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2025年12月08日

[ヴァンスコ]風の彼方へ

  • 2025/12/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



歪の中に巣食っていたイミテーションは、それ程練度の高いものではなかった。
数こそ多かったものの、連携を取る訳でもなく、個々が近い位置にいる敵を狙って散発的な攻撃を行う。
視覚情報に頼るものばかりであったこともあり、それらを一所に誘導するのは難しくなかった。
スコールが魔法連弾やフェイテッドサークルの爆発を利用して注意を引き、広いようで狭い、劇場艇プリマビスタのステージ中央へと誘う。
そしてステージ奥の高場にいるヴァンが広範囲を巻き込む風魔法を放てば、一網打尽にすることができた。

重なり散らばっていたイミテーションの破片は、それを全て倒した頃、吹き抜ける風に浚われるように消えていく。
後に残ったのは、戦いの痕跡として、壁や床が剥ぎ折れたり、焦げたりしている程度だ。
これも時間が経てば、いつの間にか元通りになっている。

敵の気配がなくなったことを確認して、スコールは構えていたガンブレードを下ろした。
高場に昇っていたヴァンが飛び降りて、スコールの下へとやって来る。


「終わったか?」
「恐らくな」


周囲を注意深く確認しながら、スコールは一応に頷いた。

この空間は、イミテーションこそ多くいたものの、空間としては安定しているようだ。
周囲を映す景色は、晴れた青空を行くかのように青く澄み、遠くには千切れた雲が通り抜けていくのが見える。
最も、景色がそう見えているからと言って、その雲のある向こう側まで飛んでいくことは出来ず、見えないデジョンウォールに阻まれて戻されてしまうものなのだが。

歪の出口は、とスコールは首を巡らせて、ステージの上手側の奥を見た。
入って来た時には、其処に侵入口があったのだが、どうやら戦っている間に其処は閉じてしまったらしい。
ヴァンも同じようにそれを見て、唇を尖らせた。


「出口、閉じちゃったのか」
「……そのようだな」
「じゃあ探さなきゃ。でも、この辺にはなさそうだよなぁ」


ヴァンはきょろきょろと辺りを見回すが、景色の中に渦のように浮かぶ歪みは見付からない。
見渡す分には決して広くはない空間だから、目を細めて凝らさねばならない程のものでもなかった。


「中かな?」


そう言ったヴァンの視線は、ステージの中央奥───高場の足下の壁に設けられた扉に向けられている。

どこかの城の一画を切り抜いたような、実寸的サイズを思えば聊か小ぶりに見える扉は、如何にも重厚そうな見た目をしている。
扉は両開きのようだが、中心はぴったりと閉じている上、人の腕ほどの太さのある木材が閂錠にされている。
木材を外せば扉を開けることが出来るだろう、とヴァンは早速その木材に手をかけたが、


「ん?」
「……」
「んん~~~っ……!」


ヴァンは閂錠に両手を添えて、うんうんとうなる。
踏ん張ったり力んだりと手を変え品を変えとしているが、木材はまるで扉の一部であるかのように動かない。

ヴァンはしばらく奮闘していたが、びくともしない閂錠に、比較的あっさりと諦めた。


「駄目だ、開かない。もともと開かない感じっぽい」
「……見た目だけのハリボテなんじゃないか。“劇場艇”らしいからな。演劇の為の背景なんだろう」
「あー、そっか。ジタンがそんなこと言ってたっけ」


スコールの言葉に、ヴァンはこの劇場艇を良く知っていると言う、ジタンの話を思い出す。

この劇場艇プリマビスタは、ジタンが身を置く盗賊団の移動拠点であると言う。
それと同時に、一団は表向きには劇団として活動していることもあり、国や街の催事の折には、劇や芸を見せる為、そのステージとして飛空艇が活用されるそうだ。
それを思うと、ハリボテであっても、扉ならば演出として人物の出入りの為の機能がありそうなものだが、此処にあるのはあくまで世界の断片だ。
壁も扉も、見た目ばかりが元の形に則っているだけ、と言うのは珍しくなかった。

しかしそうなると、探せる場所がない。
どうしたものか、と首を捻るヴァンを横目に、スコールはもう一つ、此方はもっと地味な色味の扉があるのを思い出した。


「……」
「あ。そっか、そっちもあるんだ」


ステージには、中央の扉から少し離れて下手側に、小さな黒い扉が設けられている。
背景として目立たないようにか、濃い茶色で塗り潰されているそれには、ドアノブも何もなかったが、よくよく見ると僅かに隙間が開いている。
スコールがそのドアの端をそろりと掴み、手前へと引いてみると、ドアは静かに口を開けた。

開いた、と言って駆け寄ってきたヴァンが、ドアの奥を覗き込む。
何が起きるか判らない、と警戒しようとしていたスコールにしてみれば、随分と迂闊な行為だ。


「おい、安全確認もせずに入るな。何がいるか判らないんだぞ」
「大丈夫だよ。変な気配もないし」


咎めるスコールだが、ヴァンは楽観的であった。
実際、何事もなく細く狭い通路が伸びているのを見て、「ほら、なんともない」とヴァンは言う。

ドアの向こうからは、うぉんうぉんうぉん、と言う音が聞こえている。
スコールがドアを大きく開いてみると、外からの光が中へと差し込んで、幾つもの歯車が縦に横にと噛み合って動いているのが見えた。
おお、とヴァンが目を丸くしながら、歯車が犇めき合う壁に近付く。


「機関部かな?」
「……どうだろうな」


ステージとして開いている場所のすぐ内側に、飛空艇の心臓でもある、機関部が隣接するものだろうか。
そもそも、この歪に作られた空間が、本物と全く同じと言う訳でもないだろう。
それを考えると、今目の前に見ている機関部───らしきもの───が、“劇場艇プリマビスタ”を支えているものかも、判らないことだ。

スコールが辺りを見回すと、歯車がかみ合う隙間を滑るように、細い道が伸びている。
取り合えず、ステージに歪の出口はなかったし、こうして進める空間があるのなら、この先に出口が出来ているかも知れない。
一先ずは散策してみるしかない、とスコールは道沿いに進んでみることにした。

このプリマビスタと言う飛空艇が、実際にはどれ位の大きさを持っているのか、スコールは知らない。
ジタンが言うには、10人以上の団員が日々の生活をしつつ、移動することが出来る程度の広さはあると言うが、彼の世界とスコールの世界では生活様式と言うものも違う為、いまいち判然とはしなかった。
噛み合う歯車と、聞こえる駆動音からして、スコールが知る“飛空艇”とも、随分と造りが違う。
歯車やプロペラが幾つも噛み合い、水蒸気を噴くパイプが多く伸びているのを見ると、なんとなく、随分とアナログだな、と思った。

そしてスコールの後ろをついて歩くように進むヴァンも同じ印象を持ったようで、


「なんて言うか、随分古い感じの作りだな」
「……ジタンの世界じゃ、機械はこう言うものなんだろう」
「そっか。スコールの世界の飛空艇はどんな感じだ?これと似てる?」
「似てはいない」


ヴァンの問いに応えたスコールだが、自身は飛空艇には然程詳しくはない。
しかし、少なくともこういう作りしていなかった、と思う。

見えている光景は、壁は木材の上に鉄板が打ち付けてあるが、スコールが知っている乗り物と言うのは、基本的に耐熱や耐衝撃の他、耐腐にも優れた合金製であった筈だ。
構造の技術の根幹は恐らく似ているのだろうが、歯車も重い鉄ではなかった筈だし、何にせよ、金属類の軽量化と耐久性が、科学技術と共に発達していた。
木材や鉄材を主にした乗り物なんてものは、そのレトロさをコンセプトにして、わざわざ金をかけて作るような、鑑賞目的でもなければ用のないものだったと言えるだろう。

ヴァンは蒸気を零しているパイプをしげしげと見上げた。


「俺が知ってるのとも違うし。燃料って何なのかな」
「さあな」
「スコールの世界の飛空艇は何だった?」
「……知らない。車ならガソリンだったと思うが。蒸気機関は……そうメジャーに使われてるものじゃない」


技術としてはそれもあった筈だ、とスコールは思う。
ただ、それよりも、電気や油の方が燃料としての需要は大きかったのではないだろうか。

ヴァンは壁を走るパイプに取り付けられた計器を眺め、


「面白いな。色んな飛空艇が色んな世界にあるんだ」
「……そうらしいな」
「見てみたい。スコールも、面白い飛空艇とか、見てみたくないか?」
「別に」


何処か浮足立ったヴァンの声に、スコールはにべもなく言った。

どうやらヴァンは“飛空艇”に並々ならぬ思い入れがあるようだが、生憎とスコールにとってはそうではない。
あれば便利だろうと思うし、徒歩以外の移動手段がないこの世界で過ごしていれば、尚更その利便性は輝く。
だが、ないものねだりをしてもどうしようもないし、異世界の乗り物など、想い馳せても乗れる訳もない。
そもそも飛空艇に限らず、乗り物の類に入れ込むような執着もないので、この話題自体がスコールにとってはどうでも良いものだった。

そんなスコールの素っ気ない反応でも、ヴァンは気を悪くした様子はない。


「俺、いつか自分の飛空艇が欲しいんだ」
(飛空艇なんてもの、個人で所有できるものだったか?)
「こんなに大きくなくて良いから、すごく早く飛べて、何処まででも飛んでいけるみたいにさ」
(規模にもよるか?いや、世界の技術力がどれ位それを現実化してるか、か……?)
「いや、欲しかった、のかな?なんかそんな気がする」


ヴァンの最後の言葉は、話しかけていると言うよりも、独り言めいていた。

後を追う足音が停まった気配がして、後ろを振り返ってみると、ヴァンは歯車だらけの壁をじっと見上げている。
噛み合う歯車なんてものを見て、何が面白いのか、スコールには判らない。
しかし、壁を見つめるヴァンの瞳は、どこか楽しそうに輝いて見えた。

そうして二人が立ち止まっていたのは、それ程長い時間ではなかった。
満足したのか、ヴァンが前を向き直った所で、その姿を見つめていたスコールと目が合う。


「ん?どうした?」


首を傾げるヴァンに、スコールは「……別に」と進行方向に向き直る。
変わらぬ歩調で歩き出すと、後ろからはたったっと言う軽い足音がして、隣に並んだ。


「スコールは、飛空艇には乗った事あるのか?」
「……さあな」


訊ねるヴァンに、スコールは曖昧に言った。

乗ったことがあるような気もするし、飛空艇と言うものがどんな代物かも知ってはいるが、しかし余り身近なものではなかったような気がする。
となると、乗ったことがあると思うのは、どういう経緯のものだったのか。
スコールの元の世界の記憶と言うのは、どうにも霞がかった所が多いから、はっきりとはしなかった。

スコールの反応を、ヴァンは飛空艇に乗ったことがない、或いは思い出せない、と受け取ったのだろう。
じゃあさ、と言ってヴァンはスコールの顔を覗き込む。


「もしスコールが、俺の世界に来れたらさ。乗せてやるよ、飛空艇」
「……いきなり何だ」


この歪から出るにも苦労をするのに、元の世界に戻った時の話など、気が早過ぎる。
その上スコールには、更に異世界へと渡れと言うのか。
余りに突飛な話に眉根を寄せるスコールだが、ヴァンは無邪気な目をして、言った。


「こんな所に来たんだ。どうにかしてその内帰れるし、此処からもっと別の所に行くことだって出来るかも知れないだろ」
(元の世界に帰るその方法が判ってないから、こんな所で神の闘争なんてものに付き合わなきゃいけないんだろ。それなのに、違う世界に渡る話をするのか?)
「飛空艇があれば、ずっと遠い所とか、空の上にある島にも行けるんだ」
(空の上の島?そんなもの……いや、ないと断定するのも……)


ヴァンの言葉は何もかもが荒唐無稽に聞こえたが、それはスコールの常識で考えるからだ。
目の前の少年は、まるで当たり前のことであるかのように話しているし、ヴァンにとっては島が飛ぶのも普通のことなのかも。
それこそとんでもない世界だ、とスコールは思うのだが、この異世界にも、時折そんな世界の断片が現れることがある。
あれは次元が歪んで、本来の状態とは違う形で出現したと思っていたが、強ち、見たままが正解という場所もあるのかも知れない。


「空の上に沢山島が浮かんでるんだ。面白いぞ」
(……そうだろうな。そんな景色、見た事もない)
「俺の飛空艇で連れて行ってやるからさ」
(……あんたの?)
「あれ。俺の?やっぱり俺、持ってるのかなぁ、飛空艇」
「……俺に聞くな」


自分の発言に、自分で首を傾げるヴァンに、スコールは溜息を混じらせるのだった。





12月8日と言うことで、ヴァンスコ。
012の頃だと、スコールはツンツンしているけど、ヴァンがその空気を気にしなさそうな。
ヴァンが悪意や言葉以上の他意を持って接するタイプじゃないので、スコールはその言動にちょっと振り回されつつ、なんとなく無碍にしてない距離感。
ヴァンもなんだかんだでスコールが許してくれるのを感じているから、この距離感で接してるんだと思います。

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