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2012年10月

日記ページについて

  • 2012/10/31 23:48
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日記を以前までのCGIから、スマホにも対応しているPHP仕様のものへ変えた所、ガラケーの方から「日記が見れなくなった」と連絡を頂きました。
詳しくお聞きした所、

・エントリー(目次)一覧は表示される
・エントリーから本文を見ようとすると、エントリーに戻ってしまい、記事が見れない
・グーグル携帯変換などのツールを使うと見れる

と言う状態になっているようです。


当方の環境ですと、ガラケーは家族が持っているDocomoの一台だけで、其方で確認した時は普通に見る事が出来ました。記事本文もそのまま見れます。また、FireFoxのMobileSimulatorと言うツールを使って、20年間ほどの新旧それぞれの携帯キャリアで動作確認をした所、普通に稼働していました。
ご連絡頂いている症状が此方で確認できず、対処の仕方が判りません……

一時処置として、しばらく旧日記CGIと並行で使用して行こうと思います。
お越し頂いて下さる皆様、ご不便をかけて申し訳ありません。

[絆]カボチャおばけが主役の日

  • 2012/10/31 21:23
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[絆]のスコール・ティーダ幼少期で、ハロウィンネタです。





「とりっく・おあ・とりーと!」


─────そんな元気な声に迎えられて、レオンはぽかんとして立ち尽くした。

成人していないレオンがアルバイトを出来るのは、夜の22時まで。
しかし、22時きっちりまで仕事をする事は殆どなく、21時半には帰りの支度に入る事が多い。
これは小さな妹弟を抱えるレオンの為に、カフェバーのマスターが気を遣ってくれているからだ。
レオンとしてはきちんと決められた時間まで働いて、給金に見合うだけの仕事をしたいのだが、レオンの後見人であるシド・クレイマーと旧知だと言うマスターは、気にしなくて良いと笑顔で言うばかり。
夕方の一番人が多い時間に仕事に入り、真面目に勤しんでくれるだけでも十分だと、マスターは言った。
そして、家で兄の帰りを待つ小さな妹弟を安心させてやる為にも、一刻でも早く帰宅するのが最善であると。

陽も暮れて、夜の町に響く波音を聞きながら歩く、カフェバーから自宅までの距離は、時間にして約15分。
妹弟達は、レオンが下拵えを済ませていた夕飯を食べた後、いつもリビングで兄の帰りを待っている。
とは言え、まだ幼い弟と預かり子は、待ち切れずにソファで眠っている事も少なくない。
何れにしろ、いつまでも子供達を待ち惚けにさせない為にも、レオンは自ずと帰路を急ぐ事となる。

そして、約4時間振りに帰って来ての、この言葉。


「……あ…と……」
「とりっく・おあ・とりーと!」
「と、とりーと!」


玄関ドアを開けた格好のまま、呆然とした表情で立ち尽くすレオンに、もう一度同じ声がかかり、少し遅れてもう一つ。

その声の主は、大きなカボチャ頭とマントを身に付けた生き物と、真っ白な布で全身を覆った生き物だった。
カボチャと布には顔が書いてあり、カボチャの方は凶悪そうながらユニークな、布の方は少し困ったような顔をしている。


「……ティーダ、スコール。何をしているんだ?」
「えっ」
「えっ」


カボチャと布を見下ろして、その中身であろう子供達の名前を呼べば、2人はぴたっと動きを止めた。
それからしばらくフリーズしたあと、もそもそと布がずり落ちて行って、見慣れたダークブラウンの髪が顔を出す。


「なんで判っちゃったの?」
「エル姉ちゃーん。バレたー!」


スコールは不思議そうに兄に訊ね、ティーダは頭に被っていたカボチャを脱ぎながらエルオーネを呼ぶ。

エルオーネはキッチンから顔を出し、水洗いでもしていたのか、濡れた手を拭きながらレオンを迎える。
そのエルオーネは、黒いとんがり帽子を被っており、レオンはまたも目を丸くした。


「お帰りなさい、レオン」
「ただいま」
「お兄ちゃん、おかえりなさい」
「レオンおかえりー」
「ああ、ただいま」


姉に倣ってお迎えの挨拶をする子供達に、レオンも挨拶を返す。
被り物をしていた所為で、ぴんぴんと髪を跳ねさせた弟達の頭を撫でながら、レオンはエルオーネに訊ねた。


「それで、二人は何をしてるんだ?」
「ハロウィーンのコスプレだって」
「……ハロウィーン?」


聞き慣れない単語にレオンが首を傾げると、マント遊びをしていたティーダが「知らないの?」と言った。


「ハロウィーンは、トリック・オア・トリートって言ったら、お菓子貰える日なんだ」
「ザナルカンドではそういう習慣があったんだって」
「ふぅん……バラムじゃ聞かない習慣だな。それで、この格好は?」


レオンは、頭だけを布から出しているスコールを見下ろして聞いた。

スコールが被っていた布は、体をすっぽり覆う程の大きなものを扇状にして円錐形を作り、頂点にフードの要領で顔を取り付けている。
頭は出したスコールだったが、布はまだ被ったままで、てるてる坊主のような井出達になっている。
ティーダのカボチャは、食用とは思えない、オレンジ色をした皮の大きなもので、中身は綺麗に刳り貫かれていた。
マントは黒の無地で、カボチャのオレンジ色がよく映える。

エルオーネは、じゃれついて来るティーダの相手をしながら、レオンの問いに答える。


「ハロウィーンの日は、子供は皆こういう格好をするんだって」
「決まりなのか?」
「そうみたい。で、この格好で色んなお家を回って、お菓子を貰うの」


成程、行事の決まりの仮装と言う事か。
行事の謂れ云々はさて置くとして、取り敢えず、レオンは納得した。

そんなレオンに、ティーダが元気よく言った。


「だからレオン、とりっく・おあ・とりーと!」


トリック・オア・トリート────悪戯かお菓子か。
その意味と、わくわくと、単純にお菓子への期待感だけではなさそうなティーダの表情に、レオンは小さく笑みを浮かべ、


「お菓子をあげなかったら、俺は何をされるんだ?」
「え。レオン、ハロウィーン知ってるの?」
「なんだ、やっぱり何かあるのか」


レオンの言葉が、思いも寄らなかったのだろう。
驚いた表情で言ったティーダに、レオンは「いいや」と答えたものの、なんとなく予想はつくと付け加えた。
知らない筈なのに判った、と言うレオンに、ティーダとスコールがすごーい、と目を輝かせる。

エルオーネはティーダの持っていたカボチャの被り物を取り上げると、窓辺に置かれていた小さな豆電球の上に被せた。
豆電球のスイッチを入れると、カボチャの顔が灯りを零し、それまでの凶悪的な(けれどもユニークで可愛らしい)表情が少し和らいだように見える。


「ティーダが言うにはね。お菓子をくれない人には、イタズラしても良いって決まりがあるんだって」
「随分、物騒な決まりだな」
「だよねえ」


頷き合う二人だが、その表情はクスクスと笑い合っていて楽しそうだ。
そんな二人の腰には、兄の帰宅に嬉しそうに抱き着くスコールと、イタズラの可能性をレオンが知っていた事が残念なのか、少しばかり拗ねた顔をしたティーダがいる。


「ちぇ、レオン知ってたんだ」
「そうなの…かな…?」
「あっ、でも、お菓子なかったらイタズラできるんだ!」
「いたずら…良くないよ、困らせちゃ」
「だって、お菓子ダメだったらイタズラするって決まりだもん」
「でも……」


やっぱり良くないよ、と言うスコールに、ティーダは決まりだからいいの、と言う。
そんなティーダをエルオーネが咎めないので、スコールはもっと困った顔でレオンを見上げる。

レオンは、くしゃくしゃとスコールの頭を撫でてやると、スラックスのポケットに手を入れた。


「ほら、スコール」
「……?」
「ティーダの分も」
「へ?」


呼ばれたスコールの前には、握られたレオンの手があった。
スコールが両手を開いて差し出すと、ころん、と小さなものが転がった。
透明なセロファンに包まれたそれは、綺麗な色をした空色の飴玉。

ぱちりと瞬きをするスコールの隣で、ティーダも同じように手を出して、ころん、と飴玉が転がる。
二人ならんできょとんとした表情で手の中の飴を見つめる子供達に、レオンはく笑みを深め、


「お菓子を上げたから、イタズラはなしだよな」
「…!」
「あ」
「だね、ティーダ」


レオンから渡されたお菓子に、スコールが嬉しそうに目を輝かせた。
ティーダも一度嬉しそうに口元を綻ばせたが、イタズラが出来なくなったと気付いて、残念そうな、でもやっぱりお菓子は嬉しいような、ぐるぐると忙しく表情を変える。
エルオーネはそんなティーダの頭を撫でて、飴玉良かったね、と宥めてやる。

ちなみに、飴の出所はカフェバーのマスターで、良い子で待っているであろう妹弟達へのご褒美、らしい。

レオンは、ポケットにもう一度手を入れた。
取り出したのは、スコールとティーダに渡したものと同じ、空色の飴。


「エルオーネ、お前にも」
「え?私も?そんな、私は」


別に良いのに、と受け取るのを遠慮しようとするエルオーネに、レオンは言った。


「正直、お前のイタズラが一番怖い気がするからな」


兄の言葉に、頬を赤らめて目を逸らすエルオーネに、やっぱりな、とレオンはくくっと笑う。
決まりごととは言え、ティーダにイタズラについて咎めなかった時点で、レオンはエルオーネがこっそりイタズラを仕掛ける気である事を察していた。

スコールが生まれて以来、姉らしく手本になるようにと日々頑張っているエルオーネだが、根っこの部分はそう簡単には変わらない。
彼女は元々、イタズラ好きの子供であったから、こんな絶好の機会に便乗しない訳がないのだ。
生まれ故郷にいた頃に行われた、『Jの悲劇』をレオンは忘れていなかった。

しかし、いつも自分達のイタズラや無茶な遊びを叱ってくれる姉が、そんな子供であった事など、小さな弟達は知る由もなく、赤い顔をしたエルオーネを不思議そうに見上げる。


「お姉ちゃん?」
「エル姉ちゃん、どうしたの?」
「あ…う、ううん。なんでもない。えっと…わ、私も貰っておくね」
「ああ」


覗き込んでくるスコールとティーダに、エルオーネは慌てて平静を取り繕った。
差し出されていた兄の手から飴を受け取って、胸に寄せ、


「それじゃ、レオンは晩ご飯だね」
「悪いな、いつも準備して貰って。ほら、スコールとティーダはもう部屋に」
「あ、待って」


窓辺のテーブルの席に着きながら、そろそろ小さな子供は眠る時間だと弟達を促そうとしたレオンを、エルオーネが遮った。

どうしたのだろうとレオンがエルオーネを見遣ると、彼女はキッチンで何か忙しなくしている。
それに気付いたスコールとティーダが、あっと思い出したように声を上げ、慌ててレオンと一緒にテーブルへついた。


「どうした?」
「あのね。お姉ちゃんがケーキ焼いてくれたの」
「カボチャのケーキ!」


カボチャ、と聞いて、レオンは傍らの窓辺に飾られている、カボチャの被り物を見た。
食用には見えないので、恐らくこれとは別のもので作っているのだろうが、それにしても何故カボチャ。
カボチャでケーキとは、あまり聞かない組み合わせのような気がする。

レオンのそんな疑問が伝わったのか、自分だけが知る習慣を話して聞かせたかったのか、ティーダが続ける。


「ハロウィーンにはカボチャなんだ。カボチャのおばけが主役で、カボチャのケーキ食べるのが決まり!」
「それじゃあ、今日はティーダが主役だったのか」
「うん!」


カボチャの被り物をしていた事からレオンが言うと、ティーダは嬉しそうに頷いた。
そんなティーダを、レオンの隣に座ったスコールが羨ましそうに見ている。
僕も被りたかった、と呟くスコールに、ティーダが自慢げに笑うものだから、スコールはぷくーっと頬を膨らませる。

しかし、スコールの拗ねた表情も其処まで。
キッチンから、大きなトレイにレオンの食事とケーキを乗せたエルオーネが現れた。


「レオン、ご飯だよ。スコールとティーダにはケーキ」
「わーい!」
「二人とも、食べたら寝る前にちゃんと歯磨きするんだぞ」
「はーい」


レオンの遅い夕飯と、四人分のケーキがテーブルに並べられる。
エルオーネもティーダの隣に座り、四人揃って手を合わせた。





ハロウィンだと言う事で、お兄ちゃんヘイタズラを計画してみた……が回避されました。残念w
翌年からレオンがえらく手の込んだお菓子を用意するようになると思います。

[パラレル]アンフリー・フォトグラフィ

  • 2012/10/30 01:22
  • Posted by

[鼓動は本物]で書いた芸能人レオンの、高校生の頃の話。読者モデルやってました。
長くなったので4つ+aに分割しました。

アンフリー・フォトグラフィ 1
高校生(読者モデル)時代のレオンと、7歳の子スコ

家族旅行計画中
↑の合間の話。レオンと子スコとジェクト

[レオン&子スコ&ジェクト]家族旅行計画中

  • 2012/10/30 01:07
  • Posted by

[アンフリー・フォトグラフィ]の中に書いたのですが、本編と関係なかったのでこっちに分割。

レオンとジェクトの絡みがなんか好き。
あとお兄ちゃんの真似をして、無意味な行動も一所懸命なちびっ子も好き。




兄に手を引かれて、知らない道を歩くスコールは、きょろきょろと忙しなく辺りを見回してばかりいる。
あまり活発な子供ではないスコールは、行動範囲も限られているから、ちょっと遠出をするだけで見知らぬ風景に出逢う事になる。

今日はバスを乗り付いで、都会の真ん中にある大きなビルに入った。
其処には沢山の人が忙しなく出入りをしていて、レオンを見かけると手を振ってくる大人が沢山いて、レオンはその一人一人に頭を下げて挨拶していた。
中には近付いて声をかけて来る人もいて、スコールを見付けると「ああ、この子が例の。へえ、可愛い子だね」と言った。
人見知りが激しいスコールは、直ぐにレオンの後ろに隠れてしまっていたけれど、レオンは大人達の言葉にとても嬉しそうにしていたのが判った。

レオンは広いロビーの受付に向かうと、カウンター向こうの女性と何言か遣り取りをしてから、紐のついたカードを受け取った。


「スコール、これを首にかけるんだ。入って良いですよって証拠だから、落としたら駄目だぞ」
「うん」


柔らかな紐が首の後ろに引っ掛かった。
スコールがカードを見てみると、スコールの名前と、『身元保証人』の欄にレオンの名前が書いてあり、それらの上に大きく『入場許可』と書いてあったのだが、まだ小学一年生で難しい漢字を習っていないスコールには読めなかった。
しかし、なくしてはいけないもの、と言う事は判ったから、紐をぎゅっと握って落とさないようにしっかりと持つ。

レオンは再びスコールの手を引いて、改札口のような入口───入場ゲート───に向かった。
鞄から許可証を取り出して、警備員に翳して見せた後、ゲートに読み込ませる。


「スコール、警備員さんにさっきのカードを見せて」
「はい。どうぞ」


首にかけていた紐を取って、警備員に見せる。
取らなくてもカードはきちんと警備員の目に届くのだが、幼い子供の可愛らしいその様子に、警備員は小さく笑ってくれた。
どうぞ、と促されたスコールは、レオンの真似をして、カードをゲートの読み込みに当てる。
それも必要のない行為なのだけれど、幼い子供のする事だ、見ている者は和むしかない。

近くのエレベーターに乗り込むと、小さな空間の壁に沢山のポスターが貼られていた。
其処に知っている姿を見付けて、スコールはあっと声を上げる。


「お兄ちゃん、オーちゃんがいる。ランちゃんもいる」


それは、スコールが毎日見ている子供向け番組のキャラクター達だった。
二足歩行の犬や猫、ウサギやカバが、手を振ったり跳ねたりしている姿がポスターに散りばめられている。
そのポスターには大きく番組タイトルと一緒に『オーちゃんたちに会いに行こう!』とルビつきで書かれていた。


「そう言えば、もう直、この番組のステージがこの辺りに来るんだったな」
「オーちゃん来るの?会えるの?」


レオンの言葉に、スコールはきらきらと目を輝かせる。
いつもテレビで見ているキャラクター達に、生で、本物に逢えると思ってか、蒼の瞳は期待で一杯だ。


「そうみたいだな。逢いたいか?」
「うん。……だめ?」


お兄ちゃん、おしごと、いそがしい?
ことんと首を傾げたスコールの瞳が、先程とは正反対の寂しそうな色を宿す。
レオンはポスターに載っている日付と、頭の中のスケジュール帳を確認して、


「大丈夫、空いてるよ。オーちゃん達に会いに行こう」
「ほんと?」
「ああ。エルの風邪が治ったら、エルとエルのお母さん達も誘ってみよう。父さんは……難しいかも知れないけど、ひょっとしたら、お休み取ってくれるかも知れないな。帰って来たら教えてあげよう」
「うん!」


レオンとスコールと、父と、エルオーネと、エルオーネの両親と。
皆が揃ってお出かけ出来る日は滅多にない。
スコールの希望をまるごと叶えてあげられるかは判らないが、とにかく、一度頼んでみよう、とレオンは思った。
そして、大人達が無理でも、自分が可愛い弟と妹を楽しませてやろう、と。

エレベーターを降りると、其処は沢山の大人が右へ左へ、バタバタと忙しなく走り回っていた。
かと思うと、のんびり休憩スペースで缶コーヒーを傾けている大人もいる。

休憩していた大人の一人とレオンの目が合った。
よう、と手を上げたその人に、レオンが頭を下げて挨拶すると、大人は缶コーヒーを片手に腰を上げて、此方へと歩み寄って来る。
その人は、不精髭を生やした大柄な体躯で、まるで巨大な熊のよう。


「スコール?」


スコールは、こそこそと兄の背中に隠れた。
ぎゅっとスラックスの端を握って体を寄せて来るスコールに、レオンは宥めるように柔らかい髪を梳いてやる。

兄の目の前まで来た大人は、やはり、大きかった。
筋肉が盛り上がり、腕はまるで丸太のように太く、着ているタンクトップが悲鳴を上げているかのようにパンパンに伸びている。


「おはようございます、ジェクトさん」
「おはよーさん。その呼び方な、止めろっつったろ?ジェクトで良いって」
「そういう訳にも……」
「なぁんか違和感あるんだよな、さん付けってよ」
「努力はしてみますけど……急には、無理ですよ」
「頼むわ。なーんか首のあたりが痒くってよぉ。……で、そっちのチビが例の?」


大人はぐっと体を縮めて、スコールに顔を近付けた。
間近で見た無精髭と赤い瞳が怖くて、スコールはびくっと竦み上がる。
ぎゅう、と兄の腰に顔を押し付けた。


「こら、スコール。ちゃんと挨拶しろ」
「……!」


兄の言葉に、ぶんぶんとスコールは首を横に振って、レオンにしがみ付く。
すっかり怯えていると判る弟の仕草に、レオンは眉尻を下げて大人に詫びた。


「すみません。人見知りが激しくて……」
「ああ、いいって事よ。うちのガキもそんなもんだ。大体、俺のツラはガキ向けじゃねえらしいしな」


大人の言葉に、レオンは苦笑いを浮かべる。
目の前の男の顔付は、確かに彼の言う通り、幼い子供には強面に見えてしまうものだったからだ。
鍛え抜かれた大きな体も、レオンから見ても迫力があるから、小さな子供からすればもっと大きく感じてしまうものだろう。

レオンは、助けを求めるようにしがみ付いて来るスコールの頭を撫でて宥めながら、


「ジェクト…さん…は、これから撮影ですか?」
「ああ。ボディビルダー系の雑誌でプロ選手の特集やるってんでな、俺にお声がかかった訳よ。インタビューもあるってんで、ブリッツの事もしっかり宣伝させて貰うつもりだ」
「確か、一昨日も同じような撮影があったんじゃ…」
「あった、あった。ファッション雑誌の方な。お陰でこちとら休む暇がねぇや」
「大変ですね、オフシーズンなのに。家族サービスとか、あまり出来ていないんじゃないですか?」
「そうなんだよ。お陰でうちのガキ、拗ねっ放しでよ」
「テレビや雑誌の出演も良いですけど、たまにはゆっくり休みを取ったら良いんじゃないですか。今度、子供向け番組の舞台がありますから、連れて行ってやるとか」
「あー……ま、その内な」


曖昧な返事をして、じゃあな、と大人は背を向けた。
廊下の向こうで彼を呼ぶ声があったのだ。
恐らく、収録が始まるのか、或いは打ち合わせの時間になったのだろう。

スコールがそっとレオンの陰から顔を出すと、大人はもう遠くになっていた。
ほっと安心した吐息を吐くと、じっと視線を感じて頭を上げる。
見詰める蒼が、しようがないな、と苦笑しているのが見えた。


「今の人、見覚えなかったか?」
「……?」
「そうか。じゃあ、仕方がないな」


スコールは、今の大人を見たことがあった。
彼は最近流行っているブリッツボールと言うスポーツのプロプレイヤーで、所属チームを何度となく優勝に導いている“キング”だった。
そんな彼は、夕方放送の教育番組で、先日、子供達に解説していた。
簡単なパス練習や泳ぎの練習、シュートの蹴り方等を教えていて、スコールもその番組を見ていたのだ。
豪快で気風が良く、手本として見せる泳ぎやシュートを決める姿は、あまりスポーツに興味がないスコールにも格好良く見えた。

しかし、その時見たテレビの向こうの人物と、目の前にいた男が同一人物であるとは、まだ幼いスコールにはピンと来なかったようだ。
ことん、と不思議そう首を傾げる弟に、レオンはくすくすと笑ったのだった。




頑張ってお兄ちゃんの真似をする子スコが書きたかった。

ジェクトもこっそり家族計画を考えてはいるのです。でも踏ん切りつかないし、あまり遠出も出来そうにないしで悩んでた所。
後日、レオン一家とエルオーネ一家と、イベント会場でばったり会うんだと思います。

[レオン&子スコ]アンフリー・フォトグラフィ 1

  • 2012/10/30 01:06
  • Posted by

芸能人レオンの高校生時代。読者モデルやってました。
スコールは7歳で小学一年生。お兄ちゃんお姉ちゃん大好き。




「はい……すみません。ありがとうございます」


電話相手が、仕方なさそうに、けれども了承してくれた事に感謝しつつ、レオンは携帯電話の通話を切った。
ほっと一息吐いて、携帯電話を制服の内ポケットに仕舞うと、じっと隣でレオンの顔を見上げていた小さな子供に視線を落とす。
何処か不安げに見える、大きな丸い蒼色に、レオンは口元を緩めて笑いかけてやった。


「おうちでお留守番はなし。今日は俺と一緒だ」
「ほんと?」


ぱっと明るい表情になった子供は、レオンの弟のスコールだ。

今年で小学一年生になったスコールは、いつもならこの時間───レオンの高校の授業が終わる午後四時半頃───は家に帰って留守番をしている。
ただし、一人で、ではない。
隣家に住んでいる4歳年上のエルオーネと言う女の子が、一人ぼっちを嫌がるスコールと一緒に、レオンの帰りを待っているのだ。

レオンの家は、母はスコールが生まれて間もなく逝去し、父は多忙で殆ど家に帰らない為、レオンとスコールの二人で毎日を暮らしている。
隣家には小学5年生の女の子が住んでおり、彼女はレオンにとっては妹、スコールにとっては姉的存在だった。
そのエルオーネが、今日は風邪を引いてしまったらしく、小学校も早退して帰ったらしい。
彼女の母からその旨をメールで教えて貰ったレオンは、自分の授業を終え、いつもならば仕事先に向かう所だった足を、一端、一人ぼっちの弟が待つ家へと向け────今に至る。

高校生であるレオンの仕事とは、ファッション雑誌のモデルだった。
街角でスカウトされ、父に相談して渡された名刺が怪しくないか確認した後、「社会学習って事でいいんじゃないか」と了承を貰った。
レオンがモデルの仕事などと言うものを引き受けようと思った理由は、モデル料も少ないながら出ると言うし、家計の足しに出来るのではないかと思ったからだ。

この仕事は終わる時間が不定期なので、何時に帰るよ、と言って弟を安心させてやる事は出来ない。
だから、エルオーネにスコールの世話を頼んでいたのだが、今日はそれが出来ない。
一人ぼっちで、広い家でぽつんと待っているのは、寂しがり屋のスコールには酷く辛いことなのだ。
かと言って、仕事は休ませて貰えそうにないし、と思案した結果、レオンはスコールを仕事場に連れて行けないかと考えた。
先の電話はこの確認を取っていた所だったのだ。

スタジオで先に待っているマネージャーからは、スコールが大人しいこと、騒いだりする子供ではない事を伝え、昨今の物騒な世の中、6歳の子供が一人で家にいるのは危険だと言う事もあって、連れて来ても良いと言って貰えた。
これにレオンは安心し、スコールも「一人ぼっちで我慢しなくていい」と聞いて、ようやっと不安から解放されたのある。

にこにこと嬉しそうに笑っていたスコールが、きゅっとレオンの制服の裾を握った。


「お兄ちゃん、これからおしごと?」
「ああ」
「僕、ついていっていいの?」


確かめるように尋ねるスコールに、レオンは大きく頷いた。
途端、ぱああ、とスコールの表情が喜びの色で一杯になる。


「お兄ちゃんのおしごと、見てもいいの?」
「ああ。ただし、大きな声を出したりしたら駄目だぞ。きちんと静かに、良い子にしている事。出来るな?」
「うん。僕、良い子にしてる」


きらきらと輝く蒼の瞳と、ぎゅっと意志の強さを暗示するかのように握り締められた小さな拳。
よし、とくしゃくしゃと頭を撫でてやれば、スコールはくすぐったそうに笑った。

それからレオンは、手早くスコールに余所行きの服を着せ、自分は制服のままで家を出る。
スコールは、兄と一緒にいられるのが余程嬉しいのか、足取りがぴょんぴょんと弾んでいた。


アンフリー・フォトグラフィ 2

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