サイト更新には乗らない短いSS置き場

Entry

2015年02月

[サイスコ]たった一人の君から欲しい

  • 2015/02/14 23:15
  • Posted by
サイファー×スコールでハッピーバレンタイン!
最近、サイスコのツンデレスコールが美味いです。





何が楽しくて、恋人に贈られたプレゼントの仕分けをしなければならないのか───と、サイファーは眉間に恋人に勝らずとも劣らない深い皺を刻む。

そんな彼の前には、文字通り山と積まれた、可愛らしくラッピングされたプレゼントボックスがある。
密封された沢山のプレゼントボックスであるが、その中身については考えるべくもなく判る。
サイファーは、これからこの山の全ての封を解き、中身を確認すると言う作業を行わなければならない。
はっきり言って非常に七面倒臭いのだが、同じ指揮官補佐でありつつ、スコール不在時のサイファーの保護監督を務めるキスティスは、決して逃がしてはくれなかった。

2月14日と言う今日、バレンタインデーとあって、バラムガーデンの中も、このプレゼントボックスの山と同じく、其処此処で浮かれた気配があった。
特に女子の浮かれようはよく目に付いており、逆に男子は悲喜交々に混沌としている。
中には喜びに満ちている者を、まるで親の形の如く睨む者もいて、色々な意味で今日と言う日が沢山の禍根を残すであろう事は、想像に難くない。
一年前はサイファーも(目に見えて浮かれたり、他者を妬んだりと言う事はなかったが)そんな面々の一員であったのだが、今年は違う。
好意を寄せてくれる者に対し、決して悪い気はしないものの、不特定多数の誰かから渡されたそれに然したる意味はなく───それとは全く別のものとして、風神から貰ったものは嬉しかったし、何を勘違いしているのか、雷神からのものも有難く貰ったが───、欲しているのは唯一人からのそれのみ。
だが、それを望むのは無理であろう事は予測出来ていたので、其方についてはとっくに諦めている。
しかし、望みは捨てているとは言え、その望む相手とあわよくばお近づきに、と画策している者共の手助けを、何故しなくてはならないのか。

不機嫌を隠しもしない仏頂面で、サイファーは黙々と仕分け作業を続けている。
お陰で、指揮官不在の指揮官室は、彼の重圧オーラで非常に息苦しい状態になっており、報告の為に入室したSeeD達は皆そそくさと退室していた。
この状況で平然としていられるのは、彼をこの指揮官室に圧し留めているキスティス一人だけである。


「くそったれ、なんで俺が……」


何度目になるか判らない愚痴に、キスティスは眉一つ動かさない。
彼は指揮官代行の業務として、彼の代わりにてきぱきと書類を捌いていた。

朝から延々とこの作業を続けているので、山は既に半分まで減っている。
が、元々の量が多かったので、半分でもかなりの数がまだ残っていた。
こうした地味な作業は元々好きではないので、サイファーのストレス負荷は非常に高いのだが、それ以上に、開けては目にするプレゼントボックスの中身が、サイファーの機嫌を益々下降させている。

ゴン、ゴン、とノックにしてはやや重い音がドアから聞こえた。
キスティスが紙面から視線を逸らさず「どうぞ」と言うと、一拍の間を置いて、「よっこらせ」と背中でドアを開けて男が入室する。
両手に溢れんばかりに紙袋を抱えた、ゼル・ディンであった。
その姿を横目に見たサイファーの蟀谷に、ぴきっと青筋が浮かぶ。


「よーっす、お疲れ」
「お疲れ様」
「これ、追加な」
「………」


がさっ、とまとめて机に置かれた紙袋に、サイファーの眉間の皺が深くなる。
ぎろりと凶悪な眼がゼルを睨んだが、幼い頃は“泣き虫ゼル”と呼ばれた彼も、今はすっかり度胸が据わった。
睨むサイファーをものを気に留めず、ゼルはキスティスの下へ向かう。


「さっきスコールとアーヴァインが帰ったぜ」
「予定より遅かったわね。何かあった?」
「スコールがちょっと怪我してた。処置はしたから問題ないけど、念の為に保健室行き。カドワキ先生の診断が終わったら、部屋に戻って休むってさ。アーヴァインは付き添いで、終わったら一緒に寮に戻る。報告書は明日中に出すってよ」
「了解」


仕分けの作業を続けつつ、サイファーの意識はゼルの報告へと向いていた。

スコールが怪我、と言う言葉に、元々吊り上げられていた眉がまた上がる。
今回の任務は確か、と思い出してみると、彼が傷を負わなければならないような物ではなかった筈。
何かの事故か、想定外の事が起こったか────此処について、サイファーは深く考えなかった。

届け物をし、報告を終えて、する事がなくなったゼルは、また外へ向かう。
その途中で、ゼルは大量のプレゼントボックスの山に埋もれているサイファーを見遣り、


「大変だな、サイファー。それ、全部スコール宛てだろ?」
「ああ。お前が追加で寄越した奴もな。ったく、いい加減にしろってんだ」
「俺に当たるなよ」


サイファーの言葉は、ゼルに向けても全く意味のないものだ。
向けるのならば、この大量のプレゼントボックスの送り主達にするべきだろう。
しかし、こう言う行事毎で女子を可惜に刺激するのは、自殺行為に等しい。

プレゼントボックスの中身は、その殆どがチョコレートで占められている。
今日と言う日の為、女子生徒がそれぞれの想いを籠めて選び、作り、用意されたものだ。
指揮官と言う役職についてから、スコールのファンは急激に増え、憧れの目で見られる事も増えた。
そうでなくとも、元々見目や成績など、モテる要素には事欠かない彼である。
以前は取っ付き難い雰囲気や、彼自身がそうした事を好む性質ではない事から、行事に感けたプレゼントの類は、余程勇気を持つ者でなければ出来なかった。
しかし、魔女戦争後は本人の性格が幾らか丸くなった事もあり、また大量のファンからのプレゼントの中に紛れ込ませる事が出来ると言う事もあって、大量のプレゼントが届くようになったのだ。

それが全て、単純に“ファンから”贈られたものなら、サイファーもこうまで不機嫌にならなくて良かったのだが、明らかにその意味から食み出たものがいる。
誰がどう見ても“本気”を思わせるものが、一つや二つではない、其処此処に在るのが、サイファーには気に入らないのだ。

丁度手に取った、如何にもと言ったハート型のプレゼントボックスを睨むサイファーに、キスティスが呆れたように言った。


「そんなに腹が立つなら、言えば良いじゃないの。スコールは俺のものだって」


飾る言葉もなく、明け透けに言ったキスティスに、サイファーの眉間の皺が深くなる。


「……それが出来りゃ苦労しねえんだよ」
「なんだ?スコールの奴、まだ秘密にしろって?」
「………」


追い打ちの如く言ったゼルを、サイファーが睨む。
なんで俺ばっかり睨むんだよ、とゼルは愚痴が零れた。

ぎりぎりと歯を鳴らすサイファーに、キスティスは肩を竦め、


「仕方がないわね。スコールだもの。そう言うの、人一倍気にする子よ。知ってるでしょう?」
「ああ。よーく知ってるよ」
「それなぁ。俺、サイファーの事だから、そんなの無視して俺のモン宣言すると思ってたんだけど、意外と譲歩してるんだな」
「仕方ねえだろ。バラしたら即別れるって言いやがるんだ、あいつ」


忌々しげに言ったサイファーに、ゼルとキスティスは顔を見合わせた。

幼い頃からガキ大将で、何をするにも自分が中心でなければ我慢がならなかったのが、サイファーと言う少年だった。
しかし、そんな彼でもスコールが相手となると、色々と調子が変わってしまう。
ゼルとキスティスは長らく忘れていた上、サイファーがあからさまにスコールに対して絡むので思い出す事もなかったが、サイファーは本来、スコールに甘いのだ。
大抵は幼馴染達の目がない時の事だが、自己主張が出来ないスコールに、促すように彼の手を引っ張ってやったのは、いつもサイファーだった。
そして、極稀にスコールが自分の意見を述べた時は、サイファーがそれを受け止めて、スコールの望むように物事の方向を変えて行く。

記憶を忘れ、互いの命を削り合い、元鞘に収まるように恋人同士になってからも、彼等のそうしたパワーバランスは変わっていないらしい。
呆れるような、微笑ましいような気持ちで、幼馴染達はそんな彼等の様子を見守っている。


「あー、くそっ!」


誰に対してか───恐らく、誰に対してでもないだろう───悪態をついて、サイファーは席を立つ。
机の上には未だ大量のプレゼントボックスが詰まれており、ゼルが追加分を持って来てしまった為、捌き終わったのは半分以下となってしまった。
が、サイファーにはもう、この山と向かい合う気力はない。


「止めだ止めだ。俺は帰って寝る。おいチキン、続きやっとけ」
「は?俺!?」
「どうせ暇なんだろ。じゃーな、センセー」
「四時間後には戻って来なさいね。私も休むから」


サイファーの堪忍袋の限界時など、キスティスには予想出来ているのだろう。
叱る声はなく、お休み、と平静と変わらない挨拶が振られた。
ゼルの抗議については、サイファーは気にしていない。

エレベーターを降りて、一階の廊下を寮へと向かう間、周りには其処此処で甘い雰囲気が漂っていた。
授業が終わって放課後の時間となった事で、生徒達の枷は外れたのだろう。
いつもよりもカップルが多い中で、それらを羨むような昏い視線もある。
サイファーは、昏い目で過ごす生徒達と自分を同族とは考えなかったが、人目憚らずに手を繋ぎ合うカップルの姿に、些か妬みか羨みかと言うものが湧き上がるのも否めない。

────その感情の根源とも言える人物と、寮へと続く渡り廊下で遭遇した。


「あれ、サイファー」


並ぶ二つの長身痩躯、その内より高い方が先に振り返った。
続いて、低い方が振り返り、蒼い瞳がサイファーを見る。

サイファーはスコールの立ち姿を、頭の天辺から足下まで眺め、ジャケットの裾と黒手袋の隙間から覗く白に眉根を寄せた。


「何やってやがる、このドジ」
「………」


不機嫌なサイファーの言葉に、スコールの眉間に皺が寄る。
スコールはしばらくサイファーを睨んでいたが、ふい、とそれを筈すと、寮に向かって歩き出した。


「あ、スコール。ちょっと待ってよ────って、痛いっ!」


直ぐにスコールの後を追おうとしたアーヴァインだったが、長く伸びた髪を掴み引っ張られて悲鳴を上げた。
何、と痛む後頭部を押さえて振り返れば、射殺さんばかりに睨む碧眼。

僕が一体何をしたんだろう。
ひょっとして、スコールの怪我は僕の所為って思われてる?
────理不尽に睨まれたアーヴァインがそう思ったのも無理はない。
が、サイファーは蒼くなったアーヴァインから早々に興味を失うと、力任せにその肩を押し除けて、寮へ向かって歩き出す。

後ろから追う気配はなく、突き当りの角を曲がると、其処には自分とスコールしかいなくなった。
コツ、コツ、コツ、コツ、と二人分の足音だけが静かな廊下に反響する。
二人の歩く速度はぴったりと重なっており、距離は縮まる事も広がる事もなかった。

前を歩く少年は、つい先程まで、サイファーが大量の自分宛ての贈り物と向き合っていた事など、知りもしない。
少しばかり疲れた気配がする細身の背中は、今日はもう部屋に篭って外に出るつもりもないのだろう。
明日になって、あの大量の贈り物を見て、どうしろって言うんだ、と溜息を吐くに違いない。
それは別段、サイファーにはどうでも良い事だったのだが、


(……ねえよな、やっぱり)


今日と言う日、恋人と言う間柄。
目の前の恋人の性格は理解しているが、それでもこっそりと期待していた自分。
だが、前を歩く少年は、今日と言う日が何であるのかすら判っていなくても可笑しくはない。

黙々と歩いている内に、サイファーの部屋は直ぐ傍に来ていた。
ひっそりと落胆する心を隠し、無表情のまま、サイファーは自室の前で足を止める。
ドア横のパネルでロックを外し、プシュッ、と自動ドアの空気の音がなった────その時。


「おい」
「あん?」


呼ぶ名前もなかったが、サイファーは自分が呼ばれていると判った。
敷居を跨ごうとした足を戻し、視線だけでスコールのいる方を見遣る、と。

ぽこん、と小さなものが頭に当たって、跳ねて落ちて来たそれを反射的にキャッチする。


「てめ、何だよ!?」
「……別に」


掴んだそれを握ったまま、サイファーがスコールを見れば、彼は既に背を向けて歩き出していた。
ふらふらと、少し覚束ない足取りで進む背中に、サイファーは舌を打つ。

折角の今日だと言うのに、何て日だ。
そう思いながら、苦々しく表情を変えて、手に握り締めていたものを思い出す。
頭を打ったそれを、投げ返してやろうかと手を開いた。


「……あ?」


其処に在ったものを見て、サイファーの目が丸くなる。

赤くきらきらと光る紙に包まれた、小さな小さな丸いもの。
紙には小さな文字が金色で印字されており、この小さなバラムでも知られている、デリングシティで名店と言われる店の名前があった。
其処はチョコレートが有名な店で、リノアが実家に帰省する度、仲間達にと土産に買って来たものだ。
内装は如何にも女性好みのもので、到底、男が───況してやスコールのように、人一倍人目を気にする人間が入るなど、ハードルが高いであろう事は想像に難くない。

サイファーはドアを閉めて、踵を返した。
ロックをかけるのを忘れたが、サイファーの部屋に無断で入るような度胸のある人間は、これから前を歩く人物くらいしかいない。
その人物の肩を抱いて、サイファーはその肩を押して進む。


「な、あ、サイファー!?」


突然襲いかかった重みと力に、慌てた声が上がったが、サイファーは気にせず歩を動かした。


「あんた、部屋あっちだろ!何処行くんだ、離せよ!」
「何処ってお前、」


じたばたと、サイファーの腕から逃れようとするスコールだが、サイファーは離れなかった。
睨む蒼を、にんまりと笑った緑が見下ろす。


「似合わねえ事を頑張ってくれた恋人に、ロマンティックな夜でも届けてやろうかと思ってよ」


手の中に握っていたものを翳して見せると、既に赤かったスコールの顔が、益々赤くなる。

サイファーはスコールを捕まえたまま、片手と口で包装紙を剥がすと、仄かにブランデーの匂いのするそれを口に入れる。
直ぐに下の上で溶け始めたそれを、無防備に開いた口に重ねてやった。



ロマンなんか要らない、と言う声を聞きながら、サイファーは恋人の部屋のドアを開けた。





死ぬ程恥ずかしいけど頑張ったスコールと、期待してなかった分、嬉しくて振り切ったサイファーでした。

スコール、一人で買いに行く勇気が無くて、アーヴァインに付き添って貰ってます。
後日、凄く真剣に選んでたよ~ってバラされる羽目になるw

[フリスコ]無自覚の自然体

  • 2015/02/08 21:33
  • Posted by


元の世界の文明レベルが違うのだから、各人の常識であったり、知識であったりと言うものにも、色々とバラ付きがあった。
キッチンに揃えられた電化製品は判り易い例で、竈や水、氷による保存法に頼るのが当たり前だった多くの者は驚いたし、逆に家電が当たり前であった面々からすれば、冷蔵庫やコンロに驚くメンバーに驚いていた。

生活環境が違えば、其処に伴う食材や調理方法も異なる。
フリオニールが知識として知っている料理と言うものは、魚や肉を切って焼いて、塩や胡椒で味付けすると言ったもの。
それだけを言えば全員に共通する知識だが、バッツは更にディープな知識を持っているし、ジタンは酒を使った料理が得意だった。
ルーネスはフリオニールと似たようなものだったが、香辛料が余り多くはないと言う意識が根底にあるらしく、薄味ながら栄養のしっかりした物を作るのが得意だった。
スコールは魚や肉の捌き方を一通り心得ており、レシピがあって、食材が一通り揃えば、大抵のものは卒なく熟して見せた。
因みに、フリオニール個人が一番秀でている事はと言うと、パンの焼き方だ。
小麦粉から作るフリオニールのパンは、ボリュームもあって美味しいと定評がある。
……この時点で名前の挙がらなかったメンバーに関しては、それぞれレベルの違いはあるものの、ちょっとした難有物件として認識されている。

フリオニールが闘争の世界で驚いたのは、砂糖の確保が容易である事だった。
モーグリショップで、キロ単位で売られていたそれを見付けた時は、目を丸くしたものである。
その上、値段も安かったので、フリオニールは思わず大量に購入して来てしまった。
この時のフリオニールの気持ちを理解してくれたのは、ルーネスを筆頭に、セシル、バッツ、ティナと言うメンバーで、ジタンはまあまあ判るけど、と言う具合だ。
残るクラウド、スコール、ティーダは首を傾げており、砂糖ってそんなに珍しいものでもないだろ、とティーダは言っていた。
其処から各人の世界の食糧事情について話が尽きない事となるのだが、それはまた別の話だ。

フリオニールにとって、砂糖と言えば、決して安価で手に入れられるものではなかった。
自身の世界について、フリオニールは相変わらず不明瞭にしか思い出せないが、少なくとも感覚だけは確かである。
フリオニールの世界では、砂糖は高級品で、砂糖菓子等と言うものは正しく贅沢品だ。
だからフリオニールの感覚では、干した果物や、果汁の煮汁を固めて作った保存食と言うものが、ティーダの言う“おやつ”に相当するものであった。

そんなフリオニールにとって、甘い甘いケーキや、チョコレートと言うものは、未知の食べ物だった。
初めは真っ白な生クリームや、真っ黒な塊に慄いていたフリオニールだったが、ティーダにせがまれて一口食べると、あっと言う間に虜になった。
以来、フリオニールはすっかり甘いものに目がなくなり、冷蔵庫の奥に仕舞われた夕食のデザートの残りを見付けると、食べても良いか、と爛々とした瞳で仲間達に聞くようになる。



日課としている鍛練を終えて、汗を流してリビングに入った時だった。
ほんのりと甘い匂いがフリオニールの鼻腔を擽り、おや、とフリオニールは匂いの下を辿る。

リビングの奥に続き間になっているキッチンを覗くと、スコールが立っていた。
スコールはステンレス製のボウルを片腕に抱え、右手の泡立て器をカシャカシャと動かしている。
キッチン台には小麦粉や砂糖の袋が置かれ、スコールが抱えているものよりも小さなボウルや、幾つかの深皿の食器が並べられていた。

一心不乱に泡立て器を動かしていたスコールだったが、見詰める視線に気付いてか、フリオニールへと振り返った。


「……あんたか」


相手を確認して、スコールは僅かにほっとしたように息を吐く。
恐らく、賑やか組のつまみ食いを警戒したのだろう。
フリオニールはくすくすと笑いながら、スコールの下へと近付き、彼の手元を覗き込んだ。


「何を作ってるんだ?」
「ムースケーキ」
「…ムース?」


聞き慣れない単語にフリオニールが首を傾げると、スコールは調理の手を止めて沈黙する。
説明する言葉を探しているのだろう、フリオニールは彼がもう一度口を開くのをのんびりと待った。


「泡立てた卵白と生クリームを混ぜた、ペースト状のクリーム……?」
「ふぅん。スコールの世界ではよく食べるものなのか?」
「…有り触れてると言えば、まあ…」


俺はあまり食べないけど、とスコールは後付けで追加した。
カシャカシャと泡立て器の音が再開される。

自身が食べないものを、わざわざスコールが作っていると言う事は、十中八九、賑やか組に強請られたに違いない。
特にティーダは、自分と価値観の近いスコールに、あれが食べたい、これが食べたいと頼み込んでいる事が多かった。
スコールはその度、渋い顔を浮かべていたが、律儀なのか、実は自分も食べたかったのか、食材とレシピを調達してはキッチンに立っている。
そうして作られた甘味を、フリオニールも一緒に食べさせて貰うのは儘ある事なのだが、


(……ちょっと妬ける、かな)


価値観が近いとあってか、スコールとティーダは仲が良い。
年齢も同じだと言うし、シンパシーのようなものを互いに感じる所があるのかも知れない。
そんな二人の光景は、フリオニールから見ても微笑ましいものなのだが、少しばかり、複雑な気持ちを覚える事もあった。

フリオニールとスコールは、恋人同士と言われる仲だ。
仲間達も知っており、気を利かせてか、以前は別パーティで行動する事が多かった二人を組ませる事が多くなった。
今日の二人揃っての待機も、ジタンとバッツ、ティーダとセシルが意図して組ませたものだ。
他にジタン、バッツ、ティーダと言う賑やか組も待機班となったのだが、彼等はモーグリショップにでも出かけているのか、いつの間にか姿を消している。
だからフリオニールは、今日の待機に些か緊張しつつ、久しぶりに過ごせる二人きりの時間に、少しばかり浮かれた気持ちを誤魔化せなかった。

其処へ来て、仲間の為にお菓子作りに勤しむスコールである。
スコールに責任がある訳でも、勿論、ティーダやジタン、バッツが悪い訳でもない。
それでも、少しばかり腹の奥に気持ちの悪いものが滞留するのを感じて、フリオニールは情けないな、と自嘲する。


「……もう良いか」


ぽつりと聞こえた呟きに、意識の海に沈んでいたフリオニールは現実に還った。

泡立て器を動かす音が止み、スコールが抱えていたボウルをキッチン台に置く。
冷蔵庫から取り出したのは、また別のボウルで、中身は真っ白な生クリームだった。
生クリームが抱えていたボウルの中へ投入され、また泡立て器が動き出し、小気味の良い音が鳴る。


「美味そうだな」
「……」
「なんだ?」


甘い匂いを漂わせる真っ白なクリームを見て呟くと、スコールの手が止まり、蒼い瞳がフリオニールを見る。
じい、と物言いたげな蒼色に、フリオニールが首を傾げると、


「……いや…」
「そうか?」
「………」


ふい、と目を逸らすスコールに、フリオニールは頭を掻いた。
何かを言おうとして止めたのが判る仕種であったが、こう言う時、踏み込んで良いものか、フリオニールはまだ掴み兼ねている。

フリオニールが考えている間に、スコールはボウルの中身を混ぜ終えたようだった。
スコールは泡立て器をボウルの端に置いて、スプーンで一掬いし、口に入れる。
眉根を寄せるスコールに、失敗したのかな、とフリオニールが思っていると、


「……」
「ん?」


蒼灰色の瞳が、もう一度物言いたげにフリオニールを見る。
スコールは、きょとんとした表情で見返すフリオニールを見詰めた後、咥えていたスプーンを離してもう一掬いし、


「……ん」
「え?」


余りにも足りない言葉と共に差し出されたスプーンに、フリオニールはまた目を丸くする。
紅い瞳が、恋人とスプーンを行ったり来たりし、食べろって事だろうか、と行き着く。


「…いいのか?」
「味見だ。それに、さっきからあんた、食べたそうな顔してる」


スコールの指摘に、フリオニールは耳を赤くして苦笑した。
確かに甘い匂いに惹かれ、うずうずとしていたのは確かだが、そんなに判り易かっただろうか。

スプーンが引かれる気配もなかったので、フリオニールは口を開けた。
ぱくり、とクリームの乗ったスプーンを食む。
するりと下の上でスプーンが滑って、クリームだけが口の中に置いて行かれた。
生クリームよりも滑らかな、けれども液状よりは少し固形に近いものが、舌の上でゆっくりと溶けて行く。


「美味いな」
「甘さは?」
「俺はもうちょっと甘くても良いな」
「…じゃあ、これで良いな」


フリオニールの感想を聞いて、スコールはボウルをキッチン台に置いた。
甘くはしてくれないのか、とフリオニールがこっそり肩を落としていると、スコールはキッチン台に並べた皿の中から、溶けた形をした茶色が入ったものを手に取る。

スコールはコンロに水の入った鍋を置き、火を点けて沸騰させると、皿を湯の中に置いた。
湯が陶器の皿全体を温め、中に入っているものがゆっくりと色を変え、蕩けて行く。
カカオの匂いと混じった甘い香りに、フリオニールはその正体を知った。


「チョコレートか?」
「……ああ」


スコールはチョコレートが溶けたのを確認すると、皿を湯から上げ、ボウルの中からクリームを少し流し入れた。
泡立て器てさっと混ぜると、白いクリームが薄茶色に変化する。
それをまたボウルに戻して混ぜて行くと、真っ白だったクリーム全体が色を変えて行った。

甘いクリームの中に混ざった、チョコレート。
これは、とフリオニールが目を輝かせていると、スコールはスプーンで一口分を掬い、フリオニールの口元へ。


「あんたが味見しろ」
「スコールがしなくて良いのか?」
「…何度もしたから、もう判らない」


クリームを固めている間に、スコールは繰り返し味見をしている。
お陰で、甘味に関して少し感覚が麻痺してしまった。
だから代わりに味見をしろ、とスコールはスプーンを突き出して言う。

名目は味見だが、フリオニールにとっては、公認のつまみ食いのようなものだった。
作っている本人から許しが出ているのだから、遠慮なく、と一口で差し出されたクリームを食べる。


「さっきよりずっと甘い。俺は好きだよ」
「……じゃあ、これで良い」


フリオニールの反応に満足して、スコールは仕上げの工程に入った。
此処からは邪魔に入ったなるだろうと、フリオニールはキッチンから出て行く。

────出た所で、いつの間にか探索から戻っていた賑やか組に捉まった。



それからしばらく、フリオニールは、ずるいずるいと騒ぐ賑やか組をキッチンに入れない為に奮闘するのであった。





2月8日なのでフリスコ!

この後、賑やか組に間接キスとか「あーん」について突っ込まれ、今更真っ赤になる。
ナチュラルにいちゃいちゃしやがって!とか言われて、そんなつもりがなかっただけにダメージ大。
そんな会話がスコールにも聞こえて、スコールもキッチンで真っ赤になってる。

お互いの行動を強く意識しなければ、平然といちゃつくけど、意識すると途端に顔も見れないフリスコは可愛い。

Pagination

  • Newer
  • Older
  • Page
  • 1

Utility

Calendar

01 2015.02 03
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
- - - - - - -

Entry Search

Archive

Feed