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2016年03月

[レオスコ]銀色の契り

  • 2016/03/14 22:16
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あまりホワイトデーっぽくはないですが、バレンタインの[甘い香りと銀色と]の続きに当たります。





一ヶ月前のバレンタインの日、スコールは兄の為にチョコレートケーキを焼いた。
生まれて初めて作ったガトーショコラは、思いの外良い出来で、兄も嬉しそうに食べてくれた。
小さな12センチのホールケーキは、四日をかけて消費され、食べる度にレオンがコーヒーを淹れてくれた。
豆から選んだレオンのコーヒーは、甘いガトーショコラの上手さを引き立てる、抜群のバランスだ。
そして、レオンからスコールへと贈られたシルバーリングは、大事に大事に机の引き出しに仕舞ってある。
つけてくれれば良いのに、とレオンにさりげなくねだられたが、うっかり傷を付けたり、落として失くしてしまうのが嫌で、どうしても身に着ける気にはならなかった。

それから一ヶ月が経ち、俗にバレンタインのお返しをする日とされるホワイトデーがやって来た。
これまた世間の勝手な俗説であるが、バレンタインのお返しは、三倍返しが基本だと言う。
しかし、バレンタイン限定で販売されたシルバーアクセサリーに対し、三倍の価値のあるもので返せと言われたら、スコールは破綻してしまう。
レオンがスコールにとプレゼントしたリングは、社会人であり、其処で地位を築いているレオンだから渡せたものであって、スコール自身では絶対に手が届かない代物だったのだ。
アルバイトをしても、桁が一つ二つ違う物なので、これに見合う物など、学生のスコールが見付けられる筈もなかった。

それでも、出来れば何か返したい、と言う思いから、スコールは今朝、出勤前の兄を呼び止め、「バレンタインのお返しは何をすればいい?」と訊ねた。
バレンタインは、こっそりガトーショコラを作って兄を驚かせると言うサプライズ───結局、ケーキが焼き上がる前に兄が帰って来たので、成功したかは半々と言った所か───をしたスコールだったが、今回はそれは諦めた。
バレンタインのように、チョコレートと言った代表的なものがこれと言って思い付かなかったし、当日が平日と言う事もあり、前回のように準備をする時間もなかった。
兄を驚かせる事は出来ないが、率直に、彼が欲しいと思うもの、喜んでくれる事をしようと思ったのだ。

そしてレオンからの返事は、


「じゃあ、今夜は一緒に食事に行くか」


────と言うものだった。

普段、レオンとスコールの食事は、専らスコールが料理をしている。
レオンの帰りが遅い事もあって、日常的な家事一般の殆どは、スコールが担っているのだ。
そんな生活の中、外食を促されると言うのは、スコールにとっては準備と片付けの手間が要らない為、嬉しい事ではある。
が、それでは“レオンの為のお返し”ではなくなってしまうのではないか、とスコールは思った。

しかし、レオンの本当の“して欲しい事”はその先にあった。

……その言葉を聞いた後、スコールはしばらくの間、玄関前で立ち尽くしていた。
行ってきます、と兄が玄関を出てからも、五分程はフリーズしていたように思う。
遅刻しないようにと毎日鳴るようにセットしていたアラームのお陰で我に返ると、慌ただしく自分の支度を整えて出たので、学校には遅刻せずに済んだ。
しかし、その日一日、スコールの頭の中には、兄の言葉がこびり付き、勉強にはまるで手がつかなかった。

夕方になって家に帰ると、スコールは直ぐに自分の部屋に入った。
鞄をベッドに投げて、机の引き出しを開け、小さな黒いボックスを手に取る。
そっと蓋を開ければ、傷一つも埃一つもない、真新しいままのシルバーリングが収められている。


(……これを……)


今朝の兄の言葉が、頭の中で蘇る。
今日、学校にいる間、何度も何度も繰り返し再生していた言葉だった。

レオンはスコールに、食事に行く際、このシルバーリングを身に着けて欲しいと言った。
傷をつけるのが嫌で、身に着ける事を躊躇っていたスコールだったが、兄にねだられる事は吝かではない。
だから今までにも、家の中で何も作業をしない時、少しの間だけ嵌めていた事はあった。
それを見付けると、レオンが嬉しそうに笑ってくれるからだ。
その後、どうにも恥ずかしさと浮つく自分に耐えられなくて、二時間もうするとボックスの中に戻してしまうのだが。

だから、決して嫌ではないのだ。
外で落として失くしたくないと言う気持ちはあるが、リングはちゃんとスコールの指のサイズに合っていて、そう簡単には抜け落ちたりしない。
それでも余り身に着けようとしないのは、大事にしたい余りに過保護にしてしまっている所為だ。
それに一時目を瞑り、兄を喜ばせる為、リングをボックスから取り出すのは、一向に構わない。

─────構わない、けれども。


(……指……)



普段スコールは、シルバーリングを身に着ける時、邪魔にならない左手に嵌めている。
指の位置は特に定めてはおらず、デザインや微妙なサイズのフィット感から、適当に選んでいた。
どの指に嵌めるかで意味があるだとか、ジンクスやらと謂れはあるようだが、スコールはその手の話には興味がない。

ないが、“其処”に指輪がある事にどんな意味があるのかは、判っている。

ちらりと部屋の時計を見ると、直に短針と長針が一直線になろうとしている。
いつもならもう少し早く帰って来るのだが、試験結果が思わしくなかったクラスメイト達の補習終わりを待って帰宅したらこの時間だった。
クラスメイト達が待っている間にも、兄の言った言葉について考えていたのだが、気持ちの進展は全くなく、ただただ考え待ち続けていただけであった。

その傍ら、巡らせ続けていた思考が、本当は大した意味を持っていなかった事も、自覚している。


(……別に……嫌な訳じゃない)


取り出した指輪をじっと見詰め、スコールはきらきらと光る反射に射抜かれる双眸を細めた。

徐に左手を広げて、右手に持ったリングを中指へと通す。
リングは細いスコールの指をするりと潜り、付け根の手前で止まる。
そのまま手を握り開きと繰り返してみるが、特に邪魔立てするような感触もなく、上手く収まっているように見える。
指に通したままのリングを、右手の親指と人差し指で摘まみ、左右に回すように動かすと、指の付け根に摩擦の抵抗感が伝わった。


(……此処でも良いんだろうな。別に。多分何処でも)


中指でも良いし、人差し指でも良い。
親指は流石にサイズが違うので嵌らないだろうが、可能であれば、其処でも良いのだろう。
だから、素知らぬ振りをして、このまま中指につけていても良いし、いっその事右手でも構わないに違いない。
ひょっとしたら、チェーンを通してネックレスにしても良いのかも知れない。
大事にしすぎて身に着ける事を躊躇う指輪を、スコールが身に付けているだけで、きっとレオンは満足してくれる。

だが、彼の喜ぶ顔が見れるのは、それは一等良いものであって欲しい。
そんな気持ちを抱きながら、スコールは中指に通した指輪を抜き、隣の指へと通した─────その時だ。


「ただいま、スコール」
「!!」


がちゃっとドアを開ける音と共に聞こえた声に、スコールは思わず肩を跳ねさせた。
丸く鳴ったままの目で振り返ると、驚いた顔の弟に、きょとんと不思議そうに首を傾げる兄が立っている。


「レ、レオン……」
「ああ。どうした、そんなに驚いた顔をして」
「あ……は、早かったから」


スコールは身体の向きをレオンに対させると共に、左手を背中に隠しながら言った。
時計を見ると、いつの間にか長針が頂上を僅かに過ぎている。
ぐるぐると考え込んでいる内に、時間が経ってしまったようだ。
それでも、平時のレオンの帰宅時間を思えば、遥かに早い訳だが、その理由は明らかだ。


「今日は外に食べに行くからな。余り遅くなったら、お前も腹が減るだろう」
「……別に……」
「そうか?でも、食べる所は予約してしまったからな。この時間には帰っておきたかったんだ」
「予約……じゃあ、直ぐに出るのか?」
「そうだな……今から出れば、丁度良い時間には着くと思う」
「着替えるからちょっと待ってくれ」
「ああ。俺も直ぐに着替えて来るよ」


そう言って、レオンはスコールの部屋を後にした。

レオンが店を予約したと聞いて、一瞬、ドレスコードが必要になるような高級店を思い浮かべたスコールだったが、仕事で使うのならともかく、弟と食事に行くだけなのにそんな場所は選ぶまい。
服について指定がある様子もないし、レオンも着替えるようなので、特に気取る必要はないのだろう。

制服を脱いで、カジュアルながら落ち着いた色味の服を選ぶ。
何処に連れて行かれるのか判らないが、静かでのんびり食事が出来る所であれば良いと思う。
その辺りは、レオンも同じ趣向なので、恐らく心配しなくて良いだろう。

一通りの身支度が済んだ後、スコールはふと、左手に嵌めたままの指輪を思い出した。


(……これは……)


レオンが帰って来た時、勢いで嵌めたままになった指輪。
嵌められた指を見て、一気に顔が赤くなり、過剰に意識している自分が酷く恥ずかしく思えた。
こんな思いをする位なら、とリングを抜こうと右手の指をかけた所で、スコールの動きが止まる。

今朝、玄関先で聞いたレオンの言葉が蘇る。
その時、蒼灰色の瞳が、とても柔らかく優しく、ほんのりと熱を孕んでいた事を思い出した。



スコールは自室を出て間もなく、レオンも部屋を出て来た。
タクシーを呼んであるから、と言う兄に、スコールは契りの指に嵌めた指輪を背中に隠したまま、頷いた。





ホワイトデーでレオスコ!
あんまりホワイトデーっぽくない気もしますが。バレンタインで貰った物を身に付けて、と言う事で。

スコールは隠してますが、どうせバレてるんだよ。部屋に入った時からレオンは気付いてるんだよ。恥ずかしそうに隠すのが可愛いので、言わずに見てるレオンでした。

[ラムスコ]聞きたい事、知りたい事

  • 2016/03/08 22:32
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ディシィアに参戦したので、ラムザを書いてみた。
タクティクスはプレイしましたが、偽物感一杯。





秩序の女神の下、新たに召喚された戦士は、年若い少年であった。
年齢を聞けば、スコールやティーダ達と言った“年下組”とそう変わらない。
一見すると女顔とも揶揄されそうな童顔であるが、何処か世間知らずにも見える外観とは打って変わって、剣には培われた技術と魂が籠められている。
目覚めたばかりである為、持ち得る記憶は少なく、彼の軌跡を確かめる事は本人でさえ出来ていないが、それでも彼が自身の事を「傭兵」と名乗った事を納得させるだけの材料にはなった。
────「傭兵」と名乗った時、僅かにその表情に苦味が滲んでいた事は、目敏い者なら感じ取っただろうが、それについて訊ねても、恐らく本人もその感情の出所は判っていないだろう。
判っていたとしても、可惜に他人が踏み込んで良い事とも思えず、似たような感覚を持つ者も少なくない為、気付かない振りをするのが暗黙の了解となっていた。

戦闘に置いて、彼の力は非常に有用である。
剣と魔法の両方にバランスが取れており、仲間をサポートする魔法も持っている。
重みのある一撃を放つクラウドや、脚で駆け回って敵陣を引っ掻き回すティーダやジタンと言ったように、一方に突出した能力を持つ者と向き合うとやや押される所もあるが、これはオールラウンダーの苦い所か。
しかし、前衛にも後衛にも配置できる人物がいると言うのは、非常に有難い事である。

と言ったように、様々な方面で活躍する力を持った人物であるが、その性格はやや控えめで大人しい。
賑やかし屋が多い年下の中では、やや印象が薄くなる事も儘あった。
雰囲気で言えばセシルに近く、わいわいと騒がしい面々を遠目に眺め、適当な所で声をかけて諌めている。
かと思ったら、案外とノリの良い所もあり、賑やか組に遊びに誘われると、ちゃっかり参加している事もあった。
ティーダのように明らかにテンションが高くなると言う事は───今の所───ないが、年相応の少年らしい一面も持っているようだ。

そのラムザと、スコールは共に行動していた。
持ち回りで行っている、秩序の聖域近辺の見回りと、イミテーション退治の為だ。
パーティにはジタンとバッツも同行しており、彼等はあちらこちらへちょこまかと寄り道しながら歩いている。
ラムザはそんな二人を楽しそうに眺め、スコールは溜息を漏らしながら、規定のルートを進む。

神々の闘争や、あちこちに蔓延り襲い掛かってくるイミテーションの事など、最低限を説明すればラムザは程無く理解した。
状況が状況、応じなければ元の世界に戻れないだけに、理解せざるを得なかったのはあるだろう。
それでも、セシルやクラウドが必要な事を話すと、それだけで自分のするべき事、置かれた状況を理解し受け止めたのだから、決して愚鈍ではないのだろう、とスコールは分析している。

その証左ではないが、不可思議な次元の扉のような役目を持つ“歪”についても、彼は既に馴染んでいる。


「スコール、あの歪。赤い色だ」


指差したラムザに倣って目を向けると、確かに赤く光る紋章陣があった。
赤色の歪は、混沌の侵食を受けて、イミテーションがうろついている可能性が高い。
此処から出現し、聖域周辺をうろつき回るイミテーションも出てくる為、早い内に混沌の力を消し、浄化してやる必要があった。

スコールは少し後ろでじゃれ合いながら歩いていたジタンとバッツに声をかける。


「ジタン、バッツ。歪に入るぞ」
「ほいほーい」
「おれ一番!」
「あ、ちょっと。もう少し慎重に────」


ジタンとバッツは、スコールとラムザを追い越して、先を取り合うようにして歪に飛び込んだ。
危険度を確認してから、と呼び止めようとするラムザの声は、虚しく宙を掻く。

ぽかんと立ち尽くすラムザに、スコールは一つ溜息を吐いて、


「いつもの事だ。言っても無駄だから、好きにさせておけば良い」


言いながら、スコールも歪へと飛び込んだ。

光が氾濫する数瞬を過ごした後、スコールは硬い雪を踏みしめた。
何処だ、と辺りを見回すと、見慣れない雪景色が広がっている。
初めて見る歪内の光景に、眉根を寄せていると、後を追って来たラムザが雪の上で蹈鞴を踏んだ。


「おっと……雪のある世界か」
「……初めて見る世界だ」


スコールの呟きに、「そうなのか?」とラムザが確かめるように訊ねる。

雪に覆われた景色は、闘争の世界にも存在しているが、此処はその雪山ではなさそうだった。
真っ白な斜面のずっと下方───麓と思しき場所に、小さく人里のようなものが見え、煙を焚いている煙突もあった。
斜面を挟む道は、高い崖で挟まれており、これもスコールには見覚えのないものだ。

先に飛び込んだジタンとバッツは何処に行ったのか、と見回してみると、高い崖の上に立って斜面の道を見下ろしている。
斜面には、真っ白い雪が光を反射させて見え難かったが、ガラス細工の人影がうろついているのが確認できた。
動きはぎこちなく、ロボットにも見えるので、どうやら下位のイミテーションのようだ。

スコールとラムザの到着に気付いたジタンが、スコール達に向かってハンドサインを送る。
崖の下に二体、更に下った位置に二体のイミテーションがいるようだ。
レベルはどちらも低そうだが、早目に片付けてしまおう、とスコールがガンブレードを握ると、ラムザも腰のロングソードを抜いた。
ジタンとバッツは、「オレ達はあっち」と斜面の向こうを指差して、崖を大回りして駆けて行く。


「スコール。僕は援護に回った方が良いかな」


新たに召喚された身とあって、この世界に限って、ラムザはまだ経験が少ない。
それ以前から存在している混沌の戦士の特徴、それを真似て動くイミテーションに対しては、まだまだ情報が少なかった。
この為、敵のレベルが高い状態であれば、ラムザは可惜に近付かず、援護に回っている事が多いのだが、


「いや、あそこにいるのはガーランドと皇帝のイミテーションだ。イミテーションのレベルも低いし、皇帝は放って置くとこっちの動きを封じるように動くから、こっちから近付いて片付けた方が良い。ガーランドは俺が相手をするから、そっちを任せる」
「判った」
「足元に気を付けろ。罠を仕掛けてくるからな」


必要となるべき点を簡潔に伝えると、スコールは地面を蹴った。
足元の雪は、水分が少なくさらさとしたパウダー状になっており、踏み込むスコールの足を沈めてしまう。
それに足を取られないように注意しつつ、スコールは猛者と暴君へと肉迫した。




スコールの分析通り、イミテーションは簡単に片付ける事が出来た。
離れた場所にいた二体の下へ向かったジタンとバッツも、スコールとラムザの戦闘終了後、無事に合流を果たす。

その後、ジタンとバッツは雪合戦をして遊び始めた。


「うりゃ!」
「とうっ!」
「あいてっ。お返し!」
「うおぉっ!」


崖に挟まれた斜面の真ん中で、手早く作った雪玉を投げ合う二人を、スコールは崖の上から眺めていた。
近くにいると巻き込まれるのが想像に難くないので、さっさと避難したのは正解だった。
柔らかなパウダー状の雪で作られた玉は、当たっても直ぐに弾けてしまうので、大して痛くはないが、やはり冷たい。
基本的に寒い事を嫌うスコールが、雪玉遊びに参加する訳もなかった。

そんなスコールの背中に近付いて来たのは、ラムザだ。
ざくざくと雪を踏む音を鳴らす仲間を、スコールは肩越しに見遣って、直ぐに崖下へ視線を戻す。


「少し周りを見て来た。他にイミテーションはいないみたいだ」
「そうか」
「ジタンとバッツは……楽しそうだな」


崖下で無邪気に雪遊びに耽っている仲間を見て、ラムザはくすりと笑った。


「スコールは参加しないのか?」
「断る」
「楽しそうだよ」
「それなら、あんたが参加すれば良い。俺はこの世界を調べて来る」


立ち上がって、足元にまとわりつく雪埃を払い、スコールは仲間達に背を向けた。

この雪景色は、初めて見るものだ。
歪の中の景色は幾つもの世界の断片が混ざり千切れて存在している為、その時限りで二度と見る事が出来ない世界も在る。
しかし、そうした消え行く断片の世界には、イミテーションが湧いてくる事はなかった───少なくとも、今までの経験では。
イミテーションが存在すると言う事は、其処に混沌の力が流れ込んで定着している訳だから、新たな世界の断片として、歪の中で繰り返し出現する可能性がある。
下位のイミテーションだけで事が済んだ今の内に、この世界の特性や、注意するべき物事を確認して置いた方が良いだろう。

ざくざくと深い雪を踏みながら歩いていると、後ろから同様の音が聞こえてきた。
振り返れば、進む毎に深くなる積雪に足を取られつつ、ラムザが後を追って来る。


「手伝うよ、スコール。此処、スコールも初めて見る世界なんだろう?」
「……ああ」
「それなら単独行動は危ないんじゃないか」
「……眩しい奴と同じ事を言うな。俺はそんなに弱くない」


眉根を寄せたスコールの言葉に、「眩しい奴?」とラムザは首を傾げる。
スコールはそんなラムザからついと視線を逸らし、雪向こうに点々と岩が顔を出している高場に向かう。
ラムザは足を速めて、スコールの隣へと並んだ。


「別に弱いとか強いとかって言う問題じゃないさ。ただ、色々見ておきたいんだ」
「……色々?」
「地形とか、使えそうな物とか。僕はまだこの世界の事もよく判らないし、出来るだけの事はしたい。皆の足を引っ張りたくないから」


真面目な奴だ、とスコールは胸中で感想を零す。
だが、向上心があるのは良い事だし、慣れない場所で単独行動が危険と言うのも事実。
況して雪深く足元が取られやすい場所は、奇襲されると厄介で、一人では目の届かない範囲を補える者がいるのは有難い事だ。

崖の向こうでは、まだジタンとバッツが雪遊びに興じている。
彼等の力はスコールもよく知っているし、傍目にはただ遊んでいるようでも、視野が広い彼等の事だ、異常があれば直ぐに気付いて切り替えるだろう。
ついでに、スコールとラムザが場所を離れた事にも直に気付くだろうから、その内追って合流して来るのも、想像に難くない。


(……それまでに確認できる所はして置くか。こいつなら、あの二人のように騒がしくはならないだろうし)


何故かジタンとバッツによく絡まれるので、賑やかし事の中心に巻き込まれているが、元来、スコールは静寂を好む性質である。
控えめな性格のラムザとなら、苦になる事はないだろう───と、思ったのだが、


「それに、スコールの事も色々見ておきたいんだけど、駄目かな」
「……は?俺?」
「僕達、普段はあまり話をする機会もないだろ?」


ラムザの指摘は事実で、スコールは普段、ラムザとほぼ接点を持っていない。
召喚されて間もなかった為、パーティを組む時は、セシルやフリオニールと言った気遣いの上手い面々と一緒にいる事が多く、単独行動が多い、或いは自由───一歩間違えれば、トラブルメーカーにもなる事がある───なジタンやバッツと共にいる事が多いスコールとは、パーティを組む事がなかったのだ。
スコールはそれを深く気にした事はないが、ラムザの方はそうではなかったらしい。


「いつかスコールとゆっくり話が出来たらって思ってたんだ」
「……そう言うのは、俺はパスだ。大体、記憶の回復も大して進んでいないのに、何を話せって言うんだ?」
「それは僕も同じさ。だから、この世界でスコールが感じた事や、出逢った事を教えて欲しい。僕はこの世界の事もよく知らないから、勉強の一環として聞きたいんだ」
「……」
「もっと君達の力になりたいんだ。だから、頼むよ」


何れにしろ、スコールにとっては宜しくない話題である。
しかし、ラムザも引くつもりはないようで、「少しで良いから」と言って来た。
こう言う手合いは、断っても断っても諦めはしないのだと、先に同じように食い付いて来た仲間達から学習している。

対して面白い話は無い、と最後の言い訳のように言ったスコールだが、それでも良いよ、とラムザは笑った。





ディシディアアーケードに参戦と言う事で、ラムザ×スコールを目指してみた。

タクティクスはプレイしましたが(途中までだけど)、物語が物語なだけに、ラムザの明るい所って殆どないんですよね。大体がシリアスなシーンだから、素の喋りと言うものがあまり浮かばない。
公式で年齢が出てないと思うのですが、個人的には17歳前後だと思ってます。なので同年代のスコールやティーダ、ジタン達とわいわいやってくれたら楽しいなーと。

[オニスコ]僕だけの為の先生

  • 2016/03/08 21:42
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教育熱心な両親の薦めで、家庭教師を雇う事になったのは、今から半年前の事。
自分でも自覚がある程に成績優秀な自分が、どうしてそんなものを必要としなければならないのか、初めの頃は随分と反発したものだ。
なんでも、両親同士が知り合いで、相手方の息子は進学校に在籍しており、成績も優秀だから信頼できると言うが、ルーネスには其処は大した問題ではなかった。
きちんとした教育免許を持った大人ならまだしも、アルバイト、それも大して年齢の変わらない高校生になんて、何を教われと言うのか。
今にして思えば、随分と生意気な言い分であるが、当時はそれを言い切れるだけ、自分に自信があったのだ。
結局、両親に辛抱強く説き伏せられ、先ずは一ヶ月だけのお試しと言う期限を設けた上で了承した。
その間に自分が如何に優秀かを見せつければ、家庭教師の方も「教える必要はない」と退散してくれるだろう、と言う腹積もりで。

しかし、意外にも、半年が経った今でも、家庭教師は止める事なく続いている。
それ所か、週に二回の家庭教師を伴った勉強の時間を、ルーネスは待ち遠しく思うようになっていた。
彼が家に来る事が、自分の部屋で二人きりで勉強をする時間が、楽しみになっていたのである。

その待ちに待った時間、ルーネスは学年末テストの結果を彼に見せた。
其処に綴られた点数を見て、彼───スコールは、鉄面皮に近い顔を、僅かに緩ませる。


「オール満点か」
「ね、言った通りだったでしょ」


胸を張って言うルーネスに、確かにな、とスコールは言った。

学年末テストが実施された直後、ルーネスはスコールに対し、「絶対に全部100点だよ」と言い切っていた。
スコールに見て貰いながら、自己採点も繰り返し、それも全てパーフェクト。
何も心配する事はない、と言うルーネスの自信は、確固たるものであり、その言葉の通り、ルーネスは見事に完全勝利を収めたのだった。

が、それだけの結果を得ても、ルーネスはそれ程の達成感を感じてはいない。


「どの教科も簡単過ぎるんだよ。スコールが作る問題の方がずっと難しかったもの」


同級生の中でも頭一つ抜きん出て優秀な成績を収めているルーネスである。
クラスメイト達が頭を抱えるような問題でも、ルーネスにとっては大した問題にはならなかった。
それよりも、週に二度の過程授業で行われる際に使われる、スコールが手作りした問題の方が、余程レベルが上だと思う。

その言葉には、スコールも少なからず嬉しく思う所があるようで、彼は表情だけはいつもと同じ平静を崩さないまま、白い肌を微かに紅潮させる。


「……それなら、作った甲斐があったな」
「お陰で先生の意地悪な引っ掛け問題にも引っ掛からなくなったし。あれ、絶対に僕を狙って作ってたと思うんだよね」


ルーネスの言葉に、それは幾らなんでも考え過ぎじゃないか、とスコールは思ったが、口には出さなかった。
ルーネスの学校の詳細について、スコールはよく知らない。
中学生にしては優秀過ぎる成績を納め、性格については小生意気さが目立つルーネスに対し、大人が気に入らないと思うのは無理もないだろう。
スコールも似たような所があり、在学中の高校では教員から露骨に目の仇にされている自覚があるので、ルーネスの言う事が強ち思い込みとも言い切れなかった。
家庭教師の授業が始まった頃は、スコールもルーネスに対し、生意気な子供だと思っていた事もあるので、ルーネスの扱いに手を拱いている教員の気持ちも判らなくはない。

しかし、こまっしゃくれた顔が目立つ反面、ルーネスは素直な所も多い。
成り行きから始める事になったルーネスの家庭教師を、子供が苦手と自覚していながら、半年が経った今でも辞める事がなかったのは、徐々に顔を出す少年の素直さに絆された所もあった。

ルーネスは返されたテストを引き出しに入れ、今日の授業の為にノートと教科書を取り出した。
教科書には中学三年生用と記されており、本来ならルーネスはまだ持ってもいない物である。
この三年生の教科書は、スコールが中学生の時に使用していたもので、今の内に来年度の予習をしたい、と言うルーネスの希望の下、棄て忘れて残していたのを譲って貰ったのだ。


「えーと、先ずは……そうだ、宿題のプリント、やって置いたよ」
「ああ。採点するから、こっちの問題集の7ページをやっておけ」
「はーい」


ルーネスが教科書に挟んでいた宿題のプリントを渡すと、スコールからは問題集が渡される。
少し古びた───それでも丁寧に使われていたのだろう、綺麗なものではある───教科書と違い、問題集は新品同然で、表紙にもまだ光沢がある。
これは来年度の授業を始めた次の授業の時、スコールがわざわざ本屋で購入して来てくれたものだった。

指定されたページを開いて、教科書とノートを参考に、問題を解いていく。
ルーネスにはどれも簡単な問題ばかりであった。
すらすらとシャーペンを走らせていると、彼の為にと用意した椅子に座り、宿題の採点をしていたスコールに名を呼ばれる。


「ルーネス」
「何?」
「計算ミスだ」
「えっ、うそ!」


スコールの言葉に、ルーネスは慌てて席を立った。
スコールの下に駆け寄り、「何処?」と詰め寄ると、スコールはプリントを見せた。
殆どが正解で埋まっている問題の中、最初の計算問題の中から、二問に不正解のバツがついている。


「うそぉ……」


プリントを手に愕然とした表情で立ち尽くすルーネス。
そんな教え子に、スコールは硬い口調で言った。


「見直しをしなかったな。お前の悪い癖だ」
「……うう……」


スコールの指摘に、ルーネスはぐうの音も出なかった。

幼い頃から頭が良く、自分に自信がある所為か、ルーネスは余りテストの見直しをしない。
その所為で、こうした些細なミスを見逃してしまい、失点を喰らう事が儘あった。
スコールからもそれを注意され、テストの際には二度、三度と見直しをするようにと念を押されている。
お陰で学年末テストは満点を取れた訳だが、テストが終わって気が抜けたか、やっつけ仕事と宿題を終わらせてしまった為に、一切見直しをしなかった。

しゅんと落ち込むルーネスに、スコールはしばしの沈黙の後、立ち尽くすルーネスの頭をぽんぽんと撫でた。
きょとんとした顔でルーネスが顔を上げると、スコールの手は直ぐに離れ、蒼の瞳は明後日の方向を向いている。


「……次の時に活かせ。それで十分だ」
「……はい。気を付けます」


スコールの言葉に、ルーネスは素直に頷いた。
落ち込んでいた翠の瞳に光が戻り、やる気を取り戻して、ルーネスは机に向き直る。

問題集に取り組み直す前に、ルーネスは添削されたプリントを拡げた。
バツが書かれた部分を確認し、確かに計算ミスがある事を確かめてから、消しゴムをかける。
一から順に計算し直して、更にそれを改めて確認してから、ルーネスはプリントをスコールの下へ持って行った。


「直したよ」
「………よし。正解だ」


書き直した部分を確認して、スコールは赤ペンを滑らせた。
正解の丸が綴られ、返されたプリントを見て、ルーネスは満足に笑む。

そんなルーネスをしばし見詰めた後、スコールはふと思い出す。


「そう言えば、お前の親御さんから、来年も頼むと言われたんだが」
「頼むって、何が?」
「家庭教師の事だろう。来年は受験もあるから是非、と」


そう言ったスコールに、ルーネスの瞳が輝く───が、逆にスコールは渋い顔をしている。
その表情に引っ掛かりを覚え、ルーネスは訊ねた。


「駄目なの?」
「…駄目と言うか……俺も大学受験があるからな……」
「あ……」


大人びた表情と、落ち付いた態度の所為か、他人に───ルーネスも含め───度々忘れられ勝ちであるが、スコールはまだ高校生だ。
現在二年生なので、来年になれば三年生、ルーネスと同様に受験を控えている。
進学校に在籍しているので、受験に向けた勉強そのものは一年生の時から始まっており、二年生の夏頃から更に本腰を入れる仕様となっているらしい。
受験当日まで一年を切っている来年度からは、志望校を定め、各自更に的を絞って勉強して行く事になる。
それを思うと、よくそんな環境で、ルーネスの家庭教師を始めたものだ───これには各両親それぞれの想いがあったようだが、ルーネスは詳しく聞いてはいない。

ともかく、自分の人生の一大転機にもなり得る時期に、他人の面倒は見ていられないだろう。
それを思うと、ルーネスは何も言えなかった。

口を噤んでも、素直なルーネスの感情は、表情に出てしまう。
唇を噛んで俯くルーネスに、スコールは視線を彷徨わせていた。
なんとも気まずい空気が、部屋の中を支配して、重苦しささえ感じる。


(僕の受験の為に、スコールに我儘を言っちゃいけない。でも……)


スコールが家庭教師を辞めるなら、他の誰かが雇われるのだろうか。
両親はそれを薦めて来るかも知れないが、ルーネスはスコール以外に教わる気にはならない。
勉強の教示力への信頼性は勿論の事、ルーネスはスコールと過ごす二人の時間が好きだった。
滅多に褒めない彼が、不器用に褒めてくれた時や、すこしぎこちなく頭を撫でてくれた時など、手放せないものは幾らでもある。

だが、それはルーネスの都合であって、スコールの都合は全く違う。


「……仕方ないよね。受験だもの」


ルーネスが言える事は、それしかなかった。
仕方がない、と言う言葉に全ての気持ちを押し隠し、彼の邪魔をしないように退散する。

もやもやとした気持ちに目を逸らし、机に戻って、勉強の続きをしようとした時だった。


「……夏、までなら」


聞こえた言の葉を、ルーネスは直ぐに理解出来なかった。
理解が追い付いた後も、聞き間違いかと思ったが、彼の声を、言葉を、聞き間違える事は有り得ない。

振り返ると、スコールは此方に視線を向けてはいなかった。
蒼灰色の瞳を明後日の方向へと流し、ペンを手にしたままの手で口元を隠しながら、スコールはもう一度言う。


「夏までなら、此処を続けられる。…と、思う」
「……本当?……でも、受験でしょ?」


スコールの言葉に思わず声に喜色が混じったルーネスだったが、直ぐにそれを押し殺した。
自分の為に、スコールが此処に残ってくれるのは嬉しいが、彼の足を引っ張りたくはない。
もどかしい気持ちで、念を押すように訊ねると、スコールは少しの沈黙の後で、


「両親から聞いたが、お前の希望校は俺が通っている学校なんだろう」
「うん。そのつもり」
「対策や範囲や、変わっている所もあるだろうが、出来る事はしよう」


きっとスコールは、ルーネスの気持ちを察して、もうしばらく家庭教師を続けようと言ってくれているのだろう。
しかしルーネスは、どうにも両手話で喜べず、煮え切らない態度を見せてしまう。


「……その……本当に良いの?」
「……ああ。ただ、来れる回数は減ると思う」
「そんなの良いよ。それ位。スコールの迷惑にならないのなら」
「迷惑だったら、最初からこの話は断っている」


何度も確かめるルーネスに、スコールはきっぱりと言った後、


「……それとも、お前は俺が此処に来るのが迷惑か?」
「そんな事!」


スコールの問い返す言葉に、ルーネスは迷わず首を横に振った。
それを見たスコールが、ふっと口元を緩める。

滅多に見る事のない、柔らかく温かい、スコールの優しい微笑み。
決まりだな、と言うスコールに、うん、と頷きながら、ルーネスは胸の鼓動が高鳴るのを感じていた。





3月8日と言う事で、オニスコ!
……なんだけどうちの二人はいつもカップリング未満な気がする。まあ良いか。

スコールもルーネスも、頭が良いだけに周囲と上手く馴染めず、コミュニケーションの仕方に難あり(ルーネスの方はまだマシ)。
そんな息子達を心配したそれぞれの両親が、なんとなく似通ってる者同士なら判り合える事もあるんじゃないかと逢わせてみた……と言う設定を作中に書き切れなかった。

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