形なくとも咲く花と
レオン誕生日記念(2024)


 遠い記憶のあの日、闇に飲み込まれた故郷は、驚くほどに姿形はそのままに残っていた。
鍵の勇者の活躍によって掃われた闇の中、水没していた街並みが、大きく壊れる事もなく残っていたのは、幸運だったのかも知れない。
それでも、長い年月を経たことで、経年劣化は勿論、人が住まない家屋と言うのは、使っている時よりも早い速度で朽ちていく。
結局の所は、形ばかりが昔のまま残っていても、昔と同じように使える訳ではないのだ。

 そもそも、この世界は闇に覆われ、以降は闇の力を扱う無法者たちに占拠されていた。
この街の象徴とも言えた大きな城には、無数のハートレスが蔓延り、それらは人のいない街にも闊歩していたに違いない。
大いなる闇こそ払われた後でも、それらは相変わらず我が物顔であちこちをうろついていて、先ずはこれらを排除しなくては、街の住人が戻って来れる訳もない。

 レオン達は、キーブレードの勇者たちが次の目的へと旅立つのを見届けた後、故郷の復興の為に生活を始めた。
幸い、城の中は幾らか安全と言えるエリアが確保されており、先ずは書庫で寝泊まりする日々。
生活に必要な物資は、シドがグミシップを使ってトラヴァーズタウンから持ち込んでいたものがあったので、それを大事に使った。
食料や水は、主食類は当分そうやって外から持ち込む他なかったが、城の中を探索とハートレス退治に明け暮れている内に、発見した厨房に隣接した畑があった。
エアリスの魔法の力も利用して、出来るだけ早くに収穫が望めるように工面し、ラディッシュ類を始めとして、現状最低限と言える程度の自給自足も望めそうだ。
とは言え、畑仕事に終始していられるのはエアリスくらいで、これも気を抜けばハートレスが餌にしようと現れる為、畑の番も中々気を抜けない。

 レオンとユフィは、城の探索と調査、そしてハートレス退治が仕事だ。
何処に行っても現れるハートレスは、倒した所でまた何処かから湧いて来ると言うのは、落ち延びていた常夜の街と同じだった。
この城を牙城としていた魔女がキーブレードの勇者によって討ち倒されれば、闇と一緒にこれらも一掃されるのではと思っていたが、どうやら事はそう単純ではないらしい。
その仔細を恐らくは綴っているのではないかと思われる、勇者が折々に手に入れては渡してくれたレポートは、今の所は全く手を付けられる段階になかった。
レオンは、時間を作ってはシドと手分けして、書庫の本を総ざらいしているが、本の数も数なので、中々目当ての文献は見付けられそうにない。

 何もかもが遅々としている、とレオンは思っていた。
しかし、焦ってもどうにもならない事もまた、嫌と言う程判っていた。

 故郷を失ったあの日、何もできない自分の無力に打ちひしがれて、二度とあんな事を繰り返さないように、自戒として名を変えた。
常夜の街で細々とした生活を送りながら、戦う為、護る為の力を身に着けようと奮闘し、それでも闇の根源を払う力は持ち得ない故に、ただそれが現れるのを待つしかなかった日々。
まんじりともしない月日を過ごしたあの頃に比べれば、今は牛歩であろうと進んでいるように思えた。
それが焦れる心の慰めや言い訳ではないとは言わないが、少なくとも、故郷に戻ってくることは出来たのだ。
だから次にするべきは、どうやってこの街を、在りし日の姿に戻すかと言う、その具体的な手段を練ること。
これもまた途方もない目標ではあったが、するべきだと、やらねばならないと、レオンはそう思っている。

 城で過ごすレオンの一日のスケジュールは、概ねこうだ。
朝は太陽が昇り始めた頃に起きて、軽い食事の用意をし、片付けについてはエアリスやシドに任せて、城内の散策とパトロール。
午後も同じようにパトロールをすることが多いが、エアリスに頼まれて、畑仕事の手伝いをする日もあった。
夕暮れの頃になると、城内のハートレスの気配が凶暴さを増してくる為、無理はしない事に決め、書庫など安全な場所で文献の整理をする。
エアリスが「無理しないようにね」と添えてくれる温かな飲み物に口をつけながら本を読んでいれば、時計の針は頂上を越えていた。
寝室は男女で分けており、レオンはシドの豪快な鼾を聞きながら、一日の疲労感に任せて泥に沈むように眠る。
ほぼ毎日が、こう言ったサイクルで回っていた。

 レオン以外のメンバーも、それ程変わったことはない。
エアリスは畑仕事を主にして、手漉きの時にパトロールに加わり、ユフィは逆にほぼ一日を城の探索に行き、畑仕事は気分転換のようなものだった。
シドは主に書庫で使えそうな文献を探すことに終始しているが、城の中の各所に設けられた機械類の調査・整備も仕事にしている。
それぞれが自分が得意に出来る事を引き受けて、今出来ることを、ひとつひとつ重ねていく。
今はそう言うフェーズなのだと、皆が理解していた。

 そこにもう一人、イレギュラーと言えばイレギュラーな人物も加わった。
嘗て同じようにこの故郷から離れ、常夜の街で共に過ごした日々もあった中、いつの間にかふらりと行方を晦ましていたクラウドだ。
身に纏わせた空気感に違和感はあれども、それを問い詰める程の理由も此方にはなく、何よりエアリスが彼の帰還をすんなりと受け入れている。
ならば周りも同じことだと、ついでに、人手不足な所を埋めて貰う人材として、遠慮なく活躍してもらう事にした。

 こうして、ホロウバスティオンでは現在、五人の住人が共に生活を送っている。




 エアリスが番をしている畑は、まだまだ土は痩せているが、それでも逞しく育ってくれる野菜があるのは有難い。
野菜は栄養の面で必要不可欠であることは勿論、見た目の彩としても活躍してくれる。
お陰で食卓がまた少し華やかになって、日々のささやかな楽しみが増えたことを、ユフィは随分と喜んでいた。

 城の中は少しずつ安全なエリアが増えている。
と言うのも、レオンとユフィが城内をくまなく調査している内に、地下施設とも言える広大なエリアを発見するに至ったのだが、此処に膨大なデータと機能を備えた巨大コンピューターが鎮座していたのだ。
街を治める賢者が嘗て住んでいた城に、こんなものがあった等と、街の住民であったレオン達も全く知らなかった。
其処には、心の闇に関する研究データの他、恐らくは城内のセキュリティの為に構築されたのであろう、機械プログラムが幾つも収容されていた。
と言う事は、このデータや機械を上手く活用することが出来れば、機械によるハートレスへの襲撃対策が立てられるのではないか、と思いついたのだ。

 それからシドは当分の間、寝ずの仕事でプログラムと格闘していた。
その甲斐は、今の所、試運転をする所まで漕ぎ着けている。

 夕方、レオンはエアリスから、「シドにご飯持って行って」と弁当代わりのタッパーに入った今日の夕飯を渡された。
可愛らしい巾着袋に入れられたそれを片手に、レオンは整備されたエレベーターに乗る。
無重力に似た浮遊感と共に筐体の下降が始まって数分、到着したのは薄暗い地下の道だ。


(此処も暗すぎるのが問題だな。魔法で灯すことは出来るが……)


 レオンは火魔法を唱えて、掌に留めたそれを明かりにした。
ゆらゆらと揺れる灯火を頼りに、迷路のごとく入り組んでいる道を、壁にユフィが目印にと残した落書きを見付けて辿って行く。


(安定した明かりの方が良いだろうな。となると、魔力より電気か。あれだけ大きなコンピューターがあるのだから、何処かに電気で動く機械類の制御機能もありそうだが……セキュリティが上手く動くようになったら、そっちの調査もしてみるか)


 今現在、一番に活用方法が目に見えている事もあり、シドにはセキュリティシステムの構築に力を注いで貰っている。
発見した巨大コンピューターもその為に占領して貰っている為、他の詳しい調査は後回しにしていた。

 賢者が研究の為に使っていたコンピューターならば、其処には膨大な研究資料も眠っているだろう。
それこそ、書庫の本には記されていない、賢者だけが知っている成果の記録もあるかも知れない。
機密とも言えるだろうそれが簡単に閲覧できるとは思わないが、あるかないかを調べることは必須だろう。
やはり、この城の成り立ちや構造も含め、賢者の行っていた研究の委細と言うのは、確かめなくてはならないのだ。

 そう考えて、ふう、とレオンはひとつ息を吐いた。


(幾らもやる事があって、手が足りないな。パトロールはクラウドに任せることも出来るし、俺もしばらく此方に集中するか?)


 機械のことはシドが専門だ。
シドはそう自負しているし、レオンもそれを信じて任せているが、かと言って彼一人に機械類の全てを押し付ける訳にもいかない。
コンピューターのプログラムについては門外漢が半端に触れる訳にもいかないが、保存されたデータの中身を確認する程度なら、レオンにも出来る筈だ。


(……まあ、何にしても、先ずはセキュリティシステムか。あれが上手く使えるようになれば、探索も楽になる。街にも安全なエリアが作れるかも知れない)


 何を優先すれば、この街を復興するのに有力な一手になるか、レオンは常に考えていた。
一度は闇に飲み込まれ、長らく底に沈んでいた故郷を、以前のように、それ以上に良い街にすること。
それが故郷に戻ってきたレオンと、共に過ごした仲間たちが、何より目指している目標なのだ。
闇雲に焦らず、一歩一歩が大事だ、とレオンは自分に言い聞かせた。

 薄暗い通路を通り抜けた先に、頑丈そうな質の良い扉が一枚。
それを開けると、円形の部屋がある。
其処には、上質そうなカーペットが床を覆い、壁を囲むように書架が並び、仕立ての良いデスクと椅子が備えられている。
デスクの上には、既にインクも乾いた開けっ放しのインク壺と、立てたままの羽ペン、走り書きで綴られた紙面が数枚。
その紙面については気になる所も多かったが、書き手にしか判らないような断片的な単語しか書かれておらず、一先ずこれについて調べるのは後回しとなった。
そして、壁の一角には、若い男性の横顔の肖像画がある。


「………」


 その肖像画を見る度、レオンは違和感を感じているのだが、それもまた、今は詳しく考える時間はなかった。

 侵入防止の為だろう、隠し戸としてカモフラージュされている扉を開けて、更に奥へと向かう。
一本の道筋に連なる蛍光灯を頼りに進めば、視界が開けると同時に、壁一面を機械のランプが埋め尽くす空間があった。
大小のモニターが連なり、計器と操作盤が並んでいる其処に、金髪にゴーグルを嵌めた壮年の男───シドがいる。

 シドは今日も眉間に深い皺を作って、太い指で操作盤のキーボードを叩いていた。


「シド」
「────お?なんだ、お前か」


 名を呼ぶ声に、シドが顔を上げて此方を見る。
目の下の隈が昨日よりも濃くなっているのを見付けて、レオンは眉尻を下げつつ、持っていた巾着袋を差し出した。


「夕飯だ。今日はエアリスが作った」
「なんだ、もうそんな時間か。さっき朝飯食ったような気がしてたんだが」
「十二時間も前の話だろう。昼はどうしたんだ?」
「食わなかったんじゃねえか。覚えもないしな」


 他人事のように言って、シドはレオンの手から弁当を受け取った。


「踏ん張ってくれるのは助かるが、あまり根を詰めすぎるなよ。あんたに倒れられたら、誰もこの機械に触れない」
「お前がいるだろ」
「プログラムは俺の触れるレベルじゃない」


 袋から取り出したタッパーを開けたシドは、早速それを食べ始めた。
刻みキャベツとハムとチーズを挟んだサンドイッチに、甘辛のソースを絡めた肉団子、他にも炒め野菜がディップを添えて入っている。

 シドはサンドイッチひとつを三口で食べて、肉団子に爪楊枝を刺した。


「此処に籠ってると、朝も昼も夜も変わんねえからな。疲れりゃ寝て、起きたら機械つついての繰り返しだ。時計もあるけど、あんまり見てねえしな」
「……エアリス達が心配する。確かにセキュリティシステムの構築は早い方が良いが、偶には上にも顔を出してくれ」
「へいへい。ま、確かに俺もそろそろ、柔らけえ布団で寝たいしな。椅子で寝るのも飽きたし」


 言いながらシドは、目の前にあるコンソールをぽちぽちと触っている。
操作盤の上にあるモニターには、レオンにはよく判らない言語が連なるウィンドウが開かれていた。


「セキュリティはもう直、完成だな。テスト中のデータを見る限り、上手いこと機能してくれてるようだ」
「それは良かった。となると、先ずは本機能を何処で稼働させるかか……」
「城の中のマップは概ね入力したが、街の方はまだスカスカだ。そもそも城の電力とネットワークに依存してるから、当分は城の中のみだな。色々必要なモンを作って設置して、じわじわ広げていくしかない」
「ふむ……じゃあ、マップデータが必要になる訳だな。城の中の安全が確保されたら、俺とユフィで街の方に出てみるか。どの道、皆が戻ってくる場所を作る必要があるし、早い内に街を詳しく調べる時間は欲しかったんだ」


 今現在、レオンたちが城の中で生活をしているのは、長らく放逐された状態だった街よりも、城内の方が比較的安全と見做したからだ。
セキュリティも本格稼働し、此処にハートレスが寄り付かなくなれば、より城内は快適になるだろう。
其処に、この街の住民がやって来て寝泊まりすることも、可能にはなる筈だ。

 しかし、いつまでも城だけに拠点を留めている訳にはいかない。
街を昔のような光景に戻したいと言うのなら、昔のように、人々が街で日々を営んでいけるようにしなくては。
その為には、未だ城の外に蔓延っているハートレスは当然の問題で、レオンとユフィ、そしてクラウドが加わったとて、たった三人でそれらを駆逐するのは物理的に無茶と言うものであった。
寝ずのパトロールの役割を、機械が引き受けてくれるのなら、この問題も随分と前進させることが出来るだろう。
その為の労力を、レオンは厭うつもりはなかった。

 だが、とレオンはつい先ほど、考えていたことを思い出す。


「街の調査と、マッピングデータは必要だから必ず行うとして……このコンピューターの中身についても、調査はしなくては。何が入っているのか、未だに判っている所も殆どないしな」
「まあな。セキュリティプログラムが初っ端に見つかったのはラッキーだったが、後は───ハートレスの生態データくらいか。心の研究とか、肝心な所は全くだ。プログラム作りのついでに見れる所は見てみたが、大体は閲覧防止のロックがかかってるし」
「と言う事は、必要なのはパスワードの類か?」
「ああ。あんまり下手に触ると、何か暴発する可能性もあるだろうから、もうちょい慎重に調べていくつもりだ。後は……ま、誰が見ても問題ないようなモンくらいか。研究とは何も関係なさそうな」


 そう言ってシドがキーボードを叩き、エンターキーを押すと、モニターに新たなウィンドウが展開した。
画像や動画のサムネイルと思しきファイルが並び、ひとつを適当に選んで決定すると、動画ファイルが再生される。
街並みの様子を高い場所から撮影したもので、何か祭りでも催した時のものなのか、遠くに花火の音のようなものが聞こえていた。

 時折ズームイン・アウトをしながら、遠くの大通りを歩く人々の様子が映し出されている。
それを見詰めて、レオンの両目は静かに細められていた。


(これは────いつのものだろう)


 通りには沢山の人々が行き交い、出店に吸い込まれていく人もいる。
道々は色とりどりの花で飾られ、赤青黄の風船がぷかぷかと浮かんでいるのが見えた。
遠目にも判る、穏やかで楽しそうな人々が歩いている風景は、レオンの時間経過と共にぼんやりとしつつあった、故郷の景色とよく似ている。


(祭り、なんてあったかな。何の祭りだったんだろう。あまり覚えていないから、俺自身は興味がなかったのか、知らない内にやってたのか……)


 判然としない記憶に、もどかしいものはあったが、レオンはそれを口にはしなかった。
ただ、こうして嘗ての街の景色を見た事で、自分が目指しているものがより明瞭な形で思い描けるようになった気がする。

 シドはいつの間にか夕飯のサンドイッチをすっかり平らげていた。
空になったタッパーを受け取って、レオンがそれを巾着に戻している間に、シドはまたコンピューターと向き合っている。


「見ての通り、なんの意味もないものも入ってるからな。でも無関係とも限らねえ。これを一から全部確認していくとなると、かなりの作業になるぞ」
「ああ。でも、やらない訳にはいかないだろう。アンセムレポートの調査も進めないといけないしな」


 件のレポートは、あの賢者が残したものだ。
同じ人物が、同じ研究に使ったものが収められている可能性があるのなら、ひっくり返してでもコンピューターの中身は改めねばならない。
やる事は幾つもある、と言うレオンに、シドはがしがしと頭を掻いて、


「まあ、なんだ。お前もあんまり肩に力入れすぎるなよ」
「判っている」
「だったら良いんだけどな。晩飯ご馳走さん、美味かったって言っといてくれ」
「ああ」


 カタカタとキーボードを打つ音を聞きながら、レオンはコンピュータールームを後にした。

 ────レオンが立ち去り、再び一人になったシドは、プログラムの最終確認の作業に入っていた。
缶詰作業は決して好きではないが、このシステムは早い内に完成させる方が良い。
そう判断して、骨組みからテスト稼働まで一気に作業を行ったが、テスト中に細かなエラーが残っているのが気になっていた。
クリティカルな問題にはなっていないものの、今後、これをベースに可動範囲を広げていくなら、後に響くような問題が併発してしまう前に、綺麗に仕上げてしまいたい。
そうした方が、本格稼働の時にもトラブルを減らせるだろう。

 聊か疲れ目が出ているのを自覚しつつ、この確認だけ、とシドはウィンドウを上から下へとスクロールして行く。
これが終わったら今日は地上に戻って、寝室のベッドでゆっくり休むとしよう。
そして、明日の朝、もう一度の確認をしてから、本格稼働開始だ。


(これであいつらが少しは楽になりゃ良いんだが)


 長らくその手で育てて来た、若い面々の顔を思い浮かべながら、そんなことを考える。
口に出せばどうにもむず痒さを誘うことだが、シドはシドなりに、あの若者たちに愛着を持っているのだ。
荒事は若い者の方が邪魔にはなるまいと、シド自身は滅多に其処に手は出さないが、彼らが人手不足で身を削らざるを得ない事は判っている。
セキュリティシステムの稼働は、その負担を軽くする為のものだから、上手く行ってくれれば万々歳であった。

 スクロールが最後まで辿り着き、ふう、とシドは一息吐いた。
ウィンドウを閉じながら、そう言えば何日を此処で過ごしたのだろうと、今更に考える。
画面の隅にあった時計機能には、古くからの正しいものかは判らないが、日付も表示されていた。
今の所、この街、この世界で正確な時間を刻んでいるのは、このコンピューターの時計だけと言える。

 その時計機能が記している数字を見て、ん、とシドは目を丸くした。