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2020年07月

[セフィレオ]プライベート・ヴィッラ

  • 2020/07/08 22:40
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街から遠く離れた郊外に、セフィロスが生活する家がある。
それは広大な敷地の中、屋敷と言って差し支えない広さのもので、時々テレビのバラエティ番組で見る、海外の高級セレブの別荘も同然の代物だった。
幼年の頃から一流ブランドのモデルを熟していたセフィロスである。
今では世界中でその名を知らない者はいない程のモデルと崇められ、彼が使用したアイテムは一瞬で完売が約束されている、とまで言われる強者だ。
そんな男が生活感のある日常など送っているとは思えない、と言うのは的を射ており、彼は全く常人には考え付かない空間で、己の日々を構築している。

セフィロスの邸宅は、業界に限らず一般人の間でもよく知られている。
何度かテレビ番組の取材で取り上げられた事もあるし、近所の───移動時間の半分は、自宅敷地の移動と言われている───スーパーでは彼の姿が目撃される事もあり、街の住人に住所を尋ねれば「あそこだよ」と皆が答える事が出来るだろう。
天上で暮らしていても可笑しくないような男だから、スーパーで目撃されるだけで、絶滅危惧種の動物が発見されたような反応をされるのだが、彼自身は他人にほぼ興味がないので、周囲のそんな浮足様もまるっと無視している。

セフィロスの邸宅には、使用人や守衛が常駐しているが、雇用関係にあるそれらを除き、他に人は住んでいない。
時折、後輩であり友人であるザックス・フェアや、それと仲の良いクラウド・ストライフと言った同業仲間が遊びに来る事はあるが、来訪したからと言ってセフィロスが彼等に構う時間は少ない。
ザックスもクラウドも、それを判っていて遊びに来ており、気が済めばじゃあまたなと言ってふらりと帰る。
古い友人のジェネシスやアンジールが相手であれば、ワインの一つも出して雑談でも交わすが、此方は此方で、客だからと特別に気を遣う相手でもない。
ふらりと来て、ふらりと帰って、セフィロスもそれを深く気にする事はなく、また遊びに来いとか言う未来の約束をする事もなかった。
更に言えば、セフィロスが自分の口から誰かを自宅に誘う事が、そもそも無い話だったのだ。

そんなセフィロスの広くはない交友関係の中で、唯一、セフィロスが招き入れる人物がいる。
セフィロスが広告塔となったアパレルブランドに務めている、レオンと言う青年だった。
セフィロスより二つ年下の彼とは、今年になって知り合ったばかりの短い付き合いであるが、誰よりも濃厚な関係を気付いている。
彼に逢った瞬間、落雷のような衝撃を浴びたと旧友たちに話すと、彼らはそうかそうかと爆笑しながら色々と気を回してくれた。
その甲斐あって、セフィロスはレオンと関係を持つに至り、自宅に呼ぶ程の仲となったのだ。

今日もセフィロスはレオンを邸宅に招き、二人きりの穏やかな時間を送っていた。
庭に設けられたプールに、いつの間にかザックスが持ち込んで置いて行ったビニールマットを浮かせ、セフィロスは其処に寝転んでいる。
銀灰色のショートパンツに、前を開いた白のラッシュガードと、仕事でも滅多に着る事のないリゾート風の格好。
そんなスタイルで横たわる、緩やかな波面に揺れるビニールマットは、揺り籠のように心地が良い。
その傍らで、ぱしゃ、ぱしゃん、と水の跳ねる音があって、セフィロスがちらりと其方を見遣れば、レオンが長い鬣をふるふると震わせているのが見えた。


(猫だな)


纏わりつく水を払うその仕草が、猫科の動物が毛を震わせる姿を思わせて、そんな事を考える。

たっぷりと水分を含んだ濃茶色の髪は、本来なら団子にでも結んで、水泳キャップの中に収めておくのが無難だろう。
しかし、日々の暑さから逃げる為に唐突に提案したプール遊びだったものだから、泳ぐ為に必要なものなんてレオンは用意していなかった。
水着だけはセフィロスのものがあったのだが、セフィロス自身は水の中に入る事をしないので、キャップは持っていない。
それでもプールの水の誘惑は、日々の激務と共にうだる気温に辟易していたレオンにとって抗い難いものだったようで、髪くらい良いか、と言う結論に至ったらしい。

長い豊かな髪を拡げていると流石に鬱陶しくなるようで、レオンは手首に着けていたゴム紐で髪を大雑把に結った。
少し高い位置に結い上げれば、ポニーテールのシルエットになる。
首元がすっきりしたのを確認して、よし、とレオンは息を吸ってまた水に潜った。


(楽しんでいるのなら、何よりだな)


この家に来るようになったばかりの頃、レオンは正しく借りて来た猫のようだった。
大手一流会社に就職しているとは言え、レオン自身はごく普通の一般人なので、セレブリティな世界など縁がなかった。
それがセフィロスと恋仲になってから、その相手が世界的に有名なスーパーモデルと言うだけでも彼にとっては大層な事件であるのに、その私邸で気軽に過ごせと言うのが、土台無理な話だったのだ。
けれども、案外と人間は繰り返し訪れる環境には慣れて行くもので、今ではご覧の様である。
プールで遊ぶかと提案した時には、判り易く遠慮する所は以前と変わらないが、水と戯れ始めればもう其方に意識を攫われた。
普段は気を遣い過ぎる程の男なので、自分の傍では楽に過ごして欲しいとセフィロスは望んでいるから、楽しんでいるのならそれで良い。

水の中に潜ったシルエットが、ゆっくりと動いて行く。
水面に横たわってそれを眺めるセフィロスの視界から、泳ぐ猫がフェードアウトした。
しばしの静寂と水の音が続いた後、ボートの縁でざぱっと水が跳ねる。


「っはぁ、はあ……セフィロス、」
「ああ。なんだ?」


額に張り付く前髪と、滴る水を拭いながら、レオンが恋人の名を呼んだ。
それに応えるセフィロスの声は、他の誰もが聞いた事がないような、甘い音を孕んでいる。

レオンはマットの縁に腕を乗せた。
少しマットの端が傾いたが、しっかりと空気が入っているので、重みに負けて沈む事はない。
泳ぎ回って流石に疲れたか、レオンは軽く寄り掛かりながらセフィロスを見て言った。


「良いな、このプール。もっと早く使わせて貰えば良かった」
「そうだろう?だから遠慮などするなと言ったんだ。ザックスとクラウドは、毎年勝手に此処で遊んで行っているぞ」
「あいつらと一緒にしないでくれ。あんたとはまだ知り合って一年も経ってないし……あんな気安い事、俺には出来ない」


レオンの反論に、確かに無理だろうな、とセフィロスも思う。
二人はまだ知り合ってから一年も経っておらず、恋人同士となっても、互いを知らない事の方が多い。
同業者として現場もプライベートも交流を重ねたザックスやクラウドとは、築いてきた信頼関係の深さが違うのだ。
加えて、レオンの奥ゆかしさとでも言うのか、遠慮し勝ちな態度も相俟って、セフィロスが望む程、二人の距離感はまだまだ近いとは言い難かったりする。

しかし、このプールに入ったお陰で、レオンの遠慮の壁は一つ取り払われたようだ。
マットの縁に寄り掛かり、ふふ、と笑う彼は判り易く楽しそうだ。
夏の暑さと、プールの水と、屋外と言う環境の中で、レオンも少し開放的になっている。


「なあ、セフィロス。今度、弟を連れて来ても良いか」
「ああ、お前がよく話している……弟もプールで遊ぶか?」
「それは多分無理だろうな。友達が一緒ならまだ遊べそうだけど、それでも気が引けるだろうから」
「なら、その友人も呼べば良い。部屋なら余っているから、多少大所帯でも問題ないだろう」
「賑やかになるぞ。大丈夫か?」
「多少喧しくなった所で、近所からクレームが来た事はないな」


セフィロスの言葉に、それはそうだろう、とレオンは笑った。
郊外の巨大な敷地の真ん中にぽつんと立った豪邸だから、“隣近所”と言ったって遥か彼方の存在だ。
レオンが気にかけたのは、平時は一人で悠々と暮らしているセフィロスが、セレブの邸宅と聞いてはしゃいだ子供達の賑々しさをどう思うかと言う所だったのだが、よく考えれば騒がしい友人なら既にいるのだ。
それを淡々と捌いている所もよくあるので、レオンが想像するより、この男は賑やかし事に慣れているのである。

気にするなとセフィロスが言うので、レオンもまぁ良いかと思う事にした。
それより───とマットの上に寝転ぶ水着姿の恋人を見て、過ぎる思考にくつりと喉が笑う。
その気配を感じ取って、セフィロスが顔を向ける。


「なんだ?」
「いや……似合わないなと思って」
「?」
「あんたと日光浴。健康的で、変だ」


くすくすと笑うレオンに、セフィロスはそうだろうかと首を傾げる。
が、普段プールで自分がこんな過ごし方をするかと言えば否で、じゃあ何の為にプール作ったんだよとザックスに突っ込まれた事を思い出す。
セフィロスにしてみれば、この家の造りは、元々建っていた古い邸を改築したものである。
プールもその時から在ったので、水道管やら何やらで撤去するのも面倒で、それなら残してしまおうかと言う流れになっただけの事。
だからセフィロス自身はプールに興味がなかったし、友人たちが毎年夏に遊びに来ていなければ、無用の長物であった事は否めない。


「あんた、モデルなんだから、色々撮影もこなしてきたと思うけど、夏のイメージが全然ない」
「夏物の撮影ならした事はあるが」
「海辺やプールで、水着の撮影はしたか?浮袋を持って、トロピカルジュースでも持って」
「いや、ないな」


セフィロスの言葉に、ほらな?とレオンが言う。


「日光浴は、まあ、よくする人はよくするけど。あんたにはそう言うイメージがない。陽向が似合わないんだ」


世界が羨むスーパーモデルのセフィロスである。
顔立ちの美丈夫ぶりは勿論、体も均整の取れた筋肉がついているので、どんな場面でもどんなポーズでも絵になる。
それを思えば、真夏の海やビーチでの撮影も映えない事はない筈だが、レオンはどうしてもセフィロスにそんなイメージを抱けなかった。
セフィロスに撮影を依頼する人間も同じように思うのか、セフィロスは明るさよりも、重厚さの漂う洗練された世界観を宛がわれる事が多い。

レオンの分析に、そう言うものか、とセフィロスは他人事のように思っていた。
その傍ら、セフィロスは水と戯れるレオンの姿に、眼を細める。

普段、レオンが人目に肌を晒す事は少なく、ベッドの中でさえ彼は恥ずかしがって抵抗を示す。
それがプールと言う場所とあって、彼は余す所なく白い肌を見せつけていた。
一頻り泳いでたっぷりと水と親しんだ体は、降り注ぐ陽光の光を瑞々しく反射させ、普段そうした光に触れないセフィロスには少し眩しく見える。
そう思うと、今真っ白な光の中で輝く恋人が、自分と違う世界にいる存在のように思えて、セフィロスは徐に手を伸ばした。


「…お前も、余りに合わないな」
「そうか?……うん、そうだろうな」


自分もまた、平時はプールに入るなんて事をしない人間だと、レオンは自覚している。
高校生の弟とその友人がいるので、強請られてプールや海に連れて行ってやる事はあるが、そう言う時、レオンは大抵、荷物番を引き受けていた。
だからこうやってプールに入って水と遊ぶなんて、もう随分と久しぶりの事だったのだ。

頬に触れるセフィロスの手を、レオンは穏やかな表情で受け入れている。
雫の伝うその頬を、セフィロスの手がゆっくりと撫で、


「だが、水に濡れたお前の姿は、悪くない」


そう言ったセフィロスの唇が、レオンの貌へと近付いた。
セフィロス、と名を呼ぶレオンのそれを、塞ごうとして────ぐらっと揺れた時には、遅かった。

ばしゃん、と水飛沫が跳ねて、レオンは目を丸くする。
ぶくぶくと水の中から登って来る気泡の中、呆然としたレオンの前には、無人のビニールマットがぷかぷかと浮いていた。
ぽかんとしている間に、ざばっ、と足元から水が持ち上がって、天辺までぐっしょりと濡れた銀糸がカーテンのように流れ落ちて水面で泳ぐ。


「……ふっ、」


何が起きたか理解して、レオンは思わず噴き出した。
直ぐに高い笑い声が響き渡る。


「はは、あははは!セフィロス、あんた、…くっ、ははは!」
「……はあ……」


冷たい水の中に立ち尽くすセフィロスは、腰まで伸ばした長い髪が作り出すシルエットの所為で、まるで海坊主だ。
だとすれば随分と耽美な海坊主だな、と思ったら、レオンは腹が痛くなった。

笑い続けるレオンの前で、何という失態、とセフィロスは深い溜息を吐く。
二人分の波紋の波で遠く流されていくビニールマットが、なんとなくセフィロスの虚しさを助長させる。
……しかし、ちらと恋人を見遣れば、まるで子供のように笑い転げる顔があって、そんな姿も初めて見るものだと思うと、


(……まあ、構わんか)


自分が格好悪い姿を晒した程度で、恋人がこんなにも無邪気に笑ってくれるのなら、安いものだ。
きっとレオンのこんな姿は、家族でさえも滅多に見た事はないだろう。
そう思うと、彼の特別な顔を独占しているようで、悪い気はしなかった。

だが、それはそれとして、重ね損ねた唇は恋しいものである。
セフィロスは笑う恋人の腰を抱き寄せると、驚いたように目を丸くするレオンの濡れた唇に、自分のそれを押し付けた。




7月8日と言う事でセフィレオ!
プールでいちゃいちゃさせたかった。

世界が羨むスーパーモデルセレブなセフィロスとか、一昔前に一杯見たような気がする。似合い過ぎて好き。
そんなセフィロスが偶に非常識人ムーブをするのを窘めながら一緒に過ごすレオンが見たい。

[クラスコ]雨に隠れて

  • 2020/07/08 22:00
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『濡れた。すまないが、タオルを用意して置いて貰えると助かる』


そうメールが届いた時、外は土砂降りだった。

今日は朝から天気が悪く、予報でも一日中雨に見舞われるでしょう、と言っていたが、そんな日でもクラウドは律儀にスコールの家へと足を運ぶ。
雨の中を歩かせるなんて気が引けるし、風邪でも引いたら事だろうと、来なくて良いと言っても聞かない。
お前の顔が見たいんだ、と言われたら、スコールは強く拒否は出来なかった。
相手の顔が見たいのは、スコールだって同じなのだから。

普段はバイクで来るクラウドだが、流石に今日の雨でそれは危険なので、電車で来ると言っていた。
最寄駅からスコールの住むアパートまでは徒歩なので、傘は持ってきているに違いないが、バケツを引っ繰り返したような雨の中で、雨具など細やかな抵抗にもならない。
一番酷いタイミングで街を歩く事になったであろう恋人の為、スコールは直ぐにタオルを用意し、シャワーを浴びれるようにと給湯器のスイッチをオンにした。

程なく来客を知らせるチャイムが鳴り、急ぎ足で玄関扉を開ければ、案の定。


「……酷いな」
「全くだ」
「だから今日は来るなって」
「お前に逢いたい気持ちはこんな雨には負けない」
「……」


クラウドの言葉は歯の浮くものであったが、スコールの胸中は「そんな事言ってる場合か」だ。
トレードマークとも言える、特徴的な逆立った髪型もヘタる程、クラウドはずぶ濡れだった。
本当に頭上からバケツの水が直撃したんじゃないかと、そんな風にも見える。

タオルを差し出せば、ありがとう、とクラウドはそれを受け取った。
がしがしと頭と頭を拭いているクラウドに、スコールはバスルームを指差して行った。


「シャワー、使って良い」
「助かる。ああ、床を濡らすな……悪い」
「別に、良い。着換えも置いてあるから」
「うん」


頷いて、クラウドはブーツを脱いだ。
脛まであって、ベルトでガチガチに固めている筈のブーツなのに、クラウドは靴下まで濡れている。
彼の歩いた痕が床に残っているのを見て、スコールは洗面所に行って床拭き用の雑巾を持ち出す。
シャワーの音をバスルームの扉越しに聞きながら、スコールはくっきりと足跡を残していく水溜まりを綺麗に拭き取った。

片付けを終えたスコールは、キッチンに入ってコーヒーを淹れた。
ホットにするかアイスにするか迷って、あれだけ濡れたら流石に冷えているだろうと、ホットにする。
ついでに自分の分も入れて、いつもならブラックのそれに、なんとなくミルクと砂糖を一杯ずつ入れた。

クラウドは烏の行水も同然で出てきたが、タンクトップ姿の肌がほんのり赤らんでいるのを見て、取り敢えず濡れた事による冷えからは解放されたようだ。
まだ乾き切らない髪を新しいタオルで拭いているクラウドに、スコールはコーヒーの入ったマグカップを差し出す。


「ん」
「ありがとう」


クラウドはマグカップを受け取って一口飲み、美味い、と言った。
それだけの事に妙に胸の奥がぽかぽかとなるのを感じながら、スコールはテレビ前のローソファに座る。
クラウドも隣に座り、もう一口コーヒーを飲んで、ふう、と安息の息吐いた。

テレビを点けると、土砂降りの街が映し出されていた。
一時間の雨量がこの時期の平均雨量を越えた、と言う言葉を聞いて、本当にタイミングが悪かったんだなと隣の恋人を見て思う。

テレビはそのまま全国の天気予報へと移り、この周辺地域一帯が、一昼夜雨雲に覆われているであろうと読んだ。


「今日、うちに帰れるか怪しいな」
「……朝からそう言ってる」


今日の悪天候は、昨夜の天気予報からずっと予測されていた。
発達した雨雲が地方全体を覆い、風がないので流れる事もなく、この地域に留まり続けている。
少なくとも明日の昼まで雨は降り続けるとの事で、昨今の治水に関する関心の高まりもあり、念の為の避難準備を、と言う報道も流れていた。
スコールのアパートの周辺には、大きな川もなく、このアパートも5階建ての最上階と言う立地なので、下手に何処かに移動する必要はないが、そうだとしても雨の激しさは住人達には頭の痛い事である。

天気予報ばかりを見ていても、雨だとしか繰り返さないので、面白くない。
スコールは適当にザッピングして、暇潰しになりそうなものを探した。
サスペンスドラマの再放送をやっていたので、一先ずそれに合わせて、ぼんやりとコーヒーを飲む。

何をするでもなく、二人並んでテレビを眺める、静かな時間が続く。
───と、テレビ画面が薄暗いシーンを映して、くぐもった声が聞こえた瞬間、スコールは思わず手に持ったマグカップを取り落としそうになった。


(これ……深夜枠だったのか。しかも結構古いやつ…)


画面に映し出されたのは、男女の露骨な性交の場面だった。
今時の何かと煩いテレビ番組作りの中では、先ず作れないような光景が拡がり、再放送とは言えよくそのまま放送しているものだと思ってしまう位だ。

回想シーンだったので直ぐに終わるかと思いきや、場面替わってまた性描写が続く。
流石に肝心な部分を映し出すようなAV宜しくなんて事はなかったが、女の演技も相俟って、中々にねちっこく構成されている。
寧ろ此処が番組の本番とでも言いたげな盛り上がり様だ。
画面の隅にこれ見よがしの伏線として刃物が映っていたが、スコールはそれ所ではなくなっていた。


(チャンネル、変える……いや、それも、何か……)


手元のリモコンに手を伸ばしかけて、止める。
此処でテレビのチャンネルを変えたら、今まさに映し出されている光景について、強く意識してしまった事が隣の男にバレてしまう。
何食わぬ顔でテレビを眺めているクラウドの姿に、動揺している自分が酷く子供っぽく見えたのが、スコールの見栄を刺激した。

早く場面が切り替わる事を願っていると、やっと女が刃物を握った。
シルエットから振り下ろされた刃物で男が斬られ、思わせぶりな血飛沫が上がる。
さっきまでの濃厚な性描写とは一転し、大袈裟な殺傷シーンとの落差が、スコールの気分を少しだけ救ってくれた、ような気がした。

その内にマグカップの中身は減って行き、スコールの手元のそれが空になって、今度はブラックを飲もうと言う気分でスコールは腰を上げた。


「クラウド。コーヒー、お代わりは」
「いや、まだあるから大丈夫だ」
「ん」


いそいそとテレビから離れて、スコールはキッチンに向かう。

サーバーのコーヒーを温め直し、マグカップにこぽこぽと注いでいると、きし、と床を踏む音が聞こえた。
それから、とん、と背中に寄り掛かる重みがあって、スコールの腹に太い腕が回される。
振り返って確認するまでもない、クラウドだ。


「おい」
「ん?」
「要らないんだろ、二杯目」
「ああ。コーヒーは良い」


そう言いながら、クラウドはスコールの肩口に鼻先を埋める。
スコールの背中に少し冷たい感触がするのは、クラウドの肩にかけられたままのタオルの所為だろう。
そんな感触とは裏腹に、腹に触れるクラウドの掌は、ほんのりと熱を持って温かい。

背中に密着しているクラウドの体は、タンクトップと言うラフな格好をしている事もあって、がっしりとした体躯の凹凸がはっきりと感じられた。
その事に気付いた瞬間、スコールの心臓の鼓動が跳ねて、じわりとした熱が芯から染み出して来るのが分かった。
おまけに、ついさっきまで見ていたドラマのワンシーンに、似たような構図があった事を思い出して、益々スコールの体は熱くなる。


「…クラウド」
「ん?」
「……邪魔だ」


離れろ、とスコールは言った。
じわじわと溢れ出す熱が見つかってしまう前に、早く距離を取りたかった。

だが、耳元で囁く男は、薄い笑みを浮かべている。


「さっきのドラマ。中々刺激的だったな」
「……べ、つに……」
「でも、お前の方が俺にはもっと刺激的だ」


そう言って、するりと武骨な手がスコールの腹を撫でる。
ぞくっとしたものが背中を走るのを感じて、スコールは唇を噛んだ。

振り払えば良いのは判っている。
コーヒーだって淹れ直したばかりだし、茶菓子でも出してのんびりしようかと思っていたし、そもそも今日はそう言うつもりはなかった───多分。
しかし、一人暮らしの家に恋人を上げて置いて、何をするでもなく過ごすなんて、若い二人には土台無理な話だったのだ。


「どうせ今日は外には出られないんだ。良いだろう?」


窓の向こうでは、大粒の雨が降り続いている。
こんな天気でもなければ、あんなドラマを見る事もなかったのに。
そんな事を思いながら、スコールは熱い手のひらが肌を上って来るのを感じていた。





7月8日と言う事でクラスコ。
自宅デートでいちゃいちゃさせた。

思春期の17歳だもの、ラブシーンや濡れ場シーン見ちゃって一人気まずくなるのも良い。
クラウドはなんでもない顔で眺めながら、こういう時こうしたらスコールはこう言う反応をするな、って考えてる。

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