花あわいの形
スコール誕生日記念(2025)


 物が潤沢にある訳ではないので、タイミングは限られることであったが、ラグナはジェクトと共によく杯を傾ける。
杯の中身は、モーグリショップで購入した酒や、果実類を採取して発酵・醸造させたもの、稀に森で見付かる猿酒である。
希少なものなので、大抵はちびりちびりと楽しむのだが、ジェクトは安酒を豪快に飲む方が性に向いていると言っていた。
ラグナも希少性の高い酒はそれなりに楽しいが、もっと気安くボトルを開けたり、色々と飲み比べする方が好きだ。
だが、入手手段が限られるのだから、贅沢は言えない。
寧ろ、こんな奇妙な世界に召喚されて、酒を飲む楽しみがまるごと失われていないだけでも、重畳と言うものだ。

 秩序の女神に喚ばれた者と言うのは、ジェクトとラグナを年長者として、後は年若いものばかりである。
一番若くてルーネスが凡そ十四、五歳───当人の記憶が不確かなので、多分それくらい、と言う自己申告だ───、それから半数は十代だ。
あとはライトニングやカイン、セシルが二十代に入っている。

 と言った話をしていた所で、今日の酒の席に加わっていたバッツが、右手を挙げて言った。


「あ、おれも二十歳」
「マジかよ」


 そう言えばと言う風に申告したバッツに、ジェクトは目を丸くした。

 とてもそうは見えない、と言う表情のジェクトも無理からんことである。
何せバッツ・クラウザーと言ったら、ジタンと一緒に賑やかに過ごしていることが多く、十代の少年少女とそう変わらない印象を与えるからだ。
生粋の旅人として生きて来たと言うその知識は、確かに経験豊富であることが伺えるが、それにしたって落ち着きがない。
特にジタンと一緒になってスコールに絡みに行っている時は、まるで子供が親しさに甘えてじゃれつきに行っているような所があった。

 ラグナ個人の感覚で言えば、酒を飲めると言うことは成人している年齢───二十歳は数えている、と言う所がある。
しかし、これは存外と限られたパターンであるらしく、世界によっては、飲酒をするのに年齢の制限は設けられていない場合もあった。
これは水が潤沢な環境であるか、その水は飲用として使える純度か、その代わりとして酒や果実水が用いられると言う所も加味される。
流石に幼い時分には酒は推奨されない為、水分の多い果実がその役割となるのはあるそうだ。
また、生活環境によって、飲酒の機会が多い場合も、若い内からその舌に馴染んでいた。

 確かによくよく思い出して見れば、ラグナの世界でも、国によって飲酒の制限年齢は若干ほど差があったように思う。
上下水道が整えられている環境が殆どであったから、飲み水としてのそれの確保は、都市のインフラとしてほぼ安定した環境ではあったが、価値観か他の要因か、飲酒は大体十五歳から二十歳までの間に認可される幅があったような気がする。
成人の区切りと、飲酒の可不可はまた別に管理している場所も、少なくなかった筈だ。

 だからこの世界では、酒の席にいるからと言って、その人物が二十歳を過ぎているとは限らなかったのだ。

 バッツは果実酒の入ったグラスをぐいっと飲み干して、自身の年齢について、意外、と言われた事には腹を立てる様子もなく、からからと笑った。


「ジタンとスコールにも言われたなぁ。全然そう見えない、だったらもっと落ち着いてくれ、ってさ」
「あいつらの苦労がよく判る言われようだな」
「ははは。でも、これでも一応、見なきゃいけない所は見てるつもりだよ」


 呆れた口調のジェクトの台詞にも、バッツは気を悪くする様子はない。
寧ろ、そう言われるように振る舞っているからそれで良い、と言った風でもあった。


「おれも自分のことはあんまりはっきり思い出せないもんだからさ。二十歳って言うのも、多分そうなんだろうって、漠然と思うだけで、実際はどうだか判んないよ。ひょっとしたら、もっと下かも知れないし、上かも知れない。あ、ジェクトやラグナより年上って可能性もあるな」
「いや、そりゃないだろ。どっからどう見ても、俺より上って事は」


 顎に手を当てて、もしやもしやと面白そうに考え始めたバッツに、ジェクトがないないと手を振るが、


「いやいや、判んないって。混沌の奴らとかさ、若く見えるけどすごく長く生きてる奴とかいるんだろ?」
「多分な。お前の敵だって言うエクスデスだって、鎧の所為で顔も見えねえから判らんが、ただの人間じゃないんだろ?」
「ああ、確かそうだったと思う。それで、元の世界であいつと戦ったって言う感覚はするから───若しかしたら、お互いに何百年も生きて、あいつと戦い続けてたのかも」
「お前さんにそんな貫禄があるかねぇ」


 ジェクトは眉唾な表情を浮かべているが、しかしそれはそれで面白い話だな、とも思っているのが見て取れる。
バッツはバッツで、そんな反応をするジェクトに、仕返すように言った。


「貫禄って言うなら、ジェクトだって同じようなもんだろ?あっちにいる……なんだっけ、最近召喚されたっぽい奴いただろ。あいつの顔見た時とかさ、いっつも意地悪そうなことばっか言って」
「……さぁて、知らねえな。誰の事だか」
「ほら、そう言う所だって」
「知らねえ知らねえ」


 ジェクトはボトルに入っている酒をとぷとぷとグラスに注ぐと、それを一気に煽った。
その話題は終わりだ、と拗ねた顔をする男に、バッツはラグナに「こう言う所だよなぁ」と囁く。
ラグナもくつくつと笑って、早々に空になったジェクトのグラスに、酒を注ぎ直してやった。

 バッツも空いていたグラスに液体を注ぎながら、そう言えば、と、


「年齢と言えば、ラグナも年相応には見えないんだよな」
「俺?」


 矛先が此方へ巡って来て、ラグナはぱちりと目を丸くした。
此処にいる三人に、順当にターゲットが回ってきたとも言える。

 ラグナは割り氷の入ったグラスを揺らしながら、顎に指を当てて考える。


「俺はちゃんと二十七歳だと思うけどな。年長者らしくしてるし。地図見て行先を決めたり、方針を立てたり───」
「それがちゃんと出来てりゃ文句はねえんだけどな……」


 ジェクトが深々と溜息を吐く。

 ラグナが地図を持つと、往々にして、その一行は道に迷うのである。
古典的に地図の向きが上下逆だったと言うのはよくある話だったし、指し示す東西南北の方角を間違えるのもザラにあった。
あまりに恒常的なパターンなので、効率を重視するライトニングやスコールは、ラグナに道案内を任せるのは御法度としている程だ。
ラグナとて間違おうと思って間違っている訳ではないのだが、しかし、結果としてそう言う事件が積み重なっているのも事実。
最後には目的とする場所に辿り着くことが出来ているとは言っても、其処に至るまでに無意味な大回りを供されることは、寛容し難い面々も少なくはないのであった。

 ラグナが率先して、行く先を提案するのは悪いことではない。
右も左も判らず、どうしたものかと立ち尽くして動かないよりは、取り合えず歩き出した方が事態は動く。
そう言う意味ではラグナのリーダーシップ的行動も有難いのだが、ならばもっと慎重に情報を精査してくれ、と言うのが、よくよく彼に振り回されるメンバーの共通意見であろうことは、想像に難くない。

 ラグナが年相応に見られないと言う点は、他にもある。
バッツは苦笑しながら、それを挙げた。


「後は、言ってることに間違いが多いんだよな。ラグナの場合」
「なんか間違ってること言ってるか?俺」
「そりゃあ、色々と。スコールなんていつも物言いたげにしてるぞ。直させたいんだろうなぁ」
「え〜、そんな顔してたか?あいつ」


 バッツの言葉に、ラグナは首を傾げる。
加えて、自分は何を言い間違えたのだろうと考えてみるが、ラグナの会話相手はスコールに限らない。
誰かと一緒にいると、ついつい口が動いてしまうラグナだから、人と言葉を交わす機会は多いのだ。
その沢山の心当たりから、バッツの言う“間違い”を探して見るが、日々の雑談の内容なんてものは自然に記憶淘汰されていくものである。
しばらくうんうん唸っていた所で、結局は判然としなかった。

 ラグナが唸っている間に、ジェクトとバッツは次の話題に移っている。


「ジェクトが一番年上で、その次がラグナで。後は大体、ニ十歳くらい」
「それも半分は行かねえな」
「こうして考えると、皆若いよなあ」
「お前だって若いだろ」
「そりゃあジェクトにしてみれば、そうなるんだろうけどさ」


 秩序の戦士は、総勢で十五名程度。
その内、半数以上が十代から二十代前半である。
バッツも年齢順で言えば上から数えられるが、とは言え、すぐ下から既に十代だ。

 ラグナはえーと、と考えながら、秩序の戦士たちの年齢を全員分、指折りしながら数えてみる。


「カインとライトニング、セシルとバッツがニ十歳くらい。ルーネスくんが大体十四歳。ジタンが十六だっけ?」
「そう言ってた」
「ユウナちゃんは十七になったっ言ってたな。でっかくなったもんだ」


 ユウナとジェクトの間柄は、どうやら彼女が幼年の頃に会っていた、と言う既知のものであるらしい。
ユウナも、ジェクトを“父の友人”として慕っている。
ジェクトにしてみれば、親戚の子供に随分と久しぶりに会えた、と言う感覚があるのかも知れない。


「後は───フリオニールはよく覚えてないってさ。でも二十歳から上はいってないんじゃないか?」
「リーダーは自分のことは何も覚えていないらしいから、判らないんだろうな。でも見た限り、カインやライトと同じ位じゃないか?十代って感じじゃないし」
「貫禄があるもんなぁ。誰かさんたちより、全然」


 バッツがくつくつと笑いながら言うものだから、ジェクトがじろりと睨んで見せる。
形ばかりのその表情に、存外と肝の据わっている旅人は、気にした様子も見せなかった。


「あと残ってるのは、ヴァンとスコールとティファか。ティファは自分の世界で店の切り盛りしてたらしいから、それが出来るくらいの歳ってことになるのかな」
「ティファの所の世界って、店を持つのに何歳くらいからって決まったりしてるのか?」
「さぁな。けど、ちょっと聞いた限りじゃ、俺やラグナの世界と似た感覚があるようだし、飯屋の切り盛りなんて一人でやってたんなら、まあ、二十はあるんじゃねえか」


 世界によっては、十も数えない子供が店を開いていることもある。
しかし、ラグナやジェクトの感覚では、子供とされる年齢の者が出来るのは、精々店番かアルバイトだ。
ティファはそう言う立場ではなかったようだから、彼女の世界で店を預かるに問題のない年齢、と言うことになるだろうか。


「ヴァンは───」
「ありゃ見たまんま、まだガキだろ」
「元気だもんなー、ヴァンくんは」


 何処かマイペースに日々を過ごしているヴァンである。
それでいて仲間たちとのコミュニケーションには柔軟な所もあって、あれは頭が柔らかい、とジェクトは思う。
何より、ルーネスを相手に兄貴ぶっている様子だったり、彼を連れてジタンやバッツと言った賑やかし好きに混じっていたり、なんとも自由である。
その様子は、まだ縛られる柵を持たない、自由な少年、と言った風だった。

 それを踏まえてのジェクトの意見に、ラグナもバッツも同感した。
ジェクトは胸中で、二十歳越えに見えない奴らもいるもんだが、と目の前にいる二人を眺めながら思うが、それはそれだ。
ラグナは体幹が青二才のそれとは異なるし、バッツは飄々と暢気にしているように見えて、急に空気が変わる時がある。
当人が意識しているのかはジェクトには判らないが、あれはそれなりの人生経験があってのものだと、確信していた。

 そして、話題は最後に残った一人へと移る。


「スコール。スコールなぁ。幾つなんだろうな、あいつ」
「おれと同じくらいじゃないか?」
「二十歳?」
「カインやセシルもあれくらい落ち着いてるだろ」
「自分が落ち着いてないことは承知してるんだな」
「おれも落ち着いてるって」


 笑い混じりのジェクトの言葉に、バッツもまた笑いながら返す。
その傍らで、ラグナは二人の会話に首を傾げていた。


「うーん、そうかな。俺はあいつ、結構子供なんじゃないかと思うんだけど」


 顎に手を当て、視線を上向きにしながら、ラグナは話題の人物を頭に浮かべてみる。
冴えた蒼灰色の瞳が此方をきつと睨んでくる様子が、ありありと浮かんだ。

 ラグナの言葉に、ジェクトが「いやいや」と苦笑する。


「確かに若いんだろうが、お前さんより落ち着いているだろ、あいつは。地図見ながら迷子になる事もないし、歩いてる間にケツのポケットから小銭落とす事もないし」
「わっかんねぇぞ〜。俺たちが知らないだけで、結構そう言うことしてるかも知れないだろ。ほら、あいつ、よく一人でどっか行っちまうし、その時に何してるかは判らない訳だから」
「いや、ないない。ありゃあ、そう言うことが起きないように、念入りに確認してから行動する性格だぞ」


 ジェクトに可能性をきっぱりと否定されて、ラグナは拗ねた形に唇を尖らせて見せる。
だが、内心の所で言うと、ジェクトの言うことは尤もで、スコールは何事にも入念な確認を怠らなかった。
探索するならこの範囲から、拠点と出来るポイントの位置、遠出をするなら荷の確認を何度も重ねる。
人と一緒にいてもそうなのだから、一人で行動するなら尚更、ミスをしないように細心を配るだろう。

 物事に対する準備や注意力、また普段の態度と言う点で言えば、スコールは非常に大人びている。
それはラグナも否定しない。
しかし、とラグナは思うのだ。


「スコールってよ、喋って見ると、案外幼いんだよ」
「そうか?……ま、俺はあいつとはあまり会話もしねえからなぁ」


 ラグナの言葉に、ジェクトは首を傾げつつも、否定材料が少ないことから口を噤む。
代わりに、そっちはどうだ、とバッツへと意見を求める視線が向いた。

 バッツは腕を組んで考え込む仕草をして、


「ラグナの言ってることは、判らないでもない気がするな。スコールってしっかりしてるし、戦闘中も落ち着いてる感じはあるんだけど、時々、なんて言うか───隙みたいなのがあるんだよ」
「隙、ねえ」
「其処のところをこう、ちょっと突いてやると、素っぽい顔が見れるんだ。そう言う時って、怒ったり拗ねたり、ムキになったりする感じがあって」
「そりゃお前があいつを怒らせるようなことするからだろ?断りもなく飛びついたりしてよ。神経質な奴にやりゃ怒られるもんだろ」


 ジェクトが何度目か呆れたように言えば、バッツはへらりと笑って見せる。
それから、話をバッツは話を戻した。


「で、えーと、スコールが何歳に見えるかだよな」
「そうそう。そう言う話だった」


 バッツは、もう一度考え込む仕草を見せた。

 先に彼をセシルやカイン───二十代の若者、自分と同じくらいではないかと考えたバッツだったが、ラグナの言葉を受けて、改めて件の人物を頭に浮かべる。

 文字通り一匹狼に単独行動をしている事が多いスコールだが、軍属ではなくとも、傭兵と言う自負故だろうか。
秩序の聖域の周辺で異変や気掛かりがあれば、ウォーリア・オブ・ライトを筆頭に、ライトニングやカインと言った面々に報告をすることは欠かさなかった。
これは共有、報告が必要な事案である、と判断した場合、彼は火急速やかにそれを実行する。

 その傍ら、どうも彼は、ウォーリア・オブ・ライトを苦手としているらしい。
これはバッツが、何かにつけて彼に構っている内に気付いたことだ。
何某かを報告する時でも、一瞬、ほんの僅かに、苦虫を噛んだ表情を浮かべる時がある。
折々に食らうウォーリアからの苦言───正確に言えば、単独行動をしているスコールをウォーリアが気にかけての提言なのであろうが───を厭っての反応であることを、バッツは数回の観察を重ねた末に悟った。

 そう言った感情の零れのようなものが、スコールには時々見られるのだ。
スコールは、感情を隠す手段は心得ているが、かと言って自身の内心までを誤魔化すことは上手くない。
これはスコールと交流が多い、彼を見ている時間が長い者だけが気付いていることだろう。

 それを踏まえて、バッツは改めて答えを出した。


「うん。確かに、ラグナの言う通りかもな。思ってるより、大人じゃないかも知れない」
「だろ?」


 仲間からの同意を得たことで、ラグナはやはりそうなのだと、より確信した。
そんな二人の遣り取りを見て、ジェクトはやや腑に落ちない表情をしながらも、


「そんじゃあ、フリオニールあたりと同じくらいか?ヴァンよりは落ち着いてるし」
「うーん。俺はヴァンくんと同じくらいだと思うなあ。なんとなくだけど」


 ラグナも、明確な根拠がある訳ではなかったから、言っていることは印象とイメージでしかない。
ただ、数多くはない件の人物と向き合っている時、冴えた眼差しの中に時折映り込む、揺れるような不安定な色が忘れられない。
それは一瞬の後にはいつもの不機嫌な視線に置き換えられて、はて幻でも見たのかと思うのだが、何度となくそれを覗いている内に、あれは彼の内側に押し込められているものなのだと思った。

 ラグナは酒を傾けながら、やっぱり皆若いんだな、と思った。
それと同時に、若いと一言で言っても、その雰囲気は様々だ。


「同じくらいの歳でも、全然雰囲気が違うのはなんでだろうなぁ」


 そう呟いたラグナの視線は、向かい合って飲んでいるバッツへと向いている。
バッツはその視線に気付いてか、にかりと笑って見せてから、


「皆、それぞれ違う世界で、違う生き方してるもんな。どういう所で生まれて、どういう風に育ったかってだけでも、全然違う人間になるもんだよ」


 バッツの言葉に、確かにな、とジェクトが頷く。
そのジェクトの脳裏には、同じ年齢を数えながら、それぞれ全く違う環境で育った少年少女が浮かんでいた。

 そんな傍らで、ラグナはふぅむと顎に指を当て、


「いつ生まれたかって言うのも、影響したりするのかねぇ」
「いつ───って、春とか夏とか?」


 ラグナの呟きに、バッツが尋ねれば、頷きが返った。


「何月の何日に生まれたとかってさ、大人になると大した差じゃないけど、子供の内って結構大事だろ。一ヵ月違うだけで、全然体の大きさが違うとか、いつ喋ったとか歩いたとか」
「そんなに違いが出るのは、赤ん坊の頃の話だろ」
「そうだけどさ。でも結構気にする奴いないか?同い年だけど、何月に生まれたから自分の方が上だ〜ってみたいな」
「あー……うーん、まあ、いるっちゃいるがなぁ」


 月齢と言うのは、確かに幼い内は大きな差を生む。
赤ん坊の内は、それは目に見える成長の変化として現れることもあった。
そしてもう少し歳を重ね、自意識が強くなって行くと、自分が回りと比べて上だ下だと言うことを気にし始める。
その時、生まれた日付も比較に並べ、ほんの一日早いだけでも、自分の方が年上だ、と言いたがる子供は確かにいる。

 だが、それもまた見て判る幼さのうちの話だ。
少なくとも、この闘争の世界に召喚された戦士たちは、最年少のルーネスも含め、そんな時分は終えている。
敢えて言うなら、ルーネスが最年少であることから、年下扱いされることを免れない点は否めないが、本人も自分がそう言う立場であることは理解し、悔しいながらも受け止めている節はある。
それ位の理解と節度を有している若者に、今更月齢の話など、大した意味もない。

 ないのだが、此処は酒の席である。
転がる話にもまた大した意味はなく、そう言う話が出たのなら、と取り留めなく乗るのも興のひとつであった。


「ラグナの世界じゃ、生まれた日って言うのは、そんなにはっきり記録されるものなのか」


 バッツの言葉に、ラグナとジェクトは顔を合わせる。


「まあ、環境って言うか、家にもよるとは思うけど、大事な子供が生まれた日のことだからなあ。その子が生まれた日に、誕生日のお祝いをするって所は、珍しくないと思うぜ。年に一度の特別な日だから」
「俺んとこも───似たようなもんだな。風習って程じゃないが、習慣と言うか、イベント事にしてる所は多い筈だ。大体、子供が生まれたその日を狙ってな。お前さんの所は違うのか?」


 ジェクトがそろそろ空になりつつあるボトルから、最後の一滴までグラスに注ぐ。
これで終わりの一杯になると言う名残惜しさから、ちびりちびりと飲るジェクトの問いに、バッツはうーんと腕を組みながら、朧な記憶感覚を探る。


「なんて言うか、そもそも、何月何日なんて正確に判らなかった気がするんだよな。暑い寒いで季節はなんとなく判るけど、冬が終わって暖かくなったら春だ。春の花が咲き始めてるのを見付けたら、それで一年が経った、って言う感じ」
「あー、成程。一年が何日あるとか、一月(ひとつき)が大体三十日だとか、そう言う風に決まってないんだ」
「王様だとか教会の司祭だとかは、いついつに何の祭事をやって……って言うのがあったから、何かしら決まりはあったんじゃないかとは思うけど。あとは商人でもなけりゃ、そう言うことを気にする必要がなかった気がするな」
「気にする奴は気にするけど、職業柄ってやつか。じゃ、一般的な感覚じゃなかったのかもな」


 納得したとラグナの反応に、バッツは恐らくその通りだと頷いた。

 モーグリショップには様々な世界をルーツとする品物が並ぶが、其処にカレンダーや、日付も刻めるデジタル時計も売られている事がある。
それを見た時、これは何の数字を指しているのかと、モーグリに訊ねている面々もいるのだ。
一年を約365日、一日を24時間と定める───それを常識と扱っていない世界は、存在する。


「春生まれとか、夏生まれとか。そう言う感覚くらいはあったと思うよ。だけど、地域によっても季節ってズレるからなぁ。春になったら一個歳を足す、ってくらいざっくりしてる所もあるだろうし」
「お前さんがそうなら、何人かは同じ感覚の奴がいそうだな」


 この闘争の世界と繋がっていると思しき異世界は、種々様々である。
だが、文明レベルの差を基準にすると、ある程度は感覚の幅が重なる点もあった。
ラグナとジェクトが誕生日の話題で共通項に頷き合えるように、バッツと似た文明レベルの世界ならば、彼の感覚に同調する者がいるだろう。

 バッツは空になったグラスを置いて、まだアルコールの心地良い余韻が残る中、ラグナに訊ねてみた。


「ラグナはさ、いつ生まれたんだ?やっぱり春とか夏?」
「なんでその季節になるんだ?」
「なんとなく」


 バッツのチョイスの感覚に首を傾げつつ、ラグナはどちらも違うと言って、


「俺は1月だな」
「1月って一年の始まりだろ。じゃあ春か」
「いや。あ、そっか、其処から違うんだっけか」


 一年の始まりは春───バッツは確かにそう言った。
そんなバッツの感覚からすれば、彼の言う通り、1月は春と言うことになる。
まずその感覚の齟齬から始めなければ、話の前提が微妙に擦れ違った状態だ。


「えーと。なんかまあ、色々歴史みたいなもんがあって、俺の世界の一年の始まりは冬なんだよ。冬のど真ん中くらい?」
「俺の所もそうだな」
「ふぅん。変わってるんだな」


 バッツにしてみれば、奇妙なことだ。
彼にとって、一年とは春───命が芽吹く季節がスタートなのだから。
ラグナもジェクトも、旧く旧くはそう言う時代もあったような、と言う知識は朧気に浮かんだが、今回その話は脇に退けておくことにした。


「俺は1月3日。一年が始まってすぐに誕生日が来るんだ」
「へえ、そりゃめでたいじゃねえか」
「やっぱり一年の始まりに生まれたら、そういう感じになるのか?」
「なんとなくな。別に、特別なことでもなかったけどさ。覚え易いってのと、なんとなく特別感があるなあってくらい」


 ラグナも自分の世界のことについて、覚えている事は少ないが、感覚的な所を掘り起こすのは然程困らなかった。
ラグナにとって、自分が生まれた日と言うのは、その日程が特徴的なこともあり、よくよく記憶に留められ易かった。
年明けに直ぐ訪れるその日を、年明けの祝いの流れの中から、一緒くたに祝われる。
賑やかしいことは好きだったし、一緒に楽しく騒げる人がいるのも嬉しかった。
そう言う感覚を、ラグナは曖昧な記憶の中から取り出すことが出来る。


「子供の頃なら、お祝いにケーキとか、ちょっと豪華なもん食べて。大人になったら、酒も堂々と飲めて。友達とかから、プレゼントとか貰ったりしてさ。俺はそんな感じだったけど、ジェクトはどうだ?」


 話を振られて、ジェクトは眉根を寄せつつ、


「俺かぁ?……別に大した事ぁ───まあ、してなくもないか。一応、俺は有名人って奴だったから、それなりに派手なことした時もあったかな。……もっと小さいモンも、してやりゃ良かったかも知れねえが、あー……いや、その話はいいか……」


 ジェクトの声は、後半は完全に独り言の呟きだった。
ラグナとバッツはちらと目を合わせ、酔ってるんだろうなあ、と推察する。

 頬杖をついて沈黙してしまったジェクトを、敢えて気付かない振りをして、バッツが改めて言った。


「それで、えーと。皆の誕生日だっけ。誰がいつ生まれて、誰の方が年上かっていう」
「そうそう。生まれた日付が判ったら、同じ歳でも、ちょっと上下がつく気がするだろ?」


 無論、その上下は優劣ではないが、生まれた日から数えた日数の違いと言う意味では、差が出るだろう。
とは言え、バッツのように日付感覚が曖昧な者も少なくはない。
だから正確なそれを聞きだせる者は恐らく数が限られるのだろうが、酒の席とあって、バッツの興味は十分乗ったらしかった。


「じゃあ、ちょっと皆に聞いて回ってみようかな。自分がいつ生まれなのか覚えてるかって話」
「聞いてどうするんだよ、そんなこと」
「どうもしないけどさ。でもちょっと面白いかもって。ラグナが冬に生まれたってみたいに、意外な人がいるかも知れないし」
「俺が意外って言われてもなぁ。まー、でも、冬っぽいとか夏っぽいとか、そう言う雰囲気の奴はいるよな」


 其処に明確な定義や計算式などありはしないが、なんとなく、本当になんとなくで、そう言ったイメージは作られる。
言わば先入観と言っても違いない。
それが覆された時の衝撃と言うのは、脳に驚きと刺激を齎してくれる。

 バッツは空になったグラスとボトルをまとめて持って、片付けの為に腰を上げる。


「別に、厭なことを聞こうって訳じゃないし。判らない人がいたって別に可笑しなことでもないし。もし答えたくない奴がいたら、変な事聞いてごめんってお詫びしてお終いにするよ。じゃ、そろそろお開きにしよう」


 今日の酒宴の主役である酒は、すっかり飲み干した。
ジェクトもラグナも、バッツの解散の提案に、グラスの底に残っていた水面をぐいと胃に流し込んだ。





 秩序の戦士たちの、誕生日がいつかと言う話は、その後もバッツの頭にしっかりと残っていたらしい。
あれからバッツは、人の手隙を見付けると、「ちょっと聞いてみたいんだけど」と各人の誕生日について聞いて回っていた。
その際、妙にパーソナルなことを聞いて来るバッツに怪訝な顔をする者も若干名いたので、経緯の説明でラグナとジェクトを交えた酒の席の遣り取りについて、話す事もあった。

 その話の切っ掛けとなったのが、ラグナの“誕生日の違いによる月齢差”の言及であった為か、バッツは幾人かに聞いて回った後は、ラグナに報告にやって来る。
今日はヴァンとルーネスとフリオニールに聞いて来て、秩序の戦士たちの拠点となる屋敷のダイニングにてラグナを捕まえた。


「ルーネスは全然覚えてないってさ。記憶が曖昧だからって言うのもあるけど、生まれた日のことなんて気にしてないって」
「じゃあ、誕生日を祝うって習慣自体がなかったって事か」
「ルーネスはそうかもな。ヴァンは、偉い人が生まれた日を祝うのは知ってるみたいだったけど、自分のことは別にって感じだった」
「ま、お偉いさんはでっかいイベントやることもあるからなぁ」
「でも季節が廻れば、身近な人からお祝いみたいなものを貰ったことはあるし、自分も誰かに何かあげたことはあるかも、って。でも自分の誕生日の日付とかは出て来ないってさ」


 バッツからの報告の殆どは、こうしたものが精々だ。
だが、異世界それぞれの有様が違うことを思えば、無理からんことである。

 まず、ラグナやジェクトのように一年の日数が定められているか否か、そこから今日と言う日の日付を正確に知る手段があるか。
それが世界的に共通されるものとして認識・運用されているか。
生まれた日付を正確に把握し、それを記録する、公的機関かそれの役目を担うシステムが整えられているか。
そして、誕生日と言う感覚、習慣が一般的に根付いているかどうか。

 意外と条件が整わないものなんだな、とラグナはバッツからの話を聞く度に思う。
加えて、この世界に召喚された者の大半が持つ、自己に関する記憶の靄により、知っているかも知れないけれど今は判らない、と言うメンバーもいるのだろう。


「それで、フリオニールなんだけど。何月とかは判らないけど、多分夏かなって言ってたよ」
「あ〜、うんうん。なんかそんな感じがするな。熱い所あるもんな」


 ラグナから見て、フリオニールと言う青年は、人の好い好青年と言った印象が強い。
そして仲間想いで、敵に対して負けまいとする強い意志を持ち、義に厚い。
戦闘時の雄々しさは、ぎらつく夏の熱気にも似ていた。
そういった印象を踏まえると、フリオニールが夏生まれと言うのは、イメージにぴったりであった。


「夏って言うと、ラグナの感覚で言ったら、何月だ?」
「うーん……真夏ってことなら、7月とか8月とか。一年で一番暑いのはその辺りかな」


 地域にもよるだろうけど、と付け加えつつ、ラグナは言った。
バッツは此処まで聞きまわった仲間たちの回答を、頭の中で整理しつつ、


「結構聞いて回ったけど、日付まで出て来るのはティファくらいだったな。あと他に聞いてないのは───あ」


 バッツの視線が、リビングダイニングの戸口へ向いて止まる。
つられる形でラグナが其方を見ると、一人の青年───スコールが入ってきた所だった。

 スコールは少し疲れた様子で、室内の先客がいることを見付けると、傷の走る眉間にくっきりと皺を浮かべる。
機嫌の悪そうな表情は、彼と言う人物にはいつものことだ。
気にせずバッツがひらひらと手を振ったが、スコールは常の同じく応じることもなく、無言ですたすたと歩いていく。

 スコールはダイニングの奥にあるキッチンへと入って行った。
平時から単独行動の多い彼は、今日も恐らく、一人で秩序の聖域周辺の哨戒でもしていたのだろう。
服に少し煤けた気配と火薬のにおいがあったから、何処かでイミテーションか魔物とかち合ったのかも知れない。
だとすれば、疲労の気配がするのも、戦闘によるものと思われるが、血の匂いはしないので負傷はないのだろう。

 その姿がキッチンに消えるまでを見送って、バッツはがたりと立ち上がった。


「スコールにはまだ聞いてなかったな。ちょっと行ってくる」


 フットワークの軽いことで、バッツは言い終えない内にキッチンへ駆けていった。
ラグナは着席したまま、さて答えてくれるものだろうか、と気難しい所のある青年の反応を予想する。

 キッチンからは明朗な声と、分かり易く鈍い反応の声が聞こえる。


「なあ、スコール。スコールって自分の誕生日って判るか?」
「……突然なんだ」
「今、皆に生まれた日について聞いて回っててさ。特別意味がある訳じゃないんだけど、この間、ちょっと酒の席でそう言う話になって」
「……それで、そんなものを聞いてどうするんだ」
「どうもしないよ。ああ、でも、誰かの誕生日が近くなったら、お祝いするのも良いかもな。ラグナとジェクトはそう言う習慣があるみたいなんだ」
「……」
「ってことで、スコールの誕生日っていつだ?」


 ごくごく簡素な経緯の説明の後、改めてバッツは尋ねてみるが、案の定と言うのか、スコールの反応は鈍そうだ。
ダイニングにいるラグナからスコールの表情は伺えないが、問いかけに対して返事をしている様子がない。
こう言う時、スコールは大抵、沈黙の唇の中で何かを渦巻かせているのである。

 ともすれば不機嫌か、地雷を踏んだかと思う様子なのだが、バッツは気にした様子なく続ける。


「おれがそうなんだけどさ、一年が何日あって、何月が何日分あってって言うのは、あんまり感覚がない奴が多いみたいなんだ。自分が生まれたのがいついつでーって言うのも、はっきりしないし。この世界だと、自分のことをはっきり思い出せない奴もいるから、それもあるんだと思うけど」
「……」
「ラグナは覚えてるんだ。1月3日だってさ。あと、他にちゃんと覚えてるのは、ティファと……ライトニングかな。あ、ジェクトに聞くのを忘れてた。今度聞いてみよう」
「……」


 キッチンから聞こえてくる声は、殆どバッツの一人語りだ。
スコールが聞いているのかすらも、ラグナには伺い知れない。


「ジタンにも今度聞いて置かなきゃな」
「……で?そんなデータを集めて何になるんだ」


 秩序の戦士の全員に聞いて回るつもりのバッツに、スコールは呆れるように問う。
これもまた、バッツはけろりとした声で返した。


「同じくらいの年齢の奴でも、生まれた月日がズレてれば、年上年下が判るかなって」
「判ってどうする」
「うーん。先に生まれた方がちょっと年上ぶれる?」
「……」
「まあそんなもんさ、言っただろ、話の種だよ」


 元々、酔っ払いの酒の席の雑談なのだ。
発端がそんなものだから、バッツがこうして聞き回っている事にも意味はない。
バッツ自身が、ちょっと皆に聞いてみよう、と言う好奇心を満たす為にやっている事に過ぎないだろう。

 しばしの沈黙の後、スコールがキッチンから出て来た。
その後をすぐにバッツが追って来る。


「なあ、スコールの誕生日っていつだ?」


 スコールは鬱陶しそうに後をついて来る青年を一瞥するが、バッツは気にした様子もない。
よくスコールを追いかけては、文字通りに飛びつき、睨まれても全く堪えないバッツである。
根気良く付きまとうこそがスコールの気を引くコツ、とでも知っているかのようだった。

 そしてスコールの方も、自分がどれだけ無視した所で、バッツが諦めないことは、これまでの経験から予想が出来たのだろう。
スコールは分かり易い溜息を吐いた後、


「……確か、8月だ」
「日付は?」
「覚えていない」


 それを思い出す為に考えるのも面倒くさい、とスコールの表情が物語っている。

 これで質問には答えたから良いだろう、と蒼の瞳は言ったが、バッツの好奇心はまだ終わっていなかった。


「スコールの世界ってさ、一年が何日あるとか決まってるのか?」
「……ああ。そうだな、大体は」
「1月って春?それとも冬?」
「……冬だろ」


 何を当たり前のことを聞くんだ、と言う胸中がスコールの表情に浮かんでいる。
しかし、バッツはそれに頷きつつも、


「そんな感覚のが何人かいるんだよな。おれの感覚だと、一年の最初は春なんだけどさ」
「……そう言う所も、あるにはある。年度初めは大体春だ」
「年度?って、一年と違うのか?」
「………」


 バッツの問いに、スコールの眉間にくっきりと皺が浮かぶ。
説明するのが面倒くさい、とありありと胸中を吐露した表情は、バッツも察した。


「スコールの世界は色々あるんだな」
「……そうらしいな。もう良いか」
「ああ、うん。ありがとな!」


 好奇心と雑談に付き合わせた礼を言ったバッツに、スコールはほうと小さく息を吐いた。
やっと解放される───そんな表情で、スコールは心持ち早足で、リビングダイニングを出て行った。

 残ったバッツが、テーブルに就いて二人の様子を見守っていたラグナの下へと戻って来る。
バッツは自分の席へと戻ると、「8月かぁ」と呟いて、指折り算数を始めた。


「えーと、8月ってことは、季節は───」
「夏だろな。1月が冬って言ってたし、俺とスコールの世界って似てる所があるみたいだし。多分、季節感覚も同じなんじゃないか?」


 以前から、ラグナとスコールの世界には、幾つかの共通項が確認できていた。
機械技術や通信技術に関する知識の程度、スコールの武器であるガンブレード、魔法と言う力の特殊性と、魔女の存在。
特にガンブレードと魔女については、他に重なる者がいない為、ラグナとスコールは同じ世界から召喚されたのではないか、と考える者もいる。
が、よくよく話して確認を取ってみると、どうにも微妙に感覚の齟齬があって、両者の世界が全く同じと言う訳でもない───と言う結論に行き付いた。

 しかし、共通点が多いのもまた事実であり、文明レベルもほぼ同等と見え、日常における常識的知識や慣習はよくよく似通っている。
スコールが言った“年度初め”と言う単語も、ラグナは聞かずとも意味を理解できた。
一年と言う時間を通して扱われる制度運用も、近しい部分があるのだろう。
これでスコールの住む世界の季節順が春夏秋冬ではない、と言うイレギュラーでもなければ、彼の言った“8月”は概ね夏になる筈だ。

 バッツは今度は「夏かぁ」と呟いて、


「ってことは、フリオニールと近いんだな。ちょっと意外だ。スコールとフリオニールって、似てるけど逆だし」
「似てるかねぇ。うーん、まあ、似てないこともないのかな」


 バッツの呟きに、ラグナは首を傾げつつも否定はしなかった。
頭の中に浮かぶ、愛用の武器を黙々と磨いている二人の青年の背中は、様相は全く違うものの、似ていると言えば似ているかも知れない。

 後は誰に聞いてなかったかな、と指折りに記憶を数えるバッツは、このまま秩序の戦士全員の誕生日を網羅するまで気が済まないようだ。
其処まで確かめてみた所で、それを元に何をする訳でもない。
ないが、バッツが先にスコールに言ったように、判明したメンバーだけでも、誕生日を祝ってみるのも良いかも知れない。
判らなかった面々については、祝いが欲しいと言う者がいれば、この場限りのこととして見繕って見るのも悪くない。
仲間を歓ばせることについて、多くの仲間は歓迎的だ。


(……ま、スコールはそうでもなさそうだけど)


 つい今し方、顰めた顔で部屋を出て行った青年を思い出し、ラグナは眉尻を下げてこっそりと苦笑を浮かべるのだった。