サイト更新には乗らない短いSS置き場

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2018年02月

イベントお疲れ様でした

  • 2018/02/28 21:59
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イベント後に覚えている時だけ書いてるイベント記になってます(・∀・)
 
東京スクエニオンリー、お疲れ様でした。沢山の方に声をかけて頂けて、とても楽しかったです。
 
 
前乗りで東京に行きましたので、土曜日は別れの物語展に行っていました。六本木ヒルズってでっかいね!!!(田舎者)
入場直ぐのバハムートとの戦いは、光の戦士(14プレイヤー)にとって、そわそわして楽しかったです。SEとか音楽とか。私はライトもライトで、絶バハは勿論、バハムートも侵攻までしか行ってない(全力介護で見学に行かせて頂きました)のですが、全身で感じる映像と言うのはやはり凄いですね。ゲーム内でも、幻獣王バハムートと戦うキャラクター達は、こう言う迫力の中で戦っているのかと想像したりして、……今後の創作に活かせたら良いなあ……
展示はじっくり見て回る事が出来たので嬉しかったです。時間の制限が無いって良いなあ……往路で駅から目的地まで一回迷子になった事は忘れよう。
 
イベント日は東京マラソンと丸々被っていたと言う事で、交通規制があり、移動ルートが制限された為か、ホテルの最寄り駅から向かうバスが満員状態でした。イベント参加の方は勿論、一般の方々の乗り降りが非常に苦労する程で、私自身も荷物が多い状態で、申し訳なかった……バスは終始ぎゅうぎゅうでしたが、詰め合ってビックサイトへ向かう人は一人も漏らさずにバスに乗れたようです。ビッグサイトの到着前、車掌さんが「乗降の際のご協力ありがとうございました。皆様、苦しかった車内の事は忘れて、今日一日を楽しんで下さい」と言って下さった事が記憶に残っています。開場到着前から人酔いで少しグロッキー気味だったのですが、お陰で少し元気が出ました。
 
会場では色んな人と沢山お話が出来て楽しかったです!
NTの話もさせて頂きまして。私は格ゲーがてんで苦手な方なので、NTはスコールが見たいが為にやりました。ストーリーの召喚獣バトルはスコールだとかなりキツい!と言う話も……w意地とゾンビプレイでスコールでクリアした私ですが、やはりシューターが楽ですよね……w
 
 
新刊の[指揮官様の潜入任務Ⅱ]は、同じタイトルのものとは全く別の話です。エロラノベ風のモブスコ本はこのタイトルで統一させて行くつもりです。今後、同タイトルの物が出ても、今回と同じく続き物とかではなく、ストーリーは単品となります。
前回の[指揮官様]ではオリジナルキャラが出張っていたので、モブスコと言うよりオリキャラ×スコールの雰囲気になった気がしていたのですが、[Ⅱ]はモブ複数×スコールと言う感じになっています。難しい事はさておいて、スコールにエロい事をしたい欲望だけを詰め込んだ本です。
 
今回のイベントで、[絆~3rd junction]が在庫切れとなりました。続き物の中間の話のみが在庫切れとなってしまったので、1巻・2巻の在庫の数を確かめて、少部数での再版を考えています。3月中に再版する予定ですので、通販をお考えの方は、少々お待ちくださいませ。
 
 


イベント前日から当日まで、様々な出来事から、当サイトの方向性や運営について、一考せねばならない状況となってしまいました。サイト運営も同人活動も、私にとっては大事な楽しみであり、続けて行きたいと思っておりますが、今後の流れによっては、予告なく一斉削除と言う事もあるかも知れません。
今直ぐサイトの閉鎖、同人活動の停止と言う事は考えていませんので、Web・オフライン共に、これまで通りに活動を続けて行きたいと思っています。ただ、ある日突然閉鎖している、という可能性も否定できない状態となっておりますので、どうぞご容赦頂けますと幸いです。
 
これは管理人個人の考えです。他サイトの管理人様や、同人活動を行っている皆様方には、一切関係ありません。
 

[獣人レオン&獣人スコール]けものびと

  • 2018/02/23 21:21
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2月22日で猫の日(遅刻)と言う事で、獣人レオンと獣人スコール。
主な設定と今までの話は此処此処
ネタ粒格納庫にもあります。


[いつもとちがうひ]
[このにおいのそばがいい]


大分生活に慣れたレオンとスコールですが、何か起きるとやはり緊張したり警戒したり。
そう言う時は、自分の安心できる場所に行きたいし、自分を守ってくれる人の近くにいたい。
同時に、守ってくれる人が何か様子が可笑しいなら、なんとかしなくちゃとも思っています。

[けものびと]このにおいのそばがいい

  • 2018/02/23 21:03
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キロスが作った粥を昼食に採り、薬を飲んだ後のラグナは、只管寝て過ごした。
レオンとスコールと一緒に暮らすようになってから引っ越して来たこのマンションは、子供二人との三人暮らしと考えても、十分に広い。
寝室もそれだけ広いスペースが取られており、一人で眠っていると、少し寂しさを感じる程だ。
彼等が一緒にベッドで過ごす事を許してくれてからは、余程暑い時でもなければ、一つのベッドで揃って眠る事も増えていたから、尚更寂しさが募る。
けれども、せめて熱が下がるまでは、彼等と離れて過ごさなければならない、とラグナは考えていた。

浅い眠りと現実の隙間でうとうととしていた時、何度かドアの方から音がした。
ちらりと見ると、ドアノブががちゃがちゃと音を立てたり、カリカリとドアが引っ掛かれる音がする。
直ぐにやんわりと咎める声が聞こえ、ぎゃうぎゃうと抗議宜しく吼える声が遠退くのが聞こえて、ラグナはその度に微笑ましくなった。
自分の昼寝床に入りたいのかもな、とラグナは思ったが、今日だけはベッドの住人を譲る事は出来ない。
ソファで寝る事も考えない訳ではなかったが、それで悪化させてしまっては、益々レオンとスコールに不自由を与え、キロスとウォードにも迷惑をかける事になる。
せめて今日だけ、と言う気持ちで、ラグナは早く熱が下がってくれる事を祈っていた。

その甲斐あってか、夕方頃には熱は引き、起き上がっても支障のない程度に回復した。
とは言え、治りかけと言うのは大事な所で、無理を推しては元も子もない。
キロスとウォードは、三人の夕食も作り、食べ終わってラグナが薬を飲むまで、彼等の世話をしていた。

ラグナはベッドから起き上がる事は出来たが、まだ寝室で過ごしている。
暇潰しにと携帯電話に撮り貯めていたレオンとスコールの写真を眺めていると、食器洗いを終えたキロスが寝室にやって来た。


「調子はどうだ、ラグナ」
「おう。お陰様で元気になったよ」
「それは良かった。此方は洗い物が終わった所でね。私達はそろそろお暇させて貰おうかと話していたんだ」
「そっかそっか。今日一日、ありがとな」


ベッドから抜け出すラグナを、キロスは止めなかった。
急なヘルプに応えてくれた友人達に、せめて見送りだけでも、と言うラグナの気持ちを汲んだのだろう。

揃って寝室を出ると、直ぐに足元に何かが飛びついて来た。
どんっと勢いよく突進して来たそれに、おっと、とふらつく体をなんとか支えて見下ろしてみれば、房付きの細い尻尾がゆらゆらと揺れている。


「がぁう」
「レオンか。まだあんまり俺に近付いちゃ駄目だぞ」


半日振りに見た顔に、ラグナの顔がすっかり緩む。
いつものように抱き上げたい気持ちを堪えて、ラグナは濃茶色の鬣を撫でるに留めた。

もう一人は、と見回すと、ソファの上に置いたクッションで丸くなっている。
隣でウォードが「ラグナが来たぞ」と声をかけると、スコールは少しだけ顔を上げ、じっと此方を見詰めた後、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
尻尾がぱしっ、ぱしっ、と何かを払うようにソファの肘掛を叩いている。
ウォードがやれやれ、と言った表情で、スコールの耳の裏を擽った。


「ラグナも大分回復したようだし、ウォード、我々は帰るとしよう」
「そうだな。スコール、レオン、今日は良い子にしてるんだぞ」
「どっちもいつも良い子だよ」
「君の前では、ね」


悪戯好きの子供に念押しするようなウォードの言葉に、ラグナが大丈夫だよと言えば、キロスがくつくつと笑って含みのある言い方をした。
キロスの言葉に、どう言う意味かとラグナが問う前に、友人二人は玄関へと向かう。
その後ろをラグナが追って行くと、足元にうろうろと動き回る気配があった。
うっかり蹴り飛ばしてしまわないように、ラグナは摺り足で、時折足元を見ながら進む。

玄関で靴を履く二人を待っている間、レオンはラグナの足に身を寄せて離れなかった。
すりすりと頭を擦り付けるように寄せて、爪を引っ込めた手がラグナの膝を掴んでいる。
ウォードは膝を曲げて、そんなレオンと目を合わせ、


「レオン。ラグナはまだ風邪を引いているからな。無理をさせてはいけないぞ」
「……がぅ」


ウォードの言葉に返事らしきものを返しつつ、レオンはラグナの膝にしっかりとしがみついた。
尻尾がラグナの足先に絡まって、全身で離れまいと主張しているように見える。
ラグナが体を屈めて手を出し出すと、蒼の瞳が零れんばかりに大きくなって、肉球のある手がそれを捕まえつようにタッチした。


「がぁう」
「あーもー。しょーがねーなー」


ラグナはくしゃくしゃに顔を崩して、レオンを抱き上げた。
するとレオンは、ラグナの胸にぽすっと頭を乗せて、すっぽりと其処に落ち着いた。


「今だけだぞ、レオン。風邪、伝染っちまうかも知れないからな」
「さて……判ってくれるかな。あちらの方も」
「あっち?」


レオンを腕に抱き、首を傾げるラグナに、キロスが後ろを指差す。
ラグナが振り返ってみると、其処にはリビングのドアの隙間から覗き込んでいるスコールがいた。
ぱちっと二人の目が合うと、スコールはぱっと奥に引っ込んでしまう。
しかし、すぐ其処に蹲っている事は、隙間から見える尻尾が証明していた。


「今日は二人とも、君と一緒にいられなくて、酷く不安だったようでね」
「宥めるのが大変だったぞ。レオンはまあ、大人しい方ではあったが」
「昼と夜と、食事もそれ程食べていない。きっと腹を空かせるだろうから、寝る前に君から何か食べさせてやると良い」
「えっ、そうなのか?お前達、飯食ってないのか?」


ラグナがレオンに尋ねると、レオンはきょとんとした表情で「ぐぅ?」と首を傾げる。
ラグナはもう一度、先とは違うトーンで「しょーがねーなー…」と呟いて、レオンの頭を撫でた。

それじゃあ、と手を振って、キロスとウォードは玄関を出て行った。
ラグナは二人を見送った後、閉じた玄関扉に鍵をかけ、レオンを抱いたままリビングへと戻る。
ドアを開ける前に、其処に蹲っていた気配が慌てて逃げたのが判った。
キィ、と蝶番を鳴らしてリビングに入ると、スコールはソファに戻っていて、此方に背を向けて丸くなっている。
ぴくぴくと丸い耳を此方に向けつつも、決して振り返ろうとはしないスコールに、ラグナは苦笑しながら彼の下へと近付いた。

ラグナがソファに座ると、スコールはもぞもぞと向きを動かして、完全にラグナに背を向ける。
いつもならそんな弟にレオンが近付いて、毛繕いをして宥めるのだが、当のレオンはスコールの様子は気にしているものの、ラグナの膝から降りようとしない。


「レオン、ちょっと降りてくれるか?」
「がぁう」
「…ダメかー」


ラグナの頼みに、レオンは一鳴きしたのみ。
梃子でも動く様子のないレオンに、仕方ないなあと眉尻を下げて笑みつつ、ラグナは隣で丸くなっているスコールの背に手を伸ばした。

まだ小さな背中をそっと撫でると、ピクッ、とスコールの耳と尻尾が立つ。
ゆら、ゆら、と尻尾が左右に揺れた後、ラグナの手にするりと絡み付いた。


「今日はごめんなー、スコール。レオンも」
「……」
「んぐぅ」


ラグナはスコールの背中を撫でながら、レオンの首を擽った。
レオンが眩しそうに目を細め、うるうると喉を鳴らす。

しばらくじっとしていたスコールが、のそ、と体を起こす。
スコールは体の向きを変えると、ラグナの傍らに身を寄せて、また蹲った。
ぽすん、と丸い顎がラグナの太腿に乗せられ、ぴく、ぴく、と丸い耳が動く。
その耳の裏側を、ラグナが軽く擽ってやれば、「んぐぅ……」と兄とよく似た鳴き声が漏れた。


「お前達、あんまり飯食ってないんだって?駄目だぞ、ご飯はちゃんと食べなくちゃ」
「……ぐぁう」
「がう……」
「腹が減って目が覚めちまうぞ。何か温めてやるから、それだけ食べて────」


食べて寝ような、と言おうとして、ラグナの声は止まった。
膝上で目を細めていた二人から、くふぅ、くふぅ、と規則正しい寝息が聞こえる。
ありゃあ、とラグナは困り眉で苦笑した。

起こすべきか、寝かせてやるべきか。
キロスやウォードが言ったように、余り食事をしていないのなら、夜中に空腹で目を覚ましてしまうだろう。
しかし、二人はこの短い時間で随分と深い眠りに落ちてしまったようで、ラグナが少々声をかけた位では、目を開けようとはしなかった。
何処か穏やかな寝顔をしている所を見ると、起こしてしまう事も少々気が引ける。


(……そういや、今日は昼寝したのかな?)


昼寝はレオンとスコールの日課のようなものだった。
食後の運動に少し遊んだ後は、ベッドで揃って丸くなって眠っているのだが、今日はラグナがずっとベッドで寝ていた。
リビングでも窓辺の日向や暖房の傍など、暖の取れる所で眠っているが、キロスとウォードがいる状態で、果たして落ち着いて眠れたのだろうか。
保護された時から何度も顔を合わせているので、二人が彼等に威嚇する事はないが、気を許せているかと言えば、また別の話になる。

やはり今は起こすまい、と決めて、ラグナは二人をそっと抱き上げた。
揺れの所為で二人は微かに唸ったが、目を開ける事はなく、そのまますぅすぅと眠り続けている。

ラグナは寝室に入ると、ベッドの壁際に二人を並べて寝かせた。
毛布で小さな体を一緒に包み、寒くないようにと念入りに寝床を整えてやる。
自身は、ベッドの逆端に身を寄せ、二人から可能な限り距離を取って横になった。
ベッドから落ちないと良いなあ、と平時の自分の寝相の悪さに不安を覚えつつ、ラグナは寝る態勢になる。


(明日には治さなくちゃな。大分寂しい思いをさせたみたいだし)


隙間を開けた向こう側で眠っている、レオンとスコール。
本当は彼等を抱き締めて眠りたいけれど、今日だけは我慢する。

薬のお陰か、睡魔は程無くやって来た。
今朝は感じた寒気もないので、きっと朝には治っている筈だと、ラグナは素直に目を閉じた。
治りさえすれば、明日にはまた彼等に沢山触れる事が出来るのだから、と。



翌日、目を覚ましたラグナが見たのは、ラグナに暖を与えるように密着して眠る、レオンとスコールの姿だった。





遅刻しましたが、2月22日は猫の日と言う事で、けものびとの三人で!

レオンもスコールも、ラグナの事が心配だし、一緒にいられないと不安。
そんな二人に寂しい思いをさせた罪悪感半分、嬉しくもあるラグナでした。

[けものびと]いつもとちがうひ

  • 2018/02/23 21:00
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風邪を引いてしまった。

昨晩、眠る以前から、その兆候はあったのだ。
夕飯を作っている頃に少し頭が痛み初め、芯がぼんやりとしている感覚に襲われた。
最近の寒暖の差の激しさにやられたのかも知れない。
サバンナ地帯や砂漠に近い場所で仕事をしていた時には、そうした気温の極端な変化にも慣れていたので、季節の変わり目の気温の変化にも然して堪える事はなかったのだが、やはりそうした第一線を退いて過ごすと、体は鈍って行くものらしい。
年もあるのかなあ、と些か虚しい事を思いつつ、取り敢えずは早期に対処するべしと、常備している風邪薬を飲んで、布団に入った。
目を覚ました時にはすっかり回復していますように、と祈りつつ。

しかし祈りは虚しく成就されず、目覚めた時にはすっかり熱が上がってしまった。
体を起こしただけで、頭がくらくらとしてしまう。
これは駄目だ、と判断したラグナであったが、同居している幼い獣人達には、ラグナのそんな様子が判らない。
がう、がう、と甘えてはお腹が空いたとねだる二人に、ラグナはこれだけは準備しなければと、どうにか床を抜け出した。
茹った頭で彼等の食事を揃えた後、その食事風景を見守りつつ、ラグナは旧友達に連絡を取った。

旧友達───キロスとウォードは、正午になる前に駆け付けてくれた。
ラグナが獣人達と同居するようになって以来、彼の抜けた穴を埋めるべく、獣人保護機関で忙しくしている彼等にしては、早い到着である。
ラグナは二人をリビングに通し、足元をじゃれついて離れない獣人達───レオンとスコールを、それぞれの腕へと預けた。


「キロスもウォードも、ありがとうな。俺、どうも今日はダメっぽくてさあ」
「そのようだ。早くベッドに戻った方が良い」
「薬は飲んだのか?」
「一応、昨日の夜に。朝も飲もうかと思ったんだけど、飯食う気力がなくて…」


言いながら寝室へ向かうラグナに、それは宜しくないな、とキロスが言った。
しかし、空元気を振る舞う余力もない後姿に、無理もないとも判る。
それでも、面倒を見ているレオンとスコールの食事だけは準備したのだから、頑張ったものだ。

ウォードの腕の中で、ごそごそ、ごそごそと動いているのはスコールだ。
がう、がう、と離せ、と言いたげに声を上げているが、ウォードはそんなスコールの頭を撫でて宥めている。
レオンはと言うと、此方はキロスの腕に抱かれ、スコールに比べれば大人しくしているものの、鼻頭に中々険しい皺が寄っている。
尻尾がぷんっ、ぷんっ、と揺れ、気持ちが落ち着いていないのは明らかであった。

ラグナは寝室のドアを開けると、ちらりと友人達───その腕に抱かれている獣人達を見た。
目が合ったレオンが、子供にしては大きな手を伸ばし、にぎにぎと肉球の手を握り開きして見せる。


「がぁう。がうぅ」
「……うん、ごめんな。今日はダメなんだ」
「があううぅ!」
「スコールも、ごめんな。近くにいたら伝染っちゃうかも知れないから、今日はそっちで良い子しててくれな」


不安げな表情を浮かべるレオンと、じたばたと暴れるスコールに、ラグナは眉尻を下げて微笑みかけて宥める。
そうしている内に、ぞわっと寒気がラグナを襲った。
レオンとスコールの事は気になるが、このまま起き上がっていては、風邪が悪化してしまう。
早く寝なさい、とキロスに視線で促され、ラグナは後ろ髪を引かれながら、寝室へと入って行った。

その姿がドアの向こうに見えなくなる所で、スコールがウォードの腕を飛び出した。
四つ足で駆けていく小さな体が辿り着く前に、ドアはぱたんと閉じてしまう。
スコールは通れる隙間を探すように、ドアの前でうろうろと歩き回った後、ぐるぐると喉を鳴らし、扉を突破せんと物言わぬ板壁に飛びついた。


「がう。がうぅっ!ぐぅーっ!」
「こらこら。ドアを引っ掻いてはいけないぞ」


“ライオン”モデルに相応しく、幼いながらに確りとした爪を携えた手で、スコールはドアをがりがりと殴り引っ掻いた。
ウォードが直ぐに捕まえて抱き上げると、スコールは「ぎゃぅううう!」と全身で暴れ始める。
人に対して爪を立ててはいけない、と躾をされたお陰で、彼の爪がウォードを傷付ける事はなかった。
ウォードは体格で以てスコールを確りと抱え持ち、喉を擽って気持ちが逸れるようにとあやしてやる。

そんなスコールと対照的に、レオンはやはり大人しかった。
元々、弟に比べると、聞き分けの良い兄である。
しかし、いつも傍にいる筈のラグナから離れると、不安になる気持ちは誤魔化せないのだろう。
彼はキロスの腕に抱かれたまま、緊張したように体を強張らせており、ひくひくと鼻を鳴らしている。

二人は一先ず、獣人の子供達をソファへと移動させた。
クッションに下ろしてやると、共に寝室の方へ向かおうとするので、背中を撫で当たり、喉をくすぐったりとあやして引き留めておく。


「やはり、こう言う時は難儀なものだな。一人ではゆっくり休んでいる訳にも行かない」
「ああ。二人がもう少し成長していれば、感じ取ってくれたのかも知れないが……いや、人間で考えても、幼い内は無理か」
「たらればの話だからな、どう考えても仕方のない事だ。それよりも、時間を考えれば、そろそろ昼飯か。何か作った方が良いな」


キロスが時計を見ると、長針は12時を少し過ぎており、平時を考えれば昼飯の真っ最中か。
ラグナに呼ばれてやって来た二人も、そろそろ腹が減っている。
ラグナは朝食も採っていないと言うし、病気を治す為のエネルギーも足りていないだろうから、何か食べさせて、薬も飲ませてやらねば。

キロスは大人しいレオンの頭を撫でて、「良い子にしていてくれ」と言った。
レオンはことんと首を傾げるも、キロスの手が離れても、其処から移動しようとはしなかった。
蒼い瞳は寝室を見詰め、そのままレオンはクッションの上に丸くなった。


「ウォード、君の食事も作ろうと思うが、何が良い?」
「俺はなんでも良いぞ」
「私もどうとでもなるな。ラグナには粥を作るとして……二人の食べる物は、と」
「冷蔵庫に何かあるんじゃないか?」
「ふむ……昨晩の残り物がある。一応、ラグナに食べさせて大丈夫なものか確認しておくか」


キロスは冷蔵庫の中に入っていた料理を取り出した。
タッパーに入った煮物は作り置き、皿に並べられラップで綴じた卵焼きは残り物だろうか。
他にも、冷凍庫に下処理済みの魚、野菜室も半分ほど埋まっており、昔に比べて随分と生活感が増したな、とキロスは思う。

タッパーを片手に寝室に向かうと、ドアを開けた瞬間、「ああ、こら!」と言う声が後ろから聞こえた。
足元に気配を感じて視線を落とせば、二対の蒼がじいっと此方を見上げている。
其処に入るのならば自分達も入れろ、と無言の訴えに、キロスは眉尻を下げるしかない。


「気持ちは判るが、やはり駄目だよ」
「そう言う事だ。ほら、戻るぞ」
「ぎゃうっ」
「がううう!」


ウォードに両腕でそれぞれ抱え上げられ、レオンとスコールはじたばたと暴れる。
保護された頃に比べると、少しずつ成長している二人だが、やはり二メートル弱の体格を持つウォードにはまだまだ叶わない。
小さな体で一所懸命に抜け出そうとする二人を抱えて、ウォードはソファへと戻って行った。

ウォードが捕まえてくれている間に、とキロスは寝室へ入った。
いつもならば、二人の養い子が昼寝に使っていると言うベッドに、今はラグナが寝ている。
ずぴ、と鼻を啜る音が聞こえたので、キロスはデスクテーブル上にあったティッシュ箱を取って、ベッドに近付いた。


「大丈夫か、ラグナ」
「んん…?お、キロスか。何かあったか?」


赤らんだ鼻を啜りながらラグナが寝返りを打つ。
ティッシュを差し出すと、さんきゅ、と言ってラグナはそれを手に取り、鼻を噛んだ。


「あー、鼻詰まっちゃって……んで、何?」
「食事を作ろうと思ったのだが、彼等に何を食べさせれば良いかと思って。一応、冷蔵庫の中に煮物の残りを見付けたんだが」


これだ、と言ってキロスはタッパーを見せる。
ラグナは少し体を起こし、キロスの持っているタッパーの中身を確かめて、


「それ、うん。芋の煮物だな。大丈夫、それちょっと温めて食わせてやって」
「了解した。これだけでは足りないかな。ベーコンもあったが、添えても良いか」
「うん。あと、温めのミルク。マグカップあるから、それに入れてレンジで温めて。んー、それだけあれば大丈夫かな……」
「判った。君の食事も作ったら持って来るから、それまで寝ていると良い」
「悪ぃなあ。いつかちゃんと恩返しするよ」
「それ程大袈裟な事でもないさ。良いから、君はしっかり休んで、早く風邪を治すと良い。彼等の為にもね」


彼等───勿論、ラグナが溺愛するレオンとスコールの事だ。
なんとかしてラグナのいる寝室に入ろうとしている二人の姿を思い出し、健気なものだ、とキロスの唇に笑みが零れる。


「どうやら二人とも、君の姿が見れない事が不安で堪らないらしい」
「そうなのか?」
「何度も此処に入って来ようとしているからな。だから、風邪を長引かせる訳には行かないぞ」
「そうだなぁ……いつまでも寝込んで、二人を不安にさせるのも良くないし、伝染したら嫌だし。しっかり食って、しっかり寝て治すよ」
「そうしたまえ。では、これで失礼するよ」
「んー」


ベッドに寝転んだまま、ラグナはひらひらと手を振って見せた。
布団を手繰り寄せて丸くなるラグナは、完全に寝る態勢に入っている。
出来るだけエネルギーを消耗しないように、回復に回せるように努める気なのだろう。

キロスが寝室を出ようとすると、開けた扉がごつん、と何かにぶつかった。
重い影が扉の向こうにある事を見付け、隙間から覗き込んでみると、ウォードの背中が其処にある。
その足元で、うろうろと落ち着きなく動き回っている尻尾を見付け、キロスはくすりと笑う。


「ウォード、終わったよ。退いてくれ」
「ああ、すまない」


キロスの声に、ウォードが少し体の位置をずらす。
ドアの隙間を僅かに広げて、キロスは其処を潜ってリビングに出た。
その隙に寝室へと突入しようとするスコールを捕まえてやる。


「やれやれ、中々にしぶとい子達だ」
「がう、がうぅ!ぎゃうぅっ!」


抱き上げたスコールを、レオンを抱えたウォードに預けつつ、キロスは呟く。
スコールはぎゃうぎゃうと吼えて抗議していたが、やはりウォードは気にしなかった。

兄弟揃って太い腕に抱かれると、レオンが不満げな顔をする弟の顔を舐めて宥める。
スコールは鼻先に皺を寄せつつ、剥れた顔でレオンに頬を寄せた。
そんな二人をソファに下ろすと、スコールが丸くなり、その隣でレオンも身を寄せて縮こまる。
ウォードは二人の濃茶色の鬣を撫で梳きながら、初めて彼等と相対した頃の事を思い出していた。


「あんなに俺達の事を警戒していた二人が、今はラグナの事をこんなにも信頼している。本当に凄い男だな、ラグナは」
「ああ。他人なら、きっとこうはいかないだろう」


旧知の友人の人柄が成せる業に、キロスもウォードも感心するしかない。

さて、とキロスは気持ちを切り替え、キッチンに立った。
ラグナと離した通り、タッパーの芋の煮物を温めて、ベーコンを少し焼いて一緒に添える。
温めのミルクも作れば、レオンとスコールの食事は揃った。
それらをトレイに置いて、二人が丸くなっているソファの前にあるローテーブルへと運ぶ。


「さあ、腹が減っているだろう」
「……ぐぅ…?」
「煮物はラグナの作ったものだからな。君達の好きな味ではないか?」


食べられない事はないだろう、と言う気持ちで、キロスは二人に食事を促す。
しかし、レオンは顔を上げたものの、丸くなった姿勢から動かず、スコールに至っては反応すらしなかった。
ラグナ以外が用意した食事は食べる気にならないのかも知れない。
彼等が保護された時から、少なからずその様子を見ている立場としては些か寂しいが、レオンとスコールにとっては最も信じるに値する人間は未だラグナ一人なのだろうから仕方がないだろう。

それでも、腹が減っていれば、気が向けば食べるかも知れない。
お腹が空いたらいつでも食べな、とウォードが頭を撫でると、レオンが少しだけ興味のある顔で皿を見詰めていた。

彼等がきちんと食事を採るのかは気になるが、キロスにはまだやる事がある。
不安そうな表情が消えない獣人の子供達の為にも、保護者には早く元気になって貰わなければと、粥作りへと取り掛かった。




≫[このにおいのそばがいい]

[ライスコ]ただいま情報更新中

  • 2018/02/13 00:30
  • Posted by
ライトニング×スコールです。
NTでグループEのネタバレ有り。




召喚獣の力を得る為に進むに当たり、その気配を辿る事が出来るティナの存在は稀有且つ有用であった。
スコールもそれらしき気配を感じ取る事は出来るが、彼女のように詳細までは判らない。
スコールが感じ取れるのは、精々方角程度で、距離感までは感じ取れなかった。
だからスコールは、もう一つ召喚獣の気配を感じる、とティナが言った時、彼女に距離を確かめさせたのだ。
これはやはり、その人物が召喚獣とどれだけ近い力や魔力を持ち得ているか、と言う違いから現れる差なのだろう。

召喚獣の気配を複数キャッチする事が出来たと言うのは、情報として決して小さくはない。
求めるものが情報であるにせよ、力であるにせよ、その接触は急がれている。
求める召喚獣が一体ならば、それに向かって走れば良いが、数が多いのなら分担した方が効率は良い筈だ。
戦力の分散と言う問題点については、今の所は目を瞑る。
今現在、優先するべきは、状況の把握と情報の入手、それを迅速に行う事であった。

だからスコールは、一人で向かおうとしたのだ。
距離が近い位置にいると言う召喚獣の事はティナを含めた他のメンバーに任せ、自分は遠い位置にいると思しき召喚獣の下へ。
半分は斥候の目的もあり、個別に行動する事で、旅路で起こるトラブルや、敵の襲撃に遭った時のリスクも緩和する事が出来る。
幸い自分は、薄ぼんやりとではあるが目的の気配を追う事が出来ていたから、それに沿って向かえば目当てのものには辿り着けるし、それが終わってからティナ達の下へ合流する事は十分可能だ。
だから、目的を果たしたら直ぐに戻る事を───一方的に───約束して、別行動を取る事を選んだのだ。

だが、それはあくまで自分一人の中の話。


(……こっちに来るとは思ってなかった)


同行者となった女性の背を見て、スコールはこっそりと息を吐く。
堪え切れなかった溜息が混ざった気がしたが、前を歩く人物が振り返らなかったのは幸いだった。

その名に雷光を抱き、文字通り稲妻の如き剣閃を持って戦う戦士────ライトニング。
スコールが彼女と顔を合わせたのは、これが初めての事ではないが、その記憶も思い出せるものは僅かである。
と言うのも、スコールが明確に記憶している“神々の闘争”は、最後の戦いの時の記憶のみで、それ以前のものは霞がかっており、激しくはないが所々に虫食いが出来ていた。
それが“浄化”の影響によるものなのか、スコール自身が抱える“代償”の影響なのかは判らない。
が。過去にライトニングと戦場を共にした際、それは決して長い時間ではなく、且つその機会も少なかったのだと言う事は明らかだった。

その限られた記憶を手繰り寄せながら、スコールはライトニングの背中を見詰めている。
眺めている内に、スコールは頭に浮かぶ後姿と、目の前にいる人物との形が違う事を確かめていた。


(あんな格好じゃなかった。もっと俺やクラウドに近いような、割と普通の感じで……)


この世界に召喚された者の多くは、スコールにとって、ファンタジーや創作物でしか見ないような服装をしている者が多い。
だからか、スコールやクラウドのようなシンプルな服装の者は、反って目立つ所があった。
ライトニングも同様で、服飾デザインとしての装飾はあっても、魔力を込めた宝石であるとか、特殊な魔獣の毛を編み込んだ布であるとか、そう言うものは余り使われていなかった。
装備していた肩宛てやベルト等は、強化カーボンやプラスチックが素材となっており、これもまた他の面々と異なる。
銃にもなるギミックを備えた剣、と言う、これも文明レベル的にはスコールと近い形があった事もあり、二人は同じ世界から来たのではないか、と想像する者もいた。

しかし、今のライトニングは、明らかに以前とは違う格好をしている。
身に着けているのは鎧と呼んで良さそうだが、それにしても合板は奇妙な繋がり方をしているし、普通の鎧とも違うように見えた。


(……クラウドも格好が変わっていたし、それと同じ事なのか?)


以前の闘争の時に比べ、服装が変わった仲間は他にもいた。
そう言う人物は、元の世界で一年や二年と言った時間が過ぎており、その間に何らかの出来事に巻き込まれたりとしていたらしい。
彼女もそうなのだろうか、と思いつつ、


(…だから、雰囲気も前と違うのか……?)


スコールの記憶に浮かぶライトニングは、常に何かを警戒しているように見えた。
幾人かの穏やかな気性の仲間に対しては、少し当たりが柔らかくなるものの、それ以外は総じて張り詰めた糸を保っていたように思う。

しかし、今のライトニングの背中は、そうした緊張感が殆ど感じられなかった。
いつ何が起こるか判らない、と言う警戒で周囲に気を配ってはいるものの、以前程に頑なな空気もない。
何より、以前の彼女なら、単独行動を進むスコールの後を追って来る事はしなかっただろう。
スコールはあの時、追って来るのであれば恐らくジタン、だがフェミニストの彼の事、女性二人を放ってこっちに来る事はないだろう────と思っていただけに、追って来たのが彼女だと見た瞬間、思わず一瞬足を止める程に驚いていた。


(……なんでこっちに来たんだ)


口の中で疑問を呟いた所で、誰も応えてくれはしない。
答を持っているであろう人物は、スコールの前を黙々と進んでいる。
恐らく彼女は、スコールが向かう方向の修正を提案しない限り、延々と真っ直ぐに歩き続けるつもりだろう。
まるでスコールが示す方向に間違いがあるとは思っていない足取りに、スコールは記憶に残る人物像との違いを益々深めていた。

そんな調子で、一日は歩き通して終わった。
進むうちに幾つかの歪を経由している内に、薄赤色を宿した曇り空が夜帳に変わる。
何処まで行っても荒地しかないのかと思っていた景色は、いつしか緑を映すようになり、川も見付かった。
魚がいたのでスコールがそれを釣り、ライトニングが集めた薪で火を起こし、それで夕食を採る事にする
その間、二人の間には、連絡事項に則した必要最低限の会話しかなかったのだが、釣った魚が半分まで減った所で、


「随分と雰囲気が変わったな」


と、ライトニングが言った。
特に前置きの会話もなく、藪から棒と言えばそうであった言葉だったので、会話相手はお互いしかいないのに、スコールはそれが自分に向けられた言葉だと、一瞬気付かず、


「……誰の事だ?」
「決まっているだろう。お前だ」


当たり前のことを訪ねて、当たり前の返事があった。
それを受けてから、ようやく、確かに俺しかいない、とスコールも理解する。

ライトニングは骨になった魚を焚火の中へ放った。
ぱちぱちと音を立てる焚火に、細長い生木の枝を使って、くべた薪を突きながら言う。


「私が覚えている限り、お前はこうやって誰かと同行する事はなかった」
「……そんなの、お互い様だろう。あんたも大体一人だった」
「お前程じゃない」


からん、と薪の音を鳴らして、ライトニングはスコールの反論に対して言い返す。

確かに、どちらも以前の闘争では、一人で行動している節があり、スコール自身も自覚があった。
特に最後の闘争の時以外では、スコールは外の仲間達に対し、判り易く明確な距離と線を引いている。
そんなスコールに比べ、ライトニングの周りには、彼女を慕う者や気に掛ける者の存在が多く、ライトニング自身も───相性の良し悪しはあれど───それを露骨に無碍にする事はなかった。

とは言え、自分から積極的に仲間達と交流をしていたとも言い難く、その為にスコールとライトニングは接点が薄かったのも確かだ。
ライトニングもそうした自分の行動、態度については記憶があるらしく、しばしの沈黙の後、


「まあ……確かに、必要がなければ一人でいた事も多かった気がするな。誰に信用を置いて良いか、そもそも信用が出来るのか、それも判らなかったから」


言って、ちらり、と緑の瞳がスコールを視る。
お前も似たようなものだろう、と言われているような気がして、スコールは沈黙で応答とした。

はあ、とライトニングは溜息を吐く。


「と言うか、あんな状況で、初めて出逢った赤の他人を即信用して背中を預けろ、と言うのに無理がある」
「……それは同感だ」
「あの時の私は、自分の事も全く判らない状況だったしな」


付け足されたライトニングの言葉に、そうか、とスコールは一人得心する。
スコールは何度か世界が撒き戻され、“浄化”で重ねられた戦いが今の記憶として───虫食いではあるが───残っているが、其処にライトニングの姿が見られた戦いは一度きり。
その戦いを除いて、ライトニングは後にも先にも登場していない。
つまりライトニングは、繰り返しを体験する事もなく、召喚間もなく退場する事になったのだ。


「……あんた、何も思い出せていない状態だったのか」
「そう言う事だ。判っていたのは精々自分の名前くらいで、後の事はからきし。自分の世界の事も全く思い出せてはいなかったが、それでもこの世界が自分の常識と全く違う世界である事は判った。判ったが、それだけだ。そんな状態で混乱しない程、私は融通良くは出来ていない」


スコールにも少なからず覚えのある話だ。
いつ、何回目の時の話なのか、それが始まりなのか否なのか、記憶に明確な正確性が持てないスコールには判らないが、それでも最初に召喚された時には、当時のライトニングと同じ混乱があった───ように思う。

説明を求めても、それに応じて貰っても、自身の頭に刷り込まれた常識とは何もかもが違い、それがどうして“違う”と判るのかと言う理由も判然としない。
記憶や体験から構築される、自分自身と言うアイデンティティが曖昧になった状態で、何もかもを己の都合良く受け入れて行動できる程、スコールは聞き分けと割り切りの良い人間ではない。
それでも神だと自称する者の拘束力は強く、それに従わなければ、記憶を回復する手立ても、元の世界に戻る手段も得られない。
気持ちの納得は置き去りに、烏合の衆のような団体の中で行動しなければならないと言う状況は、ライトニングやスコールと言った、安全の為に物事を懐疑的に見る癖のある人間にとって、少々難のあるものであったと言える。
結果、あの時点でライトニングは、己を召喚したと言う女神の言葉は勿論、それに機械的にも見える忠誠心で応じるウォーリアに対し、不信感を募らせる事となった。
故に彼女は、積極的に交流を行うコミュニケーション上手な人間以外には、刺々しい態度を振り撒かざるを得なかったのだろう。

ライトニングは焼き終わった二尾目の魚に手を付けた。
味付けも何もないが、川が比較的清流だったお陰で、泥臭さはない。
スコールも二尾目に手を伸ばして、ふ、ふ、と息を吹きかけて冷ましている所へ、ライトニングは言った。


「お前なら通じそうだから、言わせて貰うが。あの状態で、同じ陣営にいるからと、容易く信用できる人間の方が気が知れない」
「……まあな」
「私があの時、初めての召喚で、“浄化”されても継続的にあそこで戦い続けていた皆とは、考え方や感じ方が違うのかも知れないが……」
「いや。俺はあんたに同意する。あんな状況で見ず知らずの奴等と一緒にされて、あっさり信用できる方が可笑しい」


魚を齧りながら言うスコールの言葉を聞いて、そうか、とライトニングは言った。
その時の彼女の顔は、ほんの少し緩み、共犯者を見付けた子供のような雰囲気が滲んでいる。

ライトニングの言葉には、少々きつい棘が滲んでいるが、彼女の表情は特に顰められてはいない。
終わった事だから、思い出話のついでに苦言が出て来たのだろう。
ついでに、当時感じていた事が、自分一人の独走的なものではないと聞いて安心したのかも知れない。


「…そんな状態だった時に比べれば、今は随分楽だ。大体の奴等と顔見知りだからと言うのもあるが、身内を一々警戒しなくて良いしな」
「……マーテリアは?」
「察しろ。多分、お前と私の考え方は似ている」
「……」


スコールの端的な問の意味を、ライトニングは理解していた。
新たな女神となった女性を、何処まで信用しているのか、彼女の言葉を何処まで受け止めているのか。
それはスコールが未だ疑問視している所で、ジタンとも意見が一致している。
ライトニングはどう思うのか、と言う点を問い質したものであったが、ライトニングは明確に言葉にしない事で返答とした。

────それはそれで良いのだが、スコールは今のライトニングの言い方に引っ掛かるものを感じていた。


(似ているってなんだよ)


なんだか、自分の心の内を見透かされたようで、スコールは落ち着かなかった。
マーテリアやスピリタスと言った、神々の後継者について、懐疑的な見方が強いのは、広く仲間達を見渡しても、そう変わらないだろう。
それだけ、マーテリアの言動に頼りなさが感じられるのだ。

マーテリアについての見解が、スコールとライトニングの間で一致するのは当然だろう。
共に理屈屋とまでは言わないが、根拠のない感覚的なものだけで好悪を括れる程、人が好く出来てはいない。
スコールは傭兵、ライトニングも軍属の警備員と言う経験を持ち、組織内に搬入する異分子への危険度と言うものも理解している。
況してや組織の頭を担う形となっている人物があれでは───と言う懸念は、二人にとって至極当然のものだった。

しかし、スコールはそれをライトニングの前で吐露してはいない。
ジタンとは会話の折に、彼の方から心中を察されて指摘されたが、それも過去の戦いで何かと行動を共にしていた彼であるから、と思える。
だが、ライトニングとは仲間であっても殆ど会話はなかった。
ゆっくりと膝を突き合わせている等、今が初めても同然で、ライトニングが案外と多弁である事も、スコールは初めて知った位だ。
それなのに、自分の事を知っているかのように、双方を指して「似ている」と言われるのは、些か不本意な気分である。

むぐ、と魚を噛んで、スコールは眉間に皺を寄せていた。
ぱちぱちと音を立てて揺れる焚火に、その皺がはっきりと映し出されている。
ライトニングはそんな少年の顔をちらりと見遣って、口角を上げる。


「お前は案外、子供っぽいんだな」
「……は?」


突然のライトニングの言葉にスコールが顔を上げると、彼女はくつくつと笑っていた。

今までの会話に、彼女が笑うようなポイントがあっただろうか。
おまけに、子供っぽい等と、指摘されるような話をしたか。
混乱と苛立ちで、スコールの眉間の皺は益々深くなって行く。

そんなスコールの気配を察してか、ライトニングは骨になった魚をひらひらと揺らしながら、


「怒るな。前はそう言う顔を見た記憶がなかったから、意外だと思っただけだ」
「………」
「顰め面はいつもの事だが、そんな拗ねた顔をしたのは見た事がなかったからな」
「別に拗ねてない」
「ああ。そうだな」


反論を軽く流すように返され、スコールの眉間の皺がまた一段と深くなる。
そうする事で、ライトニングの言う“拗ねた顔”になっているのだと、スコールは気付いていなかった。
だから余計にライトニングの笑いのツボを刺激してしまうのだと言う事も、知る由はない。

スコールは苦い表情のまま、残ったいた魚を平らげた。
骨だけになったそれを焚火に放って、火に背を向けてごろりと横になる。
見張りについて話し合うつもりだったのも忘れて、不貞腐れた気分で過ごしていると、


「その内起こす。それまで私が見張りをする」
「……ん」
「ああ。お休み」


それがその日の内に二人が交わした、最後の会話だ。
スコールはそれきり沈黙し、眠る事に終始して、ライトニングは静かに過ごしていた。

から、と焚火の中で薪が小さくを音を鳴らす。
それも聞こえない程にスコールが眠りに落ちた頃、ライトニングは少し首を伸ばして、スコールの様子を伺った。
焚火に背を向けたままのスコールは、身動ぎ一つ立てず、ただ蹲っているだけのようも見える。
呼吸音がほんの微かに規則正しく聞こえているので、眠っている事は感じ取れた。

ライトニングは、焚火越しに見える少年の背中を見詰め、くつりと笑う。


「……お前は、そうやって寝るんだな」


これも初めて見た、とライトニングは呟いて、これからの長いか短いか判らない旅の道中、少なくとも退屈はしないだろうと思った。





ライトニング×スコールだと言い張る!!

書きたい書きたいと思いつつ、どう絡ませようか悩み続けたライスコ。
DdFFの頃から妄想はしていたんですが、NTで同じグループになってやったー!!って気分でした。
012では周り(主にWoLや衝突のあったカイン)に大してピリピリしていましたが、原作ではホープだったり、012ではユウナだったり、年下には優しいので、スコールの事も気にはなっていた感じにしてみた。
記憶の喪失や混乱がなければ、結構面倒見が良いライトニングが好きです。

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