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[レオ&子スコ]プラリネ・ソング

  • 2023/02/14 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



いつもより早くに仕事を終えることが出来たので、これなら弟を待たせなくて済むと、誰かに捕まる前にレオンはいそいそと会社を後にした。
エレベーターに乗った時、「レオンさんはー?」と言う声が聞こえたような気がしたが、敢えて無視して閉じるボタンを押す。
何かと仕事が多い所為で、毎日のように保育園に遅くまで弟を預けているのだ。
寂しがり屋の弟を安心させる為にも、本当はいつも早く帰りたいレオンとしては、偶にはこんな行動も許して欲しいと思う。
口に出して言えば、友人達は「それは家族が優先だろう。弟も小さいんだから」と言ってくれるだろうが、仕事の内容はそうは言ってくれないのが辛い所だ。
だから幸いにも解放が早かった今日ばかりは、いそいそと会社を出るのであった。

電車に乗って弟を預けている保育園の最寄り駅へ。
賑わいのある駅前通りを真っ直ぐに通り抜けようとした所で、駅構内に見慣れないものが幾つか並んでいる事に気付いた。
愛らしい看板をそれぞれ掲げ、沢山の人が集まっている其処には、『バレンタインフェア』と銘打たれている。
そう言えばそんな時期だった、と遅蒔きにカレンダーの日付を思い出し、集まる人々の盛況ぶりに凄いものだなと思う。

普段なら、それでレオンは直ぐに其処を通り過ぎてしまうのだが、普段よりも少々時間の余裕が赦されていることもあって、何とはなしに足が止まった。
遠目に眺めていると、看板に見覚えのあるブランドの名前が綴られている。
テレビで芸能人が美味しい美味しいと絶賛していたチョコレートブランドが、このフェアに合わせて沢山の新作を出しているのだ。
限定品のリッチなものから、特別パッケージ仕様のリーズナブルなものまで、多種多様なチョコレートは、見ているだけでも楽しくなるものだろう。
だからなのか、ぐるりと見渡してみるだけでも、女性客は勿論のこと、男性客の姿もちらほらと見付けられた。


(昔はこう言うものは女性のイベントと言うか───女性が男性に対して贈るって言うものとして言われていたが、最近はそれに限ったものでもないようだしな)


本命、義理、友チョコと配る対象によって細分化されるように呼び名が増えた昨今。
同性同士で日頃の労いや感謝に贈ることもあれば、完全に自分個人で楽しむことを目的に、ご褒美の為に、と買い求める人も多いと言う。
チョコレートのパッケージも多種多様で、男性が購入することを意識した意匠を施すものも少なくない。
アニメや漫画とコラボしたキャラクター型のチョコレートや、プリントチョコレートもあったりして、ブランド毎の違いも含めて、広い購買層に向けた展開が行われていた。

そんな中、レオンの目が留まったのは、動物の形をしたチョコレートだった。
猫や犬と言った馴染の深いものだけでなく、動物園でしか見ないような、ライオンやゴリラの立体チョコレートまで売っている。
ショーケースの中で展示されているそれに、精巧なものだなと感心しつつ、頭に浮かぶのは溺愛する弟の顔。


(ライオンは、見た時に喜びそうだが……)


弟であるスコールは、“百獣の王”に並々ならぬ憧れを持っている。
動物園に行った時には、ライオンの展示スペースの前にいつまでもいられる位に、心を奪われて已まないのだ。
そんなスコールにライオン型の立体チョコレートは、中々良いリアクションをしてくれそうだが、反面、「たべたくない」と言い出しそうでもあった。
勿体無い精神なのか、大事にしたいと思うからなのか、そう言うものほどしまい込んでしまう性格なのだ。
それ自体は悪いこととは言わないが、食べ物に関しては、やはり食べて喜んで貰えるのが良い。
泣きながらライオンのチョコレートをを食べる弟を想像して、幼い今の内は他の方が良いな、とレオンは苦笑した。

レオンはもう少しショーケースを見回った後、パッケージに可愛らしい猫が描かれたチョコレートを買った。
中身はシンプルにココアコーティングされた、丸型の一口サイズのチョコレート。
一つ一つが箔に包まれているので、数日に分けて少しずつ食べるのも良いだろう。

チョコレートボックスを鞄の中に入れて、さて、とレオンは速足でその場を離れたのだった。



いつも遅くなり勝ちな兄が早く迎えに来たものだから、スコールは嬉しそうに教室から飛び出してきた。
今日は何で早いの、と嬉々一杯の顔で尋ねて来るスコールに、お仕事が早く終わったんだと言えば、また嬉しそうに抱き着いて来る。
そんな弟の愛らしさに唇を緩めつつ、やっぱりもっと残業は減らすべきだな、とレオンは思うのだった。

帰り道の途中で買い物を済ませて、自宅に帰ると直ぐに夕飯の準備を始める。
今日は冬の最中にしては珍しく少し気温が高かったので、スコールも珍しく外遊びをしたらしい。
砂場でお山を作ったんだよと言うスコールに、上手に出来たかと訊ねてみれば、スコールは自信一杯の顔で頷いた。
いつになく外遊びをしたからか、昼寝が終わったころから、ずっとお腹が空いてるの、とスコールは言った。
普段は小食気味なスコールだが、今日はおかずの量を少し増やして置いても良いかも知れない。
レオンの読みは当たっていて、スコールは普段より多くなったおかずを、綺麗に平らげることが出来た。

レオンが食後の片付けをしている間、スコールはテレビを見ている。
チャンネルはいつも子供向けの番組専用のものに合わせていて、今はアニメが放映されていた。
夢中でそれを見詰めているスコールの様子をこまめに確認しつつ、レオンは家事を済ませて行く。

朝、家を出る前に干して置いた洗濯物を片付けて、ふうと一息。
そこでレオンは、仕事用の鞄の中に入れたままにしていたものの存在を思い出した。
鞄から取り出したそれをダイニングテーブルに置いて、


「スコール」
「!」


名前を呼ぶと、アニメに夢中になっていたスコールが、はっと此方を向く。
なあになあにと駆け寄って来るスコールを受け止めて、レオンはダイニングテーブルに促した。

もう夕飯は終わったのに、なんだろう、と言う表情で、スコールはいつもの自分の席に登る。
と、綺麗に片付けられた筈のテーブルの上に、小さな四角い箱が一つ。
木々の緑の中で、日向ぼっこをするように丸くなっている猫の絵が描かれているそれに、スコールは興味津々な目を向ける。

レオンはスコールの隣に座って、箱を手元に寄せた。


「スコールはいつも良い子にしてるからな。今日は特別だ」
「なーに?」


レオンの言葉に、少なくとも此処にあるものが、何かご褒美のようなものだと感じ取ったスコールは、期待一杯の目で兄を見る。

レオンは箱の端を留めている小さな丸シールを剥がして、蓋を開けた。
中に入っているのは、金色の箔に綺麗に包められた丸いもの。
まだ正体が判らない様子のスコールに、レオンは一つ取り出して、


「チョコレートだ。好きだろう?」
「好き!でもいいの?もう晩ご飯食べちゃったよ」


おやつは三時に、夕飯の後にはおやつは食べない。
きちんと日々のメリハリをつける為に、レオンが昔からスコールに言い聞かせていたことだった。
それを解禁するのは、兄弟それぞれの誕生日であったり、夜更しをして良い日としている年末と言った限られた時のみ。
今日は別になんでもない日、とスコールは思っており、レオンも一応、そのつもりはあるのだが、


「今日はバレンタインって言う日だからな」
「ばれんたいん!」
「大好きな人に、大好きだよって言う気持ちを込めて、チョコレートをプレゼントする日」
「お兄ちゃん、ぼくのこと好き?」
「ああ。大好きだよ」


レオンの説明を聞いて、直ぐに確かめようとするスコールに、レオンはくすりと笑って言った。
毎日のように伝えていることでも、改めて聞けると嬉しいようで、スコールは丸い頬を赤くして「えへへ」と嬉しそうに笑う。


「だから今日は特別。でも、食べたらちゃんと歯磨きをすること。良いな?」
「うん。僕、ちゃんと毎日ハミガキしてるよ」


兄の言葉に、弟はしっかりと頷いた。
美味しいものを美味しく食べたいのなら、歯磨きはとても大切なことだと言う教えは、しっかりスコールに根付いている。

レオンはチョコレートを一つ取り出して、それを包んでいる金箔を綺麗に取った。
ココアパウダーでコーティングを施されたチョコレートを、スコールはしげしげと見つめている。
普段、スーパーで売っているチョコレートしか見たことがないスコールには、初めて出会う代物だ。
レオンは摘まんだそれのサイズを確認して、これならスコールも一口で行けるだろうと見る。


「ほら、あーん」
「あーん」


ぱか、と雛鳥のように口を開けるスコール。
小さな口を精一杯に開いた其処に、レオンはチョコレートをころんと入れてやった。
スコールは貰ったそれをうっかり落としてしまわないように、両手で口元を覆って、ころころと頬袋を膨らませる。

レオンも一つ取り出して、ぽいと口の中に入れた。
一噛みすると、柔らかなチョコレートが半分に割れ、舌の上で転がしているだけでとろりと溶けて行く。
甘いものはそれ程得意ではないレオンだったが、美味いな、としつこくない味わいを堪能しつつ、隣を見てみると、


「……!」


スコールが真ん丸な目をより大きく見開いていた。
口の中をもごもごと動かしながら、その目が兄を見る。

スコールは口の中のものを綺麗に飲み込んでから、ふわぁあ、と感嘆の声を上げた。


「なあにこれ、お兄ちゃん。やわらかくって、とけちゃった。これ本当にチョコレート?」



なあにこれ、と驚きと感動の混じった瞳に、そう言えばこの手のチョコレートは初めてだったか、と兄も気付く。
所謂トリュフと呼ばれる、中身に柔らかいチョコレートや様々なフレーバーが入っているもの。
チョコレートと言えば中までしっかり固くて甘い、それを舐めて溶かしながら食べるのが美味しいものだと思っているスコールには、衝撃の出逢いだったようだ。

まだ口の中にチョコレートの味わいが残っているのだろう、スコールはそれを確かめるように、もう空っぽの筈の口の中を転がしている。
そんなスコールに、まあ今日の所は良いか、とレオンは甘やかす方向に決めて、箱からもう一つ取り出す。


「もう一個食べるか?」
「いいの?たべたい!」


きらきらと目を輝かせるスコールに、レオンも嬉しくなって金箔を取る。
あーん、と促せば、ぱか、とスコールは口を開けて待った。

ころりとチョコレートを入れてやれば、スコールは赤い頬が落ちないように両手で包んで、幸せそうに笑う。
柔らかいフィリングを、スコールは出来るだけ長い時間味わいたくて、ころころとゆっくりと口の中で転がしている。
それを微笑ましく見つめている兄と、ぱちりと目が合ったスコールは、口の中のものを落とさないように手で口元を塞ぎながら、


「お兄ちゃんも食べる?」
「ああ、そうだな」


折角買ったのだから、もう一つ位は。
弟に残りを全部あげても良い気持ちもありつつ、そう答えると、スコールが早速手を伸ばす。
箱の中に入っていたチョコレートを一つ、小さな手で器用に金箔を剥がし、


「はい、お兄ちゃん。あーん」
「あーん」


差し出されたチョコレートを、レオンはぱくりと食べた。
これはスコールがくれたトコレート、と思うと、なんとなく甘さも一入に、喜びも膨らむのだった。



バレンタインと言う事で、久しぶりにレオンお兄ちゃんと子スコで。
スコールが一人で買い物できるようになったら、スコールからレオンへの贈り物も用意されるようになるんだと思います。

プラリネチョコが好きです。色んなフレーバー入ってるのも良いですね。
動物型のチョコとか精巧で凄いな─と思います。牛乳に浸して溶かしながら楽しむゴリラチョコのインパクトはいつも見付けると笑ってしまう。

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