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2022年03月

[オニスコ]飛び越えるには早いから

  • 2022/03/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


何をどう足掻いた所で、この世界に召喚された者たちの中で、自分が一番の年下である事は覆せない。
悔しく思わない訳ではないが、自分の時間だけが早回しに出来ない以上、仕方のない事だ。
また、それに固執して悔しく思う事そのものが、また子供っぽい、稚拙な気がして、ルーネスは敢えて其処についての言及は飲み込んでいる。

年齢によるアドバンテージと言うのは、中々に大きい。
単純に人生から来る経験値と言うものにも差が出るし、故に物事への想像やそれに対する応用力と言った枝葉の数も変わる。
長く生きた分だけ、その濃度は増して行くもので、故に突飛な出来事にも即時に反応できる躰があったり、思わぬ出来事があってもうろたえる事のない冷静さを持つ事が出来る。
幼い頃、何もかもが真新しい故に得られていた刺激が減る分、適応力と順応性が育っていると言う訳だ。

だが、そういったアドバンテージが、若さと言う力に絶対的に勝るかと言えば、そうではない。
歳をとると守りに入る、と言うのはよくある事のようで、危険への事前察知が強く働く分、そのラインを越えないようにと言うブレーキも効くようになるのだ。
無知を勇気というほど愚かではないつもりだが、故にこそ突破できるエネルギーも湧く事もある。
後先考えない行動はルーネスにとって好むものではないが、時によってはそう言うものも必要になる、と言う事は理解しているつもりだ。
逆にルーネスの場合、若いながらに頭が回る分、予測不可能な未知へと振り返らずに突き進む、と言うことへの抵抗が強い。

けれども、今日だけは、その未知へと突き進まねばならない。
突き進んでやるのだと、ルーネスは強く意気込んでいた。

─────しかし。

待ちに待った、と言うよりも、焦がれに焦がれた、恋人との褥の上で、ルーネスは息を飲んでいた。
屋敷では流石に、いけない事をしているような気がして、二人きりでの一時の遠出に誘ったのは、今から半日前のこと。
大の大人が二人も入れば満員になる、小ぢんまりとしたテントの中で、ルーネスはスコールを薄い毛布の上に横たえていた。
自身はその上に覆い被さるように、所謂馬乗り状態になっているのだが、その背中にさっきから汗が出て止まらない。


(やっと……スコールと……っ)


テントの準備をしている時から、ルーネスの心臓は早かった。
スコールが用意してくれた夕飯は、美味しかった筈なのだが、味はよく覚えていない。
今日こそ、今日こそ、と何度も意気込んでいた所為か、喉につっかえそうになっていたのは、気付かれずに済んだだろうか。
そんな夕飯を終えた後、先に寝て良いぞ、といつもの野宿のように休息を促すスコールに、一世一代の告白の気持ちで、ルーネスは言った。
「スコールを抱きたいんだ」────と。
告げた瞬間、スコールはぽかんとした顔で此方を見た。
存外と幼い印象を作る蒼の瞳が、夢でも見ているような表情を浮かべているから、ルーネスは夢じゃないと言う事を知らせる為に、もう一度同じ言葉を告げた。

ルーネスとスコールが恋人同士と言う関係になってから、もう二ヵ月が経っている。
どちらも現実主義の面がある故に、この関係が傍目にどう映るのかと言う予想は立っていて、他の仲間達には秘密にしていた。
故に愛はひっそりと交わされており、元々、あまり交流が多いと思われていない二人であったから、互いを何かに誘うタイミングと言うのも碌々なかったものだから、初めてのキスをしたのも、つい二週間前のことになる。
それから、人目を避けてほんの少しの間手を繋いだり、頬や瞼にキスをしたりと言う触れ合いを重ねてきた。
不便は少なくないが、それでも誰にも内緒で育む愛は、ちょっとしたスリル感もあって、言う程不自由ではないような気もして、ルーネスはそれ自体に不満は多くはない。

しかし、存外と人間の心は我儘なもので、ルーネスはもっとスコールを感じたい、と思うようになった。
手を繋いで、キスもして、それ以上に彼が欲しい。
もっともっと内側で、彼と一つになって交じり合いたい。
そう言う気持ちがむくむくと芽吹き育って、ルーネス自身にも止められなくなっていた。

だからスコールを連れ出して、此処なら多分危険も少ない、と言う場所を、敢えての探索ポイントに当てた。
欲しいアイテムがあるから必要になる交換素材を集めるのを手伝って欲しい、と言えば、別の誘いも約束もなかったスコールは、構わない、と頷いた。
そうして素材を集める傍ら、今、いやもう少し、やっぱり夜に、とタイミングを計り続けて、夜を迎える。
明日には拠点に戻らなくてはならないから、此処まで来たのに意気地のない結果になるのは駄目だと、自分を鼓舞してスコールをテントに誘った。

スコールと一緒に寝たいんだ、と言ったら、二人の野宿だから無防備になる、と言われた。
重ねて頭を撫でられ、我儘を言う幼子を宥めるように、口端に柔らかい表情を浮かべるスコールに、胃とが伝わってない、とルーネスも判った。
精一杯の勇気を振り絞ったのに、と肩透かしを食らったが、いやこれは仕方ない、と自分に言い聞かせる。
逆の立場ならルーネスだってそう思うだろうし、そもそも今夜そのつもりで誘い出したことなどスコールは知らないのだから、ルーネスの誘いが子供の駄々に見えるのは無理もなかった。
ならばいっそと、意を決して事の真意を告げれば、ようやく理解した彼は数拍遅れて真っ赤になってくれたのだった。

その後、「火の番がいる」「何かが襲ってきたら」「こんな所で」とスコールは言ったが、彼は気付いていただろうか。
ルーネスを止めるように促す言葉の羅列の中に、「嫌だ」と言う類の単語が一つもなかった事に。
混乱もあってか、年上の矜持か、ルーネスが暴走したとでも思ったか、宥めようとする言葉は幾つも並べていたけれど、一番わかり易い拒絶の言葉を、彼は終ぞ使わなかった。
それをルーネスが逆に「嫌なの?」と問えば、ぐっと詰まったように音を失ってしまう。
だったら────とルーネスが今一度、真っ直ぐに蒼い宝石を見詰めると、遂にスコールは応えてくれる事になったのだった。

────と、二人でテントに入った訳だが、其処からがルーネスには大緊張だ。
ジャケットを脱いでラフな格好になったスコールが、寝床の毛布の上に落ち着いただけで、心臓が飛び出そうな位に煩くなる。
ルーネスも鎧を外し、アンダーのみの格好になって、スコールの前に近付いた。
座っていたスコールの肩を押して、ゆっくりと横たえると、彼は抵抗なく布地の上に転がって、少し伏せた双眸で見下ろす年下の恋人を見上げる。


(────………っ)


ルーネスはこの世界に存在する者の中で最年少であるが、身長も低い。
必然的に他のメンバーの事は見上げなくてはならず、目線の角度は上へと向くのが常だった。
スコールはウォーリアやフリオニールには負けるが、長身痩躯と呼んで障りない体格をしている。
勿論、ルーネスの事も常に見下ろす側にあって、キスをする時には必ず彼が屈んでくれなくては出来なかった。
それが今は真っ直ぐ、それも見下ろす場所にあると言う事に、ルーネスは言いようのない興奮を覚える。

ともすれば変に逸っている呼吸を漏らしそうで、ルーネスは唇を噛んでいた。
それを意識してゆっくりと力を解き、スコールの顔へと近付ける。
ちゅ、と瞼にキスをすると、「……ん……」とスコールが小さく音を漏らすのが聞こえた。


(まずは、えっと……服を脱がせた方が良いよね)


長い睫毛に飾られた目元が、眩しそうに細められるのを見ながら、ルーネスは考える。
そぅっと白いシャツに手を伸ばし、その裾を摘まんで持ち上げてみると、スコールは心得たように、床から少し背中を浮かす。
するするとシャツが上って行くのに合わせ、今度は肩を浮かせて、両手を上に上げ、最後に頭を持ち上げた。

上半身を裸にして、スコールは少し寒そうに身震いする。
着せたままの方が良かったのだろうか、とルーネスが思っていると、スコールの手が徐に持ち上がって、ルーネスの腕に触れた。
それだけでどきりと口から心臓が飛び出そうになったルーネスを、静かな蒼がじっと見つめる。


「……ルー、」


ルーネスの腕を滑った手が、まだ未発達さのある少年の脇腹へと移動した。
アンダーシャツとボトムの隙間から覗く微かな隙間に手を入れて、肌をするりと撫でられる。
ごくり、とルーネスの喉が鳴った。


「僕も、脱ぐね」
「……ああ」


逸る鼓動を隠し、努めて余裕な顔を作りながら、ルーネスは自分のシャツを脱いだ。

スコールは細い細いとよく皆に言われるし、ルーネスもそう思うのだが、それはやはり、周りに分厚い体の者が多いからだろう。
実際の所、スコールは脂肪が少ない引き締まった体付きをしており、決して華奢には出来ていない。
頑健なシルエットにならないのは、どうやら元々肉が付き難い上、彼の世界の法則にある“ジャンクション”と言う性能により、極端な筋肉トレーニングの類が不要である事も理由と思われる。
とは言え、傭兵育成機関に在籍していると言う事もあり、身長に見合った全体バランスの取れた体付きをしていると言って良いだろう。

スコールの裸なら、風呂場で何度も見たものだったが、今この瞬間にそれを目の当たりにして、ルーネスは目の奥がチカチカとするのを感じた。
テントの外でまだ揺れている、けれど徐々に小さくなる焚火の明りを頼りに、暗がりの中に浮き上がる白い肌。
煌々とした場所でない環境で見るそれは、非日常の光景に似て、ルーネスは夢を見ているような感覚に陥る。


(でもこれは、本物────)


ルーネスの手が、ひた、とスコールの肩に触れる。
汗ばんだその手を冷たく感じて、スコールの体がぴくりと反応した。
その僅かな仕草だけで、ルーネスの心臓は逸馬の駆け音のように加速して行き────


「ルー、待て」
「え?」
「その……鼻血が出てる」
「えっ!?」


場の雰囲気を壊してしまう事への躊躇か、一瞬言葉を探すように口籠ったスコールだが、結局はストレートに言った。
それを受けてルーネスが目を丸くする間に、つぅ、と鼻下に温冷たいものが垂れて来る。
慌ててルーネスがそれを手の甲で擦ろうとすると、すぐにスコールの手がそれを掴んで止めた。


「うわ、あ、」
「動くな。顔を上げるな」
「んぐ」
「じっとしていろ」


スコールはルーネスの鼻を右手で摘まみ、頭を上げないよう、後頭部を柔く押さえて俯かせた。
鼻溝を伝い落ちて行くものが、唇の上蓋からぽとりと落ちて、スコールの腹に赤い色が乗る。
それを見て、うわあ、とルーネスは青くなったが、頭を押さえる優しい手は離れてくれなかった。

一分、二分と、ゆっくりと───少年にとっては非常に気まずい───時間が流れる間、スコールは繰り返しルーネスの顔を覗き込んできた。
大丈夫か、眩暈は、息は出来ているかと訊ねるスコールに、ルーネスは頭を動かさないように努めて、うん、だいじょうぶ、と答える。
そうして茹りかけていたルーネスの頭もすっかり冷えた頃に、スコールはそっと抑えていた手を離す。

のろのろと頭を上げたルーネスに、スコールは荷物の中にあったガーゼを渡した。
意図を組んでそれで鼻を包んでは離して、鼻の具合を確かめる。
どうやら止まってくれたと判じた後、ルーネスはスコールの右手に付着しているものを見た。


「……ごめん、ありがとう」
「落ち着いたか」
「……うん」


努めていつも通りに返事をしたつもりのルーネスだったが、その声は自分でも判り易く消沈していた。
それも無理からんことである。


(格好悪い……)


自分からこの状況に持って行ったのに、まさか鼻血を出すなんて。
これから遂に、と思ったら、どうしようもなくアドレナリンが出て、興奮がピークを振り切った。
挙句に鼻血が出て、それにも気付かず、恋人の手を煩わせるなんて、何もかもが台無しだ。

スコールは手や腹に付着した血を拭き取ると、まだ薄く小さい肩を落としている少年を見た。
見て判る落ち込み様のルーネスに、スコールは何か言った方が良いのだろうか、と思ったが、なんとなくルーネスを余計に傷付けそうな気がして、迂闊に口を開けない。
しかしこのままはより気まずい、と言うのは読み取れた。

そんなスコールの気配を、ルーネスもまた感じ取っている。
ルーネスは自分への情けなさで、また漏れそうになる溜息を飲み込んで、顔を上げた。


「その……ごめんよ、スコール。僕の方からしたいって言ったのに、こんな」
「……良い。気にするな。……でも、今日はもう、止めた方が良い」


スコールの言葉に、だよなあ、とルーネスは思った。

折角ここまで来れたのに、こんな所まで呼び出してやっとだったのに。
そんな思いがありはすれども、醜態を曝してしまった今、諦め悪く食い下がる事は出来なかったし、何よりまたスコールに心配をかけてしまうだろう。
大人しく俯いていると、スコールの腕がルーネスの肩に伸びて来て、優しく引き寄せられる。
興奮の後に、蒼褪めて冷や汗まで掻いたので、ルーネスの背中は酷く冷たくなっていた。
それを包み込むように抱き締められる感覚に、ルーネスはあやされる子供のような気分になったが、


「……次」
「え?」


ぽつりと耳元で聞こえた声に、何、とルーネスが問い返すと、


「……次は多分、もう少し、進めると思う」
「……スコール」
「……だから今日は、ここまでだ」


急がなくて良い、寧ろ急いでくれるなと、そんな風にスコールは言った。
告げる声が少し安堵しているように聞こえたのは、彼が緊張していたと言う証左だろうか。
それを隠して、抱きたい、と言ったルーネスに応えようとしていたのか。

ルーネスは、自分が焦って急いていたのを自覚せざるを得なかった。
恋人ともっと深く繋がりたいと願うのは当然の事であっても、スコールの気持ちもきちんと考えなくてはいけない。
自分の事しか考えてなかったなあ、と反省しながら、ルーネスはスコールの背中に腕を回す。


「……ねえ、スコール」
「……なんだ」
「このまま一緒に寝ても良い?」


思えば、こうして密着して夜を迎える事すら、滅多になかった。
触れ合った皮膚が温かく溶け合うなんて初めての事で、これだけでルーネスは心臓が逸って止まらない。
そして重ね合わせた胸の奥で、スコールの鼓動もまた、ルーネスと同じように早鐘を打っている。
二人は、まずは此処から慣れなくてはいけなかったのだ。

見張りが、と言うかと思ったが、スコールは黙ったまま、体を横にした。
毛布の上に二人で寝転がり、徐々に焚火も消えていくのを幔幕の向こうに感じながら、二人で目を閉じる。
ルーネスの耳には、恋人の緩やかな呼吸と、少し早い鼓動だけが聞こえていた。





3月8日と言う事で、オニスコ。
初めて同士で頑張ってみるけど、上手くはいかないねと言う話。

Ⅲの世界は昔ながらのファンタジー色が強い世界なので、バッツ程じゃなくても、ルーネスもまあ多少早熟気味でも可笑しくはない?かな?
とは言え彼は(Ⅲの主人公たちの設定に則れば)孤児だし、田舎町で育ったので、ソッチの経験がそうあるともないかなと。耳年増はあると思う。
スコールの方は授業と、ありふれたメディア類、思春期の学生なので周りでそんな話も出て来るだろうけど本人がああだし、保健体育の知識はあっても経験はさっぱり。

皆に内緒の関係だけど、目敏いメンバーは気付いてるんでしょう。やきもきしながら見守り中です。

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