[クラスコ]ファーストトライは慎重に
R15風味
これを使って見たいんだ、と言われた時、何を考えているんだこいつは───と冷たい目をした事は自覚していた。
どこかきらきらと、童心に帰ったような顔で言われて、恋人関係を解消しようかと思ったことも。
それが害意から出て来たものではないとは、読み取りはしたが、かと言ってハイ良いですよと言えるほど、此方は酔狂ではない。
それは日々のちょっとしたスパイスだ。
毎日のように繰り返される、呆れるような日常の中に、ほんの少し混ぜることで効果を齎す、刺激的な調味料。
別段、それがないことで困る訳でもないのだが、マンネリ化していく日々を、少しでも楽しくしようと味付けを変えてみるのは悪い事ではない。
どうせ明日も同じことを繰り返すのだから、その味を今一度確かめて味わう為にも、違う味付けを試すと言うのは効果的だ。
顔を合わせる度にセックスをした。
クラウドは正しく盛んな質であったし、スコールは潔癖のきらいはあったが、クラウドからそれを教えられて間もない。
隠れるように教えられたその快感は、心地良さは、言いようのない解放感でスコールを虜にし、性に幼い体はそれをすっかり癖にしてしまった。
触れられる事は嫌悪するタイプだった筈なのに、これに関してだけは、麻薬のように作用して、強く拒否することが出来ない。
クラウドの体力がお化け並だと言う事さえ目を瞑れば、スコールも彼に求められるのは悪い気ばかりはしなかった。
一人でするのも段々とクラウドとの激しさをネタにするようになってしまって、心がそれに慣れるのを待たずに、体ばかりが感覚に餓えて溺れていく。
そんな状態でクラウドが「拘束プレイって試してみないか」なんて言い出したものだから、スコールは胡乱な目をしつつも、ちょっと、ほんのちょっと、本当にほんの少しだけ、興味が湧いてしまった。
昨今、インターネット上で色々と調べ物をしていると、猥雑な広告なんてものがよく目に入る。
其処には、一昔前なら「子供が目にするような所にそんなものを出すなんて!」と言う声があった筈の、過激なメディアコミックの切れ端が入っている。
明らかに性的なものを意識、それ所か露骨にそれを描写しているものがあって、中にはどう考えても成人向けのものがあったりする。
スコールはそれに興味を持つことはなかったが、しかし、Web媒体でも、紙媒体でも、愛読している雑誌についてくる広告には、そう言うものが混じっているのは知っていた。
恋愛のスパイスとして、ちょっとインモラルな手法に手を出して、沼にハマって良く男女────そんなものを描いているフィクションは、形中身は違えど、普遍的に需要のあるものであるらしい。
そして、普通のセックスでは物足りないと、ちょっとしたプレイを試してみると言うのもまた、よくある話なのだろう。
スコールはクラウド以外に付き合ったことがないから、本当の所はどうか知らないが、“大人のおもちゃ”なんてものが世にはある訳だ。
それは性器を直接攻め立てるものもあれば、雰囲気を盛り上げる為のジョークグッズめいたものまで、多種多様に発展を遂げている。
其処で売られているアイテムのひとつ────金属製の手錠をクラウドは持ち出してきたのである。
「一回だけで良い」「回数の問題じゃない」「タオルを挟んで痕は残らないようにする」「そう言う配慮は出来るのか」「お前を傷付けたい訳じゃないからな」。
そんな応酬を十分は続けただろうか、この時点でスコールは、クラウドが諦めるつもりがないことを読み取っていた。
そして、勝手に用意されて、勝手に使われることもあるのだと考えると、これはマシは交渉なのかも知れない、と思う。
セーフワードも決めよう、と言うので、全く無知やノリでこの提案を押し進めようと言う訳でもないらしい。
スコールを怖がらせたい、無体をしたいと言う訳ではないのだと、クラウドなりの誠実な態度なのかも、と。
……その誠実さをもっと違う場面で発揮してくれれば、本当に言う事はなかったのだが。
結局どうしたかと言うと、スコールはクラウドの提案を受け入れた。
一回だけだぞ、と釘を差してやると、まるで大型犬が喜ぶようにハグされた。
周りにはクールを売りにしている癖に、どうにも残念な所がある恋人に呆れるスコールであったが、さりとて彼もクラウドには甘いのである。
その理由のひとつとして、少なからず自分自身も、こういったプレイに興味があった等とは、億尾にも出さないようにしながら。
枷と言っても色々あるそうだが、クラウドが用意したのは、警察が使う手錠と同じ作りの金属製。
それが当たる手首の部分にタオルが噛まされ、これで薄い板状の側面がスコールの手首に直接食い込むことはないだろう。
スコールは両の手首を十センチ強の鎖で繋がれた状態で、ベッドへと転がされた。
「中々良い景色だな」
覆いかぶさる男が、碧の瞳を楽しそうに細めて言った。
スコールの方はと言えば、手首の不自由さが存外と邪魔で、顔を顰める。
クラウドは早速、スコールの腹に手を滑らせている。
シャツの裾から中へと侵入してきた手のひらが、ゆったりと薄い腹筋をなぞり、胸の上へと這って行く。
肌を滑るくすぐったい感触に、スコールはいつものようにその手を押しのけようとして、両手がお互いを引っ張って動きを制限していることに気付いた。
「邪魔くさい、これ」
「そう言うプレイだからな」
不満をストレートに口にしたスコールに、クラウドは楽しそうに言った。
お前が不自由そうにしているのが楽しい、とばかりに。
その顔が妙に腹が立って、スコールは肘でクラウドの頬をごりっと押した。
クラウドの左手がスコールの手を握り、頭上へと持って行く。
枕に押し付けられた腕は、手錠で繋がれているから、片腕だけでも抑えてしまえば、もう一方も勝手について行くことになった。
そのままクラウドの左手に腕を枕へ縫い付けられつつ、右手はまたスコールの肌を滑って遊ぶ。
「ん……っ」
背中がじんわりと汗ばむのを感じながら、スコールはクラウドの少しばかり冷たい手の温度を感じていた。
妙に心臓が逸って、自分の体の中で血流がいやに早く流れているような気がする。
クラウドの手が胸の中心にひたりと重なれば、その奥でとくとくと動いている鼓動が判り易く伝わった。
クラウドの体がスコールの身に寄せられて、重みが乗ってくる。
密着した身体、皮膚の向こうから伝わるそれぞれの鼓動が、交じり合うように重なって行く。
右手は今度はスコールの下部に後ろ周りから辿って行き、程なく、中心部へと到達した。
「……っん……!」
ヒクつく其処を撫でた瞬間の反応に、クラウドの口角が薄く上がる。
「震えている。この分だと────」
「……は、あ……!」
する、と指が内側に滑って来る感触に、スコールの身体がビクッと跳ねる。
やっぱりな、と既に其処が準備を始めている事を確かめて、クラウドの瞳の熱が昂って行く。
中を探られるのを感じながら、スコールは悶えに身を捩る。
足の爪先がするするとシーツを何度も滑り蹴って、腕は頭上でかちゃかちゃと金属音を立てている。
赤らんだ顔にクラウドの顔が寄せられて、耳朶をなぞって舌が這った。
ぞくぞくとした感覚がスコールの首の後ろに迸って、無意識に背中がベッドから浮き、覆いかぶさる男の下腹部に膨らんだ自身を押し付ける。
クラウドは汗ばむスコールの首筋に唇を押し付けながら、
「悪いことをしている気分だな。いや、手錠をしているのはお前だから、お前が悪いことをしたのか」
「バカ、なことを……こっちは、あんたのバカに付き合ってるだけで……」
「ああ、判っている」
「っんぁ……!」
反論するスコールの声を、クラウドは中をくっと押し上げることで遮った。
びくんっ、と細身の体が跳ねて、零れる声に甘い音が混じる。
彼のお陰で開発された、弱い所を的確に攻めて来るクラウドに、スコールは下半身から抵抗の力が抜けていくのを感じていた。
頭上で何度も、かちゃかちゃと金属が擦れあう音が鳴る。
覆いかぶさる男の重みを押しのけたいのに、或いは其処にある安心感に縋りたいのに、片手を握って押さえつけるクラウドの手と、それに繋がれた鎖の所為で叶わない。
安物でもないのか、しっかりした強度がある手錠は、スコールの腕の自由をしっかりと封じていた。
クラウドはスコールを俯せにして、背中に覆い被さり、中をくちゅくちゅと掻き回す。
は、は、と息を荒げるスコールの目元に、クラウドの手が重なって、蒼灰色を世界から隠した。
「や、っあ……クラウ、ド……っ」
視覚情報が遮られた事で、代わりに鋭敏になる聴覚に、卑猥な音が聞こえている。
きゅうう、と内側を締め付けながら、攻める男の名を呼ぶスコールに、クラウドの唇がひそかに笑みを深める。
「怖いか?」
「……そんな、わけ……っ」
「じゃあ……興奮する?」
「……!」
囁くクラウドの言葉に、スコールが微かに息を飲んだ。
同時に指を咥え込んだ場所が、きゅうっ、とひとつ強く締め付けを示す。
手錠に制限された両手が、ベッドシーツを握っている。
その指先が赤らんでいるのを見て、クラウドは彼の心理状態を読み取った。
不自由な体でせめてものプライドを守ろうと、羞恥心と興奮に板挟みになりながら震えている少年。
体はすっかり火照って汗ばみ、汗と一緒にいやらしい匂いが醸し出されて、クラウドの脳をくらくらと揺さぶっている。
「後ろ手でも良かったな。今からそれでも良いか?」
「……っ」
クラウドがここぞと調子に乗って要望を口にしてみると、予想していた罵倒はなかった。
寧ろ、スコールの首筋は益々赤らんで、若くて刺激に餓えた体が期待を示していることを表してしまう。
後ろを探っていた指が抜けて、スコールの身体がビクッと跳ねた。
ひくつく感触に下腹部が切なくなっているのを感じている間に、クラウドはスコールの両手を掴んで、背中へと回す。
体の前で拘束されるより、明らかに不自由で負荷のかかる体勢だ。
縋るものすら完全に許されなくなった状態で、スコールの身体は、それでも確かに昂っていた。
両手を後ろに固定されたスコールは、自力で起き上がる事も儘ならない。
それを肩を支えながら抱き起してやれば、俯せていた頭が持ち上がって、はぁっ、と天井を仰ぎに吐息が漏れた。
そうして露わになった蒼灰色の瞳は、とろりと熱に浮かされ溶けて、半開きにした唇の隙間からは、唾液に濡れた舌が薄らと覗いている。
「ク……ラ、ウド……」
「ああ」
呼ぶ声に応えながら、クラウドの手はまたスコールの肌を滑る。
あやすようにただ撫で這うその手を、振り払う事も出来ないことに、酷く後ろ暗い熱を煽られながら、スコールの意識は流されて行った。
『クラスコの成人向けSS』のリクを頂きました。
プレイ・パロは自由とのことでしたので、緩めの拘束プレイをしてみました。
初めての特殊プレイなので、スコールの様子を確認しつつ、じわじわ深度を進めて行こうとしているクラウドです。
スコールの方はやった事もないし、全部初めてなのでそんなのに興奮する訳ないだろと言いますが、素質があったようで。Mっ気の。