籠ノ鳥 4-3
R-18 / 拘束、玩具、射精管理


 車を下りる時から、スコールはずっとレオンに腕を引かれていた。
痛いから離せと言っても、レオンは赦さなかった。
そのままエレベーターを上がり、玄関の敷居を跨いでスコールの部屋に入るまで、レオンはスコールの腕を放さなかった。

 十日振りに見た自分の部屋は、教材類を取りに戻った時と同じく、殺風景なままだった。
ベッドも最後に抜け出した時のまま、皺の形すら変わっていない。
少し埃臭く思えたのは、無理もないだろう。
誰も使わない場所と言うものは、使用している場所よりも埃が溜まり易く、人知れず劣化して行くものだ。

 部屋に入るなり、レオンは「脱げ」と言った。
主語も何もない命令に、スコールが戸惑って立ち尽くしていると、レオンは今度は「服を脱げ」と言った。

 何が行われようとしているのか、直ぐに理解して、スコールは命令に従った。
着ている服は、下着以外は全てティーダからの借り物だ。
命令を拒否して、破られたりしては目も当てられない。
どうせ嫌だと言っても命令は撤回されないし、これ以上レオンの不興を買う事に意味もない。

 服を脱いで行くスコールを、レオンは具に見ていた。
何度も犯されたのだから、その分、裸も見られている。
だが、スコール自らが服を脱いで行くのは初めてだ。
いつもレオンは一方的にスコールを組み敷き、衣服を剥いで、無理やり性交に雪崩れ込んでいた。
それだけでもスコールには悔しい出来事だったのに、自ら服を脱いで裸身を晒し、その様を観察されている等、屈辱感は今までの比ではなかった。

 スコールが裸身になると、レオンはベッドに四つ這いになれと命じた。
言われるままにスコールがベッドに這うと、レオンは勉強机の引き出しから手枷と足枷を取り出し、スコールの右手と右足、左手と左脚をそれぞれ繋いだ。


「……っ…」


 両の手が足元で固定され、スコールは上半身をベッドに俯せた。
腰だけが高く掲げられ、足が手と繋がれている所為で閉じる事が出来ず、尻も秘孔も雄も、全てが露わにされ、隠そうともがく事さえ出来ない。

 冷たい手がスコールの臀部に触れた。
ビクッ、とスコールの身体が震えるが、手は構わずに形をなぞるようにゆったりと撫でる。


「…う……ぅ…っ」


 指先が会陰を押す感覚に、スコールは喉奥から零れかけた声を、シーツを噛んで殺した。


「最後にお前を犯してから、二週間───いや、もう三週間になるな」


 会陰を辿り、袋を揉むように転がしながら、レオンは言った。
スコールはシーツを噛んだまま、下肢から上って来る感覚を無視しようと耐える。


「いつからティーダの所にいた? その間、此処の処理はどうしていた? また前のように、その辺で誰か引っ掛けたか?」


 レオンの言う"前"とは、スコールが見知らぬ男達に集団でレイプされた時の事だろう。
あの時もレオンは、あれはスコールが自ら誘ったのだと決めつけていた。
未だにあの出来事はスコールの自発によるものだと思っていたのか。

 思い返せば、あの時、スコールは否定の言葉すら許して貰えなかった。
だが、今は言葉を遮るものは噛まされていない。


「…そん…な、事…しない……一度も、して、ない…っ」


 男に犯されて喜ぶような人間じゃない、とスコールは背後の男を睨んで言った。
それを見たレオンは、ふぅん、と特に興味もない風に呟いた後、スコールの秘孔に指を突き入れた。


「んあぁっ!」


 三週間ぶりに異物を押し込まれた秘孔は、はっきりと抵抗を示した。
挿入された指を追い出そうとするように、菊座の肉壁がレオンの指に絡み付いて締め付ける。

 動かない手足で辛うじてもがくスコールを見下ろしながら、レオンは肉壁を押し広げ、指を奥へと侵入させて行く。
指先が壁のヒダを撫でる度、スコールの身体が小刻みに震えた。


「ひっ、ひうっ…!」
「そうか、別に外に出て誰かを引っ掛ける必要はないな。ティーダかジェクトを誘えば良い。で、どっちに相手をして貰ったんだ?」
「んくっ…! あんた、と、一緒にぃっ…するなあ……っ! そんな、そんな、あ、事…おぉっ!」


 第一関節まで入っていた指が、一気に根本まで突き入れられ、スコールは目を見開いた。
指先が前立腺の膨らみを掠めた瞬間、スコールの身体が跳ねて、甲高い声が上がる。

 爪先で前立腺を擦るように何度も引っ掻かれ、スコールは三週間ぶりに味わう強い快感に、頭が一気に白熱するのを感じた。


「あっ、んぁっ! ひ、ぃっ! そこはぁ……っ!」


 折り畳まれた姿勢のまま、スコールは腰を高く掲げた。
左右それぞれの手足を繋がれたスコールには、それしか出来る抵抗はない。
しかし、ヒクヒクと尻たぶを痙攣させながら腰を掲げ揺らめかせる様は、卑猥でいやらしい動きをしているようにしか見えない。

 レオンは二本目の指を挿入させた。
増した圧迫感にスコールの喉が引き攣ったが、痛みらしい痛みは薄く、二本の指で前立腺を挟むように摘ままれて、白目を剥いてしまう。


「やぁ、あぁあっ! やめ、えぇ…っ! あっ、あっ、あっ…!」


 摘まんだ前立腺を指先で捏ねるように嬲られ、スコールの口から甘い声が漏れ始める。


「本当に誰ともやっていないのか? その割には、随分と反応が良いじゃないか。感度はまるで鈍っていないようだが?」
「ひっ、あひっ…い…! んんっ……あぁんっ!」


 唇を噛んで喘ぎ声を殺そうとすると、内壁の肉を引っ張られて、スコールは堪らず叫んでしまう。
レオンによって、散々開発された躯だ。
彼の指一つで、容易く陥落するように躾けられているのだと、スコールは否応なく思い出させられた。

 秘孔内を弄りながら、レオンのもう片方の手は、スコールの中心部へと伸びていた。
其処はまだ一度も触れられていないにも関わらず、反り返り始めている。
指が足の付け根から袋を辿り、竿の根本をくすぐると、ピクン、ピクン、と雄が反応を示した。


「嫌っ、やぁっ…! さわっ、る、なぁあんっ!」


 足と繋がれた腕で抵抗を示そうとするが、前立腺をぐりぐりと押し上げられて、拒否の声さえ喘ぎ声に取って代わられる。

 レオンはスコールの竿を包み込むと、前後に激しく扱き始めた。
スコールにとっては、実に三週間ぶりの性器への刺激である。
若い性欲はあっと言う間に膨張を始め、むくむくと質量を増して行き、先走りの蜜が溢れ始める。


「んぁっあっ、あぐっ、うぅん! や、あ! ひぃいっ…!」
「なんだ、もうイきそうか? まだ始めたばかりだろう。もう少し我慢しろ」
「ああっ、あぁあっ! ん、んっ、あぅっ! はぅう…っ!」


 レオンの命令に従って、スコールは競り上がって来る劣情を堪えようと歯を噛んだ。
下腹部に力を入れて、先走りの蜜を止めようとする。
同時に秘孔が強く閉じ、レオンの指を痛いほどに締め付けた。

 しかし、体内の熱が押し出されようとする躯を治める事など、出来る訳がない。
ぞくぞくと腰全体に甘い痺れが走り始めた時から、スコールの身体は既に絶頂へ前段階に到達していたのだから。

 抉るように前立腺を押し上げ、爪を当てられて、スコールは細い腰をくねらせて悶え喘ぐ。


「あひっ、ひぃっひぃいん! や、イ、んぅうっ!」


 シーツに額を擦りつけ、布地を噛んで声を殺すスコールだったが、出口前までせり上がって来た熱を押さえる事は出来ない。
どくん、とレオンの手の中で、スコールの一物が強く脈打った。
その直後、レオンが竿の根本を強く握り、競り上がっていた熱が出口をふさがれて逆流するようにスコールの躯に襲い掛かる。


「んあぁあぁっ!」


 解放とは程遠い、焼き切られるような激しい熱に襲われて、スコールは足の爪先を丸めて背を仰け反らせた。
手足を繋ぐ拘束具のベルトがぎちぎちと張り詰める。

 数秒間、スコールは四肢を強張らせたまま、ビクッビクッと痙攣を起こしていた。
それも過ぎると、躯が弛緩し、レオンの指を締め付けていた秘孔も緩む。
しかし、躯の最高潮に昂ったまま、吐き出し損ねた熱が内臓で暴れている。

 レオンが雄の根本を握っていた手を解くと、勃起したままの肉棒の先端から、とろりと白濁色の蜜が溢れ出した。


「ちょっと見ない間に、だらしなくなったな。これだけでイけるようになっているとは思わなかった。躾し直す必要がありそうだな」


 そう言うと、レオンはズボンのポケットから輪ゴムのようなものを取り出した。
太目のシリコンゴムが伸びて、スコールの雄を潜り、根本でばちん、と音を立てて閉じる。


「痛ぅっ…!」


 伸びたゴムが戻る反動で、皮膚も肉も薄い急所を叩き、スコールは痛みに眉根を寄せた。
痛みが引くと、次に襲って来たのは下半身の窮屈さだ。


「っは…痛……な、に…」
「コックリング。射精管理に使われるものだ」
「か、んり……?」


 事務的な説明をするレオンだったが、痛みと快感と熱で思考が蕩けたスコールには、彼の言葉の意味すら汲み取る事が出来ない。
亡羊とした瞳で背後のレオンを見上げていると、陰部に埋められていた指が、ずりゅ…と抜けて行った。
官能のスイッチを限界まで高められたままのスコールには、それさえも快感になり、「あっ、あ、」と甘い声が漏れる。

 レオンの指で拡げられた秘孔が、レオンの前で捧げるように高く掲げられ、ヒクヒクと伸縮を繰り返している。


「っは…あ…あぁ……」


 悩ましい声を漏らすスコールを見ながら、レオンはベッドを下りた。
レオンは、枷を入れていた学習机の引き出しを開けると、奥に転がっていたもの───雄の形と、その根元に小さな突起を持ったアナルバイブを取り出す。

 ベッドに戻ったレオンの前で、スコールの秘孔がヒクヒクと切なげに伸縮している。
レオンは小刻みに震える臀部をゆったりと撫で、ベッドに片膝を乗せた。
ぎしり、とスプリングの軋む音に、スコールの躯が怯えるように跳ねる。
逃げを打つように身を捩ろうとするスコールに気付いて、レオンの双眸に冷たい光が宿る。

 空を切る短い音の後、ばちん! と弾ける音がした。


「ひぃっ!」


 反響する音と、臀部からじんと広がる鈍い痛みに、スコールは息を飲んだ。
続けざま、ばちん、ばちん、と音が響いて、がちがちと歯の根を鳴らしながら頭を伏せて蹲る。


「ひっ! ひぅっ!」
「逃げるな」
「あくぅっ! あっ…あ、はぅ……っ」


 ひりひりと痛みを訴える尻たぶを掴まれ、力任せに握られて、スコールは夢中で何度も頷いた。
言う通りにする、と。

 尻叩きなんて幼稚な刑罰でも、折れたスコールの心には効果的なものだった。
殊更に響く音や、無防備な尻を強く叩かれる度、背後の暴君に逆らってはいけないのだと言う暗示に支配されてしまう。

 レオンはスコールの秘孔に、バイブを宛がった。
レオンとセックスをする時、拘束具は毎回のように使用されていたが、それ以外の淫具を使われる事は滅多にない。
それでも、人間の一物とは違う、人工的な冷たさに与えられる絶望感は、身も心も記憶していた。


「や、嫌だ……レオ、ン……」


 懇願した所で、レオンがスコールの言葉を聞いてくれる筈もなく、ぐぷ……と先端が秘穴を押し広げた。
硬く冷たい異物が挿入されて行く感覚に、スコールは頭を振って身悶える。


「いっ、あっ、…んぅうっ!」
「力を抜け。奥まで入らないだろう」
「う、う、う……」
「力を抜けと───言っている!」


 レオンの手が、スコールの臀部を叩く。


「あぁあっ!」
「ちゃんと言う事を聞け」


 絶対零度の地を這うような声色に、スコールは唇を噛んで、意識して深呼吸を繰り返す。
ふーっ、ふーっ、と荒い呼吸を続けて、腹部や肩の強張りが解けるように努める。

 少しずつスコールの躯の力が抜けて行くと、くぷ、ぬぷ…と秘孔にバイブが埋められていく。
自ら淫具を受け入れる準備を務めている事に、スコールの顔が羞恥と屈辱で朱色に染まった。


「ん───うぅんっ…!」


 挿入されたバイブが、スコールの弱い箇所を押し上げた。
ビクッ、ビクッ、と太腿を痙攣させるスコールに、此処か、と小さく呟いた後、レオンはバイブを一気に根本まで突き入れた。


「んぁあんっ!」


 前立腺を強く深く突かれて、同時に根本の突起に会陰部を押され、スコールの躯に戦慄が走る。
強い官能がスコールの下肢全体を襲い、血が一ヵ所に集まるように中心部を熱くしたが、嵌められたコックリングによって根本から先へ行こうとしない。
苦しく成る程の躯の熱に、スコールは背を丸めて悶えるしかなかった。

 全身から汗を噴き出させているスコールを見ながら、レオンはバイブの根本のコントローラースイッチを入れた。


「ひぐっ、うぅうんんっ!」


 虫の羽音に似たモーター音が鳴り出し、バイブの先端の括れがぐるぐると回転を始め、スコールの肉壁が擦られる。


「うあっ、あっ! あぁあっ! 嫌あぁっ…!」


 スコールは腰を高く掲げ、逃げ場を探すように夢中で尻を振った。
しかし、バイブは秘奥の深くまで食い込んでおり、締め付ける肉壁の圧力で固定されてしまい、スコールがどれだけ体を捩らせても、抜け落ちる事はない。

 手も足も繋がれているスコールは、自分の手でバイブを抜く事も許されない。
回転する先端で前立腺を舐めるように擦られる度、スコールの下半身から力が抜けて行く。
更に、会陰に触れた突起が小刻みに振動し、交感神経の手中する場所を苛めていた。


「あ、あ、あ、あ! やあ、ひぃん! やめっ、あぁあん!」


 拒絶の言葉さえ、スコールは満足に紡げない状態になっていた。
官能のスイッチを限界まで高められたままのスコールは、肉壁を抉り弄る激しい攻めに、シーツを舐めながら声を上げる。
三週間ぶりに与えられる秘孔への激しい快感に、躯はあっさりと快感に従事する事を選んでいた。

 中心部に集まった熱が、出口を求めて暴れていたが、スコールに解放が訪れる事はない。
根本を戒めるコックリングの所為で、熱は一向に放出される事なく溜まって行く一方。
あまりの苦しさにスコールはベッドシーツに雄の先端を擦りつけ、その刺激で自ら絶頂を迎えようとしていた。


「ベッドでオナニーか?」
「ああっ、あんっ、あぁ…! ひ、だめ、あぁあっ…!」
「全く───はしたない、なっ!」


 呆れたような声で言いながら、レオンの手がスコールの尻に振り下ろされる。
ばちぃん! と高く響いた音に、スコールは背を仰け反らせて喘いだ。


「やぁあっ! あっ、ああっ! 違う、違うぅうっ!」
「何が違う? イきたくて仕方がないんだろう?」
「あぁっ……! やめっ、触る、な…あぁん!」


 尻を叩いていたレオンの手が、スコールの竿の根本に触れた。
コックリングが痛い程に食い込んでいる其処を、指の腹でごしごしと擦るように刺激されて、スコールの腰がビクッビクッと跳ねる。
裏筋を辿られ、カリ首の縁をなぞられ、尿道口を指先で抉られ、スコールは声を失う程の快感に、涙を浮かべて頭を振った。


「うっ、んんっ! あ、ふ…はくっ、いあっ…あぁあ…!」


 竿を丹念に愛撫されて、スコールは高まる射精感に躯を反らす。
しかし、熱は一番熱い場所に集まったまま、先には進まない。

 スコールの呼吸のリズムが逸り、反り返った一物がピクピクと震えている。
血管が浮き上がる程に熱を集めて膨脹した雄は、解放の直前まで昂ったまま、完全に行き場を失っている。

 痛い程に膨らんだスコールの雄を放置して、レオンの手が離れた。
秘孔を貫く玩具はそのままに、レオンはベッドを離れる。


「はっ、あっ…! や…何処、に……」


 こんな様にしたまま、一体何処に行こうと言うのか。
恐怖と戸惑いで問うスコールを一瞥し、レオンは机の椅子に座ると、鞄からノートブックパソコンと煙草を取り出した。


「急ぎの仕事は終わったが、まだやる事があるんだ。仕事が終わるまで、お前はそれで遊んでいろ」
「待っ…こんな、あぁっ…! ひっ、あっ、ああっ」
「コックリングもそのままだ。お前はどうも、イキ癖がある上に、何度かイくと直ぐに失神するようだからな。ついでに我慢できるようになっておけ。その辺の男を引っ掛けないように躾もしないといけないしな」
「そんな、そんな事…しな、あぁあっ…! ひっ、あひっ…! や、んぅうっ!」


 最も強い官能を感じる状態で、放置される。
スコールは蒼白になった。
今の状態でも、頭の中が溶けてしまいそうなのに、レオンの仕事とやらが終わるまで、この状態が続くのか。
早く終わって欲しいと言う願いさえ、このままでは敵わない。

 興味を失ったようにパソコンに向き直る兄の名を呼ぼうとして、出来なかった。
陰部を弄る玩具によって、口から出る言葉は全て喘ぎ声に取って代わられた。



 艶を含んだ少年の喘ぎ声と、パソコンのキーボードを叩く無機質な音が響く。
部屋の中は、煙草の煙と匂いで充満していた。
軽い煙は大気の上へ上へと逃げたが、窓もドアも締め切られている所為で逃げ場がなく、室内に溜まって行く一方だが、レオンは全く気にしていなかった。

 必要な情報に目を通した後は、情報を整理し、時系列順に並べながら見易くまとめて行く。
単調で地味だが、時間のかかる作業である。
秘書として雇っているクラウドには、この手の作業は任せられないので、レオンが自分でやるしかない。
年末が近く、猫の手も借りたい忙しさだが、レオンは文句を言わずに全ての案件に目を通し、片付けた。

 耳に届く喘ぎ声の事は、意図的に自分の意識の範疇から排除した。
時折、助けを請うようにレオンの名を呼んでは、甲高い悲鳴を上げているのも聞こえたが、無視の姿勢を貫く。
視界に入れば腹が減るのが目に見えていたので、振り返りもしない。
レオンのそんな態度が、声の主の不安を殊更に煽るらしく、彼はある一時、それしか言葉を知らないかのように、レオンの名を呼び続けた。
それも無視して仕事を続けていると、声は次第に弱々しくなり、意味のない喘ぎ声だけが聞こえて来るようになった。

 レオンが全ての案件に目を通し、まとめ終えた時には、二時間が経っていた。
ノートブックパソコンの電源を落として、固まった背筋を伸ばす。
灰皿に置いていた煙草の最後の一口を吸って、長い呼吸とともに煙を吐き出した。


「はっ…あっ…あっ…あ……」


 息も絶え絶えに聞こえて来た声に、レオンはようやく向き直る。
ベッドの上では、モーター音を鳴らすバイブに陰部を掻き回され続け、左右の手足をそれぞれ繋がれたまま、高く掲げた腰をゆらゆらと悩ましく揺らめかせているスコールがいた。

 ベッドに俯せになり、シーツに半分を埋めたスコールの顔は、完全に蕩けていた。
レオンと同じ青灰色の瞳は熱に溶け、彷徨うように虚空を見詰め、大粒の涙を溢れさせている。
顎の力を失くしてしまったのか、口はだらしなく開きっ放しになり、赤い舌を辿っててらてらと唾液が零れ、シーツに沁みが出来ている。
暗い部屋の中でも判る程、白い筈の頬や耳は紅潮しており、涙と涎でぐちょぐちょに濡れていた。

 二時間もの間、バイブで秘孔内と会陰を攻められ続けたスコールは、ほぼ完全に理性を手放していた。
体内を掘るように回転するバイブの先端が与える刺激に、淫部は完全に陥落している。
雄の形状を模したバイブのカリ首が前立腺を抉る度、ビクッ、ビクッ、と細い腰が跳ね、拘束された手足が緊張するように強張り、爪先がきゅうと丸まった。


「ひっ、はひっ…はぁ…も、もう…はぁ……っ」


 スコールの雄は、がちがちに反り返って勃起したままだった。
二時間に渡って敏感な淫部を攻められ続けていても、コックリングで根本を戒められたままでは、どれだけ待っても射精の瞬間は訪れない。
高められた熱に燻られ、それを煽るようにバイブに攻められ、それでもまだ解放されていないのだ。
若く、性的には未だに幼いであろう高校生の少年には、甘く過酷な拷問だっただろう。

 レオンはベッドの傍らに立つと、享楽と苦悶の狭間で意識を飛ばしかけている少年の名を呼んだ。


「スコール」
「あぁ…ひ、は…そこ、やめぇ……ひぃっ、んぁ…」
「我慢汁が垂れてるぞ。リングが少し緩かったか。俺もまだ甘いようだな」


 レオンは、ぽた、ぽた、と汗ではない雫を垂らしているスコールの雄の先端を弄びながら言った。
それから、スコールの秘部を貫いているバイブを掴むと、前後に激しく動かし始める。
前立腺ばかりを集中的に刺激していた回転部分の深さが代わり、入り口から奥までを隅々まで探るように弄られ、単調だったバイブの攻め方が変わった事に、スコールは全身を戦慄かせて喘いだ。


「あぁっ、あーっ! はひっ、んふぅっ、ほぅうんっ! ひっ、イくっ、イくぅうっ!」
「イけるか?」


 ぞくぞくと競り上がる熱の昂ぶりに、スコールは頭を振って叫んだ。
しかし、ずぽっぐぽっぬぽっ、とアナルバイブが激しく出し入れされるにも関わらず、スコールの一物は先走りの蜜をとろとろと零すばかりで、熱の奔流は一向に動き出そうとしない。


「やぁっ、あっあぁあっ! もうやめっ、ひぃん…! 出、る、んんっ、出る、のにぃ…っ!」


 スコールは、何度目か知れない射精直前の昂ぶりに見舞われていた。
バイブで延々と攻められている間にも、同じように何度も何度も射精しそうになったと言うのに、熱はスコールの躯に溜まる一方で、感じる官能のレベルを高めて行くばかり。
一度でも熱を吐き出す事が出来れば、きっと楽になる筈なのに、スコールの願いは叶わない。

 バイブが抜けては入ってを繰り返す度もスコールの秘孔は蠢き、挿入が深くなる瞬間、悦ぶように玩具に吸い付いた。
それを振り切るように、レオンは根本まで突き入れたバイブを一気に引き抜く。


「あああぁぁぁぁっっ!」


 ずりゅりゅりゅっ! と粘膜を引き摺りながらバイブが抜かれる感覚に、スコールは尻を突き出して震えた。
引き抜かれて行くバイブを追うように掲げられた尻に、レオンの手が落ちる。


「あひぃっ!」
「良い声が出るようになったな。叩かれても感じるか」
「ちが、あ…あぁんっ! あっ、ひぃっ! 痛ぁ…っ!」


 スコールの否定を否定するように、レオンの手が何度もスコールの尻を叩く。
ぱん、ぱん、と尻たぶで弾ける音が響く度、咥えるものを失くした菊座がヒクヒクと伸縮して、スコールは自分の下腹が燃えるように熱くなるのを感じていた。

 何度も何度も叩かれたスコールの尻は、腫れたように赤くなっている。
にも関わらず、スコールの雄は一向に萎える気配もなく、それどころか微かに膨らみを増しているように見える。
レオンはスコールの赤い尻を撫でた後、バイブの突起で耐えず刺激されていた会陰をくすぐって、反り返った竿の裏筋を撫でた。
それだけで、スコールの太腿がビクビクと震え、射精を求めるように腰が突きだされて揺らめく。


「イきたいか、スコール」


 レオンの問いに、スコールは答えなかった。
彼は、兄の声すら聞こえていないのか、亡羊とした瞳を彷徨わせ、微かに触れられる事で感じる僅かな快感に全ての意識を絡め取られている。

 レオンはスコールの竿を緩やかに撫でながら、バイブによって拡げられた穴に触れた。
ぴくん、とベッドに埋めた肩が震える。
穴の形をなぞるように指先で辿ってやると、はあ、はあ、とスコールの呼気が逸って行くのが聞こえた。


「イきたいか。此処で」


 穴の形を辿っていた指が、つぷっ、と中へ潜り込む。


「あっ、あっ、…ん、あ…あぁっ……」


 スコールは背中を丸めて蹲った。
躯の下で膝が閉じようと身動ぎするが、足首が手首とそれぞれ繋がれている所為で、どんなにもがいても陰部が隠れる事はない。
我慢汁を垂らす肉棒も、男の指先を咥えてぱくぱくと開いては閉じる秘孔も、丸見えのままだ。

 レオンはスコールの菊座から指を抜くと、服を脱ぎ始めた。

 スコールは、背後のベルトを外す音をぼんやりと聞きながら、体の中で未だに燻り続けている熱の吐き出し口を探していた。
レオンが満足するまで性行為を強要される事は珍しくはなかったが、その間、一度も射精する事が出来なかったのは、これが初めてだ。
二時間にも渡って前立腺を攻められていれば、今までであれば既に射精をしていた事だろう。
それも、一回や二回ではあるまい。
劣情のまま何度も絶頂を迎える自分の躯に、つくづく嫌気が差していたが、逆に一度も絶頂を迎えられない事がこんなにも辛い事だとは思っていなかった。


(…こんなの…殺された方が、ずっとマシだ……)


 スコールは思ったが、レオンがスコールを殺す事はないだろう。
彼はスコールを"壊したい"のだと言う。
生死の自由も奪い、スコールが狂い壊れるまで、レオンはスコールを手放すまい。

 衣擦れの音が聞こえ、皺の寄ったワイシャツとインナーがベッドの端へ投げられる。
両腕を足に繋がれている所為で、体を折り畳んで伏せた姿勢にならざるを得ないスコールの背中に、人一人分の重みが重なる。
背中越しでも、逞しい胸板と腹筋の厚みが判った。
同時に、熱く硬い塊がスコールの淫部に宛がわれ、ゆっくりと入口を広げて深くへと埋められて行く。


「あ、う……んく、はうぅっ…!」


 ねっとりと、肉棒に纏わりつく肉壁を擦りながら、レオンは腰を進めて行く。
スコールは圧迫感に一度唇を噛んだが、何度も叩かれた尻を掴まれて、直ぐに息を吐いた。


(前より…大きい、ような……っ)


 そう思ってから、肥大化の差を認識してしまう程、レオンの雄を咥えさせられていたと言う事実を突き付けられて、スコールは泣きたくなった。
他人の一物の大きさなんてものに、スコールは興味はない。
それなのに、スコールの躯はレオンの雄の形を覚え、三週間と言う短くはない時間が空いたにも関わらず、覚え込まされたその大きさを忘れずにいる。

 涙で視界を滲ませながら、スコールはレオンの意思に従うように、意識して呼吸を繰り返した。
やがてレオンの雄が行き止まりまで挿入され、スコールの体内を圧迫しながら、先端で行き止まりの壁を押した。


「い、う……ふ…ぅ……っ」
「動くぞ」
「待っ────あぁっ!」


 シーツを噛んで、苦しい呼吸を元に戻そうとするスコールに構わず、レオンは律動を始めた。
肉壁全体を限界まで拡げて、肉棒が前後に激しく動き、奥壁をノックする。


「ひっ、あっ、あぁっ! や、ん、はぅんっ」


 バイブで二時間に渡って攻められた淫部は、今更侵入者を拒もうとはしない。
肉壁がぴったりと雄に寄り添い、カリ首の膨らみに肉ヒダをなぞられて、スコールは直腸の脾肉が捲られてしまうのではないかと思った。
それ程、レオンの律動は激しいものだったのだ。

 突き上げられる度、その勢いでスコールの躯が前にずれて行く。
レオンは小さく舌打ちを漏らすと、細い腰を掴み、自分の動きに合わせて引き寄せた。
繋がりが深くなり、奥の行き止まりを強く叩かれ、スコールは下肢から背中、脳髄へと強い快感が駆け抜けるのを感じて、背を丸めた。


「あっ、んあっ、はあんっ! やっ、ひっ、ひぐっ! レ、オ、深いっ……あぁっ、あっ、あっ、あっ!」


 上半身を捻って、激し過ぎる快感から逃げようとするスコールだが、腰が自由になる代わりに、肩を掴まれてベッドに押さえつけられる。
かと思うと、レオンの身体が直接覆い被さって来て、スコールは彼とベッドに挟まれる形で抱き込まれていた。


「もっと、深い所に欲しいだろう? 久しぶりなんだからな」
「なっ……んうぅぅんっ…!」


 レオンは、スコールの躯を押し潰して、肉棒が根本まで捻じ込まれる。
直腸全体を雄に占領され、支配されて、スコールは圧迫感とそれ以上の快感に白目を剥いた。

 レオンの手がスコールの躯の下に潜り込み、折り畳まれている足膝を撫で、胸へと辿る。
平らな胸を愛撫した手が、シーツに埋もれている蕾を見付け、左右同時に摘まんだ。
その瞬間、ぴりぴりとした電流のようなものがスコールを襲う。


「あくぅううっ…!」


 胸からの性感刺激。
これも、実に三週間ぶりのものだった。

 レオンの指が、スコールの乳首を抓み、転がして、弄ぶ。
胸はあっと言う間に膨らんで硬くなり、爪先でコリコリと擦られて、スコールは真っ赤になって頭を振った。


「やだ、やぁ、あぁあっ! 胸、触るなぁあ…!」
「乳首を弄られる度に、尻穴が締まるぞ。感じているんだろう?」
「んっ、感じっ、て、あっ! な、ひぃっ…! あぅんっ…!」


 否定するスコールを咎めるように、左右の乳首が強く引っ張られて、スコールはビクビクと肩を震わせた。
同時に後穴に挿入された肉棒を締め付け、背後の男を喜ばせてしまう。

 レオンはスコールの胸を転がしながら、直腸の奥をずんずんと攻め続けた。
奥深くを抉られ、乳首を絶え間なく刺激されて、激しい快感の波にスコールの頭は焼き切れそうになっていた。
中心部に集まった熱がまた昂ぶり、出口を求めて押し出ようとしている。


「はっ、あっ、イくっ…! また、また出る、出るのに…ひっ、ひぃっ、いやぁあっ!」


 がくがくと太腿や腰、腹を痙攣させながら、スコールはまたもイき損ねた。
中途半端な絶頂感が、反ってスコールを苛み、喘ぎ声には悲鳴が混じる。


「あぁっあっあっ! はふっ、はぅんっ! あぁっ!」
「…っは、く…ん、んっ…!」


 スコールの秘奥を突き上げながら、レオンの呼吸も荒くなって行く。
頭を垂れたレオンの髪が、スコールの項をくすぐった。
柔らかな毛先が首筋を掠める感覚に、スコールが悩ましげに喘ぐ。

 自分の体内で、ドクドクと雄が脈打つのを感じて、スコールの躯が下半身から一気に熱を上げた。
その直後、熱い迸りが直腸に叩き付けられる。


「ひああぁぁぁあっ!」
「うくっ……!」


 びゅくっ、びゅくっ、と直腸内で痙攣しながら、レオンの雄から欲望の証が吐き出され、スコールの体内へと注がれて行く。
三週間ぶりの、自分の躯を内側から染められる感覚によって、スコールの躯は歓喜したように激しい快感に見舞われていた。

 しかし、スコールの雄からは、未だにとろとろと我慢汁が垂れて行くばかりで、熱の解放には至らない。


「あ、あ…んぁあ……っ」


 零れるスコールの声は、性行為が終わるかも知れないと言う安堵への期待ではなかった。
レオンは絶頂を迎え、スコールの体内に濃い蜜液を吐き出したのに、自分は未だに昂ぶりの頂点に辿り着けていない。
今にもイきそうな程の強い快感を何度も何度も与えられているのに、思考が真っ白に染まってしまう瞬間が来ない。

 呆けた顔で、粘液を注ぎ込まれる快感に蝕まれているスコールを見て、レオンはくつくつと笑う。
弟の淫部を貫くレオンの雄は、溜りに溜まった熱をぶちまけるように吐き出したにも関わらず、その硬さを失っていない。

 ぐちゅっ、と淫音が響いて、スコールの躯が震えた。
レオンの雄が、吐き出した蜜液を絡め取り、潤滑油にしながら再び律動を始める。


「はっ、あっ、あっ…! レ、オン…んあっ、あんっ、あぁんっ!」


 腹の奥を掻き回されている感覚に、スコールは弱々しく頭を振ったが、レオンの攻めは止まらない。

 乳首を弄っていた右手が、鎖骨を撫で、スコールの口に辿り着く。
形の良い指がスコールの唇をなぞり、


「舐めろ」
「ふ、あ……むぅっ」


 半開きになっていた口の中に、レオンの長い指が入り込む。
指はスコールの歯列を撫で、舌先を摘んだ。
爪で舌の表面を柔らかく擦られて、スコールの背筋をぞくぞくとしたものが走る。


「はっ、あっ…! んあ、おっ、ふぅ…っんん……」


 レオンに命令された通り、スコールは咥内の指に舌を這わせる。
ぴちゃ、ちゅぷ、と小さな音が鳴ると、耳元で男が笑うのが聞こえた。
含みのある笑みに対する反発心は既になく、スコールは必死でレオンの指を舐める。

 右手の人差し指と中指をスコールに舐めさせながら、レオンの左手は乳首を摘み、クニクニと捏ねる。
指を舐めるスコールの呼吸に熱が篭り、雄を食んだままの陰部がヒクヒクと物欲しげに蠢いてレオンを誘う。
その誘いに促されるまま、レオンが腰で円を描くように動かせれば、スコールの腰がその動きに合わせるように悩ましげに揺らめき出す。


「はふっ、んむ…うぅ、ん…おむぅっ…」
「イきたいか?」
「あ、あっ…! は、む…ぅんんっ」


 緩やかに淫部を掻き混ぜ、乳首を抓みながら、レオンはスコールの耳元で囁いた。
耳朶に当たる吐息に、スコールの躯が反応し、じくじくとした熱い痛みが雄へと集まって行く。

 スコールは既に限界だった。
いつ終わるかも判らない快楽地獄と、一向に吐き出す事を赦されない体内の熱に翻弄され、思考は蕩け、躯はとっくの昔に男の雄によって陥落している。
背中に重なる男の体温さえも、官能を呼び起こされるような気がしてならない。

 スコールはレオンの指を舐めしゃぶりながら、欲に溺れた虚ろな瞳で頷いた。


「は、んむぅ…っ。イ、く…イきた……い、ぃん……」
「良いのか? このままイって。戻れなくなるかも知れないぞ?」


 くつくつと笑いながら言ったレオンの言葉の意味を、スコールは理解できなかった。


「も、ど……?」
「二時間だ。その間に、何回イきかけた? 一回や二回じゃなかったな。お前が耐えた分だけ、射精した瞬間の快感は増す。その前に、三週間もしていなかった訳だから────相当、強いのが来るんじゃないか。お前みたいな子供なら、癖になるかも知れないな」


 それでも良いのか、とレオンは言った。
笑みを含んだその声に、親切心や気遣いで言っている訳ではない事は明らかだ。

 だが、スコールは既に何も考えられなくなっていた。
レオンの言葉が何を暗示しているのかも判らない。
今はただ、長い時間に渡って強制されてきた、イくにイけない苦しさから解放されたかった。

 拘束されたままの手足の爪先を握り開きと繰り返しながら、スコールは腰を揺らめかせた。
にゅぷっ、ぐぷっ、とレオンの雄が脾肉を擦る。
舌を伸ばして喘ぎながら、スコールは蕩けた顔で言った。


「いいっ……いい、からぁ……あっ、もう、んんっ…! イか、せてぇ…っ! は、あっ…あたま、おかひく、なる、からぁ…っ、早くぅうっ……!」


 涙を浮かべ、支配者に懇願する弟の顔を見て、レオンの雄が脈を打つ。
むくむくと大きくなった質量に、スコールは知らず知らず喜びの声を上げていた。

 舌先を弄んでいた指が離れ、スコールは一瞬、それを追った。
レオンの手はスコールの下肢へと降り、汗ばんだ腹、足の付け根、太腿と撫でて、中心部へと向かう。
とろりと蜜を溢れさせている先端を掌で包まれて、スコールは甘い声を上げた。


「あっ、あっ…! あぁんっ…! らめ、あ、またっ、またくるからぁあっ」


 今のまま刺激を与えられても、スコールはまだイけない。
コックリングが嵌められたままだからだ。

 戒めの解除をねだるように腰を揺らすスコールに合わせ、レオンも腰を前後に動かす。
前と後ろを同時に攻められて、スコールの躯ががくがくと震える。


「はひっ! ひぃっ! や、レオン、れおん、だ…め、イくっ、まだぁっ…! まだっ、イけない、からぁっ…!」


 まだイけないから、触らないで欲しい。
快感を与えないで欲しい。
スコールは必死で訴えたが、レオンは聞かなかった。
先端から竿の根本までを丹念に手淫しながら、腰を振っている。
ぐちゅっ、ぐちゅっ、ぐりゅっ、と体内に吐き出された蜜液を掻き回されて、スコールは沁みだらけになったシーツに顔を埋めて悶える。


「れお、ん、おねが、早く、はやくぅ…っ! はやく、とって、イかせて、イか、あっ、あっ、あっ、あっ」


 快感の波が強く大きくなって押し寄せて行く内に、スコールは言葉を忘れて行った。
手淫によって膨張して行く雄の根本で、コックリングが痛い程に食い込んでいるが、その痛みさえ今のスコールには快感に摩り替わる。

 犬のように、はっ、はっ、と短い呼吸を繰り返しながら、スコールは迫る快感に酔い痴れていた。
やっと終わる、と安堵にも似た気持ちもあった。
手淫していたレオンの手が離れ、袋ごと根本を縛っているシリコンゴムを摘まむ。
秘孔に埋められた肉棒が、ぬりゅぅうう……と抜けて、カリを入口に引っ掛けて止まる。
かと思った瞬間、根本まで一気に挿入され、スコールは一際強い快感に貫かれた。


「あぁあっ!」


 挿入と同時に、ゴムの拘束が緩む。
瞬間、淫部の突き上げに合わせるように、体内に燻り続けていた熱が一気に外へと押し出されて行き、今までに感じた事のない程の強い快感がスコールを襲う。


「ひくっ、んひっ、ひぃっ! あ、イく、イくぅ…っ! 出るぅぅうううんっ!」


 三週間ぶり、それも二時間以上も激しい快感に苛まれ、焦らされ、ようやく味わった射精は、スコールの頭を一瞬で快楽一色に染め上げた。
とろとろと少量の蜜を溢れさせていた雄からは、今まで耐え続けた分を凝縮させたように、濃い蜜液が大量に吐き出される。
それが狭い尿道を我先にと潜って行く瞬間の感覚は、精に未熟な少年を陥落せしめるには、十分過ぎるものであった。

 その上、スコールの射精は一度では終わらなかった。
レオンが腰を打ち付ける度、押し出されるように白濁液がスコールの陰茎から噴き出す。


「ああっ、あっやぁっ! ひっ! イっ、あぁっ! や、イくっ、イくっ! な、あっ! 止まら、なっ、あぁあっ!」
「は、くっ! そんなに、溜まってたかっ…! ティーダやジェクトじゃ、我慢できなかったか…っ?」


 激しくスコールの陰部を攻め立てながら、レオンは囁いた。
スコールはゆるゆると首を横に振る。


「してな、してない、んっ、あぁっ…! やぁっ、あっ! れお、もう、もうやめ、あぁっあっあっ!」


 兄の名を呼ぶスコールだったが、最早呂律も回らない。
思考も貌も快感によって融解したスコールの躯は、獣のように快楽を貪る事に夢中になっていた。
射精は溜めていたものを吐き出し切ったか、もうスコールの雄から蜜が振り撒かれる事はなかったが、秘孔を抉られる快感に逆らう事が出来ない。

 奥壁をごりごりと押し抉られて、スコールの四肢が強張った。
がくがくと全身を震わせ、全身の毛穴から汗を流し、白肌を桜色に染めて善がり狂うスコールの姿に、レオンの劣情が煽られる。
体内で脈打つ雄を、求めるように肉壁が締め付けると、レオンは誘われるままにスコールの中へと己の欲望を注ぎ込んだ。



†† ††   †† ††


 スコールが意識を飛ばす度、レオンは彼の淫部を抉って目覚めさせた。
以前は、意識を失えば、次に目覚めた時には朝だった。
だから、レオンの気が済むか、そうでなくとも気絶してしまえば凌辱も終わるのだとばかり思っていたのに、今日のセックスには終わりが見えなかった。
もう嫌だ、と何度訴えたのか判らない。
その度、弱点を攻められて快感に喘がされ、逆らえずに彼の意思に従った。

 もうイけない、と言っても無理やりイかされて、スコールは何度かドライオーガズムを経験した。
射精しなくても絶頂を迎える事が出来る事を、スコールは初めて知った。

 ようやくスコールが快楽地獄から解放された時には、部屋の中は暗闇に包まれていた。
ティーダの家から帰り着いた時は、まだ夕方だった筈なのに、時計を見れば日付が既に変わった時間だった。
朝ではないだけ、まだ良い方だろうか。
明日は平日だから、学校に行かなければならない。
全身の倦怠感は酷く重く、一晩眠った程度で回復するとは思えなかったが、昨日の今日でティーダ達に心配をかけたくなかった。

 とろとろと瞼を閉じかけながら、ぼんやりと明日の授業の時間割の事を考えていると、固定されていた手足が自由になった。
しかし、手足を伸ばす為に姿勢を変えるのも面倒で、このまま眠ってしまおうかと考える。
塞ぐものがなくなった淫穴から、ごぽ、と大量の蜜液が溢れ出した事さえ、その時のスコールにはどうでも良い事だった。

 手招きする睡魔に身を委ねようとしていると、何かに引っ張られて、体を起こされる。
きっとレオンだろう。
既に目を閉じていたスコールは、彼の貌を見なかった。

 上半身が起こされ、何かに寄り掛かる。
耳元で、とく、とく、と一定のリズムで刻まれる鼓動。
心臓だ。
背中に確りとした男の腕が回されたのが判った。
柔らかな髪の毛先が、スコールの耳元をくすぐる。


「……三週間だ」


 聞こえたのは、小さな声だった。
背中に回された腕に力が篭り、スコールは自分がレオンの腕に閉じ込められているのだと知る。


「自由になれたと思ったか?」


 言葉は問い掛けだったが、レオンは返答を期待していない。
スコールも言葉を返そうとは思わなかった。
早く眠ってしまいたい。
そんな事を考えながら、無意識に耳を欹てている。


「自由になれると思ったか。俺から逃げられると思ったか。俺以外の、他の誰かの所に行けると、思ったか」


 独り言の問い掛けに、スコールは睡魔に流されながら考える。

 自由になれると思っていた。
自由になれたと思っていた。
家出同然にティーダの家に転がり込んで、最初は何度も鳴っていた携帯電話に怯えたが、それも途絶えてからは気が楽になった。
二週間も追い駆けて来る気配もないから、このまま自分の事を忘れるのではないかと思っていた。
恋人の有無と自分への仕打ちは関係ないとレオンは言っていたけれど、弟とセックスを繰り返す無意味な行為よりも、愛する女性とのセックスの方が、きっと心を満たしてくれる。
それを知れば、レオンはスコールの事など飽いて忘れてしまうだろうと思っていた。
そうすれば、きっと自分は自由になれる。

 だが、現実は優しくなかった。
レオンはスコールの居場所を突き止め、連れ戻しに来た。
彼が初めに「何処に行こうと見つけ出して連れ戻す」と言った通りに、スコールは家に戻り、再び彼に支配された。

 やっぱり、逃げられないのか。
胸中で呟いたスコールの声が聞こえたのだろうか。
レオンの手がスコールの頬を包み、柔らかく捕える。


「自由になんかさせない。俺から逃げる事は赦さない。俺以外の人間の所になんて、行かせない」


 呪詛だ、とスコールは思った。
繰り返し囁く事で、スコールの深層心理まで蝕んで、逃げられないのだと思い込ませ、思考も躯も雁字搦めにして行く。


「お前は一生、此処にいるんだ」


 一生。
ずっと。
永遠に。
レオンの傍で、彼の手の中で生かされる。
冗談じゃない、と言う反発心は、既に挫かれていた。
それ所か、狂気さえも感じられていたレオンの言葉に、今は恐怖すら感じない。
こわれたのかな、と自分の感情が酷く穏やかなままである事に気付いて、スコールは自問した。
自問への答えは結局見付からなかったので、直ぐに考える事を止めた。

 重かった体が、ふわふわと浮いているような気がする。
眠い、とスコールは思った。
恐らく、あと一分としない内に自分は眠ってしまう気がする。

 意識が完全に途切れる間際に感じ取ったのは、煙草の匂いだった。



◇◆◇◆   ◇◆◇◆



≫[籠ノ鳥 5-1]