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2023年11月

[プリスコ]それは心を映す瞳

  • 2023/11/08 21:00
  • Posted by k_ryuto
  • Category:FF



神々の闘争の世界で生活するに置いて、食料の類は、多くをモーグリショップに頼っている。

戦士達は作物を自力で育てている暇もない訳だから、店売りのそれらは非常に有り難いものであった。
時には歪の中で見つけた、何処とも知れない民家や田畑から、頂けるものを攫わせて貰う事もあるが、此方は運が絡むし、食べれる状態が保たれているかも分からないものが多いので、見た目に問題ないと明らかに分かるものだけに留まっている。
生肉は、罠にかけた動物であったり、まだ可食の受け入れられる魔物であったりを狩って有効活用しているから、此処については戦士達の自足で成り立っていた。
店売りを宛てにしなくてはならないのは調味料の類で、砂糖や塩と言った代表的なものを主に、何処かの世界の何処かの国にしかないスパイス等は、運が良ければ購入できると言った具合だ。
酒は店でも売っているタイミングが限られ、時には猿酒を誰かが見つけて回収してくる事もあるが、いずれにせよ希少な趣向品と言えた。

様々な世界が入り交じり、歪を通してもそれらを入手する事も出来る為、食材の種類だけで言えば、かなり豊富なものだろう。
本来ならば自然の気候や、世界の各地域の環境に依存しているものが、この闘争の世界では聊か無秩序に手に入るのだ。
世界によって共通する食べ物もあれば、特別に珍しいものもあり、台所を預かるティファや、好奇心旺盛なバッツは、馴染のない食材もひっくるめて、腕の見せ所とばかりに楽しんでいる節もあった。

しかし、自然環境では勿論のこと、モーグリショップでも手に入らない物もある。
スコールやラグナ、ライトニングの世界では当たり前にあった、加工品や総菜と呼べる類である。
ジャムやバター、スプレッドは、瓶詰にされて売られているし、オイル漬けの缶詰もあるのだが、それ程種類は多くないし、凝った味付けがそれに成されている訳でもない。
あくまで携帯と保存の手段として有用、と言うのが、この世界における立ち位置と言えた。
満足感まで得られる携帯食とするには、聊か物足りないものと言えるだろう。
調理から味付けまですっかり完成された状態を差す総菜類は、それを作りパッキングするような生産ラインもないからか、見かけられる事もない。
販売形態に保冷場所がある訳でもないので、売った所で戦士達がそれを見付けるより早く痛んで行くものも多いことを思えば、商品棚にそれがないのも無理はないだろう。
それと同様にか、温めればすぐに食べられると言う冷凍食品と言うのも、まず見る事はなかった。

モーグリショップで売られている食糧・調味料の類が、どうやって保存されているのか、戦士達は知らない。
理屈を真正直に捏ねていても説明がつかない事は、この継ぎ接ぎの世界ではよくある事だった。
店を開いているモーグリ達も、理詰めの説明を求められても大概応えられる訳もなく、「とにかく問題はないと思うクポ!」と押し返すしかない。
スコールとしては、どう言う形で保存されていたのかは重要なファクターであるとは思うのだが、結局の所、これまでモーグリショップで購入した食料品で目立った問題は起きていない。
第一、何かを理由にモーグリショップの利用を忌避した所で、今度は食糧の自給自足率の問題に直面する訳で、此方の方が解決の糸口を捕まえる方が難しい。
この世界特有の、目に見えない力が何かしら影響しているらしいと言う事と、あとはモーグリ達の商魂を信ずる他ない訳だ。

モーグリショップに食料を低温を保って貯蔵する為の機能具が存在するのかは分からないが、秩序の戦士達の拠点である屋敷には、冷蔵庫がある。
台所は機械技術の発展したメンバーが見慣れた設備が整っているのは、真に幸いな事だった。
購入した食材で、冷蔵して置いた方が良いものも少なくはないし、作り置きした料理も保存して置ける。
そうして低温保存したものも、電子レンジがあるお陰で、手軽に一人分を温めて食べる事も出来るから、遠征から帰って来た者へ急ぎの食事も提供する事が出来た。
電子機器を上手く扱える人間は限られるものの、道具のあるなしは、生活水準の差として大きい。
台所は自分の持ち場、と言い切るティファや、家事に抵抗のない者でも、疲れていれば休みたい時はあるものだし、そう言った面々がいない時でも、簡単な作業で真っ当な食事にありつけるのは、この上なく有り難い事であった。

スコールも、この便利な機械たちに、大いに助けられている。
サバイバル訓練の経験があるお陰で、野山での手ずからの火起こしや、そう言った場所でも簡易な調理をする方法は知っているが、やはり面倒なことだ。
ライターのような着火道具を持っている人間が、藁を使った原始的な火起こしをわざわざしたがる訳もなく、一つ一つの作業が楽に終わるに越したことはない。
電気製品の類が日常生活に密着していたスコールにとっては、竈よりもガスコンロの方が遥かに使い慣れた道具であった。
もっと言えば、コンロよりも電子レンジの方が、使用頻度としては馴染がある。
何を基準にこの世界に機械技術が紛れ込んでいるのかは判らないが、ともあれ、あって良かったとつくづく思う位に、この文明の利器はスコールにとって生活必需品だと言えた。

十名を越える秩序の戦士達の食事を用意するのは、中々の重労働だ。
だからティファはよく大きな寸胴鍋を使って、この人数でも数日分は持つようにと、たっぷりと作り置きを用意してくれる事がある。
それでも健啖家が多いので、予定より早く減って行くのは珍しくないのだが、こう言うものがあると助かる。
その他、直ぐに使えるようにと、適度な大きさに切った葉物であったり、皮剥きを済ませた芋類が、丁寧にパッキングされて冷蔵・冷凍庫に入れられているのは、元の世界で食事提供もする店を切り盛りしていたと言う、ティファの知恵と手腕のお陰だ。
それを形にする為に、スコールを始めとした、調理に覚えのある者が駆り出され、生産工場よろしく作業に明かした事も付け加えておく。

待機番として当番が回って来たスコールは、重ねて受け持つことになる夕食当番の為、キッチンに立っていた。
先日、セシルとフリオニールが狩って来た魔物の肉は、筋繊維が多くて硬い部分もあるのだが、長時間じっくりと煮込むと柔らかく蕩けてくれる。
処理が面倒なのでスコールはあまり使わないのだが、余り長く置いておいても痛んでしまう。
今日のメインに使える食材をこれとして、肉入りスープを作ることにした。
下茹でを済ませた肉を新しい鍋に入れて、冷蔵庫から袋に入った大量の野菜を取り出し、大きめに刻んでそれを投入する。


(どうせ時間がかかるから、この間に何か他に作るか)


肉が食べやすい柔らかさになるまでは、時間をかけねばならない。
今日のスコールは、比較的、そう言った作業を厭うつもりがなかった。
秩序の戦士にとっては幸運な事に、今日の聖域は静かで平穏なものだったから、夕飯の準備は暇潰しの一環となっていたのである。

副食に使えるものは、ティファの作り置きが冷蔵庫の中に積んである。
あれがあるなら、メインの食卓に並べるものはもう必要ないだろうが、デザート程度は作っても良いかも知れない。
他にやる事もないし、取り敢えず使って良さそうなものはあるだろうか、と冷蔵庫の蓋を開けた時、


「ただいまー!誰かいるかぁ?」


元気の良い声がキッチンに入って来て、その無邪気さにスコールの眉間に分かり易く皺が寄る。
喧しいのが帰って来た、と渋い顔になる自覚はあったが、その顔で振り返っても、相手はけろりとした顔で、


「おっ、スコールだ。ただいま!」
「……ああ」


褐色肌に紫髪の少女────プリッシュの帰還の挨拶に、スコールは溜息交じりに端的に返事をした。

と、少女が両腕一杯に抱えているものを見て、また眉間の皺が深くなる。
プリッシュはそんなスコールの視線が捉えているものに気付き、腕に抱えていたものを「ほら」と見せつけて来た。


「すごいだろ。歪の中で見つけたんだ!」


そう言ってプリッシュが誇らしげに掲げるのは、瑞々しく黒光りする葡萄の山だ。
適当に持ち合わせていたのであろう、布地を大きな皿代わりにして、まるで葡萄農園から帰って来たかのよう。
ぷっくりと実を膨らませ、色付きからしてブルームもある事から、野生ではなく人の手が入っていること、採集されてから大した時間も経っていない事が判る。


「歪の中なんて、またいつ行けるか判らないし。採れるだけ採って来た!」
「……そうか」


プリッシュがキッチンの上に布ごと葡萄を置く。
小山になっていたそれが崩れて、房から零れた実がコロコロと転がった。
プリッシュはそれを一つ摘まんで、ぱくりと口の中へと放り込む。


「美味いんだ、コレ。お前も食えよ」
「俺は良い────」
「ほらほら、口開けろって」
(人の話を聞けよ)


美味しいものを共有したいと言う、全き善意的な気持ちで、プリッシュはスコールに葡萄を一粒差し出した。
口元にずいずいと持って来られるそれに、スコールはいらりと眉間に皺を寄せたが、見上げる少女の瞳は爛々と明るい。
どうにも毒気が抜かれるものだから、結局スコールは彼女の希望通りするしかない。

が、流石に持ち帰って直ぐの果物を、そのまま口に入れる気にはなれなかった。
スコールは口元を守るように手を入れて、プリッシュの手から実を受け取る。
シンクで軽く水に晒してから食べてみると、皮は少々厚みがあったものの、噛めばぶつりと破れて、瑞々しい果肉の味が溶け出て来た。


「美味いだろ?な?な?」
「……そうだな。悪くはない」
「だろ~!」


同意が得られて、プリッシュは痛く満足そうだった。
よくもここまで邪気がないな、とスコールは半分は呆れつつ、ひっそりと感心する。

さて、問題は持ち帰られた葡萄が大量にあると言う事だ。
秩序の戦士が全員揃った食卓でも、これだけを食べる訳ではないから、流石に一日二日では消費し切れまい。
取り敢えず半分くらいはきちんと保存できる状態にしなくてはと、先ずは今晩分だけを除いて袋詰めでもしておこうかと思っていると、


「なあなあ、スコール。これで何か美味いもの作れないか?」


きらきらと期待に満ちた目のプリッシュに、スコールは胡乱に目を細めた。


「……例えば?」
「例えば?えーと、うーんと、そうだなぁ。お菓子とか、甘いやつとか」
「…そっちの料理は詳しくない。他の誰かに頼め」


スコールにとって料理は、必要知識の一つとして、授業で履修したに過ぎない。
生活においても、元の世界の環境では、必ずしも必要なものではなかった。
最低限、生きる知恵として持っている越した事はなかったが、趣味趣向の類に枝葉を伸ばす程、興味も造詣も深くはない。
まともにそれらが欲しいと言うなら、それの知識のある人間が作った方が、ずっと良質なものを食べることが出来るだろう。

と、スコールは思うのだが、プリッシュは分かり易く唇を尖らせた。


「スコールが作ったのが食いたいんだよ。お前、なんでも作れるだろ」
「レシピと道具、素材が一通りあればの話だ」
「じゃあ大丈夫だろ。ティファやユウナやジタンがよく作ってるし。何が必要なのか、オレには判んないけど」


他人のものとは言え前例がある訳だから、道具は揃っている筈だとプリッシュは言う。

確かに、述べられたメンバーは折々にそれぞれが得意としているレシピでデザート類を作っているから、キッチンをくまなく探せば、道具は何かしら揃うだろう。
素材については、冷蔵庫から食糧庫まで、此方も探せば───タイミングによっては全てとは言わないだろうが───概ね見付かるに違いない。
後は、スコールが手を付けられるレシピについてだが、これについて当人は今の所、『葡萄を使ったもの』に思い当たる節がなかった。


「……レシピがない」
「探してもない?」
「それは────」


小首を傾げながら覗き込んで来るプリッシュに、スコールは返す言葉に窮した。
ない、と言ってしまうのは簡単ではあるが、本心として『探す所を探せばある』と言うのも事実。
期待に満ちた瞳にまじまじと覗き込まれて、スコールは眉間に目一杯の皺を寄せながら唇を噤んだ。

それから少しの静寂の後、まだじいっと見詰めて来る少女に、スコールは深々と溜息を吐く。


「……書庫を探せば、何かあるかも知れない」
「ホントか!」
「かも、の話だ。置いてあるかは判らない。俺が作れるレシピかも判らないし」
「じゃあ探して来る。見付けたら作ってくれるか?」
「……作れるものだったらな」


諦めにも似た境地で、スコールがそう答えると、プリッシュは分かり易く顔を輝かせる。

山積みになっている葡萄を、冷蔵庫に入れる為にパッキングしていると、プリッシュがそれを覗き込んで来る。
スコールにとっては近過ぎる距離であるが、彼女の普段の行動を思えばいつものことだ。
一々気にするのも面倒になってきて、スコールは黙々と葡萄を包む作業に終始した。

今日の夜に生で食べる分として、二房を水洗いしてザルに置いておく。
それからスコールは、鍋にかけていた火を止めて、蓋を閉じた。


「書庫に行くぞ」
「おう!作る時はオレも手伝うからな!」
「……ああ」


うきうきと、今から楽しみでしょうがないと言う様子のプリッシュを伴って、スコールはキッチンを出た。
一緒に書庫へと向かうプリッシュの足は、スキップでもしそうな弾み具合だ。

料理が得意なメンバーなら他にもいるのに、況してや菓子類ならもっと別の人間を宛てにした方が良いだろうに、どうしてプリッシュはスコールが作るものに拘るのか。
意味不明だ、と胸中で呟くスコールであったが、ともかく、今日はスコール自身も暇なのだ。
暇潰しの理由と、存外と美味かった葡萄の味に、気紛れ程度はしても良いと言う気になっている。



夕飯を前に完成した葡萄のパイを食べたプリッシュが、「また食べたい」と言うものだから、スコールは「気が向いたらな」とだけ返したのであった。



11月8日と言う事で、プリスコ。
無邪気なもので無自覚に甘え上手なプリッシュと、なんだかんだで無碍に仕切れないスコールでした。

どうしても食べ物ネタになるのであった。
プリッシュにしてみれば、スコールが口では素っ気なくても実は付き合いが良いとか、何であれ悪いようにはしないので、信用して甘えてるんだと思います。

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