籠ノ鳥 2-3
R-18 / 拘束


 レオンのボディガードであり、秘書を務めるクラウドの仕事は、主にレオン宛の手紙やメールの内容を確かめる事だ。
レオンは支社長とは言え、肩書としては"社長"であるから、クラウドは最高レベルの役員幹部になるのだが、元々彼は秘書業について専門の勉強を学んできた訳ではない。
レオンのスケジュール管理や、予算会議諸々については、レオンが全て自分で管理する方が問題なく稼働すると言う結論も出ている。
だからクラウドのメインとなる仕事は、荒事系を専門としたボディガードの方だった。
レオンのスケジュール管理や部下との間を取り持つような仕事は、殆ど任されていない。
精々、レオンが捌いた書類の整理を手伝う位のものだ。
そんな訳で、クラウドは執務中でも暇を持て余す事が少なくない為、その余った時間の有効活用として、レオン宛てに届けられた手紙、メールの内容を確認して、レオンが確かめる必要がある案件かどうかを判断すると言う仕事を預かる事になったのだ。

 正直、デスクワークに気が向かない性格のクラウドだが、それでも暇を持て余して、レオンの仕事場である社長室の来客用ソファでごろごろと寝転がって過ごしているよりは良い───と言うのは、レオンの言い分だ。
ボディガードとしてのクラウドの優秀性は、レオンもよく理解しているので、彼が一見怠けているようで、非常時に常人ならざる嗅覚でそれに気付き、素早く反応してくれる事も判っている。
更に言うなら、クラウドの秘書としての仕事を取り上げたのは、他でもないレオンだ。
現社長ラグナの息子として、入社三年で支社長を任せられると言う異例の出世で、本来の会社構造と言うものをゆっくり勉強する暇もなかったレオンは、出来るだけ自分で部下の声を直接聞く事が出来るようにと、秘書等のクッションは必要最低限のみ雇う事にした。
その"必要最低限"が、父ラグナの意向も配慮した末、専属ボディガードとしてクラウドのみと言う結果に至ったのである。
そんな訳で、クラウドがボディガード業以外で暇を持て余すのは無理もないのだが、だからと言って目の前でごろごろと過ごされると、なんとなく癪に触って来る。
だから、手紙の内容でも確認して置いてくれ、と言う話になったのだ。

 メールにしろ手紙にしろ、何某かの小包にしろ、社長であるレオンに直接送られてくる事は稀だ。
会社に寄せられた手紙・メールは先ず各担当部署に振り分けられ、要所要所で処理される。
その為、レオンの下まで回って来る手紙・メールは一日に寄せられる全体の数の十分の一位以下になっている。
其処からクラウドは更に選別するのだ。
レオンが支社長として就任したばかりの頃は、全てのメールをチェックするように努めていたのだが、中には何故此方まで回したのか、と思うような内容のないメールも混じっているのだ。
何かのミスか、それとも何か深い意味が隠されていたのかは、今となっては判らない。
何れにせよ、それら一つ一つに全て目を通している暇があったら、もっと別の事に時間を活用した方が有用であると気付いた為、割り切って必要なもののみに目を通す事にしている。

 レオンが商売の根幹となる情報収集とその整理、それらから導き出す今後の計画の組み立て等に意識を注ぐ傍らで、クラウドはノートパソコンをレオンのパソコンと同期させ、社長宛てのメールを確認していた。

 適当な所までチェックを終えたクラウドは、曲げていた背を伸ばして、椅子の背凭れに寄り掛かった。


「あー……疲れた」
「何処まで終わった?」


 レオンはクラウドを見る事なく、自分の作業を続けながら訊ねた。
クラウドはぐったりと背凭れに寄り掛かったまま、天井を仰ぐ。


「半分まで確認した。ラグナとキロス、ウォードからそれぞれ届いている。後で確認して返信して置いてやれ」
「ああ」
「あと、総務部から来月の株主総会の準備・企画の相談について。チェックつけておいた」
「ああ。ご苦労だった」
「ん」


 クラウドは両腕を頭上で伸ばして、頭を後ろへと傾ける。
椅子の背凭れが僅かに傾いて、クラウドの背筋がぐっと伸びた。

 背伸びの格好のまま天井を見上げたクラウドは、其処にふわふわと漂う白いものを見付けて、眉根を寄せる。


「あんた、煙草、また増えてるぞ」


 指摘されたレオンの口には、三分の一の長さに減った煙草があった。
レオンはクラウドの指摘に「そうか?」と言って煙草を口から放し、灰皿に落とそうとして手を止める。
パソコンの横に置いた灰皿の中は、今吸っているものと同じ代物が詰め込まれており、このまま吸い続ければ程無く山になるのは確実だ。

 レオンは灰皿を持って席を立った。
社長室の横に設置されている、小さな給湯室で灰皿に煙草を押し付けると、今まで溜まっていた灰とまとめて水を注いだ。
皿の底にこびりついた灰が浮きそうにないので、シンクに置いていた洗剤を入れて放置する。
代わりに、昨日使って洗って置いた別の灰皿を取って、デスクへと戻った。

 デスクに新しい灰皿を置いたレオンを見て、クラウドは溜息を漏らす。


「此処しばらくで減ったと思ったら」
「減らしたつもりも、増やしたつもりもない」
「あんたに自覚がないだけだろう。コンビニで煙草買って来てるのは俺だぞ? あんたが吸った煙草の箱の数なら、俺の方が把握している」


 カチリ、とライターの音がして、新しい煙草に火が点けられた。
椅子に座って早速喫煙するレオンの歯が、煙草のフィルターを噛んでいる。


「何かあったか」


 クラウドの問いに、レオンは煙を吐き出して問い返す。


「何かって?」
「さあ。其処までは俺は知らないな。ただ、しばらく煙草を吸う程苛々するような事が減って、最近また苛々するような事が増えたんだろうなって、俺が判るのはそれだけだ」


 それが仕事に影響する事がなければ、レオンがどれだけ苛立ちを抱えようが、その為に煙草の本数を増やそうが、どうでも良い。
クラウドはきっぱりと言い切ると、椅子から腰を上げた。

 給湯室へ向かったクラウドを、レオンは視線だけで追い、直ぐに興味を失った。

 煙草の増減については意識していなかったが、苛立ちの要因からしばらく遠ざかっていたのは事実だ。
ふとした時に脳裏に過ぎる、どう足掻いても自分と切り離す事は出来ないであろう存在───同じ血を分けていながら、全て定められた道を歩まざるを得なかった自分とは正反対に、何者に縛られる事もなく自由に生きている弟、スコール。
会社と自分のイメージアップ、そして父への体裁に"理想の兄弟"を演じ、自分と弟を殊更に近しい距離であるように見せかけたのは、レオン自身だ。
だが、己でそう仕向けていながら、レオンは自分の傍にいる弟に対して、常に苛立ちを感じていた。

 レオンが弟に抱く苛立ちは、低俗で有体な言葉を持って当て嵌めるのならば、"嫉妬"と言うものになるのだろう。
何もかも雁字搦めにされて、何一つ自分の意思で選ぶ事が出来なかったレオンにとって、スコールが謳歌する自由は眩し過ぎる。
そんな兄の胸中に気付く事なく、友達と呼べる存在と、当たり前のように笑いながら、ごく普通の学校生活を送る弟。
レオンが彼と同じ年だった頃、欲しくても手に入れる事が出来なかったものを、彼は持っている。
それがどんなに幸福な事なのか、スコールは知らないだろう。

 無知で無邪気な弟へ、募り続けた苛立ちが、レオンを凶行に駆り立てた。
下手な暴行や罵倒のような虐待行為よりも、余程彼が屈辱に思うであろうやり方で、彼を傷付けた。
性的な衝動に関して最も敏感な年頃であろう少年を、力尽くで押さえ付け、まだ未経験の体を"女"に見立てて犯した。
それは一度では収まらず、彼の逃げ道を塞いで、何度も何度も蛮行は繰り返された。

 それで気が晴れる事はなかったが、あられもない姿で喘ぎ声を上げて涙を流す姿は、レオンに昏い悦びを齎した。
もがいて逃げようとする彼を捕まえ、まだ発展途上な細い四肢を拘束し、自由を奪って羽根をもぎ取って行くことが愉しくて堪らない。
自分の指一つで抵抗する術を失う彼に、幼い頃から常に感じ続けてきた、原因の判らない渇きが満たされて行くような気がした。


(───ああ。だからか)


 クラウド曰く、煙草の本数が増えている───遠ざかっていた苛立ちの要因が戻って来た、その原因に気付いて、レオンは煙草を噛んだ。


(此処しばらく、帰っていないな)


 もう一週間になるだろうか、レオンは家に帰らずに仕事に邁進している。
特に急ぎの仕事があるとか、会社の運営や経営に問題が起こっている訳ではない。
偶然、此処数日のスケジュールが詰まっていたと言うだけの話だ。

 一週間、家に帰っていない。
一週間、あの体を貪っていない。
恐らくそれが、レオンの煙草の数を増やしている原因だろう。

 顔を見ないからと言って、スコールの存在がレオンの頭から離れる事はない。
いっそ忘れてしまえば良いものを、と思いながら、まるで彼の事を考える事が義務であるかのように、レオンの脳裏には常に弟の顔があった。
レオンがスコールを穢す以前、月の半分も碌に顔を合せなかった時も、ずっとそうだ。
スコールはその存在で常にレオンを苛み続けている。

 今日か明日にでも帰ろうか。
きっとスコールは今頃、支配者がいない事で、数ヵ月ぶりの自由に羽を伸ばしている事だろう。
"あの日"から、彼が夜毎にレオンの気配に怯えているのは知っている。
行為の後に風呂場に向かう時でさえ、スコールは足音と気配を殺し、レオンと鉢合わせする事を避けていた。
そんな彼と一週間ぶりに顔を合わせたら、彼はどんな貌をするだろう。
想像するだけで、レオンの口元に笑みが浮かぶ。

 給湯室からコーヒーを手に戻って来たクラウドは、レオンをちらりと一瞥しただけで、直ぐに自分のデスクへ戻った。
湯気を立ち昇らせるコーヒーを一口飲んで、スクリーンセーバーを立ち上げていたパソコンに触れる。
元のメール画面が起動すると、コーヒーをパソコンの傍に置いて、メールのチェックを再開させた。
レオンも程無く、短くなった煙草を灰皿に押し付け、業務に戻る。

 広い社長室の中に、キーボードとマウスの音だけが響く。
レオンもクラウドも、どちらかが何かを切っ掛けに一言でも発する事がなければ、黙々と仕事に没頭する性質だ。
レオンの社交性はあくまでビジネス用に身に付けたものであるから、その必要がない相手に発揮される事はない。
クラウドは元々無口だ。
そんな二人だけが存在する社長室を沈黙が支配するのは、ごくごく当たり前の光景だった。

 業務に戻ってから、一時間程度が過ぎた頃だろうか。
残っていたメールを確認していたクラウドが、ぴたりと動きを止める。
不自然に止まったマウスのクリック音に、レオンは顔を上げた。


「どうした?」


 呼びかけにクラウドは答えない。
彼はパソコン画面を凝視するように見詰めていた。
呆けたように開いた唇が、まさか、と音なく形を辿るのを見て、レオンは席を立つ。


「何かあったか」
「───待て、レオン。あんたはまだ見るな」


 慌ててパソコンの蓋を閉じたクラウドだったが、その行為が更に怪しさを募る。
レオンはクラウドを押し退けると、パソコンのディスプレイを開ける。

 閉じた事で暗くなっていたウィンドウだが、もう一度開かれた事にセンサーが反応し、液晶が明るくなる。
其処に映し出されていたのは、見るも無残な有様となった、弟の姿だった。

 今時の携帯電話のカメラでも、もっと解消度の高い写真が撮れるだろうに、まるで安っぽい盗撮AVを真似たかのように、ドットの粗い画像だった。
其処に沢山の腕に押さえつけられ、口に布を噛まされ、シャツをはだけられた弟が映っている。
下半身に至っては下着すら履いておらず、性器が剥き出しの状態になっていた。

 画像は一枚だけではない。
次の画像は、両足を大きく広げられた状態で、恥部をアップにされたもの。
その次は、あろう事か秘孔に男を受け入れ、自身の性器も画面の外から伸びて来た腕に弄られている。
枚数を数えて行く度に、弟は凄惨な姿となり、最後には全身を白濁液で汚され、恐らく意識もないのだろう、光を失った眼でぐったりと体を投げ出していた。

 画面を凝視したまま動かないレオンの肩を、クラウドが掴む。


「おい、レオン。もう止めろ。見るな」


 デスクの前からレオンを退かせると、クラウドはメールウィンドウを閉じようとした。
しかし、その手を今度はレオンに捕まれる。


「何処からだ」


 クラウドの腕を手を掴んだまま、レオンは言った。
「え?」とクラウドが問い返すと、氷のように冷たい青灰色の瞳が、クラウドを捉える。


「このメール。何処からだ」
「偽装アドレスだ。足跡を辿らないと、特定できない」
「直ぐにやれ」


 クラウドに対しては砕けた口調で話をするレオンだが、明らかな命令口調は滅多に出て来ない。
今の「やれ」は明らかな命令だと、クラウドは判断した。
 
 レオンの手が離れると、クラウドは椅子に座って複数のソフトウェアを立ち上げる。


「それから、さっきの画像を全部印刷しろ」
「……了解」


 何の為に、とクラウドは聞かない。
聞かれたとしても、レオンは答えるつもりはなかった。


「送信元の特定が終わったら、画像処理をして、映っている奴らをを全員調べろ。身元も探れ」
「顔が映ってる間抜けは直ぐ判るが、他は───」
「全員だ」
「…了解。手間賃、貰うからな」
「好きにしろ」


 レオンは自分のデスクに戻り、新しい煙草に火を点け、席を立つ前と同じように仕事を再開させる。
碧眼が一瞬レオンを見遣るが、レオンの横顔はいつもと変わらないように見えた。



 ぐう、と腹が鳴ったのを聞いて、スコールはのろのろと起き上った。
布団の中に蓑虫宜しく丸まってから、どれ程の時間が過ぎたのだろう。
ベッドの中に篭ったまま、ただ寝て起きて寝てを繰り返していたので、時間の経過も判らない。
目が覚めた時に何度か眩しい光が瞼の裏に届いて来たが、スコールは無視して眠り続けた。
しかし、眠ると言う行為には思う以上のエネルギーが消費されるものだ。
一食も、水すら飲まずに眠り続けていれば、空になった胃袋が限界を訴えるのも当然だろう。

 ベッド傍のカーテンをそっと持ち上げると、眩しい光は何処にもなかった。
一枚ガラスの向こうには、宵闇が広がり、ぽつぽつと星が遠く薄く見えるだけ。

 何月何日の夜なのだろう。
ベッドヘッドの携帯電話を手に取って確認しようとするが、何度ボタンを押しても、液晶画面が開かない。
そう言えば、充電器に挿していなかった。
眠り続けている内に、何度か着信かアラームか鳴っていたが、それもいつの間にか止まっていた。
十中八九、電気が枯渇したのだろう。

 充電器に携帯電話を挿して、電源を入れた。
表示された日付は、記憶にあるものから三日が経過しており、その間に着信履歴とメールがそれぞれ十件ずつ入っている。
確認してみると、学校からの着信履歴の他は、全てティーダ、ヴァン、ジタンからのものだった。


(そう言えば、学校……)


 三日間の無断欠席だ。
真面目で知られているスコールが、ただ面倒だと言う理由で休むとは学校側も友人達も思わなかったらしく、連絡が出来ない程に体調が悪いのか、それとも何か事件に巻き込まれたのかと、ティーダ達のメールにはスコールを心配する言葉ばかりが書かれていた。

 起きたんだから返信しないと、いや電話の方が良いか、でももう寝てるかな───と考えていると、ぐう、と腹の虫が鳴った。
それで目が覚めたのだと思い出し、スコールは携帯電話を手放した。
ティーダ達には悪いが、今は空っぽの胃袋を宥めなければならない。

 ベッドを下りて、覚束ない足取りで自室からリビングに移動した。
リビングの奥にあるキッチンに入って、冷蔵庫の中を開ける。
作り置きしたものがタッパーに入って並んでいるが、どれも一週間前に作ったものだ。


(……レオン、帰って来てないのか)


 タッパーの数が、三日前の朝から減っていない。
その前も、そのまた前日も、レオンは家に帰っていないようだった。
彼が数日家を空ける事はままある事だったが、一週間近くも帰っていないのは初めてのような気がする。

 ああ、だから起こされなかったのか。
昏々と眠り続ける事が出来た理由を察しながら、スコールは冷蔵庫の一番上に置いてある、ポテトサラダのタッパーを取り出した。
蓋を開けて匂いを嗅いでみる。
変色や腐敗臭はなく、量もあと少ししかなかったので、片付けてしまう事にする。
食パンも取り出して、他の居並ぶ食料からは目を逸らした。
元々小食であった事に加え、ストレスからの食欲不振は今も続いており、空腹感の割に食欲が湧かない。
正直な気持ちを言うと、パン一枚と少量のサラダでさえ、食べ切る自信がなかった。

 それでも何とか胃の中に食べ物を入れて、空になった食器を流し台に溜めた水に浸した後は、部屋に戻るのが面倒で、リビングの四人がけのソファに倒れ込んだ。


(あ……携帯……)


 食べ終わったらメールの返事をしなければ、と思っていたのに。
そう考えながら、スコールはソファから動かなかった。

 明々とした明かりに照らされるリビングは、一人きりで過ごすには広かった。

 幼い頃から、広い屋敷で一人で過ごす事が多かったが、十七歳になった今でも、スコールはこの開放的な居住空間と言うものに慣れる事が出来ない。
ティーダは時々家に遊びに来ては凄い凄いとはしゃいで喜んでいたが、スコールには、ティーダが住んでいるような小さなアパートメントの方が好きだった。
ティーダは手狭になるばかりで困るし、父が帰って来たらずっと同じ空間で過ごさなければならないから鬱陶しい、と言っていたが、スコールはそんな友人が羨ましかった。
ヴァンとジタンの家も、ティーダと似たようなものだ。
家族と毎日毎晩顔を合わせ、互いの存在と気配を感じ取りながら過ごす。
時々兄弟喧嘩もするが、同じ場所で生活を営んでいる以上、嫌な空気をいつまでも振り撒いているのは息苦しくなるので、耐え切れなくなった方が───ジタンの場合は妹がいるので、彼女が仲裁する事も多いらしい───謝り、仲直りするのだそうだ。
同じ空間を共有しているからこそ、身近にその気配を感じるからこそ、刺々しい空気は両者の為にならないのだ。
そんな友人達の話を聞く度に、スコールは胸の奥がずきずきと痛むのを感じていた。

 スコールが物心がついた時には、『エスタ』は既に一大企業として名を轟かせていた。
スコールが日々を過ごしていた家も、社長の私宅として見映えのある十分な広さを持っており、幼いスコールも其処で日々を過ごしていた。
だが、その広い邸宅で、スコールの傍に誰かがいてくれたのは、ほんの僅かな時間だけ。
それが誰であったのかは、今のスコールには不思議と思い出す事が出来ないが、恐らく、雇いの家政婦だろうと思っている。
家族の誰かであるとは、思った事はない。
母はスコールを生んで間もなく逝去し、父はスコールが物心つく以前から仕事に追われていた。
兄が幼い自分の傍にいてくれたとも思えない。
その家政婦であろう人物も、スコールが小学生になる頃にはいなくなり、スコールは広い屋敷の中で、毎日を独りきりで過ごさなければならなかった。

 人の気配を苦手とするスコールにとって、一人きりの時間と言うものは、落ち付くものだった。
自分の心を可惜に乱すものがないからだろう。
しかし、自分一人だけが存在する広い空間と言うものを、好きになる事は出来ない。
持て余す程の広い場所に比べたら、少し手狭な位で良い───と言ったら、ティーダ達からは「贅沢!」と言われてしまった。
だが、彼等はスコールが抱く矛盾した胸中を理解してくれているから、そんな言葉の後で、「じゃあ俺の家に来る?」「いつでも遊びに来るよ」と言ってくれるのが、スコールには細やかな救いであった。

 だが、今此処に、気心の知れた友人達はいない。
ただ只管、必要がないほどの広い空間で、無意味な時間を過ごしている。


(……今から呼んだって…来る訳ないな……)


 時計は夜十時を過ぎている。
高校生ともなれば、この時間はまだ起きているだろうが、流石に外出は出来まい。
家族と暮らすヴァンとジタンは言わずもがな、父がいない事で一人暮らし同然のティーダも、戸惑うに違いない。

 持て余す時間を、どうやって消費すれば良いだろう。
朝はまだ八時間も先の事だ。
睡魔でもあれば手っ取り早かったのだが、ずっと眠り続けてようやく起きた所為か、睡魔は懲りたように遠退いている。

 でも、このままリビングで腐り続けているよりは、部屋のベッドにいる方が良いかも知れない。
少なくとも、此処は眠る場所ではない。
眠らずとも寝転がって過ごすのなら、自分のテリトリーに戻って、ティーダ達に心配をかけた詫びのメールでも考えた方が良い。

 三日間、連絡の一つも送らなかった理由を、なんと誤魔化せば良いだろう。
無難な言い訳を考えながら、スコールはリビングのドアを開けた───開けようとした。
 
 触れる前に外側から開けられたドアを見て、スコールの元々白い肌から、一気に血の気が引いた。
開いたドアの隙間が大きくなって行き、仕立ての良いスラックスの足下が見える。
ゆっくりと面を上げて行けば、少し草臥れた背広の前を開けて、ネクタイを緩め、青灰色の瞳と唇を緩やかな笑みを浮かべた兄の顔があった。


「ただいま、スコール。一週間ぶりだな」


 彼の嬉しそうな声と表情とは裏腹に、掴まれた腕がぎしりと痛んだのを感じて、スコールは息を飲んだ。



 一週間ぶりに帰った兄の様子は、いつもと明らかに違っていた。

 有無を言わさず部屋へと連れて行かれ、碌な抵抗も許されずに腕を拘束されるのは、いつもの事だ。
そして服を剥かれて裸にされ、恥部を好き勝手に触られて、性交を強制される。
其処にスコールの意思などない。
全ては支配者であるレオンの意思のみだ。

 今日も同じように、スコールは自室へと連れて行かれ、ベッドに放られて腕を拘束された。
その時、レオンはいつもスコールの腕を背中に回してベルトの手枷をかけるのだが、今日は体の前で腕を纏められた。
背中で拘束されるよりは楽な格好だが、まさかスコールを慮って形を変えた訳ではないだろう。
しかし、何を考えているのかと訊ねた所で、返事が返って来るとも思えない。
「黙っていろ」と睨まれ、彼の機嫌を損ねるのが関の山だろう。

 着ていたジャージのシャツを捲り上げられ、ズボンを下着ごと降ろされる。
硬いベルトで締められている制服のスラックスに比べ、ゴムで絞られているだけのジャージは、脱がせるのも容易い。
柔らかな布地で作られたそれは、あっさりとスコールの下肢から引き抜かれて、白い肌を露わにされた。

 下肢が外気に触れた瞬間、スコールの体が寒さとは違う理由で、ふるりと震える。


(いや、だ)


 喉奥が前触れもなく引き攣って、スコールは呼吸の仕方が判らなくなった。
細い肩が、膝が震える。
レオンはそれを一瞥しただけで、気に留める事はなく、膝を大きく左右に開かせた。
突き刺さる視線に、スコールは喉の奥がからからに乾くのを感じる。

 ほんの数日前の悪夢が、スコールの脳裏に蘇っていた。
忘れていた訳ではない、眠り続ける事で、思考から、記憶から、あの出来事そのものを消し去ろうとしていたのだ。
しかし、暗い路地裏で何時間にも及んだ凌辱の記憶は、簡単に打ち消せるものではない。
考えない事で追い出していたその記憶と感情は、微かな浮上の瞬間を狙っていたかのように、次々にスコールを襲い始める。


「や、あ……」
「今更だな」


 弱々しいスコールの声を、レオンは顔も見ずに斬り捨てた。
レオンの手がスコールの足の付け根を撫でる。
そのゆったりとした感触でさえ、今のスコールには恐怖だった。

 右の足首を掴まれ、高く持ち上げられる。
隠せなくなった陰部が露わにされて、萎えたままの雄がレオンの前に晒された。


「嫌…嫌、だ……っ!」


 手枷に拘束された腕が、覆い被さるように伸し掛かる男を押し退けようともがく。
レオンのワイシャツを掴んだ手が、ぐしゃぐしゃの皺を作った。
その手は記憶の恐怖によって震え、掴む手にも碌な力は入っておらず、押し退けようとしていると言うよりは、助けを求めて縋っているように見える。

 レオンは、スコールの手を払い除けた。
冷たい蒼に見下ろされて、スコールは口を噤んで息を飲んだ。
叱られる事に怯える子供のように肩を竦めて縮こまるスコールを一瞥し、レオンは持ち上げていたスコールの膝下にベルトを嵌めた。
手枷と同じ革ベルトで作られたそれには、一本の長い金属棒が繋がっている。
用途の判らない道具にスコールが息を殺して様子を伺っていると、逆の足にも同様のベルトが嵌められるが、此方は鎖があるだけだった。
レオンは鎖と棒を手に取ると、それぞれの先端を連結させる。


「や、な……レオン! なんだよ、これ!?」


 膝下に繋がれた金属棒の長さは、五十センチ程だろうか。
その左右の先端が、スコールの足に嵌められた足枷と繋げられている。
スコールの両脚は左右に大きく広げられており、足を閉じようとしても、金属棒が妨げとなってしまう。
その為、スコールの下肢は一切隠す手段を失い、雄も秘孔も完全に晒される格好となっていた。


「SMで身動きが取れないように拘束するプレイがあるだろう。それに使う拘束棒だ」
「そんな事聞いてない! なんでいきなり、こんな事…!」


 拘束された腕で、無理やり晒された秘部を覆い隠しながら、スコールは叫んだ。
説明が欲しい訳ではない。
ただ、これ以上、何も判らない内に凄惨な思いをしたくなかった。

 レオンはスコールの腕を捉えると、頭上へと押さえ付けた。
両手を繋ぐ手枷の鎖に新たなベルトが通され、そのベルトはスコールの後頭部に下敷きにされて、首へと回される。
スコールが腕を持ち上げようとすると、後頭部でベルトが引っ掛かる上、無理に引っ張ると自分で首を絞めてしまう。


「レオ、ン……っ!」


 一切の自由を奪われたスコールは、なんで、と目尻に涙を滲ませてレオンを睨む。
しかし、レオンはその表情を意に介す事もなく、手に持ったものをスコールの口に押し付けた。
歯と舌に当たる感触で、それがゴム製の小さなボールのようなものである事を知る。
ボールには穴が開けられ、金具とベルトが取り付けられており、レオンはベルトをスコールの後頭部に回して固定させた。


「んぐ、ふ…っ! ふあぅうっ」


 ぐに、とボールと歯が当たった。
ベルトで固定されている所為で、スコールが頭をどんなに揺らしても、ボールは口から出て行く事はない。
ボールに開けられた穴が通風孔の役目を果たしている為、呼吸は可能であったが、息苦しさは否めない。

 何、と問う言葉も、まともな音にはならなかった。
それでも困惑を映した蒼灰色に、レオンは弟の心中を察してか、


「ただのボールギャグだ。猿轡と言った方が判り易いかもな」
「んぅ…んぅうっ!」
「それで、何故こんな事をするのか、だったか?」


 器具を外せと視線で訴えるスコールを無視して、レオンは思い出すように言った。

 レオンは裸身の四肢を拘束され、恥部を全て曝け出し、あられもない格好にされた弟をじっくりと観察するように見下ろしながら、ワイシャツの胸ポケットから紙を取り出す。
L判程度の大きさをしたそれを表返して、スコールに見せる。


「同じだろう? 今のお前の格好と」
「─────……!」


 厚目の光沢紙に印刷されていたものを見て、スコールは絶句する。
其処には目も当てられぬ程の悲惨な光景が映し出されていた。
一人の少年が裸同然に服を向かれ、下半身は剥き出しにされ、沢山の手に押さえつけられ、下肢を男の象徴に貫かれている。
光源が足りないのか、写真は全体的に薄暗い。
だが、組み敷かれて貫かれている哀れなその少年は、他でもない自分自身だと言う事は判る。

 スコールの全身から汗が噴き出し、かたかたと拘束された体が震える。
蒼灰色の瞳に、戸惑いと恐怖が入り交じり、心拍数の上昇を示すように、ふーっ、ふーっ、と乱れた呼吸がボールギャグの隙間から零れていた。
両の手足を拘束されているだけでなく、まるで全身をベッドに押さえつけられているかのように動かなくなったスコールだが、蒼い眼だけは、写真に写り込んだ己の姿を凝視していた。

 なんであんたが、そんなもの。
夢だと思っていたかった、それでも夢ではないと判っていた現実を、明確な形で突き付けられている。
それも、あの出来事を知らない筈の兄が、明らかにあの時、あの場所で撮られた写真を持っている。
何故、と混乱の眼差しを向けるスコールを見下ろし、レオンが写真を持つ指をずらすと、重なっていた他の写真が現れた。
どれも強姦されているスコールの姿が映し出されている。


「会社の俺のメールに届けられていた。解消度は酷いものだが、お前の顔ははっきり見える。お前が何をしていたのかも」
「んんっ……」


 レオンの手から写真が離れ、スコールの周りへとばら撒かれた。


「少し見ない間に、随分といやらしくなったものだな」
「…ふ、ぅ……っ?」


 失望の色さえ混じらせたような兄の言葉。
その意味が判らずに、スコールは眉根を寄せた。
レオンはスコールの反応にすら、冷ややかな眼を向けている。


「お前が自分で、こいつらを誘ったんじゃないか」
「……!」
「十七歳だからな。覚えた快感はそう簡単には忘れられないだろう。俺とセックスする時はいつも嫌がっていたが、最後にはみっともなく喘いでいたし、本当は気持ち良かったんじゃないか? 此処に男を咥え込む事に、味を占めていたんだろう?」


 レオンの指が、剥き出しのスコールの菊口に宛がわれた。
スコールは「違う」と言おうとしたが、ボールギャグに阻まれて、呻き声しか出ない。
言葉の代わりに弱々しく頭を振ったが、レオンは鼻で笑うだけだった。


「一週間、俺は家に帰らなかった。今まで毎日お前を犯していた訳じゃなかったが、これだけ間が開いたのは初めてだな。その間に、体が疼いたんだろう? 此処に欲しいってな───」


 形の良い指が秘孔に挿入され、スコールの肩が跳ねた。
局部からの異物感に、三日前に散々ぶつけられた痛みを思い出し、身動きの出来ない体が小刻みに震えだす。
ボールギャグの所為で歯の音が鳴る事はなかったが、なければがちがちと鳴っていたのは確かだろう。

 スコールの全身が氷に埋められたように強張り、レオンの指を締め付ける。
追い出そうと肉壁が指先を押していたが、レオンは構わずに、関節を曲げて入口の上壁を押し上げた。


「んうっ! うぅうんっ!」


 手枷足枷の鎖をがちゃがちゃと鳴らすスコールの瞳には、大粒の涙が浮かんでいる。
しかし、暴れる事も敵わない自分の体に、三日前の悪夢がより鮮明になって甦って来た。
それなのに、兄の見下ろす眼は、まるで汚物を見棄てようとしているかのようだ。
今まで兄に何度も犯されて来たが、彼のこんな貌は、一度も見た事がない。


「欲しくて堪らなくなって、街で適当に男を引っ掛けて、路地裏で乱交か」
「んんんっ…!」


 違う、とスコールは首を横に振った。
あれはただの強姦で、有無を言わさず路地裏に運ばれて抵抗を奪われ、彼等が飽きるまで蹂躙された。
スコールには、意思も人権もなかった。

 指の挿入がゆっくりと深くなって行き、スコールの体は益々強張る。
肉壁は侵入者を追い出そうとしているが、第二関節まで埋められた指は、容易く出て行こうとはしなかった。
爪先がくすぐるように肉壁を掠め、道を拡げるように円を描くように動く。
壁をなぞられる度にスコールの体がビクビクと跳ね、ギャグから零れる呼吸音のリズムが乱れて行く。


「うっ、んぐっ…! ふぅうっ…!」


 長く形の良い指が、根本まで深々と挿入されるた時には、スコールの体は全身が汗ばんでいた。
指を咥え込んだ秘口が、スコールの呼吸に合わせて伸縮し、ぴったりとレオンの指の形に開いている。

 直腸内で指が蠢く度、スコールは頭を振った。
手足の自由を奪われ、言葉も封じられたスコールには、それしか出来る抵抗がない。
しかし、涙を浮かべ、羞恥と屈辱で顔を朱色に染める弟の表情にすら、兄の表情は崩れない。
寧ろ、罰でも与えようと言うかのように、淫部で彼の指が激しく動く。


「んぅっ、ふぅっ! あふぅうんっ」
「此処とか、気持ち良いって覚えただろう。あいつらにも弄らせたんだろ?」
「───うんんんっ!」


 内壁の天井を撫でた指が、前立腺の膨らみに触れた途端、スコールの全身が魚のように跳ねる。
何度も刺激されて体に記憶された感覚に、スコールは体中の血が沸騰するように熱くなった。

 指は何度も同じ場所を撫でて来る。
交感神経が集中している場所を指の腹で押し上げられ、爪先で引っ掻くように擦られる度、スコールは喘ぎ混じりの悲鳴を上げていた。


「んあっ! は、ぐぅっ…! はくぅうっ…!」


 嵌められたボールギャグのゴムに歯が食い込み、声を殺そうとするが、覚え込んだ快楽に体が嫌でも反応を示す。
頭上にまとめられたスコールの腕がもがき、ベルトで繋がった首輪を引っ張った。
呼吸が詰まる苦しさに喘ぐように、ゴムを噛む歯が開いてしまい、悲鳴が溢れる。


「はふっ、ふっ、うぅっ……んんんっ!」
「もう一本だ」
「あうぅっ!」


 つぷ、と二本目の指が挿入されて、根本まで押し入れられた。
頭を振って拒絶しようとするスコールの意思に反し、秘孔はあっさりと新たな侵入物を受け入れる。


「簡単に入るようになったな。こんな事をしていたんだから、当たり前か」


 こんな事、と言ってレオンがスコールの眼前に翳して見せたのは、ベッドに散らばった写真の中の一枚だった。
男の欲望を深々と穿たれた局部がアップになって映っている。


「んっ、あぐ、ひがっ…ひがふぅうっ…!」


 違う、俺の意思じゃない。
嫌だって言った。
抵抗した。
スコールの言葉は何一つ形にならず、淫部を弄る指一つで溶けてしまう。

 前立腺の膨らみを二本の指で挟まれた。
電流のような快感が下肢を痺れさせ、スコールは胸を仰け反らせて喘ぐ。


「あふぅうっ! あっ、んっ、んぉおっ!」
「此処をどんな風に触らせた? どんな風に攻められた? 何人男を咥えたんだ?」
「ひっ、んっ! うぅんっ…ひは、ひがぅうぅんっ!」


 肉壁の膨らみを揉むように摘まんで捏ねられて、スコールはがくがくと全身を震わせながら、くぐもった声で叫ぶ。
違う、違うと繰り返すスコールだったが、レオンは聞かない。
ギャグを外す事もせず、一方的にスコールの直腸を嬲り、悶え苦しむ少年の姿を見て愉しんでいる。


「あぐっ、んん! ひ、んっ…んぁ…あぅんっ!」


 訴えも虚しく消え、ビクビクと震えていたスコールの体から、痺れを生む攻めがなくなったのは突然の事だった。
ずるりと皮肉をなぞりながら、秘孔から指が出て行く。
しかし、スコールの強張った体から力は抜けず、陰部の奥でひくひくと肉壁が艶めかしく蠢いているのを感じて、スコールは眉根を寄せてゴムを噛んだ。
そうしたスコールの肌から、珠のような汗が噴き出して行くのを一瞥し、ベッドの端に寄せられていた布団の塊の下から、何かを取り出す。

 乱れた呼吸と共に伸縮を繰り返していた秘孔に、硬いものが押し付けられる。
スコールが虚ろな瞳でレオンを見上げ、嫌、と首を横に振った。

 指の後に埋められるのは、彼の雄だ。
今日のこれまでのレオンの仕打ちからして、どんなに乱暴な扱いをされるか判ったものではない。
三日前の、入れ代わり立ち代わりに男の欲望で貫かれ、内臓が潰れるのではないかと思う程に激しく突かれた記憶は、スコールの脳裏にも体にも嫌と言う程刻まれている。
あの後、這う這うの体で家に帰ったスコールは、シャワーを浴びている時に自分に生えた男の象徴を見る事さえ出来なかった。
自分の体を何度も何度も犯したものが、自分にも存在している事を嫌悪する程、あの出来事はトラウマとなってスコールに根を張っている。
それなのに、スコールは身を捩って痛みと恐怖を誤魔化す事さえ出来ないのだ。

 細い腰を捩り、秘部を隠すように臀部を揺らすスコールを、レオンは太腿を掴まえて押さえつけた。
ずぷり、と太く硬いものが秘穴を開かせ、侵入してくる。


「んっ、うっ!? ふぎっ、はむぅううう…っ!」


 挿入されたものは、想像していたもの───レオンの雄ではなかった。
膨らみや形などはよく似ているが、男の欲望を凝縮させたかのような熱も、どくどくと脈打つ鼓動も感じられない。
指よりも太いそれに体温はなく、無機物を思わせる冷たさと、弾力のない表面が肉壁を押し開いて行く。


「あぶっ、うっ、ふぅ…! はひっ、い、ぅ…あぅううう…っ」


 直腸の行き止まりの壁が押し上げられて、スコールの腰がビクン、と跳ねる。

 足を開かせている拘束棒が持ち上げられ、スコールの下半身が浮き上がる。
突然の事に思わず腹部に力が入った。
同時に肉壁がぎゅうっと閉じて、埋められたものを強く締め付けてしまい、スコールの口から嬌声が漏れる。


「ふぅんっ!」
「見ろ」
「ひ、ふ……ふぅうっ…」


 ビク、ビク、と体を痙攣させながら、スコールはレオンの命令に首を横に振った。
しかし、見下ろす蒼い瞳が不機嫌に染まって行くのを見て、ぞくり、と悪寒が背中を奔る。

 スコールは恐る恐る、己の恥部へと視線を移した。
そして飛び込んで来たものは、レオンの雄でも、指でもなく、長太い円柱のような棒。
それがスコールの秘孔口を大きく開かせ、ずっぷりと、スコールの直腸の奥まで挿入されていたのだ。


「…は、ひ……はん、あ、おぅう……」


 何これ。
何だ、これ。
正体不明の物体が自分の体を貫いているのを見て、スコールは恐怖に震えた。
目を見開き、自分の陰部を凝視して震えるスコールに、笑みを浮かべたレオンが顔を近付ける。


「なんだと思う?」
「………っ」


 レオンの問いに、スコールはふるふると首を横に振った。
判らない、と怯えた瞳で見上げるスコールに、レオンは秘孔から突き出している円柱状の棒の先端に手を触れる。
かちり、と小さな音がした直後、スコールの体内に埋められていたものが、羽音のような電動音を鳴らして蠢き出した。


「ふぐっうっ! ふくぅぅううんっ!?」


 最奥を点いていたものが動き出し、行き止まりを探るように円を描く。
締め付けてぴったりと張り付いていた肉壁をなぞりながら開かれ、スコールは目を剥いた。


「んひっ、いぅっ、うぅん! はひっ、あひぃいっ!?」
「バイブだ。アダルトグッズのな。何処の誰だか判らない連中のを咥える位餓えていたんだ、これでも十分、気持ち良いだろう」
「ひっ、ひぐっ、うぅっ! ひはっ…! うぅうんっ!」


 蔑むような冷たい眼差しで言うレオンに、スコールは首を横に振った。
バイブは無機物らしく決まった動きを延々と繰り返しており、その攻めには緩急がない。
体内で激しく回転運動を繰り返し、奥壁を力加減もなく拡げられていく感覚に、スコールは頭を振って手足を暴れさせた。

 持ち上げられていた拘束棒が下ろされる。
浮いていた臀部がベッドに落ちた時、バイブが体内で角度を変え、肉壁の天井をごりごりと抉り始める。


「ひぎっ、いっ、んぐぅっ! あぐ、あ、むぅう…っ!」


 スコールは腹筋に力を込めて、下肢をベッドから浮かせた。
バイブがまた角度を変えて、奥壁を弄る。
力が抜けて腰を落とせば、飛び出している円柱が支えになって角度が代わり、また天井を抉られて、スコールは腰を浮かせた。

 バイブの刺激から逃げようと、仕切りに上下運動を繰り返す細腰を見て、レオンはくつくつと笑う。


「そんなにバイブが気持ち良いか。其処まで節操なしだったとはな。俺も驚いたよ、スコール」
「ひっひがっ…! ひがふ、んん! んっくぅぅ!」
「もっと奥まで入れてやろうか」
「やあっ、あっ、あぁああああっ!」


 スコールの訴える言葉など、レオンは聞いていなかった。
レオンの手がバイブを更に奥へと突き刺そうとする。
しかし既にバイブはスコールの最奥の壁に到達しており、これ以上深くへ潜るのは、バイブの形状に無理があった。

 レオンの手がバイブから離れ、頭を下げている中心部に触れた。
ぴくん、とスコールの腰が震える。
レオンはスコールの一物を掌で包み込むと、上下に扱き、裏筋の根本を指の腹でぐりぐりと押しながらなぞった。
ぞくぞくとしたものが背中を昇って来るのを感じて、スコールは喉を逸らして喘ぐ。


「ひっ、やっ、はふっ…! はぁらなっ…はんんっ!」


 触らないで、とスコールはくぐもった声で訴えたが、やはりレオンには聞こえない。
レオンは、スコールの雄が起き始めると、覆っていた包皮を剥き、両手で包み込んで激しく上下に扱いて刺激を与え続けた。


「はっ、やっ、やぁっ…! あむ、んあ…あぁあっ!」


 括れた冠の裏側の凹みを爪先で擦られ、スコールの太腿がわなわなと震え、秘孔が閉じてバイブを締め付ける。
激しいバイブの動きが嫌と言う程リアルに判って、スコールは吐き気を覚えた。

 レオンはスコールの竿を扱きなら、スコールの体に覆い被さった。
汗ばんだ胸に、ねっとりとしたものが這う。
見ると、レオンの舌がスコールの胸を撫でていた。
唾液を帯びて艶めかしく光る舌を見たスコールは、肉食動物が捉えた獲物を味見している姿を連想した。


「ひ、ぃ……!」
「……は……ん…」
「や、やら、あ…! あふ、ううんっ!」


 レオンの舌がスコールの胸の頂をくすぐる。


「……此処は…どうやって触らせた…? どう触られたんだ…?」
「ひはっ…! あ、や…、ぅ、う、んんっ…!」


 触らせた訳じゃない、どう触られたかなんて覚えていない。
首を横に振って訴えるスコールだったが、レオンは構わず、スコールの乳首に歯を立てた。
カリッ、と食い込んだ歯に、スコールが悲鳴の混じった声を上げる。


「ひきっ、いぅうっ!」
「ん、ふ……」
「ああっ…あ…っ!」


 痛みに震えるスコールを労るかのように、レオンの舌がじっくりと噛んだ乳首を舐る。
じゅる、と唾液を絡めて乳輪の形をなぞられた後、尖らせた舌先で乳首の頭を穿るように嬲られる。

 レオンの手はスコールの雄を愛撫していた。
根本から先端までを丹念に余す所なく扱かれ、根本と袋を転がすように揉まれる。
乳首を吸われながら、肉棒の先端を爪先で擦られて、スコールは頭の中が白熱するのを感じていた。
息が詰まるスコールの体は、ビクビクと跳ね、秘孔に挿入されたバイブが与える痛みは、いつの間にか遠退いている。


「あふっ、はっ、ふぅん…! ふっ、くぅ…ん…!」
「は……上も下も、立ってるぞ。あいつらにやらせた時も、こんな風にいやらしく誘ったんだろう?」
「んんっ…! はくぅんっ!」


 スコールにレオンの言葉に答える余裕はなく、体内外の両方から絶え間なく与えられる刺激に翻弄される。
レオンの手が竿の裏筋を、首の凹みを撫でる度に、びりびりと甘い痺れがスコールの腰から響き渡り、それに引き摺られるようにして、膨らんだ乳首に舌先が触れるだけで、今は官能を呼び起こそうとしている。

 胸板にかかるレオンの吐息に、熱が含まれている。
スコールの蒼い眼は完全に劣情に流されつつあり、涙も恥辱からなのか、生理的嫌悪からなのかも判らない。
どちらにせよ、スコールの躯は既に彼の意思を離れており、与えられる快感に服従しようとしていた。

 レオンの手の中で、スコールの雄がはち切れんばかりに大きく膨らんでいる。
包んでいた手を離してやれば、頭はすっかり天を向き、ぴくぴくと解放への刺激を欲しがるように震えた。

 レオンはもう一度スコールの雄を包み込み、蕩けた表情で虚空を仰ぐスコールに顔を近付けると、低い声で耳元へと囁いた。


「イかせてやる」


 ────女であれば、それだけで絶頂を迎えるのではないだろうか。
低い声は耳に心地よく、支配されたい、と聞く者に思わせる。

 膨らみの裏側の筋───海綿体をレオンの指が激しく擦る。
更に先端の尿道口をぐりぐりと抉られて、スコールは背を弓形に逸らし、頭が真っ白に白熱するのを感じた。


「はぐっ! はくぅうっ! はあぁぁぁあんっ!」


 ビクッビクッビクッ、と四肢が大きく痙攣し、閉じられない太腿が激しく震えて、スコールは絶頂した。
放たれた蜜液がスコールの腹と下肢、レオンの手をしとどに濡らす。
ねっとりとした蜜液は、濃い乳白色をしており、それを見たレオンがくつくつと笑って、汚れた手をスコールの頬に拭い付けた。


「は…や…んんっ…!」
「遊んでいた割には、溜まっていたようだが。気持ち良くして貰って、毎日イってたんじゃないのか?」
「……っ」


 レオンの言葉に、スコールは首を横に振った。

 男達は、スコールに官能など一度も与えていない。
彼らは自分の好きなようにスコールを攻め立て、勝手に欲望を放って帰って行った。
スコールは挿入された前後は勿論、雄に手淫を施された時でさえ、勃起する事もなければ感じる事さえ皆無だった。
覚えているのは触れる手が気持ち悪かったと言う事と、あれは性交にすらならない、単なる暴力だったと言う事だ。

 だが、それを伝えたくても、スコールに言葉は許されない。
ボールギャグは外されないまま、スコールの口に嵌められている。
飲み込めない唾液が口端とゴムの穴から溢れ出し、だらしなくスコールの喉元を汚していた。

 絶頂直後の余韻で、弛緩しているスコールの躯が、ビクッ、ビクッ、と小刻みに跳ねる。
陰部に埋められたバイブが、締め付けの抵抗を緩めたスコールの秘奥を弄り続けていた。
射精して尚熱を持て余す体を、バイブは好機と見なしたかのように攻め続ける。


「はっ、はぅっ…! ん、ん、ぁっ…! あぁ…っ!」


 挿入時のような嫌悪と絶望の声は消え、零れるスコールの呼吸には、艶が篭り始めていた。
奥壁を抉られる事に、最早痛みは感じておらず、じわじわと官能が芽吹き始めている。

 レオンはバイブを掴むと、角度を変えて上壁に先端を押し付けた。
スコールの腰が付き出されるように浮き上がる。


「はひっ、ひっ…! ひぃいん…!」


 かくっ、かくっ、とスコールの腰が頼りなく震えている。
レオンは目を細め、内部を探るようにバイブを何度も角度を変えて突き入れた。


「あっ、あっ、やっ、あぁっ…! あ、ああっ!」


 弄る内に、スコールが何度か強い反応を返すポイントがあった。
其処を狙って深く突き立て、円柱の尻についているボタンを押す。


「───ああっ! ふぁん! ひっ、ふぉっ、はぉおっ!」


 スコールは、腰を突き出すような格好で浮かせたまま、がくがくと震えながら硬直した。
ぐりぐりと円運動を始めたバイブが、スコールの前立腺を抉りながら壁を押している。


「はぅ、うっ、あぅんっ! んぐっ、んっ、んっ、ふひぃいっ!」
「勃起してるぞ。さっきイったばかりなのに。それも、尻しか弄られていないのに」
「ひっ、あひんっ、ひぃんっ! やぁ、あふ、おふぅっ! ほぉっ、はえぇえっ…!」


 神経が集中している場所を機械で絶え間なく攻められて、スコールは呼吸も出来なくなっていた。
ギャグを噛まされた口は、ただただ喘ぎ声ばかりを上げている。

 尻穴からの刺激だけで、スコールの雄は再び立ち上がろうとしていた。
そんな自分が嫌だと思うのに、躯はスコールの自由にならず、絶え間なく続く快感に屈服して行く。
攣りそうな程に強張った足は、閉じようと言う抵抗さえも忘れたように限界まで開かれ、機械を咥えた陰部を凌辱者の前に余す所なく曝け出していた。


「あっ、やぇっ、やめぇっ…! あ、あ、ひふ、ひふぅううっ…!」


 ギャグを咥えた口が、必死になって訴えた。
それを聞いたレオンは、冷水を浴びせるような冷たい眼差しでスコールを見下ろし、


「バイブでアナル攻めされてイくのか」
「ああっ、あっ、んぅっ! あぅんっ! ひっ、いぃい…!」
「俺がお前を抱いている時は、嫌がってばかりだったのにな。俺以外の男に犯されて、バイブで攻められたら、イくのか」
「ひっ、あっんん……────くぁああっ!」


 ずりゅりゅりゅっ! と、バイブが一息で引き抜かれて、スコールは悲鳴とも嬌声ともつかない声を上げる。
突然の攻めの変化について行けなかったスコールは、ひくひくと全身を痙攣させ、虚ろな眼で天井を仰いだ。

 ベルトを外す金属音が聞こえ、衣擦れの音。
ぎしり、とベッドのスプリングが軋んだかと思うと、スコールの躯が俯せにされた。
急な視界の反転に目を回している暇もなく、スコールの躯は抱き上げられ、レオンの膝上に乗せられ、ぱっくりと口を開いた秘孔に、肉棒が宛がわれた。


「お前みたいな淫乱は、躾け直してやらないと駄目だな」


 そう言ったレオンは、スコールが違う、と首を横に振るのを無視して、己の欲望で熱に熟れた体を最奥まで貫いた。


「───ふっああぁぁぁんっ!」


 手足の拘束の所為で、スコールは自らの体重を自分で支える事も出来ない。
膝裏を持ち上げられたスコールは、自重によって反り返った雄を一気に奥深くまで咥え込む。
その直後、スコールは激しい官能に襲われ、先走りと言うには多い蜜を噴き出した。

 びゅるるっ、と放物線を描いて吐き出された蜜液は、スコールの下肢を白く汚し、白いシーツにも幾重ものシミになって広がる。


「あっ…は…」
「入れただけでイったか。それも、後ろだけで」
「は、ふぅっ……」


 首輪の隙間から、項に滑り込むレオンの吐息に、スコールの躯が震え、秘穴に埋められた雄が締め付けられた。
ふぅん、とその反応に気付いたレオンが声を漏らし、首輪の下に舌が這う。


「んぁっ、あっ…!」


 スコールは、頭上に戒められたままの腕でもがいたが、手枷と繋げられたベルトの所為で、首輪が自分の首を絞めるばかり。
後頭部で手を握り開きさせるのが精々で、レオンの髪に指先が掠るのが精々だった。

 逃げを打つように腰を捩るスコールだが、金属棒で開かれた状態で固定された足で、深々と挿入された肉棒から逃げる手段などある筈もなく、それ所か、腰を抱くように回されたレオンの腕に固定され、背後からの突き上げに揺さぶられるしかない。


「あっ、おっ、んぉっ! ふっ、あふぅっ!」


 媚肉を抉りながら前後に激しく動かれ、最奥を先端で強く突き上げられる度、スコールは自分の体が燃えるように熱くなって行くのを感じていた。
腹部の奥をずんずんと突かれ、体を真っ直ぐに支える事が出来なくなり、レオンの胸に身を預けるように寄り掛かると、彼の吐息が耳元にかかった。
ちゅく、と耳朶を生暖かいものが這って、スコールの背中にぞくぞくと甘い痺れが走る。


「はっ、はふっ…うぅん! んくぅっ…!」
「前よりずっと締め付けてるな。やっぱり味を占めたんだろう? 此処が気持ち良いって」
「あぐっんあぁあっ!」


 ぐりゅっ! と秘奥を抉られ、スコールは官能の声を上げた。
金属棒に繋がれた足が爪先まで強張り、ビクビクと痙攣するように震えている。

 レオンは抱えていたスコールの膝裏を、顔の横に来るまで持ち上げてやった。
赤ん坊に尿意を促すような格好にされ、肉棒が出入りする秘孔を見せつけられ、スコールの呼吸のリズムが更に上がって行く。
はっ、はっ、とボールギャグの隙間から短い呼気が零れ、それもレオンが腰を動かせば、容易く途切れて喘ぎ声になる。


「はっ、はぅっ、んん! ひん、ひぐっ、はぶぅうっ…!」
「く……っ」


 スコールの耳元で、レオンが息を殺す。
耐えるように唾を飲む音を聞きながら、スコールは己の体内を押し上げている雄の熱を感じていた。


(なん、だ、よ……これ…ぇ……)


 熱くて硬くて太いものに最奥を突き上げられる度に、頭の芯がドロドロに溶かされて行く。
今までレオンに何度も抱かれて来たけれど、こんな感覚に陥るのは初めての事だ。
三日前に沢山の男達に囲まれ、強姦された時には、痛みと悍ましさしか感じなかった。
ただ欲望をぶつけられているのは、今までも、三日前のあの時も同じ筈なのに、体が拾う官能の激しさがまるで違う。
自分の秘孔にレオンの肉棒が出入りする様を目にする度に、まるで興奮しているかのように、己の心臓が有り得ない程に逸るのが判った。

 レオンの手がスコールの腹を撫で、胸を撫でる。
ツンと膨らんでいた胸の頂が摘まれ、先端を引っ張られる。


「あっあふっ! んあぁ…!」
「尻を掘られながら、胸も触られて、────此処も弄られていたな」
「んはぅうっ! らめ、は、ふくぅっ!」
「お前は何処が一番好きなんだ?」


 腰を抱いていたレオンの手が下がり、とろとろと先走りの蜜を溢れさせていた中心部に触れる。
乳首、雄、秘奥と三点を一挙に攻められて、スコールは白目を剥いて喘ぎ声を上げていた。


「んぉ、はう、あんぅ! あっあっ、あぶっ、ふぉうっ!」


 レオンの雄が肉壁の上部を突き上げる。
前立腺を深く抉られて、スコールの躯はビクビクと跳ねた。
乳首を摘まれ爪先で捏ねられながら、竿をしゅこしゅこと激しく扱かれ、スコールの躯の毛穴全てから珠のような汗が噴き出していた。
レオンの舌が、汗ばむスコールの首の後ろを舐める。
そんな些細な刺激さえ、今のスコールには甘く激しい責め苦であった。

 スコールの瞳には、最早正気は残っていない。
自由を奪われた躯は、与えられる激しい快楽に悦ぶように反応を示し、咥え込んだ雄をぎゅうぎゅうと締め付けて離さない。
絡み付いた肉壁に、熱い塊の鼓動のような脈が伝わって来る。
その鼓動を感じた途端、スコールの躯は、全身に迸る甘い痺れに陥落していた。

 レオンの手に包まれたスコールの雄が、ビクビクと震え、限界を訴える。


「ひっひふっ、ひぅうっ! れお、んぐ、いふぅぅうんっ!」
「くあ……うぅうっ!」


 スコールの雄から、白濁液が飛び散った。
全身の筋肉を強張らせたスコールの体内で、肉壁が一際強くレオンの雄を締め付ける。
息を詰まらせたレオンの雄が、体内でびくん、びくん、と強く跳ね、直腸の壁に精液が勢いよく放出される。


「ひふっ、くふぅっ! おふぅうううっ!」


 叩き付けられた熱液を悦ぶかのように、スコールの淫肉が蠢き、レオンの雄にねっとりと絡み付く。
スコールは虚空を見上げて放心していたが、その躯は未だ熱を持て余しており、咥え込んだ雄をきゅうっ、きゅうっ、と締め付ける。
まるで更なる劣情を欲しがるように震える弟の躯を見て、レオンが忌々しげに唇を噛んだ事を、スコールは知らない。

 絡み付く壁を擦りながら、ずるり、と肉棒が後退して行く。
スコールは呆けた表情のまま、終わるんだ、と思った。
レオンの気さえ済んでくれれば、スコールがどんな状態であっても、一方的な性交は終わりを告げる。
やっと、今日も終わりなんだ、とスコールは思っていた。

 しかし。

 レオンは、秘口が雄の首に引っ掛かった所で、抜くのを止めた。
スコールの躯をベッドに俯せに落とすと、腰を高く上げさせ、また最奥まで一気に貫く。


「ああぁんっ!」


 絶頂と、ようやく解放されるのだと言う安堵感を感じていたスコールの躯は、秘孔内部も緩みかけていた。
其処へ不意打ち同然に突き上げられ、スコールの躯は、目の前が白熱する程の強い痺れに貫かれる。

 直ぐに律動が始まった。
射精したばかりだと言うのに、レオンの雄は既に硬く反り返っており、スコールの肉壁をずんずんと激しく押し上げる。
先の射精の蜜を潤滑油の代わりにして、雄は今までよりもスムーズに直腸を出入りし、痛みのない官能をスコールの躯に覚え込ませようとしていた。


「んおっ、おうっ、おふぅっ! んっれお、れおっ、あん、ええっあぅんんっ!」


 なんで、と問う声は、前立腺を突かれた瞬間の快感に飲み込まれた。


「はひっ、はぶっ、んん…っ! おっんおっ、や、あぁ……!」


 スコールはシーツに埋もれたまま、頭を振って、レオンに解放を求めた。
駄目なら、せめて呼吸と手枷を解いて欲しい。
がちゃがちゃと首輪と繋がれたままの手枷を鳴らして訴える。
このままの格好では、スコールはベッドシーツに縋る事すら出来ないのだ。

 だが、レオンは涙と涎と汗でぐちゃぐちゃになったスコールの顔を一瞥すると、ずんっ! と一際強く雄を突き込み、ビクビクと四肢を痙攣させる弟を見下ろし、


「躾け直しだと言っただろう、スコール。他の男の味なんて、全て忘れさせてやる。お前には俺しかいないんだと言う事を、この躯に刻んでやるんだ。それまで、自由になれると思うなよ」


 冷たい瞳で、笑みを浮かべる兄の貌に、スコールの眦から大粒の涙が零れ落ちる。

 他の男なんか知らないのに。
あれは俺の所為じゃないのに───何を言おうとも、いや、言う事すらもスコールは許されない。
例え言う事が出来ても、レオンは弟の言葉を信じる事はないだろう。
そんな事は判り切っていた筈なのに、何故か酷く傷付いている自分がいた。



†† ††   †† ††



≫[籠ノ鳥 2-4]