籠ノ鳥 7-2
R-18


 レオンが家に帰るのは、久しぶりだった。

 スコールが喘息の発作を再発させた後、レオンは家には必要なものを揃えに行く以外には帰らず、会社と病院を往復する日々が続いた。
ラグナも同様で、彼は海外の会社経営については一時的にキロスとウォードに委任し───元々、ラグナは経営云々には捗々しくない所がある為、細々とした事は友人達が手伝っていた。そのお陰か、大きな混乱も起きていない───、病院の宿泊室を利用して、スコールに付きっきりで過ごしている。

 スコールの入院期間は、二週間に渡った。
既に高校の冬休みは終わっており、新学期が始まっても学校に来ないスコールを心配したティーダ達は、レオンから事情を聞いた後、頻繁にスコールの見舞いに来てくれた。

 その生活も、ようやく一段落する。
喘息の発作が再発した事により、しばらく父と兄の不安は否めなかったものの、今までの生活にプラスアルファで気を配り、病院へは定期的に通う事、薬の服用などで無理をしなければ大丈夫な範囲まで回復した。
小学生と中学生の頃、スコールが自分自身で気を付けていた事だ。
ラグナとレオンも協力してくれるし、一人で耐え続けていた時の事を思えば、スコールは格段に心に余裕を持っていた。

 そして一月の終わりに、スコールは退院が決まった。
退院日は平日で、レオンは仕事に行かなければならなかった為、ラグナがタクシーでスコールをタワーマンションまで送り届け、レオンは午後八時に仕事を切り上げた。

 真っ直ぐに家に帰ったレオンを、父が出迎える。
その後ろに、少し疲れた表情を浮かべたスコールが立っていた。


「レオン、お帰り! お疲れさ〜ん!」
「ああ、ただいま。スコールも、ただいま」
「ん……お帰り」


 抱き着いて来た父を甘受しながら、レオンは弟に帰宅の挨拶をした。
スコールは頷き、小さな声で返事を返す。

 弟の疲れた表情の経緯を、レオンは聞かずとも理解した。
基本的に静寂を好む性質の今のスコールにとって、父の賑やかさは、あまり好ましくないのだろう。
かと言って、息子の退院を喜ぶ父に「喋るな」と言うのも気が引ける。
自分が甘えたいと言わんばかりに息子を甘やかしたがるのも、ラグナらしい愛情表現なのだが、思春期真っ盛りのスコールには恥ずかしいと思う所もあるだろう。
でもやっぱり、今日は折角の退院だし、心配をかけたから我慢して……と言う心境で、父の激しいスキンシップを受け続けていたのだろう。
その証拠のように、スコールの短い髪が、撫でた名残のようにあちらこちらに跳ねている。

 レオンがラグナに肩を組まれたままでリビングに入ると、スコールがその後をついて来る。
後ろをついて来る弟の気配は、記憶にあるものよりもずっと大きくなっているのに、小さな子供のままのような錯覚を感じた。
くすり、と口元に笑みが浮かぶ。
そんなレオンを見て、ラグナが嬉しそうに笑った。


「良かったな、レオン。スコールが無事に退院できて」


 レオンが笑っているのを、スコールの退院を喜んでのものと思ったらしい。
勿論、それもレオンには嬉しい事だ。
父の言葉に頷けば、ラグナは笑みを深めて、ぐしゃぐしゃとレオンの頭を撫でた。


「父さん、やり過ぎだ」
「そう言うなって。ほら、スコールもこっちおいで」


 ラグナは、リビングのドア前で遠目に父兄の遣り取りを眺めていた。
しかし、父が手を伸ばして誘うのを見て、唇を尖らせる。
判り易く照れている次男の姿に、可愛いなあ、とラグナが呟いた。
レオンも、全くだ、と胸中で呟き、


「おいで、スコール」


 父と並んで手を伸ばしたレオンに、スコールの頬に朱色が上る。

 観念したように、スコールはのろのろと歩き出した。
レオンの手にスコールが自分の手を重ねる。
レオンは、ぎゅっとスコールの手を握って引き寄せた。
蹈鞴を踏んだスコールをラグナが受け止め、両腕にそれぞれ息子を抱えて、強く抱き締める。


「お、おい、ラグナ……」
「ん〜?」
「俺はもう良いだろ。病院でも、さっきも、ずっとこんな」
「観念しろ、スコール」


 諦めろ、と言う兄に、スコールは眉根を寄せた。
それにも構わず、ラグナは二人の息子にそれぞれ頬擦りする。


「父さん、こっちにはいつまでいられるんだ?」
「うーん……スコールも退院したしなぁ。いつまでもキロスとウォードに任せっきりにする訳にも行かないし、多分、早い内に戻った方が良いんだろうけど。折角スコールとレオンと一緒にいられるんだから、もうちょっといたいな。せめて今週…いや、来週一杯はいたいな。ほら、映画館の近くの喫茶店とかさ、二人に見せてやりたいんだよ」
「……喫茶店?」


 ラグナの言葉に、スコールがきょとんと首を傾げる。
何の話、と訊ねるスコールに、レオンが説明した。


「昔、父さんと母さんが一緒に行った事がある店らしい。窓辺に花と兎のぬいぐるみが置いてある店らしいんだが、見た事あるか?」


 映画館なら商店街の近くにあるから、ティーダ達と通りかかった事もありそうだが、スコールは見覚えがなかった。
知らない、と首を横に振ると、ラグナが嬉しそうに笑う。


「じゃあ行こう、絶対行こう! 閉まるのが早いから、平日は難しいな。今週の土日、どっちか皆で一緒に行こうな」
「ああ」
「……まあ、予定がなかったら……」


 父の言葉に頷く兄と、素直ではない返事を零す弟。
ラグナはそんな二人ににっかりと笑って、妻とよく似た濃茶色の髪をくしゃくしゃと掻き撫ぜた。

 一頻り息子達を構い倒して、気が済んだレオンは、二人を抱く腕を解いた。


「もっと一緒にいたいけど、スコールはそろそろ休まなきゃな。レオンも疲れてるだろ。俺はホテルで休むから、今日は二人とも、ゆっくり寝ろよ」
「ホテル? 此処で寝れば良いじゃないか」


 ソファの背凭れに置いていたロングコードと鞄を取ったラグナに、レオンは言った。
以前なら、兄弟間の確執を出来るだけ知られないように、それとなく距離を置こうとしていたが、今ではその心配もないからだ。

 ラグナは息子の言葉に嬉しそうに笑ったが、


「うん、俺もそうしたいんだけどさ。俺、一緒にいたらずーっとスコールにもレオンにも構いたくなっちまうんだよなぁ。でもスコールは退院したばっかりだし、これ以上疲れさせちゃいけないと思うんだよ。だから、今日はホテルで我慢! 明日、スコールが学校から帰って来る頃にはまた来るよ。で、明日は俺が晩飯作ってやるからな!」


 楽しみにしてろよ、と言う父に、スコールは眉根を寄せた。
不機嫌を表すような眉間の皺だが、白い頬が微かに赤い所を見ると、決して悪い気持ちを持っている訳ではないようだ。

 でも、とレオンは言い掛けたが、くん、と何かが服を引っ張った。
振り返ると、スコールの手がレオンのスーツの端を摘んでいる。


「あっ、あっ。スコール、俺にはそういう事してくれないのに」


 唇を尖らせ、拗ねた子供のような顔をして言ったラグナに、スコールが慌てて手を引っ込める。
じろりと蒼い瞳が父を睨んだが、ラグナは全く気にしなかった。

 マンションの玄関へと向かう父を、兄弟は揃って見送る事にした。
エントランスロビーを過ぎた所で、ラグナは「最後にもう一回」と言ってレオンとスコールをそれぞれ抱き締めた。
明日になれば逢うと言うのに、やはり一晩だけでも愛する息子達から離れるのが寂しいらしい。
仕様のない父親だ、と思いつつ、レオンは父の背中を抱き返し、スコールもラグナの気が済むまで、彼の腕を甘受した。


「よしっ。じゃあ、また明日な!」


 朗らかな笑顔を浮かべて、ラグナはマンションの玄関を潜った。
待たせて置いたタクシーに乗り込み、出発したそれが見えなくなるまで、レオンとスコールは父を見送った。

 車が見えなくなって間もなく、二人は揃って部屋へと戻る。
エントランス、エレベーターと、二人きりになってからの会話はなかったが、スコールは以前のような息苦しさは感じていなかった。
それよりも、とく、とく、と鳴る自分の心臓の音が、いつもよりも心なしか大きいような気がする。
傍らにいる兄に聞こえていないと良い───と思うスコールは、レオンの鼓動が同じように逸っている事には気付いていない。

 家に戻ると、二人は廊下の真ん中で立ち尽くした。
兄弟の間で沈黙は当たり前のものではあったが、互いに其処に付随する雰囲気の違いを感じてか、戸惑いが滲んでいる。

 スコールが入院している間、二人きりになった事は何度もある。
想いを遂げあった日から、父や看護師の目を盗むように、触れるだけのキスを交わした事もあった。
しかし、場所が場所であるから、やはり"兄弟"として接するのが当然だ。

 普通の"兄弟"として、嘘偽りなく接する事が出来るのも嬉しかった。
幼い頃に奪われた安らぎの時間を取り戻すように、レオンはスコールに優しく触れて、スコールも遠巻きながら兄に甘えた。
スコールは、流石に子供の頃のように無邪気に甘える事は出来なかったが、おずおずと伸ばされる手や、物言いたげにじっと見詰める蒼の瞳が、レオンはとても嬉しかった。
幼い頃に無心に自分を求めてくれた弟と、ようやく再会できた────そんな風にも思った。
スコールもまた、幼い頃にあんなにも心を砕いてくれた兄が、ようやく迎えに来てくれたのだと感じていた。

 だが、ようやく心を繋ぐ事が出来たのだ。
優しく触れる手も、甘えたがる瞳も、柔らかいキスも嬉しかったが、人間は貪欲なもので、もっと欲しい、もっと触れたい、と思ってしまう。
もっと奥まで、深くまで、全てを受け止めたい、全てを受け止めて欲しい、と。

 退院するまでの辛抱だと、二人は自分に言い聞かせた。
少なくとも、病院で事に及んで、誰かに見付かったら目も当てられない。
レオンは以前、自分がスコールにしている事が誰かに知られても構わない、とまで思っていたが、今は違う。
自分の所為でスコールが誰かから叫弾されるのは避けたかった。
"守りたい"と言う思いを取り戻したからこそ、レオンは自分の欲望を押さえつけていた。

 そして、ようやくの退院────父もいない。
二人の鼓動が知らず高鳴るのも、無理もない事だった。

 二人で廊下に立ち尽くして、どれ程の時間が経っただろうか。
一分、二分と言う短い時間のようにも思えたし、何十分も意味もなく立ち尽くしていたような気もする。

 ふぅ、とレオンが息を吐いた。
びくっ、とスコールの肩が跳ねる。
自分の反応があまりにも目に見えて顕著だった事に気付き、スコールが顔を赤くしていると、レオンが言った。


「……良いのか、スコール」


 問う言葉に、スコールは振り返って兄を見た。
明後日の方向を向いているレオンの表情を知る事は出来ない。
レオンは、振り返らずに続けた。


「本当に、俺で良いのか」
「……あんた、嫌なのか?」
「そういう訳じゃないが……」


 問い返したスコールの声には、不安が滲んでいた。
レオンは俯いて、しばらく口を噤んだ後で、


「今まで、酷い事ばかりしていたからな。それに、男同士だし、兄弟だ。と言うか、そっちが根本からして問題なんだが……」
「俺は……気にしてない。そんな事気にしてたら、もっと前に、嫌だって言ってる」
「後悔するかも知れないぞ」
「……今更するような後悔なんか、ない」


 きっぱりと言い切ったスコールに、若いな、とレオンは苦笑した。
振り返ってみれば、真っ直ぐに自分を見上げる弟と目が合う。


「第一、俺を……こんな、に、したのは……あんただろ……」


 ぼそぼそと、語尾に行くほどスコールの声は小さくなる。
こんなって、と問い掛けて、レオンはスコールが耳まで赤くなっている事に気付く。
徐に持ち上げた手で赤らんだ頬に触れれば、ピクッ、とスコールの肩が震える。

 レオンは、スコールの肩を抱き寄せた。
胸にスコールの頭を押し付けて、耳元で囁く。


「そうだな、手遅れだ。だから、逃がさないから、覚悟しておけ」


 明らかな熱を含んだレオンの声に、スコールの鼓動が高鳴る。

 自由になる最後のチャンスだったのに、とレオンが小さな声で呟いたのが聞こえて、自由なんかもう要らない、とスコールは思った。



 スコールの部屋のベッドが、きしり、と二人分の体重を受けて軋む。
ベッドの上で向かい合っていると、レオンの手がスコールの頬に添えられ、顎を持ち上げた。
落ちてきた唇を、スコールが受け止める。

 優しく触れるだけだったキスは、触れては離れて、また触れてと繰り返して行く内に、少しずつ深いものになって行く。
緊張するように引き結んでいた唇を、あやすように舌で撫でられて、おずおずと口を開けた。
するりと滑り込んで来た舌に、己の舌を絡め取られて、スコールの肩が震える。
嫌ではなかった。


「ん、ふ……」
「んん……」


 ちゅく、ちゅ、と唾液が絡み合って音を鳴らす。
深くまで貪るレオンの唇に、スコールは溺れそうだ、と思った。
それでも大人しく甘受していると、歯列を舌でなぞられて、ぞくぞくとしたものが背中を這う。


「あ、ふ……っ」


 艶を灯した吐息が漏れた。
自分の物ではないような甘い声に、スコールは唇を噛もうとしたが、レオンがそれを赦してくれない。
まさか彼の舌を噛み千切る訳にも行くまい。
スコールは肩を小さく震わせながら、レオンの気が済むのを待った。

 咥内を余す所なく愛撫されて、スコールはすっかり茹ってしまった。
恥ずかしさで閉じていた瞼も緩み、熱を孕んだ青灰色の瞳が覗く。
ベッドシーツを握り締めていた手も解け、スコールはレオンに抱き締められていなければ、くったりとベッドに沈んでいただろう。

 案の定、レオンが口付けを止めると、スコールはとろりと蕩けた表情で視線を彷徨わせた。
白い頬が赤らんで、額からは微かに汗が滲んでいる。

 呆けているスコールを抱き寄せて、レオンはスコールのシャツに手をかけた。


「あ……」


 頼りない声を漏らしたスコールに、レオンの手が止まる。


「嫌か」


 レオンの言葉に、スコールはふるふると首を横に振って、


「……変な気分だ……」
「変?」
「……なんか…恥ずかしい……気がする……」


 裸など、今までに何度見られた変わらない。
服を無理やり剥かれたり、破られたりと言う事もあった。
そしてレオンはスコールを無理やり組み敷いて、自分の気が済むように行為を押し進めていた。

 そんなセックスの始まりに比べると、今日はとても緩やかで平和的である。
無理やり服を剥かれる事もなく、自分で服を脱げと命令される事もない。
ゆっくりとシャツを捲られて行くだけの、とても緩やかな始まりに、スコールは戸惑っていた。

 赤い顔で俯くスコールを見て、レオンはぱちりと瞬き一つした後、くすりと笑った。


「そんなのだと、持たないぞ」
「───うわっ」


 レオンは勢いよくシャツを捲り上げて、スコールはその勢いで万歳する。
するっ、とシャツがスコールの頭を潜って脱げた。

 レオンもワイシャツとインナーを脱ぐ。
確りとした大人の逞しい体つきを前にして、スコールの顔が赤らんだ。


(そう言えば……レオンの体、ちゃんと見たの、初めてだ)


 その体の重みや熱はよく知っているが、体格や骨格と言うものを、正面から目の当たりにした事はなかった気がする。
肩幅が広く、胸板も厚い。
全体的には細身な方なのだろうが、やはり、無駄のない筋肉がバランスよくついているのが判る。

 自分の体をまじまじと見詰めるスコールに気付いて、レオンはむず痒くなった。
成る程、と先のスコールの反応に理解を示す。


「そんなに見られると、少し照れるな」
「……っ」


 自分が何をしているのか、レオンの言葉を聞いて、スコールはようやく気付いた。
真っ赤になって慌てて目を逸らす。

 まるで初心な子供の様だ、と思いながら、レオンはスコールの頬にキスをする。


「んっ……」


 ぴくっ、とスコールが肩を震わせる。
レオンはその肩を押して、スコールをベッドに倒した。
シーツの波に埋もれたスコールは、自分の上に覆い被さっている男を見上げて、こくり、と小さく喉を鳴らした。


「……怖いか」


 覆い被さる男は、今まで散々自分を蹂躙して来た男だ。
心が繋がり、誤解も解けて、触れる手もとても優しいものに変わったけれど、今までレオンがスコールにして来た事が消える訳ではない。
改めて行為に及ぼうとした瞬間、スコールがいつかの恐怖心を思い出さないとも限らなかった。

 怖いなら、嫌なら、しない。
見下ろす蒼灰色の瞳は、そう言っていた。
スコールは自分の体が微かに緊張に強張っている事に気付いていたが、それは行為への恐怖が理由ではない。


「……平気、だ。恐くない」


 恥ずかしさで反らしていた視線を、レオンへと向け直して、スコールは言った。
その言葉に、レオンの口元が綻んで、スコールの首筋へと寄せられる。


「でも……」
「ん?」


 スコールの身体に触れようとした唇が、触れる直前で止まる。
レオンが顔を上げると、スコールは戸惑いの色をした瞳でレオンを見詰め、恐る恐る訊ねた。


「その…手、とか……縛らなくて、良い、…のか……?」


 スコールのその言葉に、レオンは目を丸くした。
ぽかんとした表情で見詰めるレオンに、スコールが首を傾げる。

 そう言えば、セックスをする時は、いつもスコールの腕を拘束していた。
初めの頃は暴れるスコールの抵抗を封じる為で、その内、拘束する事で彼の身体の自由を奪う事に興奮を覚えるようになって行った。
スコールが完全に抵抗を諦めてからも、それは変わる事なく、レオンは性交の際には必ず拘束具やネクタイでスコールの腕を拘束していた。

 レオンは、ベッドシーツを握り締めているスコールの手を見下ろした。
かつて、何度も付け直すように残していた拘束の痣は、今はすっかり消えている。
それを見ても、いつかのように焦燥めいた感情を抱く事はなかった。

 何か可笑しな事を言ったか、と言う表情をしているスコールに、レオンは苦笑した。


「縛って欲しいのか?」
「え?」
「お前がその方が良いなら、縛っても良いが……」


 どうする、と問い掛けると、スコールはまだきょとんとした顔をしていた。
頭の中で、レオンの言葉の意味を反芻しているのだろう。
レオンはもう少し噛み砕いて、スコールに問い直した。


「お前が縛られるのが好きなら、縛っても良い」
「好っ……そんな訳あるか!」


 目尻を吊り上げて言ったスコールに、レオンはくつくつと笑う。


「なら、今日はこのままで良いな」


 そう言って、レオンはスコールに覆い被さる。

 ちゅ、と首筋に吸い付かれて、スコールは小さく吐息を漏らした。
そのままゆったりと舌でなぞられて、スコールは喉を逸らして唇を噛む。


「声、殺すな。聞かせろ」


 命令口調のようだったが、声色は優しかった。
スコールが恐る恐る口を開く。
レオンの手がスコールの胸を撫でて、蕾に触れた。


「あっ……」


 甘い声が漏れて、スコールの顔が赤くなる。

 レオンの舌が、首、鎖骨、胸と辿って降り、やがて頂きに辿り着く。
熱の篭ったレオンの吐息がかかるだけで、スコールはふるふると躯を震わせた。
ちゅう、と吸い付かれると、スコールはベッドシーツを握り締めた。


「やっ…あっ……!」


 レオンが膨らみを甘噛みすると、スコールの体がヒクンと跳ねて、弓なりに反った。
久しぶりに味わう快感に、スコールの鼓動が瞬く間に逸って行く。
同時に、胸を、腰を撫でるレオンの手を妙に意識してしまって、愛撫する手に大袈裟な程反応してしまう。


「んんっ……」
「…ふ……んちゅ…」
「あ、う…っ、んぁ……っ、ふぁ、んっ……!」


 ねっとりと熱い咥内で、舌で乳首を転がされる。
反対の乳首にもレオンの指が悪戯を働いていた。
柔らかく摘まんで撫でるように先端を擦られて、爪先を引っ掛けて弄られている。
ぴりぴりと甘い電流のような快感が上って来る感覚に、スコールは唇を噛んで耐えていた。


「ん、ん…、んくっ……ふぁ…っ」
「は、んっ」
「やぁっ……!」


 ちゅぅっ、と乳首を強く吸われて、スコールの体が跳ねる。


「あっ、あっ……あぁっ……!」
「は……立ってるぞ、スコールの此処……」


 左右の乳首が指に摘ままれ、同時にコリコリと転がされ、スコールの肩がビクビクと官能を示す。


「やっぱり敏感だな、お前の体は」
「んぅっ……」


 ふるふると首を横に振るスコールだったが、乳首を摘んで引っ張られると、甘い声が漏れてしまう。


「や、やあっ…! レ、オン……っ」
「可愛いな、スコールの此処」
「ひんっ…! あ、あ、吸うなあ……っ!」


 ぱっくりと食んだ乳首に、ちゅうぅ、と強く吸い付くレオン。
蠢く舌が乳輪の縁をなぞり、ねっとりと這う。
熱い、とスコールは頭上の虚空を見詰めて思った。

 レオンの舌が胸で遊ぶ度、スコールの体が素直な反応を示す。
その様子を細めた双眸で見詰めながら、レオンは右手を下ろして行く。
細い腰を撫でた手は、ジーンズの上から臀部を辿り、前に回る。
其処は既にテントを張っており、やわやわと揉んでやれば、スコールはいやいやをする子供のように頭を振った。


「や、う…あっ、んんっ…!」
「脱がすぞ」
「……っ!」


 そんな事を言われたのは初めてだった。
ドクン、とスコールの鼓動が大きく跳ねる。

 ベルトが外され、ジッパーが下りて前を緩められる。
下着ごとジーンズが下ろされて、スコールは陰部を曝け出した。


「こっちも、もう勃起していたか」


 薄い笑みを浮かべるレオンの言葉に、スコールの羞恥心が煽られる。
真っ赤になった顔を隠すように、スコールはベッドシーツを手繰り寄せた。

 膝を揃えられ、ジーンズが引き抜かれて行く。
足を曲げるように太腿を押されると、スコールはシーツに顔を埋めたままで従った。
足下に絡み付く固い布地がなくなると、軽くなった足元を掴まれ、左右に大きく広げられた。


「や…見る、なぁ……っ!」


 自分がどんな有様になっているのか、スコールは判っていた。
沢山のキスをされて、レオンに胸を愛撫され、それだけでスコールの雄は快感の証明のように反り返っている。


「いやらしいな……」


 低い声でレオンが囁いて、指が竿をゆっくりとなぞる。
根本から先端までのラインを確かめるように辿られて、スコールはふるふると腰を震わせた。

 レオンは手で輪を作ると、スコールの雄を包み込み、手淫を始めた。
竿をカリ首の下から根本まで丹念に擦られて、スコールの足が逃げを打つようにシーツを蹴る。
しかし、レオンの腕に腰を抱かれている所為で、離れる事も叶わない。


「んっ、んぅっ…! レオ、ン…やぁっ、あっ、あっ……!」


 下腹部が熱くなって行く毎に、スコールの呼吸も早く浅くなって行く。
溢れる声を堪えようと口を噤もうとすると、レオンは雄の先端に指を押し当て、ぐりぐりと擦った。


「ひぃんっ! や、あ、レオンっ…! それ、やだぁっ……!」
「感じるか?」
「ひ、あふっ、…ふぅんっ…! んぅうっ……!」


 首を横に振るスコールだったが、体は言葉よりも遥かに正直だ。
スコールの雄の先端からは、とろりとした先走りの蜜が溢れ出している。
行為を始めてから、まだそれ程時間が経っていないのに、スコールの体は官能に押し流され、陥落しようとしていた。

 手淫の動きが激しくなり、スコールの爪先が丸くなって強張る。


「やっ、嫌っ…! あ、ぅ、……ふくぅううっ……!」


 ビクッ、ビク、とスコールの腰が戦慄いて、蜜液が噴き出した。
飛沫混じりのそれがレオンの手とスコールの腹に降り注ぐ。

 久しぶりの絶頂に、スコールはすっかり放心してしまった。
弛緩した四肢がベッドに沈む。
蒼灰色の瞳は熱に溺れたように虚ろに彷徨い、濡れた唇からは甘い吐息ばかりが零れている。
腹の奥で、じんじんとした感覚が止まらなくて、スコールは身を捩った。

 レオンは自分の手に付着した蜜液を見下ろし、舌を這わせた。
ぴちゃ、と鳴る音にスコールがレオンを見る。
赤い舌が形の良い指の隙間を這うのを見詰めながら、スコールは腹の奥の疼きが大きくなって行くのを感じていた。


「レオン……」


 甘味を含ませた声に、レオンは顔を上げると、見せつけるように指を舐めて見せる。
スコールの蜜液と、自分の唾液が絡まった指を差し出せば、スコールはおずおずと口を開いた。


「ん……」


 小さな口がレオンの指を食む。
ちゅぷ、ちゅぷ、と飴かアイスをしゃぶるように、スコールは目を閉じ、味わうようにレオンの指を舐めた。
スコールは、舐めているそれが味などしない事は判っていたが、何故かとても甘いものを食べているような気がした。
甘露など好きではないのだが、これは好き、と思う。

 子供がお菓子に夢中になるように指をしゃぶるスコール。
レオンはその様子をじっと見詰めていた。
小さな舌が丹念に、指の先から根本までを何度も往復する様に、レオンの熱が中心部へと集まって行く。


「美味いか?」
「…ん……は、ふ……っ」


 言葉の代わりに、スコールは目を開けた。
頬を赤らめながら、うっとりとした表情で指を食むスコールに、レオンも笑みを零す。


「もう良いぞ」
「……あ……」


 レオンの指が口から離れて行くのを見て、スコールが名残惜しい声を漏らす。

 スコールの口と、レオンの指に、唾液の糸が引いた。
ぷつりと切れたそれがスコールの口端を濡らし、てらてらと光る。
レオンは徐に顔を近付けて、スコールの口端を舐め取った。


「んぁ……」
「……ふ、ん……」


 誘うようにスコールの唇が開いて、レオンのそれと重なった。
絡み合う舌を好きにさせ、レオンはスコールの膝を割って、陰部に手を這わす。

 濡れた指がスコールの秘孔に触れた。
ぴくん、と震えて緊張するように強張る躯を慰めるように、レオンがスコールの舌の腹を撫でてやる。


「あふ、ぅ……────うぅんっ…!」


 スコールの体の強張りが緩んだ一瞬に、つぷ、とレオンの指が秘孔内へと侵入する。
二週間ぶりに受け入れる他者の感覚に、スコールの陰部はヒクヒクと蠢き、レオンの指を強く締め付けた。


「レ、オ……レオン……っ」
「は……スコール……ん……」
「んぅ……あ、ふ、…うんっ……」


 名前を呼んで、もう一度唇を重ね合わせ、レオンはスコールの咥内を貪りながら、唾液で濡れた指を奥深くまで挿入して行く。

 指が根本まで挿入されると、レオンはスコールの呼吸を解放し、


「痛いか……?」


 確かめる声に、スコールはふるふると首を横に振った。
締め付けて圧迫感はあるものの、苦痛や痛みと言ったものは感じない。
それ所か、スコールの秘部は、久しぶりに咥え込んだものに快感と喜びを伝えていた。

 指の関節が曲げられて、肉壁を押す。
ひくん、とスコールの体が跳ね、陰部がきゅうと閉じてレオンの指を締める。


「あっ、あっ…ああっ……!」


 唾液と蜜液で濡れそぼった指が、潤滑油を塗りたくるように、万遍なくスコールの内部を愛撫する。
ゆったりと、的確に弱いポイントを掠めてはその周辺をくすぐる指に、スコールの腹筋がピクピクと反応する。


「あっ、レオ、レオン…っ! ひ、んっ……あっ…!」
「敏感だな。何処を弄っても反応する」
「や、うっ…そんな、事っ……んっ、あっあっ、ひくぅっ…!」


 レオンの言葉を否定したくても、体が否応なく反応する。
そうなるように作り変えたのは、他でもないレオンだ。
スコールは真っ赤になって首を横に振った。

 凹凸のある壁を丹念に撫でられる。
特に、前立腺の膨らみは執拗に突かれて、スコールはその度に甲高い声を上げていた。


「あっああっ、あぁっ…! や、だ…やだぁっ……!」


 前立腺を攻められると、あっと言う間に頭の中が真っ白になってしまい、激しい快感に襲われる。
それは思考どころか脳味噌の中枢から溶かされて行く程に強いものだった。
だからスコールは、其処を攻められるのが嫌いだった。

 しかし、今は「嫌」と言いながら、体はそれに逆らおうとしない。
快感に従属する事を覚えた体だから───と言うのもあるが、それ以上に、レオンの手を振り払いたくなかった。
もっと触れて欲しい、もっと感じさせて欲しいと思う。
其処へ来て、彼に弱点である前立腺を弄られれば、快楽に弱い躯はあっと言う間に上り詰めて行く。


「レオ、ンっ、やめ……は、ひぅっ! ひ、ぁあんっ!」


 くりゅっ、とピンポイントで前立腺を押し上げられて、スコールの腰が浮き上がる。
同じ場所をレオンが激しく突き上げれば、壁を押し抉る度にスコールの体が跳ね、がくがくと細い体が快感に打ち震える。


「ひんっ、ひっ、あうっ…! あ、ふぅっ…!」
「気持ち良いか?」
「…ふ、うっ、うぅんっ……あうぅ……!」


 レオンの言葉に、スコールは唇を噛んで小さく頷いた。
それを見たレオンが、満足げに微笑み、スコールにキスをする。
レオンは、スコールに深く口付けたまま、スコールの陰部に二本目の指を挿入させた。


「うぅうんんっ」


 ビクビクとスコールの膝が跳ねたが、レオンは構わずに愛撫を続けた。
二本の指をそれぞれバラバラに動かして、陰部の壁を引っ掻くように爪先で掻き回してやる。
スコールの体が快感に打ち震えて跳ねる度に、肉壁は悦んでレオンの指に絡み付く。

 きゅうきゅうと閉じようとする内部を、レオンの二本の指が広げる。
くぱあ、と直腸の道が押し広げられるのを感じて、スコールは顔を真っ赤にした。


「んぅっ、あむぅ…っ! は、はふっ、んくぅっ」
「ん、はふっ……ん、う…っ」


 前立腺の膨らみを挟むと、スコールは目を見開いて悶え打つ。


「んふぅううっ! う、ん、ふぁっあぁあっ!」


 レオンが唇を放せば、甘ったるい悲鳴が響く。
摘まんだ膨らみを揉むように転がせば、スコールは頭を振って喘いだ。


「はひっ、ひっ、あぁっ! あんっ、あっ、あぁっ」
「大分解れて来たな。痛みはないんだな?」
「あっ、な、い…ないぃっ……! あっ、ひんっ、ひぅんっ!」


 スコールが熱に朧になった意識で夢中になって答えると、陰部を弄っていた指が引き抜かれた。
絡み付く肉壁を一際強く擦られて、スコールは腰を浮かして高い声を上げた。

 スコールは、自分の体にすっかり力が入らなくなっている事を自覚した。
ぞくぞくとしたものが下肢から全身に渡って、膝を立たせる事さえも出来ない。
レオンに強姦された日から、あらゆる手段で犯されて来たけれど、こんなにも甘ったるくて逆らい難い快感に支配されるのは初めてだ。

 レオンの指を失って、スコールの秘部がじゅくじゅくと疼きを訴える。
スコールはベッドシーツに爪を立て、ゆらゆらと腰を揺らす。
全身の白い肌を桜色に赤らめ、汗を滲ませ、淫靡な踊りを見せるスコールに、レオンの喉が鳴った。


「……レオ、ン……早く……もう……」


 息を絶え絶えに、スコールは目の前の男を見上げて言った。
シーツを手繰りながら寄せた足が、レオンの腰に絡み付く。

 レオンはスコールの額にキスをして、体を起こした。
腰のベルトを外して前を寛げると、大きく膨脹した雄が現れる。
何十日振りかに見るレオンの雄を見て、スコールは息を飲むと同時に、ずくり、と腹の奥が強く脈打つのを感じた。

 スコールの秘部にレオンの雄が宛がわれる。
熱の塊のような肉棒に、淫穴がひくん、と反応する。


「……挿れるぞ。苦しかったら言え。ちゃんと待つから」
「ん……」


 スコールが小さく頷くと、レオンはゆっくりと腰を進めた。
先端が穴口を潜り、カリ首に向かうに従って穴がその形に添うように拡げられて行く。

 太く熱い塊を久しぶりに咥える感覚に、スコールの体は緊張と興奮で強張り、雄を強く締め付ける。
レオンが微かに眉根を潜めているのを見て、力を抜かないと、と思うのに、スコールの呼吸は上がって行くばかりだった。


「あ、あっ…はっ、はくぅっ……! あぁあっ……!」
「ん、く……っ」


 レオンが腰を進めるのを止め、スコールの顔の横に両手をついて、自身の昂ぶりを沈めるように深呼吸を繰り返す。
雄は半分まで入った所だった。
カリ首の膨らみがスコールの前立腺を掠め、押し上げている。

 レオンの手がスコールの頬を撫で、唇が落ちて来る。
スコールはそれを受け止めて、口を開いた。
するり、と舌が滑り込んで、スコールのものと絡み合う。


「は、ふ…はぅ……はっ……ん……」


 口付けを繰り返しながら、レオンはスコールの頭を撫でた。
小さな子供をあやすような手付きに、スコールの呼吸も少しずつ落ち着きを取り戻し、体の余分な緊張も解れて行く。

 レオンが再び腰を押し進める。
ぬぷ、くぷ…と深くなって行く繋がりに、スコールは胸の奥が言いようのない充実感で満たされて行くのを感じていた。


「は、ん…レオン……んっ……レオ、ンん……」


 唇が離れる度に、スコールはレオンの名前を呼んだ。
小さな子供が甘えるような声が心地良くて、もっと聞きたい、とレオンは思う。

 セックスの最中、助けを求めるように泣き叫び、支配者であるレオンの名を呼んでいたスコール。
その時のレオンは、スコールの泣き顔を見て昏い喜びを感じると同時に、埋まらない渇き、餓えを感じ続けていた。
幼い頃から抱き続けていた渇きと焦燥だったが、今は全く感じていない。
スコールが無心に自分を求めて名を呼ぶ度に、ずっと心に空いていた穴が埋まって行くのが判る。


「は…く……スコール……っ!」
「……あぁあっ……!」


 レオンはスコールを抱き締めた。
ぐぷんっ、と挿入が深くなり、スコールの最奥を貫く。

 ひくん、ひくん、と快感の伝播が止まらないのか、スコールの体が痙攣したように小刻みに震えている。


「スコール……」
「レオ…あ、つ……あついぃっ……!」
「ん……お前も、熱い……こんなに熱くて、いやらしくて、可愛いんだな…お前の体は……」
「ふぅうんっ……!」


 耳元で囁かれる、低く心地の良い声に、スコールの陰部がきゅうっと締まる。


「はっ…あっ、あぁ……」


 挿入が終わってから、レオンは少しも動いていない。
しかし、スコールの唇からは絶えず甘い声が零れていた。
肉壁はヒクヒクと震えてレオンの雄をなぞり、奥へ誘うように蠢いている。


「知らなかったな……お前が、こんなにいやらしい躯をしていたなんて」


 囁くレオンの声は、柔らかい。
スコールは、冷たい眼差しで甚振られていた時の事を思い出し、俺もあんたがこんなに熱いなんて知らなかった、と胸中で呟く。

 いつもレオンが一方的にスコールを犯し、スコールが泣く様を見る事だけが彼の目的だった。
暴力と無理やり与えられる快感で、スコールの躯は陥落する事を覚え、レオンはそんなスコールを何度も詰った。
スコールはそんなレオンを長い間拒否し続け、逃げる事を止めてからも、レオンと向き合う事はしなかった。
────だから、互いの躯の奥深くに存在する熱を、知らないままだった。

 レオンがゆっくりと腰を引くと、ぬりゅ、ぬりゅ、と媚肉に雄が擦れて快感を呼ぶ。
ぞくぞくと震える躯を悶え捩りながら、スコールはレオンを見上げ、


「お、れを…んっ……こんなのに、した、のは……あっあ…! あん、た、だろ……ぉんっ!」


 言葉尻と同時に強く突き上げられて、スコールは仰け反った。
そのまま律動が始まり、ずんっずんっ、と秘奥を攻められる。


「あっ、あっ、あっ、あっ…! や、あっ、ああっ!」
「はっ…ふっ……そう、だな……俺がお前を、こんな風に……」


 独り言のように呟くレオンの瞳は、劣情で満ちている。
その眼に射抜かれて、スコールの内壁がレオンの雄に絡み付く。

 レオンはスコールの両膝を掴んで持ち上げると、肩に乗せた。
そのまま上に覆い被されば、スコールは躯を折り畳まれて、上から押し潰されるように激しい攻めを味わう事になる。


「ああっ、あっひぃ! や、あっ! レオ、ン……あぁっ!」


 秘奥の行き止まりをノックするように繰り返し突き上げられて、スコールは頭を振って身悶えた。
頭上で腕が縋るものを求め、シーツを握り締めている。

 レオンはスコールの腕を掴むと、自分の首へと回させた。
涙を浮かべて見上げるスコールに小さく頷いて見せると、スコールは全身で以てレオンにしがみ付く。


「レオン、レオンっ、あんっ、あっ、あぁっ! ひくっ、ひんっ! あうっ、あっあっ、」
「は、んっ、スコール、スコールぅっ…! く、うくっ…!」
「あぁっ、やっ、あっ! イ、イくっ…また、来るうぅっ…!」


 熱い欲望に躯の奥を突き上げられる度、スコールの熱は昂って行き、中心部が頭を持ち上げる。
其処からは既に先走りの蜜が溢れていた。

 レオンの体がスコールと密着する。
腰を激しく打ち付けられ、スコールは前後不覚の状態に陥っていた。
頭の中は快感と喜びだけで一杯で、夢中になってレオンにしがみ付いて、彼が与えてくれる快感を追う。


「あ、イくっ、イくぅっ……! レオンんっ…!」
「は、俺も……出るっ……!」
「ああっ、あぁぁぁっ!」


 ドクン、ドクン、と二人の雄が大きく脈打ち、熱を放つ。
放出された熱は、スコールのものは二人の体をしとどに濡らし、レオンのそれはスコールの体内に一滴残らず注ぎ込まれて行く。

 今まで何度も犯された筈なのに、今までで一番熱いものを注がれたような気がして、スコールは放ったばかりの熱が再び沸き上がって来るのを感じた。
体内で震え、濃い蜜液を溢れさせる雄を締め付ける。
もっと、と求めるように食い付く淫肉の感触に、レオンもまた、若い欲望が間を置かずに昂るのを感じ取る。

 ぬる……と雄が抜けて行くのを感じて、スコールは「やあ……」と甘い声を漏らした。
離れようとするレオンを引き留めるように、秘孔口が雄をみっちりと食い込み、スコールの細い腕もレオンの首に絡み付いたまま離れない。

 膨らみを穴口に引っ掛けたままの状態で、レオンはスコールの躯を抱き起した。


「ふ、あ……?」


 視界の変化の理由を理解できず、スコールが蕩けた表情でレオンを見る。

 レオンは、スコールに膝立ちさせて、腰を掴んで浮かし支えていた。
先端だけが繋がった状態で留められたスコールは、もどかしさを感じ、無意識にゆらゆらと腰を揺らす。


「はっ、あっ…レオ、ン……や、だ……」


 抜いちゃ嫌だ、と甘い声で訴えるスコールに、レオンは判ってる、と頷いた。


「スコール。腰、落として。ゆっくりで良い」
「は……んぅっ……!」


 レオンに言われるまま、スコールはゆっくりと膝を曲げて腰の位置を下げて行く。
淫部に挿入されたままの雄が、奥へと進んで行くのを感じて、スコールは背を弓形に逸らした。


「ふぁ、あっ……!」
「ん……そう、ゆっくり……良い子だ」


 後ろに倒れそうな程に背を逸らしたスコールを抱いて支えながら、レオンは言った。
良い子───その言葉に、スコールの淫部がひくん、と反応する。

 スコールは、熱の塊が己の体内に沈んでいく度に、膝が頽れそうになるのを感じていた。
レオンの雄を自ら受け入れて行く事が、こんなにも快感を生むとは思っていなかった。
最早、スコールの下肢には殆ど力は残っていない。


「レ、オ…もう……もう、無理……」
「…入らない、か?」
「…違、う……はっ、あぁっ…! お、おかし、く、なるぅ…っ!」


 理性が持たない───スコールはレオンの首にしがみ付いた。

 咥え込んだ雄は、もう少しで秘奥に到達する。
スコールは最奥がじんじんと熱くなっているのを感じていた。
このままレオンを最後まで受け入れたら、辛うじて残った意識も何もかもが溶けて消えてしまいそうな気がする。

 だが、それこそがレオンが見たいものでもある。

 レオンはスコールの背中を抱いて、ちゅ、と薄い胸に口付ける。
ぴくっ、とスコールの躯が小さく震えた。
レオンは味わうようにスコールの胸に舌を這わせながら、片手で小ぶりな尻を揉む。


「やっ、あっ…レオン……んんっ……」
「大丈夫……怖い事じゃない。可笑しくなって良い。俺は、とっくにお前の所為で可笑しくなってるから、お揃いだ」
「……あ、あ……っあぁ……!」


 レオンの手がスコールの臀部を押す。
スコールは精一杯の力を足に込めて、レオンの意思に逆らおうとした。
しかし、ツンと膨らんだ胸の蕾に吸い付かれた途端、呆気なく最後の壁は崩落する。


「あうっ、あぁぁぁんっ!」


 スコールの膝が崩れ、レオンの雄が根本まで一気に咥え込まれた。
自重の所為でより深く繋がったスコールは、レオンの首にしがみ付いたまま、ヒクッ、ヒクッ、と虚ろな表情で四肢を痙攣させる。

 レオンはスコールを閉じ込めるように強く抱き締めて、腰を動かした。
下からの突き上げに、スコールの躯が跳ねては落ちると言う上下運動を始める。


「あんっ、あんっ! あぁっ! ひぅん! んぁああっ…!」
「ふ、んっ、んんっ……!」
「んむぅっ……!」


 喘ぐスコールの唇を、レオンの唇が塞ぐ。
レオンはスコールの耳を両手で塞ぎ、咥内でわざと音を立てた。
じゅぽ、ちゅぽ、と卑猥な音がスコールの鼓膜を犯す。


「やっはふ、あふぅっ! れお、らめ、はめぇ……」
「ん、はむっ……んっ、んふっ、ふうっ…!」
「あふっ、あぅっ、あんんっ! あんっ、んぉっ、はぅんっ」


 下肢を容赦なく襲う激しい快感に悶えながら、スコールは覚束ない舌遣いでレオンに応えた。
そうして口の中で鳴る卑猥な音が、より一層大きくなって、スコールの鼓膜に響いて来る。

 口の中にも、性感帯はあるのだろうか。
丹念に丹念に咥内を蹂躙されながら、スコールはぼんやりとそんな事を考えた。
レオンの舌が舌腹を撫でる度に、スコールの背中をぞくぞくとしたものが奔る。

 スコールは、崩れた膝をレオンの腰に絡み付かせた。
全身で縋るスコールを抱き締め、レオンの律動は更に激しくなって行く。


「んぁっ、あっ、あぁっ! レオン、レオ、ンんっ! もっと、もっと……一杯……欲しいっ……!」


 貪欲に求めて来るスコールの言葉に、レオンの雄が質量を増す。
圧迫感からの息苦しさよりも、自分が彼に求められている事にこの上ない幸福を感じて、スコールの陰部も反応を示す。


「スコール…スコール……!」
「あっ、あんっ、ひぃんっ! や、あっ、あぁっ…! レオ、熱いの、来る、来る…っ!」


 レオンの背中に、爪が立てられた。
ぎり、と痛む背中に、レオンが一瞬眉根を寄せるが、スコールは気付かない。
激しい快感と、全身で感じるレオンの体温に、彼はすっかり夢中になっていた。
レオンもそんなスコールを抱き締めて、夢中で腰を動かす。


「あぁっ、イくっ、イくっ…! また、あぁ…! や、もっと、もっと……もっとぉ……!」


 もっと繋がっていたい、もっと感じていたい。
しがみ付いて叫び訴えるスコールに、レオンも息を切らしながら頷き、


「ああ……もっと、もっとだ。もっと、ずっと、ずっと……ずっと、お前が欲しい…、お前と、一緒に……っ!」
「レオン、あっ、あっ、レオンっ…! ひ、あぁあああっ!」


 ドクン、ドクン、とスコールの体内で、レオンの雄が大きく脈を打った。
来る、とスコールが感じた瞬間に、熱くて濃い蜜液が吐き出され、スコールの体内を満たして行く。
その瞬間の快感と充足感に酔いながら、スコールはレオンの唇を塞いだ。



 何度も何度も熱を重ねて、口付けを交わして、溶け合って───いつの間にか、スコールは意識を飛ばしていたらしい。

 スコールが目を覚ました時、其処はレオンのベッドの中だった。
あれ、と思いながら視線を巡らせていると、優しい手がレオンの頭を撫でた。


「目が覚めたか?」


 聞こえた声に視線を向けると、裸身の兄が傍らにいた。

 レオンはベッドのヘッドボードに背中を預けている。
スコールがのろのろと起き上がると、シーツが落ちて裸身が露わになった。
ふるり、と感じた寒さに身を震わせると、レオンは苦笑し、スコールの手を引いて自分の方へと抱き寄せた。


「風邪を引くぞ」


 そう言って、レオンはスコールを自分の胸に寄せて、毛布でスコールの身体を包む。


「大分、無理をさせたな。何処か痛い所はないか?」


 レオンの問いに、スコールは腰とか喉とか、と思ったが、首を横に振った。
辛い所がない訳ではなかったが、レオンに気を遣わせたくなかった。

 しかし、そんなスコールの思いすら、レオンは看破していたようで、


「腰と、喉は間違いないか。後は背中…、首と───此処も、か」
「っ!」


 するり、とレオンの手がスコールの尻を撫でる。


「ちょ、離せっ! 変な所触るなっ」
「ああ、悪い。冗談だ、冗談」


 暴れて逃げようとするスコールの腰を抱いて、レオンはくつくつと笑いながら言った。
じろりと睨んでみても、レオンは全く答える様子はない。

 一頻り笑った後、レオンは睨むスコールを宥めるように頭を撫でる。


「それで……どうだった?」
「…どうって?」


 レオンの問いに、スコールはことんと首を傾げた。
幼い仕草をする弟に、レオンは口元を笑みに緩め、


「セックス。気持ち良かったか?」
「……!」


 ぼっ、とスコールの顔が赤くなる。

 なんてことを聞くんだ、と赤らんだ顔で睨むスコールを見下ろして、レオンは柔らかな声で言った。


「夢中になった後で言う台詞じゃないが……一応、気にはなっていたんだ。大丈夫だとお前は言ったが、今まで俺にされた事で、トラウマになった事もあると思う。良くて恐怖心を感じなくても、気持ち良くなれるかどうか……」


 今まで自分がしてきた事への罪悪感に苛まれているレオンに、スコールは眉根を寄せた。
気にしなくて良いって、何度も言っているのに、と。

 じっと見下ろす視線を感じながら、スコールはレオンの胸に顔を押し付ける。
とく、とく、とく、とレオンの鼓動が逸っているのを聞いて、不安なのだろうか、と思った。
スコールはその胸に頬を寄せて、小さな声で呟いた。


「…そ、ん…なの……見たら、判るだろ……」


 行為の最中、自分がどんな有様だったのかは、スコールは余り覚えていない。
ただ、全身が燃えるように熱くて仕方がなくて、夢中でレオンに縋っていた事だけは、なんとなく覚えていた。
あんなにも自分を見失って誰かを求めたのは、生まれて初めてだ。

 その姿を見ているのなら、判るだろう────と言うスコールに、レオンはぱちり、と瞬きして、安堵したように表情を緩める。


「そうか。良かった」


 そう言って、レオンはスコールを強く抱き締めた。
スコールもおずおずとレオンの背中に腕を伸ばし、抱き締め返す。

 ふとスコールは、鼻腔をくすぐる匂いに気付いて、顔を上げる。


「レオン……」
「ん?」
「…あんた、煙草は…?」


 レオンがスコールを支配していた頃、レオンは性交の前後は必ずと言って良いほど、煙草を吸っていた。
それ以外でも、吸う時は集中的に相当な本数を消費しており、レオンの体には愛用している煙草の匂いが沁み付いていた。

 その煙草の匂いが、今はしない。
かと言って、スコールが何度か嗅ぎ取った、強い花の匂いや、香水の匂いもしない。
今スコールが嗅いでいるのは、純粋なレオンの匂いなのだろう。

 スコールの問いに、レオンは「ああ、」と思い出したように零し、


「煙草なら、止めた」
「……なんで」
「元々、好きで吸ってた訳じゃない。ストレスの捌け口があれしかなかったんだ。そのストレスも、もうないし───」


 くしゃり、とレオンの手がスコールの頭を撫でる。


「お前の喘息が再発した原因も、多分、煙草だ。お前の横で散々吸ってたし、お前の部屋でも閉め切ったままで吸ったし。これ以上、お前に辛い思いはさせたくない。だから煙草は、もう吸わない」


 はっきりとした声で、レオンは意思を語った。
スコールを見詰める瞳は柔らかく、「お前の為に」と言う声が聞こえたような気がして、スコールは赤らむ顔を、彼の胸に顔を押し付けて誤魔化した。


(……嫌い、でも、なかったな。あの匂い……)


 レオンに顔を隠したまま、スコールはそんな事を考える。

 強姦されて間もない頃は、煙草の匂いや煙はレオンの存在を連想させるので、嫌いだった。
自分の部屋に残された煙草の灰皿、吸殻を見て、自分の領域が侵食されているようで、強い嫌悪感を抱いた事も事実だ。
しかし、いつしか煙草の匂い=レオンの匂いとして認識されて以来、スコールは決してあの匂いを"嫌い"と一言で切って捨てる事は出来なくなっていた。

 ────でも、今感じているレオン自身の匂いも好きだと思ったから、スコールは満足した表情で、レオンの胸に顔を埋めた。



◇◆◇◆   ◇◆◇◆



≫[籠ノ鳥 7-3]