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2025年12月

[サイスコ]荷台に揺られて

  • 2025/12/22 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



サイファーにとっての任務と言うのは、半強制的なものである。
と言うのも、先達ての魔女戦争の経緯から、“戦犯”の肩書がついて回っているのだから仕方がない。

本来ならば投獄どころか処刑されても当然な所を、未成年であることを理由に、スコールを始めとした幼馴染の面々の尽力により、“更生期間”としての執行猶予をもぎ取った。
バラムガーデンは二十歳まで在籍することが可能で、サイファーも其処に籍を置いたまま───と言うより、学園長であるシドがその除籍に判を押していない───である。
そして何より、“魔女戦争の英雄”を擁した、“魔女戦争終結の立役者”たるバラムガーデンの意向を、周辺諸国も無視は出来なかった為、こうした措置となった。
このことについて、身内に甘いと思われるだろう、とサイファーは顔を顰めているのだが、とは言え、最終的には彼自身もその意向に従わざるを得なかった。
連れ戻される直前、最終的な意思決定として、スコールと派手にやりあった末、遺憾ながら先に膝をついたと言うことも加味して。

それからサイファーは、バラムガーデンに在籍している間に、SeeD資格を取得するか、相応の“罪滅ぼし”をすることを義務付けられている。
この為、折々にSeeDの派遣任務に従軍することを命じられるのだ。
これにより、サイファーの行いは社会奉仕活動として扱われ、一定の───その天井が幾らなのかは知らないが───ポイントを蓄積することで、最後に更生の是非を判断される。
そう言う条件で、スコールたちはサイファーをバラムガーデンに連れ帰ることを、主にガルバディアを筆頭として諸国に認めさせたのである。

現在、サイファーは監視付きの執行猶予中である。
その割に、存外と自由な生活を許されているのは、幼馴染の面々が総じて身内に甘いきらいがあるのは勿論だが、下手な拘束をした所で無意味かつ逆効果であると判っているからだろう。
閉じ込めれば反って蹴り開ける性分であると理解しているから、「何かあったら力付くで止める」と言う手段を前提として、好きにさせている状態だ。
流石に嘗ての風紀委員活動は許されなかったが、元よりサイファーはその気質でバラムガーデンの有名人である。
鎖に繋がれた状態の今でも、多くのガーデンの生徒にとっては当たらず触らずが無難な所なので、一応、無暗な衝突は避けられている。

そう言う訳で、立場の割りに自由なガーデン生活をしているサイファーだが、任務に関してはそうではない。
社会奉仕活動としてのポイントを稼がなくてはいけないので、基本的に拒否権がなかった。
サイファーがこのポイント稼ぎに躍起になる気はないのだが、これをきちんとクリアしないと、スコール達にとってはサイファーを連れ戻した意味がない。
指揮官直々に据えた目で「命令だ」と言われれば、サイファーは従うことしか許されなのだ。


「────だからって、よりによってこんな日に任務を入れるかよ」


悪路にゴトゴトと揺れる車の中で、サイファーは毒づかずにいられなかった。
剥き出しの鉄板で設えられた簡素な腰掛から響いて来る振動の鬱陶しいこと。
慣れた感触ではあるが、せめてもう少し福利厚生を考えて欲しい、と思うのは、決してサイファーだけの願いではない。

その向かい側で、同じく此方も簡素な腰掛に座っているのは、スコールだ。
蒼灰色は、苦々しい表情を浮かべるサイファーを見る事もなく、閉じ切った後部の扉を見ている。
眉間の皺がじわじわと深くなっているので、サイファーの不機嫌の言葉はしっかり聞こえているのだろう。
逃げ場のないこの環境で始まった愚痴を聞かされなければならない事に、面倒に思っているのが表情から見て取れた。


「……」
「何が悲しくて、こんな殺風景な所に閉じ込められなきゃならねえんだ」
「……」
「“戦犯”だって、日々真面目に過ごしてるんだぜ。少しは今日って日を堪能させてくれよ」


うんざりとした表情で、サイファーは組んだ足に頬杖をついて言う。
それをスコールは、胡乱な瞳を浮かべたまま、開かない後部扉を見詰めて聞いていた。

揺れる車は、現在、ガルバディア大陸のヘスペリデス平原を横断している。
人里からも離れたこの場所は、舗装された道路の類もない為、必然、悪路を行くしかなかった。
目的はこの平原を越えた先にある、ホールグローリー岬で出現観測された、月の魔物退治である。

“月の涙”によってこの星に降り立った魔物たちは、総じて原生生物よりも狂暴でしぶとく、危険である為、各地の軍隊や防衛機構で対処に当たっているが、それが届き切らない所も多々ある。
ホールグローリー岬も、最寄りのドールからも遠い事から、縮小傾向にあるドールの国軍では対処の手を伸ばすことが難しかった。
人里から離れているのは幸運だが、放っておけば生態系が崩れかねないこと、狂暴な月の魔物から逃げた他の生物が人里に近付いて来る危険性がある為、早期の解決をと望んだドール議会から、バラムガーデンに依頼が寄越された。
月の魔物が相手となれば、SeeDとしても出せる人材には限りがある。
都合が取れたのがまずサイファーで、次にその監視役としてスコールが同行することになった。
サイファーにしてみれば、半端に名も知らないSeeDを監視に宛がわれるよりは楽なことだが、今回、彼が不機嫌になっているのは、人選に関する所ではない。


「誕生日だってのに、色気もへったくれもねえ。折角色々と計画してたってのに」


サイファーの顰め面が解かれないのは、この為だ。

聖夜も近付く12月22日────今日はサイファーの誕生日だ。
無論、個人の誕生日に任務の割り振りが考慮される訳もないのだが、正SeeDならば其処を狙って休暇申請をすることが出来る。
しかし、基本的に監視付きの更生期間と言う状態のサイファーは、任務をつけたと言われれば、行かなくてはならない。
休暇申請なんてものを出せる立場でもないので、いつなりと出動しなくてはならない訳だ。

それはサイファーも判っているのだが、判っているから、目の前の男が考慮するべきだろうと思う。
SeeDの指揮官であり、サイファーの監視役であり、恋人である、スコールが。

じっと睨むサイファーに、スコールも言わんとするものを感じ取っていた。
スコールは胡乱な目をサイファーにちらと向けると、また後部扉へ視線を戻して、はあ、と溜息を吐く。


「依頼内容からして、魔物の特徴がエルノーイルと一致した。あいつは早目に対処しないと、後が厄介だ。緊急性の高い依頼だと判断したから、あんたに振った。空いていたから」
「空けてくれてるもんだと思ってたぜ。まさか当日の朝っぱらに撤回されるとは思わなかった」
「仕方がないだろ。あんたしか暇なのがいなかったんだ」
「暇じゃねえよ。やる事は山積みだったんだ」


苦々しく言うサイファーに、スコールはまた溜息を吐く。


「俺だって本当は出る予定なんかなかった。あんたのお陰で、こんな所まで来なきゃいけない」


言いながらスコールは、この車を運転しているSeeDも、ひょっとしたら休みだったのかも知れない、と思う。
体力の浪費を避ける為、運転係として出向する羽目になったSeeDにも、少なからず同情はある。
だが、任務は任務、派遣命令が出ればSeeDはそれに従わなくてはならない。
それは指揮官であるスコールも同じで、なんなら、人手不足と人材不足を埋める為、スコールの休みなど返上されるのが常である。
だからサイファーの苛立ちも理解はできるが、それでも仕事は仕事として熟さねばならないのだ。

恨むなら依頼人か、その依頼を出す原因となった魔物を恨め。
スコールはそう言って、何度目になるか、物言わぬ後部扉を睨む。

そしてサイファーも、この場でスコールにどんな愚痴や恨み小言を零したとて、意味がないことは判っている。
判っているが、それでもサイファーは言わずにいられなかった。
今日と言う日の為、着々と用意して来た何もかもが、すっかり吹き飛んでしまったのだから、憎まれ口も出ようと言うものだ。


「この調子だと、年末なんてモンもないんだろうな」
「……」
「苦労して取った予約だったのに。良い店なんだぜ。行った事ねえけど」
「……」
「バラムホテルの傍にある、洒落たレストランだ。景色が良いんだと。まあ、海なんて幾らでも見てるけどな」


確かに、バラム島で暮らす人々にとって、海は身近にあるものだ。
それでも、毎日何気なく見ている風景でも、洗練された洒落た店の中で腰を落ち着ければ、何か違う印象があるのかも知れない。
スコールからすれば、海は海だろ、と思うものだが、ロマンチストのサイファーには違うものなのだろう。


「……また時間が空いた時に予約したら良いだろ」


止まりそうにない愚痴に飽き飽きして、スコールはそう言った。
しかしサイファーは、判ってねえ、と苦虫を潰す。


「人気のレストランだ。早々予約が取れる訳じゃねえんだよ。オマケに、今日を過ぎりゃ、後はクリスマスシーズンだ。今更取れやしねえ」
「……そんなのもあったか」


確かに、クリスマスともなれば、洒落たレストランやホテルはとっくに埋まっているだろう。
特別な日を、特別な人と過ごせるように、誰もがその席を奪い合う。
スコール自身はそうした事にまったく無頓着だったが、世の中の人間は、存外と祝祭に敏感なのである。

そんなスコールの様子に、判ってたけどな、とサイファーは胡乱に目を細め、


「お前がそんな調子だから、俺が用意してやろうと思ったんだぜ」
「……頼んでない」
「そりゃそうだ。お前がムード作りを考える余裕なんて、ある訳ねえからな」
「……」


サイファーの言いように、それはそれで腹が立つ、とスコール思う。
反面、サイファーの言う通りであると、スコール自身も自覚していた。

唇を尖らせるスコールに、サイファーも多少は溜飲が下がって来たか、微かに口角を上げて、スコールの顔を見つめている。
スコールの方も、そんなサイファーを面倒な表情で見返して、


「……埋め合わせなら考えてやる」
「いつだ?」
「そんな事まで保証できるか」


お互いに、予定が幾らでもひっくり返る日々なのだ。
サイファーは勿論のこと、指揮官であるスコールも、休暇申請を出した所で、通るとは限らない。
通った所で、前日当日になって緊急任務が入るのも、然して珍しい話ではないのだから。

それでも、一応、スコールも考えていない訳ではないのだ。
“今日”と言う日の特別性と言うものを───その為に用意したものがあることも。


「……取り合えず、帰ったら」
「一晩はくれるのか?」
「……判ってるだろ」


それが精一杯の時間の譲歩であることを、スコールは眉間に深い皺を寄せて言った。
不機嫌な顔を作っているのに、頬が熱い気がして仕方がない。
出来るだけそれを悟られまいとした所で、目の前にいる男には、碌に効果もなかった。

サイファーは寄り掛かっていた背中を起こして、揺れる車の中で腰を上げた。
向かい合って座っていたスコールに近付いて、徐にスコールの前髪を撫で挙げる。
スコールは片目を細めながら、なんだよ、と言う表情でサイファーを見上げた。


「埋め合わせをくれるのは嬉しいけどよ。今日の分くらい、ちょっとは貰えるモンはないのか?」
「任務に出るのに、余計なものを持ってくる訳ないだろう」
「物じゃなくても、あるだろ?」


口角を上げるサイファーの言わんとしていることに、スコールは奥歯を噛んで睨む。
見下ろす翠の瞳には、赤らんだ顔をした少年が映っていた。

スコールは苦々しい表情を隠しもせず、そろりと右手を持ち上げた。
ちらと見遣る視線は、運転席の方に向けられていたが、其処は小窓があるものの、カーテンを綴じているので運転席が此方を覗くことはない。
それが開けられないように祈りながら、スコールはサイファーの頬に手を添えて、直ぐ其処にある厚みのある唇に、微かに触れるだけのキスをした。


「……誕生日」
「おう」
「……おめでとう」
「ああ」


揺れる車体の音に消え切らない程度の小さな声で囁けば、サイファーは満足そうに笑った。
スコールの額の傷に唇が落ちて、持ち上げていた前髪が戻される。

そのままサイファーは元の席に戻るかと思いきや、スコールの隣に落ち着いた。
距離の近さにスコールは眉根を寄せたが、振り払う程の理由もない。
はあ、と今日何度目かの溜息を吐いて、スコールは隣の恋人の好きにさせてやることにした。





サイファー誕生日おめでとう、と言うことでサイスコ。
何回に一回は書きたくなる、色気のない所で迎える誕生日のネタ。

車の中だし、移動中だし、運転席に人がいるしと言うことで、これ以上はお預け。
任務が終わって帰ったら、思う存分しっぽりしたら良いと思います。
任務帰りとお預けの後なので、中々お熱い夜になるんじゃないだろうか。そのままクリスマス迎えそう。

[16/トルガル]ぜったい、幸せにする

お題配布サイト 【シュレディンガーの猫】






ずっとずっと、大好きなひとたちがいる。
ずっとずっと、離れ離れになっていた時間がある。
だから、また皆と逢えたことが、こんなにうれしい。



水の上に作られた新しい巣は、前よりも飛び抜けて風通しが良くて、時々寒い。
それでも日差しが届く場所は暖かいし、風の通り道がある場所は涼しくて、夜は小波の音が揺り籠のよう。
昼間は子供たちが元気に跳ねる足音が聞こえて、夜は焚き木を翳した人たちが静かに歩く音がする。
前の巣はめちゃくちゃになってしまって、乾いた黒い砂土に埋もれてしまって、とても悲しかった。
だから今度の巣は、大きくて広い水の中に作ったらしい。
外への出入りが少し不便だけれど、だから新しい巣は、皆にとって安心できる場所になったんだろう。

昼寝から目が覚めて、ご飯を食べて、少し散歩をする。
お気に入りの場所をゆっくりのんびり、変わった所はないか、子供たちが危ない所で遊んでいないか、パトロール。
顔を見付けると遊んで遊んでとじゃれついて来る子供がいて、背中に乗ってきたり、顔を触られたり。
時々、勢い余って毛を引っ張られることもあるけれど、皆きちんと良い子だ。
満足するまでたっぷり体を撫でさせてやってから、お返しにぺろりと丸い鼻を舐めてやると、きゃらきゃら笑う声がする。
皆、今日も良い子で元気に過ごしている。

剣を持った人たちが集まっている所を通りがかると、頭に布を巻いている人と目が合った。
背の高いテーブルの向こうから、「お、見回りか?」と声をかけられて、そうだよと応える。
此処にいる人たちはいつも忙しそうだから、邪魔にならないように周りをぐるっと歩いて、上に伸びている道へ進む。

道の途中にあるドアの向こうからは、ツンとした匂いが流れて来る。
此処は怪我をした人や、病気になった人が休むところだ。
外から帰ってきた人が怪我をしていると、皆ここに入って行って、手当てをして貰って出て来る。
大好きなひとも何度か此処に運び込まれた。
それから、次の日には部屋から出て来て、心配かけたな、と言って頭を撫でてくれる。
でも、時々、此処に運ばれて行った人が、それきり外に出て来なかったり、夜中に何人かの人が動かない人を抱えて、巣の外へと運んで行くのを見た事があった。
その時は泣いている人がいて、大好きなひとも苦しそうな顔をしていたから、きっと此処は、嬉しい事も、悲しい事も、同じ位に起きる場所なんだろう。
自分は、中に入らないようにと言われているから、どういう事をしているのか具体的なことは分からないけれど、タルヤやロドリグが朝から晩まで頑張っているのは知っている。

ああ、そうだ、此処で立ち止まっていてはいけない。
タルヤに見つかったら、また泡いっぱいの水に濡らされる。
ドアが開く気配がしたから、駆け足でその場を離れることにした。

ミドが作った穴の中を見て、沢山の草花が植えられている所を見て、勉強している子供たちの後ろを通る。
その向こうに伸びている道を通っていると、カンカン、カンカン、と甲高い音が聞こえて来た。
突き当たりを曲がって屋根の下に入れば、すぐ其処でブラックソーンが槌を振っている。
新しい巣を作った時、皆が苦心して作った炉は今日も火を焚いているから、此処はいつでも少し暑い。

ブラックソーンの後ろを通り過ぎた時、嗅ぎ慣れた匂いが風に乗ってきた。
傍の階段を上がった先にある扉が開いて、三人の大好きなひとたちが其処から出て来る。


「やっぱり、一度マーサの宿で詳しい情報を集めてからの方が良さそうね」
「そうだね。まずはストラスを飛ばして、それから……」
「俺たちも今から出よう、夕方には着ける筈だ。モルボル種は早い内に手を打たないと、被害が広がる」


階段を下りて来る三人の表情は、真剣そのもの。
その中で一番きれいな青い目が、此方を見た。


「行くぞ、トルガル。魔物退治だ」


どうやら、皆で外に出て、危ない魔物を退治にしに行くらしい。
勿論ついて行くに決まっている。

がらがらと音を立てる昇降機が上り下りをしている間に、上から下の足場に飛び降りた。
水面に一番近い其処では、大工の人たちがギィギィと鋸を引いて、沢山の木材を切っている。
その反対側、桟橋の袂には、小舟を橋に結び付けた渡し守のオボルスがぷかぷか煙草を吹かしていた。

昇降機を下りた皆が桟橋にやって来るのを見て、オボルスが重たそうに立ち上がる。


「どっち方面だい」
「ロザリアに」


あいよ、と言ってオボルスが手を出した。
ちゃりん、と金貨が其処に置かれて、オボルスは舟を動かす準備を始める。
その間に皆が小舟に乗って、自分も残った隙間に乗り込んだ。

今日の湖は強い風がないから、舟はオボルスの舵の通りに進んで行く。
穏やかに水面を走って行く舟の上で、皆は真剣な顔で話をしていた。


「被害報告は、今の所はモルボルだけだと言うが……モルボルは単体でも影響が大きいからな。後で周辺の環境調査も必要になるか」
「水源の近くにいると言う話だったね。水質に問題が起きていないと良いんだけど」
「あのあたりはエーテル溜まりも多いから心配ね。異常が起きてしまうと、簡単には元に戻せないし」


向かう先で何が必要になるのか、何処に援けを求めれば良いのか、皆はいつも一所懸命に考えている。

皆で顔を合わせる時、こうやって難しい顔をしている時は多い。
昔はもっと楽しそうに、明るく笑っていたことが多かったと思う。
あの頃に比べると、皆とても大きくなって───とくにジョシュアとか───、雰囲気も変わった。
けれど、おやつをくれる時の声や、毛を撫でてくれる時の優しい手付きは変わらない。
見た目がどんなに変わっても、巣の場所が変わっても、そう言う所が変わらないでいてくれることが嬉しい。

────ずっとずっと、もう逢えないと思っていた。
だって皆、何処に行ってしまったのか、何も分からなかったから。

ばらばらに崩れた沢山の瓦礫の中で、一所懸命に匂いを探して、その姿を探し回ったけれど、何処にもいなくて悲しかった。
巣に戻ったら待っていてくれる人がいた筈だと思って帰って見たら、其処は知らない匂いが沢山沢山渦巻いていて、待っていてくれた人もいなかった。
大好きなひとがいつも使っていたものを探して、集めて、いつ帰って来ても良いように、秘密の巣に運んで守っていたけれど、其処にも帰って来なかった。
その間に春が過ぎて、夏が過ぎて、秋が終わって、冬が来た。
寂しくて悲しくて堪らなかったけれど、腹が減るから食べるものを探さなくちゃいけなかった。
その内、生きていくことに一所懸命になっていくしか出来なくなって、大好きな匂いを探しに行く暇もなくなった。

ひとりで生きていくのは難しかった。
だから、ずっとずっと昔にそうしていたように、群れの中に入って生き延びた。
群れの仲間たちは、他所から来た自分を受け入れてくれたくらいだから、良い仲間だったんだろうと思う。
でも、大好きなひとたちを忘れることは出来なくて、もう逢えない寂しさがずっとずっと消えなかった。

あの人にあったのは、そんな時だっただろうか。
あまりよく覚えていないのは、あの頃はあの頃で、群れで生きることに一所懸命だったからかも知れない。

群れを離れて、あの人について行った。
知らない匂いのする巣の中で暮らすようになった。
それから、あの人と一緒に外に出て、獲物を狩ったり、何かを探したり。
ご飯をくれる人がいて、安心して眠れる寝床があって、その巣はとても居心地が良かった。
けれど、大好きなひとたちがいなかったことだけが、やっぱり寂しかった。

────だから今、大好きなひとたちと、また会えたことが嬉しい。
今は難しい顔を突き合わせているひとたちが、時々、ずっとずっと前みたいに笑っている所を見れるのが、嬉しい。

巣から離れた小舟が岸について、皆が船を下りて行くので、自分も岸に飛び移った。
オボルスは「戻ったら合図を寄越してくれ」と言って、舟を巣へと戻しに行く。
それを手を振って見送ってから、皆は歩き出した。


「着いたら、まずはマーサと、ブラッドアクス団から話を聞こう」
「退治に向かえるのは明日になりそうだね」
「イーストプールの人たちは大丈夫かしら」
「それも聞いておきたい所だな。ようやく生活が成り立つようになって来たんだ。混乱が起きていないと良いんだが」


起伏のある丘陵を進む皆の足取りに、迷いはない。
先頭を歩く相棒の横に並ぶと、青い目が此方を見た。

黒い手袋をした手が伸びて来て、ぽんぽん、と頭を撫でてくれる。


「頼りにしているぞ、トルガル」


嬉しい事を言ってくれる。
そんな風に思ってくれるのが嬉しい。

後ろを見れば、ついて来る足がふたつ。
目が合うと笑いかけてくれるのが嬉しい。

大好きなひとたちは、よく難しい顔をしていて、昔のように中々笑ってくれることはない。
けれどいつか、昔みたいに笑ってくれる日が来るように、それまでずっと守って行かなくちゃいけない。
バラバラになったら、誰か一人でも欠けてしまったら、きっと残った人は寂しくて悲しい顔をする。
ようやく会えた時だって、相棒はずっとそうだったんだ。
辛くて苦しくて、泣きたいのに泣けない顔をずっとしていたから心配だった。
またあんな顔をしなくて良いように、誰も離れ離れにならないように、相棒も一緒に皆守って行かなくちゃいけない。



誰かがいなくなると、皆が寂しい。
あの人が遠く遠くに行ってしまって、帰って来なかった時も、沢山の人が悲しんだ。
他にも、古い巣にいた人たちも、沢山沢山、いなくなって寂しくなった。
大好きなひとたちも、沢山沢山、泣いていた。

だから何処にだってついて行く。
誰かがもういなくならなくて良いように。

みんな一緒に、しあわせになる為に。






【一途に思い続けた先へ5つのお題】
5:ぜったい、幸せにする

FF16の癒し、トルガル。一度彼の視点で書いて見たかった。
アップデートで相関図に追加された、各人に対する気持ちの矢印、トルガルがずっと可愛い。
トルガルにとってクライヴは相棒、ジルとジョシュアは保護対象、シドは狩り仲間って言うのが良いですね。
群れの序列はクライヴ一番、自分が二番。仔トルガルの頃からジョシュアのことは「守らなきゃ」って思ってる所が良い。

トルガル、ロザリス城やフェニックスゲートからクライヴの剣や持ち物を探して、あの小島まで泳いで持って行ったんだなあ。
クライヴたちと一緒にいると賢い相棒ですが、傍から見ると犬としても大きすぎるし、野生の頃は人に追い払われたりもしてるんじゃないだろうか。廃構になってしまった砦はともかく、城にはザンブレク軍が常駐していただろうし、結構な無茶をして掻き集めてたんじゃないかなと思う。
それ位にクライヴのことが忘れられなかったんですね。

[ヴァンスコ]風の彼方へ

  • 2025/12/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



歪の中に巣食っていたイミテーションは、それ程練度の高いものではなかった。
数こそ多かったものの、連携を取る訳でもなく、個々が近い位置にいる敵を狙って散発的な攻撃を行う。
視覚情報に頼るものばかりであったこともあり、それらを一所に誘導するのは難しくなかった。
スコールが魔法連弾やフェイテッドサークルの爆発を利用して注意を引き、広いようで狭い、劇場艇プリマビスタのステージ中央へと誘う。
そしてステージ奥の高場にいるヴァンが広範囲を巻き込む風魔法を放てば、一網打尽にすることができた。

重なり散らばっていたイミテーションの破片は、それを全て倒した頃、吹き抜ける風に浚われるように消えていく。
後に残ったのは、戦いの痕跡として、壁や床が剥ぎ折れたり、焦げたりしている程度だ。
これも時間が経てば、いつの間にか元通りになっている。

敵の気配がなくなったことを確認して、スコールは構えていたガンブレードを下ろした。
高場に昇っていたヴァンが飛び降りて、スコールの下へとやって来る。


「終わったか?」
「恐らくな」


周囲を注意深く確認しながら、スコールは一応に頷いた。

この空間は、イミテーションこそ多くいたものの、空間としては安定しているようだ。
周囲を映す景色は、晴れた青空を行くかのように青く澄み、遠くには千切れた雲が通り抜けていくのが見える。
最も、景色がそう見えているからと言って、その雲のある向こう側まで飛んでいくことは出来ず、見えないデジョンウォールに阻まれて戻されてしまうものなのだが。

歪の出口は、とスコールは首を巡らせて、ステージの上手側の奥を見た。
入って来た時には、其処に侵入口があったのだが、どうやら戦っている間に其処は閉じてしまったらしい。
ヴァンも同じようにそれを見て、唇を尖らせた。


「出口、閉じちゃったのか」
「……そのようだな」
「じゃあ探さなきゃ。でも、この辺にはなさそうだよなぁ」


ヴァンはきょろきょろと辺りを見回すが、景色の中に渦のように浮かぶ歪みは見付からない。
見渡す分には決して広くはない空間だから、目を細めて凝らさねばならない程のものでもなかった。


「中かな?」


そう言ったヴァンの視線は、ステージの中央奥───高場の足下の壁に設けられた扉に向けられている。

どこかの城の一画を切り抜いたような、実寸的サイズを思えば聊か小ぶりに見える扉は、如何にも重厚そうな見た目をしている。
扉は両開きのようだが、中心はぴったりと閉じている上、人の腕ほどの太さのある木材が閂錠にされている。
木材を外せば扉を開けることが出来るだろう、とヴァンは早速その木材に手をかけたが、


「ん?」
「……」
「んん~~~っ……!」


ヴァンは閂錠に両手を添えて、うんうんとうなる。
踏ん張ったり力んだりと手を変え品を変えとしているが、木材はまるで扉の一部であるかのように動かない。

ヴァンはしばらく奮闘していたが、びくともしない閂錠に、比較的あっさりと諦めた。


「駄目だ、開かない。もともと開かない感じっぽい」
「……見た目だけのハリボテなんじゃないか。“劇場艇”らしいからな。演劇の為の背景なんだろう」
「あー、そっか。ジタンがそんなこと言ってたっけ」


スコールの言葉に、ヴァンはこの劇場艇を良く知っていると言う、ジタンの話を思い出す。

この劇場艇プリマビスタは、ジタンが身を置く盗賊団の移動拠点であると言う。
それと同時に、一団は表向きには劇団として活動していることもあり、国や街の催事の折には、劇や芸を見せる為、そのステージとして飛空艇が活用されるそうだ。
それを思うと、ハリボテであっても、扉ならば演出として人物の出入りの為の機能がありそうなものだが、此処にあるのはあくまで世界の断片だ。
壁も扉も、見た目ばかりが元の形に則っているだけ、と言うのは珍しくなかった。

しかしそうなると、探せる場所がない。
どうしたものか、と首を捻るヴァンを横目に、スコールはもう一つ、此方はもっと地味な色味の扉があるのを思い出した。


「……」
「あ。そっか、そっちもあるんだ」


ステージには、中央の扉から少し離れて下手側に、小さな黒い扉が設けられている。
背景として目立たないようにか、濃い茶色で塗り潰されているそれには、ドアノブも何もなかったが、よくよく見ると僅かに隙間が開いている。
スコールがそのドアの端をそろりと掴み、手前へと引いてみると、ドアは静かに口を開けた。

開いた、と言って駆け寄ってきたヴァンが、ドアの奥を覗き込む。
何が起きるか判らない、と警戒しようとしていたスコールにしてみれば、随分と迂闊な行為だ。


「おい、安全確認もせずに入るな。何がいるか判らないんだぞ」
「大丈夫だよ。変な気配もないし」


咎めるスコールだが、ヴァンは楽観的であった。
実際、何事もなく細く狭い通路が伸びているのを見て、「ほら、なんともない」とヴァンは言う。

ドアの向こうからは、うぉんうぉんうぉん、と言う音が聞こえている。
スコールがドアを大きく開いてみると、外からの光が中へと差し込んで、幾つもの歯車が縦に横にと噛み合って動いているのが見えた。
おお、とヴァンが目を丸くしながら、歯車が犇めき合う壁に近付く。


「機関部かな?」
「……どうだろうな」


ステージとして開いている場所のすぐ内側に、飛空艇の心臓でもある、機関部が隣接するものだろうか。
そもそも、この歪に作られた空間が、本物と全く同じと言う訳でもないだろう。
それを考えると、今目の前に見ている機関部───らしきもの───が、“劇場艇プリマビスタ”を支えているものかも、判らないことだ。

スコールが辺りを見回すと、歯車がかみ合う隙間を滑るように、細い道が伸びている。
取り合えず、ステージに歪の出口はなかったし、こうして進める空間があるのなら、この先に出口が出来ているかも知れない。
一先ずは散策してみるしかない、とスコールは道沿いに進んでみることにした。

このプリマビスタと言う飛空艇が、実際にはどれ位の大きさを持っているのか、スコールは知らない。
ジタンが言うには、10人以上の団員が日々の生活をしつつ、移動することが出来る程度の広さはあると言うが、彼の世界とスコールの世界では生活様式と言うものも違う為、いまいち判然とはしなかった。
噛み合う歯車と、聞こえる駆動音からして、スコールが知る“飛空艇”とも、随分と造りが違う。
歯車やプロペラが幾つも噛み合い、水蒸気を噴くパイプが多く伸びているのを見ると、なんとなく、随分とアナログだな、と思った。

そしてスコールの後ろをついて歩くように進むヴァンも同じ印象を持ったようで、


「なんて言うか、随分古い感じの作りだな」
「……ジタンの世界じゃ、機械はこう言うものなんだろう」
「そっか。スコールの世界の飛空艇はどんな感じだ?これと似てる?」
「似てはいない」


ヴァンの問いに応えたスコールだが、自身は飛空艇には然程詳しくはない。
しかし、少なくともこういう作りしていなかった、と思う。

見えている光景は、壁は木材の上に鉄板が打ち付けてあるが、スコールが知っている乗り物と言うのは、基本的に耐熱や耐衝撃の他、耐腐にも優れた合金製であった筈だ。
構造の技術の根幹は恐らく似ているのだろうが、歯車も重い鉄ではなかった筈だし、何にせよ、金属類の軽量化と耐久性が、科学技術と共に発達していた。
木材や鉄材を主にした乗り物なんてものは、そのレトロさをコンセプトにして、わざわざ金をかけて作るような、鑑賞目的でもなければ用のないものだったと言えるだろう。

ヴァンは蒸気を零しているパイプをしげしげと見上げた。


「俺が知ってるのとも違うし。燃料って何なのかな」
「さあな」
「スコールの世界の飛空艇は何だった?」
「……知らない。車ならガソリンだったと思うが。蒸気機関は……そうメジャーに使われてるものじゃない」


技術としてはそれもあった筈だ、とスコールは思う。
ただ、それよりも、電気や油の方が燃料としての需要は大きかったのではないだろうか。

ヴァンは壁を走るパイプに取り付けられた計器を眺め、


「面白いな。色んな飛空艇が色んな世界にあるんだ」
「……そうらしいな」
「見てみたい。スコールも、面白い飛空艇とか、見てみたくないか?」
「別に」


何処か浮足立ったヴァンの声に、スコールはにべもなく言った。

どうやらヴァンは“飛空艇”に並々ならぬ思い入れがあるようだが、生憎とスコールにとってはそうではない。
あれば便利だろうと思うし、徒歩以外の移動手段がないこの世界で過ごしていれば、尚更その利便性は輝く。
だが、ないものねだりをしてもどうしようもないし、異世界の乗り物など、想い馳せても乗れる訳もない。
そもそも飛空艇に限らず、乗り物の類に入れ込むような執着もないので、この話題自体がスコールにとってはどうでも良いものだった。

そんなスコールの素っ気ない反応でも、ヴァンは気を悪くした様子はない。


「俺、いつか自分の飛空艇が欲しいんだ」
(飛空艇なんてもの、個人で所有できるものだったか?)
「こんなに大きくなくて良いから、すごく早く飛べて、何処まででも飛んでいけるみたいにさ」
(規模にもよるか?いや、世界の技術力がどれ位それを現実化してるか、か……?)
「いや、欲しかった、のかな?なんかそんな気がする」


ヴァンの最後の言葉は、話しかけていると言うよりも、独り言めいていた。

後を追う足音が停まった気配がして、後ろを振り返ってみると、ヴァンは歯車だらけの壁をじっと見上げている。
噛み合う歯車なんてものを見て、何が面白いのか、スコールには判らない。
しかし、壁を見つめるヴァンの瞳は、どこか楽しそうに輝いて見えた。

そうして二人が立ち止まっていたのは、それ程長い時間ではなかった。
満足したのか、ヴァンが前を向き直った所で、その姿を見つめていたスコールと目が合う。


「ん?どうした?」


首を傾げるヴァンに、スコールは「……別に」と進行方向に向き直る。
変わらぬ歩調で歩き出すと、後ろからはたったっと言う軽い足音がして、隣に並んだ。


「スコールは、飛空艇には乗った事あるのか?」
「……さあな」


訊ねるヴァンに、スコールは曖昧に言った。

乗ったことがあるような気もするし、飛空艇と言うものがどんな代物かも知ってはいるが、しかし余り身近なものではなかったような気がする。
となると、乗ったことがあると思うのは、どういう経緯のものだったのか。
スコールの元の世界の記憶と言うのは、どうにも霞がかった所が多いから、はっきりとはしなかった。

スコールの反応を、ヴァンは飛空艇に乗ったことがない、或いは思い出せない、と受け取ったのだろう。
じゃあさ、と言ってヴァンはスコールの顔を覗き込む。


「もしスコールが、俺の世界に来れたらさ。乗せてやるよ、飛空艇」
「……いきなり何だ」


この歪から出るにも苦労をするのに、元の世界に戻った時の話など、気が早過ぎる。
その上スコールには、更に異世界へと渡れと言うのか。
余りに突飛な話に眉根を寄せるスコールだが、ヴァンは無邪気な目をして、言った。


「こんな所に来たんだ。どうにかしてその内帰れるし、此処からもっと別の所に行くことだって出来るかも知れないだろ」
(元の世界に帰るその方法が判ってないから、こんな所で神の闘争なんてものに付き合わなきゃいけないんだろ。それなのに、違う世界に渡る話をするのか?)
「飛空艇があれば、ずっと遠い所とか、空の上にある島にも行けるんだ」
(空の上の島?そんなもの……いや、ないと断定するのも……)


ヴァンの言葉は何もかもが荒唐無稽に聞こえたが、それはスコールの常識で考えるからだ。
目の前の少年は、まるで当たり前のことであるかのように話しているし、ヴァンにとっては島が飛ぶのも普通のことなのかも。
それこそとんでもない世界だ、とスコールは思うのだが、この異世界にも、時折そんな世界の断片が現れることがある。
あれは次元が歪んで、本来の状態とは違う形で出現したと思っていたが、強ち、見たままが正解という場所もあるのかも知れない。


「空の上に沢山島が浮かんでるんだ。面白いぞ」
(……そうだろうな。そんな景色、見た事もない)
「俺の飛空艇で連れて行ってやるからさ」
(……あんたの?)
「あれ。俺の?やっぱり俺、持ってるのかなぁ、飛空艇」
「……俺に聞くな」


自分の発言に、自分で首を傾げるヴァンに、スコールは溜息を混じらせるのだった。





12月8日と言うことで、ヴァンスコ。
012の頃だと、スコールはツンツンしているけど、ヴァンがその空気を気にしなさそうな。
ヴァンが悪意や言葉以上の他意を持って接するタイプじゃないので、スコールはその言動にちょっと振り回されつつ、なんとなく無碍にしてない距離感。
ヴァンもなんだかんだでスコールが許してくれるのを感じているから、この距離感で接してるんだと思います。

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