サイト更新には乗らない短いSS置き場

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2016年07月

通販の注文を受理しました

  • 2016/07/30 20:47
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2016年7月29日に頂きましたご通販の注文を受理しました。
並びに、通販お問い合わせに関するメールの返信を行いました。
受理完了のメールを送信しましたが、届いていらっしゃらない方がおられましたら、拍手かkryuto*hotmail.co.jp(*を@に変換して下さい)にてご連絡をお願いします。

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kryuto*hotmail.co.jpを受信可能に設定するよう、お願いします。

通販の発送を完了しました

  • 2016/07/21 22:02
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7月6日~7月15日までに通販の注文、入金の確認が出来た方に対し、本日7月21日にご注文の品を発送いたしました。
注文品と送付先を確認しながら発送しましたが、送り違いや、注文品が足りない等のミスがありましたら、お手数ですがメールにてご連絡下さい。
 
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[クラスコ]渚の君を一人占め

  • 2016/07/08 00:20
  • Posted by


アルバイト先で催された飲み会の、レクリエーションのビンゴ大会で、三等の旅行チケットが当たった。

旅行チケットと言っても、それ程豪華なものではない。
居酒屋のチェーンであるバイト先は、本社が色々なホテルや旅行会社と提携している関係で、よくイベント事が企画される。
店のメニューに、どこそこの地方のなんとか、と言ったものが並ぶ機会も多く、またホテルや旅行会社の方も、この居酒屋の系列店で食事をすれば何割引きとか、特別メニューとか、そう言うものがうたわれている。
クラウドが当てた旅行チケットは、そうした企画の際に用意された、余り物のチケットであった。

チケットには、ペア招待と書かれており、二人で行かなければ使えないらしい。
旅行など滅多に行かないし、どちらかと言えば出不精な性質であるので、金券ショップに持って行こうか、とも考えた。
が、ザックスから「あの子、誘えば良いんじゃね?」と言われ、一度は誘ってみようか、と思い直した。

親友の提案を、良い案だと素直に受け取れなかったのには、理由がある。
チケットに記された旅行先は、海辺の少し大きなホテルだった。
この夏の季節、海と来れば飛び付く者も少なくはないが、ザックスの言う“あの子”────クラウドの恋人である少年は、余りこう言う場所が好きではない。
まだ夏休みではないので、海水浴客はそれ程多くはない筈だが、それでも人の気配は少なくあるまい。
極端に暑いのも嫌いだし、海ではしゃげる性格でもないし、更に言えば、人の多い場所も好きではない。
ないない尽くしの恋人を連れて言っても……と思わないでもなかったが、別段、無理に海に行く必要はないのだ。
一日二日、ホテルで恋人と二人きりで、睦み合うのも悪くない。
普段、あまりのんびりと逢う時間が取れない事もあり、こんな時位は、と言うクラウドの希望も含まれている。

誘ってみると、最初は案の定、微妙な反応が返ってきた。
この暑いのに海なんて、と言いたげな表情をする恋人に、別に海には行かなくても良いんだ、と宥めた。
都会の喧騒を離れて、眺めの良いホテルで、静かに過ごせば良い。
食事もホテル側が用意してくれるし、父子二人暮らしであるが故に、家事全般を引き受けている彼の休息日と考えれば良い。
そう言うと、彼は少し考えた後、過保護な父に旅行の許可を取るべく、連絡を入れた。

クラウドにとっては幸いと言うべきか、彼の父は、旅行当日に出張が入っていた。
行っておいで、楽しんでおいで、と言う父に、息子は判った、土産は買って帰る、と返す。
恙なく父の許可を貰った事で、恋人同士の初めての宿泊旅行が決定したのだった。



海に行く必要はないとクラウドは言ったが、何せホテルから海は目と鼻の先にある。
其処まで近くにあると、興味はないと言いつつも、やはり気になるものなのだろう。
普段、自然を近くに感じる事がない都会っ子も、だからこそ余計に、少し位は────と傾いた恋人にねだられて、クラウドはホテルtに着いて早速海岸へと向かった。

ハーフパンツにタンクトップ、足元はサンダルと言うビーチスタイルのクラウドの隣で、薄水色のパーカーを着込み、しっかりと前を閉じて、頭には麦藁帽子を被っている少年がいる。
彼がクラウドの恋人であるスコールだ。
スコールは、今日も今日とて燦々と輝く夏の日差しから、日焼けが出来ない白い肌を守る為、完全防備スタイルを固めている。
ボトムこそカーゴパンツを履いて、足首の上で裾を絞り、いつもよりもややラフな格好をしてはいるが、足元はメッシュのスニーカーだし、やはりガードは堅い。

そこまでガードを固めて尚、スコールは日向には出たがらない。
レンタルショップで借りたパラソルを立て、その下にレンジャーシートを敷いて、其処で本を読んで過ごしている。
クラウドはその隣で、パラソルの陰から食み出て、シートに俯せになって背中を焼いていた。

潮騒と、家族連れの子供がはしゃぐ声を遠くに聞きながら、背中に浮かぶ汗の粒を感じつつ、クラウドは隣に座っている少年を見る。
家から持って来た文庫本を見詰めているスコールは、傍目には余り楽しそうではない。
表情筋も───クラウドが人に言えた事ではないが───余り動かないので、少し機嫌が悪そうにも見える。
眉間の皺が深くないので、大丈夫なのだろうとは思うが、念の為、クラウドは訊ねてみた。


「スコール」
「……なんだ」
「今、楽しいか?」
「……それなりに」


ぱらり、とスコールの手が本のページを捲る。

少し心許ない反応ではあったが、今のはマシな方の反応だ、とクラウドは思った。
嫌なら嫌だと彼は言うし、それが言えない雰囲気であれば、沈黙によって返事とする。
現状を不満と言う程の返事ではなかったので、多分、彼なりに楽しんではいるのだろう、と受け取る事にする。

ぎらぎらと照る日差しは暑いが、海から吹く風のお陰で、体感温度は思ったより高くない。
パラソルの下にいるスコールも、首にタオルをかけているだけで済んでいた。
が、砂浜の照り返しの熱もなくはない訳で、クラウドはじわじわと体温が篭り始めるのを感じていた。


「何か飲み物でも買って来るか」


俯せていた体を起こしながら言うと、スコールが顔を上げた。
俺も欲しい、と言外に甘えてくる恋人に、クラウドは小さく笑みを零す。


「何が良い?」
「…炭酸」
「味は?」
「…その辺は任せる」


了解、と言って、クラウドはサンダルを履いた。

夏休みなら、浜辺のあちこちに出店が構えられたのだろうが、今はまだ長期休みの前段階。
早い内から開店させたのであろう店を除けば、今正に準備真っ最中と言う屋台があるだけだ。
この海岸で一番に店をオープンさせた海の家はと言うと、家族連れが多いお陰で賑やかになっており、スコールがこの喧噪を嫌った。
クラウドもどうせなら二人で静かに過ごせる方が良いと、海の家から離れた場所にパラソルを立てたのだ。

クラウドが取った場所から、最寄にあった出店は、食べ物以外には水と茶を置いていた。
クラウドはこれでも良かったが、スコールからの希望は炭酸飲料だ。
少し足を延ばした所で、パラソルとレジャーシートを借りたレンタルショップがある。
確かあそこも飲み物を売っていた、と記憶を頼りに其方へ向かった。

クラウドの思った通り、レンタルショップには缶ジュースが売られていた。
氷水に浮かせたサイダーとビールを買って、恋人の待つパラソルへと戻る。

─────と、其処にはなんとも宜しくない光景が待っていた。


「ね、キミ一人?」
「そんなトコで本ばっか読んでないでさ、一緒に泳ごーよ」
「………」


スコールが座るレジャーシートを、二人の男が挟んでいる。
如何にも軽い風体の男達に、ワンパターンなナンパ文句を向けられて、スコールの眉間に海溝よりも深い谷が出来ていた。
その光景を見たクラウドの眉間にも、恋人に負けず劣らず深い谷が刻まれる。

どうやら男達は、スコールを女だと思ってナンパしているようだ。
肌を出来るだけ露出させないようにしている事や、着込んでいても細いシルエット、中性的な整った顔立ちと、間違われるのも無理はないかも知れない。
加えて、17歳にしては大人びた雰囲気とは裏腹に、何処か危うい色香を持つスコールである。
不埒な輩に目を付けられる事は、腹立たしい事に、珍しくはなかった。
家族連れが多いからと、少し位なら平気だろうと傍を離れた事を、クラウドは後悔する。


「なあって。無視しないでよ」
「………」
「海なんだし、もっと開放的になろうぜ」
「………」


ナンパを無視して本を読み続けていたスコールだったが、彼の手には力が篭りつつある。
落ち着きのある容姿に反し、短気な所もあるスコールだ。
自分が女と勘違いされている事も腹が立っているのだろう、後数秒で爆発するのは明らかだった。

その前に、クラウドは手に持っていた缶ビールを男の後頭部に向かって投げつけた。


「ほら、行こ」
「!」
「俺らがもっと楽しい事教えてや────」


男達の手が、スコールの腕を無理やり掴んだ直後。
缶ビールの中では大きな500ml缶は、見事に鈍器となって男の頭に激突した。

相棒が蛙のような悲鳴を上げて轟沈したのを見て、残った男が何事、と振り返った。
その顔面に、今度は250mlのサイダーの缶が命中する。
鼻頭を潰さんばかりの剛速球を喰らった男は、掴んでいたスコールの腕を放して、砂浜に引っ繰り返った。

全く、と米神に青筋を浮かべながら、クラウドは転がったビールを拾い、シャカシャカと中身を振る。


「躾の悪い連中は何処にでもいるんだな」
「クラウド……」
「大丈夫か?スコール」
「……ん」


恋人が戻って来てくれたのを見て、スコールはほっと安堵の息を吐く。
そんなスコールの手首には、薄らと男の手形が残っていた。

クラウドは眉間に深い皺を寄せて、ビール缶を逆様にし、プルタブを開ける。
ぷしゅうううっ、と気泡を立てて噴射されたビールが、男達の顔面に降り注いだ。


「ぎゃああああああああ!!!」
「貴様等の恋人はこれで十分だ」
「いてえええええええ!!!!!!」


たっぷりとビール液を目鼻に浴びせられて、男達が激痛にのた打ち回る。
おうおうと泣き喘いでいる男達を、ぽかんとした表情で見ているスコール。
クラウドはビール缶が空になるまで注がせた後、空の缶を遠くのゴミ箱へと放った。

レジャーシートの上に落ちていたサイダーの缶を拾い、タオル等を入れた鞄を肩に担いで、クラウドはスコールの手を取った。
引っ張られるまま、スコールは蹈鞴を踏みながら立ち上がり、パラソルの下から離れる。


「クラウド?」
「ホテルに戻ろう。物騒だ」
「それは良いけど、あれ、レンタルだろう。返すのは……」
「この浜辺のエリアであれば、店員が片付けてくれるそうだ。気にしなくて良い」


レンタルショップも遠くはないので、店員からもパラソル下に人がいないのは見えるだろう。
連絡も、ホテルに戻ってから、レンタル時に発券されたレシートに記載された番号から電話をすれば良い。

海岸はホテルの裏から、直接出られるようになっている。
其処を海へと向かうホテル客と入れ違いに入り、エレベーターに乗って、部屋へ上がった。
7階に取られた宿泊室は、ビジネスホテルよりは広いと言う程度のもの。
部屋が比較的質素な代わりに、朝食バイキングの無料券、夕食は提携している居酒屋かレストランの割引券、更にはスパの体験利用も出来るようになっていた。
スパはともかく、朝食夕食付のホテルに無料宿泊となれば、交通費を考えても十分お釣りが来る。
海は完全に家族向けのファミリービーチで、事故防止、トラブル防止の監視員も立っており、若いカップルよりも、家族連れの方が多かった。
だから、人目を気にする性格の恋人と、ちょっとした小旅行にするなら丁度良い、と思ったのだが、まさかこんな場所でもスコールがナンパ被害に遭うとは思ってもいなかった。

部屋に入ると、クラウドはスコールをベッドへ連れて行った。
荷物を放り、スコールをベッドへと押し倒すと、彼は素直にシーツに沈む。
きょとんとした蒼灰色に見上げられ、クラウドはその眦に唇を押し当てた。


「クラウド……?」
「消毒、しよう」


クラウドの言葉に、消毒って何の、とスコールが問う。
クラウドは何も言わず、スコールの手を取って、手首に薄く残った赤い痕にキスをする。

パーカーの前を留めるジッパーが、ジィイ、と音を立てて下げられて行く。
カーゴパンツのフロントが緩められて、スコールの顔が赤くなった。

何度も落ちるキスに、スコールはむず痒さで目を細めながら、スコールは自分の頬をくすぐる髪の感触の違和感に気付き、


「クラウド……風呂、入りたい」
「後でな」
「ベタベタするんだ。気持ちが悪い」
「ちゃんと綺麗にしてやるから」



今は、こっち。

そう言ってクラウドは、スコールの手首に甘く歯を当てた。





7月8日と言う事で、クラスコ!

ベタな展開に遭遇させてみた。
この後は、もう海に出ないで部屋でいちゃいちゃしてるんだと思います。

[けものびと]いのりのあしあと

  • 2016/07/07 22:34
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ラグナは催し物が好きだ。
それが大きな祭りなら勿論の事、小さな事でも、些細な事でも、なんでも。

夕飯の材料の買い出しに行ったスーパーに、大きな笹が飾られていた。
その細い幹枝に吊るされた細長い紙を見て、もうそんな日だったのか、と思い出す。
これと似たようなものが街の其処此処に飾られているので、今まではそれを見付けていれば、今日と言う日が近付いている事に気付いたのだが、最近はそれを見る暇もなかった。
二人の獣人と共に新しい生活を始めてから、彼等の為に、また自分自身が生活の変化に慣れる為に、忙しなくしていたのだから無理もない。

大きな笹の傍には、金箔が吹きつけられた短冊と、小さな笹が置かれていた。
ご自由にどうぞ、と書かれていたので、ラグナは遠慮なく貰って帰る事にした。
小さな笹は、店内を飾る為に用意したものの、余ってしまった処分の為に無料配布されているのだろう。
二、三日もすれば役目を終え、店に飾られた大きな笹ともども、焼き場に持って行かれてしまうが、それまではもう少し、楽しませて貰うとしよう。

一通りの買い物と、予定外の収穫物を持って家に帰ると、玄関に獣人の兄弟───レオンとスコールが立っていた。


「ただいま、レオン、スコール」
「がぁう」
「よしよし」
「…ぐぅ」
「うんうん」


返事をするレオンとスコールに、ラグナの頬がでれでれと緩む。
二人の鬣のような髪を柔らかく撫でて、廊下へ上がる。

冷蔵庫に食料を詰め込んでいるラグナを、足元でレオンとスコールがじっと見上げる。
二人は丸い鼻をふんふんと鳴らして、ラグナの匂いを検分していた。
マーキングするように、レオンがすりすりと体を寄せ、ぐぁう、と鳴き声を漏らす。

買い物袋が殆ど空になった所で、ラグナは冷蔵庫を閉め、袋の中に残っていたものを取り出した。
スーパーから持って帰って来た、短冊と小さな笹だ。
見慣れぬものだと気付いたか、スコールがラグナの手に握られたそれを見て、細い瞳孔でじぃっと見詰める。


「レオン、スコール、知ってるか?今日は七夕なんだぞ」
「……?」


ラグナの言葉に、二人は揃って首を傾げる。
円らな瞳が、全く同じタイミングで、ぱちぱちと瞬きをした。

ラグナはリビングのソファに座って、短冊と笹をローテーブルに並べる。
レオンとスコールもソファへ登り、テーブルの上の見慣れない緑をしげしげと見つめた。


「今日は織姫サマと彦星サマが、年に一度、逢える日なんだ」
「……?」
「そんで、今日は笹に願い事を書いた短冊を吊るすと、願いが叶うって言い伝えがあって…」


七夕の謂れを話すラグナを、レオンはじぃっと見上げる。
スコールは、ラグナを見て、笹を見て、テーブルの短冊に顔を近付けて、くんくんと鼻を鳴らす。
そんな弟に釣られて、レオンも短冊に顔を近付け、鼻を鳴らした後、ぺろっ、と短冊を舐める。


「あっ。コラ、レオン。それ食べ物じゃないぞ」
「がぁう……」
「美味しくなかった?そりゃそうだな~」


紙を舐めた舌を出したまま、判り易く顔を顰めるレオンに、ラグナは笑った。
兄の反応を見たスコールは、さっさと短冊から興味を失くして、笹に顔を近付ける。

ラグナはレオンを膝に乗せて、短冊を一枚手に取り、


「これはな、お願いごとを書く紙なんだ。えーと、ボールペン、ボールペンっと……あったあった」


ラグナはポロシャツの胸ポケットに入れていたボールペンを取り出した。
何を書こうか、と数秒悩んだ後、ラグナはペンを走らせる。
その様子を、レオンとスコールがじいっと覗き込んでいた。

『レオンとスコールが健康に育ちますように』────そう書いた短冊を、ラグナは笹に括り付けた。
葉が擦れる度、さらさらと音を鳴らす笹の葉に重なって、黄色の短冊が揺れる。


「こうやってお願いを飾っておくと、織姫サマと彦星サマが叶えてくれるんだってさ」
「……?…?」
「…??」


ラグナが笹を見せると、二人は顔を近付けて、ふんふんと鼻を鳴らす。
二人の顔は不思議がっているものばかりで、ラグナの説明は殆ど聞こえていないようだ。
やっぱりまだ判らないかあ、とラグナは残念に思いつつ、二人の頭を撫でてやる。

二人が七夕を理解できない事は予想していたが、それでもやりたい事が一つあった。
買い物の傍ら、携帯電話のインターネットで調べものをして、準備に必要なものが家にあるもので十分である事、並びに注意事項も確認した。
ちょっと待っててくれな、と言って、ラグナは笹をローテーブルに置き、ソファを立つ。

ラグナは寝室に入り、デスクの引き出しを開けた。
ハンコの為に備えて置いた黒インクの朱肉と、ティッシュボックスを持って、リビングに戻る────と、


「がうっ、がうっ」
「がう、がうっ。がうぅ」
「ありゃ」


四足になったスコールが、笹の端を噛んで、首を振って遊んでいる。
笹が撓ってさらさらと葉と短冊を揺らせば、本能を刺激されたのだろう、レオンが枝葉を追うように周りを跳ねていた。

笹の葉が何の為に持ち帰られたか等、幼い獣人の二人には判るまい。
見慣れない物に興味が沸いて、食べられないのならオモチャにして遊ぼう、と思ったのだろう。
それでもラグナは構わなかったが、“ライオン”モデルの彼等が夢中になって遊んだら、細く頼りない笹はあっと言う間にボロボロになってしまうだろう。
今日の所はもう少し、笹としての役目を果たして貰わねば、とラグナはスコールの口から笹を取り上げた。


「こぉーら」
「ぐぁ?がうっ、がうぅっ」
「がうぅ、がぅう」
「オモチャでもないんだって」


オモチャを取り上げられて、スコールが抗議するようにラグナの足に飛び付いた。
レオンも一緒に飛び付いて来て、二人でラグナの足をよじよじと登って来る。
ラグナは笹を持った腕を頭上に伸ばして、二人の追撃から逃げた。


「ダメダメ!今日はオモチャじゃないの」
「がうぅうう!」
「ぐぅー……」
「めっ!」


ラグナが二人を見下ろし、眉尻を吊り上げて叱ると、レオンがずるずると滑り落ちて言った。
スコールは、ぐるぐると喉を鳴らしながら、ラグナの腰に爪を引っ掛け、ぷらんと宙ぶらりんいなっている。

楽しんでいたオモチャを取り上げられ、判り易く不満そうなスコールを、ラグナは抱き上げた。
笹をテーブルに置いて、ぽんぽんとスコールの背中を叩いてやる。
そんなラグナの足下では、叱られた所為か、レオンがラグナの足に頭をぐりぐりと押し付けて謝っている。
ラグナはレオンの頭を撫でて、スコールと一緒にソファに座らせた。


「今日一日は、お願いごとしなくちゃいけないからな。オモチャにして良いのは、明日な」
「ぐぅ……」
「ぐるぅ……」
「で、今日はコレ」


ラグナは二人の前に、デスクから持って来たインクを見せた。
これもまた見慣れないものに、二人は首を傾げ、くんくんと匂いを嗅ぐ。
食べられそうなものではない事は判ったのだろう、スコールが鼻頭に皺を寄せた。

先ずは比較的大人しいレオンから、とラグナはレオンの手を取った。
獣人であるレオンの手には、人間で言う掌はなく、動物と同じ肉球が備わっている。
野生であった頃も、まだ大人のように固くはなかった肉球は、ラグナとの生活の中で、ぷにぷにとした柔らかさが保たれていた。
その肉球がある手を、蓋を開けたインクの上にぽんと乗せる。


「……ぐぅ?」
「舐めちゃダメだぞ、美味しくないからな。で、こっちにポン、と」


ラグナがテーブルを寄せ、ピンク色の短冊にレオンの手を乗せる。
直ぐに手を離してやれば、大き目の肉球がくっきりと短冊に残された。

何もなかった短冊の上に、黒い丸が残ったのを、レオンがまじまじと覗き込む。
レオンは自分の手に黒い墨が残っているのを見て、ことんと首を傾げた後、ぽん、と短冊に手を置いた。
離してみれば、また一つ、大きな丸────自分の手跡が残る。


「がう。がう」
「ん?面白かったか?」


ぽん、ぽん、と何度も短冊に手を押し付けるレオン。
房を持った尻尾がゆらゆらと揺れているのを見て、ラグナの頬が綻んだ。

次はスコールの番、とレオンがスコールの手を取る。
警戒心の強いスコールが怖がらないよう、そっとインクを近付けて、朱肉の上に肉球を乗せる。
じわりと滲む冷たい感触が嫌だったのか、スコールの手が直ぐに引っ込んだ。


「がうぅ!」
「ごめんごめん。でもスコール、一回だけ。な?直ぐに拭いてやるから」
「ぐぅう~…!」


ラグナに頼み込むように言われ、スコールは喉をぐるぐると鳴らしながらも、その場に留まった。
良い子だなあ、ありがとうな、とラグナはスコールを宥めつつ、水色の短冊にスコールの肉球を乗せる。

早く手の中の冷たい感触を拭いたいのだろう、スコールはぐりぐりと掌を短冊に押し付けた。
ぎゅううっとプレスするように押した手を離すと、くっきりと綺麗な形の肉球拓が取れた。


「ありがとう、スコール。キレイキレイしよっか」
「がう!」
「おうっ」


ティッシュでスコールの手を噴こうとしたラグナの頬に、レオンの猫パンチが炸裂した。
いてて、とラグナが頬に手を当てると、ぬる、と何かが付着している。
まさか、と携帯電話のカメラ機能で自分の顔を映せば、ラグナの頬にもまた、綺麗な肉球拓が残されていた。


「ありゃあ~」
「がう?」
「がうぅう」


ラグナが眉尻を下げて笑い、レオンがきょとんと首を傾げ、スコールが早く拭いてとラグナを急かす。

ラグナは先ずスコールの手のインクを拭いて、次にレオンの肉球も綺麗に拭いた。
肉球の周りにある毛に少しインクが残っているように見えるが、水溶性なので、風呂に入れれば流せるだろう。
それから、勿体ない気もしたが、自分の頬に押された肉球スタンプも拭き取る。
最近はレオンとスコールがよく顔を舐めてくれるので、頬のインクをそのままにする事は出来なかった。

ラグナはレオンとスコールの短冊を笹に吊るすと、それをベランダへと持って行った。
ベランダの物欲し竿の上に、ビニール紐で笹を括り付ける。


「これで良し」


落ちないようにしっかりと笹を固定して、ラグナは満足げに言った。

ベランダに出てはいけないと言い付けられているレオンとスコールが、窓の隙間から此方を見ている。
ラグナが開けた窓辺に座ると、レオンとスコールが膝の上に乗って来る。
落ちないように二人を腕に抱いて、ラグナは晴れ渡った空を見上げた。
この天気なら、今日は綺麗な星空が見えるだろう。



さらさらと、滑るように音を鳴らす笹の葉。
抜けるような青の中で、柔らかな緑色がよく映えていた。





[けものびと]で七夕でした。

肉球スタンプって可愛い。
七夕が終わっても、この短冊はずっと保管してると思う。

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  • 2016/07/06 11:49
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