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2014年06月

[ティナスコ]リーディング・ライフ

  • 2014/06/30 21:54
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6月8日にティナスコ書けなかったので、滑り込みリベンジ!





図書館でレポートに必要な資料を探していたら、高い本棚の一番上に置かれていた。
ティナはきょろきょろと辺りを見回し、踏台になるものを探したが、見当たらない。
少し歩き回れば踏台は見付かるだろうが、この図書館に置いてある踏台は、婦女子が持って移動させるには易しくない、重い木製のものになっている。
古い図書館だから無理もないのかも知れないが、小さな子供が使う事もあるのだから、最近よく見るプラスチックの軽いものも備えて置いてくれても良いのに、と思う事もしばしばだ。

ティナは結局、踏台を探す事を諦めて、背伸びをする事にした。
目線の高さの棚に指を引っ掛け、精一杯足元の爪先を伸ばし、上に伸ばした右手も爪先までピンと張る。
そうすると、辛うじて一番上の棚に指先が届いたのだが、目当ての本を取るには足りない。

ティナはしばしの間、うんしょ、よいしょ、と小さな声で自分を奮い立たせながら、目当ての本に向かって手を伸ばしていた。
しかし、そうまで頑張っても、本は相変わらず棚の一番上に鎮座したまま、動かない。
やっぱり踏台を探して来よう、と諦めて手を引っ込めた────その時だった。

すっ、とティナの隣に影が落ちて、長い手が本棚の上に伸びた。
その手は、ティナが頑張っても頑張っても届かなかった本に届き、ひょい、と取り上げる。
ティナはその様子をぽかんとして見上げていたのだが、


「……これで良いのか」


低く耳に心地の良い声と共に、欲しかった本が差し出される。
ぱちり、と瞬き一つをして顔を上げると、同じ学校に通っている後輩が立っていた。

ダークチョコレートのような濃茶色の髪、深く澄んだ蒼灰色の瞳。
ティナが書記として所属している生徒会で、次の生徒会長にと推されている、スコール・レオンハートだった。


「…あ…ありが、とう」
「………」


ややどぎまぎとしながら謝意を述べて本を受け取ると、スコールは何も言わず、くるりと踵を返した。
長い脚の広い歩幅でティナから離れた彼は、二列向こうの本棚で足を止め、分厚い本を取り出している。

ティナは確保していた席に戻ると、本を開いた。
必要な記述をノートに書き出していると、ティナから二席空けた所の椅子が引かれる。
何となく其方を伺ったティナは、思わず「あ」と言いそうになって、慌てて手で口を塞いだ。

席に座ったのはスコールで、彼は分厚い本を三冊と辞書をテーブルに置いた。
其処にシンプルな鞄から取り出したノートを広げ、本と辞書を交互に見ながら、黙々と筆記作業に没頭する。
その横顔は、硬い表情と優等生然とした冷たい雰囲気が漂い、近付き難さを感じさせる。
ティナが学校で彼を見かける時も似たようなもので、年下なのに遥かに大人びた佇まいをしている彼に、ティナはひっそりと苦手意識を持っていた。

しかし、今のティナには、その苦手意識は働いていない。
彼女の脳裏には、つい先程、手元の本を取ってくれた彼の顔が浮かんでいた。


(……お話したの、初めて、よね)


会話と言う程の遣り取りはなかった。
だが、今までは生徒会室で顔を合わせても、事務的な挨拶位しか交わしていない。
会議の他、「お先に失礼します」「また来週」等と言った言葉以外で、彼の言葉を聞いたのは、きっとこれが初めてだ。

なんだか妙に胸の奥がとくとくと逸っている気がして、ティナはいけない、と小さく頭を振った。
今はレポートの為に必要な資料を揃えて、明々後日の提出に備えなければいけないのだ。
慌てて本とノートに視線を戻すティナの隣では、相変わらずスコールが黙々とノートを取り続けている。
あの集中力を見習って、自分もやるべき事を済ませなければ、先輩として示しがつかない。
……そんな事を思う程、彼と接点がある訳ではないのだが、自分を奮い立たせる為にも、ティナは自分自身に言い聞かせ続けた。

本の内容を書き出した後、次の本を探して、またノートに書き抜いて行く。
そんな作業を一時間、二時間と続けながら、時折、勉強とは関係のない本を探して息抜きをする。
そうして新しい本を探す合間に、ティナの視線はつい、と近い席に座る彼を探した。
彼は分厚い本をとっかえひっかえ開き、辞書と見比べる作業を繰り返し、数時間に渡って一度も───ティナが偶々見ていなかっただけかも知れないが───席を立たずに作業に集中していた。

昼食後に図書館に入ってから、六時間と言う短くはない時間、ティナは資料集めに精を出した。
其処まで粘ればもう良いだろう、とティナはノートを閉じて、椅子に座ったまま背筋を伸ばす。
うーん、と小さく唸るティナの傍らで、彼女と同じく勉強時間を終えたのだろうスコールが、テーブルに広げていた本を棚に戻すべく席を立つ。
ティナも背筋の塊が多少解れたのを確かめて、持ち出していた本を持って立ち上がった。

資料に使った本を元の棚に戻した後、ティナは一般書のコーナーに向かい、休憩中に読んでいた本を探した。
続きが気になる所で読むのを止めたので、借りて帰ろうと思ったのだ。
ハードカバーに文字のみと言うシンプルな背表紙を見付け、あった、と手を伸ばし、


「あっ」
「……」


ティナの指が触れるよりも早く、自分のものではない指が、背表紙を捉える。
それを見て思わず声を上げたティナを、蒼灰色の瞳が振り返った────スコールだ。

スコールは自分を見詰めるティナを見て、動かなくなった。
数秒の間を置いてから、スコールはティナの視線が自分の手元に向かっている事に気付く。


「………」
「あ、あの…えっと……」


本とティナを交互に見るスコール。
ティナは、そんなスコールを見て、自分が声を上げた所為で彼を困らせている、と思った。
どうしよう、困らせた、とティナがおろおろと視線を彷徨わせていると、スコールは手にしていた本を取り出して、ティナの前に差し出した。


「あ……え…?」
「……違ったのか?」
「えっ」


見ていたのはこれじゃないのか、と問うスコールに、ティナは慌てて首を横に振る。
するとスコールは、無言で本を差し出したまま動かなくなった。
スコールの言わんとする所が判らず、ティナがまたおろおろと視線を彷徨わせていると、


「…読みたいんだろ。あんたが持って行けば良い」
「え……で、でも、」
「俺は、もう何回も読んだから。借りるのは、また今度で良い」


そう言って、スコールは本を差し出し続けている。

ティナは、おずおずと両手で本を受け取った。
スコールは空になった手を下ろし、くるりと踵を返して、広い歩幅で本棚の向こうへ消えてしまう。
良かったのかな、と思いつつ、好意を無碍にする訳にも行かないだろうと、ティナは受付に向かって貸出手続きを済ませた。

玄関口まで来ると、じっとりとした湿気が肌にまとわりつくのが判った。
ガラス扉の外を見ると、しとしとと雨が降っている。
ティナは玄関を出ると、鞄の中に入れっぱなしにしていた折り畳み傘を取り出して、広げようとした────其処で、玄関横の柱横に立ち尽くしている少年を見付ける。


「……スコール?」


ティナが恐る恐る声をかけると、思った通り、蒼が振り返る。

スコールは自分を見上げるティナを見て、一瞬驚いたように目を瞠った後、溜息を吐いて雨が降りしきる軒外を見た。
土砂降りと言う程でもないが、雨粒はそこそこ大きいようで、無視して走って行くのは厳しそうだ。


「……失敗だ」


どうやら、傘を持っていないらしい。
無理もあるまい、天気予報では今日は雨が降るなんて言わなかったし、昼も快晴だった。
図書館は大きな窓を設けているが、二人が座っていたのは図書館の中央に集められた読書スペースだったから、外の天候の変化に気付けなかったのだ。

空は一面の曇天で、雨はしばらく止みそうにない。
時刻が六時を過ぎている事もあり、季節柄、日が長い方であるとは言え、陽光が遮られれば暗くなるのも早い。
雨が止むのを待っていたら───そもそも止む見込みがあるのか───、夜になってしまうかも知れない。


「……遅くなると煩いんだよな……」


スコールの小さな呟きに、ティナはことんと首を傾げた後、そう言えば、と思い出す。
生徒会の会議の前後だったか、誰かが「スコールの父親は心配性」だと言っていた。
何やら、色々な事情があって、幼い頃に碌に一緒に過ごす事が出来なかった反動で、十七歳になった息子を今も溺愛しているらしい。
スコールはそんな父親に辟易しているようだが、幼少の頃の事は仕方がないと半ば諦めている事、父なりに責任を感じての今の過保護振りも仕方がないと思っているのか、出来るだけ父に心配をかけないように気を配っているようだった。
今日も恐らく、帰宅時間を約束して、家を出て来たのだろう。
それがこの雨に見舞われて、濡れて帰るか、遅くなるのを覚悟で雨が止むのを待つか、迷っているようだ。

はた、とティナは自分の手に握られているものを思い出した。
ついでに、以前、クラスメイトのバッツから「此処がスコールの家なんだぜ」と教えて貰った住所を思い出す。
確か、此処からティナの住むアパートへの途中に、それはあった筈。


「あの……スコール。良かったら、一緒に帰らない?」
「……は?」


思いも寄らない申し出だったのだろう、ティナの言葉にスコールは目を丸くした。
ぽかんとした表情で見下ろす長身の後輩を見て、結構可愛い顔してる、とティナはこっそり思う。


「遅くなったら大変なんでしょう。私、小さいけど傘もあるし」
「……いや……」
「本、譲ってくれたお礼」
「あんなの、別に、」
「よい…しょっ」


ぽんっ、と爛漫の花が咲いて、ティナは腕を伸ばした。
長身のスコールを庇わなければならないので、いつものように傘を差すだけでは、スコールの頭に傘の骨が当たってしまう。

ティナは、可愛らしい傘を背にして此方を見下ろす少年を見上げた。
まだ呆気に取られているのか、スコールは蒼い瞳を丸くして、きょとんとした貌をしている。
図書館や、学校で見ていた、眉間の皺がないだけで、スコールが随分と幼い顔になる事を、ティナは初めて知った。


「遅くなったら、もっと雨が酷くなるかも知れないわ。行きましょう」


そう言って促すティナが歩き出すと、やや迷った素振りを見せた後、スコールも歩き出す。

図書館の玄関を離れ、石畳が敷かれた道を、数歩。
すい、と伸びて来た手が、傘を持つティナの手に重なり、


「……俺が持つ」


その申し出は、身長差だったり、自分が男でティナが女で、と言う理由もあるのだろう。
それでもティナは、ほんの一時、彼が自分と一緒に歩く事を許してくれたような気がして、嬉しかった。





多分、苦手意識はお互い様だった。
この日を切っ掛けに、お薦めの本とか話し合うようになったらいい。

FFオンリーお疲れ様でした!

  • 2014/06/22 00:00
  • Posted by

最近はツイッターでも浮上率が低下してました、竜徒です。
6月15日の東京FFオンリー、皆様お疲れ様でしたー!
サークルにお越し下さった方、声かけて下さった方、アフターご一緒させて頂きました方々、本当にありがとうございました!
差し入れを下さった方もありがとうございました!美味しく頂いております(´∀`*)

今回は新刊【籠ノ中ノ鳥ノ夢】の他、アンソロジー二点に参加させて頂きました。
アンソロジーはどちらも締切ギリギリ(一方に至ってはアウト(ごめんなさい!!)なってしまって、本当にすみません……
特に漫画で参加させて頂いたレオスコアンソロジーに関しては、修正が厳しくなっている事を忘れて、いつもの調子で原稿をお送りしてしまいました。今までも私だけ修正線の手直しを喰らっていると言うのに…懲りない……
頂いたアンソロジー本誌はイベント会場で繰り返し読んでました。色んな方のスコ受け&レオスコが見れてわっほーい(∩´∀`)∩してたら、声かけて頂いているのに気付きませんでした。ごめんなさい。

【籠ノ中ノ鳥ノ夢】は、前々回のイベントで発行したレオスコ小説本【籠ノ鳥】のその後の話ですが、特に事件は起こりません。レオスコらぶエロの短編10本を収録しております。一応、【籠ノ鳥】を読んでいなくても読める……筈。何せただのエロ本なのでw
当初、この本は短編を7本収録する予定でした。かなり早い段階で書き終わっており、あとの時間はアンソロジーに集中していたのですが、5月になって「あのプレイ書いてないな…」と思い立ち、追加執筆になりました。
【籠ノ鳥】その後の設定なので、前作にあったようなギスギスしたレオスコはいません。いつも(私が書くいつもw)の二人が、いつも通りいちゃいちゃしております。もうレオスコは末永く爆発しろ。

今回はスコール受けサークルが沢山あって嬉しかったです。
イベント後、アフターにも参加させて頂きまして、スコ受けの話が沢山聞けて楽しかったです。人の萌えは良いものだ……


次回のFFオンリーは秋ですが、その前に一度関西方面(多分大阪)に参加出来ればなぁと思っています。そのイベントでの新刊は現在は予定していないのですが、新しい栞か、ブックカバーを作る事が出来ればと考えております。
当サークルの本は何かと言うと厚みがあるので、市販されているブックカバーでは背幅が足りないものもあります。大体のブックカバーって背幅1.5cmが精々。背幅2cmって規格外なんですね、基本的に。そりゃそうか。そんな訳で、ブックカバー自作を考えている次第です。
素材は今の所、布類で考えています。皮類も考えていますが、作業の問題とコストの面で厳しい……
あ、因みに私は裁縫に関してはド素人です(無謀)。出来るだけしっかり作るつもりではありますが、お見苦しい点は多々あろうと思います。正規品ほど丁寧な作り込みとは行きませんので、その辺はご勘弁を。

サイズはA5サイズは決定ですが、新書・文庫本サイズも考え中です。
フリーサイズなら同人誌用以外にも楽に転用できそうだと思ったのですが、生地をしっかりさせると、折れ目のデコボコは避けられず。自分の持っているフリーサイズの布製ブックカバーが、手元がごわごわして鬱陶しかったので、考え直しです。使い勝手の良さそうな生地が見付かれば、フリーサイズも改めて視野に入れるつもりです。


イベントとは関係ないのですが、今回はやたら忘れ物しかけてました。結果的に忘れ物自体はなかったんですが、携帯の充電器に使うUSBコードが見当たらないわ(荷物の奥底にあった)、買って間もないウォークマンが見付からないわ(何故かコピック入れの中に)、出発前には駅付近で水筒を置き忘れるわ(思い出して急いでUターン)と、バタバタしておりました。「ない!」って焦って心配かけてしまった方々、本当にすいませんでした。荷物はちゃんと整頓するべきですね……
あと、お逢いした方何人かにお土産を一部渡し忘れたような:(;゙゚'ω゚'):たこせんが余ってる……いつになったら、きちんと皆様にお渡しできるようになるのだろーか……

[ジェクレオ(+ティスコ)]我儘な大人

  • 2014/06/07 00:31
  • Posted by
色々血迷って燃え滾ってジェクト×レオンで現代パロ。
ちょこっとティーダ×スコールもあり。





家が近所であった事は勿論だが、共に父子家庭でもあった所為か、ラグナ一家とジェクト一家は、それぞれの息子達が幼い頃から付き合いが深かった。
特にラグナ家の次男であるスコールと、ジェクトの一人息子ティーダは、同い年と言う事もあり、保育園にいた頃から常に一緒に行動している。
ラグナ家の長男のレオンは、弟とは8歳の年齢差があり、確り者で、スコールと一緒に遊ぶティーダの面倒を見る事も多かった。
それぞれの家長であるラグナとジェクトも、度々互いの家に行っては酒を飲み交わし、子育てについて愚痴を零し合ったりと言う仲だ。

幼年の頃から共に過ごしてきたスコールとティーダは、現在、高校二年生になっている。
レオンは大学を卒業後、外資系の商社へと就職し、父同様に忙しい日々を送っていた。
ジェクトは40代になった今でも、現役のプロサッカー選手として活躍しており、息子が成長した事もあって、プレイシーズン中は家を不在にする事も増えた。
こうしたそれぞれの家庭事情で過ごす内、独りを嫌うティーダと、顔に出さずとも寂しがり屋の気質があるスコールは、成長した現在でも一緒に過ごす事が多くなっている。

夕方、レオンが仕事を終えて家に帰ると、今日もスコールとティーダがリビングでじゃれ合っていた。


「いーじゃん、ちょっと位」
「駄目だ」
「スコールのケチ」
「ケチで結構だ。とにかく離れろ」
「えー」
「えーじゃない。重い!退け!」


ソファの向こうから聞こえる声と、食み出している足がじたばたと暴れているのを見て、レオンはやれやれ、と眉尻を下げて苦笑した。

足音だけでは気付かないだろうと、わざとドアを音を立てて閉めてやる。
ガチャン、と言う金具の音に、ぴたっ、と暴れていた足が動きを止め、背凭れの向こうから蜜色の髪がひょっこり覗く。


「あ、レオン、お帰り!」
「ただいま」
「退け!」
「あいてっ!」


嬉しそうに兄代わりの帰宅に挨拶するティーダに、レオンも挨拶を返す。
その直後、スコールの姿が背凭れ向こうから出て来て、代わりにティーダがレオンの視界から消えた。
どたっと言う音がしたので、きっとソファから転がり落ちたのだろう。

何するんスか、お前が退かないからだ、と言う弟達の遣り取りを聞きながら、レオンはネクタイを解いて、スーツをハンガーにかける。


「随分賑やかにしていたな。元気なのは良いが、テーブルとかに頭をぶつけないように気を付けろよ」
「スコールが暴れなきゃ大丈夫っスよ」
「お前がくっついて来なければ済む話だ」


お互いに責任を押し付け合うように言う弟達に、レオンはくすくすと笑う。
そんな兄を見て、スコールが唇を尖らせた。


「部屋に戻る」
「じゃあ俺も一緒に」
「あんたは来るな」


席を立ったスコールを追って立ち上がろうとしたティーダだったが、じろりと蒼に睨まれて、ぴたりと動きを止めた。
判り易く怒気を滲ませた鋭い眼光に、幼馴染も流石に怯んだようだ。

すたすたと足早にリビングを出て行こうとするスコールを、レオンが呼び止める。


「スコール、夕飯は食べたのか?」
「まだだ。作って置いてある。あんた、先に食べてくれ」
「お前は食べないのか」
「ティーダが帰ったら食べる」
「スコールぅ~っ」


けんもほろろなスコールに、ティーダが何とも情けない声で幼馴染を呼ぶ。
スコールは返事もしないまま、リビングのドアを開けた。

其処で、どんっ、と大きな塊にぶつかる。
一体何が、と鼻頭を押さえながら、眉根を寄せて顔を上げれば、黒髪に真っ黒に日焼けした肌と、熊のように大きな体躯をした男が立っていた。
ティーダの父親、ジェクトである。


「おっと。なんだ、スコールか」
「ジェクト……」
「うちの泣き虫がこっちに────いるな」
「げっ、親父!」


スポーツバッグを肩に担いでいるジェクトは、つい数時間前、海外での強化合宿を終えて帰宅した所だった。
自分の家に人気がないのを見て、いつものように幼馴染宅にいるのだろうと、荷物を置く事もせずに此方に来たようだ。

ティーダは、レオンが帰宅した時と違い、数週間ぶりの父の顔を見るなり、判り易く顔を顰めた。
ジェクトはそんな息子の表情を気に留めず、リビングを出て行こうとしているスコールに気付き、大きな体を退かして出入口を開けた。


「邪魔したな。ほら、行けよ」
「……ん」
「あ、ちょっ、スコール!待てって、俺も」
「さっきも言った。あんたは来るな」


慌ててスコールの後を追おうとしたティーダだったが、釘を刺されて、がっくりとソファの背凭れに倒れ込む。
その間にスコールはリビングを出て行ってしまった。

ジェクトはにやにやとした表情を浮かべて、ソファに突っ伏している息子に視線を移し、


「随分嫌われてんじゃねーか。今度は何やったんだ?」
「別に何もしてねーよ」
「何もしてねえのに嫌われたってか」
「嫌われてもねえっつの!」


ジェクトに揶揄われ、噛み付くように反論するティーダ。
ジェクトは判り易い反応を返す息子の様子に、くつくつと楽しそうに笑っている。
それが益々息子を煽り、ティーダもティーダで其処で無視が出来ないから、尚更父が助長してしまう。

またジェクトが何かを言おうとした時、キッチンからコーヒーを持って出てきたレオンが割り込んだ。


「ジェクト、その辺にして置いたらどうだ。ティーダも落ち付け」
「へーい」
「だって、レオン!」
「ほら、ティーダ。全員分のコーヒーを淹れたから、スコールに持って行ってくれ」


仲裁したレオンに、悪いのは親父なのに、と言おうとしたティーダだったが、差し出された二つのマグカップを見て動きが止まる。
マグカップの中のコーヒーは、ミルクを一杯と、砂糖を二杯入れた甘めのもので、弟達の為に用意されたものだ。
マリンブルーの瞳がぱち、ぱち、と数回瞬きをした後、兄代わりの男を見上げる。
柔らかい笑顔を浮かべる蒼灰色の瞳は、ティーダがよく知っているものとよく似ていて、少し違う。

ティーダは、自分がよく知る寂しがり屋の蒼を思い出して、レオンが差し出したマグカップを受け取り、席を立った。
マグカップで塞がった両手の代わりに、背中でリビングのドアを開けて、ティーダは部屋を出て行く───去り際、父にべぇっと舌を出してから。

リビングに残ったジェクトは、深々と溜息を吐いて、先程まで息子が落ち付いていたソファを陣取る。
レオンは、ジェクト用に入れた氷を浮かせたアイスコーヒーのグラスをローテーブルに置いて、ジェクトの隣に腰を下ろす。


「おう、サンキュ」
「ああ」
「悪いな、いつもうちのガキが世話かけてよ」
「別に構わないさ。ティーダも俺にとっては弟みたいなものだし」


レオンの言葉に、ジェクトはなら良いんだけどな、と呟いた後で、


「所で、スコールの奴は何を怒ってたんだ?どうせうちのガキが何かしたんだろうけどよ」
「いや……多分、原因は俺だろうな」


レオンの答えに、ジェクトは「あ?」と首を傾げる。
何があったのかと無言で問う視線を受けて、レオンは眉尻を下げて言った。


「俺の帰って来たタイミングが悪かった。そんな所だよ」
「……ふーん?」


多くは語らないレオンであったが、その情報だけで、ジェクトが理解を得るには十分であった。
髭を蓄えた口が、にやにやと悪戯を孕んだ笑みを浮かべるのを見て、レオンは口にしていたコーヒーカップを離し、


「言うなよ、ジェクト。スコールにまで拗ねられたら、俺の手に負えない」
「判ってる判ってる。でもよ、たまーに、突っついてやりたくなるんだよなあ」
「やめてくれ……」


どうしても息子を揶揄いたいジェクトに、レオンは溜息を吐いて抑制を頼む。

ジェクトは何かと息子を揶揄うが、それは決して悪意があってのものではない。
とは言え、スコールもティーダも共に17歳で、色々とデリケートな年齢なのだ。
父親に対して強い反発心や対抗意識を持ったり、自分の内面的な部分を他人に触れられる事を強く嫌悪したり、一度臍を曲げると中々折れなかったり。
拗ねた彼等を宥めるのは、案外と大変な事なのだと、昔から弟達の面倒を見て来たレオンはよく知っている。

だが、ジェクトがティーダを揶揄いたがる気持ちが、レオンにも判らない訳ではない。
幼い頃から気難しく、交友関係は決して広くはなく、親しい人間にも滅多に感情を剥き出しにする事がない弟、スコール。
そんな彼が今、判り易く感情を吐露する瞬間がどんな時なのか、レオンは判っていた。
その詳細について、本人から色々聞きたい気持ちはあるのだが、今はもう少し待つべきだ、と思う。

コーヒーを傾けるレオンの隣で、ジェクトは赤い双眸を細める。
その目は、先程までの悪戯の満ちたものとは違い、“父親”の気配が滲んでいる。


「ったく、一丁前に色気づきやがって」
「………」
「お前にしてみりゃ、大事な弟に悪い虫が着いたようなもんだろ?」
「……別に」


ジェクトの言葉に、レオンはくすりと笑って言った。
蒼い瞳には、ジェクトとよく似た、庇護する者を愛する光が浮かんでいた。


「ティーダの事はよく知ってる。素直な良い子だ。信頼してる」
「そう言ってくれるんなら、まあ、良いけどな」


ジェクトはソファの背凭れに寄り掛かり、肩越しに振り返って、閉じられたリビングのドアを見る。
弟も息子も、まだしばらく、此方へ戻って来る様子はない。
それを確かめて、ジェクトは隣に座っている青年の肩を抱いて、強い力で引き寄せた。

逞しい男の、丸太のように太い腕に抱かれて、レオンが目を瞬かせる。
数秒の遅れの後、自分の状況を知ったレオンは、赤い顔でジェクトの腕から逃げようともがき始めた。


「ちょ……ジェクト!」
「あん?」
「は、離れてくれ。スコール達が戻って来たら、」
「来てねえよ。だから大人しくしてろ」


じたばたと手足を暴れさせていたレオンだったが、太い腕の檻はびくともしない。
増してジェクトの体幹は、プロの格闘家と並べても劣らない程のものである。
幾らレオンの身体がそこそこ鍛えられていると言っても、敵う筈がなかった。

レオンはしばらく抵抗していたが、程無く諦めた。
やれやれ、と溜息を吐いて身体の力を抜きながら、頼むから今は戻って来ないでくれ、と自室にいるであろう弟と幼馴染の少年に願う。

体重を委ねたレオンの背中を、逞しい腕が抱く。
その温もりと力強さに、言い知れない安堵感を感じながら、レオンは罪悪感も抱いている。


「……ジェクト……」
「離さねえぞ」
「判ってる。でも……ティーダに、悪い……」


幼い頃に母を失くし、生まれて間もなかった弟を守り、男手一つで二人の息子を育てる父を支えてきたレオン。
早い段階で甘える事を止めた彼に、遅蒔きながら、「甘えて良い」と教えたのが、ジェクトだった。
確り者に見えて、その所為もあって何もかも背負ってしまい勝ちだったレオンだったが、ジェクトにだけは自分を預けて良いと思えるようになった。
それはレオンにとっても良い事だったし、肩の力が抜けるようになった事を、父と弟からも喜ばれた。

しかしレオンの脳裏には、昔から面倒を見て来た少年の、屈託のない笑顔が浮かんでいる。
弟と共に、物心つく以前から見ていた少年の唯一の肉親が、ジェクトだ。
そのジェクトを、彼から奪っているような気がしてならない。

瞼を緩く伏せたレオンの呟きに、ジェクトは口を噤んだ。
しばらくの静寂があって、────くしゃり、と大きな手がレオンの頭を撫で、強い力で抱き締められる。


「ジェク、」
「お前がンな事言ったら、俺はお前ら皆に悪いと思ってる」
「……?」


何の事だ、とレオンは顔を上げようとしたが、頭に添えられた手が力を籠めた所為で、出来なかった。
顔を見られたくないのかも知れない。
レオンは大人しく、ジェクトの胸に顔を埋め、じっとしていた。


「うちのバカが、お前とラグナが大事にしてるモンを取っちまって。俺は、ラグナからお前を取ろうとしてる」
「………」
「ラグナにとっちゃ、お前とスコールは宝物だ。良く知ってるからって、奪って良いモンじゃねえ」


ジェクトの言葉に、レオンは目を伏せる。
ラグナに対する、罪悪感や背徳感と言うものは、ずっと抱えている。
いつかは伝えようと思うけれど、伝えた時に反対される事、今のジェクトとの関係を否定される事が怖くて、レオンは切り出す事が出来なかった。
スコールとティーダが自分達の関係を隠したがるのも、きっと同じ気持ちがあるからだろう。

───それでも、とジェクトは言った。
レオンを抱く腕に力が篭って、けれどもその腕は優しい熱も持っていて、レオンは離れたくないと思う。


「……それでもな。俺は、お前を離したくはねえんだよ」


既知の友から、大切なものを奪おうとしている。
それはきっと、酷い裏切りなのだろうとジェクトも思う。

それでも、弱い心を押し隠して、一人で立ち続けようともがき続けていた青年を、ジェクトは放っておく事が出来なかった。
自分だけに伸ばされる甘える手を、今更手放す事は出来ない。
こうして自分が捕まえていなければ、いつか彼が知らない間に壊れてしまうような気がするから。

頭を押さえていた手から力が抜ける。
レオンが顔を上げると、ジェクトは明後日の方向を向いていたが、その耳が赤くなっている。


「………まあ、それに。なんだ。お前が母親なら、うちのガキも喜ぶだろ」
「……俺は母親にはなれないぞ。男だから」


茶化すように言ったジェクトに、レオンはくすりと笑った。




────熱いものが唇に触れる。

弟達は、まだ戻って来ない。
だからもう少しだけ、このままでいても良いだろう、とレオンは目を閉じた。






ジェクレオと言う超俺得+青春ティスコ。

ジェクレオは大人同士で色々切なかったり、じれったい事になりそうで萌える。
そんな脇で、ティスコもすったもんだしてると可愛い。
でもってラグナパパごめんね。でもラグナなら許してくれるんじゃないかと勝手に思ってる。泣きながら「うちの息子を幸せにしないと許さないからな!!」って息子達の意思を尊重してくれる筈。

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