籠ノ鳥 5-2
R-18 / 拘束


 冬休み最後の授業は、授業とは名ばかりの、課題の手渡しや諸注意、諸連絡を伝えるだけの時間だ。
その前に全校集会として校長から長い話を聞かされたりもするのだが、それでも、昼前には終わってしまうものである。
それからいつもの帰宅時間まで遊んで過ごすとなると、中々の長時間だ。
遊び始めた時は、伸び伸びと遊べると思いきや、遊び続けるには体力的にも精神的(より正確に言うのであれば、懐と言うべきか)にも、余裕が必要になって来るものだ。

 喫茶店でお茶を飲み、ゲームセンターで遊んだ後、四人はバッティングセンターに行った。
野球など体育の授業でしか経験がないし、特に興味があった訳でもなかったが、施設が丁度ゲームセンターの裏にあった為、行ってみようと言う話になった。

 バッティングセンターには、シンプルにピッチングマシンから放たれる球を打ち返す他、的を狙って打つ、或いはボールを投げるストラックアウトもあった。
同じ建物の中には、卓球台やダーツも揃えられており、折角の機会だと、少年達は全て網羅してやろうと意気込んだ。

 其処まで遊べば、流石に少年達も疲れて来る。
特にティーダとジタンは、ゲームセンターのアーケードゲームも全て遊び尽くしたのだ。
スコールとヴァンは、それぞれが好きなゲームをしばし楽しんだ後は、二人のゲーム勝負を見守る姿勢になっていたが、気の済むまで続けられるティーダとジタンに付き合うのも、中々体力がいる事だ。

 バッティングセンターを出た後は、ファミレスに入って、ドリンクバーで時間を潰した。
夕方まで時間を潰さなければならない理由はないのだが、こんなにも早い時間に家に帰るのも勿体ない。
ティーダに至っては、父親と顔を合わせたくないのだろうが、その理由が今までと同じ、一方的な嫌悪感の所為かは、誰も問わなかった。

 帰ろうか、と言う話が持ち上がったのは、午後四時────空は赤い色に染まり、東空には闇色が滲んでいた。
冬の夕方は過ぎるのが早いもので、あっと言う間に太陽は落ちる。
暗くなれば空気は更に冷え込むので、まだ太陽の恩恵が続いている内に帰ろう、と言う事になった。

 一人、また一人と、分かれ道で別れを告げる。
いつでも遊びに誘ってよ、と言いながら、少年達はそれぞれの家路へと歩き出した。

 スコールも最後にティーダと別れ、住宅地へと向かう道を歩く。
冬休みの課題の計画表を頭の中で組み立てながら、スコールは最後までティーダ達に心配をかけずに済んだ事に安堵していた。

 ティーダの家に居候をしていた時期から、スコールの体調は回復傾向に向かっていた。
スコールの体調不良、体力低下の原因は、過度のストレスと食欲不振だ。
ストレスから解放され、ティーダとジェクトの親子の凄まじい食欲に誘発されるように、食事を再開させれば、エネルギーも少しずつ戻って来る。
お陰で、ティーダの家を去る頃には、学校のマラソン授業で倒れない程度には回復していた。

 兄が迎えに来て、家に帰ってからも、スコールの体調が再び崩される事はなかった。
耐え切れずに逃げ出す程の悪辣な環境に戻されたと言うのに、不思議なものだ。


(……諦めたから、か)


 家出をする前後で違う事があると言えば、スコールの意思だ。

 本当に逃げ出しても、やはり連れ戻されるのだと知ってから、スコールは抵抗する事を止めた。
逃げられない事は前々から理解していたつもりだったが、それでも現実を受け止める事が出来ず、スコールの精神は削られ続けていた。
しかし、諦めてしまえばそれも終わった。

 見えない鎖を外そうともがく事を止めると、気分が楽になった。
抗おうとするから苦しいのだ。
大人しく従っていれば、レオンの不興さえ買わなければ、少なくとも、これ以上の苦しみに苛まれる事はない。


(そう言えば───レオンが言っていたな。引かれた道を拒否する自由すらなかったって)


 学校も、放課後の過ごし方も、何もかも管理されていたと言うレオン。
彼は未来すら最初から決められていて、その未来に相応しい人間になるようにと、英才教育を施された。
彼には、それ以外の道は何一つ存在せず、挫折しても別の道を探す事も出来なかった。
成るべき人間に成れるように、努力せざるを得なかったのだ。

 スコールが初めてその話を聞いた時、引かれた道を歩く事を自分で選んだのだろうと言い返した。
だが、こうして外堀を全て埋められ、逃げても無駄だと突き付けられると、従う以外に選べる道がない事が判る。
従って、目的を達成させるか、壊れて飽きられて棄てられるまで、耐え忍ぶしかないのだと。

 レオンも同じだったのだろうか。
逃げる手段を奪われ、逃げても捕まって連れ戻され、折檻された事もあるのだろうか。
傷だらけになって、全てを諦めるしかなかったのだろうか。


(だからって……同情はしないけど)


 子供の頃、辛い思いをしたのはスコールとて同じなのだ。
苛めに遭って、誰も助けてくれないまま、蹲って身を守るしかなかった。
教育係からはいつも優秀な兄と比べられ、劣等感で埋もれ、自分は何も出来ない人間なのだと思った。
それがどれ程辛い日々だったのか、レオンは知らない。

 居並ぶ一軒家の向こうに、タワーマンションが見えた。
アーケード街を離れた時には、まだ夕暮れ色が空の半分に残っていたのに、もう暗くなっている。
ビル群の向こうに太陽が完全に隠れてしまう前に家に帰ろう、と思い、スコールは走り出す。

 ────数ヶ月前、夜道を帰っている最中に、見知らぬ男達に襲われた。
逃げ回って、捕まって、路地裏に引きずり込まれて強姦された時の事を、まだ覚えている。
あの日以来、スコールは夜遅くまで街を歩き回る事を止めた。
あんな事が二度も三度も起きるとは思いたくなかったが、一度この身に起きた出来事だ。
忘れたくても忘れられない惨劇の主役にされるのは、二度と御免だ。


(…今ならまだ、レオンもいない)


 時刻は五時を回ろうとしている。
クリスマス商戦と年末が同時進行で迫る今、レオンは早い時間に帰って来る事は滅多にない。

 スコールをティーダの家から連れ戻してから、レオンは余り家を開けなくなった。
以前は数日に一度、家に帰れば多い方だったのだが、あれから殆ど毎日のように家に帰って来る。
そして、帰って来ると、必ずスコールとセックスをする。
行為はスコールの身体を省みない程に激しい時もあれば、酷く緩やかに焦らす事もあった。
玩具を咥え込まされ、数時間に渡って放置され、彼の雄をねだるまで赦されなかった事もある。
スコールの身体を省みないセックスなど、以前から当たり前のようなものだったが、拍車がかかった。
明け方まで揺さぶられ、スコールは一時間程度の仮眠だけで学校に行った事もある。


(これで前より調子が良いとか、可笑しいな。人間の身体って、いい加減になるものなんだな)


 以前は、レオンが帰って来る数日間に一度のセックスで、スコールは精神を擦り減らせていた。
寝不足、食欲不振と祟って、生活に支障が出ていた程だ。

 それが今は、ほぼ毎日のように激しいセックスをしているにも関わらず、体調は良い。
ティーダのような健康優良児のように、頗る快調と言う訳ではないが、青白い貌はしていない。
ティーダ、ヴァン、ジタンも、「もう大丈夫だな」と言っていた。
ずっと心配そうに自分を見ていた彼らが、笑顔を浮かべて言うのだから、きっと嘘は言っていない。
実際にスコール自身も、自分の体力の回復を自覚している。
どちらかと言えば、回数も時間も増えた事で、前以上に体調を崩しそうなものなのに、可笑しな話だ。


(でも、別に良いか。倒れたりしたら、レオンに面倒をかけるだろうし───いや、面倒って話でもないな。厄介って思われるのが関の山だ)


 若しもスコールが突然倒れたら、レオンはどうするのか。
恐らく、直ぐに医者を呼んで、病院の手配を整えるだろう。
"弟想いの兄"として。
だが、その後───スコールが体調を戻して戻って来たら、また同じようにセックスを強要する筈だ。
面倒をかけた手間も兼ねて、手酷く扱われる事も考えられる。

 何事もなく、今の少し狂った日常が続いて行くのが最善なのだ。
レオンの気が済んで、飽きるまで、スコールが耐え続けていれば、誰にも迷惑をかける事はない。
幼い頃も、そうして耐えていたのだから、今も同じ事をすれば良い。


(……本当に、成長していない)


 そう思いながら、スコールは自嘲の笑みを零す。

 横断歩道の赤信号で、足を止める。
早い鼓動を宥めながら、スコールは一定のリズムで呼吸を保った。
喉奥が少し詰まったような気がしたので、咳払いをする。


(体調は大分治ったけど、喉は……)


 学校でも、街でも、些細な事で咳き込む事が増えた気がする。
原因は直ぐに思い当たった。
レオンの煙草だ。


(セックスした後、いつも吸ってるよな)


 今、スコールの部屋には、煙草の灰皿が置いてある。
以前はなかったそれは、レオンが毎日のようにスコールとセックスをした後、決まったように必ず吸うので、常備されるようになった。
生まれつき気管支が弱いと言われていたスコールには、実に良い迷惑だ。
しかし、スコールに「止めろ」と言える権利はない。

 本数は多くないとは言え、毎日のようにスコールの部屋で煙草が燃えるので、その匂いが部屋のあちこちに沁みついてしまった。
クローゼットやチェストの中は、脱臭剤を入れてあるので、衣服に匂いが移る事はなかったが、ベッドシーツや枕には移り香が残っている。
スプレータイプの消臭剤を使ってはいるものの、ヤニを落とせなければ根本的な解決は出来ず、丸ごと洗濯しようとしても、兄弟二人暮らしで平日は学校・仕事がある為、任せられる者がいない。
休日にやろうかと思ったら、折悪く天気が不調で干せそうになかった。
そんな調子でずるずると後伸ばしにしている内に、匂いはすっかり定着してしまっていた。

 この煙草の匂いに関しても、奇妙に思う事がある。
煙草の匂いは、兄の存在と支配を否応なく認識させられる気がして、嫌いだった。
今でもそれは変わらない筈だが、以前のような強い嫌悪感は感じない。

 煙草の匂いは、吸っている本人からも感じられる。
レオンの躯が自分の躯に触れる度、近付く度、髪や肌に沁みついた煙草の匂いがスコールの鼻腔をくすぐる。


(そう言えば……あの匂い、最近しないな)


 あの匂い。
一時、セックスの度に香った、レオンがまとわせている煙草の匂いとは違う、雌を意識させる、強い花の匂い。


(恋人、逢ってないのか? それとも、別れた? 俺を毎日犯す位だから、別れたのかも知れないな)


 スコールが家出をした当初は、まだ恋人との関係が続いていたから、その女性を抱けば良かった。
何らかの理由で関係が解消され、持て余す性欲の捌け口として、スコールを探し、連れ戻した───十分考えられる事だ。

 煙草の匂いと、強過ぎる花の匂い。
どっちもどっちだ、と思いながら、煙草の方がまだマシか、と言う結論に行き着く。
そんな考え方をするようになる辺り、彼に支配される事に慣れて来ている自分を再認識して、スコールは自嘲した。

 信号が青になって、横断歩道を歩いて渡る。
タワーマンションの玄関は直ぐだ。
車の双方向出入りが自由になる為、広い門前を抜けて、玄関エントランスの扉に手をかける。
今日は大分遊んだし、疲れたから、レオンが帰るまでは寝ていよう───と思いながら、ガラス扉を押し開けた時だった。

 マンションの門前から、大きなエンジン音が聞こえた。
スコールが何気なく振り返ると、左ハンドル仕様の外国車が停まっている。
その車の助手席側から、濃茶色の髪の男────レオンが姿を見せた。


(もう帰って来たのか……)


 夜まで帰って来ないと思っていたのに。
今の内に上に上がって、五分の休憩を確保できれば良い方だな、と、当てが外れた気持ちで、スコールは溜息を吐いた。

 レオンが運転席側に回り込むと、運転席の窓が開いた。
顔を出したのは銀髪に赤いスーツを着た女で、唇はスーツと同じ、遠目に見ているスコールにも見える程の鮮やかさな紅だ。
目線を合わせるように腰を屈めているレオンの頬を、女の嫋やかな手が撫でる。

 愛おしむように、慈しむように触れる女の手を、レオンは甘受していた。
レオンがそっと顔を寄せると、女の首が傾いて、レオンの顔と重ねられる。
スコールからはレオンの後頭部しか見えなくなり、二人が口付けしているように見えた。

 思わず、目を逸らす。
逸らした後で、胸の奥がずきずきと鈍い痛みを訴えるのを感じて、胸元をブレザーの上から握り締める。

 仰々しいエンジンの音が響いて、遠ざかって行く。
立ち尽くしていると、程無く背後に肌に馴染んだ気配が近付いて来た。


「随分、のんびりだな。今日は終業式だけだろう」


 背後に立った男の声に、一瞬、スコールの肩が跳ねた。
喉の奥に何かが蓋をするような違和感を感じながら、スコールは唾を飲み込み、ゆっくりと、震える唇を動かす。


「…ティーダ達と、街にいたから」
「成る程な」
「…あんたは、早い。まだ五時だぞ」


 今まで、レオンがこんな早い時間に帰って来た事があっただろうか。
スコールが知る限りでは、起こり得なかった事だ。

 レオンが玄関扉に手をかける。
スコールは、彼の身体と扉に挟まれていた。
レオンのコートから微かに香水の匂いを感じて、スコールは無意識に拳を握り締める。

 レオンが扉を開けると同時に、入れ、と命じられている事が判った。
エントランスロビーを横切る傍ら、レオンは言った。


「先方の都合で、夕方以降の予定がキャンセルされたからな。会社に戻る必要もないから、上がったんだ」
「年末は忙しいんじゃないのか」
「忙しい。が、俺のやる事は営業や流通の確保、企画の立ち上げじゃないからな。来客予定もないし、俺が会社にいなくちゃならない用事もない」
「……社長って、暇なんだな」
「傍目にはな」


 皮肉のつもりで言ったスコールだったが、流されてしまった。
レオンは気を悪くした様子もない。
恐らく、この手の台詞は言われ慣れているのだろう。

 エレベーターに二人で乗る。
先に乗り込んだのはスコールの方だった。
窓側へと追いやられて、操作パネルの傍にはレオンが立っている。
スコールは窓ガラスに手を置いて、遠退いて行く下界を見詰めていた。
ほんの少し視線を横にずらすと、パネル前に立っているレオンの姿がガラスに映り込んでいる。

 幾つも入り組んだ道を見下ろしていたスコールは、赤色の車がマンションから遠ざかって行くのを見付けた。
辛うじて色が判る程度の距離なので、車種も判らない。
だが、遠目に見える鮮やかな赤色を見付けた途端、ずきり、とスコールの胸の奥が痛んだ。


「さっきの……」


 零れた声は、酷く小さなものだった。
届いていないかも知れない、と思ったが、言い直す気にもならない。
そもそも、自分は何を言おうとしているのか、スコールは自分でも判らなかった。

 そんなスコールに気付く事なく、しかし声は聞こえたらしいレオンが、壁に寄り掛かったまま目線を寄越す。


「取引先の社長だ」


 端的な返答だった。
スコールはじっと窓の外を見詰めていたが、車は姿さえも確認できない。

 スコールは、レオンのコートから香った匂いの事を思い出していた。
以前に感じたような、不協和音を奏でる強い花の匂いとは違い、シンプルで仄かに香るだけだったが、やはりレオンが使用するような匂いとは思えない。
そもそも、レオンが香水の類を愛用しているかどうかも、怪しい気がした。
それよりもレオンは煙草の匂いの方が合う気がする。


「…なんであんたが、取引先の社長に家まで送られてるんだ。あんたが向こうを送るのなら、まだ判るけど」


 増して、相手は女社長である。
普通に考えれば、立場が逆になるんじゃないのか、と言えば、レオンは溜息を吐き、


「向こうの意向に従ったまでだ。あの人はうちの会社とは古い付き合いだから、無碍には出来ない。クラウドも車ごと帰らせてしまったからな」


 淡々と説明するレオンの話を聞きながらも、スコールの意識はそぞろだった。
ずきずきと痛む胸の奥を隠そうと、胸元を握る手に力が篭る。


「……恋人、なのか」


 訊ねてからスコールは、何を言っているのだろう、と自分自身に戸惑う。
変な事を言った、と内心で呟いて、窓ガラスに映り込んでいる兄を見る。

 レオンは、此方を見てはいなかった。
操作パネルの上にある階数表示を眺めている。
無視されている、と思っても、特に腹が立つ事はなかった。
────が、


「言っただろう。あの人は、取引先の社長だ。それ以上の付き合いはない」


 一拍遅れても、返事が返って来た事に、スコールは驚いた。
お前には関係のない話だ、と一蹴されるものとばかり思っていたからだ。


「……キス、してたのは」
「キス?」


 レオンの目がスコールへと向けられた。
窓越しに目が合った後、レオンは思案するようにしばし沈黙した後で、


「ああ、挨拶の事か」
「キスが挨拶?」
「外国暮らしが長いとよくある事だ。それに、唇には当てていない。頬を合わせているだけだ」
「……でも、誤解されるんじゃないのか」
「マスコミ連中もあの人の癖は知っている。あの程度で、今更口煩くはならない」
「そうじゃなくて……恋人、が」


 俯き、小さくなるスコールの声に、レオンが眉根を寄せた。
スコールは窓に額を押し付けて、詰まりかける呼吸を意識しながら繰り返す。
そうしなければ、酸素を上手く取り込む事が出来なかった。

 エレベーターの上昇が止まり、扉が開く。
レオンが箱を下り、スコールは直ぐにその後を追った。

 コートの裾を翻し、早足で歩くレオン。
スコールはその背中をじっと見詰めながら、広い、と胸中で独り言を零す。


「何か勘違いしているようだが、俺は恋人を作った覚えはない」


 振り返らずに言ったレオンの言葉に、スコールは顔を上げた。


「でも、前に───」
「前? ……ああ、そう言えば、お前が恋人がどうのと言っていた事があったな。俺はその時、肯定した覚えはないが」


 そう言えば、レオンの言う通り、あの時の彼は肯定も否定もしなかった。
強い花の匂いと、女と電話している所を見たと言うスコールに対し、レオンは「あれか」と言っただけ。
スコールの指摘する場面に思い当たるものがあっただけで、レオンはその相手が"恋人"だと頷いた訳ではない。


「でも…セックス、して……」
「性行為をしたからと言って、恋人になる訳じゃないだろう。向こうはそれなりに俺を気に入ってくれていたようだが、それだけだな。俺は彼女と恋仲になったつもりはない」
「……」
「枕営業みたいなものだな。子供のお前には判らない世界だろうが、よくある事だ」


 枕営業、と言う言葉がどう言ったものを指しているのかは、スコールにも判った。
兄がそんな事をしていると言う話に、汚い、と思う心はあるものの、レオンの言う通り、"よくある事"なのかも知れない。
それによって会社の利益を上げる事が出来るのならば、遠慮なく行使する────例えそれが、道徳や常識に反するものであるとしても。


「ついでに言うと、彼女との関係はもう切れている」
「……切れて…?」
「此処しばらくは逢ってもいないな」


 レオンの言葉に、だから花の匂いがしないのか、とスコールは納得した。
年末の忙しさに感けて疎遠になったのか、直接会わない旨を告げたのかは知らないが、何れにしろ、レオンは今後も彼女と顔を合わせるつもりはないらしい。
レオンにとって必要な事柄は揃ったから、それを得る為だけに続いていた彼女との関係は、用が済むと同時に斬り捨てたのだ。

 レオンにとってはビジネスの延長上の関係でしかなかったのだろう。
しかし、女性の方はレオンをかなり気に入っていたと言う。
レオンがどんな手段で関係を断ち切ったのかは判らないが、元々打算で付き合っていた相手だと知ったら、彼女は酷く傷付くのではないだろうか。

 そんな事を考えながらも、スコールは、自分の胸の鼓動が少しずつ落ち着いて行くのを感じていた。
それだけではない。
件の女性は勿論、先程の女社長も、誰ともレオンが関係を持っていないと聞いて、微かに心が高揚している自分がいる。


(なんで、そんな事)


 カードキーを取り出すレオンの横顔をじっと見詰めながら、スコールは戸惑っていた。
しかし、暗く沈んだように重苦しかった呼吸が、少しずつ元のリズムを戻して行くのを自覚する。


(何考えてるんだ、俺は。まるで、俺だけがレオンに特別扱いされて喜んでるみたいな……馬鹿じゃないのか)


 男同士で、血の繋がった兄弟で、生産性のない性行為なんて、不毛でしかない。
そもそも、レオンの弟への負の感情を発端とした、強姦から始まった関係だ。
スコールも何度も抵抗したではないか。
ティーダの下に家出したのも、いつ終わるとも知れない隷属関係を終わらせたかったからだ。

 ───それなのに、まるで自分だけが特別扱いされているかのような錯覚に陥っている。

 やっぱり壊れたのかな、とスコールは思った。
ティーダの家から連れ戻され、自分が無力でしかない事を突き付けられ、抵抗を止めて以来、毎日のように犯されているのに、以前のように体調を崩す事もない。
心も体もバランスが滅茶苦茶になっているのが判る。


(レオンが俺を抱く理由だって、好意とかそんなものがある訳でもない。恋人とか、セフレみたいなものも今はいないから、俺で処理してる。それだけだ)


 そう考えると、また呼吸が重くなる。

 レオンが家のドアを開ける。
立ち尽くすスコールを振り返って、入れ、と無言で命じる。
スコールが敷居を跨ぎ、靴を脱いで廊下に上がると、背後で扉の閉まり、鍵が下りる音がする。

 スコールは廊下の突き当たりの自室に入って、暖房のスイッチを入れ、机に鞄を置いた。
課題にと渡されたプリントの山や問題集を取り出し、改めてその量を見て、溜息を吐く。
スコールの学年の数学教師は、問題作りが趣味なのではないかと噂される程、大量の課題プリントを渡してくる。
これを何日までに片付けられるか、一日のノルマをどれ程にするかを考えるだけで、スコールは少し憂鬱になる。
生真面目だと言われるスコールだが、決して勉強が好きな訳ではないのだ。
多過ぎる課題には、溜息も出る。


「冬休みの課題か」


 レオンの声が背後から聞こえて、スコールは一瞬肩を跳ねさせた。
振り返ると、コートとスーツの背広を脱ぎ、ネクタイを緩めているレオンが立っていた。


「計画的に終わらせろよ」
「……ん」


 レオンの言葉に、スコールは小さく頷いた。

 長期の休みで課題が大量に出た時は、いつも計画を立てて済ませるようにしている。
ティーダやヴァンに遊びに行こうと誘われ、流されるように参加して、夜まで勉強が出来なかった時もあるが、寝る前には必ずノルマ分は片付けるように心がけていた。
今では癖になっていて、決めた分を終わらせるまで眠る気になれない。

 だが、その計画の為にレオンがスコールを気遣ってくれる事はないだろう。

 スコールの腕が引かれ、部屋の中央へと連れて行かれる。
其処で向かい合うと、レオンは頭半分ほど下にあるスコールを見下ろし、


「服を脱げ。全てだ」


 鷹揚のない声で命じられ、スコールは無言で従った。
ブレザーとカッターシャツを脱ぎ、インナーも脱いでしまう。
腰のベルトを外してスラックスを床に落とし、下着も脱いで、全裸になった。
冬の室内の空気は冷たく、暖房も点けたばかりなので、まだ碌に温まっていない。
カーペットのお陰でフローリングの冷たい感触に触れる事はなかったが、やはり寒さは否めない。
ふるり、とスコールの身体が微かに震えた。

 レオンに肩を押され、背中を向けて立たされた後、両手を背中へと回され、手触りの良い布が両の手首を縛る。
恐らく、レオンのネクタイだろう。


「んっ……」


 手首が痛む程に強い力で縛られて、スコールは眉根を寄せた。
痕が残る事など、レオンはまるで気にしなくなっている。
明日からは冬休みで、部活に所属していないスコールは、毎日外出する必要もなくなる。
出掛けたとしても、この真冬に長袖で手首を隠すのは当たり前の事だから、痣も見付かり難いだろう。

 確りと結ばれたネクタイは、スコールが腕を捩っても解けない。
固結びなんてしたら、ネクタイに皺が残るのではないだろうかと思ったが、一本くらい使えないものが出来ても、レオンには大した問題ではないようだ。

 レオンの手がスコールの腰のラインを辿り、尻を撫でて下りて行く。
双丘の谷間かゆったりと撫でた指が、慎ましく閉じた秘孔に触れた。


「っ……」


 ぴくん、とスコールの肩が震える。

 指の先端が秘穴の口をつん、つん、と突いて、つぷ、と頭が入る。
他人の手で拡げられる違和感は、何度経験しても慣れるものではなかったが、痛みは既に感じなくなっていた。
ひくひくと伸縮する穴に、指の先端が入っては出てと繰り返す。
そうしている内、スコールの呼吸は上がり始め、白い肌にじっとりと汗が滲んで行く。


「力を抜いておけよ」


 その言葉の後、形の良い指が第一関節まで挿入される。
内側の媚肉を撫でられる感覚に、スコールの喉から音が漏れた。


「っは…あっ……! あぁ……っ」


 一指し指はゆっくりと奥へ進み、第二関節、そして根本まで到達した。
意識して呼吸を繰り返し、体の力を抜くように努める。

 二本目に中指が挿入されて、スコールは一瞬息を飲んだ。
秘孔が閉じて、きゅぅう、とレオンの指を締め付ける。


「い、んんっ……」
「息を吐け」
「は、あ……あぅ…んぁあ……っ」


 言われるままに、詰めた息を吐き出せば、少しずつ締め付けが緩み、指が更に奥まで挿入されて行く。

 秘孔内を掻き回すように、二本の指がバラバラに動き始めた。
指は左右に広がって窄まった奥を拡げ、元に戻ろうと締め付ける淫肉に爪を引っ掛けて擦る。
与えられる刺激に、スコールの身体はビクビクと反応し、内肉がレオンの指にねっとりと絡み付き、まるで誘うように蠢いていた。
レオンの指は蠢く肉ヒダを摘まみ、擦り、その度に跳ねるスコールの反応を楽しんでいる。


「あっ、あっ、あぁっ…! う、ん……くぅん…っ」


 零れる声が甘ったるく聞こえて、スコールは唇を噛んだ。
自然と息が詰まり、レオンの指を締め付ける。

 レオンはスコールの淫部を弄りながら、細い腰を抱き寄せた。
レオンの確りとした腕に閉じ込められ、彼の手がスコールの胸を撫でる。
指先が乳首に触れると、其処は既に硬くしこりのように膨らんでいた。


「期待していたようだな」
「う……あぁっ!」


 緩く首を横に振ろうとしたスコールだったが、乳首を摘まれた快感で思わず嬌声が出てしまう。
レオンは乳首をコリコリと爪先で転がしながら、秘孔部を攻める指を激しくさせる。


「あっ、あっ! ひ、や…あぁっ、あぁっ!」


 ぬちゅっ、ぬちゅっ、と秘部を指が出入りする感覚に、スコールは下腹部に熱が集中して行くのを感じていた。
項にレオンの吐息が当たって、それだけで躯は反応してしまう程敏感になっている。

 膨らんだ乳首を、指先で押し潰され、そのままぐりぐりと円を描くように弄ばれる。
指が離れると、潰れた乳首が真っ赤になって飛び出した。
その乳首をまた摘まれ、引っ張られると、過敏になった身体がより強い刺激を感じて悶え喘ぐ。


「はひっ、ひっ…! い、やぁ……あぁっ…!」


 頭を振って拒絶しようとするスコールだが、躯は意思に反して官能に流されていた。
その証左に、まだ一度も触れられていないにも関わらず、スコールの雄は頭を持ち上げている。

 生温いものが項をなぞって、スコールは小さく悲鳴を上げた。
吐息の熱と共に触れるそれは、間違いなく、レオンの舌だろう。
首下にかかる長さの髪の隙間から、ねっとりと舐め上げられて、スコールは肩を縮めるようにして耐える。
息を詰めて耐えていると、力が篭って閉じる淫部を押し開こうとするように、レオンの指が激しく抜き差しされた。


「あぅ、あっ、あん! や、レオン…ん、んっ! んくぅうううっ」


 秘孔内の膨らみを押し潰されて、スコールはがくがくと体を震わせた。
中心部に集まっていた熱が、更に集まって来て、雄が膨らんで行く。
先端からとろりと先走りの蜜が溢れ、反り返った竿を辿って行った。

 乳首を潰すように親指と人差し指で挟まれ、擦るように転がされる。
弄られた分だけ、じんじんとした痛みが生まれたが、程無くそれも痺れに代わり、スコールの思考を奪って行く。


「はっ、あっ、あっ、あっ…あぁ…! や、め…んっ、うぅ…! あっ、あ…あぁあ…っ!」


 スコールの声に切ない色が増して行く。
反り返った雄が、今にも弾けんばかりに大きくなっているのを見て、レオンがくつりと笑う。


「触ってもないのに、イきそうなのか。すっかり後ろの味を覚えたようだな」
「は、ふ…うぅっ……んんっ!」


 囁く声に、スコールは否定の言葉を紡ぐ事も出来なかった。
淫部を弄られ、前立腺を攻められる度に、頭の中が溶けて行くような気がする。

 乳首を強く挟まれて、スコールは快感と痛みに眉根を寄せた。
きゅう、と陰部がレオンの指を締め付ける。
絡み付く肉壁を振り解くように、ずりゅうっ、と指が一気に引き抜かれた。


「あぁぁっ、あっ! あ、はぁっ……!」


 奥から入口までの媚肉を強く擦られて、スコールは突き抜けるような快感に腰を震わせた。
しかし、絶頂に至る事は出来ず、レオンの腕に抱かれたまま、虚空を見上げて下肢を震わせている。

 スコールの身体には、最早、自分の体重を支える力さえも残っていなかった。
体を支えていたレオンの腕が離れると、膝から崩れ落ちて座り込む。
柔らかいカーペットの毛細が、敏感になった臀部をくすぐる感覚に、スコールは艶を孕んだ吐息を漏らす。


「んぁ…あっ、あ……っ」


 集まった熱を解放する事が出来なかった所為で、体の奥が酷くむず痒くて堪らない。
レオンの指で広がった菊穴が疼いて、浅ましく咥えるものを欲しがっていた。

 座り込み、細い四肢をくねらせて淫靡な踊りを見せるスコールの前に、怒張した雄が突き付けられた。
顔を上げると、レオンが此方を見下ろしている。


「舐めろ」


 何を、とスコールは聞かなかった。
目の前にある雄に視線を戻し、おずおずと口を開く。
饐えたような匂いに耐えながら、スコールは舌を伸ばした。

 舌先が触れた瞬間、肉棒の熱さに驚いて、舌を引っ込める。
後頭部を上から掴まれて、スコールはもう一度口を開いた。
先端に口付けするように舌をそっと押し当てて、棒アイスを舐めるように、舌を前後に動かして先端の裏側を舐める。


「そのまま咥えろ」


 レオンの命令に、スコールは眉根を寄せた。
しかし、見下ろす冷たい蒼灰色は、逃げる事は赦してくれない。

 スコールは恐る恐る口を開けて、雄の先端を咥内に含んだ。
舌だけではなく、咥内全体に拒絶感が生まれたが、吐き出す事は出来ない。
スコールは眉間の皺を深くしたまま、ゆっくりとレオンの雄を喉の近くまで招き入れて行く。


「は、お…んぉっ……おふぅっ…」
「く……」


 スコールの口の中の熱が、篭る吐息になって、レオンの雄を包み込む。
触れる事を逃げるように彷徨う舌が裏筋を掠めると、レオンは微かに片眉を潜めた。

 根本まで食んだスコールが、上目遣いでレオンを見上げる。
眉根を寄せ、目尻に苦しげに涙を浮かべたスコールの顔に、レオンの雄が大きさを増した。
どくん、と咥内で質量を増した一物に、スコールが苦しげに呻く。


「んふぅうっ…!」
「離すな」
「う、う…はふぅ……っ」


 息苦しさから逃げようと、一物から口を放そうとしたスコールだったが、後頭部を押さえつける手に逆らえなかった。

 雄を咥えたまま、次の指示を待つスコールを見下ろして、レオンの喉が笑う。


「随分、従順になって来たな」


 命令に従い、言われるがままに雄を口に咥えたスコール。
逃げる事は愚か、抵抗すらしない姿は、スコールが完全にレオンに服従している事を示していた。


「そのまま頭を動かせ。前にもしたんだから、そろそろフェラチオのやり方くらい判るだろう?」


 レオンの言葉に、スコールはゆるゆると首を横に振った。
判る訳がない、と言うスコールに、レオンは嘲笑するように薄い笑みを浮かべ、


「何度も言わせるな。行きずりの連中とだって出来たんだ。あの時と同じようにすれば良い」
「んっ…んんっ……」


 もう一度、スコールは首を横に振った。
確かに、見知らぬ男達に輪姦された時、口の中に一物を捻じ込まれた。
しかし、その時点でスコールは既に意識はなく、男達にただ嬲られ揺さぶられ一方で、男達がどうやって自分を凌辱したかと言う記憶など、ろくろく残ってはいなかった。
その後、レオンに何度かフェラチオを強いられたが、何度行わされても、咥内の一物に慣れる事も、やり方を覚える事もない。

 判らない、と訴えたかった。
だが、伝えた所で、レオンが許してくれる事はないだろう。
結局、判らないなりになんとかするしかなかった。

 とにかく、口でレオンの一物を満足させれば良い。
スコールはとにかく、逃げていた舌をレオンの竿に当てた。
頭を動かせ、と言われたので、前後に揺らして竿を舌で撫でる。


「んっ、んっ…ふ、うっ……おぐっ、ん…っ」


 生理的嫌悪は勿論の事、行為として有り得ないと言う意識もあって、スコールの動きは遅々としたものであった。
舌の動きも当然乍ら拙く、頭の動かし方も単調だ。
時折、竿に歯が当たって、レオンが咎めるように後頭部を掴む手に力を込める。

 口で呼吸が出来ないから、鼻で呼吸をするしかない。
しかし、鼻で息をすれば饐えた匂いがして、息を止めると喉が窄まって吐き気が上って来る。
吐き気と、口の中に溜まった唾を無理やり飲み下すと、咥内の雄の匂いも飲み込んでいる気がして、益々拒否反応を示そうとする。

 ぬぽっ、ぬぽっ、とスコールの口唇から出入りする雄を見下ろすレオンの呼吸が、少しずつ逸って行く。
スコールは、咥内で大きくなって行く雄の脈動を感じていた。


「おふっ、ふっ…ふぐぅっ…ううん……っ!」


 口の中が限界まで開かれている。
顎が外れそうで、スコールはもう無理だ、と目で訴えた。
レオンは、熱の篭った瞳で弟を見下ろすと、掴んでいた頭を後ろへ引っ張り、スコールの咥内から雄を引き抜いた。


「ぷあっ、あっ……! ふ、あ…は……っ!」
「もう、良いな。俯せになって、尻を向けろ」
「あ、う……」


 反り返った雄を見せつけるように突き付けて、レオンは命令した。
スコールは眼前の凶器に息を飲み、硬直する。
間近でまじまじと見せつけられるのはこれが初めてだ。
これが今から、自分の躯を貫くのかと思うと、戦慄を覚える。

 だが、スコールが感じているのは、恐怖や嫌悪感だけではなかった。
指で解された淫部が、物欲しげに疼いている。

 スコールは俯せになると、膝を立たせ、方向を変えた。
レオンに尻を向け、秘孔を差し出すように、腰を高く上げる。
男に向けて露わにされた淫部は、スコールが押し殺した呼吸を漏らす度、ヒクヒクと伸縮を繰り返している。

 熱い塊が局部に押し付けられ、スコールの腰が震えた。
雄の先端が秘孔を押すと、穴は自ら誘うように口を開き、すんなりと欲望を身の内に招き入れる。


「う、ん…! あっ……あぁっ……!」


 何度も咥え込まされ、覚え込まされた形をした雄が、スコールの身体をゆっくりと開いて行く。
繋がりが深くなる毎に、下肢の力が抜けて行くのが判る。


「や、あ、ああっ…! ひぅうんっ…!」


 カリ首が肉ヒダを擦りながら、奥へ奥へと潜り込んで行く。

 すんなりとした挿入は、レオンがスコールの陰部を指で解したからだけではない。
スコールの口淫によってまとわりついた唾液が、潤滑油となり、閉じようとする肉の狭間を滑って行く。
殆ど痛みのない挿入に、スコールは虚空を見詰め、快感に喘ぐ。


「はっ、あっ…ああ…いや、あ……んっ」


 レオンの雄が最奥の壁を押し上げて、スコールは体を震わせた。
ぐり、ぐり、と奥を抉るように先端で弄られ、スコールの身体がビクッビクッ、と跳ねる。


「あっ、あっ、んぁっ…あっ、あぁ…!」


 カーペットに頬を押し付け、スコールは下腹部から競り上がって来る熱を逃そうと試みる。
しかし、レオンの腰の律動で揺さぶられていれば、呆気なくそれに流され、翻弄されてしまう。

 前後に激しく動く竿に肉壁を擦られる。
悦楽に流される悦びを覚えた躯は、知らず知らずの間に腰を揺らめかせ、更に欲しがるようにレオンの雄を奥へと咥え込もうとする。
駄目だ、と頭では判っているつもりでも、スコールは自分の腰の動きを止める事が出来ない。


「はっ、やっ! だめ、ぇ…! あっ、んんっ!」
「うくっ…!」
「あぁっん!」


 ずりゅっ! と深く突き上げた雄に最奥を抉られ、スコールは背を仰け反らせた。

 奥深くまで雄を挿入したまま、レオンはスコールの腰を掴んで立ち上がった。
最奥を更に深くまで押し上げられたスコールは、ビクビクと体を震わせる。
膝立ちにしていた足が伸びて、スコールは立位前屈の格好にされていた。


「れ、お…んんっ……」
「立て」
「は、あ…ひぅう……っ」


 力の入らないスコールが、まともに立てる筈もない。
しかし、淫部に雄を挿入されたまま持ち上げられて、否応なく腰は浮いた格好にされている。
仕方なく、力の入らない爪先を床に付ける。

 背中に縛られた腕を掴まれ、引き上げられる。
上半身を支える為に腹筋に力が入って、秘孔が窄まり、レオンの雄を強く締め付ける。


「んぁあっ……!」
「ちゃんと立っていろ」
「む、り…あぁんっ!」


 レオンは、スコールの腕を掴んだまま、腰を引いた。
ぬりゅぅう、と肉棒が引き抜かれて行き、淫肉がなぞられる。
まざまざと雄の形を感じさせられて、スコールの身体が歓喜するように震えた。

 ずちゅっ、ぐちゅっ、ずちゅっ、と淫靡な音が響く。


「あっ、んっ、あぁっ! や、待、あひっ、ひぃい…っ!」


 体を支える力を持たない膝が震え、スコールは今にも頽れそうだった。
無理やり立たされている所為で、座り込む事も倒れる事も出来ず、中途半端な姿勢で保たされ、レオンの雄を締め付けている。

 レオンは窮屈な直腸を広げるように、腰を円を描くように動かした。
肉棒がスコールの内部を掻き回し、閉じようとする壁を押し広げ、前立腺を掠める。
びくん、とスコールの身体が跳ね、きゅう、と雄を締め付けると、レオンは同じ場所に何度も雄を叩きつけた。


「あっ、あっ! あんっ! やっ! は、あぁっ! ひ、だめっ、そこぉっ!」


 頭を振るスコールだが、レオンの律動は止まらない。


「く、うっ!」
「や、あっ! あふっ、はくっ……うぅん! レオ、ン……ひっ、あ、やめ、そこは…やっ! あんんっ、あぁんっ!」


 嫌がるスコールの反応を楽しむように、レオンはぐりぐりと内部の膨らみに先端を押し付ける。
がくがくとスコールの震えており、レオンが腰を支えていなければ、スコールは姿勢を保つ事も出来ない。

 最奥を突き上げられる度、張り詰めたスコールの雄がびくん、びくん、と脈を打つ。
先端からは先走りの蜜が溢れ、スコールの股間をぐっしょりと濡らし、カーペットにも沁みを作っている。

 大きなストロークでスコールを攻めていたレオンの動きが、徐々に急くものに変わって行く。
皮膚をぶつける音が短いスパンで響き、スコールも呼吸が出来ない程の早い攻めに、中心部に集まった熱が昂って行くのを感じていた。


「あっ、あっ、あっ! あんっ、あひっ、はぁっ! はひっ、いっ、イくっ、イくぅうっ…! んあぁぁああっ!」


 ビクッ、ビクッ、とスコールの躯が一際大きく跳ねて、スコールの雄から淫蜜が吐き出される。
突き上げられる度に、びゅくん、びゅくん、とスコールの雄から精液が放出され、床に飛び散って行く。

 官能が最高潮まで高まった躯を、レオンは容赦なく攻め続けた。
絶頂で四肢を強張らせ、窄んで締め付ける肉壁を振り切るように、ずんずんと秘奥を突き上げる。


「く、う…出るっ……!」
「ああっ、あぁっ、ああぁっ! や、あぁっ、はくぅっ! あぁああんっ!」


 スコールの体内でレオンの雄が大きく震え、直腸内に蜜液が叩き付けられる。
熱を凝縮したように濃い精液に、スコールの躯が爪先まで強張り、レオンの雄を締め付ける。
熱を全て搾り取ろうとするように締め付ける淫肉に包まれながら、レオンは唇を噛み、腰を引く。


「はぁああっ……!」


 入口近くまで熱の塊が下がり、スコールは肉壁を擦られる感覚にビクビクと体を震わせる。
珠になった汗がスコールの床に落ちて行く。
俯いたスコールの顔は、涙と飲み込む事を忘れた涎に塗れ、熱に蕩けた締まりのない表情になっていた。

 雄の首が穴口に当たって止まる。
引っ掛かった首が動く度、穴口が窄み、放すまいとばかりに肉棒に吸い付く。

 レオンはスコールの掴んでいたスコールの腕を寄せ、上半身を抱き起した。
上半身を起こされた事により、自重がかかってスコールの腰が落ちると同時に、レオンは腰を打ち上げた。


「あひぃいんっ!」


 入口から最奥までを一気に突き上げられ、スコールは体を弓形に撓らせた。

 最奥を雄に抉り持ち上げられて、スコールは天を仰いだ。
熱に溺れた瞳が虚空を彷徨い、はくはくと唇が音を紡ぐ事すら忘れて喘ぐ。


「あ…お……っ」
「いい顔だ」


 レオンの腕がスコールの躯を抱き、指先が顎を捉える。
顎を持ち上げ、スコールの顔を覗き込んで、レオンがくつくつと笑う。

 レオンはスコールの片足を持ち上げた。
雄が角度を変え、レオンが腰を揺らす。
スコールは、レオンの胸に背中を預け、床に着いた片足の爪先まで伸ばして、背中を昇って脳髄を溶かす快楽に酔いしれる。


「や、深、いぃっ…! んぁっ、おっはひっ…! あはっ、もう、無理ぃっ…! あっ、あっ、あぁあ…っ!」


 弱々しく頭を振って解放を求めるスコールだが、レオンは聞かない。
せめてベッドか、床でも良いから、座り込む事が出来れば楽になれるのに、レオンはスコールを立たせたまま、休ませるつもりもない。


「レオ、ン…っ! あふっ、あっ、あっ、あ、んんっ…!」


 レオンの指がスコールの唇を辿り、咥内に潜り込む。
咥内で遊ぶ指を、スコールの舌が追った。
舌先を指でくすぐられ、スコールはうっとりとした表情で指に舌を這わせる。


「んちゅ、ふっ…あふぅっ…! んん…あむぅ……っ」
「もっと欲しいか?」
「んんっ……あ、むぅ…ふぅんっ!」


 ぐちゅっ! と陰部を突き上げられて、スコールはビクビクと体を震わせる。


「あ、んぁっ! ひ、んぁっ! はふ、あっ、あむ、あぁん…!」


 甘い色艶を含んだスコールの声。
床に着いた足が震えていたが、頽れれば更に深くまでレオンを受け入れる事になる。
これ以上は、とスコールはなけなしの力で立ち続けていたが、それもいつまで持つか怪しい。

 スコールは、己の内部を凌辱する官能に身を任せ、夢中でレオンの指に吸い付いていた。
その手から、仄かに煙草の匂いが香る。
首下をくすぐる濃茶色の髪からも、同じ匂いが感じられた。
鼻を突くような強い雌の匂いも、人工的な香水の匂いもない。
スコールが知っている、レオンの匂いだけがする。
何故かそれが酷く心を落ち着かせていたが、その理由は、未だに判らないままだった。



◇◆◇◆   ◇◆◇◆



≫[籠ノ鳥 5-3]