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2024年03月

[クラスコ]ビギナーズ・ブラッド

  • 2024/03/12 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF

013世界で7Rカードゲームネタ




元の世界の事については、ほぼ覚えていると言って良い。
これは秩序の戦士達の中にあって、少々珍しいことだった。
多くは元の世界のこと、更には自分自身のことも曖昧だと言うのが、半分以上の仲間達に見られる状態だ。
そんな中でクラウドは、元の世界で自分自身が辿った旅路と言うものを、───少なくとも、自分自身の足で歩いて目で見た範囲では───明確に思い出すことが出来る。

とは言え、細々としたことについて、多少なり霞がかかる部分もなくはない。
それは普通の記憶、思い出としても無理のない、脳処理の為に行われる情報淘汰の結果なのだろう。
だから例えば、本屋で見付けた定期購読している雑誌の特集ページが何だったとか、どこそこの商店街で擦れ違った誰それだとか、そんなことは重要な情報ではないから、必然的に抜け落ちて行くのだ。

恐らくは、そう言う類だったのだろうと思う。
ある日、食糧や回復薬などと言った備蓄を雑多に押し込んだ倉庫で、クラウドは“それ”を見付けた。
こんなものがあっただろうか、誰かが何処かで拾って来たのだろうかと思ったが、恐らくは、また何処かの世界から勝手に迷い込んだのだろう。
見れば賑やか組あたりが真っ先に飛び付きそうな代物なのに、こんな場所に押し込められているのだ。
見付けたのが他の仲間であれば、この倉庫に収められる可能性もなくはないが、その場合、そもそも持ち帰られたりはしないだろう。
見た目通り、中々に嵩張る代物だから、道行の邪魔になる、と言うのが冷静な面々の判断に違いない。

それを思えば、これが倉庫に迷い出でたと言うのは、ある意味で幸運だったのかも知れない。
そうでなければ、きっと忘れ去られて朽ちていくのみであっただろう。
だったら、この港運に肖って、一度くらいは日の目に出してやろうか、とクラウドは思った。

とは言え、これはどうやって遊ぶものだったか。
幸いにも、組み立てられたセットの中に、取扱説明書とルールブックが入っていた。
先ずはこれを読み込んで、支障のない程度の説明が出来るようになってから、皆の前に披露目させるとしよう。
そう思って、クラウドはいそいそと、その遊戯アイテムを自分の部屋へと運び込んだのだった。




倉庫で見付けたボードゲームは、それから三日余りで、秩序の戦士達の前に公開された。
『クイーンズ・ブラッド』の名を持つそのゲームは、1on1の対戦型のボードゲーム。
三つのレーンをカードを使って陣地を取り合い、レーンごとにポイントを競い合うと言うもの。
稼いだポイントは、最終的にはレーンごとの勝利した所が集計され、より多くの合計ポイントを稼いだ方が勝利する。
主にはその遊び方がメインとなっているが、中には特定のカードのみを使い、指定された条件を果たすことで勝利とする、脳トレーニングのようなパズル式のゲーム方法もあった。

新たな遊戯の導入に、若い戦士達は、思った通りに飛び付いた。
まずは好奇心が旺盛なバッツとティーダが、続いて賑やかし事なら歓迎しない手はないとジタンが。
ボードには立体的なオブジェもあり、こちらはティナやセシルの関心を引いたようだ。
ボードは一つしかないから、先ずはクラウドが手本に、相手はウォーリアを指名する。
先ずはお互いの手札が完全に見える状態にして、これはこう、ここはこれ、このマスが特殊効果があって……と一つ一つ紐解いて行く。

ゲームと言えば、秩序の戦士達の間では、色々と交わされている。
トランプやチェスと言った、何処の世界にも普遍的に存在しているもの以外でも、スコールの『トリプル・トライアド』や、ジタンの『クアッドミスト』はよく見るものだ。
その時々の気分でそれぞれ息抜きに遊んでいるが、『クイーンズ・ブラッド』も此処に参加することになるかどうか。
それはこのゲームがどれ程の仲間の心を掴む事が出来るかに寄るが、何はともあれ、遊びたい盛りも多い秩序の陣営である。
遊びに関して、選べる選択肢が増えることを、嫌と言う者がいる筈もない。

新ゲームのお披露目会は、概ね好評だった。
ゲームをするのが得意な面々は、あっという間に基礎のルールを覚え、クラウドが手伝わなくても賑やかに遊んでくれる程。
反対に、フリオニールやウォーリアの対戦はなんとも牧歌的で、それぞれセコンドとしてスコールやセシルが着いている状態で、繰り返しチュートリアルが行われているような雰囲気があった。
ティナは可愛さのあるカードを使いたがるので、それでいてどうやって勝てるようにするか、ルーネスが頭を捻って戦略を組む練習をしている。
お陰で、秩序の戦士達にとって今日一日は、良い余暇となったようだ。

遊戯の時間に盛り上がった一日が終わると、クラウドはゲーム盤一式を自室へと運び戻した。
皆がいつでも遊べるようにリビングに置いていても良かったが、一応、これはクラウドの世界から迷い込んで来たと思われるゲームだ。
なんとなくプライドのような、矜持のようなものが働いて、出来るだけこのゲームに慣れておきたい。
ボードと一緒に見付けたカードを使って、どんなデッキが組めるかと言うことも、もう少ししっかりと読み込んでおきたかった。

デスクにゲーム盤を置き、其処でカードを捲りながら黙々と戦略について考えていた時、───コンコン、とノックの音。
それに我に返ったクラウドは、部屋の時計を見て、思った以上に時間が経っていたことに気付く。
こんな時間にやって来る人物と言えば、といそいそとした気分で部屋のドアを開ければ、思った通り。


「……邪魔して良いか」
「ああ」


其処に立っていたのはスコールだった。
寝る前の夜着で、すっかりラフなスタイルでやって来た恋人に、クラウドの口元は自然と緩んだ。

部屋に招き入れたスコールは、いつものようにベッドへと座ったが、ふとその目が普段と違う場所へと向けられる。
何かと雑多な物が置かれている傾向のあるクラウドの部屋は、デスク回りもそうなのだが、今日は其処に目立つものが置かれていた。
立体的に汲み上げられた城が、まるでその庭を見下ろすように聳える、『クイーンズ・ブラッド』のゲーム盤。
其処に中途半端な状態でカードが置かれているのを見て、スコールは微かに眉根を寄せる。


「……本当に邪魔をしたみたいだな」
「いや。そんなに真剣に詰めていた訳でもないし、気にするな」


言いながらクラウドは、スコールが来たならもう良いか、とボードに出していたカードを回収する。
ゲームは好きだし、時には何においても優先したいと思うほどに熱中するものに出逢う事もあるが、恋人が来たならどれも後回しで良い。

────と、思ったのだが、カードを片付けている間、じっと突き刺さる視線の感触があった。
ちらと横目にその出所を伺えば、蒼灰色の瞳が、存外と爛々と輝いている。
そう言えば、彼の世界にもあるという、『トリプル・トライアド』なるカードのコレクターになる程に、カードゲームは好きなのだと思い出した。

ふむ、とクラウドは手元のカードの山を見た後、視線をベッドの方へと移し、


「やるか?」
「……!」


短く訊ねてみると、スコールははっとした顔で目を瞠る。
自分がゲーム盤をまじまじと見ていたことに気付かれていたと、その顔は分かりやすく恥ずかしそうに赤くなったが、


「……やる」


そう言ってくれるならと、自分から発信することがどうにも苦手なスコールは、これを機とばかりに乗った。
存外と判り易い恋人に、可愛いものだなと思いつつ、クラウドはゲーム一式をベッドへ移す。

ゲームに使用できるカードは、初心者用のブースターパックと思われるものが一揃いしている。
この世界で見つけられる、それぞれの世界にのみあるというゲームは、大抵、それを切っ掛けにしたように、モーグリショップでパックが売られるようになったり、ふとある時に見付けて持ち帰ったり、と言うことが多かった。
と言うことは、この『クイーンズ・ブラッド』のカードも、また段々と増えて行くのかも知れない。
そうなればカードデッキの作り方も増え、高度な心理戦も始まって、複雑な戦略性を備えたバトルが行われる事だろう。

しかし、今は皆、初めてこのゲームに触れた所だ。
クラウドは手に持っていたカードの山札を、スコールに差し出した。


「お前からデッキを作って良いぞ」
「……良いのか」
「俺は一応、経験者みたいだからな」


そう言ったクラウドに、スコールはそれならと山札を受け取る。
じっくりと吟味しながらデッキの構築を考えているスコールを眺めながら、クラウドはこっそりと眉尻を下げた。


(実の所、本当に経験があるのか、いまいち微妙なんだよな。ルールはなんとなく判るが)


この『クイーンズ・ブラッド』なるカードゲームを見付けた時、クラウドは見たことがあるような、ないような、と言うぼんやりとした感覚しかなかった。
ルールブックを読んで行けば、案外とすいすいとその内容を理解できたが、触れるカードについては、どうも初めて触ったような感覚が否めない。
元の世界の出来事についても、一通り覚えている筈だが、果たしてその旅の道程に、こんなアイテムはあっただろうか。
世界的に有名なテーマパークも行ったが、あそこにこんなゲームはあったか、果たして。

そんな疑問は尽きないものの、ゲーム盤を引っ繰り返して裏面を見ると、其処にはこのボードを製作・販売したと思われる会社の名前が印字されていた。
文字からロゴから販売社名から、他にまごう事なき印字であったので、やはりこれはクラウドの世界にあるものだと言うことは確信している。
仲間達もそれは同じだったようで、ボード盤をくまなく観察したバッツがそのロゴを見付け、「これがあるって事は、クラウドの世界にあるヤツなんだな」と言っていた。
決定的な証拠と言っても良いものだから、クラウドもそれを否定することはなかった。
ただ、自分が思い出せる記憶の中に、このボードゲームに関することがほとんど見当たらないだけだ。

だが、カードを一通り確認したり、デッキを組んだりとしていると、なんとなく手が頭が、これを“知っている”と言うのだ。
このタイミングでこれは早い、此処に置いたら上書きされる、このカードを有効に使う手立ては、と言った、経験者でなくては浮かばないことが自然と考えられるのだ。


(まあ、ゲームに詳しい奴だと、似たようなゲームから経験と勘で読めたりもするんだろうが。俺は別に其処まで詳しくは……)


ゲームは好きだし、のめり込む所がある事は否定しないが、クラウドは叩き上げの性質だ。
自分は生憎、凡人で、天啓を得られるような人間ではないことは、悲しいかな自覚しているのだった。

と、クラウドが取り止めのない思考に囚われている間に、スコールはデッキの構築を終えていた。


「俺はこれで良い。後はあんたのか」
「ああ、少し待っていろ。直ぐ終わる」


スターターパックであっただろうカードの山札の中身は、もう半分ほど。
組めるデッキの形には既に限りがあり、必要な数は残した状態で、いらないものだけを抜けば良い。

程無くデッキを作り終えて、クラウドは手元のそれを混ぜながら、自分のデッキを確認しているスコールに声をかける。


「始めようか、スコール」
「……ん」
「先手、良いぞ」
「じゃあ」


遠慮なく、とスコールはデッキから取った手札を見て、先ずは様子見と一枚を場に出した。
続いてクラウドも、無難なものを一枚と続く。

二手目が回ったスコールが、新たに引いた手札を見て、早速熟考に入った。
初心者とは言え、戦略型のカードゲームとなれば、『トリプル・トライアド』で慣らした腕のあるスコールだ。
迂闊な悪手は出来るだけ避けたい、と言う心理か、慎重な手付きは彼の性格をよく表しているように見える。

そんなスコールに、クラウドはちょっとした悪戯心が沸いた。


「なあ、スコール」
「……なんだ」


声をかければ、気もそぞろな返事。
すっかりカード勝負に気を捉われている少年に、クラウドは可愛いものだなと思いつつ、


「折角だから、賭けをしないか」
「しない」
「早いな」
「経験者相手にそんな事したら、鴨にされるだけだ」
「大丈夫だ。俺も初心者みたいなものだから」
「嘘だな。このゲームはあんたの世界にある奴だろ」
「それはそうだが、やり込んでる訳じゃない。世界的に流行しているようなゲームでも、遊んだことがないって言う人間は、世に一人二人はいるものだろう」
「………で、あんたがその一人だって?」


信用できない、と言い切るスコールは、クラウドの気質をよく判っている。
確かにゲームは好きだし、やれるものはやり込みたい、と言う所があるのも否定しまい。

だが、此処で引き下がっては、やはり面白くない。


「必要なら、ハンデも良いぞ。パワーダウンや消滅系のカードは使わない、とか。レベル3のカードは封印とか」
「………」


クラウドの言葉に、スコールの片眉がくっと釣り上がった。
眉間の皺が三割増しになって、強気な蒼灰色がじろりとクラウドを睨む。


「ハンデなんかいらない」
「そうか?」
「………」


じとぉ、と睨む瞳は、判り易く不満を露わにしている。
プライドが高いというか、慎重に見えて案外と熱くなりやすいとか、負けず嫌いとか────途端に幼さが露呈する年下の恋人に、クラウドの唇が緩む。
それを侮りと受け取ったのだろう、スコールは益々ムキになった表情を浮かべていた。

スコールの手札から選ばれたカードが、場に出され、彼の陣地予定地が増えた。
守勢ではなく、積極的に陣地を増やすことを選んだ彼を、クラウドは変わらぬ表情で見詰める。


「で、賭けは?」
「……好きにしろ」


賭けの内容については確かめることもせず、スコールはそう言った。
内容がどうなるにせよ、自分が負けなければ良いのだと考えているに違いない。
確かにそれはそうだが、と思いつつ、クラウドも次のカードを選んだ。

ハンデは必要ないと言ったし、とクラウドは新たな手札に回って来た一枚を見て、緩みかける唇を堪える。
これもまた油断してはいけないと自戒しつつも、頭の隅では、さて何をして貰おうか───と今夜の楽しみに気が散っているのであった。





7リバースで追加されたカードゲームで遊んでるクラスコが見たいなと思って。
負けても基本デメリットがない(たまに微量なお金を取られる、デッキ選びからやり直しが効く)、勝てば確実に景品カードが貰えるので、優しいな……と思いながら、行く先々でまず真っ先にバウターを探しています。

初心者相手に全力で行くのはどうなんですかクラウドさんと思いつつ、相手がハンデいらないって言ったんだから良いよねって。
そんな調子で勝った後、スコールにトリプル・トライアドのガチデッキでこてんぱんにされて欲しい。

宅のクラウドは『ディシディアのクラウド』であるイメージが強いので、7リバースを混ぜるのどうしようかなーと思ったんですが、ディシディアだし都合良くしていくか!!の精神。
なんか新たな記憶が交ざった感じになった。これはこれでクラウドの精神状態の今後が不安ある。

[オニスコ]背を伸ばしても理想は遠く

  • 2024/03/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF

オペラオムニア3部9章後





“あの人”の意思と力で、世界が新たに造られて、いつの間にか随分と経つ。
その間に、散り散りになっていた仲間も、多くは合流することが出来た。
だが、一部の仲間はまだ何処にいるのか判然とはせず、また一部は、合流できたにも関わらず、なんらかの理由によって袂を分かっている。

光の羅針盤を唯一の指標に、その光針が指し示す先を辿る旅。
元々そうではあったが、新たな世界と言うのはまた途方もなく広く、飛空艇を使っても、回り切れると思えない程だ。
走る空は何処か不安定で、気象を読むことに長けた者から見ると、理屈を無視した出来事も多いらしい。
舵を切る手は慎重に、風を読む目は三つ四つ先まで見越して、そう言った知識を持つ者達が日々綿密な話し合いをして、向かうべき方向を決めている。

オニオンナイトも、“リーダー”としてよくその場に同席する。
本来ならば、この役目は自分など重いと思っているが、皆の意識が自分を“リーダー”として認識しているのだから、引き受けねばならない。
それは重責でもあったが、旧世界が書き換えられる直前、確かに“あの人”から託されたのだと言うことを覚えている。
他の誰も覚えていない中、自分とプリッシュだけがその書き換えを免れているなら、だからこそやるべき役目がある筈だと思った。
可能な限り、仲間達の懸念や想いを聞いて、その中で「今回はどうするべきか」を考える。
それが今のオニオンナイトの役目だ。

────そうして、長らく離れていた仲間達をまた再び、飛空艇へと迎え入れる事に成功した。
スコールとノクティスをリーダー役として、ヤ・シュトラやサンクレッドたちが下支えとしてまとまっていたそのグループは、久しぶりの飛空艇の乗艇に随分と安堵していた。
大きな傷のある都市で、記憶と時間を操る魔女との戦いを繰り広げていた彼等は、ようやっと一息つける場所に戻れたのだ。
彼の街で再会に至ったと言うノクティスの婚約者ルナフレーナも共に迎え、次の目的地を目指し、束の間の休息となった。

新たな理の世界となってから、“意思の力”の影響はより強くなっているようで、様々なことに干渉が起こる。
戦う為の力となることは勿論のこと、生活におけるちょっとした出来事にも、それは現れた。
至極些細なことで言えば、飛空艇の内部がじわじわと拡張されているような所があって、仲間が戻る、或いは新たに加わる都度、彼等の過ごす部屋が増えるのだ。
気付けば外観以上に内部は広くなり、質量保存の法則を無視しているのが感じられるが、有り難い影響であるのは確か。
元は敵対していた間柄の者も此処にはいる訳で、そうでなくとも相性の悪い者であったり、あそこはセットにすると厄介が起きるから離して置いた方が無難だとか、色々な理由で寝床は別々にしておく必要もあるので、部屋は多いに越したことはないのだ。

そう言った物理法則を無視した出来事も、この世界で長く過ごしていれば、必然的に慣れるもの。
初めてこの世界の飛空艇に乗ることになったルナフレーナに、ノクティスを始めとした、同じ世界から来た面々が説明をしているのを横目に見ながら、オニオンナイトは飛空艇内にいつの間にか出来ていた書庫へと向かっていた。
その書庫もまた変わったもので、飛空艇に乗る人が増える都度に、その人々の世界に存在していたのであろう本の出現が確認できている。
各世界のあらましにも触れることが出来る機会は貴重で、学者肌の人物はよく其処に籠って、様々な本を読んでいた。
オニオンナイトも、その一人である。

大所帯で旅をしているから、飛空艇の各場所、何処に行っても人の気配は絶えない。
オニオンナイトが書庫に入ると、ポロムとユウナ、ストラゴス、シャントットがいた。
この辺りは、よく本の虫として見かける人々で、シャントットに至っては彼女の席の回りに山のように本が積まれている。
オニオンナイトは仲間達の邪魔をしないように、足元の音に気を配りながら、並ぶ書架をぐるりと眺めてみた。

────と、


「リーダー」


そうやって呼ばれる事に、未だに慣れはしないが、それが今の自分を指している言葉だとは身に馴染んだ。
聞こえた声に振り返ってみると、濃茶の髪に蒼灰色の瞳、眉間に走る斜め傷───スコールだ。


「やあ。もう調子は大丈夫なの?」
「ああ」


オニオンナイトの言葉に、スコールは短く答えた。

スコールは先達ての魔女との戦いの後、飛空艇に乗り込んでから、しばらく念入りの休息を取っていた。
彼の仲間のは、この世界に召喚された者の殆どが、記憶に欠落がある状態で、尚且つ時代のズレもあったらしく、スコールは相当に気を回していたらしい。
同じ世界から来たリノアとアーヴァインは記憶を持っていたらしいが、アーヴァインは魔女との戦いが激化する直前、その記憶を奪われた。
それぞれの意思と思惑が複雑に交じり合う中、全ての記憶を持っていたスコールとリノアは、メンバーの支柱として奮闘していたと言う。
既に記憶を取り戻していたサンクレッド達が助言をしてくれてはいたものの、半ば追い詰められた心理状態でいた事も否めず、長らく緊張状態が続いていた反動か、飛空艇に乗ってから一気に疲れが出たらしい。
この為、昨日一日、スコールは限られた人以外とは会うことなく、自分に宛がわれた寝床に籠っていたそうだ。
それがこうして書庫にやって来たと言う事は、疲労も概ね落ち着いたと言う事だろう。

仲間が無事であったこと、そしてこうやってゆっくりと話が出来るようになったことは、オニオンナイトとしても喜ばしいものだ。
オニオンナイトは、スコールの手に小綺麗な本が一冊あることに気付き、


「スコールも読書?」
「……ああ。書庫があるって聞いたからな。俺の知っているものもあるかと思って、少し見に来たついでに」
「そう。読みたい本は見付かった?」
「一応。何度も読んだ奴だから、今更ではあるが」


そう言いながら、スコールは読書スペースへと移動する。
オニオンナイトはその背を眺めながら、スコールが何度も読むような本ってなんだろう、と思った。
彼はあまり自分のことについて、引いては自分の世界のことについても、必要最低限しか話すことはなかったから、彼の興味を引く事象と言うのはあまり他者に知られていない。
今度、スコールの世界にある本について聞いてみようか、と考えつつ、オニオンナイトは傍の棚から適当に目に付いた本を取る。
スコールと並んで座ると、彼はちらと此方を見遣ったが、それだけだった。

書庫は静かなもので、定期的にページを捲る複数の音と、本棚を行き来する足音の他は、パロムとユウナの密やかな話声が漏れ聞こえるくらい。
一枚扉の向こうでは、今日も賑やかな面々が行き来しているのだろうが、此処は隔離されたように穏やかだ。

そんな静寂の中で、ふ、とオニオンナイトは呟いた。


「……やっぱりスコールにとっても、僕がリーダーなんだね」


前後もない唐突な呟きだったが、思うとやはり零さずにはいられなかった。
もう何度も確かめた現実であるとは判っていても。

ページを捲ろうとしていたスコールの手が止まり、蒼灰色の瞳が伺うように此方を見る。
それから視線は本へと戻されたが、小さな唇が微かに引き絞られて、言葉を探しているようだった。
喋ることは決して得意ではない彼が、彼なりに何かを言おうとしている時の仕草なのだと、教えてくれたのはリノアだ。
だからそう言う顔を見付けた時は、じっくり待ってみて欲しい、とも。

スコールは読書の過程で丸めていた背中をゆっくりと伸ばして、椅子の背凭れに寄り掛かった。


「……“リーダー”に関する話については、ジタンとバッツから聞いた。本当は、あんた以外の“誰か”だったらしいことも」
「……うん」
「だが、悪いが幾ら考えても、その“誰か”の顔は出て来ない」
「うん。そうなんだろうって思ってた。この新しい世界に来てからは、皆そうだから」


致し方のない話だと、オニオンナイトも分かっている。
光の羅針盤が稀に映し出す光景に見える“彼”についても、それを知っていたのはプリッシュだけだった。
何人と話をしても、その記憶の齟齬を訴えても、デッシュでさえも───“彼”がいた場所には、今はオニオンナイトがいると言う。


「別に良いんだ、それについては。皆と再会して、何度も聞いた話でもあるし、光の羅針盤を辿って皆が集まることが出来れば、きっとまた“あの人”にも逢える。そうしたら、皆も思い出してくれる筈だって信じてるから」
「……」
「ただ、なんて言うか。僕は“あの人”みたいに皆を導いていける程、強くはないし。迷って悩んで、ぐるぐるしてばかりだから、“リーダー”なんて呼ばれる器でもないと言うか」


こんな事を言っては、自分を“リーダー”として標にしてくれる仲間達に、不安を与えてしまうと思う。
何度もそれを考えて、どうして自分なのだろうと零す度、沢山の人々に励まされて背を押された。
だからこそ自分なりに頑張ろう、と思う今に至るのだけれど、


「リノアやアーヴァインから聞いたんだ。スコールは元の世界で、指揮官だったって。そんなスコールにしてみたら、僕が“リーダー”なんて頼りないだろうな……って」
「………」
「……ごめん、こんな事言って」


オニオンナイトは緩く頭を振って、其処にかかる思考の靄を払おうと試みた。
既に自分の中でどうして行くかの心積もりは決まっているのに、過ぎる思考にどうしても心が囚われてしまう。
心に渦巻くそれは、堪えようとするほどに濃くなって行くから、時折吐き出さないと悪いものが溜まる。
とは言え、こんな所でそんな話をされても困るだろうと、今回その相手にしてしまったスコールに、オニオンナイトは詫びた。

読書の邪魔をしてしまったな、とこれ以上は喋るべきはないと思ったオニオンナイトだったが、


「……確かに、よく考えると、俺が覚えている“リーダー”の言動と、今のあんたを見ると食い違いはある、かも知れない」
「え?そうなの?」
「……かも知れないって話だ。俺も……元の世界の理があるから、記憶に関しては、色々と自信を持って言えない所がある」


そう言ってから、ただ、とスコールは言った。


「“リーダー”なんて言ったって、その形は色々ある。ぶれずに自分で決められる奴もいれば、色んな奴に気を配ってから決める奴もいるだろう。どっちが良いって言えるものでもない」
「でも、頼りないのは良くないでしょ。皆を不安にさせてしまう」
「……それならあんたは、どうすれば皆を不安にさせずに済むかを考えるだろう。“リーダー”だからって、仲間の誰にも頼っちゃいけない訳じゃない」


呟くスコールの表情には、微かに苦いものが滲んでいる。
それが、彼自身が自分のことを言っていると自覚する苦さの所為だと、オニオンナイトは知らなかった。


「誰かに頼ったり、相談したり。逆に、相談されることもあるだろう。その時、一緒に考えてくれるような“リーダー”も良い筈だ」
「……相談、かあ。そんな風に頼って貰えるかな、僕は」


スコールの言う事に頭で理解は出来ても、自分がそれに値するかと言われると、自信が持てなかった。
こと此処に及んで迷いを示すのは、良くないのだろうなと思いつつも、ぐるぐると巡る思考から抜け出すのは難しい。

そんなオニオンナイトを見て、スコールは言った。


「あんたは随分、話がし易い。だからあんたは、そのままで良いんだろう」
「……そうなのかな」
「少なくとも俺は、そう思っている」


蒼灰色の瞳が、彼にしては珍しく、真っ直ぐにオニオンナイトを映していた。
普段、あまり他者と目を合わせる事がない彼が、こうして真正面から捉えてくれると言う事は、その時口にする言葉が何よりも彼の本心だと言う事を示している。
澄んだ蒼の瞳が、彼の心の在処を、何よりも雄弁に語るから。

ややもしてから、スコールは「……喋り過ぎた」と小さく零して、視線を本へと戻した。
慣れない事を言った、と言う心境から、彼の頬は微かに赤らんでいるように見える。
オニオンナイトは、不器用な彼の、不器用な労わりを感じて、知らず強張っていた背中から力が抜けるのを感じた。



リーダー、と呼んでくれた隣の彼の声を頭の隅に思い出して、そこはかとなく面映ゆさが滲んだ。




3月8日と言う事で、オニスコ!
オニスコ?と思うような所ありますが、二人で話してればオニスコだと言い張る。

オペラオムニア終わっちゃったよ……の気持ちと入り交じり、うちでは珍しくルーネスではなく“オニオンナイト”で。
オペラオムニアが終わり、約十日間で3部後半から一気に駆け抜けたのですが、突然“リーダー”の立場に置かれた彼の奮闘ぶり。
そして元々ED後の記憶持ちで、本編中よりも少し素直になって、思ったことを言葉に出す努力をしているスコールの様子。
ゲームが大所帯であることもあり、作中でこの二人が絡んでる所って少なかったなぁ~と思いつつ、『突然リーダー役に祀り上げられた』者同士として、話をしてたら嬉しいなって言う願望でした。

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