花あわいの形
スコール誕生日記念(2025)


 この闘争の世界で、正確な時間を刻むアイテムは、限られるものの存在する。

 主には時計で、秩序の戦士たちが拠点として日々を暮らしている屋敷のリビングには、大きな置時計がある。
それがいつから此処にあるのか、いつを始まりとして時を刻んでいたのかは杳として知れないが、事実として、これのお陰で戦士たちは一日24時間の区切りの中で過ごすことが出来る。
それがなくとも、日が昇れば朝、沈めば夜と考えることは出来るし、旅の野宿となれば有無なくそうなるのだが、しかし、やはり正確な時間の区切りがあるとないとでは生活の質も変わるものであった。

 時計は、秩序の戦士たちの各人の部屋にも、幾つか据えられている。
それはモーグリショップで売られているものを、デザインなどの好みに応じて、各自が購入したものが殆どだ。
稀にいつの間にか部屋の中にあった、と言うものもあるが、一日=24時間、一時間=60分、一分=60秒と言う刻みは統一されていた。

 それから、誰かがショップで見付けて来たのか、或いは何処からともなく現れて屋敷の備品として定着したのか。
リビングの壁には月捲りのカレンダーなるものが吊られており、その存在に気付いた頃から、それは活用されるようになった。

 まず戦士たちがその存在に気付いた時点で、カレンダーは中途半端な月を掲示していた。
一年の始まりと言えば1月だが、どうやら月毎に破って捲るタイプのそれは、既に数枚が使用済みになっていたのだ。
ないページは元には戻せないので、秩序の戦士たちは、掲示されたその月の一日目から日数を当てて使うことにした。
以降、秩序の戦士たちの生活には、このカレンダーを当てにした日付様式も適用されるようになった。

 暦と言うものが明確に確認できるようになったので、遠出に行く際の予定を立てる時や、遠征組がいついつ出立したのか、と言った計算がやり易くなった。
ティファなどは、食糧の買い出しの予定であったり、荷物の運搬に手を借りたいとかで人手を求める際、何日に手を貸して欲しいんだけど、と頼むこともある。
要請された方も、何日からは予定が入っているが、それ以外なら、と計算して応じることが出来る。
些細な事で、なくとも日々の生活に問題はなかったが、あればやはり利便を挙げる代物だった。

 暦が確認できたとなれば、今が何月であると確認できるので、本来ならばこの移り代わりと共に、季節も移ろうものである。
しかし、神々の闘争の舞台となっているこの世界は、何処も不安定な気候を孕んでいる。
常に雨が降りしきるメルモンド湿原や、雪深く覆われたエルフ雪原でさえ、その天候には大小なりのぶれがあり、雨煙や豪吹雪に見舞われることがある。
他の安定的な地域や、女神の加護に守られた聖域の近辺でさえ、熱砂のような暑さの翌日に雪が積もる、なんてことがある。
毎日の気温や雲の動き方さえ不安定なので、凡そ今は何の季節、なんてことも計り難い。

 その為、カレンダーは専ら月日を数えるものとしてのみ、使われている。

 ───のだが、それはあくまで用途上の話だ。
カレンダーを眺めるものが、何月何日と言う日付を見て、故郷の習慣を思い出し、「この時期なら、こういう気候で、こういう行事があった」と言う話をすることもある。
それを発端に、じゃあ似たようなことをやってみよう、と言う流れもよくよく生まれた。
煩型とも言える面々は、呑気なことをと溜息を漏らすが、戦場にいるからと言って、気を張り詰めさせ続けるのは疲れるものだ。
明らかに危うい兆候がある時でもないのなら、一月(ひとつき)三十前後日の幾つかを、余暇のように使っても罰は当たらない。

 そんな風に過ごしながら、何枚目かのカレンダーが捲られて行き、暦表は8月を迎えた。
それを見たバッツが、夏生まれのフリオニールと、8月生まれだと言ったスコールのことを思い出し、


「誕生日を皆でお祝いするって言うやつ、やってみたいんだ。どうかな?」


 ───と、フリオニールとスコールを除いた秩序の戦士たちの前で提案した。

 今朝、バッツは一人で哨戒に向かおうとしているスコールを捕まえた。
見回りに行くのなら、後で単独行動がバレた時に面倒になるだろうから、誰か連れて行った方が良い、と。
其処に朝の日課の鍛錬をしていたフリオニールがいたので、此方も首尾よく捕まえて、同行者として奨めた。
フリオニールが相手なら、スコールも嫌がる点は少ない。
フリオニールの方も、スコールが一人で見回りに行こうとしていたと言えば、自分で良ければ同行すると快く言ってくれた。
こうしてバッツの計画通り、話題の当人たちは秩序の聖域を出発し、残った面々を集めての提案発表が行われたのである。

 当事者を除くほぼ全員が集められたリビングダイニングで、秩序の戦士たちはそれぞれ顔を見合わせる。
まずライトニングが眉根を寄せていたが、その隣に座っているユウナが、きらきらと目を輝かせているのを見て口を噤む。


「誰かのお誕生日が近いんですか?」
「うん。フリオニールとスコールのな。大体これくらいの時期ってくらいだけど」


 ユウナの問いにバッツが頷けば、嬉しいことだとユウナは笑った。
それに続いて、ジタンがにんまりと口角を挙げて、


「良いんじゃねえの。最近、楽しいことも少ないしな。息抜きがてら、嬉しい事は盛大に祝おうぜ」


 賑やかしごとが好きなジタンだ。
この場にいる何人かが「そんな事をしている暇があるのか」と言う表情を浮かべているのは見えているが、故にこそ、ジタンははっきりと賛成の手を挙げた。
何も悪い企みをしようとしている訳でもないのだし、賛成者が多ければ、冷たい一瞥も減らせる。
皆がその気になっているのなら、と言う理由で乗ってくれる者もいる筈だ。

 とは言え、やはり釘は差しておかねばと思ったのだろう。
壁際に寄り掛かっていたカインが、和気藹々とし始めたテーブルに向かって言った。


「やる気の者が多いなら、止めはしないが。浮かれた隙を作る真似は感心はしない」
「……同感だ」


 カインの言葉に、同意をしたのはライトニングだ。
隣に座っているユウナの視線は理解しているものの、このままただ楽しいことに興じる訳にはいかない、と言う冷静な意見は真っ当である。

 バッツもそれは理解していた。


「うん、だから絶対全員でやろうってことは思ってないんだ。やりたい奴でやれば良いし、やりたくない奴はそれで良いし。実際、見回りやイミテーション退治はしなきゃいけないしな」
「余裕のある人、やろうと思ってる人で出来れば良いのよね」


 ティファの言葉に、「そうそう」とバッツは頷いた。
それに並ぶ形で、セシルが親友のいる方を振り返って言う。


「心配なら、僕とカインで皆の分の見回りを引き受けよう。皆が気兼ねなく準備に時間をかけられるよう、僕らで穴を埋めれば良い。それならお前も文句はないだろ?」
「……そもそも文句がある訳じゃない。羽目を外し過ぎるなと言っている」
「判ってるよ。リーダーもライトも、そう言う事なら良いだろう?」


 セシルの視線が、ライトニングと、テーブルの一番端の席に座っているウォーリア・オブ・ライトへと向けられる。
ライトニングは溜息を吐くのみであったが、それ以上のことは述べなかった。
そしてこうした会議めいた場面では、最終的に議長として決定権を委ねられているウォーリアも、


「仲間の為を思っての催しだろう。確かに、ライトやカインの意見も尤もではあるが、各自で役割を分担することで、万が一の危険性を減らすことは出来る」
「そうだね……それじゃあ、見回りの順番や日取りを少し調整した方が良いのかな」


 リーダー役のウォーリアが反対しないと言う姿勢を取ったからか、ルーネスが半ば諦めたような表情で言った。
彼もまた、宴のような催しには余り良い顔をしない所があるが、多数決で決まったことに、けちをつけるつもりもない。
やるのなら、慎重派の面々が言うように、日々の生活に穴が空かないように勤めるつもりだ。

 各々に思う所、気掛かりがある者も少なくはないが、流れはバッツの提案の通りに向かっている。
ラグナはそれを眺めながら、良い雰囲気だなあ、と思った。


(誕生日だもんな。こんな世界で、一個年取るくらい時間が過ぎてるってのもナンだけど、嬉しいこと祝ってくれる仲間がいるってのは、やっぱり良いことだ)


 うんうん、とラグナはこの明るい雰囲気に染まるように満足感を感じていた。
ラグナもまた、この話題の中心である不在の二人に向けて、何か出来ることはないかと考えてみる。

 と、ラグナと同じく、仲間たちの遣り取りを眺めていたヴァンが口を開いた。


「お祝いするのは俺も良いと思うけどさ。フリオはともかく、スコールってそう言うの嫌がりそうじゃないか?」


 それは場に水を打つには十分な指摘であった。
それまで和気藹々としていた一同が、改めてそれぞれの顔を見合わせる。


「それは……そうね。皆で集まってパーティを開くって言うのを、喜ぶタイプじゃなさそうだし」
「どっちかって言うと、やめろって言いそうだろ」


 ティファの言葉に、ヴァンがもう一つ重ねて言えば、誰もがその様子を容易に想像することが出来た。
ラグナの脳裏にも、顔を顰めてむっつりと口を紡いで睨む蒼が、ありありと思い浮かぶ。

 でも、と言ったのはユウナだった。


「スコールは、自分の誕生日を覚えてるんですよね」
「何月に生まれたかは覚えてたよ」
「そうですよね。それなのに今月、フリオニールだけの誕生日をするのって、一人だけ、その……ずるい感じになりませんか?」


 夏生まれのフリオニールと、8月生まれのスコール。
時期が近いと思しき二人のうち、片方だけを祝うと言うのは、確かに不平等である。

 とは言え───と腕組みに話題の人物を頭に思い浮かべて呟いたのは、ジェクトであった。


「他の誰かが祝われてるからって、自分も祝ってくれって言うようなタイプにゃあ、見えねえよなぁ」
「そうかなぁ……」
「ユウナちゃんが気にしてるのも解るけどな。ま、特別なことだからって注目されるのが面倒だって言う奴はいるもんだ」


 何処か寂しそうに眉尻を下げるユウナに、ジェクトも苦笑いをしながら宥めるように言った。
それを見て、此処まで仲間たちの話し合いを眺めているだけだったラグナも、堪らず言った。


「いや、でもさ。誕生日だろ?お祝いだろ?パーッと楽しいことするのは良い事なんだから、フリオニールのもスコールのも、しっかり祝ってやって良いと思うぜ。俺ならすっげぇ嬉しいし」
「お前さんはそうだろうけどなぁ」
「フリオニールの方もさ、時期が近いっぽいのに、自分だけ祝って貰ったって知ったら、気まずくなったりするかも」
「結構人に気を遣う奴なのは、確かだな」
「スコールもひょっとしたらスネるかも知れないぞ」
「いや、そいつは……」


 言い募るラグナに、ジェクトだけでなく、数名の仲間も困ったように眉をハの字にしている。
フリオニールが存外と気遣い屋であることも、スコールがこの手の話に顔を顰める性格であることも、誰もが知っているのだ。
ラグナの意見には半分は賛成できても、半分は曖昧に苦笑するしかなかった。

 一連の会話を見つめていたウォーリア・オブ・ライトが、ふぅむ、と熟考する仕草をする。
そして、


「───こうしたことは、当人がそれを望むか否かが重要だ。フリオニールとスコールに、自分の誕生日の祝いをしても良いかどうか、聞いてみよう」


 そう言い終えると、ウォーリアは早速席から腰を上げる。
会議中の時間稼ぎにと哨戒に行かせた二人の下へ、今から向かわんとばかりのウォーリアに、慌ててジタンがストップをかける。


「待った待った、リーダー!こう言うのはサプライズが大事なんだ」
「さぷらいず、とは」
「内緒にしといて、準備もこっそりやる。当日に驚きと一緒に喜びを届けるのが良いんだ」


 ジタンの言葉に、ウォーリアは不思議そうに首を傾げている。
しかし、「そう言うもんなんだ」と念入りに押すことで、「成程」と了承してくれた。

 ウォーリアは席へと腰を落ち着け直し、改めて議題について考える。


「当人たちに確かめることが憚られるのであれば、我々で決めなければならないと言うことだが……」
「一先ず、多数決を取ってみる?お祝いを開くことに気が進まない人もいるとは思うけど、それはちょっと置いておいて、スコールにお祝いをしても良さそうかどうか。彼がこういうことを受け入れてくれるか、と言う所になるかな」


 現状として、決定打がないようなので、ルーネスが参考にと票決を提案する。
普段の会議でも、意見が割れれば、双方の話を聞いた上で、多数決が取られることは少なくない。

 ウォーリアの頷きを貰ったルーネスが音頭を取り、まずはスコールの誕生日を祝うことについて。
そして、それを踏まえた上で、フリオニールの祝いについてはどうするか。
賛否を分ける手が挙げられるのを、ルーネスは一人ずつ数えて頭に記憶した。





 リビングダイニングから、一人また一人と退室し、ラグナもその流れに乗る形で部屋を出た。
気分がなんとなくしょぼりとした感覚があるのは、先の会議の結果から来る、個人的な感傷だ。

 結局、誕生日を祝うパーティについては、フリオニールにのみ行うことになった。
良い事だと思うのにな───とラグナは思うのだが、平時から見るスコールの性格上、眉間の皺を深くするのは想像が出来る。
彼は他人の目に必要以上に就くことを嫌う節があった。
フリオニールと並びで、と言う形にするとしても、催しの輪の中心に据えられるのはスコールが嫌がるだろう、と考える者の意見が共通した事に因る。

 フリオニールの祝いについても、パーティと言う程に大々的なことはしない方向になった。
夕食を豪華にし、特別なデザートを添えて、と言う所は変わらないものの、例えば歌を歌うとか、余興をすると言う案は控えられた。
フリオニールは賑やかなことを嫌う質ではないが、彼も慎ましやかな性格をしている。
祝いたい、と手を挙げている面々も、やりたい事が何処までこの世界で準備が整うか判らないのもある。
何度もやって通例となっていることがあるならともかく、初めての計画であるから、祝いの当事者が恐縮しないものにした方が良いだろう、と言う意見があった。

 この結論に、ラグナの不服がある訳ではない。
ただ、少しだけ、寂しいな、と思ってしまったのだ。
自分自身が賑やかな雰囲気が好きなのもあるし、議題に挙がった人物の片方だけ、と言う不平等さが一抹に引っかかっている。

 かと言って、フリオニールの祝いもなしにしてしまうと言うのは、それも更に寂しいし、祝いたいと意欲的になっている仲間たちの心を挫くのも本意ではない。
今回の事を切っ掛けに、他の仲間たちの祝いを計画することだって出来るようになるし、逆にスコールのように当人が望まないのであれば、拒否権も発動できる。

 今後も含め、妥協点だと言えば、それらしい結果に落ち着いたと言えるだろう。

 そう思いつつも、ラグナはぽりぽりと頭を掻いて、思う。


(……二人とも祝ってやりたかったなあ。折角の誕生日なんだし)


 それが明確に何月何日と日取りが判っている訳ではなく、そもそも、今が本当に8月なのかも判らない。
偶然に手に入れたカレンダーを使って、日付の確認の傍ら、月捲りのページが其処に至った。
それと、酒の席で沸いた話題から出て来たことが、偶々に重なっただけだ。

 それでも、誕生日とは命が生まれた日なのだから、それは嬉しい日であった筈だ。
スコールにしろフリオニールにしろ───他の仲間たちにしろ───どんな環境で、どんな親から生まれて来たのかは判らない。
ひょっとしたら、ラグナが知りようのない、悲惨や悲嘆もあったのかも知れない。
けれど、その始まりがどんな形であったとしても、その日に生まれた命が、今日と言う日まで続いて来たのは、何よりも喜ばしいことだった。
その日と言うものがなければ、ラグナは今日の彼ら彼女らに出会うこともなかったのだから。


「……って言っても、それも俺の気持ちかぁ。フリオもスコールも、どう思うかは本人次第だよなぁ」


 諦めきれない自分を宥める目的もあって、ラグナはそう独り言ちた。

 そうして顔を上げたラグナの視界に、二人の仲間の背中が映り込む。
廊下の突き当りにある階段を前に立ち止まっているのは、バッツとジタンだった。
バッツは少し身を屈め、ジタンの耳元で何やらこそこそと話しかけている。
ジタンの金色の尻尾がゆっくりと揺れた後、彼はにんまりとした顔でバッツを見上げた。
それを見たバッツもまた、にっかりと歯を見せて笑っている。

 ラグナは、階段を上って行く二人の背中に駆け寄った。


「おーい」


 賑やかしごとが好きなジタンとバッツの組み合わせだ。
フリオニールの誕生日祝いの計画もあるし、楽しそうな案があるなら、ラグナも乗ってみたかった。

 声をかけたラグナに、ジタンとバッツが振り返る。


「お、ラグナか」
「なんか内緒話してたみたいだけど。フリオの誕生日のことか?」
「それもあるけど、今話してたのは、もう一個の方だな」


 そう言ったバッツは、いつもの快活とした表情だった。

 “もう一個の方”───つまりはフリオニールではない方の誕生日の件、と言うことだが、其方は多数決でやらないことが決まった筈だ。
首を傾げるラグナに、ジタンが口角を上げてバッツを指差す。


「こいつ、諦めてないんだよ。スコールの誕生祝の件」
「え」


 ジタンの言葉に、ラグナはぱちりと目を丸くする。
隣に佇む青年を見れば、バッツは先にジタンにしてみせたように笑った。


「諦めてないって───でも、やらないってことになっただろ?」
「ああ。皆でお祝いするって言うのは、やらないな」
「でも、祝い自体をしなくて良いって話はしてないだろ?」


 ジタンとバッツの言葉に、ラグナの目が虚を突かれた気持ちで瞬きを繰り返す。

 先の会議で、バッツは“皆で誕生日のお祝いをする”と言う提案をした。
これについて、フリオニールを対象としては快く賛成されたが、スコールは本人の性格を鑑みて見送りとなった。
しかし、あくまで却下したのは“皆でお祝いをする”と言う所だ。


「本音を言うと、スコールにも皆でわいわいパーティみたいなことをしてやりたかったんだけど。確かに、スコールは嫌がりそうだし。でも、おれとジタンで何かプレゼントを用意して、渡す位は良いと思うんだ」


 バッツの言葉に、おお、とラグナの目は輝いた。
確かに、スコールの誕生日祝いを誰もやってはいけない、と言う話はしていない。
あくまで、彼が注目を受けることを厭うだろう、と考えた末の祝宴の見送りである。

 続けてジタンが言った。


「フリオニールの祝いは皆でやるだろ。スコールもその場にはいるだろうし───皆が準備するのに、スコールはカインたちと一緒に見回り行って貰ったりもするだろうから、当番の都合は調整するし、話は伝えておいた方が良いしな」
「お祝いするフリオニールには内緒だけど、そのフリオの件をスコールにまで内緒にする事はないからさ」
「まあ……確かにそうだなぁ。逆の話になってるなら、フリオにはスコールのお祝いするのに協力して貰うかも知れないし」
「皆でやるってなるとな。やっぱ一通りのメンバーには話はしておかないと。───で、その陰でこっそり、スコールのお祝いも準備してやろうぜって、バッツは狙ってんの」


 そう言ってバッツを見上げるジタンは、此方もまた、悪戯を計画する子供のように楽しそうだった。
バッツはそんなジタンと目を合わせつつ、


「確かに今月がスコールの誕生日らしいけど、それを聞いた時も、興味がなさそうだったから、あんまりスコールは気にしてないとは思うんだ。フリオのお祝いをすることは、反対はしないけど、暢気だなって顔しそうだし」
「カインやライトと似た感じのことは言いそうだよな」
「でも、それはそれ、ってことで。大勢で祝うのは辞めたけど、おれはそれでも、スコールの誕生日を祝ってやりたい。大事な仲間が生まれてくれた日なんだからさ」


 スコールが誕生日を祝われることを喜びそうには見えない、と言うヴァンを始めとした仲間たちの意見も、バッツは理解している。
そう言ったスコールの気質を皆が理解しているからこそ、彼を大々的に祝う事については待ったが掛かった。
ちゃんとスコールと言う人物を見ているからこその遣り取りだ。

 その結果を受け止めた上で、バッツは自分の気持ちも殺さない。
フリオニールの事も、スコールの事も、目出度いことなのだから、その喜びは伝えてやりたかった。
これは自分の勝手であると、バッツ自身が理解した上で、スコールの誕生日を祝う準備をしたいと言う。


「そんで、オレにも手伝ってくれって言われてたトコ」
「ジタンなら一緒にやってくれると思ったんだよ。スコールのこと、大好きだもんな」
「お前ほどじゃねえよ」


 ジタンがバッツの横腹を肘でぐりぐりと圧すと、バッツもお返しにやや低い位置にあるジタンの頭をわしゃわしゃと掻き撫ぜる。
二人は一頻りそんなじゃれ合いを続けた後、ジタンが乱れた髪を手櫛で直しながら言った。


「オレたちで勝手にやる事だから、皆には内緒にしといてくれよ。やらなきゃ、って雰囲気を作っちまうのも良くないしな」
「ああ、うん。まあそうだな。楽しいことだし、良いことだけど、義務みたいにするもんじゃないし」


 ジタンの言うことは尤もだ。
スコールの誕生日祝いを見送りにしたのも、祝う側にも祝われる側にも、強制的な空気が作られるのは良くない、と言った意見があったことは含まれている。

 そして付け加えに、バッツが言った。


「それに、若しかしたら、フリオニールだけ祝われて、自分は何も言われなかったって、スコールが拗ねちゃうかも知れないだろ?結構寂しがり屋なんだから」
「オレはジェクトと一緒で、そんな訳あるかって言うタイプだと思うけどなー」
「いやいや、あれで案外───」


 其処からバッツが何を言おうとしたのか、スコールをどう見ているのかと言う話は、其処で途切れた。
お帰り、と言う声が玄関の方から重ねて聞こえる。
其方を見遣れば、哨戒に言っていたスコールとフリオニールが戻ってきた所だった。

 件の中心人物が帰ってきたとあれば、秘密の計画をこんな廊下で喋っている訳にはいかない。
バッツとジタンは顔を見合わせ、階段の上を指差した。
どちらかの部屋に行って、其処で話そう、と言うことだ。


「じゃ、そう言う訳だからさ。この話、秘密にしといてくれな」
「ああ。大丈夫、俺の口は堅いから!」
「ホントに頼むぜ」


 片手を挙げて階段を上がっていたバッツを、ジタンがラグナに念押ししながら追っていく。
ラグナもひらひらと右手を振ってそれを見送った。

 階段下に残ったラグナが改めて振り返ってみると、スコールとフリオニールがそれぞれ仲間に周囲の様子について報告している。
その顔には煤けた後があり、戦闘があったことが伺えたが、傷を負っている様子はない。
気遣う仲間たちに返事をしながら、滲む汗をぬぐう二人───その片割れに目が行ってしまうのは、ラグナの癖のようなものだった。

 少し疲れた様子で、スコールは早々に仲間たちの輪から抜け出す。
部屋に戻るつもりで、二階へ続く階段へ向かうスコールの足は、その階段前に立っているラグナの方へと近付いていた。
程なく、スコールは其処に立ち尽くす人物がいることに気付き、俯き加減だった蒼灰色がラグナを映す。


「……」
「よ───よう!」


 一瞬足が引き攣る気配を感じながら、ラグナはいつものように手を挙げて挨拶した。
スコールは微かに眉間の皺を深くしたが、それ以上は沈黙したまま、ラグナの隣を通り過ぎる。

 なんとなく、ラグナの足はそれを追う。


「見回り行ってたんだろ?外、どうだった?」
「別に。特に変わったことは起きていない」
「そっか。じゃあ良かったな。お前は、怪我とかは?」
「問題ない」


 ラグナの問いに返ってくる声は、常と変わらず硬質だ。
しかし、尋ねれば返事はしてくれるので、律儀だなあと思う。

 一歩先を行く背中を眺めながら、ラグナはバッツとジタンとのやり取りを思い出していた。