籠ノ鳥 2-2
R-18 / モブ(複数)×スコール


 真面目な授業態度で知られたスコールが、授業中に居眠りをする事が増えた。
休憩時間もぼんやりとしており、友人達の会話の輪にも加わらない。
会話が少ない事は無口なスコールらしい事であったが、話しかけても返事がないのは可笑しかった。
取っつき難いと言われてはいるが、彼は話しかけられれば答えてくれる。
それすらもないとなると、若しかしたら、丸一日、一言も発しないままで過ごす事もあるのではないだろうか。
他にも、体育授業の野球の守備中に、真っ直ぐ自分に向かって落ちて来るボールに気付かず、顔面に直撃を食らって倒れたり、抜き打ちテストを名前すら書かない白紙のままで出したり、今までの彼には到底有り得なかった事が頻発している。

 そんなスコールに気付いたティーダ達が、心配しない訳がない。
何があった、どうした、とティーダ、ヴァン、ジタンの三人は詰め寄ったが、スコールは「何でもない」の一点張りだった。
その癖、日に日に衰弱して行くかのような貌をするのだから、友人達の心配はより一層深くなる。

 スコールの憔悴の様子は、担任教師の目にも届いており、何度かその権限で保健室に行くように促された。
授業に集中出来ないのは確かなので、大人しく保健室で寝かせて貰ったのだが、それがまた一週間の殆どに訪れるものだから、保険教諭から病院に行った方が良いと言われた。
だが、そんな事をされたら、間違いなく兄に連絡が行くだろう。
連絡を貰った兄は、"理想の兄"として弟を病院に連れて行くだろうが、スコールはそれが嫌だった。
兄と顔を合わせるくらいなら、無理をしてでも学校にいたい。
しがみ付けばしがみ付くほど、周りを心配させる事は判っていたが、兄と離れて過ごす事が出来る学校は、スコールにとって最後の砦だったのだ。

 放課後の憂鬱さは、日毎に大きくなって行った。
ティーダ達もスコールを心配し、最近は解散時間が早くなっている。
喫茶店やファミレスで寝たふりをして解散時間を伸ばそうとした事もあったが、殆ど無駄な行為であった。
自分と違い、健やかな家に帰りたいと思っているヴァンやジタンを長々と拘束する事に罪悪感もあったし、ティーダは翌日にはサッカー部の朝練があるから、適当な時間には家に帰って休まなければならない。
家に帰りたくないのはスコールだけなのだ。
日中、学校でも散々迷惑をかけているのに、これ以上自分の我儘に付き合わせる訳には行かない。

 スコールにとって不幸中の幸いは、兄が毎日家に帰って来るとは限らない事だ。
月半ばや月末は忙しいようで、日付が変わるまで帰って来ない日も多い。
忙しければ流石にスコールを相手にする気も沸かないようで、さっさと自室に入って寝てしまう事も少なくなかった。
だが、そんな日でさえ、ふとした気紛れで近付いて来るか判らないので、スコールは彼が眠ったと判るまで、部屋の中で息を潜めて蹲っている。
家にいると、いつ帰るか判らない、帰った後もいつ近付いて来るか判らない彼に怯えなければならない為、スコールは家に帰る事が億劫になって行った。

 そうした理由から、スコールは一人で夜の街を彷徨い歩くようになっていた。
ティーダ達と別れ、特に目的もなく、ネオンの光る商店街を行ったり来たり、適当な店に入っては何も買わずに出て行く。
制服のままで夜の街を歩き回る事には些か抵抗があったが、それも最初の内だけだ。
スコールと同じように、制服のままで夜の街で遊び回っている学生と言うものは、然程珍しくはない。
適当な時間には帰るのか、それとも日付が変わっても遊んでいるのか、それはスコールの知る由ではなかったが、学生服の集団が屯している所を見ると、少し気が楽になった。
思えば、高校生でも夜十時まではアルバイトが出来るのだ。
学校が近くにある為───良いか悪いかは別として───放課後の高校生の憩いの場と化している繁華街なら、夜十時前後に学生服の少年少女がいても不自然ではない。
それを鑑みて考えるに、スコールは制服をかっちりと既定のまま着こなしている。
屯している学生達の多くが、制服を明らかに改造していたり着崩したり、髪型も過剰な程に逆立てたりと言う所を見ると、スコールは"学校帰りのアルバイト終わり"に見えるのかも知れない。

 だが、何度も同じ店に足を運んで時間を潰していると、店員に顔を覚えられる。
万引きのような疾しい事をするつもりはないので、堂々としていれば良いが、冷やかし同然に店を何度も出入りするのは気が引けた。
客に顔を覚えられるのも、スコールには面倒だ。
声をかけられたら、買わなければ逃げられなくなりそうだし、不自然な逃げ方をすれば万引きを疑われて捕まりそうだった。
段々と幾つかの店には近付かなくなり、最後には道の暗がりに座り込んで過ごすようになっていた。

 今日も、長い時間を意味もなく歩く事に費やしながら、居場所がなくなって行く気がする、とスコールは思った。


(……今が冬じゃないのが幸いだな。少し肌寒くなって来たけど、まだ凍える程じゃない)


 気温は日に日に下がっているようだが、制服のインナーを冬仕様に変えたものの、それで十分。
体温が高く、代謝の良いティーダやジタンは、まだ半袖で平気と言う程だ。
ヴァンも未だにブレザーの下は半袖だが、彼の場合は衣替えが面倒なのだろう。
案外寒がりなのだから、さっさと済ませてしまえば良いのに、とスコールはひっそり思っている。

 しかし、このままの生活を続けていれば、数ヶ月後には寒い夜空の下で過ごさなければならなくなる。
家に帰れば済む話だが、それが嫌だから、スコールはこうして彷徨っているのだ。

 歩き疲れたので、適当な店の壁に寄り掛かって膝を折る。
小さな段差があったので、椅子代わりにして足の力を抜いた。
体重を支える役目から解放された足を投げ出し、スコールはスラックスのポケットから携帯電話を取り出した。


(連絡、ない。まだ帰ってないな)


 メールも電話も、着信はない。
スコールはほっと安堵の息を吐いた。

 兄は自分が帰った時、スコールが家にいないと、電話を寄越す。
心配だからではない。
彼がスコールを呼び付ける時は、性欲処理の為だった。

 初めて犯された日から、彼の気紛れと衝動だけに振り回され、両手では足りない程に貫かれた。
性交に使う場所だなどと思ってもいなかった場所は、彼の手管によって開発され、今では少し弄られただけで反応してしまう。
スコールとて大人しくそれを受け入れたつもりはないから、いつも暴れて抵抗するが、一度も勝てた例がなかった。
元々体格も頭の回転も彼の方が格段に上だし、始めに支配者としてスコールに恐怖を植え付けた時点で、レオンの優位は決まっていたのだ。
その上、度重なる性交で徐々に体を作り変えられ、受け入れる場所として出来上がりつつあるスコールの体は、最近では下肢を撫でられるだけで馬鹿になったように反応する。
これでスコールが勝てる訳がない。

 自分の体の変化は、スコールに大きなストレスを与えている。
性交を強制される度、腹の奥底を突き上げられ、欲望を注ぎ込まれる為、胃の中が気持ちが悪くて仕方がない。
注がれたものは、そのままにしていると逆流して来そうで気持ちが悪くなる為、直後に風呂で処理するようにしていたが、自分で秘孔に指を突き入れて掻き出すと言う作業が、また屈辱を煽る。
二重、三重のストレスは、スコールに睡眠不足と食欲不振を招いていた。

 弱れば弱るだけ、抵抗が難しくなる。
だが、レオンは抵抗するスコールを見て愉しんでいる。
いっそ、抵抗も出来ない程に衰弱してしまえば、彼も飽きるのではないだろうか───最近はそんな事も考えるようになった。


(……本当に弱って来てるな……)


 初めて犯された翌日、殺してやる、と言っていた自分は、何処に行ったのだろう。
あの時の憎しみは今も胸の内に渦巻いているけれど、それを行動に移す気にもなれない。
誰にも相談できないまま、逃げ道を塞がれ、服従を強要されて、その通りに蹂躙される日々が続く内に、体だけではなく、心も作り変えられて行く。

 投げ出していた足を引き寄せて、膝を抱えて蹲る。
このまま石にでもなれたら良いのに、と思いながら、涙の滲む目を膝に押し当てた。
水がじわじわと沁みて行くのが判る。

 道の隅で蹲っている少年を見る者はいない。
その姿を見付けた所で、精々家出少年が途方に暮れていると思われる程度だろう。
実際に、スコールの胸中は似たようなものだ。

 十分か、二十分か、スコールはその場に留まり続けていた。
しかし、ひゅう、と一つ冷たい風が吹いて、ふるりと体が寒さに震えたのを期に、顔を上げる。

 歩き出したスコールの足は、家路へと向かっていた。
気が進まなくても、地獄の監獄も同然でも、結局、スコールが"帰る"場所はあの家しかないのだ。
なんとかラグナに一人暮らしを赦して貰う方法はないだろうか、と回らない頭で考えながら歩く。

 繁華街を後にし、いつもの歩き慣れた道を歩く。
ティーダ達と一緒に帰る時とは違い、一人で歩く道はとても静かだった。
ティーダ達と逢う前は、これが普通の事だと思っていたのに、一度賑やかな環境に馴染んでしまった所為か、心休まる筈の静寂が逆に気に障る。
繁華街を離れて行く毎に、人の気配も減って行き、スコールが生活する住宅街に差し掛かる頃には、周囲に歩いている人間はいなくなっていた。

 テナントが入っていない、灯りすら点いていない雑居ビルの前を通りかかった時だった。
酔っ払いでもいるのか、玄関口前で屯していたサラリーマンの集団が、スコールの進行を塞ぐように立ち並ぶ。


「……?」


 邪魔だな、と思いながら、スコールが進む角度を変えて彼らの脇を通り過ぎようとした瞬間、腕を掴まれ、集団の中心へと引き摺られる。


「な────!?」


 何、と言う言葉は、最後まで形にならなかった。
何かで口元を覆われ、扉を押し開けた雑居ビルの中へと連れて行かれる。

 スコールは直ぐに抵抗した。
遮二無二暴れて腕を掴む手を振り払い、口元を覆っていた手に歯を立てる。
暴れるな、と言う声が聞こえたが、スコールは無視した。
腕や肩や服を掴む手を、乱暴に体を捻りながら払い除けて、延びて来る腕の隙間を抜けて走り出す。


「逃げたぞ!」
「捕まえろ!」


 背後からそんな声が聞こえた。
スコールは走る速度を上げる。


(なんだ、今の。誘拐? 冗談じゃない!)


 今のサラリーマンの集団は、明らかにスコールをビルの中に連れ去ろうとしていた。
真っ暗な雑居ビルの中に、人がいる気配はない。
いたとしても、それはきっと彼らの仲間だろう。

 何かの間違いだ、とスコールは思わなかった。
自分の家庭環境を理解しているから、そうした悪漢の類に自分が襲われる可能性がある事は、嫌でも判る。
兄は世間に対して、兄弟の仲の良さをアピールしているから、弟のスコールを使って兄を脅迫しようと言う人間がいる事も、容易に想像が出来た。
彼等がそのつもりでスコールを狙っているのかは判らないが、それらと同類なのは間違いない。

 スコールが住んでいるタワーマンションまでは、まだ距離がある。
全速力で走ろうにも、今のスコールには体力が著しく欠けており、長い距離を走り切る自信がなかった。
彼らがスコールを"スコール"と判っていて襲って来たのであれば、住居であるマンションの前も抑えられているかも知れない。
何処かのコンビニエンスストアに逃げ込んで、ほとぼりが冷めるのを待った方が良いだろう。
しかし、この周辺の大きな道にはコンビニはぽつぽつと点在するのが精々で、一番近いコンビニは、逃げる事に夢中になっている時に通り過ぎてしまっていた。
焦っていたとは言え、最悪のミスだ、とスコールは舌打ちする。

 何処か適当に曲がって、住宅街の中の道を通れば、近くにもう一件あった筈。
しかし、仲間が待ち伏せしているかも知れない。
そう考えると、どうしても二の足を踏んでしまう。


(───迷っていても、どうせ捕まる)


 スコールは意を決して、道を曲がって路地に飛び込んだ。
立ち並ぶ街灯と、住宅の明かりで、それ程道は暗くない。

 突き当りでもう一度曲がろうとしたスコールだったが、不意に後ろから誰かが腕を掴んだ。
ぎくっと体が強張った瞬間、体をレンガ塀に押し付けられ、口を塞がれる。


「んぐ…!」
「しっ!」


 静かに、と人差し指がスコールの眼の前で立てられた。
その手の向こうには、四十代頃の男の貌があった。
服装はスコールを追う者達と同じスーツ。
顔はスコールには見覚えのないもので、ベリーショートの髪には白髪が混っているものの、豊齢線の数の割には眦も鋭く、若々しい印象を与える。


(誰だよ…!? 離せっ)


 眦を吊り上げて睨んだスコールは、口を押える手に噛み付いた。
男は顔を引き攣らせたが、戦慄きながらもスコールを解放するまいと全力でスコールの口を塞ぎにかかる。


「ごめんよ、静かにしてくれ。少しの間だけだから」
「……?」


 弱々しく謝られた上、懇願するように言われて、スコールは目を丸くした。


(……さっきの連中の仲間じゃない…?)


 スコールが暴れるのを止めると、男はほっと安堵の息を漏らした。
しかし、傍らで響いた複数の足音に、ぴくっと眉根を寄せる。


「こっちに」
「……」


 手を引かれて、スコールは一瞬躊躇した。
スコールをビルに連れ込もうとした男達とは違うようだが、突然現れた見知らぬ人間を信用できるほど、スコールも不用心ではない。

 足音が近付いて来ると、男が「早く」とスコールを促した。
止むを得まいと、スコールは男の後ろを追い駆ける。
この男が何処の誰かは判らないが、少なくとも、複数人で自分を追い回している男達に捕まるよりはマシだろう。

 男がスコールを連れて案内したのは、小さなビルやホテルが密集した場所だった。
見慣れぬ景色に警戒を強めたスコールは、案内して貰って悪いと思いつつも、自分の手を引いている男の手を振り払った。
男は困ったように眉尻を下げたが、じっと睨むスコールの胸中を察してか、へらりと笑って、


「大変だったね。変な連中に追われて…」
「………」
「あー……その制服、学生さんだね。大丈夫だったかい?」
「……」


 しどろもどろの男の言葉に、スコールは小さく頷いた。


「いや、ね。たまたま君が必死な顔して走って行くのが見えて、その後、怖い顔した大人達が君を追い駆けて行ってるのが見えて。こりゃ可笑しいぞと思ったんだ。君には反って怖い思いをさせてしまったようだけど。大丈夫かい? 何もされてない?」
「……はい。ありがとうございました」


 スコールの警戒心は未だに尖っていたが、危機的状況から助けて貰ったのは確かだ。
あの時、あのままスコールが道に飛び出していたら、回り込んで来た男達に確実に捕まっていた。
それを阻止してくれたのは、他でもない、このサラリーマンなのだから、感謝の言葉は述べるべきだろう。

 ぺこりと頭を下げたスコールに、男はいやいや、と照れたように手を振った。


「物騒になったものだね、この辺も」
「……」
「あ、その…そうだ、ちょっと向こうを見て来てあげるよ。走り回って疲れただろう。少し休んでいると良い」


 男はスコールに背を向けると、いそいそと狭い隙間を進んで行く。

 どう見ても厄介毎に巻き込まれている学生を助けるなんて、物好きな大人もいるんだな。
そんな事を思いながら、スコールは壁に寄り掛かった。
ずるずると座り込んで、長い足を投げ出す。


(……何を考えているんだ?)


 正義感で助けてくれた、とは正直考えられなかった。
あの男の第一印象だけで言えば、正義云々を口に出してもそれ程違和感はなさそうだが、そんな人間は世の中に稀有である。
集団の男に襲われている学生を、自分の身を省みずに助ける人間がいるとは思えない。

 ───けれど、助けて貰ったのは他でもない事実。
スコールは失礼な思考はさっさと振り払って、男にもう一度感謝を言ったら、直ぐに帰ろう、と決めた。

 埃っぽいビルの隙間で息を殺していたスコールの下に、サラリーマンが戻って来る。


「君を追っていた人達、まだ近くにいたよ」
「……そうですか……」


 早く諦めてくれないものか。
そう思いながら、スコールはポケットの中に入っている携帯電話を握り締める。

 助かりたいのなら、逃げたいのなら、形振り構うな───兄の言葉が脳裏を過ぎる。
彼に連絡すれば、体裁としてでも彼はきっと動いてくれる。
レオン自身がスコールの現状を意に介さなくとも、警察の通報くらいは期待しても良い筈だ。
どれもスコールの希望的憶測だが、多分、きっと……そう考える程に、スコールも現状に辟易していた。

 兄に頼るか、それとも、と考えていたスコールの前に、紙パックの野菜ジュースが差し出された。
何、とスコールが首を傾げると、サラリーマンが眉尻を下げて笑っている。


「あげるよ。飲んだら、少しは落ち着くんじゃないかなと思うんだけど」
「……ありがとうございます。でも、大丈夫です」
「そう言わないで。ほら。これは出先での貰い物なんだけど、おじさん、こういうの飲めなくてね。持って帰っても処分に困るだけなんだよ」


 遠慮しなくて良いから、と言う心遣いなのだろうが、スコールは反って戸惑ってしまう。
走って喉がカラカラになっているのは確かだが、見ず知らずの人に貰ったものを口に入れる気にはならない。

 仕方なく受け取りはしたものの、スコールはストローを出す気にもならなかった。
でも、突き返すのも変な空気になるよな。
そんな事を考えて、後で飲みます、と断って、鞄の中に紙パックを入れる。

 鞄の蓋を開けて、潰せずに入れられるように荷物を整理していた時だった。
右肩に熱いものが押し付けられた瞬間、目の前が真っ白に光って、スコールの意識は一瞬途切れた。

 どさっと地面に倒れた衝撃で、千切れた意識が現実に戻って来る。
ビクビクと不自然な痙攣を起こす体の以上に気付き、何が起きた、と胸中で叫ぶが、答えは見つからない。


「な…に……?」
「おや」


 辛うじて声を漏らしたスコールの耳に、サラリーマンの声が聞こえた。
首だけを動かして後ろを見ると、サラリーマンは手に持ったものと倒れたスコールを交互に見て、小さく笑う。


(あれは……)


 男が握っているものに、スコールは見覚えがあった。
テレビドラマや漫画などのフィクションで見る、スタンガンだ。
片手に持てるハンディータイプで、スイッチを押すと先端の二本の電極の間で、青白い光がバチバチと音を鳴らしながら発現する。


「思ったより丈夫だな」
「く…ぅっ……!」
「まあ良い。気絶されるのもつまらないからな」


 ぶつぶつと独り言を言いながら、男が近付いて来る。
その口元の笑みの形が、行為の最中に自分を見下ろす兄のものと似ている事に気付いて、スコールの顔から血の気が引く。


(やっぱり罠かよ……!)


 明らかに荒事に巻き込まれている高校生を、何の理由もなく助ける訳がない。
尽きない違和感の結末が、目の前の光景だ。
スコールは自分の迂闊さに腹が立った。

 劈くような鋭い痛みが、スコールの肩から腕、胸にかけて響き渡っていた。
恐らく、スタンガンによる痛みだろう。
まともに声が上げられない程の痛みに、スコールは蹲って耐えるしか出来ない。
あのまま気絶しなかったのが不思議な位の痛みだった。
しかし、意識が残っているからと言って、事態は何も好転してはくれない。

 サラリーマンはスコールの痛む肩を掴まえると、身を守るように縮こまろうとする体に構わず、力任せに引っ張って壁に叩きつけた。
背中を強かに打ったスコールの呼吸が止まる。
げほ、げほ、と咳き込むスコールを気にする事なく、男は力を失った少年の体を荷物のように肩に担ぎ上げた。


「さわ、る、な……」


 威嚇しようと声を荒げようとして、出来なかった。
スタンガンは、ほんの一瞬触れただけだと言うのに、その痛みと衝撃で一瞬スコールの意識を飛ばす程の威力を持っている。
それ程の強い電流を流された体が、容易く回復する筈もなく、声を荒げる事さえも痛みに苛まれて妨げられる。

 逃げないと、と思うのに、スコールの体は全く言う事を聞かない。
ほんの少し体を入れて動かそうと試みるだけで、肩から痛みが走って、反射的に体が蹲ろうとする。
しかし、体を半分に折り畳まれて男の肩に担がれている状態では、男の体が邪魔になって、それさえも出来ない。

 痛みが幾らも治まらない内に、行き止まりに辿り着くと、スコールは地面へと下ろされた。
体が落とされた衝撃で辺りの埃が舞い上がり、それを吸い込んだスコールは咽返る。
其処は何処かのビルの裏で、室外機や太い配管の為に確保されているだけの、先ず人が立ち入る事はないであろうスペースだ。
気管支の弱いスコールがまともな呼吸が出来る訳がない。


「げほっ、げほっ…! ───っ!」


 顔を顰め、口元を覆い守ろうとした手を、男に捕まれる。
やめろ、とその手を振り払おうとしたスコールは、男の背後にずらりと居並ぶ集団の影に気付いた。

 幾つかの顔に見覚えがある。
つい数分前まで、スコールを追い回していた不審者達だ。


(くそ……!)


 男達はぞろぞろとスコールの周りを囲み、痛みと恐怖感で硬直したように動けない体を捕まえると、両腕を頭上に絡め取って押さえつけた。
痛みに引き攣る肩を無理やり持ち上げられて、スコールの表情が苦悶に歪む。


「痛…っ! 離、せ……この…っ」


 じたばたと暴れて男達を振り払おうとするが、次々に伸びて来た腕に肩も腹も足も捕まり、力任せに押さえつけられて、身動き一つ出来なくなってしまった。

 スコールは唯一、自由になる首を巡らせて、自分を此処まで運んできた男を睨み付ける。
だが、視線一つで男達が引き下がる筈もなく、彼等は身動きの出来ないスコールに、更に腕を伸ばしてきた。

 ブチッ、ブチブチッ、と糸が千切れる音が連続して響く。
既視感を感じたスコールは、自分の体を見下ろして、目を見開いた。


(なんで、どいつもこいつも…!)


 胸中で毒吐きながらもがくスコールだったが、手足はろくに動かない。
頭上に縫い付けられた手首は、骨が軋む程の強さで戒められており、血流が悪くなって指先の感覚が麻痺しつつある。

 カッターシャツのボタンを千切られ、インナーを捲り上げられた。
路地裏の冷えた空気が肌を撫でて、スコールは底冷えの寒さに身を震わせる。
カチャカチャと金属の音が鳴り、ベルトが外されて、ジッパーも降ろされ、下着ごとスラックスを脱がされた。
膝を出来る限りの力で固く閉じるが、複数の手が無理やり膝を開かせ、靴ごとスラックスが足から引き抜かれ、見えない場所へと放られてしまう。


「やめろ…やめろ……っ!」


 スコールの声は震えていた。
蒼灰色の瞳は、囲む男達を睨み付けていたが、薄く水膜を浮かせた眼光に覇気は無い。
あるのは、純粋な恐怖だった。

 スコールの脳裏に、初めて兄に犯された時の光景が蘇る。
両腕を背中に拘束され、碌な抵抗も赦されず、他人に触られたくない所を散々に弄られ、受け入れる場所ではないのに無理やり貫かれた。
あの瞬間の痛みはそっくり恐怖になって少年に根を張り、性交渉そのものに深い嫌悪感を植え付けた。

 兄の行いだけでもスコールのプライドをずたずたに引き裂いたと言うのに、何処の誰とも知れない、赤の他人にまで同じように犯されるのか。
冗談ではない。

 平らな胸の上を男達の手が這い、膝を左右に大きく割られて、スコールの陰部が露わにされる。
雄は萎えて頭を下に向けていた。
男達の手が伸びて、無遠慮に触れて性的刺激を与えようとしている。


(気持ち悪い……!)


 皺や皸だらけの体中をベタベタと触れられて、スコールは吐き気を催した。
手足を押さえつけられている所為で、触れる手から逃げる事も出来ない。
裏筋や先端を執拗に愛撫されて、スコールは唇を噛む。


「気持ち良いだろう?」
「……っ!」


 誰の物か判らない声に、スコールは首を横に振った。
男達は裏筋や冠の凹みなど、敏感な場所をピンポイントで攻めていたが、スコールは一向に性的興奮を感じなかった。
湧き上がるのは触れる生々しい人の体温のへの嫌悪感のみだ。

 胸を撫でていた手が一つ、右側頂きの膨らみを摘んだ。
ぎゅっと痛い程に強い力で詰まれて、思わずスコールの体が跳ねる。


「痛っ……!」
「ああ、痛かったか。ごめんよ」


 謝りながらも、乳首を摘む手は離れなかった。
摘まんだ指は力を緩めたものの、乳頭を摘んで皮を伸ばすかのように引っ張っている。
左の乳首も同様に摘まれ、親指と人差し指でコリコリと転がされた。


「うっ、んっ…んんっ…!」
「此処も随分と感度が良いじゃないか」
「触られた事があるな?」


 男達の言葉に、スコールは首を横に振った。
嘘だな、と言うように乳頭を爪先で擦られ、スコールは引っ掻かれる痛みに顔を顰めた。

 下肢で遊んでいた掌が、スコールの竿を包み込み、上下に扱く。
包皮が捲れて竿の形が露わになると、今度は剥き出しの肉を包み込んでの手淫が始まった。


「うっ、あっ! あぐっ…!」


 扱きながら、悪戯に柔らかく握られる度、スコールは痛みに顔を顰めて腰を浮かせた。
ビクビクと逃げを打つ腰が押さえつけられると、身を捩らせて痛みを誤魔化す事も出来なくなり、スコールの声に苦悶の色が濃くなる。


「痛、あ…っ! 離せ、は、あっ、ぐぅっ!」
「そう意地を張るな。直に気持ち良くなるからな」
「なら、な…うあぁっ!」


 根本を強く握られて、スコールは悲鳴を上げた。
竿と袋の間を爪で擦るようにくすぐられて、頭を振って身悶える。


「んぐっ、う…うぅ…!」


 先程から、与えられる刺激にスコールが反応する度に、見下ろす沢山の眼がにやにやと卑しい形に歪んでいた。
何が悲しくて、彼等が喜ぶような醜態を晒さなければならないのか。
びりびりとした痛みに悲鳴を上げるのがみっともなく思えて、スコールは唇を噛む。

 噛んだ口端でぷつりと皮膚が千切れ、赤い糸が線を描くのを見て、男の一人が見るからに残念そうな声を漏らす。


「勿体ない事をするなよ。これでも噛んでな」
「ん、ん……が……あむぅっ…!?」


 顎と鼻を同時に摘ままれ、息苦しさで微かに顎の力が緩んだ瞬間、無理やり口を開かれ、丸めた布のようなものが押し込められた。
吐き出そうと舌で押し上げるが、蓋をするように指で布を捻じ込まれ、喉奥に引っ掛かって咳き込む。


「んごっ、ふごっ…! はがっ…!」
「窒息はさせるなよ」
「判ってますよ」
「あぉおお…っ!」


 スコールが抵抗を止めるまで、男はぐりぐりとスコールの舌に布の塊を押し付けた。
舌の根が力を入れる事に疲れて、くぐもった呼吸を漏らすのが精一杯になっていた。


「んぉっ、ふぅ…んぅう…っ!」
「中々立たないな。普段、オナニーはしないのか? 君位の年なら、夢中でするものだろう」


 確かに十七歳となれば性的な事に興味を持ち、その快感を覚えたばかりの体が夢中になってしまう事もあるだろう。
しかし、スコールはそれ以前に兄との性交を交わしてしまった事もあり、反って性的刺激そのものを忌避するようになってしまった。

 スコールの胸中を物語るかのように、スコールの雄は、与えられる刺激に反して、一切反応を示さない。
精々皮膚が弄られた時の摩擦の痛みに顔を顰めるだけで、官能を感じている様子はなかった。


「んっ、ううっ! ふぐぅうっ!」


 ぞわぞわと下半身に広がる悍ましさを嫌って、スコールはやめろ、と頭を振った。
しかし、拘束とは別の理由で明らかに四肢を強張らせている少年に、男達は楽しそうに笑いながら、更に少年を追い詰める。


「我慢しなくて良いんだよ」
「高校生なんか、一番お盛んな時だからなぁ」
「その割には色が綺麗だな。毛もあまり生えていない。根本まで綺麗に見えているぞ」
「さあ、そろそろ気持ち良くなって来たんじゃないか? 若いんだから我慢は良くない。自分に素直になれば良いんだ」


 スコールの雄に触りながら、男達は好き勝手に喋っている。
男に触られて気持ち良くなると本気で思っているなら、同じ立場になってみろ。
スコールは胸中で叫んだが、唇からは乱れた息が上がるばかりで、何一つまともな言葉は出て来ない。


「う、ぅ…んんっ!」


 レオンの手によって何度も絶頂を迎えさせられた体には、その瞬間の快感が記憶されている。
しかし、躯は一向にそうした兆しを見せる事なく、雄も男達の手が離れると、くたりと頭を下げてしまった。
このままでは埒が明かないと思ったのか、陰茎を捏ね回していた手が離れて行く。
気持ちの悪い感触がようやく消えて、スコールの体から安堵したように力が抜けた。


「ふぁ…く…」
「さあ、次だ」
「───ん、ぶ…うぅんっ…!?」


 弛緩していた体が緊張を取り戻す前に、スコールの足が限界まで左右に開かれ、更に腰を持ち上げられる。
雄の直ぐ下で閉じている秘部が露わになり、其処に大きな熱の塊が押し付けられた。
どくどくと脈打つ生々しいそれが何であるのか、スコールは嫌と言う程知っている。


「ふ、ふぐぅっ! んんーっ!」


 限界まで開かれた足先をばたばたと暴れさせるスコールに、男達の卑しい笑みが深まる。


「おや、随分と反応が良いな。まるでこれからされる事を判っているような」
「経験があるのかも知れませんね。尻穴でセックスをした経験が」
「脱童貞の前に、脱処女ですか。最近の若者の性は乱れていますからなあ」
「まあ、こんな綺麗な顔をしているんだ。周りが放って置かんでしょう」


 冷ややかな笑い声の中で、誰が好きでこんな事、とスコールは胸中で叫ぶ。
自分で知りたくて知った訳でも、経験したくてした訳でもない。
スコールが体験した性交渉など、兄に因る弟への一方的な暴行であり、それ以外の何者でもなかった。
だが、男達がそれを言っても、きっと彼らは"禁断の兄弟愛"による背徳の淫行だと囃し立てるだけだ。
彼等が知るレオンとスコールの関係は、互いを思い遣る"理想の兄弟"なのだから。

 秘孔に宛がわれたものが、強引に口を開かせて捻じ込まれてくる。
スコールは下肢が引き裂かれてしまうのではないかと思う程の痛みに、見えない空を仰いで叫び声を上げる。


「んぐぁああぁああああっ!」
「おお、締まる締まる。良いぞぉ」


 レオンがしていた時のように、指で慣らし広げる事もしない挿入は、想像を絶するような激痛をスコールに与えた。
野太い雄の侵略を拒むように壁がみっちりと閉じようとするが、男は構わずに腰を進めて行く。
閉じた壁が開かないと知ると、男は埋めた肉棒を回転させるように腰を円状に動かし、無理やり壁を拡げようとする。


「いあっ、あっ、ああぁぁぁっ! はぶっ、ひぎぃいう…っ!」


 その痛みたるや、初めてレオンに貫かれた時の比ではなかった。
あの時、レオンは指でスコールの秘孔口を弄り、苛め、十分に広げてから挿入していた。
それでもスコールの内壁は裂けてしまい、レオンの雄を食い千切らんばかりに締め付けていたのだ。
指一本でさえ未だに激しく抵抗を示すスコールに内肉が、遠慮もなく突き立つ男の欲望を受け入れる筈がない。

 しかし、男はスコールの叫び声を無視して、腰を動かす。
千切る何処か、潰さんばかりの力で締め付けられていると言うのに、男の表情は恍惚としていた。


「痛いか? 痛いんだな?」
「ひっ、ふぎっ! んぉっ、うおふ、なぁっ……いぃいいっ!」


 ずんっ、ずんっ、と肉壁を先端で強引に穿たれて、スコールは布を噛まされた口で「動くな」と訴えた。
男はそれを無視し、スコールの体の左右に両手をついて、本能に忠実になった動物のように、夢中で腰を前後に振っている。


「うあっ…! う、ふぐっ……! んぶぅううっ!」
「ほら、開いて来た、開いて来たぞ。知ってるんだな? この快感を」
「ふっ、ひふっ、ひらはっ…んんんっ!」


 雄の侵入は徐々に深まり、後少しで根本まで潜り込もうとしている。
肉棒は秘孔口の締め付けでは抑えられない程に大きく膨らんでおり、スコールの直腸は圧迫感で一杯だった。
其処は何度もレオンに貫かれた場所であるが、男が言うような快感など今は欠片もなく、此処までの無遠慮な痛みを与えられた事もこれが初めてだった。

 レオンに何度も抱かれている内に、スコールの秘部は男を受け入れるものとして作り変えられていた。
レオンも何度かそれを揶揄に口にしたし、スコール自身もそんな自分に嫌悪感を持っていた。
繰り返される行為の中で、体が傷付かないように馴染んだ防衛機能であるとしても、男として生まれていながら、男を受け入れるように作り変えられる事は、屈辱以外の何者でもない。
それでも、この躯は与えられる快感に逆らえないようになっていた。

 だが、今下部から感じるものは、痛み以外の何者でもない。
男が嫌でも性感を覚えてしまう箇所でさえ、突き上げられると痛みしか感じなかった。


「ひぐっ、うっ、うぅうっ! んぶ、はめ、はめろ、ぉお…!」
「そう嫌がる事はない。知っているんだろう? 此処の気持ち良さを。ほら、素直になれば良い」
「はぐっ、ふぐっうぅん! んぐぅううう!」


 壁を押し上げた肉棒が、先端でぐりぐりと捩じるように壁を攻め立てる。
スコールは涙を浮かべて頭を振る。

 眉根を寄せ、布が吸い込み切れなかった唾液を泡のように溢れさせ、涙を浮かべて、離してくれ、と訴える少年の姿に、男の呼吸が更に上がって行く。

 男達の手が、痛みに悶え苦しむスコールの体を這う。
芋虫か蛞蝓にでも体の上をうろつき周られているような気がして、スコールは頭を振って拒絶を示すが、手足を押さえつける手は離れてくれず、悍ましい手を受け続けるしかない。


「ふぐっ、うぅっ! うぅうう……!」
「はぁっ、はっ、ああ…! 締まるっ! ふぉおおっ!」


 押し開かれた肉壁が、侵入物を追い出そうと強く閉じようとする。
それは反って男を喜ばせる事だと判っていても、体の反射反応は止める事が出来ず、スコールの意思に反して肉壁は異物を強く締め付ける。

 どくん、どくん、と体内で欲望が脈打つのを感じて、スコールは蒼褪めた。


「んぅっ! ふあっ、ふっ、うぅっ、あぅううっ!」


 止めてくれ、と声にならない声で訴えるスコールだったが、男にはそれすら興奮の材料だった。
痛いほどに張り詰めたに肉棒は限界を訴えており、みっちりと肉棒を包んで締め付ける肉壁を、その先を促しているものだと勝手に受け取った。
ぐりぐりと先端で閉じた壁をこじ開けるように抉ってやれば、少年の爪先が丸まって強張り、くぐもった叫び声が狭い空間で反響する。


「はあっ、出る、出るぞぉっ!」
「ひっ、んぅっ! やふっ、うむぅうううううぅっ!」
「おおおおおおっ!」


 男の獣の雄叫びのような声の後、涙を浮かべて頭を振るスコールの願いも敵わず、男の欲望が体内へと叩き付けられる。
スコールが知っているものよりも、重く粘り気のあるものが、まるで栓を失ったかのようにどくどくと注ぎ込まれて行く。
スコールの秘孔の奥に肉棒を突き立てたまま、男は気の済むまで少年の中に精液を放ち続けた。


「っほぉ……凄いな、まだ締め付けてるじゃないか。もっと欲しいのか」
「ひっ…はっ……ひが、違……」


 男の劣情を受け止めながら、スコールの秘孔は肉棒を強く締め付けている。
硬直し切った体からは一向に力が抜けず、それが雄を締め付けたまま、抜けなくなっているに過ぎない。
しかし、スコールには悲しい事に、男達にはスコールが更なる刺激を欲しがっているように見えていた。


「おじさんももっと君を気持ち良くしてあげたいけど、替わってやらないと若い連中に恨まれるからな」
「う、う…んぎっ、いっ、うぅう…っ!」


 スコールの腰を高く持ち上げられ、食い込む肉壁をぞりゅぞりゅと擦りながら、肉棒は出て行った。
その間もスコールを苛むのは強烈な痛みだけで、レオンと性交をしていた時のような、甘い痺れを生む快感は欠片も感じられない。

 埋められていたものがなくなると、栓を失った秘孔からどろどろと粘液が溢れ出した。
スコールの尻をしとどに濡らすそれは、男がスコールの直腸へと注いだ精液だ。
それを見た男の一人が、汚いものを見るように顔を顰める。


「出し過ぎですよ。次に使う奴の事もちょっと考えて下さい」
「これ位の方が滑りが良くなるぞ。俺は痛がりながら感じているのを見るのが好きだから、濡らさなくても構わないが」
「それにしたってねえ……」
「まあ、少し出し過ぎたかも知れないが、溜まっていたんでな。仕方がない」


 部下だろうか、呆れた表情を浮かべる一人の男に対して、上司らしき男は悪びれる様子もない。
それより次は誰だ? と平然とした表情で促す男を、スコールは雫に濡れた虚ろな瞳で眺めていた。



 入れ代わり立ち代わり、何度も何度も、秘孔に欲望の塊を突き入れられた。
その場にいた男達の一物は、全て一度は咥えたのではないだろうか。
突き入れられた数だけ、秘奥に男達の欲望を注ぎ込まれ、途中からは許容量を越えて挿入される度に溢れ出していた。

 混沌とした淫靡な空気に宛てられたように、犯されるスコールの姿を見ながら、自慰をする者もいた。
昂った雄を顔面に突き付けられ、顔に向かって白濁液を吐き出された。
汚されたのは顔だけではない。
濃茶色の髪に先端を擦りつけられたり、スコールの中心部と擦り合わせたり、乳首に押し当てて射精した者もいる。

 途中からは口に入れられていた布が取られ、代わりに肉棒を咥えさせられた。
いつ終わるとも知れない地獄の中で、スコールの心は完全に折れており、噛み付こうと言う考えも浮かばず、ただされるがままに咥内を凌辱する雄を受け入れていた。

 いつの間にか四肢を押さえ付ける手はなくなっていたが、スコールは逃げなかった。
逃げようと思わなかった。
そんな事が考えられる状態ではなくなっていたのだ。
常に秘孔を貫かれ、痛みが麻痺する程の回数を突き上げられ、体中を白濁液に汚された彼は、呆然自失となって、男達にされるがままに体を揺さぶられ続けていた。

 男達が立ち去ったのは、何時間も後の事だ。
彼らは白濁液と埃に塗れたスコールを路地裏に打ち捨てたまま、何処かへ消えた。
スコールはそれよりもずっと前に意識を手放しており、目覚めたのは、男達が消えてから更に時間が経過した後の事だった。

 スコールが目を覚ました時、辺りは暗かった。
夜がまだ明けていなかったのか、一度日が上って再び落ちた後だったのかは判らない。
どちらにせよ、その時のスコールにとって暗闇は都合が良かった。
目も当てられない自分の姿を客観視する事もなく、散らばって皺だらけになって汚れていた服を掻き集めて、中身をばら巻いていた鞄を直して、ふらふらとマンションに帰った。
向かう途中で何度か通りを車が通ったが、スコールは気にしなかった。
きっと、道で人と擦れ違う事があっても、その時通行人がスコールを見て何を思ったとしても、スコールは気付かなかっただろう。

 マンションに入り、長いエレベーターを昇る間も、誰にも逢わなかった。
鍵を開けて部屋の敷居を跨ぎ、体の力が抜け落ちた。
そのままスコールは少しの間意識を飛ばし、目覚めた時には朝になっていた。

 風呂に入って、シャワーを浴びて、服は全て洗濯機に放り込んだ。
シャツとスラックスはともかく、ブレザーはクリーニングに出す方が良かったのだろうが、面倒だった。
大量の洗剤を入れてスイッチを押し、後は放置した。

 それから三日間、スコールは学校を休んだ。
無断欠席だ。
ティーダ、ヴァン、ジタンから何度も電話やメールの着信があったが、スコールは返事をしなかった。
食事も採らず、現実を拒絶するように、只管眠り続けた。
幸いにも、その間、兄が家に帰って来る事はなかった。


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≫[籠ノ鳥 2-3]