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2017年09月

[クジャスコ]オペラカーテンの裏側で

  • 2017/09/08 21:48
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クジャ×スコールです。
アルティミシア×スコールの気配とR15程度の雰囲気あり。




哀れな子供が、魔女に捕まった。
虚ろな瞳で魔女に付き従うように現れた少年を見て、クジャはそう思った。

戦闘中に頭部に衝撃でも受けたか、或いは魔女が意図的に干渉したか、クジャには定かではなかったが、恐らくはそう言う切っ掛けなのだろう。
アルティミシアに連れられ、混沌の戦士達が集うカオス神殿に現れたスコールは、まるで人形のように意志薄弱としていた。
疑り深い皇帝は勿論、裏切りを警戒するエクスデス、単純にカオスの戦士としての矜持から気を許す事をしないガーランドにより、あれこれと詰問を投げられたスコールであったが、その質問の殆どに彼は答えなかった───答えられなかった。
この世界が神々の闘争によって作られている事も、己を保護したと言う魔女が自分の宿敵である事も、自分が秩序の駒であり此処にいるのは全て敵であると言う事も、彼は判っていなかったのだ。
更には、元々朧であった元の世界の記憶や、元の世界に帰ると言う闘争に参戦する目的も忘れており、まるで真っ新な赤子のように、その心はこれまでの出来事の一切を覚えていなかったのである。

スコールの状態は、魔女には実に好都合であった。
彼女は呆然としているスコールを見付けると、甘言を囁いて、自分の騎士として従えた。
疑う材料がない所為で、スコールはそれが自分の役割だと受け入れ、魔女の尖兵として共に戦場に立っている。
仲間である筈の秩序の戦士達に対し、そうとは思っていないスコールは、容赦がなかった。
戸惑う彼等の、目を覚ませ、と言う言葉さえ、今のスコールにとっては、それこそが自分を惑わそうとする言葉として聞こえているに違いない。
そして戦線から戻ると、魔女は少年を自分の城へと閉じ込め、他の混沌の戦士達とさえ逢わせまいとする。
まるで玩具を取られる事を恐れる子供のようだ、とクジャは思った。

そうまで必死に抱え込もうとする彼女の様子を見ていると、俄かに悪戯心が沸いて来る。
常に生意気な顔をしていた少年が、親を求める子供のように魔女の後をついて行くのも、クジャの歪んだ興味を刺激するには十分であった。

魔女は牙城を宿した歪の一つを己のテリトリーとしている。
其処でスコールは日々の生活を送っているのだが、その様子は宛ら御伽話の深窓淑女である。
そんなか弱く可愛らしいものではない事は重々承知の事だが、魔女がまるでそのように少年を閉じ込めているのだから仕方がない。
ご丁寧に魔力の結界まで作り、他者が干渉できないようにする事は勿論、スコールが自分の意志で歪を出られないようにと言う徹底ぶりだ。
スコール自身の持つ魔力と言うのは、彼の世界が魔力そのものが潰えている環境もあってか、然程大きなものを操る事は出来ない。
この為スコールは魔女の城へと入ると、自分の意志で外に出る事は出来なかった。

しかし、魔力で作った結界ならば、魔力を扱える物であればある程度の加工は施せる。
クジャが持ち得る魔力も十分にそれを可能としており、結界に小さな穴を開ける事は───簡単とは言わないまでも───難しい事ではなかった。
その穴から侵入し、奇妙な形状をする城内を歩き回っていると、程無く、秩序の気配を掴む事が出来た。
感覚を頼りに城を進むと、画廊へと辿り着いた。


(……絵の趣味は悪くはない、かな?)


画廊に並ぶ絵画は、殆どが風景がで、一部が宗教画になっている。
アルティミシアの美的感覚などクジャにはどうでも良かったが、室内の装飾品、調度品も含めて、センスは悪くない、と思った。

一階と二階に分かれた部屋で、クジャが入って来たのは二階からだ。
周り廊下になっている通路の端から、吹き抜けになっている階下を覗くと、一つ大きな絵画の傍で、ソファに寝転んでいる少年がいる。
階段まで回り込むのが面倒で、クジャは吹き抜けを飛び降りた。
ふわりと足音なく着地して、ゆっくりとソファへと近付いて行く。

カツ、カツン、とヒールの音が響いても、ソファに横たわる人物は動かない。
近付いてみると、少年は酷い格好だった。
ジャケットを肌蹴させ、シャツの裾が捲れ、中心部の守りも緩み、まるで情事の後のような寝乱れた格好で、虚ろな瞳を宙に彷徨わせているのだ。


「君、起きてるかい?」
「………」


1メートルの距離の所で立ち止まり、声をかけてみると、ゆっくりと蒼灰色がクジャを映した。
一応、意識はあるらしい。


「酷い格好だねえ。それはあのおばさんにやられたの?」
「………」
「だとしたら、放置とはまた趣味が悪いね」


スコールはぼんやりとした瞳でクジャを見詰めたまま、答えない。
意識はあるが、それが現実を認識しているのかは微妙だな、と言う印象だ。

ソファまで近付いて、クジャはスコールに顔を寄せた。
クジャが覚えている限り、スコールは他者の接近と言うものを、敵味方問わずに嫌っていた節があった。
しかし、目の前にいる少年は、吐息が触れそうな程に近いクジャの顔を押し退けようともせず、逃げようともしない。

クジャはソファの肘掛に腰を下ろして、横たわっているスコールの顔に手を添えた。
触れる男の顔を、ブルーグレイの瞳がゆっくりと辿る。
薄く開いた無防備な唇に指を滑らせると、「……あ……」と艶の籠った吐息が零れた。


「君はいつも此処でこうしてるのかい?」
「………」
「あの魔女に囲われて。閉じ込められて。お人形みたいに連れ回されて」
「………」
「それで楽しい?」


スコールの頬にかかる横髪を、クジャの指がそっと払う。
露わになった白い頬は、ぼんやりとした表情も相俟って、病的にも見えた。

スコールがゆっくりと体を起こす。
その動きは酷く緩慢で、手足と首に重り付きの枷でも嵌められているようだった。
これで戦闘となると、途端にスイッチが切り替わったように俊敏に動くのだから、不思議なものだ。

スコールは背中を丸めて座った状態で、亡羊と宙を見詰めていた。
反応が薄くて詰まらないな────とクジャが思っていると、


「……俺は……」


ぽつりと零れた声に、クジャは視線だけを向ける。
はあ、と熱を孕んだ呼吸をしながら、スコールは息苦しそうに胸元を握り締めている。


「俺は……魔女の、騎士…で……」
「そうらしいね」
「……魔女は…騎士が、いないと……悪しき魔女に…なる……」
「君の世界ではそう言う御伽噺があるんだっけ?」


スコールとアルティミシアの世界では、その逸話が様々な形で伝承に残っているらしい。
それは悲劇的に愛を囁くものもあれば、恐慌的に破滅を齎すものもあるそうだ。
凝った設定の物語だね、とクジャが呟くと、


「……御伽噺じゃ、ない……」
「ふぅん?」
「……悪い魔女、は…いる。良い魔女も……いる」
「へえ。悪い魔女には騎士がなく、良い魔女の傍には騎士がいる?」
「……そうだ」


クジャの要約に、スコールは小さく頷いた。
それを見たクジャの唇に、うっそりと笑みが浮かぶ。


「じゃあ、あのおばさんは、どっちだい?」
「……?」


振り掛けられた問に、スコールはことんと首を傾げてクジャを見る。
質問の意図が判らない、と瞳で問い返すスコールに、クジャはぼんやりとした貌を至近距離から覗き込み、


「アルティミシアだよ。あの人は良い魔女?悪い魔女?」
「……な、に……?」
「君が魔女の騎士で、そのつもりであのおばさんの傍にいるのなら、良い魔女って事になるのかな?」
「………?」
「だけど僕は、あのおばさんの騎士なんて見た事がないんだよ」
「それは…俺、が……あ……?」


クジャの指摘に、俺が魔女の騎士で、と反論しようとして、スコールは詰まった。
靄がかかったように亡羊としていた蒼灰色の瞳に、急激に理性の光が戻って来る。
しかしその焦点は合わないまま、整合性の取れない記憶と感覚に混乱を起こしていた。


「俺…は……魔女の騎士で……だから……」
「魔女の騎士、魔女の騎士。そう、君は魔女の騎士。それはきっと正しいんだろうね」


君がすんなりと受け入れているのだから、とクジャは言った。


「それで、“君の魔女”はあの女で正しいの?」
「……っ……?……」


冷たい冬の空色を宿した瞳に問われ、スコールは息を詰めた。
正しい、と言おうとして、何かがそれを押し留めている。
何かはスコールの中にあるものだったが、それは酷く虚ろな形をしていて、正常な形を留めていない。
それでも、認めてはならない、と言う声だけは大きくて、スコールは声の出ない喉に両手を当てて、は、は、と喘鳴の混じった呼吸を繰り返すしか出来なかった。

最初は微かな違和感だったのだろう、しかしそれは呼び水となって、あっという間に広がった。
スコールはがちがちと奥歯を慣らして震え、身を守るように両腕で体を掻き抱いている。
信じているものが形を変える時、怯える者は少なくない。
スコールは正しくそれで、自分の芯となるものが失われる瞬間に対し、強い恐怖を抱いていた。
その姿は見る者の憐れを誘い、助けを求める子供に似て、成程こうして怯えさせては宥めて手懐けているのか、と“悪い魔女”がひっそりと笑むのをクジャは見た。


「可哀想にねえ」


きっと初めはちょっとした手違い、事故だったに違いない。
記憶が飛んで、それを好機と魔女が連れ去り、あちら側に同様を、此方側に戦力を齎した。
そんな事の為に、少年は都合よく記憶を改竄され、魔女の城に閉じ込めらている。
若しくは、魔女が始めから仕組んでいたか、だとしたら尚更魔女の性質の悪さが伺える────そんな魔女にこれ程までに執着された少年を、哀れに思う程に。

呼吸の仕方も忘れたか、恐慌状態で震えているスコールを、クジャは抱き寄せた。
抵抗もなくスコールの躯はクジャへと寄せられ、クジャは苦しそうに赤らんでいるスコールの頬を撫でる。
あやすように撫でる手を感じる内に、スコールの呼吸は徐々に落ち着きを見せて行く。


「君、いつもこうされてるの?」
「……あ……?」
「こうやって、撫でて。触って」
「……あ…っ……!」


クジャの手がスコールの肌を滑り、首筋を伝い降りて、鎖骨をくすぐる。
ピクッ、ピクッ、とスコールの躯が震えるのが伝わった。

クジャの脳裏に、この部屋でスコールを見付けた時の、彼の格好が浮かぶ。
試しにシャツの下に手を入れてみると、スコールからの抵抗はなく、何処かうっとりとした表情が天井を仰いだ。


「本当に、趣味が悪いね」
「あ…う……」
「……気に入らないな」


呟くクジャの言葉は、何に対してなのか。
玩具を独占する魔女に対してでもあったし、それに篭絡されていく少年が碌に抵抗らしい抵抗をしない事も、些か詰まらなくて癪に障る。
何より詰まらないのは、魔女の思い通りに進もうとしている、陳腐な台本だ。
このまま台本が進めば、スコールはアルティミシアの物になり、彼女の命令に従う綺麗な人形になるだろう。
その前に秩序の戦士達が殴り込んでくる事も考えられるが、今の所その気配はない。

クジャはスコールの顎に手を添えて、上向かせると、唇を重ねた。
始めはそれを大人しく受けていたスコールだったが、はっと我に返ったように目を瞠ると、ようやく抵抗しようと身を捩る。
しかし、クジャの手が薄い胸板を撫でると、鼻にかかった吐息を零して、力を失う。

ゆっくりと唇を解放すると、スコールはくったりとソファに沈んだ。


「は……あ…?な、に……?」


いつも夢現の中にいた瞳に、はっきりとした光が宿っている。
それは意思と呼ぶ程強くはなかったが、理性が戻って来た事だけは確かだった。

蒼の瞳が彷徨い、辺りを見回す。
スコールは、今初めて、自分がいる場所を悟ったようだった。
その瞳は最後に、自分を抱く男───クジャへと向けられる。


「……あんた、…は……」


何をしているんだ、とでも問おうとしたのだろう。
しかしクジャはそれを最後まで聞かず、もう一度唇を重ねて、無防備な舌を絡め取った。



台本が書き換えられたと知った時、魔女がどんな反応をするのか、クジャは深く考えていない。
それよりも、捕えた仔猫が身を守ろうと精一杯縮こまろうとしている姿が、欲をそそる。

震える体が感じているのは、恐怖か、更なる混乱か。
或いは、新たな夢の入り口で、背を押されるのを待っているのかも知れない。





9月8日なのでクジャスコを!

アルティミシアに捕まって意識改変気味のスコールを、クジャが奪う図が浮かんだので書いてみた。
そこはかとなくR指定の匂いがする。

[ジタスコ]テール・セラピー

  • 2017/09/08 21:24
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ジタンの尻尾は、非常に感情豊かである。
彼自身も余り感情を隠すタイプではないのだが、尻尾はそれ以上に正直であった。
彼が弁舌を振るって言葉を飾っても、それが本音か、或いは飾り言葉か───決してそれは虚偽と同義ではないが───は、尻尾を見れば判る。
嬉しそうな時は左右に振られ、警戒している時はピンと立ち、苛々としている時は床を叩く。
まるで猫の尻尾みたいだと言ったのはバッツだったか、ティーダだったか。
強ち遠くはない、と思ったのを、スコールは覚えている。

そんな尻尾は、非常に敏感に出来ており、繊細だ。
戦闘中に尻尾を使って体勢を変えたり、木枝に捕まったりと、大胆な動きが出来るのは、決して感覚神経が鈍いからではなく、逆に鋭敏であるからこそ出来る芸当と言えよう。
それだけに、ジタンは自分の尻尾を他人に触れられる事を嫌う。
曰く、触られると妙にムズムズするようで、その感覚はまだ良い方らしく、握られた時には非常に痛い事も多いそうだ。
仲間達の内に彼の尻尾を苛めるような人間はいないが、悪意なく、悪気なく、思わず掴んでしまうと言う事は儘ある話で、その時は流石の彼も恨めしく睨む。
ごめん、と謝れば、気を付けてくれよ、の一言で許してくれる辺りは、彼の大らかさの表れであった。

そんな尻尾を、ジタンは時々、毛繕いしている。
犬猫のような換毛期があるのかスコールは知らないが、時々抜け毛が散らばっている事があるので、生え変わる事は確かなようだ。
風呂に入った後等は判り易く、乾かした後に膨らんだ尻尾の所々に、もふっと一際大きくなった毛玉が見える事がある。
その時の尻尾の不格好さがジタンは気に入らないようで、定期的にブラシで毛並みを整えているのだと言う。

今日もジタンは、風呂上りのリビングで、尻尾の手入れをしていた。
それを遅れて風呂から上がったスコールが見付ける。


「……いつも面倒そうだな」


濡れた髪をタオルで拭きながら、スコールはソファに座って尻尾にブラシを梳いているジタンを見て言った。
ジタンは毛の多い柔らかなブラシを動かしながら、「んー?」と反応を寄越し、


「面倒っちゃ面倒だけど、もう日課みたいなもんだからなあ」
「……」
「お前が毎朝、髪のセットしてるのと同じようなもんだと思うぜ」


ジタンの例えに、それならば苦と思う感覚も通り過ぎたか、とスコールは思う。

スコールの髪は、柔らかな毛質をしている所為か、癖がつき易い。
野営をしている時には殆ど寝返りを打たないので、少しの寝癖が着く程度で済むのだが、秩序の聖域で寝ている時は酷いものだ。
それ程ゴロゴロと寝返りを打つタイプではない───と当人は思っている───筈だが、目覚めてみると酷い有様になっている事は少なくなかった。
それを放って置くなどスコールに出来る筈もなく、毎朝洗面所で寝癖を戻した後、整髪剤をつけて髪型を整えている。
フリオニール等はその様子を不思議そうに見ていて、毎日面倒じゃないか、と言って来た事もあった。
確かに面倒と言えば面倒で、やらなくて良いならそれが一番楽なのだが、そう言う訳にも行かないのだから仕方がない。
酷い髪型で一日を過ごしてしまう位なら、朝の数十分をヘアセットに使う方が良い、とスコールは思う。
ジタンの尻尾の手入れも、スコールにとってのヘアセットと同じだ。
外で雨に降られた時は仕方のない事として諦めるが、ブラシや落ち着ける空間等、整えられる環境があるのなら、毎日少しずつ整えている方が楽だろう。

黙々と尻尾を磨くジタンを見詰めながら、スコールは向かいのソファに座った。
タオルで余分な水分を吸い取って、少し軽くなった髪を手櫛で梳く。
細い毛は指の隙間をするすると抜けて行き、乱れていた流れはすっきりと落ち着いた。
そんなスコールの前で、ジタンは抜け毛の絡まったブラシを睨み、


「今日はよく抜けるな……」
「……生え変わりでもあるのか」
「なくはないかな。普通なら夏とか冬とかにちょっと多く抜けたりするんだけど、此処じゃ季節も判んないから、日によってまちまちでさ」


ブラシに絡まった抜け毛をちまちまと取り除きながら、ジタンは言う。
スコールはそれを聞きながら、やっぱり動物の尻尾みたいだな、と思った。

抜け毛をゴミ箱に捨てて、ジタンはもう一度尻尾にブラシを当てる。
何度か毛並みにそって動かした後、ブラシをくるりと裏返して、ジタンは溜息を吐いた。


「あ~、もうキリがねえや。今日はこの辺にしとこ」


誰に強要された訳でもなく続けている作業であるが、それでもやはり飽きは来る。
ジタンは溜息を吐いて、ブラシをテーブルに置いた。
尻尾は所々に毛溜まりが覗いていたが、ジタンはそれを見るのも飽きたとばかりに、ばたっとソファに寝転んだ。

俯せになったジタンの尻尾が、ゆらゆらと宙を彷徨っている。
スコールはそれを暫く見詰めた後、電気の明かりでひらひらと仄かに光る毛並みに、むずむずとした衝動に見舞われ、


「……ジタン」
「んー?」
「…俺がやっても良いか」
「ん?…尻尾?」


スコールの申し出に、ジタンは顔だけを起こして問い返す。
無言で頷くスコールを見て、ジタンは少しの間、考えるように黙っていたが、


「ま、いっか。スコールなら引っ張られる心配もないもんな」


ジタンの言葉に、誰かに引っ張られたのか、バッツ辺りか、とスコールは想像を巡らせる。
その時、何かが頭の奥に引っ掛かったような気がしたが、明確な形にはならないままで、直ぐに靄に消えた。

ブラシを手にソファを移動すると、ジタンが体を起こして場所を開ける。
隣に座ると、早速尻尾が差し出された。
スコールは手袋を外し、悪戯な刺激を与えないように、力を加減して尻尾を握る。
ちら、とスコールがジタンを見遣ると、彼はいつもと同じ、何処かわくわくとした表情で此方を見ていたので、どうやら痛みはないようだと力加減を記憶して、握った尻尾を引き寄せた。

毛の多いブラシをそっと宛がい、毛並みにそって動かす。
シャッ、シャッ、と二度梳くと、ブラシに金色の毛が絡まって抜けた。


「結構直ぐに抜けるんだな」
「まーな。抜けるとこが抜ければ、そうでもなくなるんだけど」
「……そうか」


スコールは、綺麗に流れる筈の毛並みの中で、ぴょこりと顔を出している抜け毛のある場所を梳いた。
毛並みの中で少々絡まっているのか、直ぐには取れなかったが、何度か梳いていると取れる。

ジタンの尻尾で特に敏感なのは、根本と先端だった。
先端の方はジタンが自分で手入れをしたので、すっきりと整えられていたが、やはり根本は自分で見え難い分、やり辛いのだろう。
毛玉が目立つのを見付けて、スコールは力加減をより慎重に気遣いつつ、ブラシを当てた。
あまりブラシを押し付けないように心がけて、シャッシャッと撫でる。

しばらくブラシを動かしていると、段々と抜け毛の量が減っていく。
ブラシに絡まった毛を捨てて、もう一回、二回と梳いてみるが、もうあまり絡まって来る毛はない。
緩く握っていた手で、ゆっくりと毛並みを撫でてみると、すっきりと柔らかい毛並みの触り心地が伝わる。


「…こんなものか?」
「お。良い感じじゃん、サンキューな」


ジタンは体を捻って自分の背中で揺れる尻尾を見て言った。
上機嫌に尻尾がゆらゆらと動くのを見て、スコールも満足する。

日々の手入れが大事なのは道具も同じ、とスコールはブラシに絡まった毛を几帳面に取り除いていると、するり、と何かがスコールの腕に絡まる。
緩い力でスコールの二の腕で遊んでいたのは、ジタンの尻尾だ。


「……なんだ?」
「お礼だよ」
「……?」
「結構丁寧にしてくれたし、気持ち良かったから」


するする、するる、と尻尾が動く。
その度、整えたばかりの柔らかな毛並みが、スコールの腕をくすぐった。

むずむずとした衝動が、またスコールの中に生まれる。
素手をそろそろと伸ばして、尻尾に触ると、ふわふわとした感触が手のひらに返って来た。

ジタンの尻尾は、一部の仲間達にとって、癒しアイテムの一つだ。
特にふかふかとしたものが好きなティナは一等気に入っており、時々「触っても良い?」とジタンにおねだりしていた。
ティナの頼みならばジタンが断る筈もなく、幾らでも、と快く尻尾を差し出しているのをよく見る。
他にも、ティーダやクラウドと言った面々が密かに気に入っており、時々「触らせて欲しい」と頼んでいた。
此方はジタンのその時の気分や流れで、応えたり断ったりとまちまちである。
それ程、ジタンにとって、敏感な尻尾を触られると言うのは、安易に許容し難い事なのだ。
それを知っているから、スコールも時々触ってみたい衝動に駆られつつも、嫌だと知っている事を求める気にはなれず、密かに我慢していた。

毛並みに添って尻尾を撫でるスコールの手は、不器用ながら優しい。
先端をふにふにと握られて、少しジタンはむず痒いものを感じたが、好きにさせた。
腕に絡ませていた尻尾を少し解いて、スコールの首元をくすぐると、形の良い手がその尻尾を追う。



首筋を細い毛がするすると撫でて行く感触に、猫をあやしているみたいだな、とスコールは思う。
そうして目を細めては、尻尾の動きを手で負うスコールに、猫がじゃれてるみたいだな、とジタンは思った。





9月8日と言う事でジタスコ。
お互い、仔猫をあやしてる親猫の気分。

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