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2015年01月

[チビ京+女優]この世界は、あなたへの愛で出来ている

  • 2015/01/24 22:46
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京一、ハッピーバースディ!!






自分が凡そ可愛げのある子供ではない事を、京一は自覚している。
根本的にヘソ曲がりで、気に入らないと思ったら止められないし、反発せずにはいられない。
好きなものを素直に好きだと言える素直さもないし、姉のように利発で“良い子”になる気もない。
曲がった事は嫌いだが、それは正義感と言うものが強いと言う訳ではなく、前述の通り、気に入らないと思った事を大人しく受け入れる事が出来ないからだ。

そんな子供だから、大人はほとほと手を焼いていた。
父と母は、息子の操縦法をよく心得ているが、他の大人はそうではない。
小学校の担任教師を筆頭に、大人達はケンカやイタズラばかりをする京一に困っていたものだった。
中には、全く言う事を聞かない悪童に、嫌悪か侮蔑に似た目を向ける大人もいた。

京一は、授業の成績こそ芳しくないものばかりだが、頭の回転は早かった。
自分が何をすれば、何を言えば、大人がどんな反応をするのかも、凡そ想像する事が出来た。
だから、その気になりさえすれば、彼は沢山の大人に愛される子供になる事も可能だっただろう。
それをしなかったのは、京一の生来のヘソ曲がりが起因していると言って良い。

京一はそんな自分を自覚していたが、それを直して、人から好かれようとは思わなかった。
“良い子”でいるより、自分の気持ちに正直になる方が、幼い京一にとっては正しい事だったからだ。


────しかし、今この時だけは、そんな自分を少しだけ後悔する。


毎日のように見慣れた『女優』の店内が、今日に限っては少しばかり華やかに見える。
それは京一の見間違いや思い込みではなく、テーブルに敷かれたクロスであったり、窓にかかったカーテンであったり、壁紙だったりと言うものが、いつもと違う色や柄物に替えられていた。
客が座っている筈のテーブルには、花を生けた花瓶が置かれている。
いつもモダンながらシンプルに重きを置いた店内であるだけに、それだけで店内の雰囲気はすっかり様変わりしていた。

そして、稽古を熟して戻って来た京一を迎えた『女優』の従業員たちも、いつもよりもほんの少し着飾っている。
きらきらと光りを反射させるサテンやレースの服や、大きな宝石を抱いたアクセサリー、そして貌の化粧もいつもよりも濃いめ。

なんだこれ、と京一が俄かの違和感に首を傾げていると、



「ハッピーバースディ、京ちゃん!」



眩しい程の笑顔に迎えられて、投げかけられた言葉に、京一は目を丸くする。
何が起きたのかを数秒かけて理解して、ああ、そっか、と思い出した───今日は自分の12歳の誕生日だと。



「え、あ…えと……」
「さあさあ、入って。寒かったでしょう?」
「お、おう……?」



ドアを開けたままの入り口で、固まっている京一。
アンジーはそんな京一の手を引いて、店の中へと招き入れてやった。

京一はいつものように、店の中央にあるソファへと連れて行かれ、すとんと座った。
其処で改めて店の中を、自分を囲む『女優』の面々を見回す。
隣に座ってにっこりと笑い掛けるアンジーと目が合って、京一は頬が微かに熱くなるのを自覚した。


ヒールの足音と拍手の音が聞こえて、京一は音のする方向を見た。
すると其処には、ロウソクを立てたホールケーキを運ぶビッグママと、嬉しそうに拍手でそれを迎えるキャメロンとサユリがいる。



「さあ、特製のバースディケーキだよ」
「特製って……まさかビッグママ、作ったのか?」



パーティプレートの皿に置かれたケーキは、見事なデコレーションで飾られていた。
縁をなぞるように等間隔で苺が並び、その間はツノを立てた生クリーム、所々にパールのアラザンが散らされ、白と赤で彩られたケーキの中で、削りチョコレートがアクセントを生む。
京一は料理の良し悪しは勿論、菓子の繊細さなど到底判らない性質であるが、それでも随分と手の凝った物だと判る。

ビッグママは京一の問いに応えなかったが、否定もしなかった。
ジュースを持って来るよ、と言ってカウンターへと向かうビッグママと入れ替わる形で、キャメロンとサユリが京一を囲む。



「京ちゃんは今年で何歳になったのかしら」
「何歳って……兄さん、知ってるだろ」
「うぅん、知ってるけどォ。京ちゃんの口から聞きたいのよ」



サユリの言葉に、京一はそうする意味が分からない、と眉根を寄せた。
しかし、白粉を塗った顔をほんのりと紅潮させ、にこにこと楽しそうなサユリに根負けし、渋々と答える。



「……12だよ」
「大きくなったのねェ~!」
「うわわっ、抱き付くなよ!白いのつくじゃねェか!」



ぎゅうっと思い切り抱き着いて来たサユリに、京一はじたばたと暴れた。
しかしサユリは「つれないんだからァ」と言って、京一の頬に自分の頬を寄せる。
じょりじょりと髭剃り跡の感触があって、うわああ、と京一は悲鳴を上げた。

そんな二人を、アンジーはくすくすと楽しそうに見て笑い、キャメロンはと言うと、



「サユリばっかりズルイわァ。アタシも京ちゃん抱っこさせてェ!」
「ぎゃあああ!」



野太い腕が京一を攫い、力一杯抱き締められる。
サユリよりも何倍も強い力で、抱き締めると言うよりも締め付けられて、京一は一層強く暴れた。
しかし、『女優』の従業員の中でも特に怪力を誇るキャメロンから、まだまだ幼い京一が逃げられる筈もない。

うーうーと唸りながらもがいていた京一だったが、どんなに暴れた所で、自力でこの腕から逃げられない事はよく知っている。
京一は分厚い胸板に埋められていた顔を上げ、直ぐ隣で経緯を見守るアンジーに向かって言った。



「アンジー兄さん、助けろ!」
「うふふ」
「笑ってんじゃねーよ!」
「はいはい」



救助要請を請けたアンジーは、キャメロンに向かって両手を広げて見せた。
キャメロンはそれを見て、赤い口紅を塗った唇を尖らせ、拗ねた表情を浮かべる。
最後にもう一回、と京一の頬に自分の頬を当て、じょりじょりと青髭を擦りつけた後、渋々顔でアンジーに京一を渡した。

アンジーの下へと逃れた京一は、彼女の肩にしがみ付くように掴まった。
過激なスキンシップで愛情を示すキャメロンやサユリに比べ、アンジーのスキンシップは幾らか大人しい。
だから京一は、キャメロン達のスキンシップの後は、必ずアンジーの下に逃げ込むようになっていた。



「ひでェ目にあったぜ……」
「いやん、京ちゃんたら。つれなァい」
「アタシ達、京ちゃんは京ちゃんの事、とっても大好きなのにィ」
「判ってる判ってる。ンなの言われなくたって知ってるよ…」



くねくねと体をくねらせながら、判り易く傷付いた顔をするキャメロンとサユリに、京一は溜息を吐いて言った。

キャメロンもサユリも、アンジーも、そしてビッグママも、皆が自分の事を好いてくれている事を、京一はよく知っている。
既に二年近くをこの『女優』で過ごした京一は、その間、一度足りとて「出て行け」と言う旨の言葉を向けられた事がなかった。
此処にいる人々は、京一がどうして家に帰ろうとしないのか聞く事もなく、ただただ、無心の愛情を注いでくれる。
その愛情の示し方は、明け透けで真っ直ぐで、全身全霊であった。
それが全く判らない程、また知らない振りが出来る程、京一は鈍くも無神経でもない。


溜息を吐いた京一の頬は、僅かに赤い。
木刀を握る右手が、心なしか落ち着きなく、握っては緩み、緩んでは握りと繰り返している。

アンジーはそれを視界の端に見て、こっそりと小さく笑うと、肩に顔を埋める京一の後頭部をぽんぽんと撫でた。
それを見たキャメロンとサユリが、揃って「ズルイ~!」と声を上げる。



「いつもアンジーばっかり。京ちゃん、私の所にも来てェ。膝枕もしてあげる!」
「サユリ兄さんの膝って固そうだからヤだ」
「アタシの所にいらっしゃい、京ちゃん。そうだ、今夜は一緒に寝てあげるワ!」
「キャメロン兄さんと一緒とか、潰されんのがオチじゃん」
「あぁ~ん、京ちゃんつれなァ~い!」



京一に振られたキャメロンとサユリが、二人揃ってよよよ、と頽れる。
さめざめと泣く背中を見せる二人に、京一は勘弁してくれよ、と二度目の溜息を吐いた。
そんな京一を宥めるように、ぽんぽんとアンジーの手が京一の背を叩く。

それを感じ取って、京一は眉間に皺を寄せ、膝に乗せて貰っているアンジーを睨んだ。



「兄さん、オレぁガキじゃねえぞ」
「うん。もう12歳だもの。立派なお兄さんよねェ」
「じゃあその言い方も止めてくれ」



溜息交じりに言った京一だが、アンジーはにこにこと楽しそうに笑っているだけだ。
京一はそんなアンジーを睨んでいたが、対して効果がないのは判り切っている。
此処の従業員達にとって、京一がどんな顔をしようと、皆「かわいい」ものとして見えているのだから。


京一が拗ねた顔をしている間に、テーブルにはオレンジジュースの入ったグラスが置かれた。
ビッグママがマッチでケーキのロウソクに火をつけて行き、柔らかい光が円を描く。
泣いていた筈のキャメロンがいつの間にか復帰していて、店の伝記を消した。
ゆらゆらと仄かに揺れる灯が、暗くなった店の中を照らし出す。

さあ、とアンジーに促され、京一は床に下ろされた。
京一は肩越しに後ろを振り返り、見守るアンジーの顔を見る。
振り返って見上げる子供の瞳に、ピンク色の口紅を引いた唇を柔らかく緩ませたアンジーの顔が映る。
大きな手がそっと京一の頬を撫でて、柔らかい力で正面へと向き直らせた。


12本の小さな灯が、ゆらり、ゆらりと揺れている。
その光に照らされて、アンジーの、キャメロンの、サユリの、ビッグママの顔が見えた。
京一はそれらをぐるりと見渡して、正面へと向き直り、思い切り息を吸う。

──────ふぅっ、と。

吸った時と同じように、思い切り息を吹き切ってやれば、灯は大きく倒れてそのまま消えた。
燃えた跡の匂いがツンと鼻を刺激する暗闇の中、ぱちぱちぱち、と拍手が響く。



「京ちゃん、誕生日おめでとう!」
「おめでとう、京ちゃん」
「12歳、おめでとう!」
「おめでとう!」



重なる祝福の声に、耳が熱くなるのが判る。


程無く、電気がついて、煌々とした光で店の中が一望できるようになる。

ビッグママがケーキにナイフを入れている間、京一はアンジーの膝の上に乗せられていた。
ガキじゃないんだから勘弁してくれ、と京一は言ったが、アンジーは相変わらず気にせず、キャメロンとサユリが私の所にも来て、とねだる。
ケーキは一際大きくカットされたものが京一には差し出された。
その一口を、アンジーが手にしたフォークで差して、京一の口元に持って行く。
はい、あーん、と言うアンジーに、京一は勘弁してくれ、と言ったが、結局根負けして大人しく口を開けた。




────自分が凡そ可愛げのある子供ではない事を、京一は自覚している。
好きなものを素直に好きだと言える素直さもないし、「おめでとう」と言われて「ありがとう」と返事も出来ない。

それでも、自分を愛してくれる人達の事は好きだから、むず痒い程の愛情の奔流は、零したくないと思った。





全力で京ちゃんに“愛”。と言えばやっぱり『女優』の兄さん方。
京ちゃんも兄さん達には素直(とは言い切れないけど精一杯)に“愛”。

京一、誕生日おめでとう!

[ウォルスコ]何も知らない所から始めよう

  • 2015/01/08 23:28
  • Posted by
1月8日なので、ウォーリア×スコール!






「君を、抱き締めても良いだろうか」



余りにも直球過ぎる言葉に、スコールは一瞬、その意味を判じ兼ねた。
頭の中で今の言葉を再生し直し、それを単語毎に区切り、その一つ一つを辞書を引くように頭の中で吟味する。
そうしてもう一度、頭の中で、一言一句を間違える事なく再生して尚、スコールは判じ兼ねた。
その言葉の意味と言うよりは、それを言葉にした男の胸中を。

スコールとウォーリア・オブ・ライトは、恋仲である。
いや、今し方、恋仲になったと言うのが正しいだろう。

戦場に置いてあるまじき感情を、況してや先の展望のない世界で抱いてはならないであろう感情を、スコールはいつしか持て余していた。
元々が他者とのコミュニケーション能力と言う点に置いて、赤点同然のスコールである。
全てが終われば判っている別れと言うものに、スコールが耐えられる筈もなく、この感情は誰にも悟られる事なく持って行くつもりであった。
しかし、スコールに関してはこと敏感な二人のお陰で、半ば強引にその感情は発露される事となる。

対してウォーリア・オブ・ライトはと言うと、抱いた感情に自覚はあっても、その感情の正体を知らなかった。
戦い方以外の全ての記憶が曖昧な彼にとって、この艦上は生まれて初めて得たものも同然であった。
全ての仲間との絆を大切に思うが故に、たった一人の仲間に特別な感情を抱いている事も、彼の困惑を誘う事となる。

ジタン曰く「恋愛初心者同士」の付き合いは、仲間達をおおいに巻き込んだ末、仲間達が祝福する形でようやくのスタートとなった。
が、初心者同士の上、互いに他者の感情の機微と言うものに疎い二人である。
晴れて恋人同士になったからと言って、何をすれば良いのか、全く判らなかった。
この手の話に強そうな仲間はと言うと、気を利かせたつもりだろう、二人の様子を気にする仲間達を押し遣って、さっさと野営地へと戻ってしまった。

それからしばらくの間、スコールとウォーリアはまんじりともしない時間を過ごしていたのだが────唐突に、ウォーリアが口火を切った。


「君を、抱き締めても良いだろうか」


────と。

目を丸くするスコールに、ウォーリアはゆっくりと歩み寄る。
具足の音が近付いている事に気付いて、スコールは後ろに歩を踏みかけた。
しかし、今の言葉に拒否を示すのも何かが可笑しい気がして、また硬直する。

するり、とウォーリアの手が、スコールの頬を撫でる。
びくっ、と肩が震えたスコールを見て、ウォーリアは目を細めた。


「嫌ならば、そう言って欲しい。君を傷付ける事はしたくない」


違う、とスコールは言った────声には出さずに。
言わなければと思うのに、何かが詰まったように、喉から音が出て来なかった。

間近に見る勇者の整った顔立ちに、スコールは呼吸を忘れる。
あんなにも苦手だと思っていた男と、正面と向き合っている事が、我ながら信じられなかった。
真っ直ぐに見詰める瞳が、恐ろしいもののように思えた事もあったと言うのに、今はそれから目を逸らす事が出来ない。

何も言わないスコールに、ウォーリアもそれきり、動く事を止めた。
此方の反応を待っているのだと言うことは判ったが、スコールは已然として、身動ぎ一つ出来ずにいる。


「スコール」
「……!」


酷く近い距離で名前を呼ばれて、またスコールの肩が跳ねた。

強い光を宿した瞳が、じっと見ている。
それを意識しただけで、スコールの心臓は煩い程に鼓動を打った。


(眩しい)


灼かれそうだ、とスコールは思った。

頬に触れる手をそのままに、スコールは眩しさから逃げるように目を閉じる。
ウォーリアは、平時の印象とは裏腹に、幼さの残るその貌をじっと見詰めた。

スコールが何を思い、何を考えているのか、ウォーリアには判らない。
彼が存外と沢山の事を思い、考え、悩んでいると言うことは知っているが、その内側まで知るには至っていなかった。
ジタンとバッツが言っていた、感情を具に映す瞳が隠れてしまうと、尚の事ウォーリアは迷路に嵌ってしまう。

────それでも、触れる手を拒否されない事だけは、言葉や瞳以上に彼の心の証だと信じている。


「スコール。君の存在を感じたい」
「……っ…!」


ふるり、とスコールの体が震え、白い頬に赤色が浮かぶ。
グローブを嵌めた手がゆっくりと持ち上がり、頬に触れるウォーリアの手と重なった。

ウォーリアは、そっと目の前の少年を抱き寄せた。
何かを、誰かをこんな風に抱いた事などないから、力加減が判らない。
痛い思いをさせないように、けれども少年の存在を確りと確かめたくて、背に回した腕が強張るのが判った。

スコールは、背中に触れる男の腕を、力強いものだとばかり思っていた。
しかし予想に反し、抱き締める彼の体はぎこちなく、耳元で時折小さく悩むような音が聞こえる。


(……意外と臆病だよな、あんたって)


スコールは、ウォーリアに見えない位置で、こっそりと笑った。
抱き締める腕に応えるように、同じように彼の背に腕を回して抱き締める。
一瞬、ウォーリアの肩が震えた様な気がしたが、スコールは知らない振りを決めた。

自分よりも背の高い男の肩に額を押し付けて、スコールは目を閉じる。
正直な話、固い鎧に押し付けられる体は痛かったが、今だけは不器用な恋人の好きにさせようと思う。
鎧のお陰で、自分の跳ね上がった鼓動が相手に伝わらないのも、スコールには都合が良かった。
直球過ぎるこの男に、自分ばかりが振り回されるのは、癪だったから。



スコールは、赤い頬を冷たい鎧に押し付けた。

その向こうにある鼓動が、自分と同じように煩くなれば良いと思う。





初々しい二人が浮かんだので書いてみた。

この二人は、周りの後押しがないとくっつかなさそうだなぁと言う印象。
片や対人恐怖症、片や究極の朴念仁と言うイメージなので。
でもウォーリアは大切にしたいものにはまっしぐらになりそうなので、直球に接してくれたら萌えます。そしてスコールにあわあわして欲しい。

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