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[オニスコ]耀きの生まれる場所

  • 2026/03/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



ルーネスが芸能界に身を置いたのは、物心がつく以前のこと。
子育て系の雑誌の末尾にあった、モデルの公募に母が応募したのが切っ掛けだったと言う。
当分の間、雑誌モデルとして撮影に連れていかれるようになり、その場での聞き分けの良さや映り映えの良さから、ドラマにも出演することになった。
それから次第にドラマの撮影に出演する機会が増え、小学生に上がる頃には、一端の子役として界隈では知られる存在になっていた。

それからずっと、継続的な仕事が入るようになって、今に至る。

年齢は中学生にまで上がっており、ドラマでの露出が減らないこともあって、学校では誰もが知っている存在だ。
出演したドラマを見た、CMを見たと、わざわざ報告してくれるクラスメイトは後を絶たないし、学校行事の時には全校生徒から注目が集まる。
“芸能人”として、ルーネスは同年代の少年少女たちからは、一種の憧れと羨望が向けられていた。
ルーネス自身はそんなことはどうでも良かったが、周囲がそうはしてくれないものだ。

毎日学校に行って、放課後の足で撮影現場に向かう。
撮影に使われるスタジオビルの警備員に通行証を見せ、エレベーターへ向かうのも慣れたものだ。
到着を待っていたマネージャーと合流して、用意された控室に案内して貰う。

撮影は丁度休憩時間に入った所だと言うので、急いでスタジオ入りする必要はないから、ゆっくりと休んでから来れば良い、とマネージャーは言った。
それなら、鞄の中にある学校の課題を片付けてしまおう、とルーネスは筆記用具を取り出した。
課題はいつも学校にいる間に終わらせるようにしているのだが、今日は各科目で出された課題が多く、少々時間が足りなかったのだ。
これを放置しておくのは気持ちが悪いから、ここでやっつけてしまうのが一番良い。

休憩時間が終わる10分前には撮影の準備に入った方が良いから、タイムリミットはここだ。
携帯電話でアラーム機能をセットし、ルーネスは早速課題に取り組んだ。


(どうせ残りがあるだけだし、そんなに難しいものもなかったし。なんとかなるな)


課題プリントの問題をざっと流し見て、ルーネスは十分間に合う、と判断した。

ルーネスは地頭が良い。
頭の回転も速いから、授業で習った大抵のことは一回で理解できるし、課題もほとんど詰まることなく解いて行ける。
特に暗記に関しては昔から得意分野であった。
そのお陰で、幼い頃からドラマの台詞覚えも良く、監督の指示にも理解が早いことが、子役として大成した理由として大きい。

するすると問題を解き、早々にプリントの残りが半分になった頃、控室のドアが開いた。
今日の控室は人と一緒になっていることは、マネージャーに聞いている。
顔を上げると、聞いていた通り、一人の青年の姿があった。


「おはよーございます」
「……おはようございます」


一日で最初に会った人と交わす挨拶は、必ずこれだ。
間延びした声でそれを投げたルーネスに、相手───スコールは静かな声で丁重に返し、形式的な会釈をした。

スコールはルーネスを一瞥すると、テーブルを挟んだ反対側に座った。
手に持っていたものをテーブルに乗せ、開く。
ルーネスがちらりとそちらを見ると、分厚い本とノート、筆記用具が並べられていた。


「スコールも課題?」
「……ああ」


訊ねれば、スコールは端的に返す。

スコールは本を開き、眉間に皺を寄せながら、ノートにシャーペンを走らせる。
眉間にある傷もあって、その表情は如何にも気難しく見えた。

この傷は特殊メイクの類ではなく、彼自身が幼年の頃に遭った事故の名残なのだと言う。
撮影の際、多くは役柄に合わせて隠していることが多いのだが、今回の役柄ではそのまま活かす設定になったことで、晒した状態で過ごしている。
傷を持って尚、その容姿は醜く歪むことはなく、稀に見る色味を持った蒼灰の瞳の存在価値と合わせて、彼と言う逸材を引き立てるパーツとなっていた。
特撮系の役でもやれば、見た目の端麗さもあって、クール系のキャラクターで売り出すことも出来そうな見栄えである。

二人分のシャーペンが動かす音だけが、控室の中でしばらく続く。
スコールは寡黙な質であるから、こうした時に無駄な会話をすることがない。
お陰でルーネスの集中も途切れることなく、時間いっぱいまで課題に集中することが出来る。

携帯電話のアラームが鳴った時、それはひとつではなかった。
全く同じタイミングで鳴りだした二種類のアラーム音に、ルーネスとスコールも同時に顔を上げる。


「10分前だ。終わりだね」
「そうだな」
「これだけ解いて置こう。……よし、終わり!」


ルーネスは最後に残っていた問題を、駆け足で解いた。
その間にスコールは参考書とノートを閉じ、筆記用具も筆箱に片付けている。
ルーネスも急いで課題諸々を片付け、うっかり忘れてしまわないよう、鞄の中に押し込んでおく。

スコールがドアを開けて待ってくれていたので、遠慮なく先にドアを潜る。
スコールは、終わり切っていなかったのか、スタジオまで課題用の道具を持って戻るつもりらしい。
撮影の合間、溜まり場で彼が課題に取り組んでいる姿は、よく見るものだ。


「高校の課題って、やっぱり中学のより多いの?」


スタジオへ向かう道すがらにルーネスが尋ねると、スコールはちらと此方を見て、また視線を前に戻す。


「……まあな。学校の方針や、教師にも因ると思うが」
「スコールの学校って、厳しい所?」
「さあ。俺は別に、苦だと思ったことはない」


そう答えた後で、スコールは潜めた声で「……面倒だけど」と呟いた。
ルーネスはその声にくすりと笑いつつ、


「再来年には、僕も高校生だから、スコールみたいに撮影の合間に勉強してるのかな。うーん、ちょっと考え物なのかも」
「芸能系に理解のある学校にすれば、多少は楽になるんじゃないのか」
「ああ、うん。一応、そう言う所も考えてはいるんだけど。スコールは、そっちに編入するとかは考えなかったの?」


スコールは全日制の普通高校に通っている。
そもそも、彼がこの世界に入ったのは、昨年のことなのだ。
芸能界入り時、既に高校に在籍していた彼は、其処に籍を置いたまま、学業と芸能生活を両立させている。

それが決して簡単な話ではないことは、幼児期から芸能界に身を置いているルーネスもよく判っていた。
朝から夕方まで学校で過ごし、終われば直ぐに撮影に向かい、家に帰るのは夜。
色々な法的規則もあるので、未成年が遅くまで現場に残ることは出来ないが、その分、家に帰ってから台詞覚えなど自主練習は欠かせない。
それでいて学校のテストも免除されることはないから、勉強もきちんと取り組まなくてはならない。

一部の学校では、芸能関係で活躍する学生に向けたカリキュラムコースが用意されている。
このコースに籍を置いていれば、仕事の都合で出席日数が取れない、と言った所を加味してくれ、進級・卒業することが出来る。
勿論、テストの成績や品行に問題がなければと言う点はあるので、其方を維持するのは決して簡単な話ではなかった。
それでも、長期の撮影を地方に滞在して行う、と言った仕事がある時には、助かるものだ。

しかしスコールは、そうした融通のある学校に移ることはしていない。


「別に、俺は今の所で不満はない。第一、今年もこんなことをしているなんて思ってなかったからな」
「そうなの?お兄さんとお父さんの影響で、役者になったんでしょ?」
「……それは否定しない。だけど、あの二人みたいに、こんな仕事がいつまでも出来るとは思ってなかった。公募に出したのも、ただ……あの二人がどういう世界にいるのか、一度覗いてみたかっただけだ。だから、どうせ一回こっきりのつもりだった」


元々スコールは、芸能界隈では知る人ぞ知る存在であった。
と言うのも、彼の父親と兄が揃って有名な俳優で、母が早くに亡くなったと言う家庭事情もあり、昔からその撮影現場に同行していたからだ。

父も兄も、それぞれに存在感と見目の良さから注目が集まり、人気を博している。
兄に至っては、海外の映画にも出演し、世界的に知られている、正しくスーパースターだ。
長期の地方・海外での撮影も多く、そんな家族と行動を共にすることが多かったから、スコール自身は業界内では知られていたのだ。
それは、眩く宝石の傍らに、まだ日の目を待っている原石があったことを意味する。

そんな彼が昨年、自らドラマの出演役者の公募に応募したと言うのだから、その履歴書を手に取った監督が逃せる訳がない。
実力不明の状態であったから、先ずは実験的に一話限定のゲストキャラクターとして役が与えられた。
其処で彼は遺憾なく存在感を発揮し、散発的ながらドラマ出演の依頼が入るようになったとか。
そして今期放送となるドラマで、1クールに出演するレギュラー役を得たのである。

こうした経歴の末、スコールは今期から本格的な役者活動をすることになったのだが、本人はそれを棚ぼたのようなものと考えていた。


「家族があれだから、珍しがってまだ使われてるだけだろう。俺は演技の才能はないし」
「そんなことないと思うけど」


ルーネスの脳裏に、カメラを通した時、目の前の青年がどんなに綺麗に映っているかが思い浮かぶ。

肉眼で見ている今でさえ、スコールの存在感は決して薄くはない。
すっきりと整えた濃茶色の髪は、歪みのない頭の形に沿っている。
整った面立ちは、少し冷たい印象を持たれ勝ちで、表情筋はお世辞にも柔らかいとは言い難いのだが、ここに感情が乗った時、透明な青灰色が鮮やかに光を放つ。

ルーネスはスコールが端役で初めてのドラマの出演した時、レギュラーとして参加していた。
場面を共にしたのは一瞬で、直接会話をした訳ではなかったが、それでも印象に強く残った。
そして放送されたドラマを確認した時、カメラ越しに見たスコールの姿を見て、「こんなにも綺麗な瞳をした人がいるんだ」と言うことに気付いた。

あの時の事を思い出すと、ルーネスは未だに心臓が高鳴る。
けれども、それを齎した人物はと言えば、どうにも自分は役者に向いているとは思っていないらしい。


「スコールは凄いと思うよ。其処にいるだけで、ああスコールがいるって判るもの」
「……持ち上げるな。そう言うのが合うのは、俺じゃない」
「そりゃあスコールのお父さんとお兄さんも凄いけど。でも、二人とスコールは違うでしょ」
「だから、あの二人の方が凄いんだろう。俺はその七光りで此処にいるだけだ」
「そんなことないってば」


どうにもスコールは、自己評価が低い所があるらしい。
これには、彼を良く知る父と兄も、揃って苦笑するしかないそうだ。

ルーネスは唇を尖らせた。


「スコールは、僕の言ってる事が信じられない?」


長い廊下を歩きながら、長身の彼の顔を覗き込むようにして問うと、スコールは眉間に強い皺を浮かべた。
どう答えるべきか、逡巡している様子が続く内に、ルーネスは重ねて言った。


「僕、それなりにこの業界は長いからさ」
「……だろうな」


ルーネスが幼少の頃から子役として芸能活動をしていることは、スコールも知っている。
つまる所、年齢こそスコールが上だが、芸能界に生きる人間としては、ルーネスの方が遥かに経験豊富なのだ。


「人を見る目はあるって思ってるよ。長く続く人、そうじゃない人。なんとなく判るんだ」
「……」
「どんなに演技が上手い人でも、嫌われる人は嫌われる。逆に、嫌われるような人でも、尖って耀いてるものがあったら、ずっとこの世界にいる。役者だけじゃないよ。芸人だって、スタッフだって、そう言うのはある。僕はそれを見分けられるんだよ。目が良いからね、僕」


自分の緑の目を指差して、ルーネスは言った。
スコールは相変わらず渋面を浮かべていて、全く得心している様子がない。
寧ろ、何を言っているんだこいつは、と言う感情が透けて見えるが、一応、それを口に出すつもりはないらしい。
目の前にいるのは、曲りなりにも、役者として先輩であるが故か。

結局スコールは、しばらくの沈黙の後、溜息を吐いた。


「物好きだな……」
「そんな事ないよ。僕は事実を言っただけ」


そう言ったルーネスの胸中には、一片の曇りもない。
ルーネスは確かに、この蒼灰色の原石が、他の誰より綺麗に輝くことを知っている。

撮影スタジオの前に来て、スコールが扉を押し開ける。
そのまま開けて待ってくれるので、ルーネスも其処を潜った。
見慣れたセットが組まれた広い空間には、沢山のカメラとスタッフが忙しなく次の撮影の準備を整えている。
ルーネスの下に衣装スタッフが、スコールの下にメイクスタッフが駆けて来る。

撮影用のメイクが施されるのを大人しく待ちながら、ルーネスはちらりと撮影セットを見る。
其処には既に支度を整えたスコールが立ち、カメラスタッフが映りの加減を調整していた。
確認モニターの映像をチェックしながら、監督はライティングの指定を行っている。

メイクを終えたルーネスが板に着き、スタンバイに入る。
ルーネスの前にはスコールが立っていて、あの透明な青灰色が真っ直ぐに此方を見ていた。


(ほら、やっぱり)


自分のことは自分が一番見えない、とはよく言ったものだ。
こんなに綺麗な蒼色を持っているのに、その本人だけが、その輝きの光を知らない。




けれども、きっと気付かないからこの瞳はこんなにも美しく耀くのだと、ルーネスは知っていた。





3月8日と言うことで、オニスコ!
こまっしゃくれたオニオンナイトと、その扱いに困りながら無下にはしないスコールの図が好きなんですねえ。
年齢的には自分の方が上だけど、芸能界の年功序列ではオニオンナイトの方が先輩になるので、オニオンナイトの口調の砕けには閉口しているスコールです。

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