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2014年03月

[カイスコ]暗黙の距離感

  • 2014/03/18 23:51
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カインとスコールが恋仲である事を知っているのは、ジタンとバッツ、そしてカインの親友であるセシルのみ。
他の面々は、彼等が想いを寄せ合っている事を知らないばかりか、接点すら碌にないと思っているのではないだろうか。
二人揃って寡黙な性質な上、パーティを組む事も少ないのだから、無理もない。
カインと言う人間を知っているセシル、スコールを観察する事に長けたジタンとバッツだからこそ、二人が纏う微妙な空気の変化に気付いたのだ。

誰から見ても接点が薄い筈の二人が、どうやって心を寄せ合うようになったのか────元はと言えば、スコールの単独行動が原因であった。
一人でふらりと出掛けては、無理な戦闘をして負傷して帰ってくるスコールにカインが気付き、危なっかしさにカインの方が先に彼を目で追うようになった。
スコールの単独行動そのものについて、カインが注意や警告をした事はない。
何となく、言っても聞かないだろうと言う空気もあったし、スコールが自身の単独行動について、ウォーリア・オブ・ライトと何度となく口論している所も見た事がある。
下手に突いて蛇を出すより、出来るだけ注視し、危険に首を突っ込む様子があれば、その時に止めに入れば良いだろうと思っていた。

そしてカインがスコールを観察するようになってから、何度目かの単独行動の最中、スコールは上位イミテーションとの戦闘で傷を負った。
イミテーションは討伐したものの、ケアルのストックを切らせたスコールは、体力が回復するまで一人蹲っていた。
スコールがまんじりともしない時間を過ごす間、カインは彼を遠目に見詰め、彼の下へ近付こうとする周辺の敵を先手を打って駆逐して行った。
その後、休息から復帰し、聖域へと帰還したスコールから「……礼だけは言って置く」と微かに赤い顔で言われたのが、二人が直接話をした初めての記憶ではないだろうか。

それからは、違いに遠巻きな距離の関係が続く。
スコールは相変わらず単独行動を止めないし、カインはそれを咎める事はせず、しかし遠目にスコールの行動を見守っていた。
基本的にスコールは誰かに庇われる事や、干渉される事を嫌うが、カインに対してはそうではなかった。
干渉と言うには遠く、庇われると言う程あからさまな行為を、カインが取らなかった所為もあるだろう。
遠目に感じるカインの気配を知りつつ、スコールは「ついて来るな」等と言う言葉を向ける事はなく、カインも彼に拒絶されていないのならばと、彼を見守り続けていた。

事が動いたのは、カインのそうした行動に気付いたセシルと、スコールのカインへの態度の変化に気付いたジタンとバッツの行動に因る。
カインは、自分がスコールの事を気にするのは、云わば保護者のような感覚なのだと思っていた。
だが、スコールと同じ年頃であるヴァンやユウナ───彼女の場合、既にジェクトと言う庇護者がいるのもあるが───、最年少のルーネスには、其処まで気をかけている事はない。
彼等がスコールのように無断で単独行動を取るタイプではないから、と言うのもあるが、では仮に彼等が単独行動を取った時、余計な刺激を与えないようにと言う配慮をしてまで、単独行動自体を自由に赦すだろうかと言われると、首を傾げるものがある。
ヴァンもユウナもルーネスも、言えば素直に聞く方なので、此処もスコールと比較しようがない事になってしまうのだが、少なくとも、一言二言の忠告するだろう。
それがスコールに対してのみ、彼を無為に刺激する事なく、無理に連れ帰る事もせず、わざわざ手間にしかならないであろう、彼の単独行動の度に遠目に見守るような真似をしているのは、何故なのか。
それらをセシルに指摘されて、ようやくカインは自分の中にいつの間にか芽吹いていた感情───「スコールを放っておけない」と言う事に気付いたのだった。

スコールの方は、ジタンとバッツに言及されたお陰か、カインよりももう少し早く、自分の中の違和感に気付いていたらしい。
ジタンやバッツのように強引に引っ張るでもない、ウォーリア・オブ・ライトのように正面からぶつかって来るでもない、自由にさせているのに放置する事はしないカイン。
彼が自分を見ている気配を感じつつも、何か言って来る訳でもなく、強制される様子もなかったので、スコールは好きにさせていた。
その“好きにさせていた”事が、ある意味で珍事なのだと、ジタンとバッツは言った。

それからは、ジタンとバッツがお膳立てし、カインをセシルが煽り、ひっそりと想いは重ねられた。

その後、二人の付き合い方が大きく変化した事はない。
最近、スコールが比較的丸くなったと言う変化はあるが、カインと同じ時間を過ごすのは稀な事だ。
カインも相変わらず遠目にスコールを見守っており、二人が会話らしい会話を交わす時と言ったら、周囲に誰の気配も感じられない時だけ。
「もっと話をした方が良いんじゃないか」とカインはセシルに、スコールはジタンとバッツに言われたが、今まで殆ど会話の無い付き合い方をしていたのに、いきなり喋れと言う方が無理だ、と両者───主にスコールの方───が思った為、一見殺風景な恋人関係が出来上がったのである。




いつものように、スコールがジタンとバッツに引き摺られ、素材集めに行った帰りの事だった。
目当ての武器防具、アクセサリー類のトレードをする為、秩序の聖域から程近い場所にあるモーグリショップに立ち寄ると、其処に恋人とその親友の姿があった。


「おっ、セシルとカイン」
「やあ、偶然だね。買い物?」
「トレードの方。おーい、カタログ見せてー」


ジタンとバッツに急かされ、モーグリが店の奥から分厚いカタログファイルを持って来る。
二人はファイルを開いて目当ての品を確認すると、荷物袋から今日集めて来たばかりの素材を取り出し、トレードに必要な数を確かめる。

こっちよりこっち、いやあっち、と有用な物を吟味している二人を、スコールは遠巻きに眺めていた。
目当てのアクセサリーがない訳ではなかったが、今日は運が悪かったようで、どう数えてもトレードに必要な数が揃えられていない。
詰まる所、スコールはモーグリショップに用事がなかった訳だが、一人で帰ると言ってもジタンとバッツは赦すまい。
後から「置いて行くなんて酷いじゃないか!」と涙ながら(目薬使用)に訴えられる面倒臭さを思うと、彼等の気が済むまで付き合う方が平和である為、同行しているのである。

暇を持て余していたスコールは、特に興味もなく、並べられた商品を眺めていた。
色とりどりの宝玉を使って精製された指輪やピアスは、一つ一つに魔力が込められているらしく、ドーピングのように魔力を上げるもの、毒を治療するもの等がある。
スコールの世界では、アクセサリーと言うと装飾品以上の価値はなかったから、アクセサリーを身に付けるだけで何某かの恩恵に与れると言うのは、少々不思議なものであった。


(……まあ、俺には関係ないな)


毒を治療すると言う類ならともかく、魔力の増幅は、スコールには余り意味がない。
スコールが使う魔法は、この世界では下級レベルの魔法にも劣る程度の威力しかなく、牽制以上の役目にはならない。
下手に苦手分野を強化して補おうとするよりも、得意分野を伸ばした方が有用だろう。

そんな事を考えつつ、深い紺色の宝石を頂いた指輪を手に取る。
オーバルカットされた宝石は、角度を変えるときらきらと光を返し、スコールの目に反射する。
スコールの世界で考えれば、相当な金額になるであろう指輪だが、掲示されている値段は随分と安価であった。
また一つ、不思議な気分にかられつつ、指先の石をじっと眺めていると、


「お前にそれは必要ないんじゃないのか」


突然聞こえた声に、スコールの心臓が思い切り跳ねた。
思わず落としそうになった指輪を慌てて掴み取り、スコールはじろりと隣を睨む。

蒼灰色に睨まれた男の顔は、兜の所為で口元しか見えない────が、微かに弧を描くその唇に、スコールの眉間に深い皺が刻まれる。


「…気配を消して近付くな」
「そんなつもりはなかったんだが」


睨むスコールに、カインは苦笑交じりに言った。


「そんなにその石が気になるのか?」


カインは、スコールの手に握られた石を指差す。

気配に敏感な筈のスコールが、気配も足音も消さずに近付いたカインに気付かなかった。
余程宝石に夢中になっていたのか、と問うカインの声が、子供を窘めるような柔らかさを含んでいる事に、スコールの眉間の皺が更に深くなる。
カインはそんなスコールから視線を外し、並べられたアクセサリーの品を眺め、


「何か欲しいものでもあったのか」
「別に。見てただけだ」


カインの言葉に素っ気なく返して、スコールは手にしていたアクセサリーを元の位置に戻した。
丁度良くそのタイミングで、トレードが終わったジタンとバッツ、セシルの声がかかる。


「スコール、終わったぞー」
「こっちも終わったよ、カイン」
「早く帰って、風呂入ろうぜ!」


それぞれの連れ合いの声に、二人もそれぞれ頷いた。

セシルがジタンとバッツを伴ってショップを出て、スコールも続く。
カインは僅かに遅れてからショップを出、殿を引き受けるようにゆっくりと進む。

いつも定位置とばかりにスコールの傍から離れないジタンとバッツだが、カインが同行している時は、彼に場所を譲っている。
恋仲である筈なのに、それを全く臭わせない程の距離感で付き合っているスコールとカインの様子が、彼等にはどうにもむず痒いものがあるらしい。
セシルは、そんなジタンとバッツに同調しているのか、恋仲同士を純粋に応援しているのかは判らないが、やはり「もう少し傍にいても良いんじゃない?」と思っているそうなので、スコールとカインの間に割って入るつもりはないらしい。
……そう言った判り易い気遣いや行動が、スコールには反ってプレッシャーに似たものとして感じられてしまうのだが。

少し歩く速度を落とした方が良いのだろうか。
背中を見守るようにして進む、背後の男の気配を感じながら、スコールは考える。
前を歩く三人は、スコールが少し遅れた程度で振り返る事はないだろう。
けれど、背後の男と並んで歩く、と言うのも、スコールには無性に難しい事のように思えてならなかった。

彼と話をしたくない訳ではない。
だが、どんな話をすれば良いのか判らない。
そんなジレンマに苛まれながら、スコールが黙々と足を動かしていると、


「スコール」
「……!」


距離があるとばかり思っていた彼の気配が、直ぐ後ろにあった。
近い距離で聞こえた声に、またしても心臓が跳ねる。

驚かすな、と言う気持ちで、判り易く顔を顰めて振り返る────が、眼前に差し出された銀色に、蒼灰色から剣呑な光が抜ける。


「体力を補えるアクセサリーだ。こっちの方が、お前には有用だろう」


そう言ってカインが差し出していたのは、燻し銀が鈍い光を反射させる、シルバーバングルだった。
突然の事に、スコールはきょろんとした表情で、カインとバングルを見詰める。

何も言わない、動かないスコールに対し、カインも何も言わずに動いた。
歴戦を臭わせる武骨な胼胝のある手が、スコールの手を掴み、持ち上げる。
バングルがスコールの手首に通され、黒のジャケット裾と手袋の隙間に、微かな重みが加わった。
その重みによって、スコールはようやく我に帰る。


「カイン、」
「持って置け。お前は直ぐにスタミナ切れをするからな」
「おい、」
「銀装飾なら、お前もそれ程抵抗はないだろう?」


自分が何を言おうとしたのか、スコールにもよく判っていなかった。
ただ、要らない、あんたが使え、と言う類のものであった事は違いなく、カインはそれを先回りするように言って、また歩き出す。

言葉を先回りされた事で、出鼻を挫かれたスコールは、数秒の間、其処に立ち尽くしていた。
遠くから聞こえるジタンとバッツの声に我に帰り、慌てて歩を再開させ、早足でカインを追い越して行く。




擦れ違い様、赤くなった耳を彼に見られていた事に、少年は気付かなかった。






なんか思い付いたので書いてみたカイン×スコール。
普段はスコールに無理のない距離を保つのに、不意打ちで近付いて来るカインとか良いかなって。

カイン、大人で兄貴分で紳士とか難しい。孤高だけど、隊長とかやってたし、人付き合いは問題なさそう。

[レオスコ]甘い時間を待っています

  • 2014/03/15 21:39
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ホワイトデーでレオスコ!
バレンタインの[甘い吐息を分け合って]の続きになります。




今から一ヶ月前のバレンタインデー────その日、スコールはレオンからチョコレートを贈られた。
が、その時、スコールも彼に対して贈るチョコレートを用意していたのだ。

スコールは一日の学業を終えた後、普段なら先ず近付かないであろう、女子生徒が屯する洋菓子店に赴き、きゃいきゃいと花を飛び散らす少女達の中に一人混じって、彼に渡すチョコレートを選んだ。
そうした非常に高いハードルを越えた後で、スコールは更に高いハードルにぶつかる事となる。
スコールが学校で沢山の女子生徒(名前を知らない者も多い)からチョコレートを贈られたように、レオンも勤め先の同僚達から、大量のチョコレートを贈られていた。
レオンが貰ったものは、流石社会人とでも言うのか、どこそこの高級ブランドチョコレートが並べられ、手作りのものも、中身は勿論包装紙まで非常に凝られていて、女性達の執念のようなものが感じられた。
そんな沢山のチョコレートを見た後で、スコールは自分が用意したチョコレートが酷く貧相なものに見えたのだ。
学生達が寄り道して行くような洋菓子店で買ったもので、ワイン入りのビター味と言う大人向けの仕様とは言え、やはり高級菓子の類には、遥かに見劣りする。
スコールは完全に気後れし、チョコレートを直接渡す事を躊躇ってしまった。

スコールがどうやってチョコレートを渡すかを考えあぐねている間に、レオンの方からスコールへ、チョコレートが贈られた。
予告もなく口の中にチョコレートを入れられて、何事、と狼狽していると、キスをされ、彼はスコールとチョコレートの味を堪能した後、「来月は、お前の方から貰えると、嬉しいな」と言って笑った。

彼にそう言われたから───と言う訳ではないが、3月14日のホワイトデー当日、今度こそは、とスコールは思っていた。
あの日スコールが用意したチョコレートは、結果的にはレオンに贈る事は出来たものの、直接渡せた訳ではなく、レオンの部屋のデスクに置いて、彼に気付いて貰うと言う手法が取られた。
今回はバレンタインデーのお返しの日とされているのだから、渡す事への大義名分は十分ある。
一ヶ月前のように、あれこれと考え込んだり、チョコレートを用意する為に高いハードルを越えたりする必要はない。
この前のお返し、と言って差し出せば良い、簡単な事だ。

……簡単な事だ。


(………そう、思ってたのに)


3月14日の夜、スコールは無表情の裏側で、胸中で頭を抱えていた。

レオンと二人で暮らす家の中、リビングのソファに座って、スコールはテレビを眺めていた。
が、目線が其方に向いているだけで、放送されている番組の内容は、まるで頭に入って来ない。
彼の意識は、ただ只管、背中の気配に向けられている。

スコールが座っているソファの後ろには、食卓に使っているテーブルがあった。
レオンはその席に着いて、仕事用に使っているパソコンを開き、何かのデータを打ち込んでいる。


(……忙しそうだ)


何でも、年度末の総決算が近いとかで、やる事が山積みになっているらしい。
春休みと言うものは学生の内の特権であり、社会人には全く関係の無い事なのである。

絶えず聞こえる、キーボードを叩く音と、カーテンを開けた夜の窓越しに映る彼の表情は、真剣そのもの。
スコールは、ただの一時であっても、それを邪魔する事に気が引けていた。

スコールがバレンタインデーのお返しにと用意したのは、一ヶ月前と同じ店で買ったチョコレートだった。
同じ物を同じ店で用意するなんて芸がない、とは思ったが、スコールにとって、今日と言う日は、彼の日のリベンジの意味もある。
あの日は直接渡せなかった上、先にレオンの方からチョコレートを贈られたので、今度こそは自分から、と思っていた。
そして出来れば、あの日出来なかった“直接手渡しする”と言うミッションをクリアしたい。

しかし、忙しそうな彼の横顔を見遣る度、どんどん気後れして行く自分がいる。
邪魔をしないように、彼の部屋にこっそり置いておこうか、と思ったが、それでは一ヶ月前と何も変わらない。


(もう少し待って、レオンの仕事が終わったら、渡すか。でも、まだしばらく終わりそうにないよな…)


パソコンの横に置かれた、資料らしき紙の束を捲りながら、レオンは作業を続けている。
その紙束が、まだ半分も捲られていない事に、スコールは気付いていた。
あの紙束全てに書かれている事をまとめなければならないのだとしたら、日付を跨ぐのは目に見えている。

せめて日付が変わる前、ホワイトデーの内に渡したい。
でもタイミングが……と考えれば考える程、スコールはドツボに嵌り込み、冷蔵庫に納めているチョコレートを取りに行く事すら出来なくなっていた。

後々になって考えれば、「一ヶ月前のお礼」と言って、テーブルに物を置くだけで目的は果たせたのだが、思考の迷路に嵌り込んだスコールは、そうした考えすら思い浮かばなかった。

窓越しにちらちらと彼を見て、興味の無いバラエティ番組の音を聞くともなしに聞きながら、いつ動こう、と緊張しながらタイミングを探す。
そんなスコールの後ろで、キーボードを叩く音が途絶え、レオンは曲げていた背中をぐっと後ろに逸らした。


「……ふーっ…」


パソコンに向かう為にずっと丸めていた背を伸ばせば、ぴきぴきと筋肉と骨の引き攣る感覚に見舞われる。
いたた、と眉根を寄せるレオンに、スコールは振り返り、


「終わったのか?」
「ん……今日の所は、な」


書類の束をぱらぱらと捲りながら、レオンは言った。
一応、今日の作業として予定している所までは終わった、と言う事だ。
几帳面な彼の事、出来れば前倒しで出来る所まで終わらせてしまいたいのだろうが、今日はもうそんな気力も尽きているようだ。

レオンはパソコンの電源を切り、蓋を閉じると、ふう、と息を吐いてテーブルに突っ伏す。
滅多に見せない、判り易い“疲れた”と言う様子で、彼は呟いた。


「毎年の事だが、やる事が多くて困る」
「……大変だな」
「まあな。この時期だし、仕方のない事ではあるんだが」


決算と言うものが近付く度、レオンが大量の書類作りに追われている事を、スコールは知っている。
一年間の総決算となると尚更で、平時でも多い書類の数が倍以上にまで増えており、さしものレオンでもこれを捌くのは一苦労だった。

のろのろと体を起こすレオンを見ながら、渡すなら今だろうか、とスコールは考える。
レオンもスコールもあまり甘い物は得意ではないが、甘味は疲労時の回復に役に立つ。
しかし、レオンは明日も仕事があるし、早朝の内に出社しなければならない筈だから、甘味よりも早く眠りたいかも知れない。
────考え始めればキリがない可能性を、スコールは延々と頭の中で巡らせていた。

かたり、とレオンが席を立つ音を聞いて、スコールは我に返る。


「風呂に入るのか?」
「いや。その前に、コーヒーでも飲もうかと」
「俺が淹れる」


仕事終わりの一服が欲しいのなら、丁度良い、とスコールはソファを立った。
コーヒーを淹れて、その当てにチョコレートも渡せば良い。
これなら、無理なく自然に渡せるだろう。

キッチンへ向かうスコールを見送って、レオンは小さく笑みを零し、テーブルに置いていた書類を取った。
明日まとめる分を確認するのも面倒で、パソコンと一緒にさっさと仕事用の鞄の中に入れて、蓋をする。

スコールはコーヒーミルを取り出し、レオンに教えて貰ったやり方で、コーヒー豆を挽いていた。
ほんのりとしたコーヒーの香りがスコールの鼻腔を擽る。
レオンに教わった通りの挽き方をしているのに、不思議な事に、何度挽いても彼の作ったコーヒーと同じ香りにならない。
それでも、レオンが「スコールの挽いてくれた豆の香りは美味い」と言ってくれるから、これで良いのだと思っている。

挽き終った豆を布フィルターに入れて、サーバーにセットし、少し湯を注ぐ。
豆を蒸らし終わった所で、改めて湯を注が、コーヒーが摘出されるのを待っている間に、冷蔵庫に入れているチョコレートを取り出そうとした所で、


「最近、妙に疲れが溜まっている気がするんだ」


本来なら対面式のキッチンとなる為か、キッチンとリビングの間の壁には、窓がある。
其処から聞こえた声にスコールが顔を上げると、レオンはスコールが点けっ放しにしていたテレビを眺めていた。
その為、キッチンにいるスコールからは、レオンの後ろ姿しか見えない。

じっとその後ろ姿を見詰めるスコールに、レオンは振り返らないまま、言った。


「だから、妙に甘いものが食べたくなるんだ」
「………」
「でも、此処の所、コンビニに買いに行く暇もなくてな」


レオンの言葉は、独り言染みていたが、スコールに向けられているようでもあった。

スコールは、冷蔵庫の蓋に手をかけたまま、じっとレオンを見詰めていた。
レオンが肩越しに振り返り、蒼灰色の瞳が微かに楽しそうに和らいで、


「何かあったら、嬉しいんだけどな」


澄んだ蒼の瞳には、期待と言うよりも、確信的な光が滲んでいる。
それを見付けただけで、スコールは、何もかもが見透かされているような気がして、頬に朱色が上った。



真っ赤な顔でコーヒーとチョコレートを差し出すスコールに、レオンがもう一つ、スコールが益々赤くなる事を言おうとしている事を、彼は知らない。





「お前の手で食べさせてくれ」って言う。

バレンタインの時には、レオンがスコールに食べさせてあげたからね(不意打ちで)。
自分がした事を、全部そのままお返しして貰おうと思ってるレオンでした。

 

[絆]ちびっこたちのホワイトデー

  • 2014/03/14 21:44
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絆シリーズでホワイトデー。
ちびっ子たち頑張る。
[ひみつのやくそく]から続いています。

はじめてのおかえし
  ┗はじめてのじゅんび 1


いつも見守ってるつもりでいても、いつの間にか成長している部分ってあるものです。
こんなこと出来るようになったんだ、とか、そんな事考えるようになったんだ、とか。
子供の成長って、周りが思っていたり感じていたりするよりも、実はずっと早いんだなぁ。

こうしてお返しして、お返しのお返しして、お返しのお返しのお返し……と言う形で続いて行くんだと思います。
仲良し兄弟。

[絆]はじめてのじゅんび 2

  • 2014/03/14 21:13
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スコールのチョコレートが全て溶け終わり、それから程無くして、ティーダのチョコレートも溶け切った。
ゴムベラで掬うと、とろーん、と真っ直ぐボウルに落ちて行くチョコレートを見詰める子供達を横目に、イデアは買い揃えて置いたチョコレート用の小さなカップを用意する。


「スコール、ティーダ、チョコレートを持ってこっちにいらっしゃい。落とさないようにね」
「はい」
「はーい」


二人はボウルを鍋から上げて、調理台の反対側に立っていたイデアの下へ。
スコールが布巾で濡れたボウルの底を拭くと、ティーダも同じく綺麗に拭いて、台に置く。

イデアは、二人にスプーンを差し出して、


「溶けたチョコレートを、このカップに移します」
「はぁい」
「少しずつね。冷めたらチョコレートは固まってしまうけど、また温めれば溶けるから、焦らなくて大丈夫よ」
「よーしっ」


イデアが一つ、二つとチョコレートを移して見せると、子供達はそれを真似て作業を続ける。

イデアが用意したチョコカップは、一口サイズの小さなもの。
細かい作業が苦手な所為か、ティーダは度々チョコレートを零したり溢れさせていたが、根気強くボウルの中身がなくなるまで作業を続けた。
スコールの方は慎重すぎる程で、あまりにゆっくり作業をするので、途中でチョコレートが固まってしまった。
どうしよう、と困った顔をするスコールを宥め、イデアはチョコレートをもう一度温めて溶かし、またスコールに委ねる。

20枚用意していたチョコカップは、全部で15枚を使った所で、溶かしたチョコレートはなくなった。
チョコレートは、始めに移したものは固まり始めているが、最後に移したものはまだ温かく溶けたままだ。
イデアはチョコカップをバットに移し並べ、冷蔵庫へと運んだ。
子供達がついて来る気配を感じつつ、バットを冷蔵庫の中に納め、蓋を締める。


「これで冷えて固まったら、完成よ」
「おいしく出来る?」
「ちゃんと固まる?」
「ええ、大丈夫。後で一つずつ、味見してみましょうね」
「はーい!」


チョコレートが固まったら、ラッピング袋に入れて、プレゼント用に整えるのだ。
その前にイデア達は、菓子作りに使った調理器具を綺麗に洗い、チョコレートが冷えて固まるまで小休止する事にする。

温かなホットミルクティーを飲みながら、スコールとティーダはちらちらと冷蔵庫を見遣る。
冷蔵庫の中なら、チョコレートは程無く固まってくれるだろう。
よく菓子を作っているイデアは、それを知っていたが、もう少し子供達との時間を楽しみたくて、淹れた紅茶を飲み終わるまでは、二人には辛抱して貰おう。

ミルクティーを飲んでいたスコールが、くんくん、と自分の手に鼻を近付ける。


「僕の手、チョコのにおいする」
「オレの手もするよ、チョコのにおい」


甘い匂いのついた自分の手を、スコールとティーダはくんくんと嗅いでいる。


「なんかおいしそう」
「スコールの手、どんな味するの?」
「僕、食べ物じゃないよ」
「判んないぞ。今だったら食べれるかも!」
「やぁー!」


食べちゃダメ、とスコールが逃げ出し、ティーダが追い駆ける。
二人は大きな調理台の並ぶ教室の中で、あっちへこっちへ動き回り、スコールは机の陰に身を隠して縮こまり、ティーダは彼に見えないように机を大回りしながら、足音を忍ばせてスコールを追い詰める。

イデアは、元気の良い子供達を眺めながら、三日前の事を思い出していた。
スコールとティーダは、木曜日の昼休憩の時間に学園長室を訪ね、イデアに「お菓子の作り方を教えて!」と言った。
なんでも、先月のバレンタインデーの時、兄と姉が作ってくれたチョコレートケーキのお返しがしたいのだと言う。
もう直ぐホワイトデーなので、その日に合せて渡せるように、先に作って起きたかったらしい。
しかし、まだまだ自分達だけでお菓子作りなど出来ないし、かと言って内緒でお返しを準備したい彼等は、兄姉を頼るのも嫌がった。
内緒で作るとなると、家でお菓子作りをする事も難しい。
其処で二人は、いつも兄や姉と同じく、いつも美味しいお菓子を作ってくれるイデアの事を思い出し、頼りに来たのである。

彼等が自分を頼ってくれた事、思い出してくれた事を、イデアは嬉しく思っていた。
それと同時に、いつまでも幼く思えていた小さな子供達が、誰かの為に何かをしたい、と思う程に成長していてくれた事が、とても嬉しかった。

イデアは空になったティーカップをソーサーに戻すと、腰を上げた。
冷蔵庫に向かうイデアを、追い駆けっこをしていたスコールとティーダも気付き、後を追う。


「できた?」
「もうできた?」


わくわくとした声で訊ねて来る子供達に笑い掛け、イデアは冷蔵庫を開ける。
チョコレートの匂いがふわりと漂うのを感じながら、バットを取り出せば、綺麗に艶を浮かべたチョコレートカップが出てきた。


「さあ、出来ましたよ。皆で味見をしてみましょう」
「オレ、これにする」
「僕、こっち」


スコールとティーダが選び、チョコレートを包んでいるカップを剥ぐ。
イデアも一つ選んで、スコール達と一緒に、一口サイズのチョコレートを口の中に入れた。

ころん、と口の中で転がせば、とろりと溶ける甘い甘いチョコレート。


「あまーい!」
「おいひぃ」


上手に出来た事が嬉しいのか、味見でも甘いお菓子にありつたのが嬉しいのか。
恐らくその両方だろう、スコールとティーダは嬉しそうに口の中でチョコレートを転がす。

他人からしてみれば、市販のチョコレートを溶かして固め直しただけの、普通のチョコレートだ。
しかし、小さな子供達が、初めて自分達で大好きな人達の為に頑張って作ったお菓子である。
子供達にとっても、彼等の母親であるイデアにとっても、このチョコレートは特別なものだった。


「うん、美味しく出来たわね。じゃあ、これを綺麗に包みましょう」


イデアに褒められ、スコールとティーダは照れるように頬を赤らめながら、調理台へ戻る。
用意して置いたラッピング用の袋を広げ、スコールとティーダの手で、チョコレートはプレゼント用に包装されて行く。


「出来上がったら、渡す日まで、私が預かっておくわね」
「うん」
「レオンとエル姉にバレない所にちゃんと隠してよ」
「ええ、勿論。びっくりさせるんですものね」
「うん!」
「じゃあ、私とシドの部屋に隠しておくから、渡す時には取りにいらっしゃい」
「シド先生とママ先生のお部屋?」


確かめるスコールの言葉に、イデアは頷く。
判った、とスコールとティーダも頷いて、包装の手を再開させる。

味見で3個食べたので、残っていたチョコレートは12個。
スコールとティーダは、一つの袋につき、3個ずつチョコレートを入れていた。
そうして出来上がるプレゼントは、全部で4つ────兄と姉にそれぞれ一つずつあげるのだろうな、とイデアは思っていた。

が、全てのプレゼントを作り終えると、スコールとティーダはそれぞれ一つを持って、イデアに差し出す。


「ママ先生。これ、ママ先生のぶん」
「え?」
「作るの、手伝ってくれたお礼!」


目を丸くしたイデアに、スコールとティーダはきらきらと眩しい笑顔を浮かべて見せる。

思いも寄らなかった子供達の言葉に、イデアはしばし呆然としていたが、やがて口元が笑みに緩む。
伸ばした手は、差し出されたプレゼントを素通りして、その両手で子供達を抱き締めた。
子供達は少しの間きょとんとしていたが、頭を撫でる母の温もりを感じて、笑い合う。



ありがとう、と笑って受け取ったチョコレート。

嬉しそうに笑う愛しい子供達を見て、彼等の母親になれて良かったと、イデアは思った。





いつだってその成長を見守っているつもりだけれど、いつの間にか育っている事もある。
その育っている部分に気付いた時の喜びと言ったら。

お兄ちゃんとお姉ちゃんには、珍しく二人で「遊びに行ってくる!」って言って、内緒でガーデンに来たそうです。
で、この時のお返しに、ママ先生はケーキを作って、チョコを取りに来た二人にお返ししたのです。

[絆]はじめてのじゅんび 1

  • 2014/03/14 21:07
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とある日曜日の午後───バラムガーデンの家庭科用の調理室にて、イデア・クレイマーはとある子供達の到着を待っていた。

班グループになって、複数人数での調理実習が行えるように、調理室には10人程度で囲める大きさの、コンロやシンク付の調理台が並べられている。
イデアはその一角を借り、机の上にボウルやゴムベラ、鍋を揃え、その横にギフト用に使われるラッピングセットが置いてある。
そして教室の隅の冷蔵庫の中には、授業で使用される各種調味料の他、家庭科部が部費で買った食材が収められているのだが、今日は其処にイデアが用意した食材も入っている。

イデアは普段、バラムガーデンの三階フロアにある学園長室で過ごしており、子供達の為に用意する手作り菓子の材料や調理器具の類も、其方に揃えられている。
水回りやコンロも全て整っているので、イデアがプライベートで行う料理の為に、ガーデンの施設を借りる事は先ずない。
が、今日はいつもと少々事情が異なる為、此処を借りる事にしたのだ。
色々と汚しては面倒なものが誂られている学園長室と違い、此処なら掃除も簡単だし、作業スペースも広いので、複数人が余裕を持って作業する事が出来るだろう。

これで準備は万端、後は約束した時間が来るのを待つのみ────だったのだが、その時間よりも随分と早いタイミングで、件の子供達はイデアの下へ現れた。


「ママ先生、こんにちは!」
「こんにちはー!」


挨拶は人と人とを繋ぐ基本、決して欠かさない事。
育ての母の躾をしっかり守って、子供達───スコールとティーダは、扉を開けると同時に、元気の良い声で挨拶をした。

ふんわりとした濃茶色と、太陽を思わせる眩い蜜色に目を細め、イデアも挨拶を返す。


「こんにちは、スコール、ティーダ」
「ママ先生!」
「せんせー!」


膝を折って目線の高さを合わせるイデアに、スコールとティーダが駆け寄る。
ぎゅうっと抱き着いて来た二人を受け止め、イデアは愛しい子供達の頭を撫でた。

じゃれる子供達を一頻りあやして、イデアは子供達から手を離す。


「さあ、始めましょうか」
「はい!」
「うん!」


イデアの言葉に、スコールとティーダは力強く頷いた。

スコールとティーダは、背負っていた鞄を下ろすと、エプロンを取り出して身に付けた。
背中の紐はまだ自分で上手く結べないようで、それぞれ交代で結んでいる。
イデアもいつも使っている黒のエプロンを身に着けて、教室隅の冷蔵庫へ向かった。

イデアが冷蔵庫から取り出したのは、まだ封を切っていない四枚の板チョコ。
何処ででも売っている、ガーデンの購買にも置かれている普通のチョコレートである。


「スコールとティーダは、お料理の授業はした事があるのかしら」
「やった!」
「カレー、作ったんだよ」


二人の言葉に、そう、とイデアは笑みを浮かべる。


「じゃあ、包丁も使った事があるわね」
「うん」
「人参とじゃがいも、切ったんだ」
「上手に切れた?」


イデアの質問に、スコールとティーダは揃って頷いた。

それなら、料理中にやっては行けない事や、火を使っている時の注意点も聞いているだろう。
料理中の兄や姉にじゃれ付くのもいけないと覚えているし、近頃は兄や姉の料理の手伝いを申し出る事もあると言う。
とは言え、何かと過保護な長兄の事、あまり危ない事や、慣れない事はさせていないのは想像に難くない。

イデアは板チョコをまな板の上に置いて、自分を挟んでまな板を覗き込んでいる子供達を見た。


「先ずは、チョコレートを細かく砕きましょう」
「砕くの?バラバラにする?」
「ええ」
「はーい」


チョコレートの封を切った二人は、イデアの手元を見ながら、作業を真似する。

板チョコは3×5のマスのブロックになっているので、継ぎ目で力を入れれば簡単に割れた。
そのまま手でぽきり、ぽきりとブロックを割って行く。
本当は細かく刻んだ方が溶けるのも早く、ダマになる事もないのだが、固いチョコレートを包丁で切るのは骨であるし、子供達に任せるには、まだまだ危なっかしい気がした。
手で砕くだけでもチョコレートはそれなりに細かく出来るし、ゆっくりじっくりと溶かせば、失敗する事もないだろう。

出来るだけ細かくしようと思ってか、スコールとティーダは一所懸命、指先に力を入れてチョコレートを砕いている。
そろそろ手作業では無理だろうと言う大きさになっても、うんうん頑張る二人を見て、イデアはくすりと笑った。


「もう良いですよ、二人とも。さ、チョコをこのボウルに入れて」
「はーい」
「溶けたチョコ、手についちゃった」


二つ並んだボウルをそれぞれ一つずつ使い、チョコレートを移して行く。
その途中で、ティーダが指先についたチョコをぺろりと舐める。
お行儀が悪いですよ、とイデアが言葉だけで叱ってやると、ティーダは舐めた手を背中に隠して、エプロンでごしごしと拭いた。

イデアは鍋に水を入れ、コンロに置いて、火をつける。


「こうやって、お水を沸かせて……」
「チョコ、どうするの?」
「入れるの?」
「お湯の中に入れちゃうと、固まらなくなってしまうのよ」


じゃあどうするの?と揃って訊ねる子供達。
イデアは、湯が沸騰した所でコンロの火を止め、チョコレートを入れたボウルを手に取って、鍋の上にそれを置く。
ボウルの大きさは鍋の大きさとぴったりで、鍋はボウルで蓋をする形になった。


「こうすれば、チョコレートに直接お湯を入れないで、溶かす事が出来るの」
「なんか、レオンとエル姉がやってるの、見た事ある気がする」


ティーダの言葉に、スコールが僕も見た、と頷く。
レオンとエルオーネは、弟達に菓子を手作りしているので、スコール達がその作業工程を見た事もあるだろう。

ボウルが温まり、熱を伝えて、チョコレートを溶かして行く。
イデアはゴムベラでゆっくりとチョコレートを掻き混ぜ、万遍なく溶けるように促す。
バラバラだった小さなチョコレートの塊が、とろりとした液状になって行くのを見ながら、イデアはスコールにゴムベラを持つように促した。


「さあ、スコール。やってご覧なさい。ボウルとお鍋は熱くなっていますから、火傷しないようにミトンを付けて」
「はい、ママ先生」


イデアに言われ、スコールは調理台の横に吊るされていた調理用ミトンを手に取る。
まだ幼いスコールには大きなミトンで、両手に着けるとゴムベラが持てなくなってしまうので、ボウルを支える左手だけに着用する事にした。

スコールはミトンのつけた左手でボウルを持ち、ゴムベラでぐるぐるとチョコレートを混ぜる。
バラバラだったチョコレートは、溶けた分を接着剤にしてくっつきあい、凸凹の塊になって行く。
それがまた溶けて行き、とろりとして行くのを、スコールは楽しそうに見詰めながらゴムベラを動かしていた。
そんなスコールの傍らで、やる事がないティーダが羨ましそうに見詰めている。

イデアはもう一つ鍋を出して、水を入れる。


「ティーダ、こっちはあなたの分よ」
「!」


イデアの声を聞いて、ティーダがぱっと破顔した。

調理台には、一つにつき二つのコンロが設置されているので、スコールとティーダが同時進行で作業する事が出来る。
イデアは先と同じように、沸騰した湯の上にボウルを被せ、新しいゴムベラでゆっくりと混ぜて行く。
一番下のチョコレートが溶け始めたのを確かめて、イデアはゴムベラをティーダに譲った。




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