バレンタインの定番と言えば、チョコレートと相場が決まっていると言われているが、それではホワイトデーの定番は何だろう。
一応、スーパーやコンビニのホワイトデーコーナー等には、チョコレートやキャンディ、スナック菓子の詰め合わせ等が置かれているが、特にこれが良いと決まっている訳でもなさそうだった。
テレビの特集でインタビューに答える女性はと言うと、そこそこ即物的で、ウケ狙いなのか本気なのか、ブランド物のバッグだとか、アクセサリーだとかを欲しがっている。
別に、店のこれみよがしのポップや、恣意的な編集が其処此処に見られるテレビを真に受ける事はないので、此方については割とどうでも良いと思っている。
が、“これ”と言うものが一つでもあれば、ホワイトデーで頭を悩ませる男の多くは、気が楽になるのではないだろうか。
スコールも、そんな男の一人である。
世の男達とスコールの違う所はと言うと、お返しを贈る相手が女ではなく、男であり、実の兄だと言うこと。
そして、───恐らく───本来ならば、スコールはバレンタインに贈る側であり、ホワイトデーはお返しを貰う側になる筈だったと言う事。
後者については、スコールが行事事に疎いタイプであった為、それを解っている恋人からチョコレートを渡され、「ホワイトデーにはお前から」と約束された。
行事には疎いが、一ヶ月前の恥ずかしさと嬉しさと、申し訳なさは、簡単に忘れられるものではない。
かくてスコールは、近所のコンビニにホワイトデーの看板が見え始めた頃から、お返しって何を渡せば、と考え続けていた。
しかし、ホワイトデー当日となって尚、スコールは贈り物を決める事が出来ない。
スコール自身もそうだが、兄レオンは輪を持って物欲がない。
必要なものは、殆どが仕事に有用であると言う類で、趣味と言えば読書───と言うが、あれは好きでやっていると言うよりも、他に時間を潰す方法が思い付かないと言うものだ。
そんな彼が、仕事と関係なく興味を持っているものと言ったら、シルバーアクセサリーだが、それこそスコールがプレゼント出来るようなものではない。
そもそも、学生であるスコールが、一社会人であり、それなりに稼ぎのある男に贈れるもので、見劣りしないものを選ぶのが無理難題であった。
それでもスコールは、彼に何かを渡したかった。
バレンタインの事もあるが、レオンは兄として、恋人として、スコールに愛を注いで已まない。
そのむず痒い程の愛情の奔流に、スコールも少しでも応えたかった。
普段、専ら受動的であるスコールの、精一杯の“お返し”であった。
だが、悩んでも悩んでも、彼が喜んでくれそうなものは思い付かない。
結局スコールは、サプライズと言う点を割り切って諦める事にし、彼に直接聞いてみる事にした。
「俺が欲しいもの?」
「……何か、ないかと思って。俺が考えても判らなかったから…」
土曜日の昼、昼食を終えて、リビングのソファでのんびりとしている所へ、スコールは問い掛けてみた。
何か欲しいものはないか、と直球に。
レオンはきょとんと首を傾げたが、カレンダーの日付を見て、スコールの問いの理由を察した。
「バレンタインに言った事、本気にしてたのか」
「……冗談だったのか?」
くすくすと笑う兄に、スコールの眉間に深い皺が刻まれる。
あんなに悩んだのに、と湿気のある瞳がレオンを睨むと、レオンは首を横に振り、
「いや、本気だった。本気だったが、そこまで悩んでくれるとは思ってなかった」
レオンとしては、バレンタインに贈った一言は、期待を籠めてはいたものの、忘れていても仕方がないと思っていた。
覚えていてくれたら、コンビニで売っている駄菓子なり何なり、夕飯のメニューを奮発してくれるでも良かった。
それなのに、当人に直接問う程に真剣に考えてくれていたと知って、レオンは頬が緩むのを堪えられない。
嬉しそうに笑うレオンに、スコールは眉間の皺を更に深くするが、その頬は真っ赤に染まっている。
揶揄われたと言う怒りからか、似合わない事をしたと言う恥ずかしさからか。
恐らくはその両方で、更に言えば、兄が随分と嬉しそうな顔をしているから、だ。
恥ずかしさに耐え兼ねて、スコールは素っ気ない口調でレオンを急かした。
「それで、ないのか。本とか、何か、そう言うの」
「そうだな……」
レオンは顎に手を当て、熟考するように視線を上へ向けた。
うーん、と考えるレオンを睨むように見詰めつつ、無いって言われたらどうすれば良いんだ、とスコールは考えていた。
点けっ放しのテレビから流れていたコマーシャルが終わって、番組の続きが始まった頃だった。
レオンは、ソファに並んで座っていたスコールの肩を抱き寄せて、突然の事に目を丸くする弟に顔を近付けて言った。
「お前が欲しいな」
「…………は?」
レオンの言葉に、スコールはぽかんと口を開けた。
いつも気を張って大人びている表情が、年相応の少年の顔になっている。
そんなスコールに、可愛いな、と思いつつ、レオンは続けた。
「俺は、お前以外に欲しいものはない」
「……!」
「だからお前が欲しいな、スコール」
ようやく理解が追い付いて、スコールの顔が茹でたように一気に赤くなる。
その貌をレオンがじっくり見ていると、至極近い距離に気付いたスコールが、今更になってじたばたともがき始めた。
「ちょっ…は、離せ!」
「駄目だ。俺の欲しいものをくれるんだろう?渡して貰うまでは離さない」
「バカ言うな!大体、今更あんたに渡せるようなものなんて……」
其処まで行って、スコールの言葉は途切れた。
おや、とレオンがスコールの顔を見ていると、赤い顔が更に上書きしたように真っ赤になる。
レオンはしばしその顔を見詰め、ああ、と弟が沸騰した理由を悟った。
「もう全部あげてるって?」
「…ち、ぁ……うぅ……」
兄の言葉に違う、と言おうとして、それも違う、と思った。
スコールは口をぱくぱくと開け閉めして、湯気を出して俯いてしまう。
赤らんだ顔を誤魔化すように、レオンの肩に額を押し付けたスコールだが、首まで赤らんでいるのを見られているとは知らない。
レオンは、肩に顔を埋めるスコールの頭を撫で、柔らかな髪の毛を梳きながら囁いた。
「確かに、全部貰ってるんだろうな。でも、俺はもっとお前が欲しい」
耳元で囁かれる低く通りの良い声に、スコールは体の奥がじんわりと熱を帯びるのを感じていた。
抱き締める男の体に腕を回して、ぎゅう、としがみつけば、閉じ込める腕の檻が力を籠める。
「…もっとも何も…あんたの好きにすれば良いじゃないか…」
「俺が勝手に貰うのと、お前からちゃんと貰うのとじゃ、訳が違うだろう」
「違わなくないだろ…」
───と、反論したスコールではあるが、レオンの考えている事が理解できない訳でもなかった。
お気に入りのアクセサリーでも、自分で買ったものと、レオンに貰ったものとでは、思い入れが違う。
自分で買った分は、それまでの労もあって大事にしようと思うが、レオンから貰ったものは、“レオンから貰った”から、もっと大切にしようと思う。
些細なようで大きな違いは、決して同一になる事はない。
スコールは、レオンの肩に埋めていた顔を、そろそろと上げた。
見下ろす柔らかな蒼灰色とぶつかって、反射的にもう一度俯きそうになるが、寸での所で留まった。
スコールの蒼は迷うように、躊躇うように少しの間彷徨った後、
(……これ、…“お返し”になるのか……?)
一抹の疑問を覚えつつ、スコールはそっと、レオンの頬に唇を押し当てた。
柔らかいものが頬に触れるのを感じて、レオンの目許が緩む。
────と、離れようとしたスコールの顎をレオンの指が捉え、唇が重なった。
「んぅ……っ!?」
取り戻せる筈だった呼吸が再び塞がれて、スコールは目を瞠った。
すぐ其処に在るのは睫毛の長い眦で、頬や首下にくすぐったさが当たって、ふるり、とスコールの肩が震えた。
ちゅ、と舌唇を吸われて、ようやく解放される。
茫洋と、熱に酔うようにふわふわとした感覚に支配されて、スコールは兄を見上げた。
「ホワイトデーのお返しと言えば、“三倍返し”だろう?」
楽しそうに、嬉しそうに、少しだけ意地が悪そうにレオンに、スコールの顔がまた紅に染まった。
レオスコでホワイトデー!
いつも通りいちゃいちゃしているだけw
この後のいちゃいちゃは、スコールの方から頑張る方向で。三倍返しですから。
柔らかな光を放つ掌を、そっと赤い色を滲ませる皮膚に近付ける。
それなりに大きな裂傷を浮かばせているのは、スコールの右腕だった。
ルーネスの手に腕を貸して、辺りを見回すスコールの瞳は、常と変わらず静かなものだったが、濃茶色の髪の隙間から覗く額には、薄らと汗が滲んでいる。
模造達との戦闘を終えたばかりで、代謝が上がっている所為もあるが、傷から発せられる痛みの無視は出来まい。
早く治さなきゃ、とルーネスは意識を集中させ、治癒魔法のレベルを上げる。
素材を集めの行き先が合致したので、今日のルーネスはスコールと二人と言うパーティを組んでいた。
其処に襲いかかって来た模造の軍勢の強さは、中の上と言った所で、数は全部で六体。
このレベルになると、統率されている傾向が見受けられる為、襲い掛かってくる者を切り捨てるだけと言う単純作業では片付かない。
スコールが相手を変えながら立ち回り、出来るだけ敵を一カ所に集合させた所で、ルーネスの大魔法による一掃────と言う流れで、無事に勝利を収める事が出来た。
現れた模造達が、専ら接近戦を得意とする者達だったお陰で、作戦は比較的スムーズに果たす事が出来た。
が、敵を誘導させる為に囮役となったスコールの負傷は少なくはなく、このまま帰路へ向かうのは得策ではないと判断し、ルーネスによる治療時間が設けられた。
大魔法使用時に持っていた魔力の半分を消費したルーネスだが、彼の魔力の回復は、ティナ程ではないにしろ、早い方だ。
スコールの傷を癒し切るには十分に足りた魔力で、ルーネスは彼の治癒をほぼ完璧なものにして終わらせた。
「はい、これで良いよ」
「ああ。悪いな」
流れた紅の名残だけが残った腕を見て、スコールは短い謝辞を述べた。
直ぐに歩き出した彼に倣って、ルーネスも改めて帰路へと向かう。
二人の進む道に広がる景色は、牧歌的なものであった。
淡い色の花を其処此処に咲かせた緩やかな丘に、土が剥き出しの一本道が長く伸びている。
つい先程までは、ひらひらと舞い踊る小さな蝶の姿もあり、空には穏やかな光を零す陽光があって、正しく平和な散歩日和と言う風だ。
一時間前まではのんびりと素材集めをしていたので、ルーネスはピクニックに来たみたいだ、とも思っていた。
今もその景色には変わりはなく、遠くでチチチ…と小鳥の鳴く声がする。
つい数分前まで、命がけの戦闘をしていたとは思えない風景だった。
しかし、スコールの体に刻まれていた傷や、ルーネス自身の心身に色濃く残る疲労は、明らかな現実である。
(…折角、割といい気分でいられたのに)
ルーネスはこっそりと唇を尖らせて歩いた。
碧眼は黙々と歩く青年の背中を見詰めている。
ルーネスがスコールと二人切になると言うのは、稀な話だった。
平時、ルーネスはよくティナと一緒に過ごしているし、スコールの周りには賑やかなメンバーが集まる事が多い。
組んで行動する事は殆どないが、しかし仲が悪いと言う訳ではない。
ルーネスは秩序のメンバーのみならず、この世界に召喚された戦士の中で最年少である。
しかし、秩序の面々には、ルーネスよりも年上でありながら、まるで子供のような言動を見せる者が多い。
そんな面々に囲まれる中、常に冷静沈着を貫く物静かなスコールの存在は、ルーネスにとってかなり好印象だ。
スコールもまた、年下ながらあらゆる知識を身に付け、状況分析も的確なルーネスの事は悪く思っていないようだった───子供は苦手だと言われた事もあるが、ルーネスの頭の回転の速さを知ってからは、単純な子供扱いは殆ど見られない。
序に、二人とも何某か作業に集中する際は、無駄口をせずに黙々と仕事に従事するタイプだ。
お互いの存在が邪魔になる事がないので、二人の仕事は非常に効率的に捗る。
ルーネスがスコールに、スコールがルーネスに悪目立ちする感情を持たないのは、そう言った理由もある。
だから、今日の素材集めも、お互いの目的のものを黙々と探すと言うものになっていた。
手分けして探していたので、相方の目当てのものも幅広く探す形となり、目当てのもの以外にも有用な素材も見付かったので、ルーネスはそこそこ上機嫌だったのだ。
帰路も穏やかな春散歩道、少し欠伸が漏れる位の、のんびりとした道中────だったのが、湧き出て来たイミテーションのお陰で台無しだ。
(別に、ジタンやバッツみたいに遊びたい訳じゃないし、ティーダみたいに昼寝したいとかはないけど…)
此処は神々の戦場で、自分達はその駒だ。
いつ何処で戦闘に巻き込まれるかは判らないし、安全が保障された場所など何処にもない。
秩序の聖域でさえ、女神の力が弱っている今、何処から穴が開くのか判らない状態だ。
それでも───いや、だからこそ、だろうか。
偶然に近い確率で遭遇した、この平和的な光景に、少しだけ浸りたいと思ってしまう。
その程度の癒しを求める位には、ルーネスも疲労を溜めているのだ。
イミテーションの軍勢に襲われるまでは、昼寝はせずとも、少し立ち止まる位はと思っていた。
しかし、一度敵と遭遇した以上、この地の安全は最早無い。
帰路を急ぐのは当然の流れであった。
────筈、なのだが。
「……スコール?」
前を歩いていたスコールが足を止め、ルーネスはそれを数歩追い抜いてから、おや、と振り返った。
何か気付いたか、或いは癒した筈の傷が痛むのかと思ったが、佇む彼の姿を見て、どうやらそうでもないらしい、とルーネスは察した。
スコールは道の途中に立ち止り、明後日の方向を向いていた。
帰路に向かうでもない、道を戻る訳でもない、緑が広がる丘の向こうを見詰めているのみ。
やっぱり何か気付いたか、見付けたのだろうか、とルーネスは彼の視線を追ってみるが、彼の琴線に震えそうなものは見当たらない。
「どうかした?」
「……少し、休んで行くか」
「え?」
思いも寄らぬスコールの言葉に、ルーネスは一瞬、我が耳を疑った。
“休んで行く”等と言う言葉が、彼の口から出てくる事があろうとは、想像もしていなかったからだ。
スコールはルーネスの反応を待たず、道の脇へと逸れてしまう。
柔らかな土草を踏んで行くスコールに、ルーネスは「ちょ、ちょっと」と慌てて後を追った。
「スコール、休憩なんて、そんな」
「急いで帰る理由もないだろう。それとも、何か用事があったか」
「それは別に、ないけど」
らしくもない言動のスコールに、ルーネスは戸惑っていた。
声にも現れる混乱の様子に、気配に聡いスコールが気付かない筈はないが、彼は気に留めない。
さく、さく、さく、と十数歩の草土を踏む音の後、スコールは足を止めた。
後を追っていたルーネスが隣に並び、自分よりも遥かに高い位置にあるスコールの顔を見上げる。
しかし、スコールは透き通る青空を見上げており、ルーネスから彼の表情を知る事は叶わなかった。
「…此処でいいな」
「え」
すとん、とスコールがその場に座るのを見て、ルーネスは目を丸くした。
え、え、と挙動をまごつかせるルーネスだったが、つい、と蒼灰色がルーネスを見上げた。
深い蒼が、座れ、とばかりに見詰めている事に気付き、おずおずと、ルーネスも膝を折った。
さわさわと穏やかな風が吹く丘陵に、男二人。
在るのは草木が風に撫でられる音と、沈黙のみ。
ルーネスは沈黙を苦と思う性質ではないが、この状況には流石に理解が追い付かず、頭の中はぐるぐると戸惑いで一杯だった。
スコールが無意味にこんな行動を取るとも思えないので、何か意味がある筈だと考えてみるが、いまいち判らない。
(……でも……)
ルーネスは、三角に曲げていた膝を伸ばした。
両足を投げ出す形で座って、天上を見上げる。
ルーネスは空を見上げたまま、意識だけを辺りに散らす形で、周辺の気配を探った。
感じ取れるものは、小さな動植物ばかりで、この穏やかな情景を壊すものはない。
イミテーションに遭遇する以前と変わらない空気と光景が、何処までも広がっている。
「……静かだね」
「ああ」
「敵もいないし」
「ああ」
「バッツだったら、昼寝日和とか言い出しそう」
「ああ」
ぽつぽつと零すルーネスの言葉に対し、スコールの反応は捗々しくないが、それはいつもの事だ。
極端に無口な傾向のある彼の場合、反応があるだけで十分だろう。
ルーネスは、兜を頭に固定している紐に指をかけた。
「…本気で休んで行く気?」
「問題、あるか」
「ないけどさ」
どうして、と続けて問おうとして、先に答えがやって来た。
「……疲れたからな」
「ああ……うん、まあ」
さっきの戦闘の事だろうな、とルーネスは察した。
回復魔法は肉体の傷は癒してくれるが、肉体的な疲労は戻してはくれない。
そして勿論、魔法を使用する為に魔力を消費したルーネスは、その分の疲労も追加されている。
────と、其処まで考えて、
(……あ)
かちり、とルーネスは自分の中でパズルのピースが嵌るのを感じた。
ルーネスは静かに息を吐いて、張り詰めていた緊張の糸を、意識して解いて行く。
思えば、常に辺りを警戒しているスコールが、何の警戒もなくこんな場所に座っているのだから、今更警戒する必要はなかったのかも知れない。
それでも───スコールを信用していない訳ではなく───、自分でしっかりと確認した上で、ルーネスは兜の紐を解いた。
露わになったルーネスの癖のある金色を、一陣の風が撫でて行く。
「はーっ、気持ち良い!」
「……そうだな」
思い切り声を上げたルーネスに、静かな反応があった。
隣を見れば、立てた片膝に片腕を乗せ、目を閉じて俯いているスコールがいる。
ルーネスの碧眼に映ったスコールの横顔は、常の眉間の皺が緩んで、少し幼い。
いつも真一文字に噤まれている唇が、僅かに口角を上げているのが見えた。
伝染したように、ルーネスの頬も緩み、くすり、と笑みが零れると、聡い彼はしっかりそれを聞き留め、
「……なんだ?」
眉間の皺を、今更のように、いつもと同じ深さにする。
それに対し、ルーネスは「気持ち良いなと思って」と言って、柔らかな草土の上に寝転んだ。
彼が何を思って、こんな事を言い出したのか、ルーネスは理解した。
理解はしたが、それに対して特別に口にするような事はないのだろうとも、理解する。
今この瞬間の穏やかな時間を、彼と共に長く過ごしていたいのなら、それが賢明だ。
ふと、地面に杖をつく彼の片手が直ぐ傍に在る事に気付く。
少し迷って、ルーネスは彼の手に自分のそれを重ねた。
ぴくっ、と僅かに指先が震えたが、振り払われる事はなかったので、ルーネスはそのまま目を閉じる。
さわさわと、吹き抜ける風が気持ちいい。
それ以上に、繋いだ手から伝わる存在が、心地良いと思った。
これでもオニオンナイト×スコールと言い張る!
子供は苦手と言いつつ、割と年下に甘そうなスコールが好きです。
ルーネスは上手くスコールとの距離を測って、お互いに気を遣わなくて良い雰囲気でのんびり過ごせる時間を堪能してます。
スコールもルーネスは59と違って上手く空気を呼んでくれるので、一緒に過ごし易いと良いな。