんたは男の方が好きみたいだから、使う穴が違うけど───まあ良いか。男好きなら、どうせ使うのはこっちだし」


 淫魔は自身の下肢に手を遣りながら、独り言のように言った。
何を言っているのかは、フリオニールにはいまいち判然としないが、淫魔も詳しく説明する気はないらしい。
楽しみ、と小さく嘯くと、淫魔はフリオニールの股間に顔を寄せた。


「大きい……ん、あむぅ……っ!」


 眼前にしたその質量に感嘆の吐息を漏らしながら、淫魔は口を開けた。
まさか、とフリオニールが思うや否や、淫魔はペニスをぱっくりと咥内へと含んでしまう。


「な……っ!」
「んちゅ……んむるぅ……っ♡」


 ぬるる、と艶めかしい感触と共に、淫魔の唇がペニスの表面を撫でていく。
手指が絡みついて来た時よりも、生暖かくて湿った感触が肉棒を包み込む感触に、フリオニールの腰がぶるりと戦慄いた。


「くぅあ……っ!な、何して……うぅっ!」
「んちゅ、んじゅ……っ、んん……っ」


 排泄器官である場所を、他人が口に咥えていると言う、フリオニールから見ればとんでもない状態だ。
慌てて股間にすがりつく淫魔を引っ張り剥がそうとするが、淫魔はフリオニールの腰にしっかりと抱きついて離れようとしない。
寧ろ、フリオニールが暴れようとする程、ペニスを喉奥深くまで迎え入れていく。


「おむ、うむぅ……っ、おふ……っ!」


 小さな口を限界まで開いて、淫魔はフリオニールを咥えていた。
咥内では唾液に濡れた舌が竿に絡みつき、れろぉ、と舐め嬲る。
亀頭は喉の入り口まで到達し、息苦しさにか、淫魔が小さく咽こむ度に、喉がきゅっ、きゅっと閉じて亀頭を締め付けた。


「う、うぅ……ああ、っく……!」
「んちゅ……んれ……、んぢゅるぅ……っ♡ううん……♡」


 フリオニールのペニスをしゃぶり啜りながら、淫魔は四つ這いになった細い腰をゆらゆらと揺らしている。
尾てい骨のあたりから生えている悪魔の象徴とも言える尻尾が、揺れる尻の動きに合わせて左右に踊っていた。
フリオニールはどうしてかその尻尾から目が離せない。
右へ、左へ、規則的ながらも緩やかに動く尻尾は、まるで催眠術へと誘導しているかのようだった。

 フリオニールの意識は、段々とほつれるように、曖昧になって行く。
下半身を覆う温かい感触が齎す心地良さが、じんわりと酒精のように体中に広がっていた。
心臓ばかりが早鐘を止まず、送り出される血が、淫魔の咥内に包み込まれたものへ集まり、出口を求めて蓄積される。


「んぢゅ、んっ、んっ……!」


 淫魔はフリオニールの陰茎を加えたまま、ゆっくりと頭を前後に動かし始めた。
唇が陰茎の表面を擦り、何度も前に後ろにと往復し、ぬらぬらとした感触が行き来する。
自慰や先程の手淫とも違う、艶めかしく温かい感触が齎す刺激は、フリオニールにとって未知のものだった。


「う、あ……!は、あ、あぁ……っ!」


 フリオニールにとって初めての口淫奉仕は、余りにも甘美な快楽を齎した。
女の陰唇───見た事もないが───に似た形をした淫魔の唇を、自分の性器が出入りしている光景だけで、初心なフリオニールには堪らなく卑猥なものに映る。
それだけでも鼻血が出そうなのに、其処にある整った顔立ちが何処か嬉しそうにしているから、まるで睦言のように見えた。
そんな訳がないのに、これは悪魔に捕食されているのに───そうは思っても、体の熱は収まる処か増すばかりで、快楽に耐性を持たない体から抵抗の力が抜けて行く。

 枯藁のベッドの上で、フリオニールはいつの間にか横たわっていた。
上半身を支えていた腕も力を失い、すっかり投げ出されている。
麻痺毒が回ったような感覚だが、痛みや痺れの類はなく、ただただ、下半身を覆う生々しい刺激に意識が囚われている。


「んちゅる、んぢゅ、んれぇ……♡んぷ、んっ、んぷっ♡」
「はあ、う、ううぁ……っ!ち、んこ、が……は、破裂、しそうだ……」
「んん……んちゅぅう……っ!」
「うあぁ……っ!吸う、な、ああ……っ!」


 息絶え絶えのフリオニールに、限界を感じ取ったか、淫魔は強い吸引でペニスを啜った。
淫魔の唾液と、先走りのカウパー液で濡れた亀頭が、じゅるるるっ、と音を立てて吸われ、


「くぅ、うっ、ううっ!出る───うあぁっ!」


 眉根を寄せたフリオニールが、悶えに喉を反らした直後、淫魔の咥内で、びゅるうっ!と射精した。
淫魔はその瞬間にきゅっと喉を締めて、フリオニールが出したものを口いっぱいに受け止める。


「んぷぅう……っ!う、うふぅ……っ、んん……っ!」


 フリオニールの精を受け止めながら、淫魔はビクッ、ビクッ、と背中を痙攣させる。
後残りまで啜らんと、じゅる、じゅるる、と言う音を立ててペニスが吸われ、フリオニールの腰もまた、びくん、びくん、と跳ねた。

 薄暗い厩舎の中、はあ、はあ、と熱っぽく湿った呼気が繰り返される。
体の下にある枯藁さえも、じっとりと重い粘土質な空気に湿ったような気がしたのは、背中に滲む大量の汗の所為だろう。


「うあ……っは……はぁ……はぁ……」
「んん……んむ、ぅ……♡」


 ぐったりと藁の上で四肢を投げ出すフリオニール。
淫魔はそんな獲物を見下ろしながら、ゆっくりとペニスから口を離した。
噤んだ口の中には、フリオニールが吐き出した精子が溜まっている。
それを、淫魔はゆっくりと、こく、こくん、ごくん、と飲み干した。


「っはぁ……濃ぉい……」


 淫魔はうっとりとした表情を浮かべ、恍惚に頬を染めて呟いた。


「食事自体、大分久しぶりだったけど……こんなに濃くて美味いのは初めてだ。生命力も申し分なさそうだし、これなら……」


 淫魔の舌がぺろりと自身の唇を舐める。
味を占めた、そんな顔だったが、フリオニールは得体の知れない解放感と、自身を包み込んでいた温かい感触がなくなった喪失感で、呆然と天井を仰ぐばかりであった。

 射精したフリオニールのペニスは、少し頭を下げているが、太さは幾らも失われていない。
淫魔が其処に唇を寄せ、たらたらと名残の蜜を残している亀頭にキスをし、ちゅるちゅると果実を吸うように啜れば、


「あ、う……っは、あっ……やめ、ろ……っ」


 フリオニールは拒絶に腕を振るが、其処に碌な力はなく、ふらふらと手のひらが彷徨うばかり。
当然、淫魔はそんなものを気にすることなく、フリオニールのペニスを弄んでいた。


「あんたのちんぽ、まだ大きいし。随分溜め込んでるんだろう。教会の狸オヤジなんか、淫気は溜めると人間を堕落させる毒だからって、毎日盛って無駄撃ちしてる連中ばかりだから、あんたの方がよっぽど敬虔なんだろうな」
「は、はぁ、うあ……っ!」
「そう言う奴ほど、気持ち良いのに慣れてなくて、やばいハマり方をするみたいだけど」


 淫魔はそんなことを言いながら、フリオニールの亀頭筋を、尖った舌先でちろちろと擽って遊ぶ。
果てたばかりで熱こそ落ち着きかけてはいるものの、感度は失われていない為に、フリオニールの腰がビクビクと跳ねる。

 弄ばれている内に、じわじわと陰茎は力を取り戻していく。
頭がまた起きて来たのを見て、淫魔はよしよしと満足そうに笑みを浮かべた。


「いつもなら解すのをやって貰う所だが、あんたは初めてだし。雑になると俺が痛いし。実演してやるから、よく見てると良い」
「じ、実演……って何を……!?」


 そこはかとなく嫌な予感がして、フリオニールは狼狽えながら、どうにか首だけを起こす。
と、其処にずいっと視界に入って来たのは、桃肌色のまろやかな双丘。
鏃のついた尻尾がフリオニールの目の前でぷらぷらと揺れて、先端が双丘の谷間の中央───ふくりと色付いた土手のある後孔を指していた。


「女なら膣だけど、男はないからな。こっちでセックスをする」
「な……」


 肛門でセックス。
そんなことは、フリオニールの性知識には微塵も存在していないことだった。
其処は排泄器官であって、ものを入れる所ではない筈だ。
教会で習うに置いては、それは人にとって負を吐き出す為の、不浄の穴であるとも。

 そもそも同性同士で性行為が出来るとも思っていなかったのだから、フリオニールの動揺は無理もない。
淫魔の方はと言えば、目を丸くするフリオニールを、その顔を跨いだ足の間から覗き込みながら、くすくすと笑っていた。


「別に俺はどっちでも良いんだ。膣でも尻でも、中に入れば一緒だからな。それじゃないと、俺はあんたの精気が吸えないし」
「な、ちょ……ち、近付け、るなって……!」
「しばらく食ってないし、綺麗な方だと思うから安心しろ。いきなりあんたに此処をどうこうしろとも言わない。今日は見学してると良い」


 淫魔のまろい尻が目の前にある。
他人の臀部をそんな距離で見た事はないフリオニールが混乱するのも当然だが、淫魔は意に介さなかった。
跨る位置を調整して、フリオニールの顔の前に、しっかりと自分の局部を晒す位置を取ると、自身の手で慎まし気に綴じている秘穴───アナルに指先を触れた。


「俺、好き嫌いが激しい方だから、あんまり食わないんだ。あんたは久しぶりの食事だし、意外とあんたのちんぽは大きいし、ちょっと解さないと入らないと思う」


 淫魔の指が、アナルの淵をそっと辿る。
窄まりがふくりと震えて、その先を期待するように、穴口をひくひくと伸縮させた。
尻尾がゆらりと揺れて、此処を見ろ、と誘うように、鏃の先端がアナルを擽る。


「んっ……あ……っ♡」


 自身の尻尾でアナルの口をまさぐって、淫魔は甘い声を漏らす。
同時に指で尻たぶを撫で、ゆらゆらと腰を振って尻を揺らして、フリオニールの視線を中心へと誘導する。


「はぁ……ん、ふぅ……ん……」


 熱ぼったい悩ましい吐息を漏らしながら、淫魔は指の腹で穴口をすりすりと摩った。
細い指が、あろうことか後肛を触っていると言う光景を、フリオニールは当然初めて見た。
見て良いものではない、と頭では判っているのに、体はまるで金縛りに遭ったように動かず、目の前に突き付けられた淫靡な行いに釘付けになってしまう。

 細い指が、つぷり、とアナルに挿入される。


「ん……っ♡」


 ヒクン、と淫魔の体が震え、月明かりに照らされた白い肌に、じわりと汗が浮かぶ。

 淫魔はゆっくりと指の進入を深めていき、悶えるようにゆらゆらと腰を振る。
フリオニールを跨ぐ為に開いた太腿が、心なしか耐えるように戦慄いて見えた。

 手首の角度が変わる度に、奥でくちゅ、くちゅ、と言う音が鳴っているのが聞こえる。
淫魔の零す吐息にはますます熱が籠り、それを聞くフリオニールに、耳元でそれを聞いていた時の感覚が蘇る。
今は淫魔の頭は向こう側、フリオニールの投げ出した足の方にあると言うのに、どう言う訳か、耳元で甘声を囁かれているような気がしてならない。


「あ、ふ……ん、うん……♡う、んん……も、ちょっと……奥、うん……っ」


 心地の良い所を探しているのか、淫魔は一人呟きながら、手首の向きを変えて自身のアナルを解している。
指を咥え込んだ秘穴は、しっかりとその口を閉じているようだったが、指が奥へと進むことを拒むことはしなかった。
ずぷりと指の進入が深くなると、淫魔は「あぁ……!」と悦びの声を上げて、穴口が咥え込んだものをきゅうっと締め付ける。
その様子を、フリオニールは数センチと言う距離の近さで、つぶさに見せつけられていた。


(尻穴が、こんな……こんな風に、動くなんて。中でぐちゅぐちゅって音が鳴って、……濡れ、てる、のか?……セックスの時、女は濡れるものだ、って聞いた気がするけど……此処も……?)


 淫水音は益々大きくなって行き、フリオニールにもはっきりと聞こえる程になっていた。
時折、指が後ろに引き抜かれると、艶やかな糸のようなものが指にまとわりついて垂れて落ちる。
それはフリオニールが流し込まれた、淫魔の唾液と同じ、彼の胎内で分泌されたものなのだろう。

 アナルを広げる淫魔の指の動きは、じわじわと大胆になっていく。
指が前後に抜き差し運動を始め、ぬぽぬぽ、ちゅぽちゅぽといやらしい音を立てる。


「あっ、あっ、あっ……!は、はっ、あぁ……っ!」


 淫魔自身もまた、アナルからの刺激に悦びの声を上げている。
淫魔はフリオニールの太腿に額を擦り付けながら、薄い腹筋をひくひくと戦慄かせていた。

 尻穴のすぐ下、会陰を越した場所に、薄くて可愛らしい色をしたペニスがある。
その性器の形が、此処にいる淫魔の体が間違いなく男のものであることを示しているのに、それを見ても、フリオニールの体は金縛りに囚われていた。
寧ろ、薄桃色のつるりとしたペニスが勃起し、先端からとろとろと蜜を零している光景に、フリオニールの脳が灼かれる。


(男に……男が、こんなことをしているのを、見ているのに……俺、どうしたんだ。どうして、こんな───)


 淫魔の体が、その身で昂っていることを示している。
それを目の当たりにしながら、フリオニールもまた、呼気が上がって行くのが判った。

 そして淫魔も、頬を擦り付けた男の太腿のすぐ傍で、太く逞しい一物が起立しているのを見ていた。
自らの下肢を愛撫する手を続けながら、あ、と開けた口で、勃起したフリオニールのペニスに食らいつく。


「あむぅ♡」
「くぅああ……っ!」


 眼前の光景にすっかり意識を捕らわれていたフリオニールにとって、それは不意打ちの快感だった。
生暖かくて薄らと柔らかい弾力のある舌が、フリオニールの陰茎を包み込む。

 淫魔はぬぽぬぽと音を立てて、窄めた唇でペニスを愛しながら、自身のアナルを弄っている。
ヒクつく桃色の土手が、淫魔の細い指をきゅうっ、きゅうっ、と締め付けるように動いていた。


「んっ、んむっ♡ふ、んふっ、ふぅん……♡」


 淫魔の尻がゆらゆらと揺れ、指が奥へと入って行く。
奥の方で指が動くと、悪魔の尻尾がぴんと伸びた。
ビクッ、ビクッ、と臀部の小山が震えて、淫魔のペニスが切なげに戦慄く。

 フリオニールの血がどんどん一か所に集まって行き、淫魔の口の中で、それは大きくなって行く。
フリオニールは股間が痛いほどに膨らんでいるのを感じて、身動きも出来なくなっていた。


「うう、ああ……っ!はあっ、はっ、く、うぅ……あ……!」


 眉を潜めながら、呼気を上げて、フリオニールは目の前の光景を食い入るように見つめる。
指を咥えた淫魔のアナルから、甘くて香しい匂いがする。
其処は不浄の穴なのに、触れるものではない筈なのに、出入りする淫魔の指が、未知への開門を誘っているようだった。


「ふぅ、んむぅ……♡っは……そろそろ、良いな……」


 淫魔はペニスを舌で擽りながら、自身の秘所から指を抜く。
淫所から抜け出た指には、てらてらとした光がまとわりついて、穴口から透明な糸が伸びていた。

 入り口を薄らと濡らせた菊門が、ヒクヒクと伸縮運動を見せている。
咥えるものをなくした其処が寂しがるのを、淫魔は指の腹ですりすりと摩って宥めているが、「あぁん……♡」と益々甘い声が漏れるだけだった。


「あんたのちんぽも、また固くなった。準備は出来たな」
「う……あ……待て……っ」


 このまま、淫魔の好きに任せてしまったら、フリオニールはこの淫魔に捕食されてしまう。
冗談じゃない、とフリオニールは抵抗を試みるが、体は碌に動かなかった。
腕一本を持ち上げるだけで随分と重く感じて、伸ばしたそれも、すいと逃げる淫魔に触れることも出来ない。

 淫魔は体の向きを変えて、またフリオニールの上に跨った。
獲物の顔が見えるように、前向きになって、フリオニールの腰の上に臀部を乗せる。
汗ばんで濡れた滑らかな肌の感触が、フリオニールの骨張った腰の上にむちりとした重みを感じさせた。


「メインディッシュだ。あんたも楽しめ。極上の快楽でイかせてやる」


 舌なめずりに笑いながら、淫魔はフリオニールのペニスを握る。
浮かせた尻の下、ヒクついている薔薇色の孔に亀頭を宛がい、ゆっくりと腰を落としていく。

 ずぷ、ぬぷ、ずぷぷぷ……とペニスが肉壺に飲み込まれていくのを、フリオニールは甘受するしか出来なかった。


「あ、ああぁ……っ!」
「うぅん……っ!やっぱり、大きい……っあぁ……!」


 苦悶とも嬌声とも聞こえるフリオニールの声が上がる。
同時に、淫魔もうっとりとした表情を浮かべながら、艶めかしい声を上げていた。

 淫魔の唾液と、フリオニール自身の吐き出した精で、べっとりと濡れそぼっていたペニス。
夜の空気にひんやりと冷たいものを感じていた其処が、温かくて柔らかい、体温の中に包み込まれていく。
絡みつくように舐めて来る肉壺は、淫魔がふぅ、ふぅ、と呼吸する度に、ゆっくりと蠢動して肉竿を締め付けた。


「は、あ……あ、あぁ……っ!あ、つ…い……うぅ……っ!」


 初めて味わう他者の胎内。
そのあまりの心地良さに、フリオニールは意識が泥のように溶けていくのを感じていた。


「ああ、うぅん……っ♡カリが高くて、中を擦って……んん、太い……っ♡」
「う、あ、もう……もう、やめろ……くぅうっ」
「ふふ……あんたも気持ち良いって顔してるじゃないか。俺のケツまんこ、結構イイだろう?」
「……っ」


 自慢げに嘯く淫魔に、フリオニールは頭を振った。
堕落に誘う悪魔の誘いに、屈する訳には行かない。
両手を力いっぱいに握り締め、唇を噛み、せめて意思だけでも折られてなるかと己を奮い立たせるが、


「んんっ♡」
「ううぅっ!」


 ずぷぅっ、と淫魔が一気に腰を落として、フリオニールを根本まで咥え込む。
ごつっ、と奥の行き止まりに先端がぶつかって、淫魔の体がビクンッと弾んだ。


「あうんっ!はっ、はぁう……っ♡こんなに、あっ、奥まで……」


 淫魔は頬を赤らめながら、濡れた舌を覗かせて、嬉しそうに言った。


「場末で飲んでる莫迦だって、こんなに入らない。太さばっかり自慢するような奴は、無理に入れると苦しいし。あんたの、そういうの全然ない。あんたはどう?ちんぽ、気持ち良い?」


 くすくすと問いながら、淫魔はきゅうぅ……とフリオニールを締め付けた。
フリオニールを迎え入れた穴の中は、みっちりと肉が密着して狭いのに、決して雄を苦しめない。
艶めかしく蠢動する肉ビラは、洪水でも起こしたようにじっとりと濡れていて、フリオニールに絡みつきながら舐めしゃぶっている。


「はあ、ああ……うぅ……っ」


 気持ち良くなんかない───そう言いたいのに、言語がまともに出て来ない。
否定しようとする程に、体から力が抜けてしまう。
本心は見ての通り、とでも体現するかのように、フリオニールは股間から伝わって来る媚肉の心地良さに、思考能力を吸い取られていた。

 耐えようと噛み締めた筈の唇が解け、はあ、はあ、とあえかな呼吸を繰り返すばかりのフリオニールに、淫魔は満足げに笑む。


「楽しんでるようで何よりだ。でもこれで終わりじゃないぞ。ほら……」


 淫魔は膝を立てて、フリオニールの腹に両手をつき、支えにしながら腰を浮かせた。
肉ビラがぬるりと竿を舐めながら動き始め、ゆっくりと抜けて行く。


「あ、あ……!待て、動く、な……あぁ……っ!」
「ん、ふふ……♡大丈夫、まだ出て行かない。中でちゃんとあんたの精気を貰うまで……んっ!」


 ペニスが笠のくびれまで抜けた所で、淫魔は再び腰を落とす。
外気に晒されていた幹竿が、また胎内へと飲み込まれ、温かい肉褥に囚われた。

 淫魔は何度も腰を浮かし、落とし、フリオニールのペニスを肉壺で愛でた。
フリオニールを苦しめない程度に締め付けながら、濡れそぼった媚肉で、ペニスの皮膚表面を何度も擦り上げる。


「んっ、んっ、んっ♡ふっ、ふぅっ、あぁ……っ!」
「はっ、はぁっ、はぁ……っ!ち、んこ、が……擦れて、く、うぁあ……っ!こ、んな……こんなの……っ」
「こんなの、知らない?こんなに気持ち良いの、初めてだって?」


 意識虚ろに視線を彷徨わせるフリオニールが零す言葉に、淫魔はその先を勝手に紡いでは笑う。
淫魔が腰をくねりと揺すれば、ペニスに肉が擦れる感触と角度が変わって、また違う心地良さがフリオニールを襲う。


「くぅあ……っ!」


 堪らず喉を仰け反らせるフリオニールに、淫魔は腰を動きを止めることなく、横たわるその体に覆い被さって身を寄せる。


「ふぅ、はふっ、ふぅんっ♡ああ、ちんぽ……っ、ちんぽがどんどん、大きくなってく……!元々、大きかったのに、もっと……!」
「ふっ、ふっ、くぅう……っ!」
「あんた、ちんぽが大きくなるの、我慢しようとしてる?ふふ、全然できてないぞ。俺のケツまんこ、あんたのちんぽでいっぱいになってる」
「……っ!」


 淫魔をこれ以上喜ばせる訳にはいかない。
悪魔の享楽を助長させることこそ、自分の命を捧げることになるのだから。

 そう思ってはいても、男の体は、快感刺激に対して歯止めが利かない。
況してやフリオニールは、これが人生で初めての性行為なのだ。
歯を噛んで堪えて、勃起や膨張が制御できると言うのなら、世の中の男はもっと理性強く生きることが出来るだろう。

 フリオニールのペニスは、淫魔の胎内で、その愛撫を受けて益々成長していた。
狭くてきつい筈のアナルを、ペニスは限界まで広げており、淫魔は時折苦しそうに腰を捻ってやり過ごす仕草を見せる。
そうしてくねくねと下肢を揺らすだけでも、中で肉が擦れ合うものだから、フリオニールには堪らなかった。


「う、動く、なって……言ってる……っああ……!」
「はっ、はぁ、はふっ♡ああっ、すご……奥、奥まで届いて、ケツまんこ気持ち良いっ♡精子出て来たっ♡」
「くぅ、ううっ!」


 きゅううっ、と締め付ける媚肉に促されて、先走りが滲み始める。
それが淫魔にとっては待ちに待った食糧だから、出てくれば感じ取れるのだろうか。
淫魔は興奮した様子で、更に腰の動きを激しくし始めた。


「はうっ、はっ、あっ、あぁっ♡せーし、せーしっ♡ごはんっ♡早くぅっ♡」
「やめろ、やめろ……っ!く、うぅっ、悪魔め……っ!」
「あは、はっ、はぁっ♡あんた、本当、イイ顔……♡」


 精一杯の理性と気力で、自由にならない体の代わりに、睨み付ける紅。
射殺さんばかりの敵意を失わないフリオニールの表情を見て、淫魔はその背にぞくぞくと恍惚が奔るのを感じていた。
そうとも知らず睨み続けるフリオニールを見下ろしながら、淫魔は息を詰めて括約筋に力を籠める。


「ンふぅうんっ♡」
「うぅううっ!」


 きゅうううっ、とこれまでよりも更に強い締め付けに襲われて、フリオニールは苦悶の表情で天井を仰ぐ。
ちらばる枯藁を縋るように握り締めながら、フリオニールは射精した。

 びゅるるるっ!と勢いよく吐き出された精が、悪魔の直腸壁を叩くように注ぎ込まれていく。
淫魔はその熱い滾りを受け止めながら、大きく背中を仰け反らせ、ビクンビクンと痙攣しながら絶頂していた。


「あああんっ♡はうっ、濃いの出てるっ♡入ってくるぅうっ♡」


 薄暗い厩舎にはとても不似合いな、粘着質な喘ぎ声が上がった。
どくんっ、どくんっ、と脈を打ちながら精を吐き出すフリオニールに、淫魔も震える体で締め付けながら官能に浸る。


「あうっ……ああぁ……っ♡イっちゃ、ったぁ……っ♡」


 淫魔は厩舎の天井を見上げながら、濡れた舌を突きだしている。
ヒクッ、ヒクッ、と細い肩を震わせながら、彼の薄い色のペニスからはとぷとぷと蜜が溢れ出していた。
それが淫魔自身の竿を伝い流れ落ち、フリオニールの下腹部を汚していく。

 一方で、フリオニールはと言えば、


「はあ……はあ……うぅ……あ……」


 他人の、その身体の中で初めての絶頂を迎えたフリオニールの意識は、宙に浮いたようにそぞろだ。
まるで夢現の中を揺蕩っているように、解放感と心地良ささえ感じている。


(これが、セックス……?人と繋がって、中で感じて……中に、出して……それを、受け止め、られて……こんなに……)


 自分の手で処理をしている時には、決して感じる事のなかった、言葉に出来ない程の多幸感。
まるで天にも昇るようだ。
それを与えているのが悪魔であると言うことは、不穏にもそれが比喩でなくなることを指しているが、フリオニールは最早それを思い出すことも出来なくなっていた。