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2023年02月

[レオ&子スコ]プラリネ・ソング

  • 2023/02/14 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



いつもより早くに仕事を終えることが出来たので、これなら弟を待たせなくて済むと、誰かに捕まる前にレオンはいそいそと会社を後にした。
エレベーターに乗った時、「レオンさんはー?」と言う声が聞こえたような気がしたが、敢えて無視して閉じるボタンを押す。
何かと仕事が多い所為で、毎日のように保育園に遅くまで弟を預けているのだ。
寂しがり屋の弟を安心させる為にも、本当はいつも早く帰りたいレオンとしては、偶にはこんな行動も許して欲しいと思う。
口に出して言えば、友人達は「それは家族が優先だろう。弟も小さいんだから」と言ってくれるだろうが、仕事の内容はそうは言ってくれないのが辛い所だ。
だから幸いにも解放が早かった今日ばかりは、いそいそと会社を出るのであった。

電車に乗って弟を預けている保育園の最寄り駅へ。
賑わいのある駅前通りを真っ直ぐに通り抜けようとした所で、駅構内に見慣れないものが幾つか並んでいる事に気付いた。
愛らしい看板をそれぞれ掲げ、沢山の人が集まっている其処には、『バレンタインフェア』と銘打たれている。
そう言えばそんな時期だった、と遅蒔きにカレンダーの日付を思い出し、集まる人々の盛況ぶりに凄いものだなと思う。

普段なら、それでレオンは直ぐに其処を通り過ぎてしまうのだが、普段よりも少々時間の余裕が赦されていることもあって、何とはなしに足が止まった。
遠目に眺めていると、看板に見覚えのあるブランドの名前が綴られている。
テレビで芸能人が美味しい美味しいと絶賛していたチョコレートブランドが、このフェアに合わせて沢山の新作を出しているのだ。
限定品のリッチなものから、特別パッケージ仕様のリーズナブルなものまで、多種多様なチョコレートは、見ているだけでも楽しくなるものだろう。
だからなのか、ぐるりと見渡してみるだけでも、女性客は勿論のこと、男性客の姿もちらほらと見付けられた。


(昔はこう言うものは女性のイベントと言うか───女性が男性に対して贈るって言うものとして言われていたが、最近はそれに限ったものでもないようだしな)


本命、義理、友チョコと配る対象によって細分化されるように呼び名が増えた昨今。
同性同士で日頃の労いや感謝に贈ることもあれば、完全に自分個人で楽しむことを目的に、ご褒美の為に、と買い求める人も多いと言う。
チョコレートのパッケージも多種多様で、男性が購入することを意識した意匠を施すものも少なくない。
アニメや漫画とコラボしたキャラクター型のチョコレートや、プリントチョコレートもあったりして、ブランド毎の違いも含めて、広い購買層に向けた展開が行われていた。

そんな中、レオンの目が留まったのは、動物の形をしたチョコレートだった。
猫や犬と言った馴染の深いものだけでなく、動物園でしか見ないような、ライオンやゴリラの立体チョコレートまで売っている。
ショーケースの中で展示されているそれに、精巧なものだなと感心しつつ、頭に浮かぶのは溺愛する弟の顔。


(ライオンは、見た時に喜びそうだが……)


弟であるスコールは、“百獣の王”に並々ならぬ憧れを持っている。
動物園に行った時には、ライオンの展示スペースの前にいつまでもいられる位に、心を奪われて已まないのだ。
そんなスコールにライオン型の立体チョコレートは、中々良いリアクションをしてくれそうだが、反面、「たべたくない」と言い出しそうでもあった。
勿体無い精神なのか、大事にしたいと思うからなのか、そう言うものほどしまい込んでしまう性格なのだ。
それ自体は悪いこととは言わないが、食べ物に関しては、やはり食べて喜んで貰えるのが良い。
泣きながらライオンのチョコレートをを食べる弟を想像して、幼い今の内は他の方が良いな、とレオンは苦笑した。

レオンはもう少しショーケースを見回った後、パッケージに可愛らしい猫が描かれたチョコレートを買った。
中身はシンプルにココアコーティングされた、丸型の一口サイズのチョコレート。
一つ一つが箔に包まれているので、数日に分けて少しずつ食べるのも良いだろう。

チョコレートボックスを鞄の中に入れて、さて、とレオンは速足でその場を離れたのだった。



いつも遅くなり勝ちな兄が早く迎えに来たものだから、スコールは嬉しそうに教室から飛び出してきた。
今日は何で早いの、と嬉々一杯の顔で尋ねて来るスコールに、お仕事が早く終わったんだと言えば、また嬉しそうに抱き着いて来る。
そんな弟の愛らしさに唇を緩めつつ、やっぱりもっと残業は減らすべきだな、とレオンは思うのだった。

帰り道の途中で買い物を済ませて、自宅に帰ると直ぐに夕飯の準備を始める。
今日は冬の最中にしては珍しく少し気温が高かったので、スコールも珍しく外遊びをしたらしい。
砂場でお山を作ったんだよと言うスコールに、上手に出来たかと訊ねてみれば、スコールは自信一杯の顔で頷いた。
いつになく外遊びをしたからか、昼寝が終わったころから、ずっとお腹が空いてるの、とスコールは言った。
普段は小食気味なスコールだが、今日はおかずの量を少し増やして置いても良いかも知れない。
レオンの読みは当たっていて、スコールは普段より多くなったおかずを、綺麗に平らげることが出来た。

レオンが食後の片付けをしている間、スコールはテレビを見ている。
チャンネルはいつも子供向けの番組専用のものに合わせていて、今はアニメが放映されていた。
夢中でそれを見詰めているスコールの様子をこまめに確認しつつ、レオンは家事を済ませて行く。

朝、家を出る前に干して置いた洗濯物を片付けて、ふうと一息。
そこでレオンは、仕事用の鞄の中に入れたままにしていたものの存在を思い出した。
鞄から取り出したそれをダイニングテーブルに置いて、


「スコール」
「!」


名前を呼ぶと、アニメに夢中になっていたスコールが、はっと此方を向く。
なあになあにと駆け寄って来るスコールを受け止めて、レオンはダイニングテーブルに促した。

もう夕飯は終わったのに、なんだろう、と言う表情で、スコールはいつもの自分の席に登る。
と、綺麗に片付けられた筈のテーブルの上に、小さな四角い箱が一つ。
木々の緑の中で、日向ぼっこをするように丸くなっている猫の絵が描かれているそれに、スコールは興味津々な目を向ける。

レオンはスコールの隣に座って、箱を手元に寄せた。


「スコールはいつも良い子にしてるからな。今日は特別だ」
「なーに?」


レオンの言葉に、少なくとも此処にあるものが、何かご褒美のようなものだと感じ取ったスコールは、期待一杯の目で兄を見る。

レオンは箱の端を留めている小さな丸シールを剥がして、蓋を開けた。
中に入っているのは、金色の箔に綺麗に包められた丸いもの。
まだ正体が判らない様子のスコールに、レオンは一つ取り出して、


「チョコレートだ。好きだろう?」
「好き!でもいいの?もう晩ご飯食べちゃったよ」


おやつは三時に、夕飯の後にはおやつは食べない。
きちんと日々のメリハリをつける為に、レオンが昔からスコールに言い聞かせていたことだった。
それを解禁するのは、兄弟それぞれの誕生日であったり、夜更しをして良い日としている年末と言った限られた時のみ。
今日は別になんでもない日、とスコールは思っており、レオンも一応、そのつもりはあるのだが、


「今日はバレンタインって言う日だからな」
「ばれんたいん!」
「大好きな人に、大好きだよって言う気持ちを込めて、チョコレートをプレゼントする日」
「お兄ちゃん、ぼくのこと好き?」
「ああ。大好きだよ」


レオンの説明を聞いて、直ぐに確かめようとするスコールに、レオンはくすりと笑って言った。
毎日のように伝えていることでも、改めて聞けると嬉しいようで、スコールは丸い頬を赤くして「えへへ」と嬉しそうに笑う。


「だから今日は特別。でも、食べたらちゃんと歯磨きをすること。良いな?」
「うん。僕、ちゃんと毎日ハミガキしてるよ」


兄の言葉に、弟はしっかりと頷いた。
美味しいものを美味しく食べたいのなら、歯磨きはとても大切なことだと言う教えは、しっかりスコールに根付いている。

レオンはチョコレートを一つ取り出して、それを包んでいる金箔を綺麗に取った。
ココアパウダーでコーティングを施されたチョコレートを、スコールはしげしげと見つめている。
普段、スーパーで売っているチョコレートしか見たことがないスコールには、初めて出会う代物だ。
レオンは摘まんだそれのサイズを確認して、これならスコールも一口で行けるだろうと見る。


「ほら、あーん」
「あーん」


ぱか、と雛鳥のように口を開けるスコール。
小さな口を精一杯に開いた其処に、レオンはチョコレートをころんと入れてやった。
スコールは貰ったそれをうっかり落としてしまわないように、両手で口元を覆って、ころころと頬袋を膨らませる。

レオンも一つ取り出して、ぽいと口の中に入れた。
一噛みすると、柔らかなチョコレートが半分に割れ、舌の上で転がしているだけでとろりと溶けて行く。
甘いものはそれ程得意ではないレオンだったが、美味いな、としつこくない味わいを堪能しつつ、隣を見てみると、


「……!」


スコールが真ん丸な目をより大きく見開いていた。
口の中をもごもごと動かしながら、その目が兄を見る。

スコールは口の中のものを綺麗に飲み込んでから、ふわぁあ、と感嘆の声を上げた。


「なあにこれ、お兄ちゃん。やわらかくって、とけちゃった。これ本当にチョコレート?」



なあにこれ、と驚きと感動の混じった瞳に、そう言えばこの手のチョコレートは初めてだったか、と兄も気付く。
所謂トリュフと呼ばれる、中身に柔らかいチョコレートや様々なフレーバーが入っているもの。
チョコレートと言えば中までしっかり固くて甘い、それを舐めて溶かしながら食べるのが美味しいものだと思っているスコールには、衝撃の出逢いだったようだ。

まだ口の中にチョコレートの味わいが残っているのだろう、スコールはそれを確かめるように、もう空っぽの筈の口の中を転がしている。
そんなスコールに、まあ今日の所は良いか、とレオンは甘やかす方向に決めて、箱からもう一つ取り出す。


「もう一個食べるか?」
「いいの?たべたい!」


きらきらと目を輝かせるスコールに、レオンも嬉しくなって金箔を取る。
あーん、と促せば、ぱか、とスコールは口を開けて待った。

ころりとチョコレートを入れてやれば、スコールは赤い頬が落ちないように両手で包んで、幸せそうに笑う。
柔らかいフィリングを、スコールは出来るだけ長い時間味わいたくて、ころころとゆっくりと口の中で転がしている。
それを微笑ましく見つめている兄と、ぱちりと目が合ったスコールは、口の中のものを落とさないように手で口元を塞ぎながら、


「お兄ちゃんも食べる?」
「ああ、そうだな」


折角買ったのだから、もう一つ位は。
弟に残りを全部あげても良い気持ちもありつつ、そう答えると、スコールが早速手を伸ばす。
箱の中に入っていたチョコレートを一つ、小さな手で器用に金箔を剥がし、


「はい、お兄ちゃん。あーん」
「あーん」


差し出されたチョコレートを、レオンはぱくりと食べた。
これはスコールがくれたトコレート、と思うと、なんとなく甘さも一入に、喜びも膨らむのだった。



バレンタインと言う事で、久しぶりにレオンお兄ちゃんと子スコで。
スコールが一人で買い物できるようになったら、スコールからレオンへの贈り物も用意されるようになるんだと思います。

プラリネチョコが好きです。色んなフレーバー入ってるのも良いですね。
動物型のチョコとか精巧で凄いな─と思います。牛乳に浸して溶かしながら楽しむゴリラチョコのインパクトはいつも見付けると笑ってしまう。

[フリスコ]ハードドリンク・エクスタシス

  • 2023/02/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



大学に進んだフリオニールが、それまで過ごしてきた義理の親の下を出て、一人暮らしを始めた。
高校進学の時からその計画はあったそうだが、義理の親やその子供たち───フリオニールにとっては兄妹のような存在だ───から、卒業まではうちにいて欲しい、と願われたので、先延ばしにしていたそうだ。
替わりに高校生の内にアルバイトをして資金を貯め、しっかりと準備をして、高校卒業、大学入学と共に祝いの門出となった。

スコールはその前から、一足先に一人暮らしを始めている。
愛故に過保護な父親の「寂しいじゃんよう」と言う反対を押し切って、彼は高校入学を期に家を出た。
とは言え、場所はそれ程遠くはなく、公共交通を使って行こうと思えば行ける距離である。
それでも一人きりの生活と言うのは、それまで庇護の下にいた少年にとって中々大変なもので、最初の内は気を張り過ぎて無自覚に目を回していた。
そうして学校内で体調を崩し、意地とプライドで誰を頼る事も出来ずにいた所を、一学年上に在籍していたフリオニールが偶々発見して声をかけたのが、二人の初めての出会いであった。

それから約二年間、二人は同じ学年こそ違えど、同じ学び舎で過ごすことになる。
スコールが一人暮らしだったので、フリオニールはよく彼の元へ訪れ、真面目に見えて案外と物臭な所がある少年の一面に驚きつつ、持ち前の甲斐甲斐しさを発揮した。
食に碌な興味がなかったスコールへ、その大切さを説きながら、料理男子の真価を発揮する。
これにスコールがすっかり胃袋を掴まれて、週の半分はフリオニールが家に来て、二日か三日分の料理を作り置きするようになった。
世話になるばかりでは良くないと、スコールも一念発起して調理のいろはを学び直し、レシピつきなら少々凝ったものも作れるようになって行く。
次第にフリオニールがスコールの家に泊まる事も増え、その間に二人の距離は徐々に縮まり、フリオニールが卒業する頃には、晴れて両想いとなったのであった。

フリオニールが大学に進み、一人暮らしになった事で、今度はスコールがフリオニールの自宅に来るようにもなった。
まだまだ物が少なかった狭い部屋の中に、ぽつぽつとスコールの私物も増えて行く。
食器は当然のように二人分が誂えられ、洗面所回りも勿論、寝間着もわざわざ持って来るのは面倒だろうと、フリオニールがスコールの分を用意した。
ちなみに寝間着が用意されるまでは、スコールはフリオニールの高校時代の運動着などを借りている。
それはそれで(こっそりと)スコールにとって嬉しいことだったので、寝間着が別に用意された事には少々微妙な反応も出てしまったのだが、それがあると言う事は「いつでも泊まりに来て良い」と言う事でもある。
両想いとなった間柄で、それが嬉しくない訳もなく、スコールは面映ゆい表情を浮かべていたのだった。

そんな新しい生活がスタートしてから、約一ヵ月が経つ。
フリオニールは大学の入学式で勧誘されたサークルに参加し、その新人歓迎会が催された。
飲み食いするだけだし、一年生はタダだから、と言われ、折角先輩たちが企画してくれたのならと頷く。
二次会も予定されているようだが、そちらは辞退させて貰う事にする。
そして、家に来ていたら待たせてしまって可哀想だと、スコールに飲み会参加の旨を伝え、今日の所は自宅でゆっくりしてくれ、と伝えた。
それを受けたスコールは、フリオニールに逢えない寂しさを感じつつも、返事の文面上はいつものように、分かった、と言うシンプルな返事だけを送った。

そして飲み会の当日夜、スコールは自宅で明日の朝食の下拵えをしていた。
明日は学校が休みだから、朝食もサボって寝倒していても良かったのだが、三年生に進級してからずっと土日をその調子で過ごしている。
元々怠け癖があるのは否定しないが、流石に少し引き締めた方が良い、と思ったのだ。
いつものように恋人に会いに行く訳でもなかったから、暇潰しも兼ねて、少々凝った料理の下準備に精を出していたのである。

────と、そんな所へ、玄関のチャイムが鳴った。
マンション一階の玄関エントランスと繋がっているインターフォンモニターを点けてみると、其処には見慣れない人物が映っている。
茶髪に褐色の瞳、人懐こそうな顔が「ここでいいのかなあ」と呟いているのが聞こえた。
その肩に担がれている銀髪の青年を見付け、スコールは直ぐにインターフォンの通信をオンにする。


「はい」
『あ、繋がった。スコールって人の家、ここであってますか』
「……はい。どちら様ですか」
『どうも。バッツって言います。えーっと、フリオニールって奴のこと知ってるかな』
「……知っています」
『良かった。おれ、フリオニールと同じサークルで、まあ先輩みたいなものなんだけど。今日、飲み会があって、まあその、ちょっとミスっちゃってフリオニールに酒飲ませちゃったみたいで────』


言いながら青年───バッツは、よいしょ、と肩を貸すフリオーニールの重みを直している。
銀髪が力なくかくんと揺れるのを見て、スコールは溜息を吐いた。


「……すぐ降ります」
『ありがと。フリオ~、迎えに来てくれるってさ』


バッツの声のあと、「う~ん……」とぐずるような声が聞こえた。
スコールはもう一つ溜息を吐いて、モニターの通信を切る。

エレベーターで直ぐにロビーに降りると、エントランスにモニターから見た顔が直ぐに見つかった。
バッツと名乗った人懐こい顔をした青年に、ぐでんと寄り掛かって支えられている銀髪の青年───フリオニール。
内側からの操作で玄関の二重鍵を開け、お邪魔しますと入って来た青年の肩から、スコールはフリオニールを受け取った。


「重……っ」
「大丈夫か?良ければおれ、上まで運んでも良いけど」
「……いや、大丈夫です。ありがとうございました」
「そっか。無理するなよ。フリオー、ごめんなぁ」


バッツはフリオニールの頭をわしわしと撫でて詫びた。
それから「じゃあな」と気の良い挨拶と共に、エントランスホールを出て行く。

自分よりも上背のある恋人の重みに、スコールは再三の溜息を洩らしつつ、エレベーターへと戻る。
小さな箱の中に入って、自宅のあるフロアのボタンを押して直ぐ、扉は閉まった。
と、上り始めたエレベーターの浮遊感に違和感を覚えたのか、肩に乗せた銀糸の尻尾がむずがるように揺れ、


「……んん……」
「……起きたのか」


頭がゆっくりと持ち上がるのを見て、スコールは言った。
その声がもう一つフリオニールを覚醒に導いたようで、赤い瞳がぼんやりとスコールを見る。


「……スコール?」
「あんた、なんで自分の家じゃなくて、俺の家に来てるんだ。全く」
「ん……」


フリオニールが二次会に参加するつもりがないと言うのは、スコールも聞いていた。
そもそも、年齢的にはまだ飲酒は堂々と出来ないものであるし、バッツもミスをしたと言っていたので、フリオニールがこの状態になったのは不可抗力なのだろう。
それは良いとして、帰る場所として恐らくバッツに伝えた筈の住所を、自宅ではなく此方に指定したのはどういう訳なのか。

酔っ払いって訳が分からないな、と苦い表情を浮かべるスコール。
飲んだことは事故とは言え、この行動の動機くらいは確かめさせて貰っても良いだろう。
ついでに、突然来たことについて、説教を含めて一つ二つ位は文句を言っても許される筈だと、明日の朝に何から言おうかと考えるスコールを、フリオニールはじっと見つめ、


「……スコール」
「なんだよ」


名前を呼ばれたので、不機嫌ながらも返事をしてやれば、垂れていたフリオニールの手が徐に持ち上がり、スコールの頬に触れた。
フリオニールの顔は、アルコールの所為だろう、火照ったように赤らんでいるのに、指先が冷たい。
それが猫を宥めるように肌の上を滑るが、スコールは「誤魔化されないからな」と寄り掛かる青年の顔を睨み、


「会いたかった。……ん」
「…………!!?」


愛しさを全て詰め込んだような声の後、厚みのある唇が、スコールの色の薄いそれと重なった。
思わぬことに目を瞠るスコールを、フリオニールはじいと見つめて視線を離そうとしない。

熱と一緒に、甘く溶けるような匂いを纏させた吐息が、スコールの咥内から入って来る。
匂いは鼻孔の方まで抜けていって、スコールは一瞬、頭の芯がくらりと揺れるのを感じた。
それがアルコールの齎す効能で、自身が極端にその性質に弱いことを示していたが、まだ一滴とそれに触れたことのないスコールには判らない。
揺れた頭が意識を取り戻そうと悶えている間に、無防備になった唇の隙間から、厚みと弾力のあるものが侵入して来る。
ぬるりと艶めかしい感触がスコールの舌を捉え、ちゅぷ、ちゅく、と唾液の音を交えながらしゃぶった。


「ん、んむ……っ!ふ、んぅ……っ!?」


視界を埋め尽くす銀色と、褐色の肌と、細められた赤い瞳。
普段は人好きの印象を宿す紅玉が、まるで獲物を定めたように瞳孔を細く尖らせ、スコールを見詰めている。
咥内を舐るものに誘われて連れ出された舌に、犬歯の尖りが時折掠った。
まずい、と顔を背けて逃げようとしたスコールだったが、頬に添えられていた手が、いつの間にか顎を捉えている。
実を捩ろうとすれば、逆の手腕がスコールの体を閉じ込めるように抱き締めていて、身動ぎすら出来なかった。

舌に絡む唾液が、スコールの耳の奥で、ちゅくちゅくといやらしい音を鳴らしている。
いつも褥の中で、夢中でまぐわっている最中に聞いていたそれに、体は勝手に反応を示し、スコールは下腹部に熱が生まれるのを自覚した。
それが下半身から力を奪うまでに時間はかからず、貪られるキスに翻弄されるまま、スコールはいつの間にかフリオニールに縋るようにして体を支えていた。


「ん……っふ……はぁ……」
「ふ、は……っ」


丹念にスコールの味を堪能して、ようやくフリオニールは唇を離す。
二つの舌先の先端を、細い銀露が繋いで、ぷつんと切れた。

息を切らせるスコールを、フリオニールは恭しく見つめている。
その熱ぼったい瞳に危険を感じて、スコールはきっと眦を吊り上げる。


「っフリオ!ここを何処だと思ってるんだ」
「……ええと……」
「エレベーターだぞ。俺のマンションの」
「……うん、そうだな」


フリオニールの反応はいつになく鈍い。
普段なら、スコールがこうして声を荒げれば、直ぐに弱った顔をして、自分の行動を改めると言うのに。
そもそも、スコールに負けず劣らず初心なフリオニールであるから、こんな場所でこんな大胆なキスをするなんて、先ず有り得ないのだ。
酒の力とは恐ろしい────スコールは怒ったポーズの裏で、高鳴る鼓動を覚えながらそんな事を考えていた。

取り敢えず、エレベーターを降りなくては、この密着した状態は良くない。
スコールはなんとか抱き締めるフリオニールの腕を振り解こうとするが、その力は簡単には解けなかった。


「おい、ちょっと……」
「……スコール」
「……っ後にしろ……!」


もう一度近付いて来る精悍な顔立ちに、スコールは顔を真っ赤にして言った。
恋人に求められるのは、決して嫌な気分はしない。
けれども場所はちゃんと選んでほしいスコールとしては、こんな所で密着しているだけでも耐え難いのだ。
せめて人目を気にしなくて良い、自宅に入ってからにして欲しい。

エレベーターの上昇が止まり、ドアが開く。
幸いなことにその到着を待っていた者はおらず、スコールの一瞬冷えた肝はほうと安堵した。

しかし、フリオニールはスコールに体重を預けるように寄り掛かって来るばかり。
早く下りないといけないのに、とスコールがそれを支えながら後ろに蹈鞴を踏むと、背中が壁に当たった。
とん、とフリオニールの手がスコールの顔の横で壁を突き、スコールは壁とフリオニールの体に挟まれる格好になる。


「フリ、オ……っ」
「……ごめん。俺、待てない」
「家、すぐ其処だぞ。だからもうちょっと待、」
「……ん」
「………!」


狭い箱の中で、もう一度唇が重ねられる。
先と全く劣らない熱の滾りが込められた口付けは、既に燻り始めていたスコールの躰に決定打を与えるに十分なものだった。

降りる筈の乗客がまだ其処にいる事を忘れて、エレベーターのドアが閉まる。
上にも下にも行かない狭い空間で、スコールは意識が溶けていくのを感じていた。



翌日、何も覚えていないフリオニールに、スコールが金輪際の飲酒を禁じたのは言うまでもない。




2月8日と言うことでフリスコ!
酔っ払いフリオニールの、普段と違う攻めっぷりで、あうあうしてるスコールが見たいなと思って。

大分激しい夜になったんじゃないだろうか。噛み跡とか多そう。
とんでもない所で迫られたり、それをフリオニールが綺麗さっぱり覚えてなかったりで、翌朝のスコールの雷は不可避ですが、スコールも本音では大分ドキドキしているし結局の所嫌ではなかった訳ですな。
このフリオニールは反省しているので、今後も自分から飲む事はないけど、先輩の悪ノリだったり、スコールが成人した後とかに一緒に飲んでまたお熱い夜を過ごすことはあると思う。

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