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2021年05月

[バツスコ]対価について

  • 2021/05/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


バッツの世界にも傭兵と言う職業はある。
普段は旅人のように根無し草だが、金で雇われると、一時の雇用主の命令に従う関係を作り、その期間が終わればまた根無し草に戻る。
必要とするのは王族や貴族と言うよりも、商人が旅や仕入れの道中に魔物や盗賊に襲われないよう、護衛を求めることも多かった。
バッツは旅人であるが、路銀を稼ぐ為に、その真似事をした事もある。
その身を種に仕事を貰う訳であるから、中々に良い収入が得られる事もあるのだが、ケチな雇用主に適当な文句をつけられて、碌に報酬が支払われないトラブルも少なくなかった。
だから旅人や傭兵と言うのは、嫌が応にも、ある程度の人を見る目という物を養われる。
さもなければ、自分の働きに見合っていない、と言う理由で、雇用主である相手に圧をかけて報酬額を修正させる、と言う手段を使う必要がある。
その他にも、独自のコミュニティや情報網を持ち、誰それの仕事は美味い、誰それはやめておけ、と言う話にも耳を欹てていた。
そうしなければ、ハイリスクノーリターンの仕事ばかりになるから、それが嫌なら自分を守る為にも眼を磨け、と言うことだ。

だから、と言うのもあるのだろう、バッツが知っている“傭兵”と言うのは、見た目も判り易い無頼漢である事が多い。
よく栄え、法を守る事に敬虔な街でもなければ、海賊や盗賊ですら、堂々と酒場で飲めるのが罷り通っていたのが、バッツの世界と言うものであった。
金さえ落としてくれれば、その金の出所が何だって良い、と言った風潮が当たり前に存在していたのも大きいだろう。
故に、賊の類が街で悪さをした時に捕まえられるようにと、守り石のような目的で、強面の男を用心棒とする目的で、“傭兵”を雇っていた店も多かった。
勿論、見目の良い傭兵───そう言うのは大抵、元々は何処かの騎士として仕え、某かの理由で退役した者だった───と言うのもいたが、それはそれで、体には歴戦の記憶が刻まれていたものだ。

そう言うイメージが根強いバッツにとって、自身を“傭兵”と称したスコールは、不思議なものだった。
綺麗な顔をしていても、額に走る大きな傷があるので、そりゃあ傭兵なんだから傷の一つや二つあるよな、とは思う。
体にも傷は残っているし、特に肩を貫かれたのであろう、大きな裂傷痕を見た時には驚いた。
よく無事で、肩が今も問題なく動かせるなあ、と思ったものだ。
だが、そう言うものよりも何よりも、バッツが不思議に思ってしまうのは、スコールのシルエットの細さだった。
一見すると戦場に立つには頼り無くも見える線の細さであるが、脱いでみると意外とちゃんとした筋肉に覆われている。
ただそれが盛り上がるように頑健ではないだけで、彼は無駄なく引き締まった体躯をしているのだ。
だから彼の体が、遠目に見た以上によく鍛えられているものだと言うのは判るのだが、反面、未発達な青さも残っているのも事実。
そんな躰で戦場で残って行けるのか、と疑問を呈したくなったのは、きっとバッツだけではないだろう。

だが、スコールの世界では、彼のような人間でも十分に“傭兵”になれるらしい。
と言うのも、戦場の有り方と言うものが、バッツやセシルが想像するものとは大きく異なっているのが大きな理由として挙げられる。
体を鍛える事で得られるフィジカルの強さに依存しない、銃火器類や機械が発達しているスコールの世界では、剣の類は寧ろ衰退していく傾向があるらしい。
単体が切迫しての白兵戦は極力避けられ、敵が接近する前に銃や魔法で応戦するか、大型駆動の兵器を利用して圧をかけるのが主流であるそうだ。
そんな世界にあって、身一つで大型駆動の機械すらも制圧する、一騎当千の力を持つのが、スコールが自身を称する際に用いる、“SeeD”と言う傭兵なのだと言う。

傭兵と一口で言う中に、わざわざ”SeeD”と言う独自の呼称がつけられると言うことは、やはり特殊なものなのか。
バッツが訊ねてみると、スコールは「そうだな」と頷いた。
スコールが言うには、SeeDは“ジャンクション”と言う能力を使う技術を備えており、魔法力を装備品のように自身に接続する事で、身体能力の大幅な向上が可能であると言う。
これにより、並の人間では到達できないスピードで動いたり、細腕とは思えない腕力を発揮したりする事が出来るのだ。
そんなに便利ならどうしてSeeD以外が使わないのか、とバッツが訊ねると、スコールは「色々と理由がある」と言った。
そもそもの素養の問題であったり、適正であったり、接続する理屈は出来ていてもその運用に関してはまだまだ未解明な部分が多かったり。
スコール自身が余りその事に詳しくないのは、「俺は使い方を習っただけだから」とのこと。

正体不明の部分が多い事に、不安はないのかと訊ねたら、スコールは「……別に」と言った。
是とも否とも取れない反応は、本当に気にしていないのか、それとも、と思ったが、バッツにはまだ判らない。
何れにせよ、そう言う技術を使ってでも、強力な傭兵と言う存在が必要にされる位には、スコールの世界も殺伐とした所があると言うことだろう。

────と、暇潰しの雑談になんとなくで投げかけた質問に、意外と丁寧に答えてくれたスコールに軽い感謝を述べつつ、バッツはふと思った。


「傭兵って事はさ、スコールはお金で雇われる事もあるんだよな」
「ああ」
「やっぱりそれって、魔物退治がメインな感じ?」


訊ねるバッツに、スコールは開いていた本から僅かに視線を上げた。
思い出す為にか僅かに間を置いてから、いや、と答える。


「そう言う依頼も多いが、それに限った事はない。要人警護とか、催事の警備とか。緊急の類なら、敵対国やテロリストへの即時応戦や捕縛、と言うのもある」
「そんなに色々やるのか。専門でコレをやる、って言うのはないのか?」
「人材によってはそうする事もあるが、来る依頼は特に制限は設けてなかった筈だ」
「依頼が来るってことは、スコールが自分から選びに行くとかじゃないのか。胴元がいる感じ?」
「……まあ、そうだな。フリーランスなら、個人経営の事務所を構えて、依頼が来るのを待っているのもいるだろうし、斡旋所みたいな所に登録する奴もいる筈だ。依頼を迎えに行くタイプの奴は、傭兵稼業を始めたばかりの奴じゃないか。俺達SeeDはガーデンに属しているから、依頼が寄せられるのはそっちだ。そこからSeeD個人に仕事が割り振られる」


へえ、とバッツの感心した声。


「そのガーデンってとこが仕事のアレコレを管理してるんだな」
「ああ。ガーデンはSeeDにとって、マネジメントをする役割も持っていた。同時に、商品であるSeeDとして人材を育成する場所でもある」
「そんな大掛かりな事までしてるって事は、相当しっかりした胴元なんだろうな」
「……どうだか」


バッツの言葉に、スコールが溜息を吐く。
何処か鬱々とした空気を漂わせる表情に、おや、と思ったバッツであったが、なんとなくスコールからこれ以上の事は言いたくない、と言う空気が滲んでいるのは感じ取れた。

それより、バッツにとって大事なのは、


「って事は、スコールを雇いたかったら、そのガーデンってトコに依頼を出せば良いんだな」
「…そう言う事だが…あんた、俺を雇いたいのか」


意気揚々としたバッツの声に、ひょっとして、と訊ねるスコール。
そんなスコールに、バッツは勿論と頷いた。


「お金を出せばスコールを雇えるんだ。雇えたら、その期間はスコールはおれと一緒にいてくれるだろ?」
「そんな目的で依頼を寄越すな」
「良いじゃん、良いじゃん。で、そう言うのは可能?」
「……要人警護の類なら。だが、その分依頼料は高いぞ」
「マジ?幾らくらい?」
「……あんたと俺の世界で貨幣価値の基準が同じか判らない」


食い付くように顔を近付けて訊いて来るバッツに、スコールはその距離の近さに眉根を寄せながら答えた。

この世界に集められた十人の仲間達の中で、常識的と呼ばれる範囲の意識の差は大きい。
機械技術が当たり前にある世界、魔法技術が多様な世界、それらが入り混じった世界と、文明背景の違いも大きく、これが個々人の価値観に大きな違いを生んでいる。
金銭価値と言うのも総じて幅があり、ポーション一つが20ギル、と言う者もいれば、300ギル、と言う者もいた。
十倍以上の値の違いの理由は、アイテムやそれを作る素材が豊富なのか、技術の発展により少ない素材で大量生産が可能になったのか、そもそも1ギルに対する価値が違うのか、様々だ。
そんな中、スコールとバッツの世界と言うのも様々な違いが多いので、これを同基準にして説明するのは難しい、とスコールは思う。

スコールの指摘はもっともで、確かに、とバッツも納得する。


「じゃあ、この世界で言ったら幾ら位?モーグリショップに持ってったら結構良い値になるものってあるだろ。その辺で価値が合いそうな感じの奴で」
「………」


バッツの提案に、スコールは眉間に深い皺を寄せて俯く。
沈黙したまま、じっと考え込んでいる様子のスコールを、バッツはわくわくとした気分で待った。

───この世界に存在しているものなら、確かに価値観を共有できるから判り易いだろう。
だが、この世界の貨幣価値もまた独特なものなので、それに照らし合わせるとどうなるか、スコールにもはっきりとは判らない。
其処まで気にしていてはキリがないので、単純に数字が一致するものでいいか、とスコールは切り替えた。
しかしSeeDへの依頼料と言うのは、ある程度の基準を設けてはいるものの、後は依頼内容と派遣する人員を以て変動するものであった。
例えば、某国の首脳クラスの警護依頼と、小さな町の有力者の警護依頼とでは、天と地の差がある。
其処に求められる派遣人数の規模によっても、数字は変わって来るので、一概に「この値段で」と言い切るのは難しい。
況してや、“旅人”なんて職業をしている人間の警護なんて、スコールは聞いた事がなかった。
何処かのお偉方の子息を対象に、お忍び旅の警護なら有った気もするが、バッツにそれは当て嵌まるまい。
彼の求めるものと可能な限り照らし合わせるなら、遺跡や洞窟を調査する団体の警護と言う辺りになりそうだが、団体規模が大きければ派遣人数が増えるが、バッツ一人であれば……と言う所まで考えて、


(……いや)


ふ、と。
スコールの心に、ささやかな悪戯心のようなものが芽吹いたのは、その時だ。

ちらりと蒼の瞳がバッツを見れば、褐色の目がきらきらと輝いている。
そんなに自分を雇いたいのか、物好きな、と思いつつ、


「あんたが雇いたいのは、俺なんだな?」
「うん」
「指名するならその分、値段は上がるぞ」
「そうなのか。でも良いや、スコールが良い」


ガーデンやSeeDのシステムと言うものを、バッツは余り理解していない。
胴元のいる傭兵団、と言う雰囲気は判ったが、その中がどういった組織運営が成されているかはさっぱりだったし、此処でもやはり世界の違いと言うものが壁を作るだろう。
だが、そんな事はバッツにとっては大した問題ではない。
バッツはとにかく、“スコール”を雇いたいのだから、他の人員に来られても意味がない。

それなら、とスコールは続けた。


「あんたがこの間、モーグリショップで買うのを迷っていた武器があるだろう」
「ああ、うん。インフェルノソードだったかな」
「あれの十倍」
「えっ」
「それで一日だ」


先日、バッツがモーグリショップで見つけた、一本の剣。
素材も質も良く、華美にならない程度に飾られつつ、柄に埋められた魔法石も中々に良いものだった。
当然、値段もそれなりに張るもので、悩んだ末に、懐の侘びしさを理由に諦めていたそれを引き合いに出せば、バッツは判り易く目を丸くした。
その上に更に値段を吊り上げてやれば、えええ、と声を大きくする。


「そんなに?スコール、そんなに高いの?」
「一応。それなりの立場にいるからな」


そう言って口元に微かな弧を浮かべるスコールに、バッツはごくりと唾を飲む。


「ええ~、おれ幾ら持ってたかなあ……」
「本気で出す気なのか」
「だってそれだけ持ってればスコールと一緒にいられる訳だし。それに、おれが出せなくても、他の誰かが出せば、スコールは行く訳だろ?」
「依頼ならな」
「じゃあその前におれがスコールを雇わないと」


真剣に頭の中で算盤を弾き、貯金と相談しているバッツに、スコールの喉がくつくつと笑う。
楽しそうなスコールのその様子に、ひょっとして吹っ掛けられたかと思ったバッツだったが、しかし時折聞くスコールの話───彼が“指揮官”、即ち組織の中核を担う立場にいること───を思い出すと、強ち嘘ではないようにも思えて来る。
第一、傭兵と言うのは、貰える金額でどの依頼を受ける決める事が出来るのだ。
ガーデンと言う胴元がどのように仕事をスコール達に割り振るかは判らないが、依頼料が物を言うのも確かだろう。
それなら、スコールを確実に射止める為には、十分な蓄えが必要だ。

うんうんと真剣な顔で唸るバッツ。
あれを売ってこれを売って、とよく拾い集める素材の値段から計算を続けて行くバッツに、スコールは手元に開いていた本を閉じて、小さな声で言った。


「極稀な話でもあるんだが、依頼主の背景や、報酬の内容によっては、特別価格も考えない事もない」
「ホントか?」


ぱっと振り返って食い付いて来たバッツに、スコールがにんまりと笑う。
彼にしては珍しい、判り易く悪い笑みであったが、バッツはそれを気にしなかった。
それより、スコールを格安で確保できるなら、其方の方が大事だ。


「先ずは依頼内容の変更。派遣対象の指名を止めるか変更すれば、金額は変わる」
「それはナシ!来て貰うのはスコールじゃなきゃ」
「それなら、報酬の交渉だな。金額が足りないのなら、その分何かを上乗せする事だ。移動費や飲食に関わる費用の負担や、あんたが俺を雇う事による、俺のメリットの提示」
「うーん、難しいなあ。金は出すだけで精一杯だし。あ、飯ならおれが作ってやるよ。スコールの好きなもの、毎日三食、夜食付き!どう?」
「魅力がない訳じゃないが、報酬金額が足りないのは変わらないな」
「スコールは高いんだなぁ。でもスコールだもんなぁ。うーん、じゃあ他には……」


首を捻って、スコールを雇う権利を得るべく、真剣に考えるバッツ。
昼寝付きとか、と言ったりもしてみるが、護衛が昼寝をしてるってどうなんだ、と言われれば尤もである。
恐らく此処でスコールが有用と思う事───例えば地方豪族や貴族とのコネクションであるとか、ちょっと表には流せないものを手に入れられるルートを示す事が出来れば、有効な交渉手段になるのだろう。
しかし、バッツの世界ではそれが通っても、違う世界で生きるスコールにそれは有用になるものだろうか。
せめてこの世界で同等になるものを示さなければ、恐らくスコールの言う“足りない報酬への代替え案”にはならないだろう。

おれって案外何も持ってないんだなあ、と、自由である事が信条であるからこその不利を、こんな所で痛感しているバッツであったが、


「あんたが思いつかないなら、俺の方から報酬を指定しても良いか」
「ああ、良いぞ。スコールが欲しいものって事だろ?」
「……まあ、そうかもな」


バッツの言葉に、スコールは一瞬口籠りつつも、これを否定はしなかった。
それさえあればスコールが、と高揚した気分で待つバッツであったが、自分が特別に持っていると言う物は少ない。
スコールが欲しいもので、自分が持っているものがあれば良いんだけど、と思っていると、本を手放したスコールの指が、つい、とバッツの顔へと向いて、


「あんただ」
「へ?」
「護衛の報酬に、あんた自身を寄越せ。それで特別価格にしてやる」


真っ直ぐ向けられる指先と、薄く笑みを湛えた蒼の瞳。
滅多にお目に掛かれない、何処か楽しそうな色を抱いた瞳の輝きに、バッツは吸い込まれるように見入っていた。

余りに見入っていたものだから、バッツは自分が間の抜けた顔をしている事に気付いていなかった。
半開きになった口の下唇を、スコールの指がつんと触れる。
バッツがはっと我に返った時には、その手は既に退いていて、スコールは組んだ膝に頬杖をついて此方を見ている。


「俺を一日雇用する毎に、あんたの一日を報酬に貰う」
「えーっと。それ、例えばおれが一週間、スコールを雇ったら、」
「雇用期間が終わった後の一週間、あんたは俺のものだ」
「じゃあおれが一生分の報酬をあげるって言ったら?」
「……さあ?」


どうするかな、と嘯きながら、スコールの表情は判り易く楽しそうだった。





58の日と言うことで。
ビジネスの話をしているようでただいちゃついているだけです。

バッツの世界はまんま中世ファンタジー的な世界なんで、騎士や城仕えの兵だけでなく、傭兵もそこそこいるんだろうなあと思ってます。
ギルド的なものもありそうだけど、それよりは個人で稼いでるその日暮らしとか。
そう言うものに比べると、スコールの世界ではガーデンの仕組み然り、組合とか幇助団体とか、組織的な仕組みが現代と近い所もありそうな。SeeD取得を得ないまま卒業(放校?)した元生徒が、どういう経緯か、とある人から報酬を貰いながら小さな村に滞在している例もあるし。
そんな職業への印象・感覚の差もありつつ、なんとかスコールを個人的に雇って独占したいバッツが浮かんだのでした。

スコールを雇う金額について、吹っ掛けたのか正当な金額か。
どっちにしろスコールはお高い、と言う話。

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