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2020年04月

[セシスコ]甘い瞳が呼んだから

  • 2020/04/08 22:00
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大人びた顔をしていても、そんな表情を浮かべていても、素の彼はとても素直で可愛らしい。
セシルはそんな風に思っている。

スコール・レオンハートは、とても素直な性格だ。
彼自身は自分をそうは分析していないだろうし、そう言われれば絶対に眉根を寄せ、「あんた何言ってるんだ」と言うのだろうが、強ち外れてはいない筈だ。
確かに言葉と態度が一見冷たく見られ勝ちで、彼も少々偽悪的な物言いをする事もあるが、本音はごくごくシンプルである事が多い。
ただ、感情に従うよりも先に、様々な憶測や想像が頭の中を巡り、特に最悪のパターンと言うものを忌避しようとした結果、傍目には“冷たい人”と思われるような言動を取る事が多いのだろう。
だから神々の闘争の世界で目覚めたばかりの時のスコールは、そう言った性格もあって、彼は孤立し勝ちだった(彼自身が意図的に独りでいた所もあるようだが)。
しかし、それも今となっては昔の話で、皆彼が本当はとても仲間思いである事を知っている。
同時に、ぱっと見た形で思う程、彼が意地悪で斜に構えた性格ではない事も。

それでもスコールは、仏頂面の仮面を被って過ごす。
仮面とは言っても、その表情も彼にとって素顔の一つであるのだが、他の表情を隠すように何かと面に出て来るので、そんな表現も遠くはないのだ。
その代わり、この仮面は存外と表現豊かな所があって、眉間の皺の本数であったり、唇の形であったり、視線の向かう先であったりで、彼の心の内を見せてくれる。
だから彼は意外と判り易くて素直なのだ。
セシルにはそれが、仮面の下に隠したつもりの顔が、沢山の感情を溢れさせて、隠しながら何処かで誰かに伝わって欲しいと、幼い子供の我儘のように願っているように見えた。

強ちそれも間違ってはいないのかも知れない。
夜半、セシルの部屋に来て、温もりを求めて縋る少年を見ては、そんな事を考える。


「う……あ……」


最後の熱を吐き出して、スコールは甘やかな吐息を零しながら、くたりとベッドに沈む。
その肢体はとうの昔に力を喪ってはいたが、与えられる快感への反射で、何度も強張っていた。

張り詰めた糸のように力んでいた体から力が抜けると、今度はしなやかな猫のような線が見えて、細いなあ、とセシルは思う。
これで鎧を着た敵を蹴り落とす訳だが、何処にそんな筋力と胆力があるのだろうと、純粋に疑問に思う事もある。
どうやら事の秘密は、彼の世界で独自に発展した魔法技術に因る物だそうだが、スコールは余りその詳細を教えてはくれなかった。
本人は「余り思い出せない」と言っていたが、その目が逸らされた事をセシルは覚えている。
あれは嘘を吐いている時の仕草だと判ったが、言いたくない、とも聞こえたので、追及はしなかった。

シーツに沈むスコールの貌を見下ろしながら、セシルはゆっくりと腰を引いた。
擦れる感触が、熱を孕む躰を苛めて、スコールがむずがるようにゆるゆると頭を振る。
そうは言ってもこのままでいる訳にはいかないので、セシルは出来るだけスコールが苦しい思いをしないようにと気を付けながら、中に入っていたものを抜く。
最後の瞬間、はっ、と薄桜色の唇が声にならない声を上げたのが聞こえた。


「は…んん……」
「大丈夫かい?」
「……ん……」


蒼灰色を隠す、長い濃茶色の前髪を、そっと指で払いながらセシルが声をかけると、スコールは極々小さく頷いて返事をした。
そのままセシルの手が頬を撫でていると、スコールは猫のように目を細める。


「セシル……」
「うん?」
「……んん……」


名を呼ぶので、何か伝えたい事でもあるのかと顔を寄せると、スコールが少しだけ頭を持ち上げる。
人間の頭部は存外と重いもので、首の力だけで浮かせるのは大変だ。
疲れているのなら尚更。
それでもスコールはなんとか頭を起こすと、柔らかな唇をセシルの頬に押し当てた。


「……ふぁ……」


それは瞬きをするような一瞬の事で、スコールは直ぐにまたベッドへ沈んだ。

セシルの頬が緩み、可愛いことをしてくれる、と笑みが零れる。
気持ちのままにセシルも顔を近付けて、スコールの唇を己のそれで塞いだ。


「んぅ……」
「ふ……」
「…ん、む……」


深く口付けながら、セシルはスコールの両手を捕まえる。
投げ出されていた手は、握る力を感じ取ると、緩い力でそれを握り返した。

大人びた雰囲気を纏っているスコールだけれど、その実はとても初心で純粋だ。
事の後と言う熱もあるとは言え、キスだけで蒼の瞳がとろりと蕩けるのを見る度に、セシルはそう感じずにはいられない。
その度、無垢な子供を絡め取った悪い大人になった気がして来る。
傍から見れば、強ち変わらないのかも知れない。

たっぷりと咥内を愛撫して、セシルはゆっくりとスコールの呼吸を解放する。
ふあ、と名残を惜しむような、甘えん坊の声が聞こえて、セシルはもう一度口付けようかと思った。
けれどこれ以上を続けてしまったら、熱も再び昂って、明日の予定に響いてしまいそうだ。
部屋の隅に置かれた時計をちらと見遣ると、もう日付が変わっている。


「そろそろ休まないとね」
「……?」


セシルの呟きに、スコールが呆けた表情で、ぱちりと瞬きを一つ。
もう寝るのか、と言いたげな視線に、セシルは眉尻を下げて、こつんとスコールの額に自分の額を当てる。


「もう12時を過ぎてる。寝ないと明日に響くよ」
「……まだ平気だろ」
「起きれなくなるだろう」


スコールの手が続きを強請るようにセシルの手を握る。
足がシーツをするりと滑り、セシルの腰に摺り寄せられた。
煽ると言うよりも、もっと欲しいと甘えたがっている少年の仕草は、セシルには大変可愛らしくあるのだけれど、


「明日はジタンとバッツと宝探しに行くんだろう?」
「あいつらが勝手に決めただけだ」
「起こしに来るよ、きっと。部屋にいなかったら、こっちにも来るだろうね」


宝探しなんてものに、自分は行く気はない───とスコールは言うが、きっと二人は放って置いてはくれないだろう。
第一セシルは、スコールが二人に誘われた時、「行かない」とは言わなかった事を知っている。
言っても無駄と思っている所もあるのだろうが、溜息一つでその場を流していたので、彼のスケジュールの中に明日の予定はちゃんと書き込まれている筈だ。
バッツ達もそのつもりで、明日の朝、寝起きの悪いスコールを襲撃しに来るだろう。

二人が呼びに来る前にスコールが自室に戻っていなかったら、彼らはきっとスコールの居場所は此処だと、扉を叩きに来るかも知れない。
流石にそれは嫌だったのか、スコールは判り易く渋い顔をして唇を尖らせた。


「さ、今日はもう寝よう」
「………」


体を起こすセシルの言葉に、蒼灰色が不満そうに睨む。

怒ったようにも見えるその顔が、本当は寂しがり屋なだけなのだと知っている。
だからか、どうしてもセシルは、スコールの感情豊かなその瞳に弱い。


「此処で寝るかい?」
「……ん」


もう一度はしないけど、と言う含みを十分に持たせたつもりで、セシルはスコールを甘やかした。

事の後は素直さが判り易いスコールは、小さく頷いて、ころりと寝返りを打つ。
ベッドの真ん中から少し端へと身を寄せたスコールは、空いたスペースに来てくれる温もりを待っている。
其処にセシルが横になり、厚みの薄い体を抱き寄せれば、スコールは微かに赤らめた頬をセシルの胸板に寄せた。


「……固い」
「ごめんよ」
「……別に」


細やかな文句に詫びれば、スコールはセシルの胸に顔を埋めたまま言った。
収まりの良い所を探してか、スコールはもぞもぞと身動ぎしている。
それが落ち着くまで、セシルはじっと動かずに、恋人の好きにさせてやった。

次第にスコールの動きは鈍くなり、彼は猫のように丸くなって、セシルにくっついたまま静かになっていた。
そろそろ良いかな、とセシルがスコールの顔を覗き込むと、すぅ、すぅ、と寝息を立てている。

明日、ジタンとバッツは何時に出立するつもりなのだろう。
スコールが朝に弱い事は彼等も知っているから、早朝と言う事はないと思うが、何処に行くかと言う予定を聞いていないので、ひょっとしたら早い内に出発しようと考えている可能性はある。
若しも朝早くに出発する為に、彼らがスコールの部屋を訪れた場合────二人はセシルとスコールの関係を知っているから、スコールが部屋にいない理由は直ぐに察するだろう。
それなら野暮も何だと予定をずらしてくれるのなら良いのだが、時々彼等は「オレ達のスコール」と言って、スコールとの付き合いの深さを主張したがる時がある。
つい先日、遠征のチーム編成でスコールがセシルと一緒に、二人とは別々になっていた事を考えると、朝食が過ぎる頃の時間帯に扉が叩かれる事も在り得る。
とは言え、遠征のチーム編成の時、セシルとスコールが二人きりだった訳ではない。
他の仲間達から離れ、ようやく得られた二人きりの時間と言うものが、スコールにとってどれ程の意味を持つのか、知らない振りをする程彼等も鬼ではなかった。

セシルも明日はクラウド達と周辺の歪を見回る予定がある。
余り遅くまでのんびりと過ごせないのは、二人とも同じなのだ。
だから今少し、もう少しと、温もりを欲しがる少年の気持ちは判るし、応えたいと言う想いもある。


(でも一応、僕の方が大人だからな)


素直に真っ直ぐに、自分の求めるものを欲しがるには、少し足踏みする立場にいる。
平時は素直になれない少年が、素直になれる瞬間の大切さも判ってはいるけれど、だからと簡単に甘やかす事が出来ないのも事実だ。

だからせめてこれ位はと、セシルは愛しい少年を腕の中に閉じ込める。
長い睫毛が一度ふるりと震えたけれど、目を覚ます事はなく、穏やかな寝息のみが続いていた。
それをじっと見つめながら、セシルもゆっくりと瞼を下ろしていくのだった。





4月8日と言う事でセシスコ!

甘々系のセシスコってあんまり書いた事ないんじゃないかしら、と思ったので。
根っこが甘えん坊の弟気質なスコールを甘やかすセシルでした。

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