[クラスコ]その緋を辿って
テレビを見ている最中の事、背中が痒い、と言って苦々しい顔をするスコールに、見せてみろと言ってみれば、彼は案外と素直に背を向けた。
服の襟の後ろを軽く引っ張って覗き込んでみると、白い筈の肌に、沢山の赤い点と、引っ掻いたと判る筋が浮いていた。
クラウドが見ている傍から、スコールは背中に手を回して、赤い点のある場所を掻こうとする。
それが止むを得ない事であると同時に、基本的には我慢すべき事であるとクラウドにも判った為、回された手を掴んで制した。
「あまり掻かない方が良い。悪化するぞ」
「……痒い」
「気持ちは判るが、我慢しろ」
解放された手をもう一度背中に運ぼうとするスコールを、改めて制す。
スコールは判り易く唇を尖らせたが、掻けば掻くほど、症状が悪化するのは本人も判っている。
うずうずとする気持ちを抑えて、スコールは右手を下ろし、衝動を誤魔化すように手を握り開きした。
「汗疹か何かじゃないか」
「……多分そうだ。去年もなった」
「薬か何かないのか?」
「ある」
スコールはソファの傍に置いていた鞄を取り、中を探って小さなチューブを取り出した。
薬局で売っている皮膚薬で、汗疹やニキビに効くものだ。
持ち歩いていると言う事は、こう言った症状が出るのは初めてではなく、向上的な物になっているのだろう。
スコールはチューブの蓋を開け、中身を指先に絞りだして、首の後ろに手を回す。
塗り伸ばしていく様子をクラウドがなんとなく眺めていると、薬を塗るスコールの表情が益々苦いものになっていく。
しばらく眺めた後、肝心の患部に手が届いていないのだと言う事に気付いた。
クラウドがスコールの背中を覗き込んだ時、首の下、襟周りにも引っ掻いた後はあったが、それ以上に背中の中心から上半分が赤くなっているのが見えた。
人間の体と言うのは、出来得る限りの無理は出来るが、間接だけは可動域が決まっている。
首の後ろ、肩の後ろ、背中の中心にも腕を回せば手は届くが、背中の上半分となると難しい。
肩の稼働が広い者なら届かない事もないが、其処に薬を塗る、湿布を貼ると言う作業になると、自由には行かない。
「……俺が塗ろうか」
「……ん」
あれでは患部の痒みは抑えられまい、とクラウドが申し出ると、スコールは短い返事と共にチューブを差し出した。
クラウドがチューブの成分表をぼんやりと読んでいる間に、スコールは服を脱ぎ始めた。
基本的に服を着込み、日に焼ける事を嫌うスコールの肌は、少し病的にも思える程に白い。
その分、赤くなった汗疹が浮き上がって見えて、聊か痛々しくも映った。
「かなり範囲が広いな。全体に塗ればいいか?」
「ああ」
「…大分引っ掻いた痕があるぞ。薬、あまり塗っていないのか」
「……届かないんだ」
不服そうに答えたスコールに、そうだったな、とクラウドは言った。
指に絞りだした白いクリームを、赤らんだ背中に塗って、手のひらで肌に馴染むように撫でながら伸ばしていく。
汗疹と爪痕の所為で傷ついてはいるが、スコールの背中は滑らかなものだ。
その背に何度も腕を回し、抱き締めた事はあるが、こうしてまじまじと背中を眺める事は初めてかも知れない。
それにしても、とクラウドは手を動かしながら、背を預けている形になっているスコールを見る。
薬を塗る為とは言え、素直にそれを任せてくれると言うのは、何でも自分の力で完結させたがるスコールには珍しい事だ。
背中の症状の荒れ具合を見るに、相当我慢をしていたのだろう。
他人の手を借りたくない、と言う意地よりも、大人しく人の人にして貰おうと思う位には、辟易していたと言う事か。
目立って赤くなっている所には凡そ塗れたか、と言う所で、クラウドはチューブの蓋を締めた。
スコールは終わったとは気付いていないようで、クラウドに背中を向けたままじっとしていたが、
「クラウド?」
終わったのか、と尋ねるように名を呼ばれて、ああ、とクラウドは返事をしようとして、止まる。
ふと沸いた悪戯心に惹かれるまま、クラウドはスコールの背筋につぅっと指を滑らせた。
「っひ!?」
ビクッとスコールの肩が大仰に跳ねて、短い悲鳴が上がる。
スコールは背中を逃がすように振り返り、赤くなった顔でクラウドを睨み付けた。
「何してるんだ、あんた!」
「いや、ついな。随分無防備だったから」
「あんたが終わったって言わないからだろ!」
だから待っていたのに、と眦を吊り上げるスコールに、クラウドは両手を上げてホールドアップした。
怒るな、と言外に宥めるクラウドを、スコールはぎりぎりと忌々しげに睨む。
ちょっとした悪戯心なのに、とクラウドは思うが、委員長気質のスコールにはそう言う冗談は通じない。
況してや人に触れられる事に良くも悪くも敏感だから、驚いた事も含めて、この反応は無理もない事であった。
しばらく降参ポーズを取るクラウドを睨んでいたスコールだったが、じりじりと後退してクラウドから距離を取ると、薬の為に脱いだ服を着始めた。
なんなんだ、とブツブツと愚痴を零しながら、薄手のインナーに袖を通す。
そのままシャツも着ようとしていたスコールに、クラウドは徐に手を伸ばし、腕を掴んで引っ張った。
「!?クラウド────」
何を、と声を上げようとしている間に、スコールはクラウドの膝の上に背面で座らされた。
ぽすっと落ちてきた体を受け止めて、クラウドは目の前に晒された項に唇を寄せる。
ふ、と触れるだけで敏感なスコールの肩が跳ねたのが判った。
突発的な出来事に弱いスコールは、不意打ちを食らうと固まってしまう癖がある。
それを幸いと、クラウドはスコールの腹に腕を回して檻に閉じ込め、ぴったりと体を密着させて、スコールの項をちゅうっと吸った。
「っあ……!」
微かに甘露を孕んだ声が聞こえて、むくりとクラウドの欲望が頭を起こす。
その感触に気付いたのだろう、ようやく状況を理解したスコールが身を捩って逃げを試みた。
が、身長こそスコールに負けるクラウドだが、体格とウェイトは自分の方に分がある。
腕一本でスコールの抵抗を封じ込めて、クラウドは微かに紅潮した首筋にゆっくりと舌を這わせた。
「クラ、…や…あ……っ」
咎める声が聞こえたが、クラウドの悪戯は終わらない。
抱く腕でそっとスコールの薄い腹を撫でると、またスコールの体が震える。
足をばたつかせて逃げようとしているスコールだったが、その割には抵抗の仕方が甘い、とクラウドは思った。
とどのつまり、本気の抵抗ではないと言う事だ。
項を甘く食みながら、クラウドは空いている手でスコールの背中を撫でた。
背筋の真ん中を上から下に、下から上にと辿る度に、スコールの短い吐息と音が漏れる。
シャツの裾から手を入れて、撫でながら裾を持ち上げていけば、今し方見たばかりの赤い背中が再び露わになった。
クラウドは態勢を変えて、スコールをソファへと俯せに寝かせた。
抵抗なく寝かされたスコールは、首元や耳を赤らめ、はっ、はっ、と呼気を喘がせている。
服を捲られ、晒された背中にはじっとりと汗が滲んでいるが、その発汗の原因は、単純な室温の高さではあるまい。
そもそも、部屋の空調はスコールの体感温度に合わせているので、彼がこの部屋で室温を理由に汗を掻く事はない筈だ。
ついさっき、薬を塗ってやった背中に掌を置くと、ピクッ、とスコールの体が震えた。
「また汗を掻いてるな。……薬、塗るか?」
言いながら、するり、と肌に手を滑らせる。
ソファの肘掛に乗せられたスコールの手が、ぎゅっと何かを我慢するように握り締められたのが見え、
「……薬で、治るものじゃ、ないだろ」
肩越しに寄越された青灰色の瞳には、じんわりと滲む熱。
口下手な代わりに、言葉以上にお喋りな瞳が求めるものを、クラウドは理解していた。
俯せになったまま動かないスコールの背中に、覆い被さるように体を重ねる。
暑いのは嫌がりそうだな、と思ったが、捲り上げた背中に軽くキスをしても、スコールは怒らなかった。
引っ掻いた爪痕のある場所は、刺激には敏感になっているだろうから、手のひらでそっとなぞるだけ。
それだけでもスコールには官能の刺激になるようで、はっ、と押し殺した吐息が漏れたのが聞こえた。
白い背中に、ぽつぽつと浮かぶ赤い点と、細い線。
点はともかく、線の方は、自分の背中にも同じものがあるのだろうか。
そんな事を思いながら、クラウドは薄らと赤らんだ背中に花を咲かせた。
78の日と言う事でクラスコ!
スコールの背中にムラっとしたクラウドが浮かんだ。
汗だくになってお風呂に入った後、またクラウドがスコールの背中に薬を塗って、またムラっとするんだと思います。以下繰り返し。