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2021年09月

[ジタスコ]この距離感はここだけの

  • 2021/09/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF


バッツが「良さそうな匂いがする」と言って其方の方向に向かって歩き出したので、スコールとジタンもその後を追った。
一体どんな匂いなのかと訊ねてみると、臭いようなそうでもないような、と言う。
“臭い”ものを“良さそう”とは、随分と真逆な事を言ってくれると、スコールは眉根を寄せたが、バッツの足取りに迷いはない。
妙なトラブルに巻き込まれない事を願いながら、スコールは歩を進め、ジタンも同じ気持ちで彼について行く。

バッツにしか見えない道を辿るように進んでしばらく後、ジタンもバッツが感じていたと思しき匂いに気付いた。
そのお陰で、なんとなくバッツが言うものの正体に気付き始めた所で、スコールも同じように“臭いようなそうでもないような、良さそうな匂い”と言うものを感じ取ったらしい。
そうしてバッツが進行方向を決めてから十分程度は経っただろうかと言う頃に、“それ”は発見された。


「温泉だー!」


バッツとジタンが二人揃って声を上げる。

其処はグルグ火山地帯の麓に当たり、其処から湧き出る複数本の川の水が小さな池に流れ込んでいた。
湯の源流は熱湯と言って十分な程の温度だが、他の川から届いた冷水と混ざり、程好い温度まで下がっている。
付近に生息していると思しき動物や魔獣が浸かりに来ている所を見るに、水質も危ないものではなさそうだ。

こんな良条件は滅多にないと、今日の野営地は満場一致でこの温泉の傍と決まった。
池の周りは鬱蒼とした森に囲まれ、見通しはあまり良くはなかったが、それはこの世界ではよくあることだ。
それよりも、清流の川が遠くなく、其処に魚が棲んでいるので食料確保には事欠かないし、何より天然温泉を楽しめるなんて最高ではないか。
秩序の聖域にある屋敷で、広々とした浴場を使えることは非常に恵まれたことであると判ってはいるが、露天風呂の解放感はまた格別だ。
明日、帰還した時には仲間達にこの情報を共有するとして、今日の所は、三人だけで思う存分楽しもうじゃないか、と言う話になった。

温泉が齎す環境か、周囲には様々な獣が生息しており、その素材を集めるのに一役買った。
普段なら中々手に入らないような貴重な毛や羽根も手に入り、先日確認したモーグリショップのトレード品の上位のものも幾つか購入する事が出来るほどだ。
普段の三分の二ほどの探索時間が過ぎた所で、中間報告に集まって成果を確認すると、いつもの倍近くの価値があるものが集められた。
これはもう十分だろう、と満足感も手に入り、今日の所はのんびりしても良いじゃないか、と言うジタンに二人も同感で、予定よりも早めの野宿設営を始めた。

夕飯を終えると、ジタンとバッツは早速温泉に入ることにした。
温度はジタンにとっては少し温めに感じられたが、長湯をするならこれ位の方が良い、と言う程度。
柔らかな水質は、のんびりと浸っていて心地良く、体の芯までじんわりと染み渡り、奥からぽかぽかと温まって行くのが判る。
温泉の質や効能などは判別できるものではなかったが、湯治に良さそうなものである事は感じられた。
森の奥と言う立地である為、通うには聊か不向きな場所だが、偶に足を伸ばして来る位の魅力はあるだろう。
何より、風呂に入りながら空を見上げることの解放感が良い。
遮るもののない空には、ゆっくりと立ち上る湯気が消え行き、その雲が晴れて見える夜空には、満点の星が散らばっている。
これは中々の贅沢だ。

たっぷりと温泉を堪能していたジタンであったが、ざぱん、と水音を聞いて顔を上げる。
見ると、バッツが湯から上がって、手早く体を拭いている所だった。


「もう上がるのか?」
「うん。スコールと交代しようと思ってさ」


スコールは、温泉にはしゃぐ二人を尻目に、火の番を引き受けると言っていた。
彼に甘える形でジタンとバッツは温泉を堪能していたのだが、こんなに気持ちの良いものなのだから、彼も一度くらいは入っておくべきだとバッツは言う。

まだ髪が濡れた状態のまま、バッツはスコールの下へと戻って行った。
一人残ったジタンは、汲んだ手で水鉄砲を遊びながら、のんびりと過ごす。
しばらくそうして待っていると、小さく土を踏む音が聞こえて、池の岸に目を向ければ、ジャケットを脱いだ格好で此方に歩み寄って来るスコールの姿が見えた。


「おっ、スコール。来たか」
「……」


声をかけるジタンに、スコールは視線だけを寄越す。
その表情が、別に入りたい訳じゃない、と聊か拗ねているように見えるのは、ジタンの気の所為ではあるまい。
大方、バッツに「良いから行って来いって!」とせっつかれて、半ば強引に火の番を交代されたのだろう。
仕事を奪われてはどうしようもないと、またあるのなら確かに入って置かないのは損だとでも思ったか、渋々気味の足まで此処まで来たと言う訳だ。

スコールは手袋を外した手で湯の温度を確かめてから、服を脱ぎ始めた。
裸になって湯に入ると、スコールは足元を滑らせないように気を付けながら、座って体が沈められる深さの場所を探す。
先客の動物には近付かないようにしながら、丁度良さそうな場所を見付けると、スコールはその場に腰を下ろした。


「……ふう……」


漏れた吐息に、ジタンはくすりと笑う。


「気持ち良いだろ?」
「……まあ、悪くはない」


ジタンの言葉に、スコールは短く返した。
聊か素っ気ない位のその台詞が、彼の素直ではない所を表している。

スコールは掌で湯を掬って顔を洗った。
濡れた前髪を掻き上げると、特徴的な傷の走る額が露わになり、其処が血流が良好になってほんのりと赤らんでいるのがよく判る。
二回、三回と続けて顔を洗えば、雫が額や頬、高い鼻筋をゆっくりと滑り落ちて行き、彼の整った面立ちをより魅惑的に演出する。
普段は恒常的になっている眉間の皺が緩み、真一文字に引き結ばれている唇も解けているお陰で、近付き難い雰囲気もない。
そう言う顔で過ごしてればモテるんだろうなぁ、とジタンは思ったが、


(ま、そんなスコールと付き合ってるのは、オレなんだけど)


誰に対してでもなく、自慢げな気分になって、ジタンの尻尾が湯の中で上機嫌に揺れる。
それから、ふと一足先に湯から上がった仲間のことを思い出し、


(気ぃ遣わせたか?別に良いんだけどなーっつっても、有り難いっちゃ有り難いんだよな)


バッツは、ジタンとスコールが恋仲である事を知っている。
と言うよりも、彼が間であれこれと気を回してくれたお陰で、ジタンは自分の気持ちを受け入れられたし、スコールも戸惑いながらもジタンの告白を受け止めてくれたのだ。
その後、「おれの事は気にしなくて良いからさ」と言って、二人の為を想って距離を取ろうとしたバッツであったが、彼も含めた三人グループで過ごす事は、ジタンとスコールにとっても日常と化していた。
バッツのお陰で助かる事は幾らでもあったし、何より、ジタンとスコールが恋仲になったからと言って、彼と距離が出来て良い訳でもない。
だから二人が良い仲となってからも、バッツとはいつも通り、今まで通りに過ごしている。

とは言え、やはりバッツとて全く気を遣わない訳ではなく、野営の隙にはこうして二人だけの時間を作ってくれた。
スコールはバッツのこの気遣いを反って強く意識してしまうようだったが、ジタンにとっては有り難い。
何せスコールは人との交流に慣れていないものだから、触れ合いには全く消極的で、ジタンの方からアクションを起こさないと、中々“恋人同士”らしい雰囲気になれない。
そして人目があると素直になれない恥ずかしがり屋が顔を出すので、バッツがこうやって気を遣い、二人きりの時間を意図的に作る事で、彼を少しでもハードル意識を緩和させる必要があった。
お陰で最近のスコールは、二人きりの時であれば、ぎこちないながらも、自分からジタンに触れる事も増えていた。

こんな気を回させるばかりの事をして、やはり一緒にいるのはバッツにとって余計な負担ではないかとジタンは思ったりしたのだが、本人に訊いてみると、そうでもないらしい。
元々、バッツの執り成しがあって、今のジタンとスコールの関係が定着した訳で、バッツにとってはその行方を見守るのが楽しいのだそうだ。
だから二人が何か良くない雰囲気があれば直ぐに介入するし、偶に“良い”雰囲気があれば、良かった良かったと満足しているとのこと。
それを聞いた時のジタンは、酔狂な奴だなぁ、と思ったが、親友がそんなスタンスでいてくれる事は有り難いのも確かだった。

そんなバッツの気遣いのお陰で、今ジタンは恋人との温泉を満喫している。


「スコール。体洗ってやろっか?」
「……洗うようなもの、持ってきてないだろう」
「タオル用の布ならあるから、背中流す位は出来るぜ」


温泉を見付けるなんて思いも寄らなかった事だから、入浴に必要なものなんて持って来ていない。
が、運が良ければ野営で水浴び位はしたいものだし、何にでも使えるしと、多くはないが布は持って来ている。

既に水を含んでいる綿布を搾りながら近付いて来るジタンに、スコールはなんとも言えない表情を浮かべながらも、その背中に周るのを止めなかった。
ジタンはスコールの後ろに膝立ちになって、湯に浸かったままのスコールの背中を擦ってやる。


「お客さん、如何ですかー」
「……何の真似だ、それは」
「まあまあ、ノリだよノリ。で、どうだ?」
「……意味不明だ」


聞いている事の意味が判らない、と言うスコール。
ジタンは、位置の所為でスコールの表情は見えないが、顰め面してんだろうなあ、と思いつつ苦笑する。

しかし、スコールは背中を流すジタンの手を止める事はしなかった。
肩膝を立てて、其処に腕も置いて枕にし、頭を下ろしている様子に、随分とリラックスしている事が判る。
恋人と二人きりと言う環境でも、可惜に緊張せずにいてくれるようになったのは、ジタンにとって嬉しいことだ。


「ふー。終わったかな。サービスで前も洗ってやろっか?」
「要らない」
「そう遠慮するなって!」
「遠慮とかじゃ────」


ない、と言うスコールの声は引っ込んだ。
ジタンが飛び付くように背中に突進して来て、脇の下から潜らせた手で体を擽り始めたからだ。


「な、ひっ、ジタン、おいっ!」
「うりゃうりゃうりゃ」
「やめ、バカ!くすぐった、いっ、ひ、ふっく、」


背中のくっつき虫を振り払おうとするスコールだが、ジタンは暴れるか体を往なしながら、スコールの腹を擽る。
小手先の作業によく慣れて、細かく動くジタンの十指が、スコールの薄いがしっかりと割れた腹筋の上を刺激する。
スコールは腹筋に力を入れて刺激を防ごうとするが、鍛えられ発達した筋肉と言うのは、反って敏感なものである。
況してやスコールの場合、脂肪も殆どついていないようなものだから、筋肉の表面を覆うのは肌皮一枚しかない訳で、


「ひ、ふ、くく、うっ」
「腰も弱いよなー?」
「やめろって言って、う、ふ、はっ、は、」
「我慢しなくて良いんだぜ?ほらほら、笑顔の練習ってな!」
「これの、何処か、~~~~っ!」


腹から腰、脇と、ジタンにあちこちを満遍なく擽られて、スコールは体を守るように身を縮めている。
服を着ていればそれで守れる場所もあっただろうが、温泉と言う場所でそれは無理な話。
ジタンはここぞとばかりに、スコールの体を攻めまくる。

ばしゃばしゃと騒々しい珍客二人に、のんびりと湯殿に浸っていた動物たちが遠巻きに離れていく。
ティーダであれば笑い転げながら逃げる所だろうが、スコールは口を噤んで声を上げないように堪えていた。
そうやって体中を強張らせるから、余計に刺激に敏感になっているのだろうが、刺激への反射反応なのでどうしようもあるまい。
が、いつまでもされるがままでは堪らないと、スコールは思い切って後ろに向かって腕を振り回した。


「やめろ!」
「ほいほい~っと」


声を大きくしたスコールに、ジタンは素早く逃げ飛んだ。
赤らんだ顔に目尻に我慢の雫を浮かべて睨むスコールから、ジタンは脱兎のごとく離れる。


「ちょっとふざけただけだろ~?」
「何が“ちょっと”だ」
「ちょっとだって。オレが本気出したら、こんなもんじゃ済まないぜ。お前の弱いとこ、ぜーんぶ知ってんだから」


両手をわきわきと動かして見せながら言えば、スコールは沸騰宜しく真っ赤になって、足で水面を蹴飛ばした。
ばしゃっと跳ねた湯がジタンの顔にかかって、猫のように頭を震わせるジタンを見て、スコールは少しばかりの留飲を下げる。

まだ少し息を切らしながら、スコールはようやくと言う心地で、また湯の中に体を下ろす。
池の中には大きな岩が幾つか沈んでおり、水面から頭を出しているものもあって、スコールはその一つに背中を預けた。
判り易く背後からの襲撃を警戒しているスコールに、ジタンは「もうやんねえって」と言ったが、向けられる視線は判り易く疑っていた。
疑念一色のブルーグレイに、ジタンは悲しんで見せる表情を作ってみるが、判り易い演技で同情が誘えるほど、この恋人は甘くはない。
ふん、とそっぽを向いてしまったスコールに、思った通りの反応だとジタンはくつくつと笑った。


「さてと。長湯したし、オレもそろそろ上がるかな」
「……そうか」
「スコールはゆっくりしろよ」
「ああ」


寧ろ、やっと本当にゆっくり出来る、とスコールがほうと息を吐いている。
そんなまだまだ素っ気ない───今日のその態度の原因を作ったのはジタンであるが、それは置いておいて───恋人に、ジタンは此処を離れる前にとスコールの下に向かう。

湯の中に座っているスコールを、ジタンは見下ろす。
身長差の所為で殆どの仲間達を見上げる事になるジタンにとって、スコールの旋毛が見れる機会と言うのは珍しかった。


「スコール」
「何だ」


まだ警戒心を持っている蒼灰色が此方を見た。
その宝石を隠すように飾る、長い睫毛を抱いた瞼に、ジタンは触れるだけのキスをする。

不意打ちの感触に目を丸くして、スコールはジタンを見上げている。
その眦にもキスをして、ジタンはスコールが再起動をかかる前に「じゃ、お先!」と言って湯舟を上がった。
手早く体を拭いて、絞った布だけをスコールの服の傍に置いておき、ジタンは温泉を後にした。

野営地に戻ると、火の番をしていたバッツに、「機嫌良さそうだな」と言われた。
そりゃあもうと頷けば、バッツもまた嬉しそうな表情を浮かべ、焚火に薪を放り込んだのだった。





9月8日と言うことで、ジタスコです。
仲間としてわちゃわちゃ過ごしながら、恋人としても距離を縮めてる二人とか見たい。

バツスコでも言えるのですが、CPとはまた別に589トリオも好きなので、二人が付き合っててももう一人も相変わらず一緒にいるのが好き。
どうしても気を遣う所はある訳だけど、だからと言って別々になるのは考えられない三人が良いなって。思ってます。

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